東京地方裁判所 平成15年(ワ)22261号 判決 2004年10月18日
原告
X1
ほか一名
被告
Y1
ほか二名
主文
一 被告Y1及び被告Y2は、原告X1に対し、各自金三九二二万六一七二円及びこれに対する平成一四年一〇月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告Y1及び被告Y2は、原告X2に対し、各自金三九二二万六一七二円及びこれに対する平成一四年一〇月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らの被告Y1及び被告Y2に対するその余の請求並びに原告らの被告Y3に対する請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを五分し、その二を原告らの負担とし、その余は被告らの負担とする。
五 この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告らは、原告X1に対し、各自金六三三六万三三三六円及びこれに対する平成一四年一〇月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、原告X2に対し、各自金六三三六万三三三六円及びこれに対する平成一四年一〇月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、後記一(1)の交通事故(以下「本件事故」という。)について、死亡したA(以下「亡A」という。)の両親が、加害車両の運転者であった被告Y1及び被告Y1の母である被告Y3に対しては民法七〇九条に基づき、被告Y1の父である被告Y2に対しては自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、それぞれ損害賠償を請求した事案である。
一 前提となる事実(括弧内に証拠を掲示したもの以外は、当事者間に争いがない。)
(1) 交通事故の発生
ア 日時 平成一四年一〇月二六日午後一〇時五五分ころ
イ 場所 東京都杉並区<以下省略>先路上
ウ 加害車両 被告Y1運転の自家用普通乗用自動車(以下「被告車両」という。)
エ 被害者 亡A
オ 態様 被告車両が道路脇駐車場において入出庫操作をしていたことから、自転車で帰宅する途中であった亡Aは、入出庫操作が終了するのを道路脇で待機していたところ、被告車両が暴走して亡Aに衝突し、さらに亡Aを道路脇の壁で押しつぶした。
(2) 被告車両の登録名義等
被告車両の自動車登録においては、「所有者」はエヌ・ティ・ティ・オートリース株式会社と、「使用者」は被告Y2と表示されている(甲五)。被告Y2は、任意保険に加入していたが、三〇歳未満不担保の契約であった(甲一一、一六)。
(3) 相続関係
亡Aは、平成一四年一〇月二七日午前〇時一四分、多発性肋骨骨折を伴う頭蓋・胸腔内臓器損傷により死亡し、両親である原告らがその権利義務を二分の一ずつ承継した。
二 主な争点
(1) 亡Aの損害
(2) 被告Y2は、自賠法三条の「運行の用に供する者」に当たるかどうか。
(3) 被告Y3に本件事故についての注意義務違反があったかどうか。
三 当事者の主張
(1) 争点(1)(亡Aの損害)について
(原告らの主張)
ア 逸失利益 六二九八万七六六六円
本人の将来希望及び雇用均等法の改正を考慮し、亡Aの稼働年齢中に男女差は消失すると考えると、亡Aは、平成一二年賃金センサス全労働者全年齢平均である四九七万七七〇〇円の年収を得ることができたから、生活費控除率を三割とし、ライプニッツ方式により中間利息を控除すると、亡Aの逸失利益は、次の計算式のとおり、六二九八万七六六六円となる。
4,977,700円×(1-0.3)×18.0771=62,987,666円
イ 慰謝料 四〇〇〇万円
本件事故は、平凡な駐車場入出庫操作中の事故であり、通常では死亡事故が起こるはずのない状況下での事故である。常識では全く理解に苦しむ事故である。
亡Aは、前途ある当時一九歳の専門学校生であった。本件事故についての過失は皆無である。無辜の少女の命を無謀な運転により奪った被告Y1の責任は極めて重い。
加害者の過失が悪質で故意といえるほど極めて大きいこと及び被害者感情を考慮すると、四〇〇〇万円が相当である。
