東京地方裁判所 平成14年(ワ)8303号 判決 2003年3月26日
原告
X1
ほか一名
被告
Y1
ほか一名
主文
一 被告らは、各自、原告X1に対し、八七五二万〇〇五二円及びこれに対する平成一四年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、各自、原告X2に対し、一一〇万円及びこれに対する平成一二年三月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用はこれを四分し、その三を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。
五 この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告らは、各自、原告X1に対し、一億二〇六二万三二六五円及びこれに対する平成一四年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、各自、原告X2に対し、五五〇万円及びこれに対する平成一二年三月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、自転車を運転して横断歩道を走行中の原告X1に、被告Y1が運転する普通貨物自動車が衝突し、原告X1が負傷した交通事故に関し、原告X1及びその夫である原告X2が、被告らに対し損害賠償の請求をした事案である。
一 争いのない事実等(括弧内に証拠を掲げた事実以外は、当事者間に争いがない。)
1 本件事故の発生
(一) 日時 平成一二年三月二四日午後三時一〇分ころ
(二) 場所 東京都国立市富士見台一丁目三四番地の五先の横断歩道上(甲一、一〇)
(三) 被告車両 普通貨物自動車
同運転者 被告Y1
保有者 被告株式会社安中製作所(以下「被告会社」という。)
(四) 被害者 自転車運転中の原告X1
(五) 事故態様 被告Y1は、被告車両を運転し信号機による交通整理の行われていない交差点を右折進行するに当たり、同交差点出口に設置された横断歩道上の横断者等の有無に注意しその安全を確認しながら走行すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、自転車を運転して横断歩道上を走行していた原告X1に気が付かないまま、被告車両を原告X1に衝突させた。
2 責任原因
(一) 被告Y1
被告Y1は、前記1(五)の過失により原告X1を負傷させたのであるから、民法七〇九条に基づき損害賠償責任を負う。
(二) 被告会社
被告会社は、被告車両を保有して自己のために運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき損害賠償責任を負う。
3 原告X1の傷害及び治療経過等
(一) 原告X1は、本件事故により、外傷性くも膜下出血及び急性硬膜下血腫の傷害を負った(甲三、四、三三、三四)。
(二) 原告X1は、前記(一)の傷害の治療のために東京都立府中病院(以下「府中病院」という。)に平成一二年三月二四日から同年一〇月六日まで一九七日間入院し、西東京警察病院に同月二六日から平成一三年二月一五日まで通院した(実通院日数八日間。甲三、四、一九、三六)。
(三) 原告X1の前記(一)の傷害は、前記(二)の通院中である平成一二年一〇月二六日に、右半身不随・知覚鈍麻、体幹機能障害、構音障害、抑うつ状態等の後遺障害を残して症状固定となった(甲四)。
4 後遺障害の認定(甲五の一・二)
原告X1の前記3(三)の後遺障害は、本件事故による頭蓋内右側頭葉の広範な急性硬膜下血腫、脳挫傷及びその後に進行した脳萎縮等によって生じた脳内の高度な器質的損傷に起因するものとして、自動車保険料率算定会(現在の損害保険料率算出機構、以下「自算会」という。)から、自賠法施行令二条別表一級三号の後遺障害(以下「後遺障害等級一級三号」という。)に該当する旨の認定を受けた。
5 損害の填補(甲七、弁論の全趣旨)
(一) 被告らは、本件事故による原告X1の損害の填補として、四七三万一四三〇円を支払った。
(二) 原告X1は、(一)のほか、平成一四年七月三一日に自賠責保険金二九〇六万円の支払を受けた。
二 争点
1 過失相殺の有無及び程度
(被告らの主張)
原告X1は、被告車両の右折先の横断歩道上を自転車を運転して、被告車両から見て左方から右方へと走行していたものであるから、原告X1にも、本件事故の発生につき、一〇%の過失が存するものというべきである。
(原告らの主張)
原告X1は、被告車両の右折先の横断歩道上を自転車を運転して、被告車両から見て右方から左方へと走行していたものである。
また、仮に被告ら主張のとおりの事故態様であったとしても、原告X1が老齢であること、被告Y1の前方不注視の過失の程度は著しいこと及び衝突地点が横断歩道上であったこと等の事情を勘案すれば、原告X1の側に斟酌されるべき過失は存しないものというべきである。
2 原告X1の損害額
(原告X1の主張)
(一) 治療費 四三万九一一〇円
(二) 入院付添費 一三七万九〇〇〇円
原告X1は、本件事故により外傷性くも膜下出血及び急性硬膜下血腫の傷害を負い、本件事故後府中病院に搬送されて直ちに開頭血腫除去手術を受け、その約一か月後には頭蓋形成手術を受け、同病院に半年以上入院した上で、結果的には前記一3(三)記載の重篤な後遺障害を残して症状固定となったものである。このような原告X1の傷害の重大さとその後の回復状況・経過に加え、病院側における実際の看護状況を社会通念に照らし現実的に考えれば、原告X1の入院期間一九七日間については、終始近親者による付添看護の必要があったものといえる。
