東京地方裁判所 平成15年(ワ)6325号 判決 2004年11月30日
原告
X1
ほか一名
被告
Y1
ほか一名
主文
一 被告Y1は、原告X1に対し、一二一万円及びこれに対する平成一四年九月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告日本興亜損害保険株式会社は、原告X1の被告Y1に対する前項の判決が確定したときは、原告X1に対し、一二一万円及びこれに対する同判決確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告Y1は、原告X2に対し、一二一万円及びこれに対する平成一四年九月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告日本興亜損害保険株式会社は、原告X2の被告Y1に対する前項の判決が確定したときは、原告X2に対し、一二一万円及びこれに対する同判決確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
六 訴訟費用は、これを一五分し、その一四を原告らの、その余を被告らの負担とする。
七 この判決の一・三項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告Y1は、原告X1に対し、一七八七万二二〇〇円及びこれに対する平成一四年九月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告日本興亜損害保険株式会社は、原告X1の被告Y1に対する前項の判決が確定したときは、原告X1に対し、一七二三万二二〇〇円及びこれに対する同判決確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告Y1は、原告X2に対し、一七一六万八二〇一円及びこれに対する平成一四年九月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告日本興亜損害保険株式会社は、原告X2の被告Y1に対する前項の判決が確定したときは、原告X2に対し、一七一六万八二〇一円及びこれに対する同判決確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 前提事実(括弧内に証拠等を記載したほかの事実は、当事者間に争いがない。)
(1) 交通事故の発生
次の交通事故が発生した。
日時 平成一四年九月二八日午前七時五〇分ころ
場所 茨城県鹿嶋市<以下省略>先路上
関係車両 (1) 原告X1が所有し、訴外亡Aが運転する自家用普通乗用自動車(<番号省略>。以下「原告車」という。)
(2) 被告Y1が保有し、運転する自家用大型貨物自動車(<番号省略>。以下「被告車」という。)
事故態様 上記場所の道路(以下「本件道路」という。)を走行する被告車が、対向車線から進入してきた原告車と衝突した。
(2) 亡Aの死亡
亡Aは、本件事故により、脳挫傷、肺挫傷、全身多発骨折の傷害を負い、平成一四年九月二八日午前九時三〇分死亡した(甲三、四)。
(3) 被告Y1と被告日本興亜損害保険株式会社(以下「被告保険会社」という。)の保険契約等
被告保険会社は、被告Y1との間で自動車総合保険契約を締結しており(争いがない。)、同保険約款には、対人事故によって被告Y1の法律上の損害賠償責任が判決で確定した場合は、損害賠償請求権者は、被告保険会社に対し、損害賠償の支払を直接請求できる旨の規定がある(弁論の全趣旨)。
(4) 相続
原告X1は亡Aの父、原告X2は亡Aの母であり、亡Aの死亡により、法定相続分に従い同人の権利義務を各二分の一の割合で相続した。
二 争点及び当事者の主張
(1) 本件事故の態様及び責任原因
ア 原告らの主張
(ア) 被告Y1は、最大積載量九・二五tを大幅に超過した約一四tの砕石を過積載した上、制限速度を大幅に超過した速度で本件道路の大洋村方面から神栖町方面に向かう車線の第二車線を走行していたところ、対向車線の第二車線を走行していた亡Aが運転する原告車がスリップしているのを発見したのであるから、対向車線から原告車が自車線内に進入してくる危険性があることを予測し、事前にブレーキを掛けるなどして衝突を回避し、又は衝突の衝撃を軽減する措置をとるべき注意義務があるにもかかわらず、そのような措置を一切とらず、そのまま速度を落とすことなく漫然と走行し、その直後に対向車線から飛び出し、自車線内で転回した原告車に衝突した上、原告車の上に覆い被さるような状態で四二・八mも進行した過失がある。
したがって、被告Y1は、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条、民法七〇九条に基づき、原告らの損害を賠償する責任がある。
(イ) Bの鑑定書(甲一二。以下「B鑑定」という。)によれば、被告車は時速八五kmで走行しており、対向車線を走行していた原告車がセンターラインを越え、その時点から衝突するまでに三・二四秒かかったというのであるから、その時点で被告車は衝突地点の手前七五・四mを走行していたことになる。そして、被告車と併走していたタンクローリー車は、実況見分調書(甲六)によれば、衝突地点の手前一二mで被告車と並んだのであるから、原告車がセンターラインを越えた時点では、タンクローリー車は衝突地点の手前五七mを走行していたことになる。
