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東京地方裁判所 平成15年(ワ)12130号 判決 2006年4月27日

平成15年(ワ)第12130号 不正競争行為差止等請求事件(第1事件)

平成15年(ワ)第11159号 賃金請求事件(第2事件)

第1事件原告・第2事件被告

株式会社ニューチャーイノベーション

第1事件原告

株式会社ニューチャーディスカバリー

第1事件原告

株式会社ニューチャーポジショニング

上記3名訴訟代理人弁護士

佐藤康則

大谷和彦

第1事件被告

カタナニューヨーク,インク

第1事件被告・第2事件原告

第1事件被告

第1事件被告

上記4名訴訟代理人弁護士

森公任

中原清敏

主文

1  第1事件被告らは,第1事件原告株式会社ニューチャーイノベーションに対し,別紙被告テキスト目録1及び2記載のテキストの印刷,出版,販売又は頒布(インターネットホームページにおけるものを含む)をしてはならない。

2  第1事件被告らは,第1事件原告株式会社ニューチャーイノベーションに対し,別紙被告テキスト目録1及び2記載のテキスト並びに同各テキストの記載内容が記録されたコンピュータ内の記録媒体,若しくは,PCカード,CDロム,フロッピーディスク等の電磁的記録等の記録媒体から同記録内容を抹消せよ。

3  第1事件被告Cは,第1事件原告株式会社ニューチャーイノベーションに対し,50万円及びこれに対する平成18年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  第2事件被告株式会社ニューチャーイノベーションは,第2事件原告Bに対し,108万4535円及びこれに対する平成17年9月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

5  第1事件原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

6  第2事件原告Bのその余の請求を棄却する。

7  訴訟費用は,これを2分し,その1を第1事件被告・第2事件原告B及びその余の第1事件被告らの負担とし,その余を第1事件原告・第2事件被告株式会社ニューチャーイノベーション及びその余の第1事件原告らの負担とする。

8  この判決は,第3項及び第4項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  第1事件原告らの請求

(1)  第1事件被告ら(以下「被告ら」という。)は,第1事件原告ら(以下「原告ら」という。)に対し,別紙被告テキスト目録1及び2記載のテキスト(以下各テキストを「被告テキスト1」,「被告テキスト2」といい,被告テキスト1及び2を併せて「被告各テキスト」という。)の印刷,出版,販売又は頒布(インターネットホームページにおけるものを含む)をしてはならない。

(2)  被告らは,原告らに対し,被告各テキスト並びに同各テキストの記載内容が記録されたコンピュータ,PCカード,CDロム,フロッピーディスク等の電磁的記録等の記録媒体を廃棄せよ。

(3)  被告らは,被告テキスト1を使用してはならない。

(4)  被告らは,連帯して,原告らに対し,7441万6000円及びこれに対する平成18年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(5)  仮執行宣言

2  第2事件原告B(第1事件被告でもあるが,以下単に「被告B」という。)の請求

(1)  第2事件被告株式会社ニューチャーイノベーション(以下「原告ニューチャーイノベーション」という。)は,被告Bに対し,300万円及びこれに対する平成15年5月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  仮執行宣言

第2事案の概要

1  本件は,原告ニューチャーイノベーションの代表取締役であった被告B(その他の第1事件原告の取締役ないし監査役も兼任)並びに原告ニューチャーイノベーションの従業員であった第1事件被告C(以下「被告C」という。)及び第1事件被告D(以下,「被告D」といい,被告B,被告C及び被告Dを併せて「被告ら3名」という。)が,原告ニューチャーイノベーション等を退職した後,第1事件被告カタナニューヨーク,インク(以下「被告カタナ」という。)を設立したという事実関係の下で,原告らが被告らに対して次の(1)アないしウの請求をし(第1事件),被告Bが原告ニューチャーイノベーションに対して次の(2)の請求をした(第2事件)事案である。

(1)  原告ら(第1事件)

ア 著作権侵害に基づく請求

原告らは,被告ら3名が原告ら在職中に作成し,原告らに著作権が帰属する別紙原告テキスト目録記載1のテキスト(以下「原告テキスト1」という。甲23の1の1ないし3)の複製物ないし翻案物である被告テキスト1(甲23の2)及び別紙原告テキスト目録記載2及び3のテキスト(以下「原告テキスト2」などという。甲47,甲55。以下,原告テキスト1ないし3を併せて「原告各テキスト」という。)の複製物ないし翻案物である別紙被告テキスト目録記載2のテキスト(以下「被告テキスト2」といい,被告テキスト1と2を併せて「被告各テキスト」という。甲56)を販売等しているとして,原告各テキストに関する原告ニューチャーイノベーションの著作権(複製権,翻案権及び譲渡権)侵害並びに著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)侵害に基づき,被告らに対し,被告各テキストの販売等の差止め,損害賠償金1905万円(被告テキスト1の使用による原告の逸失利益ないし実施料相当損害金105万円,被告テキスト2の販売による被告利益相当損害金1500万円及び著作者人格権侵害に対する損害金300万円)の支払を求めた。

イ 不正競争防止法に基づく請求

原告らは,原告テキスト1は,原告らの営業秘密に当たるところ,被告らは原告ら退職後,被告カタナの営業において原告テキスト1の複製物である被告テキスト1のデータ等を不正に使用しているとして,不正競争防止法2条1項4号,7号,8号,3条各項,4条に基づき,被告テキスト1の使用差止め,廃棄,損害賠償金3275万円の支払を求めた。

なお,被告らは,原告らの被告テキスト2の不正競争防止法に基づく請求について訴えの取下げに同意しないとしている。しかし,原告らは,もともと,被告テキスト2については不正競争防止法に基づく請求をしていない。

ウ 不当利得返還又は競業避止義務違反に基づく損害賠償の請求

原告らは,被告ら3名が,原告ニューチャーイノベーション在職中に別紙業務目録記載1ないし4,6及び7の各業務を行なってその対価を受領しており,上記業務はいずれも原告ニューチャーイノベーションの業務として行なったものであるから,その対価は同原告が受領すべきものであるとして,上記各業務の対価合計261万6000円につき,主位的に不当利得金の返還を求め,仮に,被告ら3名が上記各業務を各個人の業務として行なったのであれば,同業務につき競業避止義務違反が成立するとして予備的に競業避止義務違反に基づき同額の損害賠償を求め,また,被告ら3名が別紙業務目録記載5の顧客勧誘行為を行なっており,当該行為につき競業避止義務違反が成立するとして2000万円の損害賠償を求め,被告らに対し,合計2261万6000円を連帯して支払うよう求めた。

なお,被告らは,原告らのオムロン株式会社に関する競業避止義務違反に基づく請求について訴えの取下げに同意しないとしている。しかし,原告らは,もともと,平成14年12月10日から12日にかけて実施されたオムロン株式会社に対する「プロジェクト・マネジメント研修」に関して競業避止義務違反があったかのような主張はしたものの,この点について請求を拡張していない。

(2)  被告B(第2事件)

被告Bは,原告ニューチャーイノベーションが,被告Bに対し,解雇直前の平成14年11月,12月分の役員報酬合計300万円を支払っていないとして,同原告に対し,同金員の支払を求めた。

2  前提となる事実(争いのない事実及び末尾掲記の証拠により認められる事実。なお,併合前の第2事件において提出された証拠は「第2事件甲1」というように記載する。)

(1)  当事者

原告ニューチャーイノベーション(平成14年4月1日に旧商号株式会社ネットワークダイナミクスコンサルティングから商号変更)及び第1事件原告株式会社ニューチャーディスカバリー(株式会社ネットワークダイナミクスコンサルティングから平成14年4月1日に会社分割。以下「原告ニューチャーディスカバリー」という。)は,企業経営等に関するコンサルティング事業,マネジメント研修事業等を目的とする株式会社である。原告株式会社ニューチャーポジショニング(旧商号株式会社ナレッジパートナーズ。以下「原告ニューチャーポジショニング」という。)は,平成12年6月に設立された,データ解析・分析の受託・請負等を目的とする株式会社である。原告らは,同一住所地に本店を有し,代表取締役(A。以下「A」という。)を共通にするグループ会社である。

被告Bは,昭和57年に株式会社日本能率協会コンサルティング(以下「JMAC」という。)に入社し(甲24の1),平成12年10月から原告ニューチャーイノベーションの従業員兼取締役,平成13年11月11日からは同社の代表取締役及び原告ニューチャーポジショニングの監査役を務め,平成14年4月1日から原告ニューチャーディスカバリーの取締役を務めたが,同年12月27日に,そのいずれも解任された。

被告Cは,平成8年に鐘紡株式会社に入社し,その後,イギリスのノッティンガム大学経営大学院に入学して平成13年に修士課程を修了し(甲24の1),同年5月8日に原告ニューチャーイノベーションに入社したが,平成14年12月10日に解雇された。

被告Dは,平成12年7月24日に原告ニューチャーイノベーションに入社したが,平成14年12月25日に解雇された。

被告カタナは,平成15年2月に,被告Bを代表者,被告C及び被告Dを従業員として設立された米国法人であり,企業経営等に関するコンサルティング事業,マネジメント研修事業等を目的として営業活動を行なっている。

(2)  原告ニューチャーイノベーションは,被告ら3名が在籍していた平成14年6月から同年10月にかけて,次のア及びイの業務を行なった。

ア 社団法人日本能率協会(以下「JMA」という。)は,平成14年9月から平成15年5月の9か月にわたって,企業の若手社員育成研修であるジュニアビジネスリーダーコース(以下「JBL」という。)第4期を実施し(乙25の26頁),原告ニューチャーイノベーションに上記JBL第4期のコーディネーター及び単位講師の派遣を依頼した。原告ニューチャーイノベーションは,コーディネーターの担当者を被告C,単位講師の担当者を被告B及び被告Cとして,業務を実施した(甲44)。

被告Bは,上記JBLの中でパフォーマンス・メンタリング(甲23の1の1によれば,「パフォーマンス・メンタリング」とは「関連したスキルと経験が同じでない二人(経験豊富な者をメンターといい,経験が浅い者をメンティーという。)を計画的に一緒にするよう行なわれるプロセスのことで,知識や経験をスキルの高い人から低い人へと伝えることを目的とするものをいう。」旨説明されている。)の講義を担当し,同講義のテキストとして原告テキスト1を使用した(甲23の1の1ないし3)。

被告Cは,原告テキスト1のほか,パフォーマンス・メンタリングのテキストとして原告テキスト2及び3の原稿データを自らのパソコンに保存していた(甲23の1の1ないし3,47,55)。

イ V著「Beyond the Myths and Magic of Mentoring」(以下「V書籍」という。)の翻訳本出版に関する業務

原告ニューチャーイノベーションは,平成14年5月8日ころまでに,V書籍を含む3冊を翻訳して出版することを決定し(甲42),被告ら3名が同業務を担当した。

被告Cは,同年8月,株式会社PHP研究所(以下「PHP研究所」という。)に,原告ニューチャーイノベーションの職務としてV書籍の翻訳本の出版を提案し,PHP研究所は同月30日に同翻訳本を発刊する旨決定し,同年10月31日,V書籍の版元から日本語翻訳本出版について許諾を得た(調査嘱託の結果,甲133)。

(3)  被告ら3名が退職に至った経緯

ア 原告ニューチャーイノベーションにおいては,被告Bが入社した平成12年10月ころから海外支店を設置する計画があったものの,平成14年7月ころ原告ニューチャーイノベーションの資金繰りが悪化し,Aは海外支店の設置に消極的になった。被告Bは,海外支店の設置に積極的であったことから,Aと被告Bとの間で,原告らの外国法人の設立をめぐって意見が対立した。

イ 被告Bは,原告らとは関係を有しない外国法人を別途設立することを考え,平成14年9月27日付けで,「NY現地法人KATANA設立に関して」と題する書面を作成した(甲13,110の1ないし3)。同書面には,新会社のメンバーとして被告ら3名を含む当時の原告ら従業員数名の名前が記載されていた。

ウ Aは,平成14年10月23日ころ,被告Bが,原告らとは関係を有しない外国法人の設立を計画していることを知った。

被告Bは,同年10月23日付けで,原告ニューチャーイノベーションに対し,「代表取締役在任中であるにもかかわらず,執務時間中に,貴社社員を使い,貴社と競合する事業を行う会社設立計画を立て,貴社の顧客に新会社として営業活動を開始しました。ここにこれを認め,お詫び致します。」と記載した書面を作成して提出するなどした(甲14)。

エ 原告ニューチャーイノベーションは,平成14年10月31日に被告Bを代表取締役から解任して取締役に降格する取締役会決議を行い(同年11月14日登記手続。甲6),同年12月27日にその株主総会で同年11月,12月の被告Bの役員報酬をそれまでの月150万円から月120万円に減額する旨の取締役会決議を承認する手続がとられた(甲125,乙73)。

原告ニューチャーイノベーションは,平成14年10月23日に被告Cに対して1週間の自宅待機を命じ,同月31日に,さらに1週間の自宅待機を命じた(第2事件甲12)。

(4)  別紙業務目録について

被告Bないし被告Cは,被告カタナの設立計画がAらに知られた後,次の業務を行なった。

ア 株式会社サイバード(以下「サイバード」という。)に対するコンサルティング業務(別紙業務目録記載1のもの)

被告Cは,自宅待機中の平成14年11月,12月にサイバードに関する人事コンサルティング業務を行ない,サイバードに対し,当該業務の一環として同年11月29日付け新人事制度導入に関する資料(全18頁)及び同年12月6日付け評価者訓練に関する資料(全10頁)を提出した(甲21の3)。

被告Cは,サイバードから,上記業務の対価として60万円を受領した(弁論の全趣旨)。

イ JBL第4期第3単位の業務(別紙業務目録記載2のもの)

被告Cは,自宅待機中の同年11月8日,9日の2日間,JBL第4期第3単位のコーディネーターを担当した。

被告Cは,上記業務の報酬として21万円,交通費として1520円の合計21万1520円をJMAに請求し,これを受領した(乙64の1,弁論の全趣旨)。

ウ JBL第4期第4単位の業務(別紙業務目録記載2のもの)

被告Cは,自宅待機中の同年12月5日ないし7日の3日間,JBL第4期第4単位のコーディネーターを担当した。

被告Cは,上記業務の報酬として31万5000円,交通費として2480円の合計31万7480円をJMAに請求し,これを受領した(乙64の2,弁論の全趣旨)。

エ JBL第3期第7単位の業務(別紙業務目録記載3のもの)

被告C又は被告Bは,同年12月13日,14日の2日間(被告Cは原告ニューチャーイノベーション退職後,被告Bは原告ニューチャーイノベーション取締役在任中であった。),JBL第3期第7単位のコーディネーターないし講師業務を行なった。

被告C又は被告Bは,上記業務の報酬として23万円をJMAに請求し,これを受領した(弁論の全趣旨)。

オ V書籍の翻訳本出版作業(別紙業務目録記載4のもの)

被告Bは,平成15年1月20日,PHP研究所との間で出版契約を締結し,同月27日,被告ら3名を翻訳者としてV書籍の翻訳本「メンタリングの奇跡」(甲68)をPHP研究所から出版した(甲133)。

被告Bは,同年2月14日,PHP研究所から上記翻訳本の印税として54万4320円を受領した(調査嘱託の結果,甲133)。

カ 株式会社エル・マール・サービス(以下「エル・マール・サービス」という。)に対する業務(別紙業務目録記載7のもの)

原告ニューチャーイノベーションは,平成14年11月,12月にエル・マール・サービスに対し,コンサルティング業務(対価約20万円)を行なった。

キ ミノルタ株式会社(以下「ミノルタ」という。)に対する研修業務(別紙業務目録記載6のもの)

原告ニューチャーイノベーションは,平成14年10月11日ないし13日にかけてミノルタに対し,被告Bを担当者としてプロジェクトマネジメント研修(対価約51万円)を行なった。

(5)  被告ら3名の解雇と賃金ないし役員報酬の支払について

ア 原告ニューチャーイノベーションは,平成14年12月10日付けで被告Cを,同月25日付けで被告Dを各懲戒解雇し,同月27日付けで被告Bについて原告らの取締役ないし監査役を解任した。

原告ニューチャーイノベーションにおいては,従業員に対し,毎月末日ころ賃金を支払っていたが,被告Cに対して平成14年10月24日から同年12月9日までの期間に相当する賃金を支払わず,被告Dに対して平成14年12月16日から25日までの期間に相当する賃金を支払わなかった(第2事件甲4,弁論の全趣旨)。また,原告ニューチャーイノベーションは,被告Bに対して,同年11月末日及び同年12月末日ころ,各月分の役員報酬を支払わなかった。

イ 被告B,被告C及び被告Dは,平成15年5月20日,各自の未払賃金ないし役員報酬の支払を求めて訴えを提起し(第2事件),原告ニューチャーイノベーションと被告D及び被告Cは,同年12月5日,原告ニューチャーイノベーションが被告Dに平成14年12月16日から同月25日までの期間に相当する未払賃金として90万円,被告Cに平成14年10月23日から同年12月9日までの期間に相当する未払賃金として160万円を支払う旨の裁判上の和解をした。

ウ 原告ニューチャーイノベーションは,被告Bに対して役員報酬240万円の未払金があることを認めており,平成17年11月18日に被告Bに対して原告ニューチャーイノベーションが未払報酬額と自認する240万円から被告Bに対する立替金債権額52万6034円(甲120ないし124から明らかであり,被告Bもこれを争わない。)を控除した187万3966円を持参したが,被告Bは未払報酬金額は300万円(立替金債権額控除後は247万3966円)であるとして同金員の受領を拒否した。

原告ニューチャーイノベーションは,同年12月21日,上記金員187万3966円を被告Bのために供託した(東京法務局平成17年度金第56852号。甲130)。

(6)  被告カタナの設立と被告各テキストの作成,販売等

ア 被告Bは,平成15年2月,原告ニューチャーイノベーションニューヨーク支店の事務所が設置される予定であった場所を主たる事務所として,被告カタナを設立した(甲5の48頁,主たる事務所はその後変更した。被告C尋問調書48頁)。被告Bは被告カタナの代表取締役に就任し,被告C及び被告Dは被告カタナの従業員として稼働した。

イ 被告ら3名は,同年1月ころまでに被告テキスト2を作成し(甲56),被告カタナは,同月,被告テキスト2をCDとセットで4万3000円(書籍の価格は5000円)でインターネット上で販売した(甲62)。なお,被告テキスト2の裏表紙には,「$59.70」と記載されている。

ウ JMAは,同年4月9日から11日の3日間,アベンティスファーマ株式会社(以下「アベンティスファーマ」という。)向けにJBLプログラムを実施し,被告カタナは,同プログラムの講師業務を受注し,被告Bないし被告Cが担当した(甲106)。被告ら3名は,上記講義のテキストとして被告テキスト1(甲23の2)を作成し,被告Bないし被告Cが同講義を担当した。同テキストの奥付には,「$65.95U.S.A」と記載されている。

3  争点

(1)  著作権侵害に基づく請求について

ア 原告各テキストの著作権が原告ニューチャーイノベーションに帰属するか(争点1)

イ 原告各テキストと被告各テキストの類似性(争点2)

ウ 著作者人格権侵害の有無(争点3)

エ 損害の額(争点4)

(2)  不正競争防止法に基づく請求の成否(争点5)

(3)  不当利得ないし競業避止義務違反に基づく請求について

ア 別紙業務目録記載1の業務を行ない対価を受領したことが不当利得ないし競業避止義務違反に当たるか(争点6)

イ 別紙業務目録記載2の業務を行ない対価を受領したことが不当利得ないし競業避止義務違反に当たるか(争点7)

ウ 別紙業務目録記載3の業務の担当者及び同業務の対価を受領したことが不当利得ないし競業避止義務違反に当たるか(争点8)

エ 別紙業務目録記載4の業務を行ない対価を受領したことが不当利得ないし競業避止義務違反に当たるか(争点9)

オ 別紙業務目録記載5の顧客勧誘行為を行なった事実の有無及びこれによる損害の額(争点10)

カ 別紙業務目録記載6の対価を受領した事実の有無及びこれが不当利得ないし競業避止義務違反に当たるか(争点11)

キ 別紙業務目録記載7の対価を受領した事実の有無及びこれが不当利得ないし競業避止義務違反に当たるか(争点12)

(4)  役員報酬請求について

被告Bの平成14年11月,12月の原告ニューチャーイノベーション役員としての報酬の額(争点13)

(5)  著作権侵害に基づく損害賠償請求権,不正競争防止法違反による損害賠償請求権及び不当利得返還請求権ないし競業避止義務違反に基づく損害賠償請求権を自働債権とする,原告ニューチャーイノベーションによる被告Bの役員報酬債権に対する相殺(争点14)

(6)  著作権侵害に基づく損害賠償請求権,不正競争防止法違反による損害賠償請求権及び不当利得返還請求権ないし競業避止義務違反に基づく損害賠償請求権を受働債権とする,被告Bの役員報酬債権による原告ニューチャーイノベーションに対する相殺の可否(争点15)

第3争点に関する当事者の主張

1  争点1(原告各テキストの著作権が原告ニューチャーイノベーションに帰属するか)

(1)  原告ら

ア 著作者の推定(著作権法14条)について

原告各テキストには,原告ニューチャーイノベーションが著作者として表示されているから(甲23の1の1ないし3),著作権法14条により原告ニューチャーイノベーションが著作者と推定される。原告各テキストの著作者が原告ニューチャーイノベーションではなく被告Bであるというのであれば,被告らがこの点を立証する必要がある。

被告らは,原告テキスト1は製本され,配付された際には被告BないしJMAが著作者として表示されていたとして乙30ないし32を提出する。しかし,乙30ないし32は被告らが本件訴訟に提出するために偽造したものである。すなわち,証人尋問の結果によれば,原告テキスト1は,被告Cが,「All Rights Reserved Nuture Innovation(at New York)2002」と表示されたデータ(甲23の1の1ないし3)をJMAの担当者であったE(以下「E」という。)にメールで送信し,Eがそのまま製本に出したのであるから,原告テキスト1の製本の各頁に乙30ないし32のように「All Rights Reserved B」という表示がなされることはあり得ない。

乙30ないし32が被告らの偽造に係るものであることは,被告らが乙30ないし32を提出する経緯が不自然であったことからも裏付けられる。すなわち,被告らは原告テキスト1の製本されたものを証拠として提出するとして,当初,その表紙の写しのみを提出し(乙26の1ないし3),裁判所及び原告ら代理人から本文も提出するように求められていたにもかかわらず,その後約5か月間提出せず,その間,原告らが原告テキスト1の製本されたものを所持しているか否かについて求釈明をするなどして原告らが甲23の1の製本されたものを所持していないことを確認した後に乙30ないし32を提出している。この経緯からもこれらが偽造によるものであることが窺われる。

イ 職務著作の成否

a) 原告らの主張

原告テキスト1は,平成14年8月ころ,当時原告ニューチャーイノベーションの従業員であった被告C及び被告Dが,被告Bの助言を受けながら,原告ニューチャーイノベーションの発意に基づき,原告ニューチャーイノベーションがJMAから受注したJBL第4期第1単位の講義に用いるために職務上作成したテキストであり,同講義において原告ニューチャーイノベーションの名義で公表されたものであるから,同原告に著作権が帰属する(著作権法15条,17条)。

また,原告テキスト2及び3は,同年9月ころから同年10月23日ころまでの間に,当時原告ニューチャーイノベーションの従業員であった被告Cが,原告の発意に基づき,その後の原告ニューチャーイノベーションの業務に用いるために,原告テキスト1に改良を加えて作成したものであり,原告ニューチャーイノベーションの名義で公表することが予定されていたものであるから,原告ニューチャーイノベーションに著作権が帰属する(著作権法15条,17条)。

b) 被告らの主張に対する反論

① 原告ニューチャーイノベーションの発意について

被告らは,原告各テキストは原告ニューチャーイノベーションの発意に基づいて作成されたものではない旨主張する。

しかし,原告ニューチャーイノベーションは,被告ら3名に対して新たな人事コンサルティング手法を開発するよう指示し,被告ら3名が「パフォーマンス・メンタリング」という新しい分野がある旨報告したことから,平成14年4月ころ被告B及び被告Cを原告ニューチャーイノベーションの費用でISPI会議に出席させるなどして情報を収集した上,商品化する旨決定したのである。原告ニューチャーイノベーションは,被告Bがコーディネーターを務めるJBLにおいてメンタリングプログラムを導入していることに着目し,JMAに対してJBLのメンタリングプログラムとしてパフォーマンス・メンタリングを採り入れるよう働きかけた結果,JBL第4期からパフォーマンス・メンタリングが導入された。原告ニューチャーイノベーションは,上記JBL用のテキストとして被告Cに原告テキスト1を作成させた。したがって,原告各テキストは,原告ニューチャーイノベーションの発意に基づいて作成されたものである。

② 原告各テキストの作成経緯について

被告らは,原告テキスト1は,被告Cが,被告BないしJMACが著作権を有する別紙被告Bテキスト1ないし8(以下,各テキストを「被告Bテキスト1」などといい,被告Bテキスト1ないし8を併せて「被告B各テキスト」という。)のいずれかの頁を写経のように書き写すことによって作成したものであり,新たに創作性を付加された部分はないから原告テキスト1について原告ニューチャーイノベーションに職務著作が成立することはない旨主張する。

しかし,被告らが証拠として提出する被告Bテキスト3を除く被告B各テキストは,いずれも頁数の記載が一部欠けるなどしており一体のものであるかどうか不明である上,被告らが原告ら在職中にはじめて作成したはずの資料が混在しており,被告Bが原告ら入社前に作成したものとは考えられない。特に被告Bテキスト2,4,5,7,8については偽造によるものである可能性が高い。

被告Bテキスト4には「0期使用テキスト」との追加書きが存在するが,乙18のJBLのパンフレット(被告Bテキスト3)には0期の記載はなく0期というプログラムが存在したかどうか不明である。

被告Bテキスト5については,被告らは,平成12年10月19日から同月21日までに行なわれたJBL第1期で使用したものであると主張するが,同講義のどこでどのように使用したのかを明らかにしない。同テキストには「Menter's Guide」と題が付されていることからメンターに対する講義等で使用されたはずであるが,被告Bが第1期で担当したのはメンティーに対する講義のみである。第1期においてメンターが参加するプログラムは同月20日午後7時からの「メンティー・メンター合同セッション」しかなく,かつ,被告Bは同セッションの担当者ではない(甲57)。

被告Bテキスト7については,1頁目に平成12年8月との記載があり,被告らは同年6月からのJBL第1期で使用したものである旨主張するが,第1期は同年10月から平成13年3月まで実施されているのであり(乙18),被告らの主張及び被告Bテキスト7の日付けの記載は客観的事実と整合しない。

JMAの従業員であるF(以下「F」という。)は,被告Bテキスト1及び4がJBL第0期に使用されたものであり,被告Bテキスト3,5ないし7が同第1期に使用されたものである旨の陳述書(乙27)を提出する。しかし,Fは証人尋問期日において上記被告B各テキストと実際にJMA等で使用されたテキストとを見較べて確認したわけではない旨証言している。被告BはもともとJMAの従業員であり組織変更によりその子会社であるJMACの従業員となった経緯もあって,JMA従業員の証言の信用性は客観的な証拠と照らして慎重に判断する必要がある。

被告Bテキスト8については,被告らはこれまで,原告各テキストの「元ネタ」は被告Bテキスト1,3ないし7であると主張しており,被告Bテキスト8の存在は何ら述べていなかったが,平成17年5月31日になって突然被告Bテキスト8を提出すると共に,原告各テキストを作成する以前から存在していた資料であるなどと主張してきたものである。しかし,提出時期の不自然さ及び表紙や頁の記載が無く,内容や順番がばらばらで統一性がないことから当該書証が平成12年10月以前に存在していた旨の主張は信用することができない。被告Bテキスト8は,被告らが本件訴訟で原告各テキストの著作権を原告らに帰属させたくないがために偽造した書証である。

被告らは,被告Bテキスト8が段ボールの中に他の荷物と共に入っていたためにこれまでその存在に気が付かなかった旨主張する。しかし,そのような主張は信用できない上に,被告Bテキスト8が被告Bの作成に係るものであるならば,当然データを所持していたはずであり,当該データをプリントアウトする等して提出するなど,いくらでも方法はあったはずである。にもかかわらず,訴訟の終盤になって提出された書証であるから,信用することはできない。

JMAの元従業員であるG(以下「G」という。)は,平成14年5月ころ,JBL第3期に事務局として携わった際に「2001年3月」と記載されたファイルの中に被告Bテキスト8が入っているのを見た記憶があり,そのとき,同テキストをコピーした旨証言する。しかし,JBL第3期の時間割に記載された事務局担当者の中にGの名前はない(甲132)。また,Gは,被告Bテキスト8が保管されていたファイルは,JBL第2期から第3期への引継ぎに際して作成されたものであり,JBL第3期の担当者であるJMA従業員Eは被告Bテキスト8のことを知っているはずである旨証言する。しかし,Eはパフォーマンス・メンタリングという言葉を聞いたのはJBL第3期(平成14年6月開始)の途中,同第4期(同年9月開始)の始まる前に被告Bから聞いたのが初めてである旨の証言をしている。パフォーマンス・メンタリングという用語を多用している被告Bテキスト8が,平成13年3月までに作成されてJBL第3期が始まる前に既にファイリングされていた旨のGの証言はEの証言内容と整合しない。そもそも,Gの証言内容は,戸棚の中に100冊単位で入っているボックスファイルの中からJBLのボックスファイル二つを選別し,当該二つのボックスファイルの中に入っていたたくさんの資料の中から,被告Bテキスト8のみをコピーし,同テキストのほかにどのような資料が上記ファイルの中に入っていたのか覚えていないというものであり,不自然である。被告らの主張によれば,当該ファイルには被告Bテキスト5も含まれていたはずであり,Gがメンタリングに関して勉強するのであれば,むしろ,当該資料をコピーするのが自然である(被告Bテキスト8はメンタリングに特化したものではない。)。被告Bテキスト8には「禁無断転載複製」と記載されているにもかかわらず,JMAの従業員がこれをコピーして退職後も所持しているというのも不自然である。また,被告Bテキスト8は,製本されておらず,その体裁からいえば,講義等で配付されてしかるべき内容であるにもかかわらず,Gの証言によれば,これまで一度も配布されたことのない資料であるというのであるから,かかる資料が従前から存在していたという被告らの主張は信用できない。

c) 被告Bテキスト8は時機に後れた攻撃防御方法である

被告らは,原告各テキストの「元ネタ」は被告Bテキスト1,3ないし7であると主張して,上記被告Bテキストを平成16年2月12日の第6回弁論準備手続期日に提出し,平成17年1月31日から同年4月26日にかけて上記提出済み被告Bテキストの成立の真正等に関する証拠調べが実施された。被告らは,その後の平成17年6月6日第13回弁論準備手続期日になって,被告Bテキスト8(乙60)を,さらに同年11月18日の第17回弁論準備手続期日において,同テキストの信用性を裏付ける資料として被告Bテキスト2(乙72の1)を証拠として提出してきたものである。被告Bテキスト8は時機に後れた攻撃防御方法である。

