東京地方裁判所 平成15年(ワ)28258号 判決 2005年6月10日
原告
株式会社X
同代表者代表取締役
B
同訴訟代理人弁護士
山田忠史
同
川口伸也
同
浜本光浩
被告
株式会社A
同代表者代表取締役
Y1
同訴訟代理人弁護士
片山英二
同
佐々木英人
同
江幡奈歩
同
加藤寛史
同
小島亜希子
同
高田千早
被告
Y2
被告
Y3
上記両名訴訟代理人弁護士
伊澤正之
被告
Y4
外8名
上記9名訴訟代理人弁護士
近藤峰明
主文
1 原告と被告株式会社Aとの間で,原告が日東興業株式会社から別紙債権目録1記載の金員の支払を受けるまで別紙物件目録1記載1ないし115の各土地を民法295条1項本文の規定により留置する権利を有することを確認する。
2 原告と被告株式会社Aとの間で,原告が日東興業株式会社から別紙債権目録1記載の金員の支払を受けるまで別紙物件目録2記載の各建物を商法521条本文の規定により留置する権利を有することを確認する。
3 原告と被告株式会社Aとの間で,原告が日東興業株式会社から別紙債権目録2記載の金員の支払を受けるまで別紙物件目録2記載の各建物を民法295条1項本文の規定により留置する権利を有することを確認する。
4 原告の被告Y2,被告Y3,被告Y4,被告Y5,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告Y11,被告Y12に対する別紙物件目録1記載1ないし115の各土地についての確認請求にかかる訴えをいずれも却下する。
5 原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は,原告と被告株式会社Aとの間では,これを10分し,その1を原告の負担とし,その余を被告株式会社Aの負担とし,原告とその余の被告らとの間では,原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 原告と被告らとの間で,原告が日東興業株式会社から別紙債権目録1記載の金員の支払を受けるまで別紙物件目録1記載の各土地を民法295条1項本文の規定により留置する権利を有することを確認する。
2 原告と被告株式会社Aとの間で,原告が日東興業株式会社から別紙債権目録1記載の金員の支払を受けるまで別紙物件目録2記載の各建物を商法521条本文及び民法295条1項本文の規定により留置する権利を有することを確認する。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
第2 事案の概要
本件は,原告が,日東興業株式会社(以下「日東興業」という。)から,「aゴルフクラブ栃木コース」(以下「本件ゴルフコース」という。)新設工事について,平成7年にゴルフコース造成工事,平成9年にクラブハウス新設工事等計7工事(以下,併せて「本件工事」という。)に係る請負契約(以下,併せて「本件請負契約」という。)を締結し,平成11年に本件工事を完成させたにもかかわらず,日東興業が本件請負契約に基づく代金の残額合計25億0927万3463円の支払をしないことから,被告株式会社A(以下「被告A」という。)の所有する別紙物件目録2記載の各建物(以下「本件建物」という。)につき商人間の留置権又は民事留置権を有し,また,被告Y2,被告Y3,被告Y4,被告Y5,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告Y11,被告Y12(以下併せて「被告Y2ら」という。)及び被告Aがそれぞれ所有する別紙物件目録1記載の各土地(以下「本件土地」という。)につき民事留置権を有すると主張して,各被告に対し,各土地建物について,原告が,日東興業から請負残代金合計25億0927万3463円及びこれに対する弁済期の翌日である平成14年10月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を受けるまで,本件土地及び本件建物を留置する権利を有することの確認を求める事案である。
1 前提事実(争いのない事実並びに括弧内に挙げた証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)
(1) 当事者等
ア 原告は,建設工事の企画,測量,設計,監理,請負及びコンサルティングに関する事業等を目的とする株式会社である。
イ 被告Aは,不動産の売買,仲介,鑑定並びに管理に関する事業等を目的とする株式会社である。
ウ 被告Y2らは,本件土地のうち,本件ゴルフコースの周辺緑地部分である別紙物件目録1記載116ないし140の各土地(以下「周辺緑地」という。)をそれぞれ所有し,これを被告Aに賃貸した者である。
