大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成15年(ワ)22860号 判決 2004年9月29日

原告

同訴訟代理人弁護士

佐藤仁志

君和田伸仁

被告

テサテープ株式会社

同代表者代表取締役

B

訴訟代理人弁護士

星野隆宏

金子文子

炭本正二

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

1  原告が被告に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2  被告は原告に対し、平成一五年六月から毎月二五日限り金三九万三五〇〇円、平成一五年六月から毎年六月末及び一二月末日限り金六二万六四五〇円、並びにこれらに対する各支払日の翌日から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が被告に対し、被告が原告に対してした平成一五年三月三一日付普通解雇の意思表示(以下「本件解雇」という)は合理的な理由がなく無効であると主張して、雇用契約に基づき、雇用契約上の地位の確認を求めるほか、平成一五年六月から、賃金支払日の毎月二五日に賃金として三九万三五〇〇円(基本給三六万八五〇〇円、住宅手当二万五〇〇〇円)及び賞与支払月の六月及び一二月の各末日に賞与として六二万六四五〇円の支払、並びにこれらに対する各支払日の翌日から各支払済みまで商事法定利率六分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。

1  前提となる事実(認定等にかかる証拠等は各文末に掲記した)

(一)  当事者等

(1) 被告

被告は、肩書地に本社を置く昭和三九年一一月一八日に設立された工業用品・粘着テープ・医薬品等の輸入、加工、販売並びに製造及び輸出を行う会社であり、資本金は三億円である。(争いのない事実)

(2) エスエステクナ株式会社

エスエステクナ株式会社(以下「エスエステクナ」という)は各種包装資材の販売会社であり、被告の販売代理店である。エスエステクナの代表取締役社長はC(以下「C社長」という)である。(争いのない事実)

エスエステクナは、平成六年、C社長と専務のD(以下「D専務」という)の二人によって設立された。同社の従業員は八名であり、そのうち営業を担当しているのは、原告の在籍時は五名(原告、C社長、D専務、E、F)である。C社長はエスエステクナを創設してから初めて梱包材の営業販売を行ったという経歴の持ち主であり、エスエステクナは積極的に新規顧客開拓のための営業活動を行っている。エスエステクナは、設立後わずか九年ながら、年間売上は六億円に達している。(争いのない事実、書証略)

エスエステクナでは、「テサ」ブランドの商品の取扱比率は同社の売上の約一二パーセントである。(争いのない事実、弁論の全趣旨)

エスエステクナは、被告の販売代理店として、テサ商品の販売拡大を経営課題の一つとしており、従前販売実績が比較的少なかった高性能両面テープやマスキングテープの取扱を増やしたいと考えていた。(書証略、弁論の全趣旨)

(3) 原告

原告は、昭和六一年五月、被告に入社した。(書証略、弁論の全趣旨)

原告は、昭和三四年に山形県にて出生し、大学は群馬県で、東京で長く仕事をしていた。(争いのない事実)

原告は、山梨県、長野県、静岡県、神奈川県、東京都において、両面テープを中心とした商品グループについて営業活動を行ったことがある。(弁論の全趣旨)

原告の賃金は月額三九万三五〇〇円(基本給は三六万八五〇〇円、住宅手当二万五〇〇〇円)である。(争いのない事実)

原告は、平成一四年六月及び同年一二月にはそれぞれ六二万六四五〇円の賞与を得ていた。(書証略)

(二)  従前の経緯等

(1) 被告は原告を平成一〇年三月三一日付で普通解雇した。原告はこれを争い、当庁に地位保全等仮処分を申し立て、また、地位確認等訴訟を提起した。被告は、平成一一年四月一六日、地位確認等訴訟の弁論準備期日において、解雇を撤回する旨表明し、原告・被告間において、同日、原告が同年五月一日付で被告に復職する旨の裁判上の和解が成立した。ところが、原告は同年四月二七日、前記和解が錯誤無効である旨主張して、裁判所に期日指定の申立てをしたが、前記地位確認等訴訟は、同年一〇月五日、訴訟終了宣言の判決によって終了した。(争いのない事実、書証略)

(2) 被告は、前記和解にあたり、契約社員との契約を打ち切ってポストを明け、原告を復職後総務部門で処遇する考えでいた。ところが、原告は、和解無効を理由に期日指定の申し立てを行い、就労を再開する態度を示さず、その後も欠勤状態が続いた。このため、被告は、契約社員との契約を延長し、その後、他の従業員を総務部門に充てることとした。(争いのない事実)

