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東京地方裁判所 平成15年(ワ)15691号 判決 2004年10月29日

原告

上記訴訟代理人弁護士

大野幹憲

被告

オリエント信販株式会社

上記代表者代表取締役

上記訴訟代理人弁護士

宮川勝之

清水豊

主文

1  被告は,原告に対し,300万円及びこれに対する平成14年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

主文同旨

第2事案の概要

本件は,原告が被告に対して,入社時に条件付で支給することが約された金員について,条件が成就したとして,その支払を請求した事案である。

1  争いのない事実等(証拠等で認定した事実は文末に当該証拠等を掲記した)

(1)  原告は,平成13年4月17日,被告との間で,次の事項を含む覚書(以下「本件覚書」という)を交わして,被告に入社した。

ア 役職 システム部長

イ 勤務場所 被告本社所在地

ウ 勤務開始日 同年6月1日

エ 報酬 年俸1200万円

オ 「ボーナス 新基幹システム立ち上げ時に300万円。それ以降は会社規定の賞与に準ずる。」

(2)  原告は,平成14年9月30日,株式会社a関西システムズ(以下「a関西」という)に対し,被告代表者の記名押印を得た「基幹系システム開発(結合~運用・評価)」及び「次期基幹システム開発作業(追加案件とJACINⅡ接続)」に係る検収通知書を交付した(<証拠略>,原告)。

2  争点

(1)  本件覚書の「新基幹システム」とは,被告が導入しようとしていた新システムのうち,基幹系のみを意味するのか,それとも基幹系,情報系及びコールセンターの新システム全体を意味するのか。

【原告の主張】

ア 本件覚書の「新基幹システム」とは,平成13年当時,被告が導入しようとしていた新システムのうち基幹系のみを意味し,情報系,コールセンターは含まれない。

イ 被告における新システム導入の内容としては,従前使用されていた株式会社b(以下「b社」という)のシステムに代えて,<1>融資の受付・審査・貸付・入金受付・回収といった情報を一元管理するものとして基幹系を導入した上,<2>従前のシステムには全く無い機能である情報系(顧客又はその取引情報を蓄積し,分析活用するもの),コールセンターの機能を付加することが検討されており,その計画上,基幹系,情報系,コールセンターの用語は,明確に区分されて用いられていた。

ウ 本件覚書作成時,基幹系については,既にシステム要件定義作業がa株式会社(以下「a本社」という)を中心として行われ,開発計画の詳細は確定されていた。なお,a関西は,a本社の下請企業として参画しており,後に「基幹系システム開発(結合~運用・評価)」の開発業者に選定された。

エ 他方,情報系,コールセンターについては,本件覚書作成時において,開発業者も決定しておらず,取締役会の承認も未了で,同年7月に至って開発計画の詳細が確定したにすぎず,その後,開発業者としてc株式会社(以下「c社」という)及びd株式会社(以下「d社」という)が選定された。

オ このように,基幹系,情報系,コールセンターの概念は,明確に区分されていたこと,本件覚書作成時において,開発計画の詳細が確定していたのは基幹系だけで,情報系,コールセンターの開発計画は未定であったこと,賃金支給に条件が付された場合,その内容は当事者にとって明確な内容であることを要することからすると,本件覚書において,ボーナス支給の条件とされたのが,基幹系のみの立ち上げであったことは明らかである。

【被告の主張】

ア 本件覚書の「基幹システム」とは,平成13年当時,被告が導入しようとしていた新システム全体を意味する。

イ 被告においては,従前,各支店にコンピュータが1台しかなく,そこでの登録データも貸付金に関する情報のみに限られ,顧客の管理は顧客台帳によっており,本部で随時把握できるのは,全体での貸付残高などごく一部の重要な数字の合計額に限られ,その明細等については,支店毎の集計を再度集計する作業を行っていた。

ウ そこで,基幹系では,顧客への貸付け等の情報について,本部にデータベースを作成して一元管理できるようにし,情報系では,従前,手作業で行われていた業務集計について,一元管理された顧客情報に基づき業績を集計,分析できるようにし,コールセンターでは,従前,各支店の営業担当者が手作業で行っていた顧客との電話対応について,データベースとの連動と自動接続ができるようにするもので,これらは不可分一体のシステムである上,情報系システム,コールセンターこそが新システム導入の目玉であった。

エ このように被告では一気に新システム全体を導入する計画であり,基幹系システムのみの立ち上げなどというものは全く観念できない。

オ そして,新システムの開発には,a関西だけでなく,a本社その他複数の開発業者が関与することとなっており,被告は,各開発業者を統率させ,新システム全体を立ち上げるために原告を雇用して,a関西を含めた複数の開発業者と間(ママ)で,基幹系,情報系,コールセンターの開発契約を順次締結していったもので,原告は,そのいずれの開発契約においても開発部長として位置付けられていた。

