東京地方裁判所 平成14年(ワ)6146号 判決 2002年12月25日
原告
リバティー・ミューチュアル・インシュアランス・カンパニー
原告(反訴被告)
波速運送株式会社
被告(反訴原告)
三八五流通株式会社
被告
小笠原勤
主文
一 被告三八五流通及び被告小笠原は、原告リバティーに対し、各自一五三一万八一九三円及びこれに対する平成一三年六月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告三八五流通及び被告小笠原は、原告浪速運送に対し、各自一八九万九八九四円及びこれに対する平成一三年三月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告浪速運送は、被告三八五流通に対し、一〇〇万円及びこれに対する平成一三年三月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告リバティー及び原告浪速運送のその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用は、本訴反訴を通じ、これを五分し、その二を原告リバティー及び原告浪速運送の負担とし、その余を被告三八五流通及び被告小笠原の負担とする。
六 この判決は、第一ないし三項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 本訴
(1) 被告三八五流通及び被告小笠原は、原告リバティーに対し、各自二七七八万〇三二三円及びこれに対する平成一三年六月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(2) 被告三八五流通及び被告小笠原は、原告浪速運送に対し、各自四〇六万二六二七円及びこれに対する平成一三年三月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴
主文第三項と同旨
第二事案の概要
一 争いのない事実
(1) 事故の発生
次の事故が発生した(以下「本件事故」という。)。
ア 日時 平成一三年三月二八日午前一時ころ
イ 場所 宮城県古川市新田字銃後稔一六一
東北自動車道上り三七五・一キロスポット
ウ 原告車両 事業用普通貨物自動車(車両番号・岩手一〇〇あ一一八四、以下「原告車」という。)
同運転者 大宮英利(以下「大宮」という。)
同所有者 原告浪速運送
エ 被告車両 事業用大型貨物自動車(車両番号・八戸一一か四九六八、以下「被告車」という。)
同運転者 被告小笠原
同所有者 被告三八五流通
オ 態様 原告車が被告車と衝突し、原告車に積載していた衣類等が汚損した。
(2) 被告三五八流通と被告小笠原との関係
本件事故当時、被告小笠原は、被告三八五流通の事業の執行に従事中であった。
二 争点
(1) 事故態様及び過失割合並びに当事者の責任の有無
ア 原告リバティー及び原告浪速運送の主張
被告小笠原は、高速道路を進行するに当たっては、後退することが禁止されているにもかかわらず、古川インターチェンジで降りるべきところを通過してしまったため、いったん路肩に停車した後、あえて無謀にも被告車を後退させた。本件事故当時、被告車は後退していた。被告小笠原は、高速道路において車両を後退させたという基本的過失により、後続してきた原告車の左側部に被告車の右後部を衝突させたから、民法七〇九条に基づく損害賠償責任を負う。また、被告小笠原は、本件事故当時、被告三八五流通の事業の執行に従事中であったから、被告三八五流通は、民法七一五条に基づく損害賠償責任を負う。
仮に過失相殺があり得るとしても、被告小笠原の過失は少なくとも九〇パーセントであり、大宮には、どんなに多く見積もっても一〇パーセントを超える過失はない。
イ 被告三八五流通及び被告小笠原の主張
被告小笠原は、古川インターチェンジで降りるべきところを行き過ぎ、いったん左側の路肩に停車し、ハザードランプを点滅させ、古川インターチェンジで降りようとして後退したが、後続車を発見したので停車し、三台の貨物自動車が被告車の右横を通過して行ったことから後退を断念し、大和インターチェンジから降りることとし、前進しようとしたところ、原告車が追突してきた。
本件事故は、大宮の前方注視義務違反、安全運転義務違反の結果生じたのであり、被告小笠原の運転行為は、本件事故とは無関係である。仮に、被告小笠原に何らかの過失が認められるとしても、大宮には六〇ないし七〇パーセントの過失があり、これを相殺すべきである。
(2) 損害及びその額等
ア 原告リバティーの主張
(ア) 求償金 二五五三万〇三二三円
原告リバティーは、原告浪速運送との間で、平成一二年六月二八日総合賠償責任保険契約を締結していたところ、同保険契約に基づき、本件事故により、原告浪速運送が受託積載していた物に対する損害賠償責任を補填するため、平成一三年五月三一日、原告浪速運送に対し、二五五三万〇三二三円を支払った。
(イ) 弁護士費用 二二五万〇〇〇〇円
イ 原告浪速運送の主張
原告浪速運送が、本件事故によって被った損害は次のとおりである。
(ア) 車両引取手配費用 二二万八〇〇八円
(イ) 車両乗替等費用 九八万九五七九円
(ウ) 中古ボディー残存簿価分 八二万九四七〇円
(エ) 休車損害 一六六万五五七〇円
(オ) 弁護士費用 三五万〇〇〇〇円
ウ 被告三八五流通の主張
