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東京地方裁判所 平成15年(行ウ)149号 判決 2004年1月16日

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告が平成15年1月17日付けで原告に対してした,「平成14年4月9日付け「申告の処理に係る申出について」に基づき情報管理室が申告処理審理会へ提出した文書」を不開示とする旨の決定を取り消す。

第2事案の概要

本件は,原告が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律3条に基づき,「平成14年4月9日付け「申告の処理に係る申出について」に基づき情報管理室が申告処理審理会へ提出した文書」の開示を請求したところ,被告から,上記文書の存否を応答するだけで同法5条に定める不開示情報を開示することとなるとして,その存否を明らかにしないで不開示とする旨の決定を受けたため,その取消しを求めている事案である。

1  法令の定め等

(1)  情報公開法の定め

ア 行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号。ただし,平成14年法律第98号による改正前のもの。以下「情報公開法」という。)3条は,何人も,この法律の定めるところにより,行政機関の長に対し,当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができる旨規定する。

そして,同法5条は,行政機関の長は,開示請求があったときは,開示請求に係る行政文書に同条各号に掲げる不開示情報のいずれかが記録されている場合を除き,開示請求者に対し,当該行政文書を開示しなければならない旨規定するところ,同条1号,2号イ及び6号イは,次のとおり不開示情報を定めている。

a 情報公開法5条1号

個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの(ただし,同号イないしハに掲げる情報を除く。)

b 情報公開法5条2号イ

法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって,公にすることにより,当該法人等又は当該個人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの

c 情報公開法5条6号イ

国の機関又は地方公共団体が行う事務又は事業に関する情報であって,公にすることにより,監査,検査,取締り又は試験に係る事実に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれがあるもの

イ 情報公開法7条は,行政機関の長は,開示請求に係る行政文書に不開示情報が記録されている場合であっても,公益上特に必要があると認めるときは,開示請求者に対し,当該行政文書を開示することができる旨規定する。

ウ 情報公開法8条は,開示請求に対し,当該開示請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで,不開示情報を開示することとなるときは,行政機関の長は,当該行政文書の存否を明らかにしないで,当該開示請求を拒否することができる旨規定する。

(2)  公正取引委員会に関する審査事件の処理等に関する定め

ア 公正取引委員会は,一般の者からの報告(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独禁法」という。)45条1項。以下「申告」という。),公正取引委員会自身による情報収集(同条4項),検事総長からの調査請求(同法74条)又は中小企業庁の請求(中小企業庁設置法4条7項)により,事件の端緒となる事実に接する。

イ 公正取引委員会には,その事務を処理するために事務総局が置かれ(独禁法35条1項),さらに,事件の審査を行うために,事務総局に審査局が置かれている(同条4項,公正取引委員会事務総局組織令(昭和27年政令第373号。以下「組織令」という。)1条1項,4条1項1号)。

審査局には,管理企画課が置かれ(組織令19条1項),事件の審査に係る基本的事項の企画及び立案に関する事務(組織令20条2号),事件の審査の開始に係る情報の収集及び整理に関する事務(同条6号),事件に係る報告の受理及び報告者に対する通知に関する事務(同条7号)等を担当している。

管理企画課には,情報管理室が置かれ(公正取引委員会事務総局組織規則(昭和53年総理府令第10号。以下「組織規則」という。)9条1項),次の事務を行うこととされている。

① 事件の審査の開始に係る情報の探知に関すること(同条6項1号)

② 事件に係る報告(申告)の受理及び報告に関する調査に関すること(同項2号)

③ 審査長及び特別審査長の所掌に属するものを除く事件に係る通知の受理に関すること(同項3号)

④ 前記①ないし③に係る情報,報告及び通知の管理に関すること(同項4号)

ウ 審査局長は,申告を受けたときは,審査の要否につき意見を付して公正取引委員会に報告する(公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(平成13年公正取引委員会規則8号。以下「審査審判規則」という。)7条1項)。

そして,報告を受けた公正取引委員会は,立入検査,報告命令,審訊等の調査権限(独禁法46条1項)を行使する必要があると認めたときは,事務総局職員を審査官に指定し,事件の審査に当たらせる(同条2項,審査審判規則7条3項)ほか,関係人から任意の協力が得られると判断した場合には,任意審査の手法をとることもある(乙2,弁論の全趣旨)。

公正取引委員会は,審査の結果,独禁法の所定の規定に違反する事実があると認められたときは,排除措置をとるよう勧告する(同法48条1,2項)か,審判手続を開始し(同法49条1項),違反行為がなくなってから1年を経過しているため勧告を行うことができないが,課徴金納付命令の対象となる場合には,同命令を行う(同法48条の2)等の法的措置をとることができる。

公正取引委員会は,申告が所定の要件を満たす書面でされた場合において,当該申告に係る事件について,適当な措置をとり,又は措置をとらないこととしたときは,速やかに,その旨を当該申告をした者に通知しなければならない(同法45条3項)。

