大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成14年(ワ)503号 判決 2002年10月08日

原告

仲田洋子

被告

暮田清和

主文

一  被告は、原告に対し、三七五万四八五五円及びこれに対する平成一一年六月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを六分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、四四八万四九八六円及びこれに対する平成一一年六月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告の運転する車両(以下「被告車両」という。)が訴外藤田智子の運転する車両(以下「藤田車両」という。)に追突し、藤田車両に同乗していた原告が外傷性頸部症候群等の傷害を負ったことから、原告が被告に対し、民法七〇九条、自賠法三条に基づいて、治療費、休業損害、慰謝料等の損害賠償を請求した事案である。

一  前提となる事実(証拠を掲げた事実以外は、争いがない。)

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成一一年六月一六日午前〇時〇分ころ

(二) 場所 東京都中央区日本橋一丁目一二番先路上

(三) 藤田車両 藤田智子の運転する普通乗用自動車

同乗者 原告

(四) 被告車両 被告の運転する大型貨物自動車

(五) 態様 藤田車両が対面信号の赤色表示に従い停止していたところ、被告車両がこれに追突した。

2  責任原因

本件事故は被告が前方注視を怠った過失により発生したものであり、かつ、被告は被告車両の保有者であるから、被告は、民法七〇九条、自賠法三条により、原告に生じた損害を賠償する責任がある。

3  原告の受傷内容(甲三ないし五)

外傷性頸部症候群、右足関節捻挫(聖路加国際病院)、頸部捻挫、背部挫傷、腰部捻挫(安山鍼灸整骨院)

4  原告の治療経過(甲三ないし六)

(一) 聖路加国際病院

平成一一年六月一六日及び同月一七日に通院(実日数二日)

(二) 関東通信病院

平成一一年六月二二日から同年一二月二四日まで通院(実日数一五日)

(三) 安山鍼灸整骨院

平成一一年九月二一日から平成一二年六月三〇日まで通院(実日数一六〇日。ただし、三日間は関東通信病院への通院と重複。)

二  本件の争点―――原告の損害額

1  原告の主張

(一) 治療費及び診断書代 一二二万三四九〇円

ア 聖路加国際病院(甲四の一、二)六万一一五〇円

イ 関東通信病院(甲六の一ないし二四) 二二万八五一〇円

ウ 安山鍼灸整骨院(甲五の一ないし五) 九三万三八三〇円

(二) 休業損害 一四五万三七七〇円

事故前年である平成一〇年における原告の事業所得は三〇四万九八九九円であり、一日当たりの所得は八三五五円であるから、これを前記通院日数一七四日(複数の病院に通院した日は通院一日とする。)に乗じると、原告の休業損害は一四五万三七七〇円となる。

八三五五円×一七四日=一四五万三七七〇円

(三) 慰謝料 一四〇万〇〇〇〇円

(四) 弁護士費用 四〇万七七二六円

(一)ないし(三)の損害合計額四〇七万七二六〇円の一〇%である。

(五) 合計 四四八万四九八六円

2  被告の認否

原告の損害の主張は、否認する。

第三争点に対する判断

一  治療費及び診断書代 八六万一一四三円

1  原告が本件事故により受傷し、聖路加国際病院において外傷性頸部症候群、右足関節捻挫との診断を受け、平成一一年六月一六日及び同月一七日の二日通院して治療を受けたこと、その後、関東通信病院に転医し、同月二二日から同年一二月二四日までの間に一五日通院して治療を受けたこと、また、原告は、安山鍼灸整骨院において、頸部捻挫、背部挫傷、腰部捻挫との判断の下に、同年九月二一日から平成一二年六月三〇日までの間に一六〇日通院して施術を受けたことは、前記のとおりである。

2  このうち、聖路加国際病院における治療は、本件事故後に救急車で搬入された日及びその翌日に行われた治療であって(甲三)、必要性、相当性を肯認することには問題がなく、甲四の一、二によれば、同病院における治療費の額は六万一一五〇円であると認められる。