被告三八五流通が、本件事故によって被った損害は次のとおりであり、そのうち一〇〇万円を請求する。
(ア) 車両修理費 一二三万〇九一五円
(イ) 休車損害 一四四万四九五九円
(ウ) 積荷損害 一七万五六六五円
(エ) 道路損傷費用 三万九五六〇円
(オ) 弁護士費用 二五万〇〇〇〇円
第三判断
一 争点(1)(事故態様及び過失相殺並びに当事者の責任の有無)について
(1) 前記争いのない事実に加え、関係各証拠(甲一、甲五ないし九、乙一、乙二、乙一〇ないし一二)によれば、本件事故態様として、次の事実が認められる。
ア 本件事故現場は、東北自動車道上り車線(片側二車線)の古川インターチェンジの出口を通過して約一〇〇メートル進行した地点であり、約三メートルの路肩がある。路面はアスファルト舖装され、本件事故当時は乾燥していた。その状況は別紙図面(乙一〇添付図面。なお、司法警察員作成の交通事故現場略図《甲九》には、本件事故現場付近の路肩が被告車の車幅に満たないかのように表示されているが、乙一〇添付図面及び乙一二によれば、路肩の幅はかなり広く、少なくとも被告車の車幅二四〇センチメートル《乙一の添付資料No.二、三》以上はあったことが推認されるのであり、甲九の表示は不正確である。)のとおりである。道路の形状としては、本件事故現場付近に至るまでの間に右カーブとなっている地点があるが、少なくとも古川インターチェンジの出口付近以降は緩やかな左カーブとなっている。
イ 本件事故当時、被告小笠原は被告三八五流通の被用者であり、大宮は原告浪速運送の被用者であり、それぞれの事業の執行に従事中であった。
被告小笠原は、被告車を運転して、古川インターチェンジで降り、宮城県黒川郡大衡村にある仙台北支店に赴く予定で走行していたが、うっかりして、出口に向かうため急にハンドルを転把すれば横転の危険がある地点に至って同インターチェンジの標示に気づき、制動措置をとり、同インターチェンジの出口を通過した地点の路肩にハザードランプを点滅させながら停止した。
被告小笠原は、わずかな距離であり、後続車がなければ、後退して古川インターチェンジから降りた方が仙台北支店に向かうのに都合がよいと考え、後退し始めたが、約八〇メートル後退したところ、後続車が走行して来ることに気付き、被告車を停車させた。その際、被告車は左斜めの状態で、右後部が走行車線に一メートル強はみ出ていた。後続車は、走行車線から追越車線に車線変更をして通過して行った。その後も二台の後続車が通過して行った。被告小笠原は、これ以上後退するのは危険であると判断し、古川インターチェンジで降りることを諦め、大和インターチェンジに向かおうとした矢先に、走行車線を走行してきた大宮運転の原告車が、被告車を避けきれず、原告車の左前部と被告車の右後部が衝突した。
ウ これに対し、大宮は、本件事故当時、被告車が後退中であったと陳述し(甲五、甲七)、原告は同旨を主張するが、大宮の陳述を前提とすれば、大宮は、原告車の約五〇メートル前方を走行する先行車が車線変更をした際に被告車に気付いたというのであり、それから衝突までのわずかな間に被告車が実際に後退していたことを認識し得たか、疑問であるといわざるを得ない。他方、本件事故当時、被告車が停止していたとの被告小笠原の陳述が事故直後から一貫していることは、大宮の陳述によっても裏付けられている。そうすると、本件事故当時、被告車が後退中であったと認めることはできない。
(2) 以上によれば、被告小笠原には、駐停車が禁止されている高速道路の本線車道にまたがる形で被告車を停車させていた過失があるから、民法七〇九条に基づく損害賠償責任を負い、被告小笠原は被告三八五流通の被用者でありその事業の執行に従事していたのであるから、被告三八五流通は、民法七一五条に基づく損害賠償責任を負う。他方、大宮には、前方不注視及び回避措置不適切の過失があり、大宮は、原告浪速運送の被用者でありその事業の執行に従事していたのであるから、原告浪速運送は、民法七一五条に基づく損害賠償責任を負う。そして、双方の過失割合は、本件事故が夜間に発生したこと(なお、乙一二によれば、本件事故現場付近には街路灯の設備があることが認められるが、昼間と同様に視界が良好であったとまで認めることはできない。)、被告小笠原が被告車を停車させるに至ったことにやむを得ない理由がなく、かえって高速道路において厳に差し控えるべき後退を試みた結果であり、被告小笠原に重大な過失があると評価すべきこと、他方、被告車が走行車線をすべて閉塞させていたわけではなく、追越車線から追越しすることが可能であり、現に原告車に先行する複数の車両が被告車を回避して通過できていることなど、本件に顕れた諸般の事情を考慮すると、大宮が四〇パーセント、被告小笠原が六〇パーセントと認めるのが相当である。
二 争点(2)(損害及びその額等)について
(1) 原告リバティーの求償金及び損害並びにその額
ア 求償金 二五五三万〇三二三円
前記争いのない事実に加え、関係各証拠(甲二、甲三、甲八《枝番を含む。》)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故により原告車の積荷が汚損し、原告浪速運送が各出荷主に対し、その損害合計二五五三万〇三二三円をてん補せざるを得なくなったこと、原告リバティーが、保険契約に基づき、平成一三年五月三一日、原告浪速運送に対し、二五五三万〇三二三円を支払ったことが認められる。
