東京地方裁判所 平成15年(ワ)23101号 判決 2005年2月25日
原告
X1
原告
X2
原告
X3
原告
X4
上記4名訴訟代理人弁護士
小川英郎
被告
株式会社ビル代行
同代表者代表取締役
A
同訴訟代理人弁護士
河本毅
同
福吉貞人
主文
1 被告は各原告に対し,当該原告名の記載された別紙「未払時間外賃金合計(認容金額)」中の「月間未払時間外賃金合計」欄記載の月別の各金員及びこれらに対する各「給与支払年月日」欄記載の日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 被告は各原告に対し,当該原告名の記載された別紙「未払時間外賃金合計(認容金額)」中の「付加金」欄の「合計」欄記載の各金員及びこれらに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,これを5分し,その1を原告らの負担とし,その余は被告の負担とする。
5 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は各原告に対し,各原告の別紙「未払時間外賃金合計(訂正)表2」中の「請求金額」欄の「合計」記載の金員及び同表中「月間未払時間外賃金合計」欄記載の月別の各金員につき各「給与支払年月日」欄記載の日の翌日から支払済みまでそれぞれ年6分の割合による金員を,うち同表中の「付加金」欄の「合計」欄記載の金員につき本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告らが被告に対し,更衣時間・朝礼時間・休憩時間及び仮眠時間が労働時間に当たると主張して,それぞれ,<1>雇用契約又は労働基準法37条に基づき,別紙「未払時間外賃金合計(訂正)表2」中「月間未払時間外賃金合計」の「合計」欄記載の時間外賃金及び同表中「月間未払時間外賃金合計」欄記載の月別の各時間外賃金につき各「給与支払年月日」欄記載の日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金,並びに,<2>労働基準法114条に基づき,別紙「未払時間外賃金合計(訂正)表2」中「付加金」欄の「合計」欄記載の付加金,及びこれらにつき本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めるものである。
なお,別紙「未払時間外賃金合計(訂正)表2」記載の「未払労働賃金合計」欄記載の金額は,「未払労働時間合計」×「時間賃金」×1.25の算定式に基づくものであり,「未払深夜労働割増」欄記載の金額は,「未払深夜労働時間合計」×「時間賃金」×0.25の算定式に基づくものである。
1 前提となる事実(認定に係る証拠等は各文末に掲記した。)
(一) 当事者
(1) 被告は,建物施設の保守運行業務並びに修理工事,警備業務並びに防災防犯設備の施行管理等を目的とする株式会社である。(争いのない事実)
(2) 原告らは被告の従業員であり,警備業務に従事し,又は,従事していた者である(原告X2は平成15年7月14日付で退職した。)。被告作成の「社員の区分呼称に関する内規」によれば,原告らは業務職のうちのサービス職に該当する。(争いのない事実)
(二) 原告らの勤務
原告らは,テレビa神谷町センターに配属され,平成15年5月31日まで原則月13回の宿直勤務を行った。宿直勤務は24時間の連続勤務であり,勤務表によって各人の勤務が割り当てられていた。宿直勤務日のシフト上の業務内容及び休憩・仮眠時間は次のとおりとされた。(争いのない事実)
(1) 始業時刻 午前9時
(2) 終業時刻 翌日午前9時
(3) 仮眠時間 1宿直勤務につき4時間
(4) 休憩時間 日勤中1時間・深夜時間帯30分
(三) テレビa神谷町センター
被告は,テレビa神谷町センターに出張所を設けており,受付と警備の仕事をしていた。ここでは,受付と警備を統括する統括主任(1名)の下に,警備長(1名,E),班長(4名,F,G,原告X1,原告X3)がおり,各班には4,5名の警備員が配置されていた。警備長は夜勤に就かないので,警備長帰宅後は班長が警備長の役割を担っていた。警備員らはシフト表に基づいて勤務していたが,シフトは班単位で組まれており,テレビa神谷町センターでの警備員のシフトは,警備本部,駐車場,正面玄関,巡回,待機,休憩,仮眠となっていて,本部業務と駐車場業務は兼任するシフトが組まれたことがあった。(<証拠略>,証人E,同G,原告X1,同X2,弁論の全趣旨)
