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東京地方裁判所 平成15年(ワ)28986号 判決 2005年1月25日

甲事件原告・乙事件被告

X1

甲・乙事件被告

Y1

甲事件被告

Y2交通自動車株式会社

乙事件原告

X2

ほか一名

主文

一  甲事件原告・乙事件被告X1の請求をいずれも棄却する。

二  甲事件原告・乙事件被告X1及び甲・乙事件被告Y1は、乙事件原告X2に対し、連帯して、四万一七六二円及びこれに対する平成一二年一二月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  甲事件原告・乙事件被告X1及び甲・乙事件被告Y1は、乙事件原告東京都個人タクシー交通共済協同組合に対し、連帯して、二一万四一三〇円及びこれに対する平成一四年一月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  乙事件原告X2及び乙事件原告東京都個人タクシー交通共済協同組合のその余の請求をいずれも棄却する。

五  甲事件原告・乙事件被告X1と甲・乙事件被告Y1及び甲事件被告Y2交通自動車株式会社の間における甲事件の訴訟費用は、甲事件原告・乙事件被告X1の負担とし、乙事件原告らと甲事件原告・乙事件被告X1及び甲・乙事件被告Y1の間における乙事件の訴訟費用はこれを二〇分し、その一を乙事件原告らの負担とし、その余を甲事件原告・乙事件被告X1及び甲・乙事件被告Y1の負担とする。

六  この判決の二・三項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  甲事件

甲・乙事件被告Y1及び甲事件被告Y2交通自動車株式会社は、甲事件原告・乙事件被告X1に対し、連帯して、一一二〇万七九二三円及びこれに対する平成一二年一二月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件

(1)  甲事件原告・乙事件被告X1及び甲・乙事件被告Y1は、乙事件原告X2に対し、連帯して、四万三七七一円及びこれに対する平成一二年一二月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(2)  甲事件原告・乙事件被告X1及び甲・乙事件被告Y1は、乙事件原告東京都個人タクシー交通共済協同組合に対し、連帯して、二二万五四〇〇円及びこれに対する平成一四年一月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  基礎的事実(証拠を記載したほかの事実は、当事者間に争いがない。)

(1)  交通事故の発生

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

日時 平成一二年一二月二〇日午後一一時五五分ころ

場所 千葉県浦安市<以下省略>先路上

関係車両 <1> 甲事件被告Y2交通自動車株式会社(以下「被告Y2交通」という。)が保有し、甲・乙事件被告Y1(以下「被告Y1」という。)が運転する事業用普通乗用自動車(タクシー。<番号省略>。以下「Y1車」という。)

<2> 甲事件原告・乙事件被告X1(以下「原告X1」という。)が運転する自家用原動機付自転車(<番号省略>。以下「X1車」という。)

<3> 乙事件原告X2(以下「原告X2」という。)が所有し、運転する事業用普通乗用自動車(タクシー、<番号省略>。以下「X2車」という。)

事故態様 上記場所の交差点(以下「本件交差点」という。)において、直進するX1車が、右折するY1車に衝突し、さらにX1車が停車していたX2車に衝突した。

(2)  原告X1の受傷及び治療経過(甲事件の甲六の一ないし五、九。以下、特に記載しない限り、証拠番号は、併合前後を通じて甲事件のそれを指す。)

原告X1(本件事故当時二七歳)は、本件事故により、左大腿骨転子下骨折、左橈骨遠位端骨折の傷害を負い、次のとおり入通院した。

ア 順天堂大学医学部附属順天堂浦安病院(以下「順天堂浦安病院」という。)

平成一二年一二月二一日から平成一三年二月一日まで入院(四三日)

平成一三年二月一五日通院(一日)

イ 医療法人社団順公会佐藤整形外科

平成一三年二月一九日から同年五月七日まで通院(実通院日数二六日)

ウ 医療法人社団順公会白石整形外科内科クリニック

平成一三年五月一四日から同年一二月一〇日まで通院(実通院日数二八日)

エ 日本私立学校振興・共済事業団東京臨海病院(以下「東京臨海病院」という。)

平成一四年四月三日から同月一〇日まで通院(実通院日数二日)

平成一四年四月一六日から同月二六日まで入院(一一日)

