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東京地方裁判所 平成15年(合わ)168号 判決 2004年12月16日

主文

被告人を無期懲役に処する。

未決勾留日数中500日をその刑に算入する。

理由

(犯行に至る経緯)

被告人は,高校を中退してアルバイトや電話工事の仕事などを経た後,平成9年4月ころから運送会社で働き始め,平成12年の初めころ,配送先の会社に勤務していた女性と交際を始めて,間もなく同棲するに至った(平成14年10月に入籍)。被告人は,平成12年2月ころに勤めていた運送会社が倒産したことから,同年12月上旬ころ,大手運送会社等から個人運送業者に仕事を斡旋・仲介する会社と契約をして,そこから普通貨物自動車を借り受け,個人で運送・宅配の請負を始めた。

その後,被告人は,平成14年1月ころから父親の会社の名前を借りて仕事の請負をするようになり,同年3月には,上記斡旋・仲介会社との契約を終了して,個人のつてを頼りに独自に運送・宅配の請負をするようになったものの,元請先から運賃を下げられたり,請け負った仕事が長くは続かなかったりしたほか,商談や受注,集荷・配送,請負代金の請求に至るまで,全てを1人でやらなければならなくなったために仕事で手一杯となり,徐々にそのストレスを蓄積させていった。さらに,同年4月に被告人の母親の病気が再発したことなども重なって,被告人は,その欲求不満といらいらした気持ちを発散させるために,好みの女性を襲って強姦することを考えるようになっていった。

(罪となるべき事実)

被告人は,

第1(平成15年5月29日付け追起訴状記載公訴事実第1)

正当な理由がないのに,平成14年8月10日午後5時ころ,東京都品川区内の被害者A宅台所窓から同室内に侵入し,同女所有のポケット電話機1台(時価500円相当)を窃取し,

第2(平成15年12月22日付け追起訴状記載公訴事実第1)

自転車で帰宅途中の被害者B(当時19歳)を認めるや,同女を強姦しようと企て,平成14年8月14日午後11時50分ころ,埼玉県川口市内の某所路上において,同女に対し,やにわに突き飛ばして自転車もろとも路上に転倒させ,その胸倉をつかんで引きずるなどの暴行を加えて,その反抗を抑圧し,強いて同女を姦淫しようとしたが,同所を他の車両が通りかかったため,その目的を遂げず,その際,上記暴行により,同女に全治約5日間を要する後頭部打撲等の傷害を負わせ,

第3(平成15年12月22日付け追起訴状記載公訴事実第2)

徒歩で帰宅途中の被害者C(当時20歳)を認めるや,同女を強姦しようと企て,平成14年8月15日午前2時30分ころ,埼玉県川口市内の某所路上において,同女に対し,やにわに抱きついて,同所に停車中の普通貨物自動車の後部座席に押し込み,その顔面及び胸部等を手けんで殴打し,所携のガムテープで同女の両手を緊縛し,同ガムテープで同女の目及び口をふさぐなどの暴行を加えて同女を不法に逮捕するとともに,その反抗を抑圧して,強いて同女を姦淫し,さらに,同車両を発進させて同市内の某所路上まで疾走させ,同日午前2時50分ころ,同所で同女を解放するまでの約20分間にわたり,同女を同車両内から脱出不能ならしめ,もって,不法に同女を逮捕監禁し,その際,上記一連の暴行により,同女に加療約10日間を要する顔面打撲,外陰部裂傷等の傷害を負わせ,

第4(平成15年12月22日付け追起訴状記載公訴事実第3)

平成14年8月15日午前2時50分ころ,埼玉県川口市内の某所路上に停車中の前記車両内において,前記被害者Cの抵抗不能に乗じて,同女所有又は管理に係る現金約40円及びキャッシュカード1枚ほか1点在中の財布1個(時価合計約1万800円相当)を強取し,

第5(平成15年8月25日付け追起訴状記載公訴事実)