その場合、被告車とタンクローリー車の車間距離は一八・四mあることになるが、そうであれば、被告Y1は、原告車がセンターラインを越えた時点で、制限速度まで制動し、左側の第一車線に進路変更してタンクローリー車の後尾につけることは可能であった。それにもかかわらず、被告Y1は、原告車がセンターラインを越えた時点で制動措置をとることなく、また、第一車線に進路変更することもなく漫然とそのまま直進させ、ようやく衝突地点の手前一二mで初めて制動措置をとった。その結果、被告車は、原告車と衝突し、原告車に覆い被さるような状態で四二・八mも原告車を引きずり進行したものである。
(ウ) 裁判所が鑑定を命じた鑑定人Cは、被告Y1は本件事故を回避することができなかったとしている(以下、同鑑定人の鑑定を「C鑑定」という。)。
しかし、C鑑定は、原告車がハイドロプレーニング現象を起こしていたことを前提としているところ、そもそもこの前提が誤っている。すなわち、本件事故が発生した当時は、本件道路上に水たまりができるような状態ではなかった。本件事故当日の天候に関する証拠(甲八)によれば、午前三時台から雨は降っていたものの、その雨量は午前三時台は一mm、同四時台は二mm、同五時台は二mm、同六時台は三mm、同七時台は三mm程度であり、この程度の雨量では、本件道路上に水たまりができるような状態ではなかったはずである。写真撮影報告書(甲七)を見ても、本件道路は比較的新しく整備された道路であり、水たまりが散見されるような老朽化した道路とは全く異なる。そして、本来道路は、水たまりができにくいように道路中央部分が多少盛り上がって設計されていることからも、本件道路にハイドロプレーニング現象を引き起こすほどの水たまりができていたとは到底考えられない。
したがって、C鑑定は採用されるべきではない。
(エ) また、仮に、原告車がハイドロプレーニング現象を起こしていたとしても、次のとおり、被告Y1は、ハイドロプレーニング現象を現認した地点において、急制動の措置をとるか、あるいは適切なハンドル操作を行い、左側車線に進路変更をしていれば、本件事故が回避できたにもかかわらず、そのまま速度を落とすことなく、漫然と被告車を進行させ、対向車線から飛び出して自車線内で転回した原告車に被告車を衝突させたものであり、衝突の回避措置をとるべき注意義務に違反した過失があるというべきである。
すなわち、被告Y1は、大雨の降る中、原告車の約四〇〇m手前から、原告車がモーターボートのように路面の水を左右に分けながら進行し、その水しぶきが高く上がっているような極めて異常な走行状態であったことを現認していたのであるから、その時点で、本件事故に対する予見可能性があり、結果回避義務を負っていたというべきである。しかも、被告Y1は、被告車に許容された積載量九・二五tの約一・五倍である約一四tの砕石を積載した状態で、制限速度が時速五〇kmの本件道路を、B鑑定によれば制動時が時速八五km、衝突時が時速七五km、C鑑定によっても時速六三・六kmから七二・八kmと大幅に制限速度を超過して走行していたものであり、原告車が上記のような異常な走行で制動及びハンドル操作が不能になって自車線内に飛び込んできた場合には、大惨劇になることを容易に認識し、又は認識し得たことが明らかである。
また、被告Y1は、上記のとおり原告車の約四〇〇m手前で原告車の異常な走行を現認したところ、C鑑定によれば、被告車の急制動時の停止距離は三七・〇mないし四八・五mであるから、その時点で被告Y1が制動措置をとれば十分に本件事故が回避できたことが明らかである。あるいは、その時点で、被告Y1が、直ちに適切なハンドル操作を行い、左側の第一車線に進路変更することによっても、本件事故は回避できたことが明らかである。
(オ) 実況見分調書(甲六、乙一)においては、被告Y1が原告車がスリップしたのを認めた地点が原告車の六六・三m手前であるとされているが、その記載は不正確である。被告Y1は、本件事故後間もなく、被告保険会社の調査に対し、約一〇〇m先に蛇行する原告車を認めた旨説明しており、この説明の方が信用性を有するというべきである。したがって、遅くともその時点で、被告Y1が制動又は進路変更をしていれば、本件事故を回避できたことが明らかである。
イ 被告らの主張
(ア) 車両を運転中の運転者が、対向車両が対向車線から突然自車線内に飛び出してくることを予見して走行することは考えられない。そのような場合に、対向車線から自車線内に進入してきた対向車両との衝突を回避できるか否かは、対向車線からの車両の進入を認識したときの双方の車両間の距離、双方の車両の速度及び道路状況等を総合して判断されなければならない。
本件事故は、被告Y1が、前方二三・五mの地点に、原告車が自車線内に進入してきたのを発見し、急制動の措置をとったが、その地点から一二m走行した地点で原告車と衝突したものである。湿潤したアスファルトの路面状況では、制限速度である時速六〇kmでの走行を前提としたとしても、その制動距離は三四・七四mとなる。ハンドル操作による回避については、左側の第一車線に併走車両があり、同車線に回避することもできなかった。上記の制動距離からすれば、被告Y1が、原告車との衝突を回避できなかったことについて、被告Y1に過失を認めることはできない。
