東京地方裁判所 平成15年(ワ)28687号 判決 2005年1月27日
反訴原告
X
反訴被告
天龍交通株式会社
反訴被告補助参加人
大栄交通株式会社
ほか一名
主文
一 反訴被告は、反訴原告に対し、三九五万九五八五円及び内二三七万八五一四円に対する平成一一年三月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二〇分し、その一九を反訴原告の負担とし、その余を反訴被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
反訴被告は、反訴原告に対し、七七四五万九四六一円及び内七五七一万一五二九円に対する平成一一年三月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、反訴原告が、反訴被告の従業員(タクシー運転手)であるAによる後記一(1)の交通事故(以下「本件事故」という。)につき、反訴被告に対し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、本件事故による損害賠償の一部及び遅延損害金(残元本に対する本件事故日から支払済みまでの民法所定の年五分の割合による遅延損害金及び損害のてん補額の一部に対する本件事故日から支払日までの同割合による確定遅延損害金)の支払を求めた事案である。なお、反訴被告が、本件事故による反訴原告に対する損害賠償債務が存在しないことの確認を求めた本訴請求は、反訴被告が取り下げ、反訴原告がこれに同意したことにより終了した。
一 前提事実(争いのない事実及び掲記証拠等により明らかに認められる事実)
(1) 本件事故の発生
ア 日時 平成一一年三月九日午後一一時四〇分ころ
イ 場所 東京都港区<以下省略>先路上
ウ 事故車両 <1> 反訴被告補助参加人東都自動車交通株式会社の従業員(タクシー運転手)であるBが運転する事業用普通乗用自動車(<番号省略>。以下「東都車両」という。)
<2> 反訴被告補助参加人大栄交通株式会社の従業員(タクシー運転手)であるCが運転する事業用普通乗用自動車(<番号省略>。以下「大栄車両」という。)
<3> 反訴被告の従業員(タクシー運転手)であるAが運転する反訴被告所有の事業用普通乗用自動車(<番号省略>。以下「反訴被告車両」という。)
エ 事故態様 東都車両後部に反訴原告(昭和○年○月○日生)が乗車した大栄車両前部が衝突し、更に反訴被告車両前部が大栄車両後部に衝突した(反訴被告車両と大栄車両との具体的事故態様については、下記二(1)のとおり争いがある。)。
(2) 責任原因
反訴被告は、反訴被告車両の所有者であり、同車両を自己の運行の用に供していた者であるから、自賠法三条に基づき、反訴原告に発生した損害を賠償すべき義務がある。
(3) 反訴原告の治療経過等
反訴原告は、本件事故後、次のとおり、入通院し、診察・治療を受けた。
ア 慶應義塾大学病院(以下「慶応病院」という。診断病名・頸椎・腰椎捻挫、第五腰椎すべり症。甲九の一、乙一、四)
平成一一年三月一〇日通院(一日)
平成一三年三月一四日から平成一四年八月三一日まで通院(実通院日数一一八日)
イ 東京都立大久保病院(以下「大久保病院」という。診断病名・頸椎捻挫、腰部挫傷、腰椎すべり症等。甲四五ないし四七、乙五及び六)
(ア) 入院
平成一一年三月一六日から同月三〇日まで(一五日間)
同年一二月一〇日から同月二五日まで(一六日間)
平成一二年四月二四日から同年七月一五日まで(八三日間)
平成一三年一一月二七日から同年一二月一九日まで(二三日間)
(イ) 通院
平成一一年三月一二日(一日)
同年四月一三日から同年一二月七日まで(実通院日数三九日)
平成一二年一月七日から同年四月二一日まで(実通院日数一四日)
同年七月一七日から平成一三年三月九日まで(実通院日数一二七日)
平成一三年一一月一八日から同月二四日まで(実通院日数五日)
同年一二月二六日から平成一四年一月三〇日まで(実通院日数四日)
ウ 東京医科大学病院(乙七)
平成一二年八月二二日通院(一日)
エ 済生会宇都宮病院(乙八)
平成一二年九月六日通院(一日)
オ 日本赤十字社医療センター(診断病名・腰椎すべり症術後。乙九、一二)
平成一五年五月二二日から同年七月三日まで通院(実通院日数四日)
(4) 自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)における後遺障害の認定及び異議申立
ア 反訴原告は、慶応病院において、平成一三年七月三〇日を症状固定日とする後遺障害の診断を受け、反訴原告の後遺障害は、自動車保険料率算定会により、次のとおり、自賠法施行令二条別表の後遺障害別等級表(平成一三年政令第四一九号による改正前のもの。以下、単に「後遺障害別等級表」という。)一一級七号(以下、同等級表の級数及び号数を示すときは、単に級数及び号数を示す。)に該当すると認定された(乙二一)。
(ア) 腰椎捻挫後の第五腰椎・第一仙椎間の固定術による脊柱の変形障害 一一級七号(脊柱に奇形を残すもの)
(イ) 腰痛、右下肢痛、右下肢脱力 非該当
(ウ) 頸部痛、左上肢から左手の痺れ、脱力 非該当
イ 反訴原告は、平成一四年一〇月一日、六級五号に該当する脊柱の運動障害があるとして、前記認定に対し、異議を申し立てたが、前記認定は変更されなかった(乙二七)。
(5) 損害のてん補(次の各支払が本件事故による反訴原告の損害のてん補となることについては争いがない。)
ア 反訴原告は、自賠責保険から、傷害分九一万九六〇九円及び後遺障害分九九三万円の支払を受けた。
イ 反訴原告は、反訴被告より、次の合計四一六万一六七一円の支払を受けた((ア)ないし(エ)については、病院等に直接支払われた。)。
(ア) 慶應病院の治療費 五万一〇九〇円
(イ) 大久保病院の治療費 一九二万八〇八〇円
(ウ) 健康プラザ薬局の調剤費用 一一万八六一〇円
(エ) 東名ブレース株式会社の装具代 七万〇四五一円
(オ) その他 一九九万三四四〇円
(前記(オ)のうち争いのない部分以外の四五万五七六〇円については、甲五三号証の一ないし五及び弁論の全趣旨により認められる。)
二 争点及びそれに対する当事者の主張
(1) 事故態様(争点一)
(反訴原告の主張)
本件事故は、反訴原告が乗車していた大栄車両が、前方を走行していた東都車両に衝突し、その反動で反訴原告が助手席の枕部分に両手をつく状態になったところ、更に大栄車両が時速約五〇kmのスピードで後方から来た反訴被告車両に追突されたため、その衝撃で反訴原告は座席から飛び上がり、頭部を車両天井にぶつけ、一時気を失ったというものであり、反訴被告が主張するような軽微なものではない。
(反訴被告の主張)
本件事故による反訴被告車両及び大栄車両の損傷は、極めてわずかな破損、凹損にすぎず、また、衝突時の反訴被告車両の速度は時速約一〇kmないし二〇km程度であったことから、大栄車両に乗車していた反訴原告に加わった衝撃加速度は極めて軽微であって、反訴原告が主張する頸椎捻挫・腰椎捻挫を発生させるほどのものではない。