カ なお,被告の取締役会で,基幹系の開発について正式な承認がされたのは,同年5月23日,また,被告がa関西との間で「基幹系システム開発(結合~運用・評価)」について契約を締結したのも,同年6月4日であって,いずれも本件覚書作成後のことであり,本件覚書作成時に基幹系の開発内容が確定していたものではない。

(2)  本件覚書の「基幹システム」は,平成14年9月30日に立ち上がったか。

【原告の主張】

ア 基幹系は,同月17日付けで稼働し,一部顧客データの確認業務を除き,b社のシステムは,稼働を停止した。

イ 基幹系は,稼働初期に障害が発生したものの,同月末までに大きな障害は解決し,被告は,a関西に検収を通知し,その他これに付随する作業も,同月末までに完了した。

ウ よって,基幹系は,同月30日に立ち上がったもので,本件覚書のボーナス支給の条件は成就した。

エ 被告が主張する障害とは,情報系,コールセンターに関するもの,基幹系に関するものであっても瑕疵担保により対応されるべきもの,本件覚書作成後基幹系に付加された機能に関するもの,基幹系立ち上げ後の変更によるものであり,条件成就の妨げとなるものではない。

【被告の主張】

ア 本件覚書上の「立ち上げ」とは,実際にシステムを実働できるようになった状態を意味するものであるところ,基幹系を含めた新システムは,平成14年9月25日に立ち上がる予定であったが,実際にはシステムダウンを起こして全く機能せず,その後も大きな障害が続けて発生し,一応実働できるようになったのは,平成15年3月末日のことである。

イ この点,被告による検収は,開発業者の責任を免除するものにすぎない上,a関西への検収は,多数の重要な欠陥のため,被告において撤回されている。

第3争点に対する判断

1  認定事実

前記争いのない事実等,証拠(<証拠・人証省略>)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1)  被告は,平成12年6月当時,ユニマット・グループの傘下にあったが,同月14日,外資系のユニゾン・キャピタルに買収された。ユニゾン・キャピタルは,ファンドを組みマネジメント・バイ・アウト(親会社から子会社や事業部門の経営権を買い取るもの)を行う投資会社であり,被告の経営を改善した上これを売却して利益を得ることが,被告買収の目的であった。

(2)  しかし,ユニゾン・キャピタルが被告を買収した当時,被告の業務態勢には次のような問題点があった。

ア 被告には,コンピュータシステムとしてb社が開発した消費者金融向け汎用システムがあったが,それは,14の各支店に端末コンピュータが1台しかなく,そこでの登録データも貸付金に関する情報のみに限られ,顧客の管理は顧客台帳によっていた。

イ また,被告の本部で随時把握できたのは,全体での貸付残高といったごく一部の重要な数字の合計額に限られ,その明細等については,支店で集計を行ったものを再度集計しなければならなかった。

ウ そのため,営業・管理担当者の作業効率向上に限界があり,過去のデータを分析して将来に役立てることが困難で,効率的で安定した資金調達に必要なタイムリーな営業データを把握することができなかった。

(3)  そこで,被告は,その付加価値を高めるため,b社のシステムに代えて,次のような機能を備えた新システムを導入することとした。

ア 基幹系

顧客の取引内容を始めとした各種情報について,本部にデータベースを作成して一元管理できるようにするとともに,各支店の端末を増設し,コンピュータ端末による管理に改める。

イ 情報系

一元管理されたデータに基づき業績を集計するとともに,各種の情報分析ができるようにする。

ウ コールセンター

顧客との電話対応について,データベースとの連動と自動接続ができるようにする。

(4)ア  被告は,同年11月22日,新システムの開発業者を選定するに当たり,a本社,e株式会社,c社の3社に対し,新システムについて,<1>システム構成,<2>システム運用,<3>スコアリング,<4>本部情報系,<5>顧客サービス情報系,<6>基幹系,<7>コールセンター,<8>債権管理,<9>プロジェクト,<10>保守,<11>費用といった項目毎に提案を求め,平成13年1月12日時点における回答に基づいて,業者の選定を検討したところ,同月16日ころ,1社のみに発注する場合(シングルベンダー)には,a本社が最も適当であり,複数の業者の組合せで発注する場合(マルチベンダー)には,基幹系はa本社,その他はc社という組合せが最良との結論に至った。なお,当時,被告では,新システムの開発期間を1年と考えていた。