ウ 葬儀等費用 六七九万〇二六五円
エ 墓石・墓地永代使用料 五四二万八一三五円
ウ及びエについては、本件が通常の事故ではなく、多数の人々の同情が寄せられ、葬儀に参会した者も多く、また、原告らの亡Aを悼む心、切なるものがあり、特に実費を請求する。
オ 弁護士費用 一一五二万〇六〇六円
アからエまでを合計した金額の一割を請求する。
カ 合計損害額 一億二六七二万六六七二円
(被告らの主張)
ア 逸失利益 二六八〇万七四三五円
被害者が専門学校生の場合、高卒扱いとされていることから、亡Aが得ることができた年収は、平成一三年賃金センサス高卒女子平均である二一一万八五五〇円であり、逸失利益は、次の計算式のとおり、二六八〇万七四三五円となる。
2,118,500円×(1-0.3)×18.0771=26,807,435円
仮に、逸失利益の計算を全労働者平均によってする場合には、算出の計算上高卒者として取り扱い、また、生活費控除率は五割となる。
イ 慰謝料 二〇〇〇万円
被害者感情を考慮しても、本件が過失による事故であることにかんがみると、二〇〇〇万円が相当である。
ウ 葬儀関連費用 一五〇万円
本件事故による死亡と相当因果関係が認められる範囲は、通常生ずべき葬儀関連費用である一五〇万円が上限である。
エ 損害の算定に当たって斟酌すべき事情
(ア) 被告Y1は、原告X1に対し、本件事故による損害賠償債務のうち五〇〇万円について、弁済のために供託した。
(イ) 被告Y1は、原告らからの、月命日には塔婆をあげてほしいという要望に誠意を持って応じてきている。毎月の塔婆をあげるには、塔婆料が一回当たり三〇〇〇円かかり、平成一五年一〇月二七日までの支払合計額は、一万二〇〇〇円である。
(ウ) 被告らは、原告らに対し、平成一四年一〇月二九日、香典として三〇万円支払った。
オ 合計損害額 四七九九万五四三五円
アからウまでの金額を合計し、エの支払済み金額を差し引くと、原告らが請求すべき損害額は、四七九九万五四三五円である。
(2) 争点(2)(被告Y2の運行供用者性)について
(原告らの主張)
本件のようにユーザーがリース契約の形で車を購入した場合、所有権留保の有無にかかわらず、運行供用者はユーザーである。自賠法三条の運行供用者であるかどうかは、その車についての支配権を有し、かつ、その使用による利益を享受しているかどうかによって判定される。
本件は、自家用車として使うための通常のリース契約であり、車検証にも使用者は被告Y2と記載されているから、運行支配、運行利益はいずれも被告Y2に帰属している。
(被告らの主張)
被告Y2は、エヌ・ティ・ティ・オートリース株式会社からリース契約に基づき被告車両の使用許諾を受けた者であって、所有者ではない。被告Y1は、被告Y2に無断で被告車両を運転したのであるから、被告Y2には、運行供用者としての具体的な運行支配が認められない。
(3) 争点(3)(被告Y3の本件事故についての注意義務違反の有無)について
(原告らの主張)
被告Y3は、被告Y1の母親として、被告Y2とともに被告Y1を指導監督し、運転に慣れない被告Y1が無断で被告車両を持ち出して軽率な運転をすることがないように努める義務があった。被告Y1は、運転初心者で未成年であり、こうした若年者の場合、興味半分に親の車を黙って持ち出しては慣れない運転をする可能性が高く、実際も被告Y1はそうしていた。しかし、被告Y3は、こうした状況を知りつつ、被告Y1に合鍵を持たせて放置したまま、親として何らの指導も行わなかった。
(被告らの主張)
被告Y3に、被告Y1が被告車両を持ち出して軽率な運転をすることがないようにつとめる義務があったとの主張は、争う。被告Y1は、本件事故当時一九歳であり、被告Y3は、法律上の責任を構成するだけの注意義務は何ら有していない。仮に被告Y3に親としての道義的な監督責任があったとしても、被告Y3が被告Y1に対して合鍵を持たせたという事実はなく、手紙を渡して注意を促す等の指導は行っていたのであり、親としての道義的な監督義務は十分に果たしていたものである。
第三争点に対する判断
一 争点(1)(亡Aの損害)について
(1) 逸失利益 四五九五万二三四五円
原告らは、亡Aの死亡逸失利益を算定するに際しては、全労働者全年齢平均賃金を基礎とすべきであると主張する。
