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東京地方裁判所 平成15年(ワ)18170号 判決 2004年6月25日

原告

被告

ユニコン・エンジニアリング株式会社

上記代表者代表取締役

B

上記訴訟代理人弁護士

鈴木謙

主文

一  被告は、原告に対し、金五二八万一五七二円及び内金一五三万六〇七二円に対する平成一五年五月三一日から、内金二三六〇円に対する平成一五年六月二六日から、内金三七四万三一四〇円に対する平成一五年七月一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金一二二七万四六一二円及び内金三七五万〇〇五六円に対する平成一五年五月三一日から、内金四七七万四五〇〇円に対する平成一五年六月三〇日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告の従業員であった原告が、所定時間外労働(法内残業)、時間外労働、深夜労働、休日労働を行ったとして、割増賃金等三七五万〇〇五六円(法内残業分一二七万五四一一円、時間外分一二二万一五七八円、深夜分九万〇二二二円、休日分一一六万二八四五円)及びこれに対する附加金三七五万〇〇五六円並びに未払退職金四七七万四五〇〇円の各支払等を求めた事案である。

1  争いのない事実等(証拠等で認定した事実は文末に当該証拠等を掲記した)

(1)  被告は、昭和五八年六月二九日の設立以来、防衛施設局発注の土木及び建築の調査検討(設計)及び設計監理を主たる業とする株式会社であり、平成一三年からは、在日米軍工兵隊発注の米軍施設の基本設計業務も行っていた。

(2)  原告は、昭和五九年九月二五日、被告に入社し、以後防衛施設周辺の民間住宅に係る防音改造工事の設計・監理業務(以下「防音関係業務」という)を担当し、平成一三年九月下旬ころから米軍施設の基本設計業務(以下「基本設計業務」という)を担当していたが、平成一五年五月三一日付けで、被告から解雇された(人証略、弁論の全趣旨)。

(3)  被告の就業規則では、次のとおり定められている(書証略)。

ア 一五条(就業時間)

就業時間は、次のとおりとする。

始業時刻 九時

終業時刻 一七時

休憩時間 一二時から一三時まで一時間

イ 一六条(休日)

(ア) 土曜日、日曜日

(イ) 国民の祝日

(ウ) 年末年始(一二月二九日から一月三日まで)

(エ) 夏季休暇三日間

ウ 一七条(時間外勤務)

(ア) 業務の都合その他やむを得ない自由のあるときは、一五条の規定にかかわらず、同条に定める就業時間外に勤務させることがある(一項)。

(イ) 前項の時間外勤務は、(中略)別に定める給与規則により割増賃金を支払うものとする(二項)。

エ 一八条(休日勤務)

(ア) 業務の都合上その他やむを得ない事由のあるときは、一六条に定める休日に勤務させることがある(一項)。

(イ) 前項の規定により休日勤務を命じたときは、一週間以内に代休を与える(二項)。

(ウ) 前項の規定により代休を与えることができなかった場合には、別に定める給与規則により割増賃金を支払う(三項)。

オ 四〇条(給与)

従業員の給与は、別に定める給与規則により支給する。

カ 四一条(退職金)

従業員の退職金は、別に定める退職金支給規則により支給する。

(4)  被告の給与規則では、次のとおり定められている(書証略)。

ア 四条(給与の支給日及び支給方法)

(ア) 給与は、毎月二〇日に至るまでの一か月(給与期間)をもって計算し、二五日に支給する(一項)。

(イ) 前項の支給日に支給する給与は、当給与期間分の基本給、役職手当、技能手当、住宅手当、通勤手当及び現場手当並びに前給与期間の超過勤務手当及び休日勤務手当とする(二項)。

イ 一一条(役職手当)一項

役職手当は、次の各号に掲げる者に対して、当該各号に定める額を支給する。

(ア) 部長 月額六万円

(イ) 課長 月額五万円

(ウ) 主任 月額二万円

(エ) 主任補 月額一万五〇〇〇円

ウ 一五条(超過勤務手当)

(ア) 超過勤務手当は、正規の勤務時間を超えて勤務することを命ぜられた者(一一条に定める役職手当を受ける課長以上の者を除く)に対して支給する(一項)。

(イ) 超過勤務手当の額は、一時間につき二三条に定める勤務一時間当たりの給与額の一〇〇分の一二五を支給する。ただし、午後一〇時から翌日の午前五時の間における超過勤務については、一〇〇分の一五〇を支給する。(二項)。

(ウ) 超過勤務を命ずる場合には、超過勤務命令簿を作成し、保管するものとする(三項)。

エ 一六条(休日出勤手当)

就業規則一四条三項による割増賃金を支払う場合は、二二条による一日当たりの給与額又は二三条による一時間当たりの給与額の一〇〇分の一三五を支給する。

オ 二二条(勤務一日当たりの給与額)

勤務一日当たりの給与額は、本俸月額を二一日で除して得た額とする。ただし、月の初日から二〇日までの間の本俸の額は、本俸月額の三分の二とみなすことができる。

カ 二三条(勤務一時間当たりの給与額)

勤務一時間当たりの給与額は、前条の規定による勤務一日当たりの給与額を八で除して得た額とする。

(5)  被告の退職金支給規則では、次のとおり定められている(書証略)。

ア 二条(退職金の受給者)一項

退職金は、従業員が退職し又は解雇されたときはその者に、死亡したときはその遺族に支給する。

イ 三条(退職金の支給制限)

退職金は、従業員が次の各号の一に該当する場合には、これを支給しない。

勤務一年未満で退職したとき

(後略)