(イ) また、被告車は、本件事故当時、車検後間もなく、構造上の欠陥又は機能の障害はなかった。
(ウ) したがって、被告Y1は、自賠法三条、民法七〇九条の損害賠償責任を負わない。
(2) 過失相殺
ア 被告らの主張
上記(1)イのとおり、被告Y1に過失はないが、仮に被告Y1の責任が認められるとしても、亡Aの過失は大きく、大幅な過失相殺がされるべきである。
イ 原告らの主張
上記(1)アの本件事故の態様及び被告Y1の過失からすれば、被告Y1の過失割合が四割を下回ることはない(亡Aの過失割合が六割を上回ることはない。)。
(3) 原告らの損害額
ア 原告らの主張
原告らの損害額(相続分を含む。)は、次のとおりである。
(ア) 治療費 六万八九四四円
(イ) 死亡逸失利益 四六四六万八三三二円
亡Aは、高等学校を卒業後、住友金属工業株式会社に勤務していたところ、死亡時には若年(二一歳)であったことから、死亡逸失利益の算定に当たっては、平成一三年賃金センサス男性労働者・高卒・全年齢の平均年収である五一九万七八〇〇円を基礎収入とするのが相当である。そして、生活費控除率を五〇%、就労可能年数を死亡時の二一歳から六七歳までの四六年間として、ライプニッツ係数を用いて中間利息を控除すると、亡Aの死亡逸失利益は、次のとおり、四六四六万八三三二円となる。
519万7800円×(1-0.5)×17.88=4646万8332円
(ウ) 死亡慰謝料 三〇〇〇万〇〇〇〇円
亡A及び原告ら固有の慰謝料は、合計三〇〇〇万円が相当である。
(エ) 葬儀費用 一五〇万〇〇〇〇円
(オ) 物損 一六〇万〇〇〇〇円
本件事故により、原告X1が所有する原告車は大破し、全損となった。平成一四年度レッドブックによる原告車の時価額は一六〇万円であるから、原告X1は同額の損害を被った。
(カ) 小計
被告Y1の過失割合は四割であるから、上記(ア)ないし(エ)の人損分の損害額の合計七八〇三万七二七六円のうち、被告Y1が負担すべき額は三一二一万四九一〇円となる。このうち、原告らの各損害額(相続分を含む。)は、各一五六〇万七四五五円である。
また、同様に、上記(オ)の原告X1の物損分の損害のうち、被告Y1が負担すべき額は六四万円となる。
以上により、原告X1の損害額は一六二四万七四五五円、原告X2の損害額は一五六〇万七四五五円となる。
(キ) 弁護士費用
弁護士費用は、原告X1につき一六二万四七四五円、原告X2につき一五六万〇七四六円が相当である。
(ク) まとめ
以上により、原告X1の損害額は一七八七万二二〇〇円であるところ、被告Y1に対し、同額及びこれに対する本件事故日である平成一四年九月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、被告保険会社に対し、原告X1の被告Y1に対する上記判決の確定を条件として、上記額のうち物損分を除いた一七二三万二二〇〇円及びこれに対する同判決確定の日の翌日から支払済みまで同割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。
また、原告X2の損害額は一七一六万八二〇一円であるところ、被告Y1に対し、同額及びこれに対する本件事故日である平成一四年九月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、被告保険会社に対し、原告X2の被告Y1に対する上記判決の確定を条件として、同額及びこれに対する同判決確定の日の翌日から支払済みまで同割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。
イ 被告らの認否・主張
(ア) 原告ら主張の損害額はいずれも争う。
(イ) 仮に、被告らの責任が認められる場合には、原告らは、次のとおり労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく給付金の支給を受けているから、これらを損害のてん補として原告らの損害額から控除すべきである。
a 療養補償給付 四万一一三四円
b 遺族一時金 七六一万一〇〇〇円
c 遺族特別支給金 三〇〇万〇〇〇〇円
d 遺族特別一時金 一二九万二〇〇〇円
e 葬祭給付 五四万三三三〇円
ウ 原告らの認否
療養補償給付四万一一三四円の支給を受けたことは認める。
第三当裁判所の判断
一 本件事故の態様及び責任原因(争点(1))について
(1) 本件事故の態様等について
前記前提事実、証拠(甲一、六、七、九、一〇の一、一五ないし一八、一九、二〇の一・二、二一ないし二六、乙一、二、C鑑定(当裁判所が鑑定を命じたCの鑑定の結果)、証人D、被告Y1本人)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故の態様等について、次の事実が認められる。
