東京地方裁判所 平成15年(行ウ)379号 判決 2005年7月28日
主文
1 第1事件関係
(1) 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けでした原告の平成9年6月1日から平成10年5月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち,所得金額マイナス1億0921万0432円を超える部分及び翌期へ繰り越す欠損金5億1739万5851円を下回る部分をそれぞれ取り消す。
(2) 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けでした原告の平成10年6月1日から平成11年5月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち,所得金額マイナス39億8270万6381円を超える部分,還付所得税額等1億7598万3194円を下回る部分及び翌期へ繰り越す欠損金44億3239万0752円を下回る部分並びにこれに伴う重加算税賦課決定処分(ただし,平成16年7月30日付け重加算税変更決定処分により一部取り消された後の部分)をそれぞれ取り消す。
(3) 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けでした原告の平成11年6月1日から平成12年5月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち,所得金額マイナス17億3058万3838円を超える部分,還付所得税額等1億3798万6720円を下回る部分及び翌期へ繰り越す欠損金59億5812万9055円を下回る部分並びにこれに伴う重加算税賦課決定処分及び過少申告加算税賦課決定処分をそれぞれ取り消す。
(4) 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けでした原告の平成13年6月1日から平成14年5月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち,翌期へ繰り越す欠損金33億8118万4878円を下回る部分(ただし,平成15年9月3日付け再更正処分により一部取り消された後の部分)を取り消す。
2 第2事件関係
被告が平成15年9月3日付けでした原告の平成12年6月1日から平成13年5月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち,還付所得税額等3億9578万4859円を下回る部分及び翌期へ繰り越す欠損金47億5236万7406円を下回る部分並びにこれに伴う重加算税賦課決定処分をそれぞれ取り消す。
3 全事件関係
(1) 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は,これを4分し,その3を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 第1事件関係
(1) 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けでした原告の平成9年6月1日から平成10年5月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち,所得金額マイナス3億6924万3429円を超える部分及び翌期へ繰り越す欠損金7億7742万8848円を下回る部分をそれぞれ取り消す。
(2) 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けでした原告の平成10年6月1日から平成11年5月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち,所得金額マイナス53億9788万4179円を超える部分,還付所得税額等1億7598万3194円を下回る部分及び翌期へ繰り越す欠損金61億0760万1547円を下回る部分並びにこれに伴う重加算税賦課決定処分(ただし,平成16年7月30日付け重加算税変更決定処分により一部取り消された後の部分)をそれぞれ取り消す。
(3) 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けでした原告の平成11年6月1日から平成12年5月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち,所得金額マイナス48億5281万4411円を超える部分,還付所得税額等1億3798万6720円を下回る部分及び翌期へ繰り越す欠損金107億5557万0423円を下回る部分並びにこれに伴う重加算税賦課決定処分及び過少申告加算税賦課決定処分をそれぞれ取り消す。
