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東京地方裁判所 平成15年(ワ)18403号 判決 2004年7月15日

原告

甲山A夫

甲山B雄

上記二名訴訟代理人弁護士

田中俊充

冨永忠祐

被告

株式会社アイピー二十一

上記代表者代表取締役

乙川C郎

上記訴訟代理人弁護士

鈴木純

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  原告甲山A夫が被告の株式八万一四〇〇株を平成一四年三月二九日付け株主名簿記載に係る二五万五〇〇〇株とは別に有する株主であることを確認する。

2  原告甲山B雄が被告の株式八万〇四〇〇株を平成一四年三月二九日付け株主名簿記載に係る二二万九〇〇〇株とは別に有する株主であることを確認する。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

第2事案の概要

本件は、被告の株主である原告甲山A夫(以下「原告A夫」という。)及び原告甲山B雄(以下「原告B雄」という。)が、被告に対し、被告の株主名簿上に記載されている株式数を超える株式を有しているとして、その株主名簿記載の株式数と現実に有する株式数との差である株式数に係る株主の地位の確認を求めるのに対し、被告は、原告らの有する株式数は株主名簿記載の株式数でしかないとして争っている事案である。そして、原告らは、この係争対象となる株式の取得について、被告が平成元年に行った増資の際に生じた失権株の一部を被告の要請により引き受けて払込みをしたものであるとするのに対し、被告は、その引受け及び払込みの事実を否認するとともに、仮にそのような事実が存在しても商法に違反し新株引受の効力が生じないと反論している。

1  争いのない事実

(1)  原告らの被告株式のもと所有数

① 原告A夫関係

原告A夫は、平成元年二月一日、被告の株式一一万株を有していた。

なお、原告A夫の家族である甲山D子が一〇〇〇株、甲山E介が五〇〇〇株、甲山F美が五〇〇〇株をそれぞれ所有していた。

② 原告B雄関係

原告B雄は、平成元年二月一日、被告の株式一〇万株を有していた。

なお、原告B雄の家族である甲山G代が一〇〇〇株、甲山H作が四〇〇〇株、甲山I江が一〇〇〇株を所有していた。

(2)  被告の平成元年増資

① 被告は、平成元年三月一四日を払込期日とし、一株について一・六株を割り当てる割当発行の方法により増資を行った(以下「本件増資」という。)。

② 原告A夫は、少なくとも自己の所有株式数一一万株に対応する新株一七万六〇〇〇株を引き受けて、対応する所要金額の払込みをした(以下「本件A夫自己分引受」という。)。

③ 原告B雄は、少なくとも自己の所有株式数一〇万株に対応する新株一六万株を引き受けて、対応する所要金額の払込みをした(以下「本件B雄自己分引受」という。)。

(3)  原告らによる現物出資

平成元年三月ころ、被告の関連会社である有限会社a興産が設立され、被告の株主がその有する被告株式の一部を現物出資する方法で設立された(以下「本件出資」という。)。

その際、原告A夫及び原告B雄は、それぞれ被告の株式三万五〇〇〇株を現物出資した。

(4)  原告らによる相続

原告らの父である甲山J平は、平成四年一一月四日、死亡した。その子である原告らは、亡父の有していた被告の株式五万四〇〇〇株のうちから、それぞれ四〇〇〇株を相続した。

(5)  被告主張に係る被告の株主構成(確認の利益)

被告は、原告らに対し、平成一四年三月二九日現在の株主構成について、原告A夫の株式数を二五万五〇〇〇株、原告B雄の株式数を二二万九〇〇〇株とする株主名簿を作成して交付した。

2  原告らの主張

(1)  原告A夫による失権株分の引受け及び払込み

原告A夫は、本件A夫自己分引受の際に、被告からの要請を受けて、本件増資に係る失権株の一部八万一四〇〇株についても引き受けて、所要金額四〇七万円の払込みをした(以下「本件A夫失権株引受」という。)。

また、原告A夫は、同時に、その家族である甲山D子、甲山E介及び甲山F美のために、同人らの有する合計一万一〇〇〇株に対応する新株一万七六〇〇株についても引き受けて、払込みをした。

すなわち、原告A夫は、本件A夫自己分引受、本件A夫失権株引受及びその家族分の新株引受として合計二七万五〇〇〇株(額面五〇円)の引受分について所要金額一三七五万円の払込みをした(以下「本件A夫入金」という。)。

(2)  原告B雄による失権株分の引受け及び払込み

原告B雄は、本件B雄自己分引受の際に、被告からの要請を受けて、本件増資に係る失権株の一部八万〇四〇〇株についても引き受けて、所要金額四〇二万円の払込みをした(以下「本件B雄失権株引受」という。)。

また、原告B雄は、同時に、その家族である甲山G代、甲山H作及び甲山I江のために、同人らの有する合計六〇〇〇株に対応する新株九六〇〇株についても引き受けて、払込みをした。

すなわち、原告B雄は、本件B雄自己分引受、本件B雄失権株引受及びその家族分の新株引受として合計二五万株(額面五〇円)の引受分について所要金額一二五〇万円の払込みをした(以下「本件B雄入金」という。)。

(3)  よって、原告らは、被告に対し、前記第1の請求の趣旨掲記の株式を有することの確認を求める。

3  被告の主張

(1)  本件A夫失権株引受及び本件B雄失権株引受の事実の不存在

本件A夫失権株引受及び本件B雄失権株引受の事実は、いずれも存在しない。

① 本件A夫入金の証拠として提出された≪証拠省略≫は、送金先ないし支払先が記載されていないから、これをもって本件増資に係る増資資金が支払われたことを認めることはできない。

