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東京地方裁判所 平成14年(ワ)6873号 判決 2005年7月21日

原告

被告

Y1

ほか一名

主文

一  被告Y1は、原告に対し、八六八万七〇五三円及びこれに対する平成一一年四月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告Y1に対するその余の請求及び被告中央シェル石油販売株式会社に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告Y1との間に生じたものは、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告Y1の負担とし、原告と被告中央シェル石油販売株式会社との間に生じたものは、原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、連帯して、一五九九万二三二三円及びこれに対する平成一一年四月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、被告Y1との間での後記一(1)の交通事故(以下「本件事故」という。)において負傷したとして、被告Y1に対しては、民法七〇九条に基づき、被告Y1が勤務していた被告中央シェル石油販売株式会社(以下「被告会社」という。)に対しては、民法七一五条に基づき、損害賠償を求めた事案である。

一  前提事実(争いのない事実及び掲記証拠により容易に認められる事実)

(1)  本件事故の発生(甲一、乙イ一の三ないし七及び九)

ア 日時 平成一一年四月八日午後二時ころ

イ 場所 東京都世田谷区代田四丁目一四番先踏切内道路上(以下「本件踏切」という。)

ウ 事故車両 被告Y1の運転する自家用普通自動二輪車(車両番号<省略>。以下「被告車」という。)

エ 態様 原告(昭和○年○月○日生)が本件踏切を赤堤通り方面から井の頭通り方面に向かって歩行していたところ、原告の後方から進行してきた被告車が原告に衝突した(具体的衝突地点・態様等は下記二(1)のとおり争いがある。)。

(2)  当事者

ア 原告は、本件事故当時、専業主婦であり、夫及び成人した娘と同居していた。

イ 被告Y1は、本件事故当時、被告会社の経営するガソリンスタンドでアルバイト店員として勤務していた。

(3)  治療経緯及び後遺障害認定(甲二、甲三の一ないし六九、甲四の一ないし一〇、甲五の一ないし七六、甲六の一ないし五、甲一八の一・二、甲一九の一・二、甲二〇の一・二、甲二一の一・二、甲二八、甲二九、乙イ一の八、乙ロ一の一、乙ロ一の二の一ないし二九、乙ロ一の三、乙ロ二、三)

原告は、本件事故により、右頬骨骨折、右腰部・右下腿・上腕打撲、頸椎捻挫の傷害を負い、下記のとおり、診療を受けた(薬の処方を受けたり、診断書を受けた日も含む。)。

原告は、東京警察病院形成外科所属のA医師より平成一六年一月六日を症状固定日とする後遺障害(右眼窩下神経支配域の知覚鈍麻)の診断を受けた。原告の後遺障害については、損害保険料率算出機構により、自賠法施行令二条別表の後遺障害別等級表一四級一〇号(以下、同等級表の級数及び号数を示すときは、単に級数及び号数を示す。)に該当する(医学的に説明可能な痛みや痺れなどが持続しているため)と認定された。

ア 菊池外科病院(入院)

平成一一年四月八日から同月一〇日までの三日間

イ 東京警察病院(通院)

平成一一年四月九日、同月一〇日

平成一一年五月二五日から平成一三年一月二四日(実通院日数四一日間)

平成一三年三月一日から平成一四年一月二九日(実通院日数一四日間)

ウ 東京警察病院(入院)

平成一一年四月一三日から同年五月八日までの二六日間

平成一三年一月二九日から同年二月二三日までの二六日間

エ 中野接骨院(通院)

平成一一年六月二一日から平成一二年三月三一日(実通院日数一二三日)

オ エステティカ市ヶ谷(通院)

平成一一年一一月一五日から平成一四年一月二五日(実通院日数七五日)

カ クリニカ市ヶ谷(通院)

平成一二年八月二六日から平成一三年七月一三日(実通院日数五日間)

キ クリニカ市ヶ谷(入院)

平成一二年八月一〇日から同月二三日までの一四日間

(4)  損害のてん補

原告は、自賠責保険より、本件事故に関し、一六〇万七九四七円の支払を受けた。

二  争点及びそれに対する当事者の主張

(1)  事故態様及び過失割合(争点一)

(原告の主張)

原告は、本件踏切を井の頭通り方面に向けて歩行中、後方から被告車の音が聞こえたので本件道路の進行方向右側の路側帯の右端ぎりぎりまで寄り、自己の足が路側帯の白線内に入っていることを確認して、被告車の音が近づいてきた右側を確認した瞬間、被告車に衝突されたのであって、原告が被告車から衝突されたのは、本件踏切の進行方向右側の路側帯である。

原告が、比較的中央を歩いていたのは本件踏切付近にさしかかる前の道路上である。

以上の事故態様によれば、原告には何らの過失もない。

(被告らの主張)

原告は、本件踏切の進行方向右側の路側帯を歩行すべきであるにもかかわらず、本件踏切の中央付近を歩行し、進行方向左側から右側に斜めに横断したため、本件踏切中央付近で被告車と衝突した。

本件事故は、前記のとおり、原告が本件踏切の比較的中央寄りを歩いていて、後方の安全を十分に確認しようともせずに慌てて進行方向の右側に寄ったため、あたかも被告車の進路妨害となるような状態で発生したものであって、路側帯の内側を歩行していなかった原告の過失責任は重大であって、その過失割合は三割を下ることはない。

(2)  被告会社の責任(争点二)

(原告の主張)

本件事故は、被告Y1が勤務先のガソリンスタンド近くの自宅で昼食をとり、休憩時限の午後二時に遅れそうになり、被告車で帰社を急いだが間に合わず、休憩時限の午後二時ころ、勤務先を目前にして発生したものであり、被告会社の業務と時間的場所的に極めて近接しているので、民法七一五条一項本文の「業務の執行につき」発生したものといえる。