ア 本件道路は、神栖町方面から大洋村方面(南から北)に走る片側二車線の県道須賀北埠頭線であり、片側の車道幅員は六・六m(一車線の幅員は三・三m)である。二本の白色線で表示されている幅一・一mの中央分離帯には、長さ五〇cm、幅一五cm、高さ六cmのチャッターバーが、一・一m間隔で左右対称に設置されている。本件道路の東側及び西側にはそれぞれガードレールを挟んで幅員二・六m、幅員二・一mの歩道が設置されている。本件道路の路面は、アスファルト舖装され、平坦であり、本件道路の両方向から前方に対する見通しは良好である。本件道路の制限速度は、法定最高速度の時速六〇kmである。
イ 被告Y1は、被告車を運転して、本件道路の大洋村方面から神栖町方面に向かう車線の第二車線を時速約六四kmないし七三kmで走行していた。本件事故当日の天候は雨で、特に午前七時三〇分ころからは激しく雨が降っており、被告Y1は被告車のワイパーを最高速度で作動させていた。そして、被告Y1は、午前七時五〇分ころ、本件事故現場付近に差し掛かったところ、対向車線上の前方約四〇〇mの地点を、原告車が、路面の水を左右に分けながら水しぶきを高く上げて走行してくるのを発見した。
ウ その後、被告Y1は、別紙交通事故現場見取図(甲六、乙一)の<ア>地点(以下、地点の符号はいずれも同図のそれを指す。)で、前方約六六・三mの<1>地点を走行する原告車がスリップし、走行する車線内で左右に振れるのを発見した。被告Y1は、その時点ではブレーキを掛けなかったが、<イ>地点に至った時(<ア>地点と<イ>地点の距離は約一九・三m)、中央分離帯をはみ出して右に旋回しながら、被告車が進行する車線内に進入してきた<2>地点の原告車を発見し(<2>地点と<イ>地点の距離は約二三・五m)、危険を感じてブレーキを掛けた。その際、被告車のほぼ左横の第一車線の地点をタンクローリー車が併走していた。
エ 被告Y1は、上記のようにブレーキを掛けたが、<×>地点で被告車と原告車が衝突した(ただし、衝突時の原告車は、別紙交通事故現場見取図に示されているよりも、さらに右に旋回し、その前部がほぼ東を向いた状態であった。)。その後、被告車は、原告車に覆い被さるような状態で原告車を引きずり、被告車は<ウ>地点で、原告車は<3>地点で停止した。
オ 他方、亡Aは、原告車を運転して、本件道路の神栖町方面から大洋村方面に向かう車線の第二車線を時速約九〇kmで走行していたが、おりからの激しい降雨のため、原告車がハイドロプレーニング現象を起こし、制動及びハンドル操作が不能となり、<1>地点付近でスリップして、走行する車線内で左右に振れた後、<2>地点で右に旋回しながら対向車線に進入したところ、上記エのとおり、被告車と衝突した。
カ 被告車の最大積載量は九・二五tであるが、本件事故当時、被告車は砕石を約一四t積載していた。
(2) 補足説明
ア 原告車のハイドロプレーニング現象について
路面が水でおおわれているときに車両が高速で走行すると、タイヤが水上スキーのように水の膜を滑走することがあり、これをハイドロプレーニング現象という。同現象に陥ると、ハンドルを切っても効かない、ブレーキを踏んでも掛からないというハンドル操作不能、制動不能の状態となる(甲二三、二六の一・二)。
上記(1)の認定事実中、原告車がハイドロプレーニング現象を起こしていた事実は、甲一五、一六、二二、二三、二六の一・二、C鑑定、証人Dの証言及び被告Y1の供述を総合して認定したものであるが、原告らは、本件事故当時、本件道路でハイドロプレーニング現象を引き起こすほどの水たまりができていたとは到底考えられないと主張する。
しかしながら、C鑑定は、本件事故の現場は見通しの良いほぼ直線に近い道路であり、原告車の進路から見て本件事故の現場には右折路もなく、また、右横断するような環境でもないが、その様な現場で車体を回転させながら対向車線に原告車を進入させたというのは、<1>不意の外乱作用(風圧・振動、他車との衝突等)を受けた、<2>凹凸や段差のある部分を高速で通過したため、安定性を失った、<3>無用な急転把を行った、<4>各車輪間の空気圧が均一でなかった、あるいは摩耗が著しいタイヤを装着し急ハンドルを切ったり、急制動した、<5>路面性状に適しない高速走行や急加速又は瞬間的な強い駆動力を加えた場合等を原因とする挙動であった、以上の<1>ないし<5>の可能性が考えられるが、本件では<1>ないし<4>が否定され、最も可能性が高い原因は<5>である、本件事故当時は降雨であり、路面が湿潤していたことは明らかであるところ、原告車にはABS装置・四WS機能が付加されていたから、よほどの乱暴運転をしない限り暴走に陥ることはなく、いわゆるハイドロプレーニング現象に遭遇していた可能性が最も高いと考える、相互の進路がほぼ直線・平坦であること、路面条件も湿潤を除けば支障となる状況がなく、同車の補機能も含めれば、旋回状態で中央分離帯を越えた車体挙動は、ハイドロプレーニング状態であった可能性は極めて高く、そのような状況下にあったと肯定してもよいと判断している。そして、その判断の過程は、合理的かつ自然である。
