東京地方裁判所 平成15年(ワ)11332号 判決 2005年1月25日
本訴原告(反訴被告)
X
訴訟代理人弁護士
中下裕子
本訴被告(反訴原告)
Y1
訴訟代理人弁護士
河原崎弘
本訴被告
株式会社Y2
代表者代表取締役
A
訴訟代理人弁護士
藤勝辰博
主文
1 本訴被告株式会社Y2は,本訴原告(反訴被告)に対し,140万1800円及びこれに対する平成15年6月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 本訴原告(反訴被告)のその余の請求を棄却する。
3 本訴被告(反訴原告)Y1の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,本訴については,本訴原告(反訴被告)に生じた費用の4分の1と本訴被告株式会社Y2に生じた費用を同被告の負担とし,本訴原告(反訴被告)に生じたその余の費用と本訴被告(反訴原告)Y1に生じた費用を本訴原告(反訴被告)の負担とし,反訴については,本訴被告(反訴原告)Y1の負担とする。
5 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1 本訴
(1) 本訴被告Y1は,本訴原告に対し,500万円及びこれに対する平成15年6月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 本訴被告株式会社Y2は,本訴原告に対し,256万8116円及びこれに対する平成15年6月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 反訴
反訴被告は,反訴原告に対し,500万円及びこれに対する平成15年5月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,旅行ツアーの派遣添乗員であった本訴原告(反訴被告。以下,「原告」という。)が,派遣先会社の社員である本訴被告(反訴原告)Y1に対し,セクシャルハラスメント等による不法行為に基づく損害賠償を求めるとともに,派遣元会社である本訴被告株式会社Y2(以下,「被告会社」という。)に対し,職場環境配慮義務違反及び不当解雇による不法行為に基づく損害賠償を求め(本訴),被告Y1が,原告に対し,不当訴訟等による不法行為に基づく損害賠償を求めた(反訴)事案である。
1 争いのない事実
(1) 当事者
ア 被告会社は,主に旅行ツアーの添乗員の派遣を業とする株式会社である。
イ 原告は,被告会社との間で,平成9年3月24日,雇用契約である派遣基本契約(以下,「本件基本契約」という。)を締結し,このほか個々の派遣業務ごとに雇用契約を締結して海外旅行の添乗業務等に従事していたが,平成13年ころからは,原告の希望により,主に株式会社a社(以下,「a社」という。)の首都圏メディア販売事業部(以下,「bメディア」という。)が企画するパッケージツアーの添乗員として派遣されるようになった。
ウ 被告Y1は,a社の社員であり,平成13年4月当時,bメディアで勤務していた。
エ 原告及び被告Y1は,平成13年4月19日にbメディアで行われた打合せの席で知り合ったものであり,当時それぞれ結婚していた。
(2) セクハラ委員会による裁定
平成13年11月9日,原告は,a社のセクハラ防止対策委員会(以下,「セクハラ委員会」という。)に対し,被告Y1を被申立人とする申立てを行い,同委員会は,平成14年6月12日付けで,被告Y1が原告に対してセクシャルハラスメントを行った事実等を認定した「セクハラ苦情裁定書」を作成した。
その後,被告Y1はa社社内で懲戒処分に付され,他の部署に配置転換された。
(3) 本件基本契約の解除
被告会社は,平成14年10月31日,本件基本契約を解除して原告を解雇(以下,「本件解雇」という。)した。
2 争点
(1) 被告Y1の原告に対する不法行為の成否
(2) 原告の被告Y1に対する不法行為の成否
(3) 被告会社の原告に対する不法行為の成否
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(被告Y1の原告に対する不法行為の成否)について
(原告の主張)
ア セクシャルハラスメント
原告は,平成13年5月1日ころから被告Y1に度々食事に誘われ,断り切れずに同月18日午後4時ころに恵比寿で同被告と会ったところ,同被告は,歩き始めるなり原告の腰や背中に手を回すなどし,自分がa社社内で相当な権限を持っているような発言をしたり自分が独身であることを強調するなどした。また,被告Y1は,同日午後5時45分ころから同日午後6時ころまでの間,レストランの外で開店を待ちながら,原告の肩を突然片手でつかみ,壁側に押しつけてキスをし,原告が抵抗してもなお,その肩を抱こうとした。原告は,食事中,自分が結婚しており恋愛対象にはならないなどと言って被告Y1を説得したが,同被告は「自分と付き合うことはXさんのメリットにもなる。」などといって聞かなかった。食事が終わり,レストランを出て周囲に人がいなくなった所で,被告Y1は,原告に抱きついてキスをしようとし,逃げ出そうとした原告の背後から更に抱きついて,原告の着ていたノースリーブのワンピースの左脇から手を入れて左乳房を触り,原告が抵抗すると,「Xちゃんのここがドキドキしているか調べるだけ。」と言って,原告の右耳をなめた。原告が被告Y1を突き飛ばして逃げると,同被告はなおも追いかけて,「僕のヴィーナス。」などと言いながら原告の尻を触った。
その後,被告Y1は原告に対して1日おきに携帯電話やメールで連絡をするようになり,同月24日には,また会って欲しいと迫り,「これから先も旅物語の仕事を続けるなら,険悪な関係にならないほうが良いでしょう。」などと言うので,原告は断り切れずに同月25日に同被告と会い夕食をともにした。
同年6月12日,原告は,被告Y1から次のツアーの資料を持っていくという口実で食事に誘われ,同月13日に同被告と会い夕食をともにしたが,その後,同被告が原告をホテル街に連れて行こうとするので,驚いた原告が,bメディア添乗員課のB課長に訴えるなどと言って抵抗したところ,同被告は,「そんなことしても,Xさんの立場が悪くなるだけだよ。次も僕のコース行くんでしょ。仕事できなくなっちゃうよ。」「Bなんか,君の言うことより僕の言うことを信じるに決まっているし,君の会社だってa社には手を出せないでしょ。」などと言って原告を脅迫し,その手首をつかみながら半ば引きずるようにして30分ないし40分間歩き回った挙げ句,原告を強引にホテルに連れ込んだ。ホテルの室内において,被告Y1は,原告に対し,テーブルの上に置いていた紙袋を床に投げつけるなどして脅迫した上で,原告をベッドに押し倒してキスをしたり,胸をまさぐったり,服を脱がせるなどの暴行を加え,生理中だからと拒絶する原告の頭を押さえつけた上で,自分の性器を原告の口に押しつけて口の中に射精した。
被告Y1は,その後もa社社内のエレベーターや階段の踊り場等で原告に対して度々キスをしたり胸や尻を触るなどした。
以上の一連の被告Y1の行為は,派遣添乗員に対する主催旅行会社の担当者という仕事上の優越的地位を濫用して,原告の意に反する屈辱的な性行為を強要するとともに,原告を脅迫して自身の行為を上司や会社に告発しないよう計らったものであって,原告に対するセクシャルハラスメントとして不法行為に該当する。
イ 脅迫
上記アのセクシャルハラスメント以後,原告が被告Y1に対して「黙って我慢するわけにはいかない。」などと訴えたところ,同被告は「じゃあ誰に言うの。Bだったらきっと,Xさんのほうが出入りできなくなるんじゃない。」と言い,また,原告が被告会社の上司やa社のB課長に上記アのセクシャルハラスメントについて相談する旨告げると,同被告は「Xさんの上司だってBには何も言えないよ。Bに言ったところで,あの人は事なかれ主義だからXさんがbメディアの仕事ができなくなると思うよ。」と言って,原告を脅迫した。
ウ 侮辱的な噂及び名誉毀損
被告Y1は,平成13年8月ころ,a社社内において,「Xさんに言い寄られた。」と触れ回った。
また,同年9月ころ,B課長宛てに,「被告Y1らしき人物が階段で度々女性とキスをしているのを見かけるが,場所をわきまえて欲しい」などという内容の手紙が届いたが,これについて被告Y1は原告が書いたものだという虚偽の事実をB課長に述べた。
エ 損害額