2  前提となる事実(各項末尾に掲記の証拠等により認められる。)

(1)  原告は,平成14年12月13日付けで,被告に対し,情報公開法3条に基づき,「社団法人A協会に対する回答書 別紙公官総第×××号(平成14年4月9日)参照」の開示を請求した(以下「本件開示請求」という。)。

その後,原告は,同年12月19日,本件開示請求の対象となる行政文書を「平成14年4月9日付け「申告の処理に係る申出について」に基づき情報管理室が申告処理審理会へ提出した文書」と補正した(以下,補正後の本件開示請求の対象となる文書を「本件行政文書」という。)。

(甲2,乙1)

(2)  被告は,平成15年1月17日付けで,本件開示請求に対し,「個別の独禁法違反事件の処理について申告処理審理会へ提出された資料については,情報提供者の名称等の秘匿(法第5条1号,第2号)及びそれを通じて確保される事件の適正な処理に重大な支障を生じること(法第5条第6号イ)となるため,法第8条の規定により,存否を含めて応答できません。」との理由を付して,同条により本件行政文書の存否を明らかにしないで本件開示請求を拒否する旨の決定をした(以下「本件不開示決定」という。)。

(甲2)

(3)  原告は,平成15年1月23日付けで,公正取引委員会委員長に対し,本件不開示決定を不服として,審査請求を行った。

これに対し,公正取引委員会委員長は,同年3月17日,上記審査請求について,情報公開審査会に対し,情報公開法18条に基づき諮問をしたところ,同審査会は,同年7月16日,本件行政文書の存否を明らかにしないで本件開示請求を拒否した本件不開示決定は妥当である旨の答申を行った。

(乙2)

3  当事者双方の主張

(被告の主張)

(1) 申告処理審理会による申告処理の手続等

ア 公正取引委員会における独禁法違反被疑事件の端緒は,そのほとんどが一般の者による申告であるところ,公正取引委員会は,独禁法の運用の透明性を確保するとともに,申告への対応を遺漏なきようにするため,申告処理審理会(以下「審理会」という。)により申告の処理を再点検する制度を設けている。

イ 審理会は,公正取引委員会が指名する委員,事務総長等で構成され,申告者が申告の処理に関する疑問,苦情その他の申出(以下「申出」という。)をした場合には,当該申出に理由があるか否かを点検し,その結果について公正取引委員会に報告するとともに,審査局に連絡することとしている。

そして,公正取引委員会は,申出に理由がある旨の報告を受けた場合には,審査局に再検討させたうえ,その結果を踏まえて,当該申出に係る申告の取扱いについて判断する一方,申出を行った者に対して,審理会における点検の結果を連絡することとされている。

ウ 申告者から審理会に対して申告の処理に関する申出がされた場合には,審理会から情報管理室に対し,当該申出に係る資料提供の要請がある。この要請を受けた情報管理室は,申出時点での申告処理の進捗状況に応じて,その時点までに審査局が調査・収集した資料を取りまとめ,必要に応じ,これらの資料に関する説明資料を新たに作成して,審理会に提出する。

ちなみに,情報管理室から審理会に提出される文書には,申告者の個人情報や事業に関する情報,独禁法違反行為の疑いのある事業者等(以下「被疑事業者等」という。)の名称,住所,事業内容,当該行為の具体的内容等の情報,事件調査のために審査局が事情聴取,意見照会,資料提出を求めた者の個人情報並びにその者の供述内容,提出資料等の内容に係る情報や,審査局がこれらの各情報を検討した結果及びその結果を踏まえた審査の進捗状況,方針,計画等に係る情報が記載されている。

(2) 本件不開示決定の適法性

ア 本件行政文書の存否を応答するだけで情報公開法5条2号に該当する情報を開示する結果になること

本件行政文書の存否を応答すれば,社団法人A協会(以下「本件A協会」という。)について,独禁法違反に係る申告情報の有無及び当該申告の処理に係る申出の有無が明らかになるとともに,本件A協会に対する公正取引委員会の調査活動の有無等が明らかになる。

そして,特定の事業者について,同法違反に係る申告情報の有無,当該申告の処理に係る申出の有無等が明らかになると,当該事業者の信用低下を招き,事業活動上不利益を被り,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある。

したがって,本件行政文書の存否を応答することにより,情報公開法5条2号イに規定する不開示情報を開示したことになるから,被告が同法8条に基づき,本件行政文書の存否を明らかにしないで本件開示請求を拒否したことは適法である。