ウ 四条(退職金の額)

退職金の額は、従業員が退職し、又は解雇された日における本俸及び役職手当の月額の合計額に、その者の勤務年数を月数に換算して次の各号に定める勤務月数別の割合を乗じ得られた額の合計額とする。

(ア) 一年以上五年未満の月数 一〇〇分の五

(イ) 五年以上一五年未満の月数 一〇〇分の六

(ウ) 一五年以上二五年未満の月数 一〇〇分の七

(エ) 二五年以上三五年未満の月数 一〇〇分の六

(オ) 三五年以上 一〇〇分の五

エ 五条(勤続期間の計算)

(ア) 退職金の算定の基礎となるべき勤続期間の計算は、採用された日の属する月から、退職又は解雇された日の属する月までの月数による(一項)。

(イ) 勤続期間のうち、欠勤又は休職(業務上の傷病による場合を除く)により勤務に就かなかった期間があるときは、当該期間を前項の規定により計算して得た勤続期間から除算する。なお、除算期間の計算において日を月に換算するに当たっては、二一日をもって一月とする。(二項)。

オ 六条(退職金の支給)二項

退職金は、原則として支給事由の発生した日から一か月以内に支給する。

(6)  原告の平成一三年六月一日から平成一五年五月三一日までの間(以下「本件期間」という)の月ごとの賃金は次のとおりであった(書証略、弁論の全趣旨)。

ア 本俸 二九万七〇〇〇円

イ 役職手当 五万五〇〇〇円

ウ 職能手当 五万円

エ 住宅手当 一万円

オ 家族手当 一万九〇〇〇円

カ 通勤手当 五万二二八〇円

2  争点

(1)  原告の被告における法内残業、時間外労働、深夜労働の各時間

【原告の主張】

ア 原告は、本件期間中、次のとおり、法内残業、時間外労働、深夜労働を行った。

(ア) 法内残業(午後五時から午後六時まで)合計四六六・五時間

(イ) 時間外労働(午後六時から午後一〇時まで) 合計三五七・五時間

(ウ) 深夜労働(午後一〇時以降) 合計二二時間

イ 被告には原告の労働時間を管理する義務があり、被告が原告から提出された「出勤簿兼時間外勤務及び実施業務管理表」(以下「本件管理表」という)による自己申告を承認していた以上、原告の申告どおりの法内残業、時間外労働、深夜労働があったというべきである。

ウ なお、給与規則二三条で、勤務一時間当たりの給与額は、勤務一日当たりの給与額を八で除して得た額としていることからすると、被告においては、終業時刻の午後五時以降午後六時までの一時間も労働時間としていたものであり、当該一時間は休憩時間でない。

【被告の主張】

ア 被告における原告の労働時間の管理は、自己申告制だけで行われており、上司による管理はされておらず、原告主張に係る勤務があったとは認められない。

イ また、被告においては、午後五時から午後六時までの間は、休憩時間となっており、原告もかかる時間帯は、業務に従事していなかった。

ウ そして、原告主張に係る勤務が被告の業務命令によって行われたことは全くなく、本人の自発的活動であったもので、時間中いつでも労働から離れて自由な行動を取ることもできたのであるから、労働拘束性は極めて低く、また、緊要性を有するものであったかどうか甚だ疑わしい。

(2)  原告の被告における休日労働時間

【原告の主張】

原告は、退職した平成一五年三月三一日の時点で、三八日分の休日労働について、代休による消化がされていなかった。また、原告は、同日の時点で四〇日分の年次有給休暇(以下「年休」という)が未消化であったところ、これについて、被告が、退職日までに年休を消化できたはずであるとして、年休の買取りを拒否したことからすると、原告は、同日以前に休日労働の代休とした七日分について、年休とみなすことが可能であり、前記の三八日に七日を加えた四五日について、休日労働を行ったというべきである。

【被告の主張】

争う。

(3)  原告は、労働基準法(以下「労基法」という)四一条二号の「監督若しくは管理の地位にある者」(以下「管理・監督者」という)か。

【被告の主張】

次のとおり、原告は、管理・監督者(経営方針の決定に参画しあるいは労務管理上の指揮権限を有する者等その実態からみて経営者と一体的地位にあり、かつ、出勤・退勤等について、厳格な規制を受けず、自己の勤務時間について自由裁量を有する者)であった。

ア 原告は、入社以来、防音関係業務に従事してきたが、当該業務が被告全体の業務に占める割合は少なく、件数にして年間五件、受注額も年間一五〇〇万円ないし一八〇〇万円程度であった。そのため、被告は、採算的に防音関係業務に複数の従業員を従事させることはできず、最近一〇年間は、原告が専ら一人で防音関係業務を自己の責任においてこなしており、その反面、業務の進め方については、原告の自由裁量に委ねられていた。そして、防音関係業務は、その業務の性質上、週末に防音工事対象宅を訪問する必要があり、原告の出勤・退勤についても、全面的に自己管理による自由裁量が認められていた。

イ ところで、被告における建築関係業務は、原告が携わっていた防音関係業務のみであったところ、被告において、平成一一年九月、収益率の向上とコスト削減のため組織編成が見直され、建築関係部門として、技術第三部が設けられた。その際、唯一人、自己の責任のもと自由裁量が認められる形で建築関係業務に携わっていた原告が、技術第三部の部長となるべきであったが、将来的に建築関係業務を発展させるとの目的のため、被告は、一級建築士の資格のある者を外部から招聘する必要があり、有資格者のC(以下「C」という)を技術第三部の部長として迎え、原告の肩書は、副部長となった。しかし、原告の業務内容、勤務実態については、従前と何ら変わることがなく、実質的には部長であり、役職手当も支給されることとなった。

