大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成15年(ワ)5656号 判決 2003年9月19日

原告

被告

財団法人日本海事協会

同代表者理事

B

同訴訟代理人弁護士

狩野祐光

榎本英紀

岡正俊

主文

一  「被告が平成一四年三月三一日原告に対して行った解雇の無効であることを確認する」との訴えを却下する。

二  原則のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が平成一四年三月三一日原告に対して行った解雇の無効であることを確認する。

被告は原告に対し、平成一四年四月一日から平成一六年三月三一日に至るまで毎月一〇七万三三七三円の割合による金員を支払え。

被告は原告に対し、金一三六五万八〇〇〇円及びこれに対する平成一五年三月二五日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が被告に対し、平成一四年三月三一日に不当に解雇されたと主張して解雇無効の確認を求めるとともに、当該不当解雇がなければ、同年四月一日から平成一六年三月三一日までの間に毎月一〇七万三三七三円を下らない給与の支払を受けられると主張してその支払を求めるほか、平成一四年六月から平成一六年三月三一日までの間に合計一三六五万八〇〇〇円の賞与の支払が受けられるとして、得べかりし賞与の支払及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成一五年三月二五日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。

1  前提となる事実(認定等に係る証拠等は各文末に掲記した)

(一)  当事者

被告は、船級の登録、船舶の検査、造船材料、船用品及び船用品材料の試験、及び検査等を業とするものである。(争いのない事実)

原告は、昭和四二年四月一日、被告に技師補として入社し、以後、被告に勤務し、船用品の材料の試験及び検査等の職務に従事し、その後、技師、副参事となった。(争いのない事実)

原告は、昭和○年○月○日生まれである。

(弁論の全趣旨)

(二)  本件の経過

原告は、平成八年四月一日、参事となり、長崎支部長として勤務した後、平成九年四月一日特別研究員(部長職位待遇)として千葉市所在の「研究センター」に勤務し、船舶の腐蝕についての調査、研究等を行っていた。(争いのない事実、書証略)

平成九年七月、原告の母Cが死亡し、その相続をめぐって原告の兄弟姉妹らに相続問題が発生した。原告は、平成一〇年度の「勤務地等に関する調査表」の特記事項欄に「昨年、母が死亡し、現在相続に関し係争中。解決するまで東京近辺にいたい」と記載し、平成一一年度の「勤務地等に関する調査表」の特記事項欄には「現在、遺産分割会議継続中。折り合いがつかず、近々調停に出す予定。非常に複雑な事情がある」と記載し、平成一二年度の「勤務地等に関する調査表」の特記事項欄には「遺産分割協議が折り合いがつかず、東京地方裁判所に提訴すべく準備中。裁判が終わるまで東京近辺にいられることを希望」との趣旨を記載した。(書証略)

原告は、平成一二年四月一日付で講師(部長職位待遇)になり、勤務場所は被告肩書住所地の研修所に変更になった。(争いのない事実、弁論の全趣旨)

原告は、同年一〇月一日付で講師を解かれて研修所付となり、役付職員ではなくなった。(書証略)

被告は、平成一四年三月三一日付をもって、原告を定年による退職の扱いとした。(書証略、弁論の全趣旨)

(三)  就業規則等

(1) 被告の就業規則には以下のとおりの規定がある。(書証略)

ア 職員は、満六〇歳に達する日が一月一日から三月三一日までの間にある者はその年の三月三一日を、四月一日から一二月三一日までの間にある者は翌年三月三一日をもって定年退職とする。(五六条)

イ 次の各号の一に該当する場合においては、職員に休職を命ずることがある。(五〇条)

<1> 業務によらない負傷又は疾病の為欠勤九〇日を超えるとき

<2> 公職についたとき

<3> 刑事事件に関し起訴されたとき

<4> 前各号の外特別の必要があるとき

ウ 前条一号の休職期間は六か月とする。但し、情状によっては休職期間を延長することがある。(五一条一項)

前条二号より四号までに該当する者の休職期間は、その都度定める。(五一条二項)

(2) 被告には、以下の内容の「役付職員の定年に関する規則(内規)」(以下「本件内規」という)が存する。(書証略)

ア この規則は、職員のうち参与及び参事の身分を有する職員の定年について特別の取扱を定めたものである。(一条)

イ 参与又は参事の身分を有する職員で、業務上特に必要がある場合においては、その者について二年以内の期間を定めて退職の時期を延長することができる。(二条)

