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東京地方裁判所 平成15年(行ウ)108号 判決 2004年4月09日

原告 甲

訴訟代理人弁護士 三木昌樹

木原右

楠慶

補佐人税理士 茂腹敏明

被告荻窪税務署長

齋藤淑人

指定代理人 引地俊二

松元弘文

伊藤仁志

白井文緒

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告が平成13年10月31日にした原告の平成12年分所得税の更正のうち、分離課税の株式譲渡所得金額33万2767円、納付すべき税額49万2200円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

第二  事案の概要

一  本件は、原告が、被告が平成13年10月31日にした原告の平成12年分所得税の更正(以下「本件更正」という。)は、分離課税の株式譲渡所得の金額の計算のうち、所得税法33条3項所定の「資産の取得費」の判断又は租税特別措置法(平成13年法律第67号による改正前のもの。以下「法」という。)37条の10第7項3号所定の「資産を取得するために要した負債の利子」の判断に誤りがある違法な処分であると主張して、被告に対し、本件更正のうち、分離課税の株式譲渡所得金額33万2767円、納付すべき税額49万2200円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件賦課決定」といい、本件更正と合わせて「本件更正等」という。)の取消しを求めるものである。

二  法令の定め

1  所得税法

(一) 24条2項

配当所得の金額は、その年中の配当等の収入金額とする。ただし、株式その他配当所得を生ずべき元本を取得するために要した負債の利子(事業所得又は雑所得の基因となった有価証券を取得するために要した負債の利子を除く。以下この項において同じ。)でその年中に支払うものがある場合は、当該収入金額から、その支払う負債の利子の額のうちその年においてその元本を有していた期間に対応する部分の金額として政令で定めるところにより計算した金額の合計額を控除した金額とする。

(二) 27条2項

事業所得の金額は、その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする。

(三) 33条3項

譲渡所得の金額は、次の各号に掲げる所得につき、それぞれその年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額(当該各号のうちいずれかの号に掲げる所得に係る総収入金額が当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額に満たない場合には、その不足額に相当する金額を他の号に掲げる所得に係る残額から控除した金額。以下この条において「譲渡益」という。)から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする。

1  資産の譲渡(…(省略)…)でその資産の取得の日以後5年以内にされたものによる所得(…(省略)…)

2  資産の譲渡による所得で前号に掲げる所得以外のもの

(四) 35条2項

雑所得の金額は、次の各号に掲げる金額の合計額とする。

1  …(省略)…

2  その年中の雑所得(…(省略)…)に係る総収入金額から必要経費を控除した金額

(五) 37条1項

その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(…(省略)…)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。

(六) 38条1項

譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする。

2  法37条の10

(一) 1項

居住者又は国内に恒久的施設を有する非居住者が、平成元年4月1日以後に株式等の譲渡(…(省略)…)をした場合には、当該株式等の譲渡による事業所得、譲渡所得及び雑所得(…(省略)…)については、所得税法第22条及び第89条並びに第165条の規定にかかわらず、他の所得と区分し、その年中の当該株式等の譲渡に係る事業所得の金額、譲渡所得の金額及び雑所得の金額として政令で定めるところにより計算した金額(以下この条において「株式等に係る譲渡所得等の金額」という。)に対し、株式等に係る譲渡所得等の金額(…(省略)…)の100分の20に相当する金額に相当する所得税を課する。…(省略)…。

(二) 7項

第1項の規定の適用がある場合には、次に定めるところによる。

1  …(省略)…

2  所得税法第24条第2項の規定の適用については、同項中「又は雑所得」とあるのは、「、譲渡所得又は雑所得」とする。

3  所得税法第33条第3項の規定の適用については、同項中「譲渡所得の金額」とあるのは「株式等に係る譲渡所得の金額」と、「譲渡に要した費用の額」とあるのは「譲渡に要した費用の額並びにその年中に支払うべきその資産を取得するために要した負債の利子」と、「し、その残額」とあるのは「した残額」と、「。以下この条において「譲渡益」という。)から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする」とあるのは「)とする」とする。

(以下省略)

三 前提となる事実

以下の事実は、当事者間に争いのない事実又は証拠(甲第5号証の1、第6ないし第13号証)及び弁論の全趣旨により容易に認定することのできる事実である。

1  原告は、アメリカ合衆国法人であるA(以下「A」という。)から、平成元年11月30日、売買代金9441万8519円でB株式会社(なお、同社は、同年12月12日にB株式会社に商号を変更した。以下「B」という。)の株式9万8000株(以下「本件株式」という。)を買い受けた。

2  原告は、株式会社C(以下「C」という。)から、平成元年11月30日、9517万4683円を借り入れ(以下「本件借入」という。)、その内金9441万8519円を本件株式の売買代金の支払に充当した。原告とCは、本件借入につき、金銭消費貸借契約書等の書面を取り交わさなかった。

