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東京地方裁判所 平成15年(ワ)4792号 判決 2004年7月12日

甲事件原告兼乙事件原告

X1

ほか一名

甲事件被告

Y1

ほか一名

甲事件被告等補助参加人

三井住友海上火災保険株式会社

乙事件被告

Y2

主文

一  甲事件被告らは、原告X1に対し、各自九九一万六六五六円及び内九四五万二九〇七円に対する平成一四年七月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  甲事件被告らは、原告X2に対し、各自九九一万六六五六円及び内九四五万二九〇七円に対する平成一四年七月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らの甲事件被告らに対するその余の請求及び乙事件被告に対する請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用のうち、補助参加によって生じた費用はこれを二分し、その一を原告らの、その余を甲事件被告ら補助参加人の各負担とし、その余の訴訟費用は、原告らと甲事件被告らとの間においてはこれを二分し、その一を原告らの、その余を甲事件被告らの各負担とし、原告らと被告Y2との間においては全部原告らの負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告X1に対し、連帯して一九〇九万七四八六円及び内一八六三万三七三七円に対する平成一四年七月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告X2に対し、連帯して一九〇九万七四八六円及び内一八六三万三七三七円に対する平成一四年七月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、後記一(1)の交通事故(以下「本件事故」という。)によって亡Aが死亡したのは、未成年者であった亡Bの過失又は両親である甲事件被告ら(以下「被告Y1ら」という。)の過失(監督義務違反)と乙事件被告(以下「被告Y2」という。)の過失とが競合したことによるものであり、共同不法行為が成立するとして、亡Aの相続人である原告らが、被告Y1らに対しては民法七〇九条に基づき、被告Y2に対しては同条及び自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、連帯して損害賠償を支払うことを求めた事案である。

一  前提となる事実等(各項末の括弧内に証拠番号を掲記した事実のほかは、当事者間に争いがない。)

(1)  本件事故の発生

ア 日時 平成一四年七月一六日午後八時一〇分ころ

イ 場所 東京都台東区<以下省略>先の信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)

ウ 関係車両 被告Y2が運転する自家用普通乗用自動車(<番号省略>。以下「Y2車」という。)亡Bが運転し、亡Aが同乗する自家用普通自動二輪車(<番号省略>。以下「B車」という。)Cが運転し、Dが同乗する自家用普通自動二輪車(<番号省略>。以下「C車」という。)

エ 態様 本件交差点を直進通過しようとしたB車が、対向右折しようとしていたY2車に衝突した。

オ 結果 亡Aは平成一四年七月一六日午後九時一〇分ころ、亡Bは同日午後九時五八分ころ、いずれも死亡した。(甲一、二の二、三ないし五)

(2)  亡Bの責任原因

亡Bは、本件交差点を直進通過しようとするに当たっては、前方を注視し、対向右折する車両の存在を確認すべき注意義務を負っていたにもかかわらず、これを怠り、漫然本件交差点を高速度で直進し、対向右折しようとしたY2車にB車を衝突させたものである。したがって、亡Bは、民法七〇九条に基づき、本件事故により生じた損害を賠償すべき責任を負う。

(3)  被告Y1らの責任原因

亡Bは、本件事故当時、一六歳の未成年であったから、被告Y1らは、亡Bを監督すべき義務を負っていたところ、これを怠ったから、本件事故が発生したものである。したがって、被告Y1らは、民法七〇九条に基づき、本件事故により生じた損害を賠償すべき責任を負う。

(4)  亡Aの相続

原告X1は亡Aの実父であり、原告X2は亡Aの実母であったから、原告らは、法定相続分に従い、亡Aの損害賠償請求権を各二分の一の割合で相続した。(甲二の一・二)

(5)  亡Bの相続

甲事件被告Y1(以下「被告Y1」という。)は亡Bの実父であり、甲事件被告Y3(以下「被告Y3」という。)は亡Bの実母であったから、被告Y1らは、法定相続分に従い、亡Bの損害賠償債務を各二分の一の割合で相続した。(甲三)

(6)  損害の填補

原告らは、平成一四年一一月二〇日、Y2車に付保された自賠責保険を引き受けたあいおい損害保険株式会社から、二六〇四万一三五〇円の支払を、また、同月二六日、B車に付保された自賠責保険を引き受けた日新火災海上保険株式会社から、同額の支払を、それぞれ受けたところ、前記(4)の相続割合に応じて、損害の填補に充てた。(甲一、八、九の一・二、弁論の全趣旨)