(四) 就業規則・賃金規定
被告の就業規則及び社員給与規定によれば,サービス職の賃金は毎月末日締めの翌月20日払いである。職種給細則によれば,サービス職の賃金は基本給(本給+調整給)及び基準外諸手当からなり,時間外手当については,「所属長の命,又は承認によって時間外勤務を行った場合は,その時間に応じて時間外勤務手当を支給する。」と定められ,25%の割増賃金が支払われることとされている。深夜勤務手当も「22時から翌日5時までの間に所属長の命,又は承認によって,所定時間外に勤務した場合は,その深夜勤務時間に対して深夜勤務手当を支給する。」と規定され,50%の割増賃金の支払いを定めている。(争いのない事実)
また,職種給細則は,特定勤務手当につき,「変形労働時間の適用による勤務において宿泊した場合は,特定勤務手当1日につき,2300円を支給する。」と規定している。(<証拠略>)
(五) 時間賃金
原告らの割増賃金の算定基礎となる時間賃金は,基準内賃金(基本給+役付手当+生計手当+精勤手当)を月間所定労働時間の165.62時間で除した金額である。これらは,各原告別の別紙「未払時間外賃金合計(認容金額)」の「時間賃金」欄に記載のとおりである。(争いのない事実)
(六) 更衣時間・朝礼時間・休憩時間・仮眠時間・深夜労働時間
平成13年4月から平成15年5月までの間の勤務日数は原告X1が311日,原告X2が333日,原告X3が326日,原告X4が331日である。(争いのない事実,弁論の全趣旨)
原告らは,本訴において,勤務日数1日に対し,「更衣時間」10分,「朝礼時間」20分,「休憩時間」1時間30分,「仮眠時間」4時間が労働時間であると主張しているが,被告は,原告ら主張の「更衣時間」「朝礼時間」「休憩時間」及び「仮眠時間」はいずれも労働時間に当たらないとして,賃金及び労働基準法上の割増賃金を支払っていない。仮に,これらの時間が労働時間に当たるのであれば,被告は原告らに対し,労働基準法上の割増賃金の支払義務が生じる。(争いのない事実)
平成13年4月から平成15年5月までの間の各原告の仮眠時間は原告X1が合計1244時間,原告X2が合計1332時間,原告X3が合計1304時間,原告X4が合計1324時間である。また,原告らが主張する別紙「未払時間外賃金合計(訂正)表2」記載の「未払深夜労働時間」は,平成13年4月から平成15年5月までの間の各原告の仮眠時間で深夜労働時間帯(午後10時から翌朝5時まで)にあたるものをいうが,その時間数は,原告X1が合計935時間,原告X2が合計989時間,原告X3が合計974時間,原告X4が合計980時間である。(争いのない事実)
(七) 労働組合の結成
原告らは,平成15年1月1日,神谷町センター廃止後の雇用の確保等を目的として労働組合(全国一般労働組合東京南部ビル代行支部)を結成した。当初は,同センターで勤務する警備員はほぼ全員が労働組合に加入したが,その後,雇用確保以上に労働時間問題(残業問題)を取り上げたりしたこともあって,執行委員長であったE警備長らが脱退し,神谷町センターが同年5月31日に廃止された時点では,組合員は原告ら4名のみであった。(証人E,原告X1,同X2,弁論の全趣旨)
(八) 本件訴えの提起
原告らは,平成15年10月8日,本件訴えを提起した。(顕著な事実)
2 争点
(一) 更衣時間・朝礼時間
(原告ら)
原告らは警備業務を行うため,制服に着替えることが義務づけられ,午前8時40分から前夜の宿直者との引き継ぎ等のため朝礼に出席することも義務づけられていた。上記更衣時間及び朝礼時間は,被告によって義務づけられており,その日の業務を遂行するために必要な時間であるから,労基法上の労働時間である。原告らは,実際には午前8時前後に出社し,少なくとも更衣時間として10分,朝礼時間として20分の始業時刻前の時間外労働を行った。これらの労働時間は,各原告別の別紙「未払時間外賃金合計(訂正)表2」の「更衣時間」「朝礼時間」欄に記載のとおりである。
始業時刻は9時となっていたが,原告らは,8時から8時15分には職場に到着してタイムカードを押していた。遅くとも8時30分から更衣をはじめ,8時40分から朝礼をしていた。原告らの制服は,ネクタイ,ワイシャツ着用であり,テレビ局側から身なりを整えることを厳しく指導されていたため,到底,5分では更衣できなかった。