(2) 後遺障害(争点二)
(反訴原告の主張)
反訴原告は、本件事故により、頸椎捻挫・腰椎捻挫の傷害を受け、次の後遺障害を負ったところ、その後遺障害は、総合的に後遺障害別等級表の五級に該当する。
ア 脊柱の運動障害 六級五号
反訴原告は、本件事故のため、第五腰椎・第一仙椎間固定術を受け、その結果、反訴原告の胸腰椎部の可動域は、屈曲一〇度、伸展一〇度、左回旋三五度、右回旋二〇度、左側屈三五度、右側屈二〇度となった。これは、参考可動領域のほぼ二分の一に制限されている状態であるから、この後遺障害は、六級五号(脊椎に著しい運動障害を残すもの)に該当する。
イ 腰痛、右下肢痛・脱力、知覚障害 五級二号
反訴原告は、本件事故により、腰痛、右下肢痛・脱力、知覚障害の後遺障害を負ったところ、その程度は「麻痺その他著しい脊髄症状のため、独力では一般平均人の四分の一程度の労働能力しか残されていない」程度であるから、この後遺障害は、五級二号(神経系統の機能に著しい傷害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの)に該当する。
(反訴被告の主張)
<1>前記事故態様についての反訴被告主張のとおり、本件事故による反訴被告車両の大栄車両への衝突の衝撃は軽微なものであること、<2>本件事故後に反訴原告は、頭痛、頸部痛、腰痛等の自覚的愁訴を訴えているが、その障害を根拠づける客観的・他覚的所見がないこと、<3>その反訴原告の愁訴の程度は重度ではないこと、<4>反訴原告は、本件事故以前に頸椎・腰椎加齢変性疾患及び第五腰椎分離・すべり症に罹患しており、レントゲン等写真所見として本件事故に起因した所見がないこと、<5>甲四二ないし四七号証(診療録)に記載された慶応病院及び大久保病院における反訴原告の本件事故後の治療経過によると、反訴原告は精神的にも不安定で暗く、反訴原告の主観的な訴えと客観的な症状が一致しておらず、その症状が不定で広範囲であって、反訴原告に極めて強い心因性反応がみられることなどによれば、本件事故によって、反訴原告が主張する後遺障害が生じたとはいえない。
(3) 治療専念義務違反等による過失相殺(争点三)
(反訴被告の主張)
反訴原告の本件事故後の治療経過によると、反訴原告には、治療専念義務違反、損害拡大抑止義務違反が認められるから、反訴原告の損害につき相当割合の減額がされるべきである。
(反訴原告の主張)
反訴被告の主張は争う。
(4) 素因減額(争点四)
(反訴被告の主張)
前記のように、反訴原告は、本件事故以前に頸椎・腰椎加齢変性疾患及び第五腰椎分離・すべり症に罹患しており、更に、反訴原告には極めて強い心因性反応が存在しており、これらによって、反訴原告の治療期間が長期化し、その損害が異常に拡大したといえるので、民法七二二条二項の類推適用により、反訴原告の損害は少なくとも八〇%の減額がされるべきである。
(反訴原告の主張)
反訴被告の主張は争う。
心因性により減額する場合には、<1>愁訴に見合う医学的他覚的所見のないこと、<2>愁訴に見合う事故態様でないこと、<3>治療期間が同種の損害の一般的な治療期間より長期であることが必要というべきところ、本件では、頸椎・腰椎に明らかな他覚的所見がみられること、反訴原告は腰椎後方除圧固定術という大手術を受けていること及び反訴原告の主張する本件事故態様における追突の程度によれば、前記三要件は全て存在しないといえる。
(5) 損害額(争点五)
(反訴原告の主張)
ア 治療費等 二五七万六八一〇円
(ア) 慶応病院 一三万八一三〇円
(イ) 大久保病院 二三九万六九七〇円
(ウ) 東京医科大学病院 七三九〇円
(エ) 済生会宇都宮病院 四〇三〇円
(オ) 日本赤十字社医療センター 三万〇二九〇円
イ 薬代 二一万五一二〇円
ウ 入院雑費 二〇万五五〇〇円
入院雑費は、一日当たり一五〇〇円、入院日数一三七日分の合計二〇万五五〇〇円が相当である。
エ 通院交通費 二一万三三一〇円
オ 装具代 七万〇四五一円
カ 休業損害 一四三五万〇三七四円
休業損害は、休業期間を本件事故日の翌日である平成一一年三月一〇日から症状固定日である平成一三年七月三〇日までの八七三日間とし、一日の休業損害を一万六四三八円(年収600万円÷365日)とすると、一四三五万〇三七四円となる。
キ 後遺障害逸失利益 四九一九万九三〇四円
反訴原告の症状固定時の年齢は五二歳であるから、就労可能年数は六七歳までの一五年間となる。そして、基礎収入を年収六〇〇万円、労働能力喪失率を七九%とすると、後遺障害逸失利益は、四九一九万九三〇四円となる。
ク 傷害慰謝料 三〇〇万〇〇〇〇円
反訴原告の入通院期間に照らすと、傷害慰謝料は三〇〇万円が相当である。
ケ 後遺障害慰謝料 一四〇〇万〇〇〇〇円
コ 確定遅延損害金 一七四万七九三二円
自賠責保険金についての確定遅延損害金は、次のとおり合計一七四万七九三二円である。
(ア) 平成一一年一二月一〇日支払の九一万九六〇九円について
91万9609円×0.05×277日÷365日=3万4894円
(イ) 平成一四年四月三日支払の六六二万円について
662万円×0.05×1121日÷365日=101万6578円
(ウ) 平成一四年五月二三日支払の三三一万円について
331万円×0.05×1536日÷365日=69万6460円
サ 弁護士費用 七〇〇万〇〇〇〇円
(反訴被告の主張)
反訴原告が主張する後遺障害による損害は、本件事故との間に相当因果関係がない。その余の反訴原告の主張は争う。
第三争点に対する判断
一 争点一(事故態様)について
(1) 甲三号証、甲六及び七号証の各一ないし六、甲八号証の一ないし五、甲四一及び四二号証、乙三号証並びに反訴原告本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。
ア 本件事故が発生した道路は、別紙現場見取図(甲四一)のとおり、通称青山通り方面と六本木方面を結ぶ片側二車線の通称外苑東通り(以下「本件道路」という。)であり、六本木方面から青山通り方面に向かう車線(以下「西側車線」という。)から北西方向に向かう道路が分岐している。
本件道路は、前記分岐地点の南側でやや東方面にカーブしており、その分岐地点より北側はほぼ直線となっている。本件事故現場付近の本件道路の中央部分には、幅員約二mの導流帯があり、その導流帯の中に中央分離帯及びポールが設置されている。西側車線は、第一車線の幅員が約三・七m、第二車線の幅員が約三・四mであり、その東側には前記分岐地点から北側に向かって幅員約二・七mの歩道があり、その歩道上には街路灯と街路樹がある。その歩道と第一車線の間には幅員約一・二mの導流帯がある。
本件道路の最高速度は時速四〇kmに制限されている。
イ 反訴原告は、平成一一年三月九日午後一一時ころ、渋谷区千駄ヶ谷にある当時の自宅に戻るため、六本木付近で、タクシーである大栄車両に乗車した。
