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東京地方裁判所 平成14年(特わ)947号 判決 2004年4月02日

主文

被告人株式会社甲商会を罰金5000万円に,被告人丙を懲役4年に,被告人戊を懲役1年6月に処する。

被告人戊に対し,この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社甲商会(以下「被告会社」という)は,静岡県□□市に本店を置き,東京都○○区内の××ビル2階を事務所として,石油製品の卸・小売及び輸入販売等を目的とする資本金1000万円の株式会社であり,被告人乙こと丙は被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括掌理していたもの,被告人丁こと戊は被告会社の従業員であったものであるが,被告人丙及び被告人戊(以下「被告人両名」という)らは,共謀の上(後記株式会社A名義を使用した譲渡については,さらに,分離前の相被告人Bと共謀の上),被告会社の業務に関し,軽油引取税を免れようと企て,実際は被告会社が軽油を輸入・譲渡したにもかかわらず,これを秘匿するため,株式会社Aほか数社の名義を使用して軽油を輸入した上,別紙一覧表記載(そのうち番号1ないし4の各①は,各月の譲渡に関するものであり,同各②は,各月の譲渡のうち株式会社A名義を使用した分に関するものである。また,数量合計及び金額合計の括弧内の各数値は,同会社名義を使用した譲渡分の内数である)のとおり,平成11年8月2日ころから平成12年1月31日ころまでの間,輸入に係る軽油合計6万6312.757キロリットルをC物産株式会社等に譲渡したにもかかわらず,各月分の軽油引取税につき,平成11年9月30日から平成12年2月29日までの各軽油引取税申告納付期限までに,東京都○○区所轄東京都○○都税事務所長に対し,いずれも軽油引取税納付申告書を提出せず,そのまま各申告納付期限を徒過させ,もって,偽りその他不正の行為により,6回にわたり,それぞれ各月分の軽油引取税合計21億2863万9494円を免れたものである。

(証拠の標目)

省 略

(事実認定の補足説明)

1  本件で公訴提起された,軽油引取税のほ脱に係る被告会社が輸入・譲渡したとされる軽油(以下「本件軽油」という)の数量は,合計6万6312.757キロリットル(以下「kl」とも表示する)であるところ,関係証拠によれば,その内訳は,株式会社A(以下「A」という)名義で譲渡したものが1万6388.434kl,株式会社D(以下「D」という)名義で譲渡したものが3661.586kl,株式会社E商店(以下「E商店」という)名義で譲渡したものが3470.508kl,有限会社F石油(以下「F石油」という)名義で譲渡したものが2万5034.347kl,株式会社G(以下「G」という)名義で譲渡したものが8586.053kl,株式会社H牧場(以下「H」という)名義で譲渡したものが9171.829klであることが明らかであり,この点は被告人ら及び弁護人らにおいても争いがない。

2  被告会社及び被告人丙(以下,併せて「被告会社ら」ともいう)の弁護人は,第1に,A名義,D名義及びG名義の各譲渡分の全部とF石油名義の譲渡分の一部8634.347klとの合計3万7270.420klの軽油については,真実各名義人が譲渡しており,被告会社が譲渡したものではない,第2に,A名義の譲渡分には,他社買取分の4849.014klないし7280.295klが,F石油名義の譲渡分には,他社買取分の819.044klないし1080.544klがそれぞれ含まれており,これらは本件軽油の数量から除外されるべきであると主張し,また,被告人戊の弁護人は,同被告人には被告会社が納税義務者であるという認識がなく,ほ脱の故意がなかったと主張する。

3  そこで,本件軽油の譲渡を行った者は誰かという点から検討する。

(1)  関係証拠によれば,本件軽油の輸入・譲渡の流れは,次のとおりであると認められる。すなわち,まず,被告会社が韓国で軽油を買い受け,国内数箇所の保税タンクに搬入する。次に,これらの軽油について,被告会社と,直接に又は他社を経由して,前記1のA,D,E商店等の会社等との間で,いわゆる保税転売の契約がなされ,同会社等の名義で輸入申告が行われる。そして,同会社等(以下「輸入申告者」という)と国内の複数の軽油販売業者との間で軽油の売買契約がなされ,保税タンクからそれらの業者(以下「買付業者」という)の下へ軽油が搬送される。