(被告会社の主張)

本件事故は、被告Y1が休憩時間中に私用のため、職場を離脱して外出中に起こした純然たる個人的な交通事故であり、被告会社の業務執行中に発生した交通事故ではないので、被告会社は本件事故につき責任を負わない。

(3)  因果関係及び損害(争点三)

(原告の主張)

ア 損害

(ア) 治療費 二八三万二九一八円

(イ) 薬代 五万二九五〇円

(ウ) 文書料 三万五四五〇円

(エ) 通院費 一二万一一〇〇円

(オ) 入院雑費 一〇万三五〇〇円

一日当たり一五〇〇円×六九日=一〇万三五〇〇円

(カ) 休業損害 七四四万三二〇〇円

原告は、本件事故当時、五二歳の主婦であったが、本件事故により、主婦業を少なくとも二年間はできなかった。

休業損害としては、平成一二年度賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計五〇歳から五四歳の女性労働者平均年収三七二万一六〇〇円を基礎収入とすると前記金額となる。

三七二万一六〇〇円×二年間=七四四万三二〇〇円

(キ) 入通院慰謝料 三〇〇万円

原告は、本件事故により、前提事実(3)記載のとおり、重大な傷害を受け、入院六九日、通院九五九日(実日数二五九日)の診療を余儀なくされており、その慰謝料としては前記金額が相当である。

(ク) 後遺障害逸失利益 一四六万一一七九円

原告は、本件事故により、前提事実(3)記載のとおり、右眼窩下神経支配域の知覚鈍麻等の後遺障害が残存し、一四級一〇号の認定を受けており、原告の本件事故による労働能力喪失率は五%である。そして、基礎収入を平成一四年度賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計・女性労働者全年齢平均年収三五一万八二〇〇円として、原告は症状固定時(平成一六年一月六日)に五六歳であったので、就労可能年数を一一年間として算出すると前記金額となる。

三五一万八二〇〇円×〇・〇五×一一年ライプニッツ係数八・三〇六四円=一四六万一一七九円

(ケ) 後遺障害慰謝料 一一〇万円

原告の前記後遺障害についての慰謝料としては前記金額が相当である。

(コ) 弁護士費用 一四五万円

イ 被告らの主張への反論

(ア) 眼科受診

本件事故により、原告の右眼は充血して、血の塊があった。手術後も眼は爛れたような痛みがあり、右の白目からトコロテン状のものが盛り上がり、はみ出て垂れ下がり、かつ、充血し、黒目は血液の混じった赤色で陥没したようになり、左眼しか見えない状態になっていた。そのような症状のもと、「右目球結膜下出血、右眼瞼腫脹、結膜浮腫」と診断されているのであるから、本件事故と眼科受診には因果関係がある。

(イ) 耳鼻科受診

原告は、本件事故による右頬骨骨折により、右顎から耳にかけて痛みがあり、聴覚に異常をきたしたため、耳鼻科を受診したのであり、本件事故と耳鼻科受診には因果関係がある。

(ウ) 内科受診及びプレート抜去手術の延期

原告の内科受診は、原告の本件事故による受傷後の体調不良に起因するものであり、本件事故と因果関係があり、また、それにより、プレート抜去手術が延期されたのであるから、その延期も本件事故によるものといえる。

(エ) 鼻骨骨切り手術

クリニカ市ヶ谷で行われた鼻骨骨切り手術は本件事故による原告の顔のゆがみの整復と圧迫された鼻の改善を目的とするものであり、美容整形手術ではない。

平成一二年七月一日から平成一三年一月二四日までの通院は、手術前後の検査、経過観察、頬骨骨折に合併した感覚麻痺への投薬、事故後の不眠に対する投薬が目的であるから、本件事故と因果関係がある。

(オ) ガーゼ除去手術

鼻骨骨切り手術による出血のためにガーゼを手術後も原告の鼻腔内に留置したことはやむを得ない措置であり、それに伴うガーゼ除去手術等は本件事故と因果関係がある。

(カ) 中野接骨院における治療

原告は、本件事故による顔面多発骨折、全身打撲で、特に右側背中、腰、臀部にかけてひどい痛みがあり、その治療のためには中野接骨院における治療は必要であった。

(キ) エステティカ市ヶ谷における治療

エステティカ市ヶ谷における治療は、本件事故による顔面骨骨折観血的整復手術後の顔の腫脹・硬直、頚部や腰部等の疼痛・鈍痛等に対する必要かつ相当な理学療法であった。

(被告会社の主張)

ア 治療費、薬代、文書料、通院費及び入院雑費について

(ア) 東京警察病院

a 平成一一年四月一〇日の東京警察病院眼科の受診は、「遠視性乱視、両目アレルギー性結膜炎、右目球結膜下出血」との診断が下されているので、本件事故との因果関係はない。

b 平成一一年九月八日及び同月二二日の東京警察病院耳鼻科の受診、同月一〇日及び同年一二月七日の同病院眼科での受診並びに平成一二年五月一二日及び同月二三日の内科受診(風邪をこじらせた急性気管支炎)は、いずれも本件事故と因果関係がない。

c 原告の右頬骨骨折の傷害は遅くとも平成一二年五月二三日の受診時には治癒していたといえるので、本件事故と因果関係がある治療費及び通院費は同日までのものであり、それ以降の原告の主張する治療費及び通院費は本件事故と因果関係がない。