エ 日東興業株式会社は,ゴルフ場の経営等を目的とする株式会社である。
(2) 原告の日東興業に対する請負代金(被担保債権)の存在
ア 原告は,日東興業及び被告Aから,本件ゴルフコース新設工事として,平成7年9月28日付けゴルフコース造成工事,平成9年7月16日付けクラブハウス新築工事等計7工事(別紙債権目録1記載の「工事請負契約の表示」欄のとおり)を請負代金合計79億0957万9500円で請け負い,工事の対象となる本件ゴルフコース用地の引渡しを受けた(甲3,甲5,甲10,弁論の全趣旨)。
イ 日東興業に対しては,平成10年7月3日,東京地方裁判所から和議開始決定がなされたが,原告,日東興業及び被告Aは,同年9月30日,本件請負代金債権につき原告が被告ら所有の本件土地及び本件建物に留置権を有していることを確認し,原告は,日東興業が,本件工事完成後,本件ゴルフコースを経営するために本件土地及び本件建物を使用することを認め,日東興業及び被告Aは,自己や第三者のために本件土地及び本件建物を所持すべき意思を表示しないことを内容とする合意(以下「本件合意」という。)をし,東京地方裁判所は,同年10月16日,これを許可した(甲3,甲4,甲10)。
ウ 原告は,平成11年3月11日ころ,本件工事を完成した(甲10)。
エ 日東興業及び被告Aは,平成14年7月15日,東京地方裁判所に対し,民事再生手続開始の申立てを行い,同裁判所は,同月22日,両社に対し,民事再生手続開始決定をした(甲1,甲5,甲10)。
オ 日東興業は,原告に対し,請負代金のうち,54億0030万6037円を支払ったものの,平成14年9月30日に支払うべき3000万円の支払を怠り,残額25億0927万3463円につき,期限の利益を失った(甲1,甲5,甲10)。
カ 上記原告の日東興業に対する請負残代金債権は,日東興業に対する上記民事再生手続の債権調査において,確定している(甲1,乙イ3。以下「本件債権」という。)。
(3) 本件土地及び本件建物の所有関係等
ア 被告A及び被告Y2らは,本件土地を,別紙物件目録1所有者欄記載のとおり,それぞれ所有している。
イ(ア) 被告Y4,被告Y5,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告Y11,被告Y12(以下「被告Y4ら」という。)は,被告Aに対し,本件請負契約締結前に,本件土地のうち被告Y4らの所有する土地を賃貸し,これを引き渡した。
(イ) 被告Y4らは,平成16年2月3日,被告Aに対し,賃料不払いを理由として上記賃貸借契約を解除した。
ウ(ア) 被告Y2及び被告Y3は,平成7年7月17日,それぞれ,被告Aに対し,被告Y2はその所有する別紙物件目録1記載116及び117の土地を,被告Y3はその所有する別紙物件目録1記載134ないし140の土地を,いずれも賃貸し,それぞれ引き渡した。
(イ) 被告Aは,平成15年1月27日ころ,被告Y2及び被告Y3に対し,上記各賃貸借契約を,それぞれ解除した。
エ 日東興業は,平成15年9月30日,被告Aとの間で,日東興業の所有する本件建物等につき,代金を2410万6636円とする売買契約を締結した(乙イ1)。
(4) 本件土地の管理状況
ア 原告は,本件ゴルフコースのクラブハウスの一部に管理事務所を設置し(甲2の1ないし7,甲10),管理人1名を常駐させている(甲8,甲10)。また,本件ゴルフコースの進入路入口付近や,コース中央を走る県道沿いに,原告の留置物件であることを示す看板を設置している(甲2の8ないし12,甲10)。
イ また,日東興業から原告に対しては,ゴルフコースの来場者一覧表が随時ファクシミリにより送信されている(甲9,甲10)。
2 争点に関する各当事者の主張
本件の争点は,本件土地に対する民事留置権の成立要件に関し,① 原告が本件土地を占有しているか,② 本件債権が周辺緑地に関して生じた債権にあたるか,及び,民事留置権が本件土地に,商人間の留置権が本件土地及び本件建物につき成立する場合に,③ 日東興業の再生計画が原告の主張する留置権の留置的効力を消滅させるか否かである。
(1) 本件土地に対する民事留置権の成否
ア 原告の本件土地に対する占有の有無
(ア) 原告の主張
a 原告は,前記前提事実(2)アのとおり,本件土地の引渡しを受けてこれを所持していた状況において,被告A及び日東興業との間で本件合意をし,原告は,これに基づいて,本件土地を現実に占有している。
また,前記前提事実(4)イのとおり,日東興業及び被告Aは,原告が本件土地を占有していることを認めている。