被告らは,被告Bが千葉県山武郡にある自宅に存在していた被告Bテキスト8に気が付くのが遅れたため,証拠として提出するのが遅れた旨主張するが,被告Bの主張は信用できない。

また,被告らは,証人尋問等が終了するまで,原告テキスト1のみが審理の対象であって原告テキスト2及び3は審理の対象になっていなかったと認識していた(そのため,原告テキスト2及び3に対応する被告Bテキスト8の提出が遅れた。)旨主張する。しかし,原告らは,裁判所から事案の早期解決のためには営業秘密や著作物の対象物を絞ることも有用ではないかとの釈明を受けて平成15年8月29日の第2回弁論準備手続期日において陳述した第1準備書面で審理を求める対象物として原告テキスト1を特定し,同年10月15日の第3回弁論準備手続期日において陳述した第4準備書面で原告テキスト1の発展版として原告テキスト2及び3について原告らに著作権が帰属する旨主張した。そして,被告らが訴訟係属中にもかかわらず原告テキスト2及び3の複製物である被告テキスト2を販売していることが明らかになったことから,平成16年2月12日の第6回弁論準備手続期日において陳述した第6準備書面において被告テキスト2の販売等差止請求とその販売による損害賠償の請求を追加する旨主張した(実際に請求の趣旨を変更したのは同年5月27日の第8回弁論準備手続期日)。原告らは,同年2月12日の第6回弁論準備手続期日において陳述した第6準備書面において原告テキスト2及び3と被告テキスト2の各頁の対応表を作成して提出し,同年9月3日受付の原告ら第12準備書面において原告テキスト2及び3と被告Bテキスト1,3ないし7との各頁を対比する対比表を作成して提出し,その後もこれに基づく著作権侵害の主張をしていた。被告らは,これに対して原告らに原告各テキストの著作権が帰属することはない,従前に被告Bにおいて作成した資料がある等と主張して被告Bテキスト1,3ないし7を提出してきたものである。被告らは遅くとも平成16年9月までには原告テキスト2及び3が審理の対象になっていることを認識していたはずである。

d) 被告Bテキスト1,3ないし7と原告各テキストの同一性について

仮に,原告各テキストが被告Bテキスト1,3ないし7に基づいて作成されたものであったとしても,上記被告Bテキストと原告各テキストの内容は大きく異なっている。

被告らは,上記各テキストの対応関係について,別紙「原告テキスト1と被告Bテキスト1,3ないし7の各頁の対応関係に関する被告らの主張」のとおり主張するが,当該主張は原告テキスト1の一部の頁についての主張であり,原告テキスト1全体及び原告テキスト2及び3と被告Bテキスト1,3ないし7の各頁を比較すると,別紙「原告各テキストと被告Bテキスト1,3ないし7の各頁の対応関係に関する原告らの主張」のとおりである。これによると原告各テキストにおいて被告Bテキスト1,3ないし7が使用されている割合は,全114頁のうち19頁(16%)にすぎない。原告各テキストのうちその余の95頁(84%)は原告ニューチャーイノベーションの従業員であった被告Cが原告ニューチャーイノベーションの職務として作成した部分なのであるから原告各テキストは,原告ニューチャーイノベーションの著作物である。

(2)  被告ら

ア 著作者の推定

原告テキスト1を製本した後の乙30ないし32の表紙にはJMAが著作者として表示されており,各頁には被告Bが著作者として表示されている。原告テキスト1は,JBL第4期の受講生に配布され,市販によって公の市場に流通した際には上記のような体裁であったから,著作権法14条により,被告B又はJMAが著作者と推定される。

原告テキスト1の原稿データである甲23の1の1ないし3には原告ニューチャーイノベーションが著作者として表示されているが,これらはパソコンに保存されていたデータにすぎないから,当該表示から原告ニューチャーイノベーションが著作者であると推定されることはない。

原告らは,証人尋問の結果に基づき,原告テキスト1は甲23の1の1ないし3の体裁で印刷,製本されたことが明らかであるから,乙30ないし32は被告らによる偽造証拠であると主張する。しかし,原告テキスト1は甲23の1の1ないし3に表紙を付した体裁で印刷,製本,配付された後,テキストにミスがあったとして被告Bが再度乙30ないし32の体裁で原告テキスト1を印刷,製本させ受講者に対して訂正テキストとして配付したものである。

イ 職務著作の成否

a) 原告ニューチャーイノベーションの発意について

原告各テキストは,いずれも原告ニューチャーイノベーションの発意に基づき作成されたものとはいえない。原告各テキストは,いずれもパフォーマンス・メンタリングに関するテキストであるところパフォーマンス・メンタリングは,被告Bが原告らに入社する以前から開発し,JBL等で実施していたコンサルティング手法である。

原告らは,パフォーマンス・メンタリングとは,被告Bが原告らに入社した後の平成14年4月ころ以降に,ISPI会議に参加するなどして新しく開発し,JBL第4期で初めて採り入れられた手法であるかのように主張する。しかし,ISPI会議の内容はパフォーマンス・メンタリングに関するものではないし,JBLにおいては当初からパフォーマンス・メンタリングが採り入れられていた。仮に,従前のメンタリングプログラムと全く内容が異なる新規の手法であったとすれば,JMAが第4期のプログラム開始の4か月前という時期に,プログラムに組み込むということは考えられないし,原告ニューチャーイノベーションに入社して約1年の被告Cがそのテキストを作成するということも考えられない。

また,原告ら現代表取締役Aはパフォーマンス・メンタリングに対する関心が薄かった。原告らの会議においてパフォーマンス・メンタリングが議題とされることは少なく,仮に議題に上ったとしても被告Bが開発を主張しているのに対しAはこれに関心を示していない(甲93,94,乙39ないし41)。かかる状況で原告ニューチャーイノベーションが被告Cに対し,原告テキスト2及び3の作成を指示するはずはない。

特に原告テキスト2及び3については,その複製物であると主張する被告テキスト2が使用されたのはJBL第6期であり,原告らが同テキストの作成時期であると主張する平成14年9月ないし10月までの間には,JBL第6期の開催は未だ話題になっていない。この時期は,原告テキスト2及び3を利用する予定はなかった。原告ニューチャーイノベーションは,当時,経営難に陥っており,利用する予定もないテキストの作成を指示することはあり得ないから,原告ニューチャーイノベーションの発意があったということはない。

原告らの現在の従業員には,パフォーマンス・メンタリングを理解している者がいないことからも同手法が原告らの指示の元に開発された手法でないことは明らかである。

b) 原告各テキストの作成経緯

原告テキスト1は,被告Cが,被告Bテキスト1,3ないし7のいずれかの頁を写経のように書き写すことによって作成したものである。そして,被告Bテキスト1,3ないし7は,被告Bが原告らに入社する平成12年10月より前に作成したものであり,被告Bが当時所属していたJMACが著作権を有する著作物である。原告テキスト1は,被告Bテキスト1,3ないし7と全く同一であって何らの創作性も付加されていないのであるから(別紙「原告テキスト1と被告Bテキスト1,3ないし7の各頁の対応関係に関する被告らの主張」のとおり。),原告テキスト1について原告ニューチャーイノベーションに職務著作が成立することはない。

原告テキスト2及び3は,被告BがJBL第6期(平成16年に開始)のために作成したものである。原告テキスト2及び3のデータが被告Cのパソコンに保存されていたのは,被告Cが自らの勉強のために被告B作成のデータを保存しておいたからである。

原告テキスト2及び3の作成時期は,原告テキスト1の作成時期より前(平成14年9月開始のJBL第4期より前)である。被告Cは,まず,被告Bテキスト8を写経し,写経したデータをさらに絞る形で原告テキスト2及び3を作成し,原告テキスト2及び3をさらに絞る形で原告テキスト1を作成したものである。原告らは,被告Cが原告テキスト1を作成した後にこれを改訂する形で原告テキスト2及び3を作成した旨主張するが,被告Cは平成14年9月2日までは原告テキスト1を作成しており,同年10月23日には自宅待機命令を受けているのであるから,上記期間に原告テキスト2及び3のようなテキストを作成するのは困難である。被告Cの工程表(甲87,88)にはこの期間にパフォーマンス・メンタリングの件で稼働した旨の記載はない。

そして,被告Bテキスト8は,被告Bが原告らに入社する平成12年10月より前に作成したものであり,被告Bないし被告Bが当時所属していたJMACが著作権を有する著作物である。原告テキスト2及び3は,被告Bテキスト8と全く同一であって何らの創作性も付加されていないのであるから(別紙「原告テキスト2及び3と被告Bテキスト4,5,7,8の対応関係に関する被告らの主張」のとおり。),原告テキスト2及び3について原告ニューチャーイノベーションに職務著作が成立することはない。

c) 原告らは,被告B各テキストは本件訴訟のために原告各テキストの内容を盛り込むなどして偽造したものである旨主張する。しかし,被告Bテキスト2,7及び8には,「JMA Consultants Inc.禁無断転載複製」と記載されたシール(以下「JMACシール」という。)が貼付されており,当該シールから,被告Bが,同社に在籍していた当時作成したものであることが明確である。JMACシールは,JMACにより厳重に管理されているもので簡単に手に入るものではない。また,JMAのFは被告Bテキスト1,3ないし7をJBL第0期及び1期で使用した旨の陳述書を作成している(乙27)。

被告Bテキスト4について,原告らは,JBL第0期の存在を疑うが,JBLは大規模な研修プログラムであることから第1期開催前の準備期間が存在しており,当該準備期間を便宜上0期と呼んでいた。第1期の受講生募集パンフレットにはパフォーマンス・メンタリングの用語(普遍的資質,キャリアビジョン等)が用いられていることから,上記パンフレットを作成する時期(1期開催のおよそ1年前)にはすでにパフォーマンス・メンタリングに関するテキストが完成していたことが明らかである。テキストが完成していなければ,そのような用語をパンフレットに盛り込むことはできない。

被告Bテキスト5について,原告らは,第1期のどこでどのように使用したものか明らかでないと主張する。被告Bは,JBL第0期から第3期においてメンタリングの実践の中で受講生の成長に合わせて被告テキスト5の中から必要な資料を適宜抜き出して受講生に提示する形で使用していた。被告Bテキスト5は,2穴のファイルに綴られた資料であり一冊のテキストとして受講生に配付されたものではない。

被告Bテキスト7について,原告らは,同テキストに記載されている日付(平成12年8月)と第1期開催期間(平成12年10月から)に齟齬がある旨主張する。被告テキスト7は平成12年8月に行なわれたJMACの技術会議やJBL第0期に使用されたものであるから,齟齬はない。

被告Bテキスト8については,JMAの元従業員Gが,平成14年5月にこれを見たことがあり,その際,同テキストは「2001年3月」と題されたファイルに綴られていたと述べていることから明らかである(乙71)。また,被告Bテキスト8の内容が平成11年ないし12年ころ作成されたテキスト(乙72の1・2)にも記載されていることからも,当時,被告Bテキスト8が存在していたことは明らかである。

d) 時機に後れた攻撃防御方法について

原告は,被告Bテキスト8について時機に後れた攻撃防御方法である旨主張する。しかし,被告Bテキスト8の提出がこのように後れたのは以下の事情によるものである。すなわち,被告Bテキスト8は,平成15年1月21日に原告ニューチャーイノベーションから千葉県山武郡にある被告Bの自宅に送られてきた荷物の中に入っていたものであるが,被告Bは妻から上記荷物についてシャツ,コップ,タオル,ダイレクトメール,靴下,封筒に入ったメモ用紙である旨報告を受けただけであり,自らは自宅にはたまにしか訪れていなかったため,被告Bテキスト8の存在に気が付かなかった(乙67)。平成17年に被告Bの妻子が引っ越しをすることになったことから,同年春ころ被告Bが引っ越しの手伝いに行った際に被告Bテキスト8を発見したものである。

また,被告らは,証拠調べが終了した平成17年2月ころまで,本件の審理は原告テキスト1に絞られていると考えており,原告テキスト2及び3が審理の対象になっているとは考えていなかった。すなわち,原告らは,当初大量の対象物を著作物として主張してきたため,裁判所の訴訟指揮により当面の審理対象物が絞られ,この際,原告テキスト1が当面の審理の対象物とされた。原告らは,その後,原告テキスト1の発展版として原告テキスト2及び3を提出し,被告テキスト2の販売等差止請求を追加したが,被告らは,当面の審理対象は原告テキスト1に絞られているものと認識しており,原告テキスト2及び3について原告らが勝手に主張しているものとの認識であった。

e) 職務著作が成立するためには当該著作物が,社員なら誰でも同じように作成できるものであることが必要である。当該従業員ゆえに作成できたというような著作物については職務著作の成立を認めるべきではない。職務著作の成否は著作者人格権を従業者と会社のいずれに帰属させるのが妥当かという観点から決せられるべきである。

本件においては,被告Bは,原告らに入社する何年も前からパフォーマンス・メンタリングについて研究,開発してきており,原告らには被告B以外にパフォーマンス・メンタリングを実践できる者はいないのであるから,被告Bが原告ら在籍中に従前の著作物に新たな表現を加えた場合に,その新たな表現部分についてたまたま被告Bが所属していた会社の著作物になるというのは妥当でない。

2  争点2(原告各テキストと被告各テキストの類似性)

(1)  原告ら

被告テキスト1は,原告テキスト1に依拠して作成された上,内容がこれに類似しており,被告テキスト2は,原告テキスト2及び3に依拠して作成された上,内容がこれに類似している。

原告テキスト1と被告テキスト1の各頁の対応関係は,別紙「原告テキスト1と被告テキスト1の対応関係に関する原告らの主張」のとおり,かなりの頁において原告テキスト1をそのまま複製し,その他の頁は公開セミナー用から企業内研修用に書き換えているだけであって類似していることは明らかであり,被告らもこの点を争わない。

原告テキスト2及び3と被告テキスト2の各頁の対応関係は,別紙「原告テキスト2及び3と被告テキスト2の対応関係に関する原告らの主張」のとおりであり,表紙などの形式部分(1ないし10頁)を除く本文部分148頁のうち110頁(約75%)が原告テキスト2及び3のいずれかの頁をそのまま写した内容になっている。

なお,被告らは,原告各テキストの一部について被告Bテキスト1,3ないし7のいずれかの頁を複製したものであって,かかる部分には原告らの著作権が成立する余地はない旨主張する。原告らは,被告Bテキスト3を除く上記被告B各テキストの成立の真正を争うものであるが,仮に,被告らが指摘する部分が上記被告B各テキストの複製であるとの前提にたって,被告らが指摘する部分について除外したとしても,原告各テキストと被告テキスト2の各頁の対応関係は別紙「原告各テキストと被告テキスト2の対応関係に関する原告らの主張」のとおりであり,表紙などの形式部分を除く本文部分143頁のうち95頁(約66%)が原告各テキストのいずれかの頁をそのまま写した内容になっている。

(2)  被告ら

原告テキスト1と被告テキスト1の記載内容の同一性は認める。

3  争点3(著作者人格権侵害の有無)

(1)  原告ら

被告らは,原告各テキストに不正な改変を加えて利用しており,原告ニューチャーイノベーションの同一性保持権を侵害している。

被告らは,原告各テキストを複製して作成した被告各テキストを利用するについて,原告ニューチャーイノベーションの氏名を表示しておらず,原告ニューチャーイノベーションの氏名表示権を侵害している。

(2)  被告ら

争う。

4  争点4(損害の額)

(1)  原告ら

ア 被告テキスト1の作成・使用による損害について

a) 主位的主張(著作権法114条1項)

被告らによる被告テキスト1の作成・使用行為がなければ,原告ニューチャーイノベーションは,原告テキスト1を使用した講義,講演を少なくとも3回は受注していたはずであった。当該講義,講演の報酬は,JMAのJBLの報酬を参考にすると,少なくとも1回73万3380円を下らない(甲46)。ただし,上記報酬額の一部はテキスト使用料のほか講師の説明部分の対価であるといえるから,上記報酬額の2分の1に相当する35万円が著作物利用対価である。

そうすると,35万円×3回の105万円が被告テキスト1の作成・使用による逸失利益である。

b) 予備的主張(著作権法114条3項)

原告らは,原告テキスト1を第三者に貸与することは通常あり得ないが,第三者に貸与するとすれば,1回あたり35万円の使用料が相当である。講義においては,テキストが重要な位置を占めており,一般的な知識,経験を有する経営コンサルタントであれば,テキストさえあれば講演をすることができるといえるから,講演等の報酬の2分の1が使用料相当額と考えられる。そして,被告らが原告テキスト1の複製物である被告テキスト1を用いて行なった講演の報酬は1回70万円であるから,その半額の35万円が使用料相当額である。

原告らは,被告テキスト1の3回分の使用料相当額である105万円を原告らの被った損害として請求する。

イ 被告テキスト2の作成・販売による損害について

被告テキスト2は,末尾に「$59.76」との記載があるから少なくとも1冊6000円で販売されている。印刷代金等の経費は5割である。

そして,被告らは被告テキスト2をこれまでに少なくとも5000冊販売していると考えられるから,被告らは被告テキスト2の販売によって少なくとも1500万円の利益を得ている。

そうすると,著作権法114条2項に基づき,原告は同額の損害を被ったものである。

なお,被告らは,被告テキスト2の販売価格は5000円であると主張するが,被告テキスト2に記載された価格と整合しておらず信用できない。また,被告らは,被告テキスト2を500冊作成するのに合計35万1960円の経費を要したと主張するが,実際に販売等した122冊に要した費用8万5878円(35万1960円×122冊÷500冊)に限り,経費として控除すべきである。

ウ 著作者人格権侵害による損害の額

被告らの被告テキスト1及び2による同一性保持権及び氏名表示権の侵害によって被った損害は金銭に見積もると300万円が相当である。

(2)  被告ら

ア 被告テキスト1の作成・使用による損害について

原告らは,被告らによる被告テキスト1の作成・使用行為がなければ,原告ニューチャーイノベーションが原告テキスト1を使用した講義,講演を少なくとも3回は受注していたはずであると主張する。

しかしながら,原告ニューチャーイノベーションは,被告ら3名が退職した後,パフォーマンス・メンタリングに関する営業を全くしていないことからもわかるように,原告ニューチャーイノベーションの従業員にはパフォーマンス・メンタリングの講義を担当できる者はいないのであるから,被告らによる被告テキスト1の作成・使用行為がなければ,原告ニューチャーイノベーションが原告テキスト1を使用した講義,講演を受注していたという関係にはない。

イ 被告テキスト2の作成・販売による損害について

被告テキスト2は1冊5000円(消費税込みで5150円)である(甲62)。

被告テキスト2は500冊印刷し,これまでにJMAに70冊納品し,その他35冊を販売したから,売上は,105冊×5000円(消費税込みで5150円)である。その他,17冊をJMA従業員に対して無償で交付し,在庫は378冊である。

被告テキスト2の作成経費は,500冊分の印刷代35万1750円と同印刷代金の振込み手数料210円である。

原告らは,著作権法114条2項を主張する。しかし,同条項を適用する前提として,被告らが販売しなければ原告ら自らが原告テキスト2及び3を出版していたという関係がなければならないのであり,原告らはパフォーマンス・メンタリングに関する業務に消極的であったから同条項を適用する前提を欠く。

また,仮に,原告テキスト2及び3に法人著作が成立する部分があったとしても,これらは被告B各テキストの二次的著作物に該当し,二次的著作物の原著作者は,二次的著作物の利用全般について二次的著作物の著作者と全く同一の権利を有するのであるから(キャンディキャンディ最高裁判決),被告Bは,原告テキスト2及び3の法人著作部分について原告らと同一の権利を有するものとして損害額が算定されるべきである。

5  争点5(不正競争防止法に基づく請求の成否)

(1)  原告ら

原告テキスト1は,原告らの営業秘密に当たるところ,被告らは原告ら退職後,被告カタナの営業において原告テキスト1の複製物である被告テキスト1のデータ等を不正に使用しているから,被告らの上記行為は,不正競争防止法2条1項4号,7号,8号の不正競争行為に当たる。

(2)  被告ら

原告テキスト1は,不正競争防止法上の営業秘密に当たらない。

6  争点6(別紙業務目録記載1の業務を行ない対価を受領したことが不当利得ないし競業避止義務違反に当たるか)

(1)  原告ら

ア 原告ニューチャーイノベーションは,サイバードとの間でコンサルティング契約を締結し,平成14年2月ないし3月にかけて「プロジェクトROI型人材マネジメントシステム」と題するコンサルティングを提供し,その対価として同年2月28日には157万5000円,同年3月29日には184万4260円を各請求している(甲60の1,2)。原告ニューチャーイノベーションは,同年4月以降,サイバードに対し,「新人事制度導入支援」を継続的に提供し,その対価として毎月31万5000円を請求していた(甲60の3ないし5)。

原告ニューチャーイノベーションは,上記サイバードに対するコンサルティング業務の担当者を被告Cとしていたが,同年10月23日,被告Cが被告Bと共に,競業会社の設立を企図していることが判明したため,原告ニューチャーイノベーションは被告Cに自宅待機命令を出した。原告ニューチャーイノベーション従業員Iは,被告Bに対し,サイバードに対して事情を説明するよう依頼したところ,被告Bはサイバードに対するコンサルティング業務は既に大方終了しているので後は自分がお詫びしておく旨回答した。

ところが,実際には,被告Cが平成14年11月6日から同年12月9日までの間に38時間にわたって,サイバードに対してコンサルティング業務を行っており(甲59),その対価として少なくとも60万円を個人的に受領した。

イ 主位的主張

被告Cは,原告ニューチャーイノベーションの従業員として上記業務を担当したのであるから,上記業務の対価は原告ニューチャーイノベーションに入金されるべきである。被告Cは,同業務の対価を原告ニューチャーイノベーションに入金せずに法律上の原因なく個人的に利得しており不当利得に当たる。

ウ 予備的主張

仮に,被告Cが次の各業務を原告ニューチャーイノベーションの業務としてではなく,個人的な業務として行なったというのであれば,被告Cは,原告ニューチャーイノベーション在籍中にもかかわらず,競業行為をしたことになるから,雇用契約上の競業避止義務に違反しているといえる。

被告らは,被告Cは,サイバードへの上記業務を実施した当時,原告ニューチャーイノベーションの従業員であったが,原告ニューチャーイノベーションはこの間被告Cに対して給与を支払っていなかったから,アルバイトとして上記業務を行なわざるを得なかった旨主張する。しかし,原告ニューチャーイノベーションは,その後,被告Cに対して上記期間の賃金を支払ったのであるから,被告Cがサイバードからの上記対価を受領することは二重に利益を得ることになって不当である。

(2)  被告ら

ア 被告Cが原告らの主張する期間にサイバードに対するコンサルティング業務を行ない,その対価を受領したことは認める。

被告BがIからサイバードに対する説明等を依頼された事実はないし,Iに対してサイバードに対するコンサルティング業務は既に大方終了しているので後は自分がお詫びしておく旨回答した事実もない。

イ 主位的主張について

被告Cは,以前からサイバードに対するコンサルティングを行っており,原告ニューチャーイノベーションから自宅待機等を命じられたものの,サイバードに対するコンサルティングを途中で放り出すわけにはいかなかったことから,報告書を作成してサイバードに提出したまでのことである。この報告書は,それまでサイバードに対して行なってきたコンサルティングに関するものであり,同コンサルティングに関与したものでなければ作成できないものである。

サイバードが原告ニューチャーイノベーションに依頼した業務(コーポレートガバナンス,役員態勢,組織形態)は,平成14年10月末までにほとんど終了していた。サイバード従業員H(以下「H」という。)は,同年11月,JMAに対し,上記とは異なる業務(人事制度上の問題点,当該問題点の解決策)の提供を依頼し,JMAが被告C個人に当該業務提供を依頼した(乙62の1・2)。このように,サイバードと原告ニューチャーイノベーションとの間で平成14年10月までに締結されていた契約とサイバードと被告Cの間で同年11月以降に締結した契約は別の契約である。被告Cは,上記JMAと同年11月ころ締結された契約に基づきサイバードに対する業務提供を行なったものであって,原告ニューチャーイノベーションの業務として行なったものではない。

したがって上記業務は,被告Cが個人的に受注したものであるから,被告Cが上記業務について受領した金銭は,原告ニューチャーイノベーションとサイバードとの契約に基づく報酬ではなく,これとは別の被告CとJMAとの契約に基づく業務に対する報酬であったから,契約上,被告Cが受領すべきものであって,法律上の原因に基づかない受領ではない。

ウ 予備的主張について

被告Cが原告ニューチャーイノベーションを退職したのは,平成14年12月10日であったが,被告Cは,同年10月末に,原告ニューチャーイノベーション従業員I及び同原告代理人弁護士のWから懲戒解雇を命じられていたので,被告Cは,同月末で退職したという認識でいた。したがって,上記サイバードに対する業務を実施していた当時も,既に原告ニューチャーイノベーションを退職したという認識であった。

また,原告ニューチャーイノベーションは,被告Cに対して自宅待機命令中の給与を支払っていなかったから,被告Cはやむを得ずアルバイトとしてサイバードに対するコンサルティング業務を行なったものである。

なお,被告Cが,上記サイバードに対する業務を引き受けていなかったとしても,JMAが原告らに上記業務を依頼したとは思われないから(当時被告Cは自宅待機中であり,被告Bは多忙であり,両人以外の原告ら従業員にはJMAとの関係で実績,面識のある者はいなかった。),被告Cが上記業務を行なったことによって原告らには何らの損害も生じていない。

7  争点7(被告Cが別紙業務目録記載2の業務を行ない対価を受領したことが不当利得ないし競業避止義務違反に当たるか)

(1)  原告ら

ア 被告Cは,平成14年11月8日及び9日にJMA主催のJBL第4期第3単位のコーディネーター業務を行ない,その対価として少なくとも20万円を受領した。

また,被告Cは,同年12月5日から7日にかけて,同コースの第4期第4単位のコーディネーター業務を行ない,その対価として少なくとも30万円を受領した。

イ 主位的主張

被告Cは,原告ニューチャーイノベーションの従業員として上記業務を担当したから,上記業務の対価は原告ニューチャーイノベーションに入金されるべきである。被告Cは,同業務の対価を原告ニューチャーイノベーションに入金せずに法律上の原因なく個人的に利得しており不当利得に当たる。

ウ 予備的主張

仮に,被告Cが上記業務を原告ニューチャーイノベーションの業務としてではなく,個人的な業務として行なったというのであれば,被告Cは,原告ニューチャーイノベーション在籍中にもかかわらず,競業行為をしたことになるから,雇用契約上の競業避止義務に違反しているといえる。

被告らは,被告Cは,JBLの上記業務を実施した当時,原告ニューチャーイノベーションの従業員であったが,原告ニューチャーイノベーションは,この間被告Cに対して給与を支払っていなかったからアルバイトとして上記業務を行なわざるを得なかった旨主張する。しかし,原告ニューチャーイノベーションは,その後,被告Cに対して上記期間の賃金を支払ったのであるから,被告CがJMAからの上記対価を受領することは二重に利益を得ることになって不当である。

(2)  被告ら

ア 被告Cが,平成14年11月8日及び9日にJBL第4期第3単位のコーディネーター業務を行ない,同年12月5日から7日にかけてJBL第4期第4単位のコーディネーター業務を行ない,それらの対価として少なくとも合計50万円を受領したことは認める。

イ 主位的主張について

JMAの担当者Eは,当初,被告Cに対し,第4期第1単位及び第2単位に引き続き,原告ニューチャーイノベーションの業務として第3単位のコーディネーターを引き受けてほしい旨申し出ていたが,被告Cは,同原告とのトラブルを説明して引き受けることはできないと断った。Eは,その後,被告Cに対し,個人的に受任してほしい旨申し出てきたことから,被告Cはこれに応じたものである。その後に開催された第4期第4単位も同様である。JMAが原告ニューチャーイノベーションに依頼していないことは,JBL第3期第7単位の際に原告ニューチャーイノベーションがJMAから交付された甲127の1(JMA理事が原告ニューチャーイノベーションに宛てて作成した「2002年度・第3期『JMAジュニア・ビジネスリーダーコース』ご出講のお願い」と題する書面)に相当する依頼文書がJBL第4期第3単位及び第4単位については交付されていない(原告らから証拠提出されていない。)ことからも明らかである。

したがって上記各業務は,被告Cが個人的に受注したものであるから,被告Cが上記業務について受領した金銭は,原告ニューチャーイノベーションとJMAとの契約に基づく報酬ではなく,これとは別の被告CとJMAとの契約に基づく業務に対する報酬であったから,契約上,被告Cが受領すべきものであって,法律上の原因に基づかない受領ではない。

ウ 予備的主張について

被告Cが退職したのは,同年12月10日であったが,被告Cは,同年10月末に,原告ニューチャーイノベーション従業員I及び同原告代理人弁護士のWから懲戒解雇を命じられていたので,被告Cは,同月末で退職したという認識でいた。したがって,上記JMAに対する業務を実施していた当時も,既に原告ニューチャーイノベーションを退職したという認識であった。

また,原告ニューチャーイノベーションは,被告Cに対して自宅待機命令中の給与を支払っていなかったから,被告Cはやむを得ずアルバイトとしてJMAに対するコンサルティング業務を行なったものである。

なお,被告Cが,上記業務を引き受けていなかったとしても,JMAが原告らに上記業務を依頼したとは思われないから(もともと,JMAがJBL第4期のコーディネーター派遣を原告らに依頼していたのは,被告C個人に注目していたからであって,被告Cが自宅待機中であれば同人以外の原告ら従業員に適任者はいない。),被告Cが上記業務を行なったことによって原告らには何らの損害も生じていない。

8  争点8(別紙業務目録記載3の業務の担当者及び同業務の対価を受領したことが不当利得ないし競業避止義務違反に当たるか)

(1)  原告ら

ア 被告Bは,平成14年12月13日及び14日,原告の業務としてJBL第3期第7単位の講師及びコーディネーター業務を担当したところ,JMAからの対価合計23万円を被告Bが個人的に受領した。

被告らは,平成14年12月13日及び同月14日に行なわれたJBL業務の担当者は,被告Bではなく被告Cであり,対価を受領したのも被告Cであったと主張する。しかし,甲119,127の1・2から明らかなとおり,上記業務を行なったのは,被告Cではなく被告Bである。

イ 主位的主張

被告Bは,原告ニューチャーイノベーションの従業員として上記業務を担当したから,上記業務の対価は原告ニューチャーイノベーションに入金されるべきである。被告Bは,同業務の対価を原告ニューチャーイノベーションに入金せずに法律上の原因なく個人的に利得しており,不当利得に当たる。

