東京地方裁判所 平成15年(ワ)18865号 判決 2005年7月06日
①事件原告・同反訴被告・②事件被告(以下「原告」という。)
F株式会社
代表者代表取締役
青森a夫
②事件被告(以下「被告青森」という。)
青森a夫
原告及び被告青森両名訴訟代理人弁護士
湯川將
同
川端小織
同
宮川学
①事件被告・同反訴原告・②事件原告(以下「被告会社」という。)
Cジャパン株式会社
代表者代表取締役
秋田b郎
訴訟代理人弁護士
長安弘志
同
寒川智美
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2(1) 原告は,被告会社に対し,金597万0605円及び内金146万4282円に対する平成16年2月1日から,内金450万6323円に対する同年3月2日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2) 被告会社のその余の反訴請求(①事件)を棄却する。
3(1) 原告及び被告青森は,被告会社に対し,連帯して,金3559万4477円及び内金3404万2432円に対する平成15年12月16日から,内金46万1070円に対する平成16年1月1日から,内金109万0945円に対する同年2月1日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2) 被告会社のその余の請求(②事件)を棄却する。
4 訴訟費用は,原告と被告会社との間で生じたものは,①事件本訴反訴及び②事件を通じてこれを10分し,その3を被告会社の負担とし,その余を原告の負担とし,被告青森と被告会社との間で生じたものは,これを5分し,その2を被告会社の負担とし,その余を被告青森の負担とする。
5 この判決は,第2項(1)及び第3項(1)に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 ①事件
(1) 原告が,原告と被告会社との間の平成13年11月14日付け販売代理店契約に基づき,平成15年12月31日までの間,原告の注文により,被告会社から,発注月額2000万円の範囲内で被告会社が販売する高性能小型電動モーター等の引渡しを受けるべき地位にあることを確認する。
(2) 被告会社は,原告から被告会社の販売に係る高性能小型電動モーター等の注文を受けたときは,在庫がない等の正当の理由がない限り,これを供給する債務があることを確認する。
(3) 被告会社は,原告に対し,金6984万3171円及び内金4500万円に対する平成15年8月28日から,内金722万6991円に対する平成16年3月5日から,内金843万円に対する平成15年9月3日から,内金918万6180円に対する平成16年4月20日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 ①事件反訴
原告は,被告会社に対し,金597万0605円及び内金146万4282円に対する平成16年2月1日から,内金450万6323円に対する同年3月1日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 ②事件
原告及び被告青森は,被告会社に対し,連帯して金6118万5820円及び内金5673万7400円に対する平成15年12月16日から,内金74万8794円に対する平成16年1月1日から,内金163万2988円に対する同年2月1日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告会社との間で高性能小型電動モーターの販売代理店契約を締結したところ,原告が注文に基づき上記モーターの引渡しを請求したにもかかわらず,被告会社が上記契約を解除したとして,引渡しを拒んだ上,被告会社が上記契約上,原告の注文を承諾する義務があるにもかかわらず,これを拒絶したことから,被告会社に対し,原告が被告会社より上記モーターの引渡しを受ける地位にあること及び被告会社が正当の理由がない限り上記モーターを供給する債務があることの確認を求めるとともに,さらに引渡しを拒絶したことにより,原告の売上げが減少したり,信用が毀損されるなどの損害を被ったとして,各債務の不履行に基づき,合計6984万3171円及び商事法定利率年6%の割合による遅延損害金の支払を求め(①事件),その反訴として,被告会社が,原告に対し,平成15年12月及び平成16年1月に上記モーターを販売したことから,売買契約に基づき,未払代金債権合計597万0605円及び商事法定利率年6%の割合による遅延損害金の支払を求めたほか,さらに被告会社が,原告及び被告青森に対し,原告が平成14年9月4日に当庁に対して申し立てた仮処分命令申立てにつき,被保全債権を欠くにもかかわらず,これをことさら秘匿して仮処分命令の発令を得て,それにより損害を被らせ,これが共同不法行為(民法719条)に当たるとして,合計6118万5820円及び商事法定利率年6%の割合による遅延損害金の支払を求めた(②事件)事案である。
1 前提事実(証拠番号を掲記しない事実は争いがない。)
(1) 当事者等
原告は,減速機,駆動回路並びにその結合製品を含む直流,交流の小型電動モーター及び発電機の輸出入及び販売等を目的とする株式会社である。
被告青森は,原告の代表取締役である。
被告会社は,減速機,駆動回路並びにその結合製品を含む直流,交流の小型電動モーター及び発電機の輸出入及び販売等を目的とする株式会社であり,高性能小型モーターを製造販売するA株式会社(以下「A」という。)の子会社である(弁論の全趣旨)。
(2) 販売代理店契約の締結
原告は,被告青森を代理人として,被告会社との間で,平成13年11月14日,以下の内容の販売代理店契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
① 顧客と数量 原告は,日本国内のすべての小口顧客(Non strategic accounts)への販売を担当する。
1000個以上の取引を希望する顧客が原告にできた場合は,Aが被告会社を通じて直接販売を担当し,原告にコミッションを支払う。
② 担当地域 日本国内及び韓国の一部とする。
③ 取扱商品 B社製品を含めたすべてのA製DCモータ,ディスクマグネットモータ,DCブラシレスモータ及びギアボックス(以下「本件製品」という。)
④ 有効期間 平成14年1月1日から平成15年12月31日まで。ただし,平成14年12月31日までに本件契約が終了しない場合には,次の2年間延長される。
(3) 被告会社による本件契約の解除通知の送付
被告会社は,平成14年8月28日,原告に対し,原告及び被告青森が,原告がAの製品を販売する部門であるとの誤った情報を市場に提供するなど,本件契約の趣旨に反する行動をとったことから,信頼関係が破壊されたとし,よって本件契約を解除する旨記載のある同日付け申入書(以下「本件通知」という。甲6)を送付し,そのころ,本件通知は原告及び被告青森のもとに到達した。
(4) 原告による仮処分命令申立て
原告は,平成14年9月4日,当庁に対し,債権者を原告,債務者を被告会社とし,原告が,本件契約に基づき,同年1月1日から平成15年12月31日までの間,原告の注文により,発注月額2000万円の範囲内の被告会社販売の本件製品の引渡しを受けるべき地位にあること,さらに被告会社は,原告から本件製品の注文を受けたときは,在庫がない等の正当の理由がない限り,これを供給すること等を仮に定める旨の仮処分命令申立て(当庁平成14年(ヨ)第3621号仮処分命令申立事件,以下「本件仮処分申立て」という。)を行い,同年9月25日,当庁は同旨の仮処分命令(以下「本件仮処分命令」という。)を発令した。
2 争点
(1) 原告が,本件契約上,平成15年12月31日までの間,原告の注文に応じて,被告会社から本件製品を引き受けるべき地位があるか。また,被告会社は,原告から本件製品の注文を受けたときは,正当の理由がない限り,原告に供給する債務を負うか。(①事件本訴請求)
(2) 被告会社が平成14年8月28日にした本件契約の解除の意思表示は,有効か。((1)の抗弁)
(3) 被告会社が,平成14年8月28日付けの本件契約の解除を理由として,原告が既に発注していた本件製品の引渡しを拒み,同月30日にオンラインシステムを停止するなどしたことを理由として,原告は,被告会社に対し,債務不履行責任及び不法行為責任を問えるか。(①事件本訴請求)
(4) 被告会社は,原告に対し,平成15年12月及び平成16年1月に販売した本件製品の未払代金及び遅延損害金を請求できるか。(①事件反訴請求)
(5) 原告が,平成14年9月4日に当庁に対して申し立てた仮処分申立てが,被保全債権を欠くものとして,原告及び被告青森に不法行為責任が発生するか。(②事件)
(6) (5)の不法行為責任が問えるとした場合の被告会社の損害額(②事件)
3 争点に対する当事者の主張
(1) 争点(1)(本件契約上の被告会社の義務)について
(原告)
本件契約は,継続的に本件製品を原告に供給する契約であり,その具体的内容としては,原告は,個々の売買契約についての予約完結権を有し,原告がこの予約完結権を行使するたびに,被告会社に個々の売買契約に基づいて,原告への本件製品の供給義務が生じるというものである。
なお,仮に,本件契約において,被告会社が原告の予約完結権行使による納品義務を負っていないとしても,被告会社は,原告の個々の売買契約の申込に対して承諾する義務を負っており,契約期間終了時までに原告が具体的な発注の形で行った個々の売買契約の申込に対し,被告会社は承諾する債務がある。
原告は,被告会社に対し,平成15年11月11日に発注を行ったが,被告会社は,同年12月末日までに納品が間に合わない発注については,発注に応じる義務はない旨主張して納品を拒否した。また,原告は,被告会社に対し,平成16年1月3日にも発注を行っているが,被告会社は納品を拒否した。
しかし,原告が実際に顧客から発注を受けたのは平成15年9月16日及び同年12月18日であり,本件契約期間内に原告が小口顧客から得た受注については,営業開始時の取り扱いとの均衡から,被告会社は,原告の発注に応じるべき債務を負う。
(被告会社)
ア 被告会社は,(2)で述べるとおり,平成14年8月28日付けで,本件契約を正当の理由をもって解除したのであり,平成15年12月末時点では,本件契約に基づく何らの債務を負っていない。