3  原告は、Cに対し、本件借入の元本の返済として、平成3年7月5日から平成8年9月30日までの間に合計886万6870円を支払い、本件借入の残元本の額は、8630万7813円となった。

4  神田税務署長は、平成9年3月から同年4月まで、Cに対する税務調査をし、同社に対し、原告との間で金銭借用証書を取り交わすこと、未収利息の内金1717万5000円を元本に組み入れ、同月21日の時点における本件借入の残元本の額を、8630万7813円ではなく、1億0348万2813円と認識すること、平成5年10月1日から平成8年9月30日までの未収利息257万6250円を計上すること、本件借入の利率を年3パーセントとすることを指導した。Cは、この指導に従い、原告との間で本件借入の利率を年3パーセントとする平成9年4月21日付け金銭借用証書(以下「本件金銭借用証書」という。)を取り交わすとともに、未収利息の内金1717万5000円を本件借入の元本に組み入れた。

5  原告は、Cに対し、本件借入の元本の返済として、平成9年7月4日から平成10年9月30日までの間に合計350万円を支払い、本件借入の残元本の額は、9998万2813円となった。

6  原告は、Cに対し、平成12年12月1日、売買代金1億4023万8000円で本件株式を売り渡した。

7  原告は、Cに対し、平成12年12月1日、本件借入の残元本をすべて返済するとともに、借入当初からの本件借入の利子(以下「本件負債利子」という。)である4556万5533円をすべて支払った。

8  原告は、被告に対し、平成13年3月9日、平成12年分所得税につき、総所得金額を3700万6800円、分離課税の株式譲渡所得金額を33万2767円、納付すべき税額を49万2200円とする期限内申告をした。

原告が申告書に添付した「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」と題する書面の「取得価額又は取得費」欄には「94,418,519」円との記載があり、また、「取得のための負債の利子」欄には「45,203,514」円との記載がある。

9  被告は、平成13年10月31日、原告の平成12年分所得税につき、総所得金額を3700万6800円、分離課税の株式譲渡所得金額を4318万1675円、納付すべき税額を906万2000円とする本件更正及び加算税の額を85万6000円とする本件賦課決定をした。

10  原告は、被告に対し、平成13年12月27日、本件更正等に対する異議申立てをした。被告は、平成14年3月25日、上記異議申立てを棄却する旨の決定をした。

11  原告は、国税不服審判所長に対し、平成14年4月23日、上記棄却決定に対する審査請求をした。国税不服審判所長は、同年11月27日、上記審査請求を棄却する旨の裁決をした。

四  争点

本件の争点は、①本件負債利子で本件株式に係るものの額が所得税法33条3項所定の「資産の取得費」に該当するか否か、②本件負債利子で本件株式に係るもののうち、どの範囲のものが法37条の10第7項3号所定の「資産を取得するために要した負債の利子」に該当するかである。原告は、これらに関連する部分を除き、被告の主張に係る金額及び計算関係を争っていない。

五  当事者の主張の要旨

1  被告の主張の要旨

(一) 本件更正の根拠

原告の平成12年分所得税の課税標準等及び納付すべき税額は、次のとおりである。

(1) 総所得金額 3700万6800円

この金額は、平成12年分の給与所得の金額である。

(2) 分離課税の株式譲渡所得の金額 4354万7901円

この金額は、アの金額からイ及びウの金額を控除した後の金額である。

ア 譲渡収入金額 1億4023万8000円

この金額は、原告がCに対して平成12年12月1日に本件株式を売り渡した際の売買代金である。

イ 資産の取得費 9441万8519円

この金額は、原告がAから平成元年11月に本件株式を買い受けた際の売買代金である。

ウ 資産を取得するために要した負債の利子 227万1580円

この金額は、(二)(3)ウのとおり算出されたものである。

(3) 所得控除額 495万0240円

この金額は、社会保険料控除額115万7240円、生命保険料控除額5万円、損害保険料控除額3000円、配偶者控除額38万円、扶養控除額298万円及び基礎控除額38万円の合計額である。

(4) 課税総所得金額 3205万6000円

この金額は、(1)の総所得金額から(3)の所得控除額を控除した後の金額(ただし、国税通則法118条1項により1000円未満の端数金額を切り捨てた後の金額)である。

(5) 課税株式譲渡所得金額 4354万7000円

この金額は、(2)の分離課税の株式譲渡所得の金額(ただし、国税通則法118条1項により1000円未満の端数金額を切り捨てた後の金額)である。

(6) 納付すべき税額 913万5200円

この金額は、ア及びイの合計額からウ、エ及びオの合計額を控除した後の金額(ただし、国税通則法119条1項により100円未満の端数金額を切り捨てた後の金額)である。

ア 課税総所得金額に対する税額 937万0720円

この金額は、(4)の課税総所得金額に対して所得税法89条1項所定の税率を乗じて算出した金額である。

イ 課税株式譲渡所得金額に対する税額 870万9400円

この金額は、(5)の課税株式譲渡所得金額に対して法37条の10第1項所定の税率(20パーセント)を乗じて算出した金額である。

ウ 定率減税額 25万0000円

エ 源泉徴収税額 848万1040円

この金額は、C及びBが源泉徴収をした金額である。

オ 予定納税額 21万3800円

(二) 本件更正の適法性

(1) 上記のとおり、原告の平成12年分所得税の納付すべき税額は、913万5200円であるところ、本件更正の納付すべき税額は、906万2000円であるから、本件更正は、適法である。

