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東京地方裁判所 平成14年(行ウ)472号 判決 2004年2月20日

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告が平成11年9月6日付けで原告に対してした新増設に係る事業所税の更正及び過少申告加算金の賦課決定処分を取り消す。

第2事案の概要

本件は,渋谷区内に賃貸マンションを新築した原告が,被告に対し,新増設に係る事業所税の非課税申告をしたところ,被告において,上記マンションの地下に付設された駐車場が上記税の課税物件である「事業所用家屋の新築」にいう「事業所用家屋」に当たるとの見解に立って,上記マンションの事務所部分とあわせて上記駐車場につき上記税の更正及び過少申告加算金の賦課決定をしたため,原告が,上記駐車場は「事業所用家屋」には当たらないと主張し,被告に対し,上記更正等の取消しを求めている事案である。

1  法令の定め等

(1)  地方税法(ただし,平成11年法律第19号による改正前のもの)の定め等

ア 事業所税について

地方税法によれば,指定都市等は,都市環境の整備及び改善に関する事業に要する費用に充てるため,事業所税を課するものとされており(同法701条の30),事業所税は,「事業に係る事業所税」と「新増設に係る事業所税」から構成されている(同法701条の32第1項)。

イ 事業に係る事業所税について

事業に係る事業所税は,事業所等(事務所又は事業所をいう。同法701条の31第1項5号)において法人又は個人の行う事業に対し,当該事業を行う者に課され,資産割(事業所床面積を課税標準として課する事業所税をいう。同法701条の31第1項2号)額と従業者割(従業者給与総額を課税標準として課する事業所税をいう。同法701条の31第1項3号)額の合算額によって課される(同法701条の32第1項)。

ウ 新増設に係る事業所税について

a 新増設に係る事業所税の課税物件について

新増設に係る事業所税は,事業所用家屋の新築若しくは増築に対し,当該事業所等又は事業所用家屋所在の指定都市等(特別区に存する区域においては,同法737条3項により都を指定都市等の区域とみなすこととされている。)において,当該事業所用家屋の建築主に課するものとされている(同法701条の32第1項本文)。

そして,「事業所用家屋」とは,「家屋の全部又は一部で人の居住の用に供するもの以外のもの(事業所等において行う事業に対して課する事業所税にあっては,当該家屋の全部又は一部で現に事業所等の用に供するもの)」をいうとされている(同法701条の31第1項7号)。

b 新増設に係る事業所税の課税標準等について

新増設に係る事業所税の課税標準は,新増設事業所床面積とされ(同法701条の40第3項),「新増設事業所床面積」とは,「新築又は増築(同法341条3号の家屋の床面積を増加することをいう。)に係る事業所用家屋の床面積をいうとされており(同法701条31第1項6号),地方税法施行令56条の18は,上記床面積を「新築又は増築に係る事業所用家屋の延べ面積」と定めている。

そして,新増設に係る事業所税の税率は,1平方メートルにつき6000円とされており(同法701条の42第2項),事業所税の免税点について,指定都市等は,事業所用家屋の新築又は増築について,当該新築又は増築に係る新増設事業所床面積が2000平方メートル以下である場合には,新増設に係る事業所税を課することができないとされており(同法701条の43第3項),新増設事業所床面積が2000平方メートル以下であるかどうかの判定は,同法701条の48の規定により申告納付すべき日の現況によるものとされている(同条4項)。

エ 新増設に係る事業所税の申告について

事業所用家屋の新築又は増築をした建築主は,当該新築又は増築した日から2月以内に,新増設に係る事業所税の課税標準額及び税額その他必要な事項を記載した自治省令で定める様式による申告書を当該事業所等所在の指定都市等の長(特別区に存する区域においては,同法737条3項により都を指定都市等の区域とみなすこととされており,東京都知事の権限は,東京都都税条例4条の3第1項により,被告に委任されている。)に提出するとともに,その申告した税額を当該指定都市等に納付しなければならないとされている(同法701条の48)。

オ 事業所税の更正について

指定都市等の長は,同法701条の46から同法701条の48までの規定による申告書(以下「申告書」という。)又は同法701条の49第2項の規定による修正申告書(以下「修正申告書」という。)の提出があった場合において,当該申告書又は修正申告書に係る課税標準額又は税額がその調査したところと異なるときは,これを更正するものとされている(同法701条の58第1項)。