(4) 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けでした原告の平成13年6月1日から平成14年5月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち,翌期へ繰り越す欠損金77億7495万7884円を下回る部分(ただし,平成15年9月3日付け再更正処分により一部取り消された後の部分)を取り消す。
(5) 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けでした原告を合併法人とする被合併法人株式会社日本鑑定評価センターの平成11年7月1日から平成12年6月30日までの事業年度の法人税の更正処分のうち,所得金額マイナス1億4789万3580円を超える部分及び翌期へ繰り越す欠損金1億6799万8855円を下回る部分をそれぞれ取り消す。
(6) 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けでした原告を合併法人とする被合併法人株式会社日本鑑定評価センターの平成12年7月1日から平成13年3月29日までの事業年度の法人税の更正処分のうち,所得金額0円を超える部分及び還付所得税額等9417円を下回る部分(ただし,平成15年9月3日付け再更正処分により一部取り消された後の部分)並びにこれに伴う重加算税賦課決定処分(ただし,平成15年9月3日付け重加算税変更決定処分により一部取り消された後の部分)をそれぞれ取り消す。
2 第2事件関係
被告が平成15年9月3日付けでした原告の平成12年6月1日から平成13年5月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち,還付所得税額等3億9578万4859円を下回る部分及び翌期へ繰り越す欠損金98億3691万5269円を下回る部分並びにこれに伴う重加算税賦課決定処分をそれぞれ取り消す。
第2事案の概要
本件は,①支払利息に仮装して役員又は関係者に対する利益供与を行ったとして当該支払額の損金算入を否定して所得金額が加算され,②金銭の支出が帳簿書類に記載された者を通じてその記載された者以外の者にされたとして使途秘匿金課税が行われ,③同族会社がその関係者と法人税の負担を不当に減少させる行為計算をしたとして当該行為計算が否認されて所得金額が加算され,④役員の結婚披露宴の費用は交際費等に当たらず役員に対する利益供与であるとして当該支払額の損金算入が否定されて所得金額が加算され,原告につき5事業年度分及び原告が吸収合併した被合併法人につき2事業年度分の各法人税の更正処分がなされるとともに,重加算税賦課決定処分及び過少申告加算税賦課決定処分がなされたことに対して,これらは課税処分のための要件を欠き違法であるとして,原告がそのそれぞれの取消しを求めている事案である。
これに対し,被告は,第1事件において,渋谷税務署長が平成15年3月14日付けでした原告の平成13年6月1日から平成14年5月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち,翌期へ繰り越す欠損金77億7495万7884円を下回る部分(ただし,平成15年9月3日付け再更正処分により一部取り消された後の部分)の取消しを求める訴えについては,これを却下するとの本案前の答弁をするとともに,原告の請求をいずれも棄却するとの本案についての答弁をしている。
1 役員報酬に関する法人税法等の定め
(1) 平成10年法律第24号による改正前の法人税法(昭和40年法律第34号)34条1項は,内国法人がその役員に対して支給する報酬の額のうち,不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は,その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入しない旨規定し,また,同条2項は,同条1項に規定する報酬とは,役員に対する給与のうち,同法35条4項に規定する賞与(役員に対する臨時的な給与のうち,他に定期の給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額を支給する旨の定めに基づいて支給されるもの及び退職給与以外のもの)及び退職給与以外のものをいう旨規定している。さらに,同法34条1項を受けて,同法施行令69条2号は,株主総会の決議等により報酬として支給することができる金額の限度額を定めている内国法人が,各事業年度においてその役員に対して支給した報酬の額の合計額が当該事業年度に係る当該限度額を超える場合には,その超える部分の金額は不相当に高額な部分の金額とする旨規定している。