したがって、一日当たり七〇〇〇円として、入院付添費を下記計算式より算定すると、一三七万九〇〇〇円となる。
【計算式】
7000円×197日=137万9000円
(三) 入院雑費 二九万五五〇〇円
【計算式】
1500円×197日=29万5500円
(四) 諸雑費 一九万三八二三円
(五) 退院後の付添介護費 四六七九万七〇一五円
原告X1は、前記一3(三)記載の重篤な後遺障害を負っており、特に抑うつ状態に関しては症状固定後も進行する状態にある。このため、原告X1の食事、排便、入浴その他一切の日常生活について、夫である原告X2が常時付添介護をする必要があり、その負担の程度も極めて重い。さらに、原告X2は老齢(六九歳)であり、将来的には職業付添人による介護の必要が生じてくることが予想される。したがって、退院後の付添介護費は一日当たり一万円として算定するのが相当である。
そして、原告X1は、症状固定当時六六歳であり、平成一二年簡易生命表によれば六六歳の女性の平均余命は約二一年である。したがって、二一年間に渡る原告X1の付添介護費については、一日当たり一万円として、下記計算式により年五%のライプニッツ方式により中間利息を控除して算定すると四六七九万七〇一五円となる。
【計算式】
1万円×365日×12.8211(21年ライプニッツ係数)=4679万7015円
(六) 家屋改造費 七九一万九五〇〇円
原告らの実施した家屋の改造工事は、起居や移動にはすべて介助を要し、室内の移動も車椅子を使用しなければならない原告X1の状況と介護に当たる原告X2の状況を踏まえた上で、必要最小限の範囲と考えられる間取りの変更、段差の解消、手すりの設置、台所の改造等を行ったものであって、それに要した費用である七九一万九五〇〇円は、すべて本件事故と相当因果関係を有するものである。
なお、原告X1は、介護保険法による居宅介護住宅改修費として府中市より一八万円を受給しているが、介護保険法による公的扶助と損害賠償は異なる理念に基づくものであるから、損害から差し引かれるべきではない。
(七) 将来の雑費 六二万三一〇五円
【計算式】
4050円(福祉機器レンタル代月額)×12か月×12.8211(21年ライプニッツ係数)=62万3105円(円未満四捨五入)
(八) 休業損害 二〇七万九七五二円
賃金センサス平成一二年第一巻第一表産業計・企業規模計・女性労働者学歴計全年齢平均年収額である三四九万八二〇〇円を基礎収入とし、本件事故日から症状固定日までの二一七日間の休業損害を下記計算式により算定すると二〇七万九七五二円となる。
【計算式】
349万8200円÷365日×217日=207万9752円(円未満四捨五入)
(九) 後遺障害逸失利益 二七〇一万二〇五一円
原告X1は、本件事故による後遺障害によりその労働能力を一〇〇%喪失したのであるから、その後遺障害逸失利益は、賃金センサス平成一二年第一巻第一表産業計・企業規模計・女性労働者学歴計全年齢平均年収額である三四九万八二〇〇円を基礎収入とし、本件事故に遭わなければ症状固定時から平均余命約二一年(平成一二年簡易生命表六六歳女性)の約二分の一である一〇年間は稼働できたものとして、下記計算式により年五%のライプニッツ方式により中間利息を控除して計算すると、二七〇一万二〇五一円となる。
【計算式】
349万8200円×1.0×7.7217(10年ライプニッツ係数)=2701万2051円(円未満四捨五入)
(一〇) 入通院慰謝料 二五六万四六六七円
(一一) 後遺障害慰謝料
ア 後遺障害等級一級三号認定分 二八〇〇万〇〇〇〇円
イ 顔面醜状障害分 一〇〇〇万〇〇〇〇円
原告X1の顔面醜状については自算会による認定を受けていない。しかし、原告X1は本件事故より顔面に深い傷を負っているので、この点に関しては、前記アの後遺障害とは別途に慰謝料として斟酌されるべきであり、その額は一〇〇〇万円が相当である。
(一二) 自賠責保険金支払日までの遅延損害金 一五九一万三九九一円
前記(一)ないし(一一)の合計額(一億二七三〇万三五二三円)から前記一5(一)の既払金のうち四五〇万円を控除すると一億二二八〇万三五二三円となる。そして、この金額に一〇%の弁護士費用(一二二八万〇三五二円)を付加した金額である一億三五〇八万三八七五円が本件事故により発生した損害額となるところ、本件事故発生日である平成一二年三月二四日から、原告X1に対し自賠責保険金二九〇六万円が支払われた日である平成一四年七月三一日まで(八六〇日間)の間の前記損害額(一億三五〇八万三八七五円)に対する年五分の割合による遅延損害金は一五九一万三九九一円となる(円未満四捨五入)。
(一三) 前記(一)ないし(一二)の小計 一億四三二一万七五一四円
(一四) 既払金控除後の残額 一億〇九六五万七五一四円
前記(一三)の金額から前記一5の既払金のうち三三五六万円を控除すると、(ただし、民法四九一条に基づき、前記一5(二)の自賠責保険金二九〇六万円はまず前記(一二)の遅延損害金に充当する。)残額は一億〇九六五万七五一四円となる。
(一五) 弁護士費用 一〇九六万五七五一円
(一六) 合計 一億二〇六二万三二六五円
(被告らの主張)
(一) 治療費
認める。
(二) 入院付添費
否認する。
府中病院リハビリテーション科医師A(以下「A医師」という。)作成の平成一二年八月一八日付け診断書(乙一)及び同病院医師B作成の同年九月一一日付け診断書(乙二)のいずれにも「付添看護を要した期間」欄の記載がなく、入院期間中原告X1に付添看護の必要性は認められない。