(3) 被告は、休職者取扱要領において、職員の負傷又は疾病事由による休職期間及び休職給について、勤続一〇年以上の者は、休職期間を有給休職一二か月、無給休職二四か月、休職給月額を(俸給月額)〇・八+有扶手当と定めている。(書証略)

2  争点及び法律上の問題点

(一)  解雇無効確認請求の是非

(二)  被告の定年を理由とする就労拒否は理由があるか。

(原告)

(1) 原告は、本来、平成一六年三月三一日まで参事として勤務し、また、原告の専門分野である船舶の艤装、船用品の腐蝕について、昨今の経済情勢からも、業務上特に必要な人材として定年を延長して勤務すべきところ、原告の事実に即した家庭内紛争の事実を身上調書に率直に記載したところによって、恣意的に職場を異動させられ、一般職並みに満六〇歳定年を強制され、平成一四年三月三一日解雇となったものである。

原告の定年の時期は、平成八年五月の連休前に、被告の七階中会議室で、D元常務理事から直接言われたとおり、平成一六年三月三一日である。

(2) 被告は、原告が役付職員ではなく本件内規の適用はないと主張するが、被告の主張は原告に対する偏見と予断をもった一方的なものであり、被告の悪意によるものである。被告には、昇級の制度はあるが、降格の制度はない。被告の原告に対する主張は、恣意的に一方的な不当な圧力を原告に加えるものである。

(3) 被告は、「業務上特に必要がある場合」に該当しないと主張するが、被告の主張は原告に対する偏見と予断をもった一方的なものであり、被告の悪意によるものである。被告は、原告を一般職並みに満六〇歳で定年退職させるために、平成一三年一月四日から同年二月一五日まで二九日間連続して年次有給休暇の取得を強制した。そして、病気でないのに、医者の診断書の提出を迫り、その後九〇日間の病気欠勤を強いて、更に、引き続いて病気休職として、平成一四年三月三一日、原告を定年退職を迎えたとして強引に解雇した。被告の主張は原告に対する悪意に満ちたものである。

(被告)

(1) 原告は、就業規則に基づき、平成一四年三月三一日付で定年退職したのであり、強引に解雇した事実はない。

原告は、常務理事から、原告の定年が六二歳であると直接言われたと主張するが、本件内規の説明を曲解したものにすぎない。

(2) 原告は、平成一二年一〇月一日付で研修所付となって管理職の職位を解かれ、役付職員ではなくなっており、平成一四年三月三一日当時、本件内規の適用対象者ではなかった。

原告は協調性に欠けるなど対人関係に円滑さを欠き、被告は原告が支部長(部長職格)としての適性に欠けると判断し、原告にとって比較的対人関係が楽であろうと思われる研究センター特別研究員(部長職、一名又は二名の特別職)に、原告を平成九年四月一日付で転出させた。原告は、その後、三年間、同職にあったにもかかわらず、みるべき研究成果もなく、その職務を全うせず、日がな一日リフレッシュ・コーナーで喫茶、喫煙していることなどもあり、役職上下位の研究センターの主管、主任研究員その他の研究員に対する職場秩序維持の上からも異動させざるを得ず、やむなく、被告は原告に対し、平成一二年四月一日付で講師(部長職格)を任命した。ところが、原告は、講師に異動後も所定の就業時間中にまともに仕事をせず、職場で遺産相続の本人訴訟のことなど、私事にわたることを話しかけるなどして同僚の仕事を妨げ、ここでも職場秩序維持上看過し得ぬ状態を作り出したので、担当役員がわざわざ原告に対して注意を与え、療養に専念してはどうかと勧めざるを得なかった。やむを得ず、原告は、同年一〇月一日付で講師を解かれて研修所付となり、役付職員ではなくなった。

(3) 仮に、内規の適用対象者であったとしても、原告は、平成一四年三月三一日当時、私傷病休職中で業務を離れており、本件内規に定める「業務上特に必要がある場合」の要件に該当せず、本件内規の適用がない。

原告は、平成一三年一月四日から同年二月一五日まで二九日間(平成一二年度残余八日、翌一三年度新規二一日)連続して年次有給休暇を取得し、同月一六日から同年五月一六日まで九〇日間の病気欠勤を継続し(この場合の九〇日は曜日・祝祭日等にかかわらず、暦日を連続して数える扱いとなっている。この間、給与は全額支給)、同月一七日から平成一四年三月三一日まで引き続き病気休職に入り、同日付で定年退職に至った。原告は、昭和四二年四月一日付で被告に入会したので、平成一三年五月一七日当時、勤続一〇年以上であったから、有給休職一二か月(但し、定年退職まで)の適用を受け、休職期間中は総務部付の取扱となった。

