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東京地方裁判所 平成15年(ワ)507号 判決 2003年11月19日

東京都●●●

原告

●●●

同訴訟代理人弁護士

内藤満

東京都新宿区西新宿八丁目15番1号

被告

株式会社武富士

同代表者代表取締役

●●●

同訴訟代理人弁護士

●●●

同訴訟復代理人弁護士

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主文

1  被告は,原告に対し,118万6567円及び内金110万3276円に対する平成14年8月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

被告は,原告に対し,118万6981円及び内金110万3649円に対する平成14年8月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,原告が被告との消費貸借契約に基づき弁済した元利金のうち,利息制限法に定める制限利率を超える利息を順次元本に充当して計算をした結果によって生じた過払分の不当利得及びこれに対する各過払金発生日から民法所定年5分の割合による利息(民法704条の悪意の受益者に対する請求)を請求した事案である。

1  争いのない事実等(証拠等によって認定した事実は末尾に当該証拠等を掲記する。)

(1)  被告は,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)による登録を受けた貸金業者である。

(2)  被告は,原告に対し,平成4年6月8日から別紙計算書1の年月日欄記載の日に同借入金額欄記載のとおり金員を貸し付け,原告は,同計算書1の年月日欄記載の日に同弁済額欄記載のとおり上記貸付けに対する弁済をした。

(3)  被告が原告に対して行う貸付け及び原告からの弁済の受入れは,被告の設置する現金自動貸付返済機(ATM,以下「ATM」という。)によって行われる場合があった。

(4)  上記ATM取引による利息弁済につき,平成9年4月以前は,被告は,借主が一定の金員をATMに収納した後に「ATMご利用明細書(領収書)」と題する貸金業法18条及び同法施行規則15条に定める記載事項を記入した書面(以下「18条書面」という。)を借主に交付する取扱いをしていた。

(5)  このような取扱いについては,平成9年2月21日の東京地裁判決(判例タイムズ953号280ページ)において,弁済前に債務者が弁済額が具体的にどのように利息,元本等に充当されるのか認識できないことを理由に貸金業法43条1項による「みなし弁済」(以下「みなし弁済」という。)の適用を否定された。上記判決の控訴審においても,東京高裁は,平成9年11月17日の判決(判例タイムズ1005号78ページ)でその結論を維持した。被告は,これに対して上告をせず,上記判決は確定した。

(6)  上記の東京地裁判決が出された後の平成9年4月28日ころから同年5月31日ころにかけて被告は,自社ATMにつき,借主が弁済のために入金する場合の操作画面を一斉に一部変更し,取引内容確認・選択画面を追加した。これによると,借主が一定の金員をATMに投入すると,取引内容,すなわち,投入金額,返済金額,利息・遅延利息・元金への各充当金額などが表示されると同時に画面に「確認」と「手続取消」の二つの選択ボタンが表れ,借主は,画面上の上記表示を確認した上で「確認」ボタンを押して先に進んで弁済を確定するか,あるいは,「手続取消」ボタンを押して引き返して投入現金を取り戻すかを選択することとなった。そして前記の「ATMご利用明細書(領収書)」は,上記確認ボタンを押した借主に対し,ATMから出てくる仕組みとなった。

(7)  また,被告は,原告から銀行振込による弁済も受けていた。貸金業者が借主から銀行振込による弁済を受けた場合にみなし弁済の適用を受けるためには18条書面の作成,交付が必要であるか否かという問題につき,大阪高裁は,平成元年3月14日に,銀行振込による弁済の場合でも18条書面の交付は必要であるとの判決をしたほか(判例タイムズ705号175ページ),多数の下級審判決が同様の判断を示していた。最高裁も平成11年1月21日に同様の判決をした(判例時報1667号68ページ)。

(8)  しかしながら被告は今日に至るも銀行振込による弁済を受けた場合に18条書面の作成,交付をしておらず,本件における被告との取引においても同様であった。

2  争点

(1)  原告の被告に対する利息の弁済にみなし弁済の適用があるか。

(被告の主張)