ウ 予備的主張

仮に,被告Bが,原告の業務としてではなく,被告B個人の業務としてJBLの上記業務を行なったとすれば,被告Bは,当時,原告ニューチャーイノベーション及び原告ニューチャーディスカバリーの取締役であったから上記行為は競業避止義務違反に当たる。

(2)  被告ら

ア 平成14年12月13日及び同月14日に行なわれたJBL業務の担当者は,被告Bではなく被告Cであった。上記業務に対する対価を受領したのも被告Cである。

原告らは,JBL第3期第7単位のコーディネーター及び講師担当者が被告Bであったと主張して,甲127の1(JMA理事が原告ニューチャーイノベーションに宛てて作成した「2002年度・第3期『JMAジュニア・ビジネスリーダーコース』ご出講のお願い」と題する書面)及び甲127の2(同書面同封の連絡表。以下「本件連絡表」という。)を提出する。本件連絡表には担当者として被告Bの氏名が記載され,謝礼お支払方法欄に原告ニューチャーディスカバリー名義の口座の番号が記載されているが,同連絡表は原告らの偽造書面である。すなわち,本件連絡表の筆跡は被告B本人のものではないし,必ず記載されるべき諾否の欄及び自宅住所欄が空欄になっており,体裁が不自然である。また,「返送用」と記載されている連絡表が原告らの手許にあることも不自然である。原告らは,JBL第4期については本件連絡表のような書面を提出していない。JMAにおいてはプログラム責任者(JBLの場合は被告B)のサインがないもの,担当講師のサインがないものは受領しないことにしている。また,JMAが,原告ニューチャーイノベーションに対して甲127の1のような依頼文書を提出したのは,被告Bが当時たまたま原告ニューチャーイノベーションに所属していたからである。なお,JBL第3期第7単位は,それまで実施された第6単位までの要約として行なった単位であり,当該単位についてはコーディネーターと単位講師は同一人が兼ねて担当した。

イ 主位的主張について

原告ニューチャーイノベーションは,JMAとの間で,JBL第3期第7単位の講師及びコーディネーター契約を締結していない。JMAは,JBL第3期の第7単位以前のコーディネーターについては,被告Bが在籍する原告らに依頼していたが,JBL第3期第7単位が実施された平成14年12月13日及び14日は被告Bは多忙で都合がつかなかったことから,原告らには依頼しなかったのである。そして,当時面識のあった被告CにJBL第3期第7単位のコーディネーターを依頼した。被告Cは,平成14年12月10日には既に原告ニューチャーイノベーションを退職しているから,上記業務が原告ニューチャーイノベーションの業務としてなされたということはない。

したがって,上記各業務は,被告Cが個人的に受注したものであるから,被告Cが上記業務について受領した金銭は,原告ニューチャーイノベーションとJMAとの契約に基づく報酬ではなく,これとは別の被告CとJMAとの契約に基づく業務に対する報酬であったから,契約上,被告Cが受領すべきものであって,法律上の原因に基づかない受領ではない。

ウ 予備的主張について

被告Cは,平成14年12月10日には,原告ニューチャーイノベーションを退職していたから,被告Cが,同月13日及び14日にJBLの業務を行なったとしても,競業避止義務違反にならない。

9  争点9(別紙業務目録記載4の業務を行ない対価を受領したことが不当利得ないし競業避止義務違反に当たるか)

(1)  原告ら

ア 原告ニューチャーイノベーションは,人事コンサルティングを担当していた被告Bらの提案により,平成14年6月ころ原告ニューチャーイノベーションの業務としてV書籍を翻訳し,PHP研究所の発行で出版することに決定した。原告ニューチャーイノベーションは,同年11月までには,同翻訳本を出版する予定で被告ら3名に翻訳作業を進めさせていた(甲81の7頁,95,98,108の1・2)。

ところが,被告ら3名は,翻訳の成果物を原告ニューチャーイノベーションに提出せず,被告カタナないし被告ら3名個人のために使用し,平成15年1月27日にその成果物を出版し,被告BはPHP研究所から同翻訳本の印税として54万4320円を受領した(甲68,133)。

被告らは,原告在職中は翻訳作業をしておらず,被告Cが原告らを退職した後に翻訳作業を開始した旨主張し,被告Cは平成14年12月11日から同月下旬にかけて翻訳作業を行ない同月半ばか下旬ころには知り合いの出版社に持ち込んで平成15年1月の企画会議にかけてもらい,同年2月下旬に翻訳本を発行した旨供述する。

しかし,V書籍の翻訳本は280頁にも及ぶ分量であるから,平成14年12月11日から同月下旬にかけて翻訳作業を行ない同月半ばか下旬ころには知り合いの出版社に持ち込むということは不可能である。また,甲133によれば,被告Cは平成14年8月にPHP研究所に対してV書籍の翻訳本出版を提案し,同社は同月20日に企画会議を経て同月30日に発刊を決定し,同年10月31日にはV書籍の版元から翻訳本出版の許諾を得ているのであるから,同年12月に知り合いの出版社に持ち込んで平成15年1月に企画会議を経た旨の被告Cの供述が真実に反することは明らかである。

イ 主位的主張

被告らは,V書籍の翻訳本の翻訳作業を原告ニューチャーイノベーション在職中に同原告の業務として行なっていたのであるから,同翻訳本の著作権は原告ニューチャーイノベーションに帰属しており,同翻訳本の出版による印税は原告ニューチャーイノベーションが受領すべきものである。被告らは,同翻訳本出版による印税57万6000円を原告ニューチャーイノベーションに入金せずに法律上の原因なく個人的に利得しており不当利得に当たる。

ウ 予備的主張

仮に,被告らが,上記翻訳作業を被告カタナの業務ないし被告ら3名自身の業務として行なっていたのであれば,被告らが上記翻訳業務を行なった平成14年9月以降は,被告C及び被告Dは原告ニューチャーイノベーションの従業員であり,被告Bは原告ニューチャーイノベーションの代表取締役ないし取締役,原告ニューチャーディスカバリーの取締役であるから,上記翻訳作業は競業避止義務違反である。原告ニューチャーイノベーションが被告らの当該競業避止義務違反行為により被った損害の額は,被告Bが得た印税に相当する57万6000円である。

(2)  被告ら

ア 原告らは,被告Cらが,原告ニューチャーイノベーション在職中の平成14年7月ころからV書籍の翻訳作業を開始していた旨主張する。

しかし,被告Cらが上記翻訳作業を開始したのは,被告Cが原告ニューチャーイノベーションを退職した後の同年12月11日ころであり,出版社に翻訳原稿を渡したのは同月24日ころであり,PHP研究所がV書籍の翻訳本の企画会議を行なったのは平成15年1月中旬ないし下旬であり,すべて被告Cが原告ニューチャーイノベーションを退職した後になされたことである。平成14年12月25日まで原告ニューチャーイノベーションの従業員であった被告DはV書籍の翻訳には全く関わっておらず,同月27日まで原告らの取締役ないし監査役であった被告Bは,V書籍の翻訳本の序文を作成しただけでその他の作業には全く関わっていない。右翻訳本に被告ら3名が翻訳者として記載されているのは,被告Bが序文を作成し,被告カタナの設立時であったことに鑑みてそうしたものである。

たしかに,被告Bらは,原告ニューチャーイノベーションに対してV書籍の翻訳を含めてメンタリングの開発を提案しており,甲81等には,翻訳作業を進めている旨の記載がある。しかし,これはJMAからパフォーマンス・メンタリングの開発費用の一部を負担してもらうためのテクニックにすぎなかった。原告ニューチャーイノベーションの代表者Aはメンタリングの開発に賛成していなかった。また,原告ニューチャーイノベーションは,Vから翻訳の許可を口頭で得ていたが(甲42),同人に対する対価等は提示していない段階であり,PHP研究所とは未だ交渉中であった。このような状況であったことから,被告B及び被告Cらは,原告ニューチャーイノベーション在職中は,V書籍の翻訳作業をしていなかった。

原告らは,平成14年10月23日に,被告Cの使用していたパソコンを没収して調査しているにもかかわらず,同パソコンにはV書籍の翻訳原稿は保存されていなかったのであるから,同日以前に,被告Cが,原告ニューチャーイノベーションの業務として同書籍を翻訳していたということはない。

被告Cは,平成14年12月3日ころ,株式会社ジャパン・トランスレーション・サービスに同月下旬までに翻訳するよう依頼して代金の半額38万2725円を支払った(乙58)。また,被告Cは,原告ニューチャーイノベーションを退社した後の同月11日ころからV書籍の翻訳作業を開始した。被告Cは,自らの翻訳部分の原稿を同月24日までに完成させ,また同日,株式会社ジャパン・トランスレーション・サービスから翻訳原稿を受け取りこれらをPHP研究所に持ち込んだ。平成15年1月ころ,同社の承認を受け,その後,正式に契約を締結した。

PHP研究所は,平成14年8月30日に原告ニューチャーイノベーションにおいてV書籍の翻訳本を発刊する旨決定した旨回答する(調査嘱託の結果,甲133)。しかし,当該事実は被告らの上記主張と矛盾するものではない。すなわち,原告ニューチャーイノベーションにおいては,平成14年8月末ころまではV書籍の翻訳本出版にむけて作業を進めていたが,その後,原告らがV書籍の翻訳本出版に同意しなかったことから同書籍の出版は立ち消えになった。V書籍の翻訳本出版が立ち消えになったことは,同年7月5日に株式会社日本能率協会マネジメントセンター(以下「JMAM」という。)と原告ニューチャーイノベーションとの間で,原告ニューチャーネットワークスを著者として出版契約を締結した書籍「システム・シンキング トレーニングブック」が同年8月に出版されており(乙83の1,84),同年9月20日にPHP研究所と原告ニューチャーイノベーションとの間で出版契約を締結した書籍「MBAのリスク・マネジメント」が同年10月に出版されている(乙83の2,85)にもかかわらず,同じころ又はそれより早く出版の話が持ちあがっていたV書籍の翻訳本が同年10月になっても未だ出版されなかったことから明らかである。

イ 主位的主張について

以上のとおり,V書籍の翻訳原稿は,被告Cが原告ニューチャーイノベーションを退職してから作成したものであるから,これについて原告ニューチャーイノベーションに職務著作が成立することはなく,当該翻訳本の印税を被告ら3名が受領したとしても不当利得にはならない。

ウ 予備的主張について

被告Cは,自宅待機命令を受けた同年10月下旬ころないし同年11月ころ,原告ら代表者等から給与は支払わない旨通告を受けており,被告Cはもはや給与はもらえないものとあきらめ,従業員としての対価が支払われない以上,従業員としての拘束はないと考えていた。1年以上も経過した後で訴訟上の和解において当時の給与支払がなされたが,その間,被告Cを困窮した状況においていながら,被告Cが解雇されるまでの間にアルバイトをしたとして競業避止義務違反を主張するのは信義則に反する。

また,原告らは,被告らがV書籍の翻訳本を出版するか否かにかかわらず,同書籍の翻訳本を出版する予定はなかったのであるから,被告らが同書籍の翻訳本を出版したからといって,原告らに損害は生じないはずである。

仮に,競業避止義務違反に当たり,これによって損害が発生したとしても,以上の事実経緯に鑑みれば原告ニューチャーイノベーションにも過失があるから過失相殺されるべきである。

10  争点10(被告ら3名が別紙業務目録記載5の顧客勧誘行為を行なった事実の有無及びこれによる損害の額)

(1)  原告ら

被告らは,平成14年11月及び同年12月ころ,原告らの取引先である別紙原告ら取引先一覧表「対象企業」欄記載の各企業(以下「本件各取引先」という。)に対し,原告らとの取引を止めて被告カタナと取引するように営業活動を行なった。被告Bは,自ら当該事実を認める内容の書面を作成して原告らに提出している(甲14。以下「本件確認書」という。)。特に,被告B及び被告Cが平成14年10月8日に,被告カタナの営業準備として,原告らの取引先であった利根コカ・コーラボトリング株式会社(以下「利根コカ・コーラ」という。)の代表者と面会したことは,被告Bと被告Cの間でやりとりされたメールの内容からも明らかである(甲112の1,2)。

かかる営業活動は,被告Bにおいては取締役としての競業避止義務に違反する行為に該当し,被告D及び被告Cにおいては雇用契約上の競業避止義務に違反する行為に該当する。被告Bは商法264条1項違反として同法266条1項5号(同条4項によって被告らの得た額が原告らの損害と推定される。)に基づく損害賠償義務を負い,被告C及び被告Dは債務不履行に基づく損害賠償義務を負う。

被告らは,本件確認書は,被告Bが原告ら代表者Aに脅迫されて作成したものである旨主張するが,そのような事実はない。被告Bが本件確認書を自由意思で作成したものであることは,被告Bが,原告ニューチャーイノベーション従業員Iに対し,後日,自発的に同趣旨のメール(甲37)を作成して送信していることからも明らかである。

被告らの上記行為がなければ,原告らは,本件各取引先との取引を少なくとも2年間継続していたものであり,2年間の業務で得られたであろう報酬額は2000万円を下らない。すなわち,平成12年度は本件各取引先から得た報酬は合計1379万円,平成13年度は同合計6264万円,平成14年度(ただし,被告らが本件各取引先を侵奪した平成14年10月末日までの約7か月間)は同合計2361万円(うち1027万3000円が原告ニューチャーイノベーションの売上,うち1333万円余が原告ニューチャーディスカバリーの売上)であった。当該売上額によれば,利益は年間1000万円を下らない。よって,原告らは,被告らの上記競業避止義務違反行為によって2000万円の損害を被った(被告らが,平成15年1月以降,サイバードから300万円,エル・マール・サービスから100万円,JMAからオムロン株式会社の案件で120万円,アベンティスファーマの案件で1000万円,三菱電機株式会社の案件で60万円,オリンパス株式会社の案件で350万円,関西若手技術者道場の案件で20万円,プロジェクト・マネジメントの案件で100万円,JBL第3期第8単位以降の案件で150万円,JBL第4期第5単位以降の案件で300万円の各売上を上げていたことが明らかとなっているが,本件取引先の侵奪行為によって被告らが得た利益はこれに限られない。)。

なお,上記売上のうち平成12年度,13年度分の売上は原告らが会社分割等する以前の売上であり,平成14年度分は原告ニューチャーディスカバリーの売上と原告ニューチャーイノベーションの売上に区別される。被告Bは,原告ニューチャーディスカバリーと原告ニューチャーイノベーションの双方の取締役であったから,上記両原告に対して競業避止義務を負っている。被告C及び被告Dは,原告ニューチャーイノベーションの従業員であって原告ニューチャーディスカバリーの従業員ではないが,原告らにおいては,上記両原告及び原告ニューチャーポジショニングが一体のグループ会社として経営されており,本件各取引先に対する原告ニューチャーディスカバリーの売上分は,同原告がJMAから依頼を受けた業務を原告ニューチャーイノベーションに委託し,同原告がその従業員である被告C及び被告Dに対して担当させていたという関係にあるから,被告C及び被告Dは,上記両原告の被った損害を賠償する責任がある。

被告らは,取締役や従業員が在職中に競業する別会社の設立準備行為を行なっただけでは競業避止義務違反の問題は生じないなどと主張する。しかし,原告らは,被告ら3名が競業する別会社の設立準備行為をしたことをもって競業避止義務違反行為であると主張しているわけではなく,被告ら3名が原告ら在職中に原告らの顧客である本件各取引先に対して被告カタナと取引するよう勧誘した行為を競業避止義務違反行為としているものである。

なお,被告らは,被告ら3名が当初は原告らが出資する原告らの米国法人として被告カタナの設立準備をしていたものであり,初めから原告らから独立することを企図していたわけではない旨主張する。しかし,平成14年10月2日付けの被告Cから被告Bに対するEメールには「今,新しい会社を設立し,NutureとKaTaNaの掛け持ちになってしまっては,後々,問題…になっても困るので,今,Pendingしました。…Bさんが…Nutureから身を引いてからの方が法律上問題がないでしょう」との記載があり(甲111の1,2),同年10月2日当時には既に原告らの競業会社として被告カタナを設立しようとしていたことは明らかである。

(2)  被告ら

原告らは,本件確認書及び本件各取引先からの業務依頼がなくなったことを根拠に,被告らが本件各取引先に対し,原告らとの取引を止めて被告カタナと取引するように営業活動を行なったと主張する。

しかし,本件確認書は,原告ら代表者Aが,被告Bが署名しなければ関係者を全員懲戒解雇にするなどと脅迫したため,その内容をよく考えずに作成したものである。また,本件各取引先から業務依頼がなくなったかどうかについての立証がない。被告らは,本件各取引先に対して営業活動を行なっていない(第2事件甲14ないし22)。確かに,本件各取引先のうち何社かは被告らが独立した後,被告らと取引を行なっている。しかし,それは,当該取引先が被告Bの経歴,実績,能力等を信頼しているからであって,被告ら3名が原告ら在職中に被告カタナの営業活動をしたためではない。

被告らは,本件各取引先のうちJMA,JMAMを除く各企業の業務を受注していない。JMA,JMAMについては,被告Bが,同社らのグループ会社であるJMACの元従業員であり,従前からJMA,JMAMの業務を担当していたことから,被告B個人の能力,経歴を評価して被告らに対して業務を発注するようになっただけであって,被告らが営業活動を行なったためではない。なお,原告らと別紙原告ら取引先一覧表「請求先」欄記載の各会社が契約を締結し,同各会社が本件各取引先と契約を締結するのであるから,本件各取引先は原告らの顧客ではない。

原告らは,被告ら3名の上記行為がなければ,原告らは本件各取引先との取引を少なくとも2年間継続できたことを前提に,2年間分の逸失利益を主張する。しかし,上記各取引が打ち切られたのは,原告ら従業員の評判が悪く,原告らが「請求先」欄記載の企業を排除して本件各取引先と直接契約を締結しようとするなどのトラブルを起こしたためである。

また,本件各取引先のうちサイバードについては,もともと,被告Bが原告らに就職したために原告らと取引を行なったにすぎず,被告B退職後は原告らと取引する理由がない上,原告らがサイバードの所持する文書等について証拠保全手続を行なったことから,原告らとサイバードとの間の取引が終了したものであって,被告Bが被告カタナのために営業活動を行なったからではない。

原告らは,被告ら3名の被告カタナの設立準備行為をも競業避止義務違反であると主張するようである。しかし,取締役や従業員が在職中に競業する別会社の設立準備行為を行なっただけでは競業避止義務違反の問題は生じず,取締役が競業する別会社の業務を行なった場合にはじめて競業避止義務違反が問題となるものである。

なお,被告ら3名は,当初,原告らが出資する原告らの米国法人として被告カタナの設立準備をしていたものであり,初めから原告らから独立することを企図していたわけではない。

11  争点11(別紙業務目録記載6の業務を行ない対価を受領した事実の有無及びこれが不当利得ないし競業避止義務違反に当たるか)

(1)  原告ら

ア 原告ニューチャーイノベーションは,平成14年10月11日ないし13日,ミノルタに対し,被告Bを担当者として研修を実施し,ミノルタは,その対価として51万円をJMAに支払った。

イ 主位的主張

被告Bは,原告ニューチャーイノベーションの従業員として上記業務を担当したのであるから,上記業務の対価は原告ニューチャーイノベーションに入金されるべきである。被告Bは,同業務の対価を原告ニューチャーイノベーションに入金せずに法律上の原因なく個人的に利得しており不当利得に当たる。

もっとも,被告らから乙74の2が提出されたことを受けて,原告らが原告らの口座を精査したところ,上記対価の入金が確認された。

ウ 予備的主張

仮に,被告Bが上記業務を原告ニューチャーイノベーションの業務としてではなく,個人的な業務として行なったというのであれば,被告Bは,原告ニューチャーイノベーション在籍中にもかかわらず,競業行為をしたことになるから,取締役としての競業避止義務に違反しているといえる。原告らは,被告Bの当該競業避止義務違反行為によって51万円の損害を被った。

もっとも,被告らから乙74の2が提出されたことを受けて,原告らが原告らの口座を精査したところ,上記対価の入金が確認された。

(2)  被告ら

被告Bは,上記ミノルタ関係の業務の対価を受領していない。

12  争点12(別紙業務目録記載7の業務を行ない対価を受領した事実の有無及びこれが不当利得ないし競業避止義務違反に当たるか)

(1)  原告ら

ア 被告Bは,平成14年11月,12月のエル・マール・サービスに対するコンサルティング業務を担当したが,その対価合計20万円が原告ニューチャーイノベーションに入金されていない。被告Bが個人的に同額を受領したものと考えられる。

イ 主位的主張

被告Bは,原告ニューチャーイノベーションの従業員として上記業務を担当したから,上記業務の対価は原告ニューチャーイノベーションに入金されるべきである。被告Bは,同業務の対価を原告ニューチャーイノベーションに入金せずに法律上の原因なく個人的に利得しており,不当利得に当たる。

ウ 予備的主張

仮に,被告Bが,原告の業務としてではなく,被告B個人の業務として上記業務を行なったとすれば,被告Bは,当時,原告ニューチャーイノベーション及び原告ニューチャーディスカバリーの取締役であったから上記行為は競業避止義務違反に当たる。

(2)  被告ら

原告らの主張する事実は知らない。

13  争点13(被告Bの平成14年11月,12月の原告ニューチャーイノベーション役員としての報酬の額)

(1)  被告B

ア 未払報酬の額について

原告ニューチャーイノベーションと被告Bは,平成12年10月から平成14年12月27日まで年俸1800万円(1か月150万円)で契約を締結していた。原告ニューチャーイノベーションは同年11月,12月分の役員報酬合計300万円を支払わない。

原告らは,被告Bの報酬を平成14年10月31日の取締役会で減額した旨主張する。

しかし,原告らが主張するような取締役会決議は存在しない。原告らが,取締役会議事録(甲125)を提出するが,同議事録は偽造である。原告らが当時作成して被告Bに対して署名を求めた合意書(乙2)の1条2には被告カタナの設立については新会社設立を目的とした裏切り行為ではない旨記載されていることから明らかなように,原告らは,当時,被告Bの身の潔白を認めていたのであるから,被告Bの報酬を減額する根拠がないし,平成14年11月13日付けのEメールには具体的な報酬額は記載されていなかったから,甲125のような議事録が平成14年10月31日に作成されたということはあり得ない。

被告Bの報酬は年俸制であり,年俸は原告ニューチャーイノベーションと被告Bの契約に基づいて支払われているものであり,その額を変更する場合には被告Bと原告ニューチャーイノベーションの同意が必要であるから,原告ニューチャーイノベーションの取締役会で減額を決定しただけで当然に年俸の額が変更されるものではない。そもそも,昨年度の実績を基に策定しているのであるから,年度の途中で減額すべき事由が生じたとしても,それは次年度以降の年俸に影響することはあっても,当該年度の年俸を減額されるいわれはない。仮に,被告Bに任務違背行為があったとしても,それは年俸の減額事由には当たらない。任務違背行為に基づき損害賠償金の支払を求めつつ年俸を減額することは,使用者を二重に利得することになる。

また,原告ニューチャーイノベーションの主張する上記取締役会は,取締役の一人であった被告Bに対して招集通知を出すことなく開催されたから(特別利害関係人に当たる取締役は議決には参加できないものの,取締役会に出席して意見を述べることはできる。),当該取締役会における決定は違法である。

イ 立替払金について

原告ニューチャーイノベーションが被告Bに対し,立替金請求権を有している旨の主張については争わない。

ウ 弁済による消滅について

供託が弁済の効果を生ずるためには,債務の本旨に従った履行の提供がなされていなければならない。原告ニューチャーイノベーションの被告Bに対する履行の提供は,弁済期を徒過しており,提供された額も300万円ではないから,債務の本旨に従った履行の提供とはいない。

したがって,原告ニューチャーイノベーションの供託によって弁済の効果が生じることはない。

(2)  原告ニューチャーイノベーション

ア 未払報酬の額について

原告ニューチャーイノベーションと被告Bは,平成12年10月から平成14年12月27日まで年俸1800万円(1か月150万円)で契約を締結していた。原告ニューチャーイノベーションは,同年11月,12月分の役員報酬を支払っていないことは認めるものの,未払役員報酬の残額は未払報酬額240万円から立替金額52万6034円を控除した187万3966円である。

原告ニューチャーイノベーションは,被告Bが競業避止義務違反行為を行なっていたことが判明したことから,平成14年10月31日,取締役会を開催して被告Bの代表取締役を解任し,これに伴い月額30万円の減俸を決定した(甲125)。したがって,被告Bの11月,12月分の未払報酬額は240万円である。

被告らは,合意書(乙2)の1条2の記載を根拠に上記減額の取締役会決議は存在しなかった旨主張するが,同1条1には,被告Bが被告カタナの営業活動の一環として原告らの顧客である利根コカ・コーラ,サイバード,三洋電機株式会社について現実に営業を開始したこと等の競業避止義務違反行為を行なったことを認め謝罪する旨の記載がなされているのであり,合意書(乙2)の存在をもって当時原告らが被告Bの身の潔白を認めていたなどということはあり得ない。

さらに,被告らは,上記減額決議の効力を争うが,被告Bの競業避止義務違反行為の発覚により,代表取締役としての業務を任せることができなくなったことから代表者としての職務を解任したのであり,職務の軽減に伴って報酬が減額されることはむしろ当然である。本件においては,原告ニューチャーイノベーション従業員Iが,被告Bに対し,平成14年11月13日及び同年12月27日にEメールで役員報酬を減額する旨連絡したが,被告Bからは特に異議を述べられていないのであり,被告Bは,当時,役員報酬の減額を了承していた。

また,原告らは,被告Bに対して取締役会を開催することを連絡しており,仮に,招集通知がなかったとしても,被告Bは特別利害関係人として決議に参加することはできず(商法260条の2,最高裁昭和44年3月28日,民集23巻3号645頁),被告Bが意見を述べることにより他の取締役に対して影響を与えるような特段の事情もなかったから,被告Bが参加したとしても決議の内容が変更される可能性はなかった。したがって,被告Bに取締役会の招集通知がなかったことは本件取締役会決議の効力に影響を及ぼさない。

イ 弁済による消滅

原告ニューチャーイノベーションは,平成17年9月30日,裁判所において,被告Bに対し,上記未払報酬額240万円から上記立替金額52万6034円を控除した187万3966円を持参して弁済の提供を行ない,同年11月18日に受領がなされる予定であったが,被告Bは受領を拒否した。そこで,原告ニューチャーイノベーションは,同年12月21日,被告Bを被供託者として187万3966円を東京法務局に供託した(甲130)。

よって,原告ニューチャーイノベーションの被告Bに対する未払報酬債務は弁済により消滅した。

14  争点14(著作権侵害に基づく損害賠償請求権,不正競争防止法違反による損害賠償請求権及び不当利得返還請求権ないし競業避止義務違反に基づく損害賠償請求権を自働債権とする,原告ニューチャーイノベーションによる被告Bの役員報酬債権に対する相殺)

(1)  原告ら

ア 原告ニューチャーイノベーションは,被告Bによる著作権侵害,不正競争防止法違反による損害賠償請求債権及び不当利得返還ないし競業避止義務違反に基づく損害賠償請求債権として合計7441万6000円の支払請求権を有している。原告ニューチャーイノベーションは,平成16年5月27日の第8回弁論準備手続期日において,上記各債権と被告Bの原告ニューチャーイノベーションに対する未払役員報酬債権とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。

イ 原告ニューチャーイノベーションは,被告Bが支払うべき次の金員合計52万6034円(住民税平成14年11月分11万2000円,住民税同年12月分11万2000円,社会保険料同年10月分10万0678円,社会保険料同年11月分10万0678円,社会保険料同年12月分10万0678円)を立替払しているから,原告ニューチャーイノベーションは被告Bに対し,同額の支払請求権を有する。原告ニューチャーイノベーションは,平成18年2月21日の第8回口頭弁論期日において,上記立替金債権と被告Bの原告ニューチャーイノベーションに対する未払役員報酬債権とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。

15  争点15(著作権侵害に基づく損害賠償請求権,不正競争防止法違反による損害賠償請求権及び不当利得返還請求権ないし競業避止義務違反に基づく損害賠償請求権を受働債権とする,被告Bの役員報酬債権による原告ニューチャーイノベーションに対する相殺の可否)について

(1)  被告ら

仮に,被告Bに著作権侵害に基づく損害賠償義務,不正競争防止法違反による損害賠償義務,不当利得返還義務ないし競業避止義務違反に基づく損害賠償義務があるとしても,被告Bは原告ニューチャーイノベーションに対して未払報酬支払請求権を有している。被告Bは,平成17年11月18日の第17回弁論準備手続期日において,前記未払報酬支払債権と原告ニューチャーイノベーションの被告Bに対する著作権侵害,不正競争防止法違反による損害賠償請求債権及び不当利得返還ないし競業避止義務違反に基づく損害賠償請求債権とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。

(2)  原告ら

不法行為債権たる損害賠償請求権を受働債権とする相殺は許されない(民法509条)。

第4当裁判所の判断

1  争点1(原告各テキストの著作権が原告ニューチャーイノベーションに帰属するか)

(1)  原告各テキスト及び被告各テキストの作成に至る経緯

証拠(甲6,19の1,20の1,21の1,23の1の1ないし3,24の1,25の1,26の1,28の1,29の1,30及び31の各1,32,33,38ないし45,47,53ないし58,66ないし72,76ないし82,87,89ないし91,95,98,99及び100の各1・2,101,102,106,107の1ないし3,127の1,第2事件甲10,乙6,16の1,17,19,21,25,37,証人I,証人K(以下「K」という。),証人F,証人E,証人J(以下「J」という。)の各証言,被告B,被告C,被告Dの各本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。

ア JBLの開始について

a) JMAは,平成12年10月ないし平成13年3月の6か月間にわたって,ジュニア・ビジネスリーダー育成プログラムとしてJBL第1期を実施した(乙25の26頁)。JMAにおけるJBL第1期の担当部長はK,担当者はFであった(平成17年1月31日付け被告B尋問調書6頁)。

JMAは,平成11年秋ころ,当時関連会社であるJMAC従業員であった被告BにJBLのコーディネーターを依頼した(証人K尋問調書11頁)。

JBLの基本的構成は,上記6か月の期間内の各月ごとに2ないし3日間を1単位として(月によっては単位がない月もある。),受講者を会場に通わせるか,合宿させるかして集中的に講義等を行い,単位以外においては開催期間中も所属企業における就業を継続するというものであった(乙25の5頁)。

b) Kは,当時,日本においては新しい概念であったメンタリングをJBLに取り入れることを提案し,K,F及びコーディネーターであった被告Bの3名を中心にJBLにおいて展開する新しいメンタリングプログラムの開発を担当することになった(乙16の1,K証人尋問調書3頁)。被告Bは,メンタリングに関して海外の文献を調べたり,アメリカの団体(CCL)と連絡を取るなどしてメンタリングに関する情報を収集し,JMA従業員とディスカッションを重ね,メンタリングプログラムを開発した。当該メンタリングプログラムは,既存の人材育成プログラムで用いられていた諸要素(ジェネラルコンピタンス(普遍的能力),スペシャルコンピタンス(専門的能力)及びキャリアビジョン等)を組み合せて一つの手法にまとめあげたもので,成果に直結させることを特徴とするメンタリングプログラムであった。