(三) 入院雑費
認める。
(四) 諸雑費
否認する。
前記(三)の入院雑費に含まれるものである。
(五) 退院後の付添介護費
原告X1の介護については随時介護で足りる。仮に近親者による常時介護を要するとしても、原告X1の日常生活動作における自立度はかなり高いものと考えられるので、指示、声掛け、見守りといった程度にとどまる。さらに、将来的には介護保険の利用が考えられること等の事情を勘案すれば、退院後の付添介護費は一日当たり四〇〇〇円として算定するのが相当である。
(六) 家屋改造費
原告らの実施した家屋の改造工事は、手摺りの設置、浴室の改造といった必要不可欠な範囲に限定されているとは言い難く、建物全般に及んでいる。そして、その結果、建物の強度が補強され、内装・設備等が刷新され、家族の生活利便性が向上したものと考えられるので、本件事故と相当因果関係を有する家屋改造費は四〇〇万円とするのが相当である。
なお、家屋改造費につき、介護保険法による居宅介護住宅改修費の支給を受けた分については、損害から差し引かれるべきである。
(七) 将来の雑費
認める。
(八) 休業損害
原告は、症状固定当時六六歳であるから、賃金センサス平成一二年第一巻第一表産業計・企業規模計・女性労働者学歴計六五歳以上の平均年収額である二八六万八三〇〇円を基礎収入とし、本件事故日から症状固定日までの二一七日間の休業損害を下記計算式により算定すると一七〇万五二六三円となる。
【計算式】
286万8300円÷365日×217日=170万5263円(円未満切捨て、以下同じ)
(九) 後遺障害逸失利益
争う。
(一〇) 入通院慰謝料
認める。
(一一) 後遺障害慰謝料
ア 後遺障害等級一級三号認定分
認める。
イ 顔面醜状障害分
否認する。
前記アに含まれる。
3 原告X2の損害額
(原告X2の主張)
(一) 近親者慰謝料 五〇〇万〇〇〇〇円
(二) 弁護士費用 五〇万〇〇〇〇円
(被告らの主張)
(一) 近親者慰謝料
否認する。
原告X2の近親者慰謝料は、前記2(二)アの原告X1の後遺障害慰謝料ですべて評価されているものである。
(二) 弁護士費用
争う。
第三争点に対する判断
一 争点1(過失相殺の有無及び程度)について
1 前記第二の一1及び甲一〇ないし一四によれば、本件事故は、被告Y1が、被告車両を運転し信号機による交通整理の行われていない交差点を右折進行するに当たり、進路遠方の対向車両の存在に気を取られ、同交差点出口に設置された横断歩道の手前で、時速約三〇kmから時速約一〇ないし二〇kmに減速したものの、同横断歩道上の横断者の有無等を全く確認しないまま進行したため、同横断歩道上を被告車両から見て左方から右方に向かって走行してきた原告X1運転の自転車に衝突する直前まで気が付かず、制動措置等の回避措置を何らとらないまま被告車両右前部を原告X1運転の自転車の右側面に衝突させて発生したものと認められる。
なお、原告らは、原告X1運転の自転車は、被告車両から見て右方から左方に向かって走行していた旨主張するが、被告Y1は本件事故直後から前記認定に沿う事故状況を供述していること(甲一〇、一二、一三)及び原告X1運転の自転車のハンドルの右側部に本件事故による接触痕が認められること(甲一一)からすれば、本件事故状況は前記認定のとおりと認めるのが相当であり、この点に関する原告らの主張は採用できない。
2 ただし、前記1認定のとおり被告Y1は右折先の横断歩道上の横断者の有無等を全く確認しないまま右折を開始し、何ら制動措置等の回避措置をとらないまま被告車両を原告X1運転の自転車に衝突させたものである。また、前記1認定の事故態様に照らせば、原告X1は被告車両の進路前方の対向車線の左端付近を走行してきたものといえ、そうすると、被告Y1は右折開始前の時点で容易に原告X1の存在には気付き得たものと考えられるので、被告Y1の前方不注視の程度は著しいといえる。さらに、接触地点が横断歩道上である点については、横断歩道上を走行しなかった場合と比較して、より被告車両から離れた位置を走行することになるという意味において原告X1に有利に考慮すべきである。以上のほか、本件事故当時原告X1は六五歳であったこと(甲一)等の事情を勘案した結果、本件事故の発生につき、原告X1には斟酌されるべき過失は存しないものと認めるのが相当である。
二 争点2(原告X1の損害額)について
1 治療費 四三万九一一〇円
治療費が四三万九一一〇円であることについては、当事者間に争いがない。
2 入院付添費 一九万五〇〇〇円
(一) 証拠(甲三、乙一ないし六)及び弁論の全趣旨によれば、原告X1の府中病院入院中(平成一二年三月二四日から同年一〇月六日までの一九七日間)における治療経過及び回復状況等に関し、以下の各事実が認められる。
ア 原告X1は、本件事故発生直後である平成一二年三月二四日午後三時四〇分ころ、救急車にて府中病院に搬送され、頭部CT検査により外傷性くも膜下出血と急性硬膜下血腫が認められたためICU(集中治療室)入室となった。意識レベルは当初Japan Coma Scale(ジャパンコーマスケール、以下「JCS」という。)Ⅰ―一であり麻痺も認められなかったが、ICU入室後約一時間三〇分経過してから意識レベルがJCSⅢ―二〇〇まで悪化して右瞳孔も散大し、頭部CT検査により硬膜下血腫の増大が認められたために、救命目的で緊急に開頭血腫除去手術が施行された。