(被告)
朝礼は引継を主たる目的としたもので,その前日に緊急事態が発生していない限り,引継事項はほとんどなく,朝礼時間も短時間で終了していることが常であった。原告らが主張するように朝礼が20分も続くことはなく,通常5分から10分で終了していた。
被告が着用を義務づけているのは,制帽・制服・帯革であるから,更衣に要する時間はせいぜい5分程度である。また,当直勤務であるため,勤務開始時に着用し,その翌日に脱衣することとなるため,更衣時間は原則として10分(5分×2)に勤務日数を乗じて算出されることになるが,連続勤務することもあるため,更衣の回数は減少することとなる。
(二) 休憩時間
(原告ら)
原告らは,シフト上は1時間30分の休憩時間が与えられていたが,実際には休憩時間であっても突発の事態に備えて制服のままでいることを義務づけられ,突発事態への対応や警備長が管理室から呼ばれて現場を空けなければならない際に代わりにポストにつくなどしていたのであって,これらの時間は,使用者からの指揮命令から解放されない実労働時間である。これらの実労働時間は,各原告別の別紙「未払時間外賃金合計(訂正)表2」の「休憩時間」欄に記載のとおりである。
具体的には,原告らは,巡回日誌を見る,日報を確認する,本部に早めに入る等の実作業を行い,外部から施錠したかどうかの確認依頼の電話がかかってきた場合は,休憩シフトの警備員が対応し,依頼のあった部屋まで行って戸締まりを確認し,灰皿や照明の確認等をしていた。自由に外出することは認められておらず,警備室での待機を命じられており,食事をとる場合であっても警備室でとることとされていた。警備長が打合せのためにテレビaの監理部に呼ばれて不在の場合に穴埋めに入るのも休憩シフトの警備員の役割であった。
巡回業務を担当する時間は,40分程度の巡回後に巡回日誌を15分から20分程度かけて詳細に記載しなければならず,巡回シフト中に休憩する余裕はなかった。
(被告)
休憩時間1時間30分は指揮命令から完全に解放された状態であった。
休憩時間はシフトの表記上1時間しかないが,実際には巡回業務を担当する2時間ないし4時間のうちの30分については,業務を行う必要がない自由時間として運用されていた。本件事業場で勤務していた従業員の多くはこの時間に食事をとっていた。この時間については,被告が従業員を場所的に拘束していることもなく,食事を持参していない者は本件事業場外で食事を購入するためなどに外出するなどしていた。被告は休憩時間に待機を命じたことはない。
昼間及び夕方の巡回は,各部屋が業務で使用されていることが多く,このような場合には入室することはないため,巡回は共用部分を見回ることが中心となり概ね20分から30分で完了するし,記帳も5分程度で済むため,巡回時間としての割当1時間のうち30分は自由時間として利用が可能であった。なお,平成15年2月5日にシフトを変更し,それ以降,休憩時間は実態に合わせて1時間30分と記載するようになった。
(三) 仮眠時間
(原告ら)
原告らは,シフト上は4時間の仮眠時間が与えられていたが,仮眠時間中であっても仮眠室から離れることはできず,テレビa社内のトラブル発生,救急車対応,不審者対応に備えて待機しており,当該時間に労働から解放されているとはいえず,実労働時間である。これらの実労働時間は,各原告別の別紙「未払時間外賃金合計(訂正)表2」の「仮眠時間」欄に記載のとおりである。また,原告らは,仮眠時間が深夜労働時間帯にかかる場合に深夜割増賃金の支払いを受けていない。これらの深夜割増賃金が支払われていない労働時間は,各原告別の別紙「未払時間外賃金合計(訂正)表2」の「未払深夜労働時間」欄に記載のとおりである。
仮眠時間に入れば,制服からパジャマに着替えるが,仮眠中であっても仮眠室での待機を義務づけられており,しかも,実作業に従事することがあった。仮眠者2名での対応が必要な作業として,不審者対応,救急車対応,浮浪者対応,よっぱらい対応が,仮眠者1名で対応する作業として食堂発報,施錠依頼,駐車場での延長依頼,紛失,深夜の荷物搬入があった。
(被告)