(3)  原告X1の後遺障害の認定(甲四、五)

原告は、平成一四年一一月一二日症状固定の診断を受け、損害保険料率算出機構により、次の理由で、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)二条別表の後遺障害別等級表(以下、単に「後遺障害等級」という。)一四級一〇号(局部に神経症状を残すもの)に該当する旨の認定を受けた。

左大腿骨転子下骨折に伴う左下肢の鈍痛の訴えについては、提出の画像上、骨癒合は得られているものの、骨折状況等から「局部に神経症状を残すもの」と捉え、後遺障害等級一四級一〇号適用と判断する。

左股関節の可動域制限については、関節可動域が健側(右)の四分の三以下には制限されておらず、非該当と判断する。なお、可動域制限の評価は、主要運動である屈曲、伸展値で比較するが(内外旋値は参考値)、主要運動値である屈曲、伸展値、参考値である内外旋値のいずれも自動車損害賠償責任保険の後遺障害の認定基準に該当しない。

二  争点及び当事者の主張

(1)  甲事件・争点一(本件事故態様、責任原因、過失相殺)

ア 原告X1

被告Y1は、Y1車を運転して、本件交差点を右折するに際し、前方左右を注視し、特に直進車の進路の安全を確認して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然と右折してX1車と衝突したものであるから、民法七〇九条に基づき、原告X1が被った損害を賠償する責任がある。

また、被告Y2交通は、Y1車の保有者であり、かつ、被告Y1の使用者で、本件事故は、被告Y1が被告Y2交通のタクシー業務に従事中に発生したものであるから、被告Y2交通は、自賠法三条、民法七一五条一項に基づき、原告X1が被った損害を賠償する責任がある。

イ 被告Y1及び被告Y2交通

本件事故は、原告X1が赤信号を無視して本件交差点に進入したことにより、右折中のY1車に接触したものである。

すなわち、被告Y1は、本件交差点において、右折のために道路中央寄りに停車し、信号が変わるのを待ち、対向する道路の信号が赤に変わるのを確認し、その赤信号に従い対向する普通乗用自動車が停止し、ヘッドライトを消したことを確認した。その後、被告Y1がY1車を発進させたところ、X1車が上記停止車両の右側を追い抜いて、赤信号を無視し、本件交差点内に進入したものである。

原告X1は、Y1車をよけるため、左にハンドルをきったが、その先に本件交差点内で客待ちのため駐車していたX2車があり、それを避けるために再度ハンドルを右にきったために、X1車のハンドルがY1車の右前ヘッドライトに接触した。これにより、原告X1が投げ出され、X2車に衝突したため受傷した。

赤信号を無視して交差点内に進入する車両に注意すべき義務はなく、被告Y1の過失及びそれを前提とする被告Y2交通の責任は否認ないし争う。また、仮に、被告Y1及び被告Y2交通の責任が認められるとしても、相応の過失相殺がなされるべきである。

(2)  甲事件・争点二(原告X1の損害)

ア 原告X1

(ア) 治療費 六六万八六一七円

(イ) 付添看護費 三五万一〇〇〇円

1日当たり6500×54日=35万1000円

(ウ) 入院雑費 八万一〇〇〇円

1500円×54日=8万1000円

(エ) 通院交通費 二四万五六九〇円

a 付添人交通費(三六日) 一四万六七二〇円

b 通院交通費(五七日) 九万八九七〇円

(オ) 休業損害 七三四万三九〇一円

年収386万8000円(平成12年賃金センサス産業計・全労働者25歳ないし29歳)÷365日×693日(本件事故日から症状固定日)=734万3901円

(カ) 後遺障害逸失利益 三二六万二二三二円

年収386万8000円(平成12年賃金センサス産業計・全労働者25歳ないし29歳)×0.05×16.8687(症状固定時29歳から就労可能終期67歳までの38年のライプニッツ係数)=326万2232円