(3) 訴訟終了宣言の判決により前記地位確認等訴訟は終了したが、被告は、社内に原告を処遇するポストがないため、原告を有限会社シバカワ紙工へ出向させることとした。(争いのない事実)

なお、被告には、営業職、ファイナンスコントロール部門、CSD(カスタマーサービス)部門、総務部門、マテリアルマネージメント部門がある。(争いのない事実)

営業職は、エリアセールス、スペックイン、キーアカウントセールスとに分けられる。エリアセールスとは、代理店を通じて「テサ」ブランドのテープの販売を営業するものであり、原告は以前これを行っていた。スペックインとは、ユーザーの意向を聴取しつつ、ドイツ本社の技術者等とも連絡をとり、積極的に商品提案を行って、新規大口顧客の開拓を行うというものである。キーアカウントセールスとは、トヨタや日産など大口顧客を対象としたものである。(争いのない事実)

ファイナンスコントロール部門では、G本部長が一人で財務を行っている。経理としては、経理課長の外、売掛金管理及び買掛金管理のために各一名がいるが、いずれも経理知識に裏付けられている。(争いのない事実)

CSD部門では、顧客と電話で対応しながらコンピュータを操作し、受注や出荷を処理する業務であり、顧客との電話での応接の適正やコンピュータ入力の的確性、即時性等の能力が要求される。(争いのない事実)

総務部門は、総務一名、人事一名が配属されている。(争いのない事実)

マテリアルマネージメント部門は、輸入されてきた商品の通関業務を行ったり、在庫管理を行ったりする部門であり、当時は神戸で一括して業務を行っており、一部購買関係を東京本社でも行っていた。(争いのない事実)

(4) 被告が原告に対して、有限会社シバカワ紙工(以下「シバカワ紙工」という)への出向を命じたところ、原告は、これを不服として出向命令無効の訴えを提起した。原告は、同訴訟において、「原告は、入社以来、一二年近くにわたって営業を担当しており、原告を営業職に戻すことが原告の知識・経験・技能を最大限に活かすことになるばかりか被告の経営政策の観点からも最も合理的であるといえる」「営業職がユーザーに直接アプローチをし、ユーザーの意向や希望を聴取しつつ商品提案をすることは従来よりなされており、原告もそのような営業を行っていた」等と主張していた。同訴訟において、原告の請求は棄却されるなど斥けられ、原告は、控訴・上告して争ったが、いずれも棄却されるなどして、原告敗訴の判決が確定した。(争いのない事実、書証略)

(5) 被告で実施されている人事評価(一時評価の段階)で、原告は平成八年には一〇〇点満点中九〇点、平成九年は一〇〇点満点中八五点であった。(書証略)

原告は、平成七年九月から同年一二月に実施されたPPテープのキャンペーンでは二〇数社中四位で台湾へ表彰旅行に行っている。(書証略、弁論の全趣旨)

原告は、売上に関しては目標額の達成率は一〇〇パーセントであったが、粗利益率は八一パーセントで、平成九年一月及び同年四月に入社した営業社員二名を除くと最低であり、平成九年九月の顧客訪問件数が一日件数一・三五件と少なく、一貫して営業活動に消極的との評価であったことなどから、平成一〇年三月三一日付普通解雇の対象者として選定された。(書証略、弁論の全趣旨)

(6) 原告は、かつて被告で営業の仕事に従事していた際には、飛び込みでユーザーに直接営業を行うこともあった。(原告)

(三)  本件の経過

(1) 被告は原告に対し、平成一四年七月一日からエスエステクナへ出向するよう命じ、原告は異議なく出向することとなった。(争いのない事実)

エスエステクナと被告との間で、出向に関する契約書(書証略)が取り交わされた。原告の給与は被告が負担したが、エスエステクナは原告の居住するアパートの家賃を負担するほか、営業用の専用自動車、携帯電話、パソコン等を支給し、合計二五万円を毎月負担することとなった。(争いのない事実、証拠略)

被告は原告に対し、平成一四年六月一七日付「エスエステクナ(株)への在籍出向に伴う労働条件等について」と題する書面(書証略)にて、出向に伴う労働条件等を提示した。労働時間、休日等については、被告の規定を適用するものとした。(書証略)

被告は、原告が営業職として数年間ブランクがあることに配慮して、特に具体的な販売目標を設定しなかった。(争いのない事実)

(2) C社長は被告に対し、平成一四年七月一日、X氏出向の御礼と題する下記の記載がある書面を送付した。(書証略)