この流れからすると,本件軽油の譲渡人は,被告会社ではなく,被告会社から保税転売を受けた輸入申告者であるように,一見思われる。しかし,関係者の各供述及びその他の証拠を子細に検討すると,以下のとおり,輸入申告者は中間の単なる名義人,いわゆるダミーに過ぎず,真実の譲渡人は被告会社であることが明らかである。

(2)  初めに,買付業者数名及び被告会社従業員の各供述を概観する。

ア C物産株式会社の実質的経営者であったIは,「平成11年夏頃,△△にある当時の乙の事務所で,乙から,『韓国から輸入する軽油を安く売るので買わないか。1リットルあたり40数円で買わないか』と言われた。実際の取引が始まると,乙は,A,J産業,K,F石油の名義でC物産に軽油を販売してきた。最初の取引交渉,その後の値段や買付量の交渉は乙としていた。名義会社と乙とがどのような関係なのか分からないが,乙が支配している会社と取引しているというのが私の認識だった。軽油の価格交渉は,主に乙としていたが,時には乙の指示で動いている丁ともしていた。丁は,自分一人で価格を決定できず,『後で乙さんに確認する』と言って,その後に結果を伝えてきていた。乙との取引は,1リットルの単価が43円,44円ということが多く,安いときは41円,高いときは48円程度ということもあった」旨供述している(甲64)。

イ 株式会社Lの代表取締役であったMは,「平成11年8月か9月ころ,乙から,『今度韓国から輸入した軽油が大量に出るよ。俺達が輸入を牛耳っているので,輸入軽油がどんどん出るよ。欲しいだけ売るからどんどん売ってください。今度,Nからタンクを借りたからどんどん出すよ。1リットル当たり44円前後でいいから。課税済証明書は出すから』と言われた。最初はO商事名義で注文するよう言われてそうしていたが,その後の注文先名義は,J産業,A,F石油,Kというように次々と変わった。私は,乙がこれら会社の名前を使って当社と取引していると思っていた。主に丁を相手に価格交渉をしたが,丁は,『買う人はたくさんいるので,それなら結構ですよ』などと言って単価を下げてくれることは余りなかった。しかし,時には,価格交渉の結果,丁が『協議しますから』と言って電話を切ることがあり,その時には乙と相談しているものと思っていた。また,軽油を多く輸入したような時には,丁が『50銭安くするから』と言って,何キロリットル買ってくれと言ってくることもあった。時期ははっきりしないが,△△の喫茶店で,丁から,『輸入して売っても,税金の二,三割程度納めていれば,後は納めなくても黙認してくれる』と言われたことがあった」旨供述している(甲66,67)。

ウ P株式会社の代表取締役であったQは,「R石油のSの紹介で,平成11年7月か8月ころから,甲商会から軽油を購入するようになった。注文先名義は,AやF石油などだった。注文先名義が変わるときは,甲商会からファックスで『今後はどこどこ名義宛に注文してください』などと記載された書面が届いていた。資金繰りが苦しくて,何度か△△の甲商会の事務所へ行き,丁や事務員に支払の遅れを謝った。丁に『すいません』と言って支払可能日を伝えると,丁は,『分かりました。その日にお願いします』などと言ってきた」旨供述している(甲68)。

エ 株式会社Tの代表取締役であったUは,「平成11年9月ころから平成12年1月ころまで,甲商会の乙から軽油を買っていた。同年8月下旬ころ,△△駅近くの喫茶店で,乙から,『軽油の仕入先はいっぱいある。韓国の元売り業者のαや,β,γ,δからも引けるし,国内の元売りの玉も引ける。軽油の値段は45円くらいで船でもローリーでも出せる』などと言われ,商談が成立した。そのときかその後にも乙から,『注文する際に,バージ船の場合はJ産業宛に発注し,タンクローリーの場合はA宛に発注してくれ』と頼まれた」旨供述している(甲71)。

オ 株式会社J産業で稼働していたVは,「平成6年から,実父経営のJ産業で働くようになった。平成11年8月ころから,O商事宛てにファックスで軽油を注文して購入していたが,その後,O商事からファックスで未記入の注文書が送られてきた。送られてくる注文書の宛先会社名が,A,F石油,Kなどと次々と変更になった。最初は何で変わったんだろうと思っていたが,何回も会社名が変わったので,そのうちに変に思わなくなった。相手との連絡は全てファックスだったので,A等の経営者が誰なのかも知らない」旨供述している(甲72,73)。