原告は,被告Y1による上記アないしウの不法行為により,多大な精神的苦痛を被ったものであり,これを敢えて金銭により慰謝するならば少なくとも500万円を下回るものではない。
オ よって,原告は,被告Y1に対し,不法行為に基づく損害賠償として慰謝料500万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成15年6月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告Y1の主張)
ア セクシャルハラスメント
被告Y1が,平成13年5月18日に原告と腕を組んで歩いたりキスをするなどしたこと,同月25日に原告と食事をしたこと,同年6月13日に原告とホテルに行き口淫をしてもらったことはあるが,これらはいずれも原告と合意の上でしたことであり,同被告が仕事上の立場を利用して原告に強要したものではなく,むしろ原告が積極的に同被告に迫ってきたのである。
イ 脅迫,侮辱的な噂及び名誉毀損
被告Y1が原告の主張するような行為をした事実はない。
ウ 損害額
争う。
(2) 争点(2)(原告の被告Y1に対する不法行為の成否)について
(被告Y1の主張)
原告は,平成13年6月27日から平成14年2月14日ころまでの間,被告Y1の自宅に無言電話をかけたり(平成13年6月27日以降),自宅(平成13年12月12日,平成14年1月1日,同年2月13日,同月14日)及び勤務先(平成13年8月27日,同年9月11日,同月17日)に架空名義で嫌がらせの手紙を送るなどした上,前記(1)(原告の主張)のとおり,同被告が原告にセクシャルハラスメント等の不法行為を行った旨主張して,平成13年11月9日に同被告の勤務先であるa社のセクハラ委員会に申立てをし,更に平成15年5月21日に本訴を提起した。
しかし,被告Y1は,前記(1)(被告Y1の主張)において述べたとおり,原告に対して不法行為は行っておらず,原告の上記一連の行為こそ同被告に対する不法行為にあたるのであって,これにより同被告が受けた大きな精神的打撃を慰藉するには500万円が相当である。
よって,被告Y1は,原告に対し,不法行為に基づく損害賠償として慰謝料500万円及びこれに対する本訴提起の日である平成13年5月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
(原告の主張)
原告が,被告Y1に対して,平成13年6月27日から平成14年2月12日ころまでの間,同被告の自宅に無言電話をかけたり,自宅及び勤務先に架空名義で嫌がらせの手紙を送るなどした事実はない。
また,原告がセクハラ委員会に申立てをしたこと及び本訴を提起したことは正当な権利行使であり,不法行為にはあたらない。
損害額については争う。
(3) 争点(3)(被告会社の原告に対する不法行為の成否)について
(原告の主張)
ア 職場環境配慮義務違反
(ア) 使用者は,労務遂行に関連して被用者の人格的尊厳を侵しその労務提供に重大な支障を来す事由が発生することを防ぎ,またはこれに適切に対処して,職場が被用者にとって働きやすい環境を保つよう配慮すべき注意義務(以下,「職場環境配慮義務」という。)を負っている。職場におけるセクシャルハラスメントに関する同義務の具体的内容は,雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律21条2項により事業主が配慮すべき事項の指針として策定されている事項,すなわち,<1>就業規則の規定整備,パンフレット作成等事業主の方針を明確化し,その周知,啓発を行うこと,<2>苦情窓口や苦情処理制度を設けるなど,相談,苦情への対応体制を整備すること,<3>セクシャルハラスメントが実際に発生した場合には,事実関係の確認や雇用管理上の措置を講じるなど,迅速かつ適切に対処することであり,使用者が職場環境配慮義務を怠っていないというためには少なくともこれらの措置を講じていることが必要である。
(イ) しかるに,被告会社は,上記指針を1つも履践していないばかりか,逆に,以下のとおり,原告に対する嫌がらせを行い,セクシャルハラスメントに関する原告と被告Y1らとの交渉を妨害していた。
<1> 原告は,平成13年9月21日ころ,被告会社の取締役であるC(以下,「C取締役」という。)に対し,被告Y1からセクシャルハラスメントを受けた事実を告げた。その後,原告がセクハラ委員会への申立てをしようとしたところ,C取締役は,取引先であるa社との関係を悪化させるようなことはできないとの理由で同申立てに関する原告への協力を拒否した。
<2> 被告会社は,以後,原告の希望に反して原告に対する派遣業務の発注(以下,「アサイン」という。)を停止し,平成14年4月にようやくアサインが再開してからも,件数が少ない上,条件の悪い業務ばかりであった。同年6月12日にセクハラ委員会の裁定が行われてからは,a社から被告会社に対して,原告が従前通りにa社の添乗業務を行うことができるようにしてもらいたい旨通知したため,被告会社は,再び原告にa社関係の業務をアサインするようになったが,その際,原告にa社に対してあれこれ言わないことを約束することを求め,さもなくばこの後はa社の業務をアサインしないと脅迫した。しかも,アサインされた業務内容は,添乗員の負担が多大であったり当初の条件と異なる業務であるなど,従前とは異なっていた。
(ウ) 上記のような被告会社の職場環境義(ママ)務違反行為は原告に対する不法行為にあたる。
イ 本件解雇の違法性
本件解雇に至るまでの原告の勤務態度は良好であって,被告会社の主張するような原告の添乗員としての不適格性を窺わせるような事実はいずれも存在しないから,本件解雇は正当な理由を欠く違法・無効なものであり,原告に対する不法行為にあたる。
ウ 損害額
(ア) 逸失利益
<1> 原告は,被告会社のした職場環境配慮義務違反のうち,派遣業務の減少によって,平成14年1月1日から同年10月31日の本件基本契約解除までの間の賃金(69万1100円)が平成12年度(年収120万8900円÷12×10か月=100万7416円)と比較して31万6316円減少したものであり,同額の損害を被った。
<2> 原告は,本件解雇によって,収入がなくなり,少なくとも年収1年分である125万1800円(平成13年度の年収)の損害を被った。
(イ) 慰謝料
原告は,被告会社による職場環境配慮義務及び本件解雇によって,多大な精神的苦痛を被ったものであり,これを敢えて金銭により慰謝するならば少なくとも100万円を下回るものではない。
エ よって,原告は,被告会社に対し,不法行為に基づく損害賠償として,上記ウの合計256万8116円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成15年6月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告会社の主張)
ア 職場環境配慮義務違反の不存在
(ア) 被告会社としては,セクシャルハラスメントについては当事者である原告と被告Y1の言い分がそれぞれ全く異なっていることや,原告が被告会社ではなく被告Y1本人やその上司らと直接交渉していたことから,当事者間の交渉及びセクハラ委員会の審議による解決方法を尊重することとし,その経緯を見守っていたのであり,原告の同委員会への申立てについて反対したり協力を拒否するなどして適切な対応を怠ったことはない。
(イ) 被告会社は,原告から,扶養控除限度額以上の賃金収入があるので年内は仕事を休むとの申出を受けていた。また,原告はセクハラ防止対策委員会への申立て等が大変で添乗業務ができないとも述べており,被告会社もセクハラ委員会の裁定が出ておらず被告Y1がまだ元の部署にいるのに原告を派遣するわけにはいかないと判断していた。さらに,同年9月11日に米国で起きた同時多発テロ以降,被告会社の海外部門の受注が前年比7割減まで落ち込んだ上,その後も不安定な国際情勢の影響で受注が減り,原告のみならず,全ての派遣添乗員に対するアサインが減少していた。
イ 本件解雇の適法性
被告会社が原告ら派遣添乗員に依頼する添乗業務は,旅程(交通手段・宿泊)を正確に管理した上で,参加した旅行者の生命・財産を守り,かつ,旅行者に旅の感動と人生の思い出を演出するという旅行業のサービスの中でも最も難易度の高い専門的業務であり,原告はそのような高度な専門職として被告会社との間で本件基本契約を締結していた。