(キ) 傷害慰謝料 一八四万五〇〇〇円

(ク) 後遺障害慰謝料 一一〇万〇〇〇円

(ケ) 確定遅延損害金 一一万一三一二円

原告X1は、平成一三年八月二一日に一〇六万七九八〇円、平成一四年一二月二六日に七五万円の自賠責保険金の支払を受けたところ、同保険金額に対する本件事故日から同保険金の各支払日の前日までの確定遅延損害金は、次のとおり合計一一万一三一二円である。

a 106万7980円×0.05×244日(平成12年12月20日から平成13年8月20日まで)÷365日=3万5696円

b 75万円×0.05×736日(平成12年12月20日から平成14年12月25日まで)÷365日=7万5616円

(コ) 損害のてん補

上記損害額の合計は一五〇〇万八七五二円であるが、うち、その八割である一二〇〇万七〇〇一円から、自賠責保険金一八一万七九八〇円を控除した一〇一八万九〇二一円を請求する。

(サ) 弁護士費用 一〇一万八九〇二円

(シ) まとめ

以上により、原告X1は、被告Y1及び被告Y2交通に対し、一一二〇万七九二三円及びこれに対する本件事故日である平成一二年一二月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

イ 被告Y1及び被告Y2交通

原告X1の損害は不知。

(3)  乙事件・争点一(本件事故態様、責任原因、過失相殺)

ア 原告X2及び原告東京都個人タクシー交通共済協同組合(以下「原告タクシー共済」という。)

交差点に進入する際には、前方を注視しなければならない注意義務があるところ、原告X1はこれを怠って漫然と直進し、被告Y1も注意義務を怠って漫然と右折したものであり、本件事故は、原告X1及び被告Y1の過失によって発生したものであるから、原告X1及び被告Y1は、民法七〇九条、七一九条一項に基づき、損害賠償責任を負う。

なお、原告X1及び被告Y1は、過失相殺を主張する。しかし、駐停車車両について過失が考慮されるのは、駐停車車両が進路妨害になっていたことが原因で事故が発生した場合である。しかし、本件事故当時、X2車は、乗客を降車させるため、X2車から見て本件道路の左端に左側前輪及び後輪を路側帯上に乗せて本件道路側面と平行に停車していた。本件道路のX2車が停車していた辺りの道路幅は一四・四mあり、ダンプカー等の大型車でもX2車の右側を十分通れる状況であった(なお、丙一の二ないし四の写真に写っている車両は、本件事故当時のものではなく、当時の車両より車幅が五cm長くなっているから、本件事故当時はX2車の右側は同写真より空いていた。)。したがって、X2車の停車自体は、後続走行車両の障害にはなっていなかった。

また、駐停車車両に責任が認められるためには、過失と損害との間、ないし運行と生命又は身体の間に相当因果関係が認められなければならないが、本件では、原告X1の傷害とX2車の停車との間に相当因果関係はない。

イ 原告X1

X2車には、道路交通法四四条違反があり、X2車が原告X1との衝突場所に停車していなければ、原告X1は、X2車との衝突を回避できた。したがって、原告X2にも過失があり、過失相殺がなされるべきである。

ウ 被告Y1

被告Y1は、右折のためにセンターライン寄りに停車し、後方のスクランブル交差点が赤信号になったため、右折しようとしたところ、信号を無視して本件交差点内に進入してきたX1車と衝突した。本件事故は、原告X1の信号無視に起因しているから、被告Y1の責任は否認ないし争う。

X2車は、本件交差点内において客の降車等のために停車していたものであるところ、このような行為は、道路交通法四四条違反である。原告X2がこのような違法行為を行わなければ、本件事故は回避されたといえるから、相応の過失相殺がなされるべきである。

(4)  乙事件・争点二(原告X2の損害賠償請求権の額、原告タクシー共済の求償債権の額)

ア 原告X2及び原告タクシー共済

(ア) 原告X2の損害

原告X2は、本件事故により、X2車の修理費用二二万五四〇〇円、休車損害三万九七七一円の損害を被った。

(イ) 原告X2の損害賠償請求権の額

原告X2は、原告X1及び被告Y1に対し、上記(ア)の休車損害三万九七七一円及び弁護士費用四〇〇〇円の合計四万三七七一円並びにこれに対する本件事故日である平成一二年一二月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(ウ) 原告タクシー共済の求償債権の額

原告X2は、原告タクシー共済の組合員であるところ、原告タクシー共済は、平成一四年一月二四日、上記(ア)のうち修理費用二二万五四〇〇円を修理をした有限会社a板金工業所に支払い、原告X2の原告X1及び被告Y1に対する損害賠償請求権を保険代位(商法六六二条)により取得した。