イ 仮に,被告会社が,本件契約に基づき,その契約が終了する平成15年12月31日までに,原告が具体的な発注の形で行った個々の売買契約の申込に対し,承諾する義務を負うとしても,本件契約は,その契約期間中,原告に対し,小口顧客に対する本件製品の独占販売権を付与するものであり,その契約期間の終了により,上記販売代理権が消滅し,その時点以降,被告会社は,小口顧客に対する販売活動を直接行うことができることになり,原告に対し,本件製品を供給する債務は負わないと解するべきである。
したがって,本件契約に基づき,被告会社が,原告の具体的な売買契約の申込に対し承諾義務を負うとしても,それは本件契約終了時までに本件製品を供給できる申込に対してのみである。
平成15年11月11日付けで受けた発注については,同年12月末日までに納品することは不可能であり,平成16年1月3日付で受けた発注については,本件契約終了後のものであるから,当然に本件製品を供給する債務はない。
(原告の反論)
ア 仮に本件契約が平成15年12月末日限りで終了したとしても,本件契約は,実質的には原告への営業の一部譲渡であり,本件契約の締結後,平成14年1月1日以前に小口顧客が行った本件製品の発注は,原告が被告会社に対して発注することも可能であったにもかかわらず,全て被告会社に直接受注させ,その売上としており,このような原告の発注の取り扱いとの均衡の観点からも,本件契約の期間終了時までに原告が小口顧客から得た発注については,原告との売買契約が成立したものとすべきである。したがって,被告会社が,平成15年12月末までに本件製品を納品できないとしても,原告が,本件契約の期間中に発注を行っている以上,被告会社は,上記発注を承諾し,本件製品を納品する債務がある。
イ また,本件契約には,契約期間の定めがあるが,本件契約は継続的な取引であり,期間満了時をもって画一的に契約終了と考えるのは適当でなく,期間満了時を基礎として,取引の性質や目的,取引期間の長さ,実績,将来の利益の確実性などの観点から,本件契約が合理的に終了すべかりしときに本件契約が終了するというべきである。
そして,原告は,本件製品を取り扱うことのみを目的として設立され,本件契約当時,双方当事者ともに期間満了後も本件契約を更新することを予定し,原告は,小口顧客を対象として順調に営業実績をあげていた。また,本件契約による取引期間は2年間であったが,被告青森は,本件契約以前から約30年にわたり,被告会社の代表者等として日本での本件製品の販売に従事し,スイスにある被告会社の親会社との関係も深い。さらに,本件契約には契約期間の定めがあるものの,被告会社から,期間満了時に本件契約を終了させる旨の原告に対する通知は,平成15年12月22日になって初めて行われた。
このように,被告会社が,本件契約が期間満了時に終了することを明確にしなかったため,原告は,他製品を扱うなどの業務形態の変更を検討し,被告会社との契約終了に備える期間を得られなかった。
したがって,平成16年1月3日時点では,原告が本件契約の終了に備える相当な期間が経過しておらず,本件契約が終了すると合理的に解すべき時期は到来していない。そうであれば,原告が行った同年1月3日付けの発注についても,被告会社は,これを承諾し,本件製品を納品する債務がある。
(被告会社の再反論)
ア 被告会社は,平成15年9月以降,原告に対し,本件契約が平成16年1月以降に継続されることがないことを伝えていた。
イ また,原告は,原告がその顧客から本件契約期間中に発注を受けていれば,本件契約期間終了後であっても,被告会社が本件契約に基づく供給義務を負うと主張するが,被告会社が何ら関与しない原告とその顧客との取引と被告会社との義務を関係付けるためには,その旨の明示の合意が必要であるところ,そのような合意は存在しない。
(2) 争点(2)(被告会社がした本件契約の解除の意思表示の効力)について
(被告会社)
原告は,次のような債務不履行及び信頼関係破壊行為を行っており,平成14年8月28日当時,本件契約を継続しがたい重大な事由があった。
ア 原告の債務不履行
(ア) 本件契約内容に反する告知及び運用について
被告青森は,被告青森の後任の被告会社代表者である秋田b郎(以下「秋田」という。)に対し,本件契約を含めた被告会社代表者の業務引継ぎを行うべきであったにもかかわらず,かかる引継ぎを一切行わなかった上,平成13年12月ころ,当時営業部長であった岩手c男及び山形d太(以下「山形」という。)を含め,被告会社従業員らの再三の要求にも関わらず,同人らに対して本件契約書を一切開示しなかった。その上で,①平成14年1月から実行される本件契約に基づいて,被告会社が担当するキーカスタマーのリストについて,真実の契約内容と異なる内容のもの(甲4)を示し,②支払条件について,本件契約上,ネット60日と合意されたにもかかわらず,月末締めの翌々月末払いであると伝えた。さらに,③加工作業について,被告会社は,原告との間で,平成14年1月以降,被告会社が本件製品等の分解,組立てを含めた加工作業を一切行わないこととし,原告が加工作業を行うことは認めることを合意したにもかかわらず,被告青森は,被告会社の山形に対し,この合意があることを告げず,山形をして被告会社に加工作業を行う業務があるものと信じさせて,平成14年1月以降も被告会社に対し,上記加工作業を行うことを要求し,被告会社の負担において加工技術者を雇用させ,本件契約と異なる内容で本件契約を運用した。
(イ) 販売活動義務の懈怠及び被告会社の販売活動の妨害について
原告は,平成14年1月から同年8月まで,本件契約により,本件製品についての販売拡大活動を行う債務を負っていたが,新規顧客開拓などの営業活動を全く行わなかった。
そればかりか,原告及び被告青森は,①平成13年12月末には,被告会社がAの販売を担当する会社として設立されたなどという本件契約に反する内容の通知書を,被告会社の顧客に対して送付し,②平成14年1月以降も顧客に対し,被告会社の販売部門が原告に変更されたなどと事実に反する説明を行った上,③同年1月から原告の事務所,電話番号,FAX番号を合理的理由なく使用して,上記の告知を真実であるよう装い,さらに④同年4月には,原告は,被告会社が小型モーターの展示会会場に設置したブースにおいて,被告会社の顧客に対し,無差別に営業活動を行うなど,本件契約の趣旨に反した販売活動及び言動をとった。
(ウ) 在庫引取義務の懈怠について
原告は,被告会社との間で,本件契約に伴い,平成14年1月から,被告会社から同被告が保有する本件製品の在庫(約1億円相当分)を買い取る旨合意したが,上記在庫の買取りを拒否した。
イ 原告の信頼関係破壊行為
(ア) 原告と被告会社間の関係の悪用
本件契約は,被告青森が,被告会社代表者を退職するにあたって,同人の便宜を図るために締結されたものであるから,被告青森は,原告と被告会社間の信頼関係という点からしても,本件契約について被告会社従業員らに対し適切に業務引継ぎを行い,本件契約を適正に実行させるべきであったにもかかわらず,被告会社従業員らとの親しい関係を利用して原告の一方的な利益の実現を図った。
すなわち,被告青森は,平成13年12月10日,山形を営業部長として雇い入れ,同人に対して被告会社の業務引継ぎを行った。これは,当時被告会社には,被告青森以外に被告会社の事業を統括できる者がいなかったことから,被告会社の事業を全く知らない山形を利用することで,被告青森が被告会社代表者を退任した後も,被告会社に対する影響力を保持する意図の下に行った行為である。
さらに,被告青森は,原告と被告会社との間にオンラインシステムを敷設したが,これは,被告会社の在庫状況のみならず,被告会社における商品管理に関するすべての情報(仕入価格,個別の顧客に対する販売価格,利益率等)を閲覧できるというものであったが,このようなオンラインの敷設は,本件契約には含まれていなかった。
(イ) 顧客分担の恣意的変更
被告青森は,本件契約の中核である本件契約書に添付された顧客リストを権限なく別のリストに差し替えた上,山形に対し,これに記載があるものが平成14年1月以降の被告会社の担当する顧客であるとして業務引継ぎを行った。
(ウ) 被告会社の業務への過干渉
被告青森は,原告と被告会社とが事務所を共用していた平成14年1月ころのみならず,被告会社が他の場所へ事務所を移転した後も,通常の業務以上に被告会社事務所に頻繁に出入りし,被告会社の業務を混乱させた。
また,被告会社は,平成14年7月ころ,親会社の指示により,被告会社において雇用されていた加工作業要員を解雇することとしたが,被告青森は,原告の加工事業要員の確保のため,従業員解雇が不当であるとして,被告会社事務所において山形を罵倒するなど,被告会社の人事に介入した。
ウ 被告会社は,本件契約(本件契約書第8項)において,平成14年1月1日から同年12月31日までの間,被告会社に債務不履行等に基づく解除事由があるか否かにかかわらず,本件契約を解除できる権利を留保しており,平成14年8月28日にした本件契約の解除の意思表示は,この点からも有効というべきである。
(原告及び被告青森)
ア 債務不履行について
(ア) 原告は,被告会社との間で,小口顧客リスト(甲1の2)を添付した英文レター形式の本件契約書(甲1の1)の内容どおりの契約を締結しており,被告会社従業員に対しても,必要に応じてその内容を告げたもので,契約内容に反した事実を告げて契約内容に反した運用を行ったことはない。そもそも原告や被告青森が,被告会社従業員に本件契約の内容を周知させる義務はない。
(イ) 原告は,平成13年11月30日に設立されたが,実際に稼働し始めたのは,平成14年1月ころからである。原告は,出荷時を基準とした売上を計上しているため,同年2月以降に初めて売上を計上することができたのであるから,販売実績が1か月分以上減少することは当然である。また,原告は,設立後,積極的に営業活動をしており,新規開拓顧客は60社に及び,原告に営業活動の懈怠はない。
また,原告が顧客に対して送付した通知(乙2)は,被告会社と本件契約を締結した後には原告が小口顧客を担当することとなるため,小口顧客に,以後原告が担当する旨を知らせるために配布したものであって,内容につき被告会社の了解を得た上で,原告担当の顧客のみに対して送付したものである。
さらに,被告会社が事務所を移転した理由は,被告会社が当時傘下に入ったCグループの会社とともに事務所を構えるため,原告と被告会社が入っていた事務所から移転するといった被告会社側の事情があったからであり,原告は被告会社の同意を得て,被告会社にとって不要となった事務所,備品や電話番号,FAX番号を引き継いだ。