(2) 上記改正以後の法人税法34条2項は,内国法人が,事実を隠ぺいし,又は仮装して経理をすることによりその役員に対して支給する報酬の額は,その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入しない旨規定し,また,同条3項は,同条2項に規定する報酬とは,役員に対する給与のうち,同法35条4項に規定する賞与(役員に対する臨時的な給与のうち,他に定期の給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額を支給する旨の定めに基づいて支給されるもの及び退職給与以外のもの)及び退職給与以外のものをいう旨規定している。
2 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者等
ア 原告
(ア) 原告は,昭和56年6月20日,東京都文京区α15番15号を本店として設立された会社であり,経営コンサルティング,有価証券の保有及び運用,不動産の賃貸業等を業とし,その資本金は6552万3000円である(資本金につき乙3)。原告の代表取締役は,P1の妻であるP2であり,取締役には,P1,P3(P1とP2の長男。),P4(P1とP2の長女で,旧姓は○○。),P5(P1の母)及び公認会計士であるP6(以下「P6会計士」という。)が就任している。
(イ) 原告の平成9年6月1日から平成10年5月31日までの事業年度(以下「平成10年5月期事業年度」という。),同年6月1日から平成11年5月31日までの事業年度(以下「平成11年5月期事業年度」という。),同年6月1日から平成12年5月31日までの事業年度(以下「平成12年5月期事業年度」という。)及び同年6月1日から平成13年5月31日までの事業年度(以下「平成13年5月期事業年度」という。)においては,原告が発行する株式合計12万1194株のうち,P1が4万5196株を,P3が3万6000株を,P2が2万7998株を,P4が1万2000株をそれぞれ所有している。平成13年6月1日から平成14年5月31日までの事業年度(以下「平成14年5月期事業年度」という。)においては,原告が発行する株式合計13万3714株のうち,上記4人がそれぞれ上記株式数を所有するとともに,BERNARD HOLDINGS CORP.(英領バージン諸島所在)が9852株を,ハックルベリー・リミテッド(HUCKLEBERRY LIMITED,ベリーズ国所在。以下「ハックルベリー」という。)が2668株をそれぞれ所有するに至っている。いずれにしても,原告は,法人税法2条10号に定める同族会社である(原告の平成14年5月期事業年度の株式所有関係につき,乙4)。
(ウ) 原告は,平成11年5月期事業年度の時点で,株式会社商工ファンド(現在の商号は「株式会社SFCG」。以下「商工ファンド」という。)の株式558万6600株を所有し,簿価として2億9117万4326円を計上していた(乙5)。その前後の時期においても原告が所有する商工ファンド株式数には大きな変動はなく,原告が所有する商工ファンド株式の含み益は,平成9年12月ころにおける同株式の株価4万円を基準として計算すると,2000億円を超えるものとなっていた(原告の所有する商工ファンド株式数の推移につき,乙2の1及び2の2)。また,原告は,平成10年ないし平成11年の時点において,商工ファンド株式の過半数を取得しており,商工ファンドの代表取締役はP1であって,同人がその実権を握っている(乙2の1及び2の2)。
(エ) 原告は,本店を,平成14年5月16日,東京都渋谷区β9番20号へ移転(同月24日登記)し,平成15年7月25日,東京都中央区γ一丁目5番7号YOUビルへ移転し,さらに,平成16年3月15日,同区δ3番6号へ移転(同日登記)した(乙3,52)。
イ 商工ファンド
(ア) 商工ファンドは,昭和53年12月,P1によって設立された会社であり,中小事業者向けの貸付けを主な業務とし,P1が代表取締役である。
(イ) 商工ファンドは,平成元年8月に株式を店頭公開し,平成9年10月に東証二部上場を,平成11年7月には東証一部上場を果たした。
商工ファンドの株価は,平成9年は4万円弱で推移し,平成11年7月に9万4000円の最高値を付けたが,その後持ち上がったいわゆる商工ローン・バッシングの影響もあり,株価は同年11月ころから値を下げ,平成15年5月時点では7000円台で推移していた。
(ウ) 原告は,商工ファンドの筆頭株主であり,平成10年ないし平成11年には商工ファンドの発行済み株式数の過半数を所有しており,その後も約半数を所有し続けている。
(2) 満期米ドル建他社株償還特約・劣後特約付社債(EB債)関係
ア 関与する法人等