よって、原告タクシー共済は、原告X1及び被告Y1に対し、二二万五四〇〇円及びこれに対する共済金の支払日の翌日である平成一四年一月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

イ 原告X1

上記ア(ア)ないし(ウ)は不知。

ウ 被告Y1

原告X2の休車損害は、配当利益も含めた所得を基に計算されているが、配当所得は本件事故により影響されないものであるから、控除されるべきである。また、休業・休車損害証明書(乙事件の甲二)には、租税公課は三三万三九六三円と記載されているが、平成一一年分所得税青色申告決算書(乙事件の甲四)には、租税公課欄は九五〇〇円と記載されているから、この金額(又はその他の租税公課の金額を加算したもの)によるべきである。その余の上記ア(ア)ないし(ウ)は不知。

第三当裁判所の判断

一  甲事件・争点一(本件事故態様、責任原因、過失相殺)について

(1)  本件事故態様

ア 認定事実

証拠(甲一、二、四、乙一、二、丙一の一ないし五、二、三、丙五の一ないし八、乙事件の甲六の一・二、七、八、乙一ないし三、被告Y1本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(ア) 本件事故現場は、別紙交通事故現場見取図(乙一。以下「別紙図」という。)のとおり、浦安市海楽方面と浦安橋方面を結ぶ道路(以下「本件道路」という。)と浦安市堀江方面と浦安市北栄二丁目方面を結ぶ道路が交差する交差点(以下「本件東側交差点」という。)の西側にある本件道路と浦安市当代島二丁目方面に至る道路が交差する本件交差点(丁字路交差点)内である。

(イ) 本件道路は、片側二車線の道路であり、本件東側交差点及び本件交差点における本件道路を通行する車両用の各信号は、同一標示であり、その信号サイクルは、青三五秒、黄三秒、赤六一秒である。また、本件交差点における上記信号には、右折矢印の表示はない。

(ウ) 被告Y1は、Y1車を運転して、本件道路を浦安市海楽方面から浦安橋方面に向けて走行し、本件東交差点に差し掛かったところ、対面信号が青であったため、同交差点に進入して同交差点を通過し、本件交差点を浦安市当代島二丁目方面に右折するため、本件交差点に進入して、別紙図の<1>地点(以下、地点の符号は別紙図のそれを指す。)に停止し、対向車両三台ないし五台が通過するのを待った。そして、被告Y1は、本件道路の車両用信号が赤になったのを確認した後、浦安橋方面から走行してきた対向車線の車両が、本件交差点手前の停止線で停止し、ヘッドライトを消してスモールライトを点灯したため、右折するためY1車を発進させた。しかし、被告Y1は、Y1車が<2>地点に至った時、上記の停止車両の右側を時速約三〇kmないし四〇kmで本件交差点に進入してくる<ア>地点やや南側のX1車を発見したため、危険を感じてブレーキを掛けたが、<×>1地点でY1車とX1車が接触した(その時のY1車は<3>地点、X1車は<×>1地点)。Y1車は<3>地点で停止したが、X1車は、さらに、別紙図のカレーハウスゴリラ亭(以下「ゴリラ亭」という。)前で、乗客を降ろすために停止していたX2車に衝突した(なお、X2車の停止位置は、別紙図のゴリラ亭前に停止車両が記載されている位置より、やや東側であった。)。

イ 補足説明

(ア) 原告X1は、その陳述書(甲四)において、本件道路を浦安橋から湾岸線方面に向かって片側二車線の左側車線を走行し、本件交差点に差し掛かる四mほど手前で信号が青から黄に変わったが、後続の車両があり、X1車が急停車をすると後続車両に追突される危険を感じたので本件交差点に進入したところ、Y1車が、X1車の行く手を阻むように右折を開始した旨述べている。本件道路の車両用信号の信号サイクルは上記ア(イ)のとおり、青三五秒、黄三秒、赤六一秒であるところ、仮に、原告X1の上記陳述書の記載を前提とすると、X1車は、対面信号が黄で本件交差点に進入したことになる。