しかし、義務教育を修了した後は、一般に将来の進路、職業選択についての希望や予定がある程度具体化するであろうから、あらゆる職種に就く可能性を前提にした全労働者の平均賃金を用いる根拠が薄弱化することは否定できないし、未就労であったことのみをもって、現在の女性の賃金水準を反映したものではない全労働者の賃金水準で算定すると、既に就業した同年代の若年労働者の逸失利益の算定方法との均衡を失することになりかねない。
証拠(甲九、一一、一六)及び弁論の全趣旨によれば、亡A(昭和○年○月○日生)は、平成一四年三月に私立大妻多摩高等学校を卒業し、同年四月にa専門学校芸術専門課程放送芸術科に入学し、平成一六年四月に卒業することが見込まれ、その後生涯を通じて全年齢平均賃金程度の収入を得られる蓋然性が認められる。
そうすると、亡Aの死亡逸失利益としては、死亡した年である平成一四年の賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・女子労働者高専・短大卒の全年齢の平均年収である三八三万三四〇〇円を基礎収入とし、三割の生活費を控除し、就労の終期(六七歳)までの年数四八年に対応するライプニッツ係数である一八・〇七七一と本格的な就労の始期(平成一六年四月以降と認められる。)までの年数一年に対応する〇・九五二三を用いて中間利息を控除すると、次の計算式のとおり、四五九五万二三四五円となる(円未満切り捨て)。
3,833,400円×(1-0.3)×(18.0771-0.9523)=45,952,345円
なお、証拠(甲九、一三、一六、一九ないし二一、原告X1本人)によれば、亡Aは、平成一六年三月にa専門学校芸術専門課程放送芸術科を卒業後、姉妹校のb大学メディア学部に編入することを望んでいたこと、a専門学校においては、推薦によるb大学への編入制度を設けていたこと、編入の推薦選考試験の受験資格の一つとして、「成績優秀(平均点八〇点以上)・出席良好な者」という要件があるところ、亡Aの平均点は九五・四点で、授業日数のすべてに出席していたことが認められるが、他方、証拠(甲一九、二〇)及び弁論の全趣旨によれば、推薦選考試験の合格率は約五割であったこと、平成一六年四月のb大学への編入については、亡Aが所属していた芸術専門課程放送芸術科は、推薦選考の対象とされていなかったことが認められ、これらを総合すると、亡Aについて、大学に編入する蓋然性があったとまでは認められない。
(2) 慰謝料 二五〇〇万円
ア 証拠(甲一一)並びに上記前提となる事実によれば、次の各事実が認められる。
被告Y1は、平成一四年九月一三日、東京都公安委員会から、普通第一種運転免許を取得した。
被告Y1は、運転技術の向上のため、平成一四年一〇月二六日午後一〇時三〇分ころ、被告車両で、運転の練習に出かけた。被告Y1は、甲州街道を新宿方面から調布方面に進行し、京王線桜上水駅の踏切を渡って帰宅しようとしたが、道を間違えて京王線沿いの狭い路地に入ってしまったため、Uターンできる場所を探しながら進行した。被告Y1は、左側に、二台分が空いている駐車場を発見し、駐車場内で入出庫操作をすることによってUターンをしようとし、空いている場所に向けて後退したところ、駐車中の他の自動車に衝突しそうになった。そこで、被告Y1は、後退を停止し、前進したところ、被告車両の右前部を道路脇の鉄製塀に衝突させ、被告車両が同鉄製塀に引っかかった。被告Y1は、前進して被告車両を動かそうとしたが、被告車両は、鉄製塀に引っかかったまま動かなかった。
被告Y1は、その際、左前方に、亡Aが、自転車から降りて佇立し、被告Y1の入出庫操作を待っているのに気付いたが、被告車両を動かそうとして、ハンドルを左に切り、アクセルを思い切り踏んだ。すると、被告車両は、急発進して亡Aに衝突し、更に左前方の民家のブロック塀に亡Aを押し付け、亡Aを押しつぶした。亡Aは、平成一四年一〇月二七日午前〇時一四分、多発性肋骨骨折を伴う頭蓋・胸腔内臓器損傷により死亡した。
被告Y1は、本件事故後、まず被告Y2に電話をしたところ、被告Y2に一一九番通報するように言われて、一一九番通報した。
