東京地方裁判所 平成15年(ワ)14585号 判決 2005年5月12日
原告
X
上記訴訟代理人弁護士
古瀬駿介
近藤勝
被告
Y
上記訴訟代理人弁護士
高村隆司
被告補助参加人
a開発株式会社
上記代表者清算人
A
上記訴訟代理人弁護士
沖隆一
中山泰章
渡邉昭
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は、被告補助参加人に対し、金七五〇〇万円及びこれに対する平成一五年七月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は、原告が、被告に対し、商法二六六条一項五号、二六七条に基づき、被告が被告補助参加人(以下「補助参加人」という。)の取締役であった当時、補助参加人が、その子会社であるb土地株式会社(以下「b土地」という。)を介してc産業株式会社(以下「c産業」という。)に対する業務委託料を支払ったことが取締役としての善管注意義務(商法二五四条三項、民法六四四条)に違反し、その結果、補助参加人が業務委託料七五〇〇万円相当の損害を被ったと主張して、七五〇〇万円及びこれに対する訴状送達日(平成一五年七月二日)の翌日である同月三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を補助参加人に支払うよう求めて提訴した株主代表訴訟の事案である。
1 前提となる事実(証拠で認定した事実については、各項末尾に証拠を摘示した。なお、以下に掲げる証拠はいずれも本件訴訟の併合事件である平成一四年(ワ)第一四二一一号事件において提出されたものである。)
(1) 当事者
ア 原告は、平成八年七月二四日以降現在まで補助参加人の株主である(≪証拠省略≫、弁論の全趣旨)
イ 被告は、平成一二年六月二七日に補助参加人の取締役に就任し、平成一三年四月一日に代表取締役に就任したが、平成一五年六月一七日に取締役を退任した。(≪証拠省略≫、弁論の全趣旨)
ウ 補助参加人は、昭和四一年八月六日に設立され、不動産の取得、造成、譲渡及び売買の斡旋等を業とする株式会社であった。(≪証拠省略≫)
(2) 補助参加人によるc産業への資金支出の経緯等
ア 補助参加人は、平成元年六月ころ、c産業から、兵庫県宝塚市に開発可能な土地(≪住所省略≫他一六筆、以下「本件土地」という。)があり、検討してほしいとの計画を持ち込まれ、c産業に本件土地の取得と開発(保安林の解除、開発許可の取得、宅地造成工事等)を請け負わせ、その資金を同社に貸し付ける旨の協定を締結し、同協定に基づき、平成元年九月二九日に一〇〇億円、平成二年五月三一日までに一三〇億円をc産業に貸し付けた。(≪証拠省略≫)
イ しかし、本件土地の開発が進展しなかったことから、補助参加人が平成三年一〇月に調査したところ、本件土地には隣接地(≪住所省略≫)の所有者との間で境界紛争が存在することが明らかとなった。そして、本件土地の大部分を隣接地(≪住所省略≫)に当たると認める判決が昭和四一年には確定しており、かつ、すでに社団法人宝塚ゴルフ倶楽部が同地を占有していたことから、本件土地の開発が進められる状況にはなかった。そこで、やむなく、補助参加人は、平成四年三月二五日、全額出資してb土地を設立し、同月三一日、同社に補助参加人とc産業との上記協定に係る補助参加人の地位を譲渡した。
補助参加人は、平成五年七月二二日、b土地に対し、c産業に貸し付ける資金として三億七五〇〇万円を貸し付け、b土地は、同年八月二〇日までに同金員をc産業に貸し付けた。
ところが、c産業は、本件土地の開発を行わないまま、同年一〇月二八日に二回目の不渡りを出して事実上倒産した。(≪証拠省略≫、弁論の全趣旨)