ウ その後、防音関係業務に係る制度が改められた結果、平成一三年三月三一日限り、被告において当該業務を受注することができなくなってしまった。そのため、被告においては、原告の処遇を検討せざるを得なくなったが、当時、被告において、基本設計業務の受注を新たに開拓するプロジェクトが企画されており、原告に当該業務を担当することを打診したところ、原告はこれを了承した。

エ 原告は、平成一三年九月ころから、技術第三部副部長という肩書のまま、基本設計業務に携わるようになったが、当該業務には、英語の読解力・会話力及び米国仕様の設計基準の理解習得が必要であり、原告を始め被告社内にかかる能力を有する者がいなかった。そこで、被告は、かかる特殊な分野について、当初は、外部委託により対応する方針を立て、原告は、広範な裁量の下、新規プロジェクトの予算立案・管理、委託先を介した対外交渉業務を遂行することとなり、原告には、出勤・退勤について自由裁量が認められ、業務として時間外・休日労働が命じられることはなく、その反面、役職手当の支給が継続された。

オ そして、基本設計業務が軌道に乗り始めた後である平成一四年四月ころからは、外国語に通じる部下や米軍施設に関する業務に精通した部下を抱えることができるようになり、原告は、部下の人事や考課に関与し、また、部下を自己の裁量において指導・育成するなど、基本設計業務を実質的に全て取り仕切る立場にあった。当時、基本設計業務は、被告の売上げの二割程度を占める重要な職務であり、社員二〇数名のうち原告のように一つの事業部門を任されていた経営者的かつ管理職的立場にある社員は、役員を除くと数名に留まっていた。

カ なお、原告が被告に提出した本件管理表には、「早出及び残業業務」欄があるものの、それは時間外労働時間を記載する欄でない上、原告においても何ら記載していない。そもそも、本件管理表は、受注案件ごとの原価等を管理するのに必要な人件費を把握するために作成されるものであって、原告が提出した本件管理表の一部にはCの押印があるものの、Cは、基本設計業務に全く関与しておらず、当該押印は、原告の求めに応じて、Cが形式上の上司としてしたものにすぎない。また、備品購入に際しての購入伺い書の提出は、経理の都合上、被告の各役員にも義務付けられており、原告からの申出が拒否されたことはない。さらに、被告は、原告から休日労働精算の提案を受け、これに応じると述べたことがあるが、交渉の過程での妥協案としてされたものにすぎない。

【原告の主張】

被告主張に係る事実は、原告が被告から業務遂行について委ねられた裁量的部分にすぎず、原告が経営者と一体であることを示すものではなく、原告に経営者と一体といえるような権限は与えられていない。

ア 原告は、被告の指揮命令下にあり、業務遂行上の問題点や進捗状況等を逐次報告し、経営的判断を仰いでいる。技術第三部長には、C以前にD取締役(以下「D」という)が就任していた。また、原告には、経費の支出について独自の判断が認められていなかった。さらに、原告に部下がいたのは、一時期にすぎず、部下の人事及び考課の裁量権もなく、基本設計業務が多忙であったのに、被告代表者の命により、部下を他の業務に割かれたりしていた。そして、米軍から被告に入金があった事実が原告に知らされなかったため、トラブルになったこともあった。

イ 原告の出勤・退勤は自由でなく、所定時間と異なった場合には、遅刻、早退、休暇の手続を取っている。

ウ 役職手当は、米軍施設の基本設計業務に携わる以前から支給されていたもので、職務上の責任に対する対価である。また、他の被告従業員の給与額との比較においても、原告が、管理・監督者として、給与面で厚遇を受けていたとはいえない。

エ 被告は、原告からの休日労働の精算請求に対し、これに応じる旨回答している。

オ なお、原告が防音関係業務、基本設計業務について一人で担当してきたのは、被告の採算が理由であり、原告が管理・監督者である根拠とはならない。また、原告は、平成一三年一月末から、防音関係業務の外、仙台防衛施設局発注の公務員宿舎の基本設計、東京防衛施設局発注の古河、小平駐屯地の既存建物撤去設計等に従事しており、原告の担当業務がなくなったわけではない。

(4)  原告の法内残業、時間外労働、深夜労働及び休日労働(以下「残業等」という)に係る賃金の計算方法

【原告の主張】

ア 以上によれば、原告は、被告に対し、残業等に係る賃金を請求できるところ、その計算方法は、次のとおりである。

(ア) 日給の計算方法(本俸月額二九万七〇〇〇円+役職手当月額五万五〇〇〇円+技能手当月額五万円)÷二一日≒一万九一四二円

(イ) 時間給の計算方法

被告の就業規則による所定労働時間は、一日七時間であるから、一時間当たりの賃金額は、二七三四円(≒一万九一四二円÷七時間)となる。

イ よって、原告が被告に請求することができる賃金額は、次のとおりとなる。

(ア) 法内残業(午後五時から午後六時まで)

二七三四円×四六六・五時間=一二七万五四一一円

(イ) 時間外労働(午後一〇時まで)

二七三四円×一・二五×三五七・五時間=一二二万一五七八円

(ウ) 深夜労働(午後一〇時以降)