(7)  Y2車に付保された自動車保険

本件事故当時、Y2車には甲事件被告ら補助参加人(以下「補助参加人」という。)を保険者とする自動車保険が付保されていた。

二  争点

(1)  被告Y2の責任の有無

(原告らの主張)

ア 被告Y2は、本件交差点を右折するに際しては、反対車線を走行中の直進車両の有無を確認して、直進車両の進行を妨げないように右折すべき注意義務を負っていたにもかかわらず、これを怠り、安全確認をせずに漫然と右折を開始したことにより、本件事故を惹起したものである。したがって、被告Y2は、民法七〇九条に基づき、本件事故によって発生した損害について賠償すべき責任を負う。

イ また、被告Y2は、本件事故当時、Y2車の保有者であったから、自賠法三条に基づき、本件事故によって発生した損害を賠償すべき責任を負う。

(被告Y2の認否及び主張並びに補助参加人の主張)

アについて

本件事故は、被告Y2が本件交差点を青信号の表示に従って右折するに当たり、対向車線から直進進行してきたBが、前方を注視せず、最高速度の規制を超える時速一〇〇km前後の速度で、B車の操縦を誤るなどした暴走行為によって、B車がY2車に衝突してきたものであり、Bの一方的過失によって発生したものというべきである。

イについて

否認し、又は争う。

本件事故当時、Y2車を保有していたのは、Eである。また、Y2車には、構造上の欠陥又は機能の障害はなかった。

(2)  好意同乗減額の可否

(被告Y1らの主張)

被告Y2がB車を発見してから停止するまでの間に進行した距離は約一・九mであるのに対し、この間にB車が進行した距離は約二三・七五mであるところ、仮にこの間に要した時間を一秒とすると、B車の速度は、時速八五・五kmになる。

ところで、亡Aと亡Bは、本件事故当時、親友関係にあり、頻繁に行動を共にしていたものであって、亡Aも友人のバイクを借りて運転し、転倒事故を起こしたことすらあったところ、本件事故直前も、連れ立って買物に出掛ける途中であった。このような事情からすれば、亡Aは、亡Bの運転状況をかねてから知っていたものと考えられ、本件事故の際も、前記のような高速度で走行するB車に自ら同乗していたことからすれば、好意同乗減額として少なくとも二割の減額がされるべきである。

(被告Y2及び補助参加人の主張)

仮に被告Y2に本件事故による亡Aの死亡について損害賠償責任が認められる場合であっても、亡Aは、亡Bがバイクを運転した場合、前記(1)において主張したような危険な走行をすることがあり得ることを予め了解した上で、B車に同乗したものと考えられるから、少なくとも二〇%以上の好意同乗減額がされるべきである。

(原告らの主張)

ア 好意同乗減額が認められるためには、同乗者に同乗についての帰責性が認められることが必要であり、具体的には、例えば、運転者の運転態度の危険性を十分認識した上で、これを了承しつつ同乗するといった事情があることが必要である。

本件においては、<1>本件事故前における事情として、亡Bがバイクを運転し始めたのは、年齢からして本件事故の間際であったこと、亡Aは、バイクを所有していなければ、運転免許も所持しておらず、バイクを運転したこともなく、いわゆる暴走仲間ではないこと、亡Aが高校に進学してからは亡Bとはさほど頻繁に遊んでいたわけではないこと、また、<2>本件事故当時の事情として、亡Aは、友人同士で近くに買物に行くために、B車に同乗したにすぎず、自らバイクの利用を指示したことはないこと、亡Bも亡Aも、いずれも自宅は葛飾区にあったところ、本件事故が発生した本件交差点まではせいぜい一〇kmの距離しかないから、亡AがB車に同乗していた時間は、せいぜい一〇ないし二〇分程度にすぎない上、亡Bも亡Aも、本件事故現場付近の道路状況を十分知っていたものと思われることなどからすれば、亡Aが亡Bの運転態度が危険であることを十分認識しつつB車に同乗していたものとは考えにくい。

したがって、本件においては、好意同乗減額を基礎付ける事情は存在しないというべきである。

イ 共同不法行為による損害賠償債務は、不真正連帯債務の関係に立つものと解されているところ、その具体的な効果としては、被害者保護の観点から債権の満足を得させるもの以外の絶対効(民法四三四条ないし四三九条)を排除する点にある。そうだとすると、被害者が加害者の一方のみに対して内部的な減額の要素(過失相殺や好意同乗減額など)を負っていたとしても、他方の加害者がこれを援用して自らの債務を減額することは許されないというべきである。

