東京地方裁判所 平成15年(ワ)26184号 判決 2004年4月28日
原告
株式会社ピーシーエス
訴訟代理人弁護士
野間自子
同
中島健太郎
被告
有限会社幸福産業
主文
1 被告は,原告に対し,金679万2324円及び内金476万1879円に対する平成15年10月26日から支払済みまで年13パーセントの,内金203万0445円に対する平成11年3月1日から支払済みまで年6パーセントの割合による各金員を支払え。
2 被告は,その営業上の施設の看板,お持ち帰り用ビニール袋,箱,チラシ,ドリンク缶に,別紙被告標章目録1ないし3記載の各標章を付し,これらの物に同標章を付したものを用いて宅配ピザ店の営業を行ってはならない。
3 被告は,その占有する別紙被告標章目録1ないし3記載の各標章が付された宅配ピザの看板を撤去及び廃棄し,お持ち帰り用ビニール袋,箱,チラシ,ドリンク缶を廃棄せよ。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,①原,被告間の契約に基づき,売掛金及び売買代金の支払を求め,②商標権に基づき,別紙被告標章目録1ないし3記載の標章(以下順に「被告標章1」,「被告標章2」などといい,これらを併せて「被告標章」ということがある。)の使用の差止め及び被告標章を付した物の廃棄等を求めた事案である。
1 前提事実(認定の根拠は末尾に掲げた。)
(1) 当事者
ア 原告は,飲食店(ピザハウス等)用原材料並びに日用雑貨品の販売,包装資材の販売,食品宅配業務,店舗の設計施工並びに管理等を目的とする株式会社である(甲1)。
原告は,平成11年3月30日,訴外株式会社ピザ・カリフォルニア(以下「PC社」という。)との間で,PC社の宅配ピザフランチャイズ事業,これに関連するPC社の有する商標権,及びこれに関連する一切の事業を譲り受ける旨の契約を締結し,この契約に基づき,同年4月1日からPC社の事業一切を引き継いだ(甲2,以下「本件営業譲渡」という。)。
イ 被告は,飲食店業,その他,ファーストフードの製造,加工,販売,並びに宅配,フランチャイズチェーンシステムによるファーストフード店の経営を目的とする有限会社である(甲5)。
被告は,かつて,「ピザ・カリフォルニア勝川店」(以下「勝川店」という。)を経営していた。また,現在も,「ピザ・カリフォルニア高蔵寺店」(以下「高蔵寺店」という。)の経営を行っている(甲15,21,弁論の全趣旨)。
(2) 原告の有する商標権
原告は,以下のアないしウの各商標権(以下順に「原告商標権1」,「原告商標権2」と,これらを併せて「原告商標権」ということがある。また,その登録商標を順に「原告商標1」,「原告商標2」などと,これらを併せて「原告商標」ということがある。)を有する(甲4の1,3,5,甲19の1,2,4,甲20の1,2,5)。
ア 原告商標権1
登録番号 第2548951号
出願日 平成1年1月24日
登録日 平成5年6月30日
更新登録日 平成15年2月12日
商品及び役務の区分 第32類
指定商品 アメリカ製のピザパイ
登録商標 別紙原告商標1記載のとおり
イ 原告商標権2
登録番号 第3030551号
出願日 平成4年9月21日
登録日 平成7年3月31日
商品及び役務の区分 第42類
指定役務 ピザパイの提供
登録商標 別紙原告商標2記載のとおり
ウ 原告商標権3
登録番号 第3319673号
出願日 平成6年7月22日
登録日 平成9年6月6日
商品及び役務の区分 第30類
指定商品 ピザ
登録商標 別紙原告商標3記載のとおり
(3) 被告による被告標章の使用
被告は,被告標章を営業上の施設の看板,箱,持ち帰り用ビニール袋,チラシ,ドリンク缶に付し,また,これらを用いて宅配ピザの営業を行っている(甲13,15,16,22,弁論の全趣旨)。
2 争点及び争点に関する当事者の主張
(1) 被告が,原告に対し,売掛金等を支払う義務を負うか。
(原告の主張)
ア 高蔵寺店について
(ア) 原,被告の契約関係
被告は,平成5年3月12日,PC社との間で,高蔵寺店に関し,ピザ・カリフォルニア・チェーンフランチャイズ加盟店契約を締結した。
そして,本件営業譲渡後,原告は,平成11年4月1日,被告との間で,ピザ・カリフォルニア・チェーンフランチャイズ契約(以下,「本件FC契約」という。)を締結し,同契約は平成13年2月6日付で書面化された。
したがって,高蔵寺店については,原告がフランチャイザー,被告がフランチャイジーという関係にあった。
(イ) 本件FC契約の債務不履行