自転車で帰宅途中の被害者D(当時18歳)を認めるや,同女を車両内に監禁して強姦しようと企て,平成14年9月10日午後9時45分ころ,埼玉県久喜市内の某所路上において,同女に対し,やにわに抱きついて自転車もろとも路上に転倒させ,「おとなしくしろ。」などと語気鋭く言って脅迫し,同女の頭部及び肩部を手けんで数回殴打し,同市内の某所路上に停車中の普通貨物自動車の後部座席に同女を押し込み,所携のガムテープで同女の両手を後ろ手に緊縛して同女を不法に逮捕した上,同ガムテープで同女の目をふさぎ,「おとなしくしていたら,殺さない。」などと語気鋭く言って脅迫し,着衣を脱がせるなどの暴行を加え,その反抗を抑圧して,強いて同女を姦淫し,さらに,同車両を発進させて,同市内の某所路上まで疾走させ,同日午後10時10分ころ,同所で同女を解放するまでの約25分間にわたり,同女を同車両内から脱出不能ならしめ,もって,不法に同女を逮捕監禁し,その際,上記一連の暴行により,同女に加療約2週間を要する頭部挫傷,右上腕部挫傷,左大腿部挫傷,臀部挫傷の傷害を負わせ,

第6(平成15年10月31日付け追起訴状記載公訴事実第1)

正当な理由がないのに,平成14年9月14日午後8時ころから同日午後10時ころまでの間,埼玉県川口市内の被害者E宅に,6畳洋室ガラス戸の施錠を外して侵入し,そのころ,同所において,同女所有又は管理に係る現金約10万7000円及びキャッシュカード1枚ほか1点を窃取し,

第7(平成15年4月22日付け起訴状記載公訴事実第1)

女性を強いて姦淫しようと企て,平成14年10月1日午後8時30分ころ,東京都大田区内の被害者F(当時30歳)宅を宅配業者を装って訪れ,応対に出た同女に玄関ドアを開けさせて室内に侵入し,同所において,同女に対し,その口を手で押さえつけ,その腹部を手けんで殴打し,「静かにしろ。騒いだら殺すぞ。」などと語気鋭く言い,所携のガムテープで同女の両手を後ろ手に縛り上げ,同ガムテープで同女の目及び口をふさぐなどの暴行,脅迫を加えて,その反抗を抑圧した上,さらに,同女を姦淫する前に,まず同女から金員を強取しようと企て,同女所有又は管理に係る現金約1万円及びクレジットカード1枚ほか2点を強取し,引き続き,強いて同女を姦淫し,

第8(平成15年4月22日付け起訴状記載公訴事実第2)

平成14年10月1日午後9時28分ころ及び同日午後9時30分ころの2回にわたり,東京都大田区内のコンビニエンスストアY1店内において,同所に設置された株式会社Z1銀行現金自動預払機のカード挿入口に,前記強取に係るZ2株式会社発行の被害者F名義のクレジットカードを挿入して同機を作動させ,同機から上記Z1銀行事務部長G管理に係る現金合計50万円を窃取し,

第9(平成16年2月4日付け起訴状記載公訴事実第1)

強盗及び強姦の目的で,平成14年10月8日午後8時40分ころ,千葉県浦安市内のH宅を宅配業者を装って訪れ,応対に出た被害者I(当時26歳)にその玄関ドアを開けさせて室内に侵入し,同所において,同女に対し,「静かにしろ。」などと語気鋭く言い,その口に手けんを押し込み,さらに,その目及び口を所携のガムテープでふさぎ,両手足を同ガムテープで緊縛するなどの暴行,脅迫を加えて,その反抗を抑圧し,同女から金員を強取するとともに同女を強いて姦淫しようとしたが,同女の言動から家人が帰宅するのではないかとおそれ,同女所有又は管理に係る現金約5000円,キャッシュカード1枚及びクレジットカード1枚ほか3点在中の財布1個(時価約5000円相当)を強取して同所から逃走したため,強姦の目的を遂げず,その際,上記暴行により,同女に全治約1週間を要する口唇裂傷の傷害を負わせ,

第10(平成16年2月4日付け起訴状記載公訴事実第2)

平成14年10月8日午後9時27分ころ,千葉県市川市内の当時のZ3株式会社行徳営業所において,同所に設置された現金自動預払機のカード挿入口に,前記強取に係る前記被害者I名義のクレジットカードを挿入して同機を作動させ,同機から当時のZ3株式会社行徳営業所所長J管理に係る現金10万円を引き出して窃取し,

第11(平成16年2月4日付け起訴状記載公訴事実第3)

平成14年10月9日午前8時2分ころから同日午前8時3分ころまでの間,東京都文京区内のコンビニエンスストアY2店において,2回にわたり,同店に設置された現金自動預払機のカード挿入口に,前記強取に係る前記被害者I名義のキャッシュカードを挿入して同機を作動させ,同機から株式会社Z4銀行エイティエム統括支店支店長K管理に係る現金合計38万円を引き出して窃取し,

