東京地方裁判所 平成15年(特わ)7566号 判決 2004年6月15日
主文
被告人B株式会社を罰金8200万円に,被告人C株式会社を罰金1300万円に,被告人乙山二郎を懲役2年6月に処する。
被告人乙山二郎に対し,この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。
理由
【罪となるべき事実】
被告人B株式会社(以下「被告会社B」という)は,東京都港区新橋<番地略>に本店を置き,倉庫業等を目的とする資本金5000万円の株式会社であり,被告人C株式会社(以下「被告会社C」という)は,同所に本店を置き,貨物自動車運送事業等を目的とする資本金5000万円の株式会社であり,被告人乙山二郎(以下「被告人」という)は,被告会社B及び被告会社Cの代表取締役として両会社の各業務全般を統括していたものであるが,被告人は,
第1 被告会社Bの業務に関し,法人税を免れようと企て,売上を除外するなどの方法により所得を秘匿した上,
1 平成10年2月1日から平成11年1月31日までの事業年度における同会社の実際所得金額が3億3835万2200円(別紙1―1の修正損益計算書及び別紙2―1の修正売上原価明細表参照)であったにもかかわらず,平成11年3月26日,東京都港区芝<番地略>所轄芝税務署において,同税務署長に対し,所得金額が909万2492円で,これに対する法人税額が90万7400円である旨の虚偽の法人税の確定申告書(平成16年押第390号の1)を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって,不正の行為により,同事業年度における正規の法人税額1億2437万9900円と上記申告税額との差額1億2347万2500円(別紙3のほ脱税額計算書参照)を免れ
2 平成11年2月1日から平成12年1月31日までの事業年度における同会社の実際所得金額が1億4194万8430円(別紙1―2の修正損益計算書及び別紙2―2の修正売上原価明細表参照)であったにもかかわらず,平成12年3月27日,前記芝税務署において,同税務署長に対し,所得金額が872万4531円で,これに対する法人税額207万6800円である旨の虚偽の法人税の確定申告書(同押号の2)を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって,不正の行為により,同事業年度における正規の法人税額4803万9100円と上記申告税額との差額4596万2300円(別紙3のほ脱税額計算書参照)を免れ
3 平成12年2月1日から平成13年1月31日までの事業年度における同会社の実際所得金額が3億1296万2725円(別紙1―3の修正損益計算書及び別紙2―3の修正売上原価明細表参照)であったにもかかわらず,平成13年3月27日,前記芝税務署において,同税務署長に対し,所得金額が2104万7081円で,これに対する法人税額が557万2200円である旨の虚偽の法人税の確定申告書(同押号の3)を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって,不正の行為により,同事業年度における正規の法人税額9314万6700円と上記申告税額との差額8757万4500円(別紙3のほ脱税額計算書参照)を免れ
4 平成13年2月1日から平成14年1月31日までの事業年度における同会社の実際所得金額が2億8776万9859円(別紙1―4の修正損益計算書及び別紙2―4の修正売上原価明細表参照)であったにもかかわらず,平成14年3月25日,前記芝税務署において,同税務署長に対し,所得金額が4042万5362円で,これに対する法人税額1137万5300円である旨の虚偽の法人税の確定申告書(同押号の4)を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって,不正の行為により,同事業年度における正規の法人税額8557万8500円と上記申告税額との差額7420万3200円(別紙3のほ脱税額計算書参照)を免れ
第2 被告会社Cの業務に関し,法人税を免れようと企て,売上を除外するなどの方法により所得を秘匿した上,
1 平成11年7月1日から平成12年6月30日までの事業年度における同会社の実際所得金額が1億2265万0092円(別紙4―1の修正損益計算書及び別紙5―1の修正売上原価明細表参照)であったにもかかわらず,平成12年8月25日,前記芝税務署において,同税務署長に対し,所得金額が577万0443円で,これに対する法人税額が124万7100円である旨の虚偽の法人税の確定申告書(同押号の5)を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって,不正の行為により,同事業年度における正規の法人税額3613万2700円と上記申告税額との差額3488万5600円(別紙6のほ脱税額計算書参照)を免れ