カ W燃料販売株式会社の代表取締役であったXは,「平成11年3月中旬ころ,知人にO商事を紹介され,同会社に電話で軽油の購入を申し込んで取引が始まった。その後,注文先については,O商事の方からAにしてくれと頼まれそれに従った。しかし,注文先名が変わっても注文先は従前のファックス番号だった。O商事とAとは一体だと認識していた。あるとき注文した軽油を引き取ることができないトラブルがあり,O商事に電話したら,社長の乙が出た」旨供述している(甲74)。

キ 有限会社Yオイルの代表取締役であったZは,「平成11年7月下旬か8月ころ,取引先のW燃料のXから,『O商事という会社から1リットルにつき47円で軽油を仕入れることができる』と聞き,電話で購入を申し込み,O商事との取引が始まった。しかし,注文書を送信するファックス番号が同じなのに,注文先の名義がJ産業,Aと変更になった。私はO商事が取引先だと思っていた」旨供述している(甲75)。

ク 最後に,被告会社で事務員をしていたaは,「私の仕事は,甲商会時代もその前のO商事時代も特に大きな違いはなく,ずっとO商事や甲商会から軽油を買い付ける国内業者から買付の注文を受け,その注文に従って出荷依頼を出すという仕事をしていた。甲商会は,外国から輸入した軽油を,川崎,横浜,神戸など甲商会が借りているタンクの中に蓄えておき,他の国内業者から買付注文が来ると,タンク業者に出荷依頼を出していた。私が覚えている買付業者名は,C物産,L,P,b商店,cオイル,d,J産業,e,f燃料,g商会,h通商などである。あらかじめ甲商会から注文書の用紙を渡しておき,それを利用して買付業者から買付注文を受け,私が注文内容を別の用紙に書き直し,これをファックス送信してタンク業者に出荷依頼をしていた。買付業者の希望でどのタンクの軽油が欲しいかを注文してきていたが,どのタンクの軽油でも構わないという場合は,丁の指示を仰いでいた。丁は各タンクに残っている軽油の分量の多い少ないを調べた上で『その注文の分は,どこどこのタンクに出荷の注文を出して』などと私に言ってきて,軽油を出荷するタンクの割り振りを指示してきた。注文書用紙がO商事時代のものだったので,最初のころ丁に尋ねたら,『別にそのままでもいいよ。注文書のとおりにタンクの方に連絡して』などと言われた。注文書の宛先欄にO商事でも甲商会でもない別の業者の名前を書いて甲商会事務所に買付注文のファックスを送ってくる買付業者もあった。それで,丁にその買付注文を甲商会で受けてよいのか聞いたところ,丁から,『それもうちのだから,気にしないで』などと言われた」旨供述している(甲78,79)。

(3)  これらの買付業者及び被告会社従業員の各供述は,その内容が具体的で,各供述調書に添付された注文書,請求書及び出荷依頼書等の客観的資料と整合している上,供述相互間でも矛盾がなく,殊に,買付業者の各供述と従業員の供述とが補完し合う関係になっており,さらに,各供述者が殊更被告人らに不利な供述をするおそれを見出し難いことも併せ考慮すると,各供述の信用性は高いということができる。

これらの供述によれば,本件軽油の譲渡人は名義上は輸入申告者になっているものの,買付業者との間の売買契約の締結及びその履行は,専ら乙こと被告人丙又はその命を受けた丁こと被告人戊において行っていたことが明らかである。すなわち,被告人両名は,買付業者との間で,軽油買受けの勧誘を積極的に行ったほか,軽油の販売価格及びその数量の交渉を進め,さらには,注文先の名義人を指定するなど,契約内容全般を主導的に取り決めていたこと,その上で,軽油の出荷及び買付業者への搬送を行っていたこと,他方,買付業者が輸入申告者と交渉し又は連絡を取り合うという状況は全くなかったことが,それぞれ認められるのである。