第12(平成15年12月22日付け追起訴状記載公訴事実第4)

自転車で帰宅途中の被害者L(当時26歳)を認めるや,同女を強姦しようと企て,平成14年10月17日午後9時40分ころ,埼玉県吉川市内の某所路上において,同女に対し,やにわに抱きついて自転車もろとも路上に転倒させ,その腹部及び顔面を手けんで数回殴打し,「静かにしろ。おとなしくしろ。」などと語気鋭く言い,同所に停車中の普通貨物自動車の後部座席に同女を押し込むなどの暴行,脅迫を加えて,その反抗を抑圧し,同車両を発進させ,同女を他の場所に連行して強いて姦淫しようとしたが,同女が走行中の同車両から飛び降りて逃走したため,その目的を遂げず,その際,同女が同車両から飛び降りて路面に頭部を強打したことなどにより,同女に入院加療約1か月間を要し嗅覚障害の後遺症の残る頭蓋骨骨折等の傷害を負わせ,

第13(平成15年5月29日付け追起訴状記載公訴事実第2)

平成14年10月中旬ころ,東京都品川区内のY3駐車場において,同所に駐車中のM管理の普通乗用自動車に取り付けられていた後部ナンバープレート1枚を窃取し,

第14(平成16年6月7日付け起訴状記載公訴事実第1)

強盗及び強姦の目的で,平成14年11月27日午後9時15分ころ,千葉県浦安市内の被害者N(当時25歳)宅を宅配業者を装って訪れ,応対に出た同女にその玄関ドアを開けさせて室内に侵入し,同所において,同女に対し,「静かにしろ,騒ぐと殺すぞ。」などと語気鋭く言い,その髪の毛をつかんで頭部を床に打ち付け,さらに,その目及び口を所携のガムテープでふさぎ,両手足を同ガムテープで緊縛するなどの暴行,脅迫を加えて,その反抗を抑圧した上,強いて同女を姦淫し,引き続き,同女所有又は管理に係る現金約1万5000円,キャッシュカード4枚及びクレジットカード4枚を強取し,その際,上記暴行により,同女に加療約2週間を要する頭部挫傷等の傷害を負わせ,

第15(平成16年6月7日付け起訴状記載公訴事実第2)

平成14年11月27日午後10時51分ころ,東京都文京区内のコンビニエンスストアY4店において,同所に設置された現金自動預払機のカード挿入口に,前記強取に係る前記被害者N名義のキャッシュカードを挿入して同機を作動させ,同機から株式会社Z5銀行エーティーエム統括支店支店長O管理に係る現金1万1000円を引き出して窃取し,

第16(平成16年8月9日付け起訴状記載公訴事実)

強盗及び強姦の目的で,平成14年12月17日午後8時40分ころ,千葉県浦安市内のP宅を宅配業者を装って訪れ,応対に出た被害者Q(当時26歳)にその玄関ドアを開けさせて室内に侵入し,同所において,同女に対し,「静かにしろ。」などと語気鋭く言い,その顔面を手けんで殴打し,髪の毛をつかんで頭部を床に打ち付け,さらに,その首を両手で絞めるなどの暴行,脅迫を加えて,その反抗を抑圧した上,同女所有又は管理に係る現金約5万1000円,キャッシュカード4枚及びクレジットカード2枚在中の財布1個並びに名刺入れ1個(時価合計約1万4000円相当)を強取し,引き続き,強いて同女を姦淫しようとしたものの,同女の言動から来訪者があるのではないかとおそれて同所から逃走したため,強姦の目的を遂げず,その際,上記暴行により,同女に加療約2週間を要する顔面外傷等の傷害を負わせ,

第17(平成15年7月30日付け追起訴状記載公訴事実第1)

強盗及び強姦の目的で,平成14年12月21日午後零時30分ころ,埼玉県川口市内の被害者E(当時29歳)宅を宅配業者を装って訪れ,応対に出た同女に玄関ドアを開けさせて室内に侵入し,同所において,同女に対し,その首を締めてうつ伏せに押し倒し,「おとなしくしろ。金を出せ。騒いだりしたら殺すぞ。」などと語気鋭く言い,さらに,所携のガムテープで同女の両手を後ろ手に縛り上げ,同ガムテープで同女の両足を縛り上げ,同ガムテープで同女の目及び口をふさぐなどの暴行,脅迫を加えて,その反抗を抑圧した上,同女所有又は管理に係る現金2万2000円,キャッシュカード1枚及びクレジットカード1枚を強取し,引き続き,同女の着衣を脱がせるなどして,強いて同女を姦淫し,