2 平成12年7月1日から平成13年6月30日までの事業年度における同会社の実際所得金額が7444万4211円(別紙4―2の修正損益計算書及び別紙5―2の修正売上原価明細表参照)であったにもかかわらず,平成13年8月24日,前記芝税務署において,同税務署長に対し,所得金額が583万9995円で,これに対する法人税額125万9000円である旨の虚偽の法人税の確定申告書(同押号の6)を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって,不正の行為により,同事業年度における正規の法人税額2166万7600円と上記申告税額との差額2040万8600円(別紙6のほ脱税額計算書参照)を免れ
たものである。
【証拠の標目】<省略>
【法令の適用】
1 被告会社Bについて
(1) 罰条
第1の1及び第1の2の各事実
いずれも法人税法164条1項,平成12年法律第14号による改正前の法人税法159条1項,平成13年法律第6号による改正前の法人税法159条2項
第1の3及び第1の4の各事実
いずれも法人税法164条1項,平成14年法律第79号による改正前の法人税法159条1項,法人税法159条2項
(2) 併合罪の処理 刑法45条前段,48条2項
2 被告会社Cについて
(1) 罰条
第2の1の事実 法人税法164条1項,平成12年法律第97号による改正前の法人税法159条1項,平成13年法律第6号による改正前の法人税法159条2項
第2の2の事実 法人税法164条1項,平成14年法律第79号による改正前の法人税法159条1項,法人税法159条2項
(2) 併合罪の処理 刑法45条前段,48条2項
3 被告人について
(1) 罰条
第1の1及び第1の2の各所為
いずれも平成12年法律第14号による改正前の法人税法159条1項
第2の1の所為 平成12年法律第97号による改正前の法人税法159条1項
第1の3,第1の4及び第2の2の各所為
いずれも平成14年法律第79号による改正前の法人税法159条1項
(2) 刑種の選択 いずれも懲役刑
(3) 併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い第1の1の罪の刑に法定の加重)
(4) 刑の執行猶予 刑法25条1項
【量刑の理由】
本件は,被告人が代表取締役を務めていた倉庫業又は貨物運送業等を目的とする被告会社2社において,それぞれ4又は2事業年度にわたり,虚偽過少申告を行って法人税をほ脱した事案である。
そのほ脱税額は,被告会社Bについては4期合計で約3億3121万円,被告会社Cについては2期合計で約5529万円といずれも多額であり,各被告会社の通算ほ脱率も,いずれも90%台半ばの高率なもので,このような金額や数値をみるだけでも本件の結果は重大である。被告人は,働いて稼いだお金を税金として払うのは馬鹿らしいなどという身勝手な考えから本件犯行に及んだものであり,動機において格別斟酌すべきものはない。犯行の態様は,経理担当者に虚偽の振替伝票を作成させて売上を除外したり,売上を繰り延べたり,被告会社Cの資金繰りが苦しくなったことを機にその経費を被告会社Bの経費として付け替えたりするなど,様々な手段を用いて実際より少ない所得金額を装い過少に申告していたもので悪質である。しかも,被告人は,具体的な金額を経理担当者に示して利益圧縮を指示し,また,取引先から入手した虚偽の工事見積書を売上除外等に利用するため経理担当者に手交するなど,本件犯行の主体となって積極的に行動していたのであり,優良申告法人の経営者の顔をもつ一方で納税意識の麻痺した行動をとり続けていたものである。以上によれば,被告人及び被告会社2社の刑事責任は重いといわなければならない。
しかしながら,本件でなされた所得秘匿工作は,いわば経理帳簿上の不正操作を主とするもので,取引を仮装した上仮名・借名の預金口座に資金を移動するなどの巧妙な手法に比べれば単純といえるのであり,また,それとの関連で,ほ脱所得を簿外の現金や預金等として隠匿しようとした形跡は見当たらない。さらに,被告人がほ脱所得を私的に費消するなどというこの種事案で往々にしてある行為も認められない。そのほか,被告会社2社において,修正申告を行い,本件に関する本税,重加算税及び延滞税の納付をいずれも済ませた上,本件を機に新たな税理士の関与を得るなど経理体制の改善を図っていること,被告人は,査察当初から一貫して素直に事実を認め,逮捕前に被告会社2社の代表取締役及び取締役を辞任するなど反省の態度を示していること,被告人には古い道路交通法違反の罰金1犯以外の前科前歴はないことなど,被告人及び被告会社2社のために酌むべき情状も認められる。
以上の事情を総合考慮して,殊に被告人については,関与した被告会社2社分のほ脱税額が合計約3億8650万円もの多額に上り,犯行を主体的に遂行したことなどに照らせば,懲役刑の実刑に処することも十分考えられるところではあるが,上記の酌むべき犯情及び情状に鑑みれば,なおその選択に躊躇を覚えざるを得ず,結局被告人を主文の執行猶予付き懲役刑に処することとし,また,被告会社2社に対しては,主文の各罰金刑を科することとした。
(裁判長裁判官・飯田喜信,裁判官・大寄淳,裁判官・溝口優)
別紙
1―1〜4 修正損益計算書<省略>
2―1〜4 修正売上原価明細表<省略>
3 ほ脱税額計算書<省略>
4―1,2 修正損益計算書<省略>
5―1,2 修正売上原価明細表<省略>
6 ほ脱税額計算書<省略>