満期米ドル建他社株償還特約・劣後特約付社債(EB債)の取引に関与する法人等は,別表1-1の「名称」欄各記載の法人等であり,当該法人等の詳細は,同別表の「所在地」,「準拠法」,「株主」,「役員」,「トラスティー(受託者)」,「分配・償還」又は「分配(償還)」,「ジェネラルパートナー」,「リミテッドパートナー」,「設立年月日」,「設立関与者」,「受益者」欄各記載のとおりである。また,当該法人等が満期米ドル建他社株償還特約・劣後特約付社債(EB債)の取引において果たした役割は,同別表の「法形式上の役割」欄記載のとおりである。
イ 社債発行の概要等
(ア) 原告が発行した満期米ドル建他社株償還特約・劣後特約付社債(EB債)の概要
原告は,平成10年(1998年)2月27日に5000万米ドル及び同年3月6日に6500万米ドルの合計1億1500万米ドル(当時の為替レートを1米ドル127円として換算すると,約146億円となる。)の満期米ドル建他社株償還特約・劣後特約付社債(Exchangeable Bond。以下「EB債」といい,平成10年2月27日及び同年3月6日に発行されたものを,「EB債1」という。)を,利率を年21.25パーセントとし,ドイチェ・バンクAG(以下「ドイツ銀行」という。)を引受人・支払代理人とし,ドイチェ・モルガン・グレンフェル証券会社(現在の名称はドイツ証券東京支店。以下「DMG証券」という。)を計算代理人として,英国ロンドンで発行した。
EB債1は,あらかじめ定められた基準日(平成15年5月15日)に,社債の発行体である原告が保有する他社株である商工ファンド株式の東京証券取引所における1株当たりの終値が4万円未満の場合には,金銭による償還に代えて,社債金額1000万米ドルにつき商工ファンド株式3万1600株をもって社債の元本が償還され,逆に4万円以上の場合には,現金で社債の元本が償還される約定のものである。
また,EB債1には,任意繰上償還条項があり,原告が平成13年2月27日以降平成15年5月15日の15日前の日まで,いつでも社債の全額を額面で償還できることになっていた。
(イ) EB債1の購入者
少なくとも名義上において,EB債1の購入者は,バーチベール・リミテッドパートナーシップ(以下「バーチベールLPS」という。),海外の信託であるクブライカーン・ウルトラ・グロース・ファンド(以下「クブライU/T」という。)及び海外の法人であるシナジープラス・リミテッド(以下「シナジープラス」という。)とされており,バーチベールLPSは平成10年2月27日発行時に5000万米ドル,同年3月6日発行時に2500万米ドル,クブライU/Tは同日発行時に3000万米ドル,シナジープラスは同日発行時に1000万米ドルのEB債1をそれぞれ購入したとされている(EB債1の名義上の購入者については争いがないが,後記のとおり,その真実の購入者については争いがある。)。
(ウ) EB債1の元本に関する資金の流れ
EB債1の元本に関する資金の流れについては,別表2-1のとおりであり,別表3-1の「年月日」欄記載の日に,「支払人」欄記載の者が,「受取人」欄記載の者に対して,「金額」欄記載の金額を,「内容」欄記載の事由により送金又は支払をしているほか,以下のとおりの取引等が行われた。
a アスチュラルート及びダイアモンドルート(以下,両者併せて,単に「アスチュラルート」という。)
(a) 平成10年2月27日発行分
① アスチュラ・インベストメント・リミテッド(以下「アスチュラ」という。)がP1に発行したアスチュラ社債は,額面5940万米ドルのものを5000万米ドルで割引発行したものであり,利率は額面に対して年1.5パーセントである。
② 平成10年2月26日,アスチュラは5000万米ドル分の米国国債を,バーチベールLPSに,品貸し料年5.468パーセントの約定で貸し付けた。
③ P1は,平成10年10月,上記①で取得した5000万米ドルのアスチュラ社債を,クレディ・スイス・ファースト・ボストン証券東京支店を通じてGOユニット・トラスト(以下「GOU/T」という。)に売却した。
(b) 平成10年3月6日発行分
① アスチュラがダイアモンド・トラスト(以下「ダイアモンドU/T」という。)に発行したアスチュラ社債は,額面2960万米ドルのものを2500万米ドルで割引発行したものであり,利率は額面に対して年1.5パーセントである。
② 平成10年3月5日,アスチュラは2500万米ドル分の米国国債をバーチベールLPSに,品貸し料年5.468パーセントの約定で貸し付けた。
b ヤスプルート
クブライU/Tが平成10年3月6日に原告の発行する3000万米ドルのEB債1を購入した資金は,ヤスプ・アシアナ・リミテッドパートナーシップ(以下「ヤスプLPS」という。)を通じてP1,P2,P3及びP4(以下「P1家族」という。)から提供された資金である。