(2) 本件負債利子で本件株式に係るものの額が所得税法33条3項所定の「資産の取得費」に該当しないことについて

ア 法37条の10第7項3号は、所得税法33条3項の「譲渡に要した費用の額」を「譲渡に要した費用の額並びにその年中に支払うべきその資産を取得するために要した負債の利子」と読み替えている。このことからすると、資産を取得するために要した負債の利子は、法令上、資産の取得費と別に規定されており、資産の取得費に該当しないことは明らかである。

イ 資産を取得するために要した負債の利子の額のうち、当該資産の使用を開始する前の期間に対応する部分の金額は、資産の取得費に該当するとされているが、株主としての権利は、株式を取得した時から行使することができることからすると、株式の使用開始の時は、その取得の時とみるべきであるから、株式を取得するために要した負債の利子が資産の取得費に該当すると解する余地はない。

(3) 本件負債利子で本件株式に係るものの額のうち、法37条の10第7項3号所定の「資産を取得するために要した負債の利子」に該当する範囲について

ア 株式等に係る事業所得又は雑所得の基因となった株式を取得するために要した負債の利子の額のうち、当該所得が発生した年に対応する部分の金額は、所得税法37条により必要経費に算入される。これに対して、(2)イのとおり、株式等に係る譲渡所得の基因となった株式を取得するために要した負債の利子が資産の取得費に該当する余地はない。しかし、申告分離課税の対象とされる株式等の譲渡益については、所得税法上、事業所得、譲渡所得又は雑所得のいずれの所得区分に分類されるものであっても、一律にその金額100分の20に相当する金額に相当する所得税が課されるのであるから、所得区分に応じて所得金額の計算上控除される費用の範囲を異にする積極的な理由は特にない。そこで、法37条の10第7項3号は、株式等に係る譲渡所得の金額の計算に当たり、総収入金額からその年中に支払うべきその資産を取得するために要した負債の利子の額を控除することとした。

イ 所得税法24条2項ただし書、法37条の10第7項2号から明らかなとおり、株式を取得するために要した負債の利子の額のうち、株式を取得した年から譲渡した年の前年までに対応する部分の金額は、配当等の収入金額から控除すべきものであり、株式等の譲渡所得に係る総収入金額から控除することはできない。

株式等に係る譲渡所得の金額の計算上、総収入金額から控除される資産を取得するために要した負債の利子の額は、株式を取得するために要した負債の利子の額のうち、その年中に支払うべき部分の金額、すなわち、その年中に発生し、確定した部分の金額であるところ、借入の利息は、元本の使用の対価であり、元本が返済されるまで日々発生するのであるから、その支払期が到来していなくとも、利息計算の期間の経過により発生し、確定するというべきである。

したがって、株式等に係る譲渡所得の金額の計算上、総収入金額から控除される資産を取得するために要した負債の利子の額は、株式を取得するために要した負債の利子の額のうち、株式を譲渡した年において株式を有していた期間に対応する部分の金額である。

これを本件についてみると、本件株式に係る譲渡所得の金額の計算上、総収入金額から控除される資産を取得するために要した負債の利子の額は、本件負債利子で本件株式に係るものの額のうち、平成12年1月1日から同年11月30日までの期間に対応する部分の金額であり、本件負債利子は、この限度で資産を取得するために要した負債の利子に該当する。

ウ 本件負債利子で本件株式に係るものの額のうち、平成12年1月1日から同年11月30日までの期間に対応する部分の金額は、次のとおりである。

(ア) 平成9年7月3日の時点における本件借入の残元本の額である1億0348万2813円から、未収利息から元本に組み入れられた1717万5000円を控除した額である8630万7813円のうち、本件株式に係るものの額は、8562万2097円である。

(イ) 原告がCに対して本件借入の元本の返済として平成9年7月4日から平成10年9月30日までの間に支払った合計350万円のうち、本件株式に係るものの額は、289万5915円である。

(ウ) そうすると、平成12年1月1日から同年11月30日までの期間における本件借入の残元本で本件株式に係るものの額は、(ア)の額から(イ)の額を差し引いた8272万6182円ということとなるから、本件負債利子で本件株式に係るものの額のうち、平成12年1月1日から同年11月30日までの期間に対応する部分の金額は、227万1580円となる。