ア 貸金業法17条及び同法施行規則13条に定める事項を記載した書面(以下「17条書面」という。)の交付

被告は,原告と当初包括契約を締結して限度額を定めて貸付取引を開始し,その後,限度額を変更する都度,包括契約を更新した。被告は,上記包括契約の締結若しくは更新の都度,原告に対し,包括契約書面として平成5年6月末までは「限度額融資契約証書」若しくは「リボルビング限度額契約証書」を,平成5年7月以降は「カードローン契約証書」を交付した。

さらに,被告は,原告に対し,上記包括契約に基づき店頭取引により金員を貸し付ける場合は個別契約書面として「領収証兼残高確認書」若しくは「領収証兼ご利用明細書」を交付し,ATM取引によって金員を貸し付ける場合は個別契約書面として「ATMご利用明細書(領収証)」を交付した。

上記の各書面は,両者相まって17条書面として求められている記載事項を網羅している。

イ 約定利息の任意の弁済

原告は,被告に対し,別紙計算書1の年月日欄記載の日に同弁済額欄記載のとおり上記貸付けに対する弁済をするに当たり約定利息を指定してこれを任意に支払った。

ウ 18条書面の交付

被告は,原告から店頭取引により弁済を受けた場合は,直ちに原告に対し,貸金業法18条及び同法施行規則15条に定める事項を記載した「領収証兼残高証明書」若しくは「領収証兼ご利用明細書」を交付していた。また,被告は,原告からATM取引により弁済を受けた場合は,直ちに原告に対し,貸金業法18条及び同法施行規則15条に定める事項を記載した「ATMご利用明細書(領収証)」を交付した。

(原告の主張)

ア 17条書面の交付については否認する。上記書面の交付については何ら立証されていない。

イ 18条書面の交付についても否認する。上記書面の交付については何ら立証されていない。

また,実際には,原告の被告に対する弁済は,店頭取引,ATM取引による場合のほかに,銀行振込によって行われる場合があった。銀行振込による場合も18条書面の作成,交付が必要であるが,被告は,銀行振込による弁済の場合,一切,受取証書を発行していない。

ウ なお,被告は,前記第2,1(5)及び(6)のとおり平成9年4月28日から同年5月31日の間に被告の設置するATMの仕様を変更した。これは,平成9年2月21日に言い渡された東京地裁の判決において,ATM取引による弁済において債務者が弁済をする前に元本,利息の充当関係を認識できないときは,貸金業法18条1項の要件を満たさないとの判断が示されたことを受けてのことであった。したがって,このATMの仕様変更の時点で被告は,原告のATMによる弁済についてはみなし弁済の適用を受けられないことを認識していた。しかしながら,同年6月以降の原告によるATMを利用した弁済の後に交付された「ATMご利用明細書(領収証)」には,平成9年5月以前の取引について利息制限法による引き直し計算をして超過利息を元本に充当した後の元本残高ではなく,約定どおりの利息返済に充当した結果の元本残高しか記載されていなかった。

エ これは実体と明らかにかけ離れた不正確な内容であり,被告が原告に交付した「ATMご利用明細書(領収証)」は,この点においても18条書面の要件を満たさない。

オ 前記第2,1(2)記載の各年月日における被告と原告の貸付け若しくは弁済の取引にみなし弁済の適用がないことを前提に計算をすると,別紙計算書1のとおり110万3649円の過払金を生じる結果となる。原告は,被告に対し,上記過払金につき不当利得返還請求権を有している。

(2)  被告は,原告の利息制限法による制限利率を超える利息弁済によって生じた不当利得につき悪意の受益者といえるか。

(原告の主張)

ア 被告は,利息制限法所定の利率を超える利息の弁済を原告から受けていたことを認識していた。被告がこれに対してみなし弁済の適用があると認識していたとの主張には以下のとおり合理的根拠がない。したがって,被告は,悪意の受益者に該当する。

イ 被告の設置するATMによる利息弁済については,前記第2,1(5)及び(6)のとおり,平成9年2月21日の東京地裁判決及び平成9年11月17日の東京高裁判決において,みなし弁済の適用を否定されたことをきっかけに,ATMの仕様変更がなされた。しかし,被告は,上記仕様変更以前の取引がみなし弁済の要件を満たさないことを知りつつ,原告のATMの仕様変更以前の取引に対して利息制限法に従った利息引き直し計算をせず,受取証書に従前の元本をそのまま記載していた。このような実体関係とかけ離れた内容を記載した受取証書は貸金業法18条1項の適用を受けられないと考えられるところ,これについて被告は悪意であった。