したがって、本件においても、仮に亡Bとの関係では好意同乗減額が認められるとしても、これを他方の加害者である被告Y2及び補助参加人が援用することは許されない。

(3)  損害

(原告らの主張)

ア 亡Aの損害

(ア) 逸失利益 四六四一万三七五六円

亡Aは、本件事故当時、一六歳の高校生であったから、平成一二年の賃金センサスにおける学歴計による全年齢平均の男性労働者の平均年収である五六〇万六〇〇〇円を基礎となる収入とするのが相当である。

したがって、逸失利益は、生活費控除率を五〇%とし、一八歳から六七歳までの五〇年間を就労可能年数とすると、次の算式のとおり、四六四一万三七五六円となる。

560万6000×(1-0.5)×(18.418-1.8594)=4641万3756

(イ) 慰謝料 三〇〇〇万〇〇〇〇円

亡Aは、本件事故当時、一六歳と若年であり、心身ともに健康で、人柄も良く、原告らとの関係も良好であった。このように順風で安定した学生生活を送り、将来に対する希望で満ちあふれていた亡Aが、本件事故により若くして人生を閉じることを余儀なくされたのに対し、亡Bは、被告Y1らも自認するとおり、最高速度を大幅に超過する、極めて危険な速度でB車を走行させていたのであり、また、被告Y1らは、十分な謝罪をしていないことなどを考慮すると、慰謝料としては、三〇〇〇万円が相当である。

(ウ) 小計 七六四一万三七五六円

前記(ア)及び(イ)を合計すると、七六四一万三七五六円となる。

(エ) 原告ら各自の損害 各三八二〇万六八七八円

前記第二の一(4)によれば、原告らが相続した損害は、各自三八二〇万六八七八円となる。

イ 原告ら固有の損害

(ア) 葬儀費 各二七七万八二〇九円

原告らは、亡Aの葬儀費用として総額五五五万六四一八円の支出をしたところ、二分の一の割合で負担したから、各自の損害は、二七七万八二〇九円となる。

(イ) 固有の慰謝料 各二〇〇万〇〇〇〇円

本件事故により最愛の息子を若くして失ったため、原告らは、多大な精神的苦痛を受けた。したがって、原告ら固有の慰謝料としては、各二〇〇万円が相当である。

(ウ) 小計 各四七七万八二〇九円

前記(ア)及び(イ)を合計すると、原告ら固有の損害は、各四七七万八二〇九円となる。

ウ 小括 各四二九八万五〇八七円

前記ア(エ)及びイ(ウ)を合計すると、原告ら各自の損害は、四二九八万五〇八七円となる。

エ 損害の填補後の残額 各一六九四万三七三七円

前記ウから前記一(6)の自賠責保険金を控除すると、原告ら各自の損害残額は、一六九四万三七三七円となる。

オ 弁護士費用 各一六九万〇〇〇〇円

カ 合計 各一八六三万三七三七円

前記エ及びオを合計すると、一八六三万三七三七円となる。

キ 確定遅延損害金 各四六万三七四九円

前記一(6)の自賠責保険金の給付は、本件事故による損害の填補に当たり、本件事故日から給付日の前日までに発生した確定遅延損害金も、本件事故との間に相当因果関係のある損害である。

したがって、原告ら各自の損害としては、次の算式<1>及び<2>のとおり、あいおい損害保険株式会社から支払われた自賠責保険金相当額に対する本件事故日から支払日の前日までの一二七日間に発生した遅延損害金四五万三〇四八円及び日新火災海上保険株式会社から支払われた自賠責保険金相当額に対する本件事故日から支払日までの一三三日間に発生した遅延損害金四七万四四五一円の合計九二万七四九九円の二分の一に相当する四六万三七四九円(円未満切捨て)となる。

<1> 2604万1350×0.05÷365×127=45万3048(小数点以下切捨て)

<2> 2604万1350×0.05÷365×133=47万4451(小数点以下切捨て)

(被告Y1らの認否及び主張)

アないしウについて

いずれも金額を争う。

逸失利益を算定するに当たって採用されるべき基礎となる収人は、原告らにおいて、亡Aが生涯を通じてその主張する収入を得られるであろう蓋然性のあることを立証すべきである。

オないしキについて

いずれも争う。

(被告Y2の認否及び主張並びに補助参加人の主張)

