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東京地方裁判所 平成15年(モ)3215号 決定 2003年4月15日

主文

1  本件移送申立てを却下する。

2  申立費用は申立人らの負担とする。

理由

1  申立ての趣旨及び理由は別紙のとおりである。

2  申立人らは、相手方の請求債権が株式会社中京銀行(以下「中京銀行」という。)からの譲受けに係るものであり、中京銀行と申立人ケーエルビー株式会社(以下「申立人会社」という。)との間で、上記債権の弁済場所を奈良市三条町<番地略>所在の同銀行奈良支店とする取扱いが存したことを根拠に、本案事件の管轄裁判所は上記義務履行地を管轄する奈良地方裁判所であり、当裁判所はその管轄を有しない旨主張して、奈良地方裁判所への移送を申し立てている。

(1)  しかしながら、一件記録によれば、中京銀行は、平成一四年九月三〇日、上記債権を相手方に譲渡したとして、同日付けでその旨を申立人会社に通知し、同通知は同年一〇月二日、申立人会社に到達したことが認められる。このように、本案の訴え提起時において、相手方が既に中京銀行から上記債権の譲渡を受け、その対抗要件を具備していたのであるから、同債権の弁済場所は、申立人らと相手方との間に別段の意思表示が存しない限り、相手方の現時の住所(民法四八四条)となることは当然の事理である。

申立人らは、旧債権者たる中京銀行と申立人会社との間の弁済場所の定めが当然に譲受債権者たる相手方をも拘束するかのような主張をするが、明らかに失当である。殊に、中京銀行は、上記債権譲渡通知において、以後の債務に関する問い合わせ、支払等は相手方の本店所在地の担当者に対し直接行うよう依頼していることが認められ(甲5の1、2)、同通知に対し申立人らが格別異議を述べた形跡も窺われないことからすれば、申立人らは上記弁済場所等の変更を容認していたものとみるほかない。

(2)  なお、申立人らは、中京銀行が申立人会社と取り交わした銀行取引約定に同取引に関する訴訟の管轄裁判所を中京銀行本店所在地又は同銀行奈良支店所在地を管轄する裁判所とする約定が存したこと(甲1)をもって、本案事件の合意管轄の根拠であるかのように主張する。

しかし、中京銀行の相手方に対する上記債権譲渡に伴い、申立人会社との上記管轄合意が当然に相手方と申立人らとの間に承継されると解すべき理由はなく、一件記録によっても、申立人らと相手方との間で、改めて同様の管轄合意がされたことを認めるべき証拠はない。よって、申立人らの上記主張も採用し得ない。

(3)  以上のことからすれば、本案事件の請求債権の義務履行地は相手方の肩書住所地にほかならず、同地を管轄する当裁判所が本案事件の管轄を有するというべきである。したがって、申立人らの管轄違いを理由とする本件移送申立ては理由がない。

3  また、申立人らは、本案事件の審理に申立人西島謹二(以下「申立人西島」という。)の本人尋問等を要するところ、その住所地からすれば、審理の遅滞を避けるため奈良地方裁判所への移送が必要である旨主張する。

一件記録によれば、本案事件は、相手方が、中京銀行から同銀行の申立人会社に対する銀行取引約定に基づく債権、申立人西島に対する連帯保証債権(申立人西島は、申立人会社の代表取締役であり、相手方は同申立人の署名・押印の存する保証書(甲2)を提出している。)を譲り受けたとして、申立人らに対し各自上記各債権の内金一六〇〇万円の支払を求めている事案であり、本件申立理由からすると、想定される争点は、申立人西島の保証責任の有無である。

このように、本案事件は、比較的簡明な事案であって、その唯一ともいえる争点の審理に格別長期間を要するものではなく、多数の証人尋問等を必要とするものでもない。そうすると、仮に本案事件の審理に奈良市に住所地を有する申立人西島の本人尋問等を要したとしても、そのことが審理の著しい遅滞を招くとは認め難く、上記のような事案において、自らの保証責任を争う申立人西島が、本人尋問等のため当裁判所への出頭を余儀なくされたとしても、相手方の訴訟費用等の負担に比し同申立人に不相当に過大な負担を強いるものとはいえない。他に本件事件を奈良地方裁判所に移送する必要性を首肯すべき事情は見出し難い。

4  以上の次第であり、本件移送申立ては理由がないのでこれを却下することとし、主文のとおり決定する。

別紙 <省略>

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