原告らが本件事故当時の降雨量が少ない証拠として提出する甲八は、本件事故当日の「鹿嶋(茨城県)」のアメダスであるが、鹿嶋のどの地点で測定されたものか不明であって、本件事故現場付近の客観的な降雨量を示すものとはいえない。かえって、証拠(甲一五、一六、証人D、被告Y1本人)によれば、本件事故当時、本件事故の現場付近は、激しい降雨で、被告Y1及び被告車の後方を大型貨物自動車を運転して走行していたDは、それぞれの車両のワイパーを最高速度で作動させていた上、原告車は路面の水を左右に分けながら水しぶきを高く上げて走行していたことが認められ、これらの事実は、C鑑定の上記判断に合致するものといえる。なお、原告ら訴訟代理人Eは、本件訴訟前に、被告Y1から本件事故時の激しい降雨の状況や原告車が水しぶきを上げて走行していた状況を電話で聴取し、録音していたところ、C鑑定は、それに関する証拠である甲一五(反訳文)、一六(録音テープ)が提出される前の段階でなされたものであり、そのような証拠が鑑定の資料として提出されていれば、原告車がハイドロプレーニング現象を起こしていた旨の判断はより容易かつ確実になされたと考えられられるが、いずれにしても、後に、C鑑定に沿う本件事故当時の激しい降雨の状況や、原告車が水しぶきを上げて走行していた状況等が明らかになったことは、C鑑定の判断が正当であることを裏付けるものといえる。
したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
イ 原告車及び被告車の速度等について
(ア) まず、原告らは、本件道路の制限速度が時速五〇kmであることを前提として主張をするが(もっとも、原告らも、訴状においては、本件道路の制限速度が時速六〇kmであることを前提とする主張をしていた。)、本件事故の現場付近において道路標識等により最高速度が指定されていることは窺われず(甲七、二一の一ないし五、二四、二五)、実況見分調書(甲六、乙一)にも速度の規制について何ら記載はない(実況見分調書の交通事故現場見取図の「規制」欄にも記載はない。なお、被告保険会社作成の異議申立書(甲一八)も本件道路の制限速度が時速六〇kmであることを前提とし、被告保険会社が依頼したリサーチ会社が作成した図面(甲一四)にも、制限速度は時速六〇kmである旨記載されている。)。
したがって、本件道路の制限速度は、法定最高速度である時速六〇kmであると認められる。
(イ) 次に、B鑑定(甲一二)は、被告車の衝突時の速度を時速七五km前後、制動前の速度を時速八五km前後、原告車の衝突時の速度を時速九・四km以下又は停止と判断している。しかしながら、B鑑定は、甲一二に記載された判断の過程が十分な合理性を有するものとはいい難い上、上記(1)認定のとおり、原告車がハイドロプレーニング現象を起こしていたことを全く考慮していないこと、証人Dの証言及び被告Y1の供述からも、衝突時の原告車の速度が時速九・四km以下又は停止というような状態ではなかったことは明らかであることから、採用することができない。
(ウ) 他方、C鑑定は、上記のように原告車がハイドロプレーニング現象を起こしていたことを前提に、このような状態に陥る速度を目安として原告車の<1>地点以前の速度を時速九〇km、<1>地点の速度を時速八〇kmとし、エネルギー保存の法則等に基づく計算により衝突地点での原告車の速度を時速約七四・二kmとした上、運動量保存の法則等から被告車の走行速度は時速約六三・六kmないし七二・八km(中間値時速約六八・二km)、衝突後の速度は時速約五六・六kmないし六五・三km(中間値時速約六〇・九km)であると判断している(なお、衝突時以降の被告Y1のブレーキペダル操作については、車体損傷規模等から衝突時の衝撃力が極めて高かったことや、原告車を下部に巻き込みながら停止地点へ同体移動中における車体振動等の影響から、ブレーキペダルを的確に踏み続けることは困難であったとしている。)。そして、C鑑定のその判断は、計算や推論の過程を含めて合理的であり、特段不自然な点や疑問点を指摘することはできない。また、被告Y1は、本件道路を時速五〇kmないし六〇kmで走行していた旨供述するところ、これはC鑑定において判断された速度をやや下回るものの、事故に遭った者の供述心理等をも考慮すれば、C鑑定の判断した被告車の速度は、被告Y1の認識との間に大きな乖離はないというべきである。そして、他にC鑑定の判断を左右するに足りる事情は認められない。
そうすると、原告車及び被告車の速度については、上記(1)のとおり認定するのが相当である。
ウ 各地点の認定について
上記(1)の各地点の認定は、主に実況見分調書(甲六、乙一)に基づくものであるところ、原告らは、実況見分調書の記載は不正確であり、被告Y1は、本件事故後間もなく、被告保険会社の調査に対し、約一〇〇m先に蛇行する原告車を認めた旨説明しており、この説明の方が信用性を有するというべきであると主張する。そして、被告保険会社から依頼を受けたリサーチ会社が作成したと考えられる図面(甲一四)においては、被告車の前方約一〇〇mの地点から、原告車が蛇行しながら走行したように図示されている。
しかしながら、上記図面は、病院で被告Y1が二〇分程度事情を聴取された後作成されたもので、被告Y1自身がその図面を確認したものではない上(被告Y1本人)、その図面自体も大ざっぱなもので、どこまで被告Y1の説明を忠実に再現したものかについても疑問があるから、採用することはできない。