カ 事業所税の過少申告加算金について

申告書の提出期限までにその提出があった場合において,同法701条の58第1項の規定による更正があったとき,又は修正申告書の提出があったときは,指定都市等の長は,当該更正又は修正申告前の申告又は修正申告に係る税額に誤りがあったことについて正当な理由があると認める場合を除き,当該更正による不足税額又は当該修正申告書によって増加した税額(以下,本項において「対象不足税額等」という。)に100分の10の割合を乗じて計算した金額(当該対象不足税額等(当該更正又は修正申告前にその更正又は修正申告に係る事業所又は修正申告書の提出があった場合においては,その更正による不足税額又は修正申告書によって増加した税額の合計額を加算した金額とする。)が申告書の提出期限までにその提出があった場合における当該申告書に係る税額に相当する金額と50万円とのいずれか多い金額を超えるときは,当該超える部分に相当する金額(当該対象不足税額等が当該超える部分に相当する金額に満たないときは,当該対象不足税額等)に100分の5の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする。)に相当する過少申告加算金額を徴収しなければならないとされている(同法701条の61第1項本文)。

(2)  課税実務における事業所税の課税についての取扱い

「地方税法の施行に関する取扱について(市町村税関係)」(昭和29年5月13日自乙市発第22号各都道府県知事宛自治庁次長通達。ただし,平成15年総税市第22号による改正前のもの。以下「本件通知」という。)によれば,事業所税の課税客体等につき,次のように規定している。

ア 事業所等(第一章第一節五)

「事務所又は事業所等(以下「事業所等」という。)とは,それが自己の所有に属するものであるか否かにかかわらず,事業の必要から設けられた人的及び物的設備であって,そこで継続して事業が行われる場所をいうものであること」

イ 事業所税の課税客体(第九章第三節)

「(3) 課税客体

ア 事業に係る事業所税の課税客体は,事務所又は事業所(以下第三節において「事業所等」という。)において法人又は個人の行う事業であるが,この場合における事業所等の範囲については,第一章第一節五の事務所又は事業所の範囲と同様であること。ただし,建設業における現場事務所等臨時的かつ移動性を有する仮設建築物でその設置期間が1年未満のものについては,事業所税の性格にかんがみ,事業所等の範囲には含めないことが適当であること。

イ 新増設に係る事業所税の課税客体は事業所用家屋の新築又は増築であるが,家屋の全部又は一部が事業所用家屋であるかどうかは,当該家屋の全部又は一部がその構造,設備等において人の居住の用に供するものと認められるもの以外のものであるかどうかにより判定すべきものであること。なお,アの事業所等の範囲に含まれないものの新築又は増築については,課税対象としないことが適当であること。」

ウ 事業所税の納税義務者

「(4) 納税義務者

ア 事業に係る事業所税の納税義務者は,事業所等において事業を行う法人又は個人であるが,いわゆる貸ビル等にあっては,当該貸ビル等の全部又は一部を借りて事業を行う法人又は個人であること。」

(乙5,弁論の全趣旨)

2  前提となる事実(当事者間に争いのない事実)

(1)  原告は,不動産業等を営む会社である。

(2)  原告は,平成11年1月18日,別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を新築した。本件建物は,JR渋谷駅に近い,渋谷区αに所在する,地下2階,地上16階,塔屋1階建てのビルであり,地下1・2階に本件駐車場(面積2094・97平方メートル,駐車スペース71台)が,地上1階ないし3階に事務所部分(3フロア)が,地上4階ないし16階に居住部分(住戸数100戸)がそれぞれ設けられている。

(3)  原告は,平成11年3月17日,被告に対し,新増設事業所床面積が2000平方メートル以下である1766・97平方メートルとして,次のような内容の本件建物に係る新増設に係る事務所税の非課税申告書を提出した。

ア 家屋の延床面積 15226・30平方メートル

イ 新増設事業所床面積 1766・97平方メートル

ウ 非課税新増設事業所床面積 17・86平方メートル

エ 課税標準となる新増設事業所床面積 1749・11平方メートル

(4)  被告は,平成11年9月6日,原告に対し,新増設に係る事業所税の増額更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算金の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい,本件更正処分と併せて「本件各処分」という。)を行った。その内容は,次のとおりである。

ア 家屋の延床面積 15226・30平方メートル

イ 新増設事業所床面積 3900・24平方メートル

(内訳)

a 駐車場床面積 2094・97平方メートル

b 事務所等床面積 1735・25平方メートル

c 共用床面積 70・02平方メートル

ウ 非課税新増設事業所床面積 17・86平方メートル

エ 課税標準となる新増設事業所床面積 3882・38平方メートル

オ 新増設に係る事業所税額 2329万4200円

カ 過少申告加算金額 346万9100円

(5)  原告は,平成11年10月29日,東京都知事に対し,本件各処分について審査請求を行ったが,同知事は,平成14年9月24日,上記審査請求を棄却する旨の裁決を行った。

