東京地方裁判所 平成15年(ワ)28554号 判決 2004年10月01日
原告
日本電気株式会社
同訴訟代理人弁護士
松本重敏
同
美勢克彦
同
秋山佳胤
同訴訟代理人弁理士
青木充
同補佐人弁理士
加藤朝道
被告
エイディシーテクノロジー株式会社
主文
1 被告は,原告が別紙物件目録記載1ないし5の製品を製造販売したことについて,別紙特許権目録記載の特許権に基づく損害賠償請求権及び不当利得返還請求権を有しないことを確認する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2争いのない事実
1 当事者
原告は,電気通信機械器具,コンピュータその他の電子応用機械器具,電気機械器具その他電気に関する一切の機械器具,装置及びシステムの製造並びに販売その他の処分等を目的とする株式会社である。
被告は,コンピュータソフトウェアの開発及び販売等を目的とする株式会社である。
2 被告の特許権
被告は,別紙特許権目録記載の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許請求の範囲請求項1ないし3記載の各特許発明を「本件特許発明」という。)を有している。
3 原告の行為
原告は,別紙物件目録記載1ないし5の携帯電話機(以下「原告製品」という。)を製造し,株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ(以下「NTTドコモ」という。)に販売している。
第3事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,原告が原告製品を製造販売したことについて,本件特許権に基づく損害賠償請求権及び不当利得返還請求権を有しないことの確認を求める事案である。
第4当事者の主張
1 原告の主張
(1) 本件特許には無効理由が存在することが明らかであり,また,原告製品は本件特許発明の技術的範囲に属さないから,被告は,原告が原告製品を製造販売したことについて,本件特許権に基づく損害賠償請求権及び不当利得返還請求権を有しない。
(2) 被告は,NTTドコモ宛てに,平成15年4月17日付け警告書(甲3)及び同年6月2日付け警告書(甲4)を送付し,原告が製造販売する2画面式の携帯電話機(型式番号N2051,N504iS,N251i,N251iS,N211iS)が本件特許発明を実施している旨主張した。被告は,NTTドコモから連絡を受けた原告とも数度にわたり交渉したが,交渉が決裂した場合には差止め及び損害賠償請求訴訟を提起すると述べた。原告は,上記型式の携帯電話機の製造販売を既に終了しており,現在は,その後継機種として原告製品を製造販売している。
なお,被告は,ボーダフォン株式会社に対しても,本件特許権に基づいて,同社が当時販売していた2画面式携帯電話機(J-T09)に対して警告し,調停も申し立てた。被告は,平成15年10月16日,同社を被告として,J-T09の後継機種であり,同社が現に販売している2画面式携帯電話機(J-T010)のみを対象として,差止め及び損害賠償を求める訴訟を名古屋地方裁判所に提起した(同裁判所平成15年(ワ)第4269号特許権侵害差止等請求事件)。この点から見ても,原告が,現に製造販売している原告製品について,被告が本件特許権に基づく損害賠償請求権及び不当利得返還請求権を有しないことの確認の利益を有することは明白である。
(3) よって,被告が,原告が原告製品を製造販売したことについて,本件特許権に基づく損害賠償請求権及び不当利得返還請求権を有しないことの確認を求める。
2 被告の主張
被告は,原告が原告製品を製造販売したことについて,平成15年3月14日の時点(登録時)における本件特許権並びに平成16年4月15日付け訂正請求書の請求項1及び2に記載した発明に係る本件特許権に基づく損害賠償請求権及び不当利得返還請求権が存在しないことを認める。登録時における本件特許権並びに平成16年4月15日付け訂正請求書の請求項1及び2に記載した発明に係る本件特許権には無効理由が存在し,現時点で本件特許権を行使することは権利濫用となるからである。なお,平成16年4月15日付け訂正請求による訂正は確定していないし,現時点で訂正審判を請求していない。
第5当裁判所の判断
1 確認の利益について