しかるに,原告は,被告Y1によるセクシャルハラスメントの件が起こる以前から,他の添乗員や派遣先社員との協調性に欠けチームワークを乱すため,大型団体旅行には不向きであり,旅行者からの苦情やトラブルも頻発していた。
また,原告は,平成13年秋以降,精神状態が不安定であり,同年9月27日発のbメディア主催のツアーについて出発前日にキャンセルし,また,平成14年8月11日発のbメディアのツアーの打合せ終了後,「同業務をキャンセルしたい。他社への移籍を考えている。」,「今の状態では同部署の仕事はできない。」などと被告会社に申し入れ,被告会社の説得により同業務については何とか遂行したものの,同年9月に既にアサイン済みであったbメディア主催のツアーの担当を外れることになった。
その後,被告会社は原告にa社前橋支店取扱いの添乗業務を依頼することにしたが,同月9日,原告は翌日出発のツアーについて「聞いていた内容と違う。被告会社を辞めてもいいから仕事は受けられない。」と申し入れ,代わりの添乗員が見つからないことから,被告会社が日当を加算することにして原告に同業務を遂行させたものの,後にa社前橋支店の同ツアー担当社員から被告会社に対して,同社員に対する原告の言動や非協力的態度について苦情が寄せられた。そこで,被告会社は,その件について話し合うために原告と面談する機会を設定したが,原告は「もうa社前橋支店の仕事はしないので誤解が残っても残らなくても支障はないと思う。」旨の文書を被告会社にファクシミリ送信し,上記面談の約束を反故にした。
このように,原告には専門職である添乗員としての適格性が著しく欠けていることから,被告会社は,これ以上原告に添乗業務を依頼すると業務に重大な支障を来すばかりでなく,取引先の信用をも喪失してしまうおそれがあると判断して本件解雇に至ったものであり,本件解雇には正当な理由があるから,適法・有効である。
ウ 損害額
争う。
第3当裁判所の判断
1 争点(1)について
(1) 争点(1)に関する原告の供述(<証拠省略>)の要旨は次のとおりである。
ア 被告Y1と出会って最初の食事の約束をするまでの経緯
平成13年4月19日にbメディアのツアーの打合せで初めて被告Y1と会い,同被告から携帯電話の番号を聞かれたので仕事の関係で必要なのだと思って番号を教えた。この際,被告Y1からも携帯電話の番号を書いた名刺を渡された。
翌20日,被告Y1から携帯電話に連絡があり,仕事のことなど教えてもらいたいのでツアー終了後に食事に付き合って欲しいと言われ,半分社交辞令だと思って承諾した。
5月1日,ツアー終了後の帰着報告の際に被告Y1と会い,その日の食事に誘われたが都合が悪いので断った。この際,被告Y1に求められてメールアドレスを交換した。
同月2日,被告Y1から携帯電話に連絡があり,翌日出発のツアーが終わったら食事に付き合って欲しいと再び誘われた。
同月16日,被告Y1から携帯電話に連絡があり,その日の昼食に誘われたが,先約があったので断った。
翌17日,被告Y1から翌日休暇を取るので午後から会わないかというメールが来たので承諾した。
イ 最初に食事をした5月18日の出来事
5月18日午後4時ころに被告Y1と恵比寿駅のアトレで落ち合った。歩き出した途端に被告Y1が原告の腰に手を回してきたので驚いてやんわりと振り払った。すると被告Y1が今度は背中に手を回してきたが,仕事上の付き合いもあると思うと強く怒ることもできず,以後はなるべく離れて歩くようにした。しばらくして屋外のカフェに入ってお茶を飲んだ際,被告Y1は,自分がa社社内で高く評価されていることや,「使えない添乗員はどんどん切っていく。」などの話をしていた。また,被告Y1は独身であると言っていたが,原告は同被告をあくまで仕事仲間としか考えていないので,誤解がないように自分が結婚していることを話しておいた。午後5時45分ころ,レストランに移動した。レストランは地下1階にあり,午後6時に開店するまで,店の前の階段の踊り場でしばらく待つことになった。この際,被告Y1は急に片手で原告の肩をつかんで壁に押しつけ,キスをしてきた。原告がこれを押しのけて「やめてください。」と言うと,被告Y1は「だって本当にXさんが好きだ。」と言い,原告が自分は結婚していること等を言い聞かせても,同被告は「好きでたまらない。」などと言うばかりであった。その後,店内で食事をしながら,趣味や旅行の話をする中で,被告Y1に「私はY1さんの恋愛の対象にはなれないので,早くいい人を見つけて結婚した方がいい。」などと言ったところ,同被告は「Xさんは他の添乗員とは違う。これからも話を聞かせて欲しい。」と言うので,仕事上の関係も考えて「仕事仲間としてならこれからもいい関係で細く長く付き合いたい。」と答えると,同被告は「自分もそうしたい。自分と付き合うことはXさんのメリットにもなる。」と言っていた。食後,被告Y1が代官山駅から帰るか恵比寿駅から帰るかを聞いてきたので,近い方から帰ると答え,道がわからないので同被告の後をついて歩いた。すると,人影のない恵比寿公園で被告Y1が急に振り返り,抱きついてキスをしようとしてきたので,顔を背けて両手で同被告を押しのけ背を向けると,同被告は背後から抱きついてきて,ノースリーブのワンピースの左脇から手を入れて乳房を直接触るので,「放してください。」と言ってもがくと,同被告は「Xちゃんのここがドキドキしているか調べるだけ。」と言って右耳をなめてきた。気持ちが悪くなって被告Y1を突き飛ばして走り出すと,同被告が追いかけてきたので,駅までほとんど無言で歩いた。この間も被告Y1は「僕のヴィーナス」などと言いながら尻を触ってきた。
ウ 5月18日以降の経緯
その後,1日おきに被告Y1から電話やメールが来るようになり,メールの末尾には「Y1より」,「貴方のアマデウスより」などと書かれていた。
5月24日,被告Y1が電話をかけてきて,先日のことを詫びるとともに,二度としないのでまた会って欲しいなどと言い,「これから先も旅物語の仕事を続けるなら険悪な関係にならないほうが良いでしょう。」と言うので,断り切れずに翌日会うことになった。
翌25日,午後7時半に被告Y1と新宿で待ち合わせをしてレストランで食事をした。
このころ,被告Y1から恋人気分でメールを送って欲しいと頼まれて,やむなく同被告にメールを数回送信した。
6月12日に被告Y1から食事をしたいとの電話があり,次のツアーの資料を持ってきてくれるということなので承諾した。
エ ホテルに入った6月13日の出来事
6月13日午後7時に渋谷で被告Y1と待ち合わせて食事をし,その後お茶を飲もうということになって歩いていると,同被告がホテル街に歩いていくので,驚いて「もう帰りましょう。」と言って反対方向に行こうとしたところ,同被告は強い力で原告の右手首をつかんでどんどん歩くので,「本当に困る。このようなことをされるともうお付き合いできない。」と言うと,同被告は「本当に真剣に思っている。ただ二人きりになりたいだけ。何も下心はない。何もしない。」などと言い,原告が「会社に訴えますよ。」と言うと,同被告は「そんなことしてもXさんの立場が悪くなるだけだよ。次も僕のコース行くんでしょ。仕事できなくなっちゃうよ。」,「Bなんか君の言うことより僕の言うことを信じるに決まっているし,君の会社だってa社には手を出せないでしょ。」と言った。原告が被告Y1の手を振り払うと,同被告は今度は原告のバッグの取っ手をつかんで引っ張り,バッグの飾りが取れてしまった。被告Y1は,再び原告の手首をつかんで引きずるようにして歩き,原告が今日は生理中であるなどと訴えても聞き入れず,30分ないし40分くらい歩いた挙げ句,強引に原告をホテルに連れ込んだ。部屋に入ると,被告Y1は早くこっちに来るようにと言い,原告が動かずにいるとテーブルに置いておいた紙袋を床に投げつけた。怖くなってベッドに行くと,被告Y1はキスをしたり服の上から胸を触ったりしてきた上,原告の着ていた白いニットのセーターを強引に脱がせて胸を触ってきた。このため,同セーターは化粧品が付いた上,首の所も伸びてしまったので着られなくなった。また,被告Y1は,スカートの中にも手を入れてきたが,原告が抵抗した上,生理用の下着を着けていたのがわかったのか,諦めた様子だった。その後,被告Y1は全裸になって原告の頭を押さえつけ,口の中に性器を入れて射精した。身支度が済むと二人で部屋を出たが,被告Y1がホテルのフロントで支払をしている隙に1人で走って帰った。
オ 6月13日以降の出来事
