東京地方裁判所 平成15年(ワ)5312号 判決 2004年6月16日
本訴原告(反訴被告)
株式会社森田産業運輸
本訴被告(反訴原告)
有限会社田中運送
ほか一名
主文
一 本訴原告(反訴被告)の請求は、これを棄却する。
二 反訴原告(本訴被告)の請求は、これを棄却する。
三 訴訟費用は、本訴反訴を通じ、これを五分し、その四を本訴原告(反訴被告)の、その余を本訴被告(反訴原告)の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 本訴
本訴被告(反訴原告)及び本訴被告は、本訴原告(反訴被告)に対し、各自金四六二万四〇〇三円及びこれに対する平成一三年一二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴
本訴原告(反訴被告)は、本訴被告(反訴原告)に対し、金一一〇万〇二七六円及びこれに対する平成一三年一二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、信号機による交通整理が行われている交差点において、大型貨物自動車二台が出合い頭に衝突した事故について、本訴原告(反訴被告。以下「原告」という。)と本訴被告(反訴原告。以下「被告会社」という。)が、その被った車両損害について、それぞれ損害賠償を求めているものである。
本件の主な争点は事故態様及び責任原因である。
一 基礎となるべき事実
(1) 交通事故の発生
次のとおり、交通事故が発生した(以下「本件事故」という。)。
日時 平成一三年一二月五日午前五時四〇分頃
場所 埼玉県岩槻市<以下省略>(以下「本件交差点」という。)
原告車両 訴外A運転の大型貨物自動車(<番号省略>)
被告車両 本訴被告Y1運転の大型貨物自動車(<番号省略>)
事故態様 信号機による交通整理が行われている交差点において、原告車両と被告車両が出合い頭に衝突した。
(2) 当事者等
本件事故当時、原告車両を運転していた訴外Aは、原告の従業員であり、また、被告車両を運転していた本訴被告Y1は、被告会社の従業員であった。
原告車両は、原告の、被告車両は、被告会社の所有であった。
二 争点及び当事者の主張
(1) 争点一(事故態様及び責任原因)
(原告の主張)
訴外Aが本件交差点に進入する際、その対面する信号機は青色表示であった。
被告Y1は、信号機による交通整理が行われている交差点に進入するに際して、前方の信号機が赤色を表示していた場合には信号機の表示に従い停止すべき注意義務があり、また前後左右を十分に確認して交差点に進入すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、本件交差点において、その前方の信号機が赤色を表示していたのに信号機の表示に従って停止せず、また、前後左右を十分に確認しないまま、漫然と交差点に進入した過失により、本件事故を発生させた。
よって、被告Y1は民法七〇九条に基づき、また、被告Y1の使用者である被告会社は民法七一五条に基づき、原告に発生した損害を賠償する義務を負う。
(被告らの主張)
被告Y1が本件交差点に進入する際、その対面する信号機は青色表示であった。
原告車両を運転していた訴外Aは、信号機により交通整理が行われている交差点に進入するに際して、その対面する信号機が赤色を表示していた場合には信号機の表示に従い停止すべき注意義務があり、また前後左右を十分に確認して交差点に進入すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、本件交差点において、その前方の信号機が赤色を表示していたのに信号機の表示に従って停止せず、また、前後左右を十分に確認しないまま、漫然と交差点に進入した過失により、本件事故を発生させた。
よって、訴外Aの使用者である原告は、民法七一五条に基づき、被告会社に発生した損害を賠償する義務を負う。
(2) 争点二(損害額)
(原告の主張)
本件事故により、損壊した原告車両の修理代は四二二万四〇〇三円であった。
よって、弁護士費用四〇万円とあわせて、合計四六二万四〇〇三円が本件事故により原告が被った損害である。
(被告会社の主張)
本件事故により、損壊した被告車両の修理代は一〇〇万〇二七六円であった。
よって、弁護士費用一〇万円とあわせて、合計一一〇万〇二七六円が本件事故により被告会社が被った損害である。
第三当裁判所の判断
一 争点一(事故態様及び責任原因)について
(1) 証拠(甲一、三、四、六~八、乙四、五の一ないし六、六の一・二、証人A、被告Y1)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。
ア 本件交差点の状況は、別紙「交通事故現場見取図」(以下「別紙図面」という。)記載のとおりである。南北に走る、川口市と蓮田市を結ぶ国道一二二号線と、東西方向に走る、春日部市とさいたま市を結ぶ国道一六号線が交差しており、最高速度はいずれも時速五〇kmに規制されていた。国道一二二号線は、高架になっている東北自動車道を挟んで、北行道路と南行道路にわかれている。交差する道路相互間の見通しは良くない。本件交差点の信号周期は、別紙信号周期表のとおりであった。
本件交差点付近の路面は平坦で、本件事故当時、乾燥していた。
イ 訴外Aは、茨城県内の取引先に集配へ向かうため、国道一二二号線北行道路を川口市方面から蓮田市方面に向けて走行してきて、本件交差点に差し掛かった。訴外Aは、本件交差点を右折し、春日部市方面へ進行するため、右折車線に車線変更したのち、本件交差点に進入し、右折して進行したところ、左方から被告Y1が運転する被告車両が進行してきた。このため、別紙図面<×>1地点で、被告車両の右側面に原告車両左前部が衝突した。衝突後、原告車両は、その向きを変え、別紙図面<×>2地点まで進行し、東北自動車道の高架橋脚に衝突して停止した。なお、原告車両と被告車両が衝突した<×>1地点付近には、原告車両のタイヤ痕が印象されている。