第18(平成15年7月30日付け追起訴状記載公訴事実第2)

平成14年12月21日午後3時12分ころ及び同日午後3時13分ころの2回にわたり,埼玉県川口市内の株式会社Z6銀行西川口支店西友川口芝出張所において,同所に設置された現金自動預払機のカード挿入口に,前記強取に係る郵政省発行の前記被害者E名義のキャッシュカード及び株式会社Z7発行の同女名義のクレジットカードをそれぞれ挿入して同機を作動させ,同機から上記株式会社Z6銀行西川口支店支店長R管理に係る現金合計21万4000円を窃取し,

第19(平成15年12月22日付け追起訴状記載公訴事実第5)

自転車で帰宅途中の被害者S(当時20歳)を認めるや,同女を強姦しようと企て,平成15年1月22日午後11時20分ころ,埼玉県吉川市内の某所路上において,同女に対し,やにわに抱きつき,「黙れ。」などと語気鋭く言い,その顔面を手けんで数回殴打して,同所に停車中の普通貨物自動車の後部座席に押し込むなどの暴行,脅迫を加えて,その反抗を抑圧し,強いて同女を姦淫しようとしたが,同女が同車両から飛び降りて逃走したため,その目的を遂げず,その際,上記暴行により,同女に全治約7日間を要する頭部皮下血腫等の傷害を負わせ,

第20(平成15年6月18日付け追起訴状記載公訴事実)

強盗及び強姦の目的で,平成15年1月27日午後7時55分ころ,東京都世田谷区内の被害者T(当時25歳)宅を宅配業者を装って訪れ,応対に出た同女に玄関ドアを開けさせて室内に侵入し,同所において,同女に対し,その首を絞め,室内に押し込むなどの暴行を加えて,その反抗を抑圧し,同女から金品を強取するとともに同女を強いて姦淫しようとしたが,折から同女宅に来訪していたUに発見されて逃走したため,その目的を遂げず,

第21(平成15年10月31日付け追起訴状記載公訴事実第2)

平成15年2月3日午後10時ころ,埼玉県三郷市内のY5駐車場において,同所に駐車中のV所有の普通乗用自動車に取り付けられていたナンバープレート2枚を取り外して窃取し,

第22(平成15年7月9日付け起訴状記載公訴事実第1)

自転車で帰宅途中の被害者W(当時24歳)を認めるや,同女を他の場所に連行して強姦しようと企て,平成15年2月5日午前零時35分ころ,埼玉県川口市内の某所路上において,同女に対し,やにわに抱きついて自転車もろとも路上に転倒させ,「静かにしろ。おとなしくしないと,痛い目に遭うぞ。」などと語気鋭く言って脅迫し,その腹部及び顔面を手けんで数回殴打して,同市に停車中の普通貨物自動車の後部座席に同女を押し込み,所携のガムテープで同女の両手を緊縛して同女を不法に逮捕した上,直ちに同車両を発進させて,同市内の某所路上まで疾走させ,同所に駐車させた同車両内において,同ガムテープで同女の目をふさぎ,着衣を脱がせて全裸にするなどの暴行を加えて,その反抗を抑圧し,さらに,同車両を発進させ,同市所在の駐車場まで疾走させ,同所に駐車させた同車両内において,強いて同女を姦淫し,同日午前2時5分ころ,同所で同女を解放するまでの約1時間30分にわたり,同女を同車両内から脱出不能ならしめ,もって,不法に同女を逮捕監禁し,その際,上記一連の暴行により,同女に安静及び経過観察約5日間を要する顔面打撲,両膝部擦過傷,右第1指爪損傷の傷害を負わせ,

第23(平成15年7月9日付け起訴状記載公訴事実第2)

平成15年2月5日午前2時ころ,前記駐車場に駐車中の前記車両内において,前記被害者Wの抵抗不能に乗じて,同女所有の現金約5000円を強取し,

第24(平成15年10月31日付け追起訴状記載公訴事実第3)

平成15年2月6日午後7時45分ころ,埼玉県三郷市内のY6駐車場において,同所に駐車中のX管理の普通貨物自動車に取り付けられていたナンバープレート2枚を取り外して窃取したものである。

(証拠の標目)

