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東京地方裁判所 平成15年(ワ)25528号 判決 2004年7月15日

原告 X

訴訟代理人弁護士 宗村森信

被告 Y

主文

1  被告は、原告に対し、179万2000円及びこれに対する平成16年3月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、これを5分し、その2を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

4  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

被告は、原告に対し、金264万8000円及びこれに対する平成14年5月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  本件は、原告が、証券会社の取次により被告から買い受けた株式について、名義書換未了中に被告に対し株式分割による新株発行がされたことから、被告がこれにより同株式の市場価格相当の利得を得たとして、不当利得返還請求権に基づき、同額及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。

2  前提事実(争いのない事実及び掲記の証拠等により容易に認定できる事実)

(1)  被告は、もと株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ(以下「ドコモ」という。)発行に係る別紙株式目録記載の株式(以下「本件株式」という。)を有していた。(争いのない事実)

(2)  原告は、平成11年9月13日ころ、つばさ証券株式会社の取次により、被告から本件株式を買い受け、本件株式に係る株券の交付を受けたが、原告は、その際、株主名簿の名義書換を受けなかった。(争いのない事実)

(3)  ドコモは、平成14年1月25日開催の取締役会において、同年3月31日の最終の株主名簿に記載された株主の有する普通株式1株につき5株の割合をもって株式分割をする旨の決議(効力発生日は同年5月15日)(以下「本件株式分割」という。)をした。(甲2、調査嘱託の結果、弁論の全趣旨)

(4)  ドコモは、同年5月15日、被告に対し、本件株式分割により、右普通株式8株(以下「本件新株」という。)を割り当て、株券を交付した。(争いのない事実)

3  争点

【原告の主張】

(1) ドコモの同日現在(本件株式分割後)の1株の金額は33万1000円であった。

(2) 被告は、遅くとも同月17日には本件新株券の市場価格相当額の利得を得た。

(3) 宗村森信弁護士(本件訴訟の訴訟代理人)(以下「宗村弁護士」という。)は、同月15日、原告の代理人として、被告宅を訪問し、本件新株の権利者が原告であるとして、これに相当する株券の引渡しを求め、被告は、その妻を介して、これを知った。

【被告の主張】

被告は、本件新株につき自己が権利者ではないことは知っていた。しかしながら、被告は、宗村弁護士から本件新株に相当する株券を引き渡すよう求められた際、被告の名義を記した株券のコピーの提示がされただけで、原告が本件株式につき真の権利者であることの証明がされなかったため、疑念を抱き、株券の引渡しをしなかったものである。また、被告から宗村弁護士に対してその旨回答した同年10月9日の後は、原告から何らの連絡もなかった。

第3当裁判所の判断

1  前提事実によれば、原告は、平成11年9月13日ころ、本件株式を取得したものであり、原告がその後本件株式を他に譲渡したことを認めるに足りる証拠はない。かえって、証拠(甲1の1・2、甲6の1・2、甲7の1ないし6、甲8)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成14年5月15日当時、本件株式の権利者であったことが認められる。

2  そして、被告は、本件株式の権利者ではないにもかかわらず、同日、本件新株の割当てを受け、利得を得たものと認められる。なお、証拠(甲10)によれば、本件新株は、被告の保有する他の株式に対する新株と合わせて割当てがされており、本件新株に対応する株券を特定することは不可能と認められるから、本件において、原告としては、所有権に基づき上記株券の引渡しを求めることはできず、不当利得返還請求の方法による外はないことになる(ただし、訴訟外の任意の解決方法としては、新株のうち8株に係る株券を交付する方法によって利得の返還をすることにも、十分な合理性があるといえる。)。

3  そこで、被告が悪意の受益者であったかどうかにつき検討すると,確かに、被告は、本件新株発行の当時、本件新株につき自己が権利者ではないことを知っていたものである。しかしながら、被告は、当初、宗村弁護士から本件株式に係る株券のコピーを示されたのみであり(なお、弁論の全趣旨によれば、同弁護士がその後も被告に同株券の現物を示すことができなかったのは、その後原告が本件株式に係る株券を保管振替機構に預託したことによるものと認められる〔甲7の1ないし6〕。)、原告が真実の権利者であることを疑い、二重請求を受けることを恐れたことから、引渡しを拒否したと主張している。被告の主張内容には一応の合理性があり、被告に他の動機がなかったとまではいえないものの、被告から原告への株式譲渡がされた後、宗村弁護士が被告に対し本件新株に係る株券の引渡しを求めるまで約2年8か月が経過していたこと、原告が被告の要請にもかかわらず本件株式を示していなかったこと等に照らせば、被告が引渡しを拒否したのは、少なくとも、原告が権利者であることを確認できなかったことが最も大きな原因となっていることが認められる。そうすると、被告は、平成14年5月15日の段階では、本件新株の取得が原告の損失によるものであること、いいかえれば本件新株ないしその利得を返還すべき相手が原告であることを認識していたとはいえないことになる。しかも、証拠(甲3、9)によれば、本件新株の市場価格は、同日から本訴までの間に大幅に下落していることが認められるところ、被告が原告が真の権利者であるかどうかの点につき疑念を払拭できなかったのは、上記のとおりもっぱら原告側の事情によるものであるから、その下落分を被告の負担とすることは、衡平の観点からも相当とはいいがたい。

このように考えると、本件において、被告を平成14年5月15日の時点から悪意の受益者として取り扱うのは妥当ではないというべきである。もっとも、本件訴訟に係る証拠が全て取り調べられた平成16年3月18日の口頭弁論期日においては、原告が本件株式及び本件新株につき権利者であったことの証明があったのであるから、被告は、このことを認識し、本件新株に係る利得につき悪意の受益者となるに至ったものと認めるべきである。したがって、被告は、この時点における本件新株の市場価格相当額につき利息を付して原告に返還すべきものと解される。そして、証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によれば、同日現在の本件新株の市場価格は、1株当たり22万4000円と認めるのが相当である。

4  以上のとおり認められ、外に上記認定、判断を左右するに足りる主張、立証はない。

したがって、原告の請求は、本件新株8株の同日における市場価格相当額179万2000円及びこれに対する同日から支払済みまで年5分の割合による利息の支払を求める限度で理由があることになる。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 長谷部幸弥)

<以下省略>

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