東京地方裁判所 平成15年(ワ)3443号 判決 2003年7月25日
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原告
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同所
原告
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上記二名訴訟代理人弁護士
児玉晃一
和歌山県田辺市朝日ヶ丘17番5号
被告
株式会社アプリコ
同代表者代表取締役
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和歌山県●●●
被告
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上記二名訴訟代理人弁護士
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主文
1 被告らは,各自,原告●●●に対し,100万円及びこれに対する平成15年1月31日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは,各自,原告●●●に対し,100万円及びこれに対する平成15年1月31日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告らの被告らに対するその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,これを3分し,その2を被告らの負担とし,その余を原告らの負担とする。
5 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1 被告らは,各自,原告●●●に対し,150万円及びこれに対する平成15年1月31日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは,各自,原告●●●に対し,150万円及びこれに対する平成15年1月31日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1 本件は,原告らが,被告らに対し,被告らから違法な債権の取立てを受け,これにより精神的苦痛を受けたと主張して,不法行為に基づき損害賠償等を請求した事案である。
2 当事者間に争いのない事実等
(1) 被告株式会社アプリコ(以下,「被告会社」という。)は,貸金を業とする株式会社であり,和歌山県に貸金業者として登録(和歌山県知事(3)01142号)している。被告●●●(以下,「被告●●●」という。)は,その代表取締役である。
(2) 原告●●●(以下,「原告●●●」という。)は,平成14年4月25日被告会社から70万円を借り入れた(甲1)。
原告●●●(以下,「●●●」という。)は,原告●●●の妻である。
(3) 原告●●●は,被告会社以外にも多額の負債があったことから,東京パブリック法律事務所に債務整理の依頼をした。同法律事務所は,被告会社に対し,平成14年12月19日付け「債務整理開始通知」を発送し,平成15年1月16日,和解案を提示したところ,被告会社は,これでは難しいなどと答えたもののその後何の連絡もなかった。
(4) 平成15年1月31日午後4時ころ,原告●●●が在宅中に,玄関チャイムがなり,外に出てみると,玄関入り口ドアー一面に,赤のガムテープで封筒が並べるように貼られているのを発見した。この封筒は被告会社の名入りのものであった。貼られていた封筒は2種類で,ピンク色の大きな封筒には,「貴殿に対し,警告する。現在張り込み及び尾行をしているが,貴殿の勤務先の連絡があれば,張り込み等は解除する。至急連絡求む。アプリコ及びオークヒル」と書かれた紙2枚と10円玉が3枚入っていた。また,18枚ある白い普通の大きさの封筒の中全てには,「告知書及び催告書」という文書が入っていた。それには「告知人債権者は,被告知人債務者の貴殿に対し,次のとおり告知催告する。告知人債権者は被告知人債務者である貴殿に対し,信用を供与し貸付を行っているが,貴殿はその信頼付与を意図的に踏みにじり約定の返済を履行しようとしない。かかる事態においては,告知人債権者は,公正証書に基づいて強制執行の手続きを採らざるをえない。告知人債権者は,貴殿の勤務先,預貯金関係,住居等を既に把握しているので公正証書に基づいて強制執行を行う。したがって,本書到達後7日以内に貴殿から告知人債権者に連絡及び支払いがない場合には,貴殿の勤務先の給与差押え,預貯金の差押えを行う。その場合には差押裁判所から貴殿の勤務先,取引金融機関へ差押命令が送達されることになる。また,告知人債権者は貴殿の住居内の動産であるテレビ,タンス,冷蔵庫,冷暖房器具,机等の差押を執行官及び鍵屋同道の上行い,売却のうえ債権の返済に充当する。以上のとおり事前催告する。」と書かれていた。
(5) 原告●●●は,あわてて,代理人である児玉晃一弁護士(以下,「児玉弁護士」という。)に電話をし,同人と連絡がとれるのを待っていたところ,同日午後5時ころに,「金 持ち逃げにつき,金 戻せ。おんだらは債権者に通知なく退職した。よって金 戻せ。金貸屋アプリコ」という文面の電報が送付されてきた。