イ 原告X1の意識レベルはその後徐々に回復し、平成一二年三月二八日はJCSⅠ―三となり、ICUから脳外科病棟へと移った。そして同年四月三日には脳外科入院のままリハビリが開始された。
ウ 平成一二年四月二一日に原告X1に対し頭蓋形成術が施行され、同月二二日には意識レベルがJCSⅠ―一まで回復した。
エ 平成一二年五月二六日に、原告X1は右片麻痺に対するリハビリ目的で、リハビリテーション科に転科した。運動麻痺の程度はブルンストロームステージ右上肢Ⅳ、右手指ⅣないしⅤ、右下肢ⅣないしⅤと軽度であった。理学療法として四肢筋力訓練、可動域訓練、歩行練習が、作業療法として、手指動作訓練、日常生活動作訓練が行われたが、意欲低下などの症状が見られ、リハビリの進行は緩慢であった。
オ 府中病院は完全看護の体制にあり、原告X1について医師から家族等による付添が指示されたことはなかったが、原告X2は原告X1の府中病院入院期間中、持病である高血圧症により体調不良の日を除けば、ほぼ毎日同病院に通い、原告X1の食事の介助やリハビリの付添等をしていた。
(二) 前記(一)認定の各事実によれば、原告X1の府中病院入院中の全期間に渡って原告X2による付添看護の必要性があったものとは認められないものの、原告X1の状況は、一時は意識レベルが極めて悪く瞳孔が散大するような状態になって開頭血腫除去手術を受け、その約一か月後にも頭蓋形成手術を受けたこと、その後も右片麻痺の状態でリハビリが続けられたこと等の事情を考慮すると、原告X1の意識レベルが入院当初と同じ状態であるJCSⅠ―一まで回復した平成一二年四月二二日までの間は原告X2による付添看護が必要であったものと認められる。
(三) したがって、平成一二年三月二四日から同年四月二二日までの三〇日間について、付添のために要する交通費分も含めて一日当たり六五〇〇円として入院付添費を下記計算式より算定すると一九万五〇〇〇円となる。
【計算式】
6500円×30日=19万5000円
3 入院雑費 二九万五五〇〇円
入院雑費が二九万五五〇〇円であることについては、当事者間に争いがない。
【計算式】
1500円×197日=29万5500円
4 諸雑費 七万六九五〇円
原告は、前記3の入院雑費のほかに諸雑費として、衛生費五万五二八三円、近親者通院交通費一万二四八六円、福祉機器レンタル代等一〇万二一五〇円、副食費一万七九一〇円、その他費用五九九四円の合計一九万三八二三円を請求している(甲六の二丁目ないし四丁目参照)。
衛生費については、T字帯、紙おむつ、リハビリシューズ代合計四万三六五〇円(レシート番号A―二、A―四ないし一五、D―一三)は、前記3の入院雑費とは別途に本件事故と相当因果関係を有する損害と認められるが、他の費用については前記3の損害額に含まれるものと考える。
近親者通院交通費については、前記2の入院付添費で、既に考慮済みなので別途の損害としては認められない。
福祉機器レンタル代等については、平成一二年一〇月から平成一四年三月までの間の一八か月間分の特殊寝台・車椅子貸与代合計七万二九〇〇円(四〇五〇円〔甲六添付のレシート番号E―五〕×一八か月)のうち、症状固定日(平成一二年一〇月二六日)以降である平成一二年一一月以降の分については、後記7の将来の雑費として算定されるべきものなので、平成一一年一〇月分である四〇五〇円のみを認め、これに甲六添付のレシート番号E―一ないし四の合計額二万九二五〇円を加えた三万三三〇〇円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。
副食費及びその他費用については、本件事故との相当因果関係を認めることはできない。
したがって、原告請求の諸雑費のうち、以上合計七万六九五〇円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。
5 退院後の付添介護費 三七四三万七六一二円
原告らは、原告X1には常時介護が必要でありその負担の程度も極めて重い旨主張するのに対し、被告らは、原告X1の介護は随時介護で足り常時介護を前提とした場合でもその負担の程度は軽い旨主張するので、以下検討する。
(一) 証拠(甲四、三三ないし三五、乙三ないし六)及び弁論の全趣旨によれば、原告X1の症状固定前後の障害の状況等に関し、以下の各事実が認められる。
ア A医師作成の平成一二年六月二六日付け身体障害者診断書・意見書記載の原告X1の状況は、要旨以下のとおりである。
(ア) 右片麻痺については、ブルンストロームステージ右上肢Ⅳ、右手指Ⅴ、右下肢Ⅴとの評価で、右上肢については軽度の障害、右下肢については著しい障害との総合所見である。
(イ) 参考となる合併症としては、高次脳機能障害が認められる。
(ウ) 右上下肢及び右体幹に感覚鈍麻及び痙性麻痺が認められる。
(エ) 排尿・排便機能障害は認められない。
(オ) 握力は右四kg、左一三kgである。
(カ) <1>寝返りをする、<2>足を投げ出して座る、<3>椅子に腰掛ける、<4>洋式便所に座る、<5>コップで水を飲む、<6>顔を洗いタオルでふくといった動作については自立している。
(キ) <1>立つには、手すり又は壁又は杖を使い、<2>家の中の移動には、杖又は車椅子を使い、<3>食事をするのにはスプーンを使い、<5>屋外を移動するのには車椅子を使い、それぞれ半介助の状態である。また、<6>排泄の後始末をする、<7>シャツを着て脱ぐ、<8>ズボンをはいて脱ぐ、<9>ブラシで歯を磨くといった動作についても半介助の状態である。