その後,被告Y1からは電話もメールも来なくなり,このころ,噂で同被告が結婚していることを知った。6月27日に仕事の関係で被告Y1に会った際に結婚していることについて同被告を問い質したところ,同被告は結婚していることを否定するような発言をした上,「この間のことは本当に愛情からで,仕事のことを出したのは気持ちを抑えきれなかったから。」などと言った。原告が黙って我慢するわけにはいかないと言うと,被告Y1は「じゃあ誰に言うの。BだったらきっとXさんのほうがa社に出入りできなくなるんじゃない。」などと言い,その後エレベーターの中で抱きついてきてキスをしたり胸やお尻を触ってきたりしたので,同被告を両手で突き飛ばして,やめて下さいなどと言った。
7月9日,原告が仕事で被告Y1と会った際,同被告から誘われて蕎麦屋や公園に行った。この際,結婚していることについて再び問い質すと,被告Y1はようやく結婚していることを認めた。また,これまでのわいせつ行為について,被告会社の上司とB課長に相談すると言ったところ,被告Y1は,「Xさんの上司だってBには何も言えないよ。Bに言ったところで,あの人は事なかれ主義だから,Xさんがbメディアの仕事ができなくなると思うよ。僕はこれからもXさんと仲良くしたい。」などと言った上,bメディアのビルの階段踊り場でキスをしてきた。
同月12日,原告が仕事でbメディアに行った際,被告Y1から書類ケースのある所で尻を触られた。
その後,被告Y1から数回携帯電話に着信があったが,仕事で顔を合わせても何もされることなく,同月下旬ころからは一切連絡がなくなった。
カ 原告と被告Y1の噂
8月20日,添乗員仲間から被告Y1が原告から言い寄られたと話していると聞いたので抗議しようと思って同被告の席に近づいて行くと,同被告から「いい加減にしてください。」と大声で怒鳴られ,なおさら噂に尾ひれがつく結果となった。
キ 差出人不明の手紙
9月21日,原告がツアーから帰国すると,C取締役から連絡が入り,被告Y1に関することで会って話がしたいと言われたため,同日,C取締役と会ったところ,原告の添乗中にbメディアのB課長と所長に同被告を中傷する内容の手紙が来て,同被告が差出人は原告であると断言しているので被告会社を巻き込んで大問題になっていると聞かされた。
(2) 争点(1)に関する被告Y1の供述(<証拠省略>)の要旨は次のとおりである。
ア 原告と出会って最初の食事の約束をするまでの経緯
平成13年4月19日に原告と初めて仕事の打合せで会った際,原告の担当ツアーに関して後で連絡する必要があったので連絡先を尋ねたところ,原告は携帯電話の番号を書いた紙を渡してきて,被告Y1にも緊急時の連絡先を教えて欲しいと言うので,携帯電話の番号を教えた。
翌20日,仕事のことで原告の携帯電話に連絡し,「いつか食事できたらいいですね。」と言うと,原告は「タイ料理が好きなので,時間があったら今度夕食でもご一緒しましょう。」と答えた。
5月1日,bメディアを訪れた原告からメールアドレスの書かれた名刺を渡され,メールのやりとりをしないかと誘われたので,メールアドレスを教えた。この際,原告から結婚しているのかと聞かれたが,「ご想像にお任せします。」などと曖昧に答えておいた。帰り際,原告から「じゃあ,タイ料理ということで。」と言われた。
同日昼ころに原告に電話をかけて昼食に誘うと,原告は,「今日は駄目なので,この前の約束通り,夜一緒にタイ料理に行きましょう。」などと答えた。
翌2日,原告から電話があり,同月14日から25日の間なら都合がいいと言われた。
同月15日ころ,仕事でbメディアに来た原告からメールを送ったのに届かないと言われた。間違えたアドレスを教えていたことに気付いて改めてアドレスを教えると,その夜,原告から食事の日にちを問うメールが届いたので,翌日ころ,同月18日に休みが取れるので会わないかというメールを返したところ,原告からこれを承諾する旨のメールが来た。
イ 最初に食事をした5月18日の出来事
5月18日午後4時ころに恵比寿駅のアトレで原告と落ち合い,代官山方面に向かって歩いて行くと,途中で工事現場に差しかかり,道が狭くなっていたので,エスコートするつもりで原告に右手を差し出したところ,原告は被告Y1の手を強く握ってきて,工事現場を通り過ぎてもこれを離さなかった。この際に原告の腰や背中に手を回したことはない。その後,アドレス代官山で20分くらいウィンドウショッピングをしてから,その向かいのカフェに入った。この際,原告に対して,自分が優秀な社員であるとか,添乗員をどんどん切っていくなどと言ったことはなく,独身だということも言っていない。他方,原告は,自分は独身であると言っていた。
同日午後5時45分ころ,レストランへ向かう途中で,原告が自分に腕を組んでもたれかかってきたので,原告から相当好意をもたれていると感じた。レストランが開店前だったのでその場で話をしながら開店を待っていると,話が途切れ,原告から見つめられたため,顔を近づけたところ,原告が目をつむったのでキスをした。原告は積極的に応じ,「情熱的ね。あなたってイタリア人みたいね。」と言った。食事が済み,午後9時ころになって原告がまだ少し時間があると言って腕を組んできたので,旧山手通りを通って西郷山公園に行き,ベンチに座って話をし,キスをした。午後9時半ころになっても原告は「もう少し一緒にいようよ。」,「これからも私と会ったりするの。」と言うので,お互い時間があるときに会えればいいなどとと(ママ)答えると,原告は「私も男の子の友達とか結構いるからそういう感じってとこね。電話やメールちょうだいね。待ってるから。」と言った。自分はあまりこまめには連絡できないタイプだからと断ると,原告は「私にキスしておきながらそんなこと言うのね,ひどい。」などと怒鳴ったので怖くなった。
ウ 5月18日以降の経緯
その後はあまり原告に連絡をしなくなったが,「食事でも行けたらいいですね。」という社交辞令のメールを送ったことはあった。原告からは電話やメールが数回あった。
5月24日に原告からまた会うつもりはあるのかなどという電話がかかってきたため,翌25日に原告と会うことになった。上記電話の際に原告に対してキスしたことを詫びたり,また会って欲しいなどと言ったことはない。
同月29日に原告と新宿で会って食事をしたが,この際,原告は「私のこと大切にしてくれる。あなたとは気が合いそうだからうまくやっていけそうな気がする。」などと言ってもたれかかってきた。
午後10時ころになって帰ろうとすると,原告は「今日は帰らないで泊まっていこうよ。ホテル行こうよ,この前の続きしたいでしょう。」などと言い,これを断ると,原告は「女に恥をかかせるつもり。」,「女みたい,男のクズ。」などと言って腕をつかんできて歌舞伎町方面に連れて行こうとするので,やむなくその場で原告にキスをした上で,ホテルには今度行こうなどと言って原告をなだめて別れた。
翌日以降も原告から電話やメールがあり,メールに「あなたのヴィーナス」と書かれていることもあった。このころから,原告の態度や執拗さを苦痛に感じるようになった。
同年6月上旬ころ,別の添乗員から,原告に渡して欲しいと言われて資料を預かっていたところ,同月12日及び同月13日に原告から預かっている資料を持ってきて欲しいという電話があったので,同日夜に原告と会うことになった。
エ ホテルに入った6月13日の出来事
6月13日の夜に原告と渋谷で会って食事をしたが,午後9時半ころ,被告Y1は高熱と体調不良のために気分が悪くなり,「帰るか,どこかで休むかしたい。」と言い,2人でホテル街の方向に歩いていった。原告が「今日は生理中だからできないわよ。」と言うので,「2人で少しゆっくり休みたい。もし嫌だったら今日は苦しいので帰りたい。」と答えると,原告は「そういうことができないと帰るって言うのね。」と怒鳴った。結局,道玄坂にあるホテルに入って,部屋でうたた寝をしたら少し気分が良くなったので,原告とキスをしたり上半身を愛撫したりし,一方,原告は手や口で被告Y1を射精させた。また,原告は「今度は私を気持ちよくしてね。」,「この間だったらよかったのに。なんで大売り出しの時に連れてきてくれないのよ。タイミングが合わないのね。」などと言っていた。
ホテルを出ると2人で渋谷駅まで腕を組んで歩き,一緒に電車に乗って帰った。
オ 6月13日以降の経緯
その後も原告から電話やメールがあった。6月下旬に原告から電話で「Y1さん結婚してるんでしょ。実はね,私も結婚してるんだ。」などと言われた。