「梱包資材、機器の販売から事業を立ち上げましたので、貴社に多々ご指導戴きましても高機能両面テープやマスキングテープの販売実績を上げることができず苦戦していました。幸いにして静岡県内には貴社の高い技術力の製品を求めている企業は沢山ありますので、貴社営業部菊池氏と三者で戦略をすりあわせしてテサ製品の拡販に努力したいと思います」

被告及びエスエステクナは、原告に対し、被告の「テサ」ブランドの商品を営業し、拡販することを期待していた。(人証略、弁論の全趣旨)

(3) 原告は、平成一四年七月一日、C社長から、オリエンテーションの際、同年七月から同年一二月までの目標が月額一〇万円であると説明を受けた。(争いのない事実、弁論の全趣旨)

(4) C社長は被告に対し、平成一四年八月三日、下記内容の記載されたX氏出向報告書(NO1)を送付した。(書証略)

<1> 営業の方向性

ア PET基材高機能両面テープ

七六社リスト提示

イ ア項、ウ項以外のテサ商品

・両面テープ

・マスキングテープ

一八社リスト提示

ウ OPPテープ各種

エ ア~ウ項以外(テサテープ以外)の商品

<2> 活動

一日 三社程度の営業です。

一件 売上 六〇〇〇円 荒利 一〇〇〇円 受注

<3> 私の指示

七月は初めての月ですから方向性を示し、地理、企業名、業務等練習期間と思い静観した。但し、それでも甘さは目立つ。本人が、工場の生産現場から営業職を希望されたと聞くが、本人の営業に対する感性が問題。(給与の中に営業手当は入っていますか)八月からはスピードと集中に徹し新規開拓に積極的に活動させます。

(5) C社長は被告に対し、平成一四年八月二〇日、下記内容の記載されたX氏出向に関する件と題する書面を送付した。(書証略)

当方の計画は平成一四年七月二二日付貴社製品販売打合せ通りです。

平成一四年七月から一二月(六か月) 目標荒利六〇万円/月間一〇万円

しかし、貴社からは一一/E来期予算打合せまでは自由との指示、私はそのことが伸々理解出来ません。

<1> 勤務九時~一七時(当社八時三〇分~一七時三〇分)

<2> 営業予算なし(当社一四/七~一二月 荒利六〇万円/月間一〇万円)

<3> 八/六(火)X氏との打合せ時、翌日“大丈夫です”とのことでしたが私は意味不明でした。

貴社が出向者を出して戴いたことは大変ありがたく感謝しておりますし、成果を出さなくてはいけないとも感じています。その様な状況下、上記<1>~<3>項では果たして貴殿の営業部のお考えと管理本部のお考えと合致しているのでしょうか。もっと違った活動をしないと貴社で本件に関し問題が起きませんか。

(6) C社長は被告に対し、平成一四年八月三一日、下記内容の記載されたX氏出向報告書(NO2)を送付した。(書証略、弁論の全趣旨)

<1> 営業状況

七~九月の三か月間は前回の営業の方向性でX氏の独自性に任せる。

<2> 活動状況

八月新規開拓 二社(七~八月で三社計売上二万四〇〇〇円 荒利五〇〇〇円)

<3> その他

週報(八月二六日から八月三〇日)をご参考までに添付します。甘くて困っていますが七~九月間は任せていますので我慢中です。

(7) 原告は、週報で、一日の勤務時間八時間のうち、概ね、一時間が正味面談、一時間から二時間が見積等、残りの五時間ないし六時間は移動・納品・納品代行である旨報告していた。(書証略)

(8) C社長は被告に対し、平成一四年九月三〇日、下記内容の記載されたX氏出向報告書(NO3)を送付した。(書証略)

<1> 営業スタイル

七~九月の三か月間は前々回にご報告申しあげましたとおりX氏の自主性に任せる。(我慢中)

<2> 活動状況

七月 新規開拓 一社 売上六〇〇〇円

荒利一〇〇〇円

八月 新規開拓 二社 売上二万四〇〇〇円

荒利五〇〇〇円

九月 新規開拓 三社 売上九万八〇〇〇円

荒利二万二〇〇〇円

計 六社 売上一二万八〇〇〇円

荒利二万八〇〇〇円

<3> 私の考えていること

ア 当方としては七月に指示した活動とは離れた活動をしている様に感じる。

(ア) PET基材高機能両面テープ

七六社リスト提示

(イ) (ア)項、(ウ)項以外のテサ商品

・両面テープ

・マスキングテープ

一八社リスト提示

(ウ) OPPテープ各種

(エ) (ア)~(ウ)項以外(テサテープ以外)の商品

と区分して営業指示。七~一二月荒利六〇万円(月平均一〇万円)が当方が指示目標。これは当社の新入社員の目標で不達成者は今までいません。

イ しかし貴社では七~一二月目標予算なしとのこと、又、Hナショナルセールスマネージャー様、Iマーケティングマネージャー様を初め様子を見るとか少しずつ良い点を誉めるとか穏やかな指示の感じです。但し、一一月に貴社、来期予算の打合せがあるように聞いています。その結果で対応が変わってきます。