その後、大栄車両は、本件道路を青山通り方面に向かって進み、前記カーブ手前にある乃木坂付近の信号に従って停止した。その際、大栄車両の前には、タクシーである東都車両が停止しており、大栄車両の後ろには、同じくタクシーである反訴被告車両が停止していた。そして、前記信号が青になったため、前記三車両は、再び、青山通り方面に向かって、西側車線の第二車線を進行した。その際、反訴原告は、大栄車両の助手席側の後部座席で右足を曲げて左足の膝に乗せ、煙草を吸いながら座っていた。
その後、東都車両を運転していたBは、前記歩道上に乗客がいるのを見つけ、急ブレーキをかけ、第一車線に入ろうとした。そのため、時速約三〇kmで走行していた大栄車両の運転手Cは、衝突を避けようとブレーキをかけるとともに右にハンドルを切ろうとしたが間に合わず、東都車両の後部に大栄車両右前部を追突させた。その際、反訴原告は、前のめりになり、助手席のヘッドレストに両手がつく状態になった。その後、時速約五〇kmで走行してきた反訴被告車両の運転者Aは、大栄車両から約一六m手前で初めて大栄車両が停止するのを発見し、ブレーキをかけたが間に合わず、大栄車両の後部に追突した。その際、反訴原告は、その衝撃で大栄車両内で飛び上がるような状態になって、大栄車両の天井で頭部をぶつけ、気を失った。その追突時の時刻は、同日午後一一時四〇分ころであった。
(反訴原告は、前記追突は第一車線で発生したと主張し、本人尋問においても、その旨供述している。しかし、反訴原告が、前記認定のとおり、本件事故時に気を失っていることに加え、CとAが立ち会った実況見分に係る甲四一号証の実況見分調書及びAから聴取した内容に基づく甲三号証の事故発生状況報告書のいずれもが、前記追突地点を第二車線上としていることに照らせば、前記反訴原告の主張・供述は採用することができない。)
ウ 反訴原告は、本件事故後、意識を取り戻し、救急車で慶応病院に搬送され、翌日の同月一〇日、同病院整形外科D医師より、頸椎捻挫・腰椎捻挫と診断された。
(2) 前記のとおり、原告は、頸椎捻挫・腰椎捻挫の診断を受けているところ、反訴被告は、本件事故による反訴被告車両及び大栄車両の損傷は、極めてわずかな破損、凹損にすぎず、また、衝突時の反訴被告車両の速度は時速約一〇kmないし二〇km程度であったことから、大栄車両に乗車していた反訴原告に加わった衝撃加速度は極めて軽微であって、頸椎捻挫・腰椎捻挫を発生させるほどのものではないと主張する。
しかし、甲六及び七号証の各一ないし六によれば、大栄車両の左テールランプ及び反訴被告車両の右フロントランプはそれぞれ損壊し、反訴被告車両の右フロントバンパーは相当程度屈曲していることが認められる。また、CとAが立ち会った実況見分に係る甲四一号証の実況見分調書及びAから聴取した内容に基づく甲三号証の事故発生状況報告書のいずれにおいても、反訴被告車両の走行速度は時速約五〇kmとされているところ、前記実況見分調書によれば、Aが大栄車両との衝突の危険を感じたのがその衝突地点から約一七・二五m手前(その時の大栄車両の約一六m手前)であることが認められ、その地点でブレーキをかけたとしてもブレーキが効き始めるまでの空走距離も考慮すれば、衝撃加速度が軽微であったともいえない。これらの事情に加え、前記認定の本件事故の態様及び追突の際の反訴原告の身体の動きに照らせば、反訴原告が、本件事故の際の衝撃によって、頸椎捻挫、腰椎捻挫の傷害を負ったとしても不自然ではない。そして、他に、反訴原告が頸椎捻挫、腰椎捻挫の傷害を負った旨の医師の診断(甲九の一、一三の一等)を左右するに足りる証拠はない。以上を総合すると、反訴被告の前記主張は理由がない。
二 争点二(後遺障害)について
(1) 前提事実(3)、甲九号証の一、甲一〇ないし一二号証の各一及び二、甲一三ないし一九号証の各一、甲四二ないし五〇号証、甲五一号証の一ないし一二、乙一、六、一二ないし一四、二一、二六及び二七号証並びに反訴原告本人尋問の結果によれば、本件事故前後の反訴原告の入通院経過、症状、医師の診断等について、次の事実が認められる。
ア 本件事故前(甲四九、五〇)
(ア) 反訴原告は、平成七年秋ころから左肩関節痛・左頸部痛を感じるようになり、医療法人財団東京勤労者医療会代々木病院(以下「代々木病院」という。)で治療を受けたが、平成八年一〇月三〇日における主訴は、左頸部から左上肢の痛み・痺れであり、診断傷病名は、変形性頸椎症・頸部脊椎管狭窄であった。三年ほど様子を見ていたが、あまり良くならず、牽引等を実施しても効果がなく、MRIにより椎間板ヘルニアが認められたため、同病院のE医師の紹介により、平成一〇年七月一日、大久保病院を受診した。同月八日、左上肢及び右下肢に痛覚鈍麻があり、握力検査の結果は、右手四九kg、左手二二kgであった。
(イ) 反訴原告は、脊髄造影検査の目的で、平成一〇年八月三日から同月一〇日まで大久保病院に入院した。その際の主訴は、右足付け根の痛み、左肩甲骨痛、左肩関節痛、左頸部痛であり、主病名が頸部椎間板ヘルニア、併発病名が腰椎変性すべり症と診断された。また、左上肢に力が入らない(自動運動は可)、左手第一ないし三指の痺れ、知覚が鈍いなどの症状を訴えていたが、日常生活動作においては自立していた。ジャクソンテスト及びスパーリングテストの結果は、いずれも陰性であったが、腱反射検査で左上肢では亢進していた。
同月四日、脊髄造影及びCT検査を受け、image一八―二〇にて、硬膜のうに前方よりの圧排を認めるとの所見があり、同月七日に左肩のレントゲン検査を受けた。
同月五日には左肩関節痛を、同月六日には左頸から左肩にかけての痛み・腰部痛・左手第一ないし三指の痺れを、同月一〇日には歩くと右足が痺れるなどの症状を訴えた。
同月一〇日、今後は外来通院とするが、症状が悪化すれば手術を検討することとして、退院した。
(ウ) その後、反訴原告は、平成一一年三月三日まで通院し、後頭神経ブロック注射等の治療を受けたが、その間の主訴及び症状は、左肩痛(平成一〇年八月二六日)、左上肢の筋萎縮(同年九月九日)、左肩痛はあるが、肩甲骨痛は軽減(同月三〇日)、強度の下肢痛(同年一〇月三〇日)、股関節痛はあるが腰痛はない、歩行がつらい(同年一一月六日)、腰痛(同年一二月三〇日)、左手第一ないし三指の知覚鈍麻(平成一一年一月一九日)、右肩痛(同年二月一日)、右肩痛、項部痛(同月一〇日)、頸部痛(同月二三日)等であった。なお、その間、警察病院で平成一〇年一一月三〇日から同年一二月二〇日まで入院したが、効き目がなかった旨も述べていた。
イ 本件事故後
(ア) 慶応病院(一回目。甲四二)
反訴原告は、平成一一年三月一〇日午前〇時二〇分、救急外来で慶応病院に搬送され、診察を受けた。頭痛、項部痛、左第一ないし三指痺れ、腰痛、右足痺れ等の症状を訴え、腰椎六方向と頸椎のレントゲン検査を受け、第五から第六頸椎間に椎間板腔狭小化、第五腰椎から第一仙椎間に分離すべりがある旨の所見により、病名は頸椎捻挫・腰椎捻挫、約二週間の通院加療を要する見込みとの診断を受けた。
(イ) 大久保病院
a 平成一一年三月一二日の通院及び同月一六日から同月三〇日までの入院(甲四四、四五)