ウ また,被告は,前記第2,1(7)及び(8)のとおり,下級審や最高裁において,銀行振込による弁済の場合に18条書面の作成,交付をしないとみなし弁済の適用を受けられないとの判決が出されていたにもかかわらず,今日に至るまで銀行振込による弁済があった場合に受取証書を発行しない扱いを維持してきた。本件においても被告は,原告に対し,銀行振込による弁済があった場合に受取証書を交付していない。したがって,被告は,銀行振込による弁済にみなし弁済が適用されないことについても悪意であった。

(被告の主張)

ア 被告が利息制限法所定の利率を超える利息の弁済を原告から受けていたことを認識していたことは認めるが,同時に被告は,原告との取引にみなし弁済の適用があり,不当利得が発生しないと相当の根拠をもって信じていたのであり,不当利得の発生につき悪意とはいえない。

イ 最判平成2年1月22日(民集44巻2号369ページ)が,「債務者が契約所定の利息・損害金の支払に充当されることを認識した上,自己の自由な意思によってこれらの額を支払」えば,貸金業法43条1項の「利息・損害金の支払の任意性」の要件は満たされ,「債務者において,その支払った金銭の額が利息制限法所定の制限額を超えていることまで認識していることを要しない。」と判示したことから,被告は,借主において,弁済が約定の利息,損害金の支払に充当されていることを認識さえしていれば貸金業法43条1項の上記要件は満たされ,借主が弁済をするに当たって利息,損害金が具体的に幾らであるかまで認識している必要はないと理解していた。これは上記判例に関する当時の解説,論評の内容に照らしても正当な認識である。前記第2,1(4)の被告のATMの仕様変更前の弁済の受入れは,上記見解に沿ったものであり,被告は,これによってみなし弁済の適用を受けられると信じていたし,上記認識には相当な根拠があった。

ウ 被告が原告の主張するようにATMの仕様を変更した事実は認めるが,これは前記東京地裁判決が出たことによりATMの旧画面による弁済が利息・損害金としての支払とは認められないと考えたからではなく,前記の平成2年最商裁判決によれば,旧画面による弁済も利息・損害金としての支払と認められると確信していたが,顧客にとってよりわかりやすい画面にするとの観点から実施したものにすぎない。

エ 銀行振込による弁済の場合に受取証書の作成,交付を要するとした前記最高裁判決は,特段の事情がある場合には受取証書の交付がなくともみなし弁済の適用を受けらわることを認めており,いまだ特段の事情の内容については明らかになっていない。借主が銀行振込による返済の場合にあらかじめ受取証書の交付を拒絶している場合には貸金業者は受取証書の送付をする必要はないとの見解も主張されており,現に原告と被告との包括契約書面にはその旨が記載されている。

オ また,個別事件の裁判において法的評価の面からみなし弁済成立の要件の欠如が指摘されたからといって,被告がその時点から過払金の発生について直ちに悪意になるというものでもない。

カ 前記第2,2(2)(原告の主張)イの事実は認めるが,貸金業法が受取証書を18条書面と認めるための要件として利息制限法所定の利息による引き直し計算の結果を受取証書に記載することまで求めているとはいえない。

第3争点に対する判断

1  争点(1)(原告の被告に対する利息弁済にみなし弁済の適用があるか。)について

(1)  証拠(乙B2の1ないし10,3の1及び2,4の1ないし4,6の1ないし3,7の1及び2,9,10の1及び2)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,原告に対し,平成4年6月8日,貸付けについての包括契約書面として契約限度額を50万円とするリボルビング限度額契約証書を作成,交付したこと,平成7年5月31日,契約限度額を100万円と変更するに当たって改めてカードローン契約証書兼告知書を作成,交付したこと,上記包括契約に基づき店頭取引により金員を貸し付ける場合は個別契約書面として「領収証兼残高確認書」若しくは「領収証兼ご利用明細書」を交付し,ATM取引によって金員を貸し付ける場合は個別契約書面として「ATMご利用明細書(領収証)」を交付する扱いとしていたこと,上記貸付に対する原告の弁済は,被告の設置するATM若しくは銀行送金によって行われたこと,被告は,ATM取引により弁済を受けた場合は,直ちにATMにより排出される「ATMご利用明細書(領収証)」を交付する扱いとしていたことが認められる。しかし,原告と被告との間の個別の各取引についていかなる書面が交付されたかにつき,被告は,上記包括契約書面を除き一般的な書式を書証として提出するにとどまっているのであり,これをもってみなし弁済適用の前提たる17条書面,18条書面の交付について立証が尽くされたとはいえない。