被告Bは,平成12年6月に行なわれるJBL説明会資料として,「Mentor's Guide」と題する資料を作成した(ただし,後記のとおり当該資料は本件訴訟で提出された乙19と全く同じ内容ではなかったと認められる。)。

被告Bは,平成12年8月付けJMAC商品・技術会議資料として,「ビジネスリーダー育成のためのメンタリングプログラムコンセプト紹介」と題する資料を作成した(ただし,後記のとおり当該資料は本件訴訟で提出された乙21と全く同じ内容ではなかったと認められる。)。

c) JBL第1期において,平成12年10月から,メンタリングプログラムが実施された。メンタリングプログラムは,主に単位講義と単位講義の間(受講生が各所属企業において業務をしている期間)に行なわれた。具体的には,各企業にメンターとなる従業員を選出してもらい,各企業において受講生(メンティー)に対するメンタリングを実施させ,受講生(メンティー)にはJMAにキャリアビジョンシート等のシートを作成して提出させた。また,合宿の形式で実施される単位講義においてはメンターも参加させ,メンターと受講生(メンティー)の合同でディスカッションを行った。一方,各単位においてメンタリングの講義が実施されることはなかった(メンタリングを紹介する時間は設けたが,被告B以外のJMA従業員が担当した。平成17年1月31日付け被告B尋問調書10頁)。

また,被告Bは,JBL第1期に用いる参考テキストとして,「ビジネスリーダー育成のためのメンタリングプログラム」と題する資料を平成12年6月付けで作成した(ただし,後記のとおり当該資料は本件訴訟で提出された乙17と全く同じ内容ではなかったと認められる。)。

d) JBL第1期においては,受講者たるメンティー,メンター共に,メンタリングがプログラムとして実施されていることを意識しておらず,メンタリングはプログラムとしてうまく機能していないとの評価がなされた。このため,第2期以降は,メンタリングプログラムを強化して実施することになった(乙25の26頁)。Kは,JBLの担当者として,専門家と情報交換をしながら,メンタリングのプログラムにノウハウを付加し,第2期以降,メンタリングプログラムを質的に向上させた(証人K尋問調書10頁)。

もっとも,前記a)及びc)で記載した実施形式(講義はせずに,各単位の間に各社で実施することを基本とし,合宿の際にメンターとメンティーの合同セッションを行なうという形式)はJBL第1期から第3期まで変更されることはなかった。

イ 被告ら3名の原告ニューチャーイノベーションへの入社

被告Dは,平成12年7月24日,原告ニューチャーイノベーション(旧商号ネットワークダイナミクスコンサルティング)に入社した。

被告Bは,JBL第1期の期間中である平成12年10月ころ,JMACを退社して,原告ニューチャーイノベーションの従業員兼取締役となった。被告Bは,引き続きJBLのコーディネーターや講師を務め(甲57),JMAは,被告Bが原告ニューチャーイノベーション入社後に担当したJBL第1期の業務に関して,原告ニューチャーイノベーションに平成12年10月度講師派遣料として32万0200円を支払った(甲58)。原告ニューチャーイノベーションは,被告Bに対して給与ないし役員報酬として月150万円を支払った(第2事件甲10)。

被告Cは,平成13年5月8日,原告ニューチャーイノベーションに入社した。

ウ 原告らにおける職務著作,営業秘密に関する定めについて

原告ニューチャーイノベーションは,平成12年12月ころ「著作権の手引き」と題する書面(甲53)及び「著作活動における留意事項(著作権についての再確認)」と題する書面(甲54)を作成し,「著作権の手引き」については原告らの全体会議においてパワーポイントで示すなどして説明した(被告D尋問調書3頁)。「著作権の手引き」には次のa)及びb)のような記載があった。

a) 「職務上作成した研修コンテンツ,その他各種資料等は原則として法人が著作者になります。ただし,そのためには①法人等の企画に基づく著作であること,②法人等の業務に従事する者の著作であること,③職務上作成されること,④公表するときに法人等の名義で公表されること,⑤契約や就業規則で職員を著作者とする定がないことの5つの条件の全てを満たすことが前提です。したがって,当社の著作物においてはNDC(判決注・原告ニューチャーイノベーションの旧商号の略称)が著作者になりますが,転用,流用する際はオリジナルの執筆者に了解を得るようにしてください。」

b) 「研修であれコンサルティングであれ,当社の作成するテキストや企画案,プロポーザルにおいては,著作表示(社名と年)を入れるようにお願いします。一方,ロゴはデータが重くなるため,またチャネルとの兼ね合いがあるため必須ではありませんが,当社独自ルートでの案件の場合は記載してください。」

エ 原告らの業務とその業務に使用されたコンテンツについて

a) 東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)向け研修

JMAの関連会社であるJMAMは,平成12年11月23日から25日にかけて,東京電力従業員に対する研修を行ない,原告ニューチャーイノベーション従業員が同研修の講師を担当した。同従業員は,「経営マネジメント研修(上級コース)」と題するテキスト(全79頁)を用いて研修を行なった(甲25の1)。上記テキストには原告ニューチャーイノベーションの旧商号の著作権表示がなされ,JMAMが発行元と表示された。

b) JBL第2期について

JMAは,平成13年6月から平成14年3月の10か月にわたって,JBL第2期を実施し(乙25の26頁),原告ニューチャーイノベーションの従業員兼取締役であった被告Bが総合コーディネーター及び単位講師を担当した(甲67)。

c) JMAMは,平成13年9月ころマーケティングに関する研修を実施し,原告ニューチャーディスカバリーの従業員が同研修の講師を担当した。同従業員は,「マーケティング分析から基本戦略の立案テキスト」と題する資料(全55頁)をテキストとして用いた。上記テキストには原告ニューチャーイノベーションの旧商号の著作権表示がなされた(甲31の1)。

d) アベンティスファーマ向け研修

JMAは,平成13年,アベンティスファーマの従業員向け研修を実施し,原告ニューチャーイノベーションの従業員兼取締役であった被告Bが同研修の講師を担当した。被告Bは,同研修用テキストとして「The next generation business leader.~次世代ビジネスリーダープログラム~」と題するテキストを使用した。上記テキストには原告ニューチャーイノベーションの旧商号の著作権表示がなされた(甲80)。

e) 利根コカ・コーラ向けコンサルティング

原告ニューチャーイノベーションは,利根コカ・コーラに対するコンサルティングを実施し,平成13年12月13日付けで「人事制度最良化に向けてのコンサルティング支援」と題する報告書(全99頁)を作成して提出した。上記報告書作成の責任者は被告Bであり,担当者は被告D及び被告Cであった。上記テキストには原告ニューチャーイノベーションの旧商号の著作権表示がなされた。(甲19の1)。

オ 原告らの組織変更

原告ニューチャーイノベーション(旧商号株式会社ネットワークダイナミクスコンサルティング)は,業務が拡大し,従業員も増加してきたことから,平成13年10月ころ,各コンサルティングの事業領域ごとに分社化する組織変更を行なう方針を決定した。具体的には,被告Bが平成13年11月1日に原告ニューチャーイノベーションの代表取締役に就任し,原告ニューチャーイノベーションから平成14年4月1日に原告ニューチャーディスカバリーを会社分割し,マネジメントコンサルティング全般を担う原告ニューチャーイノベーション,セミナー,企業内研修の企画,講師派遣を担う原告ニューチャーディスカバリー,統計的手法に基づいたデータ解析・分析を担う原告ニューチャーポジショニングの3社でグループを構成し,被告Bを原告ニューチャーイノベーションの統括責任者,原告ら代表取締役Aを原告ニューチャーディスカバリーの統括責任者とするコンサルティングファームを同日からスタートさせた(甲6,82)。

カ 原告らの業務とその業務に使用されたコンテンツについて

a) 東京電力向けコンサルティング

原告ニューチャーイノベーションは,東京電力建設部海外事業グループに対するコンサルティングを実施し,平成14年2月,「海外事業展開に向けた人材キャリア・アップ・プラン設計に関するコンサルティング報告書」と題する報告書(全120頁)を作成して提出した(甲20の1)。上記資料には原告ニューチャーイノベーションの旧商号の著作権表示がなされた。

b) サイバード向けコンサルティング

原告ニューチャーイノベーションは,サイバード向けコンサルティングを実施し,平成14年4月15日付けで,「新人事制度の基本的考え方」と題する報告書(全43頁)を作成して提出した(甲21の1)。上記テキストには,著作権表示はなされなかったが,表紙に原告ニューチャーイノベーションの名称とそのロゴが,各頁に原告ニューチャーイノベーションの名称が記載された。

c) アベンティスファーマ向けJBL

JMAは,アベンティスファーマ向けにJBLプログラムを展開し,同プログラムの6単位中の1コマの講義を,原告ニューチャーイノベーションの従業員が担当した。同従業員は,平成14年付け「Aventis Pharma~次世代ビジネスリーダープログラム~第6単位財務」と題するテキスト(全79頁)を用いて研修を行なった(甲26の1)。上記テキストには原告ニューチャーイノベーションの旧商号の著作権表示がなされた。

d) JMAMは,平成14年に研修を行ない,原告ニューチャーイノベーション従業員が同研修の講師を担当した。同従業員は,上記研修のテキストとして「組織マネジメントとリーダーシップ」と題する資料(全38頁)を使用した。上記テキストには原告ニューチャーイノベーションの著作権表示がなされた(甲29の1)。

e) マーケティング研究協会

原告ニューチャーイノベーションは,平成14年6月18日付けで,マーケティング研究協会向けに「活性化をもたらす『営業部門の業績評価』」と題する資料(全60頁)を作成した。上記業務は被告B,被告C,被告Dらの担当であった。上記テキストには原告ニューチャーイノベーションの著作権表示がなされ,テキストの最終ページには被告ら3名の名前が記載され,問い合わせ先として被告DのEメールアドレスが記載された(甲28の1)。

f) 住友電工株式会社(以下「住友電工」という。)向け研修

JMAMは,平成14年7月25日及び同月26日にかけて,住友電工従業員向けに研修を実施し,原告ニューチャーディスカバリーの従業員が同研修の講師を担当した。同従業員は,上記研修において「MBAロジカルシンキング研修」と題するテキスト(全48頁)を用いた。上記テキストには原告ニューチャーディスカバリーの著作権表示がなされた(甲30の1)。

g) JBL第3期第1単位

JMAは,平成14年6月から平成15年2月までの9か月にわたって,JBL第3期を実施した(乙25の26頁)。

JMAは,平成14年6月18日付け書面で,原告ニューチャーイノベーションに対し,上記JBL第3期のコーディネーター及び同第1,6,7,8,9単位(平成14年6月度,11月度,12月度,平成15年1月度,同年2月度)の講習のコーディネーター及び単位講師の派遣を依頼した(甲127の1)。

原告ニューチャーイノベーションの代表取締役であった被告Bは,コーディネーター及び平成14年6月20日から22日にかけて開催された第1単位(6月度)の講師を担当した(甲43,76)。被告Bは,上記講義において,次の①ないし③の各テキストを使用した。同各テキストには原告ニューチャーイノベーションの著作権表示がなされ,下記①及び②のテキストには作成者として被告Bが記載され,下記③のテキストには担当者として被告Cが記載された(甲77ないし79)。

① 「第1単位:ビジネスリーダーの思考と行動」(甲77)

② 「戦略ビジョンを持つ 自己のキャリアビジョンを考える」(甲78)

③ 「Soft&Competence」(甲79)

h) 塩野義製薬株式会社(以下「塩野義製薬」という。)向け講座

原告ニューチャーイノベーションは,平成14年8月23日ころ,塩野義製薬向けに講座を開講した。同講座を担当した原告ニューチャーイノベーション従業員は,「『財務会計と管理会計』講座~企業価値向上に向けて~」と題する資料(全83頁)をテキストとして使用した。上記資料にはニューチャーネットワークス(原告ら3社の総称)の著作権表示がなされた(甲33)。

キ JBL第4期(原告各テキストの作成,使用)

a) ISPI会議への参加

被告B及び被告Cは,原告ニューチャーイノベーションに対し,平成14年4月21日から25日まで,米国テキサス州ダラスで開催されるISPI(International Society for Performance Improvement,人材マネジメントに関するNPO法人)の会議への参加を書面で提案した。被告B及び被告Cは,当時被告B及び被告Cが研究していたパフォーマンス・コンサルティングに関するアメリカの最新事例・情報を採り入れて年内に商品化することを上記会議に参加する目的としていたが,提案書面には,同会議参加による成果として「翻訳本の出版(10月頃予定=セミナー開催に合わせて)」,「JMAとの協働でインプリしている,Junior Business Leader course(略称;JBL)を『Long term研修』で終わらすのではなく,course終了後にMentorを巻き込んだ『Consulting活動』を行う。」との記載がされた(甲38,39)。

原告ニューチャーイノベーションは,上記会議への参加を決定し,被告B及び被告Cを担当者とした。原告ニューチャーイノベーションは,会議の参加費用として11万5119円,渡航費用,滞在費用として,101万6900円を支出した(甲40,41)。

被告Cは,上記会議出席後の平成14年5月8日,原告らに対して上記会議の結果報告を行なった。被告Cは,上記会議においてメンタリングの第一人者であるVと面識をもったこと,翻訳本として同人の著作であるV書籍を含む3冊を選定したこと(同書籍の翻訳については著者に確認済みであり,現在出版社に確認中であると記載されている。),公開JBL,社内JBLにおける社内メンター・システムの定着化に向けて平成14年11月末に講演を開催したいことなどを報告した(甲42)。

b) JMAへのメンタリング技術化の提案

原告ニューチャーイノベーションは,平成14年7月,JMAに対し,「Junior Business Leader Program メンタリングプログラムの技術化に関するご提案」と題して,JBLプログラムの総合的向上のためにメンタリングプログラムを技術化することを提案する提案書を提出した(甲81)。同提案の担当者は被告ら3名であった。

同提案は,原告ニューチャーイノベーションがメンタリングの第一人者であるVの助言を得ながらメンタリングシステムを技術化し,JBLプログラムの総合的向上を図り,JMAにこれに要する費用合計280万円の一部を負担してもらうことを提案する内容であった。提案の具体的な内容としては,同年7,8月中にメンタリングテキスト,展開プログラム及びワークシートを開発し,その開発費用として180万円かかること,同年8月中にメンタリング成果測定プログラム及び診断プログラムを開発し,同年9月中にJBL第4期を実施し,同年10月にアベンティスファーマ向け社内JBLを実施し,同年11月中にV書籍の翻訳本を出版することが記載された(甲81)。

JMA担当者Eは,平成14年7月付け書面で,被告Bに対し,上記メンタリングプログラムの技術化に関する提案について,メンタリングに関しては従来の被告Bが開発したパフォーマンス・メンタリングの内容で十分であるとして,受入れを見送る旨を返答した(乙37)。被告Bは,上記返答があった旨を,Iや被告Dに報告することはなかった(証人I尋問調書11頁,被告D尋問調書3頁)。

c) JBL第4期

JMAは,平成14年9月から平成15年5月の9か月にわたって,JBL第4期を,同第3期と一部並行して実施することにした(乙25の26頁)。

JBL第4期においては,メンタリングの実施形態を,同第1期ないし第3期までとは変更し,初めて,単位における講義として実施することになった。また,平成14年6月に実施されたJBL第3期第1単位の日程表においては「パフォーマンス・メンタリング」の用語は使用されていなかったものの(甲43),同年9月に実施されたJBL第4期第1単位の日程表において初めて公式に「パフォーマンス・メンタリング」との用語が使用された(甲44,被告C尋問調書40頁以下,証人E尋問調書3頁,4頁,証人J尋問調書3頁)。

JMAは,平成14年9月から実施されるJBL第4期のコーディネーター及び単位講師の派遣を原告ニューチャーイノベーションに依頼し,被告Cがコーディネーター及び単位講師を,被告Bが単位講師を担当することになった(甲44)。

d) 原告各テキストの作成

① 被告Cは,平成14年7月,8月ころ,原告テキスト1の作成を担当し,被告Dに対して同テキスト作りを手伝うよう依頼し,被告Dは同テキストの作成を手伝った(甲95,100の1,被告D尋問調書8頁)。

② 被告Cは,平成14年8月2日,被告Bに対し,メンタリングのテキストを被告Dとすりあわせ中であること,一部出来上がっているが見直しが必要であることを報告し,来週までにはたたき台を仕上げるので見てほしい旨のEメールを送信した(甲95)。

③ 被告Cは,平成14年8月23日,被告B及び被告Dに対し,EメールでVがメンタリングの事例を紹介してくれることになったが,JBL第4期のテキスト作りには間に合わないので同テキストにV紹介事例を盛り込む件については考え直す必要がある旨報告した(甲98)。

④ 被告Dは,平成14年8月24日,被告Cに対し,「最終で帰ったのでメンタリングは進んでいないのですが,一応現在のものを送ります。いくらか進んだらまた送ります。」,「メンタリングをうまく売って,これで売上作りましょう。」などと記載したEメールを送信し,パフォーマンス・メンタリングについて,作りかけ原稿(甲100の2)を添付して被告Cに送信した(甲100の1)。

⑤ 被告Cは,平成14年8月30日,被告Dに対し,「私の分をattachment(判決注・添付ファイル)にて転送します。」,「①→目次のFormat,②→表紙構成,③→その他…揃えておくべき項目は揃えておきたいので,大変申し訳ございませんが,私のTextを基盤として活用してください。…それと,Performanceのグラフをよろしくお願いしますね!」と記載したEメールを添付ファイル(Worksheet&Reference-⑩.ppt)とともに送信した(甲101)。

⑥ 被告Dは,平成14年9月1日午後9時40分,被告Cに対し,原告テキスト1の原稿の一部(甲99の2)を,同日午後10時11分ころ,メンタリングのグラフを,各添付ファイルで送付した(甲99の1・2,102)。

⑦ 被告Cは,平成14年9月2日午前1時2分ころ,被告Bに対し,「明日,JMAのメンタリングのテキストを送信します。Dさんにも手伝っていただきまして,とりあえず,JMAバージョンは完成しました。後ほどお渡しします。」との内容のEメールを送信し,その添付ファイルで,作成者として被告C,被告Dを記載し,被告Bについては監修にさせてもらうこと,著作権表示を「Nuture Innovation,at NewYork」と表記することなどについて確認を求めた(甲107の1ないし3)。

⑧ 被告Cは,平成14年9月2日午前1時39分に,JMAのEに対し,JBL第4期で使用するテキストのうち原告テキスト1を除く各テキストの原稿データ(甲70ないし72)をメールで送信した。被告Cは,原告テキスト1については,「本題のメンタリングのテキストですが,明日,午前中に送信させていただきます。残り10時間強,。。お時間を下さい申し訳ございません」,「基本的にメンタリングは,第4期に関しては,私とBさんが同時のフォローします。がコーディネーターである私が,メンターの方にどっぷりはまるのは論理的におかしいので,Bさんに表舞台に立っていただきます。」と説明した(甲69)。

⑨ 被告Cは,平成14年9月2日午後4時46分に,JMAのEに対し,テキストが完成した旨のメールを送信し,原告テキスト1(パフォーマンス・メンタリングの講義編,実践編,シート編のデータ(甲23の1の1ないし3))をPDFファイルで送信した(甲45)。

⑩ 被告Cは,原告テキスト1作成後,平成14年9月中には,原告テキスト1を改訂して原告テキスト2及び3(パフォーマンス・メンタリング講義編,実践編)を作成した(甲47,55)。

e) 被告C及び被告Bの工数管理表等におけるメンタリングテキスト,JBL関係の記載

① 被告C

(i) 月間工数管理表(向こう3か月の業務計画を記載するもの。甲87,90,証人I尋問調書12頁)

被告Cは,平成14年7月の工数22のうちメンタリングテキスト業務に工数5,JBLテキスト業務に工数3,ISPI&ASTD業務に工数3を費やす計画を記載した(上記以外の業務の工数は0.5ないし3であった。)。

被告Cは,平成14年8月の工数18.5のうちメンタリングテキスト業務に工数5を費やす計画を記載した(上記以外の業務の工数は0.5ないし2であった。)。

被告Cは,平成14年9月の工数14.5のうちJBL第4期業務に工数3,ISPI業務に工数8を費やす計画を記載した(上記以外の業務の工数は0.5ないし2であった。)。

(ii) 週間工数管理表(業務実績を記載したもの。甲88,91)

被告Cは,平成14年8月5日ないし11日の間の工数6.5のうちビジネスリーダー新企画開発に工数2を費やした旨記載した(上記以外の業務の工数は1ないし2であった。)。

被告Cは,平成14年8月12日から同年8月18日の間の工数5のうちビジネスリーダー新企画・JBL第4期テキスト・JBLメンタリングテキスト作成業務に工数1を費やした旨記載した(その他の工数は夏休み4のみであった。)。

被告Cは,平成14年8月19日ないし25日の間の工数5.25のうちJBL第4期テキスト開発業務に工数2,JBLメンタリングテキスト開発業務に工数2.5を費やした旨記載した。なお,同期間に記載された上記以外の業務の工数は0.25ないし0.5であった。

被告Cは,平成14年8月26日ないし同年9月1日の間の工数5.5のうちJBL第4期テキスト開発業務に工数1.5,JBLメンタリングテキスト開発業務に工数1.5を費やした旨記載した(上記以外の業務の工数は0.25ないし1であった。)。

被告Cは,平成14年9月2日ないし8日の間の工数5.25のうちJBL第4期稼働業務に工数3,PHP研究所業務に工数0.25を費やした旨記載した(上記以外の業務の工数は0.5ないし1であった。)。

② 被告B

週間工数管理票(業務実績を記載するもの。甲88)

被告Bは,平成14年8月12日ないし18日の間の工数7のうちJBL第4期メンタリングテキスト開発に工数2を費やした旨記載した(その他の業務は工数0.5ないし1であった。)。

被告Bは,平成14年8月26日から同年9月1日の間の工数6のうちJBL第4期メンタリングテキスト作成業務に工数0.5を費やした旨記載した(上記業務以外の工数は0.25ないし2であった。)。

ク 原告らの業務とその業務に使用されたコンテンツについて

a) 中国電力株式会社(以下「中国電力」という。)向け研修

原告ニューチャーイノベーションは,平成14年9月12日ころ,中国電力向けに研修を実施した。被告Bが上記研修を担当し,同研修のテキストとして「中国電力 財務的視点からみた企業価値」と題する資料(全86頁)を使用した。上記テキストにはニューチャーネットワークス(原告らグループの総称)の著作権表示がなされ,作成者として被告Bが表示された(甲32)。

b) 原告ニューチャーイノベーションは,平成14年9月25日以前に講義を実施し,被告Bが同講義を担当した。被告Bは,上記講義のテキストとして「Risk Meter リスクの測定と競争力の強化」と題する資料(全16頁)を使用した。上記資料には被告Bの著作権表示がなされた(甲24の1)。

ケ 原告らの就業規程の改訂

原告らの就業規程は,平成14年ころ改訂され,改訂後の就業規程には「社員は会社に許可なく他の会社に籍をおいたり,自ら事業を営むことを禁止します。」,「成果物は全て会社に帰属します。また業務に関係することで,会社の許可無く特許の出願・著作をしてはいけません。」という内容が記載されていた(25条)。被告Bは,上記就業規則について,原告ニューチャーイノベーション従業員S及びIに対し,平成14年9月19日,Eメールで「就業規則拝見しました。全体的に了解です。」と回答した(甲66)。同就業規程は,平成14年10月1日から施行された。

(2)  職務著作の成否

原告らは,原告各テキストは,①原告ニューチャーイノベーションの発意に基づき,②その業務に従事する者が職務上作成した,③著作物で,④原告ニューチャーイノベーションの著作の名義の下に公表するものであるから,原告ニューチャーイノベーションの職務著作に該当し,原告ニューチャーイノベーションが著作者として著作権を有する旨主張する(著作権法15条,17条)。そこで,以下,職務著作の成否を判断する。

ア 原告ニューチャーイノベーションの発意について

著作権法15条1項により,法人等の使用者が著作者となるためには,当該著作物が法人等の発意に基づいて作成されることが必要である(著作権法15条1項)。法人等の発意に基づくとは,著作物の創作についての意思決定が直接又は間接に法人等の判断に係らしめられていることである。したがって,法人等の業務を遂行する上で通常作成されることが期待される著作物については,法人等の当該業務を実施する旨の意思決定において,間接的に当該著作物を創作することの意思決定ないし判断がなされているものと解するのが相当である。

前記(1)認定事実によれば,本件においては,原告ニューチャーイノベーションは,JMAからJBL第4期のコーディネーター及び単位講師の派遣を依頼されて当該業務を実施することを決定しており,そして,JBL第4期においてはメンタリングを単位における講義として実施する予定であったことから,講義において使用するテキスト(原告テキスト1)を作成する必要があったものである。したがって,原告テキスト1を作成することは,その講師業務を遂行する上で当然期待されていた行為というべきである。

また,原告ニューチャーイノベーションは,JBL第4期以降においても,アベンティスファーマの社内JBLやJBL第5期以降においてメンタリングの講義等を実施することを予定していた(甲81の5頁,甲92添付資料10頁によれば,JMAは平成14年11月にアベンティスファーマ向けJBLプログラムを実施する予定があり,原告ニューチャーイノベーションの従業員がこれを担当することが予定されていた。ただし,平成14年9月24日の時点で被告Bが作成した資料には当該業務の結果欄に「-100」との記載があり,この時点では同業務について原告ニューチャーイノベーションの受注予定はなくなったと考えられる。)のであるから,JBL第4期用に作成した原告テキスト1を改訂するなどしてアベンティスファーマの社内JBLやその後に実施される公開JBL等に使用可能なテキスト(原告テキスト2及び3)を作成することは,これらの業務を遂行する上で当然期待されていた行為というべきである。被告Cは,原告テキスト1について「とりあえず,JMAバージョンは完成しました」(甲107の1ないし3)旨のEメールを当時原告ニューチャーイノベーション代表取締役であった被告Bに送信しており,その後,原告テキスト1の作成過程で被告Dが被告Cに送信した原稿データ(甲100の2)の一部を用いるなどして原告テキスト2及び3の原稿データを作成し,同原稿データの各頁の下部には原告ニューチャーイノベーションの著作権表示がなされているのであるから,原告テキスト2及び3は原告ニューチャーイノベーションの業務に用いることを予定して作成されたものであることは明らかである。

したがって,原告各テキストは,原告ニューチャーイノベーションの発意に基づき作成されたものというべきである。

被告らは,原告各テキストが扱うパフォーマンス・メンタリングは被告Bが原告ニューチャーイノベーションに入社する前に開発したプログラムであり,原告ニューチャーイノベーションの会議においてパフォーマンス・メンタリングが議題にされることは少なく,議題にされる場合であっても開発を推進していたのは被告BであってAではなかった,原告ニューチャーイノベーションには被告ら3名退職後パフォーマンス・メンタリングを理解している者はいないのであるから,原告各テキストが原告ニューチャーイノベーションの発意に基づいて作成されたものとはいえない旨主張する。しかし,原告ニューチャーイノベーションにおいて,パフォーマンス・メンタリングプログラムの開発を推進していたのが被告Bであったとしても,前記(1)認定事実によれば,被告Bは,原告ニューチャーイノベーションの代表取締役としてその計画を推進していたことは明らかであるから,被告らが主張する上記事由はいずれも原告各テキストが原告ニューチャーイノベーションの発意に基づいて作成されたことを否定する事由たり得ない。

また,被告らは,原告ニューチャーイノベーションが平成14年4月以降に原告テキスト1の作成を決定し,作業を開始したというのであれば,同年9月にJBL第4期で同テキストを使用することはスケジュール的に不可能である旨主張する。しかし,被告Cが同年7月ないし8月初旬ころから原告テキスト1の作成を開始し,同テキストが同年9月2日には完成し,同年9月のJBL第4期に使用されたことは前記(1)認定のとおりである。また,被告らは,原告テキスト2及び3がJBL第6期に使用されることを予定していたことを前提に平成14年9月ころJBL第6期の使用テキストを作成することを予定しているはずはない,とも主張する。しかし,原告テキスト2及び3はアベンティスファーマ向けJBLないしJBL第5期以降等において使用することを予定して作成されたことは上記認定のとおりである。

イ その業務に従事する者が職務上作成したものであるか

前記アのとおり,原告各テキストは,原告ニューチャーイノベーションの役員ないし従業員であった被告らが,その在職期間中に,同原告の発意に基づき作成したものである。したがって,原告各テキストが,同原告の業務に従事する者が職務上作成したものであることは明らかである。

ウ 原告各テキストの著作物性

a) 被告らは,被告Bが原告ら入社前に被告B各テキストを作成しており,原告各テキストは,被告Cが被告B各テキストのいずれかを写経するようにそのままデータ入力して作成したものであって,原告ニューチャーイノベーションの従業員によって何らの創作性も付加されていないから,原告ニューチャーイノベーションの職務著作は成立しない旨主張する。一方,原告らは,被告B各テキストは,本件訴訟提起後に被告らが作成したものであって,被告B各テキストは,当時,存在していなかったのであるから,原告各テキストの著作物性は失われないと主張する。そこで,まず,被告B各テキストが原告ら主張の時期に存在していたか否かを判断し,次に存在の認められた被告B各テキストのみを前提として,原告各テキストの著作物性を判断する。

① 被告B各テキストの概要と本訴において提出した時期について

被告らは,第6回弁論準備手続期日(平成16年2月12日)において,被告Bテキスト1,3ないし7(乙17ないし22)を提出した。被告Bテキスト1,3ないし7を、各証拠の記載に従って,作成公表順序に並べると次のとおりである。

(i) 平成11年12月付けの被告Bテキスト1「若手社員早期徹底育成プログラム」(乙22)

(ii) 平成12年作成の被告Bテキスト3「若手社員早期徹底育成プログラム(JBL第1期のパンフレット)」(乙18)

(iii) 平成12年6月付けの被告Bテキスト4「メンターズ・ガイド」(乙19)

(iv) 平成12年6月付けの被告Bテキスト6「メンター&メンティープログラム」(乙17)

(v) 平成12年8月付けの被告Bテキスト7「ビジネスリーダー育成のためのメンタリングプログラム」(乙21)

(vi) 平成12年9月付けの被告Bテキスト5「メンターズ・ガイド」(乙20)

さらに,被告らは,証人等尋問終了後の第13回弁論準備手続期日(平成17年6月6日)において,被告Bテキスト1,3ないし7の元になった資料であり,平成12年10月より前に存在していたものとして,被告Bテキスト8(乙60)を提出した。また,被告Bテキスト8が平成12年10月より前に存在していたことを補強するため,第17回弁論準備手続期日(平成17年11月18日)において,平成12年4月付けの被告Bテキスト2「人材開発ビジョンと人事体系の特徴」(乙72の1)を提出した(なお,原告らは,被告Bテキスト8及び同2の提出が時機に後れたものであるとして却下を求めるが,「これにより訴訟の完結を遅延させることとなる」(民事訴訟法157条1項)とまでは言い難いので,同申立ては理由がない。)。