原告は,被告に対して,本件FC契約に基づいて,原告が保有する標章の使用を許諾し,宅配ピザ店舗運営に関するノウハウを提供し,商品の原材料,包装資材,ユニフォーム等を販売するなどして,本件FC契約上の義務を履行した。
これに対し,被告は,原告に対し,本件FC契約に基づき,商品の原材料,包装資材,ユニフォーム等の購入代金支払債務,ロイヤリティ支払債務及び宣伝・広告費支払債務を負っていたところ(本件FC契約9条ないし11条),度々にわたってこれらの債務の支払を怠り,平成15年9月30日時点で,その未払売掛金等債務の総額は別表1のとおり676万1879円であった(既発生の遅延損害金を含まない。)。
なお,本件FC契約では,上記売掛金等の支払は,毎月末日締め翌25日払であり,支払を遅延した場合は,支払期日の翌日から年利13パーセントの遅延損害金を払う約定であった。
(ウ) 本件FC契約の解約
原告は,被告に対して,上記未払売掛金等債務の支払を再三請求したが,被告は,これを全く支払わなかった。
そこで,原告は,高蔵寺店につき,本件FC契約17条3項6号(「本契約の条項に重大な違反があったとき」)に基づき,平成15年9月30日をもって,本件FC契約を解約した。
(エ) 保証金による弁済充当
原告は,本件FC契約5条2項の趣旨に基づき,平成15年10月11日付で,被告から預託されている保証金200万円を,被告の未払売掛金等債務の弁済に充当した。
(オ) 未払売掛金等債務の総額
よって,被告の高蔵寺店についての現在の未払売掛金等債務は476万1879円である。
イ 勝川店について
(ア) 原,被告間の売買契約の締結
被告は,平成10年4月1日から平成11年1月10日まで勝川店の営業を継続していた。上記営業期間中,原告は,被告に対して,別表2のとおり,宅配ピザの営業に必要な食材・包材等の販売を被告の注文に応じて継続的に行った。
(イ) 売買代金の未払の発生
原告は,前記(ア)の売買契約に基づき,食材及び包材等の引渡しをしたが,被告は,原告に対する売買代金の支払を度々怠った。なお,上記売買代金の支払期日は,注文した月の翌月末であった。
現在,被告が原告に対して負っている未払売買代金債務の合計は,203万0455円である(既発生の遅延損害金を含まない。)。
(被告の反論)
ア 高蔵寺店について
被告は,原告との間で,本件FC契約を締結していない。
イ 勝川店について
原告は,PC社と被告との間の勝川店での問題を無視して責任逃れをしている。
被告の債務不履行の原因は,原告にもある。
なお,原告は,勝川店につき,被告に対し損害賠償義務を負っている。
(2) 被告による原告商標権の侵害の有無及び差止請求等の可否
(原告の主張)
ア 原告商標と被告標章の類否
被告標章1は原告商標2と,被告標章2は原告商標3と,それぞれ同一である。
また,被告標章3は原告商標1と,△の囲いの有無の点を除いて外観において同一であり,また称呼・観念において同一であるから,原告商標1と類似する。
イ 被告の原告商標の使用権限の不存在
原告は,原告とフランチャイズ契約を締結したフランチャイジーに対してのみ,同契約に基づき,原告商標2及び被告標章3と同一の標章の使用を許諾している。また,原告は,フランチャイジーに対して,フランチャイズ契約締結に関連して,その契約期間中は,原告商標1及び3についても宅配ピザの営業への使用を事実上許諾している。
しかし,前記1,ア,(ウ)記載のとおり,原,被告間の件FC契約は,平成15年9月30日に解約された。
したがって,被告は,原告商標を使用する権限を有していない。
ウ 差止請求等の可否
被告は,原告からの再三にわたる警告を無視し,不可解な弁解を繰り返して,現在に至るまで被告標章を使用して宅配ピザ業の営業を継続しており,今後も商標権侵害行為を継続するおそれがある。
(被告の反論)
被告は,原告の担当者から,食材等の仕入先等の取引先を教えてもらい,個人として営業を続けていくように言われた。また,店舗の名前に関して,一文字付けて違う名前にしろと言われたほか,看板についても,新しい名前にして営業するように言われた。チラシについても,平成15年9月30日当時使用していたチラシを修正して一時使用することについて承諾を得ていた。
第3争点に対する判断
1 争点(1)(被告の売掛金等支払義務の有無)について
(1) 高蔵寺店について
ア 事実認定
証拠(甲6,7,8,9の1,2,甲10の1の1,2,甲10の2の1,2,甲15,17の1ないし116,甲18の1ないし13,甲21)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができ,この認定を覆すに足りる証拠はない。
(ア) 本件FC契約の締結