ウ その後、補助参加人は、兵庫県がそれまでの見解を改め、補助参加人の主張に沿う形で境界紛争の解決に積極的な姿勢を示すに至ったこと等から、平成八年一二月ころまでに再びc産業に境界紛争の解決を委託することを決定し、b土地は、同月二七日、c産業との間で、業務委託料の合計額を一〇億円としてc産業が本件土地の地図訂正及び所有権確定業務を行うことを内容とする業務委託契約を締結した。さらに、b土地とc産業は、平成一三年一〇月一一日、当初予定した平成九年六月までに本件土地の地図訂正及び所有権確定業務が終了しなかったため、改めて、当該業務を継続し、その都度報酬を支払う旨の確認書を取り交わした。(≪証拠省略≫)
エ b土地は、c産業に対し、業務委託料として、平成八年一二月二七日に二億一〇〇〇万円、平成九年七月四日に三五〇〇万円、同月一八日に一億五五〇〇万円、同年一一月二〇日に二億五〇〇〇万円、平成一〇年四月一日に一億円、同年七月一五日に一億円、平成一二年一月一四日に五〇〇〇万円、同年一〇月四日に二〇〇〇万円、同年一二月二七日に三〇〇〇万円(同日には貸付金として交付され、平成一三年一二月五日に三〇〇〇万円の報酬と相殺処理された。)、平成一三年五月三一日に一〇〇〇万円、平成一三年一二月五日に一五〇〇万円(相殺処理された三〇〇〇万円との合計で四五〇〇万円)をそれぞれ支払った。補助参加人は、各支払のころに、取締役会における承認決議を経て、b土地のc産業に対する業務委託料支払の目的でb土地に対し支払額と同額を貸し付けた。(≪証拠省略≫)
オ 被告は、平成一二年一〇月三日開催の第一四九回取締役会(二〇〇〇万円のb土地への融資承認)、同年一二月二六日開催の第一五一回取締役会(三〇〇〇万円のb土地への融資)、平成一三年五月三一日開催の第一五五回取締役会(一〇〇〇万円のb土地への融資)及び同年一二月四日開催の第一六〇回取締役会(一五〇〇万円のb土地への融資)に出席し、上記取締役会においてb土地に対する融資及びb土地を介したc産業への業務委託料の支払を承認する決議に加わった。(≪証拠省略≫)
(3) 原告による提訴請求
ア 原告は、平成一〇年一〇月九日、補助参加人の監査役に対し、同月八日付け内容証明郵便で、前記(2)エのb土地を介したc産業への業務委託料の支払が補助参加人の取締役としての善管注意義務違反に当たるとして、平成八年一一月二七日から平成一〇年四月二八日までの支払分合計七億五〇〇〇万円についての責任追及訴訟を提起するよう請求したが、補助参加人が訴訟を提起しなかった。そこで、原告は、平成一四年七月二日、上記事実について補助参加人の取締役の責任追及訴訟(当庁平成一四年(ワ)第一四二一一号、以下「先行訴訟」という。)を提起した。(≪証拠省略≫、訴訟提起について当裁判所に顕著)
イ また、原告は、平成一四年八月二〇日、補助参加人の監査役に対し、同日付け内容証明郵便で、前記(2)エのb土地を介したc産業への業務委託料の支払が補助参加人の取締役としての善管注意義務違反に当たるとして、平成一〇年七月一五日から平成一三年一二月四日までの支払分合計二億二五〇〇万円についての責任追及訴訟を提起するよう請求したが、補助参加人が訴訟を提起しなかった。そこで、原告は、平成一五年六月二六日、本件訴訟を提起した。なお、本件訴訟は、同年七月一七日の第一回口頭弁論期日において、先行訴訟の口頭弁論に併合された。(≪証拠省略≫、訴訟提起及び弁論の併合について当裁判所に顕著)
(4) 補助参加人の特別清算の経緯等
ア 補助参加人は、経済同友会有志の発意により優良な住宅を低廉な価格で供給することを目的として、加盟七〇社の出資を得て設立された住宅開発会社であり、各地で大規模な住宅の開発事業を行っていた。しかし、同社は、不動産市況の低迷等により経営環境が悪化し、平成八年三月期以降売上高が減少、平成九年三月期には赤字決算となったため、同年九月、経営の合理化等を内容とする経営再建計画を策定したが金融機関の同意が得られなかった。そこで、平成一一年七月、事業の任意整理と債務弁済のための計画(新五ヵ年計画)を立案し、取引金融機関にこれを提示し、平成一二年八月には全取引金融機関の同意を得て上記計画を遂行していたが、平成一五年七月には全取引金融機関が、上記計画に係る協定を終了させたことから、補助参加人は、同月三一日開催の臨時株主総会において、解散する旨決議し、清算人として弁護士Aが選任された。