イ  前記回答において,a本社とc社は,開発費用(買取りの場合)として,次<右段上表-編注>のとおり提案していた。

ウ  他方,これに対する被告の予算は,基幹系が6億円,情報系,コールセンターが12億円であった。

エ  被告は,基幹系の開発について,シングルベンダー,マルチベンダーのいずれであってもa本社(関連会社を含む)に発注することに変わりはなかったので,同年2月下旬ころから,同社との間で,開発の具体的検討を開始した。

オ  他方,被告は,情報系,コールセンターについては,c社が提示済みの開発費用について増額となる可能性を留保していたことから,c社だけでなく,a本社との間でも,価額及び内容面について,交渉を継続することとした。

<省略>

(5)ア  原告は,システムエンジニアとして,c社その他数社のコンピュータ関連会社の勤務を経て,平成9年ころからf株式会社(以下「f社」という)に勤務し,年収として1200万円を得ていたところ,キャリアアップを図るため登録していたヘッドハンティング会社から,平成13年2月下旬ころ,被告がシステム部長を募集しているとの話を受けた。

イ  そこで,原告は,ユニゾン・キャピタルに赴き,c社出身でコンピュータシステムについて被告の顧問をしていたBから,新システム導入計画の概要について説明を受けた。

ウ  その後,原告は,同年3月上旬に被告の経営企画部長兼システム部長のCと,同月中旬ころ,被告代表者とそれぞれ面談し,同月下旬ころ,Bらから,被告のシステム部長として採用することに内定した旨告げられた。

(6)  被告では,ユニゾン・キャピタルの主導で,同年4月13日,管理職を集めて「2001年度事業計画徹底会議」(以下「京都会議」という)が開催され,新システムの導入が打ち出された。そこで配付された資料には,平成14年1月までに「情報分析システム・基幹システム導入」,同年6月までに「コールセンター設備導入」と記載されていた。

(7)ア  原告は,平成13年4月17日,被告との間で,本件覚書を作成し,f社に勤務しながら,週1回半日,被告でのミーティングに参加するようになった。なお,本件覚書の文面を作成したのはBであった。

イ  原告は,同月26日,情報系,コールセンターの開発業者の候補として挙がっていたa本社を訪問した。

(8)  被告の取締役会は,同年5月23日,基幹系の開発をa本社(関連会社を含む)に発注することを承認し,同年6月4日,a関西との間で「基幹系システム開発(結合~運用・評価)」について,注文代金を1億2355万2000円(税抜き)として開発契約を締結した。その他,基幹系については,a本社がハードウェア機器の提供を,株式会社aビジネスシステムが機器の各支店への配付及び設置作業を,g株式会社が運用を受注した。

(9)ア  原告は,同年7月1日から被告での勤務を開始した。

イ  原告が入社した当時,新システムは,基幹系,情報系,コールセンターを同時に稼働させる予定となっており,原告は,基幹系の開発に従事するとともに,情報系,コールセンターについて,当時,Bによって開発業者に選定済みであったc社との間で,システム要件定義作業に従事するようになった。

ウ  そして,被告は,同年8月,c社の子会社であるd社との間で,情報系,コールセンターに係る開発契約を締結した。

(10)ア  ところで,信販会社等が利用する外部からの顧客の信用情報としては,「JACINⅡ」(全国信用情報センター連合会傘下の33箇所の情報センターが提供するもの)やCCBがあるが,被告がa関西に発注した「基幹系システム」の内容には,これらに関する機能が含まれていなかった。そこで,原告の判断により,被告は,同月1日,a関西に対して,当時使用していた「JACINⅡ」への接続機能及び当時は使用されていなかったCCBに関する機能その他の機能「次期基幹システム開発作業(追加案件とJACINⅡ接続)」について,基幹系の開発の追加発注を注文代金3579万5000円(税抜き)で行った。

なお,CCBとの情報の交換は,リアルタイムで行われるものでなく,テープ等の磁気媒体を通じて月単位で行われるものであった。

イ  これと並行して,原告は,稼働中のb社のシステムについても,CCBに関する機能を付加することを提案し,被告は,b社にその旨の開発を行わせ,同年10月ころ,同機能の開発が完了した。

(11)ア  被告と開発業者は,平成14年9月17日午前8時30分ころから,基幹系,情報系,コールセンターを一斉に稼働させたところ,同日午前9時ころ,コールセンターの障害によりシステム全体が停止してしまった。

