東京地方裁判所 平成14年(刑わ)878号 判決 2002年11月19日
主文
被告人を懲役八年及び罰金三〇万円に処する。
未決勾留日数中二二〇日をその懲役刑に算入する。
その罰金を完納することができないときは、金五〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
押収してある覚せい剤五袋(平成一四年押第九九七号の一ないし四及び六)、覚せい剤一本(同押号の七)及び大麻葉片一袋(同押号の五)を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、
第一 指定暴力団B野会C山一家A野会B山興業構成員であったものであるが、みかじめ料名下に金員を喝取しようと企て、平成一三年三月一二日午後五時三〇分ころ、東京都港区《番地省略》所在のC川地下一階レストラン「D原」出入口前踊り場において、同店経営者のB(当時三五歳)に対し、「B野会C山一家A野会B山興業総責任者A」などと印刷された名刺を差し出しながら、「ここら辺のシマの者です。」「この店だったら月に六万、盆暮れに餅代として四万ぐらいですかね。」「商店街の連中も安心して働くためにそれを付き合ってもらってるんですよ。」「いざこざがあったり何かしたら、すぐ電話くれりゃあ、うちの組が飛んできて解決してあげますから。」「付き合って欲しいのですけど。」などと申し向けて金員の交付を要求し、その要求に応じなければ、被告人の所属する暴力団の関係者が前記レストランの営業に妨害を加えかねないことを暗示し、前記Bをしてその旨畏怖させ、金員を喝取しようとしたが、同人が警察官に届け出たため、その目的を遂げなかった
第二 法定の除外事由がないのに、同年六月二二日ころ、同区《番地省略》所在のD川パーク地下二階駐車場に駐車中の普通乗用自動車内において、Cに対し、自動装填式けん銃一丁及びけん銃実包数発を代金六〇万円で譲り渡した
第三 D子と共謀の上、法定の除外事由がないのに、平成一四年一月八日ころ、同区《番地省略》所在のA田アパート管理人室において、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンの塩類若干量を含有する水溶液を被告人が同女の身体に注射し、もって覚せい剤を使用した
第四 法定の除外事由がないのに、同日ころ、横浜市中区《番地省略》先所在の月極駐車場内に駐車中の普通乗用自動車内において、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンの塩類若干量を含有する水溶液を自己の身体に注射し、もって覚せい剤を使用した
第五 みだりに、同月九日、前記A田アパート駐車場内に駐車中の普通乗用自動車内において、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩約二・六九九グラム(平成一四年押第九九七号の一及び二はその鑑定残量)を所持した
第六 同日、前記A田アパート管理人室において、みだりに、営利の目的で覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩約一六・二〇一グラム(同押号の三及び四はその鑑定残量)を所持するとともに、みだりに、大麻約四二・一グラム(同押号の五はその鑑定残量)及び覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩約〇・三〇五グラム(同押号の六及び七はその鑑定残量)を所持した。
(証拠の標目)《省略》
(判示第一の事実認定に関する補足説明)
一 弁護人は、平成一四年三月一九日付け追起訴に係る公訴事実(ただし、第四回公判期日において訴因変更後のもの)について、被告人が同事実記載の日時・場所においてBと会ったことは認めつつ、その際に被告人が述べたとされている文言や、被告人がBに名刺を差し出した経緯等を争うとともに、被告人は単にみかじめ料を任意で支払ってもらえないかとBに依頼しただけであるから、いわゆる暴力団対策法の規制対象となるかはともかく、恐喝罪の構成要件に該当しないし、被告人には恐喝の故意もなかったから、無罪である旨主張し、被告人も公判廷でこれに沿う供述をするので、判示第一のとおり恐喝未遂罪の成立を認定した理由を補足して説明する。