イ 本件行政文書の存否を応答するだけで情報公開法5条6号に該当する情報を開示する結果になること

公正取引委員会が申告に係る事件について審査,調査活動を行うことは,情報公開法5条6号イに規定する国の検査,取締りに係る事務に該当する。

そして,本件行政文書の存否を応答することにより,本件A協会について,独禁法違反に係る申告情報の有無及び当該申告の処理に係る申出の有無が明らかになるとともに,同協会に対する公正取引委員会の具体的な調査活動の有無等が明らかになることから,同協会は,公正取引委員会の調査活動がある程度進展していることを知ることによって,その後の調査活動に対する周到な対策を講ずる可能性があり,その結果,正確な事実の把握や違法不当な行為の発見が困難になるおそれが高いというべきである。

また,申告者が申告をした事実や第三者が事情聴取等に応じた事実が公にされれば,被疑事業者等が申告者や事情聴取に応じた第三者(以下「申告者等」という。)に対して不当な圧力や制裁を加えるおそれがあることや,申告や事情聴取の事実等を公にしないという公正取引委員会と申告者等との間の信頼関係が損なわれることから,申告者等による任意の協力を求めることが不可能となり,公正取引委員会が行う当該審査のみならず,その後の審査活動一般に重大な支障が生ずることとなる。

したがって,本件行政文書の存否を応答することにより,情報公開法5条6号イに規定する不開示情報を開示したことになるから,被告が同法8条に基づき,本件行政文書の存否を明らかにしないで本件開示請求を拒否したことは適法である。

(3) 原告の主張に対する反論

ア 本件行政文書の情報公開法5条2号イ該当性について

a 原告は,①本件行政文書が調査済みの報告書であって,調査の結果,独禁法違反の事実が認められない場合には,被疑事業者等の信頼は失われないし,同法違反の事実が認められる場合には,被告により当該違反事実が公開されること,②本件A協会は,原告の同協会に対する損害賠償請求事件(東京地方裁判所八王子支部平成××年(ワ)第×××号損害賠償請求事件。以下「別件損害賠償請求訴訟」という。)の判決で,独禁法違反の事実を認定されたものの,これによって同協会が処分を受けたり,その会員が営業上の不利益を受けたりしていないこと,③原告が同協会を公正取引委員会に申告した事実が既に公正取引委員会によってインターネット上で公開されていること,④審理会に提出された文書の開示請求をする者は,被疑事業者等が調査を受けたことを知る者以外に考え難いから,本件行政文書の開示による同協会の不利益を重視する必要はないこと等を理由として,本件行政文書が情報公開法5条2号イに該当しない旨主張する。

b しかし,上記①については,本件行政文書の存否を応答すれば,本件A協会について,独禁法違反に係る申告情報があった事実等の存在が推し量られ,同協会に同法違反事実が認められるか否かにかかわらず,同協会の信用低下を招くこととなり,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあることは明らかである。

また,上記②については,私人間の民事訴訟において独禁法違反の事実が認定されたことと,公正取引委員会による調査や処分の対象となることとは,その手続,法的な効果及び意義が異なるから,原告が主張するような事情があったとしても,公正取引委員会に対する申告事実,調査が開始された事実等が情報公開法5条2号イに該当することに変わりはない。

さらに,上記③についても,原告が主張するインターネット上の記事は,原告が東京地方裁判所に提起した不作為違法確認訴訟(同裁判所平成××年(行ウ)第××号不作為違法確認請求事件,以下「別件不作為違法確認訴訟」という。)における原告の主張を要約したものにすぎず,原告による申告の事実が公開されているわけではないから,原告の主張はその前提を欠くものというべきである。

そして,上記④についても,開示請求者の属性や個別事情によって,本件行政文書が情報公開法5条2号イに該当するか否かに相違が生じるものではない。

c したがって,原告の上記aの主張は,いずれも失当である。

イ 本件行政文書の情報公開法5条6号イ該当性について

a 原告は,①本件A協会に係る申告については調査済みであり,独禁法45条3項の通知も行われているから,本件行政文書を開示しても,公正取引委員会による正確な事実の把握や不当な行為の発見を困難にするおそれはないこと,②本件A協会自身が既に独禁法違反の調査を受けていることを知っており,本件行政文書を開示しても証拠隠滅等のおそれはないこと,③被告が原告による申告の事実を公開しており,本件行政文書を開示しても申告者と公正取引委員会の信頼関係は損なわれないこと等に照らせば,本件行政文書を開示しても,公正取引委員会の事務の適正な遂行に支障を及ぼすとはいえないとして,本件行政文書は情報公開法5条6号イに規定する不開示事由に該当しない旨主張する。

b しかし,上記①については,公正取引委員会が申告情報のみでは独禁法違反の被疑事実を認定することができず,いったんは措置をとらない旨通知をしたものの,その後,他の申告等の情報と併せて被疑事実を認定し得る場合もあることから,監視活動を継続することもあるところ,このような段階で本件行政文書の存否を明らかにすれば,被疑事業者等がその後行われ得る調査活動に対して周到な対策を講ずる機会を与える結果になることも想定される。加えて,申告者等による申告の事実や事情聴取に応じた事実が明らかになれば,公正取引委員会の審査活動に重大な支障が生じることは,前記(2)イのとおりである。