ウ また、私としては、一〇~一二月のX氏の活動にはもっと積極的に活動するよう指示します。…現状はX氏の一日の平均自動車走行距離は一〇八キロメートルです。このような状況から脱皮しなければなりません。

(9) C社長は原告に対し、エスエステクナの就業時間に従って勤務し、会議等への出席を要望した。(争いのない事実)

被告も、原告がエスエステクナの朝礼や会議に出席して、営業上の情報を共有し、エスエステクナの従業員との連携を密にして、営業成績向上に役立ててもらいたいという目的があり、原告に対してはこのような理を説いて勤務時間をエスエステクナのそれに合わせるよう話をしたが、原告はこれに応じなかった。(争いのない事実、弁論の全趣旨)

なお、被告の所定労働時間は、午前九時から午後五時一五分までであり、エスエステクナの所定労働時間は、午前八時三〇分から午後五時三〇分まで(正午から午後一時まで休憩)である。(争いのない事実、書証略)

(10) 被告は原告に対し、平成一四年一〇月二四日、エスエステクナの指導及び指揮・命令を遵守することを命ずるとともに、勤務時間について、平成一四年一一月一日以降、エスエステクナのそれによる就業を命ずることとし、勤務時間が増加する代償として、月額五万円の手当を支給することとして、その旨を原告に通知(書証略)し、実際にこれを支払った。(争いのない事実、書証略)

しかし、原告は、これを拒否し、被告が支払った手当を東京法務局に供託する(書証略)など、あくまでも当初の就業時間に固執した。(争いのない事実)

(11) C社長は被告に対し、平成一四年一〇月二九日、下記内容の記載があるX氏出向報告書(NO4)を送付した。(書証略)

<1> 営業スタイル

一〇月より積極的に営業活動するよう指示するも、当社の会議等が上記勤務時間とあわず、なかなか伝達が出来ない。しかし、

ア PET基材高機能両面テープ 七六社リスト提示

イ ア項、ウ項以外のテサ商品

・両面テープ

・マスキングテープ

一八社リスト提示

ウ OPPテープ各種

エ ア~ウ項以外(テサテープ以外)の商品

と区分して営業指示。

<2> 一〇月の実績(一〇/二九現在)

今月の新規開拓 〇件

売上 五万三〇〇〇円 荒利一万円

H一四/七~一〇月 四か月実績

取引先名 売上 荒利

中央精工(株) 二〇〇〇円 一〇〇〇円

東海ハイテック(株) 七〇〇〇円 七〇〇〇円

(株)中里メッキ 七万五〇〇〇円 一万三〇〇〇円

(株)ニッケーコー 一万二〇〇〇円 二〇〇〇円

日本真空光学(株) 七万七〇〇〇円 一万三〇〇〇円

カナエ工業(株) 八〇〇〇円 二〇〇〇円

一八万一〇〇〇円 三万八〇〇〇円

(12) C社長は被告に対し、平成一四年一一月五日、下記内容の記載があるX氏出向に関する件を送付した。(書証略)

原告の件ですが、一〇月三一日と一一月一日に下記の点再度伝達しました。

ア 一一月一日より指揮及び責任がエスエステクナにある。

イ エスエステクナの勤務体制

朝八時三〇分~夕一七時(昼休み六〇分)

但し、第一、三、五の土曜日も上記勤務時間

ウ したがって、土曜日の出社(当社では全体会議、棚卸、営業会議等ある旨も話す)いただきたい。

エ 現在、原告の営業成績が極めて悪い状況にあり、その点からも応分の努力(一四/七~一二月 月間目標荒利一〇万円)をして欲しい。

オ 人との応待する態度(缶コーヒーを飲みながら話す、鼻を何回もさわりながら話す等々)や気持ちをプラス思考に変えるよう、過去は変えられないが自分と将来は変えられる旨打ち合せ指示する。