また、仮にその主張どおり本件A夫入金の事実があったとしても、本件増資においては、被告の取締役会で、申込期間最終日を平成元年三月九日、新株引受申込の意思表示には申込証拠金の支払を要すること、払込期日を同月一四日とすることが決議されていたところ、原告A夫が主張する一三七五万円の本件A夫入金がされたのは、同月二〇日及び二三日であるから、有効な新株引受の申込意思表示及び新株引受金の払込みとはなり得ない。

② 本件B雄入金の証拠として提出された≪証拠省略≫も、送金先ないし支払先が記載されていないから、これをもって本件増資に係る増資資金が支払われたことを認めることはできない。

また、仮にその主張どおり本件B雄入金の事実があったとしても、本件増資に関して定められた上記①の条件に照らすと、原告B雄が主張する一二五〇万円の本件B雄入金がされたのは、新株引受に係る申込期間最終日及び払込期日の経過した平成元年三月二三日であるから、有効な新株引受の申込意思表示及び新株引受金の払込みとはなり得ない。

(2)  本件A夫失権株引受及び本件B雄失権株引受による新株取得の強行法規違反

そもそも、新株引受権(株主において新株の発行にあたり新株を優先的に引き受けることができる権利)は、新株発行に関する取締役会決議に基づいて発生し、新株引受権の内容(新株発行価額、申込期間、払込期日、新株割当方法等)もすべて当該取締役会決議によって定められる(商法二八〇条ノ二)。そして、新株引受権を有する者が、新株発行に関する取締役会決議に違背する行為を行えば、取締役会決議に違背する部分については、新株発行の効力を生じ得ないものである。そうすると、本件A夫失権株引受及び本件B雄失権株引受の事実が存在したとしても、これらによって新株引受及び払込みの効力が発生するものではないから、原告らの本件A夫失権株引受及び本件B雄失権株引受に係る新株を取得したとする主張は失当である。

4  争点

(1)  本件A夫失権株引受及び本件B雄失権株引受の存否

(2)  本件A夫失権株引受及び本件B雄失権株引受による新株引受の効力の有無

第3当裁判所の判断

1  本件増資は、平成元年に行われたものであるが、当時の商法において、株式会社がその設立後に新株を発行する場合、定款に定めが設けられていなければ、例えば株主に新株引受権を与えるか否か、新株の発行価額、払込期日等の事項を取締役会で決議し定めることが必要であること(同法二八〇条ノ二第一項)、株式会社は、その株主が新株引受権を有する場合、申込期日を定めたうえ、株主は一定の期日までに株式の申込みをしなければその権利を喪失する旨の失権予告付申込催告の通知を同期日の二週間前までに株主に対して行わなければならず、この通知を受けながら期日までに申込をしなかった株主は、新株引受権を失うこと(同法二八〇条ノ五)、新株の引受人は、払込期日までに新株の発行価額の全額を払い込まなければならず(同法二八〇条ノ七)、払込期日までに払込みをしないと新株引受権は失権し消滅すること(同法二八〇条ノ九第二項)が強行法規として規定されていた。

そして、証拠(≪証拠省略≫)及び弁論の全趣旨によれば、平成元年二月二〇日開催の取締役会において、本件増資は同月一日現在の株主に対しその所有株式一株につき新株一・六株の割合をもって割り当てること、本件増資に係る新株の申込期間を同月二三日から同年三月九日まで、新株の払込期日を同月一四日までと定めることを決定しているところ、原告A夫は、富士銀行の預金口座から同月二〇日に四〇〇万〇八〇〇円、同月二三日に九七五万〇八〇〇円を宛先不明であるが他に振込み等をしていること、原告B雄は、同日に横浜銀行二俣川支店の預金口座から一二五〇万円の出金をしていることが認められる。そして、原告らは、上記各預金口座からの出金をもって本件A夫失権株引受及び本件B雄失権株引受に係る本件A夫入金及び本件B雄入金に充てられたことを主張している。

このような認定事実及び原告らの主張に照らすと、本件A夫失権株引受及び本件B雄失権株引受に係る本件A夫入金及び本件B雄入金は、本件増資につき被告の取締役会で決定された払込期日までに払込みをしなかったものであることが明らかである。そうであるとすれば、本件A夫失権株引受及び本件B雄失権株引受は、本件A夫入金及び本件B雄入金の存否を確定するまでもなく、その主張において前記払込期日に払込みをしないと新株引受権が失権することを定める強行規定に抵触することになるのであって、いずれも新株引受の効力を有しないことになる。

なお、株主が失権予告付申込催告の申込期日までに申込をせず、新株引受権を失ったときは、その引受権に相当する株式の発行ができなくなるのではなく、その株主についての割当義務がなくなるのであって、取締役会は未引受株式に係る新株の発行を打ち切ることも、別に株式の募集をすることも可能であり、仮に別に株式の募集をする場合にはその所要事項について改めて取締役会の決議を経る必要があるが、原告らは、この点に関する当裁判所の釈明に応じた主張立証をしていない。

そうすると、その余の点を判断するまでもなく、原告らの主張は理由がないことになる。

第4結論

以上によれば、原告らの本訴請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐々木宗啓)

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