二(1) 証人Bは、被告人から恐喝未遂の被害を受けた状況等について、大要次のとおり供述する。
私は、平成一三年三月六日にレストラン「D原」を開店した。同月一二日午後五時三〇分ころ、同店の準備中に被告人が同店を訪れたので、店の入口ドアの外で応対したが、その雰囲気や、人をにらむような見つきから、被告人はやくざだと思った。
被告人から「この店はいつオープンしましたか。」と聞かれたので、私は「一週間ぐらい前にオープンしました。」と答えた。その後、被告人は「けつ持ちはいますか。」と言ったが、私にはその意味が分からず聞き返すと、被告人は暴力団の組の名前を挙げながら「ほかにヤクザは来ましたか。」と尋ねたので、私はまだ来ていない旨返答した。すると被告人は、「B野会C山一家A野会B山興業総責任者A」と印刷された名刺を差し出したが、その際、多分、被告人からは会の名前と、ここら辺のシマの者だということを聞いたと思う。私は、その名刺を見て、やっぱりやくざが来たなと思った。被告人は、みかじめ料として、「この店だったら月に六万、盆暮れに餅代として四万ぐらいですかね。」と説明したので、みかじめ料を払えということだと思った。もっとも、具体的な金額は私の方から聞いたかもしれない。被告人は、「商店街の連中も安心して働くためにそれを付き合ってもらってるんですよ。」(Bは、この時、被告人は「別に脅してるわけじゃないですけど。」と言ったかもしれない旨供述する。)と言い、「付き合って欲しいのですけど。」といった感じのことも言ったので、私は、被告人が金をくれと言っているものと理解した。被告人は「いざこざがあったり何かしたら、すぐ電話くれりゃあ、うちの組が飛んできて解決してあげますから。」とも言ったので、私は、被告人にみかじめ料を払えばそういう解決をしてもらえると受け取った。他方、被告人は、みかじめ料を払わなければどうなるかということについては全く言及していなかったが、被告人がやくざと分かったし、被告人の言い方に加え、かねがねテレビや映画で、やくざが店で暴れたり、集団で店を荒らしたりする場面を見ていたこともあり、被告人が帰った後のことではあるが、みかじめ料を払わないと、そのようなことをされるのではないかと思った。被告人の話し声は、少し大きめであったものの、殊更に脅し等で大声を出しているという感じではなく、話し方も「商店街の連中」などという雑な言葉遣いが時折見受けられたが、語尾は丁寧であった。私の方も、被告人が怖かったので、怒らせないように丁寧な態度をとった。被告人から連絡先の話が出たので、二人で店の中に入って、被告人が差し出した名刺に電話番号を書いてもらったが、私がそのように頼んだ覚えはなく、被告人から先ほど渡した名刺に書くと言われたのかもしれない。私は、みかじめ料は払いたくなかったが、断って、被告人の組の者が集団で来て暴れられたり、閉店後に店を壊されたりするのが嫌だったので、「オープンしたばっかりで売上も全然ないし、払えるか分からないですけど頑張りますからよろしくお願いします。」などと言い繕ったものの、みかじめ料を支払うとは言わなかった。すると、被告人は、「二五日に集金しに来ますので、よろしくお願いします。」などと言って帰って行った。
その後、知人の飲食店経営者らに相談したところ、みかじめ料を払っている者はなく、すぐ警察に届けるよう勧められたので、同月一六日に被害届を出した。自分たちでは解決できないことであったので、警察に届け出ることに迷いはなかったと思う。多分、同月二五日と思うが、被告人から「これから伺いたいのですけれども。」などと集金に行く旨の電話があったので、私は、既に警察に届け出ており、何か起きればまた通報すればいいと思い、みかじめ料の支払を断ったところ、被告人は、「ああ、そうですか。結構ですよ。」などと答えて電話を切った。その際、被告人側に、私が警察署に被害届を出していることが伝わっている様子はなかったが、その後特に被告人からみかじめ料の要求はなかった。
