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東京地方裁判所 平成14年(行ウ)178号 判決 2002年10月25日

原告

被告

世田谷税務署長 平澤勝男

被告の指定代理人は別紙のとおり

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告が原告に対し、平成13年3月8日付けでした、

1  原告の平成9年分の所得税に係る更正処分(ただし、平成13年6月13日付け異議決定により一部取り消された後のもの)及び過少申告加算税賦課決定処分(たたし、平成13年6月13日付け異議決定により一部取り消された後のもの)

2  原告の平成10年分の所得税に係る更正処分のうち、納付すべき税額12万6000円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分

3  原告の平成11年分の所得税に係る更正処分のうち、納付すべき税額8万7300円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分

をいずれも取り消す。

第2事案の概要

本件は、原告が、被告が行った原告の平成9年分ないし平成11年分の所得税に係る更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分に理由附記がないことが違法であるとして、これらの処分の取消しを求めている事案である。

1  前提となる事実(末尾に証拠等を掲記した事実は当該証拠等により認定した事実であり、証拠を掲記しない事実は当事者間に争いがない事実である。)

(1)  原告は、被告に対し、平成9年分ないし平成11年分の所得税につき、次のとおり、法定申告期限内に確定申告を行った。

ア 平成9年分

a 総所得金額及び分離長期譲渡所得の金額を合算した金額 △814万8713円

b 税額 0円

イ 平成10年分

a 総所得金額及び長期譲渡所得の金額を損益通算した後の金額 354万0622円

b 税額 12万6000円

ウ 平成11年分

a 総所得金額及び長期譲渡所得の金額を損益通算した後の金額 228万0977円

b 税額 8万7300円

(2)  これに対し、被告は、平成13年3月8日付けで、原告の平成9年分ないし平成11年分の所得税に係る更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各処分」という。)を行い、本件各処分に係る更正・加算税の賦課決定通知書(以下「本件各通知書」という。)を原告に送付した。

なお、本件各通知書には、本件各処分についての理由の記載はない。

(3)  原告は、被告に対し、平成13年3月13日付けで、本件各処分に対する異議申立てを行った。

これに対し、被告は、同年6月13日付けで、本件各処分のうち、平成9年分の所得税に係る更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分の一部を取り消すとともに、平成10年分及び平成11年分の所得税に係る更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分に対する異議申立てを棄却する旨の決定をした。(甲1)

(4)  原告は、国税不服審判所長に対し、平成13年6月18日、上記異議決定に対する審査請求を行ったが、国税不服審判所長は、平成14年3月28日付けで、上記審査請求を棄却する旨の裁決をした。(甲2)

(5)  なお、本件各処分(ただし、平成9年分の所得税及び過少申告加算税については、前記(3)の異議決定により一部取り消された後のもの)における原告の平成9年分ないし平成11年分の所得税及び過少申告加算税の金額は、下記のとおりである。

ア 平成9年分

a 所得税額 7万9600円

b 過少申告加算税額 7000円

イ 平成10年分

a 所得税額 103万5200円

b 過少申告加算税額 11万円

ウ 平成11年分

a 所得税額 174万9500円

b 過少申告加算税額 22万4000円

2  当事者の主張

(原告の主張)

行政処分には、その根拠となる法律及びこれに該当する事実を示すことを要するから、これらの理由の附記を欠いた処分は、違法な処分として取消しを免れないと解すべきである。

しかるところ、本件各処分に係る本件各通知書は、理由附記を欠いているから、本件各処分は違法である。

なお、本件各処分についての理由は、本件各通知書自体に附記される必要があるから、口頭で理由を述べても、適法な理由附記があったということはできないし、本件各処分に係る異議決定書又は審査裁決書に十分な理由が附記されても、本件各処分について理由附記を欠いた違法は治癒されない。

以上の主張は、原告が青色申告書と白色申告書のいずれにより所得税の確定申告書を提出したかにかかわらず妥当するものである。

(被告の主張)