また,上記②については,調査が開始された事実を調査の相手方が知っていたとしても,具体的な調査の進捗状況,調査の対象者等を知り得るわけではないから,情報管理室から審理会に提出された文書の存在が明らかにされれば,適正な調査活動が困難となるのであって,これらの文書の存否を明らかにすることは,情報公開法5条6号イの不開示事由を開示するに等しいこととなる。

さらに,上記③についても,原告が主張するインターネット上の記事は,別件不作為違法確認訴訟における原告の主張を要約したものにすぎず,原告による申告事実が公開されているわけではないことは前記アbのとおりであって,原告の主張は,その前提を欠くものというべきである。

c したがって,原告の上記aの主張は,いずれも失当である。

ウ 情報公開法8条の適用について

原告は,情報公開法8条の適用要件として,①ある事実の存在が通常の判断能力を有していれば容易に推定できること,②ある事実の存在が推定されることにより,不利益を受ける蓋然性が高いこと,の2つの要件を満たす必要があると主張する。

しかし,これらの要件は極めて不明確であるうえ,同条の規定からこのような要件が導かれる根拠も不明であるから,上記主張は失当である。

エ 情報公開法7条に基づく裁量的開示について

情報公開法7条は,同法5条の規定を適用したときに不開示となる場合であっても,公益上の理由から裁量的に開示することを認める規定であるところ,本件不開示決定は,同条を適用して本件行政文書を不開示としたものではなく,同法8条を適用して本件行政文書の存否を明らかにせずに不開示決定をしたものであるから,本件について,同法7条の適用がないことは,同条の文理上明らかというべきである。

したがって,同条に基づいて本件行政文書を開示すべきとする原告の主張は,失当である。

オ 独禁法45条3項に基づく主張について

原告は,独禁法45条3項に基づく通知の内容が,通知された者を介して一般に公開される可能性を否定できないから,情報公開法上の開示を認めるべきである旨主張する。

しかし,独禁法45条3項は,同法違反行為の申告者の保護という観点から,公正取引委員会に対し,一定の場合に,当該申告に係る事件について,適当な措置をとり,又は措置をとらないことを,当該情報の申告者に限って通知することを義務付けるものにすぎず,当該申告に係る公正取引委員会の審査等の結果を広く国民に公開するものではない。

これに対し,情報公開法は,行政の国民に対する説明責任を全うするために,何人も行政文書の開示請求ができる旨規定しており,請求者の属性や個別事情を一切考慮することなく,開示請求に係る行政文書の開示,不開示が判断されるべきものである。

このように,独禁法45条3項に基づく通知と,情報公開法に基づく行政文書開示請求は,制度目的及び手続が異なることから,これらに関する規定がそれぞれ別個に適用されることは当然であって,原告が独禁法45条3項に基づく通知を受けたことは,情報公開法に基づき本件行政文書を開示すべきか否かの判断に何ら影響を及ぼすものではない。

(4) 以上によれば,本件不開示決定は適法であって,原告の請求は理由がないことが明らかであるから棄却されるべきである。

(原告の主張)

(1) 本件の経緯

ア 原告は,平成10年6月22日,公正取引委員会に対し,本件A協会の入会時における推薦制度,平成12年度固定資産税評価に係る市町村に対する鑑定評価員の推薦行為等について,独禁法違反の事実が存在するとして,同法45条1項に基づき申告を行ったが,約3年間にわたり,何らの回答もないまま放置された。

イ そこで,原告は,平成××年×月××日,東京地方裁判所に対し,公正取引委員会を被告として,上記申告に係る調査をしないことが違法であることの確認を求める別件不作為違法確認訴訟を提起したが,後記エの通知があったので,同年×月×日,上記訴えを取り下げた。

ウ 一方,原告は,平成××年×月,東京地方裁判所八王子支部に対し,本件A協会を被告として,同協会の入会時における推薦制度が独禁法に違反することを理由とする別件損害賠償請求訴訟を提起し,同支部は,平成××年×月×日,上記推薦制度が独禁法に違反することを認定したうえで,本件A協会に損害賠償金の支払を命ずる旨の判決を言い渡した。

エ 上記判決が出たことを踏まえて,原告は,公正取引委員会(情報管理室)に対し,本件A協会の入会時における推薦制度につき調査を行うよう要請したが,公正取引委員会は,平成14年2月22日付けで,原告に対し,調査の結果,独禁法違反行為は認められない旨,同法45条3項に基づいて通知した。

オ そこで,原告は,平成14年3月8日付けで,審理会に対し,上記エの申告の処理に係る申出を行ったところ,公正取引委員会は,同年4月9日付けで,原告に対し,審理会を開催するなどして検討した結果,早急に事実関係を再度調査することとした旨回答した。