二七三四円×一・五×二二時間=九万〇二二二円

(エ) 休日労働

一万九一四二円×一・三五×四五日=一一六万二八四五円

【被告の主張】

被告から原告に支払われるとされていた月額五万五〇〇〇円の役職手当は、残業等に対する対価であることが明確であり、その金額もほぼその対価に見合うものであるから、割増賃金算定の基礎から控除されるべきである。

(5)  被告は、原告に対し、残業等の対価として、役職手当を支払ったか。

【原告の主張】

被告は、原告に対して、残業等の対価として、月額五万五〇〇〇円の役職手当を支払った。

【被告の主張】

役職手当は、職務上の責任の度合いに対する対価であり、残業等の対価ではない。

(6)  附加金の申立ての当否

【原告の主張】

被告が、残業等の対価の未払について、原告の退職後二か月を経過しても、原告からの請求に対し何ら応答しないのは、余りに悪質であるから、同額の附加金三七五万〇〇五六円の支払を命ずるのが相当である。

【被告の主張】

争う。

(7)  原告の退職金の額

【原告の主張】

原告の退職金の計算方法は次のとおりであり、被告は同様の方法により計算された退職金を他の従業員に支払っている。

<1> 本俸+役職手当=三五万二〇〇〇円

<2> 在職一八年九か月=二二五か月

<3> 勤続年数掛け率=一〇〇分の七(一五年以上二〇年未満)

<4> 既払共済金=七六万九五〇〇円

<5> 退職金=四七七万四五〇〇円(<1>×<2>×<3>-<4>)

【被告の主張】

被告の退職金支給規則の各関連規定を総合的にみた場合、原告の退職金の計算方法は次のとおりとなる。なお、他の従業員については、被告の譲歩により和解が成立したもので、原告主張の計算方法を是認したものではない。

<1> 本俸+役職手当=三五万二〇〇〇円

<2> 在職一八年九か月=二二五か月

<3> 勤続年数掛け率=四八か月(一年以上五年未満)×一〇〇分の五+一二〇か月(五年以上一五年未満)×一〇〇分の六+四六か月(一五年以上二〇年未満)×一〇〇分の七

<4> 既払共済金=七六万九五〇〇円

<5> 退職金=三七四万三一四〇円(<1>×<3>-<4>)

第三争点に対する判断

1  争点(1)(法内残業、時間外労働、深夜労働)について

(1)  前記争いのない事実等、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件期間中、別表1(略)「早出又は残業時間(単位:時間)」欄記載のとおり、法内残業、時間外労働、深夜労働を行ったことが認められる。

(2)  ア なお、被告は、平日午後五時から六時の間は、休憩時間であると主張し、原告はこれを否定する。

この点、原告に係る本件管理表(書証略)には、勤務時間が午後五時又は午後五時三〇分までとされている日が散見されるところ(平成一三年七月一二日、同年八月二三日、同月二七日、同年一二月二一日)、かかる記載についてCの確認印が押印されており、被告がこれを保管・所持していることからすると、平日午後五時から六時の間も勤務していたとの原告供述は信用できるというべきであり、これに反する被告代表者の供述は採用できない。

しかし、原告は、午後八時ないし九時ころまで勤務していた場合には、食事をとることがあったと供述しており(書証略)、これによれば、午後八時以降午前零時まで勤務した日については、午後六時から午後八時までの間に三〇分の休憩をとっていたとするのが相当である。

イ また、平成一四年一一月一九日から二〇日、二〇日から二一日、二一日から二二日、平成一五年二月一八日から一九日にかけての各勤務は、深夜から早朝にかけて長時間連続したもので、少なくとも午後一〇時以降において、各三〇分の休憩をとったとするのが相当である。

ウ そして、平成一五年三月一三日午前零時から午前七時三〇分までの勤務は、前日から連続したものであるから、うち一時間は休憩をとり、時間数は、六・五時間とするのが相当であり、かつ、そのうち午前五時までの分については深夜労働となるが、原告は、これに係る五〇%の割増賃金は請求していないと解される。そうすると、同日の労働については、法内残業六時間分と時間外労働三〇分(前日の時間外労働の時間帯にとった三〇分の休憩分相当)に振り分けることとなる。なお、以上によると、同月一三日分としての労働時間は存しないこととなるが、被告から控除等の指摘はなく、特段の修正は行わない。

エ さらに、原告主張の基礎となる資料(書証略)では、始業時刻に遅刻したにもかかわらず、これを時間外労働の時間数に反映させていない日(平成一三年七月六日、平成一四年四月二五日、同年七月四日、平成一五年一月一一日、同年二月一一日)があるので、これを修正する必要がある。

オ 以上を反映させたものが、別表1(略)「早出又は残業時間(単位:時間)」欄記載の内容である。

(3)  以上に対し、被告は、原告の業務は、被告の業務命令に従ったものでなく、拘束性は極めて低いなどと主張する。

しかし、労働時間とは、労働者が使用者の指揮監督のもとにある時間だけでなく、使用者の明示又は黙示の指示によりその業務に従事する時間を含むというべきであるところ、被告の主張によっても、原告は、防音関係業務、基本設計業務の遂行について、広範な裁量を与えられているものの、それは、飽くまで、被告の従業員として業務を行うためのものであるから、原告がそれらの業務に従事している間は、少なくとも被告の黙示の指示により被告の業務に従事しているものであり、労働時間に該当するといわなければならない。よって、この点に関する被告の主張は採用できない。