b 原告は,本件合意に基づき,前記前提事実(4)アのとおり,本件土地及び本件建物に対する原告の占有を客観的に明らかにしている。
c 被告Aは,本件ゴルフコースを開設するにあたり,森林法に基づく森林開発許可を得るための残地森林率を確保するために,被告Y2らから周辺緑地を借り受ける必要があった。したがって,周辺緑地は,本件ゴルフコースの開設及び営業を行うにつき必須の土地であり,本件土地のその余の部分と不可分一体の本件ゴルフコースの構造部分であるから,原告は本件ゴルフコースを事実上支配することによって,周辺緑地も占有している。
d 被告Aと被告Y2らとの間の周辺緑地に係る賃貸借契約が解除されたとしても,原告が,本件合意により本件土地に対する占有を継続している以上,被告Y2らが上記解除によって周辺緑地の占有を取得するものではなく,原告の本件土地に対する占有が消滅することはない。
(イ) 被告Y4らの主張
a 周辺緑地は,本件建物及び本件ゴルフコースの敷地そのものではなく,原告が本件建物を建築するにあたり全く使用する必要のない土地であり,原告がこれを事実上支配しているとの事実はなく,原告の占有はない。
b 仮に,原告が周辺緑地を事実上支配しているとしても,それは被告Aの占有補助者としての支配ないし本件請負工事の請負人として本件請負工事に必要な範囲に限定して認められる支配であるにすぎず,原告の独立の占有ではない。
c 被告Y4らは,被告Aに対し,前記前提事実(3)イ(イ)のとおり,被告Y4らの所有する土地に係る賃貸借契約を解除し,同土地の占有を回復している。
なお,周辺緑地が本件ゴルフコースとして一体で使用されているとしても,被告Y4らの賃貸借契約の解除権を制約するものではなく,その他,被告Y4らの解除権が制約されるべき事情は存在しない。
d なお,本件合意は,被告Y4らを拘束するものではない。
(ウ) 被告Y2及び被告Y3の主張
a 被告Aは,本件土地を利用してゴルフコースの営業を開始しているから,本件土地の占有者は被告Aであり,原告は本件土地の占有を喪失したので,原告の主張する留置権は消滅している。
b 被告Aは,前記前提事実(3)ウ(イ)のとおり,本件土地のうち被告Y2所有の一部及び被告Y3所有の土地に係る賃貸借契約を解除し,被告Y2及び被告Y3は,それぞれ上記各土地の返還を受けているから,原告は,上記各土地について,事実上の支配を有しない。
イ 本件債権との牽連性
(ア) 原告の主張
原告の本件請負代金債権は,本件工事により発生したものであるところ,本件工事は本件ゴルフコースそのものを開設するための工事であるから,本件債権と本件ゴルフコースの不可分一体の構成部分である周辺緑地との間には,牽連性がある。
(イ) 被告Y4らの主張
本件債権は,周辺緑地である被告Y4ら所有の土地とは全く関係がないものであるから,本件債権と上記土地との間には,牽連性がない。
(2) 日東興業の再生計画の効力
ア 本件土地及び本件建物に対する民事留置権への効力
(ア) 被告Aの主張
本件土地の所有者である被告Aは,民事再生手続開始決定を受けているから,再生債務者であり,民事再生法177条2項にいう「再生債務者以外の者」にはあたらない。そして,同法53条1項は,民事留置権を別除権に含めていないから,原告の主張する本件建物に対する民事留置権は,日東興業の再生計画の効力を受ける。
(イ) 原告の主張
原告の主張する本件土地に対する民事留置権は,再生債権者である原告が,再生債務者である日東興業に対する請負代金債権を確保するために,再生債務者以外の者である被告Aが提供した担保であり,民事再生法177条2項に定める「再生債務者以外の者が再生債権者のために提供した担保」にあたるから,日東興業の再生計画によっても,上記各民事留置権はその影響を受けない。
また,本件再生計画が原告の主張する本件土地及び本件建物に対する民事留置権について影響を及ぼすとしても,その留置的効力には影響しない。
イ 本件債権への効力
(ア) 被告Aの主張
原告が主張する本件土地に対する民事留置権が,日東興業の再生計画の効力を受けるのと同様に,民事留置権の被担保債権も再生計画の効力を受ける。
また,民事再生法177条2項は,別除権の被担保債権がその債務者に係る再生計画の効力を受けることを前提として,被担保債権の権利変更との付従性の例外を認めたものであるところ,同項は担保権の被担保債権がその債務者に係る再生計画の影響を受けないとは規定しておらず,仮に原告の主張する商人間の留置権が認められたとしても,その被担保債権である本件債権は,日東興業に係る再生計画の効力を受ける。
(イ) 原告の主張