(1) 被告は,前記第4の2のとおり,平成15年3月14日の時点における本件特許権並びに平成16年4月15日付け訂正請求書の請求項1及び2に記載した発明に係る本件特許権に基づいては,原告製品の製造販売についての損害賠償請求権及び不当利得返還請求権が存在しないことを認めた。
(2) しかし,証拠(甲3,4)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 被告は,NTTドコモに対し,平成15年4月17日付け警告書(甲3)により,NTTドコモの販売する2画面式の携帯電話機N2051,N504iS,N251iが本件特許発明の技術的範囲に属し,これらを販売することは本件特許権の侵害となるので,直ちにその販売を中止するよう申し入れるとともに,1か月以内に誠意ある回答のない場合には法的措置をとる旨を警告した。
イ 被告は,NTTドコモに対し,平成15年6月2日付け書面(甲4)により,NTTドコモの販売する2画面式の携帯電話機N2051,N251iS,N211iSが本件特許発明の技術的範囲に属し,これらを販売することは本件特許権の侵害となるとして,特許権に基づく請求を訴状の形式でまとめた警告書を送付した。
ウ 原告は,前記ア及びイで警告の対象となった携帯電話機(N2051,N504iS,N251i,N251iS,N211iS)の製造販売を中止しており,原告製品はこれらの携帯電話機の後継機種として製造販売が開始された。
エ 被告は,その後,NTTドコモから連絡を受けた原告と数度にわたり交渉したが,その際,交渉が決裂した場合には差止請求及び損害賠償請求の訴訟を提起する旨を申し述べた。
オ 被告は,本件特許権に基づいて,ボーダフォン株式会社に対しても,同社が当時販売していた2画面式携帯電話機(J-T09)に対して警告し,調停も申し立てた。その後,被告は,同社に対し,J-T09の後継機種であり,同社が現に販売している2画面式携帯電話機(J-T010)のみを対象として,差止め及び損害賠償を求める訴訟を提起した。
カ 被告は,本件第1回弁論準備手続期日においては請求棄却判決を求める旨の答弁をし,その後も原告製品が本件特許発明の技術的範囲に属する旨を主張していた。その後,本件特許を取り消す旨の特許庁の決定を受け,被告は,現時点における特許請求の範囲に基づき権利行使することは権利濫用に当たるとの理由で,一転して,本件第4回弁論準備手続期日において,平成15年3月14日の時点における本件特許権並びに平成16年4月15日付け訂正請求書の請求項1及び2に記載した発明に係る本件特許権に基づいては,原告製品の製造販売についての損害賠償請求権及び不当利得返還請求権が存在しないことを認め,従前の主張を撤回する旨の陳述をした。
(3) 前記(2)認定の各事実及び本件の経緯に照らせば,被告が前記(1)のとおり前記請求権の不存在を自認する旨の陳述をしたとしても,今後被告が原告製品について本件特許権に基づく損害賠償請求又は不当利得返還請求を行う可能性があることは否定できないから,いまだ本件請求の確認の利益は失われていないというべきである。
2 損害賠償請求権及び不当利得返還請求権の存否について
被告は,原告が原告製品を製造販売したことについて,本件特許権に基づく損害賠償請求権及び不当利得返還請求権の発生原因事実を主張立証せず,前記第4の2のとおり,平成15年3月14日の時点(登録時)における本件特許権並びに平成16年4月15日付け訂正請求書の請求項1及び2に記載した発明に係る本件特許権に基づく損害賠償請求権及び不当利得返還請求権が存在しないことを認めた。
特許庁は,平成16年4月15日付け訂正請求による訂正を認めた上,本件特許を取り消す旨の決定をしたが(乙10),取消訴訟の提起により上記訂正は確定していないから,本件口頭弁論終結時における本件特許権の特許請求の範囲は,登録時である平成15年3月14日の時点におけるものである。よって,本件口頭弁論終結時において,本件特許に無効理由が存在すること並びに被告が,原告が原告製品を製造販売したことについて,本件特許権に基づく損害賠償請求権及び不当利得返還請求権を有しないことは,当事者間に争いがないことに帰する。
3 結論
以上の次第で,原告の本件請求を認容することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 高部眞規子 裁判官 東海林保 裁判官 田邉実)
<以下省略>