イ 過失相殺
上記二五五三万〇三二三円について、前記過失割合に従い、大宮の過失割合である四〇パーセントを控除すると、一五三一万八一九三円(小数点以下切捨て)となる。
ウ 弁護士費用 〇円
弁護士費用は、不法行為の被害者が、自己の権利擁護のために訴えを提起することを余儀なくされ、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、相当と認められる額の範囲で賠償の対象となるが、保険会社が求償権を行使する場合においては、これに要する弁護士費用が当然に賠償の対象となるものではない。もっとも、保険代位が生ずる時点で既に被害者が訴訟追行を弁護士に委任していた場合には、具体的に発生した弁護士費用の賠償を求める権利は損害賠償請求権の一部として保険会社に移転することになるが、本件において、このような事情は認められない。
そうすると、原告リバティーが被告三八五流通及び被告小笠原に対して求償し得る額は、一五三一万九一八三円となる。
(2) 原告浪速運送の損害及びその額
ア 車両引取手配費用 二二万八〇〇八円
関係各証拠(甲四の一、二)及び弁論の全趣旨によって認められる。
イ 車両乗替等費用 九八万九五七九円
関係各証拠(甲四の一、三)及び弁論の全趣旨によって認められる。
ウ 中古ボディー残存簿価分 〇円
関係証拠(甲四の一)には、原告浪速運送の主張する額が記載されているが、これのみをもって上記名目による損害を認めるには足りず、その他これを裏付ける証拠はない。
エ 休車損害 一六六万五五七〇円
関係各証拠(甲四の一、四)及び弁論の全趣旨によれば、原告浪速運送は、原告車の運行により、一か月当たり一四八万三〇八〇円の収入を得、その経費として一か月当たり合計六三万六一七〇円を要していたこと、休車期間が五九日間であったこと、遊休車がなかったことが認められるから、休車損害に関する原告浪速運送の主張額は相当な範囲に含まれる。
オ 過失相殺
上記合計二八八万三一五七円について、前記過失割合に従い、大宮の過失割合である四〇パーセントを控除すると、一七二万九八九四円(小数点以下切捨て)となる。
カ 弁護士費用 一七万〇〇〇〇円
本件事案の内容、本件訴訟の審理経過、本件の認容額等を考慮すると、原告浪速運送の本訴追行に係る弁護士費用としては一七万円をもって相当と認める。
そうすると、原告浪速運送が被告三八五流通及び被告小笠原に対して請求し得る損害額は、合計一八九万九八九四円となる。
(3) 被告三八五流通の損害及びその額
ア 車両修理費 一二三万〇九一五円
関係証拠(乙五)及び弁論の全趣旨によって認められる。
イ 休車損害 一四四万四九五九円
関係各証拠(乙六、乙九)及び弁論の全趣旨によれば、被告三八五流通は、被告車の運行により、一日当たり一二万一〇〇〇円の収入を得、その運行経費として一日当たり合計五万三四四五円、固定経費として一日当たり合計一万四〇三八円を要していたこと、休車期間が日曜日を除き二七日間であったこと、が認められ、被告三八五流通において遊休車が存在したことをうかがわせる証拠はないから、休車損害に関する被告三八五流通の主張額は相当である。
ウ 積荷損害 一七万五六六五円
関係各証拠(乙七の一、二)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故により被告車の積荷が汚損し、被告三八五流通が出荷主である伊勢田裕紀に対し、その損害合計一七万五六六五円をてん補せざるを得なくなったことが認められる。
エ 道路損傷費用 三万九五六〇円
関係証拠(乙八)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故により道路の清掃等を要することとなり、被告三八五流通が日本道路公団に対し、その費用合計三万九五六〇円を負担せざるを得なかったことが認められる。
オ 過失相殺
上記合計二八九万一〇九九円について、前記過失割合に従い、被告小笠原の過失割合六〇パーセントを控除すると、一一五万六四三九円(小数点以下切捨て)となる。
カ 弁護士費用 一二万〇〇〇〇円
本件事案の内容、本件訴訟の審理経過、本件の認容額等を考慮すると、被告三八五流通の本訴追行に係る弁護士費用としては一二万円をもって相当と認める。
そうすると、被告三八五流通が原告浪速運送に対して請求し得る損害額は、合計一二七万六四三九円となり、被告三八五流通の請求額である一〇〇万円はこれに含まれる。
第四結論
よって、(1)本訴請求は、被告三八五流通及び被告小笠原に対し、<1>原告リバティーが、求償金一五三一万八一九三円及びこれに対する保険金支払の日の翌日である平成一三年六月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において、<2>原告浪速運送が、不法行為に基づく損害賠償として、一八九万九八九四円及びこれに対する本件事故日である平成一三年三月二八日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度においてそれぞれ理由があるからこれらを認容することとし、その余の請求には理由がないからこれを棄却することとし、(2)反訴請求はすべて理由があるからこれを認容して、主文のとおり判決する。なお、本訴認容部分における仮執行免脱宣言については、相当でないからこれを付さないこととする。
(裁判官 本田晃)