クリニカ市ヶ谷における鼻の美容整形に関する手術等や、その手術の際にA医師が鼻腔内に止血用ガーゼを多量に詰め込んだまま取り外すのを失念し、鼻腔内に肉芽が増生するなどして炎症を引き起こすという医療過誤のために行われたガーゼ除去手術等は本件とは因果関係がない。

(イ) 中野接骨院

接骨院における治療については、補助的治療であるから、中野接骨院における治療のうち一週間に三日程度が相当な治療と見るべきであり、本件事故と因果関係のある治療日数は四一日である。

(ウ) エステティカ市ヶ谷

エステティカ市ヶ谷の営業は、いわゆる美容を目的とするエステサロンであって、医療機関ではなく、原告が主張する治療も医療従事者による医療器具を使用した医学的な治療ではないので、原告の主張は認められない。

(エ) クリニカ市ヶ谷

クリニカ市ヶ谷における診察、治療及び手術は、その主たる目的が原告の頬骨骨折に伴って行われた鼻の美容整形手術(鼻骨骨切り手術)にあるから、本件事故との因果関係は存しない。

(オ) 損害額

以上の事実をもとに、原告の本件事故における治療費、薬代、文書料、通院費及び入院雑費についての損害は、下記のとおりとなる。

a 治療費 六四万三二四三円

b 薬代 五万二九五〇円

c 文書料 三万五四五〇円

d 通院費 二万一九二〇円(八七日分)

e 入院雑費 三万七七〇〇円(一日一三〇〇円、二九日分)

イ 休業損害 四七万八五〇〇円

原告の家族は夫のほかに成人した娘がおり、その家事労働は娘の手伝いが期待できるので比較的軽微と思われること、また、原告は自ら主張するようにほとんど毎日のように通院できるほど体力を有していたこと、さらに前記頬骨骨折という傷害に照らせば、前記本件事故と因果関係のある治癒までの入通院八七日を休業期間とするのが相当であり、一日当たりの基礎収入を五五〇〇円とすると、前記金額となる。

ウ 逸失利益 〇円

前記原告の家族構成、原告の本件事故における後遺障害等に照らせば、その後遺障害が家事労働に影響を及ぼすものとはいえない。

エ 慰謝料 五〇万円

本件事故と因果関係のある治癒までの入通院期間が八七日であること及び原告の後遺障害が家事労働には何ら影響がなく、さらに日常生活にもさほど影響がないこと等に照らせば、前記金額を超えることはない。

(被告Y1の主張)

ア 原告の症状固定時は、A医師の平成一一年四月一三日付の診断書(乙ロ一の一の二五四頁)及びA医師の証言等に照らせば、プレート抜去手術を予定していたのが平成一二年四月二一日であること等を加味しても、最大限遅くとも平成一二年五月末ころである。

イ 後遺障害に基づく逸失利益が認められるとしても、労働能力喪失期間は、原告の後遺障害に照らせば、原告主張の期間よりも短期間である。

ウ その他の損害に対する主張は被告会社の主張を援用する。

第三争点に対する判断

一  争点一(事故態様及び過失割合)について

(1)  甲三一号証の一ないし四、乙一号証の三及び五並びに原告本人の供述によれば、本件事故現場の状況は次のとおり認定できる。

ア 本件踏切に繋がる道路(以下「本件道路」という。)は、最高速度が時速三〇kmであり、両側に路側帯が設置され、本件踏切において京王帝都井の頭線(軌道二線)の軌道敷を南北に通過しており、本件踏切から南側の赤堤通り方面は、西から幅員約一・〇五mの路側帯、幅員約三・〇五mの車線、幅員約一・一五mの路側帯から成っており、本件踏切から北側の井の頭通り方面は、西から幅員約一・一mの路側帯、幅員約三・二mの車線、幅員約一・〇mの路側帯から成っている。

イ 本件踏切は、西から幅員約一・〇mの路側帯、幅員約三・二mの車線、幅員約〇・八mの路側帯から成っており、本件踏切の東側路側帯内には、東側白線から約一三cmのところに白線跡(以下「本件白線跡」という。)があり、その東側は軌道敷内の敷石が置かれている。

(2)  乙イ一号証の四ないし七及び九並びに原告本人の供述(下記認定事実に反する供述は採用できない。)によれば、本件事故状況は次のとおり認定できる。

ア 原告は、本件事故当時、本件事故現場付近の郵便局で用事を済ませ、利用している駐車場の料金を納めるために、本件踏切から南側赤堤通り方面から本件踏切に向かって、本件道路のほぼ中央付近を歩行していた。

イ 原告は、本件踏切内に入ったところ、被告車が後方から進行してくる音が聞こえたため、それを避けようと本件道路東側の路側帯に向かって右斜めに歩行した。

ウ 被告Y1は、本件事故当時、アルバイトとして勤務していた被告会社経営のガソリンスタンドの昼休時間に自宅で昼食をとった後、勤務に戻るため、被告車で本件踏切から南側赤堤通り方面から本件踏切に向かって、本件道路を進行していた。

エ 被告Y1は、前方の本件道路中央付近に原告が同一方向に歩行しているのを発見し、原告の右側方から追い抜こうとして進行し、一時停止せずにそのまま本件踏切内に進行した。

オ その後、原告が、後方を確認するため、右から振り返ったところ、被告車が原告に衝突した。

(3)  本件事故状況につき、原告は、比較的中央付近を歩行していたのは、本件踏切に至る手前であり、後方から被告車の音が聞こえたので本件道路の進行方向右側の路側帯の右端ぎりぎりまで寄り、自己の足が路側帯の白線内に入っていることを確認して、被告車の音が近づいてきた右側を確認した瞬間、被告車に衝突されたのであって、原告が被告車から衝突されたのは、本件踏切の進行方向右側の路側帯であると主張し、その証拠として、甲一六号証、甲三一号証の一ないし四を提出し、原告本人も前記主張に沿う供述をしている。