(三) 本件賦課決定の根拠及び適法性

原告は、平成12年分所得税の納付すべき税額を過少に申告したところ、このことについて国税通則法65条4項所定の正当な理由は存在しない。したがって、同条1項に基づき、本件更正に基づいて納付すべき税額856万9800円(ただし、同法118条3項により1万円未満の端数金額を切り捨てた後の金額)に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税85万6000円を賦課する本件賦課決定は、適法である。

2  原告の主張の要旨

(一) 本件負債利子で本件株式に係るものの額が所得税法33条3項所定の「資産の取得費」に該当することについて

(1) ある資産を交換により取得する場合に反対給付物を他から入手するのに要した相当額の対価は、資産の取得と相当因果関係のあるものとして資産の取得費に含まれると解される。したがって、有償取得の通常の手段である売買代金に充当されるべき金員を他から入手するのに要した相当額の対価も、これと同様に、資産の取得と相当因果関係のあるものとして資産の取得費に含まれると解すべきである。そして、売買代金に充当されるべき金員を他から借り入れるのに要した相当額の利子は、この金員を他から入手するのに要した相当額の対価である。したがって、資産を取得するために要した負債の利子が資産の取得費に含まれると解することは何ら不合理ではない。

ある資産を賦払により取得する場合には、利子相当額が購入代金の一部として資産の取得費を構成するところ、経済的見地からは、資産を賦払により取得するのと借入により取得するのとは異ならないのに、借入により取得する場合には、負債の利子が資産の取得費を構成しないとすることは公平でない。

資産を取得し、保有し、譲渡する者が経済的合理性を考慮して取引の算段をする場合に、その資産を取得するために要する負債の利子を考慮しないことはあり得ない。

本件負債利子は、下記計算式のとおり、本件株式に係るものの全額である4520万3514円が資産の取得費に該当する。45,565,533円÷95,174,683円×94,418,519円≒45,203,514円

(2) 譲渡所得に対する課税は、資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会にこれを清算して課税する趣旨のものである。そして、所得税法の規定が、譲渡所得の金額の計算につき、総収入金額から控除する費用を当該資産の客観的価額を構成する取得代金のみに限定せず、その他の取得費用等も控除することとしていることからすると、資産を取得するために実質的に欠かせないものとして投下された資本あるいは費用は、すべて資産の取得費に含まれると解すべきである。

資産を取得するために要した負債の利子についても、当該資産を取得するために借入及び負債の利子の支払が実質的に欠かせないものである場合には、資産の取得費に含まれると解すべきであるところ、本件株式を取得するためには、本件借入及び本件負債利子の支払が実質的に欠かせなかったのであり、本件負債利子は、資産の取得費に該当するというべきである。

被告は、資産を取得するために要した負債の利子の額のうち、資産の使用を開始する前の期間に対応する部分の金額に限り資産の取得費に該当すると主張するが、資産を取得するために要した負債の利子の性質は、資産の使用開始の前後を通じて何ら異ならない。すなわち、譲渡所得は、資産の増加益を対象とするものであり、その金額の計算における資産の取得費の控除は、純所得課税の見地からされるものであるところ、資産の増加益は、資産の処分時の価額から取得時の価額等を控除した金額として把握されるのであり、資産の使用開始の前後は、その額に影響を与えるものではないから、資産を取得するために要した負債の利子を取得原価に含めるか否かの判断を左右するものではない。したがって、資産を取得するために要した負債の利子の額は、資産の使用開始前の期間に対応する部分の金額だけでなく、資産の使用開始後の期間に対応する部分の金額も含めて、資産の取得費に該当するというべきである。

また、被告は、株式の使用開始の時は、その取得の時とみるべきであると主張する。しかし、一般に、株式は、売却することにより差益を取得するための資産と考えられており、売却することが株式を保有する上での最重要の目的であるから、株式を使用するとは、売却することと捉えるのが通常である。そうすると、株式の使用開始の時は、その売却の時と解すべきである。

(二) 本件負債利子で本件株式に係るものの額のうち、法37条の10第7項3号所定の「資産を取得するために要した負債の利子」に該当する範囲について

(1) 法37条の10第7項3号は、「その年中に支払うべきその資産を取得するために要した負債の利子」としか規定していないのであるから、資産を取得するために要した負債の利子は、文理上、資産を取得するために要した負債の利子のうち、その年中に合意された支払期が到来した部分をいうと解すべきである。

被告は、資産を取得するために要した負債の利子の額は、株式を取得するために要した負債の利子の額のうち、株式を譲渡した年において株式を有していた期間に対応する部分の金額であると主張する。しかし、法37条の10第7項3号が「その年中に支払うべき」と規定し、所得税法24条2項ただし書が「その年においてその元本を有していた期間に対応する部分の金額」と明確に規定していることにかんがみると、法は、このような解釈を予定していないといわざるを得ない。

(2) 神田税務署長は、平成9年3月から同年4月まで、Cに対する税務調査をし、同社に対し、本件借入につき、元本のみを中途返済し、利息の中途支払をしないことを強く指導した。Cは、この指導に従い、原告との間で本件金銭借用証書を取り交わした際、本件負債利子について元本完済時一括払とする旨の合意をした。