アについて

(ア)について

不知又は争う。

基礎となる収入として学歴計による男性労働者の全年齢平均賃金を採用するのは不当である。亡Aは、本件事故当時、高校生であったのであり、特に大学に進学する予定の蓋然性が立証されない限り、高卒の男性労働者の全年齢平均賃金を前提とするのがより蓋然性の高い算定方法であると考えられるからである。

(イ)について

不知。金額は争う。

亡Aの年齢や、亡Aが学生であったことからすれば、三〇〇〇万円は過大である。

イについて

(ア)について

不知。金額は否認し、又は争う。

一五〇万円を限度とすべきである。

(イ)について

発生事情は不知。発生自体を否認し、又は争う。

特別の事情がない限り認められないというべきである。

オについて

不知。金額は争う。

キについて

不知又は争う。

第三当裁判所の判断

一  争点(1)(被告Y2の責任の有無)について

(1)  証拠(乙一ないし一〇)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故に至るまでの経緯として次の事実が認められる。

ア 本件交差点は、別紙現場見取図のとおり、南南西方向(上野方面)と北北東方向(千住方面)を結ぶ国道四号線(通称「昭和通り」。以下「本件道路」という。)に対し、西北西方向(金杉通り方面)に延びる道路(通称「柳通り」)及び東北東方向(国際通り方面)に延びる区道が接する変形交差点である。

本件道路は、歩車道の区別のある道路であり、上野方面から本件交差点に向かう車道及び千住方面から本件交差点に向かう車道は、いずれも進行方向に向かって左折及び直進、直進専用、直進専用及び右折専用の各四車線に区分されている。路面は、アスファルトで舖装され、平坦であり、ほぼ直線道路であることから、前方の見通しは良好である。

最高速度は、時速六〇kmに制限されている。

なお、本件事故当時、天候は晴天であり、路面は乾燥していた。

イ 被告Y2は、本件事故当時、Y2車を運転して、本件道路を上野方面から本件交差点に向かって走行していた。

ウ 本件事故当時、亡Bは、亡Aを同乗させた上でB車を運転して、本件道路を千住方面から本件交差点に向かって走行していた。また、Cは、Dを同乗させた上でC車を運転して、B車の後方約一一・五m付近の地点を走行していた。

エ 被告Y2は、本件交差点を右折するため、<1>地点でY2車の右のウインカーを点滅させ、右折専用の車線に沿って本件交差点に進入したが、対向直進車が走行してきていたため、<2>地点で一時停止した。そして、対向直進車が途切れたため、Y2車を発進させたところ、<3>地点で<ア>地点を走行してくるB車を発見し、<4>地点で一時停止した。

他方、亡Bは、本件交差点の手前でY2車を発見すると、急ブレーキをかけたが、B車は、約一八・八五mにわたってスリップ痕を路面に印象させた後、バランスを崩して<イ>地点付近で転倒し、そのまま路面を滑走した。その結果、<4>地点で停止していたY2車の左前部付近にB車が衝突した。そして、B車から投げ出された亡Bは、<エ>地点で後方から走行してきたC車に轢かれ、また、同じくB車から投げ出された亡Aは、Y2車の下(地点)に潜り込んだ。

(2)ア  ところで、原告らは、Y2車は、停止していたのではなく右折進行中にB車と衝突したものであり、被告Y2が主張の根拠とする平成一四年七月二二日付け実況見分調書(乙五)について、<1>本件事故直後に実施された実況見分における指示説明とは異なる指示説明をしていること、<2>B車に追従していたCが立ち会って実施された実況見分における指示説明(乙六)によれば、衝突直前にY2車は動いていたものと推認されること、<3>被告Y2の一方的な指示説明により作成されたものであることなどからすれば、信用性に疑問があると主張する。

しかしながら、<1>については、乙五の記載を合理的に理解すれば、乙一と同様、<ア>地点を走行してくるB車を発見して危険を感じたのが<3>地点であり、停止したのは<4>地点である(なお、<4>地点自体は記載が省略されている。)とみるべきである。また、<2>について、原告らは、平成一四年八月一日付け実況見分調書(乙六)におけるCの指示説明によれば、Y2車とB車の衝突地点の手前数mの地点で「右前方から何かが出てきたのを見た」とのことであり、この「何か」とはY2車以外にないから、Y2車は、衝突時に動いていたと主張するが、C車がB車の後方約一一ないし一二m前後の地点を追従していたこと(乙六)からすれば、B車がブレーキをかけた後スリップし、更に転倒して滑走したことを考慮しても、Cが「右前方から何かが出てきたのを見た」時点では、既にY2車とB車が衝突していたものと推認されるから、「何か」とは、むしろY2車と衝突した後、B車から投げ出された亡Bであった可能性が高いということができる。そして、<ウ>については、前記説示のとおり、被告Y2の指示説明が不合理であって信用性に乏しいと評価し得るような事情を認めるに足りる証拠はない。確かに、亡BがY2車を認めて急ブレーキをかけたことは、Y2車がB車の直進を妨げる行動すなわち右折の挙動を示していたことを推認させるけれども、最終的に停止したY2車によって、B車の進路が塞がれてはいない以上(乙一)、亡Bは、Y2車に衝突せずに本件交差点を通過することができたものということができる。