補助参加人の清算人は、補助参加人の資産状況からみて、特別清算手続を行うことが相当と判断し、同年八月一日、東京地方裁判所に特別清算手続の申立てをし(当庁平成一五年(ヒ)第二〇八二号)、同日、その旨の開始決定がなされ、三名の監査委員が選任された。
なお、補助参加人は、平成一五年七月三一日時点において、総資産七四億六一八一万一九六二円、負債七八一億三九三五万五五八六円であり、七〇六億七七五四万三六二四円もの債務超過に陥っていた。(≪証拠省略≫、弁論の全趣旨)
イ その後、清算人は、平成一五年一一月二六日付け債権者集会招集通知書において、先行訴訟及び本件訴訟について、①これらの訴訟が長期間する可能性がある一方、仮に勝訴したとしても被告とされた取締役から多額の金員を回収することは実際上困難であること、②すでに補助参加人が特別清算手続に入っている以上、経営の適正を維持するという株主代表訴訟の意義も薄れていること等を考慮すれば、会社資産の早期の換価回収と配当実施の観点からは、上記各訴訟の遂行には疑問がある旨の見解を述べた。同年一二月一一日開催の債権者集会において、清算人が、上記見解を踏まえて、先行訴訟及び本件訴訟の遂行について、補助参加人の債権者の意見を聴取したところ、債権者九名中五名(総債権額の九二・九六パーセント)が、今後、上記各訴訟を遂行することについて否定的な見解を述べた。(≪証拠省略≫、弁論の全趣旨)
ウ 清算人は、平成一六年三月三〇日に、株式会社アセットワン外三社に対して補助参加人に属する資産(不動産、債権、株式及び会員権)を一億六七九三万三四六二円で一括して売却することについて、監査委員の同意を得た。
また、清算人は、同日、補助参加人の債権者九名のうち六名(債権総額一二六三億一八六三万一九二一円のうちの一一五八億四八三六万八八六八円、約九一パーセント)から、上記一括売却について同意を得た。
清算人は、同月三一日、不動産売買契約を締結し、同年四月一三日、上記株式会社アセットワン外三社のうちの有限会社ワイズ・パートナーズ(以下「ワイズ」という。)との間で、売却の対価を四一〇三万一〇〇〇円として、貸付金、立替金等の債権を一括して売却する旨の契約(以下「本件売却契約」という。)を締結した。
ワイズへの上記売却対象債権には、先行訴訟及び本件訴訟に係る被告を含む補助参加人の元取締役らに対する損害賠償請求権も含まれていた。さらに、補助参加人は、同日付け内容証明郵便により、被告を含む補助参加人の元取締役らに対し、ワイズへの債権譲渡を通知した。(≪証拠省略≫、弁論の全趣旨)
(5) 先行訴訟及び本件訴訟に関する和解の成立
当裁判所は、平成一六年九月二七日、先行訴訟及び本件訴訟の口頭弁論を終結したが、その際併せて和解を勧試した。
和解手続にはワイズも利害関係人として被告を含む補助参加人の元取締役に対する損害賠償請求権の履行を求めて参加し、平成一六年一〇月六日の和解期日から平成一七年二月二三日の和解期日までの間の延べ一二回の和解期日を経て、原告、補助参加人、被告を除く補助参加人の元取締役ら、利害関係人ワイズ及び利害関係人Bとの間において、補助参加人の元取締役らが補助参加人に対し一億円の支払義務があることを認め、補助参加人はそのうち三二〇〇万円の支払を受けたときは残額を免除する旨、補助参加人が本件売却契約に基づきワイズへ二〇〇〇万円を支払う旨、原告、補助参加人及び補助参加人の元取締役らとの間には和解条項に定めるほか何らの債権・債務がないことを確認する旨を内容とする裁判上の和解が成立し、これにより先行訴訟と被告を除く本件訴訟が終了した。(当裁判所に顕著)
2 争点及び争点に関する当事者の主張
(1) 被告がb土地への融資を介してc産業に対する業務委託料を支払った点について、善管注意義務違反があったといえるかどうか。
(原告の主張)