3  本件各処分の適法性及びその根拠(被告の主張)

(1)  本件更正処分の根拠及び適法性

原告は,新増設事業所床面積が2000平方メートル以下である1766・97平方メートルとして,本件建物に係る新増設に係る事務所税の非課税申告書を提出したものであり,その中には,本件駐車場の床面積2094・97平方メートルは含まれていない。

しかし,本件駐車場は,後記のとおり,新増設に係る事業所税の課税対象である「事業所用家屋」に該当するものであり,その床面積は課税標準に含めて申告すべきものである。

そして,課税標準となる新増設事業所床面積3882・38平方メートルに1平方メートル当たり6000円の税率(地方税法701条の42第2項)を乗じて,事業所税額を算出すると2329万4200円となる(ただし,同法20条の4の2第3項により,100円未満は切り捨て)。

したがって,これと同額の事業所税額に更正した本件更正処分は適法である。

(2)  本件賦課決定処分の根拠及び適法性について

上記(1)のとおり,本件更正処分は適法であり,地方税法701条の61第1項に規定する「正当な理由があると認める場合」にも該当しない。

また,過少申告加算金の額は,本件更正処分による不足税に100分の10の割合を乗じて得た金額と,上記処分による不足税額から50万円を差し引いて算出した額に100分の5を乗じて算出した加重部分を加えて算出した金額346万9100円(ただし,同法20条の4の2第5項により,100円未満は切り捨て)となる。

したがって,これと同額の無申告加算金を賦課した本件賦課決定処分は適法である。

4  当事者の主張

(原告の主張)

本件駐車場は,以下のとおり,新増設に係る事業所税の課税物件である「事業所用家屋の新築」にいう「事務所用家屋」には当たらないから,本件駐車場が「事業所用家屋」であることを前提としてされた本件各処分は違法である。

(1) 本件駐車場が「人の居住の用に供するもの」であること

ア 新増設に係る事業所税の課税物件である「事務所用家屋の新築」にいう「事業所用家屋」とは,①家屋の全部又は一部で,かつ,②人の居住の用に供するもの(以下「居住用施設」という。)以外のものをいうところ,当該家屋の全部又は一部が事業所用家屋であるかどうかは,当該家屋の全部又は一部がその構造,設備等において人の居住の用に供するものと認められるもの以外のものであるかどうかにより判定すべきものである(本件通知第九章第三節第3項イ)。

そして,本件のように,賃貸マンションに設置される駐車場については,一戸建ての家屋に併設される駐車場とは異なり,居住部分に隣接して設置することはできないことに照らせば,当該駐車場が「その構造,設備等において人の居住の用に供するもの」に当たるかどうかの判断に当たっても,当該駐車場が居住部分である家屋と接着しているかという物理的一体性の観点からではなく,当該駐車場が居住部分の居住者の用に供されるか否かの観点から決するべきであり,具体的には,当該駐車場が居住部分に併設されていると評価でき,かつ,当該駐車場については居住者のみが利用できる場合には,居住部分の一部というべきであり,居住用施設に当たるものと解すべきである。

イ 本件建物の居住部分と本件駐車場とは,居住者専用の直通エレベーターが設置されているが,地上1階から3階までに設置されている事務所部分(原告の事務所が入居している。)と本件駐車場との間には直接の連絡手段がなく,まさに本件駐車場は構造上も居住者のために設置されたということができること,原告と訴外三井不動産住宅リース株式会社(以下「三井不動産住宅リース」という。)との間で締結された全居住部分,本件駐車場及び屋外駐車場の賃貸借契約及び管理委託契約において,居住部分の転借人(以下「居住者」という。)のみに本件駐車場の各駐車スペースを賃貸することが約されており,実際に,同社は,居住者以外に本件駐車場を賃貸していない。

これらのことからすれば,本件駐車場は,建築当初から現在に至るまで居住部分のみからのアクセスが可能な構造であり,居住者のみの使用に供されており,また,駐車スペースは,現代生活を送るうえで必要な車両を確保するうえで不可欠な要素であることからすれば,本件駐車場は,居住部分の一部というべきであって,「居住用施設」に当たると解すべきである。