(略)

(補足説明)

第1判示第17の事実について

被告人は,当公判廷において,判示第17の事実につき,確かに被害者の住居に侵入して強盗強姦行為に着手したが,被害者が生理中であったことからこれを断念しており,その後,被害者と話をするうちに,被害者の方から性交を求める発言があったので,これに応じて被害者と性交をした旨述べ,弁護人も,被告人の上記供述に沿って,判示第17の事実については,合意の上での性交であり,被告人には住居侵入罪と強盗強姦未遂罪が成立するにとどまる旨主張するので,この点につき補足して説明する。

被害者Eの司法警察員及び検察官に対する各供述調書(甲60,64),被告人の検察官に対する各供述調書(乙31ないし34)そのほか関係各証拠によれば,被告人は,判示日時場所において,宅配業者を装って被害者に玄関ドアを開けさせた上,差し出した配送伝票に同人が署名をしている隙に,いきなりその首を絞めて同人を床にうつ伏せに押し倒し,「おとなしくしろ。金を出せ。騒いだりしたら殺すぞ。」などと脅迫するとともに,ガムテープを用いて,抵抗する同人の両手,両足を緊縛し,その両目,口をふさぐなどの暴行を加えて反抗を抑圧したこと,さらに,被告人は,「抵抗するな。お前の立場,分かってるんだろうな。」などと被害者を脅迫しながら,同人から現金及びキャッシュカード等の所在を聞き出してこれらを強取した上,キャッシュカード等の暗証番号を聞き出したこと,その上,被告人は,被害者を緊縛したまま同人の体を触るなどのわいせつ行為に及び,被害者の懇願により途中で緊縛等を解いたものの,その後性交に及んだこと,被害者は,一連の被告人の行為から,被告人に殺害されるかもしれないとの恐怖心を覚え,被告人を刺激して怒らせないように被告人との会話に応じていたこと,被告人は,性交に及ぶ際,被害者に対し,「これは合意の上でのセックスだからな。」などと言い,これに対して被害者が「分かった。」などと返答したこと,以上の各事実が認められる。

そして,被害者Eの上記供述調書(甲64)によれば,自分の方から性交を求めるようなことは言ったことはないというのであるところ,上記認定のとおりの一連の事実に照らせば,被害者の方から性交を求めるような発言がされたとはおよそ考えられず,そのような発言があった旨を述べる被告人の上記公判供述は到底信用できない。また,仮に,被害者が表面上は被告人との会話の中で性交に応じるかのような対応を取ったとしても,これは,上記認定のような状況のもとで,被告人に殺害されるかもしれないという恐怖心から,被害者が被告人の命令に従わざるを得なかったものであることは明白であり,被害者が真意から被告人との性交に応じたと考える余地はない。そして,被告人が,被害者と性交するに当たって,「これは合意の上でのセックスだからな。」などとあえて念を押していることからすれば,被告人は,当該行為が被害者の意思に反するものであり,かつ,被害者がこれを拒絶できない心理状況下にあることを十分に認識した上で,性交に及んだものであることを優に認定することができる。

上記認定に反する被告人の公判供述は,不自然,不合理であって,採用することができない。

第2自首の成否について

弁護人及び被告人は,当公判廷において,判示第20の事実を除く他の全ての事実につき,被告人には自首の成立が認められる旨主張しているので,この点につき補足して説明する。

この点,被告人は,当公判廷において,本件各犯行につき自供した経緯につき,最初に通常逮捕された事実(判示第20)については当初は認めなかったが,その後逮捕された日の夕方には認め,さらに,勾留質問のあった日の翌日の取調べから,思い出したものを自分から順次話し,書き方を教わりながら上申書を作成していった,捜査官の都合により上申書の作成が翌日以降になったものもある,上申書を作成した事件については全て自分から自発的に供述したものであり,捜査官からほかにもないのかなどと言われ,具体的な事件を挙げて聞かれたこともあったが,その中には自分がやった事件は1件もなかった,捜査官から粘り強く追及されたということはない旨述べている。

他方,司法警察員作成の平成16年9月6日付け捜査報告書(甲270)には,被告人が各犯行を自供するに至った経緯につき,警視庁玉川警察署の捜査官が平成15年3月12日被告人を判示第20の事実で逮捕して追及し全面自供を得た後,手口が酷似する警視庁田園調布警察署管内で発生した事件につき追及した結果,被告人は上申書を作成して全面自供するに至り,更に余罪を追及して連日にわたり粘り強く被告人を諭したところ,被告人が徐々に本件各犯行につき上申書を作成しながら供述した旨記載され,各上申書の写しが添付されている。