反訴原告は、平成一一年三月一二日、大久保病院を受診し、強度の項部痛を訴えた。運動機能・腱反射は正常で、知覚障害はなく、スパーリングテストは陰性であったが、ジャクソンテストは陽性であった。そして、同月一六日から同月三〇日まで、痛みの治療と安静目的で入院した。入院時の主訴は右側頭、左腕の痛み、左手第一ないし三指・右足の痺れ、嘔吐、嘔気であり、入院時の診察所見は、腱反射は正常であるが、左第五腰椎神経支配領域に疼痛があるというもので、診断病名は腰椎捻挫・頸椎捻挫とされた。同月一七日及び同月二六日、後頭神経ブロック注射が実施された。入院時には歩行可能であり、日常生活動作も自立であった。左腕の痛み、左手指及び右足の痺れは入院中継続していた。
b 平成一一年四月一三日から同年一二月七日までの通院(甲四四)
反訴原告は、前記aの入院の後、平成一一年四月一三日から同年一二月七日まで通院した(実通院日数三九日)。その間の主な症状や治療等は、次のとおりである。
平成一一年四月二一日、右梨状筋症候群との診断を受けた。
同年五月一八日、左第五腰椎神経根支配領域痛及び右下肢全体の痛みを認め、腰椎用軟性コルセットを着用するようになった。
同月二五日、左第五腰椎神経支配領域痛があった。
同年六月二日、右下肢痛があった。
同月一六日、背部痛、腰痛及び間欠性跛行があった。
同月二三日、右下肢痛があったが、腱反射は正常であった。
同月三〇日、腰椎四方向のレントゲン検査が実施され、進行していないと診断されたが、握力テストは右握力が三三kg、左握力が二七kgであった。
同年七月七日、同月二一日及び同月二八日、項部痛があり、後頭神経ブロック注射が実施された。
同年八月四日、左上肢の疼痛は軽減した。
同月一一日及び同月一八日、間欠性跛行(脊柱管狭窄症の症状)が認められた。
同月二五日、下肢伸展挙上テスト、前脛骨筋・長趾伸筋・長母趾伸筋の徒手筋力検査は正常ないし軽度低下であった。
同月三〇日、救急来院時間に診察を受け、背部痛、右の痺れは軽減せず、左の痺れ、右背部の痺れがあった。最近痛み止めが効かなくなったと訴えた。
同年九月一日、背部痛があった。
同月七日、前脛骨筋・長母趾伸筋の徒手筋力検査は正常であったが、両アキレス腱、膝蓋腱反射はやや減弱していた。
同月二八日、右股関節痛があった。
同年一〇月一三日、左上肢の痺れは軽快したが、右下肢に痺れがあり、一〇分も歩けないと訴えた。
同月二六日、右下肢痛があった。
同年一一月九日、腱反射テスト、下肢伸展挙上テストはいずれも正常であったが、右前脛骨筋・長趾伸筋・長母趾伸筋の徒手筋力検査では軽度の低下がみられた。同日、実施された腰椎MRIの検査所見は、L四が前方にスライドし、このレベルでの脊柱管が狭窄し、所々椎間板が変性し、後方への軽度突出を認めるというものであった。
同月三〇日、神経根の造影検査が実施された。
c 平成一一年一二月一〇日から同月二五日までの入院(甲四六)
反訴原告は、両下肢・左手の痛み・痺れが増強したため、ブロック注射・点滴治療目的で、平成一一年一二月一〇日から同月二五日まで入院した。入院時の診断名は腰椎すべり症、腰部脊柱管狭窄症であった。入院時、日常生活動作は自立していたが、一〇分ほど歩行すると、右足痛・痺れが増強し、歩けない、仰臥位では腰痛・頸部痛が増強すると訴えた。入院時の下肢伸展挙上テストは異常なかったが、前斜角筋・長母趾伸筋の徒手筋力検査では軽度の低下がみられ、膝蓋腱反射・アキレス腱反射はやや減弱していた。前屈における指床間距離は一〇cmであり、特に異常はなかった。
同月一四日、同月一七日及び同月二一日に造影検査・腰痛神経根ブロックが実施された。退院時には、やや跛行気味であったが杖なしで歩行が可能であり、両下肢・左手の痛み・痺れは継続していたものの軽減していた。
d 平成一二年一月七日から同年四月二一日までの通院(甲四四)
反訴原告は、前記cの入院の後、平成一二年一月七日から同年四月二一日まで通院した(実通院日数一四日)。その間の主な症状や治療等は、次のとおりである。
平成一二年一月七日、同月一八日及び同月二五日、右膝痛を訴えた。
同年二月一日、右膝痛に加え、腰痛があり、一分も歩行すると疼痛があると訴えた。
同月七日、腰痛は無くなったが、右太股及び右脛に疼痛があり、第五腰椎神経支配領域に知覚障害あった。また、歩行時には常に杖が必要であるとの訴えがあった。
同月一五日、右下肢筋力の低下があり、五分から一〇分が歩行限界であった。
同年三月一四日、右膝痛及び右下肢痛があった。
同月一七日、右膝痛・腰痛があり、レントゲン検査を受けたが、膝関節三方向については問題なく、腰痛四方向は変化がないとの所見であった。
同年四月二一日、歩行中に突然右膝痛(疼痛・圧痛)を感じ、右膝を完全に屈曲できない状態にあり、ニーブレスで固定された。
e 平成一二年四月二四日から同年七月一五日までの入院(甲四七)
反訴原告は、腰痛・右足痛が増強したため、腰椎後方除圧固定術を行うため、平成一二年四月二四日から同年七月一五日まで入院した。入院時、日常生活動作は自立していたが、杖で歩行し、右膝にはニーブレスを装着していた。入院時の下肢伸展挙上テストは異常がなかったが、右前脛骨筋・長母趾伸筋の徒手筋力検査では軽度の低下がみられ、膝蓋腱反射は減弱していた。前屈における指床間距離は三〇cmであった。入院時の診断名は第五腰椎分離すべり症であり、入院の間の主な症状、治療は、次のとおりである。
同年五月二日、同月三日、右背部痛があった。
同月七日、右手第一ないし三指に痺れがあった。
同月八日、腰椎後方除圧固定術が実施された(以下「本件手術」という。)。
同年六月二一日より、リハビリテーション科において、一〇kgから一二kgの頸椎牽引が実施された。
同年七月一五日の退院時には、一本杖による歩行が可能となったが、手術後も腰痛・右足痛は継続していた。
f 平成一二年七月一七日から平成一三年三月九日までの通院(甲四四)
反訴原告は、前記eの入院の後、平成一二年七月一七日から平成一三年三月九日まで通院した(実通院日数一二七日)。その間の、主な症状及び治療は、次のとおりである。
平成一二年七月二六日から、頸椎牽引を開始し、以後継続的に実施された。
同年八月九日、腰痛・頭痛があり、牽引療法の強度が一四kgから一六kgとされ、大腿四頭筋の筋力増強訓練も併せて行うこととされ、同年九月二〇日まで、頸椎牽引が継続された。それ以降もリハビリテーション科での頸椎牽引の予約を入れていたが、来院しなかった。その期間中の整形外科の診察は、同年七月二六日、同月八月九日、同月一六日、同年九月五日、同月一三日であった。
同年八月一六日、背部痛があったが、一日二km歩行した、牽引治療の効果があったと述べた。
同年九月八日、救急来院時間に診察を受け、背部痛があった。
同月一三日、背部痛があった。
g その後の入通院
反訴原告は、平成一三年一一月一八日から同月二四日まで通院した後、同月二七日から同年一二月一九日まで検査目的で入院し、さらに、同月二六日から平成一四年一月三〇日まで通院した(もっとも、その間の診療録等は証拠として提出されておらず、その間の治療状況や症状は明らかではない。)。