確かに、原告が本件踏切内の東側路側帯内の本件白線跡の東側に入った点についての原告の供述は、甲三一号証の一ないし四の写真と整合する。

そして、前記(2)の事故状況の認定にあるとおり、被告Y1は、原告の右側方を通過しようとしており(この点は、被告Y1が警察官ないし検察官に対し供述している。乙イ一の四、六及び九)、原告が右へ寄ったために、さらにその原告の右側方を通過しようとしていたとはいえる。

しかし、被告車が、本件踏切の東側路側帯内の東側白線から約一三cmしかないところに標された本件白線跡の東側にいた原告を追い抜くために、軌道敷内の敷石際の原告の右側(東側)を通過しようとしていたとは到底考えにくい。

さらに、被告らも指摘する乙イ一号証の七における原告の警察官に対する供述に照らすと、前記(2)の事故状況に認定に反する証拠は採用できず、前記原告の主張は採用できない。

(4)  前記(2)認定の事故状況によれば、被告Y1は、本件踏切を通過するに当たり、その直前で停止し、本件踏切内の安全を確認すべき義務(道路交通法三三条一項)があるにもかかわらず、その義務に反し、さらに、前方の歩行者である原告の動静に対する注意義務も怠ったものといえる。よって、被告Y1は民法七〇九条に基づき損害賠償責任を負うというべきである。

他方、原告は、本件事故直前に本件踏切中央から右側路側帯へ移る際に、後方の安全を確認しなかったという点に落ち度がないとはいいがたい。

以上によれば、被告Y1と原告の本件事故における過失割合は、九〇:一〇とするのが相当であり、それに反する各当事者の主張は採用できない。

二  争点二(被告会社の責任)について

ア  乙イ一号証の四、六及び九並びに前記一(2)の認定事実によれば、原告が主張するように、本件事故は、被告Y1が勤務先の被告会社経営のガソリンスタンド近くの自宅で昼食をとり、休憩時限の午後二時に遅れそうになり、被告車で帰社を急いだが間に合わず、休憩時限の午後二時ころ、勤務先を目前にして発生したものといえる。

イ  しかし、乙イ一号証の六及び九によれば、被告車の所有者は、被告会社ではなく、被告会社経営のガソリンスタンドにおける被告Y1の同僚であるBである。

また、前記のとおり、本件事故時には、被告Y1は、被告車で前記ガソリンスタンドの業務に従事していたのではなく、休憩時間を終えて、自宅から前記ガソリンスタンドに向かうところであり、さらに、本件証拠上、被告車が被告会社経営のガソリンスタンドの業務に使用されていた事実は認められない。

ウ  前記イの事実によれば、本件事故が被告会社経営のガソリンスタンドの業務の執行(民法七一五条一項本文)につき発生したとはいえず、本件事故について被告会社に対し責任を問うことはできない。

三  争点三(損害)について

(1)  甲二号証、甲三号証の一ないし六九、甲四号証の一ないし一〇、甲五号証の一ないし七六、甲六号証の一ないし五、甲七号証の一ないし三二、甲八号証の一ないし一二、甲一六及び一七号証、甲一八ないし二一号証の各一及び二、甲二三、二七及び二八号証、乙ロ一号証の一及び三、乙ロ一号証の二の一ないし二九、乙ロ二及び三号証並びに原告本人の供述及びA医師の証言によれば、原告の本件事故後の治療経過は次のとおり認められる。

ア 平成一一年四月八日から同月一〇日までの三日間(菊池外科病院入院)

原告は、本件事故後、菊池外科病院を受診し、レントゲン撮影等の検査を受け、傷病名「右頬骨骨折、全身打撲、右手擦過創」と診断され、点滴静注等の加療を受け、三日間入院した。その際、A医師は、原告を診察し、右頬骨骨折についての手術のため東京警察病院への転院を勧め、原告はその勧めに従って退院した。

イ 平成一一年四月九日、同月一〇日(東京警察病院通院)

(ア) 原告は、前記A医師の勧めに従い、平成一一年四月九日、東京警察病院形成外科を受診し、右頬骨骨折、右腰部、右下腿上腕打撲、頸椎捻挫と診断され、同月一三日から右頬骨骨折についての手術のために入院するように指示された。また、原告が眼症状を訴えていたので、同病院眼科診察を勧められた。

(イ) 原告は、同月一〇日、前記形成外科の医師の紹介で同病院眼科を受診し、遠視性乱視、アレルギー性結膜炎、右眼球結膜炎下出血と診断され、原告の希望から同月一四日に視野検査を受診することになった。

ウ 平成一一年四月一三日から同年五月八日までの二六日間

(東京警察病院入院)

(ア) 原告は、平成一一年四月一三日、右頬骨骨折についての手術目的で東京警察病院形成外科に入院した。

(イ) 原告は、同月一四日、同病院眼科において視野検査を受けた。

(ウ) 原告は、同月一五日、入院以来尿潜血があったため、同病院泌尿器科にて検査を受け、右腎外傷と診断された。

(エ) 原告は、同月一六日、右頬骨骨折について、A医師及びC医師の執刀で観血的整復術・プレート固定術(以下「本件手術一」という。)を受けた。

(オ) 原告は、同月二〇日、本件手術において右下眼瞼縁を切開し、右眼球結膜の腫脹が生じているため、同病院眼科の診察を受け、右眼瞼腫脹、球結膜下出血、結膜浮腫と診断された。