そうすると、本件負債利子は、その全額について本件借入の元本が完済された平成12年中に支払期が到来したこととなる。

(3) したがって、本件負債利子は、本件株式に係るものの全額である4520万3514円が資産を取得するために要した負債の利子の額に該当するというべきである。

(4) 譲渡所得に対する課税は、資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会にこれを清算して課税する趣旨のものであり、譲渡所得は、資産の全所有期間中の増加益に対する課税なのであるから、費用収益対応の原則からすると、譲渡所得の金額の計算上経費として認められるべき費用も、全所有期間中に発生したものが含まれると解すべきである。

(三) 本件株式に係る譲渡所得の金額の計算上、総収入金額から本件負債利子で本件株式に係るものの全額を控除しない場合には、過酷な課税を実現させることとなるのであり、納税者の担税力からして、本件負債利子で本件株式に係るものの全額を控除するのは当然のことである。

第三  当裁判所の判断

一  まず、本件負債利子で本件株式に係るものの額が所得税法33条3項所定の「資産の取得費」に該当するか否かについて検討する。

1  譲渡所得に対する課税は、資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会にこれを清算して課税する趣旨のものである(最高裁判所昭和47年12月26日第三小法廷判決・民集26巻10号2083頁、最高裁判所昭和50年5月27日第三小法廷判決・民集29巻5号641頁参照)。所得税法33条3項、381条1項は、このことにかんがみて、譲渡所得の金額につき、総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費、すなわち、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額を控除すると規定し、総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得原価を控除することにより譲渡所得の金額を計算することとしている。さらに、所得税法33条3項が、譲渡所得の金額につき、総収入金額からその資産の譲渡に要した費用の額を控除すると規定し、総収入金額から控除するものを当該所得の基因となった資産の取得原価に必ずしも限定していないことからすると、同法38条1項所定の資産の取得に要した金額には、当該所得の基因となった資産の取得原価のほか、登録免許税等のように当該資産を取得する上で通常付随する費用の額も含まれ、このような費用は、なお、同法33条3項所定の資産の取得費に該当するというべきである(最高裁判所平成4年7月14日第三小法廷判決・民集46巻5号492頁参照)。

ところで、譲渡所得の基因となった株式を取得するために要した負債の利子は、当該株式を取得するために譲渡人又は発行会社に対して支払われた対価そのものではなく、あくまでも、借入という別の経済的行為により生じた債務であるから、当該株式の取得原価ではない。また、譲渡所得の基因となった株式を取得するために要した負債の利子は、譲受人又は引受人が任意に借入等をしたことにより発生したものであるから、当該株式を取得する上で通常付随する費用でもない。したがって、譲渡所得の基因となった株式を取得するために要した負債の利子は、所得税法38条1項所定の資産の取得に要した金額に含まれず、同法33条3項所定の資産の取得費に該当しないというべきである。法37条の10第7項3号が、「資産の取得費」と「資産を取得するために要した負債の利子」とを明確に区別して規定しているのは、このような趣旨に出たものと解すべきである。

そうすると、本件負債利子で本件株式に係るものの額は、所得税法33条3項所定の資産の取得費に該当しないといわざるを得ない。

なお、譲渡所得の基因となった資産を取得するために要した負債の利子の額のうち、当該資産の使用を開始するまでの期間に対応する部分の金額は、このような利子が、企業会計上、取得原価に算入することができるものとされ、当該資産をその取得に係る使用に供する上で必要な準備費用として社会通念上認められていることにかんがみると、当該資産を取得する上で通常付随する費用として所得税法38条1項所定の資産の取得に要した金額に含まれ、同法33条3項所定の資産の取得費に該当するというべきである(前掲最高裁判所平成4年7月14日第三小法廷判決)。しかし、株式の実体は、自益権、共益権等から成る株主としての法的地位であり、株式は、その性質上、取得の時に使用が開始されるというべきであるから、譲渡所得の基因となった株式を取得するために要した負債の利子の額は、このような観点から見ても、所得税法38条1項所定の資産の取得に要した金額に含まれず、同法33条3項所定の資産の取得費に該当しないというべきである。原告は、株式の使用開始の時は、その売却の時である旨主張するが、前記のとおり、株式は、その取得の時から、種々の権利から成る株主としての地位を得るわけであるから、既にその時から使用が開始されているというべきであり、原告の上記主張は、採用することができない。

したがって、譲渡所得の基因となった株式を取得するために要した負債の利子の額は、譲渡所得の金額の計算上、総収入金額から控除されないこととなる。

2  原告は、売買代金に充当されるべき金員を他から借り入れるのに要した相当額の利子は、この金員を他から入手するのに要した相当額の対価であるから、資産を取得するために要した負債の利子は、資産の取得と相当因果関係のあるものとして資産の取得費に含まれると主張する。しかし、所得税法38条1項が、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費を限定的に規定し、同法37条1項が、不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額を包括的に規定しているのとは異なる規定ぶりを採用していることにかんがみると、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費に含まれるか否かを資産の取得との相当因果関係の有無により判断するのは相当でないというべきである。したがって、原告の上記主張は、採用するととができない。