ウ なお,東京高等裁判所平成4年2月26日判決(行政事件裁判例集43巻2号254頁)は,「人の居住の用に供する」とは,特定の者が継続して生活の本拠として居住の用に供することを意味するものと解すべきであるとし,当該家屋が居住用にも事業所用にも利用できる構造,設備等を備える場合においては,①建物全体の構造,②地理的条件,③建築主の建築目的等を総合勘案していずれが主たる目的であるかよって判断すべき旨判示している。

本件においては,①の要件(建物全体の構造)については,前記イのとおりであり,本件建物が渋谷区βという場所柄から周囲に月極等の駐車場を確保しにくい場所に立地しており,本件建物の建築主である原告の方で居住者のために駐車スペースを用意する必要があったこと,居住者も当然駐車スペースを確保することを望むであろうから,原告の方で居住者のために安全かつ快適な駐車スペースを提供することを基本方針として,地域住民からの賃貸要請を拒絶して本件駐車場を建築した経緯があったことからすれば,前記の②の要件(地理的条件)及び③の要件(建築者の建築目的)も充たしているから,本件駐車場は,居住者の居住の用に供するためのものということができ,上記裁判例の基準によっても,居住用施設に当たるものと解すべきものである。

(2) 被告の後記主張に対する反論等

ア 「事業所用家屋」の認定に当たって事業性を考慮したことの誤り

被告は,新増設に係る事業所税の課税対象である「事業所用家屋」の認定に当たって,①家屋の全部又は一部で,②居住用施設以外のものであること,という地方税法上の要件に加え,更に③そこで継続して事業が行われるであろうと認められるもの,という要件(以下「事業性の要件」という。)を加えるところ,本件においては,本件駐車場が三井不動産住宅リースに賃貸されている事実を不当に重視し,上記事業性の要件を充たすことを強調して,「事業所用家屋」に該当すると認定した誤りがある。

そもそも地方税法は,「人の居住の用に供するもの」(居住用施設)を「事業所用家屋」の概念から除外しているからすれば(同法701条の31第1項7号),家屋の使用者にとって当該家屋の一部の構造及び設備等が居住の用に供するものであれば,それが賃貸借など事業の対象であっても「事業所用家屋」には該当せず,事業所税の対象としないと解するのが素直な解釈であって,事業性の要件を「事業所用家屋」の要件に加えること自体が前記法の趣旨に反している。

イ 被告の上記認定基準が本件通知に反していること

a 本件通知の趣旨及びその解釈について

本件通知は,前記のとおり,①「事業に係る事務所税の納税義務者は,事業所等において事業を行う法人又は個人であるが,いわゆる貸ビル等にあっては,当該貸ビル等の全部又は一部を借りて事業を行う法人又は個人であること。」と定め,併せて②上記「事業所等」の範囲については,「自己の所有に属するものであるか否かにかかわらず,事業の必要から設けられた人的及び物的設備であって,そこで継続して事業が行われる場所をいうものであること」と定めることから(第九章第三節第3項ア及び第一章第一節五),当該貸ビル(の全部又は一部)については,当該貸ビルの賃貸人の「事業所等」ではなく,当該貸ビルを借りてその場所で事業を行っている主体の「事業所等」に該当することとなり,当該借主がその場所で事業を行わない場合,当該貸ビル(の全部又は一部)は「事業所等」に該当しないこととなる。

そして,本件通知は,増設に係る事業所税について,前記「事業所等の範囲に含まれないものの新築又は増築については,課税対象としないことが適当であること」とも規定する(第九章第三節第3項イなお書)。

これら上記各規定からすれば,本件通知は,当該貸ビルの借主がその場所で事業を行わない場合には,かかる賃貸部分については新増設に係る事業所税の課税対象とはしないことを適当とするものと解される。

b 本件でのあてはめ

そうすると,本件通知は,賃貸マンションに設置されている駐車場についても同様に解すべく,本件においては,原告は三井不動産住宅リースを通じて本件建物の居住部分の居住者に本件駐車場を賃貸しているのであるから,賃貸の主体である原告にとって本件駐車場が「事業所等」に該当することはないし,他方,借主である上記居住者にとっても,それらの者が何らかの事業をするわけではないから,「事業所等」に該当することはなく,新増設に係る事業所税の課税対象とすべきではないという結論になる。

なお,この結論は,旧自治省及び横浜市が示していた基準から導かれる結論と同様であり,原告の上記主張が本件通知の趣旨に適うことを裏付けるものである。

(被告の主張)

本件駐車場は,以下のとおり,新増設に係る事業所税の課税物件である「事業所用家屋の新築」にいう「事業所用家屋」に当たるものであり,これを前提としてした本件各処分に違法はない。