被告が平成一二年一〇月三日付け、同年一二月二六日付け、平成一三年五月三一日付け、同年一二月四日付け各取締役会において、b土地への融資を介してc産業に対し、合計七五〇〇万円の業務委託料の支払を承認した点については、本件土地自体が全く開発の対象となり得ない土地であり、その支出については合理性、必要性が全くなく、被告もそのことを十分に認識していたから、業務委託料七五〇〇万円の支払を承認したことが取締役としての善管注意義務に違反することは明白である。
したがって、被告は、商法二六六条一項五号に基づき、補助参加人が被った業務委託料七五〇〇万円相当額の損害を賠償する責任がある。
(被告及び補助参加人の主張)
「新五ヵ年計画」が最終合意された時期には、補助参加人とc産業との間で合意された業務委託費一〇億円のうち九億円が支払済みであり、「新五ヵ年計画」は、残額の一億円を含めた総額一〇億円を「計画遂行の阻害要因排除に必要な費用の支払資金」として認めていた。「新五ヵ年計画」には全金融機関が賛成したので、今後、残額一億円を限度とするc産業への業務委託費の支出も全金融機関が了解していた。そして、補助参加人は、当時、一億円を限度とする業務委託費を支払っても、本件土地又は和解金を取得することにより、支払った業務委託費以上の収入を上げれば業務委託費を支払わないよりも金融機関に対する弁済額を増加させ得る状況にあった。したがって、被告が、c産業に対し、業務委託費の支払のため、原告指摘の各取締役会において承認決議に賛成したことは合理的であり、善管注意義務に違反するものではない。
(2) 本件売却契約が有効であるかどうか。
(被告及び補助参加人の主張)
ア 補助参加人の被告に対する損害賠償請求権は、本件売却契約により、ワイズへ譲渡され、これにより補助参加人が同請求権を喪失した以上、原告が株主代表訴訟によりこれを代位行使することはできない。
清算人は、特別清算手続の早期終結という目的から、本件売却契約等により、早期に換価することが困難な資産を一括売却することとし、債権者の協力も得て、売却先を探したこと、また、対価についても譲受人と再三交渉を重ねて決定しており、相当なものであることから、清算人が、原告の責任追及を妨げるような不当な目的を有していたものではない。
さらに、清算人は、監査委員の同意と総債権者の九〇パーセント以上の同意を得て、本件売却契約を締結しており、特別清算手続において必要とされるべき手続を適正に行った。
なお、ワイズは、本件訴訟において債権譲渡の効力が確定するのを待って、被告を含む補助参加人の元取締役に対する損害賠償訴訟の提起を予定していた。
イ 商法が株主代表訴訟を認めた趣旨は、株主の利益を保護するため、個々の株主に対して会社の取締役に対する損害賠償請求訴訟を提起することを認めたものであるところ、補助参加人は平成一五年七月三一日時点において、すでに約七〇六億円もの債務超過に陥っており、被告に対する勝訴判決を得て、賠償額全額を回収したとしても、全て債権者に分配され、原告が、株主として残余財産の分配にあずかることはあり得ないから、訴訟の続行を認める必要性を欠くというべきである。また、原告が主張する違法抑止機能も、既に会社が特別清算の段階にあり、債務超過状態で近い将来消滅が予定されている以上、そのような機能が奏効しないというべきである。
(原告の主張)
ア 本件売却契約の有効性については争う。
このような譲渡が有効とされる場合は、損害賠償額全額を得て第三者に売却する場合や譲受人が責任追及訴訟を提起している場合に限定されるべきであるが、本件においては、本件売却契約の対価は不当に低廉であり、また、ワイズが責任追及訴訟を提起しているわけでもないから、かかる譲渡が有効となるとはいえない。
イ 株主代表訴訟には、損害回復機能と違法抑止機能が存在するところ、商法には、特別清算手続中の会社について株主代表訴訟を提起し得ないとする規定はなく、また、債務超過を理由に株主代表訴訟の追行が認められないと解するときは、上記違法抑止機能は著しく阻害される結果となる。