モーターの展示会において,被告会社設置のブースで,本件製品の営業活動を行ったことはあるが,これは被告会社の了解のもと,被告会社と分担のうえ,共同で行った。
(ウ) 原告は,本件契約上,本件製品の販売拡大活動を行う義務も,被告会社の在庫を引き取る義務も負っていない。むしろ,原告は,被告会社の要望で,1500万円から2500万円の在庫を常に抱えていた。
(エ) 本件契約において,支払条件を「ネット60日」にするという意味は,日本の商習慣に従って解釈されるべきであり,月末に集計した当月納入分の代金を翌々月末に支払うとの意味となる。
製品納入日から60日との内容であるというのであれば,被告会社は,契約開始当時にその旨主張すべきであったところ,そのような主張はなく,原告と被告会社との間で,月末に集計した当月納入分の代金を翌々月末に支払う旨の黙示の合意が成立した。
また,被告会社は何ら異議を述べていない以上,原告の支払時期の問題は本件契約の解除原因に当たらない。
イ 信頼関係破壊行為について
以下のとおり,原告につき,被告会社が主張するような本件契約を継続しがたい重大な事由は生じていない。
(ア) 山形の雇用は,被告会社の親会社D(以下「D」という。)が決定したものであり,原告は採用時の面接に立ち会ってはいたものの,積極的に関与はしていない。
被告会社は,被告青森が被告会社を辞めた後も山形を利用していたとするが,山形は,全てスイスの親会社の意見と山形の独断で被告会社の経営方針を決定しており,被告青森の指示に従う関係にはなかった。なお,山形が本来代表者が行うべき行為を行っていたのは,被告青森が被告会社代表者を退いた後,正式な代表者が不在であるなど,被告会社の管理体制が不十分であったためで,被告青森が責められるべきものではない。
また,本件のオンラインシステムは,平成14年2月ころに被告会社が別の場所に移転することになった際,原告が被告会社の在庫情報を瞬時に把握し,効率的に在庫管理をするため,被告会社の同意を得て,専用線でつないだものである。Aから本件製品を直接取り寄せると2か月程度かかり,被告会社に在庫があるか否かで顧客への納入時期はかなり異なるので,在庫情報は,原告が取引先と取引をする際に必要不可欠な情報である。
(イ) 本件契約では,取引顧客のうち上位20社をキーカスタマーとし,これに被告会社が直接販売を担当することとされ,その他の小口顧客については,原告が販売店又は取次店となることとされた。キーカスタマーと小口顧客との区別は,本件契約書添付の小口顧客リスト(甲1の2)に基づいて行われる。その後,平成14年1月ころ,被告会社は,同被告が新たに作成したキーカスタマーのリスト(甲4)を提案したため,原告もこれに同意した。
原告は,リストの差し替えを行っていない。
(ウ) 原告は,被告会社との本件契約の履行に必要な範囲で,被告会社に連絡や訪問をしたことはあるが,それを超えた関与はしていない。輸入元と代理店の関係である以上,当事者が相互に行き来することは当然であるし,また,主に被告会社を訪れていたのは本件製品の受け取りのためであり,被告会社を管理又は支配するようなことを行ったことはない。
また,解雇された被告会社従業員の中には,本件製品を顧客のニーズに合わせて加工する担当の職員も含まれており,原告の営業にとっても当該職員の存在は大きかったため,原告の社員が意見を述べたことはある。しかし,山形に対して罵声を浴びせる等の言動をとったことも,あたかも原告や被告青森が被告会社の事業活動を支配管理しているかのように振るまったことも,被告会社の事業活動を妨害したこともない。
ウ 被告会社が本件契約書第8条に基づいて,原告に解除事由が存在しないにもかかわらず,本件契約を解除することができるとする被告会社の主張は否認する。
(3) 争点(3)(被告会社の債務不履行責任及び不法行為責任)について
(原告)
ア 被告会社は,原告に解除事由がないにもかかわらず,平成14年8月28日付けの本件契約の解除を理由として,原告が既に発注していた本件製品の引渡しを拒み,同月30日にはオンラインシステムを停止し,さらに原告の取引先に対し,「A製品販売に関する原告との代理店契約を解消することになったので,新規代理店が決定するまで,被告会社に直接注文してほしい」旨の書面(甲7)を同月28日付けで送付した。このような被告会社の債務不履行及び不法行為により,原告は次のような損害を受けた。
イ 売上の減少
(ア) 被告会社による上記行為により,原告が平成14年8月から平成15年7月までに喪失した得べかりし利益は,別紙損害額計算書のとおり,3842万5160円となる。
(イ) 平成15年8月から契約期間終了時たる平成15年12月までの5か月間の得べかりし利益は,別紙損害額計算書のとおり,1400万5126円となる。
(ウ) 以上の損害額を合計すると,5243万0286円となる。
ただし,原告は,訴状において,平成15年7月の実際売上高を931万4509円と算定していたが,その後に同月の実際売上高は1161万4509円であったことが判明し,それに伴って逸失利益も80万7530円減少した。そこで,原告としては,訴状記載のとおり,3923万2690円を請求し,超過請求分の80万7530円については,上記(イ)の1400万5126円から控除して,1319万7596円とし,その合計額5243万0286円を請求する。
(エ) さらに,原告は,平成15年11月11日及び平成16年1月3日に被告会社に対して発注をしたにもかかわらず,被告会社は平成15年12月末までに納品ができない等の理由を述べて納品を拒否した。
原告は,被告会社が発注を拒否しなければ,原告の顧客に対して総額2616万4000円(平成15年11月11日発注分が372万4000円,平成16年1月3日発注分が2244万円の合計)の売上を得られる確実な見込みがあり,この金額に粗利率35.11%を乗じた918万6180円の利益を失った。
ウ オンラインに関する支払
原告は,平成14年3月にオンラインシステムを導入した際,交換機の費用として53万9432円,伝票印刷機の購入に72万1970円をそれぞれ支出した。
しかし,被告会社が,平成14年8月30日午後6時以降,オンラインの使用を停止したため,原告は,平成15年5月にオンライン契約を終了した。原告は,平成14年9月から平成15年5月までのオンライン使用料として,毎月13万5849円ずつ,合計122万2641円を,E株式会社(以下「E」という。)に支払ったが,被告会社がオンラインシステムを不通としたため,上記費用は原告にとって無駄な投資となった。
エ 非財産的損害
被告会社が平成14年8月28日付けで「A製品発注先変更のお知らせ」と題する通知(甲7)を原告の顧客に直接送付し,原告との本件契約を解消した旨伝えたことにより,原告が長年かけて築き上げた顧客との信頼関係が傷つけられた。原告は,被告会社の上記行為によって非財産的損害を被り,この損害は金銭に換算すると328万3267円を下らない。
オ 弁護士費用
原告は,本件訴訟及び本件仮処分申立て等の遂行のため,代理人弁護士に委任し,その弁護士費用は,次のとおり,少なくとも合計843万円(日弁連報酬等基準規程による)となる。よって,原告は,債務不履行による損害賠償として上記843万円の支払を請求する。
① 本件仮処分申立て着手金 33万0000円
② 同報酬金 33万0000円
③ 仮差押命令申立て着手金 102万円
④ 本件訴訟着手金 225万円
⑤ 同報酬金 450万円
合計843万円
(被告会社)
ア 被告会社には,債務不履行及び不法行為に当たる事実はなく,原告の請求には理由がない。
イ 売上の減少
(ア) 損害の不発生
被告会社は,本件通知後,本件製品の供給を一旦停止したものの,本件仮処分命令が出されたため,それに従って平成14年9月26日から原告に対して本件製品の供給を再開しているし,本件仮処分命令が出た後,顧客から原告ではなく被告会社と取引したいとの申し出があった場合も,被告会社は,平成15年12月末までは原告を通じて本件製品を購入して欲しい旨顧客に説明し,顧客らの同意を得ていた。
また,被告会社は,原告の顧客に迷惑がかからないように,本件仮処分命令が出される以前から,原告に対して本件製品を供給していた。
なお,本件製品については,非常に高性能であり,他社製品では代替がきかないため,供給停止期間が1か月程度であれば,原告の顧客が代替製品に切り替えることはなく,停止した間の売上は翌月又は翌々月の売上となる。
以上からすれば,原告には何らの損害も発生していない。
(イ) 損害額について
原告は,平成14年7月の売上高であると主張する2163万0474円を基準として損害額を算定している(別紙損害額計算書)。
しかし,原告の主張する数値の根拠については何らの説明もされていないし,原告の平成14年1月から平成15年6月までの実際の売上に変化が認められる状況等からして,原告において,平成14年8月以降,毎月,継続して同額の売上があったとは考えられない。むしろ,原告の訴状別紙1の平成14年1月から平成15年6月までの18か月間の月間売上のグラフによると,平成14年7月の売上が期間中最大のものであるところ,その金額は2167万3117円となっている。原告の主張は,上記期間中最大の月間売上高を想定売上高として逸失利益の算定をしているかのようであり,極めて非合理なものである。
(ウ) したがって,原告が主張する売上減少を理由とする損害額には,何らの根拠もない。
ウ オンラインに関する支払について
原告は,本件のオンラインを保持する権利を有していない。
また,オンラインの切断後も,本件仮処分命令に従って取引が再開された平成14年9月末以降,被告会社は,原告からの在庫の存否に関する問い合わせには電話で適切に対応し,納品についても意図的に遅らせることはしていない。
したがって,オンラインの切断による損害はない。
エ 非財産的損害について
原告の主張する非財産的損害額については,全く根拠がないのみならず,被告会社の行った解除の意思表示が有効である以上,原告の主張は理由がない。
オ 弁護士費用について
債務不履行を理由とする損害賠償請求の場合,債務不履行が著しく反社会的,反倫理的なものである場合を除いて,弁護士費用は当該債務不履行と相当因果関係のある損害に該当せず,本件においては,仮に被告会社に債務不履行があったとしても,原告主張の弁護士費用は相当因果関係のある損害とはいえない。