2名から3名が同時期に地下2階に設けられた仮眠室(3名が仮眠する場合は1名については地下2階の清掃控え室)において制服を脱いで仮眠しており,その間,残りの警備員1名が本部警備室受付本部において執務し,その余の1名が駐車場窓口における業務あるいは巡回業務などに従事していた。したがって,発報があった場合には本部警備室で執務していた警備員が対応しており,仮眠中の警備員を起こしてまで対応することはない。被告が仮眠室での待機を指示したことはない。
本件では,仮眠していない警備員が2名おり,そのものが警報・電話等に対応することになっている上,原告らが実作業に従事した旨主張していないことからも明らかなように,仮眠中の警備員がそれらに対応する必要性は皆無に等しい。被告においては,突発的な事故等に対する対応のために仮眠者に業務指示をすることは皆無である。したがって,仮眠時間は,全体として労働からの解放が保障されていると評価されるべきである。
(四) 特定勤務手当
(被告)
被告は,宿直した警備員に対し,宿直1回当たり2300円の特定勤務手当を支払っており,原告らに対しては,別紙「特定勤務手当支払実績一覧」のとおり支払いをしている。仮に,時間外労働が存在しているというのであれば,特定勤務手当の趣旨からして,その支払金額を原告らの請求額から控除すべきである。
(原告ら)
特定勤務手当は,「変形労働時間制の適用による勤務において宿泊した場合は,特定勤務手当1日につき,2300円を支給する」と規定されており,その趣旨は24時間勤務に伴う勤務に対する対価と解すべきであり,これを時間外労働手当の一部払いであると認めることはできない。被告は,仮眠時間中に実作業が30分以上に及ぶ場合に限って時間外勤務手当を支給しているが,その場合であっても,特定勤務手当が支給されているのであるから,趣旨が異なるものであることは明らかである。
第3争点に対する判断
1 更衣時間・朝礼時間について
労働基準法32条の労働時間(以下「労働基準法上の労働時間」という。)とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれる時間をいうが,上記労働時間に該当するか否かは,労働者が当該時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価できるか否かにより客観的に定まるものというべきである(最判平成12年3月9日民集54巻3号801頁参照)。
ところで,(証拠略),証人Eの証言,原告X1の本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば,原告らは,被告によって朝礼への出席が義務づけられていたこと,朝礼は始業時刻前に10分間行われていたことが認められる。原告らは,朝礼時間が始業時刻前に20分存した旨主張するが,本件においては,これを裏付けるに足る証拠は存しない。証人E及び同Gは,朝礼は5分から10分以内であった旨いずれも証言するが,証人E作成の甲第8号証(警備員指導監督実施結果報告書)の記載に照らし,その証言部分は採用しがたく,朝礼は始業時刻前に10分間行われていたと認めるのが相当である。
また,証人Eの証言,原告X1の本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば,原告らは,始業時刻前に制服に着替えることを義務づけられていたこと,原告らは,更衣に少なくとも5分間を要したことが認められる。原告らは,少なくとも更衣時間として10分を要した旨主張し,原告X1はその旨供述するが,本件においては,これを裏付けるに足る証拠は存せず,社会通念上必要と認められる更衣時間は5分とするのが相当である。
してみると,原告らが被告の指揮命令下にあった朝礼時間,更衣時間は,別紙「未払時間外賃金合計(認定金額)」中の「更衣時間」「朝礼時間」欄に記載のとおりである。
2 休憩時間について
前記のとおり,労働基準法上の労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価できるか否かにより客観的に定まるものであるから,当該時間が非労働時間である休憩時間といえるためには,単に実作業に従事しないということだけでは足らず,使用者の指揮命令下から離脱しているといえる時間,すなわち,労働者が権利として労働から離れることを保障されていると評価できることを要すると解される。そして,労働からの解放が保障されている休憩時間といえるためには,当該時間における労働契約上の役務提供が義務づけられていないと評価される必要がある。