他方、実況見分における被告Y1の指示説明は、本件事故の約一時間後から行われたもので(甲六、乙一)、当時の鮮明な記憶に基づくものと考えられる上、本件事故の状況について被告Y1の指示説明と被告車の後方を走行していたDの指示説明もほぼ合致していることなどからすれば、上記の指示説明は基本的に信用性を有するといえ、他にこれを左右するに足りる証拠はない。そうすると、本件事故の状況については、実況見分調書(甲六、乙一)及び上記(1)の冒頭に掲げた他の証拠を総合し、上記(1)のとおり認定するのが相当である。
したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
(3) 責任原因について
ア 民法七〇九条の不法行為責任について
(ア) 本件事故は、上記(1)のとおり、激しい降雨の中、高速で走行し、ハイドロプレーニング現象を起こして制動及びハンドル操作が不能となった原告車が、中央分離帯を越えて、右に旋回しながら被告車が走行する対向車線に進入したため、被告車と原告車が衝突したというものであるところ、通常、車両が自車線内を走行している場合、当該車両の運転者は、対向車線を走行する車両が同車線から対向車線である自車線内に進入してくることを予測して運転すべき注意義務はないというべきである。
もっとも、対向車両が何らかの異常な走行をし、対向車線に進入してくる危険性が予測され、あるいは、対向車線に進入してきた場合に、当該車両が制動措置をとり、又はハンドル操作等によって事故を回避することができたにもかかわらず、そのような措置をとらなかった場合には、過失が認められるというべきである。
これを本件についてみると、上記(1)の認定事実によれば、被告Y1は、<ア>地点において、前方約六六・三mの<1>地点を走行する原告車がスリップし、走行する車線内で左右に振れるのを発見したが、さらに約一九・三m走行した<イ>地点に至って、中央分離帯をはみ出して右に旋回しながら、被告車が進行する車線内に進入してきた<2>地点の原告車を発見し、危険を感じてブレーキを掛けているが、被告Y1は、<ア>地点で原告車がスリップし、左右に振れるのを発見した時に、原告車の異常な走行状態を認識したというべきである。そこで、以下、被告Y1が、その時点で制動又は回避の措置をとれば、本件事故を回避できたか否かについて検討する。
(イ) まず、B鑑定(甲一二)は、被告車の左側の第一車線を並走していたタンクローリー車の速度を制限速度の時速六〇kmとすると、原告車がセンターラインを越える時点で、被告車が第一車線への車線変更を開始して、制動により時速六〇kmまで減速し、タンクローリー車の後尾につけるに必要な減速度は〇・二二Gであるが、これは全力制動の減速度〇・五Gの四四%であり、実行可能な制動であるとしている。しかしながら、B鑑定は、上記(2)イ(イ)のとおり、原告車がハイドロプレーニング現象を起こしていたことを全く考慮しておらず、上記判断の前提となる被告車や原告車の速度についての判断を採用することができないから、上記結論もまた採用することができない。
(ウ) 次に、C鑑定は、上記(2)イ(ウ)の原告車及び被告車の速度を前提に、被告Y1が、原告車の異常な走行を認識した<ア>地点から第一車線を走行していたタンクローリー車に並進(<イ>地点)するまでの進行距離(一九・三m)の間に、機敏な反応(徒過時間約〇・七秒)をし、急制動をしつつ同時に左に進路変更を行っても、衝突を回避することはできなかったと判断している。
すなわち、C鑑定は、被告車の約一四tの積載量と被告車にABS装置が備えられていないこと(同事実は、被告Y1の供述により認められる。)を前提に、データに基づき被告車の停止距離を約三七・〇mないし四八・五mとし(なお、被告車の場合は降雨で砕石が水分を含んでいたことも推測されるから、重量がより増えていた可能性も否定できず、その場合は停止距離も若干長くなるとしている。)、原告車の蛇行運転を認知してから衝突するまでの進行距離(約三一・三m)との比較から、認知した<ア>地点で制動効果が発揮されていたと仮定しても、衝突を回避することはできなかった、また、被告Y1が原告車の異常な走行に気付いてから衝突するまでの進行距離約三一・三mの間に、進路変更が可能であったか否かについては、被告車の本件事故前の走行速度、危険認識から回避行動を開始するまでの反応時間から考えられる被告車の進行距離、被告車が衝突を避けるためになすべきであった進路変更の程度とそのためにどの程度前からハンドル操作を行うべきであったかなどを、計算・検討した上で、被告Y1が被告車の異常な走行を認識した直後から危険を覚知して制動及びハンドル操作による進路変更を試みても、衝突を回避する可能性はなかったと判断している。そして、その判断は、計算や推論の過程を含めて合理的であり、特段不自然な点や疑問点を指摘することはできない。