(4)  そこで,次に,輸入申告者ないしその関係者の各供述を概観する。

ア Dについて

Dと被告会社との間では,直接に又はR石油を経由して,保税転売契約がなされている。これについて,Dの代表取締役であったiは,「平成11年8月頃,△△の喫茶店で,R石油東京支店長のSから,『軽油を輸入して販売してくれればいい。取引をするにあたっては資金は何もいらないから。売り先は全てこちらの方で手配する。後のことはすべてこちらでするから,Dは納税義務者になってくれるだけでいい。リッター当たり30円で仕入れ,45円で転売すれば,当面の資金は出るよ。甲商会が軽油を輸入し,Rが保税地域で転売を受け,それをDに転売するので,Dで輸入申告をしてもらうことになる』と言われた。私は,軽油の輸入を経験したことがなく,そのための手続とか,輸入に必要な書類として何が必要かも分からず,Sの言う保税地域での転売とか輸入申告者になってもらうということが,具体的にどのような手続をするのか分からなかった。私は,ともかくその場の運転資金が入ればいいという考えだけで,その話を承諾した」旨供述している(甲59)。また,R石油の代表取締役であったjも,「R石油東京支店が甲商会から保税転売を受け,それをDに保税転売したことになっているが,私はこのような書類は見たことがない。この保税転売はSが勝手にしたことであり,私自身は全く知らない。Dという会社も知らない」旨供述している(甲50)。

イ E商店について

E商店については,被告会社又はkエネルギーとの間で,保税転売契約がなされている。これについて,E商店の代表取締役lは,「mから軽油取引の依頼を受け,新しくE商店を設立することを提案された。私は,これを承諾し,新しい会社の社長には私がなり,従前のE商店の社長にはmから紹介されたnが就いた。なお従前のE商店時代の社判や代表者印はそのまま新E商店で私が使用することとし,nには渡していない。平成12年5月ころ,大阪府税から軽油引取税の滞納があるということで銀行預金を差し押さえられた。私は何のことか分からずmに電話すると,mから,『今,資金繰りが苦しいが何とかして税金は納める』と言われた。◇◇都税事務所へ行き,E商店の申告書類を見ると,私がまだ従前のE商店の代表取締役をしていた時代の平成11年10月15日から23日にかけて軽油を輸入した旨記載されていた。私は軽油の輸入のことを聞いていなかったので本当にびっくりした。軽油の輸入に関する書類も見たことがなかった。E商店が,甲商会やkエネルギーから軽油の保税転売を受けたことになっているが,私は全く知らなかった」旨供述している(甲51)。これに関し,nは,「平成11年10月中旬頃,乙社長から,『E商店の社長をやってくれ』と頼まれて,承知した。同月下旬,o通商事務所で,甲商会による軽油輸入に関する書類を見ていたら,その中に,甲商会やkエネルギーが保税転売の売主になり,E商店が買主になっている保税転売契約書,譲渡証明書,軽油輸入届出書,輸入許可通知書がいくつか見つかった。ゴム印を見るとi名となっていた。私は,脱税の共犯で逮捕されることになるのではないかと不安になり,乙に『話が違うじゃないですか。E商店で輸入をやっていることになってますよ。そんな話は聞いていませんよ』と苦情を言うと,乙から,『事情があってE商店の名前で輸入させてもらったが,E商店の名前を使って輸入することはもう余りしないから。今までの輸入だって,前の社長のiの名前でやったわけだし,nさんがE商店の代表取締役になる前の輸入なんだから,迷惑はかけないよ』と言われた。さらに,私が,『引取税の方はちゃんと払ってくれるんでしょうね。お願いしますよ』と言ったところ,乙は,『分かった,分かった,ちゃんとするから』などと言って,E商店を保税転売の買主にした案件については軽油引取税を全額支払ってくれるような言い方をした。同年11月下旬に,乙から,『E商店の名前で輸入して売れた軽油の納税申告をやっておいて』などと言われた。その後,乙から,いつ,どこの業者に,どれだけ売ったのかというメモを渡され,『このとおりに納税申告しておいて』などと言われた」旨供述し(甲86),さらに,kエネルギーがF石油に保税転売をしている件について,「kエネルギーが保税転売の売主,E商店が保税転売の買主になっている場合があるが,乙から『うちのタンクが一杯になっているから,kエネルギーのタンクを貸してくれ。kエネルギーからの保税転売契約書や譲渡証明書をくれないか』と言われ,私が作って乙社長に手渡していた。丁からそのような依頼をされて同様のことをしたこともあった。実際のところ,kエネルギーが外国の輸入元と交渉して軽油を輸入したということはなく,本当の軽油輸入者は乙の経営する甲商会だった」旨供述している(甲88)。