② 原告テキスト1の作成経緯と被告B各テキストとの内容の比較

原告テキスト1の作成経緯については,上記(1)に認定したとおりであり,被告Cが,被告Dの協力を得ながら,一部できあがっていたものをもとにして,期限ぎりぎりにようやく作成したものである。すなわち,被告Cは,平成14年8月2日に,被告Bに対し,メンタリングのテキストを被告Dとすりあわせ中であり,一部できあがっているが見直しが必要であると報告し,被告Dは,平成14年8月23日に,被告Cに対し,最終で帰ったためメンタリングの原稿が進んでいないとして,作りかけの原稿(甲100の2)をEメールの添付ファイルで送信している。また,被告Cは,同月30日に被告Dにその改良版を送付して,このテキストを基盤として活用するように指示し,被告Dが同年9月1日に被告Cに対し,原告テキスト1の一部(甲99の2)を添付ファイルで送信し,被告Cが同年9月2日の午前1時ころ,被告Bに対し,JMAのメンタリングテキストを明日送信する予定である旨を伝え,被告CがJMAのEに対し,同日午後1時過ぎにはJBL第4期で使用するテキストのうち原告テキスト1を除くテキストのデータファイルのみ(甲70~72)を送信し,原告テキスト1の送付が遅れることを謝罪し,同日4時過ぎに,ようやく原告テキスト1のデータファイル(甲23の1の1ないし3)をPDFファイルで送信したものである。

これに対し,被告B各テキストと上記甲100の2,甲99の2及び原告テキスト1(甲23の1の1ないし3)との記載内容の比較は,別紙「各テキストの対応関係に関する裁判所の認定」のとおりであり(同別紙には,書証番号毎の縦の欄に頁数が付されている。横の列の図番号は,同一ないし類似の説明文又は図表を意味し,縦の欄に頁数が付されているのは,横の列の図番号の説明文又は図表が,当該書証番号の各テキストの該当頁に記載されていることを意味する。例えば,「甲100の2」の欄に記載された特定の頁に記載された説明文又は図表は,同別紙の他の書証番号のテキストの欄の同じ横の列で該当頁が記載されているものに記載されていることを意味する。同別紙については,同別紙記載の各証拠により認定したものである。以下,同別紙については,同様である。),この記載内容の比較結果は,上記の被告ら主張の原告テキスト1の作成経緯と相矛盾する内容のものである。すなわち,仮に,被告Bテキスト2(乙72の1),同4(乙19),同5(乙20),同7(乙21)あるいは同8(乙60)が既に作成されていたとすれば,これらを組み合わせれば,原告テキスト1どころか,原告テキスト2(甲47)あるいは3(甲55)よりも詳しいものが既に作成されていたことになるのであり,このことは,被告Cが,平成14年8月2日に,被告Bに対し,メンタリングのテキストを被告Dとすりあわせ中であり,一部できあがっているが見直しが必要であると報告したり,被告Dが,同月23日に,被告Cに対し,最終で帰ったためメンタリングの原稿が進んでいないとして,作りかけの原稿(甲100の2)をEメールの添付ファイルで送信したり,あるいは,被告Cが同年9月2日に,JMAのEに対し,原告テキスト1のみその送付が遅れたことを謝罪したことと,相矛盾することになるのである。

以上のような原告テキスト1の作成経緯,及び,原告テキスト1と被告B各テキストとの内容の比較からすれば,被告B各テキストのいずれもが,平成12年には,被告Bにより既に作成されていたとの被告らの主張は到底採用することができないものである。ただし,JBL第1期ないし第3期において,メンタリングプログラムが取り上げられ,被告Bがその第1期に用いるための何らかの資料を既に作成していたことは前記(1)認定のとおりであるから,被告B各テキストについて,平成12年に作成されたものがあるかどうかを,次に,個別に検討する。

③ 被告Bテキスト8(乙60)について

(i) 乙60によれば,被告Bテキスト8は製本されておらず,表紙も奥付けもなく,頁番号が付されていない体裁の書面の束である。ただし,被告Bテキスト8の各頁にはJMACシールが貼付されており,各頁には被告Bの著作権表示が付されている。

(ii) 被告Bテキスト8と原告テキスト1等との比較

被告らが平成12年8月に被告Bが作成したと主張する被告Bテキスト8の内容と,原告テキスト1及び甲100の2及び甲99の2の作成途中の各テキストの記載内容との比較は,別紙「各テキストの対応関係に関する裁判所の認定」のとおりである。この比較から明らかなように,被告Bテキスト8には,原告テキスト1,甲100の2及び甲99の2のテキストに記載されていないものが多数掲載されており,しかも,これらの多数の掲載頁は,原告テキスト2及び3あるいは被告各テキストにおいて多数掲載されているものである。このような内容の比較と原告テキスト1の上記作成経緯からすれば,原告テキスト1の作成時よりも前に既に被告Bテキスト8が作成され,存在していたというのは極めて不自然である。

(iii) 被告Bテキスト8の41頁目について

被告らは,原告テキスト2は,JBL第1期開始前に既に存在していた被告Bテキスト8を写経のように写して作成したものであり,いずれも原告テキスト1の作成の前から存在していた旨主張する。しかし,被告らの主張は,次の認定事実と整合せず,採用することができない。

被告Bテキスト8の41頁目(乙60の41)は「メンター選定基準モデル」と題が付され,「喜んでリーダーシップをとり,目に見えて行動に表す」等9項目が記載されている。また,原告テキスト2の48頁(甲47の48頁)には,「10.メンターの選定基準;例1」と題が付され,「喜んでリーダーシップをとり,目に見えて行動に表す」等上記9項目と同一の内容の9項目が記載されている。

他方で,甲47,68及び100の1,2によれば,原告テキスト2の48頁の作成経緯について,次の事実が認められる。被告Dは,平成14年8月24日,被告Cに対してメンタリングに関するテキストの作りかけ原稿のデータ(甲100の2)を送信しており,同原稿データの26頁には「1メンターの選定基準;例①」と題が付され,「1.Vさんの本より持ってくる」という指示が記載された。V書籍には「メンター志願者に対する要望のサンプル」と題する記載部分があり,そこにはメンターに求められる特徴として「喜んでリーダーシップをとり,目に見える形で発揮する」等上記9項目と同様の内容の9項目が記載されている(V書籍そのものは証拠として提出されていないが,V書籍の翻訳本である甲68の180頁の記載から,V書籍にそのような記載があることが認められる。)。

以上によれば,原告テキスト2の48頁は,被告Cないし被告Dが平成14年8月24日以降に,被告D作成のメールの指示に従ってV書籍の上記頁の記載内容を訳してほぼそのまま転記するという経緯で作成されたものと認められる。そして,被告らの前記主張によれば,被告Bテキスト8の41頁目がまず作成され,次に被告Dのメールに添付された甲100の2の26頁が作成され,その後に原告テキスト2の上記48頁が作成されたという経緯か,又は,被告Bテキスト8の41頁目がまず作成され,次に原告テキスト2の上記48頁が作成され,その後に被告Dのメールに添付された甲100の2の26頁が作成されたという経緯のいずれかであるということになる。しかし,甲100の2の内容に照らしてそのような作成経緯は極めて不自然であり,被告らの前記主張は採り得ないのである。

(iv) 「パフォーマンス・メンタリング」の用語について

被告Bテキスト8には「パフォーマンス・メンタリング」という語が多用されている。被告らは,「パフォーマンス・メンタリング」は,被告Bが平成12年10月に原告ニューチャーイノベーションの従業員兼取締役となる以前に開発した用語であると主張し,被告Bテキスト8をはじめとした被告B各テキストを提出する。しかし,被告らのこの主張は,次に述べる理由により採用し得ない。

メンタリング・プログラムは,JBL第1期当時から,パフォーマンス,すなわち実績,成果を重視する内容であった(証人K尋問調書3頁,証人E尋問調書4頁)ことから,以前からパフォーマンスを上げるためのメンタリングという議論をしていたこと(証人F尋問調書6頁),平成11年から同12年当時は,メンタリングとの用語自体が普及していなかったため,メンタリングを表す用語として「異世代同時学習システム」などの案もでたものの,パンフレットには簡単に「メンタリング」と記載することにしたとの経緯でその使用が開始されたものである(証人K尋問調書3頁)。

そして,前記(1)認定事実によれば,原告ニューチャーイノベーションは,平成14年前半当時,被告B及び被告Cを米国テキサス州ダラスにて開催された国際会議に派遣するなどして,メンタリングについて新たな研修を企画しようとしており,JMAにおいても,同年秋開催のJBL第4期において,従来は主に単位と単位の間で実施しているにすぎなかったメンタリングを,単位講義に組み入れるなどのカリキュラム変更を行い,JBL第4期第1単位の日程表には,単に「メンタリング」と表記していた第3期と異なり「パフォーマンス・メンタリング」との用語を使用するに至ったのである(甲43,44参照)。現に,被告C(尋問調書40頁以下),証人E(尋問調書3頁及び4頁)並びに証人J(尋問調書3頁)は,「パフォーマンス・メンタリング」の用語は,平成14年9月に実施されたJBL第4期が始まる前ころ,すなわち,JBL第4期におけるカリキュラム変更の動きが具体化したころから使用され始めた旨証言するものである。また,被告Dが同年8月24日に被告Cに送信した作りかけの原稿(甲100の2)の7頁において,メンタリングとパフォーマンス・メンタリングとの相違点の説明が未だ作成途上であったことは,「パフォーマンス・メンタリング」という用語がこの時期にテキストに使用され始めたことに沿うものである。

以上からすれば,「パフォーマンス・メンタリング」の用語は,原告ニューチャーイノベーションによる提案を契機としてなされたメンタリングについてのJBLカリキュラムの変更に伴う新テキストである原告テキスト1が作成されたころ,すなわち,JBL第3期が始まった後,平成14年9月に実施されたJBL第4期が始まる前ころから使用され始めたものと認められる。「パフォーマンス・メンタリング」の用語が多用されている被告Bテキスト8がJBL第1期が開始される前にすでに作成されていたという被告らの主張は,この点からも採用することができない。

(v) 被告Bテキスト8(乙60)の提出経緯について

本件訴訟においては,被告Bテキスト1,3ないし7(乙17ないし22)が提出されてその作成時期が問題となり,平成17年1月31日から同年4月26日にかけて証人尋問等が実施された。被告Bテキスト8は,その後の平成17年6月6日に実施された第13回弁論準備手続期日において提出されたものであり,その提出時期も極めて不自然である。

被告らは,被告Bテキスト8の提出が遅れた理由について,証人尋問が終了するまで被告らは原告テキスト1のみが審理の対象であると認識していたため,被告Bテキスト8を提出しなかった旨主張する。しかし,そもそも,被告Bテキスト8は原告テキスト1の内容と一部重複するものであるから,原告テキスト1のみが審理の対象と認識していたことは被告Bテキスト8の提出が遅れた理由にはならない(被告らは,被告Bテキスト8より原告テキスト1との重複部分が少ない被告Bテキスト1を訴訟の早期の段階で提出している。)。また,原告らは,平成15年11月17日の第4回弁論準備手続期日において原告テキスト2の存在を主張し,平成16年2月12日の第6回弁論準備手続期日において原告テキスト2及び3に類似するとして被告テキスト2の差止め等を求める請求を追加することを表明し,平成16年9月7日の第10回弁論準備手続期日までには原告テキスト2及び3と被告Bテキスト1,3ないし7とを対比する一覧表を作成,提出するなどして原告テキスト2及び3の著作権侵害を繰り返し主張していたことは原告らが主張するとおりである。さらに,平成16年11月9日付け原告ら証拠申出書には尋問事項として「本件『パフォーマンス・メンタリング』(甲23の1の1ないし3,甲47,甲55)の作成経緯について」と記載されており(甲47,55が原告テキスト2及び3である。),被告らは同月12日までに同書面を受領しているにもかかわらず,これについて異議を述べていないのであって,被告らがこの間原告テキスト2及び3が審理の対象になっていないと認識していたとは考えられない。むしろ,被告らは平成16年5月27日第8回弁論準備手続期日において陳述した第8準備書面6頁において「原告が『発展版』と主張している甲47・55は,被告BがJBLプログラム6期のために作成しておいたものを,被告Cが,勉強のために自己のパソコンにとりいれていたものである。」旨主張して原告テキスト2及び3について反論していたのであり,にもかかわらず,当初は,被告Bテキスト8の存在を前提とした主張はしていなかったものである。被告らが,原告テキスト1のみが審理の対象であると認識していたため,被告Bテキスト8を提出しなかったとの主張は到底採用し得ない。

また,被告らは,被告Bテキスト8の提出が遅れた理由として,被告Bテキスト8が被告Bがたまにしか訪れない同人の自宅に他の荷物と共に送られてきたことから,平成17年春ころまでその存在に気が付かなかった旨主張する。しかし,本件訴訟の相手方である原告らから自宅に送付されてきた荷物の中身を自ら改めなかったとの説明は不合理であるといわざるを得ず,これを裏付ける客観的な証拠もなく,被告らの上記説明は信用できない。

(vi) 被告Bテキスト8については,JMAの元従業員であるGが,平成14年5月ころ,JMA事務所内にある「2001年3月」と記載されたファイルの中に綴じられているのを見てコピーを作成した旨証言し(乙71,80,証人G尋問調書),平成14年5月ころ作成したコピーとして乙82を提出している。しかし,乙82には前記(ⅲ)及び(ⅳ)で不自然である旨指摘した被告Bテキスト8の41頁目や「パフォーマンス・メンタリング」の用語が用いられた頁が含まれているのであり,乙82及びGの証言は,前記(ⅲ)及び(ⅳ)に記載した証拠上認められる事実と整合せず,これを採用することはできない。

(vii) 被告らは,被告テキスト8が平成12年春ころから存在していたことの根拠として被告テキスト8にJMACシールが貼付されていることを指摘する。しかし,被告Bは,前記前提となる事実認定のとおり,昭和57年から平成12年10月ころまでJMACの社員であったものであり,JMACシールを予備のものとして保有していた可能性もあること,また,JMACシールは特別な仕様を施したシールではないことからすれば,かかるシールが貼付されているからといって,被告テキスト8が全体として平成12年春ころから存在していたと認めるには足りない。

(viii) 結論

以上によれば,被告Bテキスト8が平成12年8月ころに既に作成されていたという被告らの主張は到底認めることができない。

④ 被告Bテキスト2(乙72の1)について

(i) 乙72の1によれば,被告Bテキスト2は簡易に背表紙をとじる方法で製本されており,通し頁番号が付されている。また,被告テキスト2の各頁には,JMACシールが貼付され,被告Bの著作権表示が付されている。

(ii) 被告Bテキスト2の構成について

被告Bテキスト2は,クレイフィッシュ向けの「人材開発ビジョンと人事体系の特徴」と題する資料であり,全体として大きく3つ(「人材体系の概要」,「人事体系における個別制度の概要」,「スケジュール」)に分類され,このうち「人事体系における個別制度の概要」はさらに項目が分かれており「A.キャリア体系」,「B.人事評価システム」,「C.報酬体系」という項目と並んで「D.メンタリングプログラム」という項目が存在する。また,被告Bテキスト2の37頁以下は,「運用説明サンプル」であり,「運用説明サンプル」の項目として「1.人事評価点の仕組み」,「2.報酬の決定の仕組み」という項目の後に「3.メンタリングの運用の仕組み」という項目が存在する。

しかし,被告Bテキスト2は,メンタリングに関する部分以外は,人事体系の整理(キャリアの区分)と当該体系によって区分される人材に対する処遇(評価と報酬)という内容であって,若手育成に主眼をおいた内容ではなく,メンタリングに関する部分のみが異質である。また,同テキスト6頁の「今回説明箇所」の欄には「キャリア体系」,「評価システム」,「報酬体系」の3項目しか記載されておらず,メンタリングに関する記載は見当たらない。さらに,被告Bテキスト2の日付けが平成12年4月(JBL第1期開催前)であり,メンタリングは,当時,若手育成に関する極めて新しい手法で,Kや被告BがJBLに導入するために開発中であったこと(証人Kの証言)に鑑みると,被告Bテキスト2にメンタリングに関する資料が含まれているのは不自然である。

(iii) 被告Bテキスト2(乙72の1)の提出経緯について

本件訴訟においては,被告Bテキスト1,3ないし7(乙17ないし22)が提出されてその作成時期が問題となり,平成17年1月31日から同年4月26日にかけて証人尋問等が実施された。被告Bテキスト2は,その後の平成17年11月18日の第17回弁論準備手続期日において,被告Bテキスト8が平成12年10月より前に存在していたことを補強する証拠として提出されたものである(被告Bテキスト2には被告Bテキスト8と同内容の記載が一部含まれており,かつ,被告Bテキスト2は平成12年4月付けである。)。しかし,被告Bテキスト8について提出が遅れたことに合理的理由がないこと,被告Bテキスト8は平成12年10月のJBL第1期開始前に作成されたものとは到底認められないことは前記③認定のとおりであり,被告Bテキスト2も被告Bテキスト8と同様にその提出経緯は不自然であるといわざるを得ない。

(iv) 結論

上記(ⅱ)に加え,上記(ⅲ)のような提出経緯の不自然さに鑑みると,被告Bテキスト2が平成12年4月当時既に作成されていた旨の被告らの主張は採用することができない。被告らは,被告テキスト2が平成12年4月ころから存在していたことの根拠として被告テキスト2にJMACシールが貼付されていることを指摘するが,JMACシールが貼付されているからといって,被告テキスト2そのものが全体として平成12年4月から存在していたと認めるには足りないことは前記同様である。

⑤ 被告Bテキスト5(乙20)について

(i) 乙20によれば,被告Bテキスト5は,その表紙に「Mentor's Guide JMA社団法人日本能率協会 2000年JBL第1期」と記載されており,その各頁は製本されておらず,各頁に通し番号が付されている体裁の書面の束であり,その表紙及び各頁には,被告Bの著作権表示が付されている。

(ii) 被告Bテキスト5と原告テキスト1等との比較

被告らが平成12年6月ないし9月に被告Bが作成したと主張する被告Bテキスト5の記載内容と,原告各テキスト,甲100の2及び甲99の2の作成途中の各テキスト並びに被告テキスト2の記載内容との比較は,別紙「各テキストの対応関係に関する裁判所の認定」のとおりである。原告テキスト1が,十分な資料がなかったため,被告Cと被告Dによって期限ぎりぎりに作成されたのは前記認定のとおりである。しかし,被告Bテキスト5には,原告テキスト1,甲100の2及び甲99の2の作成途中の各テキストに記載されているものが多数頁にわたり記載されているにもかかわらず,これらが利用された形跡はなく,また,被告Bテキスト5には,原告テキスト1等に記載されていないもので,その後作成された原告テキスト2ないし3あるいは被告テキスト2に記載されているものも多数頁に渡り記載されており,このことは極めて不自然なことであるといわざるを得ない。

(iii) 「リーダーシップ・プロファイル」の用語について

被告Bテキスト5では,その他のメンタリングに関するテキスト(甲23の1の1ないし3,47,55,56,99の2,100の2,乙17ないし22,60)において「ジェネラルコンピタンス」という語が用いられている箇所に,これに代えて「リーダーシップ・プロファイル」という語を用いている頁が散見される(乙20の11頁,16頁,17頁,22頁,23頁,25頁,26頁,35頁,38頁。なお,同テキストの38頁は37頁と同一のシートのサンプルバージョンであると認められるから,記載内容が同一であるべきところ,37頁においては「ジェネラルコンピタンス」が用いられ,38頁においては「リーダーシップ・プロファイル」が用いられている。)。

他方,甲9,23の1の1ないし3,23の2,47,55,56,99の2,100の2によれば,「ジェネラルコンピタンス」及び「リーダーシップ・プロファイル」の用語に関して次の事実が認められる。

すなわち,JBLにおいて実施されてきたメンタリングプログラムにおいては,プログラム開始当初からスペシャルコンピタンス(専門的能力),ジェネラルコンピタンス(普遍的能力),キャリアビジョンの三つがメンタリングの重要な3要素として扱われ,メンタリングの本格的講義が初めて実施されたJBL第4期第1単位から平成15年1月までの間に作成されたメンタリングに関するテキストないし資料(甲23の1の1ないし3,47,55,56,99の2,100の2)においては一貫して「ジェネラルコンピタンス」の用語が用いられてきた(なお,被告らがJBL第2期までに作成されたテキストであると主張して提出する被告B各テキストにおいても,被告Bテキスト5を除いてすべて「ジェネラルコンピタンス」の用語が用いられている。)。ところで,原告ニューチャーイノベーションは,平成13年10月30日に特許庁に対して「ジェネラルコンピタンス」について商標登録を出願し(指定商品又は指定役務並びに商品及び役務の区分は,第35類,経営の診断及び指導,市場調査,経営の診断情報の提供等及び第41類,書籍の制作,起業に対する支援テキストの制作等),平成15年5月2日,商標登録がなされた(第4668604号,甲9)。被告Bないし被告Cは,被告ら3名が原告らを退職した後の平成15年4月9日から11日の3日間に実施されたアベンティスファーマ向けJBLプログラム(甲106)において,使用するテキスト(被告テキスト1)に「アベンティス・リーダーシップ・プロファイルは,パフォーマンス・メンタリングにおけるジェネラルコンピタンスに該当します」という断り書きを記載した上(甲23の2の60頁),これまでのメンタリング関係のテキストで「ジェネラルコンピタンス」が用いられてきた箇所に,これに代えて「リーダーシップ・プロファイル」という語を用いた(甲23の2の16頁ないし18頁,20頁,22頁,26頁,38頁,41頁,44頁,47頁,54ないし56頁,59頁,60頁,66頁)。

以上の証拠から認められる事実によれば,「リーダーシップ・プロファイル」の用語は,被告ら3名が平成15年4月9日に行なわれたアベンティスファーマ向けJBLのメンタリング関係の講義を実施するに当たって,「ジェネラルコンピタンス」に代わる用語としてその使用を始めたものと認めるのが相当である。

そうすると,「リーダーシップ・プロファイル」の用語を用いた被告Bテキスト5が平成12年のJBL第1期開催時に既に存在していたとは到底認め難いところである。なお,被告Bテキスト5において「リーダーシップ・プロファイル」の用語が使用されている頁は,被告テキスト1(甲23の2)にほぼ同内容の頁が存在していることから,被告Bテキスト5の当該各頁は被告テキスト1の一部を引用するなどして後日作成されたものと推認される。

(iv) 「パフォーマンス・メンタリング」の用語について

被告Bテキスト5には「パフォーマンス・メンタリング」という語が多用されている。しかし,前記③(ⅳ)認定のとおり,「パフォーマンス・メンタリング」という用語は,JBL第3期が始まった後,平成14年9月に実施されたJBL第4期が始まる前ころから使用され始めたものである。

そうすると,被告Bテキスト5は,この点からも平成12年6月ないし9月に作成されたものと認めることはできない。

(v) 被告Bテキスト5については,JMAの従業員であるFが,JMAがJBL第1期のために作成したものである旨の確認書(乙27)を提出しており,証人尋問において上記確認書の作成経緯について,「実際にJMAにおいて保管している資料と付き合わせて確認したというわけではないが,10ないし15分くらいかけて被告Bテキスト5を含むいくつかの資料の内容,体裁と自分の記憶を照らし合わせた結果,資料がたくさんあったので全部は覚えているわけではないが,基本的に私やほかのメンバーも含めて議論した内容がかなり含まれており,実際に配布した資料もあったことから間違いないと判断しましてサインをした(証人F尋問調書1頁,14ないし16頁)」という趣旨の証言をしている。

しかし,証人Fは被告Bテキスト5をその他の被告B各テキストと併せて10ないし15分という短い時間で,記憶に基づいて確認したにすぎず,付き合わせて確認したものではない。また,証人Fは,上記被告Bテキストの作成者は誰かという質問に対し,「作成というのは。」,「作ったというのは,書いたということですか。」と質問の真意を質しており,その後被告訴訟代理人が「書いたというか,考案したというんですかね。」と質問の言葉を変えると「考案は,議論の中でいろんな意見が出てきていますので,プロジェクトのメンバーが考案者だというふうに言えると思います。」と証言しており(証人F尋問調書6頁),前記客観的証拠から認められる事実に照らせば,Fの上記証言は,被告Bテキスト5の内容はJBL第1期が実施されたころに考案された内容と同趣旨のものが含まれており,当時作成された資料が一部含まれていることを述べるにとどまり,被告テキスト5そのものが平成12年10月より前に作成され既に存在していたことを認めるに足りる証拠とみることはできない。

(vi) 結論

以上によれば,被告テキスト5が全体として平成12年10月より以前に既に作成されたものである旨の被告らの主張は認めることができない。

⑥ 被告Bテキスト4及び7(乙19,21)について

(i) 乙19によれば,被告Bテキスト4は,その表紙に「Mentor's Guide2000年6月JBL説明会 JMA社団法人日本能率協会」と記載されており,その各頁は製本されておらず,通し頁番号が付された体裁の書面の束である。被告Bテキスト4の表紙及び各頁並びに奥付けには,JMAの著作権表示が付されている。

乙21によれば,被告Bテキスト7は,「ビジネスリーダー育成のためのメンタリングプログラム」(2000年8月)というもので,その各頁は製本されておらず,通し頁番号が付された体裁の書面の束である。被告Bテキスト7の各頁には,JMACシールが貼付されており,被告Bの著作権表示が付されている。

(ii) 被告Bテキスト4及び7と原告テキスト1等との比較

被告らが平成12年6月ないし8月に被告Bが作成したと主張する被告Bテキスト4及び7の記載内容と,原告各テキスト,甲100の2及び甲99の2の作成途中の各テキスト並びに被告テキスト2の記載内容との比較は,別紙「各テキストの対応関係に関する裁判所の認定」のとおりである。原告テキスト1が,十分な資料がなかったため,被告Cと被告Dによって期限ぎりぎりに作成されたのは前記認定のとおりであるにもかかわらず,被告Bテキスト4及び7には,原告テキスト1,甲100の2及び甲99の2の作成途中の各テキストに利用されず,記載されていないものがある(被告Bテキスト4のうち,4,12,14,17,20頁の各頁の記載(上記裁判所の認定中の図14,17,19,21,23),及び,被告Bテキスト7のうち,6,13,19頁の各頁の記載(同図14,17,19))。これらは,いずれもメンタリングに関する記載であり,被告Bが作成したものであるとすれば,甲99の2,甲100の2あるいは原告テキスト1のいずれかに利用され,記載されていてもおかしくないにもかかわらず,そのいずれにも記載されていないのはやや不自然であるし,また,被告Bテキスト4及び7に記載され,原告テキスト1には記載されず,その後作成された原告テキスト2ないし3あるいは被告テキスト2に記載されているものが数頁存在することもやはり不自然である。

(iii) 「パフォーマンス・メンタリング」の用語について

被告Bテキスト4及び7には「パフォーマンス・メンタリング」という用語が使用されている頁がある(被告Bテキスト4について4頁,7頁。被告Bテキスト7について6頁,7頁,20頁,22頁)。しかし,前記③(ⅳ)認定のとおり,「パフォーマンス・メンタリング」という用語は,JBL第3期が始まった後,平成14年9月に実施されたJBL第4期が始まる前ころから使用され始めたものである。

(iv) 以上からすれば,原告テキスト1の作成時には,被告Bテキスト4及び7がまだ作成されていなかったものと認めざるを得ず,被告Bテキスト4及び7が平成12年6ないし8月ころに作成された旨の被告らの主張は採用することができない。なお,被告らは,被告Bテキスト7が平成12年6ないし8月ころに作成されたことの根拠として被告Bテキスト7にJMACシールが貼付されていることを指摘する。しかし,JMACシールが貼付されているからといって,被告Bテキスト7そのものが全体として平成12年6ないし8月ころに作成されたものと認めるには足りないことは前記と同様である。

(v) もっとも,Eの平成14年7月の被告B宛の手紙によれば,同時点において,被告Bが作成したメンタリングに関するテキストが既に存在していることが認められ(乙37),被告Bテキスト4及び7については,被告Bテキスト2,5及び8に比べて不自然な記載が含まれている頁の割合が少なく,また,証人Fは,被告Bテキスト1,3ないし7を一読してJBL開催前の準備期間やJBL第1期ないし第2期のころに存在していた資料も含まれている旨,被告Bテキスト6の9頁はF自身が作成した旨(証人F尋問調書4頁)証言し,また,被告Bテキスト4(乙19)の15頁のグラフ,同7頁の図(被告Bテキスト7の7頁も同内容)は平成12年6月ないし8月ころまでに作成された書面か,少なくともこのころまでに作成された書面とほぼ同内容の書面である旨(証人F尋問調書4頁,16頁)証言していることからすれば,被告Bテキスト4及び7について当該テキスト全体が平成12年6月ないし8月ころに作成された旨の被告らの主張は認められないものの,被告Bテキスト4の15頁のグラフ,同7頁の「パフォーマンス・メンタリング」という用語を除いた図(被告Bテキスト7の7頁もほぼ同内容)については,少なくともJBL開催前の準備期間やJBL第1期ないし第2期のころに存在していた資料であると認めるのが相当である(上記F証言によれば,被告Bテキスト4及び7には,そのほかにもJBL第1期ないし第2期のころに存在していた資料も含まれている可能性があるものの,これらを証拠上特定することは困難である。)。

⑦ 被告Bテキスト6(乙17)について

(i) 乙17によれば,被告Bテキスト6は,その表紙に「ビジネスリーダー育成のためのメンタリングプログラム Mentor & Mentee Program」と記載されており,その各頁は製本されておらず,通し頁番号が付された体裁の書面の束である。被告Bテキスト6の表紙及び各頁には,被告Bの著作権表示が付されている。

(ii) 被告Bテキスト6と原告テキスト1等との比較

被告らが平成12年6月に被告Bが作成したと主張する被告Bテキスト6の記載内容と,原告各テキスト,甲100の2及び甲99の2の作成途中の各テキスト並びに被告テキスト2の記載内容との比較は,別紙「各テキストの対応関係に関する裁判所の認定」のとおりである。

(iii) 「パフォーマンス・メンタリング」の用語について

被告Bテキスト6には「パフォーマンス・メンタリング」という語が使用されている頁がある(2頁,3頁)。しかし,前記③(ⅳ)のとおり,「パフォーマンス・メンタリング」という用語は,JBL第3期が始まった後,平成14年9月に実施されたJBL第4期が始まる前ころから使用され始めたものである。

そうすると,被告Bテキスト6の「パフォーマンス・メンタリング」の用語が用いられている上記頁部分を含めて上記被告Bテキスト6が平成12年6月ころに作成されたとの被告らの主張は採用することができない。