イ 上記認定のとおり、被告Y1は、左前方に亡Aの存在を認めながら、亡Aの方向にハンドルを切りつつアクセルを思い切り踏んだものであるところ、通常人であれば、そのような行動をとると被告車両が亡Aに衝突することを十分に予想できるだけでなく、亡Aに衝突しないように前進することの方が著しく困難であると思われるのに、被告Y1が本件事故の発生を想定できなかったというのであり、本件事故は、被告Y1の一方的な著しい過失によるものであるということを超えて、信じがたい事故であるというほかはない。他方、亡Aは、被告Y1が駐車場で入出庫操作を行っていて、自己の進路を阻んでいたことから、被告Y1の駐車場の入出庫操作の妨げにならないような位置で待機していたことが認められる(甲一一)のであり、まさか被告Y1が被告車両を自己に向けて急発進させてこようとは思いもよらなかったはずであるし、衝突後も更に減速することなく向かってきた被告車両によって、道路脇の壁に押しつけられたのであって、その悲惨さ、無念さは察するに余りがあり、父母である原告らが受けた精神的苦痛も大きなものであるとうかがわれる。
そこで、本件事故の態様、亡Aの年齢その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、亡Aの慰謝料としては、二五〇〇万円が相当である。
(3) 葬儀関連費用 一五〇万円
弁論の全趣旨によれば、原告らは、葬儀等費用として六七九万〇二六五円を、墓石・墓地永代使用料として五四二万八一三五円を、それぞれ支出したことが認められるところ、これらのうち、本件事故と相当因果関係のある損害は、一五〇万円である。
(4) 相続
上記第二の一(3)のとおり、原告らは、亡Aの損害賠償請求権を二分の一ずつ相続したものであるから、原告らの損害額は、各三六二二万六一七二円となる(円未満切り捨て)。
(5) 損害のてん補 〇円
被告らは、<1>被告Y1が亡Aの月命日に毎月塔婆をあげて平成一五年一〇月二七日までに合計一万二〇〇〇円を支払ったこと及び<2>被告らが原告らに対して香典として三〇万円を支払ったことから、これらは損害額から控除されるべきであると主張する。しかし、<1>については、原告らに利益を得させるものではないから、損益相殺の対象とならないし、<2>については、三〇万円の香典は、本件事故の態様からして、社会儀礼上不相当に高額なものとはいえないから、被告らの上記主張は、採用することができない。
(6) 弁護士費用 各三〇〇万円
本件事案の立証の難易度、審理の経過、認容額等の諸事情を総合的に考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、原告らにつき各三〇〇万円と認めるのが相当である。
(7) 合計 各三九二二万六一七二円
損害額の合計は、原告らにつき各三九二二万六一七二円となる。
二 争点(2)(被告Y2の運行供用者性)について
(1) リース契約に基づく使用者にすぎないとの主張について
被告Y2は、被告車両の所有者ではなく、エヌ・ティ・ティ・オートリース株式会社からリース契約に基づき被告車両の使用許諾を受けた者にすぎないとして、被告Y2の運行供用者性を争うが、リース契約において定められた一定期間内は、専らユーザーである被告Y2が被告車両を使用収益することができるものであり、ユーザーである被告Y2が被告車両の運行を支配していたものというべきである。したがって、被告Y2の上記主張は、採用することができない。
(2) 被告Y1の無断使用の主張について
被告Y2は、被告Y1が被告Y2に無断で被告車両を運転したのであるから、被告Y2には、運行供用者としての具体的な運行支配が認められないと主張する。しかし、証拠(甲一一、乙六ないし八、被告Y2本人、被告Y1本人)及び弁論の全趣旨によれば、被告Y2は、被告Y1が自動車教習所に通っていたことを知っていたこと、被告Y1が運転免許を取得した後、何度か被告車両を運転したことを知っていたこと、被告車両のスペアキーは被告Y1が自由に取り出せたこと、被告Y1は、練習のため被告車両を運転し、短時間の運転の後帰宅するつもりであったことの各事実が認められる。これらの事実からすれば、被告Y2は、被告車両の運行支配を失っていないものと認められ、被告Y2は、運行供用者としての責任を負うものというべきである。