イ  被告と開発業者は,コールセンターを中心に補修を行い,約1週間後,ある程度安定した稼働を確保することができた。

ウ  その後,原告は,被告代表者の承認を得て,同月30日付けで,「基幹系システム開発(結合~運用・評価)」,「次期基幹システム開発作業(追加案件とJACINⅡ接続)」について,a関西に対し検収を通知し,被告は,a関西に対して,約定(検収完了後末日締切翌々月末日現金振込)に従い注文代金を支払った。

エ  なお,b社のシステムは,同年9月17日に稼働を停止し,その後再稼働されることはなかった。

(12)ア  a関西は,CCBへの報告機能について,被告側からの指示に基づいて,同月末までに基幹系のシステムとして作成した。

イ  a関西が,同年10月5日,同システムを用いてCCBへの報告データを作成し,1回目の報告を実施したところ,1支店での借入れについて,他の支店でも借入れがあり,顧客の借入総額が2倍あるかのような報告をしてしまう現象が発生した。

ウ  被告は,同月6日,a関西に対して,CCBへの報告データについて,全件洗い替えをするよう指示し,a関西は,そのためのソフトを作成して,同月28日,約26万件のデータについて,洗い替えを行い,検証を実施した。

エ  a関西は,同年11月5日,CCBへの2回目の報告を実施したところ,同月26日,CCBから,短期延滞顧客について,長期延滞解消という報告もしてしまう現象が発生しているとの報告を受け,同月27日,プログラムの欠陥を修正し,同月28日,修正されたデータをCCBに報告した。

オ  a関西は,以上の経緯について,同月28日,被告に報告書を提出した。

カ  前記アの障害の原因は,被告側からa関西に対して,CCBへの報告データにおける店舗コードを9桁とするよう指示があったところ,従前のb社のシステムでは,店舗コードが8桁で報告データが作成されていたことにあった。

(13)ア  同年9月17日以降,基幹系の障害として報告された件数は,次のとおりであった。

(ア) 同月 73件

なお,同月27日(金曜日)に発生した障害は7件,同月30日(月曜日)のそれは1件であり,同月中に報告された「JACINⅡ」に係る障害は3件であった。

(イ) 同年10月 42件

なお,同月15日以降に発生した障害は,12件であった。

(ウ) 同年11月 5件

(エ) 同年12月 10件

(オ) 平成15年1月 7件

(カ) 同年2月 19件

(キ) 同年3月 18件

(ク) 同年4月 13件

(ケ) 同年5月 15件

(コ) 同年6月 3件

(サ) 同年7月,9月 各1件

イ  被告は,平成14年12月下旬ころ,情報系,コールセンターの開発について,d社に対して,検収を通知し,平成15年3月までに注文代金を支払った。

ウ  この間,被告は,同年に入ってから,14支店で行われていた債権管理業務を5支店で統合して行うこととし,基幹系についてのシステム変更をa関西に依頼した。

(14)ア  原告は,平成14年10月15日以降,親の看病のため,年次有給休暇及び代休を取得したり,欠勤するようになり,週に2,3日しか出勤せず,同年12月末日に被告を退職した。

イ  原告は,退職に先立って,被告代表者に本件覚書のボーナスの支給を依頼したところ,被告代表者は,「来年4月に再度決めさせてくれ」と回答した。

以上のとおり認められ,前掲各証拠のうち,前記認定に反する部分は採用できない。

2  争点(1)について

(1)  争点(1)について,原告は,本件覚書の「新基幹システム」とは,被告が導入しようとしていた新システムのうち基幹系のみを意味すると供述し,被告代表者は,基幹系のみならず,情報系,コールセンターが含まれると供述する。

(2)ア  この点,前記認定によれば,マルチベンダーが検討されていることからも明らかなとおり,被告においては,新システムについて,基幹系,情報系,コールセンターという可分な各機能から構成されると考えられており,その開発時期も,基幹系が情報系,コールセンターよりも約2か月先行し,本件覚書が作成された平成13年4月17日の時点では,基幹系については,開発業者がa本社(関連会社を含む)に選定済みであったのに対し,情報系,コールセンターについては,開発業者の選定は検討中であった。

イ  また,前記認定のとおり,新たに導入される基幹系は,従前,台帳によっていた顧客管理を本部のデータベースによる管理に移行させ,各支店の端末を増設し,端末による管理に移行させるというもので,新規のシステムを零から導入するに等しい内容であり,予算額も6億円という多額に上るものである。

ウ  さらに,本件覚書のボーナス支給の条件は,「新システム立ち上げ」でなく,「新基幹システム立ち上げ」とされ,敢えて「基幹」という文言が加えられているところ,前記認定のとおり,この文面はc社出身でコンピュータシステムに詳しいBが考えたものである上,本件覚書作成の直前に作成された京都会議の文書においても,基幹系の導入を意味するものとして「基幹システム導入」という表記が用いられ,また,基幹系に関するa関西との契約の件名にも「次期基幹システム」との表記が用いられている。