(iv) もっとも,被告Bテキスト6については,被告Bテキスト2,5,8に比べて不自然な記載が含まれている頁の割合が少なく,証人Fは,被告Bテキスト1,3ないし7を一読してJBL開催前の準備期間やJBL第1期ないし第2期のころに存在していた資料も含まれていること,及び,被告Bテキスト6の9頁はF自身が作成した旨(証人F尋問調書4頁)を証言していること,また,被告テキスト6については,証人Kが「説明会用の資料である」旨証言していること(証人K尋問調書26頁),並びに,被告Bテキスト6が製本されていない書面の束であることに鑑みると,被告Bテキスト6は,JBL開催前の準備期間やJBL第1期ないし第2期のころから存在していた書面のうち2頁,3頁に上記「パフォーマンス・メンタリング」の用語を記載するなどの改変を加えて作成された書面であると認められる。

(v) 結論

以上によれば,被告Bテキスト6について当該テキスト全体がJBL開催前の準備期間やJBL第1期ないし第2期のころから存在していた旨の被告らの主張は認められないものの,被告Bテキスト6は,JBL開催前の準備期間やJBL第1期ないし第2期のころから存在していた書面のうち,2頁,3頁に上記「パフォーマンス・メンタリング」の用語を記載するなどの改変を加えて作成された書面であると認めるのが相当である。

⑧ 被告Bテキスト1及び3(乙22,乙18)について

(i) 乙22によれば,被告Bテキスト1は,その表紙に「若手社員早期徹底育成プログラム 社団法人日本能率協会・・・」と記載されており,その各頁は製本されておらず,頁番号が付されていない体裁の書面の束である。

乙18によれば,被告Bテキスト3は「若手社員早期徹底育成プログラム」という名称のパンフレットであり,厚紙で作成された一体のもので,JBL第1期用としてJMAが作成したパンフレットである。

(ii) 被告Bテキスト1及び3と原告テキスト1等との比較

被告らが平成11年12月に被告Bが作成したと主張する被告Bテキスト1の記載内容と,原告各テキスト,甲100の2及び甲99の2の作成途中の各テキスト並びに被告テキスト2の記載内容との比較は,別紙「各テキストの対応関係に関する裁判所の認定」のとおりである。また,被告Bテキスト3は,JMA作成のパンフレットであり,これと原告各テキストあるいは被告各テキストとの間に,同一又は類似する内容の説明文又は図表の記載はない(乙18,甲23の1及び2,47,55,56)。

(iii) 被告Bテキスト1及び3については,「パフォーマンス・メンタリング」の用語は用いられておらず,その他不自然な記載内容は認められないから,平成12年10月より前に作成されたものと認められる。

(iv) 結論

被告Bテキスト1及び3は全体として平成12年10月より以前に作成されたものであると認められる。

⑨ 小括

被告B各テキストのうち,被告Bテキスト1,3,6及び被告Bテキスト4の15頁のグラフ,同7頁の図,被告Bテキスト7の7頁の図については,そのものないし少なくともこれと同内容の書面がJBL開催前の準備期間やJBL第1期ないし第2期のころから存在していたと認められる(ただし,被告テキスト6の2,3頁,被告Bテキスト4の7頁,被告Bテキスト7の7頁については,作成当初は「パフォーマンス・メンタリング」の用語が用いられていなかったと認められ,その限度で一部改変が加えられていると認められる。)。一方,その余の被告B各テキスト中の各記載は,JBL開催前の準備期間やJBL第1期ないし第2期のころから存在していたとは認められない。

b) 前記a)で述べたとおり,被告Bテキスト1及び同3並びに被告Bテキスト4,6及び7の一部は,原告テキスト1が作成される以前に存在していたものである。そこで,前記各テキストの存在を前提として,原告各テキストの著作物性を判断する。

① 原告各テキストの概要

(i) 原告テキスト1の概要

甲23の1の1ないし3によれば,次の事実が認められる。

原告テキスト1は,「パフォーマンス・メンタリング」の講義編,実践編及びシート編から成り,JBL第4期で使用するテキストとして作成されたものである。講義編(全15頁)は,「メンタリングとは」(メンタリングの定義,メンターに求められる11個の役割,メンタリングにより得られる効果25等を内容とする。),「パフォーマンスメンタリングが求められる背景」(パフォーマンスメンタリングが求められる背景,パフォーマンスメンタリングとメンタリングの違い,パフォーマンスメンタリングにおける3つのメンター,パフォーマンスメンタリングによる組織への効果,ラーニングカーブとメンタリング等を内容とする。),「メンターの選定基準表」,「メンターに求められる特徴」等から成り,各項目について説明文や図表を用いてその要点を説明するものである。実践編(全26頁)は,「パフォーマンスメンタリングを実行するにあたって」,「パフォーマンスメンタリング全体の流れ」,「キャリアヴィジョンからスケジューリングまで」,「パフォーマンスメンタリングへ」,「ビジネスリーダー・ジェネラルコンピタンス&スペシャルコンピタンス」等から成り,パフォーマンスメンタリングを実施する手順や留意点等を説明文や図表を用いて説明するものである。シート編(全12頁)は,パフォーマンスメンタリングを実施するに当たって,JBL各単位やミーティングの前後において作成することが予定されたシート(質問と回答欄とから成る)を集めたものである。

(ii) 原告テキスト2及び3の概要

甲47及び甲55によれば,次の事実が認められる。

原告テキスト2(パフォーマンスメンタリング・講義編)は,「パフォーマンスメンタリングとは」,「パフォーマンスメンタリングプロセス」,「各ステップでのポイントと作成シートⅠ」,「各ステップでのポイントと作成シートⅡ」等から成り(全68頁),アベンティスファーマの社内JBLやその後に実施される公開JBL等に使用可能なテキストとして作成されたものである。原告テキスト2は,原告テキスト1の講義編に英文を付加するなどし,さらに「パフォーマンスメンタリングプロセス」以下の章で,パフォーマンスメンタリングプロセスについて説明文や図表を用いて説明を加えている。

原告テキスト3(パフォーマンスメンタリング・実践編)は,「パフォーマンスメンタリングを実行するにあたって」,「パフォーマンスメンタリング全体の流れ」,「キャリアヴィジョンからスケジューリングまで」,「パフォーマンスメンタリングへ」,「ジェネラルコンピタンス&スペシャルコンピタンス」,「パフォーマンスメンタリングの終焉とこれから」等から成り(全68頁),アベンティスファーマの社内JBLやその後に実施される公開JBL等に使用可能なテキストとして作成されたものである。原告テキスト3は,原告テキスト1のシート編をほぼ取り込むとともに,同実践編に比して,より詳細な説明を施している。

② 原告各テキストの作成経緯

(i) 原告テキスト1の作成経緯

原告テキスト1は,被告C及び被告Dが,被告Bテキスト等の一部(被告Bテキスト1の9頁,同テキスト4の7頁の図,同テキスト6の6頁,同テキスト7の7頁の図。各頁と原告テキスト1の対応関係は別紙「被告Bテキスト等と原告テキスト1の対応表」のとおりである。)及びV書籍等の資料を参考にしながら作成したものである。また,原告テキスト1には空白の頁にシートを挿入する旨の指示書が記載されている頁がある。そして,証人Fは,これらのシートのうち「キャリアビジョンシート」についてはJBLの第2期までの間に自らが作成したものである旨証言している。そうすると,当該シートについては原告テキスト1が作成されるより前に存在していたものと認められる(各シートと原告テキスト1の対応関係は別紙「被告Bテキスト等と原告テキスト1の対応表」のとおりである。)。

被告らは,原告テキスト1は,すべて被告Cが被告B各テキストのいずれかを写経するようにそのままデータ入力したものであると主張する。しかし,前記a)記載のとおり,被告B各テキストの大部分は原告テキスト1の作成時点において存在していなかったものであり,前記(1)認定のとおり,十分な資料がなく,原告テキスト1の作成が期限ぎりぎりであったことなどの経緯に鑑みても,原告テキスト1の作成経緯に関する被告らの上記主張は認められない。

(ii) 原告テキスト2及び3の作成経緯

原告テキスト2及び3は,被告Cが,被告Bテキスト等の一部(被告Bテキスト1の9頁,被告Bテキスト6の6頁の図,同テキスト7の7頁の図。各頁と原告テキスト2及び3の対応関係は別紙被告Bテキスト等と原告テキスト2及び3の対応表のとおり。)及びV書籍等の資料を参考にしながら作成したものである(前記(1)キd))。また,原告テキスト2及び3には空白の頁にシートを挿入する旨の指示書が記載されている頁がある。そして,証人Fは,これらのシートのうち「キャリアビジョンシート」についてはJBLの第2期までの間に自らが作成したものである旨証言している。そうすると,当該シートについては原告テキスト2及び3が作成されるより前に存在していたものと認められる(各シートと原告テキスト2及び3の対応関係は別紙被告テキスト等と原告テキスト2及び3の対応表のとおりである。)。

被告らは,原告テキスト2及び3は,被告Bが原告ニューチャーイノベーションに入社する前に作成したもの,ないし,被告Bが原告ニューチャーイノベーションに入社する前に作成したものを写経したものであると主張する。

しかし,前記a)認定のとおり,被告B各テキストの大部分は原告テキスト2及び3の作成時点において存在していなかったものであり,被告らの上記主張を認めることはできない。

③ 原告各テキストの創作性

原告各テキストは,講義用資料であり,講義の内容や目的を踏まえて,講義で取り扱う「パフォーマンス・メンタリング」の概念,内容,実践等について,説明文や図表を用いて説明するものであるから,思想を創作的に表現したものと認められる。

ところで,原告各テキストには被告B各テキストの一部(ただし,平成12年10月より前に作成されたと認められた部分)をそのままないし多少改変を加えて使用している頁がある。そのような頁については,原告ニューチャーイノベーションの従業員であった被告Cないし被告Dが新たに作成した部分とはいえないものの,そのようにして作成された部分は,原告テキスト1については全52頁中7頁(甲23の1の1の8,11頁,甲23の1の2の7,8,21,22,23頁),原告テキスト2については全68頁中2頁(甲47の16,28頁),原告テキスト3については全49頁(通し番号は67頁まで付してあるがうち18頁は空白であるため実質的には49頁である。)中2頁(甲55の7,8頁)にすぎない。

したがって,上記のとおり,原告各テキストに現れる被告B各テキスト(平成12年10月より前に作成されたと認められた部分)の分量が僅かであることからすれば,原告各テキストは,全体として思想を創作的に表現したものとして,著作物に該当するものであることは明らかである。

なお,被告らは,職務著作が成立するためには当該著作物が,社員なら誰でも同じように作成できるものであることが必要である,当該従業員ゆえに作成できたというような著作物については職務著作の成立を認めるべきではないと主張する。しかし,被告らのこの主張は,被告ら独自の見解であって採用することができないことは明らかである。

エ 原告ニューチャーイノベーションの著作の名義の下の公表

a) 原告テキスト1について

① 証拠(甲23の1の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

原告テキスト1の原稿データには,各頁の下部に「All Rights Reserved Nuture Innovation(at New York)2002」と記載され,原告テキスト1のうち講義編(甲23の1の1)の最終頁の著作者欄には被告D及び被告Cが作成者,被告Bが監修者として記載されている。なお,原告テキスト1は,甲23の1の1ないし3の各原稿(各頁の下部に上記原告ニューチャーイノベーションの著作権表示がされたもの)に表表紙と裏表紙を付した体裁で受講生に配布され,裏表紙の下部に「©社団法人日本能率協会」と記載されている。しかし,原告ニューチャーイノベーションがJMAに対して原告テキスト1の著作権を譲渡する旨の合意があったと認めるに足りる証拠はなく,当該表示がJMAが著作者であることを示す趣旨であるとは解されない。

前記認定事実に加え,原告ニューチャーイノベーションにおける著作権帰属についての取決め(前記(1)ウ)を併せ考えれば,原告テキスト1は原告ニューチャーイノベーションの著作の名義の下に公表されたものというべきである。

② 被告らは,原告テキスト1は,製本された後乙30ないし32の体裁になり,乙30ないし32の各頁の下部には「All Rights Reserved B」と記載されている旨主張する。

しかし,次のとおり,乙30ないし32のような体裁で製本されたテキストがJBL第4期受講生に配布された事実は認められない。甲45及び証人E,同Jの各証言によれば,被告Cは,平成14年9月2日午後4時46分ころ,JMA従業員Eに対し各頁の下部に「All Rights Reserved Nuture Innovation(at New York)2002」と記載された原告テキスト1をPDFファイルの形式でEメールに添付して送信し(甲45),Eは同添付ファイル付きEメールをそのままJに転送し,Jはこれをそのまま製本業者である恵造社に渡して,JMA作成のJBLテキスト用の表紙と裏表紙を付して製本した事実が認められる。JMAにおいては,テキストの製本に2,3日を要することから,通常,講義で使用するテキストの原稿は,遅くとも講義の1週間前には恵造社に渡していたところ,被告Cが甲23の1の1ないし3の原稿データを甲45により送信したのは講義開始の4日前であったから,同原稿を受領したJMA担当者は直ちに恵造社に製本作業を依頼したと考えるのが自然であり,一方,原告テキスト1について製本を発注した後に原稿の差し替えがあった事実は認められないのであるから,下部に「All Rights Reserved Nuture Innovation(at New York)2002」と記載された原告テキスト1が製本されてテキストとして用いられたと認めるのが相当である(なお,証人Jは被告Cから直接Eメールでテキスト原稿を受け取った旨証言しているが,甲45及び証人Eの証言及び証人Jが被告Cからメンタリングテキストの原稿がEメールで届いたのは1回だけであったと記憶している旨証言することに照らせば,証人Jは,Eからの転送メールを被告Cから直接送られてきたものと混同しているものと考えられ,前記証言部分は採用することができない。したがって,上記証言から,被告CがJに対して甲45の添付ファイルのほかに著作権表示部分が被告Bの氏名になった原稿データを送信したことを認めることはできない。)。

被告Bは,被告Cから受け取った原稿データに原告らのPR資料が記載されていたため,これを削除し,削除前の原稿データと削除後の原稿データを区別するために削除後の原稿データの著作権表示部分を被告Bの名前に変更し,それをJMA担当者に提出した旨供述する(平成17年2月24日付け被告B尋問調書40頁)。また,被告らは,証人尋問後に提出した準備書面においては,原告テキスト1は当初甲23の1の1ないし3に表表紙と裏表紙を付した体裁で印刷,製本,配付された事実はあったが,その後,テキストにミスがあったとして被告Bが再度乙30ないし32の体裁で原告テキスト1を印刷,製本させ受講者に対して訂正テキストとして配付したなどと主張する。しかし,そもそも,内容に改訂があったとしても,改訂前後の原稿の区別のために著作権表示を変更するのは不自然であるし,そもそもJBL第4期において原告テキスト1が異なる体裁で2度配布されたという被告らの主張を裏付ける客観的証拠はない。むしろ,甲107の1ないし3によれば,被告Cは,平成14年9月2日午前1時2分ころ被告Bに対して原告テキスト1の著作権表示を「All Rights Reserved Nuture Innovation,at New York 2002」とすることでいいか確認を求め,その後,同日午後4時46分ころ,著作権表示を「All Rights Reserved Nuture Innovation(at New York)2002」と変更してJMA担当者に原告テキスト1の原稿データを送信しているのであるから,被告Bは被告Cに対して著作権表示を「All Rights Reserved Nuture Innovation(at New York)2002」と変更するように指示したと認めるのが相当である。

さらに,乙30ないし32の提出経緯に鑑みてもこれらの書証は信用することができない。すなわち,被告Bは,メンタリングテキストの製本テキストを所持していたところ(平成17年2月24日付け被告B尋問調書35頁),被告らは,当初,製本テキストの表紙及び裏表紙のコピーのみを乙26の1ないし3として平成16年2月12日の第6回弁論準備手続期日において提出した(その後,被告らが撤回したため書証としては提出扱いになっていない。)。しかし,当裁判所が表紙だけでなく製本テキスト全体を提出するよう要請したところ,被告らは,製本テキスト全体についてはJMAと協議してからでないと提出できない(平成16年2月2日付け被告ら第6準備書面5頁)と述べてすみやかに提出せず,約9か月経過した同年11月15日の第11回弁論準備手続期日において,製本テキストとして乙30ないし32を提出した。ところが,第6回弁論準備手続期日から第11回弁論準備手続期日までの間に,被告らがJMAと製本テキスト全体を書証として提出することの是非を協議した事実を認めるに足りる証拠はなく,むしろ,被告Bは尋問期日において乙30ないし32を提出することについてJMAと協議をした事実はない旨述べている(平成17年2月24日付け被告B尋問調書37頁)。一方,乙30ないし32以外のJMA主催の研修で用いられた製本テキスト(乙44の1等)は,JMAとの協議を理由に提出を見合わせることなく被告らの判断で提出している。そもそも,平成16年2月12日の第6回弁論準備手続期日当時,既に製本テキストとほぼ同内容のものが甲23の1の1ないし3として提出されており,表紙については乙26の1ないし3として提出しようとしていたのであるから,同弁論準備手続期日の時点で製本テキスト全体をJMAと協議しなければ提出できないとする合理的な理由は認められない。

上記認定事実及び乙30ないし32の提出経緯に照らすと,乙30ないし32の表紙及び裏表紙を除く各ページの著作権表示部分は,平成14年当時に作成されて受講者に配布されたものとは認め難く,原告テキスト1が乙30ないし32のような体裁で製本されてJBL第4期受講生に配布された事実は認められない。

③ したがって,原告テキスト1は,原告ニューチャーイノベーションの著作の名義の下に公表されたものというべきである。

b) 原告テキスト2及び同3について

証拠(甲47,55)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

原告テキスト2の原稿データには,各頁の下部に「All Rights Reserved Nuture Innovation(at New York)2002」と記載され,「はじめに」の頁の末尾には,「Nuture Innovation,at New York CEO B,同Consultant D,同Consultant C」と記載されている。原告テキスト3の原稿データには,各頁の下部に「All Rights Reserved Nuture Innovation(at New York)2002」と記載され,最終頁には被告C,同D及び同Bが著作者として表示されるとともに,作成被告C(ニューチャーイノベーションコンサルタント),同D(同),監修被告B(ニューチャーイノベーションCEO)と表示されている。

前記認定事実に加え,原告ニューチャーイノベーションにおける著作権帰属についての取決め(前記(1)ウ),及び,原告テキスト2及び3が同原告の発意のもとに,同原告が将来実施するJBL講義用テキストとして作成されたものであることを併せ考えれば,原告テキスト2及び3は,原告ニューチャーイノベーションの著作の名義の下に公表されることが予定されていたものというべきである。

オ 結論

よって,原告各テキストは原告ニューチャーイノベーションの職務著作に該当するのであって,その著作権は同原告に帰属する(著作権法15条1項,17条)。

2  争点2(原告各テキストと被告各テキストの類似性)

(1)  原告テキスト1と被告テキスト1について

ア 複製権侵害について

原告テキスト1と被告テキスト1とを具体的に対比すると,被告テキスト1は,合計25頁(別紙被告テキスト1と原告テキスト1の対応表「甲23の2」欄記載の頁の数)が原告テキスト1の各頁(同別紙「甲23の1の1」,「甲23の1の2」,「甲23の1の3」欄記載の頁)と同一ないし類似する。また,原告テキスト1と被告テキスト1とが同一ないし類似する前記25頁のうち4頁(別紙被告テキスト1と原告テキスト1の対応表「甲23の2」欄記載の頁のうち網掛けが施されていないもの)は,そもそも,被告Bテキスト1,6,7及び既存シートに同一ないし類似する頁が存在し,これに創作的表現が施されたものではないから,被告C及び被告Dが原告ニューチャーイノベーションの従業員として作成したものでも,同原告に著作権が帰属するものでもない。

したがって,被告テキスト1のうち合計21頁(別紙被告テキスト1と原告テキスト1の対応表「甲23の2」欄記載の頁のうち網掛けが施されているもの)については,被告ら3名が原告ニューチャーイノベーションの著作物のうち原告ニューチャーイノベーションの創作部分に依拠して同一ないし類似の記載内容を再現し,同原告の原告テキスト1に係る複製権を侵害するものということができ,それは,原告テキスト1の全53頁中21頁に相当する。

イ 翻案権侵害について

a) 言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号参照),既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案には当たらないと解するのが相当である(最高裁平成11年・第922号・同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。かかる観点から,原告各テキストと被告各テキストの類似性を判断する。

b) 原告テキスト1と被告テキスト1とを全体的に比較する。原告テキスト1(甲23の1の1ないし3)は,「パフォーマンス・メンタリング」の講義編,実践編及びシート編から成り,平成14年9月に実施されたJBL第4期で使用するテキストとして作成されたものである。講義編(全15頁)は,「メンタリングとは」(メンタリングの定義,メンターに求められる11個の役割,メンタリングにより得られる効果25等を内容とする。),「パフォーマンスメンタリングが求められる背景」(パフォーマンスメンタリングが求められる背景,パフォーマンスメンタリングとメンタリングの違い,パフォーマンスメンタリングにおける3つのメンター,パフォーマンスメンタリングによる組織への効果,ラーニングカーブとメンタリング等を内容とする。),「メンターの選定基準表」,「メンターに求められる特徴」等から成り,各項目について説明文や図表を用いてその要点を説明するものである。実践編(全26頁)は,「パフォーマンスメンタリングを実行するにあたって」,「パフォーマンスメンタリング全体の流れ」,「キャリアヴィジョンからスケジューリングまで」,「パフォーマンスメンタリングへ」,「ビジネスリーダー・ジェネラルコンピタンス&スペシャルコンピタンス」等から成り,パフォーマンスメンタリングを実施する手順や留意点等を説明文や図表を用いて説明するものである。シート編(全12頁)は,パフォーマンスメンタリングを実施するに当たって,JBL各単位やミーティングの前後において作成することが予定されたシート(質問と回答欄とから成る)を集めたものである。

一方,被告テキスト1(甲23の2)は,平成15年4月に実施されたアベンティスファーマ向けJBLプログラムのテキストとして作成されたものであり,「パフォーマンスメンタリング講義編」と「パフォーマンスメンタリング実践編」とから成るテキスト(全81頁)である。「パフォーマンスメンタリング講義編」(39頁まで)は,「パフォーマンスメンタリングとは」(メンタリングの定義,メンタリングとコーチングの主な違い,メンターに求められる11個の役割,メンターがやること,やらないこと,メンタリングにより得られる効果25,パフォーマンスメンタリングが求められる背景,パフォーマンスメンタリングとメンタリングの違い,パフォーマンスメンタリングにおける3つのメンター,パフォーマンスメンタリングのベースにある考え方,3つのタイプの成長と3つのタイプのメンタリングの位置づけ,パフォーマンスメンタリングによる組織への効果,ラーニングカーブとメンタリング等を内容とする。),「メンターの特徴(メンターに求められる特徴)」,「チェックリスト各種」等から成り,各項目について説明文や図表を用いてその要点を説明するものである。また,日本文とそれに対応する英文が記載されている。「パフォーマンスメンタリング実践編」(40頁から)は,「パフォーマンスメンタリングを実行するにあたって」,「シート展開プログラム」,「キャリアヴィジョンからスケジューリングまで」,「パフォーマンスメンタリングへ」,「リーダーシッププロファイル&スペシャルコンピタンス」,「パフォーマンスメンタリングの終焉とこれから」等から成り,パフォーマンスメンタリングを実施する手順や留意点等を説明文や図表を用いて説明するものである。

c) 以上によれば,原告テキスト1と被告テキスト1は,具体的な頁において同一ないし類似の表現となる部分が24頁あるいは少なくとも20頁もあるのみならず,その説明の対象,全体の説明の順序や流れにおいて,類似した構成を持つものである。

すなわち,被告テキスト1の「パフォーマンスメンタリング講義編」は,原告テキスト1の講義編をほぼそのまま取り込んで,その英訳や新たな説明事項を付加したものであり,また,被告テキスト1の「パフォーマンスメンタリング実践編」は,原告テキスト1の実践編及びシート編をほぼそのまま取り込むとともに,「リーダーシッププロファイル&スペシャルコンピタンス」,「パフォーマンスメンタリングの終焉とこれから」について記載の充実を図ったものである。

したがって,原告テキスト1と被告テキスト1とを対比すると,被告テキスト1は,前記24頁において原告テキスト1を複製したものであるのみならず(ただし,そのうち4頁については,著作権の帰属の問題があることは前記のとおりである。),被告テキスト1に接すれば,原告テキスト1の表現上の本質的特徴を直接感得できるのであって,被告テキスト1は全体として原告テキスト1の翻案に当たるというべきである。

(2)  原告テキスト2及び3と被告テキスト2の類似性について

ア 複製権侵害について

被告テキスト2は,全147頁中86頁(別紙被告テキスト2と原告テキスト2及び3の対応表「甲56」欄記載の各頁の数)が原告テキスト2又は3の各頁(同別紙「甲47」,「甲55」欄記載の各頁)と同一ないし類似している。

もっとも,当該86頁のうち4頁(同別紙「甲56」欄記載の頁のうち網掛けが施されていないもの)は,そもそも,被告Bテキスト1,6,7及び既存シートに同一ないし類似する頁が存在し,これに創作的表現が施されたものではないから,被告C及び被告Dが原告ニューチャーイノベーションの従業員として作成し,同原告に著作権が帰属するものではない。

そうすると,被告テキスト2の全147頁中82頁(同別紙「甲56」欄記載の頁のうち網掛けが施されているもの)については,被告ら3名が原告ニューチャーイノベーションの著作物のうち原告ニューチャーイノベーションの創作部分に依拠して同一ないし類似の記載内容を再現し,その複製権を侵害したものということができる。なお,これは,原告テキスト2及び3の全136頁中82頁に相当する。

イ 翻案権侵害について

a) 原告テキスト2(甲47)は,「パフォーマンスメンタリングとは」「パフォーマンスメンタリングプロセス」,「各ステップでのポイントと作成シートⅠ」,「各ステップでのポイントと作成シートⅡ」等から成り(全68頁),アベンティスファーマの社内JBLやその後に実施される公開JBL等に使用可能なテキストとして作成されたものである。原告テキスト2は,原告テキスト1の講義編に英文を付加するなどし,さらに「パフォーマンスメンタリングプロセス」以下の章で,パフォーマンスメンタリングプロセスについて説明文や図表を用いて説明を加えている。

原告テキスト3(甲55)は,「パフォーマンスメンタリングを実行するにあたって」,「パフォーマンスメンタリング全体の流れ」,「キャリアヴィジョンからスケジューリングまで」,「パフォーマンスメンタリングへ」,「ジェネラルコンピタンス&スペシャルコンピタンス」,「パフォーマンスメンタリングの終焉とこれから」等から成り(全68頁),アベンティスファーマの社内JBLやその後に実施される公開JBL等に使用可能なテキストとして作成されたものである。原告テキスト3は,原告テキスト1のシート編をほぼ取り込むとともに,同実践編に比して,より詳細な説明を施している。

一方,被告テキスト2(甲56)は,1章「イントロダクション・オブ・メンタリング」(5頁から14頁まで。主な内容は,メンタリングの定義,メンタリングとコーチングの主な違い,メンターに求められる11個の役割,メンターがやること,やらないこと,メンタリングにより得られる効果25,一般的に見られるメンタリングの効果事例),2章「パフォーマンスメンタリングとは」(15頁から32頁まで。主な内容は,パフォーマンスメンタリングを紹介するにあたり,パフォーマンスメンタリングが求められる背景,パフォーマンスメンタリングとメンタリングの違い,パフォーマンスメンタリングにおける3つのメンター,パフォーマンスメンタリングのベースにある考え方,3つのタイプの成長と3つのタイプのメンタリングの位置づけ,パフォーマンスメンタリングによる組織への効果,ラーニングカーブとパフォーマンスメンタリング),3章「メンターズ・モデル」(33頁から42頁まで),4章「パフォーマンス・メンタリング・プロセス」(43頁から83頁まで。主な内容は,イントロダクション・オブ・パフォーマンス・メンタリング,各ステップでのポイントと作成シートⅠ,各ステップでのポイントと作成シートⅡ),5章「プラクティス・オブ・パフォーマンス・メンタリング」(84頁から),6章「ジェネラル・コンピタンス&スペシャル・コンピタンス」(119頁から),7章「エンド・オブ・パフォーマンス・メンタリング」(133頁から137頁)等から成り(全10章。154頁),各項目について説明文や図表を用いてその要点を説明するものである。また,日本文とそれに対応する英文が記載されている。

b) 以上によれば,原告テキスト2及び3と被告テキスト2は,具体的な頁において同一ないし類似の表現となる部分が84頁あるいは少なくとも80頁もあるのみならず,その対象,全体の説明の順序や流れにおいて,類似した構成を持つものである。そして,被告テキスト2は,原告テキスト2と同3とを一体化するとともに,第3章と第8章ないし10章を付加したものである。

したがって,原告テキスト2及び同3と被告テキスト2とを対比すると,被告テキスト2に接すれば,原告テキスト2及び同3の表現上の本質的特徴を直接感得できるのであって,被告テキスト2は,全体として原告テキスト2及び3の翻案に当たるというべきである。

(3)  小括

以上のとおり,被告テキスト1は原告テキスト1と,部分的に同一ないし類似する頁が多数あるだけでなく,全体としても類似し,また,被告テキスト2も,原告テキスト2及び3と,部分的に同一ないし類似する頁が多数あるだけでなく,全体としても類似するものである。被告各テキストは被告ら3名が共同して著作したものであり,両テキストが上記のとおり同一ないし類似すること及び被告らが原告ら在籍当時に原告各テキストの作成に携わったことに照らせば,被告各テキストが原告各テキストに依拠して作成されたことも明らかである。したがって,被告テキスト1は原告テキスト1について,被告テキスト2は原告テキスト2及び3について,部分的にみた場合については複製権を,全体的にみた場合には翻案権を侵害するものである。

3  争点3(著作者人格権侵害の有無)

前記2記載のとおり,被告らは,原告テキスト1の一部を用いて被告テキスト1を作成し,原告テキスト2及び3の一部を用いて被告テキスト2を作成しており,被告各テキストに用いた原告各テキストの部分について一部改変を加えるなどしているから,原告各テキストの著作者である原告ニューチャーイノベーションの意に反して原告各テキストを変更しているものであり,被告らの上記行為は同原告の同一性保持権の侵害に当たる。

また,被告らは被告各テキストの公衆への提供又は提示に際して原告各テキストの著作者である原告ニューチャーイノベーションの氏名を表示しなかったから,被告らの上記行為は同原告の氏名表示権の侵害に当たる(著作権法19条1項)。

4  争点4(損害の額)