3  原告は、経済的見地からは、資産を賦払により取得するのと借入により取得するのとは異ならないのに、借入により取得する場合には、負債の利子が資産の取得費を構成しないとすることは公平でないと主張する。しかし、仮に、ある資産を賦払により取得する場合には、賦払額には、実質的には利子に相当する額が含まれているとしても、この利子相当額も含んだ賦払額全額が、購入代金として譲渡人に対して支払われているのであるから、資産を取得するために要した負債の利子と異なり、資産の取得原価とみることについて何ら支障はないというべきである。したがって、原告の上記主張は、採用することができない。

4  原告は、資産を取得するために実質的に欠かせないものとして投下された資本あるいは費用は、すべて資産の取得費に含まれると主張する。しかし、上記のとおり、所得税法38条1項が、同法37条1項とは異なる規定ぶりを採用していることにかんがみると、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費に含まれるか否かを、資産を取得するために実質的に欠かせないものであるか否かにより判断するのは相当でないというべきである。したがって、原告の上記主張も、採用することができない。

二  次に、本件負債利子で本件株式に係るものの額のうち、法37条の10第7項3号所定の「資産を取得するために要した負債の利子」に該当する範囲について検討する。

1  法37条の10第7項3号所定の「資産を取得するために要した負債の利子」に該当する範囲について

(一) 上記のとおり、譲渡所得の基因となった株式を取得するために要した負債の利子は、譲渡所得の金額の計算上、総収入金額から控除されないのに対し、事業所得又は雑所得の基因となった株式を取得するために要した負債の利子は、所得税法27条2項又は同法35条2項2号所定の必要経費に該当するから、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上、総収入金額から控除されることとなる。

ところが、法37条の10第1項は、譲渡所得、事業所得、雑所得を区別することなく、株式等の譲渡による所得に関する課税の特例である申告分離課税制度による場合につき、「当該株式等の譲渡による事業所得、譲渡所得及び雑所得(…(省略)…)については、所得税法第22条及び第89条並びに第165条の規定にかかわらず、他の所得と区分し、その年中の当該株式等の譲渡に係る事業所得の金額、譲渡所得の金額及び雑所得の金額として政令で定めるところにより計算した金額(以下この条において「株式等に係る譲渡所得等の金額」という。)に対し、株式等に係る課税譲渡所得等の金額(…(省略)…)の100分の20に相当する金額に相当する所得税を課する。」と規定し、更に、法37条の10第7項3号は、申告分離課税制度による場合につき、「所得税法第33条第3項の規定の適用については、同項中『譲渡所得の金額』とあるのは『株式等に係る譲渡所得の金額』と、『譲渡に要した費用の額』とあるのは『譲渡に要した費用の額並びにその年中に支払うべきその資産を取得するために要した負債の利子』と、…(中略>…とする。」と規定し、株式等に係る譲渡所得の金額の計算上、総収入金額から譲渡所得の基因となった株式を取得するために要した負債の利子を一定範囲で控除することを認めている。このように、法37条の10第1項、第7項3号は、株式等の譲渡による所得が、所得税法上、事業所得、譲渡所得又は雑所得のいずれに分類されるかにかかわらず、他の所得と区分し、同一の税率により課税し、同一の控除を認めることとしているのであるから、各所得の金額の計算上、総収入金額から控除される費用の範囲を所得の種類に応じて異なるものとする理由はない。そうすると、譲渡所得の基因となった株式を取得するために要した負債の利子は、事業所得又は雑所得の基因となった株式を取得するために要した負債の利子の額のうち、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上、総収入金額から控除される部分と同一の範囲において、譲渡所得の金額の計算上、総収入金額から控除されるというべきである。

そして、所得税法37条1項かっこ書は、所得金額の計算を正確なものとするとともに、必要経費に算入すべき時期を恣意的に操作するという弊害を防止するため、「償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。」と規定し、必要経費に算入すべき時期を債務の確定の時としているところ、このような趣旨からすると、債務が確定したか否かは、当該債務が現実に支払われることとなるか否かなどではなく、民法等法令の規定からみた場合に当該債務が既に成立しているということができるか否か、当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が既に発生しているか否か及び当該債務の金額を合理的に算定することができるか否かにより決定すべきである。そうすると、利息の約定のある消費貸借契約における利息は、日々発生し、確定していると解すべきであるから、事業所得又は雑所得の基因となった株式を取得するために要した負債の利子の額のうち、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上、総収入金額から控除される部分は、その年において株式を有していた期間に対応する部分の金額ということとなる。そして、これは、当事者間の合意等により利息の支払が後の時期まで猶予されるなど、変更が加えられているときでも変わるところではない。