しかしながら、被告Y1及び被告Y2交通は、X1車は、赤信号で本件交差点に進入した旨主張し、被告Y1は、本人尋問において、本件交差点に青信号で進入し、本件交差点中央手前付近で停止し、三台ないし五台の対向車が通過するのを待った後、車両用信号が赤になったのを確認した旨上記アの認定事実に沿う具体的な供述をしているところ(乙二の陳述書の記載を含む。)、このように右折待機をして車両用信号が赤になってから右折を開始した点についての被告Y1の供述自体に信用性を疑わせる事情は認められない。そうすると、原告X1の上記陳述書の記載のみをもって(原告X1は、同原告本人尋問を申請していない。)、被告Y1の供述を排斥することはできず、上記陳述書の記載は採用することができない。

(イ) もっとも、被告Y1及び被告Y2交通は、原告X1は、Y1車をよけるため、左にハンドルをきったが、その先に本件交差点内で客待ちのため駐車していたX2車があり、それを避けるために再度ハンドルを右にきったために、X1車のハンドルがY1車の右前ヘッドライトに接触し、これにより、原告X1が投げ出され、X2車に衝突したため受傷した旨主張する(なお、被告Y1及び被告Y2交通は、基礎的事実(1)のとおり、X1車がY1車に衝突した後、さらにX1車が停車していたX2車に衝突したという限度で本件事故態様を認めているが、一方で、上記のようにX1車がY1車に接触し、原告X1が投げ出され、X2車に衝突した、すなわち、X2車に衝突したのは、原告X1で、X1車ではないかのような主張もしている。)。そして、被告Y1は、上記主張に沿う供述をする(乙二の陳述書の記載を含む。)。

しかしながら、被告Y1が、実況見分において、上記のようにX1車が停車していたX2車を避けようとしたことを示す動静について、指示説明をしていたことは窺われず(乙一)、また、同様に、保険会社の調査に対しても、そのような説明をしたことは窺われない(乙事件の乙一)。また、被告Y1は、X1車とY1車の衝突は、瞬間であったとか、気付いた時にはすぐにぶつかった旨を供述しており、その瞬間に上記のようなX1車のハンドルの操作を目撃したということには疑問がある。Y1車との衝突を回避するためにハンドルを左に切りながら、さらに前方に停車中のX2車を避けるために今度はハンドルを右にきり、結局、Y1車に衝突したというのもいささか不自然である。さらに、原告X1も、陳述書(甲四)において、Y1車に衝突する前のハンドル操作や停車していたX2車の影響については何ら述べていない。また、X2車の破損状況(丙五の一ないし八、乙事件の甲七)、原告X1の陳述書(甲四)及び原告X2の陳述書(乙事件の甲八)によれば、X1車は、Y1車に衝突後、X2車に衝突したものと認められる。以上によれば、被告Y1及び被告Y2交通の上記主張並びに被告Y1の上記供述部分は採用することができない。

(2)  責任原因、過失相殺

上記(1)ア認定のとおり、本件事故は、被告Y1が、Y1車を運転して、青信号で本件交差点に進入し、本件交差点の中央やや手前で停止して、対向車をやり過ごし、対向車が赤信号で停止したために、Y1車を発進させたところ、その停止車両の右側を通って、対面の赤信号を無視又は看過して、X1車が本件交差点に進入したために発生したものであるから、本件事故の発生について、原告X1の過失は大きいというべきである。しかしながら、被告Y1も、対面信号が青で本件交差点に進入したものの、赤信号で右折するにあたっては、直進車両の動向等を十分注視すべきであったのに、その注視が不十分であった過失が認められる。したがって、被告Y1は、民法七〇九条に基づき、また、被告Y2交通は、Y1車の保有者であり、かつ、被告Y1の使用者で、本件事故は、被告Y1が被告Y2交通のタクシー業務に従事中に発生したものであるから、自賠法三条、民法七一五条一項に基づき、連帯して、原告X1が被った損害を賠償する責任があるといわざるを得ない。

そして、上記の原告X1と被告Y1の過失を比較すると、本件事故についての過失割合は、原告X1七〇:被告Y1三〇と認め、原告X1の損害につき七〇%の過失相殺をするのが相当である。