(カ) 原告は、同年五月八日退院した。

エ 平成一一年五月二五日から平成一三年一月二四日(東京警察病院通院。実通院日数四一日間)

(ア) 原告は、平成一一年五月二五日から平成一三年一月二四日まで三二回、東京警察病院形成外科に通院した。

a 原告は、A医師の勧めに従い、平成一二年三月一三日の受診で、同年四月二〇日よりクリニカ市ヶ谷に入院し、同月二一日に本件手術一で挿入されたプレートの抜去(以下「本件手術二」という。)及び鼻骨骨切り術(以下「本件手術三」という。)を行うことにしていたが、急性気管支炎等による体調不良のため、本件手術二および三は延期されたので、同年七月四日の受診において、本件手術二及び三を同年八月一一日に実施されることになった。

b 原告は、同年一二月五日の受診で、A医師の紹介で、本件手術三の際の鼻出血の原因等の診断を同病院耳鼻科より受けることになった。

c 原告は、平成一三年一月九日、前記耳鼻科の診断に従い、同月三一日に全身麻酔にてガーゼ除去及び鼻骨骨切り術(以上を併せて、以下「本件手術四」という。)を受けることになった。

(イ) 原告は、平成一一年六月三日、前記右腎外傷のため、泌尿器科を受診した。

(ウ) 原告は、平成一一年九月八日、右耳の違和感のため、同病院耳鼻科を受診し、純音聴力検査、鼓膜の運動性には特に問題がないと診断され、同月二二日にも受診した。

さらに、平成一二年一二月一二日、同年八月一一日に行った鼻骨骨切り術の際に多量の出血があり、鼻に変形を残していたため、前記のとおり、A医師の紹介で、同病院耳鼻科の診察を受け、左鼻内にガーゼが発見され、そのガーゼを抜去されたが、肉芽増殖があり、出血があった。その後、同年一二月一五日及び同月一九日に同科の診察を受け、同月二〇日及び同月二五日に同科にてガーゼ等が抜去された。しかし、まだガーゼが残存している可能性があるので、同日、平成一三年一月二九日から入院して、同月三一日に本件手術四を行うことになり、同月九日にも同科を受診した。

(エ) 原告は、平成一一年一一月一〇日、同病院眼科を受診し、両眼の涙液分泌低下症と診断された。

(オ) 原告は、平成一二年五月一二日、同病院内科を受診し、急性気管支炎と診断され、同月二三日、同年六月九日及び同月一四日まで受診し、形成外科手術は可能であると診断された。

オ 平成一一年六月二一日から平成一二年三月三一日(中野接骨院通院。実通院日数一二三日)

原告は、A医師と相談の上で、平成一一年六月二一日から平成一二年三月三一日まで、中野接骨院を受診し、右腰部及び下腿部打撲及び右上腕部挫傷について、マッサージ等の施術を受けた。

カ 平成一一年一一月一五日から平成一四年一月二五日(エステティカ市ヶ谷通院。実通院日数七五日)

原告は、A医師の紹介で、平成一一年一一月一五日から平成一四年一月二五日まで、エステティカ市ヶ谷において、主に右顔面に対するLPG社のCelluM61P(以下「LPG」という。)による施術並びに右肩、首筋及び背柱起立筋に対するステレオダイネーター(以下「SDT」という。)による施術等を受け、平成一二年二月二三日にはメディカルエステとして内反小趾のカウンセリングを受けた。

また、原告は、エステティカ市ヶ谷において、平成一三年七月一二日にVCローションを、同年一〇月一二日及び平成一四年一月二五日にACEジェルを購入した。

キ 平成一二年八月一〇日から同月二三日までの一四日間(クリニカ市ヶ谷入院)

原告は、A医師の紹介で、平成一二年八月一〇日から、クリニカ市ヶ谷に入院し、同月一一日、本件手術二及び三を受けた。しかし、その手術中に鼻出血があったため、止血のため、ガーゼが挿入された。また、右眼瞼が腫脹したため、湿布による治療を受けた。原告は、同月二三日、同病院を退院した。

ク 平成一二年八月二六日から平成一三年七月一三日(クリニカ市ヶ谷通院。実通院日数五日間)

原告は、クリニカ市ヶ谷において、平成一二年八月二六日にはダーゼン(消炎酵素薬)の処方を受け、同年一二月九日及び平成一三年三月一七日に診断書を受け取り、同年二月五日にダラシンローションを購入し、同年七月一九日、VCローションを購入した。

ケ 平成一三年一月二九日から同年二月二三日までの二六日間(東京警察病院入院)

(ア) 原告は、本件手術四のために、平成一三年一月二九日、東京警察病院形成外科に入院し、同月三一日、同科のA医師ら及び同病院耳鼻科の医師から、本件手術四を受けた。

(イ) 原告は、同年二月一五日、同病院泌尿器科を受診し、右腎外傷、尿潜血と診断された。

コ 平成一三年三月一日から平成一四年一月二九日(東京警察病院通院。実通院日数一四日間)

(ア) 原告は、平成一三年三月一日、東京警察病院泌尿器科を受診し、CT検査を受け、経過観察とされた。

(イ) 原告は、平成一三年三月六日から平成一四年一月二九日まで、同病院形成外科を一〇回受診した。

(ウ) 原告は、平成一三年四月五日から同年八月七日まで、同病院耳鼻科を四回受診した。

(2)  以上の治療経過をもとに、原告の治療と本件事故との因果関係を検討する(なお、菊池外科病院の入院治療及び平成一一年四月一五日の東京警察病院泌尿器科の受診についての相当因果関係は当事者間に争いがない。)。