(1)  被告テキスト1の作成,使用による損害について

ア 著作権法114条1項に基づく請求

原告らは,著作権法114条1項に基づく主張として,被告らによる被告テキスト1の作成譲渡がなければ,原告ニューチャーイノベーションは,原告テキスト1を使用した講義,講演を少なくとも3回は受注していたはずである,と主張する。しかし,著作権法114条1項は,侵害行為によって作成されたものの譲渡等数量に対し,著作権者である者の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を,著作権者等の能力に応じた額を超えない限度において,著作者等が受けた損害の額とすることができることを定めた規定であるから,原告らの上記主張は,著作権法114条1項に基づくものであるとすれば,被告らが被告テキスト1を使用した講義,講演を3回行ったことを前提とする主張であるべきであり,そうでないとすれば,著作権法114条1項に基づかずに,単に,被告らが被告テキスト1を使用した講義,講演を行わなければ,原告ニューチャーイノベーションは,原告テキスト1を使用した講義,講演を少なくとも3回は受注していたはずである,との主張であると解される。原告らの主張は,そのいずれであるか明確ではないので,念のため,その両方の主張をしているものと善解して,以下,これを判断する。

a) 証拠(甲23の2,26の1,81,92,106)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

JMAは,平成15年4月9日から11日の3日間,アベンティスファーマ向けにJBLプログラムを展開し,被告カタナは同プログラムの講師業務を受注し,被告Bないし被告Cが上記プログラムの講師を担当した(甲106)。被告ら3名は,被告テキスト1(全81頁)を作成し,被告B及び被告Cは被告テキスト1を用いて上記講義を実施した。したがって,被告らは,上記講義に使用するため,被告テキスト1を少なくとも1冊作成しJMAをしてそれを複製させ,受講者に頒布させたことが認められる。

b) しかし,原告ニューチャーイノベーションにおいて,パフォーマンスメンタリングを題材とする講義及びそのコーディネーターは,被告ら在職中は被告ら3名のみによって行われていたのであり,被告ら3名が原告ニューチャーイノベーションを辞めた後の平成14年末から平成15年においては,パフォーマンス・メンタリングのテキストを作成し,その講義あるいはコーディネーターを行うことができる従業員が原告ニューチャーイノベーションあるいはその余の原告らに勤務していたことを認めるに足りる証拠はなく,また,同原告らが被告ら退職後にパフォーマンス・メンタリングを題材とする講義を受注したことを認めるに足りる証拠もない。したがって,被告らが退職した後の平成15年においては,原告ニューチャーイノベーションもその余の原告らも,パフォーマンスメンタリングの講義を受注する態勢ができていなかったと認められ,本件においては,原告らにおいて同講義の際に受講生に頒布されるものである原告テキスト1を販売することができないとする事情があったものと認められる(著作権法114条1項ただし書き)。

c) また,上記事情によれば,原告らには,平成15年当時,パフォーマンス・メンタリングの講義を行なうことができる従業員がいなかったのであるから,被告らが平成15年に被告テキスト1を作成し,被告カタナが被告テキスト1を使用した講義を1回行ったとしても,被告らがこのような講義を行わなければ,原告らのいずれかが,平成15年に,パフォーマンスメンタリングの講義を受注し,原告テキスト1を譲渡することができたと認めることもできない。

d) したがって,原告らの上記主張は,いずれの主張に善解したとしても理由がない。

イ 著作権法114条3項に基づく請求

a) 著作権法114条3項は,著作権侵害における最低限の賠償を規定したものであるから,同法114条1項に基づく請求が認められない場合であっても,同条3項に基づく請求は可能というべきである。

b) 原告らは,著作権法114条3項に基づき,原告テキスト1の3回分の使用料(35万円×3)を損害として主張する。しかし,被告らが平成15年4月9日から11日の3日間,アベンティスファーマ向けのJBLプログラムにおいて被告テキスト1を1回使用したことは前記認定のとおりであるものの,被告テキスト1を3回使用したことを認めるに足りる証拠はない。

c) 原告ニューチャーイノベーションは,平成14年に,アベンティスファーマ向けJBLプログラムを実施する予定であったものが,キャンセルされた際に,これを100万円程度の損失と見込んでいたことが認められるから(甲81の5頁,甲92添付資料10頁),原告ニューチャーイノベーションが上記アベンティスファーマ向けJBLの講師業務を受注することによって得べかりし利益は少なくとも原告らの主張する73万3380円を下回らないものと認められる。そして,上記73万3380円は講師業務及びテキスト作成業務に対する対価と解されることからすれば,原告らが主張するとおり,テキスト作成業務に対する対価部分は73万3380円の約2分の1に相当する35万円を下回らないと認めるのが相当である。したがって,原告テキスト1全体の使用料相当額は,35万円であると認められる。

d) 原告テキスト1は,一体として存在するテキストであり,その性質上,部分的な使用許諾がなされるものではない。そして,被告テキスト1は,原告テキスト1を素材として利用し,さらに原告テキスト2及び3の内容を取り込むなどして作成されたものであって,原告テキスト1の実質的な部分はほとんどすべてが被告テキスト1に取り込まれているものであること,及び,原告テキスト1には,前記認定のとおり,被告Bが原告ニューチャーイノベーションに入社する前に作成した部分が7頁含まれており,この部分については,被告Bが著作権を有しており,原告ニューチャーイノベーションは著作権を有しないことは前記認定のとおりである。以上の事情を総合すれば,被告テキスト1に使用されている原告テキスト1の使用料相当額は,このB作成部分を除いて考慮すべきであり,少なくとも30万円を下らないものと認めるのが相当である。

(2)  被告テキスト2の作成・使用による損害(著作権法114条2項に基づく請求)について

ア 証拠(甲56,62,乙68,69)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。

被告ら3名は,平成15年1月ころまでに被告テキスト2を作成した(前記3)。被告カタナは,被告テキスト2を500冊作成し,同書籍をCDとセットで4万3000円(書籍の価格は5000円)でインターネット上で売り出し,被告テキスト2を105冊販売し,17冊はJMA従業員に無償配布した(甲62,弁論の全趣旨)。よって,被告テキスト2の売上は52万5000円(5000円×105冊)であると認められる。

被告テキスト2の上記販売価格については,同書籍に裏表紙には,「$59.70」と記載されているものの(甲56),甲62には「本体価格:¥5,000」と記載されているから,被告テキスト2の単価は5000円と認めるのが相当である。

被告テキスト2の販売経費について,乙68,69及び弁論の全趣旨によれば,被告カタナは被告テキスト500冊の印刷のため35万1960円(印刷代金及び同代金振込手数料)を経費として支出しているから,1冊当たりの経費は703円(35万1960円÷500冊)であり,1冊当たりの利益額は4297円(5000円-703円)であると認められる。

そして,被告テキスト2については,全147頁中82頁(別紙被告テキスト2と原告テキスト2及び3の対応表「甲56」欄記載の各頁の数)が原告テキスト2又は3の一部の頁(同別紙「甲47」,「甲55」欄記載の各頁)と同一ないし類似し,その複製権を全体の約55.7%の割合で侵害していること,並びに,被告テキスト2を全体としてみると,その内,1章,2章及び4章は原告テキスト2の翻案物であり,5章ないし7章は原告テキスト3の翻案物であって,3章及び8章ないし10章(合計28頁)は,原告テキスト2及び3の翻案に該当しない部分であり,原告テキスト2及び3の著作権(翻案権)を侵害するのは被告テキスト2の約8割であるとみることも可能であることが認められる。以上からすれば,被告テキスト2を販売したことによる利益のうち,原告ニューチャーイノベーションが有する原告テキスト2及び3に係る著作権による寄与率は7割と認めるのが相当である。

したがって,原告テキスト2及び3の著作権を侵害する被告テキスト2の販売によって得た利益として原告が賠償を求めることができる額は,31万5829円(4297円×105冊×0.7=31万5829円)であると認めるのが相当である。

イ 被告らは,被告らが被告テキスト2を販売しなければ原告ニューチャーイノベーションが原告テキスト2及び3を販売していたという関係にはない旨主張する。しかしながら,原告ニューチャーイノベーションは,コンサルティング関係の書籍の販売実績を数多く有しているから(甲23の1の1の最終頁),被告らが被告テキスト2を販売しなければ原告ニューチャーイノベーションが原告テキスト2及び3を販売していたという関係にはないと認めることはできず,原告ニューチャーイノベーションは著作権法114条2項による損害賠償請求をすることができるし,また,同項による相当因果関係ないし損害の推定は覆されない。

また,被告らは,原告テキスト2及び3は,被告B各テキストの二次的著作物に当たり,二次的著作物の原著作者は,二次的著作物の利用全般について二次的著作物の著作者と全く同一の権利を有するのであるから,被告Bは,原告テキスト2及び3の法人著作部分について原告らと同一の権利を有するものとして損害額が算定されるべきである,と主張する。しかし,原告各テキストが作成される前に作成されたとする被告B各テキストが,被告ら主張のようなものではないことは前記認定のとおりであり,そもそも原告テキスト2及び3が被告B各テキストの二次的著作物であることを認めるに足りる証拠はない。また,著作権法28条は,二次的著作物の利用に関する原作者の権利を規定するものであり,原作者が二次的著作物の著作者の同意を得ることなく,当該二次的著作物を単独で複製翻案する権利があることを認めた規定ではない。被告らの上記主張も採用し得ない。

(3)  著作者人格権侵害による損害について

前記のとおり,被告テキスト1は原告テキスト1の一部を変更しており,被告テキスト2は原告テキスト2及び3の一部を変更しており,被告各テキストにはいずれも原告ニューチャーイノベーションが著作者として表示されていないから,被告らは,原告ニューチャーイノベーションの原告各テキストについての同一性保持権及び氏名表示権を侵害している。

もっとも,原告各テキストは企業の若手従業員育成のコンサルティングに用いるためのテキストとして商業的に用いられるコンテンツであり人格的要素が強いとはいえないこと,被告各テキストにおいて加えられた改変部分は原告各テキストの作成者である被告Cないし被告Dがその後の改訂作業の一貫として改変したものであること等諸般の事情を総合考慮すると,著作者人格権侵害による損害の額は合計して20万円,すなわち,原告テキスト1についての著作者人格権侵害に基づく損害額が8万円,並びに,原告テキスト2及び3の著作者人格権侵害に基づく損害額が各6万円で小計12万円であると認めるのが相当である。

5  争点5(不正競争防止法に基づく請求の成否)

原告テキスト1が不正競争防止法上の営業秘密に当たることを認めるに足りる証拠はない。むしろ,弁論の全趣旨によれば,原告テキスト1の原稿データは,JBLの受講生に配付するために,原告ニューチャーイノベーションからJMAのJBL担当者宛てにEメールで送信され,その後,JBLの受講生に配付されているものである。そして,その際に,原告ニューチャーイノベーションからJMA担当者やJBL受講生に対して,原告テキスト1を特に秘密として管理する旨の注意がなされているとの事実を認めるに足りる証拠もない。

以上によれば,原告テキスト1を不正競争防止法上の営業秘密であるということはできず,原告らの不正競争防止法に基づく請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないことが明らかである。

6  争点6(別紙業務目録記載1の業務を行ない対価を受領した事実の有無及びこれが不当利得ないし競業避止義務違反に当たるか)

(1)  証拠(甲13ないし15,21の3,22の1,36,37,60の1ないし5,110の1ないし3,乙62の1・2,75の1・2,被告B本人尋問の結果,被告C本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。

ア 原告ニューチャーイノベーションは,次のとおり,長期間にわたって,サイバードに対し,「プロジェクトROI型人材マネジメントシステム」を実施した。

a) 平成14年2月及び3月実施分

被告B,被告C,被告D及びSがこれを担当した。原告ニューチャーイノベーションは,サイバードに対し,上記コンサルティングの対価として,同年2月28日に合計157万5000円,同年3月29日に同157万5000円,上記被告3名及び原告ニューチャーイノベーション従業員Sの交通費合計26万9260円の合計184万4260円を請求し,これを受領した(甲60の1,2)。

b) 平成14年4ないし7月実施分

被告B,被告C及び被告Dがこれを担当した。原告ニューチャーイノベーションは,サイバードに対し,上記コンサルティングの対価として,同年7月31日に合計126万円及び上記3名の交通費合計1万4840円の合計127万4840円を請求し,これを受領した(甲60の3)。

c) 平成14年9月実施分

被告Cがこれを担当した。原告ニューチャーイノベーションは,サイバードに対し,上記コンサルティングの対価として,同年9月30日に合計31万5000円及び被告Cの交通費合計1380円の合計31万6380円を請求し,これを受領した(甲60の4)。

d) 平成14年10月実施分

被告Cがこれを担当した。原告ニューチャーイノベーションは,サイバードに対し,上記コンサルティングの対価として,同年10月31日に合計31万5000円を請求し,これを受領した(甲60の5)。

原告ニューチャーイノベーションは,平成14年10月9日ころ,サイバード向けに平成14年11月から平成15年5月ころまでの長期企画を提案した。被告Cが上記業務を担当し,被告Cは上記提案の資料として「『考課者訓練』等のご提案(人材育成支援策を含む)」と題する資料(全14頁)を使用した。上記資料には被告Cの著作権表示がなされた(甲22の1)。

イ 被告Bは,原告らとは関係を有しない外国法人を別途設立することを考え,平成14年9月27日付けで,「NY現地法人KATANA設立に関して」と題する書面を作成し,上記法人の当面の事業のための戦略や,メンバー(被告B,被告C,被告Dのほか,L,M等),原告らの事業との差別化について方針等を記載した(甲13,110の1ないし3)。

上記書面には,被告カタナの当面の事業計画として,当時,原告らと取引関係にあった利根コカ・コーラ,サイバードなどへの業績マネジメントコンサルティング等が記載されていた(甲110の3の5頁)。

ウ 被告Cは,平成14年9月19日に被告Bに対し,Eメールで当時原告ニューチャーイノベーションの顧客であったサイバードとの契約の仕方について相談し,被告Bは同月20日に被告Cに対し,Eメールで「サイバードは新会社として契約すると思うので,Hさんとの契約も上司の役員とするように切り替えましょう。…」と返答した(甲15)。

エ 原告ら代表者Aは,平成14年10月23日ころ,被告Bが,原告らとは関係を有しない外国法人の設立を計画していることを知った。

被告Bは,平成14年10月23日付けで,原告ニューチャーイノベーションに対し,「代表取締役在任中であるにもかかわらず,執務時間中に,貴社社員を使い,貴社と競合する事業を行う会社設立計画を立て,貴社の顧客に新会社として営業活動を開始しました。ここにこれを認め,お詫び致します。」と記載した書面(本件確認書)を作成して提出した(甲14)。また,被告Bは,同年10月31日,原告ニューチャーイノベーション従業員I宛てに,「私は新会社の構想を企てました。結果行わないことにしました。しかし,ご迷惑と信頼を裏切る結果をもたらしました。今後Nuture Networksへはコンテンツの支援という形で応援していく所存です。」と記載したEメールを送信した(甲37)。

被告らは,本件確認書は,Aに脅迫されてよく理解せずに作成したものである旨主張する。しかし,被告Bは,当時,原告ニューチャーイノベーション社内においてAと同等ないしそれ以上の立場であったこと,その後,自主的に同趣旨のメールを作成してIに送信していること(甲37)からすれば,被告Bが本件確認書をその意味を理解しないまま作成したものとは到底認められない。

オ 原告ニューチャーイノベーションは,平成14年10月23日,被告Cに対し,1週間の自宅待機を命じ,同月31日,さらに1週間の自宅待機命令がなされた(第2事件甲12)。

カ 被告Cは,サイバードの担当者からEメールでコンサルティング業務の継続を依頼されたところ,原告ニューチャーイノベーションの担当者から,サイバードに関する業務は同原告が引き継ぐ旨伝えられていたことから,上記依頼をいったん断った。しかし,被告Cは,コンサルタントとして最後まで仕事を全うすべきと考え,最終成果物である報告書を作成するまでは業務を継続することとにした(被告C尋問調書21頁,平成17年2月24日付け被告B尋問調書38頁)。

サイバード従業員Hは,原告ニューチャーイノベーションにおける「プロジェクトROI型人材マネジメントシステム」同年10月実施分終了後に,コンサルティングの実施をJMAに依頼した(乙62の1,2)。JMA従業員Eは,この業務を被告Cに発注した(乙75の1,2)。

キ 被告Cは,平成14年11月,12月にサイバードに関する人事コンサルティング業務を行ない,同業務の一環として同年11月29日付け新人事制度導入,サイバード人事グループに関する資料(全18頁)を作成し,同年12月6日付け評価者訓練,サイバード人事グループに関する資料(全10頁)をサイバードに提出した(甲21の3)。上記資料のうち前者については,被告C及び被告Bが著作権者として表示されており,後者については被告Cのみが著作権者として表示されている。

被告Cは,上記業務の対価として60万円を受領した。

ク 原告ニューチャーイノベーションの従業員であったLは,平成14年12月5日付けで次のような内容の始末書を作成し,原告ニューチャーイノベーションに提出した(甲36)。「私は,B氏が作成したカタナNY,カタナジャパンの設立趣意書(事業計画書)について,知っておりました。なお,この書類の作成経緯の中で,B氏のほか,自分とD氏,C氏,M氏ら5名が何度か内容について話合いをしております。私は,カタナNYの業務内容が当社の業務と競合すること,当社の取引先(顧客)侵奪になるおそれがあることを知っておりました。なお,この対象取引先(顧客)として,JMA,利根コカ・コーラ,サイバード,サイボウズ,NTT-LSなどが予定されておりました。私は,C氏やD氏が,上海に出張したり,シカゴ,ニューヨークに出張したことについて,知っておりました。これについては,いずれもカタナNYの設立準備のためであるということを聞いております。」

ケ 別紙業務目録記載1の業務を実際に担当したのは被告Cであり,JMAから報酬額の支払を受けたのも被告Cであるが,前記ウ記載のとおり,被告Bは被告Cにサイバードとの契約を切り替えるように指示しており,前記カ及びキ記載のとおり別紙業務目録記載1の業務の成果物として作成,提出された同年11月29日付け新人事制度導入,サイバード人事グループに関する資料(全18頁。甲21の3)には,被告Cのみならず被告Bも著作権者として表示されているから,別紙業務目録記載1の業務は,被告C及び被告Bが共同で行なった行為というべきである。これに対し,被告D及び被告カタナ(当時未だ設立されていない)が,別紙業務目録記載1の業務を行なったと認めるに足りる証拠はない。

(2)  主位的主張について

前記(1)認定事実によれば,被告Cは被告Bからサイバードに関する契約の切替えを指示されていた事実が認められ(甲15),サイバード従業員H及びJMA従業員Eは,平成14年10月までの原告ニューチャーイノベーションに対して依頼したコンサルタンティング業務と同年11月以降に被告Cに対して依頼したコンサルティング業務については別個の契約であった旨述べており,JMAは報酬の支払を原告ニューチャーイノベーションではなく被告Cに対して支払っているのであるから(乙62の1,2,乙75の1,2),別紙業務目録記載1のサイバードに対する業務は原告ニューチャーイノベーションの業務として行なわれたものとは認められない。

なお,原告ニューチャーイノベーションが同年10月までに実施していた業務と別紙業務目録記載1のサイバードに対する業務の連続性を窺わせる事実も認められる。すなわち,被告らは準備書面8の11頁で「被告Cはそれ以前からサイバードに対するコンサルティングを行っており,原告ニューチャーイノベーションから自宅待機等を命じられたが,サイバードに対するコンサルティングを途中で放り出すわけにはいかなかったことから,報告書を作成してサイバードに提出したまでのことである。この報告書は,それまでサイバードに対して行なってきたコンサルティングに関するものであり,同コンサルティングに関与したものでなければ作成できないものである。」旨主張し,被告Cもこれに沿う供述をしている。また,被告Cの上記平成14年12月9日までのサイバードに対するコンサルティング業務は,原告ニューチャーイノベーションの稼働表に記載されている(甲59)。しかしながら,前記(1)ウ及びカ記載の事実,並びに報酬の支払方法が変更されていることからすると,別紙業務目録記載1の業務について,被告Cが原告ニューチャーイノベーションに支払われるべき報酬金を個人的に受領したものと認めることはできない。

したがって,被告C及び被告Bが別紙業務目録記載1の業務を原告ニューチャーイノベーションの業務として行なったものとは認められず,被告C及び被告B個人の業務として行なったものと認められるから,被告Cが上記業務の報酬60万円を受領したことが不当利得に当たるとはいえない。

(3)  予備的主張について

別紙業務目録記載1の業務は,被告C及び被告Bが,自らの業務として行なったものと認められる。

被告Bは別紙業務目録記載1の営業行為を行なった当時,原告ニューチャーイノベーションの代表取締役であったから,自己又は第三者のために会社の営業の部類に属する取引を取締役会の承認を得ることなく行なわない義務を負っており(商法264条1項,266条1項5号),被告Cは別紙業務目録記載1の業務を実施した当時,原告ニューチャーイノベーションとの間で労働契約を締結していたから,労働契約上の付随的義務として使用者たる原告ニューチャーイノベーションの利益に著しく反する競業行為をしない義務(競業避止義務)を負っていた。

そして,原告ニューチャーイノベーションは,平成14年2月から継続的にサイバードに対するコンサルティング業務を同社から受注しており,別紙業務目録記載1の業務は,前記・記載のとおり原告ニューチャーイノベーションが同年10月まで行なっていた「プロジェクトROI型人材マネジメントシステム」の最終報告書の作成,提出に相当する業務であったと認められるのであるから,被告B及び被告Cが当該業務を行なうことは,原告ニューチャーイノベーションの利益に著しく反する競業行為に当たる。

被告らは,別紙業務目録記載1の業務を行なった平成14年11月ないし12月初旬当時,被告Cは原告ニューチャーイノベーションから自宅待機を命じられ給与の支払も受けていなかったから,生活のためにやむなく当該業務を行なったものであり,競業避止義務違反には当たらない旨主張する。しかしながら,仮に生活を維持するためにアルバイトを行なう必要があったとしても,原告ニューチャーイノベーションの利益を不当に害しない形で生活費を稼ぐことは可能であったにもかかわらず,あえて原告ニューチャーイノベーションの利益を害することが明らかな別紙業務目録記載1の業務を行なっているから別紙業務目録記載1の業務が生活を維持するためにやむを得ずなされたものとは認められない。また,後記7記載のとおり,被告Cは同期間にJBL第4期の講師を担当して約50万円の報酬を受領しており,生活のために必要に迫られて別紙業務目録記載1の業務を行なったとは考え難い。被告らの主張は採用できない。さらに,原告ニューチャーイノベーションは,平成15年12月5日に成立した裁判上の和解により被告Cに対し平成14年10月23日から同年12月9日までの期間に相当する未払賃金として160万円を支払ったことは前記前提事実において認定したとおりである。

以上のとおり,被告B及び被告Cの別紙業務目録記載1の行為は,原告ニューチャーイノベーションに対する競業避止義務違反行為に当たる。

(4)  損害の額

原告ニューチャーイノベーションは,被告B及び被告Cの上記競業避止義務違反行為により,別紙業務目録記載1の業務の対価合計60万円に相当する損害を被った。したがって,被告B及び被告Cは,原告ニューチャーイノベーションに対し,連帯して60万円の損害賠償義務を負う。

7  争点7(別紙業務目録記載2の業務を行ない対価を受領したことが不当利得ないし競業避止義務違反に当たるか)

(1)  証拠(乙64の1・2)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。

被告Cは,平成14年11月8日,9日の2日間,JBL第4期第3単位のコーディネーターを担当した。被告Cは,同業務の報酬として21万円,交通費として1520円の合計21万1520円をJMAに請求し,これを受領した(乙64の1,弁論の全趣旨)。

被告Cは,平成14年12月5日ないし7日の3日間,JBL第4期第4単位のコーディネーターを担当した。被告Cは,上記業務の報酬として31万5000円,交通費として2480円の合計31万7480円をJMAに請求し,これを受領した(乙64の2,弁論の全趣旨)。

被告Cは,別紙業務目録記載2のJBL第4期の業務を行なったと認められる。これに対し,被告B,被告D及び被告カタナ(当時は未だ設立されていない)が別紙業務目録記載2の業務を行なったと認めるに足りる証拠はない。

(2)  主位的主張について

被告Cは,上記の期間,原告ニューチャーイノベーションの従業員であったものの,上記業務について原告ニューチャーイノベーションがJMAから依頼を受けた事実は認められないから,別紙業務目録記載2のJBL第4期の業務が原告ニューチャーイノベーションの業務として行なわれたものとは認められない。なお,上記業務については,日付の記載がないものの,被告CからJMAに対する請求書が提出されている(乙64の1・2)。

したがって,別紙業務目録記載2の業務の対価は原告ニューチャーイノベーションが受領すべき金員とはいえないから,同金員を被告Cが受領したことは不当利得には当たらない。

(3)  予備的主張について

被告Cは,当時,原告ニューチャーイノベーションとの間で労働契約を締結していたから,労働契約上の付随的義務として使用者たる原告ニューチャーイノベーションの利益に著しく反する競業行為をしない義務(競業避止義務)を負っていた。

原告ニューチャーイノベーションは,平成12年10月以降,JBLのコーディネーター及び講師派遣業務をJMAから継続的に受注して売上を上げており,前記1(1)キ記載のとおり,被告C及び被告Bが平成14年4月に出席したISPI会議参加の費用等をその後のJBLの業務の継続的な受注によって回収することを予定していたのであるから,JBL業務を個人として受注することは,原告ニューチャーイノベーションの利益に著しく反する競業行為であるというべきである。

この点,被告らは,別紙業務目録記載2の業務を行なった平成14年11月ないし12月初旬当時,被告Cは原告ニューチャーイノベーションから自宅待機を命じられ給与の支払も受けていなかったから,生活のためにやむなく当該業務を行なったものであり,競業避止義務違反には当たらない旨主張する。しかしながら,前記6記載のとおり,被告Cは,同期間に別紙業務目録記載1のサイバードに対する業務の対価60万円を個人的に受領しており,生活のために必要に迫られて別紙業務目録記載2の業務を行なったとは考え難い。被告らの主張は採用できない。また,原告ニューチャーイノベーションは,平成15年12月5日に成立した裁判上の和解により被告Cに対し平成14年10月23日から同年12月9日までの期間に相当する未払賃金として160万円を支払ったことは前記前提事実において認定したとおりである。

以上のとおり,被告Cの別紙業務目録記載2の行為は,原告ニューチャーイノベーションに対する競業避止義務違反行為に当たる。

(4)  損害の額

原告ニューチャーイノベーションは,被告Cの上記競業避止義務違反行為により,別紙業務目録記載2の業務の対価合計額のうち少なくとも50万円に相当する損害を被った。したがって,被告Cは,原告ニューチャーイノベーションに対し,50万円の損害賠償義務を負う。

8  争点8(別紙業務目録記載3の業務の担当者及び同業務の対価を受領したことが不当利得ないし競業避止義務違反に当たるか)

(1)  証拠(甲127の1・2,乙25)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。

JMAは,平成14年6月から平成15年2月までの9か月にわたって,JBL第3期を実施した(乙25の26頁)。

JMAは,平成14年6月18日付け書面で,原告ニューチャーイノベーションに対し,JBL第3期のコーディネーター及び同期1,6ないし9単位の講師派遣を依頼した(甲127の1)。原告ニューチャーイノベーションは,上記コーディネーター及び講師として被告Bを指定し,報酬の振込口座として原告ニューチャーディスカバリーの口座を指定した(甲127の2)。

そして,甲127の1・2によれば,上記のうちJBL第3期7単位の講師業務(別紙業務目録記載3の業務)を担当したのは被告Bであったと認められる。被告らは,当時被告Bが多忙であったことからJBL第3期7単位の講師業務を担当できず,JMAは被告Cに業務を依頼した旨主張する。しかし,被告Cが同業務を担当したことを裏付ける証拠は提出されていない(なお,この点についてJMAに対して調査嘱託を実施したが,JMAは回答するための条件として,調査の必要性についての説明文,既に行なわれたJMA従業員の尋問調書を原告らの費用負担で謄写してJMAに提出すること等を要求して裁判所からの調査嘱託に回答しなかった。乙89)。JMA従業員は,別紙業務目録記載1の業務については被告Bからの要求に応じてメールで回答していること(乙75の1,2),別紙業務目録記載2の業務については日付の記載がないものの,被告CからJMAに対する請求書が提出されていること(乙64の1,2)に鑑みると,別紙業務目録記載3の業務については被告らの主張を裏付ける証拠が提出されていない以上,この点についての被告らの主張は採用することができない。

また,被告らは,JMAが作成して原告ニューチャーイノベーションに宛てた依頼文書(甲127の1)は存在したが,原告ニューチャーイノベーションが作成してJMAに返送したという書面(甲127の2)は偽造である旨主張する。しかし,甲127の2の体裁に不自然な点はなく,その内容は,JBL第3期第1単位の講師を被告Bが担当したという事実(甲43,76)とも整合するものであり,甲127の2が偽造であるとは認められない。被告らは,甲127の2に記載されている文字が担当者として記載されている被告B自身の筆跡ではないこと,諾否の欄及び被告Bの自宅住所欄が空欄になっている点を指摘して体裁が不自然である旨主張する。しかし,かかる連絡文書において講師業務担当者本人の直筆で記載しなければならない理由はなく,会社の事務を担当する者が記載して返送することは不自然ではないし,原告ニューチャーイノベーションとJMAの間で被告BをJBLの講師ないしコーディネーターとして派遣することは初めてではなく,それまでも継続的に行なわれてきたことであることを考えると,返送用紙に必要最低限の事項のみを記載して返信することは何ら不自然なことではない。さらに,被告らは,返送用の書面が原告らの手許に残っているのは不自然であるなどと主張する。しかし,甲127の2の下部には「6月28日までにFAXにてご返送くださいますようお願い申しあげます。」と記載されており,ファックスで返送した場合に文書が手許に残ることは何ら不自然ではない(なお,JMAに対する調査嘱託事項には甲127の2を受領した事実の有無も含まれていたが,JMAが裁判所の調査嘱託に回答しなかったことは前記のとおりである。)。

そして,JMAが別紙業務目録記載3の業務の対価を原告ニューチャーイノベーションが受領していないないことは当事者間に争いがなく,弁論の全趣旨によれば,同業務の対価は同業務の担当者が受領したものと認められる。前記のとおり,上記業務を担当したのは被告Bであるから,被告Bが同業務の対価23万円を受領したものと認められる。

(2)  主位的主張について

そうすると,被告Bは,別紙業務目録記載3のJBL第3期第7単位の講師業務を原告ニューチャーイノベーションの業務として行なったというべきである。当該業務の対価23万円は原告ニューチャーイノベーションが受領すべきものであり,被告Bの受領は法律上の原因に基づかないものといえる。また,上記事実経緯に照らせば,被告Bは別紙業務目録記載3の業務が原告ニューチャーイノベーションの業務の一環であることを認識していたと認められる。