(ウ) 慶応病院(二回目)
反訴原告は、平成一三年三月一四日から平成一四年八月三一日まで慶応病院に通院したが、同病院整形外科F医師は、平成一三年八月二三日、傷病名を第五腰椎すべり症、頸椎捻挫とし、症状固定日を同年七月三〇日とする後遺障害の診断をした。その後遺障害診断書(乙一)は、自覚症状を腰痛、右下肢痛及び頸部痛、精神・神経の障害・他覚症状及び検査結果を、右下肢痛脱力あり、右長母趾伸筋MM七四、右下肢知覚障害五/一〇程度、左上肢~左手(Ⅰ~Ⅲ指)痺れ脱力ありとし、脊柱の障害として、平成一二年五月八日L五―Sに固定術とし、荷重機能障害として、常時コルセット装用の必要性があるとしている。
(エ) 日本赤十字社医療センター
反訴原告は、平成一五年七月三日、日本赤十字社医療センターのG医師の診察を受け、病名を腰椎すべり症術後、腰椎可動域が、屈曲一〇度、伸展一〇度、左回旋三五度、右回旋二〇度、左側屈三五度、右側屈二〇度であると診断された(乙一二)。
ウ 身体障害者福祉法上の身体障害者手帳の交付
(ア) 反訴原告は、平成一四年七月一七日、身体障害者手帳取得のために、東京都心身障害者福祉センターのH医師の診断を受けた。
乙二六号証の同医師作成の身体障害者診断書・意見書(肢体不自由用)は、障害名を右下肢機能を全廃したもの、原因となった疾病を右下肢麻痺、疾病・外傷発生年月日を平成一一年三月一〇日、参考となる経過・現症を、平成一二年五月八日腰部手術と内固定したが、術後も症状改善せず、むしろ右下肢の力が入らなくなり、今年春頃より、右膝・右足関節の運動が不能となり、右下肢の支持性も著明に低下したとしている。総合所見としては、右下肢は全般に浮腫強く、右下肢は完全な弛緩性麻痺を認め、右下肢の運動性と支持性はほとんど認められない、右下肢は全体の筋力の低下のため、片脚での立位は不能で、右下肢(患肢)で立位を保持できないものと認めるとしている。肢体不自由の状況及び所見としては、感覚障害として感覚脱失、運動障害として弛緩性麻痺があり、起因部位は脊髄・末梢神経で、排尿・排便機能障害があるとし、また、寝返り、足を投げ出して座る、いすに腰掛ける、家の中の移動、手すり、壁で座位又は臥位で立ち上がる、つえ・松葉つえで野外を移動する、左手でブラシで歯を磨くことは、半介助を要するとし、正座、あぐら、横座り、二階まで階段を上がって下りる、背中を洗う、公共の乗り物を利用することは全介助又は不能である、さらに、歩行能力はベット周辺以上不能、補装具なしで起立位保持は不能としている。そして、以上をもとに障害程度等級についての参考意見を下肢につき身体障害者福祉法施行規則別表第五号記載の三級(以下、「身体障害者等級三級」という。)としている。
(イ) 反訴原告は、平成一四年七月三〇日、障害名を疾患による右下肢機能障害(身体障害者等級三級)として身体障害者手帳の更新を受けた。
エ 自動車保険料率算定会における後遺障害の認定理由
前提事実(4)アの自動車保険料率算定会の認定の理由は、要旨次のとおりとされている。
(ア) 腰椎捻挫後について、提出の医証、画像から、第五腰椎・第一仙椎間に本件手術が行われたことが認められるところ、本件事故の程度は軽度であったことが窺われるが、事故前から腰椎すべり症の既往があり、事故衝撃を契機として腰部症状の増悪があったことは否定できないので、本件手術と本件事故との相当因果関係も否定しがたく、脊柱障害として一一級七号適用と判断する。
(イ) 腰痛・右下肢痛の訴え、右下肢脱力については、本件事故以前から大久保病院で腰痛・右下肢痛に対する治療を受けていたこと、平成一一年三月三日撮影のMRIにおいて腰椎すべり症が著明であることから、腰痛・右下肢痛等は既に他覚的に証明できる一二級一二号に該当する状態であったと捉えられる。そして、前記MRIと同年一一月九日の腰部MRIとを比較すると、事故受傷によると考えられる器質的な増悪は認められず、本件事故によって脊髄等の中枢神経に損傷があったものとは捉えられないことから、現症についても前記等級を超える等級評価はできず、本件事故によって症状の増悪があったとしても、現存する障害が既存の障害よりも後遺障害別等級表上重くなったとはいえないから、加重に至らず、非該当と判断する。
(ウ) 頸部痛の訴え及び左上肢から左手第一ないし三指の痺れ・脱力については、本件事故以前に頸部椎間板ヘルニアとの診断のもと頸部痛、左上肢痛に対する治療を受けており、平成一〇年七月一七日撮影の頸部MRIにおいて頸椎椎間板ヘルニアは著明であることから、頸部痛・左上肢痺れ等は既に他覚的に証明できる一二級一二号に該当する状態であったと捉えられる。そして、本件事故によって脊髄等の中枢神経に損傷があったものとは捉えられないことから、現症についても前記等級を超える等級の評価はできず、本件事故によって症状の増悪があったとしても、現存する障害が既存の障害よりも後遺障害別等級表上重くなったとはいえないから、非該当と判断する。
(2) 以上の認定事実を要するに、反訴原告の症状の経過は、次のとおりである。
ア 反訴原告は、平成七年秋から左肩関節痛・左頸部痛を感じるようになり、平成八年一〇月三〇日の段階で、変形性頸椎症・頸部脊椎管狭窄と診断され、平成一〇年八月三日から同月一〇日まで、右足付け根の痛み、左肩甲骨痛、左肩関節痛、左頸部痛、左手第一ないし三指の痺れ等を訴え、主病名・頸部椎間板ヘルニア、併発病名・腰椎変性すべり症として入院治療を受け、さらに、腰痛や歩行のつらさも訴え、同年一一月三〇日から約三週間の入院治療を受け、本件事故時には症状が悪化すれば手術も検討するとの治療方針で保存治療中であった。
イ 反訴原告は、本件事故後、慶応病院に搬送され、頭痛、項部痛、左第一ないし三指痺れ、腰痛、右足痺れの症状を訴え、第五から第六頸椎間に椎間板腔狭小化、第五腰椎から第一仙椎間に分離すべり有りとの所見で、病名は頸椎捻挫・腰椎捻挫、約二週間の通院加療を要する見込みとの診断を受けた。そして、その二日後に、強度の項部痛があり、本件事故から一週間後の平成一一年三月一六日から同月三〇日まで頸部痛・腰痛の治療と安静のため入院したが、その痛み・痺れ等は継続し、退院後の同年五月一八日には、腰痛のため腰椎用軟性コルセットを着用することになった。また、同年六月一六日以降腰部脊柱管狭窄症の症状である間欠性跛行が認められ、さらに、同年一〇月一三日には右下肢痺れによる歩行困難(一〇分も歩けない。)を訴え、同年一一月一九日の腰椎MRIにおいて、L四は前方にスライドし、このレベルでの脊柱管は狭窄し、所々椎間板は変性し、後方への軽度突出を認めるとの診断を受け、同年一二月一〇日から同月二五日まで、ブロック注射・点滴治療の目的で再度入院した。その後、平成一二年になると、右膝痛を訴えるようになり、同年二月一日には、一分歩行すると疼痛があると訴え、同月七日には歩行時には杖が常に必要であると訴えるようになり、同月一五日には五分から一〇分が歩行限界となり、同年四月二一日に右膝を完全に屈曲できない状態になったため、本件手術目的で入院した。入院中の同年六月二一日からリハビリテーション科での頸椎牽引を開始し、同年七月一五日の退院時に腰痛・右足痛は継続し、退院後も、整形外科の診察とともに、リハビリテーション科での頸椎牽引を同年九月二〇日まで継続していた。