そうすると、被告車の走行速度や約一四tの砕石を積載していた状態を前提とする限り、被告車が、原告車がスリップしたのを発見して急制動措置をとり、あるいは、それとともに第一車線に進路変更することにより、本件事故を回避できたものと認定することはできない。なお、C鑑定は、第一車線を走行していたタンクローリー車が時速五七・三kmないし六八・九km以上であれば、被告車が制動するとともに追突又は相互接触することなく左への進路変更が可能性であったことになるともしているが、タンクローリー車の速度が上記時速以上であったと(その可能性はあるとしても)認定することはできないし、上記の結論も計算上の数値であって、計算されたとおりに急制動やハンドル操作をすることは実際には相当困難であろうことも考慮すると、やはり、被告Y1が急制動とともに第一車線に進路変更することによって、本件事故を回避することができたと認定することはできない。
また、C鑑定は、被告車が時速約六三・六kmないし七二・八kmで走行していたと判断し、その下限の速度である時速約六三・六kmで走行していたとしても本件事故を回避できなかったとするものであるから、被告車の走行速度が仮に法定最高速度である時速六〇kmであったとしても、その結論に差が生じるものとは考えにくい。
さらに、C鑑定は、上記のとおり、被告車が約一四tの砕石を積載した過積載の状態であったことを前提としたものであるところ、仮に被告車の積載量が許容積載量以下(九・二五t以下)であったとすれば、被告車の停止距離はやや短くなったものと考えられる。しかしながら、大型貨物自動車の積載量と停止距離の測定結果(C鑑定書の表一)やC鑑定の結論に至る計算・推論の過程に照らせば、被告車の積載量が許容積載量以下であった場合に直ちに上記結論が異なるものともいい難いし、上記のとおり、降雨で被告車の砕石が水分を含み重量が増えていたとすれば、被告車の停止距離も若干長くなることや、ハイドロプレーニング現象を起こして対向車線に飛び出した原告車の衝突時の速度は時速約七四・二kmであったことも併せ考慮すれば、被告車が過積載の状態でなかったとしても、急制動及び進路変更によって、本件事故を回避し、又は衝突の衝撃を軽減するなどして亡A死亡の結果を回避し、あるいは原告車が全損を免れることができたものと(下記イのとおり、逆にその可能性を否定することはできないとしても)認定することは困難である。
以上によれば、被告Y1に、本件事故について、民法七〇九条の過失を認定することはできないといわざるを得ない。
(エ) 上記のとおり、C鑑定は、実況見分調書(甲六、乙一)に基づき、被告Y1が、<ア>地点で、原告車の異常な走行に気付き、急制動や進路変更の措置をとった場合に、本件事故が回避できたか否かを検討しているところ、原告らは、その前提とは異なり、被告Y1は、原告車の約四〇〇m手前から、原告車がモーターボートのように路面の水を左右に分けながら進行し、その水しぶきが高く上がっているような極めて異常な走行状態であったことを現認していたから、その時点で、本件事故に対する予見可能性があり、結果回避義務を負っていたというべきであると主張する(そもそも上記の実況見分調書の指示説明を前提として鑑定を求めたのは、原告らであるが、この点は措く。)。
そして、確かに、上記(1)のとおり、被告Y1は、対向車線上の前方約四〇〇mの地点を、原告車が、路面の水を左右に分けながらその水しぶきを高く上げて走行してくるのを発見している。しかしながら、激しい降雨の中、原告車がそのような状態で走行していたとしても、その時点では、原告車が左右に振れるなどの異常な走行は見られなかったのであるから、そのことから直ちに、原告車がハイドロプレーニング現象に陥っていたことを認識することはできない(実際にも、どの時点で原告車が同現象に陥ったかは判然としない。)。したがって、その時点で、被告Y1が、原告車が制動及びハンドル操作が不能となり、自車が走行する車線に進行してくることをあらかじめ予測し、制動及び進路変更すべきであったとはいえない。そして、被告Y1が、原告車の異常な走行に気付いたのは、<ア>地点において、<2>地点の原告車がスリップし、左右に振れたのを発見した時であることは、上記(1)の認定のとおりであるから、原告らの上記主張は採用することができない。
(オ) 他に以上の認定判断を左右するに足りる証拠はない。
イ 自賠法三条の運行供用者責任について
被告Y1について、民法七〇九条の過失を認定することができないことは上記アのとおりであるが、そのことによって、直ちに被告Y1の自賠法三条の責任が否定されるものではない。
上記のとおり、C鑑定は、第一車線を走行していたタンクローリー車が時速五七・三kmないし六八・九km以上であれば、被告車が制動するとともに追突又は相互接触することなく左への進路変更が可能性であったことになると指摘しているところ、タンクローリー車が上記速度以上で走行していたものと認定することはできないものの、その可能性は考えられる。そして、被告車が法定最高速度である時速約六〇kmで走行し、かつ、被告車が過積載の状態でなかったとすれば、実際に被告車が走行していた状態よりも、停止距離がやや短くなったと考えられる。そうすると、上記のタンクローリー車が上記速度以上で走行し、かつ、被告車が時速約六〇kmで、許容積載量以下の砕石しか積載していなかった場合に、被告Y1が、<ア>地点で、原告車がスリップし、左右に振れるのを発見すると同時に、制動措置をとるとともに、第一車線に進路変更を開始していれば、本件事故を回避でき、又は回避できないとしても、制動等の結果、本件事故時の衝撃を実際よりも相当程度緩和させることにより、亡Aが死亡するに至ることを避けることができたのではないかとの合理的疑いは残るといわざるを得ない。
