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東京地方裁判所 平成14年(特わ)6119号 判決 2003年3月24日

主文

被告人を懲役1年に処する。

この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。

(認定した事実)

第1犯行に至る経緯

1 被告人は,東京都千代田区a町b丁目c番地dビルに本店を置き,カードシステム機器の開発,製造,仕入,販売及び保守業務並びにプリペイドカードの製作及びその発行業務等を目的とするC株式会社(以下「C社」という。)の代表取締役である。

Aは,特殊法人である日本中央競馬会の職員であったもので,昭和56年2月16日から平成3年9月15日までの間,同会本部総合企画室調査役として,同室長の指揮を受け,同会の経営に関する総合計画並びに各室部,附属機関及び競馬場の業務の総合調整に関する事務等を処理し,平成10年2月16日から平成12年9月15日までの間,同会京都競馬場場長として,同会理事長の命を受け,競馬場の管理,ファンサービス並びに収入及び支出に関すること等同競馬場の場務を掌理していたものである。

2 被告人は,かねてからAに対し,C社が製作するプリペイドカードを日本中央競馬会において利用してほしい旨要望してそのための尽力を依頼していた。日本中央競馬会は,平成元年8月,総合企画室長を座長として1枠1頭制(馬番)連勝複式勝馬投票法の併用発売方式の導入に向けてその推進に関するプロジェクトチームを設置し,関係部署を集めて意見を聞き,その相互調整を図って意見をとりまとめて役員会に報告させることとした。同プロジェクトチーム内には全体会議と5つの分科会が設置され,Aは,総合企画室長から同プロジェクトチーム内のオッズ表示関係機器改造分科会等の担当者に指名され,同投票法の併用発売方式の導入に伴うオッズ表示の方法や客に対するオッズサービス等につき,関係部署と検討の上意見をとりまとめて全体会議に報告・提案等を行う職務に従事することとなった。Aは,有料でオッズを印刷するオッズコピーサービスの導入を検討していたが,被告人の依頼を受けて,C社のプリペイドカードを使用するシステムが組み込まれたオッズプリンターと称するオッズコピーサービス用端末機を調達することを提案し,平成3年5月ころ,日本中央競馬会をしてその導入を決定させるなど被告人のために有利便宜な取り計らいをした。

3 被告人は,Aが上記のとおり京都競馬場場長に就任すると,Aに対し,C社が製作するプリペイドカードを京都競馬場で利用してほしい旨依頼した。Aは,被告人の依頼を受けて,上記京都競馬場場長の職務権限に基づき,平成10年6月から平成12年9月ころまでの間,計4回にわたり,日本中央競馬会の関連会社を介してC社に対し,京都競馬場無料入場パスポート付きオッズカード等合計2万5000枚を発注し,被告人のために有利便宜な取り計らいをした。

第2罪となるべき事実

被告人は,Aに対し,上記のとおり,Aから,日本中央競馬会が管理運営する競馬場等に設置するオッズプリンターと称するオッズコピーサービス用端末機の導入及び同端末機に使用するオッズカードと称するプリペイドカードの発注等に関し,C社が有利便宜な取り計らいを受けたことへの謝礼及び今後も同様の取り計らいを受けたい趣旨のもとに,

1 平成12年2月10日ころ,東京都府中市e町f丁目g番地のh株式会社D銀行府中支店に開設されたA名義の普通預金口座に50万円を振込送金し,

2 同年5月10日ころ,上記普通預金口座に50万円を振込送金し,

3 同年8月9日ころ,東京都中央区i丁目j番レストラン喫茶E店内において,現金60万円を交付し,もって,それぞれ,Aの職務に関して賄賂を供与した。

(証拠の標目)

省略

(法令の適用)

省略

(量刑の理由)

1 本件は,日本中央競馬会の物品調達にかかわる贈賄事犯である。

日本中央競馬会は,競馬の健全な発展を図って馬の改良増殖その他畜産の振興に寄与するため,競馬法により競馬を行う団体であって,刑法によって処罰されている賭博を法律で許容されて行うというその業務の内容に照らし,公共性が強く,その職員の職務につき公正性が強く求められている。そうであるのに,被告人は,同会の経営に関する総合計画等の事務を処理する重要な部署である総合企画室の調査役であったAに対し,さらには,京都競馬場の場務を掌理する要職である同競馬場場長となった同人に対し,それぞれ物品調達の売り込みをして,判示のとおりの有利便宜な取り計らいをしてもらい,その謝礼等の趣旨で賄賂を供与したものであって,上記職務の公正に対する社会一般の信頼を著しく損ねたものである。

被告人は,Aの有利便宜な取り計らいにより,C社製作のプリペイドカードを独占的に納入できることとなって多額の利益を得るに至った。本件賄賂は,いずれも被告人がAの側からの要求を受けて供与したものであるが,その動機はもっぱら自社の利益を図るためであり,犯行動機に酌量の余地はない。しかも,被告人は,計3回にわたり,合計160万円の賄賂を供与したもので,その金額も決して少なくない。

また,本件は,一般に報道され,競馬ファンはもとより多数の国民を失望させ,社会一般及び日本中央競馬会に大きな影響を与えたものである。

以上によれば,被告人の刑事責任は重いものがある。

2 しかしながら,他方,被告人は,事実を認め反省の態度を示していること,既にC社は日本中央競馬会にかかわる取引を失っていること,被告人は,本件が報道されたことにより一定の制裁を受けていること,30年以上前に罰金前科があるにとどまること等被告人のために酌むべき事情も認められる。

3 そこで,以上の諸事情その他諸般の事情を総合考慮し,被告人に対しては懲役1年に処するが,3年間その刑の執行を猶予することとした。

よって,主文のとおり判決する。

(求刑懲役1年)

(裁判官 小川正持)

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