イ  また、原告らは、仮に本件事故の具体的態様が前記実況見分調書における被告Y2の指示説明のとおりであったとしても、本件道路が、直線で、車線が多い幹線道路であるから、前方の見通しがよく、亡BがB車の前照灯を点灯させていたことからすれば、被告Y2としては、B車がより遠くを走行している時点で認識し得たのであるから、右折の開始を思いとどまることができたはずであり、重大な前方不注視の過失があったと主張する。

しかしながら、この点についても、被告Y2は、B車を認識する前に対向直進車の一団があったことを一貫して認めているところ(乙一、五)、そのためにB車を認識し得なかった可能性は否定することができず、一般に四輪車の前照灯に比較して二輪車のそれの方が照度が劣ることも考え併せると、被告Y2の前方不注視を基礎付けるには証拠が不十分というほかない。

(3)  前記(1)の認定事実に前記(2)において検討したところを併せれば、被告Y2は、B車を発見すると、直ちに停止措置を講じ、B車の進路を塞ぐような位置にはY2車を停止させてはいないことに照らすと、亡Bが運転を誤らなければB車をY2車に衝突させることはなかったものと推認されるということができるから、被告Y2に過失があったとすることは困難である。

(4)  また、被告Y2が、本件事故当時、自己のためにY2車を運行の用に供していたことを認めるに足りる的確な証拠はない。

(5)  したがって、この点に関する原告らの主張は、採用することができない。

二  争点(2)(好意同乗減額の可否)について

証拠(甲一〇、乙一一、一二)によれば、亡Aは、亡Bとは、小学校以来の親しい友人であったこと、高等学校に進学してからは、亡Bとともにバイクに乗ってほぼ毎日のように遊んでいたこと、本件事故当時も、一緒に買物に行くため、B車に同乗することになったことが認められる。

ところで、事故を惹起した運転者ではないにもかかわらず、過失相殺と同様に発生した損害を割合的に減ずるのが相当とされる好意同乗減額が認められるためには、単に運転者の好意に依拠して同乗したというだけでは足りず、運転者が事故を惹起しかねないような具体的な事情を認識していながら、任意の意思で同乗したことが必要であると解される。そうだとすると、前記認定の事情のみからは、亡Bが本件事故を惹起するような走行をすることを、亡Aが認識していながら、B車に同乗していたとまで認めることは困難である。

したがって、この点に関する被告Y1らの主張は勿論、被告Y2及び補助参加人の主張も、その余の点を検討するまでもなく、採用することができない。

三  争点(3)(損害)について

(1)  亡Aの損害

ア 逸失利益 四五七六万八五一五円

(ア) 基礎となる収入

証拠(甲二の二、一〇)によれば、亡Aは、本件事故当時、一六歳の高校二年生であり、高校を卒業した後の進路は、未だ確定していなかったことが認められるから、基礎となる収入としては、本件事故が発生した平成一四年の賃金センサス第一巻・第一表における産業計・企業規模計・学歴計による男性労働者全年齢平均の年収五五五万四六〇〇円を採用するのが相当である。

(イ) したがって、逸失利益は、生活費控除率を五〇%とし、就労可能な一八歳から六七歳までの期間について年五%のライプニッツ係数による中間利息を控除すると、次の算式のとおり、

555万4600×(1-0.5)×(18.3389〔51年に対応するライプニッツ係数〕-1.8594〔2年に対応するライプニッツ係数〕)=4576万8515(小数点以下切捨て)