しかしながら,その後,公正取引委員会から何らの回答もないことから,原告は,情報管理室が審理会に提出した文書を確認するために,同年12月13日付けで,本件開示請求を行ったが,平成15年1月17日付けで,本件不開示決定を受けた。

カ その後,公正取引委員会は,平成15年2月25日付けで,原告の前記オの申出に対し,調査の結果,独禁法違反行為は認められないものの,本件A協会の新規会員の入会規定については,その運用次第では同法違反につながることもあり得るので,その運用に注意するよう関係人に指摘した旨,同法45条3項に基づいて通知した。

(2) 本件行政文書が情報公開法5条2号イに該当しないこと

ア 被告は,本件行政文書の存否を応答すると,本件A協会についての申告の有無,申告の処理に係る申出の有無等が明らかになり,被疑事業者等の事業活動に不利益を与える旨主張するが,本件行政文書は調査済みの報告書であるから,調査の結果,違反事実が認められなければ,被疑事業者等の信頼は失われないし,違反事実が認められた場合には,当該違反事実が公開されるから,本件行政文書を開示しても,被疑事業者等の事業活動における正当な利益を害するおそれはない。

イ 本件A協会は,別件損害賠償請求訴訟の判決において,独禁法違反を認定されたものの,このことによって,同協会の会員の誰かが営業上の不利益を受けたり,同協会が社団法人B協会から処分を受けた事実はない。同協会は,茨城県内で唯一の不動産鑑定業者の団体で,競争者は存在せず,同協会が調査を受けただけで直ちに公的機関の処分を受けることはないし,仮に同協会に独禁法違反の事実が認められても,公的機関が同協会に依頼していた鑑定業務を中止することはない。

したがって,本件行政文書を開示することにより,本件A協会が不利益を被るとは考え難い。

ウ 公正取引委員会は,原告が本件A協会に係る独禁法違反行為について公正取引委員会に申告した事実を,既にインターネット上で公開しており,本件行政文書の開示により同協会が不利益を被るおそれはない。

エ 独禁法及び審査審判規則には,審理会に関する規定は存在しないため,一般国民が審理会の手続,取扱文書の種類等について知ることは皆無に等しく,また,情報公開法に基づいて行政機関が保有する文書の写しを入手するには,開示請求対象文書を特定する必要があるから,本件行政文書の存在を知る者でなければ,これを特定して開示請求を行うことはできない。

このように,審理会に提出された文書の開示を請求する者は,被疑事業者等が独禁法45条2項の調査を受けたことを知る者以外には考え難いから,本件行政文書を開示した場合における被疑事業者等の不利益を重視する必要はない。

オ 以上のとおり,本件行政文書を開示することによって,本件A協会の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとはいえないから,本件行政文書は,情報公開法5条2号イに該当しない。

(3) 本件行政文書が情報公開法5条6号イに該当しないこと

ア 原告の申告に係る本件A協会による独禁法違反事実については,既に公正取引委員会において調査済みであり,申告者である原告に対して,独禁法45条3項に基づき,措置をとらない旨の通知が行われている。

したがって,原告の申告に対する審査手続が打ち切られている以上,本件行政文書を開示しても,公正取引委員会による独禁法違反の取締り等の事務について,正確な事実の把握を困難にするおそれや,違法又は不当な行為の発見を困難にするおそれはない。

イ また,本件A協会は,既に公正取引委員会による独禁法違反の調査を受けていることを知っており,公正取引委員会が同協会に対し,原告の申告に係る行為について,同法違反に当たるおそれがあるので注意するよう指摘していること等に照らせば,本件行政文書を開示しても,同協会が証拠隠滅等を行うことにより,公正取引委員会による調査活動に悪影響が出るおそれはない。

ウ さらに,公正取引委員会は,既にインターネット上で,原告が本件A協会に係る独禁法違反事実を調査するよう申告したことを公表しており,これによって,公正取引委員会が同協会に対して調査をしたことが推定されるから,本件行政文書を開示しても,申告者等の公正取引委員会に対する信頼関係が損なわれて調査活動に悪影響が生じることはない。

エ 以上のとおり,本件行政文書を開示しても,公正取引委員会が行う独禁法違反の取締り等に係る事実に関して,正確な事実の把握を困難にするおそれや,違法又は不当な行為の発見を困難にするおそれがあるとはいえないから,本件行政文書は,情報公開法5条6号イに該当しない。

(4) 情報公開法8条の適用が違法であること

被告は,情報公開法8条に基づいて本件行政文書の存否の応答を拒否したことが適法であると主張する。

しかしながら,同条が適用されるためには,①当該文書の存否を応答することにより,ある事実の存在が通常の判断能力を有していれば容易に推定できること,②ある事実の存在が推定されることにより,不利益を受ける蓋然性が高いこと,の2つの要件を満たすことが必要である。