(4) 争点(4)(被告会社から,原告に対する,平成15年12月及び平成16年1月に販売した本件製品の未払代金及び遅延損害金の支払請求)について
(被告会社)
ア 被告会社は,本件仮処分命令により仮に効力があるとされた本件契約に基づき,原告から受けた注文に基づき,本件製品を原告に売り渡し,次のとおり売買代金請求権を取得した。
(ア) 平成15年12月 192万1127円(税込)
(イ) 平成16年1月 454万5604円(税込)
合計646万6731円
なお,上記売買代金の支払期限は,(ア)については平成16年1月31日であり,(イ)については同年2月29日である。
イ 原告は,平成15年12月1日から平成16年1月31日まで,被告会社に対し,A社製のモーター部品等を売り渡し,次のとおり,被告会社に対する合計49万6126円の代金債権を有している。
(ア) 平成15年12月 45万6845円
(イ) 平成16年1月 3万9281円
合計49万6126円
なお,同売買代金の支払期限は,(ア)については同年1月31日であり,(イ)については同年2月29日である。
ウ 相殺
被告会社は,原告に対し,平成16年4月19日の本件第5回弁論準備手続期日において,上記ア記載の各代金債権(元本)をもって,上記イ記載の原告の各代金債権と,相当額においてそれぞれ相殺するとの意思表示をした。
具体的には,平成15年12月1日から同月31日までの間にかかる取引につき,被告会社の原告に対する192万1127円の代金債権をもって,原告の被告会社に対する45万6845円の代金債権と相当額において相殺し(残代金146万4282円),平成16年1月1日から同年1月31日までの間にかかる取引につき,被告会社の原告に対する454万5604円の代金債権をもって,原告の被告会社に対する3万9281円の代金債権と相当額において相殺する(残代金450万6323円)。
そうすると,被告会社は,原告に対し,残代金597万0605円の代金債権を有している。
(原告)
被告会社が,原告に対し,本件製品を平成15年12月に192万1127円,平成16年1月に454万5604円で売り渡したこと,原告が,被告会社に対し,被告会社主張のモーター部品等を平成15年12月に45万6845円,平成16年1月に3万9281円で売り渡したことは認める。被告会社が,原告に対し,平成15年12月に売り渡した代金の支払期限は,平成16年2月29日であり,同年1月に売り渡した代金の支払期限は,同年3月31日である。
原告は,平成16年3月5日の本件第4回弁論準備手続期日において,争点(3)原告の主張イ(ウ)記載の1319万7596円の損害賠償請求権をもって,被告会社の原告に対して有する代金債権と対等額において相殺するとの意思表示をした。
そうすると,原告の被告会社に対する上記損害賠償請求権の残額は,722万6991円となる。
(被告会社の反論)
原告主張の損害賠償請求権は,被告会社の債務不履行を理由とするものであるが,被告会社は本件契約を適法に解除している以上,債務不履行はなく,原告主張の損害賠償請求権は発生していない。
(5) 争点(5)(原告による本件仮処分申立てにかかる不法行為の成否)について
(被告会社)
被告会社は,平成14年8月28日,原告に対し,本件契約を適法に解除しており,被告会社は,原告に対し本件製品を引き渡す義務がないのにもかかわらず,原告及び被告青森は,同年9月4日,原告をして,当庁に対し,上記(2)被告会社の主張ア及びイ記載の各事実を秘して動産引渡等仮処分命令を申し立て(本件仮処分申立て),同月25日,同庁をして本件仮処分命令を発令させた。
被告青森は,本件仮処分申立ての際,本件契約書に添付されていた顧客リストが,真実は乙9の2であることを知っていたにもかかわらず,甲1の2と差し替え,さらに上記(2)被告会社の主張ア及びイ記載の事実を隠蔽するための陳述書を作成するなどしており,原告及び被告青森には,故意又は過失があり,不法行為責任があるというべきである。
(原告及び被告青森)
被告会社は,原告は解除事由が存在しないにもかかわらず,本件契約を解除する意思表示をし,原告の顧客にその旨通知し,原告に対し発注済みの本件製品の引渡しを拒み,原告と被告会社とを結ぶオンラインシステムを停止した。
原告は,被告会社のこれらの行為により,営業に重大な支障をきたしたため,やむをえず本件仮処分申立てに及んだものである。原告の設立は,本件製品の小口顧客への販売を目的とするものであり,それだけを営業内容としていたのだから,被告会社による本件製品の出荷停止は,原告の存亡にかかわる重大事であったといえ,原告の本件仮処分申立ては当然の措置である。
なお,本件仮処分申立ての際に提出された顧客リストは,本件仮処分命令の内容には影響しておらず,被告会社の主張する損害との因果関係も認められない。
さらに,原告が本件訴訟に敗訴することは,良識ある商人が誰一人として予測しえないことであるから,原告には故意及び過失は認められない。
(6) 争点(6)(被告会社の損害額)について
(被告会社)
ア 本件仮処分命令から平成15年12月15日までの損害
被告会社は,平成14年9月25日以降,原告に対し,本件仮処分命令に従い,本件製品を納品した。被告会社が原告に対し,同年10月から平成15年11月30日までの間に,納品した本件製品の販売額合計は1億3508万9049円(別紙計算書)である。本件仮処分命令がなければ,被告会社は,上記販売額に対応する本件製品を直接顧客に販売することができた。
被告会社が得るはずであった利益と被告会社の原告に対する販売額との割合は,別紙利益率計算書記載のとおり,平均42%(被告会社から原告に対して出荷されている本件製品のうち,売上が多いものから上位39種を対象として算出したもの)である。上記1億3508万9049円に,この42%を乗じた額が5673万7400円であり,原告及び被告青森が本件仮処分命令を申し立てたことにより,被告会社は少なくとも同額の損失を被った。
また,別紙計算書記載の各月の売上は,遅くとも各月末に得られるはずであり,これに相当する損害については,翌月1日から商事法定利率年6%の割合による遅延損害金が生じているところ,別紙計算書記載の各売上高及びこれに対する遅延損害金の合計は,平成15年12月15日当時,206万6638円であった。
イ 平成15年12月及び平成16年1月の損害
被告会社が,平成15年12月及び平成16年1月の間に,原告に対して納品した本件製品の販売額は,別紙計算書記載のとおり,平成15年12月分が182万9645円(税込では192万1127円),平成16年1月分が432万9147円(税込では454万5604円)である。
被告会社は,本件仮処分命令がなければ,これらについても販売額の42%の利益を得ることができたものであり,本件仮処分命令申立てにより,平成15年12月末日に76万8450円,平成16年1月末日に金181万8242円,合計金258万6692円の損害を被った。
ウ 以上の被告会社の損害を合計すると,平成15年11月30日までの損害が5673万7400円,同年12月15日までの商事法定利率年6%の割合による遅延損害金が206万6638円,同月1日以降の損害が258万6692円であるから,6139万0730円となるところ,その一部を請求する。
(原告及び被告青森)
被告会社主張の損害額は,争う。
本件仮処分命令後に原告があげた売上は,原告の営業努力があってこその売上であり,それをそのまま被告会社があげられた蓋然性はない。また,被告会社は,別紙利益率計算書をもって,42%という利益率が正当な数字であるとするが,同表に掲載された上位39社の利益率はマイナス7%の顧客からプラス53%にのぼる顧客まで千差万別であり,上位39社を平均した数字が正当とは考えられない。
(被告会社の反論)
利益率の42%という数値は,被告会社の原告に対する売上高の約80%を占める39種の商品について,被告会社が,従前顧客に対して販売していた価格と原告に対して販売した価格の差の合計を算出し(別紙利益率計算書のうち,「販売単価の差額」の最終列記載の4513万1145円),この数値が被告会社の原告に対する販売価格の合計(同計算書のうち,「原告の被告Fに対する販売額合計」の最終列記載の1億0813万1000円)に占める割合として算出されたものであり,合理的に算出された数値であって,本件製品の利益率としては合理的なものである。
第3 当裁判所の判断
1 事実関係
前記前提事実,証拠(甲1の1から3まで,2から4まで,6,7,8の1から4まで,9の1から5まで,10の1の1から3まで,10の2の1から3まで,10の3の1から3まで,10の4の1から3まで,10の5の1から3まで,10の6の1及び2,10の7の1から3まで,10の8の1から3まで,10の9の1から3まで,11,13から15まで,17,18,20,21,23の1及び2,23の3の1から3まで,23の4及び5,24の1の1から3まで,24の2の1から3まで,26から29まで,乙1,2,5から8まで,9の1から3まで,10,11の1及び2,12,13,15から23まで,24の1及び2,25の1及び2,26の1及び2,27から37まで,証人宮城e朗,証人福島f次,証人群馬g,原告代表者兼②事件被告青森)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) 被告会社は,平成13年11月14日当時,スイスに本社があるAの子会社であり,その代表取締役は被告青森であった。
被告青森は,同日,Aの副社長であったDより,「Partnership proposal」と題するEメール(甲1の1)の送信を受け,契約当事者を原告として,被告会社との間で,以下の内容の本件契約を締結した。
① 顧客と数量
原告は,すべての小口顧客(販売店として1回の販売が50個以下の顧客)を担当し,エージェント(代理人あるいは取次人)としては,新規顧客の場合には300個から500個以上も扱うことができる。
また,1000個以上の取引を希望する顧客が原告にできた場合は,Aが被告会社を通じて直接販売を担当し,原告にコミッションを支払うこととする。
なお,原告が担当する小口顧客については,顧客リストを同Eメールに添付する。
② 担当地域 日本国内及び韓国の一部とする。
③ 取扱商品 すべてのA取扱製品
④ 在庫 原告は標準品の在庫を保持する。
⑤ 価格
原則として,同Eメールの別添のPEX価格表(甲1の3,乙9の3。ただし,甲1の3には,被告青森の業務用の使用印が押印されている。)のとおり。