原告らは,この点に関し,「原告らは,シフト上は1時間30分の休憩時間が与えられていたが,実際には休憩時間であっても突発の事態に備えて制服のままでいることを義務づけられ,突発事態への対応や警備長が管理室から呼ばれて現場を空けなければならない際に代わりにポストにつくなどしていたのであって,これらの時間は,使用者からの指揮命令から解放されない実労働時間である。」「具体的には,原告らは,巡回日誌を見る,日報を確認する,本部に早めに入る等の実作業を行い,外部から施錠したかどうかの確認依頼の電話がかかってきた場合は,休憩シフトの警備員が対応し,依頼のあった部屋まで行って戸締まりを確認し,灰皿や照明の確認等をしていた。自由に外出することは認められておらず,警備員室での待機を命じられており,食事をとる場合であっても警備室でとることとされていた。警備長が打合せのためにテレビaの監理部に呼ばれて不在の場合に穴埋めに入るのも休憩シフトの警備員の役割であった。」と主張する。
しかしながら,証人E及び同Gの各証言,原告X1の本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば,休憩時間には,飲食店で外食する者がいたり,食事を持参していない者が食事を購入するために外出したり,あるいは仮眠をとる者もいるなど自由であったこと,休憩時間には,警備員が警備服上着(ジャケット)を脱ぐことは認められており,ネクタイを緩めることもあった旨認められるのであって,これらの事実に照らせば,休憩時間は事業場外への外出も可能であるなど,労働契約上の役務提供が義務づけられていなかったものと評価することができる。
なお,原告らは,休憩時間に業務をしている事実がある旨主張し,その旨の証拠も提出しているが(<証拠略>),これらの事実のみからは,被告が原告らに対し,休憩時間における役務の提供を一般的に義務づけていたと評価することはできないし,そもそも,勤務表上(<証拠略>)は施錠の依頼時間及び施錠時間はX4の休憩時間ではなく,また,施錠確認表(<証拠略>)自体(書き込み部分を除く)からは,休憩時間中のX1,H,Iが勤務していたかどうかは明らかではないのであって,施錠確認表(<証拠略>)の書き込み部分(「駐Hが施錠のため休X1が駐に入る」等)については,その当時記載されたものであるか否か明らかではなく,その記載はにわかに採用しがたいから(勤務表(<証拠略>)上,駐車場と他の業務についてはしばしば兼務が行われている。),原告らの主張は採用できない。
3 仮眠時間について
実作業に従事していない仮眠時間(以下「不活動仮眠時間」という。)においても,労働者が実作業に従事していないというだけでは,使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず,当該時間に労働者が労働から離れることが保障されていて,初めて,労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないと評価することができるのであって,したがって,不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間にあたるというべきであり,当該時間において労働契約上の役務の提供が義務づけられていると評価される場合には,労働からの解放が保障されているとはいえず,労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である(最判平成14年2月28日民集56巻2号361頁参照)。
ところで,(証拠略),証人E及び同Gの各証言,原告X1及び同X2の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば,<1>警備長であるEは,非常時には仮眠者にも対応させる必要があると考えており,警備員らに対し,仮眠者を起こすなと指示したことはなく,班長であるGらも,仮眠時間中に非常事態が発生した場合には,起きて対応しなければならないと認識しており,Gは,現在も,b生命東陽町ビルで被告の警備員として勤務しているが,仮眠中であっても連絡があれば起きなければならないと認識していること(なお,偶々連絡がないから起きていないとのことである。),<2>勤務表上(<証拠略>)は,本部には24時間,駐車場には24時まで(但し本部や巡回との兼務あり),正面には2時まで警備員が配置されており,また,テレビaに対する警備計画書(<証拠略>)上も,本部(24時間座哨),駐車場(9時から26時まで動哨・座哨)及び正面(9時から26時まで立哨)は警備員が常駐するポストとされているところ,勤務表上は,深夜時間帯には,4名の警備員のうち概ね2名が仮眠しており(時間によっては仮眠者が1名の場合もある。),起きている警備員2名のうちの1名が本部(24時までは駐車場を兼務の場合あり。)