第三当裁判所の判断

1  認定事実

(一)  本件内規の説明等

(1) D常務は、平成八年五月初旬ころ、原告らに対し、本件内規の説明をした。原告は、説明を聞き、手帳に、「停年六〇才 参六二才」「一〇〇%ではない、心身壮健、規則、業務上必要」と記入した。(証拠略)

(2) 原告は、研究センター特別研究員(部長職、一名又は二名の特別職)に、平成九年四月一日付で転出した。(書証略、弁論の全趣旨)

(3) 原告は、平成一〇年九月二日、大腸内視鏡検査等の精密検査を受けたところ、大腸にポリープがあるが良性であると診断された。(書証略)

(二)  研修教材の作成等

(1) 原告は、平成一二年二月ころ、原告が提出した平成一二年度研究計画書に基づき、腐蝕、衰耗による損傷に関する事項について、研修用の研修教材を作成することとなった。(証拠略)

(2) 被告は、同年四月一日、特別研究員制度を廃止した。(書証略)

原告は、同日付で講師(部長職位待遇)になり、勤務場所は被告肩書住所地の研修所に変更になった。(争いのない事実、弁論の全趣旨)

(3) 被告は原告に対し、同月一二日、衰耗、腐蝕に関するガイダンスの作成状況、今後の予定を報告するよう指示した。(書証略)

(4) 原告は、同月二一日付で、総頁約一五〇頁(写真を含む)を目途に六月一杯で日本語の原稿を作成する旨報告した。(書証略)

(5) 原告は、同年六月三〇日、原稿一式(書証略)等を提出した。E常務理事は「既に三か月経過して一体何をまとめたのか全く理解できない。添付資料等についても脈絡がなく、どういう形になるか見当すらつかない。本年八月末まで待って具体的な原稿として上がってこなければ次のステップを考慮することになると思う」とコメントし、F常務理事は「通常とは異なる異質な思考の持ち主と見受けられる。本人の考えを必要としない技術的な作業、例えば、特定船の構造解析、強度計算等を行わせることにしてはと思う」とコメントした。(証拠略)

(三)  年次有給休暇の取得まで

(1) 被告は、同年八月二九日の役員会において、原告の役職を同年一〇月一日付で解き、研修所付にすることを決め、同年九月上旬ころ、原告に対し、その旨内示した(証拠略)

(2) 原告は、同年九月二七日付で、常務理事宛に回答書(書証略)を作成した。回答書には以下のとおりの記述がある。(書証略)

なお、小職の希望は、小職の年代からは年金が段階的に引き上げられ六一歳からとなりますので、出来るなら六一歳まで被告にいさせて頂ければと思います。

(3) 総務部長Gは、同年九月下旬ころ、原告に対し、以下の内容のメモ(書証略)を示し、定年である平成一四年三月三一日まで休養をしてはと勧めた。(証拠略)

メモの内容は以下のとおりである。(書証略)

ア 有給休暇の消化 現在残一八日(平成一二年一〇月六日~一一月一日)

イ 欠勤期間 九〇日間(平成一二年一一月二日~平成一三年一月三〇日)

ウ 有給休職 平成一四年一月三一日~一二か月間(病気による休職として)

エ 無給休職 平成一四年二月一日~三月三一日(病気による休職として)

オ 定年 平成一四年三月三一日

カ 処遇

<1> 有給休暇中は特に処遇の変更なし

<2> 欠勤期間中は給与の減額なし、ただしボーナスは三〇%の支給となる見込み

<3> 有給休職中は給与は(俸給月数×〇・八)+有扶手当 ボーナスは三〇%支給となる見込み

<4> 無給休職中は給与、ボーナスの支給はなし

キ 退職金 休職期間中も退職金の算定期間としてカウントされる

(4) 原告は、同年一〇月一日付で講師を解かれて研修所付となり、役付職員ではなくなった。(書証略)

(5) 原告は、同年一一月七日付発揮能力評価シートを作成した。原告の自己評価によれば、知識関連能力、理解・判断能力、折衝・企画能力、実行力、規律・勤怠、責任感、積極性、協調性のいずれもが五段階の「一」(努力を要する)であった。(書証略)

(6) 原告は、同年一二月二八日、平成一三年一月四日から同年二月一五日まで二九日間年次有給休暇を取得する旨の普通休職届を提出した。(書証略)