しかるに,本件行政文書の場合,文書の存否を応答すれば,本件A協会が調査を受けたことが推定されるものの,同協会は独占事業者であるから競争が生じる余地がなく,文書の存否を応答しても営業上の不利益が生じ難いことなどからすると,文書の存否を応答することによって同協会が不利益を受ける蓋然性は低い。

したがって,被告が情報公開法8条に基づいて,本件行政文書の存否について応答を拒否したことは違法である。

(5) 本件行政文書が情報公開法7条により開示されるべきであること

情報公開法7条は,開示請求に係る文書に不開示情報が記録されている場合であっても,公益上特に必要があると認めるときにはこれを開示することができる旨規定する。

そして,原告が申告した事実は,新聞及び雑誌で独禁法違反事件として報道されたものであり,裁判所が別件損害賠償訴訟において同法違反の事実を認定したにもかかわらず,公正取引委員会は,そのような事実がないとしているのであるから,公正取引委員会としては,その社会的立場に照らして,同法違反の事実がないとした理由や,裁判所の上記判断と異なる判断をした部分について,弁明を行うべき責務がある。

したがって,本件行政文書は,開示することが公益上必要であるから,情報公開法7条により開示されるべきである。

(6) 独禁法45条3項について

独禁法45条3項は,申告に係る事件について,適当な措置をとり,又は措置をとらないこととしたときは,その旨を当該申告を行った者に通知することとしているところ,申告者は,上記通知について守秘義務を課せられていないのであるから,上記通知の内容が当該申告者を介して一般に公開される可能性があることは否定できない。

したがって,同項に基づいて原告に通知された事項については,既に公になったものと同様に扱うべきであるから,本件行政文書についても,情報公開法に基づく開示を認めるべきである。

4  争点

以上によれば,本件の争点は,次の各点である。

(1)  本件行政文書について,その存否を応答するだけで情報公開法5条2号イ又は同条6号イの規定する不開示情報を開示することとなるか否か。また,同法8条により行政文書の存否を明らかにしないで開示請求を拒否するには,原告の主張するような要件を具備していることを要するか否か。

(争点1)

(2)  被告が情報公開法7条に基づいて本件行政文書を開示しなかったことが違法であるか否か。また,独禁法45条3項との関係で,本件行政文書につき情報公開法に基づく開示を認めるべきか否か。

(争点2)

第3当裁判所の判断

1  争点1について

(1)  本件行政文書の存否を応答するだけで情報公開法5条2号イに該当する情報を開示することとなるか

ア 証拠(乙4)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。

a 公正取引委員会は,独禁法の運用について透明性を確保するとともに,申告への対応を遺漏なきようにすることを目的として,申告の処理に係る申告者からの申出を点検するために,公正取引委員会が指名する委員,事務総長,官房審議官(総務担当)及び官房総務課長をもって構成する審理会を設置している。

b 審理会は,申告の処理に係る申出を受けた場合には,速やかに審査局等から事情を聴取したり,情報管理室に資料の提供を要請するなどして,当該申出に理由があるか否かを点検し,その結果について公正取引委員会に報告するとともに,審査局に連絡することとされている。

情報管理室が上記要請を受けて審理会に提出する資料(文書)には,審査等の進捗状況に応じて,前記「被告の主張」(1)ウのとおりの各種情報が記載されることになる。

c 上記の点検の結果,審理会が申出に理由があるとして公正取引委員会に報告した場合,公正取引委員会は,当該申出に係る審査局の再検討の結果を踏まえて,当該申出に係る申告の取扱いについて判断することとされている。

また,公正取引委員会は,申出を行った者に対し,原則として申出の日から2か月以内に,審理会における点検の結果を文書により連絡することとされている。

イ 以上の事実を踏まえて検討するに,本件行政文書は,「平成14年4月9日付け「申告の処理に係る申出について」に基づき情報管理室が申告処理審理会へ提出した文書」というものであって,上記「申告の処理に係る申出について」(甲1)の記載内容に照らすと,本件開示請求は,本件A協会について原告から申告があり,当該申告の処理に係る申出があったことが前提とされているとはいえ,本件行政文書について,被告がその存否を応答すれば,本件A協会について,他に独禁法違反に係る申告情報が存在するか否か,その申告の処理に係る申出があったか否か,また,本件A協会に対する公正取引委員会の調査活動の有無が明らかとなり,更には調査の進捗状況や具体的な内容等が推測されるおそれが生じるものと認められる。

そうすると,本件行政文書の存否を応答することにより,同協会の信用低下を招き,その事業活動に不利益を与えるおそれがあるというべきであるから,本件行政文書の存否を応答するだけで,同協会の正当な利益を害するおそれがあるものというべきである。