ア 原告の本件事故による傷害の症状固定日

(ア) 原告は、本件事故による傷害の症状固定日を平成一六年一月六日であると主張し、その証拠としてA医師の自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書(甲二八)を提出しているのに対し、被告会社は平成一二年五月二三日の東京警察病院形成外科受診時までには治癒していたと主張し、被告Y1も同月末には前記原告の症状は固定していたと主張する。

(イ) 甲二八及び二九号証によれば、原告の後遺障害は右眼窩下神経支配域の知覚鈍麻であり、その後遺障害は右頬骨骨折によるものであることが認められる。

そして、前記認定の原告の本件事故後の治療経過によれば、右頬骨骨折に対する手術としては平成一一年四月一六日実施の本件手術一及び平成一二年八月一一日実施の本件手術二である。また、甲二四号証、A医師の証言及び調査嘱託の結果によれば、原告は、平成一二年一二月二六日まで、神経回復に効用があるとされるメチコバールを処方されていた(三〇日分)ことが認められる。

以上によれば、原告の本件事故による傷害は、前記平成一二年一二月二六日のメチコバールの処方から三〇日後である平成一三年一月二五日に症状が固定したと解するのが相当である。

(ウ) 原告主張の症状固定日については、前記(イ)の認定事実に照らせば、甲二八号証によっても認定することはできない。

被告らの主張する症状固定日については、いずれも本件手術二が平成一二年四月二一日実施予定であったことを前提としてその実施予定日以降としていると解せられる。前記認定の原告の本件事故後の治療経過によれば、本件手術二が同年八月一一日まで延期された理由が原告が急性気管支炎による体調不良に伴うものであるところ、原告が急性気管支炎を患った時(前記本件手術二実施予定日以前)には本件事故による症状が固定しておらず、前記認定の本件事故による原告の傷害に照らすと、その急性気管支炎による体調不良が本件事故と相当因果関係があるといえること及びプレート固定術後にプレートを抜去するまでの期間は一〇年を要する場合もあり、本件手術一から実際に本件手術二が実施された同年八月一一日までの期間(一年四か月後)が長いとはいえないこと(A医師)からすると、本件手術二が平成一二年四月二一日実施予定であったことは前記認定の原告の症状固定日を覆すに足りるとはいえない。

イ 東京警察病院形成外科における診療

(ア) まず、本件手術一ないし四の本件事故との間の相当因果関係の有無を検討する。

a 本件手術一

原告は、前提事実(3)記載のとおり、本件事故により、右頬骨骨折の傷害を負っているのであるから、右頬骨骨折についての観血的整復術・プレート固定術である本件手術一は本件事故との間に相当因果関係があるといえる。

b 本件手術二

A医師の証言によれば、プレート固定術を受けた後は、体内の異物を取り除く、チタンプレートが体内で溶ける可能性がある及び脳のMRI撮影時に障害になる等の理由から、プレートを抜去することが多いことが認められる。そして、前記のとおり、本件手術一のプレート固定術と本件事故との間に相当因果関係が認められることに照らせば、本件手術二は本件事故との間に相当因果関係があるといえる。

c 本件手術三

A医師の証言及び原告の供述によれば、本件手術一により従前よりも鼻が低く見えるので元に戻したい旨の原告の希望に対し、A医師が従前よりも鼻を高く、かつ、細く見せるために本件手術三を勧め、それに原告が応じたこと及び本件事故による原告の鼻の損傷はなかったことが認められる。そして、原告の本件手術三実施の三か月以上前の平成一二年四月二〇日撮影の写真(乙ロ三)に照らせば、本件事故による原告の傷害のために、本件手術三が必ずしも必要であるとはいえない。したがって、本件事故と本件手術三との間には相当因果関係があるとはいえない。

d 本件手術四

前記認定事実及びA医師の証言によれば、本件手術四は、本件手術三実施中の鼻出血のために用いたガーゼが鼻腔内に残存していたために、それを除去し、また、鼻の変形の修正のための鼻骨骨切り術を行うものであるところ、前記認定のとおり、本件手術三には本件事故との間に相当因果関係がないことに照らすと、本件手術四にも本件事故との間に相当因果関係がないといえる。

(イ) 以上によれば、右頬骨骨折に伴う本件手術一及び二については、本件事故との間に相当因果関係があるといえるが、鼻骨骨切り術である本件手術三及び四については、本件事故との間に相当因果関係があるといえない。

(ウ) 前記(イ)認定及び前記認定の症状固定日によれば、本件事故との間に相当因果関係がある同病院形成外科の受診は、平成一二年一二月五日、同月一二日、同月一九日を除いた(いずれも本件手術三に伴う鼻出血のみを受診の対象としている。)平成一二年一二月二六日までの受診とするのが相当である。

ウ 東京警察病院眼科における診療

被告らは、東京警察病院眼科受診と本件事故との間に相当因果関係が無いと主張するが、前記認定の原告の症状固定日並びに甲一七号証の原告の平成一一年四月末ころの写真、甲一六及び二四号証の陳述書並びに原告の供述によれば、本件事故により原告は右眼が充血し、右眼瞼が腫れ上がったといえるので、前記認定の原告の本件事故後の治療状況における同病院眼科受診と本件事故との間には相当因果関係があるといえる。

エ 東京警察病院耳鼻科における診療

(ア) 同病院耳鼻科における平成一一年九月八日及び同月二二日の受診は、前提事実(3)記載の原告の本件事故による傷害及び前記認定の原告の症状固定日によれば、本件事故との間に相当因果関係があるといえる。