同月27日,bメディアを訪れた原告から呼び出されて「奥さんに悪いと思わないの。」,「私が結婚していたのってショックだった。」などと問い詰められるなどしたので,「お互い本当のことを言わず偽っていたわけだし,もうここで付き合いをやめたほうが2人のためにいいかもしれない。」と言ったが,原告はこれを聞き入れなかった。
7月9日,原告から電話で誘われたので蕎麦屋で一緒に昼食をとり,食後に木場パークサイドビルのベンチで話をした。この際,原告からキスを求められたが,ここではまずいと言って断った。bメディアのビルに戻ると,また原告からキスを求められたので,やむなく1階と2階の間の階段の踊り場で原告とキスをした。
同月12日,原告から「ろくでなし。ひとでなし。」というメールが来たので,被告Y1は原告に電話をかけてもう二度と会わないと強く言うと,原告から罵られた。翌13日,原告から今後は仕事上の関係でいきましょうという内容のメールが来たが,同月22日ころには,原告から,「やっぱりあなたが好きなの。」などという電話がかかってきた。
同月下旬ころから原告の電話は従前より頻繁になり,携帯電話だけでなく職場にもかかってくるようになった。多いときには1日に3,4回ということもあり,原告が偽名を名乗ってかけてくることもあった。また,原告が仕事でbメディアを訪れた際には「ちょっと」と呼ばれて別の場所に連れて行かれることもよくあった。
8月中旬に原告から誘われてラーメン屋で昼食をとった。
同月ころまでの間で原告がツアーに出ていない時には,ほぼ毎日のように原告から電話がかかってきた。同月20日ころから,原告は,「新しい相手ができたから私と会わないんでしょう。」などと言うようになった。
カ 原告と被告Y1との噂
原告とのことを噂として流したりはしていない。
キ 差出人不明の手紙
8月27日及び9月11日にbメディアのB課長及び責任者宛てに被告Y1を中傷する内容の手紙が届いた。
(3) 各供述の信用性
原告は,平成13年5月18日及び同年6月13日に被告Y1から意に反するわいせつ行為をされ,仕事上の不利益をおそれて逆らえなかった旨供述しているが,これには以下の点で疑問がある。
第1に,大手旅行会社であるa社の社員が,同社に派遣されている添乗員に対して一般的に優越的な立場にあるということは肯定できるとしても,bメディアにおいて添乗員の人員配置を行うのは添乗員課であって,ヨーロッパ課の課員としてヨーロッパツアーの手配を中心に担当していた被告Y1は,原告の添乗業務について直接の影響力を及ぼしうる立場にはなかったのであるし(<証拠省略>,被告Y1第3回1頁),実際にも,原告が同年9月10日に同被告の職場の不在袋に入れて渡した別紙1(<証拠省略>)の手紙によれば,原告は,父親が病気であるとか体の具合が悪いなどと同被告が嘘をついていたことに対して腹を立てて,「あなたのような最低の方を長々と信じていた私は本当におばかだと気がつきました。」,「いまにバチが当たりますよ。」などと記載し,また,原告が翌11日に同被告宛てに送信したと主張している別紙2(<証拠省略>)のメールによれば,原告は,同被告が原告に対して独身であるという嘘をついていたことや,自分が同被告に言い寄ったという噂を流されたことに対して,「貴方のような酷い方に初めてお目にかかりました。」,「どうして面と向かって説明できないのですか。逃げてばかりで。」などと記載しているのであって,これらの記載からは,原告が同被告の機嫌を損ねることなど全く気にしていなかったことが窺われ,むしろ,上記メールの「昔,私のアマデウスだった方へ」等の記載部分からは,原告と同被告が一時は個人的に相当親しい間柄にあったことが推認される。
第2に,同年6月13日の出来事について,原告は,30分ないし40分もの間,被告Y1からバッグや手首をつかまれて引きずられるようにして渋谷の街を歩かされてホテルに連れ込まれ,部屋の中では原告が着ていた白いセーターを無理やり脱がされた旨供述するが,身長約166ないし167センチメートル,体重約55キログラムという体格である被告Y1が(<証拠省略>),身長約167センチメートル,体重約50キログラムという体格である原告(<証拠省略>)に対して上記のような行為をするには相当強い力が加えられなければならず,しかもその場合には原告も相応の傷害を負うはずであって,バッグの飾りが取れたり,セーターが汚れて首の回りが伸びるなどしただけで済むとは考えられない。また,常に人通りのある渋谷の繁華街(具体的な道順については<証拠省略>)において,被告Y1が,原告の供述するような口論をしながら上記のように原告を無理やり歩かせてホテルに連れ込んだという点もにわかに信用し難いところである。
第3に,原告は,和解交渉のために同年9月26日または28日,同年10月9日及び同月17日に被告Y1と2人きりで会っており,特に9月に会った際には夜に飲酒を伴う食事をしているが(<証拠省略>),和解交渉をするには,代理人を立てたり文書や電話でやり取りするなどの方法もあるのであって,敢えて加害者である被告Y1と2人きりで会い,被害時と同様に夕食までとるような必要はなく,むしろ,わいせつ行為の被害者はそのような状況を忌避するのが通常といえる。
以上のほか,被告Y1の供述が,細部においてはセクハラ委員会での自らの供述(<証拠省略>)と齟齬する部分はあるものの,そのあらましは全く不自然なものであるともいえないことを併せ考慮すると,一見すると辻褄が合っているようにも見えるが上記のような重大な疑問点のある原告の供述をそのまま信用することは困難といわざるを得ない。
(4) 結論
以上によれば,被告Y1から意に反するわいせつ行為をされた旨の原告の供述は信用することができず,他に争点(1)に関する原告の主張を認めるに足りる証拠はない。
2 争点(2)について
(1) 無言電話について
被告Y1は,平成13年6月27日ころから自宅に原告からの無言電話が何度もかかってくるようになった旨主張し,陳述書(<証拠省略>)においてこれに沿う供述をするが,無言電話がかかってきたことは事実であるとしても,それが原告によるものであることについては被告Y1の推測に過ぎず,その裏付けとなる客観的な証拠は何ら提出されていないから,被告Y1の上記主張は採用できない。
(2) 自宅及び勤務先宛ての手紙について
ア 証拠(<証拠省略>)及び弁論の全趣旨によれば,平成13年8月27日に差出人をDとするB課長宛ての「自分はa社で働いている添乗員であり,Y1さんと結婚するつもりで付き合っていたが,彼が結婚していることが分かり衝撃を受けた。以来,Y1さんからの連絡は途絶えたが,彼の子どもを妊娠していることが分かったので一目でいいから彼に会いたい。私たちを助けてください。」などと記載された手紙,同年9月11日に差出人をc社東京支社社員代表とするbメディア責任者宛ての「a社の社員で銀縁眼鏡をかけているEさんが階段で女性と抱き合って接吻している場面を何度も目撃している。風紀の乱れになるので配慮して欲しい。」などと記載された手紙,同月17日に差出人をDとするbメディアF所長宛ての「子どもと一緒にY1を呪いながら死んでいく女がいたことを伝えてください。a社の中で弱い立場の添乗員が悪者の餌食にされていることを遺書に書いて公にします。」などと記載された手紙,同日に差出人をDとする被告Y1宛ての「あなたを呪いながら死んでいきます。遺書はあなたの大切な方に送ります。代々あなたの家系を呪い続けてやる。」などと記載された手紙がそれぞれbメディアの事務所に届いたこと,G・Tを差出人とする被告Y1宛ての「早く離婚してね!!」などと記載された手紙(同年12月12日配達)及び「クリスマスプレゼントありがとう。」などと記載された葉書(平成14年1月1日配達),同年2月13日に差出人をGとする同被告宛ての「早く離婚が成立するように祈ってま~す。」などと記載された葉書,同月14日にd社を差出人とする同被告宛ての「貴様が死ぬまで永遠に呪い続けてやる。私が受けた苦しみを倍にして貴様に返してやる。会社や近所にも貴様の正体が暴かれる日がきっと来る。」と記載された手紙及び同被告の名前が書かれた紙が釘で打ち付けられた上,赤い液体の付着した藁人形がそれぞれ同被告の自宅に届いたことが認められる。
イ 被告Y1は,上記手紙類の差出人はいずれも原告である旨主張している。