2  争点(2)(休日労働)について

(1)  ア 原告は、まず、三八日分の休日労働に係る賃金を請求しているところ、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、それは、平成一四年九月二九日以降の休日労働三八日分のことであると認められる(原告の本件管理表のうち平成一五年五月二一日から同年六月二〇日までの分では、「平成一四年八月二九日」以降の休日労働が、原告退職日である平成一五年五月三一日以降の代休の理由とされており、「平成一四年八月二九日」以降の休日労働について、代休がとられていないと解されるところ、「平成一四年八月二九日」は「平成一四年九月二九日」の誤記と認められる)。

イ そして、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成一四年九月二九日以降の休日労働において、別表2(略)「休日労働」欄記載のとおり、休日労働を行ったことが認められる。

(2)  ア また、原告は、退職以前に休日労働の代休とした七日分について、年休とみなすことが可能であり、七日分の休日労働に係る賃金を請求できると主張する。

イ そして、原告の主張する七日分の休日労働とは、平成一四年九月二九日の直前の休日労働日から順次遡った七日分の休日労働を意味すると善解できるところであり、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、それらは、別表3(略)「休日労働」欄記載のとおりと認められる。

(3)  さらに、原告の請求には、上記四五日以外の休日労働で一日七時間を超える部分の勤務時間についての賃金請求が含まれているところ、証拠(書証略)及び弁論の全趣旨によれば、その内容は別表4(略)「休日労働」欄記載のとおりである。

(4)  なお、原告の休日労働が労働時間に当たるのは、前記1(3)のとおりである。

3  争点(3)(管理・監督者)について

(1)  前記争いのない事実、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

ア 原告は、入社以来、防音関係業務に従事してきたが、当該業務が被告全体の業務に占める割合は少なく、件数にして年間五件、受注額も年間一五〇〇万円ないし一八〇〇万円程度であった。そのため、被告は、採算的に防音関係業務に複数の従業員を従事させることはできず、また、被告においては防音関係業務以外に建築関係業務はなかったことから、最近一〇年間は、建築関係の専門である原告一人で専ら防音関係業務を担当していた。

イ そして、防音関係業務の具体的な遂行は、契約書作成を含めて原告に委ねられ、原告の労働時間(出勤・退勤時間、休暇等)について、上司による管理は行われず、しかも、防音関係業務は、その業務の性質上、週末に防音工事対象宅を訪問する必要があったことから、週末の業務については、原告の判断で遂行されていた。なお、原告には、役職手当として、課長手当が支給されていた。

ウ 被告は、平成一一年九月、収益率の向上とコスト削減のため組織編成を見直し、建築関係部門として、技術第三部を設けた。技術第三部は、将来的に建築関係業務を発展させる目的で設けられた部門であり、当初は、技術本部長であるDが技術第三部長を兼務し、原告は副部長に任じられた。その後、一級建築士の資格のあるCが外部から招聘され、技術第三部長に就任したが、D及びCは、防音関係業務に関与せず、防音関係業務は、従前と同様、原告一人が専ら担当し、原告の業務内容、勤務実態も、従前と何ら変わることがなく、役職手当は、副部長手当となって支給が継続された。

エ 平成一二年三月、防衛施設局が防音関係業務に係る制度を改めた結果、平成一三年三月三一日限り、被告において防音関係業務を受注することができなくなることとなった。そのため、被告は、原告に対して、一時、仙台防衛施設局発注の公務員宿舎の基本設計、東京防衛施設局発注の古河、小平駐屯地の既存建物撤去設計等を担当させることとし、平成一三年四月一日付けで、技術本部施工管理部副部長兼技術第三部建築設計課長に命ずる旨の辞令を出した。

オ そして、被告において、原告に担当させるべき恒常的な業務を検討した結果、当時企画されていた、基本設計業務を新規に受注し被告の業務として開拓するプロジェクトについて、受注した基本設計業務を担当することを原告に打診したところ、原告はこれを了承した。被告は、平成一三年六月、基本設計業務について、年間五〇万ドル程度の受注を受けることができる権利を取得し、同年九月、赤崎の基本設計(オイルプラント事務所)、立神の基本設計(下士官宿舎)の二件の基本設計業務を受注することができ、そのころから、原告一人が専ら基本設計業務に携わるようになった。

カ ところで、基本設計業務には、英語の読解力・会話力及び米国仕様の設計基準の理解習得が必要であり、原告を始め被告社内にかかる能力を有する者がいなかった。そこで、被告は、かかる特殊な分野について、当初は、建築、土木、電機及び機械の各分野における協力会社への外部委託により対応する方針を立て、原告には、米軍と協力会社間、各協力会社間の連絡・調整に係る業務を担当させ、そのための能力を養わせることとし、防音関係業務と同様、業務の具体的遂行を原告に委ねた。そして、原告が基本設計業務を担当するようになって以降も、原告の労働時間について、上司による管理は行われず、副部長手当の支給が継続された。

キ その後、被告は、更に佐世保の基本設計(倉庫)、岩国の設計監理(メンテナンス関係の複合施設)、赤崎の設計監理(メンテナンス関係の事務所)の三件の案件を受注することができたことから、同年六月、被告は、外国語に通じ、米軍施設に関する業務に精通した者として、E(以下「E」という)、F(以下「F」という)を雇用して、原告の部下として配置し、両名は原告の指揮監督に服することとなった。

ク 以上の基本設計業務に係る予算の立案及び管理のうち、当初受注した二件の案件(前記オ)については、被告代表者が担当しており、平成一四年四月下旬には、原告が、協力会社から、被告からの代金の支払時期を巡って、被告代表者の対応は信用できず、代金支払があるまで作業を中止する旨の電子メールを受領したことがあった。その後、被告代表者は、原告に対し、後に受注した三件の案件(前記キ)に係る予算の立案及び管理を委ねた。