⑥ 代金支払期日 ネット60日
⑦ 有効期間
平成14年1月1日から平成15年12月31日まで。ただし,平成14年12月31日までに本件契約が終了しない場合は,次の2年間延長される。
なお,本件契約書の末尾には,Aの副社長であったDの署名があるものの,被告青森の署名はない。
(2) Dは,平成13年10月24日,岩手c男に対し,「List of small customers with turnover」(売上における小口顧客のリスト)と題するEメール(乙6)を送信し,宮城e朗(以下「宮城」という。)とともに被告会社における中小売上高の顧客リストを見て,被告会社が保持すべきと考える顧客を明示して回答するよう求めた。なお,上記Eメールには,「LIST OF CUSTOMERS WITH SMALL QUANTITIES」と題するリスト(ただし,丸印等の記載がない状態のもの。乙8)が添付されていた。
これに対し,岩手c男は,同月26日,Dに対し,「List of small to midium customer」(中小顧客のリスト,乙7)と題するEメールを送信し,被告会社としては,原則としてリストにあるすべての顧客を取り扱いたいと考えていること,どうしてもということであれば,大学や高校関連の顧客及び同リストの顧客番号103,143,160及び169の顧客を譲ってもよい旨回答した。
被告青森は,平成13年11月末ころ,被告会社の従業員に対し,平成14年1月1日から原告の営業を開始すること,同日以降,被告会社の上位20社のキーカスタマーについては,そのまま被告会社が販売を担当し,それ以外の顧客については,原告が販売を担当する旨説明し,その後,被告会社が担当する顧客について,リストを示した。ただし,このリストには,当時被告会社の上位20社に入る顧客であったK株式会社や株式会社L堂(以下「L」という。)等は含まれていなかった。
(3) 被告青森は,平成13年11月30日,原告を設立し,代表取締役に就任した。
(4) 被告会社は,平成13年12月10日,営業部長として山形を採用した。なお,被告青森は,同年9月ころ,株式会社Gインターナショナルより,山形について紹介を受けており,採用面接にも立ち会っている。山形は,平成15年5月に被告会社を解雇されるまでの間,被告会社の代表権を有していたことはない。
その後,被告青森は,平成13年12月31日をもって,被告会社代表取締役を退任し,平成14年1月8日,秋田が後任の代表取締役に就任した。秋田の代表取締役就任の登記は,翌9日付けでされている(なお,被告青森の代表取締役の辞任登記は,平成12年3月30日付けでされている。)。なお,秋田は,平成14年3月13日に代表取締役を辞任し,さらにA・aが同日代表取締役に就任している。
被告青森は,自己の後任として秋田が就任することについて,被告青森が被告会社の代表取締役を辞任する以前から知っていたが,秋田に対し,代表取締役の業務の引継ぎを行わず,営業部長山形に対し,引継ぎを行った。
(5) 被告青森は,平成13年12月25日ころ,上記(2)で示したリストを基に,被告会社が直接販売を担当するキーカスタマーを示すリストとして,甲4の原案を作成し,被告会社の従業員に清書させた上で,被告青森の使用印を押印した。
また,被告青森は,同月,被告会社の名義で,「A製品ご愛用者各位」と題する書面(乙2,以下「本件書面」という。)を作成し,これを被告会社の小口顧客に宛てて送付した。本件書面には,被告会社の親会社が別会社の企業グループに買収されたことから,我が国における被告会社の事業も再編成され,そのためスイスの親会社の直轄で本件製品を輸入,検査,加工,品質保証を担当する部門と販売部門とに分割し,責任分担の明確化を図るため,販売担当の組織として,新しく原告が設立され,独立運営されることとなった旨の記載がある。なお,被告青森は,本件書面を作成,送付することについて,被告会社はもとより,その親会社の承認等を得ていない。
(6)ア 被告青森は,原告を設立するに当たり,被告会社の当時の事務所と同一場所に事務所を設置した。
その後,被告会社は,平成14年1月ころ,東京都港区に被告会社事務所を移転した(本件訴訟提起時の被告会社事務所)が,その際,被告会社において使用していた机や椅子等の廃棄予定の備品及び被告会社の電話番号,FAX番号について,原告が譲り受けた。ただし,原告は,この譲渡につき,被告会社代表者秋田の承諾を得ていない。
イ その後,原告は,被告会社の在庫情報を把握する目的で,平成14年2月ころ,山形の承諾を得て,移設された被告会社の事務所との間にオンラインシステムを敷設した。ただし,このオンラインシステムは,被告会社の在庫状況のみならず,被告会社における商品管理に関するすべての情報(仕入価格,個別の顧客に対する販売価格,利益率等)を閲覧できるというものであった。
なお,上記オンラインシステムの敷設は,本件契約の合意内容には含まれておらず,被告会社代表者秋田あるいは被告会社の親会社の承諾を得たこともない。
(7) 原告は,山形との間で,平成14年2月7日,「Purchase Agreement」(購入合意書,甲3)を締結し,Aの販売代理店としての原告と被告会社との間で,被告会社がAから輸入した本件製品及び備品等の引渡し条件について定めた。ただし,上記合意書を締結するにあたり,被告会社代表者秋田や,Aが承諾したことはない。
(8) 被告会社は,被告青森が代表取締役に在任中であった平成13年12月13日,Eに対し,伝票印刷機等の見積もりを算定させたほか,同月20日,かかる印刷機等を注文した。Eは,同月28日,被告会社に対し,上記印刷機等の代金として,72万1970円を請求し,そのころ,被告会社は上記金額を立て替えて,Eに支払った。その後,被告会社は,平成14年1月24日,原告に対し,上記立替金72万1970円を支払うように請求したため,原告は,同年3月5日,同額を被告会社に対して支払った。
原告は,同年3月29日,上記(6)イのオンラインシステムを更新し,同年4月25日,その費用107万8712円のうち,53万9280円(税込)を被告会社に支払うよう請求するとともに,同月26日,107万8712円をEに支払った。
(9) Dは,平成14年5月30日,山形に対し,「Fw:a Aomori Proposal 2 copies signed by a Aomori. doc」(転送,被告青森署名の同被告への提案書2通)と題するEメール(乙10)を送信し,本件契約書と同内容のファイルを添付して,本件契約の内容と被告青森及び被告会社における本件契約の運用が一致するかどうか確認することを指示した。
なお,上記Eメールに添付されているファイルの内容は,本件契約書と同一のデータ(乙9の1)であり,さらに同データには,「LIST OF CUS-TOMERS WITH SMALL QUANTITIES」(小口顧客リスト,乙9の2)及び「TRANSFER PRICES」(取引価格,乙9の3)が添付されていた。
また,被告青森は,同年5月ころ,Dほか1名と会食した際,同人らから,被告会社が担当すべき顧客中にH等が含まれていない旨苦情を述べられた。
(10) 本件被告会社訴訟代理人は,平成14年8月28日,原告に対し,本件通知を送付し,そのころ,本件通知は原告及び被告青森のもとに到達した。
また,同日,被告会社は,山形の名前において,「A製品発注先変更のお知らせ」(甲7)を顧客に対して送付した。同書面には,本件製品を原告を通じて販売していたところ,諸般の事情により,原告との販売代理店契約を解消することとなったため,当面は被告会社に直接本件製品を発注してほしい旨記載がある。
さらに,被告会社は,同日,原告との間で敷設されていたオンラインシステムを切断し,原告が使用できないようにする措置をとった。なお,原告は,同日以降,オンラインシステムを利用することはできなくなったものの,同月以降,Eとの間で締結されていたオンライン契約を解除した平成15年5月までの間,Eに対し,オンライン使用料として,毎月13万5849円ずつ,合計122万2641円を支払った。
(11)ア 本件原告及び被告青森訴訟代理人は,平成14年9月4日,上記の本件通知に対する「回答書」(甲13)を送付し,本件通知の記載内容に対して反論した。
イ また,同訴訟代理人は,同日,当庁に対し,本件仮処分命令申立て(当庁平成14年(ヨ)第3621号仮処分命令申立事件)を行い,同裁判所は,同年9月25日,本件仮処分命令を発令した。
そこで,被告会社は,同月26日から原告との間の取引を再開し,平成15年12月末日に原告との取引を終了するまでの間,本件仮処分命令に従い,原告の注文を受けた場合には,本件製品を原告に納品し,代金を受領していた。その代金合計額は,1億4124万7841円(税抜)である。
ウ その後,原告は,平成15年8月18日,被告会社に対し,本件訴訟(①事件)を提起した。
(12)ア 原告は,平成15年11月11日,被告会社に対し,I株式会社(以下「I」という。)からの内示注文として,本件製品200台を発注した。被告会社の福島f次(以下「福島」という。)は,同日,スイスのAに発注をしたものの,平成15年内に納品することはできない旨回答されたことから,被告青森に対してEメール(甲26)を送信し,現在被告会社には在庫がなく,工場での生産枠が平成16年初旬まで入っており,対応できず,注文の納品については平成16年1月以降になるので,注文に対する回答は保留することとし,被告会社としては,本件仮処分命令の有効期間内に販売することが可能な注文については応じるものの,納品時期が平成16年1月以降となるものが明白な注文については回答を保留する旨回答した。
イ その後,Iは,同年12月2日,原告に対し,本件製品200台を正式に注文し,その納期を平成16年1月23日に80個,同年2月20日に80個,同年4月15日に40個と指定したことから,原告は,平成15年12月5日,被告会社に対し,上記注文について問い合わせを行った。これに対し,福島は,同月9日,被告青森に対してEメール(甲27)を送信し,一部の注文については在庫があり,あるいは発送予定であるが,残りの注文については新規発注になり,新規発注分については,原告への納品が平成16年1月以降となるので,本件契約の状況によって取り扱いが微妙となる旨回答した。