確かに,上記手紙類のうちDを差出人とするものについては,原告がbメディアに添乗員として派遣されていたこと,平成13年夏ころに被告Y1が既婚者であることを知ったこと,このころから同被告からの連絡が途絶えたこと,弱い立場の添乗員である自分が同被告から被害を受けている旨主張していることと符合しているし,差出人をc社東京支社社員代表とする手紙については,原告が同被告からbメディアのあるビルの階段の踊り場でキスされたと述べていることを想起させるものである。また,原告が同年10月ないし11月ころに被告Y1の自宅住所をbメディアのお客様相談室のI室長から教えてもらったと述べていること(原告本人第2回55頁)は,同年12月から被告Y1の自宅に届くようになった手紙の差出人が原告であるということと矛盾するものではないし,C取締役は,上記手紙類の一部について,原告が誰にも教えられていないのにその内容を知っていた旨供述している(<証拠省略>)。
しかしながら,他方,原告は最初にDからの手紙が届いた平成13年8月27日にはスペインツアー(同月22日から同月31日まで)に添乗中であり,また,2回目に同人から計2通の手紙が届いた同年9月17日にはイギリスツアー(同月12日から21日まで)に添乗中であり(<証拠省略>),これらの手紙がいずれも横浜中央郵便局から速達の書留郵便等により出されている事実(<証拠省略>)と矛盾すること,C取締役の上記供述については,原告が事前にC取締役から一部の手紙について内容を聞いていた旨供述していること(<証拠省略>),上記手紙類の筆跡と原告の筆跡(<証拠省略>)とは一見すると全く異なるように思われること(被告Y1は,筆跡に関する簡易鑑定をして上記手紙類の筆跡が原告の筆跡と一致するという結果を得た旨述べるが(<証拠省略>),この簡易鑑定結果は本件の証拠として提出されていない。)を考慮すると,上記手紙類の差出人が原告であると認定するのは困難といわざるを得ない。
(3) 不当訴訟等について
被告Y1は,原告によるセクハラ委員会への申立てや本訴請求が不法行為に該当する旨主張するが,争点(1)についての検討(前記1)を踏まえると,上記申立て等において原告の主張及び供述が同被告のそれと全く異なるものとなっているのは,男女それぞれの立場からの事実の受け止め方の違いや,時間の経過による記憶の変容によるところが大きいとも考えられ,原告が同被告に対する積極的な害意または重大な過失によって本訴請求を提起したとまでは認められないから,不法行為は成立しない。
(4) したがって,被告Y1の反訴請求は理由がない。
3 争点(3)について
(1) 職場環境配慮義務違反
ア 証拠(<証拠省略>)によれば,以下の事実が認められる。
平成13年9月15日ころ,被告会社にbメディアのB課長らが訪れ,C取締役に対し,同社に被告Y1を中傷する内容の手紙(以下,「本件手紙」という。)が届き,同被告が差出人は原告である旨述べていること等を告げた。
同月21日,C取締役が原告と面談して事情を聞いたところ,原告は本件手紙への関与を否定するとともに,被告Y1からセクシャルハラスメントを受けたことを打ち明けた。
同月25日,原告及びC取締役は,bメディアに赴いてI室長及びB課長と会い,本件手紙の差出人が原告ではないことや,原告が被告Y1からセクシャルハラスメントを受けていたことを話した。この際,a社側は原告らに対して社内にセクハラ委員会が設けられていることを告げ,訴えたければいつでも申し立てるようにと述べた。
同月26日,原告は,C取締役に対し,翌日に出発することが予定されていたbメディアのツアーの添乗業務をキャンセルしたい旨を電話で連絡した上,同人と面談して話し合いや引継を行い,実際に同ツアーを欠勤した。
同年10月2日,原告及びC取締役は,bメディアに赴いて,同部のJ部長,I室長及びB課長と話し合い,本件手紙の件は原告と無関係であることを確認し,また,a社側から被告Y1が配置転換になる予定であること等を聞いた。
同月15日,原告は,C取締役から同人がI室長に呼び出しを受けていると聞き,同日夕方に六本木でC取締役と会って今後の対応等について話をした。
同月16日,C取締役はbメディアに赴いてI室長と面談し,同人から,原告がセクハラ委員会に訴えるとJ部長の立場が悪くなり,被告会社との取引に影響が出るかもしれないなどと言われた。C取締役は,その後,原告に電話をかけてI室長からの話を伝えた。
同月23日,C取締役は,I室長からa社のセクハラ委員会の所在地を聞いて原告に教えた。
平成14年4月または5月ころ,C取締役はセクハラ委員会からの呼び出しを受けて同委員会に出席し事情聴取に応じた。
イ 原告の主張について
(ア) 指針を実施していないこと
原告は,被告会社が雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律21条2項により事業主が配慮すべき事項の指針として策定されている事項を実施していないことをもって直ちに職場環境配慮義務違反にあたる旨主張する。
確かに,使用者は,労働契約に付随する信義則上の義務として,労働者が業務遂行に関連して,その人格的尊厳を損ない労務の提供に重大な支障を来すような事由が発生することを防ぎ,働きやすい環境を整えるべき一般的義務を負っていると解されるが,その義務の具体的内容は労使間の事情に応じて当然に異なるものであり,上記指針は使用者に対する努力義務を定めたに過ぎないから,原告の上記主張は採用しない。
(イ) 原告のセクハラ委員会への申立手続に対する協力を拒否したこと
原告は,被告会社が原告のセクハラ委員会への申立てに対する協力を拒否したことが職場環境配慮義務違反にあたる旨主張するが,原告の主張していたセクシャルハラスメントは,派遣先会社であるa社の社員である被告Y1と原告との間において,業務とは直接関係のない場面で起こった出来事に関するものである上,セクハラ委員会は被告会社ではなくa社内に設置された機関であって,原告が申立てをするについては被告会社の関与が手続上必要とされているわけではないから(弁論の全趣旨),職場環境配慮義務の一環として被告会社に原告のセクハラ委員会への申立手続に協力すべき義務があるとしても,それはごく限られた範囲にとどまるというべきである。
そして,上記アによれば,C取締役が,平成13年9月25日及び10月2日の2度にわたって原告とともにa社側との話し合いに同席したこと,同月23日にI室長からセクハラ委員会の所在地を聞いて原告に伝えたこと,平成14年4月または5月ころには同委員会に出席して事情聴取に応じたことが認められるのであって,このほかに被告会社が原告やa社から求められた具体的な協力行為を正当な理由なく拒否したというような事情もないことからすれば,被告会社は,その立場からなし得る範囲で原告に協力したものと評価することができ,職場環境配慮義務違反があるとは認められない(なお,原告は,平成13年10月16日にC取締役から「被告会社としては原告の申立てには協力できない。」などと言われた旨供述するが(<証拠省略>),反対趣旨のC取締役の供述(<証拠省略>)に照らしてたやすく信用することはできないし,原告の上記供述によっても被告会社が具体的にどのような行為について拒否を表明したものか明らかではない。)。
(ウ) アサインに関して原告を不利益に取扱ったこと
原告は,被告会社が原告のセクハラ委員会への申立てを理由に,添乗業務のアサインにおいて原告を不利益に取り扱った旨主張し,原告も「セクハラ委員会への申立て後,月に1,2回は被告会社に電話をかけて仕事が欲しいと申し入れたが,平成14年4月10日まで1本も仕事をもらえず,ようやくもらえたものは以前よりも低価格のツアーであった。また,同年7月から再びa社のツアーを担当することになったが,その際にC取締役からa社にあれこれ言わないことが条件である旨言われた。しかも,担当したツアーは旅行先で大洪水が発生しており大変なものであったり,ツアー内容が当初に聞いていたものとは異なっていたりし,嫌がらせをされているように感じた。」(<証拠省略>),「平成14年10月31日にC取締役から『原告に退社して欲しくて意図的に仕事を与えなかった。』と言われた。」(<証拠省略>)などと述べている。