したがって、法37条の10第7項3号の適用においても、譲渡所得の基因となった株式を取得するために要した負債の利子のうち、譲渡所得の金額の計算上、総収入金額から控除される部分は、その年において株式を有していた期間に対応する部分の金額ということとなる。同号が、「その年中に支払った利子」などとせず、「その年中に支払うべき…(中略)…利子」と規定し、所得税法36条1項がその年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額等について「その年において収入すべき金額」と規定しているのと同様の規定ぶりを採用しているのは、このような趣旨に出たものと解すべきである。

そうすると、本件負債利子で本件株式に係るものの額のうち、法37条の10第7項3号所定の資産を取得するために要した負債の利子に該当する範囲は、平成12年1月1日から同年11月30日までの期間に対応する部分の金額に限られるというべきである。

(二) 原告は、資産を取得するために要した負債の利子は、法37条の10第7項3号の文理上、資産を取得するために要した負債の利子のうち、その年中に合意された支払期が到来した部分をいうと解すべきである旨主張する。

しかし、収入金額について「その年において収入すべき金額」と規定する所得税法36条1項が、いわゆる権利確定主義を採用したものと解されていることからすると、「その年中に支払うべきその資産を取得するために要した負債の利子」につき、前記のとおり解釈したからといって、法37条の10第7項3号の文理に反するということはできない。また、当事者間の合意により利息の控除、時期を定められるというのでは、恣意的な合意がされるおそれもあり、公平な課税を行うことはできない。

したがって、原告の上記主張は、採用することができない。

(三) 原告は、譲渡所得は、資産の全所有期間中の増加益に対する課税なのであるから、費用収益対応の原則からすると、譲渡所得の金額の計算上経費として認められるべき費用も、全所有期間中に発生したものが含まれると主張する。

しかし、前記のとおり、元々、譲渡所得の金額の計算上、その資産を取得するために借入をしたことによる利子は、経費には含まれないのであるから、原告の上記主張は、その前提を欠く上、上記のとおりの法37条の10第7項3号の趣旨からすると、原告の上記主張は、採用することができない。

2  本件負債利子で本件株式に係るものの額のうち、平成12年1月1日から同年11月30日までの期間に対応する部分の金額は、次のとおり、227万1580円である。

(一) 上記認定のとおり、原告は、Cに対し、本件借入の元本の返済として、平成3年7月5日から平成8年9月30日までの間に、合計886万6870円を支払ったことからすると、平成9年7月3日の時点における本件借入の残元本の額は、本件借入による借入金額である9517万4683円から886万6870円を差し引いた8630万7813円であり、そのうち、本件株式に係るものの額は、下記計算式のとおり、8562万2097円である。

86,307,813円÷95,174,683円×94,418,519円≒85,622,097円

(二) 前記認定のとおり、原告は、Cに対し、本件借入の元本の返済として、平成9年7月4日から平成10年9月30日までの間に合計350万円を支払ったところ、そのうち、本件株式に係るものの額は、下記計算式のとおり、289万5915円である。

3,500,000円÷(86,307,813円十17,175,000)×85,622,097円≒2,895,915円

(三) そうすると、平成12年1月1日から同年11月30日までの期間における本件借入の残元本で本件株式に係るものの額は、8562万2097円から289万5915円を差し引いた8272万6182円ということとなるから、本件負債利子で本件株式に係るものの額のうち、平成12年1月1日から同年11月30日までの期間に対応する部分の金額は、下記計算式のとおり、227万1580円となる。

82,726,182円×3%÷366日×335日≒2,271,580円

3  したがって、本件負債利子で本件株式に係るものの額のうち、法37条の10第7項3号所定の資産を取得するために要した負債の利子に該当する範囲は、227万1580円ということとなる。

4  なお、念のために、原告が主張するように、資産を取得するために要した負債の利子は、資産を取得するために要した負債の利子のうち、その年中に合意された支払期が到来した部分をいうと解すべきであるという仮定に立って検討してみても、前記前提となる事実に甲第1号証の1ないし3、第2ないし第4号証、第15号証、乙第1、第2号証及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。

(一) 原告は、C及びBの代表取締役である。

(二) 原告は、Aから、平成元年11月30日、売買代金9441万8519円で本件株式を買い受けた。

(三) 原告は、Cから、平成元年11月30日、9517万4683円を借り入れ(本件借入)、その内金9441万8519円を本件株式の売買代金の支払に充当した。

原告とCは、本件借入につき、金銭消費貸借契約書等の書面を取り交わさなかった。

(四) 原告は、Cに対し、本件借入の元本の返済として、平成3年7月5日から平成8年9月30日までの間に合計886万6870円を支払い、本件借入の残元本の額は、8630万7813円となった。原告は、Cに対し、この間に本件負債利子を支払わなかった。