(イ) しかし、同病院耳鼻科における平成一二年一二月一二日以降の受診については、前記認定の原告の本件事故後の治療状況によれば、本件手術三に伴う鼻出血によるものであると認められるところ、前記認定のとおり、本件手術三と本件事故との間に相当因果関係が認められないことに照らせば、前記耳鼻科の受診と本件事故との間に相当因果関係があるとはいえない。

オ 東京警察病院内科における診療

前記認定のとおり、原告の急性気管支炎による体調不良が本件事故と相当因果関係があるといえることからすると、東京警察病院内科の受診と本件事故との間に相当因果関係があるといえる。

カ 中野接骨院における診療

前記前提事実(3)記載の原告の本件事故による傷害、前記認定の原告の症状固定日及び前記認定の原告の本件事故後の治療状況における中野接骨院の治療に照らせば、中野接骨院における受診と本件事故との間には相当因果関係があるといえる(この点、被告らは過剰診療であると主張しており、甲四及び一二の各一ないし一〇、甲二三によれば受診直後から平成一一年一〇月まではほぼ毎日のように受診していたことが認められる。しかし、その後、受診頻度は低下し、最後の受診である平成一二年三月二三日までを平均すると週三回程度であることに照らすと、前記被告らの主張を採用することはできない。)。

キ エステティカ市ヶ谷における診療

(ア) 乙イ二号証、乙ロ四及び五号証並びにA医師の証言によれば、LPGは手術後の腫れなどの改善に使われること、SDTは腰痛に対し用いられることが認められる。

(イ) 前記認定の原告の本件事故後の治療状況によれば、原告がエステティカ市ヶ谷の診療を受けたのは、原告が受診していた東京警察病院形成外科のA医師の紹介によるものであることが認められる。

(ウ) 以上の事実に加え、前記認定の原告の症状固定日に照らせば、平成一二年二月二三日のメディカルエステを除いて、平成一二年一二月四日までの受診は本件事故との間に相当因果関係があるといえる。

ク クリニカ市ヶ谷における診療

前記認定のとおり、本件手術二は本件事故との間に相当因果関係があるといえるが、本件手術三は本件事故との間に相当因果関係があるといえないこと及び前記認定の原告の症状固定日に照らせば、平成一二年八月一一日から同月二三日までの入院のうち本件手術二に関するもの及び同月二六日の受診は本件事故との間に因果関係があるといえる。

(3)  前記認定をもとに治療費、薬代、文書料、通院費及び入院雑費について検討する。

ア 治療費等(下記ウを除く診断書も含む。) 一六〇万六八一二円

本件事故との間の相当因果関係に争いがない菊池外科病院の診療に伴う治療費二三万五〇〇〇円(甲二、一八の一・二)に、下記の治療費を加えると、合計一六〇万六八一二円となる(甲三の一ないし三八・四七、甲四の一ないし一〇、甲五の一ないし三三、甲六の一・二)。

(ア) 東京警察病院 三六万五六四四円

前記(2)イないしオ認定の本件事故との間に相当因果関係のある東京警察病院における診療及びその治療費は、次のとおりである。

a 形成外科 三五万二四〇四円

平成一一年四月九日から平成一二年一二月二六日までの診療(平成一二年一二月五日、同月一二日、同月一九日を除く。)に伴う治療費等(ただし、本件事故と相当因果関係のある平成一一年四月一四日及び同月二〇日の眼科診療並びに同月一五日の泌尿器科診療における治療費を含む。別紙「東京警察病院形成外科治療費等」のとおり。)。

b 眼科 四二五〇円

平成一一年四月一〇日(一八五〇円)、同月一四日及び同月二〇日(ただし、この二日間の治療費は前記形成外科において計上する。)、同年一一月一〇日(一九三〇円)、同年一二月七日(四七〇円)の診療に伴う治療費等。

c 耳鼻科 四四三〇円

平成一一年九月八日(三八八〇円)及び同月二二日(五五〇円)の診療に伴う治療費等。

d 内科 四五六〇円

平成一二年五月一二日(一二三〇円)、同年六月九日及び同月一六日の診療に伴う治療費等。

(イ) 中野接骨院 八万〇一五〇円

前記(2)カ認定のとおり、原告が主張する中野接骨院の診療は全て本件事故と相当因果関係があるといえるので、それに伴う治療費等は前記金額となる(別紙「中野接骨院治療費」のとおり。)。

(ウ) エステティカ市ヶ谷 三二万一〇五〇円

前記(2)キ認定のとおり、平成一一年一一月一五日から平成一二年一二月四日まで(ただし、同年二月二三日のメディカルエステ(五二五〇円)を除く。)の診療は本件事故と相当因果関係があるといえるので、それに伴う治療費等は前記金額となる(別紙「エスティカ市ヶ谷治療費」のとおり。)。

(エ) クリニカ市ヶ谷 六〇万四九六八円

前記(2)ク認定のとおり、平成一二年八月一一日から同月二三日までの入院のうち本件手術二に関するもの及び同月二六日(一二一八円)の受診は本件事故との間に相当因果関係があるといえるところ、甲六号証の一、甲二一号証の一及び二によっても、前記入院期間中の本件手術二に関する治療費を特定することは不可能であるので、その入院期間中の費用の半分六〇万三七五〇円をもって本件手術二に関する治療費とすると、その金額に同月二六日の治療費(一二一八円)を加えた前記金額が本件事故と相当因果関係になるクリニカ市ヶ谷における治療費となる。

イ 薬代 四万一〇一〇円

前記(2)イないしオ認定の本件事故との間に相当因果関係のある東京警察病院における診療並びに甲七号証の一ないし二六・三二及び甲八号証の一によれば、本件事故との間に相当因果関係のある薬代は四万一〇一〇円(前記書証記載金額の合計額)である。