そこで検討するに,上記捜査報告書における田園調布警察署管内で発生した事件とは,判示第7及びその一連の事件である判示第8の事実を指すものと考えられるところ,判示第20の犯行現場と判示第7及び判示第8の犯行現場は距離的に比較的近く,隣接する警察署の管内にあり,判示第7及び判示第8の犯行日時は判示第20の犯行日時の約4か月前と近接しており,宅配業者を装って女性宅に侵入し,乱暴するという犯行手口も酷似していることからすれば,捜査機関が,被告人が判示第7及び判示第8の犯行を自供するのに先立って,当該一連の事件の犯人が被告人である可能性が高いことを前提に被告人を追及したものと認められるのであり,この点に関する被告人の当公判廷における供述は信用し難いといわざるを得ない。よって,判示第7及び判示第8の事実については,被告人が,捜査機関に発覚する前に自発的に事実を申告したとは認められないから,自首は成立しない。

これに対し,上記の判示第7の事実に係る上申書(同上申書には,判示第8の事実の記載はない。)以外の上申書(上記甲270参照)に記載された各事実については,捜査官から「ほかにもないのか。」などと一般的・抽象的に供述を促されたことは認められるものの,何らかの具体的な嫌疑に基づいて追及を受けた事実は認められず,捜査官が把握していなかったと思われる多くの事実につき,被告人が,平成15年3月16日付けで2通,同月17日付けで8通,同月19日付けで4通,同月22日付けで5通,同月24日付けで3通,同月25日付けで1通と,短期間に多数の上申書を作成していることにも照らすと,自ら進んで自己の犯罪事実を申告したとの被告人の前記公判供述を排斥するには至らないから,自首の成立要件である自発性は失われないと解するのが相当である。

よって,被告人が自己の犯罪事実につきその全容を申告した判示第1ないし第3,第5,第6,第10ないし第14,第17ないし第19及び第21ないし第24の各罪については,自首の成立を認める(なお,判示第4及び第15については犯罪事実の申告がなく,判示第9及び第16については犯罪事実の申告はあるものの強姦の目的について申告していないので,いずれも自首の成立は認められない。)。

(法令の適用)

(略)

(量刑の理由)

1  本件は,被告人が,およそ6か月の間に,1人で帰宅途中の女性や一人暮らしと思った女性宅を狙い敢行した強姦致傷3件(判示第2,第12及び第19),逮捕監禁,強姦致傷3件(判示第3,第5及び第22),住居侵入,強盗強姦3件(判示第7,第14及び第17),住居侵入,強盗強姦未遂3件(判示第9,第16及び第20),強姦後に被害者の抗拒不能に乗じて現金等を強取した強盗2件(判示第4及び第23),前記各犯行により強取したキャッシュカード等を使用して現金自動預払機から現金を窃取した窃盗5件(判示第8,第10,第11,第15及び第18),犯行に使用する自動車に取り付けるためにナンバープレートを窃取した窃盗3件(判示第13,第21及び第24),その他,留守宅に侵入して現金等を窃取した住居侵入,窃盗2件(判示第1及び第6)の各事案である。

2(1)  まず,上記各犯行のうち,強姦等の性的犯罪の被害者は合計12名に及んでおり,このうち,6名につき強姦が既遂となり,9名が傷害を負わされている。また,これらの被害者に対し,被告人が併せて強盗の目的を有していた事案が6件(うち,現に財物を強取した事案が5件)あり,さらに,強姦後に強盗の犯意を生じて財物を強取した事案が2件,強取したキャッシュカード等を使用して現金を窃取した事案が5件であり,これらの結果だけをみても,被告人の刑事責任は重大であるといわなければならない。