二  甲事件・争点二(原告X1の損害)について

(1)  治療費 四九万五三六七円

原告X1は、本件事故による受傷のため、基礎的事実(2)のとおり入通院したところ、証拠(甲六の一ないし五、九。ただし、甲九の東京臨海病院の治療費のうち、室料差額金一六万五〇〇〇円及びその消費税八二五〇円を除く。)によれば、治療費(文書料を含む。)合計四九万五三六七円は、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。東京臨海病院の治療費のうち室料差額金及びその消費税については、これを本件事故と相当因果関係のある損害と認めるに足りる証拠がない。

(2)  付添看護費 二七万九五〇〇円

原告X1の受傷内容及び証拠(甲一一)によれば、本件事故日の翌日である平成一二年一二月二一日から平成一三年二月一日までの順天堂浦安病院に入院中の四三日については、原告X1の母が付き添ったこと及びその必要性が認められ、一日当たり六五〇〇円として、四三日分の合計二七万九五〇〇円を本件事故と相当因果関係のある付添看護費と認めるのが相当である。しかし、その後の平成一四年四月一六日から同月二六日までの東京臨海病院への入院一一日については、付添看護が必要であったと認めるに足りる証拠はない。

(3)  入院雑費 八万一〇〇〇円

入院雑費は、一日当たり一五〇〇円として、入院日数五四日分の八万一〇〇〇円を認めるのが相当である。

(4)  通院交通費 一九万五九七〇円

通院交通費(付添人交通費を含む。)は、甲七のうち、東京臨海病院に入院中の付添人の交通費と考えられる四万九七二〇円を除いた一九万五九七〇円を認めるのが相当である。

(5)  休業損害 〇円

原告X1は、年収三八六万八〇〇〇円(平成一二年賃金センサス産業計・全労働者二五歳ないし二九歳)を基礎収入として、本件事故日から症状固定日までの六九三日分の休業損害を主張する。しかしながら、本件事故当時、原告X1が就労し、稼働していたことを認めるに足りる証拠はない。原告X1の母であるAの陳述書(甲一一)には、原告X1は、その姉の自営する飲食店の手伝をし、それ以外にもフリーターをしていた旨述べているが、その姉であるBの陳述書(甲一二)によれば、同人が経営する飲食店をかつて原告X1が手伝ったことはあったものの、その店は八年程前(陳述書の作成は平成一六年一一月であるから、本件事故より相当前である。)に閉じたというのであるから、本件事故時に原告X1がその店を手伝って稼働していたものとはいえない。その他、原告X1が本件事故当時又はそれに近い時期に稼働して収入を得ていたことを示す客観的書証は何ら提出されていない。そうすると、原告X1が、本件事故に遭わなかったとすれば、症状固定時までの時期に就労し収入を得た蓋然性が高いものとはいえないから、休業損害を認めることはできない。

(6)  後遺障害逸失利益 七〇万〇八四三円

原告X1は、上記のとおり、後遺障害等級一四級一〇号の後遺障害を負ったところ、その後遺障害の内容・程度からすれば、その労働能力の五%を五年間にわたり喪失したものと認めるのが相当である。そして、上記(5)のとおり、原告X1が本件事故に遭わなかったとすれば、症状固定時までに就労し収入を得た蓋然性が高いものとはいえないものの、症状固定時までの期間や上記の労働能力喪失期間に加え、原告X1は症状固定後就労の意思があると認められること(甲一〇の一・二)、原告X1の症状固定時の年齢は二九歳であることからすれば、基礎収入を平成一四年賃金センサス男性労働者・学歴計二五歳から二九歳の平均年収四〇四万七〇〇〇円の八割である三二三万七六〇〇円として、後遺障害逸失利益を算定するのが相当である。そうすると、原告X1の後遺障害逸失利益は、次のとおり七〇万〇八四三円となる。