民事再生法53条2項の趣旨が,別除権には,原則として民事再生手続の制約を及ぼさないことを規定したものであることに照らせば,同法177条2項によって,再生計画により影響が及ばない権利の中には,別除権である商人間の留置権の被担保債権も含まれると解すべきである。
第3 当裁判所の判断
1 本件土地及び本件建物に対する留置権の成否
(1) 原告の本件土地占有の有無
ア 原告は,前記前提事実(2)アのとおり,日東興業及び被告Aから,本件工事を行うために,本件土地の引渡しを受け,その後,前記前提事実(2)イのとおり,原告,日東興業及び被告Aとの間における本件合意によって原告の本件土地に対する占有が確認され,本件工事の完了により完成された本件ゴルフコースは,原告が本件土地及び本件建物に対する占有を継続しつつ被告Aに使用させていると認められる。また,前記前提事実(4)アの本件土地及び本件建物に対する管理状況によれば,原告は,本件ゴルフコース全体について管理しているということができるから,本件土地について,周辺緑地を含めて,これを占有しているものと認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
イ 以上のような本件合意に基づく原告の本件土地に対する占有状況に照らすと,原告の本件土地に対する占有が,本件工事に必要な範囲に限定して認められた事実上の支配であると考えるべき理由はないし,その他,占有の開始時期はともかくとして,原告の周辺緑地に対する現在の管理状況が,原告の本件土地のうちその余の部分に対する管理状況とは異なるものであるとも認められない。
また,前記認定のとおり,本件土地は,周辺緑地を含めて,原告がこれを占有しているのであり,被告Aが占有するものではない以上,被告Y2らと被告Aとの間の周辺緑地に係る賃貸借契約がその後解除されたとしても,これに伴って,被告Aから被告Y2らに対して周辺緑地が当然に返還されたと認めることはできないから,これによっても,原告の周辺緑地に対する前記占有は,消滅するものではない。
ウ 以上のとおり,原告は本件土地及び本件建物を占有しているものと認められる。
(2) 本件債権との牽連性
ア 前記前提事実(2)ア並びに証拠(甲3,甲4,甲10)及び弁論の全趣旨によれば,本件債権は,ゴルフコース造成工事,コース内照明設備工事,コース内外構工事ほか,進入路横断ボックスカルバート工事,スロープカー設置工事,クラブハウス新築工事,コース管理棟新築工事を内容とする本件請負契約により生じたものであることが認められ,これらの工事内容によれば,本件土地のうち,少なくとも周辺緑地を除く本件ゴルフコースのコース自体及び本件建物の敷地に該当する土地については,本件工事が同土地上で行われたものであり,そのために原告が占有を開始したものであって,本件債権が本件工事が行われた同土地に関して発生したものということができる。
イ しかし,上記の各工事内容によれば,本件工事が周辺緑地についても行われたと認めることはできず,その他,これを認めるに足りる証拠はない。
原告は,本件ゴルフコースと不可分一体を成す周辺緑地にも留置権が及ぶ旨主張するが,本件工事を請け負った原告が,工事開始の当初において工事を行わない周辺緑地についてまで引渡しを受けて占有を取得したものとは考え難く,原告がその占有を取得したのは,現状のようなゴルフ場営業が行われるようになった時点か,早くてもその形態で営業を行うことが原告と被告A,日東興業の間で合意された本件合意の時というべきであるから,その占有が本件請負契約と牽連性を有するものということはできない。
したがって,本件債権は,周辺緑地に関して生じたものであるとは認められない。
また,周辺緑地が本件ゴルフコースについて森林法に基づく森林開発許可を得るために被告Aが被告Y2らから借り受ける必要があったとしても,このことをもって,現に本件債権の発生原因である本件工事が行われていない周辺緑地についてまで,本件債権との牽連性を認めるべき合理的理由は見いだし得ない。
したがって,周辺緑地に対する占有は,原告の請負代金債権との牽連性を欠くものというべきであり,本件債権を被担保債権とする民事留置権の成立は認められない。
ウ 以上の次第で,原告の本件債権を被担保債権とする民事留置権は,本件土地のうち本件工事の行われた別紙物件目録1記載1ないし115の各土地に対しては,成立したものと認められるが,周辺緑地(同目録116ないし140)に対しては,認められない。
(3) 本件建物に対する民事留置権及び商人間の留置権の成立