そして,犯行態様についてみると,上記各犯行は,徒歩あるいは自転車で帰宅途中の女性を自動車でつけ狙い,先回りして待ち伏せをした上,いきなり自転車もろとも突き倒すなどした上,抵抗する被害者に暴行を加えて自動車内に連れ込むという態様のもの(判示第2,第3,第5,第12,第19及び第22),及び,一人暮らしと思った女性宅を宅配業者を装って訪問して玄関ドアを開けさせた上,被害者宅に侵入して暴行を加えるという態様のもの(判示第7,第9,第14,第16,第17及び第20)に大別されるが,前者においては,被告人は,自動車に乗って対象となる女性を探し,気に入った女性が見付からない場合であっても,あきらめることなく場所を移動するなどし,ときには数時間にもわたって探し続けて犯行に及ぶなどしており,また,後者にあっては,予め一人暮らしであろうと目星を付けていた女性宅を狙い,あるいは,上記と同様に自動車に乗って対象となる女性を探し,帰宅途中の女性を自宅まで追跡した上で各犯行に及んでいるものであり,特に,判示第22については,被害者を自動車内に逮捕,監禁して姦淫行為に及ぼうとした際に,警察官の職務質問を受けそうになるや,自動車を急発進させた上でその追跡を振り切り,場所を移動した上で強姦行為に及んでいるなど,いずれも強固な犯行意思に基づく執拗な犯行といえる。

(2)  また,前記各犯行は,車両内あるいは被害者の住居内という,容易には助けを求めることのできない密室を利用して敢行されたものであり,帰宅途中の女性を自動車内に連れ込む態様のものにおいては,窃取したナンバープレートを犯行車両に付け替えた上で犯行に及ぶなどし,宅配業者を装った態様のものにおいては,宅配荷物の配送を装えば警戒心なく玄関ドアを開ける者が多く,伝票の内容もよく確認しないことが多いといった,自ら宅配業者として稼働する中で得た知識,経験を悪用し,予め荷物と配達伝票,ガムテープを用意した上で犯行に及んでおり,いずれも計画的かつ巧妙である。

(3)  被告人は,本件各犯行に着手した後は,突然襲われて必死に抵抗する被害者を手けんで複数回殴打し,その首を絞め,頭を床に打ち付ける等,被害者が抵抗をあきらめるまで執拗に激しい暴行を加えるなどした上,犯行が途中で中断された場合を除いて,ガムテープで被害者の手などを縛り上げ,その目をふさぐ等の行為に出ており,自己の欲望を満たすために,被害者に対し苛烈な暴行を加え,その反抗を徹底して抑圧した上で各犯行に及んでいるほか,判示第7,第9,第14,第16,第17及び第20の各犯行においては,被害者から金品をも強取しようと企て,被害者の反抗を抑圧するや,その姦淫行為に前後して,被害者の財布やキャッシュカード等を奪い,畏怖している被害者からキャッシュカード等の暗証番号を聞き出せた場合には,直ちに自動預払機から現金を引き出すなどの行為に及んでいる(判示第8,第10,第11,第15及び第18)のであって,その犯行態様は悪質というほかない。

(4)  このような被告人の行為によって,本件各犯行の被害者は,耐え難い肉体的・精神的苦痛を被り,その後の人生を一変させられたのであるから,生じた結果は誠に重大である。

被害者らの多くは,被害後,夜道を1人で歩くことができず,犯行車両と同種類の車を見かけるとどうしようもない恐怖を感じたり,部屋に1人でいることができなくなったりしており,さらに,精神的に不調をきたして電車に飛び込みそうになった被害者や,勤めていた会社を辞めて実家に戻ることを余儀なくされた被害者,被告人から何とか逃れようと車両から飛び降りて頭部に重傷を負い,一命はとりとめたものの,嗅覚を永久に失うという後遺障害を負うこととなった被害者がいるなど,被告人の行為によって,深い傷を負わされ,その将来が大きく歪められる結果が生じている。

被害者らが,「本当に自分勝手で,卑劣で最低な男です。」,「私は,被告人に襲われたことにより,今現在でもなお,ずっと,苦しみ続けているのです。」,「このような犯罪をする人が社会に戻ってきたら安心して暮らすことが出来ません。」,「1日も早く刑務所に入れ,そして一生社会に出られなくして欲しいと思います。」などと述べ,またその親らも,「この男が,Lに大怪我をさせた結果,Lから嗅覚を奪い,Lや私たちを苦しめたのです。」,「私どもの大切な娘に対し,このような卑劣な行為に及んだ犯人については,絶対に許すことができません」などと述べて,被告人に対し,一様に厳しい処罰感情を抱いているのも,本件各犯行により各被害者が受けた被害の重大性に照らせば当然である。