原告●●●は,児玉弁護士のところへ前記封筒及び電報を持参し,同弁護士は,その場で,被告会社に架電し対応した女性事務員にこのような取立行為の中止を強く要求したが,被告会社の取立行為は止まず,同年2月1日午前10時,同日午後4時,翌2日の午前中に,最初の電報とほぼ同趣旨の電報が送られてきた。
このため,同日,児玉弁護士は,被告会社宛に電話し,取立行為の中止を再度求めるとともに,電子内容証明で,被告会社に対し,取立行為の中止を求める通知を発送し,同通知は同月3日に被告会社に配達されたが,被告会社は,同月2日の夕方,同月3日,同月4日の午前,午後に同趣旨の電報を原告●●●宛に送付してきた。
(6) 児玉弁護士は,同月3日,和歌山県商工労働部商工金融課に対し行政処分を求める申告書をファクシミリで送信し,監督を求めた。
同月3日午後3時40分ころ,被告会社は,再度,原告ら自宅ドアに封筒を貼り付けた。また,被告会社は同月4日午前10時40分ころ,原告ら代理人事務所に電話し,原告らの自宅前にテントを張って張り込みを続ける旨通告してきた。また,被告会社からの電報は,同月5日の午前・午後及び6日午前も各1通づつ送られてきた。
(7) 同月7日午後,警視庁板橋警察署生活安全課の●●●刑事が,被告会社宛に電話で警告したが,同月8日,被告会社は,原告●●●宛に「おんだらは国毒か。金持ち逃げさらして往生際が悪いぞ。金貸屋アプリコ」と記載された電報を送付してきた。そして,同趣旨の電報は,同月9日,10日にも送付されてきた。さらに,同月5日には,同年1月31日に白い封筒に入っていたのと同じ「告知書及び催告書」が3通,同月6日に1通,同月10日に1通送付されてきた。
3 原告の主張
(1) 被告会社の前記行為は,原告●●●を畏怖させて,貸金の支払を強要するものであり,人を威迫しまたは私生活若しくは業務の平穏を害するような貸付債権の取立てを禁止している貸金業の規制等に関する法律(以下,「貸金業法」という。)21条1項に違反する。また,被告会社が原告●●●及び原告●●●の自宅ドアーの一面にガムテープで封筒を貼り付けた行為は,刑法261条の器物損壊罪に該当し,この器物損壊行為を行うために,原告●●●及び原告●●●が居住するマンションの建物内に入り込んだ行為は,刑法130条の建造物侵入罪に該当する。
これら違法行為は,法人としての被告会社による組織的・計画的で悪質な不法行為であることは明らかである。
そして,被告会社による継続的な違法取立行為は,組織的なものであて,代表取締役である被告●●●が悪意で行わせたものである。かかる違法行為を従業員に行わせることは,取締役がその職務を行うについて悪意で原告らに損害を与えた行為であり,被告●●●は原告らに対して民法709条もしくは商法266条の3第1項により,被告会社と連帯して原告らに生じた後記の損害を賠償する責任がある。
(2) 原告らは,被告会社の前記不法行為によって,生命・身体及びその財産を侵害される危険を受け,日常生活の平穏を完全に奪われている。
ことに原告●●●は,平成15年1月31日以後,買い物のために外に出るのも怖くなり,ドアのノックに怯えるような毎日である。また,原告●●●が仕事のため外出したときも,被告会社に拉致されるのではないかという不安を抱き続けながら,帰宅するのを待っている状態である。
このような被告会社の不法行為によって,原告らは著しい精神的苦痛を受けており,これを金銭に評価すれば,少なくとも各人につき150万円は下らない。
よって,原告らは,被告らに対し,不法行為に基づく損害賠償として請求の趣旨記載の判決を求める。
4 被告らの主張
被告らの行為が違法な行為であることは争い,原告らに精神的苦痛が生じたことは否認し,慰謝料額については争う。
第3判断
1 被告会社は,原告●●●の代理人弁護士からの債務整理開始の通知,和解案の呈示を受けたにもかかわらず,第2,2(4)ないし(7)記載のとおり,平成15年1月31日以降同年2月10日までの約10日間余りの間に,2度にわたり原告ら自宅住居の玄関ドアーの一面に,貸金の支払を督促する内容の多数の封筒を赤のガムテープで貼り付ける,連日のように電報あるいは郵便で,「金 持ち逃げにつき 金 戻せ。」「おんだらは国毒か。金持ち逃げさらして往生際が悪いぞ」あるいは公正証書により給与の差押えや家財に対する動産執行を実行する等といったような内容の取立ての文書を送付する,電話で代理人弁護士事務所に原告ら自宅前にテントを張って張り込みをすると通告するといった債権取立行為を,弁護士や警察等からの数度の中止要請にもかかわらず継続したものである。
これらは原告らの私生活上の平穏を明らかに害するものであって,貸金業法21条1項に違反し,明らかに社会通念上許容される範囲を逸脱するものであるから,原告らに対する不法行為となる。また被告●●●は,被告会社の代表者であって,かかる違法な取立行為をあえて被告会社の関係者に行わせたのであるから,被告会社と同様,原告らに対し,不法行為責任を負う。
2 甲20号証,甲21号証及び弁論の全趣旨によれば,前記被告らの行為により,原告らが精神的苦痛を受けたことが認められる。
そして,前記被告らによる取立行為の態様,この被告会社の取立行為により,原告らは外出することも畏怖するようになったこと(甲20,甲21)などその他本件に現れた一切の事情を考慮すれば,原告らの精神的苦痛を慰謝するには,各100万円が相当である。
3 以上によれば,原告らの本件請求は,主文の限度で理由がある。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判官 川畑公美)