(五) 神田税務署長は、平成9年3月から同年4月まで、Cに対する税務調査をし、同社に対し、原告との間で金銭借用証書を取り交わすこと、未収利息の内金1717万5000円を元本に組み入れ、同月21日の時点における本件借入の残元本の額を、8630万7813円ではなく、1億0348万2813円と認識すること、平成5年10月1日から平成8年9月30日までの未収利息257万6250円を計上すること、本件借入の利率を年3パーセントとすることを指導した。Cは、この指導に従い、原告との間で本件金銭借用証書を取り交わすとともに、未収利息の内金1717万5000円を本件借入の元本に組み入れた。

本件金銭借用証書には、「貸主 株式会社C殿」「借用金 金103、482、813円也」「上記の金額を私、甲は本日たしかに次の約定により借り受け、受領しました。」「1.上記の借用金の返済はおおむね各年、上記金額の20分の1とします。」「2.利息は年3%とします。」「3.借用金は返済日に貸主に持参するかまたは送付して支払います。後日のため本証書を差入れます。」との記載があるが、本件負債利子の支払期に関する記載はない。

(六) 原告は、Cに対し、本件借入の元本の返済として、平成9年7月4日から平成10年9月30日までの間に合計350万円を支払い、本件借入の残元本の額は、9998万2813円となった。原告は、Cに対し、この間に本件負債利子を支払わなかった。

(七) 原告は、Cに対し、平成12年12月1日、売買代金1億4023万8000円で本件株式を売り渡した。

(八) 原告は、Cに対し、平成12年12月1日、本件借入の残元本をすべて返済するとともに、本件負債利子4556万5533円をすべて支払った。

これらの事実からすると、原告とCは、本件負債利子について支払期を定めなかったと認めることができる。この点につき、原告は、Cは、神田税務署長が同社に対してした強い指導に従い、原告との間で本件金銭借用証書を取り交わした際、本件負債利子について元本完済時一括払とする旨の合意をしたと主張する。しかし、この主張に沿う的確な証拠はなく、むしろ、乙第2号証(平成9年当時、神田税務署職員であった乙に対する事情聴取の結果を記載した聴取書)の中には、これに反する記載があるのであり、原告の上記主張を採用することはできない。なお、甲第15号証(原告作成の陳述書)の中には、「とくに利息の支払期日について話し合いをした記憶はありませんが、利息の支払いについては、特に最後に一括してなすことが当然のこととして暗黙の了解がありました。」との記載がある。しかし、上記認定のとおり、本件金銭借用証書には、本件負債利子の支払期に関する記載がないことからすると、上記証拠をたやすく信用することはできない。

そうすると、Cは、原告に対し、利息計算の期間の経過により確定した本件負債利子を随時請求することができたこととなるのであり、本件負債利子の支払期は、利息計算の期間の経過により確定した時ということとなる。したがって、仮に、原告が主張するように、資産を取得するために要した負債の利子は、資産を取得するために要した負債の利子のうち、その年中に合意された支払期が到来した部分をいうと解すべきであるとしても、本件負債利子で本件株式に係るものの額のうち、法37条の10第7項3号所定の資産を取得するために要した負債の利子に該当する範囲は、平成12年1月1日から同年11月30日までの期間に対応する部分に限られるといわざるを得ないこととなる。

三  なお、原告は、資産を取得し、保有し、譲渡する者が経済的合理性を考慮して取引の算段をする場合に、その資産を取得するために要する負債の利子を考慮しないことはあり得ないとか、本件株式に係る譲渡所得の金額の計算上、総収入金額から本件負債利子で本件株式に係るものの全額を控除しない場合には、過酷な課税を実現させることとなるのであり、納税者の担税力からして、本件負債利子で本件株式に係るものの全額を控除するのは当然のことであるなどとも主張するが、これらの主張は、結局、租税についての立法政策上の問題に係るものといわざるを得ないのであり、採用することができない。

四  上記各争点に関連する部分を除き、被告の主張に係る金額及び計算関係については、当事者間に争いがない。そうすると、原告の平成12年分所得税のうち、分離課税の株式譲渡所得の金額及び納付すべき税額は、被告主張のとおりと認められ、これらの金額は、本件更正に係る金額を上回るから、本件更正は、適法なものというべきである。

五  本件は、期限内申告書が提出された場合において、更正があったとき(国税通則法65条1項)に該当するところ、本件訴訟に顕れた一切の証拠によるも、本件更正に基づいて納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるもの(同条4項)があると認めることはできない。したがって、原告に対し、本件更正に基づき納付すべき税額856万9800円(ただし、同法118条3項により1万円未満の端数金額を切り捨てた後の金額)に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税85万6000円を賦課する本件賦課決定は、適法なものというべきである。

第四  結論

よって、本訴請求は失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 菅野博之 裁判官 内野俊夫)

裁判官 村田一広は、差し支えのため、署名押印をすることができない。 裁判長裁判官 菅野博之

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