そこで検討するに,証拠(<証拠省略>)によれば,原告の担当したツアー本数と年収は,平成12年がツアー11本で年収120万8900円(1か月当たりツアー0.92本,収入10万0741円),平成13年がツアー8本で年収125万1800円(1か月当たりツアー0.66本,収入10万4316円),平成14年(本件解雇までの約10か月間)がツアー7本で年収69万1100円(1か月当たりツアー0.7本,収入6万9110円)であること,平成13年11月9日に原告がセクハラ委員会への申立てを行ってから平成14年4月10日までの間は原告に全くアサインがなされなかったことが認められるが,被告会社においては冬季の全受注額が他の季節と比べて少なくなる傾向にあること(<証拠省略>),「もともと冬場は仕事が少なくなる上,平成13年9月11日に起きたアメリカの同時多発テロ以降は海外部門の売上高が前年より7割減少し,その後のアフガニスタン等の不安定な情勢のために仕事が激減した。」旨のC取締役の供述(<証拠省略>),原告が以前から被告会社に対していわゆる扶養控除の範囲内で働きたいと述べていたこと(<証拠省略>)に照らすと,平成13年11月以降5か月にわたって原告にアサインがなされず,平成14年度の収入が前2年より減少したからといって,これが原告のセクハラ委員会への申立てを理由とするものであると推認することはできない。
また,原告の上記供述のうち,C取締役がa社のツアーをアサインする際に条件を付したことや,原告を辞めさせるために意図的に仕事を与えなかったと発言したことについては,反対趣旨のC取縮役の供述(<証拠省略>)に照らすと,そのまま信用することはできず,他に原告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。
ウ 以上によれば,原告の被告会社に対する職場環境配慮義務違反による不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。
(2) 不当解雇による不法行為
ア 解除(ママ)事由の存否
(ア) e社によるアンケート結果
証拠(<証拠省略>)によれば,原告が平成10年3月に担当したe社のツアーに対する旅行者のアンケート結果は「大変良い」が13枚,「良い」が12枚,「普通」「やや悪い」「悪い」が各1枚ずつであったこと,原告が担当した同社の他のツアーのアンケート結果は平成11年度(全7回)が「大変良い」63.47パーセント,「やや不満及び不満」0.6パーセント,平成12年3月分が「大変良い」25.81パーセント,「やや不満及び不満」9.68パーセント,同年4月分が「大変良い」51.61パーセント,「やや不満及び不満」3.23パーセントであることが認められる。
被告会社は,上記アンケート結果が原告の添乗員としての不適格性を表している旨主張するが,上記アンケート結果は,数値のみを示したものであって旅行者が不満を持った理由は明らかではない上,原告が被告会社において行った全添乗業務についてのものではなく,原告に不利な部分のみ抜粋されている可能性を否定できない。また,他の添乗員との比較において,原告が特に悪い評価を得ていたとも認められない(<証拠省略>)。もっとも,C取締役は,原告に対して平均値以上の評価を受けることを期待していたのに平均値に止まっていることが問題であると述べているが(<証拠省略>),原告が平均以上の能力があることを前提とした役職に就いていたとか報酬を得ていたなどの事情があれば格別,そうでない以上,派遣先からの評価が平均値以上でないことをもって解雇事由とすることはできない。
(イ) f社からのクレーム
C取締役は,平成10年に行われたf社主催のg協会文化祭ツアーの添乗業務における原告の勤務態度について,f社から「他の添乗員や派遣先社員との協調性に欠けるところがあり,大型団体旅行には不向きである。」との評価を受けたため,翌年以降は原告を同ツアーの添乗員候補から外したと被告代表者から聞いた旨供述するが(<証拠省略>),同供述によっても原告が協調性に欠けていることや,大型団体旅行に不向きであることの具体的理由は不明であるし,当時アサイン業務を行っていた被告会社の元社員らが原告の勤務態度について旅行会社や旅行者からクレームを受けたことはない旨述べていること(<証拠省略>),原告が上記ツアー後も被告会社から社員旅行等の大型団体旅行の添乗業務のアサインを受けていたこと(<証拠省略>)を考慮すると,C取締役の上記供述は信用することができない。
(ウ) h社からのクレーム
C取締役は,平成11年9月ころに原告の派遣先であるh社から,被告会社のもとに「原告に不満がある旨のアンケート結果が旅行者から多数寄せられたため,今後は原告の派遣を見合わせて欲しい。」との申し入れがあったが,正式なクレームとしての処理を求められたわけではないので,原告に電話で確認して注意を喚起するに止めた旨供述するが(<証拠省略>・ただし,<証拠省略>によれば平成12年9月のツアーについての供述であると考えられる。),C取締役はこの時に聞いたはずの上記アンケートの内容を全く覚えておらず記録も残っていない旨述べていること,また,「h社の件で『大変不満』のアンケートを2通見せられたことがあるが,その理由として,カナダへのツアーであったにもかかわらず,添乗員である原告がフランス語を話せなかったことが挙げられており,C取締役はむしろ原告に同情的であった。」旨の原告の供述(<証拠省略>)にも照らすと,C取締役の上記供述の信用性には疑問があるといわざるを得ない。
(エ) 客に叱られた旨の国際電話
C取締役は,原告が,平成12年4月ころに行われたe社主催のオランダ・ベルギーツアーの添乗中に被告会社に電話をかけてきて,「旅行者から叱られてショックを受けたので今後はe社の仕事はしない。」などと述べたため,以後は原告を同社の添乗業務から外した旨供述するが(<証拠省略>),一方で原告が叱られた理由等詳しいことは全く覚えていない旨述べていること,原告がこれまで被告会社にそのような理由で電話をかけたことは一切ない旨述べていること(<証拠省略>)からすると,C取締役の上記供述はたやすく信用することができない。
(オ) 足指骨折時の言動
証拠(<証拠省略>)によれば,原告が,平成12年10月にi社のイタリアツアーを担当した際,ホテルの洗面所のシャワーブースの角に左足薬指を強打して骨折し,救急車で病院に運ばれて応急処置を受けたが,きちんとした外科の治療を受けることができたのはその3日後であったこと,原告は上記骨折により歩行が困難になったことから上記派遣先会社に連絡して通訳のできる日本人ガイドを手配してもらった上,自らも最後まで添乗業務を行ったことが認められる。
C取締役は,上記骨折の際に原告が被告会社に電話をかけてきて,「指が曲がったらサンダルが履けない。」,「今すぐ帰国したい。客を放棄してでも帰国する。」などと怒鳴った旨供述するが(<証拠省略>),これを客観的に裏付ける証拠はなく,原告が上記のような発言をしたことについて明確に否定していること(<証拠省略>)に照らすと,C取締役の上記供述をそのまま信用することはできない。もっとも,仮に原告がC取締役の供述するような言動をしたとしても,海外での添乗業務中に足指を骨折した上,なかなか治療が受けられないという非常事態に直面していたことを考えれば無理もないというべきであり,この程度の出来事をもって解雇事由とすることはできない。
(カ) 平成13年9月27日出発のツアーの前日キャンセル
被告会社は,原告が平成13年9月27日出発のbメディアのフランスツアーの添乗業務を前日の夕方になってキャンセルしたこと(争いなし)が添乗員として問題である旨主張するが,証拠(<証拠省略>)によれば,原告は平成7年5月ころに硬膜下血腫を患って手術を受けたことがあるが,その時と同様の激しいめまいが平成13年9月26日の数日前から生じていたこと,同月27日に病院の脳外科で受診して「頭痛及び脳血管障害の疑い」と診断され,同年10月11日にMRI検査を受けたことが認められるのであって,このような事情からすると,被告会社にその旨を明確に伝えなかったという憾みはあるものの,原告の上記キャンセルはやむを得ないものであり,添乗員としての不適格性を窺わせるものとはいえない。
(キ) 平成14年8月11日出発のツアーのキャンセル発言及び同年9月14日出発のツアーのキャンセル
C取締役は,「原告は,平成14年8月11日出発のbメディアのツアーについて,その打合せ時に同社の社員が自分に対して冷たい態度を取ったという理由で,出発前日になって被告会社に『添乗に行きたくない。他社への移籍を考えている。』と電話をかけてきた。結局,同ツアーについては原告が予定通り添乗することになったが,既に原告にアサイン済みであった同年9月出発予定のbメディアのツアーはキャンセルすることになった。」旨述べており(<証拠省略>),また,原告が被告会社にファクシミリ送信した文書には「今回のツアーも行きたくない位落ち込んでいます。」,「今の状態でbメディアの仕事をするのは無理です。9月のフランスのツアーは辞退させてください。」などと記載されている(<証拠省略>)。