したがって,本件行政文書については,その存否を応答するだけで,情報公開法5条2号イに規定する不開示情報を開示したことになるものと認めることができる。

ウa これに対し,原告は,本件行政文書が調査済みの報告書であって,調査の結果,独禁法違反の事実が認められない場合には,本件A協会の信頼は失われないし,同法違反の事実が認められた場合には,被告により当該違反事実が公開されることから,本件行政文書を開示しても,同協会の正当な利益を害するおそれはないと主張する。

しかし,本件行政文書の存否を明らかにすることにより,同協会について,独禁法違反に係る原告以外の者からの申告情報の存否や,公正取引委員会による調査の有無等の事実が明らかになれば,同協会に同法違反の事実が認められるか否かにかかわらず,同協会の信用を低下させることとなり,その正当な利益を害するおそれがあるというべきであるから,原告の上記主張は理由がない。

b また,原告は,本件A協会が別件損害賠償請求訴訟の判決で独禁法違反の事実を認定されたにもかかわらず,それによって同協会が処分を受けたり,その会員が営業上の不利益を受けたりした事実がないことから,本件行政文書を開示しても,同協会が不利益を被るとは考え難いと主張する。

しかし,公正取引委員会が同協会について同法違反の事実に係る申告及び当該申告の処理に係る申出を受けたか否か,あるいは公正取引委員会による調査があったか否か等が明らかになることにより,同協会の信用が低下して不利益を被るおそれがあることは前記のとおりであり,それは上記主張のような事実があったとしても変わることはないから,なお本件行政文書の開示により同協会の正当な利益を害するおそれがあることは否定できない。

したがって,原告の上記主張は失当である。

c さらに,原告は,本件A協会を独禁法違反により公正取引委員会に申告した事実が既にインターネット上で公開されていることから,本件行政文書を開示しても,同協会の正当な利益を害するおそれはないと主張するが,証拠(甲7)及び弁論の全趣旨によれば,公正取引委員会は,別件不作為違法確認訴訟の事件の表示,事案の概要及び訴訟手続の経過に関する記事をインターネット上で公表していることが認められるものの,同記事は,原告による提訴の事実及び同訴訟における原告の主張を記載するにとどまり,公正取引委員会が原告による申告や申出の事実を公開したものと評することはできず,他に本件A協会に係る申告及び申出が公開されたことを認めるに足りる証拠はないから,原告の上記主張は理由がない。

d 原告は,被疑事業者等が調査を受けたことを知る者以外の者が審理会に提出された文書の開示請求をすることは考え難いとして,本件行政文書の開示による本件A協会の不利益を重視する必要はないと主張するが,情報公開法3条は,何人にも行政機関の保有する行政文書の開示を請求することを認めているのであって,開示請求者の属性や個人的な事情によって,開示請求の対象文書が同法5条2号イに該当するか否かが異なるものではないというべきであるから,原告の上記主張は失当である。

e なお,原告は,情報公開法8条が適用されるためには,①当該文書の存否を応答することにより,ある事実の存在が通常の判断能力を有していれば容易に推定できること,②ある事実の存在が推定されることにより,不利益を受ける蓋然性が高いこと,の2要件を満たすべきであるところ,本件行政文書はこれらの要件を満たしておらず,同条を適用することは違法であると主張するが,かかる主張が失当であることは,後記(3)のとおりである。

(2)  本件行政文書の存否を応答するだけで情報公開法5条6号イに該当する情報を開示することとなるか

ア 公正取引委員会が申告に係る事件について行う審査及び調査活動は,国の機関が行う検査又は取締りに係る事務(情報公開法5条6号イ)に該当するところ,前記(1)アで認定した事実を前提とすれば,本件行政文書の存否について応答することにより,原告によるもの以外の本件A協会に係る独禁法違反の申告情報や,当該申告の処理に係る申出の有無が明らかになるとともに,同協会に対する公正取引委員会の調査活動の有無及び進捗状況等が明らかになり,これによって,同協会が公正取引委員会の調査活動がある程度進展していることを知ることとなれば,その後の調査活動についての対策を講ずる可能性があり,また,公正取引委員会が申告の事実や事情聴取の有無を公表しないことに対する申告者等の信頼を損ない,申告者等に調査活動に対する任意の協力を求めることが困難になるから,公正取引委員会による審査及び調査活動を困難にするおそれがあるというべきである。

したがって,本件行政文書については,その存否を応答するだけで,情報公開法5条6号イに規定する不開示情報を開示したことになるものと認めることができる。

イa これに対し,原告は,本件A協会に係る申告については調査済みであり,独禁法45条3項に基づく通知も行われていることから,本件行政文書を開示しても,公正取引委員会による取締り等の事務に関して正確な事実の把握を困難にするおそれや,不当な行為の発見を困難にするおそれはないと主張する。