原告が本件各処分の違法事由として主張しているのは、本件各処分に係る本件各通知書に、処分の理由が附記されていないという手続的違法である。

しかしながら、更正の理由の附記に関する所得税法155条2項は、税務署長が、居住者の提出した青色申告書に係る年分の総所得金額、退職所得金額若しくは山林所得金額又は純損失の金額の更正をする場合には、その更正通知書に更正の理由を附記しなければならない旨規定しているのに対し、同法154条2項は、所得税につき更正する場合における更正通知書には、国税通則法28条2項に規定する事項を記載するほか、所得別の内訳を附記しなければならないと規定するだけで、更正の理由の附記についての規定はないことからすれば、青色申告書以外の申告に係る更正通知書には、理由の附記を要しないと解される。

そして、原告は、不動産所得又は事業所得を生ずべき業務につき、青色申告の承認を受けておらず、原告の提出した平成9年分ないし平成11年分の所得税の申告書は、青色申告書以外の申告書であるから、本件各更正処分が、更正通知書に理由附記がないことにより、違法となるものではない。

また、過少申告加算税の賦課決定処分に係る通知書についても、処分理由の附記に関する法律上の規定はないから、本件各賦課決定処分が、賦課決定通知書に処分理由の附記がないことにより、違法となるものではない。

したがって、原告の主張は理由がない。

3  争点

以上によれば、本件の争点は、本件各通知書に理由附記がないことにより、本件各処分が違法となるか否かである。

第3当裁判所の判断

本件各通知書において、処分の根拠となった理由の附記がないことは、前記「前提となる事実」(2)のとおりであるところ、原告は、行政処分には、その根拠となる法律及びこれに該当する事実を示すことを要するから、本件各処分が違法となる旨主張する。

しかしながら、国税通則法74条の2第1項の規定によれば、「行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。」旨を定めた行政手続法14条1項の規定は、国税に関する法律に基づき行われる処分その他公権力の行使に当たる行為については、適用されていないことが明らかである。

そして、所得税法155条2項は、所得税の更正に関し、青色申告書に係る年分の総所得金額、退職所得金額若しくは山林所得金額又は純損失の金額の更正をする場合には、更正通知書に更正の理由を附記しなければならない旨規定しているのに対し、青色申告書以外の申告書に係る更正については、更正通知書に処分の根拠となった理由を附記しなければならないとする法律上の規定はおかれていないことに照らせば、青色申告書以外の申告書に係る更正処分については、更正通知書に処分理由の附記を要しないと解すべきであるところ、証拠(甲1、2)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務について、青色申告の承認を受けていないこと、原告の平成9年分ないし平成11年分に係る所得税の確定申告も、青色申告書以外の申告書によるものであることが認められる。

そうであるとすれば、本件各更正処分に係る更正通知書に理由附記がないことをもって、同処分が違法であるということはできない。

また、国税通則法32条3項及び4項は、賦課課税方式による国税の賦課決定をする場合において、賦課決定通知書に決定理由を記載すべきものと規定しておらず、他に過少申告加算税の賦課決定処分に係る賦課決定通知書に処分の根拠となった理由を附記しなければならないとする法律上の規定がないことに照らせば、過少申告加算税賦課決定処分に係る賦課決定通知書についても、処分理由の附記を要しないと解されるから、本件各賦課決定処分に係る賦課決定通知書に理由附記がないことをもって、同処分が違法であるということはできない。

したがって、本件各通知書に理由附記がないことにより、本件各処分が違法となるとする原告の主張は、理由がないといわざるを得ない。

第4結論

以上によれば、原告の請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 森英明 裁判官 馬渡香津子)

別紙

指定代理人一覧

(被告指定代理人)

吉田幸久

小野寺雅之

福島豊彦

磯野宏

上村剛

板垣浩

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