ウ F石油について

F石油については,被告会社又はkエネルギーと直接に,あるいは,被告会社からkエネルギーを経由した形で,保税転売契約がなされている。これについて,F石油の代表取締役であったpは,「平成11年8月ころ,知人のqと同人から紹介されたrから,韓国から輸入する軽油の取引をするなどと言われ,会社を設立して代表取締役になるよう求められ,うまい儲け話だと思ってこれに乗り,同年9月30日にF石油を設立した。会社印や代表者印は書類作成に必要とか言ってrかqが持っていった。軽油の取引関係はrとqが取り仕切った。私は,どのような取引がなされているか分からず,ただ事務所にいた。事務所には,日々,注文書のようなものがファックス送信されてきた。私が販売先と連絡することもなかった。

納税関係書類については,申告時に必要な書類が郵送かqによる持参で私のところへ来るので,私がその書類を見ながら申告書に下書きするなどして作成した。保税転売契約書という書類の中に,F石油がh通商,甲商会,kエネルギーから輸入軽油の保税転売を受けた旨が記載されていたが,私は取引に全く関与していない」旨供述している(甲52)。なお,kエネルギーについては,nが前記のとおり供述している(甲88)。

エ Gについて

Gと被告会社との間では,直接に保税転売契約がなされている。これについて,Gを設立したsは,「Gを設立したのは,甲商会の乙と丁に誘われたからである。私は,mからGの会社登記簿を貰い,甲商会の事務所で,甲商会との軽油の販売契約を結んだ。乙から,『いくら出せるの』と輸入の仕事に対する保証金の額を聞かれたので,4000万円くらいなら出せると答えたと思う。私は軽油の売買で儲けが見込めるので,tさんから4000万円借りて乙に渡した。乙から更に2000万円用意するよう追加要請され,tさんから再度融資を受けて甲商会に2000万円を振り込んだ。甲商会に合計6000万円を支払ったことで,本格的に取引が始まった。私は,乙や丁の指示を受けて,銀行から現金を引き出し,甲商会の指定する銀行口座に振込みをしていた。県税事務所に納税する時には,私が甲商会の事務所へ行き,乙や丁から納税額等について指示を受けて,その都度,税金分の金額を貰い,県税に納付していた」旨供述している(甲54)。また,これに関連して,mも,「平成11年11月中旬ころ,Gの代表取締役としてsを乙に紹介した。乙はsに,『最初の輸入代金はそっちで出してくれ。4000万円くらいは出資してくれ。あなたは軽油を輸入した翌月末に県税に申告をして納税してくれればいい。納税はGとしてするから。手数料はリッター当たり3円を渡す』などと言い,一緒にいた丁も,『会社の代表取締役印で作ったGの預金通帳とsさんが手元に置くGの預金通帳の2冊を作り,その代表取締役印と通帳の1冊,それにGの社判を渡してくれ』と指示していた」旨供述している(甲18)。

オ Hについて

Hに対する保税転売契約が虚偽仮装のものであること自体は,被告人丙の認めるところであり,同会社代表取締役であったuも,「Hが軽油を買ったり譲り受けたりしたことは一度もなかったし,他に販売したことも一度もなかった」旨供述している(甲56,57)。

カ Aについて

Aについては,被告会社又はkエネルギーとの間で,保税転売契約がなされている。これについて,Aの代表取締役であったBは,「乙から,『Aの名前を貸してくれないか。Aを輸入名義人として使いたい。それによって謝礼をする。甲商会では国内物のオイルと輸入物のオイルの両方をやっている』などと言われ,その後も,『甲商会が軽油を輸入するのでAで申告してください』などと言われた。甲商会が軽油を輸入するのにAが輸入したことにする理由が分からなかったので,この点を尋ねると,乙は,『実際には甲商会が軽油を輸入し,それを業者に販売するが,Aが保税転売を受けて軽油を輸入したことにして軽油引取税を申告してもらいたい。その見返りに軽油1リットルにつき3円の謝礼を払うから,その中から税金を少しずつ,月に200万円から300万円くらいずつ払えばいい。申告をする前に資料を渡すのでそれに基づいて申告してもらいたい。税金は,申告した分はいっぺんでは支払わず,少しずつ払っていく。申告して少しずつでも支払えば大丈夫だ』などと話した。その後,平成11年9月16日に8月分の軽油引取税納付申告をした。軽油の売却先については,乙から渡されたレポート用紙様の紙に記載されていたものを転記し,C物産,v興商,J産業の3社を記載して申告した。Aでは,これらの会社とは営業活動もしていないし売買契約も結んでいない。A名義の預金通帳や銀行印は甲商会の乙や丁が管理しており,営業活動や受注活動も彼らがやっていた。私は,乙から受け取るインボイス,軽油輸入届出書,保税転売契約書,輸入許可通知書などの写しを見て,初めて輸入した回数や状況などが分かるだけだった。後日,Aが納税義務者であるかのように装うため,申告した税額の一部を都税事務所に納付した」旨供述している(分離前の相被告人としての公判供述調書,乙40ないし43等)。なお,kエネルギーについては,nが前記のとおり供述している(甲88)。