しかしながら、原告は一一月二日は出社せず、被告の指示を拒否中とのこと。私なりの指導はしますがしばらく様子を見ます。

(13) 被告は原告に対し、平成一四年一一月二五日、五万円を支払った。原告は、同年一二月一一日、これを供託した。(書証略)

(14) C社長は被告に対し、平成一四年一二月二日、下記内容の記載されたX氏出向報告書(NO5)を送付した。(書証略)

営業報告 一一月実績

新規開拓 三社

実績 売上 一七万六〇〇〇円

荒利 三万一〇〇〇円

七月からの累計 売上 三五万七〇〇〇円

荒利 六万九〇〇〇円

一二月より私が次の指示をして活動します。

ア テサ製品拡販の信念

イ 営業展開

X氏個人での営業攻撃選定先 五〇%

私からの指示先 二五%

PET基材両面テープ先 七六社

紙関連企業への売り込み 静岡県東部一〇〇社

週単位でのワーク指示先毎月一〇社 二五%にて指導します。

(15) 原告は、平成一四年一二月一九日、平成一五年一月から同年三月までの自らの売上の見込に関する資料を作成した。同資料によれば、原告の平成一五年一月の売上は一五万円、粗利二万七〇〇〇円、同年二月の売上は二〇万円、粗利は三万六〇〇〇円、同年三月の売上は二五万円、粗利は四万五〇〇〇円で、三か月の売上合計六〇万円、粗利は一〇万八〇〇〇円というものであった。(証拠略)

(16) C社長は原告に対し、平成一四年一二月二五日、下記内容の書面を交付した。(書証略)

七月一日から一二月二〇日まで(五か月と二〇日)の原告の実績は売上一二四万円(テサテープ一三万円)、荒利二三万円であり、平成一五年一月~三月の見込みも原告から低調な予想が提出されたこと、これらを踏まえて、原告に対し、エスエステクナの一員として従業員同様の規則の中で力を発揮してもらいたい。

(17) 原告の平成一四年七月一日から同年一二月三一日までの間の営業成績は売上一二四万四〇〇〇円、粗利二三万円、月額にすると売上二〇万七〇〇〇円、粗利三万八〇〇〇円であった。(争いのない事実)

(18) 原告は、平成一五年一月三日、平成一四年一二月二五日付出向手当を供託した(書証略)

(19) C社長は被告に対し、平成一六年一月六日、下記内容の記載されたX氏出向報告書(NO5)を送付した。(書証略)

ア 営業報告

平成一四年七月一日から同年一二月三一日まで六か月間実績

取引先件数 一〇社

売上 一二四万四〇〇〇円

(月平均二〇万七〇〇〇円)

荒利 二三万円(月平均三万八〇〇〇円)

平成一五年一月一日から三月三一日まで(三か月間)の営業見込み

売上 六〇万円(月平均二〇万円)

荒利 一〇万八〇〇〇円

(月平均三万六〇〇〇円)

イ その他

上記のような営業状況でもあり、一二月二日X氏に対し別添のような当社就業規則に基づき出勤するよう依頼するも一二月二七日拒否との返事がありました。そこで、一月六日付で再度別添書類を発信。

(20) C社長は原告に対し、平成一五年一月六日、下記内容の記載された書面を交付した。(争いのない事実、書証略)

当社の就業規則でみなと一緒に働いてくださいますようお願いしましたが、拒否、また、その理由は何かを聞きましたらおっしゃりませんでした。

六か月間の実績は下記のとおりです。

平成一四年七月一日~一二月三一日まで(六か月実績)

六か月間合計 売上一二四万円四〇〇〇円

荒利二三万円

(平均月間 売上二〇万七〇〇〇円 荒利三万八〇〇〇円)

六か月間のテサテープ(株)製品売上計一二万三〇〇〇円

(この粗利では貴殿の歓迎会、社内旅行費用より低いです)

また、貴殿の平成一五年一月~三月までの見込予算は別添のとおりです。

三か月間合計 売上六〇万円

荒利一〇万八〇〇〇円

(月平均 売上二〇万円 荒利三万六〇〇〇円)

当社の就業規則(就業時間)には従いません。

営業成績及び見込も低調でお粗末ですが、X流のやり方を認めてくださいとのことでしょうか。

(21) 被告は原告に対し、平成一五年一月一〇日付書面(書証略)を送付し、今後もエスエステクナの就業時間による勤務を拒否するのかどうか、また、拒否するのであれば、エスエステクナの就業時間によらずとも、毎月最低粗利三〇万円を達成することのコミットをするよう、同月一七日までに書面で回答するよう求めた。(争いのない事実、書証略)