(エ) EB債1の支払利息に関する資金の流れ
EB債1の支払利息に関する資金の流れについては,別表2-2のとおりであり,同別表の「入出」欄及び「出金」欄の各記載のとおり,同欄記載の理由により,同欄記載の日に,同欄記載の利率で,同欄記載の金額の出入金がなされている。
(オ) EB債1の中途買入消却に関する資金の流れ
EB債1の中途買入消却に関する資金の流れについては,別表2-3のとおりであり,別表3-2の「年月日」欄記載の日に,「支払人」欄記載の者が,「受取人」欄記載の者に対して,「金額」欄記載の金額を,「内容」欄記載の事由により送金又は支払をしているほか,以下のとおりの取引が行われている。
a アスチュラルート
バーチベールLPSが米国国債の品貸し契約を終了させるため,EB債1の売却代金により,アスチュラから借り入れていた米国国債について現金で返済することとし,平成12年8月22日,同年9月11日及び同月29日,それぞれ終了契約書に基づいて,2527万7197.22米ドル,3042万3770米ドル及び2034万6306.67米ドルを支払った。
アスチュラは,バーチベールLPSから受領した上記の各金員及び品貸し料により,アスチュラ社債を償還することとし,同年8月22日,ダイアモンドU/Tに2731万4716.66米ドル支払い,また,同年9月14日及び同月29日,同じく社債償還代金としてGOU/Tに,それぞれ3305万1059.99米ドル及び2203万4039.99米ドル支払った。
GOU/Tが,同月22日,後記(カ)のとおりEB債を3300万米ドル分購入したのは,その株式の全部を出資しているジャージー島所在のネルブランド・ファイナンス・リミテッド(以下「ネルブランド」という。)を通じてであった。
b ヤスプルート
クブライU/Tと原告との間では,平成12年5月31日,EB債1を額面額で買い戻す契約が交わされた。
c シナジールート
シナジープラスと原告との間では,平成12年9月29日,EB債1を額面額で買い戻す契約が交わされた。
(カ) 新たなEB債の発行
原告は,EB債1の中途買入消却と連動して,平成12年9月5日及び同月22日,それぞれ2700万米ドル及び3300万米ドルの合計6000万米ドルのEB債(以下「EB債2」という。)をルクセンブルグ大公国において発行した。
EB債2の概要は,次のとおりである。
a その利率は,社債額面金額に対して,平成12年9月5日の2700万米ドルについては1米ドル当たり106.65円で,同月22日の3300万米ドルについては,1米ドル当たり107.25円で,それぞれ日本円に換算した金額に対する円建て年4パーセントの固定利率である。
b EB債2は,商工ファンドの株価が,あらかじめ定められた基準日に,あらかじめ定められた権利行使価格を下回る場合には,満期に元本を現金で償還し,逆に上回る場合には,満期に元本が現金の代わりにあらかじめ定められた株式数の商工ファンド株式で償還される他社株償還特約(後者の場合,発行日から1年後以降満期日の10営業日以前の期間において,社債権者より株式交付指図書が提出された場合,上記の換算レートで換算した金額を発行日の東京証券取引所の商工ファンド株式の終値で除して算出される数の同社の株式により,代物弁済されることになる。)が付されている。
c EB債2の購入者は,ネルブランドである。同社は,EB債1の中途買入消却により得た現金によって余裕資金を生じていたダイアモンドU/T及びGOU/Tがその資金を出資して設立したものである。
(3) β不動産関係
ア β建物の建築
原告は,平成10年2月25日,原告が所有する別紙1記載の各土地(以下「β土地」という。)において,商工ファンドがゲストハウス等として使用する建物(以下「β建物」という。)の建築に着工し,平成11年11月4日にβ建物を完成させた。原告は,β建物の建築費用として,清水建設・佐藤秀共同企業体に対して建築請負代金総額16億2960万円及び株式会社アルキメディア設計研究所に対して設計代金2億1251万4221円等を支払った(乙55の1及び55の2,276)。また,β建物に付随する什器備品購入代金として,3億2261万5676円を支払った。
イ β不動産の売却
原告は,β建物が完成する直前の平成11年11月2日,株式会社日本鑑定評価センター(旧商号はプライベートアイズ株式会社。以下「評価センター」という。)に対して,β土地並びにβ建物及び同建物に付随する什器備品(以下,これらを併せて「β不動産」という。)を売却した(以下「β不動産売買契約」という。)。そして,β不動産売買契約に係る売買契約書において,原告は,評価センターに対し,β土地を,代金9億9923万6667円,β建物及び同建物に付随する什器備品を,代金合計9億8751万2343円(消費税別)の総合計19億8674万9010円で売却した旨の記載がある(なお,後記のとおり,実際の売買代金額については争いがある。)。