(5)  これらの輸入申告者及びその関係者の各供述は,その内容が具体的で,各供述調書に添付された保税転売契約書,譲渡証明書,軽油引取税納付申告書等の関係資料と整合している上,輸入申告者の各供述とその関係者の各供述とは矛盾せず補完し合うものであり,さらに,前記買付業者の各供述とも符合しており,その各信用性に特段疑問を抱かせる事情は見出せない。

そうすると,輸入申告者らにおいて,保税転売契約書の作成やその後の輸入申告事務への関与,認識の程度は人により区々であるものの,各保税転売契約が仮装のものであり,かつ,輸入申告者らが買付業者への軽油の譲渡に全く関与しなかったという点は,共通してこれを認めることができる。

そして,上記認定の点と前記(3)で認定した各事情とを総合し,さらに,被告人両名が捜査段階で本件各犯行を認める供述をしていたことも併せみれば,本件軽油は,被告会社が輸入した上で買付業者に譲渡したものであり,輸入申告者は仮装の保税転売契約によりその中間に形式的に介在したいわゆるダミーに過ぎなかったと優に認めることができる。

(6)  これに対し,被告会社らの弁護人は,A,D及びGへの各保税転売契約とF石油への保税転売契約の一部とは,いずれも実体を伴う真実のものであり,これに対応する各軽油の譲渡は上記各会社から買付業者へと実際になされたものであると主張し,被告人丙も公判の中途から同旨の供述をしている。

しかしながら,被告人丙の上記供述は,これまでみてきた買付業者,輸入申告者及びその他の関係者の各供述と相反するものであり,信用できない。被告人丙の供述内容は,輸入申告者において,一方で軽油引取税を納付すべき義務を負いながら,他方で同税を上乗せしない低廉な価格で買付業者に転売するという経済的に到底引き合わない役割を負担するというものであるところ,その役割を真実引き受けるのであれば,保税転売による軽油の取得価格と買付業者への譲渡価格との差益の大部分を自ら手中にすることが最低限の条件であると思われるのに,実際には被告会社ないし被告人丙から僅かな口銭の支払を受ける者があったに過ぎず,そのような差益の還元はなされなかったものと認めることができる。もっとも,被告人丙は,輸入申告者との間で保税転売価格と必要経費を差し引いた精算を行うつもりだったと供述するが,それが未だなされていないことにつき,合理的な説明をなし得ていない。

(7)  以上によれば,本件軽油の輸入・譲渡を行ったのが被告会社であることは明らかであるから,被告会社らの弁護人による前記2の第1の主張は採用することができない。

(8)  なお,被告会社らの弁護人は,前記2の第2の主張に関連して,①平成11年9月18日にw石油商事名義で輸入された994.731kl及び同月30日に同会社名義で輸入された997.570klの各軽油の一部がA名義の譲渡分の中に含まれているが,これらは,被告会社が輸入した軽油ではない,②同年11月5日にF石油名義で輸入された2884.035kl及び同月22日に同会社名義で輸入された2499.771klの各軽油の一部がF石油名義の譲渡分の中に含まれているが,これらは,h通商が韓国より輸入した軽油をF石油名義で通関したものであって,被告会社が輸入した軽油ではないとして,いずれも,本件軽油から除外すべきである旨主張する。

しかしながら,関係証拠によれば,①の各軽油のうち問題とされる分は,いずれも,kエネルギーからw石油商事に保税転売契約がなされている上,それがA名義でC物産に譲渡されていることが認められ,前記(4)イのkエネルギーに関するnの供述,前記(2)アのC物産に関するIの供述及び前記(4)カのAに関するBの供述等を総合すれば,上記の問題とされる分は,いずれも,被告会社が輸入した上でC物産に譲渡したものであると認めることができる。