(2)  したがって,その余の点につき判断するまでもなく,原告による利息の弁済についてはみなし弁済を適用することはできない。

2  争点(2)(被告は,原告の利息制限法による制限利率を超える利息弁済によって生じた不当利得につき悪意の受益者といえるか。)について

(1)  証拠(乙B9)及び弁論の全趣旨によれば,原告の被告に対する各弁済は,別紙計算書2の弁済額欄の区分に記載したとおり,被告の設置するATMによって行われたものと振込送金によって行われたものがあることが認められる。

(2)  被告の設置するATM取引の画面表示等の仕組みの変更は,平成9年2月21日の東京地裁判決の直後になされていたこと(前記第2,1(5)及び(6)),上記判決は,債務者において弁済前に弁済額が具体的にどのように利息,元本等に充当されるのか認識できないことを理由にみなし弁済の適用を否定したというものであったところ,被告は,同(6)記載のように,前記判決で指摘された点について,ATMの仕様を変更してこれを改善する措置をとったことからすれば,上記変更は,上記判決によってみなし弁済の適用が否定されたことを受けて,被告の設置するATMによる取引がみなし弁済の適用を受けられるようにするために行われたものと認められる。そして,上記東京地裁判決の控訴審においても平成9年11月17日,上記結論を維持する判決が出され,被告がこれに対して上告をせず,上記判決が確定したこと(同(5))などからみて,被告は,遅くとも上記判決確定の時点では,上記の仕様変更前のATM取引につきみなし弁済の適用が否定される可能性が高いことを認識するに至ったと認めるのが相当である。

(3)  しかし,同時に前記のとおり東京地裁判決で指摘された問題点に対応するATMの仕様変更を行ったからには,その後においては,被告において,上記東京地裁判決と同様の理由によりみなし弁済の適用を否定されることはなくなったと認識していたと認めるのが相当である。

(4)  原告は,上記の時点の前後にわたり被告との取引を行っているが(前記第2,1(2)),被告は,原告に対し,ATMの仕様変更以前の取引につき利息制限法所定利息による引き直し計算をした結果の元本残高ではなく,約定利息に従った充当をした元本残高を記載していた(争いのない事実)。このように実体関係と離れた記載をした契約書若しくは受取証書を借主に交付することによってみなし弁済の適用を受けられるかについては,見解が分かれており,貸金業法18条の趣旨が債務者に充当計算の手掛かりを与えることにあることを理由として,受取証書に実体的に正確な充当関係を記載することまでは貸金業法は要求していないとする見解も有力であった(法曹会「貸金業関係事件執務資料」89ページ)。したがって,被告が上記の措置をとらなかったことをもって直ちにみなし弁済の適用を受けられないことにつき悪意であったとは言い難い。

(5)  以上によれば,被告は,ATMの仕様変更の時点で,それ以前の取引にみなし弁済の適用が否定される可能性が高いことを認識したと認められるが,仕様変更後の取引には被告の設置するATMの仕組み自体に内在する問題点により一般的にみなし弁済の適用が否定されることはなくなったと認識していたと認めるのが相当である。