3  なお,被告人は,本件各犯行に至った動機について,仕事上のストレスがたまっていたこと,本件当時は自由になる金がほとんどなかったこと,母親の病気が再発したこと,本件当時自分が淋病,クラミジアなどの性病に罹患して体調が悪く,その影響を受けていたことなどを挙げているが,これらのいずれもが,本件各犯行を正当化する理由になるものでないことはいうまでもなく,被告人が本件各犯行に及んだ経緯,動機について,酌量の余地は皆無であるといわざるを得ない(なお,被告人は,当公判廷において,自らが罹患していた淋病が全身に回り,その影響を受けて本件各犯行に及んだのだと思うなどと述べているが,本件各犯行の一連の経過やその犯行態様に照らしても,被告人が罹患していた病気の影響により本件各犯行に及んだものとは到底認められない。)。

4  また,住居侵入,窃盗の犯行2件も,もともとは性的犯罪に及ぶことを目的に一人暮らしと思った女性宅に侵入したものであり(なお,被告人は判示第1の犯行において被害者宅に侵入した目的につき,捜査段階では強姦目的であったと供述しつつ(乙11,乙13),公判段階の最後においては,被害者と会って話をしたかっただけであり,強姦しようとは考えてもいなかった旨供述しているが(弁26),被害者の不在時に窓から被害者宅に侵入して,被害者の帰宅を待ち受けるというその行為態様自体からすれば,会って話をしたかっただけという被告人の公判段階における供述は,到底信用することができない。),うち1名の被害者に対しては,後日宅配業者を装って室内に侵入し強盗強姦の犯行に及んでおり(判示第6,第17),ナンバープレートの窃盗の犯行3件も,前述のとおり,性的犯罪行為を隠ぺいする目的に出たものであり,いずれも被告人の性的犯罪傾向と無縁ではない。

5  このように,被告人は,平成14年8月10日,一人暮らしと思った女性の留守宅に侵入したものの,男物の下着があったことなどから,ポケット電話機1台を盗んで逃走したという判示第1の犯行を皮切りに,平成15年3月12日の逮捕に至るまで,判示のとおり,1都2県にわたり,合計24件の犯罪を敢行したものであり,その行為自体の突出した悪質性や生じた結果の重大性はもとより,これら一連の犯行が,地域の住民や一人暮らしの女性,他の宅配業者に与えた影響も,決して無視できるものではない。

6  なお,被告人は,当公判廷において,被害者には申し訳ない気持ちでいっぱいですなどと繰り返し述べる一方で,被害者の処罰感情については,厳しすぎるところがあり,捜査官が創作又は誘導して作ったものだと思うと述べ,判示第17の犯行については,被害者と合意した上での性交だったと述べるなど,自ら犯した数々の犯罪行為の重大性と,その結果生じた数々の回復困難な損害,特に,身体的,精神的に深く傷付いた各被害者及びその家族の強い怒りや悲しみに,正面から向き合い,これを十分に認識して,真摯に受けとめているのか,やや疑問が残るといわざるを得ない。

以上の事実からすれば,被告人の刑事責任は誠に重大というべきである。

7  他方,被告人は,逮捕後ほどなくして事実を認め,他の多くの犯罪事実についても,これを自ら申告して自首するとともに,強姦の被害者に対してお詫びの手紙を書き,当公判廷において,被害者の方々には申し訳なく,一生をかけて償いたい旨述べて,反省の態度を示していること,ナンバープレートを窃取された被害者に対しては,不要と答えた1名を除きその被害を弁償していること,被告人には前科前歴がないことなど,被告人のために酌むべき事情も認められる。

8  しかしながら,被告人がこれまで重ねてきた数々の犯罪行為に対する責任は,誠に重大であり,事後的な上記各事情によって容易に軽減されるものではない。欲望の赴くままに被害者らの人格を蹂躙し続けた,その悪質な犯行態様,被害者を自動車で追尾して人通りの少ない路上で待ち伏せ,あるいは宅配業者を装って住居に侵入するなどの高い計画性と犯行の巧妙さ,同種事案に比しても抜きん出た犯行回数,そして何より,多くの被害者に与えた耐え難い肉体的・精神的苦痛と,一人一人のかけがえのない将来に及ぼした重大な影響にかんがみれば,上記の被告人に有利な情状を最大限考慮しても,なお,被告人に対しては,自ら犯した犯罪行為に相応の責任を負わせるべく,無期懲役をもって臨むほかはない。

よって,主文のとおり判決する。

(検察官森本加奈公判出席)

(求刑 無期懲役)

(裁判長裁判官 小川正持 裁判官 水上周 裁判官 川尻恵理子)

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