3  関東通信病院における治療については、甲六の一ないし二四によれば、原告は、同病院において、整形外科、脳神経外科以外に、口腔外科、耳鼻咽喉科、眼科を受診していることが認められる。このうち、耳鼻咽喉科、眼科に関しては、甲六の九、一〇、一七、一八、二二、二三によれば、それぞれ三回程度の通院であることが認められるところ、甲八、一二及び原告本人によれば、本件事故後、原告には、常時、めまい、頭痛、吐き気等が生じたことが認められるから、検査のために耳鼻咽喉科、眼科に通院する必要性は肯認することができる。これに対し、口腔外科に関しては、原告は、本件事故の後遺症により、歯のかみ合わせが悪くなり、顎が痛んで開かなくなってしまったため口腔外科を受診したと述べるが(甲八、一二、原告本人)、同病院の診療録が証拠として提出されていない本件においては、直ちに、本件事故が原因で歯のかみ合わせが悪くなった等と認めることは困難である。そして、甲六の一ないし二四によれば、同病院における治療費の総額(被告の既払分は除く。)は二二万八五一〇円であると認められ、また、甲六の五、七、一二、一四、一六、二一によれば、このうち口腔外科における治療費の額は五万一〇七〇円であると認められるから、同病院における治療費については、口腔外科分を控除した一七万七四四〇円の限度で、本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

4  一方、安山鍼灸整骨院における施術については、原告は、関東通信病院に通院中の平成一一年九月二一日から平成一二年六月三〇日までの間に同整骨院に合計一六〇日通院し、甲五の一ないし五によれば、その施術料(診断書代を含む。)の額は九三万三八三〇円に達している。このように同整骨院に多数回通院した理由として、原告は、最初は関東通信病院に通院していたが、同病院は予約制であり、待ち時間も含めると一回の治療に三~四時間もかかり半日が潰れてしまうこと、仕事の都合で同病院の予約時間と合わせることが困難であったこと、これに対し、同整骨院は予約が不要で、朝動くのがつらい時にはすぐに治療をしてもらうことができ、昼でも夕方でも仕事を途中で切り上げて通院することができること等を挙げている(甲八、原告本人)。同整骨院における施術は医師の指示に基づくものではないが、後記のような販売員としての原告の仕事の内容等も併せ考慮すると、原告が同整骨院に通院した事情は理解できないものではなく、また、甲八、原告本人によれば、同整骨院での施術は原告の症状を緩解させる効果があったと認められる。そして、一回当たりの施術料の額は、平均して五八〇〇円程度であり、社会的に妥当な範囲を逸脱していないものと判断される。

もっとも、原告の症状が一六〇回にもわたる通院を必要とするものであったことについては、関東通信病院の診療録が証拠として提出されていないこともあって、立証が十分とはいえない。そこで、同整骨院での施術については、六か月間(ほぼ三分の二の期間)の限度で、整形外科における治療の代替機能を果たすものとして必要性、相当性を認めることとし、原告の請求額の三分の二に当たる六二万二五五三円(円未満切り捨て。以下同じ。)について本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

二  休業損害 一一四万三七一二円

1  甲七ないし九、一一ないし一三、原告本人によれば、<1> 原告は、本件事故当時、ウエイト・コントロール製品、栄養補給食品、パーソナル・ケア製品を販売するハーバライフ・オブ・ジャパン株式会社のディストリビューター(販売員)として勤務していたこと、同社の販売システムは、個人事業主であるディストリビューターが同社から製品を購入し、これを顧客に販売するというものであること、<2> 原告の営業活動の内容は、電話による製品の紹介、街頭でのアンケート実施、店舗での商品の説明、自分のグループのミーティング、顧客を集めてのホーム・パーティー等であったこと、言わば健康を売る原告の営業については、原告自身がハーバライフ製品を愛用し健康で活力的であることが重要なセールスポイントとなっていたこと、<3> 原告は、本件事故前、これらの営業活動を精力的に続けることにより、月間の売上目標約六五万円以上、さらには、その上の目標である売上一五〇万円を基本的に達成してきたこと、また、自分の担当するグループの売上目標も達成してきたこと、その結果、原告は、同社のセールス・マーケティングプランの中において、グローバル・エクスパンション・チームという資格を取得していたこと、<4> しかし、原告は、本件事故により負傷した結果、常時、頭痛、めまい、吐き気、倦怠感があり、首、肩、腰が痛みによって動かしにくいなど、心身に不調が生じ、前記のような営業活動が十分にできなくなったこと、<5> その結果、事故前年である平成一〇年における原告の申告所得は、売上から経費を差し引いた営業所得が三〇四万九八九九円であったのに対し、本件事故に遭った平成一一年の申告所得は五〇万一四八六円、翌平成一二年の申告所得は四七万一七三二円に減少していることが認められる。