(6)  次に,銀行振込の方法による弁済について検討するに,被告は,前記第2,1(7)及び(8)のとおり,下級審や最高裁において,銀行振込による弁済の場合に18条書面の作成,交付をしないとみなし弁済の適用を受けられないとの判決が出されていたにもかかわらず,今日に至るまで銀行振込による弁済があった場合に受取証書を発行しない扱いを維持してきたのであり,本件においても被告は,原告に対し,銀行振込による弁済があった場合に受取証書を交付していない。したがって,被告は,遅くとも上記最高裁判決が出された平成11年1月21日の時点では被告の取引において銀行振込による弁済を受けた場合にはみなし弁済が適用されないと認識したと認めるのが相当である。これに対し,被告は,最高裁判決が,特段の事情がある場合には受取証書の交付がなくともみなし弁済の適用を受けられることを認めていたこと,借主が銀行振込による返済の場合にあらかじめ受取証書の交付を拒絶している場合には貸金業者は受取証書の送付をする必要はないとの見解も主張されていたこと,現に原告と被告との包括契約書面にはその旨が記載されていることなどから,なお,被告の取引において銀行振込による弁済を受けた場合に受取証書を作成,交付しなくてもいいと相当の根拠をもって信じていたと主張している。被告の上記主張に沿う証拠として,原告と被告との間の包括契約書面(乙B10の1,2)には,印刷された不動文字で「送金(銀行振込等)による支払いについては,領収証の送付を必要としません。ただし,私が申し出をした場合には交付されるものとします。」との記載(契約条項第3項)があることが認められる。しかしながら,仮に上記最高裁判決のいう特段の事情として債務者があらかじめ銀行振込による弁済において受取証書の送付は不要と申し出た場合を想定するとしても,これは債務者がその意味を理解し,真意から申し出たことを要すると解されるところ,被告において原告に対し,上記条項の意義について原告に理解可能なように説明をしたという事実については,本件全証拠によるもこれを認めるに足りず,また,被告が各債務者に対し,上記条項の内容について真意を確認する体制をとっていたと認めるに足りる証拠も存在しない。以上によれば,単に上記条項が存在するということのみをもって原告と被告との取引における銀行振込による弁済についてみなし弁済の適用が認められないことはもちろん,被告がみなし弁済の適用を信じていたとの主張も理由がない。

(7)  そこで,以上の認定を前提に本件において被告が悪意の受益者となるか,なるとすればどの時点からであるかについて検討する。原告については,別紙計算書1のとおり,前記ATMの仕様変更が完了した平成9年5月末日の時点ではそれ以前の取引に利息制限法所定利息による引き直し計算をしたとしてもいまだ過払金を生じていない。前記(5)のとおり,被告は,この時点で,それ以後のATM取引による弁済にはみなし弁済の適用を受けられると認識していたが,原告は,ATMによる弁済と銀行振込による弁済を併用していたため,銀行振込による弁済についてみなし弁済の適用を否定すると,たとえATMによる弁済について被告の認識に従って,ATMの仕様変更前にはみなし弁済の適用がなく,その後はみなし弁済の適用があるという前提で計算をしたとしても,別紙計算書2のとおり,被告が平成11年4月27日の弁済を受けた時点で原告に過払金が生じる。この時点においては,前記のとおり,被告は,既にATMの仕様変更以前のATMによる弁済及び銀行振込による弁済についてはみなし弁済の適用が否定される可能性が高いことを認識したというべきであるから,被告は上記の過払金の発生について認識することは可能であったと考えられる。また,それ以後の取引については,もはやみなし弁済の適用の余地はないのであるから,それ以後の原告の各弁済による過払金の発生についても被告は認識することができたと考えられる。以上によれば,被告は,原告との取引につき,平成11年4月27日以降は悪意の受益者であったと認めるのが相当である。

(8)  原告につき,前記の認定に従って,利息制限法所定の利息による引き直し計算及びこれによって生じる過払金についての利息計算をすると,別紙計算書3のとおりとなる。したがって,原告は,被告に対し,過払金110万3276円に被告が悪意となったと認められる平成11年4月27日の翌日である同月28日から最後の弁済日(過払金発生の日)である平成14年8月28日までの民事所定の年5分の割合による未精算利息8万3291円を加えた118万6567円及び上記過払金に対する最後の過払金発生の日の翌日である平成14年8月29日から支払済みまで民法所定の年5分による利息の請求をすることができる。

第4結論

以上によれば,原告の請求は主文記載の限度で理由があるからその限度でこれを認容し,原告のその余の請求は理由がないからこれを棄却することとして主文のとおり判決する。

(裁判官 水野邦夫)

<以下省略>

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