(ク) <1>タオルを絞る、<2>背中を洗う、<3>二階まで階段を上って降りる、<4>公共の乗物を利用するといった動作については全介助又は不能という状態である。
イ 東京都心身障害者福祉センター多摩支所整形外科医師C作成の平成一二年七月一二日付け身体障害者診断書・意見書記載の原告X1の状況は、要旨以下のとおりである。
(ア) 右片麻痺については、ブルンストロームステージ右上肢Ⅰ、右手指Ⅲ、右下肢Ⅴとの評価で、右下肢は自動運動はあるが筋力低下が強く、立位の保持が困難で、Q字杖での介助歩行も困難であるとの所見である。
(イ) 参考となる合併症としては、言語障害が認められる。
(ウ) 右上下肢に痙性麻痺が認められる。
(エ) 排尿・排便機能障害は認められない。
(オ) 握力は右一・五kg、左一一kgである。
(カ) <1>椅子に腰掛ける、<2>洋式便所に座る、<3>排泄の後始末をするといった動作については自立している。
(キ) <1>寝返りをする、<2>足を投げ出して座るといった動作については半介助の状態である。
(ク) <1>立つ、<2>家の中を移動する、<3>食事をする、<4>コップで水を飲む、<5>シャツを着て脱ぐ、<6>ズボンをはいて脱ぐ、<7>ブラシで歯を磨く、<8>顔を洗いタオルでふく、<9>タオルを絞る、<10>背中を洗う、<11>二階まで階段を上って降りる、<12>屋外を移動する、<13>公共の乗物を利用するといった動作については全介助又は不能という状態である。
ウ 西東京警察病院内科医師D(以下「D医師」という。)作成の平成一二年一一月二日付け身体障害者診断書・意見書記載の原告X1の状況は、要旨以下のとおりである。
(ア) 右片麻痺については、ブルンストロームステージ右上肢・右手指ⅡないしⅢ、右下肢Ⅲとの評価で、右上肢・右手指・右下肢の機能はいずれも全廃との所見である。
(イ) 顔面を含む右半身に感覚鈍麻・痙性麻痺が認められる。
(ウ) 排尿・排便機能障害があり、失禁状態である。
(エ) 握力は右〇kg、左八kgである。
(オ) <1>寝返りをする、<2>足を投げ出して座る、<3>椅子に腰掛ける、<4>洋式便所に座るといった動作については半介助の状態である。
(カ) <1>立つ、<2>家の中を移動する、<3>排泄の後始末をする、<4>シャツを着て脱ぐ、<5>ズボンをはいて脱ぐ、<6>ブラシで歯を磨く、<7>顔を洗いタオルでふく、<8>タオルを絞る、<9>背中を洗う、<10>屋外を移動するといった動作は全介助であり、<11>右手で食事をする、<12>右手でコップの水を飲む、<13>二階まで階段を上って降りる、<14>公共の乗物を利用するといった動作については不能という状態である。
エ D医師作成の平成一三年二月一六日付け自賠責後遺障害診断書記載の原告X1の同月一五日当時の状況は、要旨以下のとおりである。
(ア) 右半身不随であり、ブルンストロームステージ右上肢Ⅲ、右下肢Ⅱとの評価である。
(イ) 右上肢・下肢に知覚鈍麻が認められる。
(ウ) 構音障害があり言語不明瞭である。しかし失語症はない状況と考えられる。
(エ) 体幹機能障害があり、車椅子からの立ち上がりは困難である。
(オ) 抑うつ状態であり精神発動が少ない。
オ D医師作成の平成一三年六月七日付け「脳外傷による精神症状等についての具体的な所見」記載の原告X1の状況は、要旨以下のとおりである。
(ア) 長谷川式簡易知能検査では三〇点満点中三点と、高度痴呆と評価される状態である。
(イ) 精神障害・性格障害のうち、高度のものとして、<1>物忘れ症状、<2>新しいことの学習障害、<3>飽きっぽい、<4>集中力が低下していて気が散りやすい、<5>計画的な行動を遂行する能力の障害、<6>行動が緩慢、手の動きが不器用、<7>複数の作業を並行処理する能力の障害、<8>自発性や発動性の低下があり、指示や声掛けが必要、<9>社会適応の障害により、友達付き合いが困難という状況が認められた。
(ウ) 精神障害・性格障害のうち、中等度のものとして、<1>感情の起伏や変動が激しく、気分が変わりやすい、<2>服装、おしゃれに無関心あるいは不適切な選択、<3>睡眠障害、寝付きが悪い、すぐに目が覚めるという状況が認められた。
(エ) 精神障害・性格障害のうち、軽度のものとして、<1>粘着性、しつこい、こだわり、<2>発想が幼児的で自己中心的、<3>妄想・幻覚という状況が認められた。
(オ) 全般的な精神活動の低下により、日常生活は夫(原告X2)が全介助、誘導している。
カ D医師診断による平成一四年一二月二七日当時の原告X1の状況は以下のとおりである。
(ア) ブルンストロームステージ右上肢ⅡないしⅢ、右手指ⅠからⅡ、右下肢ⅡからⅢとの評価であり、右上下肢の他動的関節運動で痛みを訴える状態である。
(イ) 精神機能としては、年月日の認識がなく、その日の朝食の内容を言えない、昼食はまだ食べていないにもかかわらず、「お粥」と言う状況である。精神活動が著しく低下し、本人からの発語はほとんどないが、頭痛を毎日訴える。死んでしまっている人に「会った」というような言動がある。
(ウ) 基本動作能力のうち、<1>寝返り、<2>起き上がり、<3>立ち上がり、<4>歩行はすべて不能で、<5>足を投げ出して座るのは困難ですぐに右側に倒れ、<6>端座位は数秒で右側に倒れ、<7>立位保持は両脚でかつ手すりを把持して五秒間だけ可能、<8>車椅子座位は長時間可能だがお尻を動かすことは困難な状態である。
(エ) 日常生活動作能力は、<1>入浴は全介助、<2>移動・外出も車椅子で全介助であり、<3>食事は左手でスプーンを用い見守りで可能、<4>排尿はほとんど間に合わずおむつを常時使用し、排便は便意を表すことはできるので、全介助でトイレに連れていき間に合うこともあり、<5>夫以外とは会話を交わすことはないという状態である。