ウ その後、反訴原告の症状は再び悪化し、腰椎の可動域の制限が顕著になるとともに、右下肢脱力感、右下肢知覚障害、右上肢から左手の痺れ等を訴えて、慶応病院に通院し、平成一三年七月三〇日を症状固定日とする後遺障害の診断を受け、平成一五年七月三日、日本赤十字社医療センターにおいて、腰椎可動域が屈曲一〇度、伸展一〇度、左側屈三五度、右側屈二〇度、左回旋三五度、右回旋二〇度であるとする診断を受けた。なお、前記の慶応病院では、可動域制限の計測はなされていなかったが、同病院で症状固定の診断を受けたころには、日本赤十字社医療センターで計測されたとほぼ同程度の腰椎可動域制限があったものと認められる(反訴原告本人)。この間、反訴原告は、平成一四年七月三〇日、障害名を疾患による右下肢機能障害(身体障害者等級三級)として、身体障害者手帳の更新を受けている。
(3) 前記(1)及び(2)の事実を前提に、以下、反訴原告の後遺障害を検討する。
ア 脊柱の運動障害について
(ア) 前記認定のとおり、反訴原告は、本件事故以前は、主病名は頸部椎間板ヘルニア、併発病名は腰椎変性すべり症と診断され、入院治療を受け、その後は外来通院とするが、症状が悪化すれば手術を検討するという方針で保存治療中であり、手術には至っていなかったところ、本件事故により、頸椎捻挫・腰椎捻挫の傷害を負い、腰痛・右下肢痛等の症状が悪化し、治療の効果がなかったため、本件手術(腰椎後方除圧固定術)を受けた。そして、反訴原告の腰部の可動域は、本件手術の結果、屈曲一〇度、伸展一〇度、左側屈三五度、右側屈二〇度、左旋回三五度、右旋回二〇度、すなわち前後屈二〇度、側屈五五度、回旋五五度となったところ、これを腰部の参考可動域角度である前後屈七五度(屈曲四五度、伸展三〇度)、側屈一〇〇度(左右側屈五〇度)、回旋八〇度(左右旋回四〇度)と比較すると、前後屈が約二七%、側屈が約五五%、回旋が約六九%の状態に制限されており、主要運動である前後屈と側屈のうち、前屈が二分の一以上、側屈も二分の一にあと一〇度という程度以上に制限されているものといえるから、参考可動域のほぼ二分の一程度に制限されたものと認められる。
(イ) 以上の事実によれば、反訴原告は、本件事故による受傷のため、本件手術を受けることになり、同手術に基づく脊柱の強直により、腰部の可動域の制限が生じたものと認められる。そして、反訴原告の腰部の可動域は、参考可動域の二分の一以上に制限されたものではないから、反訴原告が主張する六級五号(脊柱に著しい運動障害を残すもの)に該当する後遺障害とはいえないものの、ほぼ二分の一程度に制限されたものといえるから、八級二号(脊柱に運動障害を残すもの)に該当する後遺障害であると認められる(反訴原告は、前提事実(4)のとおり、一一級七号(脊柱に変形を残すもの)の認定を受けているが、これも腰椎後方除圧固定術により生じた同一系列の後遺障害であるから、前記認定の八級二号の後遺障害に含めて評価されるべきものである。)。
(ウ) なお、自賠責保険手続においては、前提事実(4)イのとおり、反訴原告の脊柱の運動障害について六級五号であるとの異議申立は認められていないが、同手続においては、前記認定の可動域制限の認定根拠となった乙一二(診断書)が提出されていなかったなど判断の資料が本件とは異なるから(乙二四)、その事実が前記認定判断を左右するものではない。
イ 腰痛、右下肢痛・脱力、知覚障害等について
(ア) 前記(2)アのとおり、反訴原告は、本件事故前に、右足付け根の痛み、左肩甲骨痛、左肩関節痛、左頸部痛、左手第一ないし三指の痺れ等を訴え、主病名を頸部椎間板ヘルニア、併発病名を腰椎変性すべり症として入院治療を受け、また、腰痛及び歩行のつらさを訴え、三週間の再度の入院治療を受けており、本件事故時には症状が悪化すれば手術も検討するとの治療方針で前記疾病について保存治療中であったことからすると、自動車保険料率算定会が認定したように、本件事故前の反訴原告の腰痛・右下肢痛・右下肢脱力の症状は、一二級一二号に該当する状態であったといえる。
(イ) 前記(2)イのとおり、反訴原告は、本件事故から一週間後に頸部痛・腰痛の治療と安静のため入院したが、その痛み・痺れ等は継続し、退院後には、腰痛のため腰椎用軟性コルセットを着用することになり、その後、腰部脊柱管狭窄症の症状である間欠性跛行が認められ、さらに、右下肢痺れによる歩行困難を訴え、ブロック注射・点滴治療の目的で再度入院した。その後、右膝痛を訴えるようになり、一分歩行すると疼痛がある、歩行時には常に杖が必要であると訴えるようになり、右膝を完全に屈曲できない状態になったため、本件手術目的で入院し、本件手術を受けたが、前記アの腰部の可動域制限のほか、右下肢脱力感、右下肢知覚障害、右上肢から左手の痺れ等の症状が残存したものである。このような反訴原告の症状は、本件事故によって頸椎・腰椎捻挫の傷害を負ったことにより、既往の頸部椎間板ヘルニアや腰椎変性すべり症が悪化したことによる神経症状であると認められ、その程度は、本件事故前の一二級一二号を相当程度超えるものと認められる。しかし、他方で、前記の身体障害者等級と後遺障害別等級表による等級は、その等級自体や認定基準が異なるところ、反訴原告は、主に下肢全体の筋力の低下のため患肢で立位を保持できないことにより前記の身体障害者等級の評価を受けたものであり、そのような筋力の低下は前記の腰椎の可動域制限のための歩行回避等の影響もあると考えられることや(反訴原告本人)、既に検討した反訴原告の症状に照らすと、前記の腰部の可動域制限とは別に、反訴原告の神経症状が、反訴原告が主張するように五級二号(神経系統の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの)又は七級四号(神経系統の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの)に該当するというには疑問があり、九級一〇号(神経系統の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの)に該当するものと認めるのが相当である。
ウ 以上によれば、反訴原告は、既往症として、一二級一二号(局部に頑固な神経症状を残すもの)に該当する障害を有していたところ、本件事故により、八級二号(脊柱に運動障害を残すもの)及び九級一〇号(神経系統の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの)にそれぞれ該当する後遺障害を負ったものであるから、反訴原告の後遺障害は、併合七級に該当するものと認められる。