次に,関係証拠によれば,②の各軽油のうち問題とされる分は,いずれも,h通商名義で韓国より輸入した軽油につき,被告会社へのいわゆる洋上転売による譲渡がなされ,続いて被告会社からF石油に保税転売契約がなされ,同会社名義で通関した上で,同会社名義でC物産及びP等に譲渡されていることが認められ,前記Iの供述,前記(2)ウのPに関するQの供述及び前記(4)ウのF石油に関するpの供述等を総合すれば,上記の問題とされる分は,いずれも,被告会社が輸入した上でC物産等に譲渡したものであると認めることができる。

そうすると,上記①,②の各軽油のうち問題とされる分を,本件軽油から除外すべきであるとの被告会社らの弁護人による主張は採用することができない。

4  引き続き,被告会社らの弁護人による前記2の第2の主張について検討する。

同弁護人は,平成11年11月2日の時点で,x埠頭の各タンク内には,被告会社が同タンクを引き継ぐ際にyから買い取った564.445klの軽油が残存していたのであり,この内からF石油名義で譲渡された311.203klを本件軽油から差し引くべきであると主張する。そして,被告人丙は公判で,その残存軽油は既に課税済みのものであったと供述している。関係証拠によれば,x埠頭のタンク内にyから買い取った軽油が残存していたのは事実であるが,その後同タンクには前記3(8)②のF石油名義の輸入分を含む被告会社が輸入した軽油が数回にわたって搬入され,これらが上記残存軽油と混和した状態になっていたものと認められる。

しかし,被告会社は,このように課税済み分(他社買取分)と未課税分(輸入軽油分)とが混和した状態の同タンクから,本件軽油をF石油名義で未課税のものとして買付業者に販売譲渡したのであるから,上記の混和した軽油のうち数量的に選別,特定できる未課税分(輸入軽油分)の中から当該譲渡分を搬出したものとみるのが,可能かつ合理的であるといえる。したがって,上記残存軽油は本件軽油の数量認定の妨げとはならない。

さらに,被告会社らの弁護人は,被告会社が借り受けていたNタンクについても,同タンク内には,本件軽油に相当する輸入分のほか,被告会社が他社から買い取った軽油や他社が輸入した軽油も搬入されていたのであるから,同タンクからの譲渡分は全て本件軽油から除外すべきであり,少なくとも按分方式により数量を算出すべきであると主張する。関係証拠によれば,確かにNタンクには同主張のとおり種々の軽油が搬入されそれらが混和した状態になっていたものと認められるが,被告会社は同タンクから本件軽油をF石油等の名義で未課税のものとして買付業者に販売譲渡したのであるから,前記x埠頭のタンクについて述べたのと同様に,混和した軽油のうち数量的に選別,特定できる未課税分(輸入軽油分)の中から当該譲渡分を搬出したものと認めることができる。

以上のほか,前記3(8)の検討結果も併せみると,被告会社らの弁護人による前記2の第2の主張は,これを採用することができない。

5  最後に,被告人戊のほ脱の故意について検討する。

前記3(3)で述べたとおり,被告人戊は本件軽油の譲渡につき被告人丙の命を受けて買付業者との交渉を担当していたものであるところ,関係証拠によれば,本件軽油の輸入・譲渡に伴う金銭の授受やその管理にも携わっていたことが認められる。そうすると,本件軽油が未課税のまま譲渡されており,被告人丙が課税を免れる意図を有していることは,被告人戊においても当然認識し,了解していたものと推認できるのであり,被告人戊がその旨を捜査段階において自白していたことも併せみると,同被告人が本件当時,軽油引取税ほ脱の故意を有し,被告人丙らとその意思を相通じていたことは明らかというべきである。

したがって,被告人戊の弁護人による前記2の主張は採用することができない。

(法令の適用)

罰条

1  被告会社    判示別紙一覧表番号1ないし6の各事実につき,いずれも地方税法700条の28第4項,2項(平成13年法律第8号による改正前の地方税法700条の14第1項5号,700条の4第1項5号),地方税法700条の28第3項(情状による)

2  被告人両名   判示別紙一覧表番号1ないし6の各行為につき,いずれも刑法60条,地方税法700条の28第2項(平成13年法律第8号による改正前の地方税法700条の14第1項5号,700条の4第1項5号)