(1) 本件駐車場は,居室部分から独立しており,効用上の一体性が認められないこと

ア 事業所用家屋と居住用施設の区別基準について

当該家屋の全部又は一部が「事業所用家屋」であるかどうかは,当該家屋の全部又は一部がその構造,設備等において人の居住の用に供するものと認められるもの以外のものであるかどうかにより判定すべきものである(本件通知第九章第三節第3項イ)。

そして,「人の居住の用に供する」とは,特定の者が継続して生活の本拠として居住の用に供することを意味するものと解すべきであるから,「人の居住の用に供するもの」(居住用施設)といえるためには,当該家屋の全部又は一部が,その構造,設備等の客観的な面からみて特定の者が継続して日常生活を行う場所と認められる場所でなければならないというべきであり,具体的には,人が日常生活を営むために必要な居間,寝室,台所,洗面所及び浴室等の設備を備えた居室部分,又はかかる居室部分に付属し,居室部分と効用上一体をなしており,それ自体では独立した意味を有しないと評価されるものが「居住用施設」に当たると解すべきである。例えば,「一戸建て家屋に組み込まれた車庫」や「別棟の物置」などは,これに含まれるということができる。

イ 被告における「事業所用家屋」の認定基準について

a 事業所税の趣旨

事業所税は,事業所等が集積利益を求めて大都市に集中して都市機能が低下するのに伴い,当該地方自治体に新たな行政需要が発生することから,その財政需要を充たすために創設されたものであり,新増設に係る事業所税は,事業所等として利用するであろう事務所・事業所等家屋の新増設により将来発生するであろう財政需要に備えて税負担を求める趣旨であるから,新増設に係る家屋と企業活動の存在,すなわち事業性とは密接不可分の関係にある。

b 被告における「事業所用家屋」の認定基準について

かかる事業所税の趣旨を受けて,被告は,新増設に係る事業所税の課税対象である「事業所用家屋」の認定につき,①家屋の全部又は一部で,②居住用施設以外のものであること,という地方税法上の要件に加え,更に③そこで継続して事業が行われるであろうと認められるもの(事業性の要件。現に事業が行われているか否かは問わない。)を考慮して認定している。

ウ 本件でのあてはめ

①本件駐車場は,本件建物の地下1・2階にあって,その駐車場面積は約2094・97平方メートル,地下駐車場総台数71台という大規模な駐車場であり,その規模,客観的構造,設備,位置関係から,本件建物の居室部分から完全に区別された独立したマンションの一区画をなしており(構造上の独立性),②駐車場という独立した用途に供することができるスペースであること(利用上の独立性)にかんがみれば,本件駐車場は,社会通念上ないし取引観念上独立した家屋として評価でき,居室部分と効用上の一体性をなしているとはいえない以上,本件駐車場がその構造,設備等において「人の居住の用に供するもの」とはいえない。

そうすると,被告の前記認定基準に照らしても,前記①②の要件を充たし,かつ,原告は,本件建物の完成した平成11年1月,三井不動産住宅リースに本件駐車場を賃貸し,同社は居住者にこれを賃貸しているのであるから,営利を目的とした,継続した事業活動が行われているということができ,③(事業性)の要件も充たしており,本件駐車場を事業所用家屋と認定したことに違法はない。

(2) 原告の主張に対する反論

ア 本件駐車場が居住部分の一部と評価されるとの主張について

原告は,本件駐車場の設置目的や居住部分の居住者のみが本件駐車場を利用できる契約形態になっていることを挙げて,本件駐車場が居住部分の一部と評価される旨主張するが,上記のとおり,「人の居住の用に供するもの」であるかどうかは,当該家屋の構造,設備等客観的な観点から決せられるものであって,駐車場の設置目的や利用者が誰であるかなどの観点から決せられるものではない以上,原告の上記主張には理由がない。

イ 本件駐車場が主として人の居住するための施設であるとの主張について

原告は,本件駐車場につき,前記東京高等裁判所平成4年2月26日判決の判示する「居住用施設」に該当するための3要件を充たすから,「居住用施設」に当たると解すべきと主張する。

しかしながら,上記判決は,(当該家屋が)「居住用にも事業所用にも利用できる構造,設備等を備える場合においては,建物全体の構造・地理的条件・建築者の建築目的等を総合勘案していずれが主たる目的であるかによって判断すべきである。」と判示するところ,本件駐車場のようにその構造,設備等において人が日常生活を送る場所とは明らかに評価できないものについては,上記各要件の該当性を検討するまでもないのであって,原告の上記主張には理由がない。