そうすると、本件事故について、被告Y1に自賠法三条ただし書の無過失の証明があったものということはできず、他に、上記のような合理的疑いを排斥して、被告Y1が無過失であると認めるに足りる証拠はない。
したがって、被告Y1は、被告車の保有者として、本件事故につき、自賠法三条に基づき損害賠償責任を負うというべきである。
二 過失相殺(争点(2))について
上記一(3)イのとおり、被告Y1は、自賠法三条に基づき損害賠償責任を負うが、本件事故は、激しい降雨の中、原告車が高速で走行してハイドロプレーニング現象を起こし、制御及びハンドル操作が不能となり、対向車線に飛び出したため、原告車と被告車が衝突したものであり、その責任のほとんどが亡Aにあることは明らかであることからすれば、過失相殺として、亡A及び原告らの損害額の九割を減額するのが相当である。
三 原告らの損害額(争点(3))について
原告らの損害額は、次のとおりである。なお、上記のとおり、被告Y1の民法七〇九条による不法行為責任は認められないから、物損について被告Y1に損害賠償責任はない。
(1) 治療費 六万八九四四円
甲五によれば、亡Aの治療費は六万八九四四円であったことが認められる。
(2) 死亡逸失利益 四四九四万二二七四円
亡Aは、高等学校を卒業後、住友金属工業株式会社に勤務していたところ(原告X1)、死亡時は二一歳と若年であったことから、死亡逸失利益の算定に当たっては、平成一四年賃金センサス男性労働者・高卒・全年齢の平均年収である五〇二万七一〇〇円を基礎収入とするのが相当である。そして、生活費控除率を五〇%、就労可能年数を死亡時の二一歳から六七歳までの四六年間として、ライプニッツ係数を用いて中間利息を控除すると、亡Aの死亡逸失利益は、次のとおり四四九四万二二七四円となる。
502万7100円×(1-0.5)×17.8800=4494万2274円
(3) 死亡慰謝料 二二〇〇万〇〇〇〇円
本件事故の態様、亡Aの年齢、家族構成等を考慮すると、亡A及び原告ら固有の慰謝料は、合計二二〇〇万円(亡A一八〇〇万円、原告ら各二〇〇万円)が相当である。
(4) 葬儀費用 一五〇万〇〇〇〇円
甲一一の一ないし二四、二七によれば、亡Aの葬儀費用等として合計一五〇万円以上を要したことが認められるところ、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用は一五〇万円と認めるのが相当である。
(5) 小計及び過失相殺
上記(1)ないし(4)の人損分の損害額の合計は六八五一万一二一八円であるところ、亡Aの過失割合九割を減額すると、残額は六八五万一一二一円(治療費六八九四円、死亡逸失利益四四九万四二二七円、死亡慰謝料二二〇万円、葬儀費用一五万円)となる(原告らの各損害額はその各二分の一)。
しかし、原告らは、労災保険法に基づく給付として、療養補償給付四万一一三四円、遺族一時金七六一万一〇〇〇円、葬祭給付五四万三三三〇円の給付を受けているところ(甲五、二八の一・二)、これをそれぞれ治療費、死亡逸失利益、葬儀費用に充当すると、損害残額は、死亡慰謝料二二〇万円(原告ら各一一〇万円)のみとなる(財産上の損害のてん補の性質を有する療養補償給付、遺族一時金及び葬祭給付を、精神上の損害である慰謝料から控除すべきではないことについては、最三小判昭五八・四・一九民集三七巻三号三二一頁参照)。なお、遺族特別支給金三〇〇万円及び遺族特別一時金一二九万二〇〇〇円(甲二八の一・二)は、労災保険法二三条に規定する労働福祉事業に基づく給付金であり、損害のてん補の性質を有するものと解することはできないから、これを損害額から控除することはできない。
以上により、原告らの損害残額は、各一一〇万円となる。
(6) 弁護士費用
本件事案の内容、上記(5)の損害残額に照らせば、弁護士費用は各一一万円を認めるのが相当である。
(7) まとめ
以上により、原告らの損害額は各一二一万円となる。
四 結論
以上の次第で、原告X1の本件請求は、被告Y1に対し、一二一万円及びこれに対する本件事故日である平成一四年九月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、被告保険会社に対し、原告X1の被告Y1に対する上記判決の確定を条件として、同額の元本及びこれに対する同判決確定の日の翌日から支払済みまで同割合による遅延損害金の支払を、原告X2の本件請求は、被告Y1に対し、一二一万円及びこれに対する上記平成一四年九月二八日から支払済みまで同割合による遅延損害金の支払を、被告保険会社に対し、原告X2の被告Y1に対する上記判決の確定を条件として、同額の元本及びこれに対する同判決確定の日の翌日から支払済みまで同割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める限度で理由があるから認容し、原告らのその余の請求はいずれも理由がないから棄却することとする。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 松本利幸)
(別添)交通事故現場見取図
<省略>