刑種の選択   被告人両名の各罪につき,いずれも懲役刑を選択

併合罪の処理

1  被告会社    刑法45条前段,48条2項

2  被告人両名   いずれも刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い判示別紙一覧表番号5の罪の刑に加重)

執行猶予   被告人戊につき,刑法25条1項

(量刑の理由)

本件は,被告人両名が,石油製品の販売等を営む被告会社の業務に関し,他社の名義を用いて被告会社が軽油を輸入及び譲渡したことを隠蔽するなどした上,地方税である軽油引取税を6期にわたってほ脱した無申告ほ脱の事案である。

本件のほ脱税額は合計約21億2863万円と巨額に上り,納税義務者たる被告会社は全く納税しなかったのであって,軽油引取税の使途である地方自治体の道路行政に与えた影響も看過できず,本件の結果は誠に重大である。

本件は,被告会社において,わずか約半年間に,韓国から合計6万6312キロリットル余りの多量の軽油を輸入した上,これを軽油販売業者数社に多数回にわたって売却譲渡しながら,軽油引取税の申告を全くしなかったというものであるが,被告人両名は,納税義務者が被告会社であることを隠蔽するため,被告会社が分離前の相被告人の経営するAなど数社に対して軽油を保税地内で転売したように装い,同会社らの名義を利用していわゆる保税転売した旨の虚偽の契約書等を作成するなどし,あたかも同会社らに納税義務があるように仮装した上,実際に同会社らの名義による申告・納付を行いながら,延納及び分納により納税を先送りにしていたものである。そして,このような隠蔽工作が行われたのは,被告会社において,軽油引取税相当分を価格に転嫁せず,軽油を低価格で大量に売り捌いて利益を上げることを企図したためであることが明らかである。こうしてみると,本件は,長期的な見通しの下に計画された,巧妙かつ大胆で悪質な態様の犯行ということができる。そして,本件各犯行により,被告会社は,本来納付すべき軽油引取税合計約21億2863万円を納付しなかったのであるから,同額分を利得したものと評価することもできる上,被告人丙の主張を前提としても,本件各犯行等によって8億1000万円を超える利得をしたというのであるから,犯情は非常に悪い。

被告人丙は,まともに軽油引取税を納めていたのでは軽油取引業界において生き残ることが厳しいため,軽油引取税を納めずに軽油取引で儲けを上げたいとの考えから,仮装保税転売による輸入軽油取引を開始したのであって,その動機・目的は自己中心的であって全く酌量の余地はない。被告人丙は,自ら計画を立て,被告会社従業員に指示をし,保税転売先を確保し,買付業者に軽油の購入を働き掛けるなど,積極的に本件各犯行を主導したもので,まさに本件の首謀者である。

被告人戊も,高額な給料を得たいなどの思いから被告人丙に従い,被告会社の責任ある地位で事務を担当し,本件各犯行に用いる各種書類の作成や金銭等の管理等といった必要かつ重要な役割を果たしたというべきであり,犯行動機等も斟酌できない。

さらに,本件脱税に絡む軽油の低価格販売が軽油取引業界に及ぼした悪影響も看過できない。

以上によれば,被告会社及び被告人丙の各刑事責任は相当に重く,また被告人戊の刑事責任も軽視することができない。

しかし,他方,次に述べるような斟酌すべき情状も認められる。すなわち,保税転売先会社名による納税分,被告会社が差押えを受けたことなどによる納税分,第三者納税分,被告人丙の自己資金による納税分などを含め約9億7000万円余りが納付され又は納付と同視し得る状況にある。被告人丙は本件各犯行の一部を認めて反省の弁を述べており,被告人戊も本件各犯行に関わったこと自体については反省の弁を述べている。被告人両名とも前科は相当古い罰金刑のみである。さらに,被告人戊の更生については,その妻の協力を一応期待し得る。

そこで,これらの諸事情を総合考慮して,被告会社及び被告人両名に主文の各刑を科した上,被告人戊についてはその刑の執行を猶予することとした。

(求刑-被告会社に対し罰金5000万円,被告人丙に対し懲役4年6月,被告人戊に対し懲役1年6月)

(裁判長裁判官 飯田喜信 裁判官 木畑聡子)

裁判官 佐藤基は転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官 飯田喜信

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