に,他の1名が正面(午前2時まで)・巡回・本部等にあたる旨配置されていたこと,<3>現に,深夜時間帯には,駐車場のスロープに浮浪者等が入り込んでしまったり,救急車が呼ばれる(テレビa神谷町センターに救急車が呼ばれることは年に数回あった。)という事態もあったが,不審者・泥酔者に対応する場合や救急車が来た場合は,本来は警備員複数で対応するのが基本であるとされており(<証拠略>),警備員手帳(<証拠略>)にもその趣旨の記載があること(もっとも,警備員らは仮眠者を起こすのは引け目もあり,また,1人で対応可能な場合もあって,現場の判断で,必ずしもマニュアルどおりには対応していない場合もあった。),<4>テレビ局側から施錠の依頼がある場合には,警備員がこれに対応しており,巡回や待機の者がいない場合には,本部と正面を空けられないので仮眠者を起こして対応していたこと,<5>テレビa神谷町センター(36森ビル)9階の食堂及び女子休憩室には警報装置があり,異常があると本部で警報が鳴る仕組みとなっており,発報があると警備員はその場に赴いて異常の有無を確認していたこと(もっとも,食堂の警備装置での発報はあったが概ね誤報であり,女子休憩室での発報はほとんどなかった。警備日誌には誤報の場合は発報があった場合でも記載していない。),<6>シフト上,仮眠時間とされている者は,仮眠室(2名)又は清掃控室(1名)で仮眠をとっていたが,仮眠室及び清掃控室は,本部から連絡が取れるように内線電話が設置されていたこと,等の事実が認められる。
これらの事実に照らせば,原告らは,本件仮眠時間中,労働契約に基づく義務として,仮眠室における待機と警報や電話等に対し直ちに相当の対応をすることを義務づけられていると認められるのであるから,本件仮眠時間は全体として労働からの解放が保障されているとはいえず,労働契約上の役務の提供が義務づけられていると評価することができる。したがって,原告らは,本件仮眠時間中は不活動仮眠時間も含めて被告の指揮命令下に置かれているものであり,本件仮眠時間は労基法上の労働時間に当たるというべきである。
この点に関し,被告は,「2名から3名が同時期に地下2階に設けられた仮眠室(3名が仮眠する場合は1名については地下2階の清掃控え室)において制服を脱いで仮眠しており,その間,残りの警備員1名が本部警備室受付本部において執務し,その余の1名が駐車場窓口における業務あるいは巡回業務などに従事していた。したがって,発報があった場合には本部警備室で執務していた警備員が対応しており,仮眠中の警備員を起こしてまで対応することはない。被告が仮眠室での待機を指示したことはない。」「本件では,仮眠していない警備員が2名おり,その者が警報・電話等に対応することになっている上,原告らが実作業に従事した旨主張していないことからも明らかなように,仮眠中の警備員がそれらに対応する必要性は皆無に等しい。被告においては,突発的な事故等に対する対応のために仮眠者に業務指示をすることは皆無である。したがって,仮眠時間は,全体として労働からの解放が保障されていると評価されるべきである。」と主張する。
しかしながら,前記のとおり,<1>深夜時間帯には,駐車場のスロープに浮浪者等が入り込んでしまったり,救急車が呼ばれる(テレビa神谷町センターに救急車が呼ばれることは年に数回あった。)という事態があり,警備員はこれらに対応していたこと,<2>勤務表上,深夜時間帯には概ね2名の警備員しか起きておらず,そのうち1名は本部に常駐する必要があるとされているところ,他の1名も正面(午前2時まで)に配置される場合があること,<3>不審者・泥酔者に対応する場合や救急車が来た場合,被告においては,警備員複数で対応することを基本としており,この基本に従えば,深夜時間帯であっても,本部常駐者1名のほか,最低2名の者が起きていて対応できる態勢にある必要があるのであって,してみれば,仮眠者が2名の場合にはそのうちの1名は最低でも起こして対応せざるを得ないはずであること(警備員らが仮眠者を起こすことに躊躇をおぼえ,1人で対応可能であるとして,現場の判断で基本どおりに対応していなかったとしても,この事実を捉えて,被告が仮眠者を起こさなくても対応できる態勢をとっているとはいえない。)等,これらの事実に照らせば,本件仮眠時間は全体として労働からの解放が保障されているとはいえないから,被告の主張は採用できない。