ケ なお、本件管理表には、出勤時間及び退勤時間、午前実施業務及び午後実施業務(作業ごとのコード番号を含む)を記載する欄が設けられており、原告は、数日分をまとめて記入し、一か月分がまとまると、総務部に提出するに先立って、Cに押印を求め、Cは、「上司印」欄と「承認印」「部長」欄に押印していたが、Cが平成一四年二月二一日に解雇されて以降は、原告の本件管理表の「上司印」欄と「承認印」「部長」欄は空欄のままとなった。

コ 他方、原告は、E及びFの本件管理表の「上司印」欄に押印していたが、「承認印」「部長」欄には押印しなかった。

サ 原告が休日に出勤した場合、平日に代休をとることが認められていたが、休日労働と代休の対応関係の把握・管理は総務部が行っていた。そして、原告が、退職に当たって、被告に対し、代休を取得できなかった分の休日労働について、金銭での精算を申し出たところ、被告は、日数の間違いを指摘した上、これに応じる旨の回答をした。

(2)  ア 労基法四一条二号は、管理・監督者について、労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用を排除しているが、その趣旨は、管理・監督者と呼ばれる者は、事業経営の管理者的立場にある者又はこれと一体をなす者であり、労働時間等に関する規制を超えて活動しなければならない企業経営上の必要が認められることにあると解される。したがって、一般的には、労働条件その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者、これと同格以上に位置付けられる経営上の重要事項に関する企画立案等の業務を担当する者(スタッフ職)等が管理・監督者に当たり、その具体的認定に当たっては、資格及び職位の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務態様、賃金等の処遇面といった観点から検討するのが相当である。

イ この点、前記認定によれば、<1>本件期間において、原告担当職務の具体的遂行は、原告の判断に委ねられ、原告の労働時間について、上司による管理は行われず、休日労働も原告の判断で行われていたこと(本件管理表には、出勤時間及び退勤時間を記載する欄があるが、原告は数日分をまとめて記載し、Cも一か月分まとめて押印していたもので、むしろ、作業ごとのコード番号と併せて午前実施業務及び午後実施業務を記載する欄が設けられていたことからすると、本件管理表は、主として従業員の出勤状況と案件ごとの大まかな作業時間を把握し、受注案件ごとの原価等を管理するために作成されていたと理解される)、<2>平成一四年六月以降、原告の部下として二名が配属され、原告の指揮監督下に置かれたこと、<3>原告は、役職手当(副部長手当)として、月額五万五〇〇〇円の支給を受けていたことが認められる。

ウ しかし、<4>前記認定のとおり、原告が被告から委ねられていた担当職務は、防音関係業務、基本設計業務等であって、限定された範囲の業務といわざるを得ず、基本設計業務については、当初、予算の立案及び管理の権限は、被告代表者に留保されていた上、原告が被告の経営全般に関する重要事項の決定に関与していた形跡はない(弁論の全趣旨)。また、<5>本件期間中、原告が主として関与していた基本設計業務について、原告が、労働時間等に関する規制を超えて活動しなければならない経営上の必要性は明らかでなく、防音関係業務についても、週末の業務が不可避であるとしても、勤務日を週末とすることによっては対応できない理由も明らかでない。さらに、<6>前記認定によれば、原告の休日勤務と代休の対応関係は、総務部によって把握・管理され、被告は、原告からの休日勤務に係る賃金精算の要求に対し、日数の間違いを指摘した上、これ応じる旨回答しているが、これは、原告が管理・監督者であることと相容れない対応といわざるを得ない。しかも、<7>前記認定のとおり、原告に部下がいたのは、本件期間中の一部にすぎず、Cは、原告の本件管理表の「上司印」欄のほか「承認印」「部長」欄に押印していたが、原告は、E及びFの本件管理表の「上司印」欄のみに押印し、「承認印」「部長」欄に押印しておらず、部下の勤怠管理に対する原告の意識は、希薄であった。そして、<8>後記4、5のとおり、原告に支給されていた役職手当の額は、原告の残業等の対価を十分補うことができる額ということはできない。

エ これらからすると、(ア)本件期間中、原告は、担当職務の遂行について、部下に対する指揮命令を含めた裁量を認められていたが、担当職務自体は、必ずしも高度な経営判断を要するものでなく、日々の定型作業が中心で、基本的に原告一人で遂行することが可能な程度の範囲の限定されたものであり、被告の業務全体からみて、原告の責任及び権限が重要かつ広範なものであったということはできず、(イ)原告の労働時間は、上司によって管理されていなかったものの、原告が労働時間等に関する規制を超えて活動しなければならない被告の経営上の必要性は明らかでなく、被告において、原告の勤怠管理を放棄していたにすぎないということも可能であり、(ウ)原告に部下が配置された時期があるものの、部下の勤怠管理に対する原告の意識は、希薄で、(エ)原告に役職手当が支給されていたものの、管理・監督者の待遇としては十分でなく、(オ)被告自身、休日労働について、原告が管理・監督者であることと矛盾した行動をとったというのであるから、前記アの労基法四一条二号の趣旨及び判断基準に照らし、原告を管理・監督者ということはできないとするのが相当であり、他に争点(3)に係る被告の主張を認めるに足る証拠はない。