前記前提事実(1)及び(3)エ並びに前記(1)に認定したところによれば,原告は現在被告Aの所有物である本件建物を占有しているところ,本件建物は,本件請負契約に基づいて原告が完成させたものであることから,本件建物と本件債権との間には牽連性が認められるので,本件建物に対しては,民事留置権及び商人間の留置権が成立する。
2 日東興業に係る再生計画による上記1の民事留置権及びその被担保債権への影響
(1) 民事留置権
ア 本件土地の一部に対する民事留置権
民事再生法177条2項は,再生計画は,再生債務者以外の者が再生債権者のために提供した担保に影響を及ぼさない旨定めているところ,その適用について,法定担保権と約定担保権とを区別すべき理由はないから,原告の本件土地のうち別紙物件目録1記載1ないし115の各土地に対する民事留置権は,日東興業の民事再生手続との関係で,再生債務者以外の者である被告Aの財産上に存する担保権に該当し,上記民事留置権は,日東興業の再生計画によって,何らの影響も受けないこととなる。
イ 本件建物に対する民事留置権
次に,原告の本件建物に対する民事留置権は,前記前提事実(2)エ及び(3)エのとおり,本件建物は,日東興業に対する民事再生手続開始決定の当時,日東興業の所有に属していたから,民事再生法53条1項所定の別除権には該当せず,かつ,同法177条2項によって再生計画が影響を及ぼさない権利にも該当しない。
しかしながら,民事再生法は,民事再生手続開始決定によって,民事留置権に基づく競売手続が中止し,あるいはその申立てができない旨規定する(同法39条)ものの,民事留置権に基づいて目的物を留置する権能については,何ら規定していないし,また,民事再生法には,民事留置権が破産財団に対してはその効力を失うとする破産法66条3項に相当する規定も置いていない。これらのことからすると,民事再生手続の開始あるいは再生計画によっても,民事留置権に基づく目的物の留置的効力は,当然には失われないものと解される。
したがって,原告の本件建物に対する民事留置権のうち,本件建物を留置する権限については,日東興業の再生計画による影響を受けないものというべきである。
(2) 商人間の留置権
原告の本件建物に対する商人間の留置権は,本件建物が日東興業に対する民事再生手続開始決定の当時,再生債務者である日東興業の所有に属し,民事再生法53条1項の別除権に当たるから,同法177条2項により,再生計画の効力は及ばない。
(3) 上記各留置権の被担保債権
ア 本件土地に対する民事留置権
原告の本件土地に対する民事留置権は,前記(1)アのとおり,日東興業の再生計画の影響を受けないから,その被担保債権についても,民事再生法177条2項の趣旨により,再生計画による権利変更の効果は及ばないと解される。したがって,本件土地に対する民事留置権に係る被担保債権については,日東興業の再生計画による影響を受けないというべきである。
イ 本件建物に対する民事留置権
前記(1)イのとおり,原告の本件建物に対する民事留置権は,民事再生法177条2項所定の再生計画が効力を及ぼさない権利に該当せず,他に日東興業の再生計画の影響を妨げるべき根拠もないから,本件建物に対する民事留置権によって担保された債権については,その行使にあたっても,日東興業の再生計画によって減縮されるものと解される。
ウ 本件建物に対する商人間の留置権
別除権に属する担保権によって担保された債権は,担保権の行使にあたり,再生計画による権利変更に服するものではないから,本件建物に対する商人間の留置権の被担保債権については,同留置権の行使にあたって,これが上記日東興業の再生計画によって減縮されると解すべき理由はない。
3 なお,被告Y2らに対する別紙物件目録1記載1ないし115の各土地についての確認請求については,各不動産につき権利関係を有しない者に対して留置権の確認を求めるもので,確認の利益を欠くから,不適法といわざるを得ない。
4 よって,原告の請求は,原告が被告Aとの間で,原告が日東興業から別紙債権目録1記載の金員の支払を受けるまで,別紙物件目録1記載1ないし115の各土地を民事留置権に基づいて,本件建物を商人間の留置権に基づいて留置する権利及び原告が日東興業から別紙債権目録2記載の債権の支払を受けるまで,本件建物を民事留置権に基づいて留置する権利をそれぞれ有することの確認を求める限度で理由があるからこれを認容し,3項記載の各請求にかかる訴えについては,不適法であるのでこれを却下することとし,被告らに対するその余の請求は理由がないからこれらを棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・佐村浩之,裁判官・阿部雅彦,裁判官・嶋吉由起)
別紙
債権目録1,2<省略>
物件目録1,2<省略>
別紙<省略>