さらに,福島は,平成15年12月22日,被告青森に対してEメール(甲28)を送信し,一部の本件製品については出荷する予定であり,その他の本件製品については在庫がなく,新規発注となり,新規発注分については,原告への納品時期が平成16年2月以降となるが,平成16年1月以降は,原告との本件契約の内容が不確定であるから,被告会社としても動きようがないので,在庫がないものについては,原告からの注文については回答を保留する旨回答した。
ウ 原告は,被告会社より本件製品200台の納品を受けることができなかったため,Iは,平成16年1月30日,原告に対してEメール(甲23の4)を送信し,上記の注文をキャンセルし,被告会社に直接注文をする旨通知した。また,Iは,同年2月2日にも,原告に対し,「DCモーターの注文取消のお願い」(甲23の5)を送付し,上記注文を取り消す旨通知した。
(13) 被告会社は,平成15年12月22日,原告に対し,「通知書」(甲29)を送付し,本件仮処分命令が定める本件製品の引渡し期間が同年12月31日までとされていることから,平成16年1月1日以降は原告への本件製品の納品は行わない旨通知した。
(14)ア 被告会社は,平成15年12月,原告に対し,本件製品等を合計192万1127円(税込)で売却したほか,平成16年1月にも本件製品等を合計454万5604円(税込)で売却したものの,原告は,上記代金合計646万6731円の支払をしていない(争いがない)。
イ 原告は,平成15年12月,被告会社に対し,A社製のモーター部品等を合計45万6845円(税込)で売却したほか,平成16年1月にも同部品等を合計3万9281円で売却したものの,被告会社は,上記代金合計49万6126円の支払をしていない(争いがない)。
(15) 原告は,平成16年1月3日,被告会社に対し,本件製品650台を発注した。なお,これは,原告が平成15年9月16日及び12月18日にLから注文を受けていたものである。
しかし,被告会社は,上記の原告の注文を拒否したことから,Lは,平成16年1月23日,原告に対し,上記の注文をキャンセルし,直接被告会社に発注する旨の記載がある書面(甲24の3)を送付した。
2 争点の判断の順序について
原告は,①事件の本訴請求のうち,確認請求について,争点(1)の原告の主張のとおり主張するが,本件契約に対する被告会社の解除の意思表示が有効であれば,争点(1)について判断するまでもなく,原告の上記確認請求は理由がないことになる。そこで,まず,争点(2)について判断する。
3 争点(2)(被告会社がした本件契約の解除の意思表示の効力)について
(1) 被告会社の主張する解除事由について,以下検討する。
ア 本件契約内容に反する告知及び運用について
(ア) 1の認定事実によれば,被告青森は,被告会社代表者在任中である平成13年12月の時点で,平成14年1月より後任の代表者として秋田が就任することを知っていたが,同人に対し,代表者としての業務の引継ぎを全く行わず,他方,平成13年12月10日に営業部長として採用した山形に対し,同人には代表権がないということを認識していたにもかかわらず,代表者としての業務を引き継いだ。
また,被告青森は,被告会社従業員の再三にわたる要求にもかかわらず,本件契約の内容を山形ら従業員に対して開示していない。
(イ) 被告青森は,本件契約において,被告会社が販売を担当するキーカスタマーのリストを,被告会社に無断で,「LIST OF CUSTOMERS WITH SMALL QUANTITIES」(甲1の2)に差し替え,また,平成13年11月末ころ,被告会社の従業員に対し,「20 Key Customers in Japan」(甲4)を示して,本件契約の趣旨に反する運用をしていたと認めるのが相当であり,その理由は,次のとおりである。
1の認定事実のとおり,本件契約書のうち,「Partnership proposal」(甲1の1)及び本件契約書添付の送料リスト(甲1の3)については,被告青森が被告会社において使用していた使用印により「PJ 13.11.14青森」と押印されているものの,原告が本件契約書に添付されていたと主張する小口顧客リストのみには,上記の押印がされていないことが認められる。また,1の認定事実によれば,平成14年5月30日にDが山形に対して送信したEメール(乙10)には,本件契約書と同内容のファイルデータ(乙9の1)が添付され,さらに乙9の1のファイルデータには,小口顧客リスト(乙9の2)及び送料リスト(乙9の3)が添付されており,そのうち,本件契約書(甲1の1)と乙9の1は,本件契約書にDの署名があるほかは,多少の書き込みがある点を除いて同内容であり,送料リストについては,本件契約書に添付された甲1の3と乙9の3とは,全く同内容であることが認められるものの,小口顧客リストについては,甲1の2では,J,K株式会社及びLが原告の販売担当先とされているのに対し,乙9の2では,J,K株式会社及びLについては原告の販売担当先ではなく,原告がエージェントとして担当できるだけであるとされており,甲1の2と乙9の2では内容が異なっている。なお,原告が本件契約書に添付されていたと主張する甲1の2は,Dが平成13年10月26日に被告青森に対して送信した「List of small customers with turnover」(売上における小口顧客のリスト)と題するEメール(乙6)に添付されていたリスト(乙8)であって,顧客振分けの検討に用いたもの(証人宮城)と同一のものである。
以上のとおり,甲1の2の小口顧客リストについては,被告青森の使用していた使用印による押印がなく,また,乙9の2と内容が異なり,むしろ乙8と同内容であり,さらに原告代表者兼被告青森は,本件契約時に乙9の2のリストももらった可能性を示唆する旨の供述をしているなどの事情があり,これらの諸事情によれば,本件契約書に当初から添付されていた小口顧客リストは,甲1の2ではなく,乙9の2であったが,被告青森が,本件契約の小口顧客リストを差し替えたと認めるのが相当である。
また,原告は,被告会社から,被告会社が担当すべきキーカスタマーとして,甲4のリストを示された旨主張するが,原告代表者兼被告青森は,かかる甲4のリストを被告会社の誰から示されたものか,曖昧な供述しかできず,そもそも上記リスト自体,被告青森が書いたものを被告会社の従業員に清書させたものにすぎず,結局は被告青森が自らのために作成したもの同様というべきである上,上記リストは,被告会社が担当すべきキーカスタマーであるのにもかかわらず,乙9の2のリストにおいて上位9社に入るLやJなどといった顧客については,1社も記載がなく,むしろ現在取引なしとされている会社が記載されており,本件契約の趣旨に照らせば,このようなリストを被告会社が作成することは不自然であるし,被告会社が作成したのであれば,スイスの親会社の承認を得るべく,英文で作成しているはずであるが,甲4のリストの英文によるものは存在しない等の事情があり,これらの諸事情に照らせば,甲4のリストは,被告会社が作成して被告青森のもとに送付したものではなく,被告青森が作成したものと認めるのが相当であり,これを覆すに足りる証拠はない。
なお,原告は,被告会社から,平成14年3月及び5月,それぞれ被告会社が担当すべきキーカスタマーを変更するよう申し入れられ,その具体的内容として,甲5の1及び2をそれぞれ示された旨主張するが,これらについても,ほぼ甲4のリストと内容が重複する上,英文で作成されたものは存在せず,かつ,被告青森が甲4のリストを作成したことなどを考慮すれば,これらもまた被告青森が作成したと認めるのが相当であり,上記主張を認めるに足りる証拠はない。
そして,上記の事実及び証拠(甲5の1及び2,原告代表者兼被告青森)によれば,被告青森が示したところに従い,甲5の1及び2のリスト記載の顧客を対象に販売活動をしていたものと認められる。
したがって,被告青森は,本件契約の小口顧客リストを差し替え,この内容と異なるリストを被告会社従業員に示すなどして,本件契約の趣旨に反する運用をしていたものというべきである。
(ウ) 支払方法について
被告会社は,本件契約において,代金の支払期日が「ネット60日」とされており,本件契約書はスイス所在の被告会社の親会社との間で英文で締結されたものであるから,その解釈においても国際基準が適用されるべきものとし,したがってかかる条項の意味としては,請求書を発行した日から60日以内である旨主張する。
しかし,被告会社は,本件訴訟に至るまで,この運用について何ら異議を述べていなかったのであるから,被告会社は,このような支払方法について,黙示のうちに合意したものと認めるのが相当である。
なお,原告代表者兼被告青森によれば,被告青森は,平成14年3月ころ,山形との合意により,請求額の2分の1については約束手形により決済することを合意したなどと供述し,被告会社は,これが支払条件違反である旨主張するが,被告会社は,本件訴訟に至るまで,何ら異議を述べていない以上,被告会社の黙示の合意があったと認めるのが相当である。
したがって,支払方法について,原告に債務不履行があるということはできない。
(エ) 加工作業について
被告会社は,被告青森は山形に誤信させて,被告会社の負担において加工技術者を雇用させたなどと主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。
イ 販売活動義務の懈怠及び被告会社の販売活動の妨害について
(ア) 被告会社は,原告が,被告会社から独占販売権を与えられた販売代理店でありながら,平成14年1月から8月までの間,何ら新規顧客を開拓せず,販売実績が上がらなかった旨主張する。
しかし,原告に販売拡大活動を行う債務があったとしても,被告会社が主張する上記期間は8か月間であり,原告が新規顧客を獲得するにしても,直ちに大きな結果を求めるのは過剰な期待に過ぎると考えられるし,原告に上記債務について債務不履行責任を問わなければならないほどの事情はうかがえない。
(イ) 1の認定事実によれば,被告青森は,平成13年12月,被告会社の名義で,本件書面を作成し,これを被告会社の小口顧客に宛てて送付したこと,本件書面では,被告会社の親会社が別会社の企業グループに買収されたことから,我が国における被告会社の事業も再編成され,そのためスイスの親会社の直轄で本件製品を輸入,検査,加工,品質保証を担当する部門と販売部門とに分割し,責任分担の明確化を図るため,販売担当の組織として,新しく原告が設立され,独立運営されることとなった旨の記載があることが認められる。