(2) Bの上記供述は、詳細かつ具体的で、特段不自然、不合理な点は見当たらない。また、Bは、被告人には雑な言葉遣いも見られたものの、語尾は丁寧であったと供述するなど、事実を誇張することなく、記憶に従って供述しようとする姿勢が看取でき、このような供述態度からしてもBが殊更虚偽を述べているとは考えられない。そうすると、Bの前記供述は信用性が高いと解される。
三(1) これに対し、被告人は、公判廷において、Bが供述するのと同様な言動に及んだことを概ね認めながらも、Bの方から「実は私もお伺いしようと思ったんですよ。」と言われたので「それはちょうどよかった。じゃあ、何かあったときには連絡先はここですから。」ということで名刺を渡し、別れ際にBから連絡先を尋ねられたので、その名刺に電話番号を書いただけであり、「周りのゲーム屋さんにもお付き合いいただいている。」というようなことは言ったものの、「近辺の人達が安心して働ける。」などとまでは言っていないと思うし、名刺を渡されたBが怖がるとは全然思わなかったなどと供述する。
(2) しかし、レストラン経営者であるBが、自分の方から積極的に面識もない暴力団のもとを訪ねるなどということは、社会通念上考えがたい上、Bが、四日後に被害届を警察に出していることに照らしても、同人がそのような意思を有していなかったことは明らかであって、Bから進んで連絡先を尋ねてきたなどというのは不自然である。また、「近辺の人達が安心して働ける。」などとまでは言っていないとする点についても、被告人は、そのような発言をしたことを明確に否定しながら(第三回公判の被告人供述調書の反訳書二頁)、他方で、検察官から、商店街の人もみんな安心して仕事ができるように付き合ってもらっている旨述べていないかと質問されたのに対し、「同じような内容であり、そんなに違ってないと思うが、ニュアンスがちょっと違う。」(同反訳書一四頁)と曖昧に答えるなど、一貫していない。このようにBとのやり取り等に関する被告人の公判供述は、不自然で、全体として信用性が低い。
四(1) そこで、Bの供述により認められる事実を前提に検討すると、被告人がBに対し「B野会C山一家A野会B山興業総責任者A」と太字で印刷された名刺(甲八四に添付のもの)を差し出した上、自己が暴力団幹部であることを明らかにしながら、みかじめ料の支払いを求め、その際、「商店街の連中も安心して働くために付き合っている。」とか「いざこざがあったり何かしたら、うちの組が飛んできて解決してやる。」などと申し向けることは、周辺の他の店が、みかじめ料を支払って被告人の属する暴力団の庇護下で経営を行っていることを知らせるとともに、Bにおいて、被告人にみかじめ料を払わなければ、同暴力団の関係者がBの店の営業に妨害を加えかねないことを暗示するものであって、このような被告人の言動は、口調こそ丁寧であるものの、暴力団関係者がBの店の営業を妨害する旨の害悪の告知にほかならず、恐喝行為の内容たる脅迫に当たると言うべきである(弁護人は、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律における、みかじめ料の要求行為に対する規制との関係を云々するが、同法においてみかじめ料の要求行為が規制されていることをもって、本件のような態様によるみかじめ料の要求行為までもが、恐喝罪の構成要件該当性を免れる根拠となるものでないことは明らかである。)。
(2) また、こうした事実を前提とすれば、被告人の捜査段階における「私は暴力団員であるから、これまでの稼業生活から暴力団員が暴力団の看板を出して、名刺を差し出し、堅気の人間に金を要求すれば、暴力団から殴る蹴るの暴行を受けたり、店の営業中に嫌がらせをされたりして、びびってしまい、非常に怖い思いをすることは分かっており、恐喝になることも分かっていた。」「Bは、私の脅しに比較的淡々としていた印象があるが、堅気の人間なので内心は相当びびっていたと思う。」旨の供述(乙二七、二八)は、極めて自然であって、信用することができ、これによれば、被告人が恐喝の故意を有していたことも明らかである(なお、被告人は、後日Bからみかじめ料の支払を断られた時にあっさりと引き下がり、その後は何ら要求をしていないが、この点については、Bの態度等からこれ以上執拗に要求すれば、警察に通報される可能性もあると判断し、そのような対応をしたものと考えるのが合理的であり、被告人がBに対する恐喝の故意を有していたとの前記認定を左右するものではない。)。