(22) 原告は原告に対し、平成一五年一月一七日付「出向先勤務についての回答」と題する書面(書証略)で、内勤・管理部門の仕事を希望しているとした上で、未経験の包装材料の営業をしていることを考慮すると半年間でわずか一二〇万円の売上を十分予測の範疇であるとし、取引先のテコ入れを主眼とするのであれば、取引先の経費負担なしに商社経験のある人かテサの営業で空白のない現役の人を出向させるべきで人選が不適当であるといわざるを得ないと回答した。(争いのない事実、書証略)

(23) C社長は被告に対し、平成一五年一月一八日付書面(書証略)で、原告につき、「営業職に気持ちが入っていない」「包装材料の販売ではなく貴社製品の販売が中心であることを指示しているのに、その方向で営業展開していない」「荒利は月額一〇万円であるのに、当社からの資料でも解っているのに売上云々で話しており、事業計画とか、数字に対する考え方が弱すぎる」とコメントし、「営業として力を発揮できないこと」「社内の雰囲気として余り好ましくないこと」「貴社で人件費他ご負担いただいておりながら、貴社製品販売に貢献できていないこと」などを理由に、平成一五年三月末日を持って出向解除を検討するよう申し入れた。(争いのない事実、書証略)

(24) C社長は原告に対し、平成一五年一月二二日、今後半年間で月平均で粗利三〇万円の新規開拓ができるか、同月二九日までに、平成一五年一月から一二月までの粗利中心の計画を提出するよう求めた。(書証略)

(25) 原告は、平成一五年一月三一日、平成一五年の売上・荒利見込を作成した。(書証略)

原告の見込では、平成一五年七月にようやく売上五〇万円、粗利一〇万円となり、平成一五年一月から一二月までの売上は五四七万円、粗利は一〇八万四〇〇〇円となっていた。(書証略)

(26) C社長は被告に対し、平成一五年一月三一日、原告につき、「X氏が営業職を希望しているとの申し出とは違い、まさに営業職は希望していない、あるいは不適かもしれません」「貴社製品を初め販売力がありません」とコメントした。(書証略)

(27) エスエステクナは被告に対し、平成一五年一月三一日付文書により、同年三月三一日をもって出向契約を解除したい旨打診した。(争いのない事実)

(28) 被告は、同年二月四日、原告を被告事務所の呼び、出向契約が解除になる見込みであることを伝え、営業マネージャーとの面談の機会を設けた。(争いのない事実、書証略)

(29) エスエステクナは、同年二月一三日、原告に対し、出向契約の解除をその理由とともに説明した。(争いのない事実、書証略)

C社長は、出向解除の理由として、始業時間に原告が出勤できないこと、全社一丸との感が出ないこと、スタート時での打合せ等ができないこと、予算・見込又は、実績が余りにも低く、先行き営業として問題であること、商品知識のあるテサ商品の販売力がないことなどを説明した。(争いのない事実)

(30) C社長は被告に対し、平成一五年三月一二日、新入社員販売実績他の件を送付した。(書証略)

Fは、営業経験がなく、スイミングスクール指導員の後、平成一二年一〇月、二四歳でエスエステクナに入社したが、平成一二年一〇月から平成一三年三月の売上は三二六万四〇〇〇円で、粗利は六四万円、平成一三年四月から平成一四年三月の売上は四四四二万三〇〇〇円、粗利は九三一万円であった。(書証略)

(31) 被告は原告に対し、平成一五年三月二〇日付で同月二四日よりエスエステクナに出社する必要はなく、自宅待機するよう命じた。(争いのない事実、書証略)

(32) 被告は原告に対し、平成一五年三月三一日、就業規則三五条二号に該当するとして同年四月三〇日をもって解雇する旨意思表示をした。(争いのない事実、書証略)

(33) 原告が平成一四年七月から同年一二月までの六か月間に獲得した顧客は一一件であったが、平成一四年一月から三月七日までの二か月間に獲得した顧客数は八件である。(書証略)

(四)  就業規則

被告の就業規則三五条二号は、「職務遂行能力を欠き、他の職務に転換できない」場合、解雇する旨規定している。(争いのない事実)

2  争点

本件は、就業規則三五条二号「職務遂行能力を欠き、他に職務を転換できない」にあたるか。

(被告)

原告の成績不良は明らかであり、被告およびエスエステクナが、再三、原告の営業成績向上を意図して努力したのに対し、原告は否定的な態度をとり続け、実績はもちろん、勤務態度も全く改善がみられず、他に配置転換できない状況であった。本件解雇には客観的に合理的な理由がある。