ウ 被告Y1は、国道一二二号線南行道路を蓮田市方面から川口市方面に向けて走行中、本件交差点に差し掛かり、本件交差点を直進しようと進行したところ、別紙図面<2>地点で右方から進行してくる原告車両を発見し、ブレーキをかけたが間に合わず、別紙図面<×>1地点で被告車両右側面に原告車両左前部が衝突した。衝突後、被告車両は別紙図面<4>地点に停車した。
(2) 以上のとおりであるところ、原告及び被告らはいずれも、自車が本件交差点に進入する際、前方の対面信号は青色を表示していたと主張し、訴外Aは原告の、被告Y1は被告らの主張に沿う供述をする。
そこで、まず、訴外Aの供述について検討するに、訴外Aの供述を前提とすると、別紙信号周期表によれば、原告車両の対面信号が青色表示である場合、被告車両の対面信号は赤色表示であることから、本件事故は、被告Y1が対面信号が赤色表示であるにもかかわらず、これを無視して本件交差点に進入したため発生したこととなる。訴外Aは、本件交差点に差しかかった際、対面信号が赤色表示であったため、一旦停止した。その際、原告車両の前には車両はなく、原告車両が先頭であり、左隣の右折車線後方に大型トラックが、また、原告車両と同一車線後方に他の車両がそれぞれ停止したと供述する。そうあれば、これら車両も信号表示が青色に変わった後、原告車両と同様に、本件交差点に進入し、右折して春日部市方面に向けて走行したはずであるところ、訴外A自身、原告車両に続いて後続車両が本件交差点に進入したのかわからないと供述するし、仮に、原告車両の後続車両が原告車両に続いて本件交差点に進入していれば、本件事故に巻き込まれたと思われるところ、そのような事実は認められない。これらの事情から、訴外Aは、交差点手前で一旦停止したとして、後続車両の存在が挙げるが、証拠上、訴外Aの供述のほか、後続車両が存在したことを認めることはできない。また、訴外Aは衝突直前まで被告車両を発見しておらず、突然衝突したのであり、衝突を回避するためのブレーキをかけていない旨供述するが、衝突地点<×>1付近には原告車両のタイヤ痕が印象されているところ、ブレーキをかけたことは、時の経過により失念するような事柄ではない。このように、訴外Aの供述は、本件事故当時の客観的状況と重要な点で整合しない部分があり、交差点手前で、対面信号が赤色であったことからこれに従って停止し、青色に変わったことから、本件交差点に進入し、右折して進行したという訴外Aの供述を採用することはできない。
次に、被告Y1の供述について検討するに、被告Y1は、別紙図面<1>地点で対面信号が青色表示であることを確認し、加速して、時速約五〇kmで本件交差点に進入した。交差点進入直前、別紙図面<2>地点で原告車両を発見し、ブレーキをかけたが間に合わず、別紙図面<3>地点まで進行し、<×>1地点で原告車両と衝突して、被告車両はそのまま<3>地点で停止した旨供述する。被告Y1が、<2>地点で原告車両を発見してから、衝突後停止したと供述する<3>地点まで一五・六mの距離である(甲三)ところ、時速約五〇kmで走行中にブレーキをかけて一五・六mで停止することは、時速五〇kmの停止距離が約二四・八九mであることから、ほぼ不可能である。一方、被告車両の右側面には、擦過痕がある(乙六の一・二)ところ、これは、衝突後に原告車両と被告車両が接触したまま、被告車両が原告車両をいわば引きずったためにできたものと考えるのが合理的である。そうすると、衝突後、被告車両は、<3>地点に停止することなく、そのまま<4>地点まで進行して停止したといえる。そうすると、被告Y1の供述もまた、本件事故当時の客観的状況と重要な点で整合しない部分があり、このことからすると、対面信号が青色を表示していたので、本件交差点を直進するため、進入した旨の被告Y1の供述も、採用することができない。
(3) 以上のとおり、訴外A及び被告Y1の各供述は、いずれも採用することができない。そして、他に、訴外Aの対面信号が赤色又は被告Y1の対面信号が赤色であったと認めるに足りる証拠はない。別紙信号周期表によると、訴外Aの対面信号が青色でなく、赤色又は黄色の場合であっても、被告Y1の対面信号が赤色の場合があること、被告Y1の対面信号が青色でなく、赤色又は黄色の場合であっても、訴外Aの対面信号が赤色の場合があることが認められる。しかしながら、前記のとおり、訴外A又は被告Y1の対面信号が赤色であったことを認めるに足りる証拠はないのであるし、訴外A又は被告Y1の対面信号が黄色であったことを認めるに足りる証拠もない。したがって、結局、訴外A又は被告Y1の対面信号の表示を特定することができる証拠がないこととなる。
よって、本件において、訴外A又は被告Y1が、それぞれその対面する信号機が赤色を表示していた場合には、信号機の表示に従い、停止すべき注意義務を怠ったと認めることはできない。
(4) また、本件交差点は、交差する道路間の見通しが良くないことが認められる一方、訴外A及び被告Y1は、互いに本件交差点に進入する相手方車両を発見し、衝突を回避することができたと認めるに足りる証拠はなく、訴外A及び被告Y1が、前後左右を十分に確認しないまま、漫然と本件交差点に進入したと認めることもできない。
二 結論
以上のとおりであるから、原告及び被告会社の請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれもその理由がないこととなり、よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 瀬戸啓子)
交通事故現場見取図
<省略>
別紙 信号周期表
<省略>