(3)  よって、原告は、管理・監督者ではなく、被告に対して、労基法三七条に基づき、時間外労働、深夜労働、休日労働に係る賃金を請求することができる。

(4)  また、法内残業については、労基法上賃金支払義務は定められておらず、労働契約で定められた合意による支払が問題となる。この点、原被告間の労働契約の定めは明らかでなく、就業規則、給与規則上も支払を定めた規定は見受けられないが、労働契約においては、労働と賃金が対価関係に立つ以上、無給であるとするのは、当事者意思に反し不合理であって、特段の事由のない限り、「通常の労働時間の賃金」が支払われる旨合意されていると解するのが相当であり、原被告間においても同様の合意があると認められる。そして、原告は、法内残業について、労働契約に基づく「通常の労働時間の賃金」を請求していると解される。

(5)  他方、被告の給与規則では、法内残業や法定外休日労働についても、労基法三七条に準じた超過勤務手当の支払を定めているが、同規則では、役職手当を受ける課長以上の者には超過勤務手当を支払わないとしており、原告は、同規則上超過勤務手当の支給を受けられない者に該当するといわざるを得ないから、原告は給与規則に基づく超過勤務手当の請求をすることはできない。

4  争点(4)(残業等に係る賃金の計算方法)について

(1)  ア 残業等に係る賃金の計算の基礎について

(ア) 前記争いのない事実等によれば、本件期間における原告の月ごとの賃金は、本俸二九万七〇〇〇円、役職手当五万五〇〇〇円、技能手当五万円であるところ、原告は、役職手当を残業等に係る賃金の計算の基礎とすべきであるとし、被告は、役職手当を除くべきであると主張する。

(イ) そして、<1>前記争いのない事実等によれば、被告の給与規則上、課長以上の役職手当の支給を受けている者には超過勤務手当を支給しないことが明示されていること(一五条)、<2>原告は、被告在職中、給与規則に基づき、超過勤務手当は支給されないと理解していたこと(書証略)、<3>前記3(2)エのとおり、原告の担当職務自体は、必ずしも高度な経営判断を要するものでなく、日々の定型作業が中心で、基本的に原告一人のみで遂行することが可能な程度の範囲の限定されたもので、原告に部下が配置された時期があるものの、部下の勤怠管理に対する原告の意識は、希薄であったことからすると、原告に支給されていた役職手当は、職責に対する対価でなく、残業等に対する対価として支払われていたものというべきであり、これに反する原告の主張、供述は採用できない。

(ウ) したがって、原告に支給されていた役職手当は、残業等に係る賃金の計算の基礎に算入すべきでなく、本俸二九万七〇〇〇円と技能手当五万円が計算の基礎となるというべきである。

イ 残業等に係る賃金の計算方法について

(ア) 原告は、月によって定められた賃金の支給を受けているところ、被告においては、月によって所定労働時間数が異なるから、労働基準法施行規則一九条一項四号により、一年間における一か月の平均所定労働時間数を算出し(一年間の所定労働日数÷一二×一日の所定労働時間)、これにより月給額を除して得られた額が、割増賃金算定の前提となる「通常の労働時間の賃金」となる。

(イ) ところで、被告の就業規則一六条では、土曜日、日曜日、国民の祝日、年末年始(一二月二九日から一月三日まで)、夏季休暇三日間が休日とされているから、年間の所定労働日数は二五二日を下回り、一か月の平均労働日数は二一日を下回ると認められる。

しかし、原告は、給与規則に基づいて、一か月の平均労働日数を二一日として計算し、請求している以上、これを採用することとなる。

(ウ) 他方、就業規則一五条によれば、一日の所定労働時間数は七時間であるから、これを採用することとなる(被告の給与規則二三条は、「勤務一時間当たりの給与額」は、「勤務一日当たりの給与額」を「八」で除して得た額とすると定めているが、これは、現実の所定労働時間数を労働者に不利に変更するものであるから、労基法一三条により無効というべきである)。

ウ 以上によれば、原告に係る「通常の労働時間の賃金」は、次のとおり、二三六〇円となる。「通常の労働時間の賃金」=(本俸二九万七〇〇〇円+技能手当五万円)÷二一日÷七時間≒二三六〇円

(2)  休日労働の対価について

ア 三八日分について

(ア) 原告が、被告に対して、労基法上のものとして次のものを請求することができる。

<1> 法定休日労働 割増率三五%の割増賃金

<2> 法定休日外のうち週四〇時間以上の労働割増率二五%の割増賃金

(イ) また、原告は、被告に対して、法定外休日のうち週四〇時間以内の労働(結局、法内残業となる)について、労働契約に基づき、「通常の労働時間の賃金」を請求することもできる。

イ 七日分について

(ア) 被告における代休の制度は、その就業規則の定めからすると、特定された休日を就業規則に基づいて予め変更するところの振替休日(昭二三・四・一九基収一三九七号、昭六三・三・一四基発一五〇号参照)でなく、使用者による一方的な労働義務の免除であり、かつ、代休については無給とするものであると解される。

(イ) そうすると、原告が一旦代休とした七日分について、後にこれらを年休とすることは、無給を有給に変更するものであって、被告の代休制度においては許されないというべきである。

(ウ) したがって、原告が、被告に対して、当該七日分の労働について請求することができるのは、労基法三七条の割増部分のみとなる(代休をとったことにより、「通常の労働時間の賃金」の部分は請求できない)。

ウ 四五日以外の休日労働について

四五日以外の休日労働について、原告は、一日七時間を超える労働に係る対価を請求しているところ(書証略)、この部分は、代休の取得によっても無休とならないから、原告は、被告に対し、当該時間に係る対価を請求できる。