エスエステクナでの原告の営業目標は毎月の粗利額一〇万円を達成することであり、C社長は原告に対しこの金額を明示していたし、何度も説明・指示していた。ところが、原告は、被告及びエスエステクナの配慮や指導によっても、月にわずか二〇万円の売上をあげることしかできず、営業に必要とされる能力は劣悪であると判断せざるを得ない。そこで、被告は、就業規則三五条二号「職務遂行能力を欠き、他の職務に転換できない」にあたるとして、本件解雇に及んだ。

被告における営業とエスエステクナにおける営業とが全く異なる営業であるとはいえず、これが成績不振の原因とは認められない。原告はテサ商品について一〇年以上の営業経験を有しており、その商品知識は豊富であり、被告の営業も卸売というものではないし、代理店を介した営業であっても代理店とともにユーザーへの同行営業を行ったりしている。

原告は営業のための訪問を嫌がり、エスエステクナの他の営業社員と比べても、営業のための訪問に割く時間が少ないなど、営業活動に極めて消極的であった。C社長は、この点につき、改善を指示・指導していた。原告の勤務態度からは、原告が成績を向上させるために日々努力していたとはいえないし、成績が向上しつつあったともいえない。

原告は、被告が用意した総務のポストに関しては自らの意思で出社拒否し、原告の雇用を維持するための配慮として命じたシバカワ紙工への出向については無効を主張し、原告の営業職への希望を叶えるべく用意したエスエステクナでは惨憺たる営業成績に留まるなど、本件解雇は、被告が原告に対してなし得る配慮はすべてなした上での判断であり、原告はどのポストに就かせてもまともに職務を遂行できなかったといわざるを得ない。

平成一五年二月4日の面談の際に、被告の営業マネージャーH氏が「私の補佐をお願いします」と、人事部門責任者のJ氏が「自分の仕事を手伝って欲しい」と述べたことはいずれもない。

(原告)

原告は、被告における職務遂行能力に欠けるところはなく、また、被告には、原告を配置できる職務があった。本件解雇は客観的に合理的な理由を欠く。

C社長は原告に対し、売上一〇万円を目標額として伝えていた。

営業といっても、被告における営業とエスエステクナにおける営業とでは商材も異なるし、営業相手も異なる、全く異質で、特異なものである。したがって、当初は利益が給与や経費を下回ることもありうることであるし、エスエステクナでの営業成績の良否はそもそも職務遂行能力の欠如という解雇理由にはならない。

原告は、当然、この成績でよしとしていたわけではなく、成績を向上させるために日々努力していた。能力不足、欠如を理由とする解雇の場合、単に能力が不足していると言うだけでは足らず、その程度が著しく、向上の見込みがない場合に限られると解すべきであるが、エスエステクナでの活動期間はわずか八か月間のものにすぎないし、原告は徐々に成績を向上させつつあった。

本件で問題とされるべきは、本件解雇の時点で、原告はどのようなポストに就かせてもまともに職務を遂行できなかったか否かである。原告の意向等も踏まえつつ、最低限、他の職にも従事させた上で、原告が職務能力を欠き、他の職務に転換できない場合に該当するか判断されなければならないのに、被告はエスエステクナにおける営業成績をもって、原告の職務遂行能力が欠けていると決めつけている。

平成一五年二月四日の面談の際、被告の営業マネージャーH氏は、「私の補佐をお願いします」、人事部門責任者のJ氏は、「自分の仕事を手伝って欲しい」とそれぞれ述べていた。したがって、被告には原告を配置する職務がある。

第三争点に対する判断

前記前提となる事実、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、エスエステクナにおいては、格別経験のない新入社員であっても、六か月間で合計六〇万円の粗利を計上しているにもかかわらず、原告は、被告の営業で稼働していた際にはユーザーに対する飛び込み営業の経験まで有し、かつ、自ら営業を希望しておきながら、エスエステクナにおいて、六か月でわずか売上一二四万四〇〇〇円、粗利二三万円しか計上できなかった上、平成一五年一月以降についても、六か月間は粗利一〇万円を達成できない旨表明していた事実が認められるのであって、その他、原告が、週報で一日の勤務時間八時間のうち、概ね、一時間が正味面談、一時間から二時間が見積等、残りの五時間ないし六時間は移動・納品・納品代行である旨報告しておきながら、原告の一日の平均自動車走行距離はわずか一〇八キロメートルにすぎないなど、前記前提となる事実記載の事情を併せ考慮すれば、原告の職務遂行能力の欠如は著しく、本件は、就業規則三五条二号「職務遂行能力を欠き、他の職務に転換できない」に該当するといわざるを得ない。