被告は,平成5年3月12日,PC社との間で,高蔵寺店に関し,ピザ・カリフォルニア・チェーンフランチャイズ加盟店契約を締結した(甲6)。
そして,本件営業譲渡後,原告は,平成11年4月1日,被告との間で,本件FC契約を締結した(甲7,8)。
(イ) 本件FC契約の内容
本件FC契約は,以下の内容の条項を含む。
a 商標等の使用許諾(1条2項)
原告は,被告に対し,原告の所有する原告商標2等の商標等を,本件FC契約の条項に従い使用することを許諾する。
b 保証金(5条)
(a) 被告は,原告に対し,本件FC契約の締結時に,本件FC契約に基づき発生する原告との取引その他の債務を保証するため,保証金200万円を預託する。
(b) 被告は,原告の承諾なく,保証金を原告に対する債務の支払に充当してはならない。
(c) 原告は,被告に対し,本件FC契約が終了した場合,看板,マーク等が撤去された日から3か月以内に,被告の原告に対する債務を精算した保証金の残額を返還する。
c 供給品(9条1項)
被告は,商品,商品の原材料等及びその他営業上必要な設備,消耗品等につき,原告が指定した物品を原告の定める基準に従い,原告又は原告の指定業者から購入する。
d ロイヤリティ(10条1項)
被告は,原告に対し,商標等の使用,ノウハウの提供等の対価(ロイヤリティ)として,毎月18万円を支払う。
e 宣伝,広告(11条)
原告は,ピザ・カリフォルニア・チェーンのための宣伝広告,統一キャンペーンを企画し,また原告は,必要に応じ,全国又は地域を対象とした電波媒体等による宣伝・広告活動を実施する。被告は,その実施に要する費用を負担する。
f 代金の支払及び遅延損害金等(12条1項,2項)
(a) 被告は,原告に対し,ロイヤリティ,宣伝広告費,原材料等の代金を,毎月末日締め翌月25日までに,全額現金で持参し又は原告の指定する方法で支払う。
(b) 被告が原告に対する支払を遅延したときは,支払期日の翌日から年利13パーセントの遅延損害金を付する。
g 解約(17条3項)
被告において本件FC契約条項の重大な違反があったときは,被告は,原告に対するすべての債務について期限の利益を喪失し,原告は,何らの催告を要することなく,直ちに本件FC契約を解約することができる。
(ウ) 被告の代金等の未払
原告は,被告に対して,本件FC契約に基づき,原告が保有する標章の使用を許諾し,宅配ピザ店舗運営に関するノウハウを提供し,商品の原材料,包装資材,ユニフォーム等を販売した。
これに対し,被告は,原告に対し,支払期日までに,前記の商品の原材料等の代金やロイヤリティ等の支払をしなかった。その合計額は,別表1のとおり,平成15年9月30日時点で,676万1879円であった(甲9の1,2,甲17の1ないし116)。
(エ) 本件FC契約の解約
原告は,平成15年9月25日,被告に対し,同年7月31日締め分の食材等の代金及びロイヤリティとして435万6118円を同年9月30日までに支払うよう請求するとともに,上記期日までに支払がない場合は,本件契約を解約するとの意思表示をした(甲10の1の1,2)。
しかし,被告は,同年9月30日までに前記金員の支払をせず(甲12の1),その結果,本件FC契約は解約された。
(オ) 保証金による弁済充当
原告は,平成15年10月11日付で,被告から預託されている保証金200万円を,前記ウ記載の売掛金等債務の弁済に充当した。
イ 判断
(ア) 以上ア記載の事実に照らすと,被告は,原告に対し,売掛金等合計676万1679円から,保証金200万円を差し引いた476万1879円及び最終の売掛金等の支払期日である平成15年10月25日の翌日である同月26日から支払済みまで約定の年13パーセントの割合による遅延損害金を支払う義務を負うものと認めることができる。
(イ) 被告は,原告との間で本件FC契約を締結していない旨主張する。
しかし,被告は,平成5年3月12日,PC社との間でピザ・カリフォルニア・チェーンフランチャイズ加盟契約を締結したことを認めているところ(甲11の2),その際の契約書(甲6)に押印された被告の代表者印と同一の代表者印が合意書(甲7)に押印されている。そして,甲7には,被告が,平成11年3月31日,PC社とピザ・カリフォルニア・チェーンフランチャイズ加盟契約を合意解約し,原,被告合意の上,新たに,同年4月1日から本件FC契約を締結することを合意した旨記載されており,その上で,本件FC契約書(甲8)が作成されている。
そして,実際にも,後記のとおり,被告は,原告商標と同一か又は実質的に同一である被告標章を付した,看板,チラシ等を使用し,原告から宅配ピザ店の営業に必要な原材料等を購入して高蔵寺店の営業を行っていたことにも照らすと,原,被告間においては,本件FC契約が締結されたものとみるのが相当であり,被告の主張は採用することができない。