323万7600円×0.05×4.3294(5年のライプニッツ係数)=70万0843円

(7)  傷害慰謝料 一五五万〇〇〇〇円

原告X1の受傷内容、入通院期間(入院五四日、実通院日数五七日)に照らすと、傷害慰謝料は一五五万円を認めるのが相当である。

(8)  後遺障害慰謝料 一一〇万〇〇〇〇円

原告X1の後遺障害の内容、等級に照らすと、後遺障害慰謝料は一一〇万円を認めるのが相当である。

(9)  過失相殺及び損害のてん補

ア 上記損害額の合計は、四四〇万二六八〇円であるところ、原告X1の過失割合七〇%を減ずると一三二万〇八〇四円となる。

イ 原告X1は、平成一三年八月二一日に一〇六万七九八〇円、平成一四年一二月二六日に七五万円の自賠責保険金の支払を受けたとして、同保険金額に対する本件事故日から同保険金の各支払日の前日までの確定遅延損害金も主張するところ、同保険金を同保険金額に対する本件事故日から同保険金の支払日までの遅延損害金に充当し、残額を元本に充当して、計算すると、次のとおり、損害額は既に全額てん補されたことになる。

(ア) 平成一三年八月二一日支払の一〇六万七九八〇円について

一〇六万七九八〇円に対する本件事故日である平成一二年一二月二〇日から支払日までの二四五日の遅延損害金は三万五八四三円(106万7980円×0.05×245日/365日)であるから、上記保険金のうち、同遅延損害金に充当された後、元本に充当される額は一〇三万二一三七円である。したがって、残元本は二八万八六六七円となる。

(イ) 平成一四年一二月二六日支払の七五万円について

上記(ア)の支払により既に残元本は二八万八六六七円となっているところ、同元本に対する本件事故日から平成一四年一二月二六日までの七三七日の遅延損害金は二万九一四三円(28万8667円×0.05×737/365日)であるから、七五万円の支払によって、既に同遅延損害金と残元本は全額てん補されたことになる。

ウ なお、原告X1の主張する充当方法とは異なるが、仮に、原告X1に最も有利に、自賠責保険金を(支払われた保険金額に対する遅延損害金ではなく)損害元本に対する遅延損害金にまず充当し、残額を元本に充当するとしても、以下のとおり、原告X1の損害額が既に全額てん補済みであることは同様である。

(ア) 平成一三年八月二一日支払の一〇六万七九八〇円について

過失相殺後の損害額一三二万〇八〇四円に対する本件事故日である平成一二年一二月二〇日から支払日までの二四五日の遅延損害金は四万四三二八円(132万0804円×0.05×245日/365日)であるから、上記保険金のうち、同遅延損害金に充当された後、元本に充当される額は一〇二万三六五二円である。したがって、残元本は二九万七一五二円となる。

(イ) 平成一四年一二月二六日支払の七五万円について

上記(ア)の支払により既に残元本は二九万七一五二円となっているところ、同元本に対する本件事故日から平成一四年一二月二六日までの七三七日の遅延損害金は三万〇〇〇〇円(29万7152円×0.05×737/365日)であるから、七五万円の支払によって、既に同遅延損害金と残元本は全額てん補されたことになる。

エ 以上のとおり、原告X1の損害額は、自賠責保険からの支払により既に全額てん補されているから、原告X1の弁護士費用の請求も理由がない。よって、原告X1の被告Y1及び被告Y2交通に対する本件請求はいずれも理由がない。

三  乙事件・争点一(本件事故態様、責任原因、過失相殺)について

(1)  本件事故態様及び責任原因

本件事故態様は、上記一(1)のとおりである。そして、上記一(2)のとおり、本件事故は、原告X1と被告Y1の過失によって発生したものであるところ、本件事故の衝撃により、X1車は、X2車に衝突し、X2車が破損したものであるから、原告X1及び被告Y1は、共同不法行為者として、民法七〇九条、七一九条一項により、原告X2が被った損害について賠償責任を負う。

(2)  過失相殺

上記一(1)アのとおり、タクシーであるX2車は、乗客を降ろすために、別紙図のゴリラ亭前に停止車両が記載されている位置よりやや東側に停車していたところ、同所は駐停車が禁止されている場所である(道路交通法四四条一・二号)。

そして、原告X2及び被告Y1は、そのような場所にX2車を停止していた原告X2にも過失があるとして、相応の過失相殺をすべきであると主張する。これに対し、原告X2及び原告タクシー共済は、駐停車車両について過失が考慮されるのは、駐停車車両が進路妨害になっていたことが原因で事故が発生した場合であるが、本件事故当時はX2車の右側は十分空いていたから、X2車の停車自体は、後続走行車両の障害にはなっていない、また、駐停車車両に責任が認められるためには、過失と損害との間、ないし運行と生命又は身体の間に相当因果関係が認められなければならないが、本件では、原告X1の傷害とX2車の停止との間に相当因果関係はないと主張する。