しかしながら,同項に基づく通知がされたのは,本件不開示決定の後であるから(甲3),本件不開示決定の違法性の有無の判断に当たって,上記通知があったことを直ちに考慮することはできないというべきであるが,この点をおくとしても,弁論の全趣旨によれば,申告に係る事件の調査について,いったんは違反被疑事実を認定できないことから,同項に基づいて措置をとらない旨通知したものの,その後,他の申告等の情報と併せて違反被疑事実を認定できることとなる場合もあることから,上記通知後も監視活動を継続することもあることが認められる。

そうすると,公正取引委員会による監視活動の継続があり得る段階において,本件行政文書の存否について応答することにより,被疑事業者等がその後行われることが想定される調査活動について事前に対策を講ずる可能性があることなどに照らせば,本件行政文書の存否について応答するだけで,公正取引委員会による審査及び調査活動を困難にするおそれがあるというべきである。

したがって,原告の上記主張は理由がない。

b また,原告は,本件A協会自身が既に独禁法違反の調査を受けていることを知っており,公正取引委員会からも同法違反のおそれがある旨指摘を受けていることから,本件行政文書を開示しても,証拠隠滅等により調査活動に悪影響が生じるおそれはないと主張する。

しかしながら,本件行政文書の存否について応答することにより,同協会が調査の進捗状況等を知ることとなれば,その後の調査活動について対策を講ずる可能性があることは否定できず,公正取引委員会による審査及び調査活動を困難にするおそれがあるというべきである。

したがって,原告の上記主張は理由がない。

c さらに,原告は,被告が原告による申告の事実をインターネット上で公開しており,本件行政文書を開示しても,申告者等の公正取引委員会に対する信頼関係が損なわれることはなく,公正取引委員会の事務の適正な遂行に支障を及ぼすことはないと主張するが,本件A協会に係る申告及び申出が公開された事実を認めることができないことは,前記(1)ウcのとおりであるから,原告の上記主張は失当である。

(3)  情報公開法8条の適用に関する原告の主張について

原告は,情報公開法8条が適用されるためには,①当該文書の存否を応答することにより,ある事実の存在が通常の判断能力を有していれば容易に推定できること,②ある事実の存在が推定されることにより,不利益を受ける蓋然性が高いこと,の2要件を満たす必要があるところ,本件行政文書の場合は上記②の要件を満たしていないから,被告が同条を適用して本件開示請求を拒否したことは違法であると主張する。

しかしながら,原告が同条の適用に当たり,このような明文の定めのない要件を付加すべきとする根拠は明らかでなく,また,本件行政文書の存否を応答することにより同法5条2号イ及び同条6号イに該当する不開示情報を開示したことになることは,前記(1)及び(2)のとおりであるから,原告の上記主張は失当である。

2  争点2について

(1)  原告は,本件行政文書について,開示することが公益上必要であるとして,情報公開法7条に基づく裁量的開示を行うべきである旨主張する。

しかしながら,同条は,不開示情報が記録された行政文書であっても,行政機関の長が,公益上特に必要があると認める場合に,その裁量により,当該行政文書を開示することができることを規定したものであるから,同条による行政文書の開示をしなかった行政機関の長の判断が,与えられた裁量権を逸脱又は濫用するものでない限り,違法となることはないと解される。

そして,原告が本件行政文書を開示することに公益上特に必要があると認められる理由として主張する事情は,要するに,原告が申告した事実は新聞等で報道されるなどしたのであるから,公正取引委員会は独禁法違反行為を認めなかった理由等を説明すべきであるというものであるが,このような事情があるからといって,それだけで本件行政文書を開示することに公益上特に必要があると認めることはできず被告が本件行政文書を不開示としたことが裁量権の逸脱又は濫用に該当するとはいえない。

したがって,情報公開法8条を適用して行政文書の不開示決定をする場合に同法7条が適用される余地があるかについて検討するまでもなく,同条に基づき本件行政文書を開示しなかったことが違法であるとはいえない。

(2)  また,原告は,独禁法45条3項に基づく通知が,通知された者を介して一般に公開される可能性を否定できないとして,情報公開法による開示を認めるべきである旨主張する。

しかしながら,独禁法45条3号の通知が,同法違反行為の申告者の保護を目的とするものであるのに対し,情報公開法による行政文書の開示は,行政の国民に対する説明責任を全うするために,何人も行政文書の開示を請求できるものと規定されているのであるから,開示請求に係る行政文書の開示,不開示についても,同法の定める要件に基づいて判断すべきであって,独禁法45条3項に基づく通知が事実上一般に流布する可能性があるとしても,このことをもって,本件行政文書を情報公開法に基づいて開示すべきであるとはいえない。

したがって,原告の上記主張は失当である。

第4結論

以上によれば,本件不開示決定は適法であり,原告の請求は,理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石井浩 裁判官 森英明 裁判官 丹羽敦子)

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