2  以上の事実によれば、原告は、本件事故により負傷したため、販売員としての営業活動を十分に行うことができなくなり、相当の減収が生じたものと推認される。その額については、原告主張のように、安山鍼灸整骨院への通院日を含む延べ一七四日の通院日につき一〇〇%休業したものとして休業損害を算定するのは実態に合うものとはいえず、平成一一年六月一六日から治療の必要性、相当性の認められる九か月間の通院期間中、通じて相当割合の労働能力の制限を受けたものとして休業損害を算定するのが妥当である。そして、販売員としての原告の仕事の性質、営業活動の内容(<1>、<2>)、前記の原告の受傷の内容と本件事故後の原告の状態(<4>)、申告所得の減少の程度(<5>)等を考慮すると、原告の労働能力の制限の程度は、九か月間の通院期間を通じて五〇%を下回るものではないと考えられる。

3  そうすると、原告の休業損害は、事故前年の所得を基礎として、次のとおり一一四万三七一二円と認めるのが相当である。

三〇四万九八九九円×九/一二×〇・五=一一四万三七一二円

三  慰謝料 一四〇万〇〇〇〇円

そこで、慰謝料額について検討するに、<1> 原告は、本件事故により負傷したため、多数回にわたり聖路加国際病院等に通院することを余儀なくされたこと(ただし、合計九か月の限度で通院治療の必要性、相当性が認められることは、前記のとおりである。)、<2> 原告は、本件事故による負傷により、減収が生じたのみならず、販売員としての仕事に大きな打撃を受け、これまでの営業活動により獲得したポジションのランクも危うくなり、精神的にも大きな苦痛を被ったこと(原告本人、弁論の全趣旨)、<3> 被告は、これまで、若干の治療費を支払ったほかは、全く賠償金の支払をしておらず、被告が身体障害程度等級一級の身体障害者であり(乙一、二)、思うように稼働できないであろうことを考慮に入れても、自らの一方的過失により惹起した交通事故の被害者である原告に対する誠意が認められないこと、<4> 被告が約束した関東通信病院に対する治療費の支払をしなかったことから、原告は、同病院から診断書の発行を受けることができず(原告本人)、自賠法一六条の被害者請求をする機会も逸してしまったこと等の事情を考慮すると、原告に対する慰謝料額としては、原告主張に係る一四〇万円をもって相当と認める。

なお、甲一〇、原告本人によれば、原告は、同乗していた藤田車両に付保されていた保険から搭乗者傷害保険金三〇万円の支払を受けていることが認められるが、同保険金は損害の填補の性質を有しておらず(最高裁第二小法廷平成七年一月三〇日判決・民集四九巻一号二一一頁参照)、また、被告が同保険の保険料を負担していたとも認められないから、慰謝料額を算定するに当たって搭乗者傷害保険金が支払われた事実を斟酌するのは相当ではない。

四  小計 三四〇万四八五五円

五  弁護士費用 三五万〇〇〇〇円

本件事案の内容、本件訴訟の審理経過、本件の認容額等を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用の額としては、三五万円をもって相当と認める。

六  合計 三七五万四八五五円

第四結論

以上によれば、原告の本訴請求は、被告に対し、三七五万四八五五円及びこれに対する本件事故発生の日である平成一一年六月一六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当として棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 河邉義典)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例