エ そして、反訴原告は、慶応病院において、平成一三年七月三〇日を症状固定日とする後遺障害の診断を受けているところ、その後遺障害診断書(乙一)には、可動域制限の記載はなく、前記の八級二号の可動域制限の判断の前提となった腰椎可動域に係る診断は、日本赤十字社医療センターの平成一五年七月三日付けの診断書(乙一二)である。しかし、反訴原告が慶應病院で後遺障害の診断を受けた際には可動域の計測はなされておらず、後に原告訴訟代理人の指示によって、日本赤十字社医療センターにおいて診断を受けたものであるところ(乙二七)、その可動域の制限は慶応病院で後遺障害の診断を受けたころの状態とほぼ同じであったことが認められるから(前記(2)ウ)、症状固定日は慶応病院の後遺障害診断書のとおり、平成一三年七月三〇日と認めるのが相当である。
(4) 反訴被告は、反訴原告の後遺障害について、I医師の作成した意見書(甲五二)を提出する。その意見書によれば、既往症の第五腰椎分離すべり症の分離・すべりの程度がかなり顕著であり、加えて加齢変性も重度であるから、腰痛・下肢痛の症状が発生してもおかしくない状態にあった、平成一一年八月ころから緩徐に発生している腰部脊柱管狭窄症状である間欠性跛行は、事故後五か月経過していること、従前より腰痛・下肢痛を訴えていること、追突事故では頸部傷害が主であり、腰部への影響は少ないことから本件事故とは直接関係ないとみるのが医学的に妥当であるとし、ただ、本件事故によって、手術時期が早まったとすれば、道義的に見て、多少は当該事故が関与していたとみざるを得ないとしている。
しかし、本件事故の態様は、前記認定のとおりであり、必ずしも腰部への影響が少ないとはいえず、また、前記認定のとおり、反訴原告は、本件事故前は、症状が悪化すれば手術を検討するという治療方針で、通院により保存治療中であって、手術には至っていなかったが、本件事故後に腰痛・右下肢痛等の症状が悪化して、本件手術に至ったものである。さらに、反訴原告の腰痛・右下肢痛が、加齢性の変性によるものであると認めるに足りる証拠はない。その他、反訴原告が本件事故に遭わなかったとしても、早晩、本件手術適応になった蓋然性を認めるに足りる証拠はない。
以上を総合すると、反訴原告の既往症については、後記四のとおり、素因減額として考慮するのが相当であるとしても、反訴原告の本件事故後の症状と本件事故との相当因果関係を否定する趣旨の前記意見書は採用することができない。
三 争点三(治療専念義務違反等による過失相殺)について
反訴被告は、反訴原告の本件事故後の治療経過によると、反訴原告には、治療専念義務違反、損害拡大抑止義務違反が認められるから、反訴原告の損害につき相当割合の減額がされるべきであると主張する。
確かに、反訴被告が主張するように、甲四五ないし四七号証によれば、反訴原告は、大久保病院において、医師や看護婦の指示に従わずに勝手な行動をとったり、勝手に薬を服用したり、逆に拒絶したりしたことが認められる。また、甲四四号証によれば、反訴原告が診察予約日に受診しなかったことが認められる。しかし、本件証拠によっても、前記反訴原告の行動によって本件における反訴原告の損害が拡大したものとまではいえないから、前記反訴被告の主張は採用することができない。
四 争点四(素因減額)について
(1) 反訴被告は、反訴原告は、本件事故以前に頸椎・腰椎加齢性変性疾患及び第五腰椎分離・すべり症に罹患しており、更に、反訴原告には極めて強い心因反応が存在しており、これらによって、反訴原告の治療期間が長期化し、その損害が異常に拡大したといえるので、民法七二二条二項の類推適用により、反訴原告の損害は少なくとも八〇%が減額されるべきであると主張する。
(2) 確かに、甲四四号証によれば、<1>反訴原告は、大久保病院において、平成一一年四月二一日から、入院中のストレスによる胃びらん、表層性胃炎に対する治療を受けていること、<2>平成一一年九月二一日、同月二二日及び同月二四日に右胸部痛を訴えているが、同日、その原因となりそうなレントゲン検査による異常所見は見当たらず、血液尿検査、血沈、血中炎症性蛋白も正常であり、内科的診断がつけられないと診断されていること、<3>平成一二年七月二六日には、従前治療を受けた病院の批判を行っていたこと、甲四七号証によれば、<4>反訴原告は、本件手術後、イライラを募らせ、安静・禁煙の指示を守らずに自己退院することをほのめかしたり、食事、点滴、病室内の物の配置、看護体制等で看護師らに対し怒鳴ったりし、その後は反省し、時には看護師らに甘えるようなそぶりをするものの、再び自分の思いに反することが起きると看護師らに対し怒鳴ったりしていることが、それぞれ認められる。
しかし、入院によるストレスが原因で、胃に炎症等をおこすことは、通常考えられるところである。また、甲四七号証によれば、本件手術は、背部を切開し、採骨と腰椎の左右に二個のスクリューを挿入し、チタンプレートで固定するという後方除圧固定術であることや、前記認定のとおり、反訴原告は本件手術後も腰痛等を有していたことを考慮すると、本件手術後の前記<2>ないし<4>の事実をもってしても、それが通常人に考えにくいような心因反応であるともいえない。
そうすると、反訴原告の心因反応を理由とする反訴被告の減額の主張は採用することができない。
(3) しかし、前記認定のとおり、反訴原告は、本件事故以前には、腰椎すべり症に罹患し、本件事故前の反訴原告の神経症状は一二級一二号に該当する状態であったところ、本件事故によって、反訴原告の症状が増悪し、本件手術等の治療を受け、また、前記認定の後遺障害を負ったことについては、前記反訴原告の腰椎すべり症及びそれによる症状が大きく寄与したことは明らかであることからすれば、損害の公平な分担の見地から、民法七二二条二項を類推適用し、反訴原告の損害額の五割を減額するのが相当である。
五 争点五(損害額)について
(1) 損害額
反訴原告の本件事故による損害額は、下記の損害合計三四三三万九五八九円であると認められる。そして、同額から、前記のとおり、素因減額として五割を減額すると、損害額は一七一六万九七九四円となる。
ア 治療費等 二二四万八七七〇円
治療費等(文書料を含む。)については、次のとおり、症状固定日 (平成一三年七月三〇日)までの合計二二四万八七七〇円が本件事故と相当因果関係のある損害と認められる(ただし、後記(オ)のとおり、日本赤十字社医療センターの診断費・文書料の一部は、症状固定日後のものであるが、本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。)。反訴原告は、症状固定日後の治療等も主張するが、後記(オ)を除き、症状固定後の治療費等を本件事故と相当因果関係のある損害と認めるべき事情があるとはいえない。
(ア) 慶応病院 五万一〇九〇円(甲九の二)
(イ) 大久保病院 二一六万九三七〇円(乙一五)
乙一五号証の総額二四二万〇〇四〇円から、本件事故前の治療費三万九七八〇円及び症状固定日後の治療費二一万〇八九〇円を除いた二一六万九三七〇円が、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。
(ウ) 東京医科大学病院 七三九〇円(乙七)
(エ) 済生会宇都宮病院 四〇三〇円(乙八)
(オ) 日本赤十字医療センター 一万六八九〇円