なお、上記認定に反し、被告Y2は、その本人尋問において、被告Y2も被告Y3も、被告Y1が自動車教習所に通っていたことは知っていたが、運転免許を取得したことは知らなかったと述べ、被告Y2の陳述書(乙六)、被告Y3の陳述書(乙七)及び刑事記録(甲一一)中の被告Y2の証人尋問調書にもこれに沿う記載がある。しかし、被告Y3の陳述書(乙七)によれば、被告Y3は、被告Y1が仮免許を取得したことは知っていたというものであるところ、本件事故当時は、被告Y1が運転免許を取得してから約一か月半を経過していたのであるから、被告Y1が仮免許を取得してからはそれ以上の期間が経過していたのであり、被告Y2も被告Y3も、本件事故当時、未だに運転免許を取得していなかったと思っていたというのは不自然である。また、被告Y3は、本件事故前に被告Y1が被告車両を運転していたことに気付いていたというのであるところ、仮に、被告Y3が、被告Y1が運転免許を取得していないと思っていたのだとすれば、被告Y3は、被告Y1が無免許運転の罪を犯したことを知ったにもかかわらず、被告Y1に、被告車両を運転したのではないかと尋ね、被告Y1が運転していないと答えたため、被告Y1に対して手紙を書いただけですませたということになり、不合理である。したがって、被告Y2も被告Y3も被告Y1が運転免許を取得していたことを知らなかった旨の被告Y2の供述、被告Y2及び被告Y3の陳述書の記載並びに刑事記録中の被告Y2の証人尋問調書の記載は、採用することができない。
そうすると、被告Y1が被告Y2に無断で被告車両を運転したのであるから、被告Y2は運行供用者責任を負わないとの被告Y2の上記主張は、採用することができない。
(3) 上記(1)及び(2)によれば、被告Y2は、自賠法三条の「運行の用に供する者」に該当する。
三 争点(3)(被告Y3の本件事故についての注意義務違反の有無)について
証拠(甲一一、乙六ないし八、被告Y2本人、被告Y1本人)及び弁論の全趣旨によれば、被告Y3は、被告Y1が運転免許を取得した後、被告車両の左前輪のタイヤ及び右前部のバンパーに傷があること等から、被告Y1が何度か被告車両を運転したことを知り、被告Y1に、被告車両を運転したのではないかと尋ねたが、被告Y1が運転していないと答えたため、被告Y1に対して手紙を書いただけですませたこと、被告Y3は、被告Y1が被告車両を運転したことを知ってからは、被告車両の鍵を被告Y3のバッグに入れるようにしていたが、被告車両のスペアキーは被告Y1が自由に取り出せたこと、被告Y1には、占有離脱物横領の非行歴があったこと、被告Y3は、被告Y1が窃盗その他の非行を行っていたことを知っていたことの各事実が認められる。他方、証拠(甲一一、乙六ないし八、被告Y2本人、被告Y1本人)によれば、被告Y1は本件事故当時一九歳であり、二〇歳になる約二か月前であったこと、被告Y2は、被告Y1に対し、被告車両を運転することを禁止しており、このことを被告Y3も知っていたこと、被告Y2は、被告車両の任意保険について三〇歳未満不担保の特約を結んでおり、被告Y1に対し、被告車両の運転を禁止する趣旨でその旨を伝え、このことを被告Y3も了解していたこと、被告Y1には交通違反歴はなかったことの各事実が認められる。
これらの事実によれば、被告Y3に、被告Y1に対する監督義務違反があり、これによって本件事故が生じたとまでは認めることはできず、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって、被告Y3について、本件事故についての注意義務違反があり、被告Y3が民法七〇九条に基づいて責任を負う旨の原告らの主張は、理由がない。
第四結論
以上によれば、被告Y1は、民法七〇九条に基づき、被告Y2は、自賠法三条に基づき、それぞれ原告らの損害各三九二二万六一七二円を賠償する義務を負い、被告Y3には、本件事故について、民法七〇九条に基づく損害賠償責任はない。したがって、原告らの被告Y1及び被告Y2に対する請求は、各三九二二万六一七二円及びこれに対する平成一四年一〇月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからその限度でこれを認容し、原告らの被告Y3に対する請求は理由がないからこれを棄却し、主文のとおり判決する。
(裁判官 東崎賢治)