五 以上によれば、恐喝の故意等を否認する被告人の公判供述は信用できず、他方、Bの供述、被告人の捜査段階の供述その他関係各証拠を総合すれば、判示第一のとおり、恐喝未遂罪の成立を認めることができる。
(累犯前科)
被告人は、平成三年一〇月二日千葉地方裁判所で覚せい剤取締法違反、大麻取締法違反、麻薬及び向精神薬取締法違反、火薬類取締法違反、銃砲刀剣類所持等取締法違反の罪により懲役八年及び罰金一五〇万円に処せられ、平成一二年七月一六日その懲役刑の執行を受け終わったものであって、この事実は検察事務官作成の前科調書によって認める。
(法令の適用)
被告人の判示第一の所為は刑法二五〇条、二四九条一項に、判示第二の所為のうち、けん銃譲渡の点は銃砲刀剣類所持等取締法三一条の四第一項、三条の七に、けん銃実包譲渡の点は同法三一条の九第一項、三条の九に、判示第三及び第四の各所為はいずれも覚せい剤取締法四一条の三第一項一号、一九条(第三については更に刑法六〇条)に、判示第五の所為は覚せい剤取締法四一条の二第一項に、判示第六の所為のうち覚せい剤所持の点は包括して同法四一条の二第二項、一項に、大麻所持の点は大麻取締法二四条の二第一項にそれぞれ該当するところ、判示第二及び判示第六はそれぞれ一個の行為が二個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条によりいずれも一罪として、判示第二については重いけん銃譲渡罪の刑で、判示第六については覚せい剤営利目的所持罪の刑でそれぞれ処断することとし、判示第六の罪について情状により所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し、前記の前科があるので同法五六条一項、五七条により判示第一ないし第五の各罪の刑及び判示第六の罪の懲役刑にそれぞれ再犯の加重(判示第六の罪については同法一四条の制限に従う。)をし、以上は同法四五条前段の併合罪であるから(判示第五の覚せい剤所持と判示第六の覚せい剤及び大麻の各所持は、同一日の犯行で場所も近接しているが、保管態様の違い等に照らせば、併合罪の関係に立つと解すべきである。)、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い判示第二の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をし、罰金刑については同法四八条一項によりこれを併科することとし、その刑期及び所定金額の範囲内で被告人を懲役八年及び罰金三〇万円に処し、同法二一条を適用して末決勾留日数中二二〇日をその懲役刑に算入し、その罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、押収してある覚せい剤二袋(平成一四年押第九九七号の一、二)は判示第五の罪に係る覚せい剤、同覚せい剤三袋(同押号の三、四、六)及び覚せい剤一本(同押号の七)は判示第六の罪に係る覚せい剤、同大麻葉片一袋(同押号の五)は判示第六の罪に係る大麻で、いずれも被告人の所有するものであるから、覚せい剤については覚せい剤取締役法四一条の八第一項本文、大麻については大麻取締法二四条の五第一項本文によりこれらを没収し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
一 本件は、みかじめ料名下に金員を喝取しようとしたが、その目的を遂げなかったという恐喝未遂(判示第一)、けん銃及び実包の譲渡(判示第二)、覚せい剤の内妻との共同使用(判示第三)及び自己使用(判示第四)、非営利目的での覚せい剤所持(判示第五)、営利目的及び非営利目的での覚せい剤所持並びに非営利目的での大麻所持(判示第六)の事案である。
