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東京地方裁判所 平成15年(合わ)91号 判決 2003年6月20日

主文

被告人を懲役八年に処する。

未決勾留日数中七〇日をその刑に算入する。

理由

【罪となるべき事実】

被告人は、平成一一年ころから、東京都足立区《番地省略》A野アパート二号棟五〇二号室の当時の被告人方において、内妻であったB子やその実子のC子(平成二年一一月二二日生。当時一一歳)らと同居していたものであるが、被告人がかねてからB子やC子らに対して度重なる暴力を振るっていたことが原因となって、同児が被告人を畏怖していたことなどに乗じ、同児を姦淫しようと企て、平成一四年一〇月二〇日ころ、上記被告人方において、同児に対し、同児が一三歳未満であることを知りながら、そのパンティーを脱がせた上姦淫し、もって、一三歳未満の女子を姦淫した。

【証拠の標目】《省略》

【法令の適用】

被告人の判示所為は刑法一七七条後段に該当するので、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役八年に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中七〇日をその刑に算入し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

【訴訟条件に関する弁護人の主張に対する判断】

本件においては、被害児童のC子及びその姉のD子から告訴がなされているところ、弁護人は、C子には告訴能力がなく、他方、D子は捜査官から被害の内容を間接的に聞かされたにすぎないなどとして、各告訴の効力について疑問がある旨主張するので、検討する。

まず、C子による告訴について見ると、C子作成の告訴状(甲一)及びC子の検察官に対する供述調書抄本(甲五、六)によれば、C子は、判示日時場所において、被告人から、自分のおしっこの出る所に無理やりおちんちんを入れられて気持ち悪くてたまらなかった旨述べるとともに、被告人を処罰してほしい旨や、許すことはできないのでできるだけ長く牢屋に入れてほしい旨述べているのであるから、本件被害の内容を具体的に認識しつつ、被害感情を持って被告人に対する処罰を求めているものと認められるのであり、C子が告訴当時一二歳三か月の小学六年生であったからといって、自分の供述内容の意義を理解していなかったと疑うべき事情は窺われず、その告訴能力に欠けるところはない。したがって、C子による告訴は有効である。

また、D子が告訴をした当時、C子の法定代理人である母B子は被告人と婚姻関係にあったのであるから、D子も本件に関し告訴権を有するところ、D子作成の告訴状(甲二)及びD子の検察官に対する供述調書(甲三)によれば、D子は本件被害の内容を理解した上で被告人に対する処罰を求めていることが認められ、弁護人がD子の告訴について指摘するところは、D子が本件被害の内容を知った経緯に関する事情にすぎず、告訴の効力に影響を及ぼすような性質のものではないから、D子による告訴も有効である。

以上からすれば、本件の訴訟条件に欠けるところはない。

【量刑の理由】

本件は、被告人が同居していた内妻の子である被害児童に対し、同児が一三歳未満であることを知りながら姦淫したという事案である。

被告人は、被害児童と同居後、同児の性器等を手でもてあそぶなどのわいせつな行為を繰り返すようになり、その後、約一年間にわたり同児に対して性行為を強要した挙げ句、本件犯行に及んだものであり、このような犯行に至る経緯や、自己の性欲を満足させることしか考えない自己中心的な犯行の動機に酌量の余地はない。

犯行の態様を見ると、被告人は、内妻や同児らに対して日常的に暴力を振るってきたところ、被害児童が恐怖心から被告人の意向や指示に抵抗できない心理状態に陥っていたことに乗じ、夜間、ベッドに横になっていた同児の衣服を脱がせた上、意のままに姦淫したというもので、被害児童の人格を全く顧みない卑劣で忌むべき犯行であり、誠に悪質である。

被告人は、本件犯行に至るまで、約一年もの間、被害児童を暴力や脅迫によって屈服させつつ、本件と同様の行為を一週間に一、二回の頻度で繰り返していたのであり、本件犯行は、このような常習的、日常的な犯行の一環として敢行したものであって、被告人の罪悪感を失った非道な人格態度の現れということができる。このような事情は、起訴されていない余罪を余罪として罰するものでないことは勿論であるが、量刑の判断に当たっては、軽視し得ない点である。

本件当時一一歳で小学六年生の被害児童は、本来父親代わりの保護者となるべき被告人から性的な被害を受け続けて、本件犯行の被害者となったのであり、これにより味わった精神的、肉体的苦痛は甚だしく、児童相談所に保護された後、心的外傷後ストレス障害の症状も確認されるなど、将来においても残り得る心の傷跡は深いということができる。被害児童が、被告人と同居していたころを振り返り、地獄のようであったと述べているのも、幼い同児の率直で悲痛な心情の吐露であって、深い同情に値する。昨今、児童虐待の事例が目に付き、児童の保護が強く叫ばれる情勢に照らしても、被告人の行為は厳しい非難を免れない。

にもかかわらず、被告人は、被害児童が児童相談所に保護されたと知るや、自己の行為を反省するどころか、児童相談所に対して脅迫まがいの電話を掛けるなど、犯行後の行状も悪質であるし、公判廷においては、捜査段階における供述は実際よりも自分が悪いように表現してあると述べるなど、自己の行為の重大さ、深刻さを十分に認識し、真摯に反省しているとは認め難い。

また、被告人の妻は、本件犯行以前から被害児童及び被告人と生活を共にし、同児が被告人からわいせつな行為や姦淫の被害を受けていることをほのめかす訴えを受けながら、正面から取り合おうとせず、情状証人として出廷した際にも、被告人が反省すればよく、被告人の行為は大したことではないと思っていると断言していることにも照らすと、今後、被告人の更生に助力できるか疑問が残るといわざるを得ない。

以上によれば、被告人の刑事責任は重い。

一方、被告人が捜査段階の当初から本件犯行を認め、公判廷においては被告人なりの反省の弁を口にしていること、妻との間に養育を必要とする二人の幼い子供がいる上、妻が近く出産予定であること、被告人には禁錮以上の刑に処せられた前科がないことなど、被告人のために酌むべき事情も存在する。

しかし、これら被告人に有利な事情を最大限考慮しても、本件の悪質さ、重大さに鑑みると、被告人に対しては、主文の刑をもって臨まざるを得ないと判断した。

(求刑 懲役一〇年)

(裁判長裁判官 山室惠 裁判官 松井芳明 坂田正史)

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