そこで検討するに、なるほど、X1車とY1車の衝突事故は、原告X1と被告Y1の過失によって発生したものであり、その衝突事故について原告X2の過失は認められず、また、X2車が停止していなかった場合と比較して、原告X1の受傷の程度が重くなったと認めるに足りる証拠はないから、原告X2が、原告X1に対する関係で、不法行為責任を負うということはできない。しかしながら、原告X2が、駐停車禁止の規制に反して上記の場所に停車していなければ、X2車にX1車が衝突して、X2車が損害を被ることはなかったところ、その停車位置も、第一車線を走行する車両にとって通行の妨害となるような位置であり(丙一の一ないし五)、そのような位置に停車していれば、交差点内の事故に巻き込まれることがあり得ることは予測可能であるから、本件事故による被害を受けるについては、原告X2にも落度(過失相殺における過失)があったものといわざるを得ない。そして、上記一で認定した本件事故態様、原告X1及び被告Y1の過失を考慮すると、原告X2の損害については、五%の限度で、過失相殺をするのが相当である。

四  乙事件・争点二(原告X2の損害賠償請求権の額、原告タクシー共済の求償債権の額)について

(1)  原告X2の損害

ア X2車の修理費用 二二万五四〇〇円

X2車は、本件事故により破損し、本件事故日の翌日である平成一二年一二月二一日から同月二三日まで有限会社a板金工業所で修理を受けたところ、その修理費用は、二二万五四〇〇円であったと認められる(丙五の一ないし八、乙事件の甲五、七)。被告Y1は、上記修理費用に疑問を呈する供述をするが、憶測に基づくものにすぎず、他に上記認定を左右するに足りる証拠はない。

イ 休車損害 三万九七五〇円

原告X2は、X2車により個人タクシーを営んでいるところ、上記アの修理期間の三日間営業ができなかったことが認められる(乙事件の甲二、七)。X2車の休車損害の算定に当たっての基礎収入は、原告X2の平成一一年分の営業による収入二六四万六五六五円に、青色申告控除額四五万円並びに固定経費である租税公課及び組合費等三三万三九六三円、損害保険料二万七七〇〇円、減価償却費八五万八一七八円、地代・家賃五一万九九九六円(丙四、乙事件の甲二ないし四、弁論の全趣旨)を加算し、これを三六五日で除した一日当たり一万三二五〇円と認めるのが相当である。

そうすると、原告X2の休車損害は三万九七五〇円(1万3250円×3日)となる。

(2)  原告X2の損害賠償請求権の額

上記(1)イのとおり、原告X2の休車損害は三万九七五〇円であるところ、これから上記三(2)の原告X2の過失割合五%を減ずると三万七七六二円となる。同額に照らすと、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、四〇〇〇円を認めるのが相当である。

以上により、原告X2の損害賠償請求権の額は四万一七六二円となる。

(3)  原告タクシー共済の求償債権の額

原告タクシー共済は、平成一四年一月二四日、車両共済金として、原告X2に代わって、直接有限会社a板金工業所に対し、上記(1)アの修理費用二二万五四〇〇円を支払ったことが認められるから(乙事件の甲五)、原告タクシー共済は、これから上記三(2)の原告X2の過失割合五%を減じた二一万四一三〇円につき、保険代位(商法六六二条)に基づき、原告X2の原告X1及び被告Y1に対する損害賠償請求権を取得したことになる。

五  結論

以上の次第で、原告X1の被告Y1及び同Y2交通に対する本件請求はいずれも理由がないから棄却することとし、原告X2の本件請求は、原告X1及び被告Y1に対し、連帯して、四万一七六二円及びこれに対する本件事故日である平成一二年一二月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、原告タクシー共済の本件請求は、原告X1及び被告Y1に対し、連帯して、二一万四一三〇円及びこれに対する共済金の支払日の翌日である平成一四年一月二五日から支払済みまで同割合による遅延損害金の支払を求める限度で、それぞれ理由があるから認容し、その余の原告X2及び原告タクシー共済の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 松本利幸)

別紙 交通事故現場見取図

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