(1) このうち恐喝未遂については、当時、暴力団幹部であった被告人が、所属暴力団の資金源としてみかじめ料を得ようと考えて行ったものであり、その動機は暴力団特有の論理に基づく身勝手なものである。
そして、犯行態様は、暴力団幹部の肩書きが印刷された名刺を差し出し、殊更に暴力団幹部であることを強調した上、他の店の者も安心して働くために払っているとか、いざこざがあれば、直ちに暴力団関係者が駆けつけて解決してやるなどと申し向けて、みかじめ料を払わなければ、暴力団関係者によって店の営業が妨害される事態になり得る旨を暗示し、被害者の恐怖心を煽っており、狡猾である。
被害者は、レストラン開店後、一週間足らずで、この被害に遭ったものであり、同人の受けた不安感、恐怖感等による精神的苦痛は軽視できないが、被告人は、被害者に対し、何ら慰藉の措置を講じていない。
(2) また、けん銃及び実包の譲渡については、被告人が、暴力団仲間(C)からこれらの入手を依頼されたことから、自ら弾倉に実包を込めるなど、直ちに発射できる状態で自動装填式けん銃一丁や実包数発を譲渡したものであり、極めて危険かつ悪質な犯行である。
被告人の譲渡したけん銃は、その日のうちに別の暴力団組員によって敢行された殺人未遂事件で凶器として使用されているところ、被告人は、この点につき、公判廷で、当時は同けん銃が実際に使用されるとは考えもしなかったなどと弁解している。しかし、上記暴力団仲間は、当初からサイレンサー付きのけん銃の入手方を被告に依頼していた上、サイレンサー付きのものがなければペットボトルや空き缶をけん銃の先にはめれば消音効果があるなどと、上記暴力団仲間らに話していたこと、上記暴力団仲間はけん銃入手をかなり急いでおり、何度も被告人に催促したこと、被告人はけん銃等の譲渡の際にその扱い方を教示していることなどの事実に照らせば、被告人の上記弁解は信用できず、被告人が、前記殺人未遂に終わった計画の具体的な内容までは知らなかったとしても、自己の譲渡するけん銃が近く使用される可能性が高いことは十分に認識していながら、これらを譲渡したものと認められ、かかる行為は強い非難に値する。
(3) さらに、薬物事犯についても、まず、覚せい剤の営利目的所持については、被告人は、平成一三年夏ころから、一度に四〇ないし五〇グラムという大量の覚せい剤を他の暴力団組員から仕入れて、一部を内妻と共に使用する一方、金欲しさから数回にわたり暴力団関係者に密売していたところ、本件の覚せい剤営利目的所持もその一環としてなされたものであって、経緯に酌量の余地はない。同所持に係る覚せい剤の量は一六グラム余りと多く、一般社会への害悪拡散の危険性は相当に高いのであって、犯情は悪質である。また、自己使用等の非営利目的で所持していた覚せい剤(約三・〇〇四グラム)及び大麻(約四二・一グラム)は、いずれも少量とは言えないし、さらに、覚せい剤の自己使用及び内妻との共同使用については、被告人は、約二五年前に覚せい剤に手を染め、これまでに覚せい剤取締法違反の罪等で四回服役しているところ、前刑出所後間もなく覚せい剤使用を再開し、ほぼ毎日のように内妻と共に使用していたことなどに照らせば、被告人の覚せい剤に対する親和性及び依存性は顕著であり、いずれも犯情は芳しくない。
二 加えて、被告人には累犯前科を含め前科が五犯あるところ、長期間の服役を満期で終えて出所した後、わずか二年足らずの間に、次々と本件各犯行に及んでいるのであるから、その規範意識は極めて希薄であると言わざるを得ない。
以上によれば、被告人の刑事責任は重い。
三 他方で、被告人が判示第二ないし第六の各犯行については事実を素直に認めて反省の態度を示していること、所属していた暴力団から既に破門されており、被告人自身も社会復帰後はこれまでの生活を改めた上、定職に就いて真面目に働く旨誓っていること、内妻との間に生まれた幼い娘がおり、同女は被告人の帰りを待ち望んでいることなど酌むべき事情も認められる。
そこで、これら諸事情を総合考慮すれば、主文の量刑が相当である。
(求刑―懲役一〇年及び罰金三〇万円、覚せい剤及び大麻の没収)
(裁判長裁判官 松田俊哉 裁判官 野原俊郎 鈴木わかな)