その後、原告は、平成一三年一月四日から同年二月一五日まで二九日間(平成一二年度残余八日、翌一三年度新規二一日)連続して年次有給休暇を取得した。(書証略、弁論の全趣旨)

(四)  休職発令まで

(1) 原告は、同年二月六日及び同月八日、a接骨院で施術を受けた。同院の柔道整復師は、同月八日付施術証明書において、原告は、足関節可動域制限、両下肢筋力低下による跛行が著明なため、二週間の加療を要するとしている。(書証略)

原告は、その後もa接骨院で施術を受けた。(書証略)

(2) 原告は、頸部脊髄症、変形性脊髄症により現在通院加療中である旨の同年二月八日付診断書を得た。(書証略)

(3) 原告は、同年二月上旬から下旬にかけて、b整形外科医院で生化学等の検査を受けるなど、同医院に通院した。(書証略)

(4) 原告は、同月一六日、c病院の脳外科を受診した。(書証略)

(5) 原告は被告に対し、同月中旬ころ、前記施術証明書及び診断書を提出した。その際、原告はGに対し、c病院での頭部レントゲン写真を示して、場所が危なくて手術が出来ないところに腫瘍ができており、d医大に一度行くという説明をしていた。(書証略、弁論の全趣旨)

なお、原告は、ガンマ・ナイフでもとれない頭部の病気があった。(証拠略、弁論の全趣旨)

(6) 原告は、同月一六日から同年五月一六日まで九〇日間の病気欠勤を継続した(この場合の九〇日は暦日を連続して数える)。(書証略、弁論の全趣旨)

なお、原告は、被告から送付された病気欠勤届を提出しなかった。(証拠略、弁論の全趣旨)

(7) 原告は、同年二月一九日、d医科大学病院の脳外科を受診した。(書証略)

(8) 被告は原告に対し、同年五月一七日付で総務部付きとし、休職を命じた。(書証略)

(9) 被告は原告に対し、同日付の休職通知を送付した。同通知には以下のとおりの記載があった。(書証略)

貴職はかねてより病気療養のため欠勤しておりましたが、本年五月一六日をもって欠勤日数九〇日に達したため、職員就業規則五〇条により同封人事異動通知書のとおり、本年五月一七日付にて休職発令されましたので、通知いたします。なお、休職期間及び休職給等については下記のとおりです。

ア 有給休職期間 平成一三年五月一七日~平成一四年三月三一日

イ 休職給(月額)七七万二二〇〇円×〇・八+二万三〇〇〇円=六四万〇七六〇円

なお、原告は、休職通知に対し、異議を唱えた事実はなく、原告が復職を願い出たこともない。原告は、病気休職中、被告には全く出勤していない。(人証略、弁論の全趣旨)

(10) 原告は、同年五月一七日から平成一四年三月三一日まで病気休職した。(書証略、弁論の全趣旨)

原告は、昭和四二年四月一日付で被告に入会したので、平成一三年五月一七日当時、勤続一〇年以上であったから、休職者取扱要領に基づき、有給休職一二か月(但し、定年退職まで)とされた。(書証略)

(五)  その後の経過

(1) 原告は、頸部脊髄症により通院した旨の平成一四年三月八日付診断書を得た。(書証略)

(2) 被告は、同年三月三一日付をもって、原告を定年による退職の扱いとした。(書証略、弁論の全趣旨)

(六)  原告の給料

原告の給料は、平成一二年一月から平成一三年五月までの間は概ね俸給七七万二二〇〇円、職務手当一五万四五〇〇円、住宅手当一万九〇〇〇円、有扶手当二万三〇〇〇円を、同年六月は俸給五七万五三〇〇円を、同年七月から平成一四年三月までの間は俸給六四万一八〇〇円をそれぞれ受給していた。賞与は、平成一二年上半期分三四一万四五〇〇円、同年下半期分三二三万六九〇〇円、平成一三年上半期二一九万八九〇〇円、同年下半期一〇七万八一〇〇円、平成一四年度上半期八九万四四〇〇円をそれぞれ受給していた。(書証略)

(七)  本件内規の運用状況

本件内規の運用の概略は、参与・参事で退職した者は約七〇名であり、そのうち、被告が満六〇歳時点で役職者でなかったとして取り扱っている者は原告のみであるが、原告を含む一割弱の者が本件内規の適用を受けていない。(人証略、弁論の全趣旨)

2  判断

(一)  解雇無効確認請求の是非

原告は、「被告が平成一四年三月三一日原告に対して行った解雇の無効であることを確認する」との訴えを提起しているが、確認の訴えの対象は、原則として、現在の権利又は法律関係でなければならないのであって、前記訴えについては、確認の利益を肯定すべき事情は認められないから、却下は免れないものというべきである。