ウ 文書料 三万五四五〇円

甲九号証の一ないし三、甲一〇号証及び甲一一号証の一ないし三によれば、原告が主張する文書料三万五四五〇円は本件事故との間に相当因果関係があるといえる。

エ 通院費 七万四七六〇円

前記(2)イないしク認定の本件事故との間に相当因果関係のある診療並びに甲一二号証の一ないし一二(ただし、平成一二年一二月五日から同月二五日までの合計四一〇〇円を除く。)、甲一三号証及び甲一四号証の一ないし三によれば、本件事故との間に相当因果関係のある通院費は七万四七六〇円(前記書証記載金額の合計額)である。

オ 入院雑費 七万九五〇〇円

前記(2)イないしク認定の本件事故との間に相当因果関係のある診療によれば、本件事故との間に相当因果関係のある入院治療は合計五三日間といえるところ、一日の入院雑費の単価としては原告が主張する一五〇〇円をもって相当であるといえるので、下記計算により、七万九五〇〇円が本件事故との間に相当因果関係のある入院雑費であるといえる。

一五〇〇円×五三日=七万九五〇〇円

(4)  休業損害 三九六万九一五八円

ア 原告は、本件事故により、主婦業を少なくとも二年間はできなくなり、休業損害としては、平成一二年度賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計五〇歳から五四歳の女性労働者平均年収三七二万一六〇〇円を基礎収入とすべきであると主張するのに対し、被告らは、原告の家族は夫のほかに成人した娘がおり、その家事労働は娘の手伝いが期待できるので比較的軽微と思われること、また、原告は自ら主張するようにほとんど毎日のように通院できるほど体力を有していたこと、さらに前記頬骨骨折という傷害に照らせば、前記本件事故と因果関係のある治癒までの入通院八七日を休業期間とするのが相当であり、一日当たり五五〇〇円とすべきであると主張する。

イ しかし、前提事実(3)の本件事故による原告の傷害の内容、前記認定の原告の症状固定日までの治療状況等に照らせば、本件事故による原告の休業期間は本件事故日から前記症状固定時までの六五九日間とするのが相当である。

また、前提事実(2)アのとおり、原告が本件事故当時は専業主婦であること及び賃金センサス平成一一年第一巻第一表産業計・企業規模計・女性労働者・学歴計・全年齢の平均年収が三四五万三五〇〇円であることに照らすと、原告の休業損害における基礎収入は年収三四五万三五〇〇円とするのが相当である。

さらに、前提事実(3)の本件事故による原告の傷害の内容、前記認定の原告の症状固定日までの治療状況等に照らせば、前記休業期間の内一八〇日間は全く家事労働を行えず、残りの四七九日間は家事労働の五割しか行えなかったと認めるのが相当である。

ウ 以上をもとに、原告の本件事故による休業損害を計算すると下記計算式のとおりとなる(円未満切り捨て。以下同じ。)。

345万3500円×180日/365日+345万3500円×0.5×479日/365日=396万9158円

(5)  逸失利益 一七四万三三四一円

ア 前提事実(3)の原告の後遺障害の内容及びその後遺障害につき損害保険料率機構により一四級一〇号の認定がされていること並びに原告が専業主婦であることに照らせば、原告の本件事故における労働能力喪失率は五%をもって相当とする。

イ 労働能力喪失期間については、原告が前記症状固定日に五三歳であること、前提事実(3)の原告の後遺障害の内容及び原告が専業主婦であることに照らせば、就労可能年齢六七歳までの一四年間(ライプニッツ係数九・八九八六)をもって相当とする。

ウ そして、原告が専業主婦であること及び賃金センサス平成一三年第一巻第一表産業計・企業規模計・女性労働者・学歴計・全年齢の平均年収が三五二万二四〇〇円であることに照らせば、原告の逸失利益における基礎収入は年収三五二万二四〇〇円とするのが相当である。

エ 以上をもとに、原告の本件事故による逸失利益を計算すると下記計算式のとおりとなる。

352万2400円×0.05×9.8986=174万3341円

(6)  慰謝料 三〇〇万〇〇〇〇円

ア 入通院慰謝料 二〇〇万〇〇〇〇円

前記(2)イないしク認定の本件事故との間に相当因果関係のある診療によれば、本件事故との間に相当因果関係のある入院は五三日間であり、通院は約二〇か月であることに照らせば、入通院慰謝料としては、二〇〇万円をもって相当とする。

イ 後遺障害慰謝料 一〇〇万〇〇〇〇円

前提事実(3)の原告の後遺障害の内容及びその後遺障害につき損害保険料率算出機構により一四級一〇号の認定がされていることに照らせば、後遺障害慰謝料としては一〇〇万円をもって相当とする。

(7)  弁護士費用を除く損害合計 七八八万七〇五三円

前記(3)ないし(6)記載の損害の合計は、一〇五五万〇〇三一円になるところ、前記一において認定した過失割合(原告一〇:被告Y1九〇)に従がって過失相殺し(九四九万五〇二七円)、前提事実(4)の損害のてん補として支払われた一六〇万七九七四円を控除すると、弁護士費用を除く損害金額は、七八八万七〇五三円となる。

(8)  損害合計 八六八万七〇五三円

前記(7)の損害金額等に照らせば、本件事故との間に相当因果関係の弁護士費用としては八〇万円をもって相当とする。

そうすると本件における損害合計は、八六八万七〇五三円となる。

第四結論

以上によれば、原告の請求は、主文第一項記載の限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 芝田俊文 小田真治 蛭川明彦)

東京警察病院形成外科治療費等

<省略>

中野接骨院治療費

<省略>

エステティカ市ヶ谷治療費

<省略>

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