(2) 勝川店について
ア 事実認定
証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
(ア) 原,被告間の売買契約の締結
原告は,平成10年3月から平成11年1月の間,被告に対し,宅配ピザの営業に必要な食材・包材等を継続的に販売した(甲18の1ないし13)。なお,各売買代金の支払期日は,注文した月の翌月末日との約定であった。
(イ) 売買代金の未払の発生
しかし,原告は,前記の食材等の代金の一部を前記期日までに支払わず,その合計額は,別表2記載のとおり,合計203万0445円である(甲18の13)。
イ 判断
以上ア記載の事実に照らすと,被告は,原告に対し,未払の売買代金203万0445円及びこれに対する最後の支払期日の翌日である平成11年3月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を支払う義務を負うものと認めることができる。
被告は,原告が,勝川店につき,被告に対し,損害賠償義務を負う旨主張するが,これを認めるに足りる証拠はないので,上記主張は失当である。
2 争点(2)(被告による商標権侵害の有無及び差止請求の可否)について
(1) 原告商標と被告標章の類否
ア 被告標章1について
被告標章1は,原告商標2と同一である。
イ 被告標章2について
被告標章2は,原告商標3と同一である。
ウ 被告標章3について
被告標章3は原告商標1と,△の囲いの有無の点を除いて外観において同一であり,また称呼・観念において同一であるから,原告商標1と類似する。
(2) 被告の原告商標の使用権限の有無
前記1,(1),ア記載のとおり,原告は,被告との間で,本件FC契約を締結し,原告商標の使用を認めたこと,本件FC契約は,平成15年年9月30日をもって解約されたことがそれぞれ認められる。
この点,被告は,本件FC契約の解約の際に,本件FC契約解約後も,被告の担当者から原告商標の使用を許諾されたかのように主張する。
しかし,原告の担当者が,被告に対し,原告商標の使用を認めたことを認めるに足りる証拠はない。
かえって,被告自身も,「ピザの名前に関して,一文字つけて違う名前にしなさいとの話でした。またピザ屋のカンバンに関しては,本社の費用で10月1日に白いカンバンに替えるから,その上に新しい名前を書いて営業して行きなさいとの話でした。」などとも主張しており,従来のピザカリフォルニアという店舗名を変更することを前提としているとも考えられ,被告標章の使用が許諾されているとの主張と矛盾する上,原告が,被告に対して送付した平成15年9月24日付通知書においても,本件FC契約解約後には原告商標の使用を認めない内容となっていること(甲10の1の1),本件FC契約の解約に当たり,原,被告で合意した内容を記したとされる合意書(乙1)の案においても,被告が原告商標を使用した看板を撤去することを内容とするものであることが認めらること,及び,原告の担当者の陳述内容(甲21)に照らすと,被告の主張を採用することはできない。
よって,被告が第2,1,(3)に記載した態様で被告標章を使用する行為は,原告の有する原告商標権を侵害すると認められる。
(3) 差止請求等の可否
証拠(甲10の2の1,2,甲10の3の1,2)によれば,原告は,被告に対し,平成15年10月11日及び同年11月7日到達の内容証明郵便により,被告標章の使用の停止を求めたことが認められる。
これに対し,被告は,前記第2,1,(3)記載のとおり,被告標章の使用を継続し,さらに,本件訴訟においても,原告の主張を争っている。
このような事実に照らすと,被告が,将来においてもなお,被告標章を使用し,原告の商標権を侵害するおそれは,依然として存在すると認められる。
そして,被告の被告標章の使用態様に照らすと,前記差止請求権を実効あらしめるためには,被告標章が付された宅配ピザの看板の撤去及び廃棄並びにお持ち帰り用ビニール袋,箱,チラシ,ドリンク缶の廃棄が必要であると認められる。
第4結論
以上のとおり,原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 神谷厚毅)
裁判官 今井弘晃は転補のため署名押印することができない 裁判長裁判官 飯村敏明
別紙 原告商標1 省略
別紙 原告商標2 省略
別紙 原告商標3 省略
別紙 被告標章1 省略
別紙 被告標章2 省略
別紙 被告標章3 省略
別紙 別表1 省略
別紙 別表2 省略