これに対し,原告は,「同年8月9日または10日に上記文書をファクシミリ送信したことは認めるが,被告会社に上記のような電話をかけたことはない。同年9月のツアーについてはその時点では話を聞いたばかりでありアサイン未了であった。」旨供述している(<証拠省略>)。
C取締役の上記供述のうち,電話の件については原告の上記供述に照らしにわかに信用することができない。一方,原告も認めている上記文書のうち,今回のツアーに行きたくない旨の記載については,出発直前になってこのような被告会社に不安を与えかねない記載のある文書を送ることは添乗員として決して適切な行動とはいえないが,上記文書には実際に同ツアーをキャンセルするとまでは記載されておらず,原告が一種の愚痴として述べたに過ぎないものと考えられる。
また,同年9月(<証拠省略>によれば同月14日)出発のツアーのキャンセルについては,同年8月8日付け派遣確認書(<証拠省略>)に同ツアーが記載されていることや,当時の被告会社における海外旅行のツアーのアサインは約1か月前になされていたこと(<証拠省略>)からすると,キャンセルよりも前にアサインがなされていたという可能性を否定できないが,仮にそうであるとしても,出発予定日までは時間的余裕もあり,原告のキャンセルによって被告会社の業務に特に問題が生じたわけではないことはC取締役自身も認めている(<証拠省略>)。
(ク) 平成14年9月10日出発ツアーのキャンセル発言及びa社社員とのトラブル
証拠(<証拠省略>)及び弁論の全趣旨によれば,平成14年9月11日出発のa社前橋支店のツアーについて,原告が,出発前日に行われた同支店との打合せ終了後,C取締役に対して「手配旅行であると聞いていたのに実際は主催旅行であったり,夜中に男性のバス運転手と2人きりで旅行者を迎えに水上温泉まで行かなければならないなど,事前に聞いていた業務内容とは違う。」などと言ったため,C取締役は原告の日当を3000円上乗せするものとして原告の了承を得たこと,原告が,同ツアーの添乗中に,旅行者からクレームが出ていることを伝える文書をa社前橋支店の担当社員であるJ宛てにファクシミリ送信し,その末尾に「私は責任はとりかねますので。当然,Jさんのせいにして逃げます!!」と記載したこと,同ツアー終了後にJから被告会社のもとに原告の打合せ時及び添乗中の態度や上記文書についてクレームが寄せられたこと,C取締役がJとの話合いのために原告を呼び出したところ,原告は「今後,私が前橋支店の仕事をしないのであれば,誤解が残っても残らなくても何ら支障はないと思います。」などと記載して話合いには行かない旨の文書を被告会社宛てにファクシミリ送信したことが認められる。なお,C取締役は,原告が上記ツアーの出発前日に電話をかけてきて,被告会社を辞めるから同ツアーの業務は受けられないとも言っていた旨述べるが(<証拠省略>),反対趣旨の原告の供述(<証拠省略>)に照らし,たやすく信用することはできない。
上記認定事実のうち,日当の上乗せについては,業務内容について原告に対する事前の説明が不十分であった被告会社にも落ち度があるというべきであり,原告の添乗員として不適格であることの根拠とはなり得ない。
他方,Jからのクレームについては,同人宛ての上記文書末尾の記載やその後の原告の対応は,被告会社やその取引先であるa社前橋支店に対する誠実さを欠いた行動と評価せざるを得ないが(原告は,J宛て文書末尾の記載は冗談のつもりであるとか,C取締役に呼ばれていた日は急用で実家に帰らねばならなかった旨弁解するが(<証拠省略>),いずれも原告の行動を正当化するには至らない。),原告が同年10月19日付けでJに謝罪の手紙を出した上(<証拠省略>),同年11月27日には同人と電話で話して誤解があると思われる点について釈明していること(<証拠省略>)からは一応の反省も窺われる。
イ 上記認定を踏まえた本件解雇の違法性の有無
上記アで認定したところによれば,被告会社が指摘する原告の勤務態度のうち問題があると認められるものは,結局,平成14年8月11日出発のツアーの前日ころに被告会社に対して行きたくない旨の文書をファクシミリ送信したこと(上記ア(キ))と,同年9月11日出発のツアーに関するa社前橋支店の担当社員からのクレームに関する件(上記ア(ク))のみであり,これらの態様や,被告会社に与えた業務上の支障の有無・程度等を考慮すると,本件解雇は,客観的に合理的な理由を欠いており,社会通念上相当なものとは認められないから,権利の濫用として無効かつ違法であるといわざるを得ず,原告に対する不法行為を構成する。
ウ 損害額
(ア) 逸失利益
原告の賃金は予め定められた日当(本件解雇時は1万2500円)に実際の添乗日数を乗じたものとされていたこと(<証拠省略>),平成12年1月から平成14年10月までの原告の平均月収は9万2700円であること(<証拠省略>),本件基本契約の当初の契約期間は1年間であったが,特段の更新手続が行われないまま5年半以上が経過しており,本件解雇がなかったならば,原告が以後相当期間にわたって被告会社に勤続していた可能性が高いと考えられること(<証拠省略>,弁論の全趣旨)からすれば,本件解雇と因果関係のある原告の賃金相当逸失利益は少なくとも原告の主張する125万1800円以上であることが認められる。
(イ) 慰謝料
これまで被告会社が本件解雇の理由として主張してきた内容や,その大半が事実に基づくものとは認められないこと,原告が従事した添乗業務の回数・内容,勤続年数等諸般の事情を考慮すると,本件解雇により原告の被った精神的損害の慰謝料としては15万円が相当である。
エ したがって,原告の被告会社に対する不当解雇による不法行為に基づく損害賠償請求は,140万1800円の支払を求める限度で理由がある。
4 よって,主文のとおり判決する。
(裁判官 木野綾子)
(別紙1)
Y1様
あなたの様な最低の方を長々と信じていた私は本当におばかだと気がつきました。
お父様が病気とか,体の具合が悪いとか,本当に長い間ばかみたいにだまされていました。(もうバレていますよ!!)もう笑うしかないみたい。
あなたの事は野良犬にかまれたとでも思って早く忘れる様にします。
いろいろ噂は聞いていますが,そんな事ばかりしていると,いまにバチが当たりますよ。これ以上敵を作らない方が良いと思います。
(別紙2)
メインユーザー
送信者:<省略>
宛先:<省略>
送信日時:2001年9月11日 6:20
昔,私のアマデウスだった方へ
お父様の様態が悪くて時間も取れないのに,海外旅行なんて結構なことです。
貴方のような酷い方に,初めてお目にかかりました。本当は噂を流したのは貴方ではないでしょうか。私がいつ貴方に言い寄ったのでしょうか。
どうして面と向かって説明できないのですか。逃げてばかりで。
初めから浮気がしたいが為に,独身を偽り近づき,既婚が解かってしまうと今度はいやがらせ。
噂は色々聞いていますが,いつも女性に対してこんなひどいことなさっているんでしょうか。
お父さんのことも嘘だし,仕事だって誰よりも早く(6時には)退社なさると聞いてます。
私,こんなひどい事されたの初めてですし,あなたのように平気で嘘を並べられる方にお目に掛かったのも初めてですっかり騙されてしまったようです。
結婚してないって近寄って来た時から嘘が始まっていたのに…
私は本当にお馬鹿です。本当に人を見る目がないと情けなくなりました。
先日は皆の前で怒鳴られてしまい,後から「どうしたの??」「どういう関係??」と色々な人から聞かれて困ってしまい,私があなたにされたことをお話しました。
それと,初めて食事に行った時にいきなりキスされたり胸を触られたりしたことは,かなりの方がご存知出(ママ)です。(代休というのも嘘ですね。)
友達には「世の中には恐い人がいるんだから,いい勉強したと思ってそんなクズのことは早く忘れなさい」と口々に言われまは(ママ)したがきっと,一生忘れないと思います。
私のように傷つけられた人は他にも居ると思いますがみんな同じ気持ちだと思います。
もう,新しいお相手がいらっしゃるようですが,嘘は必ずばれます。
最後にそこまで最低な方だとは思いませんが,以前におっしゃっていたような仕事の邪魔をしないで下さい。もう,私に関わらないで下さい。