本件契約書においては,被告会社のキーカスタマーに対する販売を被告会社が担当し,それ以外の小口顧客に対する販売を原告が担当するものとし,その目的は営業活動の効率化による顧客拡大にあるものであるのに対し,本件書面の記載内容は,被告会社の業務を本件製品の輸入,加工等の部門と販売部門とに分割し,被告会社においては前者を扱い,原告においては後者を担当し,販売担当の組織として設立されたという趣旨が記載されているのであって,本件書面の内容は,本件契約の趣旨あるいは実体に合致していないものというべきである。
このような本件契約の趣旨あるいは実体に合致しない本件書面を顧客に送付することは,顧客に対して誤解又は事実誤認を生じさせることになるから,本件契約の趣旨に反する行為というべきであり,債務不履行を構成する。
なお,原告は,本件書面の作成に関し,山形や岩手c男らと協議し,その承諾を得ていた旨主張するが,被告青森は,前示のとおり,山形らに被告会社の代表権がないことを認識していたのであるから,同人らの承諾があったことをもって,被告会社の承諾があったということはできない。
また,原告は,本件書面の送付先が,原告が担当することとされた小口顧客に対してのみである旨主張するが,本件で問題となるのは,誰に対して本件書面を送付したかではなく,送付した本件書面の内容それ自体であるから,その内容が本件契約の趣旨に反するものといえる以上,原告の上記主張は失当である。
(ウ) また,被告会社は,原告が被告会社と同じ場所に事務所を設置し,被告会社の営業を妨害したため,被告会社においては事務所を移転せざるをえなくなり,原告に事務所を乗っ取られたこと,被告会社が移転する際,廃棄予定であった机,椅子などの備品や,被告会社が使用していた電話番号,FAX番号などを不当に取得した旨主張する。
しかし,本件証拠を検討しても,被告会社の事務所の移転に至った原因が原告による営業の妨害であると認めることはできないし,原告が被告会社の事務所を乗っ取ったと認めるに足りる証拠はない。また,被告会社が使用していた備品は,廃棄が予定されていたのであり,被告会社において,原告が使用を継続することについて,被告会社が異議を述べたと認めることはできず,その所有権を放棄したものとみることもでき,不当な取得とまではいうことができない。電話番号及びFAX番号についても,被告会社の移転先の事務所の場所においては,市外局番が変更されることとなっていたのであり,被告会社には,当該電話番号及びFAX番号を保持しておく利益がなかったということができる。そうであれば,原告がそれをそのまま使用したとしても,被告会社が同電話等の利用料金を負担し続けていたなどの事情があれば格別,そのような事情が認められず,被告会社が原告に対してこの点に関して異議を申し入れているとも認められない以上,被告会社は,原告がかかる電話番号等を継続使用することについて,黙示の承諾を与えたというべきである。よって,原告が電話番号等を不当に取得したとまではいうことができない。
(エ) さらに,被告会社は,平成14年1月以降においても,被告青森は,顧客に対し,被告会社の販売部門が原告に変更されたと説明した旨主張するが,これを認めるに足りる証拠はなく,上記主張を採用することはできない。
また,被告会社は,平成14年4月,モーターの展示会に出展した際,原告が被告会社と同じ展示ブースを使用し,被告会社が担当すべき顧客も含めて無差別に営業活動を行った旨主張するが,これを認めるに足りる証拠はなく,やはり上記主張を採用することはできない。
ウ 在庫引取義務の懈怠について
被告会社は,原告との間で約1億円相当の在庫を引き取る旨合意したと主張するが,本件契約書にはそのような条項は見あたらない上,その他本件全証拠によっても,上記合意が原告との間でされたものと認めることはできない。
エ 原告と被告会社の関係の悪用について
上記アで説示したとおり,被告青森は,秋田に対しては被告会社代表者の業務引継ぎを何ら行っておらず,営業部長にすぎない山形に対して業務引継ぎを行っている。被告青森は,被告会社の代表取締役であったのであるから,退任する際には,被告会社の業務の停滞を未然に防ぐため,会社に対する忠実義務(商法254条の3)の内容として,後任者が未定であるなどの特段の事情がない限り,後任者に対して自己の担当する業務を引き継ぐべき義務を負うものと解され,特に本件のように,被告会社において代表権を有していた被告青森が新規に原告を設立し,被告会社が担当していた顧客の一部に対して独占販売権を持つ本件契約を締結した場合には,被告会社との間では利益相反が生じることもあり得るのであるから,通常の引継ぎの場合にも増して,より適切に業務を引継ぐことが要求されているものというべきであるにもかかわらず,前示のとおり,被告青森は,代表権のない山形との間で業務の引継ぎを行ったにすぎないから,適切な業務引継ぎを行ったとはいいがたく,被告会社に対する忠実義務に違反したというべきである。
また,前示のとおり,原告は,被告会社との間で,平成14年2月ころ,オンラインシステムを敷設しているところ,このオンラインシステムにあっては,単に被告会社における本件製品の在庫状況を把握できるのみならず,被告会社における仕入価格,個別の顧客に対する販売価格,利益率等,商品管理にかかる機密情報についても閲覧できるものであり,上記オンラインシステムを敷設することについては,本件契約の内容とされていないし,かつ,原告は,代表権のない山形の了解を得たにすぎないから,これについて被告会社が承諾したということはできない。そうすると,オンラインシステムの敷設は,専ら被告青森が,原告の業務の便宜のため,被告会社の承諾を得ることなく設置したというべきである。
オ 被告会社の業務への過干渉について
原告代表者兼被告青森の供述によれば,被告青森は,被告会社を退職して,原告代表者となった後も,被告会社に度々足を運んだと認められるが,本件全証拠を検討しても,被告青森が,被告会社の業務に干渉したと認めることはできない。
また,被告会社の人事に干渉したとする点についても,原告代表者兼被告青森の供述によれば,被告青森は,被告会社が加工技術者3名を解雇する際に意見を述べたことを認めることができるものの,被告青森が,被告会社従業員の面前で山形を罵倒したことなどを認めるに足りる証拠はない。その他,被告青森が被告会社の人事に干渉したことを認めるに足りる証拠はない。
(2) 以上の検討によれば,被告青森は,被告会社との取引を有利に運ぶため,被告会社の代表者としての業務を,後任の秋田ではなく,営業部長にすぎない山形に引き継いだ上,本件契約において被告会社が販売を担当するキーカスタマーのリストを無断で差し替えるとともに,被告会社の従業員に対し,真実と異なるリストを示して,本件契約の趣旨に反する運用をし,また,原告は本件契約の趣旨に反する本件書面を顧客に送付したり,オンラインシステムの敷設により,被告会社における本件製品の在庫状況のみならず,営業機密に関する情報を閲覧可能にしたりしたことが認められ,これらの諸事情によれば,原告には債務不履行があり,かつ,被告会社と原告との信頼関係が破壊されたと認めるに足りる重大な事由があるものというべきであり,被告会社が平成14年8月28日にした本件契約の解除の意思表示は,有効であるというべきである。
したがって,争点(1)について判断するまでもなく,原告の①事件本訴請求のうち,確認請求については,理由がないというべきである。
4 争点(3)(被告会社の債務不履行責任及び不法行為責任)について
3に検討したとおり,被告会社による本件契約の解除の意思表示は有効であり,これを理由にして,被告会社が原告から発注された本件製品の引渡しを拒んだことや,原告の取引先に対し,「A製品販売に関する原告との代理店契約を解消することになったので,新規代理店が決定するまで,被告会社に直接注文して欲しい」旨の書面(甲7)を平成14年8月28日付けで送付したことには違法性がない。また,原告が敷設したオンラインシステムについては,被告青森が,被告会社の承諾を得ることなく敷設したものであるから,被告会社がこれを中止させたことは正当である。
したがって,被告会社による以上の行為をもって,債務不履行又は不法行為が成立するということはできない。これを理由とする原告の損害賠償請求は,理由がない。
5 争点(4)(被告会社から,原告に対する,平成15年12月及び平成16年1月に販売した本件製品の未払代金及び遅延損害金の支払請求)について
(1) 1の認定事実によれば,被告会社と原告との間の平成15年12月1日から同月31日までの間にかかる本件製品及びその部品等の売買により,被告会社は原告に対し,192万1127円の代金債権を取得し,他方原告は,被告会社に対し,45万6845円の代金債権を取得したこと,平成16年1月1日から同月31日までの間の売買により,被告会社は原告に対し,454万5604円の代金債権を取得し,他方原告は,被告会社に対し,3万9281円の代金債権を取得したこと,被告会社の代金債権の弁済期は,前者が同年1月31日で,後者が同年3月1日(同年2月29日が日曜日であるため,1日後が支払期日となる。)であることなどが認められる。
そして,被告会社は,原告に対し,平成16年4月19日の本件第5回弁論準備手続期日において,被告会社の原告に対する192万1127円の代金債権(元本)をもって,原告の被告会社に対する45万6845円の代金債権と相当額において相殺し,被告会社の原告に対する454万5604円の代金債権(元本)をもって,原告の被告会社に対する3万9281円の代金債権と相当額において相殺するとの意思表示をしたことは当裁判所に顕著であるから,被告会社の原告に対する代金債権は,それぞれ146万4282円及び450万6323円の合計597万0605円となる。
(2) その上で,原告は,上記597万0605円と,原告が被った損害のうち,1319万7596円の損害賠償請求権をもって,対等額で相殺する旨主張するが,前示のとおり,被告会社の解除は有効であって,被告会社に債務不履行があることを前提とする損害の主張は失当であるから,原告には自働債権がなく,相殺適状にはないというべきである。よって,この点に関する原告の主張には理由がなく,他方,被告会社の反訴請求は,内金454万5604円について,平成16年3月1日から商事法定利率年6%の割合による遅延損害金の支払を求める点は理由がないが,同月2日からの遅延損害金の支払及びその余の請求については,いずれも理由がある。
6 争点(5)(原告による本件仮処分申立てにかかる不法行為の成否)について