ウ 事業用家屋と認定したことの誤りの主張について

前記のとおり,被告は,事業所税の趣旨を踏まえて,事業所用家屋の認定基準に事業性の要件を加えたものであり,被告の認定基準それ自体に違法はなく,また,事業性の要件を充たすことを殊更に強調して前記①②の要件をも充たすと判断したものではない。このような被告の認定基準は,<ア>事業所税につき,路外駐車場についての非課税を定める規定(同法701条の34第3項27号),事業所税の課税標準の特例を定める規定(同法701条の41)から,原則として駐車場が事業所税の対象となることを前提としていること,<イ>事業所税の課税対象となる事業のうち,駐車場業(同法72条5項13号)については,「対価の取得を目的として,自動車の駐車のための場所を提供する事業」というと解されていること(「地方税法の施行に関する取扱について(都道府県税関係)」昭和29年5月13日自乙府発第109号各都道府県知事宛自治庁次長通達。ただし,平成12年4月1日自治府第33号による改正前のもの)に照らしても妥当なものである。

エ 本件通知との整合性について

a 事業に係る事業所税は,事業所等(事務所又は事業所)において法人又は個人の行う事業を課税対象とし,法人の場合は毎事業年度,個人にあっては毎年課税されるため(地方税法701条の46,701条の47),同税の課税対象である「事業所等」の認定に際しては,法人の場合は,事業年度ごとに当該場所で事業が行われているかどうかの現況によって判定することになるが,一方,新増設に係る事業所税の場合,家屋の新増設の際に1回に限り課されるものにすぎないから,「事業所用家屋」の認定に当たっても,事業に係る事業所税におけるような認定方法は妥当しない。

そうであるとすれば,本件通知(第九章第三節第3項イ)は,新増設に係る事業所税の課税対象である「事業所用家屋」の認定方法を定めるところ,その本文において,構造,設備等から客観的に判定すべきものとしたにもかかわらず,それに付加された「なお書」で,事業に係る事業所税と同様に,実際に事業が行われているかどうかその現況を調査したうえでなければ判定できない事業所等に該当するか否かの判断をまず行い,それに該当しなければ,新増設に係る事業所税の課税対象としないように取り扱うことを要求したものとは解せられない。

b そうすると,同項イなお書については,新増設に係る事業所税の課税対象は「事業所用『家屋』」であるところ,同項イ本文において,当該家屋が「事業所用家屋」と判定されたもののうち,同項ア(事業に係る事業所税の課税客体についての定め)で事業所等の範囲に含まない「家屋」,すなわち,「建設業における現場事務所等臨時的かつ移動性を有する仮設建築物でその設置期間が1年未満のもの」の新築又は増築について課税対象としないことが適当であると定めたものと解されることとなる。

c 上記の解釈に照らせば,本件駐車場は,同項アなお書によって課税対象にすべきではない「建設業における現場事務所等臨時的かつ移動性を有する仮設建築物でその設置期間が1年未満のもの」の新築又は増築ではない以上,本件駐車場を新増設に係る事業所税の課税対象としても本件通知には反しない。

d なお,原告は,本件駐車場は居住部分の居住者に賃貸されているところ,上記居住者はそこで事業を行っていないから,事業に係る事業所税における「事業所等」に当たらず,ひいては新増設に係る事業所税における「事業所等」にも当たらない旨の主張をする。

しかしながら,事務所部分の賃貸と違い,駐車場の賃貸の場合は,駐車場業者が当該駐車場のスペースを利用者に提供し,その管理を行うものであり,利用者は,単に駐車スペースを利用するにすぎないのであるから,有料駐車場は駐車場業者の「事業所等」に当たると解され,原告の上記主張にはそもそも理由がない。

e また,原告は,被告の認定基準及び本件認定は特殊であって,旧自治省又は他の地方公共団体で採用されている一般的基準とは異なり,合理性がない旨主張するが,原告主張に係る一般的基準の存在は認められないし,被告の前記認定基準及び本件認定が地方税法及び本件通知に反することがないことは上記のとおりであり,原告の上記主張には理由がない。

5  争点

以上によれば,本件における主たる争点は,本件駐車場が,新増設に係る事業所税の課税物件である「事業所用家屋の新築」にいう「事業所用家屋」に該当するか否かである。

第3争点に対する判断

1  事業所用家屋と居住用施設との区別基準について

事業所税は,指定都市等が都市環境の整備及び改善に関する事業に要する費用に充てるために課する目的税であり(地方税法701条の30),「事業所等において法人若しくは個人の行う事業」又は「事業所用家屋の新築若しくは増築」に対して課されるものである(同法701条の32第1項)。