(二) 原告X1の争いのない後遺障害は、右半身不随・知覚鈍麻、体幹機能障害、構音障害、抑うつ状態であるが(前記第二の一3(三))、右半身不随(右片麻痺)・知覚鈍麻の程度は、前記(一)記載のとおり、府中病院入院中である平成一二年六月二六日から症状固定後である平成一四年一二月二七日までの間に、運動麻痺の程度を示すブルンストロームステージの数値がⅣないしⅤからⅠないしⅢへと悪化し(前記(一)ア(ア)・イ(ア)・ウ(ア)・エ(ア)・カ(ア))、右握力が四kgから〇kgとなり(前記(一)ア(オ)・イ(オ)・ウ(エ))、日常生活動作のうち自立しているものがほとんどなくなり、全介助を要する動作が増加してきている等(前記(一)ア(カ)ないし(ク)・イ(カ)ないし(ク)・ウ(オ)(カ)・カ(ウ)(エ))次第に悪化してきていることが認められる。
この悪化の原因としては、府中病院退院後は原告X1が積極的なリハビリ治療を行っていなかったこと等による廃用性の要素が強いことが窺われるが(乙六)、府中病院入院中からリハビリ治療の進行の程度が緩慢であったことは前記2(一)エのとおりであり、原告X1が積極的なリハビリ治療を行えなかったのは、後記(三)において述べる本件事故による高次脳機能障害に起因するものと考えられるので、当然本件事故との相当因果関係を認めることができる。
(三) なお、原告X1は、前記2(一)ア記載のとおり、本件事故発生直後救急車にて府中病院に搬送され、頭部CT検査により外傷性くも膜下出血と急性硬膜下血腫が認められ、意識レベルは当初JCSⅠ―一であり麻痺も認められなかったが、入院後約一時間三〇分経過してから意識レベルがJCSⅢ―二〇〇まで悪化して右瞳孔も散大し、頭部CT検査により硬膜下血腫の増大が認められたために緊急で開頭血腫除去手術が施行されたものであって、本件事故により原告X1が受けた脳損傷の程度は高度なものであった。また、手術後の府中病院にて実施された頭部CT検査によれば脳室が徐々に拡大し、脳萎縮が進行していく様子も認められた(甲五の一、乙六)。以上のような脳内の高度の器質的変化自体から、原告X1には高次脳機能障害が残存している可能性が示唆される上(乙六)、前記(一)記載のとおり原告X1には、<1>失見当識(前記(一)カ(イ))、<2>記憶・記銘力障害(前記(一)オ(イ)<1>・カ(イ))、<3>意思の疎通困難(前記(一)カ(エ)<5>)、<4>構音障害(前記(一)イ(イ)・エ(ウ))、<5>計画性の欠如(前記(一)オ(イ)<5>)、<6>学習能力の低下(前記(一)オ(イ)<2>)、<7>並行処理能力の低下(前記(一)オ(イ)<7>)、<8>感情の易変化(前記オ(ウ)<1>)、<9>自己中心的(前記オ(ウ)<2>)、<10>抑うつ状態(前記(一)エ(オ)、<11>自閉的傾向(前記(一)カ(イ))、<12>飽きっぽさ(前記(一)オ(イ)<3>)等の高次脳機能障害の特徴的な症状が見られるのであって(乙六)、原告X1には本件事故により後遺障害として、前記第二の一3(三)記載の右半身不随(右片麻痺)・知覚鈍麻、体幹機能障害、構音障害、抑うつ状態のほかに、高次脳機能障害の残存も認められる。
(四) 以上(一)ないし(三)において検討してきたところによれば、原告X1には本件事故により右半身不随(右片麻痺)・知覚鈍麻、体幹機能障害、構音障害、抑うつ状態、高次脳機能障害の後遺障害が残存し、さらにこれらが進行する状況にあるため、現状においては、日常生活において自立しているものはほとんどなく、移動・更衣・入浴には介助が必要であり、食事は左手でスプーンを用い自力で摂取することはできるが見守りが必要であり、排泄も身体機能的に排尿・排便機能障害が残存しているわけではないものの、介助が必要な状態であることが認められる。その他、自力で可能なわずかな動作についても高次脳機能障害及び高度痴呆(前記(一)オ(ア))のために、すべて他人による声掛け又は指示が必要であり、加えて睡眠障害(前記(一)オ(ウ)<3>)から生じる昼夜逆転現象により夜間にも介護が必要な状態となる場合もあることが認められる。
そうすると、原告X1の食事、排便、入浴その他一切の日常生活について、夫である原告X2が常時付添介護をする必要があり、その負担の程度も重いものというべきである。
(五) 被告らは、A医師作成の平成一二年六月二六日付け身体障害者診断書・意見書の記載(前記(一)ア)及び原告X1の府中病院入院中の状況等を引用して、原告X1の介護は随時介護で足りるとするが、前記(一)、(二)で検討したとおり、原告X1の状況は府中病院退院後からさらに悪化して現在の状態に至っているのであるから、現状を前提としない被告らの前記主張は採用できない。
また、被告らは、原告X1の介護は見守りに主眼がおかれた軽度なものであり負担が軽いとも主張するが、原告X1は、前記(一)カ(ウ)記載のとおり、<1>寝返り、<2>起き上がり、<3>立ち上がり、<4>歩行はすべて不能で、<5>足を投げ出して座るのは困難ですぐに右側に倒れ、<6>端座位は数秒で右側に倒れ、<7>立位保持は両脚でかつ手すりを把持して五秒間だけ可能、<8>車椅子座位は長時間可能だがお尻を動かすことは困難な状態にあり、昼夜逆転現象により夜間にも介護が必要な状態となる場合もあることからすれば、その介護の負担の程度は前述のとおり重いものと評価すべきであって、かかる被告らの主張も採用できない。