エ 以上の休日労働について、証拠(略)及び弁論の全趣旨に基づき、割増率等を検討すると別表(略)2ないし4の各「割増率等と対象時間」欄記載のとおりとなり、原告の請求内容との対比において、認容すべき労働時間と割増率等は同各表(略)「認容」欄記載のとおりとなる。なお、法定休日については、就業規則上明確な定めはなく、毎週の休日のうち、休日労働のない最後の日又はすべての休日に労働した場合における最後に労働した日が、法定休日であると解するのが相当である。

(3)  以上からすると、原告が被告に請求することができる残業等に係る賃金は、次のとおりとなる。

ア 法内残業・時間外労働・深夜労働(別表(略)1) 合計一九六万九一二五円

(ア) 法内残業 二三六〇円×四二二・五時間=九九万七一〇〇円

(イ) 時間外労働 二三六〇円×一・二五×三〇五・五時間=九〇万一二二五円

(ウ) 深夜労働 二三六〇円×一・五×二〇時間=七万〇八〇〇円

イ 休日労働 合計八八万九三〇七円

(ア) 別表(略)2 合計八三万二三七二円

<1> 二三六〇円×一・三五×六四・五時間=二〇万五四九七円

<2> 二三六〇円×一・二五×一三八・五時間=四〇万八五七五円

<3> 二三六〇円×一×九二・五時間=二一万八三〇〇円

(イ) 別表(略)3 合計二万八九一〇円

<1> 二三六〇円×〇・二五×二三時間=一万三五七〇円

<2> 二三六〇円×一・二五×四時間=一万一八〇〇円

<3> 二三六〇円×一×一・五時間=三五四〇円

(ウ) 別表(略)4 合計二万八〇二五円

<1> 二三六〇円×一・二五×三・五時間=一万〇三二五円

<2> 二三六〇円×一×七・五時間=一万七七〇〇円

ウ 合計 二八五万八四三二円

5  争点(5)(残業等の対価の弁済)について

前記4(1)アのとおり、原告に対して支払われていた役職手当は、残業等の対価として支払われたものであるから、前記4(3)の金額からこれらの合計である一三二万円(=五万五〇〇〇円×二四か月)を控除すべきであり、被告が原告に対して残業等の対価として支払うべき金額は、一五三万八四三二円となる。

なお、これらの弁済期は、うち一五三万六〇七二円については、平成一五年四月二〇日以前の残業等に係るものであるから、同年五月三一日には弁済期が既に到来しており、二三六〇円については、同年四月二一日から同年五月二〇日までの間の残業等に係るものであるから、弁済期は同年六月二五日となる(原告は、同年五月三一日に被告を退職しているが、本件証拠上同年六月一九日までの間に、残業等に係る対価の請求を被告に求めたとは認められないから、労基法二三条一項の適用はない)。

6  争点(6)(附加金の申立ての当否)について

前記のとおり、被告が、原告に対して、残業等を命じた事実はなく、残業等は原告の判断に基づいて行われたものであること、原告は、副部長の職位にあり、担当業務についての裁量を認められ、役職手当の支給も受けていたもので、管理・監督者か否かの判断として困難な面があること、役職手当の額も月額五万五〇〇〇円であり、残業等の対価の約四六%を補っていたことなどに照らすと、被告の原告に対する時間外労働、深夜労働、休日労働に係る割増賃金の不払について、附加金の支払を命じなければならないほどの悪質性は認められない。よって、原告の附加金の申立ては採用できない。

7  争点(7)(退職金の額)について

(1)  被告の退職金支給規則の内容は、前記争いのない事実等のとおりであるところ、これらを総合的にみた場合、原告の退職金の計算方法は次のとおりとなると解するのが相当である。

<1> 本俸+役職手当=三五万二〇〇〇円

<2> 在職一八年九か月=二二五か月

<3> 勤続年数掛け率=四八か月(一年以上五年未満)×一〇〇分の五+一二〇か月(五年以上一五年未満)×一〇〇分の六+四六か月(一五年以上二〇年未満)×一〇〇分の七

<4> 既払共済金=七六万九五〇〇円

<5> 退職金=三七四万三一四〇円(<1>×<3>-<4>)

(2)  これに対し、原告は、勤続年数の掛け率は、単純に原告が勤務した年数に対応する数値を用いるべきであると主張するが、これによれば、二四年一一か月勤務した場合、退職金の額は、七三六万七三六〇円(=三五万二〇〇〇円×二九九×一〇〇分の七)となるが、満二五年勤務すると、退職金の額は、六三六万六〇〇〇円(=三五万二〇〇〇円×三〇〇×一〇〇分の六)となってしまい、不合理であることは明らかである。よって、原告の主張は、採用できず、このことは、被告と他の従業員との間の和解内容によって、左右されるものではない。

(3)  なお、被告の退職金支給規則では、退職金の支給時期を原則として退職後一か月としているが、かかる定めが労基法二三条一項に違反するということはできない。

8  以上によれば、原告の本訴請求は、残業等に係る賃金の未払額合計一五三万八四三二円及び内金一五三万六〇七二円に対する弁済期の後である平成一五年五月三一日から、内金二三六〇円に対する弁済期の翌日である平成一五年六月二六日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金並びに未払退職金三七四万三一四〇円及びこれに対する弁済期の翌日である平成一五年七月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却する。

(裁判官 增永謙一郎)

<別表略>

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