そして,上記課税物件のうち「事業所用家屋の新築若しくは増築」にいう「事業所用家屋」とは,「家屋の全部又は一部で人の居住の用に供するもの以外のもの」をいうものとされている(同法701条の31第1項7号)が,事業所用家屋の新増築によって新たな行財政需要がもたらされることに着目し,新築若しくは増築があった場合に1回に限り課されるものであることからすれば,上記の当該家屋の「全部又は一部が人の居住の用に供するもの以外のもの」であるか否かは,新築若しくは増築の時点における建築主の使用目的にかかわらず,当該家屋の構造,設備等の客観的状況に照らして判断すべきものと解すべきである。

また,居住部分である家屋に付設された施設についても,上記に説示したとおり,原則として,当該施設の客観的状況に照らして判断すべきであるが,それ自体では「人の居住の用に供するもの」とは評価されない場合であっても,その構造,設備,規模及び居住部分との位置関係などの客観的状況に照らして,居住部分と効用上一体をなし,かつ,居住部分に付属してはじめて意味を持ち,居住部分である家屋の一部と評価されるときには,当該施設も「人の居住の用に供するもの」に当たるというべきである。

なお,単に当該施設が居住部分の居住者の用に供されていることのみをもって居住部分の一部と扱い,上記税の課税対象外とする見解については,上記税の趣旨及びその目的に照らし,採用できない。

そこで,以上のような前提に立って,本件駐車場が「人の居住の用に供するもの以外のもの」であるかどうかにつき検討することとする(なお,新増設事業所床面積が免税点である2000平方メートル以下であるかどうかの判定は,新増設に係る事業所税の申告納付をすべき日(当該新築又は増築した日から2月以内)における当該家屋の現況をもってされるべきところ(同法701条の43第4項),本件建物の建築日は平成11年1月18日であるから(前記前提事実),その判定基準時は同年3月18日となる。)。

2  本件建物,本件駐車場の構造及び利用状況等について

前記前提事実と証拠(甲3ないし10,乙2ないし4,7)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

(1)  本件建物及び本件駐車場の構造等について

ア 本件建物は,JR渋谷駅に近い,渋谷区αに所在する,地下2階,地上16階,塔屋1階建てのビルであり,原告を建築主として,平成11年1月18日,用途を賃貸共同住宅及び事務所として新築された。

本件建物は,地下1・2階に本件駐車場が,地上1階ないし3階に事務所部分(3フロア)が,地上4階ないし16階に居住部分(住戸数100戸)がそれぞれ設けられている。

イ 本件駐車場の面積は,2094・97平方メートルであり,駐車総台数(スペース)は71台である。

ウ 本件建物は,1階に事務所部分と居住部分の出入口がそれぞれ別個に設けられており,事務所部分と居住部分とは自由には往来できない構造となっている。

本件建物には合計4基のエレベーターが設置されており,そのうちの2基は居住者用のエレベーターであり,本件駐車場の地下1・2階,1階及び居住部分(4階ないし16階)までの各階に停まるが,事務所部分のある2,3階には停まらず,他の1基は事務所用のエレベーターであり,1階ないし3階専用であって本件駐車場には通じておらず,残りの1基は非常用エレベーターである。

なお,事務所部分と本件駐車場とは,階段によって往来することが可能である。

(2)  本件駐車場の利用状況等について

ア 原告は,平成11年1月6日付けで,三井不動産住宅リースとの間で,居住部分,事務所部分の各賃貸借契約(以下,居住部分のものについては「本件第1契約」,事務所部分のものについては「本件第2契約」といい,併せて「本件建物賃貸借契約」という。),本件建物の清掃等に関する管理委託契約をそれぞれ締結した。

なお,各賃貸借契約において,各貸室と駐車場スペースをそれぞれ一体として賃貸する内容になっており,三井不動産住宅リースが居住者及び事務所利用者以外の第三者に転貸することを禁じる旨の約定はない。また,本件第1契約については,住戸部分97戸及び賃貸住戸用の駐車場として本件駐車場のうち68台分の区画を賃貸対象にするとの約定がされ,本件第2契約については,事務所部分を2フロア,賃貸事務所用の駐車場として地上1階部分の駐車場のうち5台分の区画を賃貸借の対象にするとの約定がされている。また,別途同日付けで締結された本件駐車場についての賃貸借契約(以下「本件第3契約」という。)において,駐車場スペースにつき73台分を賃貸対象とするが,これは本件建物賃貸借契約に付随して締結されるものであり,本件建物賃貸借契約が終了した場合には本件第3契約も自動的に終了する旨の規定(16条)が設けられた。