(二)  被告の定年を理由とする就労拒否は理由があるか。

(1) 原告は、その定年の時期が平成一六年三月三一日であると主張するが、本件においては、原告の主張を裏付けるに足る証拠は存しない。

原告は、D常務が、平成八年五月初旬、原告の身分は参事であるから原告の定年は六二歳であると発言したと主張し、その証拠として手帳(書証略)を援用するところ、この手帳には、なるほど「停年六〇才 参六二才」との記述があるが、続けて「一〇〇%ではない、心身壮健、規則、業務上必要」との記述も存するのであって、これらの記述からは、D常務が本件内規の説明をした事実は認められるけれども、更にすすんで、原告の定年が六二歳であると述べたとの原告主張の事実については、これを認めることができない。前記のとおり、原告は、平成一二年九月二七日付の、常務理事宛に回答書においては、「小職の希望は、小職の年代からは年金が段階的に引き上げられ六一歳からとなりますので、出来るなら六一歳まで被告にいさせて頂ければと思います」と記載しているにすぎないのであるから、D常務が原告の定年を六二歳であると発言した旨の原告主張は採用することができない。

(2) ところで、前記のとおり、本件内規は、参与又は参事の身分を有する職員で、業務上特に必要がある場合においては、その者について退職の時期を延長することができる旨定めているところ、被告が「業務上特に必要がある場合」に該当しないと主張するのに対し、原告は、被告の主張が原告に対する偏見と予断をもった一方的なものであり、被告の悪意によるものであると主張している。

しかしながら、本件全証拠に照らしても、原告が「業務上特に必要がある場合」に該当するとは認めることができない。

むしろ、前記認定事実、ことに、原告が、平成一三年二月一六日から同年五月一六日まで九〇日間の病気欠勤を継続し、同年五月一七日から平成一四年三月三一日までの間は病気休職していることや、この間、原告は、a接骨院、b整形外科医院、c病院及びd医科大学病院を受診していることなどの事実に照らせば、本件内規の定める「業務上特に必要がある場合」にあたらないといわざるを得ず、原告の主張は採用できない。

この点に関し、原告は、「被告が、原告を一般職並みに満六〇歳で定年退職させるために、平成一三年一月四日から同年二月一五日まで二九日間連続して年次有給休暇の取得を強制した。そして、病気でないのに、医者の診断書の提出を迫り、その後九〇日間の病気欠勤を強いて、更に、引き続いて病気休職として、平成一四年三月三一日、原告を定年退職を迎えたとして強引に解雇した」と主張する。

しかしながら、前記認定のとおり、Gが原告に対して、休養を勧めるとともに、有給休暇の消化、病気による欠勤、有給休職、無給休職、平成一四年三月三一日の定年退職を提案していたところ、原告は、平成一三年一二月二八日、平成一三年一月四日から同年二月一五日まで二九日間年次有給休暇を取得する旨の普通休暇届を提出して、その旨年次有給休暇を取得していること、原告は、同月一六日から同年五月一六日まで九〇日間は病気欠勤を継続し、同月一七日から平成一四年三月三一日までの間は病気休職していること、この間、原告は、a接骨院、b整形外科医院、c病院脳外科及びd医科大学病院の脳外科を受診していること、原告は被告に対し、施術証明書及び診断書を提出するとともに、Gに対し、c病院での頭部レントゲン写真を示して、場所が危なくて手術が出来ないところに腫瘍ができており、d医大に一度行く旨説明をしていること、原告は、ガンマ・ナイフでもとれない頭部の病気があったこと、原告は、病気休職中、全く出勤せず、休職通知に対して異議も唱えておらず、復職を願い出たこともないことなどの事実が存するのであって、これらの事実に照らすと、被告が原告に対し、年次有給休暇の取得を強制したとはいえず、また、病気でないのに医者の診断書の提出を迫って、九〇日間の病気欠勤を強いたも認めることができないのであって、病気休職の措置にも違法はなく、原告の主張は採用することができない。

(3) 以上のとおりであるから、その余の点については判断するまでもなく、被告の、定年を理由とする就労拒否は理由があるから、原告の、<1>平成一四年四月一日から平成一六年三月三一日までの間、毎月一〇七万三三七三円の支払を求める請求、並びに、<2>一三六五万八〇〇〇円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成一五年三月二五日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める請求については、いずれも理由がないといわざるを得ない。

第四結論

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 三浦隆志)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例