イ 慰謝料 一八〇〇万〇〇〇〇円

本件事故の具体的態様のほか、亡Aの年齢、職業、家族状況等本件に顕れた一切の事情を考慮すると、慰謝料としては一八〇〇万円が相当である。

ウ 小計 六三七六万八五一五円

前記ア及びイを合計すると、六三七六万八五一五円となる。

エ 原告ら各自の損害 各三一八八万四二五七円

前記第二の一(4)によれば、原告らが相続した損害は、各自三一八八万四二五七円(円未満切捨て)となる。

(2)  原告ら固有の損害

ア 葬儀費用 各七五万〇〇〇〇円

証拠(甲六)及び弁論の全趣旨によれば、原告らは、平成一四年七月二二日、亡Aの葬儀費用として五一五万六四一八円を支出し、各自二分の一の割合で負担したことが認められるところ、本件事故との間に相当因果関係のある葬儀費用としては、一五〇万円とみるのが相当であるから、原告ら各自の損害としては各七五万円となる。

なお、原告らは、本件事故に遭わなければ、亡Aの葬儀費用は将来の配偶者又は子が負担すべきものであるところ、本件事故によって本来負担すべきでない原告らが負担することを余儀なくされたものであるから(いわゆる逆相続の事案)、支出額全額が本件事故との間に相当因果関係のある損害として認められるべきであると主張するが、誰が葬儀費用を実際に支出したのかという事実と、支出した額のうちどの程度が事故による損害とみるべきであるかという評価とは、別個の問題であるから、偶々若年者が死亡し、実親がその葬儀費用を支出したからといって、当然に高額な葬儀費用全額が損害として認められるとすることにはならないというべきであり、原告らの主張は採用することができない。

イ 固有の慰謝料 各二〇〇万〇〇〇〇円

証拠(甲二の二、一〇)及び弁論の全趣旨によれば、原告らは、本件事故により、唯一の子であった亡Aを喪い、相当な精神的打撃を受け、本件事故から一年以上が経過しても、精神的に不安な状況が続いていることが認められるから、固有の慰謝料を認めるのが相当であり、その額は各二〇〇万円とすべきである。

ウ 小計 各二七五万〇〇〇〇円

前記ア及びイを合計すると、各二七五万円となる。

(3)  小括 各三四六三万四二五七円

前記(1)エ及び(2)ウを合計すると、各三四六三万四二五七円となる。

(4)  損害の填補後の残額 各八五九万二九〇七円

前記(3)から前記一(6)を控除すると、原告ら各自の損害残額は、八五九万二九〇七円となる。

(5)  弁護士費用 各八六万〇〇〇〇円

本件事案の内容、本件訴訟の経緯、前記(4)の認容額等を考慮すると、本件事故との間に相当因果関係のある弁護士費用は、原告ら各自について八六万円と認めるのが相当である。

(6)  小計 各九四五万二九〇七円

前記(4)及び(5)を合計すると、各九四五万二九〇七円となる。

(7)  確定遅延損害金 各四六万三七四九円

前記第二の一(6)の自賠責保険金相当額に対する本件事故の日から支払日の前日までに発生した確定遅延損害金も、本件事故による損害に当たることは明らかである。

あいおい損害保険株式会社から支払われた自賠責保険金相当額に対する本件事故の日から支払日の前日までの一二七日間に発生した遅延損害金は、次の算式<1>のとおり、四五万三〇四八円であり、また、日新火災海上保険株式会社から支払われた自賠責保険金相当額に対する本件事故の日から支払日の前日までの一三三日間に発生した遅延損害金は、次の算式<2>のとおり、四七万四四五一円であるから、原告ら各自の損害は、その合計九二万七四九九円の二分の一に相当する四六万三七四九円(円未満切捨て)となる。

<1> 2604万1350×0.05÷365×127=45万3048(小数点以下切捨て)

<2> 2604万1350×0.05÷365×133=47万4451(小数点以下切捨て)

(8)  被告Y1らの負担すべき損害

原告らの被告Y1らに対する請求は、前記第二の冒頭に掲記したとおり、亡Bの過失に基づくものと被告Y1ら自身の過失に基づくものとから成るところ、前者は、被告Y1らが亡Bを相続したことによって、被告Y1ら各自が負担する損害は、全損害の二分の一に相当するものになる(前記第二の一(5))のに対し、後者は、被告Y1ら各自が全損害について負担すべきものと解されるから、請求の趣旨及びこれに対する答弁等を考慮すると、原告らとしては、後者を主位的に請求しているものとみるのが相当である。

四  結論

以上の次第で、原告ら各自の被告Y1らに対する請求は、各自九九一万六六五六円及び内九四五万二九〇七円に対する本件事故の日である平成一四年七月一六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これらを認容し、被告Y1らに対するその余の請求及び被告Y2に対する請求は理由がないから、これらをいずれも棄却することとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 森剛)

交通事故現場見取図

<省略>

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