なお,被告C,被告D及び被告カタナ(当時は未だ設立されていない)が別紙業務目録記載3の業務を行なったと認めるに足りる証拠はない。

(3)  結論

したがって,被告Bは,民法704条に基づき原告ニューチャーイノベーションに対し,23万円に利息を付して返還する義務を負う。

9  争点9(別紙業務目録記載4の業務を行ない対価を受領したことが不当利得ないし競業避止義務違反に当たるか)

(1)  証拠(甲13,42,68,116,133,乙58,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。

原告ニューチャーイノベーションは,平成14年5月8日ころまでに,V書籍を含む3冊を翻訳して出版することを決定し(甲42),被告ら3名が同業務を担当した。被告Cは,平成14年8月にPHP研究所に対して原告ニューチャーイノベーションの職務としてV書籍の翻訳本の出版を提案し,PHP研究所は同年8月30日に同翻訳本を発刊する旨決定した(調査嘱託の結果,甲133)。

被告Bは,平成14年9月27日付け「NY現地法人KATANA設立に関して」と題する書面(甲13)の8頁に,出版事業計画としてPHP研究所から平成15年2月ころにメンタリング翻訳本を発刊する予定を記載し,被告Cらに示した。

PHP研究所は,平成14年10月31日,V書籍の版元から日本語翻訳本出版について許諾を得た(調査嘱託の結果,甲133)。

被告Cは,同年11ないし12月ころ,株式会社ジャパン・トランスレーション・サービスに対し,V書籍(その構成は以下のとおり。Preface,The Author,第1章ないし15章,Resource,References,Index。甲117)のPrefaceから第5章までの英日翻訳を発注し,同年12月3日にその代金の一部として38万2725円を支払った。同社は,同月15日に翻訳原稿を被告Cに納品し,被告Cは,同社に対し,代金残額36万5715円を支払った(乙58)。

被告C,被告B及び被告Dは,同年12月末までにV書籍のその余の部分(V書籍翻訳本(甲68)の120頁から269頁に相当する150頁分)の翻訳作業を行ない(翻訳作業の主な部分は被告Cが担当し,被告B及び被告Dは部分的に翻訳作業を行なった。平成17年2月24日付け被告B尋問)調書16頁,同月末までに,PHP研究所の担当者に提出した。被告Bは,平成15年1月までにV書籍翻訳本の「訳者まえがき」を作成してPHP研究所に提出した。

被告Bは,平成15年1月20日,V書籍の翻訳著作権者として,PHP研究所との間で出版契約を締結した。PHP研究所は,同年1月27日,被告B,被告C及び被告Dを訳者として,V書籍の翻訳本である書籍「メンタリングの奇跡」(著者V)を発刊し(甲68,116),被告Bに対し,上記出版契約に基づいて54万4320円を支払った(調査嘱託の結果,甲133)。

(2)  主位的主張について

以上によれば,被告Cは,被告B及び被告Dと共に,V書籍の約半分を自ら翻訳し,その余の翻訳を翻訳会社に依頼して平成14年12月末までにPHP研究所に翻訳原稿を提出したことが認められる。しかし,被告ら3名が当該翻訳業務を原告ニューチャーイノベーションの業務として行なったものとは認められない。すなわち,被告Cが原告ニューチャーイノベーションを退職する前の平成14年12月10日以前に,同原告の業務として,あるいは,従業員として負う競業避止義務に違反して翻訳作業を行ったことを認めるに足りる証拠はない(前記(1)の認定事実は同月11日以降に翻訳がなされたという被告らの主張と矛盾しない。)。むしろ,被告Cが自宅待機を命じられる平成14年10月23日までの間に翻訳作業をしていたとすれば,原告ニューチャーイノベーションが管理する被告Cのパソコンに当該翻訳原稿のデータが保存されていて然るべきであるが,原告らからそのような翻訳原稿は証拠として提出されておらず,かえって,約半分の翻訳原稿については,被告Cの自費によって翻訳会社に翻訳を依頼した事実が認められる。さらに,原告ニューチャーイノベーションは,V書籍の翻訳本をPHP研究所から発刊することを計画してPHP研究所と交渉を開始していたものの契約の締結には至っておらず,最終的に契約を締結したのは被告Bであったから,別紙業務目録記載4の翻訳業務の対価は原告ニューチャーイノベーションが受領すべき金員とはいえない。したがって,同金員を被告Bが受領したことは不当利得には当たらない。

(3)  予備的主張について

前記(2)記載のとおり,被告Cが原告ニューチャーイノベーションを退職する前の平成14年12月10日以前に,従業員としての競業避止義務に違反して翻訳作業を行ったことを認めるに足りる証拠はないので,原告らの主張は理由がない。

10  争点10(別紙業務目録記載5の顧客勧誘行為を行なった事実の有無及びこれによる損害の額)

(1)  証拠(甲13,36,37,110の1ないし3,甲111の1・2,第2事件甲12,乙7ないし14)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。

ア 被告Bは,原告らとは関係を有しない外国法人を別途設立することを考え,平成14年9月27日付けで,「NY現地法人KATANA設立に関して」と題する書面を作成し,上記法人の当面の事業のための戦略,メンバー(メンバーとして被告B,被告C,被告Dのほか,L,Mが記載されていた。)及び原告らの事業との差別化についての方針等を記載した(甲13,110の1ないし3)。

上記書面には,被告カタナの当面の事業計画として,当時,原告らと取引関係にあった利根コカ・コーラ,サイバードなどへの業績マネジメントコンサルティング等が記載されていた(甲110の3の5頁)。

イ 被告Cは,平成14年9月19日に被告Bに対し,Eメールで当時原告ニューチャーイノベーションの顧客であったサイバードとの契約の仕方について相談し,被告Bは同月20日に被告Cに対し,Eメールで「サイバードは新会社として契約すると思うので,Hさんとの契約も上司の役員とするように切り替えましょう。…」と返答した(甲15)。

ウ 被告B及び被告Cは,平成14年9月25日,米国を訪れてISPI等に参加した。被告Bは,同月29日には日本に帰国し,被告Cは,同年10月5日までアメリカに滞在した。被告Cは,同年10月2日,ニューヨークにおいて,ビジアムの関係者であるU及び米国の弁護士と共に,被告カタナの設立手続を進めたが,被告Bが原告ニューチャーイノベーションの代表取締役の地位にあることが問題となり,設立には至らなかった(甲111の1・2,第2事件甲12)。被告B及び被告Cは,上記米国訪問について原告らに報告せず,被告Cは,上記米国訪問の期間中日本にいなかったにもかかわらず,原告ニューチャーイノベーションに対して,同社の業務で日本国内を移動した旨報告して交通費3万6780円を請求した(甲84,弁論の全趣旨)。

エ 被告Bは,平成14年10月7日,被告Cに対し,「8日,利根コカ社長プレゼン同行しませんか?その際にインフォーマルミーティングを。」と記載したメールを送信した(甲112の1,2)。

オ 原告ら代表者は,平成14年10月23日ころ,被告Bが,原告らとは関係を有しない外国法人の設立を計画していることを知った。

被告Bは,同年10月23日付けで,原告ニューチャーイノベーションに対し,「代表取締役在任中であるにもかかわらず,執務時間中に,貴社社員を使い,貴社と競合する事業を行う会社設立計画を立て,貴社の顧客に新会社として営業活動を開始しました。ここにこれを認め,お詫び致します。」と記載した書面(本件確認書)を作成して提出した(甲14)。

また,被告Bは,平成14年10月31日,原告ニューチャーイノベーション従業員I宛てに,「私は新会社の構想を企てました。結果行わないことにしました。しかし,ご迷惑と信頼を裏切る結果をもたらしました。今後Nuture Networksへはコンテンツの支援という形で応援していく所存です。」と記載したEメールを送信した(甲37)。

原告ニューチャーイノベーションの従業員であったLは,同年12月5日付けで次のような内容の始末書を作成し,原告ニューチャーイノベーションに提出した(甲36)。「私は,B氏が作成したカタナNY,カタナジャパンの設立趣意書(事業計画書)について,知っておりました。なお,この書類の作成経緯の中で,B氏のほか,自分とD氏,C氏,M氏ら5名が何度か内容について話合いをしております。私は,カタナNYの業務内容が当社の業務と競合すること,当社の取引先(顧客)侵奪になるおそれがあることを知っておりました。なお,この対象取引先(顧客)として,JMA,利根コカ・コーラ,サイバード,サイボウズ,NTT-LSなどが予定されておりました。私は,C氏やD氏が,上海に出張したり,シカゴ,ニューヨークに出張したことについて,知っておりました。これについては,いずれもカタナNYの設立準備のためであるということを聞いております。」

カ 被告Bは,平成15年2月ないし同年6月ころ,JMA K(乙7),同N(乙14),東京電力建設部海外事業グループO(乙8),利根コカ・コーラ人事部P(乙9),サイバード人事部長H(乙11),アベンティスファーマ人事・コミュニケーション本部Q(乙12),NTTラーニングシステムズ株式会社R(乙13)に対して,概ね次のような内容の問い合わせを行ない,上記各担当者は,いずれも,被告Bについて原告ニューチャーイノベーションの利益に反する行為はなかった旨回答した。

「私は昨年末原告ニューチャーイノベーションを退職致しました。その間に,貴社に対して私の方から原告ニューチャーイノベーションの利害に反する行為(原告ニューチャーイノベーションの顧客を勧誘するなどの営業行為全て)がございましたでしょうか。…なお,…JMA公開プログラムであるプロジェクト・マネジメントはJMA窓口であるということを担当者含め確認させていただいております。」

なお,利根コカ・コーラ担当者Pは,回答書において,「平成14年12月末までの間に被告Bから営業活動はなかった,原告らからも平成14年4月の提案以降営業活動はない。こちらから被告Bに講演等の依頼をしたことはある。」旨記載した(乙10)。

(2)  以上の認定事実によれば,被告B及び被告Cは,平成14年9月ないし10月ころに,原告ニューチャーイノベーション在職当時,少なくとも,サイバード及び利根コカ・コーラに対して当時設立が予定されていた被告カタナないし被告B及び被告Cのための営業活動を行なったものと認められる。なお,サイバード人事部長H及び利根コカ・コーラ人事部Pは,被告Bからの質問書に対して被告Bから原告ニューチャーイノベーションの利益に反する行為はなかった旨回答しているが(乙9,11),これらの回答は,前記(1)イ及びエ記載の事実と整合しておらず,前記(1)イ及びエ記載の各事実に関する合理的説明も記載されていないから乙9及び11を採用することはできない。

(3)  被告B及び被告Cの上記営業行為が競業避止義務違反に当たるか

被告Bは,別紙業務目録記載5の営業行為のうちサイバード及び利根コカコーラに対する営業活動を行なった当時,原告ニューチャーイノベーションの代表取締役であったから,自己又は第三者のために会社の営業の部類に属する取引を取締役会の承認を得ることなく行なわない義務を負っており(商法264条1項,266条1項5号),被告Cは原告ニューチャーイノベーションとの間で労働契約を締結していたから,労働契約上の付随的義務として使用者たる原告ニューチャーイノベーションの利益に著しく反する競業行為をしない義務(競業避止義務)を負っていた。

もっとも,前記のとおり,被告B及び被告Cが原告ニューチャーイノベーション在職中に行なった行為は,サイバードに対し,原告ニューチャーイノベーションとの間の契約を被告らとの契約に切り替えるための準備行為及び利根コカ・コーラの社長に対するプレゼンテーションである。かかる行為は,いわば取引のための準備行為であって,それだけでは商法264条1項の「取引」ないし労働契約上の競業行為に当たるとはいえない。ただし,被告B及び被告Cは,平成14年11月及び12月にサイバードに対して別紙業務目録記載1の業務を行ない,被告Cがその報酬を個人的に受領しており,当該行為については前記6認定のとおり,被告B及び被告Cの競業避止義務違反行為に当たるものと判断したとおりである。利根コカ・コーラに関しては,取引のための準備行為を超えて取引行為があり,原告らに損害が生じたことを認めるに足りる証拠はない。

(4)  結論

以上のとおり,被告B及び被告Cが,別紙業務目録記載5の顧客勧誘行為のうちサイバード及び利根コカ・コーラに対し,被告らとの契約に切り替えるよう持ちかけた事実は認められるものの,前記6認定のとおり,被告Bと被告Cが平成14年11月及び12月にサイバードに対して競業避止義務違反に該当する行為を行なったこと以外については,さらに進んで,取引行為があり,原告らに損害が生じたとまでは認められないのであるから,原告らの主張は理由がない。

11  争点11(別紙業務目録記載6の業務を行なった事実の有無及びこれによる損害の額)

乙74の2及び弁論の全趣旨(平成17年12月8日付け原告ら第24準備書面2頁)によれば,別紙業務目録記載6の業務については,原告ニューチャーイノベーションがその対価を既に受領しており,被告Bが同業務の対価を受領したとは認められない。したがって,この点に関する原告らの主張は理由がない。

12  争点12(別紙業務目録記載7の対価を受領した事実の有無及びこれが不当利得ないし競業避止義務違反に当たるか)

別紙業務目録記載7の業務について被告Bが同業務の対価を受領したことを認めるに足りる証拠はない。したがって,この点に関する原告らの主張は理由がない。

13  争点13(被告Bの平成14年11月,12月の原告ニューチャーイノベーション役員としての報酬の額)

(1)  証拠(甲120ないし124(各枝番含む)125,130,乙2,73)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。

原告ニューチャーイノベーションは,被告Bが従業員兼取締役として就業を始めたときから年俸1800万円(月150万円)を支払っていたところ,平成14年10月31日に被告Bを代表取締役から解任して取締役に降格し,同年11月,12月の被告Bの役員報酬をそれまでの月150万円から月120万円に減額する旨の取締役会決議を行い(同年11月14日登記手続。甲6,125。以下「本件取締役会決議」という。),同年12月27日に株主総会で上記取締役会決議を承認する手続がとられ,Iは,被告Bに対し,メールでその旨連絡した(乙73)。

被告らは,上記取締役会議事録(甲125)は偽造である旨主張する。しかし,甲125の内容は,甲6及び乙73(原告ニューチャーイノベーション従業員のIから被告Bへの平成14年12月27日付けEメール)とも整合するものであり,甲126を偽造とする理由はない。被告らは,甲125を偽造であるとする根拠として,原告らが当時,「被告Bの各違反行為はそもそも原告ニューチャーイノベーション及び原告ニューチャーディスカバリーの積極的な海外展開の一環として企画したものであり,新会社設立自体を目的としたものではなかったが,…」(乙2第1条2項)という趣旨の記載がなされている合意書を作成して被告Bに対して署名するよう求めてきた事実を指摘する。しかし,当該合意書の第2条に「原告ニューチャーイノベーションは,被告Bに対し,上記違反行為を理由として,被告Bを代表取締役から解任し,代表権のない取締役に降格するとともに,平成14年11月分,12月分の役員報酬を30万円ずつ減額する。」旨の記載があるから,原告らが当時かかる合意書を起案したからといって取締役会決議において被告Bの役員報酬減額がなされなかったということはできない。

原告ニューチャーイノベーションは,被告Bに対する社会保険料や住民税の立替金請求権として,平成15年3月31日現在,52万6034円の支払請求権を有している(甲120ないし124。各枝番含む。被告らもこれを争わない。)。

原告ニューチャーイノベーションは,平成17年11月18日に,被告Bに対して未払報酬額240万円から上記立替金債権額52万6034円を控除した187万3966円を持参したが,被告Bは,同金員の受領を拒否した。そこで,原告ニューチャーイノベーションは,同年12月21日,上記金員187万3966円を被告Bのために供託した(東京法務局平成17年度金第56852号。甲130)。

(2)  本件取締役会決議により被告Bの役員報酬が減額されるか

取締役の報酬請求権は,会社と取締役との間の契約に基づくものであり,代表取締役の報酬額が具体的に定められている場合にはその報酬額は契約の内容となるから,原則として契約の一方当事者である会社が一方的に契約内容である報酬額を変更することはできない。この理は,取締役の職務内容に変更があり,それを前提に取締役会決議がなされた場合であっても異ならない(最高裁平成2年(オ)第1259号同4年12月18日第二小法廷判決・民集46巻9号3006頁参照)。

原告らは,被告Bに対して,役員報酬を減額する旨のメールを送信しており,被告Bはこれらに対して異議を述べていないから役員報酬の減額について黙示の承諾をしているものである旨主張する。しかし,かかる事実をもって,被告Bが役員報酬の減額を承諾していたと認めるには足りない。

また,原告らは,被告Bが原告ニューチャーイノベーションの代表取締役でありながら原告ニューチャーイノベーションの競業会社(被告カタナ)の設立を計画し,原告らの従業員を同社の従業員として雇用し,原告ニューチャーイノベーションが発行する予定であった書籍(V書籍の翻訳本)を当該競業会社の下で出版することとし,原告ニューチャーイノベーションが受注していた企業に対するコンサルティング業務を競業会社において受注することを計画し,これらの計画を原告らに秘して準備行為を進めており,代表取締役から取締役に降格された事実を指摘する。しかしながら,前記のとおり,取締役の職務内容に変更がありそれを前提に取締役会決議がなされた場合であっても,契約の一方当事者である会社が一方的に契約内容である報酬額を変更することはできない。また,原告の主張する前記事実関係を前提としても,取締役の任期は2年であり(商法256条1項),会社は取締役をいつでも株主総会の決議で解任することができること(商法257条),原告らは,上記各事実を知った後も,被告Bに原告らの取締役として活動することを期待していたこと(乙2)等の事情に鑑みると,契約締結後に生じた上記の事実関係のために,当初の契約内容に当事者を拘束することが極めて過酷であり,契約内容を変更しなければ信義則に反するとまではいえない。

よって,本件取締役会決議及び株主総会決議があっても,原告ニューチャーイノベーションと被告Bとの間の役員報酬合意の内容は,被告Bの同意なしに減額されるものではないので,原告ニューチャーイノベーションの被告Bに対する報酬支払債務の額は300万円である。

(3)  弁済による消滅の主張について

前記(2)のとおり,原告ニューチャーイノベーションの被告Bに対する報酬支払債務の額は300万円であり,立替金債権と相殺したとしても残額は247万3966円であるから,前記・記載の原告ニューチャーイノベーションの被告Bに対する187万3966円の弁済の提供は債務の本旨に従った弁済の提供とはいえず,供託によって弁済の効果は生じない。

14  争点14(著作権侵害に基づく損害賠償請求権,不当利得変換請求権ないし競業避止義務違反に基づく損害賠償請求権を自働債権とする,原告ニューチャーイノベーションによる被告Bの役員報酬債権に対する相殺)及び争点15(著作権侵害に基づく損害賠償請求権,不正競争防止法違反による損害賠償請求権及び不当利得返還請求権ないし競業避止義務違反に基づく損害賠償請求権を受働債権とする,被告Bの役員報酬債権による原告ニューチャーイノベーションに対する相殺の可否)

(1)  証拠及び弁論の全趣旨によれば,前記4,6,8記載のとおり,原告ニューチャーイノベーションは,被告Bに対し,①原告テキスト2及び3についての著作権侵害(31万5829円)及び著作者人格権侵害(12万0000円)に基づく合計43万5829円の損害賠償債権(弁済期は遅くとも被告らが被告テキスト2を105冊販売し終わった平成17年9月20日(被告ら第16準備書面受付日)である。),②原告テキスト1についての著作権侵害(30万円)及び著作者人格権侵害(8万0000円)に基づく合計38万円の損害賠償債権(弁済期は被告らが被告テキスト1を頒布した講義初日である平成15年4月9日である。),③競業避止義務違反に基づく60万円の損害賠償債権(弁済期は遅くとも被告C及びBが競業避止義務行為をし終わった平成14年12月末日である。)及び④不当利得に基づく23万円の返還請求債権(弁済期は被告Bが講師業務を終了した平成14年12月14日である。)を有している。

他方,前記13のとおり,被告Bは,原告ニューチャーイノベーションに対し,⑤平成14年11月分の役員報酬債権150万円(弁済期は同月末日である。),⑥同年12月分の役員報酬債権150万円(弁済期は同月末日である。)を有している。

(2)  原告ニューチャーイノベーションは,被告Bに対し,平成16年5月27日の第8回弁論準備手続期日において,上記①ないし④の各債権を自働債権,被告Bの原告ニューチャーイノベーションに対する役員報酬債権⑤⑥を受働債権としてこれを対当額において相殺するとの意思表示をした。

ア 上記④を自働債権,上記⑤を受働債権とする相殺は,上記④の債権の弁済期である平成14年12月14日に相殺適状となる。したがって,④の元金23万0000円と,⑤の元金150万0000円及びこれに対する弁済期の翌日である平成14年12月1日から同年12月14日までの年5分の割合による遅延損害金(被告らは年5分の割合による遅延損害金を請求する意思と解される。以下同じ)2876円(150万0000円×0.05×14日÷365日=2876円)とが対当額において相殺される。したがって,相殺後は,④が消滅する一方で,⑤の残元金は127万2876円(150万0000円+2876円-23万0000円=127万2876円)である。

イ 上記③を自働債権,上記アの残元金を受働債権とする相殺は,上記③の債権の弁済期である平成14年12月31日に相殺適状となる。したがって,③の元金60万円と,上記アの残元金127万2876円及びこれに対する平成14年12月15日から同年12月31日までの年5分の割合による遅延損害金2964円(127万2876円×0.05×17日÷365日=2964円)とが対当額において相殺される。したがって,相殺後は,③が消滅する一方で,⑤の残元金は67万5840円(127万2876円+2964円-60万0000円=67万5840円)である。

ウ 上記②を自働債権,上記イの残元金を受働債権とする相殺は,上記②の債権の弁済期である平成15年4月9日に相殺適状となる。したがって,②の元金38万0000円と,上記イの残元金67万5840円及びこれに対する平成15年1月1日から同年4月9日までの年5分の割合による遅延損害金9165円(67万5840円×0.05×99日÷365日=9165円)とが対当額において相殺される。したがって,相殺後は,②が消滅する一方で,⑤の残元金は30万5005円(67万5840円+9165円-38万0000円=30万5005円)である。

エ 上記①を自働債権,上記ウの残元金を受働債権とする相殺は,上記①の債権の弁済期である平成17年9月20日に相殺適状となる。したがって,①の元金43万5829円と,上記ウの残元金30万5005円及びこれに対する平成15年4月10日から平成17年9月20日までの年5分の割合による遅延損害金3万7352円(30万5005円×0.05×(2年+(164日÷365日))=3万7352円)とが対当額において相殺される。したがって,相殺後は,上記ウの残元金及び遅延損害金が消滅する一方で,①の残元金は9万3472円(43万5829円-3万7352円-30万5005円=9万3472円)である。

オ 上記エの残元金を自働債権,上記⑥を受働債権とする相殺は,上記エの残元金の弁済期である平成17年9月20日に相殺適状となる。したがって,上記エの残元金9万3472円と,上記⑥の元金150万0000円及びこれに対する平成15年1月1日から平成17年9月20日までの年5分の割合による遅延損害金20万4041円(150万0000円×0.05×(2年+(263日÷365日))=15万0000円+5万4041円=20万4041円)とが対当額において相殺される。したがって,相殺後は,上記エの残元金が消滅する一方で,⑥の残元金は150万0000円,残遅延損害金は11万0569円(20万4041円-9万3472円=11万0569円)である。

(3)  被告Bは,平成17年11月18日の第17回弁論準備手続期日において,上記⑤⑥の未払報酬支払債権と原告ニューチャーイノベーションの被告Bに対する著作権侵害に基づく損害賠償債権,不正競争防止法違反による損害賠償請求債権及び不当利得返還ないし競業避止義務違反に基づく損害賠償請求債権(上記①ないし④)とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。しかし,不法行為債権を受働債権とする相殺をすることはできない上,相殺の意思表示の時点において,既に①ないし④は消滅しているのであるから,被告Bの相殺の主張は理由がない。

(4)  原告ニューチャーイノベーションは,被告Bが支払うべき金員合計52万6034円(住民税11月分11万2000円,住民税12月分11万2000円,社会保険料10月分10万0678円,社会保険料11月分10万0678円,社会保険料12月分10万0678円)を立替払した事実が認められる。したがって,⑦原告ニューチャーイノベーションは被告Bに対し,同額の立替金支払債権を有する。そして,原告ニューチャーイノベーションが平成15年3月31日時点での未収金として計上していること(甲120)に照らし,同日までには期限の定めない債権として発生していたものと認められる。

(5)  原告ニューチャーイノベーションは,被告Bに対し,平成18年2月21日の第8回口頭弁論において,原告ニューチャーイノベーションの被告Bに対する上記立替払金債権⑦を自働債権,被告Bの原告ニューチャーイノベーションに対する役員報酬債権⑤⑥を受働債権としてこれを対当額において相殺するとの意思表示をした。

上記⑦を自働債権,上記⑥の残元金等(なお,上記⑤は相殺により既に消滅)を受働債権とする相殺は,上記⑦の債権が期限の定めのない債権であることから,上記⑥の残元金等と相殺適状にある。したがって,⑦の元金52万6034円と,上記(2)オの残元金150万0000円及び平成17年9月20日までの残遅延損害金11万0569円とが対当額において相殺される。したがって,相殺後は,⑦が消滅する一方で,⑥の残元金は108万4535円(150万0000円+11万0569円-52万6034円=108万4535円)である。

(6)  結論

よって,原告ニューチャーイノベーションは,被告Bに対し平成14年12月分の役員報酬の残額108万4535円及びこれに対する相殺適状日の翌日である平成17年9月21日以降の遅延損害金の支払義務がある。

15  結論

以上によれば,原告らの請求(第1事件)は,原告ニューチャーイノベーションが被告らに対し,被告テキスト1及び2の印刷,出版,販売又は頒布の差止め及び被告各テキストの記録媒体から同記録内容を抹消することを求め,原告ニューチャーイノベーションが被告Cに対し競業避止義務違反に基づき50万円及びこれに対する不法行為日の後の日であることが明らかな平成18年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるが,その余の請求は理由がない。

被告Bの請求(第2事件)は,平成14年12月分の役員報酬残金108万4535円及びこれに対する相殺適状日の翌日である平成17年9月21日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるが,その余の請求は理由がない。

訴訟費用の負担については,民事訴訟法61条,64条本文を適用し,仮執行宣言については,主文第1項及び第2項については相当でないのでこれを付さず,主文第3項及び第4項についてはこれを付すこととする。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 設樂隆一 裁判官 古河謙一 裁判官 吉川泉)

別紙被告テキスト目録1

名称 Performance Mentoring

~パフォーマンス・メンタリング~

発行者 カタナニューヨークインク

表紙 別添「表紙」のとおり

目次 別添「目次」のとおり

奥付 別添「奥付」のとおり

別添 表紙

別添 目次

別添 奥付

別紙被告テキスト目録2

名称 PERFORMANCE MENTORING

発行者 カタナニューヨークインク

表紙 別添「表紙」のとおり

目次の1,2及び4頁 別添「目次」のとおり

奥付 別添「奥付」のとおり

別添 表紙

別添 目次

別添 奥付

別紙原告テキスト目録

1 名称

「Performance Mentoring

~パフォーマンス・メンタリング~ 講義編」

「Performance Mentoring

~パフォーマンス・メンタリング~ 実践編」

「Performance Mentoring

~パフォーマンス・メンタリング~ シート編」

(甲23の1の1ないし3のもの)

2 名称

「Performance Mentoring

~パフォーマンス・メンタリング~ 講義編」

(甲47のもの)

3 名称

「Performance Mentoring

~パフォーマンス・メンタリング~ 実践編」

(甲55のもの)

別紙業務目録

1 サイバードに対して平成14年11月及び12月に行なわれたコンサルティング業務(対価60万円)

2 社団法人日本能率協会(JMA)のジュニアビジネスリーダーコース(JBL)第4期第3単位及び第4単位として,平成14年11月8日,9日及び同年12月5日ないし同月7日に行なわれた講師業務及びコーディネーター業務(対価50万円)

3 JMA主催のJBL第3期第7単位として,平成14年12月13日及び14日に行なわれた講師業務及びコーディネーター業務(23万円)

4 平成14年6月ころから同年12月に行なわれたV書籍の翻訳業務(対価57万6000円)

5 平成14年9月ころから同年12月ころに行なわれた顧客勧誘行為

6 ミノルタに対して平成14年10月11日ないし同月13日に行なわれた研修業務(対価51万円)。

7 エル・マール・サービスに対して平成14年11,12月に行なわれたコンサルティング業務(対価20万円)

別紙被告Bテキスト

※ 各テキストないし資料について記載されている作成時期及び作成目的は,被告ら主張の作成時期及び作成目的である。

1 平成11年12月付「40歳でビジネスリーダー!!『若手社員早期徹底育成プログラム』」と題する資料(乙22)作成時期平成11年12月作成目的JMA内部の説明会資料

2 平成12年4月付クレイフィッシュ向け「人材開発ビジョンと人事体系の特徴」と題する資料(乙72の1)

3 JBLパンフレット(乙18)

4 平成12年6月に行なわれるJBL説明会「Mentor’s Guide」と題する資料(乙19)

作成時期 平成12年6月(一部平成11年までに作成した資料を用いている)

作成目的 平成11年に実施されたJBL第0期用テキスト

5 平成12年付JBL第1期用テキスト「Mentor’s Guide」と題するテキスト(乙20)

作成時期 平成12年6月ないし9月(一部平成11年までに作成した資料を用いている)

作成目的 平成12年6月から実施されたJBL第1期用テキスト

6 平成12年6月付けJBL第1期用参考テキスト「ビジネスリーダー育成のためのメンタリングプログラム」と題する資料(乙6,乙17)

作成時期 平成12年6月(一部平成11年までに作成した資料を用いている)

作成目的 平成12年6月から実施されたJBL第1期用テキスト

7 平成12年8月付けJMAC商品・技術会議「ビジネスリーダー育成のためのメンタリングプログラムコンセプト紹介」と題する資料(乙21)

作成時期 平成12年6月ないし同年9月

作成目的 平成12年6月から実施されたJBL第1期用テキスト

8 乙60,乙72の2

作成時期 被告Bテキスト1(平成11年12月)より前

作成目的 JMACにおける研究会用資料

別紙

原告テキスト1と被告Bテキスト1,3ないし7の各頁の対応関係に関する被告らの主張

別紙

原告各テキストと被告Bテキスト1,3ないし7の各頁の対応関係に関する原告らの主張

別紙

原告テキスト2及び3と被告Bテキスト4,5,7,8の対応関係に関する被告らの主張

別紙

原告テキスト1と被告テキスト1の対応関係に関する原告らの主張

別紙

原告テキスト2及び3と被告テキスト2の対応関係に関する原告らの主張

別紙

原告各テキストと被告テキスト2の対応関係に関する原告らの主張

別紙

原告ら取引先一覧表

別紙

各テキストの対応関係に関する裁判所の認定

別紙

被告テキスト1と原告テキスト1の対応表

別紙

被告テキスト2と原告テキスト2及び3の対応表

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