以上検討してきたとおり、原告X1には常時介護が必要であり、その負担の程度も重いことに加え、介護に当たる原告X2は老齢(六九歳)であり、高血圧症の持病もあること(前記2(一)オ)からすれば、退院後の付添介護費は一日当たり八〇〇〇円として算定するのが相当である。
そして、原告X1は、症状固定当時六六歳であり、平成一二年簡易生命表によれば六六歳の女性の平均余命は二一・五七年なので、症状固定時から二一年間に渡って付添介護が必要なものとして、下記計算式により年五%のライプニッツ方式により中間利息を控除して退院後の付添介護費を算定すると三七四三万七六一二円となる。
【計算式】
8000円×365日×12.8211(21年ライプニッツ係数)=3743万7612円
6 家屋改造費 七七三万九五〇〇円
(一) 証拠(甲六、一六の一ないし一九、二二ないし三二、三七の二)及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。
ア 原告らの居宅は、平成五年一月二六日新築の木造二階建ての二世帯住宅であり、原告らの居住スペースは一階部分であり、ダイニングキッチンと八畳及び六畳の和室が二部屋あった。
イ 原告X1の後遺障害に応じて、原告ら居宅に対してなされた改造工事の概要は以下のとおりである。
(ア) 車椅子による出入りが可能なように、居宅東側の車庫の面した窓部分にリフトを設置し、同窓部分に電動シャッターを取り付けた(甲一六の一六ないし一八、三〇の二丁目の〔六サッシュ工事〕〔一二リフト工事〕、同一〇丁目の〔六サッシュ工事〕、同一六丁目の〔一二リフト工事〕参照)。
(イ) 室内での車椅子による移動を可能にするために、居宅東側の八畳の和室を原告X1専用の居室とする前提で、同居室を車椅子対応のフローリング貼りとし、ダイニングキッチン、洗面所、トイレの床も段差の解消も兼ねて同様のフローリング貼りとし、その他、車椅子による動線を確保するために入口を引き戸にしたり、レイアウトの変更等を行った(甲一六の三ないし九、三〇の二丁目の〔三木工造作工事〕〔四木製建具工事〕、同五・六丁目の〔三木工造作工事〕、同七丁目の〔四木製建具工事〕参照)。
(ウ) 車椅子対応に洗面所、トイレを改造し、手摺りを設置した(甲一六の一二、二五、二六、三〇の二丁目の〔一三設備機器・手摺工事〕、同一七丁目の〔一三設備機器・手摺工事〕参照)。
(エ) 車椅子対応のシステムキッチンを備え付け、手摺りを設置する等して台所を改造した(甲一六の一〇、三〇の二丁目の〔一〇システムキッチン工事〕、同一四丁目の〔一〇システムキッチン工事〕参照)。
(オ) 車椅子使用者の便宜及び安全性確保のために原告X1の居室とダイニングキッチンに床暖房設備を設置した(甲二七、二八、三〇の二丁目の〔五床暖房工事〕、同八丁目の〔五床暖房工事〕参照)。
(カ) 前記(ア)ないし(オ)の改造に必要な範囲で、仮設工事、解体工事、塗装工事、内装仕上工事、給・排水・衛生設備工事、電気・空調・換気設備工事を行った(甲二九、三〇)。
ウ ガーデンデッキ工事及び完全なバリアフリーによる浴室改造工事も検討されたものの実施されなかった。
エ 原告X1は、前記イの改造工事を行うために七九一万九五〇〇円を支払った。
オ 原告X1は、介護保険法による居宅介護住宅改修費として府中市より一八万円を受給した。
(二) 原告X1が、本件事故による後遺障害により、起居や移動にはすべて介助を要し、室内・室外の移動にはすべて車椅子を使用しなければならない状況にあることは、前記5において認定したとおりであって、かかる状況を前提にすれば前記イ(ア)ないし(ウ)の各改造工事と本件事故との相当因果関係は当然認められる。そして、前記イ(オ)の床暖房設備についても、原告X1の高次脳機能障害、高度痴呆の後遺障害からすれば、安全性の観点から本件事故との相当因果関係を認め得る。また、前記イ(エ)の台所の改造工事については、前記5において認定した原告X1の状況を前提とすれば、原告X1自身が家事労働を行うのはおよそ不可能であるので結果的には不要な工事であったとも思われるが、同工事は原告X1が府中病院を退院するころになされたものであって、原告X1の状況は前記5認定のとおり同病院退院後に悪化していったものなので、原告X1の回復を期待してかかる工事を為したことにはやむを得ない事情が認められること、前記5認定の原告X1の状況及び介護に当たる原告X2の状況からすれば完全なバリアフリーによる浴室改造工事が望ましいものと考えられるところ、同工事は実施されていないこと(前記(一)ウ)等の事情を勘案した結果、台所の改造工事にかかった費用も本件事故と相当因果関係を有すると認められる。
したがって、原告X1が支払った家屋改造費七九一万九五〇〇円は全額本件事故と相当因果関係を有する損害というべきである。
(三) なお、被告らは、家屋改造により家族の生活利便性が向上した分は損害から差し引いて考慮すべきである旨主張する。
この点、バリアフリーとなり床暖房設備が設置されたことからすれば、原告X2にとっても生活利便性は若干向上した面が存することは否定できないが、前記(一)ア、イのとおり、原告らの居宅はもともと平成五年一月二六日新築の建物で生活スペースは一階部分に限定されていたものであり、従前はダイニングキッチンと八畳及び六畳の和室二部屋が原告ら二人の共用スペースであったところ、改造によって八畳の和室が原告X1一人の専有スペースとなってしまったこと等からも明らかなように、むしろ不便となった面のほうが多いものと考えられるので、被告らのかかる主張は採用できない。