(1) 前示のとおり,被告会社がした本件契約の解除の意思表示は有効であるから,本件仮処分申立て時において,原告は,本件契約に基づき,被告会社から本件製品の引渡しを受けるべき地位にはなかったというべきであり,したがって,原告は,本件仮処分命令における被保全権利を本件仮処分申立て時に有していなかったというべきである。
(2) 1の認定事実によれば,被告青森は,原告及び被告青森の利益を図る目的で本件書面を顧客に対し送付し,また,被告会社従業員に対し,前記のリストではなく,甲4のリストを示して,これが被告会社が担当すべきキーカスタマーである旨説明し,運用したこと,被告青森は,被告会社の後任の代表取締役とされていた秋田に対してではなく,営業部長たる山形に対し,被告会社の被告会社代表者の業務の引継ぎをしていること,被告青森は,被告会社の了解を得ずにオンラインシステムを敷設したこと等の事情が認められ,これらの事情によれば,被告青森は,本件仮処分申立て時において,原告に被保全権利が存在しないにもかかわらず,本件仮処分申立てをしたことについて,少なくとも過失があるものというべきであり,原告代表者たる被告青森に過失があると認められる以上,原告についても過失があるというべきである。
被告青森が,原告代表者として行った本件仮処分申立ては,原告の行為であると同時に被告青森個人としての行為でもあるから,原告及び被告青森は,共同不法行為(民法719条)に基づき,本件仮処分命令の発令により被告会社が被った損害を連帯して賠償する義務があるというべきである。
(3) なお,原告及び被告青森は,被告会社が本件契約を不当に解除したことにより,営業に重大な支障をきたしたため,やむをえず本件仮処分申立てに及んだ旨主張するが,前示のとおり,被告会社による本件契約の解除の意思表示は有効であるから,原告及び被告青森の主張は,採用することができない。
また,原告及び被告青森は,本件仮処分申立ての際に提出された顧客リストが,本件仮処分命令の内容には影響しておらず,損害との因果関係がない旨主張するが,これをうかがうに足りる証拠はなく,原告の上記主張を採用することはできない。
7 争点(6)(被告会社の損害額)について
(1) 1の認定事実によれば,被告会社は,本件仮処分命令に基づき,その期間中,原告に対し,合計1億4124万7841円相当の本件製品を売却したことが認められる。
そして,証拠(乙36)によれば,別紙利益率計算書記載のとおり,平成14年10月から平成15年12月までの間の原告に売却した上位39種につき,被告会社が顧客に対して本件製品を直接販売した際の単価と被告会社が原告に売却した際の単価の単価差額に売却個数を乗じた金額の合計が4513万1145円となること,被告会社が原告に本件製品を販売した際の単価に売却個数を乗じた金額の合計が1億0813万1000円であること,上記の金額の比率を計算すると,約42%となることが認められる。
(2) 被告会社は,上記の42%を上記1億4124万7841円に乗じた5932万4092円が被告会社が直接顧客に対して本件製品を販売した場合の利益予想額であり,これが被告会社の損害である旨主張する。
しかし,1の認定事実によれば,本件契約において,被告会社はあくまでキーカスタマーを担当することとされており,本件契約を解除した平成14年8月28日までは,実際に原告が小口顧客に対する販売を担当していたものであって,本件製品の特殊性から,本件契約の解除後は,小口顧客が被告会社に対して本件製品の発注をすることが見込まれるとはいえ,被告会社において,原告が行った取引を必ず自らも獲得できたということはできず,むしろ,原告の営業努力があってこそ販売できた分がないとはいえない上,被告会社の主張する被告会社が直接顧客に対する本件製品の販売価格についても,あくまで予想にすぎないことからすれば,被告会社の上記主張の金額が直ちに損害となるとはいうことはできない。
以上の諸事情を考慮すれば,上記の被告会社の主張の損害額のうち,60%については相当因果関係がある損害と認めるのが相当であり,残りの40%については相当因果関係がある損害ということはできず,他にこれを動かすに足りる事情や証拠はない。
(3)ア 以上を前提に,被告会社の平成14年10月から平成16年1月までの各月ごとの損害額及び遅延損害金について検討すると,平成14年10月の被告会社が直接顧客に対して本件製品を販売した場合の利益予想額は253万8323円であるから,これに60%を乗じた152万2993円が損害となり,これに対する同年11月1日から平成15年12月15日までの遅延損害金は10万2602円となり,平成14年11月の被告会社が直接顧客に対して本件製品を販売した場合の利益予想額は400万1269円であるから,これに60%を乗じた240万0761円が損害となり,これに対する同年12月1日から平成15年12月15日までの遅延損害金は14万9931円となり,平成14年12月の被告会社が直接顧客に対して本件製品を販売した場合の利益予想額は293万8559円であるから,これに60%を乗じた176万3135円が損害となり,これに対する平成15年1月1日から同年12月15日までの遅延損害金は10万1150円となり,同年1月の被告会社が直接顧客に対して本件製品を販売した場合の利益予想額は183万7277円であるから,これに60%を乗じた110万2366円が損害となり,これに対する同年2月1日から同年12月15日までの遅延損害金は5万7625円となり,同年2月の被告会社が直接顧客に対して本件製品を販売した場合の利益予想額は633万3188円であるから,これに60%を乗じた379万9912円が損害となり,これに対する同年3月1日から同年12月15日までの遅延損害金は18万1146円となり,同年3月の被告会社が直接顧客に対して本件製品を販売した場合の利益予想額は283万6291円であるから,これに60%を乗じた170万1774円が損害となり,これに対する同年4月1日から同年12月15日までの遅延損害金は7万2453円となり,同年4月の被告会社が直接顧客に対して本件製品を販売した場合の利益予想額は496万9773円であるから,これに60%を乗じた298万1863円が損害となり,これに対する同年5月1日から同年12月15日までの遅延損害金は11万2248円となり,同年5月の被告会社が直接顧客に対して本件製品を販売した場合の利益予想額は602万3748円であるから,これに60%を乗じた361万4248円が損害となり,これに対する同年6月1日から同年12月15日までの遅延損害金は11万7636円となり,同年6月の被告会社が直接顧客に対して本件製品を販売した場合の利益予想額は165万8470円であるから,これに60%を乗じた99万5082円が損害となり,これに対する同年7月1日から同年12月15日までの遅延損害金は2万7480円となり,同年7月の被告会社が直接顧客に対して本件製品を販売した場合の利益予想額は238万2181円であるから,これに60%を乗じた142万9308円が損害となり,これに対する同年8月1日から同年12月15日までの遅延損害金は3万2188円となり,同年8月の被告会社が直接顧客に対して本件製品を販売した場合の利益予想額は227万1578円であるから,これに60%を乗じた136万2946円が損害となり,これに対する同年9月1日から同年12月15日までの遅延損害金は2万3748円となり,同年9月の被告会社が直接顧客に対して本件製品を販売した場合の利益予想額は561万3443円であるから,これに60%を乗じた336万8065円が損害となり,これに対する同年10月1日から同年12月15日までの遅延損害金は4万2077円となり,同年10月の被告会社が直接顧客に対して本件製品を販売した場合の利益予想額は887万6057円であるから,これに60%を乗じた532万5634円が損害となり,これに対する同年11月1日から同年12月15日までの遅延損害金は3万9395円となり,同年11月の被告会社が直接顧客に対して本件製品を販売した場合の利益予想額は445万7243円であるから,これに60%を乗じた267万4345円が損害となり,これに対する同年12月1日から同月15日までの遅延損害金は6594円となるから,これを合計すると,損害額は3404万2432円となり,遅延損害金の合計は106万6273円となる。
イ 同年12月分の損害については,同月の被告会社が直接顧客に対して本件製品を販売した場合の利益予想額は76万8450円であるから,これに60%を乗じた46万1070円が損害となり,平成16年1月分の損害については,同年1月の被告会社が直接顧客に対して本件製品を販売した場合の利益予想額は181万8242円であるから,これに60%を乗じた109万0945円が損害となる。
(4) 以上によれば,原告及び被告青森は,被告会社に対し,連帯して3559万4477円及び内金3404万2432円に対する平成15年12月16日から,内金46万1070円に対する平成16年1月1日から,内金109万0945円に対する同年2月1日から各支払済みまで,商事法定利率年6%の割合による遅延損害金を支払う義務があるというべきである。
8 以上の次第であるから,本件の①事件についての原告の請求は,いずれも理由がないから,これを棄却することとし,被告会社の同反訴請求は,597万0605円及び内金146万4282円に対する平成16年2月1日から,内金450万6323円に対する同年3月2日から各支払済みまで商事法定利率年6%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度で認容し,その余の反訴請求は理由がないから棄却することとし,②事件についての被告会社の請求は,原告及び被告青森に対し,連帯して,3559万4477円及び内金3404万2432円に対する平成15年12月16日から,内金46万1070円に対する平成16年1月1日から,内金109万0945円に対する同年2月1日から各支払済みまで商事法定利率年6%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度で認容し,その余は理由がないから棄却することとし,訴訟費用に関する仮執行の宣言については相当でないから,これを却下することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・長秀之,裁判官・齋藤清文,裁判官・吉岡正智)
別紙
損害額計算書<省略>
計算書<省略>
利益率計算書<省略>