なお,原告の作成した居住部分の入居者向けのガイドブック(甲7)には,駐車場に駐車できるのは契約者の車両のみであることの記載がされている。

イ 三井不動産住宅リースは,平成15年4月16日現在で,本件第1ないし第3契約に基づき,居住部分の居住者に対し,58台の駐車スペースを賃貸している。

3(1)  本件駐車場は,本件建物の地下1・2階に設けられた駐車スペースであり,それ自体では居住用施設といえないことは明らかであるので,本件駐車場が,その構造,設備,規模及び居住部分との位置関係などの客観的状況に照らして,居住部分と効用上一体をなし,かつ,居住部分に付属してはじめて意味を持つものであるか否かを検討する。

(2)ア  原告は,本件駐車場が居住部分の居住者専用の駐車場であり,同居住者以外の者の利用が想定されていないことから,本件駐車場は居住部分の一部と評価されるべきであると主張するが,「人の居住の用に供するもの」であるかどうかの判断は,当該施設等の構造,設備,規模及び居住部分との位置関係などの客観的状況に照らして判断されるべきものであって,本件駐車場が,居住者専用駐車場として設けられたということだけで当然に居住部分の一部として評価すべきものとするのは相当でないことは前記のとおりである。

イ  かえって,前記2に認定したところによれば,本件駐車場は,本件建物の地下1・2階に設けられたものであって,本件建物の4階以上に設置されている居住部分とは相当程度離れた位置にあり,構造上居住部分とは明確に区別されていること,本件駐車場は,その面積は2094・97平方メートルに及び,70台を超える駐車区画を想定した大規模な駐車場であること,本件駐車場は,4階以上に設置されている居住部分との間は,専ら2基のエレベータによって連絡されているものであり,また,事務所部分からも,階段等を通じて連絡していることなどの客観的状況が存在する。

ウ  また,本件第1契約及び本件第3契約の内容からすれば,これらの契約において賃貸住戸用の駐車場とされなかった駐車区画は専ら住戸部分の駐車場として利用されるものとはいえないし,賃貸住戸用の68台分の駐車区画についても,それぞれの区画が賃貸住戸97戸のうちのいずれの駐車場として利用されるかは,三井不動産住宅リースと個々の居住者との契約によって初めて定まるものであると解される。

エ  したがって,これらの事実に照らせば,本件駐車場は,一戸建て住宅に組み込まれた車庫などとは異なり,居住部分と効用上一体をなすとはいえないし,居住部分に付属してはじめて意味を持つものであるということも困難であって,本件駐車場は「人の居住の用に供するもの以外のもの」に当たるというべきであるから,新増設に係る事業所税の課税物件である「事業所用家屋の新築」にいう「事業所用家屋」に該当するものと認められる。

(3)  ちなみに,原告は,本件通知(第九章第三節第3項ア及びイ)の趣旨に照らせば,当該家屋が事業に係る事業所税の課税対象である事業所等に当たらない場合には,新増設に係る事業所税の課税対象にもならないと解すべきところ,本件駐車場においてその借主である本件建物の居住者が事業を行わない以上,本件駐車場は,事業に係る事業所税の課税対象ではなく,新増設に係る事業所税も課されるべきではない旨主張する。

しかし,事業に係る事業所税と新増設に係る事業所税とは,その課税物件,納税義務者,納税義務の成立時期をも異にするものであって,事業に係る事業所税は,法人にあっては毎事業年度,個人にあっては毎年度課されるため,同税の課税に当たっては,当該場所で事業が継続しているかどうかの判定が必要とされるが,新増設に係る事業所税は,事業所用家屋の新増築が行われた際に1回のみ課されるにすぎず,自ずから課税物件の認定方法も異なるものであるから,事業に係る事業所税の課税対象である事業所等でないことから直ちに新増設に係る事業所税の課税対象にもならないと解することはできず,原告の上記主張は理由がない。

また,原告は,賃貸駐車場における新増設に係る事業所税の課税についての基準について,被告の上記基準が旧自治省等の基準とは異なる旨主張するが,これらを認めるに足りる証拠はない。

(4)  以上によれば,被告が本件駐車場につき「事業所用家屋」と認定した点につき違法な点はなく,これを前提としてした本件各処分は適法である。

第4結論

以上の次第で,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 石井浩 裁判官 寺岡洋和)

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