ただし、原告X1が、介護保険法による居宅介護住宅改修費として受給した一八万円(前記(一)オ)については、介護保険法二一条一項、四〇条四号、四五条一項により、府中市が被告らに対する求償権を取得するので、原告X1が被告らに対して請求し得る家屋改造費は、七九一万九五〇〇円から一八万円を控除した七七三万九五〇〇円と認められる。
7 将来の雑費 六二万三一〇五円
将来の雑費が六二万三一〇五円であることについては、当事者間に争いがない。
【計算式】
4050円(福祉機器レンタル代月額)×12か月×12.8211(21年ライプニッツ係数)=62万3105円
8 休業損害 一七〇万五二六三円
原告X1は、本件事故当時六五歳であり、原告X2と二人で生活していたことに鑑みれば、休業損害算定の基礎収入としては、賃金センサス平成一二年第一巻第一表産業計・企業規模計・女性労働者学歴計六五歳以上の平均年収額である二八六万八三〇〇円を採用すべきである。したがって、本件事故日から症状固定日までの二一七日間の休業損害を下記計算式により算定すると一七〇万五二六三円となる。
【計算式】
286万8300円÷365日×217日=170万5263円
9 後遺障害逸失利益 二二一四万八一五二円
原告X1は、本件事故による後遺障害によりその労働能力を一〇〇%喪失したものであるところ、その後遺障害逸失利益は、前記8と同様、賃金センサス平成一二年第一巻第一表産業計・企業規模計・女性労働者学歴計六五歳以上の平均年収額である二八六万八三〇〇円を基礎収入とし、本件事故に遭わなければ症状固定時(六六歳)から平均余命二一・五七年(平成一二年簡易生命表六六歳女性)の約二分の一である一〇年間は稼働できたものとして、下記計算式により年五%のライプニッツ方式により中間利息を控除して計算すると二二一四万八一五二円となる。
【計算式】
286万8300円×1.0×7.7217(10年ライプニッツ係数)=2214万8152円となる。
10 入通院慰謝料 二五六万四六六七円
入通院慰謝料が二五六万四六六七円であることについては、当事者間に争いがない。
11 後遺障害慰謝料 二九〇〇万〇〇〇〇円
ア 後遺障害等級一級三号認定分 二八〇〇万〇〇〇〇円
自算会により後遺障害等級一級三号と認定された原告X1の後遺障害(前記第二の一4)に関する慰謝料が二八〇〇万円であることについては、当事者間に争いがない。
イ 顔面醜状障害分 一〇〇万〇〇〇〇円
証拠(甲一五、一七の一ないし一〇)及び弁論の全趣旨によれば、原告X1には、本件事故による傷害のための治療として開頭血腫除去手術(前記2(一)ア)及び頭蓋形成術(前記2(一)ウ)が施行された結果、右額部に長さ約一三cmの窪んだ線状痕及び左額部に長さ約三cmの線状痕が残存していることが認められる。この醜状の状況及び前記アの慰謝料額等を勘案した結果、前記アの慰謝料のほかに顔面醜状の慰謝料として一〇〇万円を認めるのが相当と考える。
12 弁護士費用 六八〇万〇〇〇〇円
本件事案の内容、本件訴訟の審理経過、後記16の認容額等を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、六八〇万円が相当である。
13 前記1ないし12の小計 一億〇九〇二万四八五九円
14 前記13の金額から自賠責保険金以外の既払金を控除した残額 一億〇四二九万三四二九円
前記13の金額(一億〇九〇二万四八五九円)から被告らから填補された四七三万一四三〇円(前記第二の一5(一))を控除すると一億〇四二九万三四二九円となる。
15 自賠責保険金支払日までの遅延損害金 一二二八万六六二三円
前記14の一億〇四二九万三四二九円に対する本件事故発生日である平成一二年三月二四日から原告X1に対し自賠責保険金二九〇六万円が支払われた日である平成一四年七月三一日までの間の(八六〇日間)、年五分の割合による遅延損害金は一二二八万六六二三円となる。
16 自賠責保険金填補後の残額(原告X1分認容額) 八七五二万〇〇五二円
自賠責保険金二九〇六万円をまず前記15の遅延損害金一二二八万六六二三円に充当し、その残金一六七七万三三七七円を前記14の一億〇四二九万三四二九円に充当すると八七五二万〇〇五二円となる(なお、自賠責保険金につき本件と同様の充当計算をしたものとして東京地裁平成一二年四月二〇日判決〔判例タイムズ一〇三号八五頁〕参照)。
三 争点3(原告X2の損害額)について
1 近親者慰謝料 一〇〇万〇〇〇〇円
原告X1は本件事故により後遺障害等級一級三号の後遺障害を負い、夫である原告X2が今後その介護をし続けていかねばならなくなったこと等を考慮すると、原告X2の固有の慰謝料として、一〇〇万円を相当と認める。
2 弁護士費用 一〇万〇〇〇〇円
本件事案の内容、本件訴訟の審理経過、本件の認容額等を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、一〇万円が相当である。
3 合計 一一〇万〇〇〇〇円
第四結論
以上の次第で、原告X1の被告らに対する請求は、各自、八七五二万〇〇五二円及びこれに対する本件事故発生日の後であり自賠責保険金支払日の翌日である平成一四年八月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、原告X2の被告らに対する請求は、各自、一一〇万円及びこれに対する本件事故発生の日である平成一二年三月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 来司直美)