前記のとおり、反訴原告は、症状固定後、日本赤十字社医療センターにおいて、腰椎可動域制限に係る診断書を作成してもらったところ、同診断書は前記の後遺障害の認定に資するものであることからすれば、乙一六号証のうち、その診断及び文書料に要したと考えられる一万六八九〇円の限度で、本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
イ 薬代 一九万〇八三〇円
乙一七号証の整形外科・リハビリ科の薬代合計一九万三三六〇円から症状固定日後の薬代を除いた一九万〇八三〇円が、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。
ウ 入院雑費 一七万一〇〇〇円
入院雑費は、一日当たり一五〇〇円とし、症状固定日までの入院日数は一一四日であるから、合計一七万一〇〇〇円を本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
エ 通院交通費 二一万三三一〇円
通院交通費は、乙一八号証から反訴原告が除外する合計六九二〇円を控除した二一万三三一〇円が、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。
オ 装具代(甲三七の一・二) 七万〇四五一円
カ 休業損害 〇円
(ア) 反訴原告は、休業期間を本件事故の翌日である平成一一年三月一〇日から症状固定日である平成一三年七月三〇日までの八七三日間、一日の休業損害を一万六四三八円(年収六〇〇万円÷三六五日)として、一四三五万〇三七四円の休業損害を主張し、その主張に沿う証拠としては、甲三二号証の一ないし三(休業損害証明書)、甲三三号証(給与所得の源泉徴収票)、乙一九(休業損害証明書)及び二〇号証(給与明細)がある。
(イ) しかし、甲三二号証の一ないし三(休業損害証明書)及び乙一九号証(休業損害証明書)に記載されている所得税と乙二〇号証(給与明細)に記載されている所得税の額は合致しないし、甲三三号証(給与所得の源泉徴収票)には「支払金額」及び「源泉徴収金額」以外の金額欄には何らの記載もなく、その体裁からしてもその信用性は疑わしいといわざるを得ない。
そして、甲五〇号証(大久保病院の診療録)の本件事故以前の平成一〇年八月三日に作成された患者プロフィールの職業の欄には、無職で既往症がたくさんあるので病院通いをしていた、一六歳から四四歳までは水商売をしていた旨の記載が、甲四五号証(大久保病院の診療録)の平成一一年三月一六日に作成された患者プロフィールの職業欄には、無職、一六歳から四四歳まで水商売をしていた旨の記載がそれぞれあり、甲四六号証(大久保病院の診療録)の平成一一年一二月一〇日に作成された患者プロフィールの職業欄にも、職業がない旨の記載がある。
(ウ) 以上によれば、反訴原告が本件事故当時に働いて収入を得ていたものと認めることはできず、さらに、本件証拠上、反訴原告が本件事故に遭わなかったとすれば、症状固定日までの間に就労した蓋然性があると認めることはできない。この点、反訴原告は、会社の役員であり、社会保険に入っているわけではないし、また、その会社が源泉徴収により控除した自己の所得税を納税しているか分からず、福祉により治療を受けるため、病院には無職である旨告げたと供述しているが、その供述のみでは前記認定は左右されない。
キ 後遺障害逸失利益 二一五四万五二二八円
(ア) 反訴原告は、前記認定のとおり、本件証拠上、本件事故当時に働いていたものとまでは認められず、また、症状固定日までに就労した蓋然性があるとは認められないものの、反訴原告本人に就労の意思や機会はあるものと考えられること(反訴原告本人)及び前記の後遺障害の内容からすれば、症状固定後については、一定の基礎収入を前提に後遺障害逸失利益を認めるのが相当である。そして、前記休業損害(イ)・(ウ)における認定に加え、反訴原告の症状固定日の年齢及び賃金センサス平成一三年度第一巻第一表の男性労働者の産業計・企業規模計・学歴計・五〇歳から五四歳までの年収が七〇六万〇三〇〇円であることを考慮すると、後遺障害逸失利益算定にあたっての基礎収入は、その約七割の四九四万二二一〇円と認めるのが相当である。
(イ) また、反訴原告は、症状固定日の平成一三年七月三〇日当時、五二歳であること、前記認定の既往の後遺障害、本件事故による後遺障害の等級・内容等に照らせば、反訴原告は、症状固定時の五二歳から六七歳までの一五年間にわたり、労働能力を四二%喪失したものと認めるのが相当である。
(ウ) 以上をもとに、一五年のライプニッツ係数を用いて中間利息を控除し、反訴原告の後遺障害逸失利益を算定すると次のとおりとなる。
494万2210円×0.42×10.3796=2154万5228円
ク 傷害慰謝料 二八〇万〇〇〇〇円
反訴原告の受傷内容に加え、前提事実(3)、乙一及び五号証によれば、反訴原告の治療期間は、本件事故日である平成一一年三月九日から症状固定日である平成一三年七月三〇日まで約二年五か月であり、うち一一四日間入院し、一九六日(実通院日数)通院したことからすれば、傷害慰謝料は二八〇万円を認めるのが相当である。
ケ 後遺障害慰謝料 七一〇万〇〇〇〇円
前記認定の既往の障害及び本件事故による後遺障害の等級等に照らせば、後遺障害慰謝料は七一〇万円を認めるのが相当である。
(2) 損害のてん補
前提事実(5)によれば、本件における損害のてん補は合計一五〇一万一二八〇円であるから、それを前記(1)の損害額一七一六万九七九四円から控除すると二一五万八五一四円となる。
(3) 確定遅延損害金
反訴原告は、自賠責保険金支払分についての確定遅延損害金を主張するところ、その額は、下記計算のとおり合計一五八万一〇七一円であると認められる。
ア 平成一一年一二月一〇日の九一万九六〇九円の支払いについて
91万9609円×0.05×277日÷365日=3万4894円
イ 平成一四年四月三日の六六二万円の支払いについて
662万円×0.05×(3年+25日÷365日)=101万5671円
ウ 同年五月二三日の三三一万円の支払いについて
331万円×0.05×(3年+75日÷365日)=53万0506円
(4) 弁護士費用
本件の事案の内容及び認容損害額等に照らすと、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、二二万円と認めるのが相当である。
(5) まとめ
以上の損害をまとめると、本件事故による原告の損害残額元本は二三七万八五一四円であり、確定遅延損害金は一五八万一〇七一円となる。
第四結論
以上によれば、反訴原告の本件請求は、三九五万九五八五円及び内二三七万八五一四円に対する本件事故日である平成一一年三月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 松本利幸 瀬戸啓子 蛭川明彦)
(別紙)現場見取図
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