この点に関し、原告は、C社長が原告に対して、売上一〇万円を目標額として伝えていた旨主張する。しかしながら、本件においては、原告の主張を裏付けるに足る証拠は存しない。原告は、メモ(書証略)の「エスエス 売一〇万/月 七~一二月」の記載を援用し、C社長は、平成一五年七月一日のオリエンテーションの際、目標が「売上」一〇万円であると説明した旨主張するが、同メモが同日作成されたものか明らかでない上に、そもそもメモの記述も月一〇万円売るという記述に留まり、一〇万円が「粗利」ではなく「売上」である旨明示しているわけではない。むしろ、前記前提となる事実、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、エスエステクナにおいては、格別経験のない新入社員であっても六か月で合計六〇万円の粗利を目標としていたことや、エスエステクナは原告の居住するアパートの家賃等で合計二五万円も毎月負担していることなどが認められるのであって、これらの事実に照らせば、C社長は原告に対し、当初より一貫して六か月で粗利六〇万円を目標とする旨話をしていたと認められる。したがって、原告の主張は採用できない。

原告は、「営業といっても、被告における営業とエスエステクナにおける営業とでは商材も異なるし、営業相手も異なる、全く異質で、特異なものである。したがって、当初は利益が給与や経費を下回ることもありうることであるし、エスエステクナでの営業成績の良否はそもそも職務遂行能力の欠如という解雇理由にはならない」と主張する。しかしながら、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告における営業とエスエステクナにおける営業の違いは、扱っている商品数等の違いのほか、代理店営業を活動の主体としているか否かという点のみであって、原告は、被告においても、ユーザーに直接営業を行い、飛び込みの営業もしていたというのであるから、原告にとって、エスエステクナの営業が全く異質で特異のものであるとはおよそいえないのであって、この点に関する原告の主張も採用できない。

原告は、「当然、この成績でよしとしていたわけではなく、成績を向上させるために日々努力していた。能力不足、欠如を理由とする解雇の場合、単に能力が不足していると言うだけでは足らず、その程度が著しく、向上の見込みがない場合に限られると解すべきであるが、エスエステクナでの活動期間はわずか八か月間のものにすぎないし、原告は徐々に成績を向上させつつあった」と主張する。しかしながら、前示のとおり、原告の職務遂行能力の欠如の程度は著しく、平成一五年一月以降についても、六か月間は粗利一〇万円を達成することはできないとしていたのであるから、向上の見込がなく、原告の主張は採用できない。原告は、徐々に成績を向上させつつあったと主張するが、その能力の欠如は著しいのであって、原告主張の事実は斟酌することができない。

また、原告は、「本件で問題とされるべきは、本件解雇の時点で、原告はどのようなポストに就かせてもまともに職務を遂行できなかったか否かである。原告の意向等も踏まえつつ、最低限、他の職にも従事させた上で、原告が職務能力を欠き、他の職務に転換できない場合に該当するか判断されなければならないのに、被告はエスエステクナにおける営業成績をもって、原告の職務遂行能力が欠けていると決めつけている」と主張する。しかしながら、原告の前訴における主張に見るとおり、原告は強く営業を希望し、自信を持っていたにもかかわらず、その成績は前示のとおり極めて劣悪なのであるから、さらに他の職を従事させるまでもなく、原告が職務遂行能力に欠けることは明らかである。原告の主張は採用できない。

さらに、原告は、「平成一五年二月四日の面談の際、被告の営業マネージャーH氏は、『私の補佐をお願いします』、人事部門責任者のJ氏は、『自分の仕事を手伝って欲しい』とそれぞれ述べていた。したがって、被告には原告を配置する職務がある」旨主張する。しかしながら、本件においては、原告は現に解雇されているのであるし、またHらが原告に補佐等を願い出た旨の原告主張の事実を裏付けるに足る証拠もなく、原告の主張はにわかに採用しがたい。なお、本件解雇は職務遂行能力欠如を理由とする解雇であり、整理解雇と異なり、空きポストの有無は解雇の当否の判断に直接影響するものではない。

以上のとおりであるから、本件は、就業規則三五条二号「職務遂行能力を欠き、他の職務に転換できない」にあたり、本件解雇は有効である。

第四結論

よって、本件解雇が無効であることを前提とする原告の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 三浦隆志)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例