したがって、本件においても、株主代表訴訟による責任追及が認められなければならない。
第3当裁判所の判断
1 会社の取締役に対する損害賠償請求権の譲渡
(1) 会社の取締役に対する損害賠償請求権(商法二六六条一項各号の請求権)について、法は、その譲渡を禁止しておらず、また、その譲渡に関する特別の手続を定めていないから、会社は、その有する債権として、原則としてこれを第三者に譲渡することが可能であると解される。他方、会社による取締役に対する損害賠償請求権の免除について、商法上厳格な規制(商法二六六条五項から一五項まで)が設けられていることを考慮すると、取締役に対する責任追及を回避する目的で取締役に対する損害賠償請求権の譲渡が行われた場合には、その譲渡は、法の趣旨を潜脱するものとして無効となると解すべきである。そして、株主代表訴訟が提起され、又はその提起が予定されている場合(商法二六七条一項に基づく提訴請求があった場合)において、会社が当該損害賠償請求権を譲渡した場合には、特段の事情のない限り、その譲渡は取締役に対する責任追及を回避する目的でされたものと推認されるというべきである。
(2) これを本件についてみると、前記前提となる事実(4)ウによれば、補助参加人は、平成一六年四月一三日、本件売却契約により、被告に対する損害賠償請求権を含む債権をワイズに一括譲渡し、被告に対してその旨の譲渡の通知も行ったのであるから、本件は、株主代表訴訟が提起された後に会社が被告に対する損害賠償請求権を譲渡した事案であり、特段の事情のない限り、その譲渡は取締役に対する責任追及を回避する目的でされたものと一応推認することができる。
しかしながら、前記前提となる事実及び弁論の全趣旨によれば、①本件売却契約の決定、締結を行った清算人は、従来補助参加人の取締役であった者ではなく、補助参加人の解散に当たって選任された弁護士であり、被告を含む補助参加人の元取締役の利益を図るべき利害関係があるとはいえないこと、②補助参加人は、特別清算手続における資産の売却・換価が行われ、協定に基づき総債権者に対する弁済がされた場合には、特別清算手続の終結に伴い消滅することが予定されているところ、清算人は補助参加人の資産のうち早期に換価することが困難なものを一括して売却の対象としたものであり、本件売却契約を含む一括売却は特別清算手続の早期終結を目的とするものであったということができること、③清算人は、売却先を債権者の協力を得ながら決定し、売却価格についても他の債権を含めて一括して四一〇三万一〇〇〇円と決定したものであって、その価格は不当に低廉であるということはできないこと、④清算人は、本件売却契約の締結について、清算人の業務を監督すべき権限を有する監査委員の同意(商法四四五条)に加えて、総債権者の九〇パーセント以上の同意を得ており、適正な手続を履践していること、⑤本件売却契約により被告に対する損害賠償請求権の譲渡を受けたワイズは、被告を含む補助参加人の元取締役に対する損害賠償請求権の履行を求めて本件訴訟における和解に利害関係人として参加したところ、被告を除く補助参加人の元取締役らがその責任を認めて補助参加人に賠償金を支払い、その一部が補助参加人からワイズに交付されることを内容とする和解が成立しており、ワイズによる補助参加人の元取締役に対する責任追及も一応行われたと評価することができることの各事実が認められ、これらの事実を総合すると、本件においては、被告に対する損害賠償請求権の譲渡が取締役らに対する責任追及を回避する目的でされたという推認を覆す特段の事情が認められるというべきである。
以上の認定判断に反する原告の主張は、採用することができない。
2 結論
以上によれば、争点2に関する被告の主張には理由があり、原告の請求はその余について判断するまでもなく棄却を免れないから、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鹿子木康 裁判官 山口和宏)