4 特定勤務手当について
被告は,「被告は,宿直した警備員に対し,宿直1回当たり2300円の特定勤務手当を支払っており,原告らに対しては,別紙「特定勤務手当支払実績一覧」のとおり支払いをしている。仮に,時間外労働が存在しているというのであれば,特定勤務手当の趣旨からして,その支払金額を原告らの請求額から控除すべきである。」と主張する。
しかしながら,特定勤務手当は,「変形労働時間制の適用による勤務において宿泊した場合は,特定勤務手当1日につき,2300円を支給する」と規定されている上に(<証拠略>),(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,仮眠時間中に実作業が30分以上に及ぶ場合に限って時間外勤務手当を支給しているが,その場合であっても,特定勤務手当が支給されていると認められるから,特定勤務手当の趣旨は,24時間勤務に伴う勤務に対する対価と解されるのであって,時間外賃金とは趣旨が異なるものと認められるから,これを時間外賃金の一部払いであると認めることはできず,被告の主張は採用できない。
5 小括
前記のとおり,平成13年4月から平成15年5月までの間の勤務日数は原告X1が311日,原告X2が333日,原告X3が326日,原告X4が331日であるところ,以上のとおり,勤務日数1日に対し,「更衣時間」5分,「朝礼時間」10分,「仮眠時間」4時間については労働時間と認められるから,別紙「未払時間外賃金合計(訂正)表2」記載の原告らの請求額を斟酌し,別紙「未払時間外賃金合計(認容金額)」記載のとおり,原告X1については更衣時間25時間45分,朝礼時間51時間10分,仮眠時間1244時間,仮眠時間(深夜時間帯)935時間,原告X2については更衣時間27時間,朝礼時間53時間20分,仮眠時間1332時間,仮眠時間(深夜時間帯)989時間,原告X4については更衣時間26時間40分,朝礼時間53時間20分,仮眠時間1324時間,仮眠時間(深夜時間帯)980時間,原告X3については更衣時間26時間30分,朝礼時間53時間,仮眠時間1304時間,仮眠時間(深夜時間帯)974時間と認められる。してみれば,各原告は被告に対し,当該原告名の記載された別紙「未払時間外賃金合計(認容金額)」中の「月間未払時間外賃金合計」欄記載の月別の各金員及びこれらに対する各「給与支払年月日」欄記載の日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払いを求めることができる(なお,別紙「未払時間外賃金合計(認容金額)」記載の「未払労働賃金合計」欄記載の金額は,「未払労働時間合計」×「時間賃金」×1.25【労働基準法37条1項,労働基準法第37条第1項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令】の算定式に基づくものであり,「未払深夜労働割増」欄記載の金額は,「未払深夜労働時間合計」×「時間賃金」×0.25【労働基準法37条3項】の算定式に基づくものである。)。
また,前記のとおり,被告は労働基準法37条の規定に違反しているから,前記認定の諸事情等に照らし,被告は各原告に対し,付加金として,当該原告名の記載された別紙「未払時間外賃金合計(認容金額)」中の「付加金」欄の「合計」欄記載の各金員及びこれらに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負うものと認められる(労働基準法114条)。
第4結論
よって,原告らの請求は主文の限度で理由があるから,主文のとおり判決する。
(裁判官 三浦隆志)
表1 未払時間外賃金合計(認容金額)X1
<省略>
表2 未払時間外賃金合計(訂正) X1
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