エ  以上からすると,本件覚書の「新基幹システム」との文言は,本件覚書作成時において,開発業者が選定済みであり,内容・費用ともに相当程度の割合を占める基幹系に限定する趣旨で記載されたと解するのが相当であり,この点に関する原告供述は信用できるというべきであって,このことは,被告における新システム導入の最終的な目標が情報系,コールセンターにあったことによって左右されるものではない。

オ  よって,争点(1)についての原告の主張は理由がある。

3  争点(2)について

(1)ア  本件覚書におけるボーナス支給の条件は,新基幹システムの「立ち上げ」とされているところ,「立ち上げ」とは,その語意からして,何ら障害なく稼働する状態を意味するものとは解されず,当該システムに依拠して通常業務を行うことが可能になった状態を意味すると解するのが相当である。

イ  前記争いのない事実等,認定事実によれば,基幹系の開発については,平成14年9月25日ころには,情報系,コールセンターを含めて一応安定した稼働を確保することができたもので,b社のシステムが再稼働されることはなく,同月30日付けで,被告代表者の承認の下,「基幹系システム開発(結合~運用・評価)」,「次期基幹システム開発作業(追加案件とJACINⅡ接続)」について,a関西に対する検収が通知されているのであるから,同日をもって,本件覚書にいう「立ち上げ」に至ったとするのが相当である(なお,基幹系に関するその他の機器等の納入も,同月17日に新システムを一斉に稼働させていることからすると,同日までには作業が完了したと認めるのが相当である)。

(2)ア  これに対し,被告は,a関西への検収通知は,多数の重要な欠陥のため,被告において撤回されているとするが,これを認めるに足る的確な証拠はない(かかる重要な行為であるにもかかわらず,何ら書証は提出されておらず,むしろ,認定事実のとおり,a関西に対する注文代金の支払は,約定どおりに行われている)。

イ  また,被告は,基幹系を含めた新システムは,同月25日に立ち上がる予定であったが,実際にはシステムダウンを起こして全く機能せず,その後も大きな障害が続けて発生し,一応実働できるようになったのは,平成15年3月末日のことであると主張する。

しかし,認定事実のとおり,平成14年9月17日のシステムダウンの原因は,コールセンターにあったもので,基幹系については,同月27日に7件の障害があったものの,同月30日には1件しか障害は発生しておらず,収束する傾向にあり,現にその後も,同年10月前半の障害が30件,後半の障害が12件,同年11月ないし平成15年1月の障害が月当たり10件以下となっている。したがって,障害の件数から見て,平成14年9月30日に検収通知がされたにもかかわらず,基幹系に大きな障害があったということはできない(なお,原告は,同年10月15日以降,勤務しなかった日が多く見受けられるが,これは「立ち上げ」後のことであって,ボーナス支給の条件成就に影響するものではない。また,平成15年2月以降に発生した月当たり10件以上の障害の原因は,同年に入ってから行われた債権管理業務統合によるものと認めるのが相当であり,原告の職責とは無関係というべきである)。

ウ  ところで,認定事実によれば,確かにCCBの報告機能については,2件の障害が発生し,外部に影響を与えている。しかし,認定事実によれば,CCBへの報告は月1回行われるものにすぎず,平成14年10月5日の1回目の報告,同年11月5日の2回目の報告を行って初めて各障害が発見されたものであって,同年9月中に障害が(ママ)3件が見つかっている「JACINⅡ」とは使用頻度も重要性も異なると解されるか(ママ)らすると,CCBに係る障害の存在については,別途信義則,権利濫用等に基づく減額の問題等を生じさせる余地があるとしても(この点についての被告の主張はない),前記(1)アの意味での「立ち上げ」に至らなかったとして,ボーナスが全く支給されないとするのは相当でない。

エ  むしろ,認定事実のとおり,被告は,a関西に対して,注文代金を約定どおり支払っている上,被告代表者は,同年12月に原告からボーナスの支給を求められたのに対して,「来年4月に再度決めさせてくれ」と回答しただけで明確に支払を拒絶していないことからすると,被告代表者としても,原告にボーナスを支給する必要があるとの認識があったことがうかがわれるというべきであり,条件が成就していないとの被告の主張は採用できない。

(3)  よって,争点(2)についての原告の主張は理由がある。

4  以上によれば,原告の本訴請求は理由がある。

(裁判官 增永謙一郎)

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