(4) ベントリアンローン関係
ア 関与する法人等
評価センターがベントリアン・カンパニー・リミテッド(以下「ベントリアン」という。)から,平成12年1月28日,25億円を,期間10年間,利率年11パーセントの約定で借り入れる旨の金銭消費貸借契約を締結し,同年2月2日に同額を借り入れた取引(以下「ベントリアンローン」という。)に関与する法人等は,別表1-2の「名称」欄各記載の法人等であり,当該法人等の詳細は,同別表の「所在地」,「準拠法」,「株主」,「役員」,「トラスティー(受託者)」,「分配・償還」又は「分配(償還)」,「設立年月日」,「設立関与者」,「受益者」欄各記載のとおりである。また,当該法人等がベントリアンローンの取引において果たした役割は,同別表の「法形式上の役割」欄記載のとおりである。
イ ベントリアンローンの概要等
(ア) ベントリアンローンの概要
評価センターは,β不動産売買契約に基づく約20億円の代金債務の支払原資に充てるため,ベントリアンとの間で,平成12年1月28日,元金25億円,期間10年間,利率年11パーセント,利息の支払日を毎年1月27日とする約定で,「LOAN AGREEMENT」(ローン契約)を締結し,同額の金員を借り入れる旨の金銭消費貸借契約を締結した(乙70)。
(イ) ベントリアンローンに関する資金の流れ
ベントリアンローンに関する資金の流れについては,別表4-1及び同4-2のとおりであり,別表5の「年月日」欄記載の日に,「支払人」欄記載の者が,「受取人」欄記載の者に対して,「金額」欄記載の金額を,「内容」欄記載の事由により送金又は支払をしているほか,以下のとおりの取引が行われている。
a 平成12年1月31日に,ベントラー・カンパニー・リミテッド(以下「ベントラー社」という。)とベントリアンとの間で利息年10.78パーセント,発行額25億円の「BOND PURCHASE AGREEMENT」(社債買取契約)が締結され,また,同日,ベントラー社とコイオス・インベストメント・トラスト(以下「コイオスU/T」という。)のトラスティーであるLGT TRUST MANAGEMENT LIMITED(以下「LGT」という。)との間で利息年3.2パーセント,発行額25億円の「BOND PURCHASE AGREEMENT」(社債買取契約)が締結されているが,両契約書は当該資金の決済後に作成されている。
b 平成12年1月31日に,評価センターとベントリアンとの間で,担保提供者を評価センター,担保権者をベントリアン,担保物件をβ土地及びβ建物とする債権額25億円の抵当権設定契約が締結され,β土地につき同年2月3日,β建物につき同年3月15日,それぞれその旨の仮登記が経由されている(仮登記につき,乙59の1及び59の2,60)。
c 平成12年2月3日,評価センターから原告へ,β不動産の譲渡代金として,遅延利息分を含めた20億7836万2089円が振り込まれた。
d ラファエロ・マネージメント・インク(以下「ラファエロ」という。)に対する出資者は,クリオス・ユニット・トラスト(以下「クリオスU/T」という。)だけであり,また,P3及びP4は,クリオスU/Tの受益権をそれぞれ50パーセントずつ保有している(乙73)。
e P4は,平成11年8月9日以降は所得税法(昭和40年法律第33号)2条1項5号に規定する非居住者であり,P3も同様に,平成14年9月以降は非居住者である。
f 評価センター及び原告のベントリアンローンに係る利息の計上と支払は,別表6-1のとおりであるが,当該利息の計上期間は「計上金額」欄記載の金額が必ずしも「計上年月日」欄記載の日までの利息であるとは限らない。そして,評価センターが平成11年7月1日から平成12年6月30日までの事業年度(以下「平成12年6月期事業年度」という。)において計上したベントリアンローンの支払利息は当該事業年度においてすべて未払であったところ,当該未払額の11分の7.58に相当する額は,別表6-2の①欄のとおり7891万5068円であり,これは,評価センターの平成12年7月1日から平成13年3月29日までの事業年度(以下「平成13年3月期事業年度」という。)において全額が支払われており,また,評価センターの同事業年度におけるベントリアンローンの支払利息計上額の11分の7.58に相当する額は,別表6-2の②欄のとおり1億4121万6438円であり,そのうち3166万9863円は当該事業年度において未払であったところ,これは,原告の平成14年5月期事業年度において全額が支払われており,さらに,原告の平成13年5月期事業年度におけるベントリアンローンの支払利息計上額の11分の7.58に相当する額は,別表6-2の③欄のとおり3270万8219円であり,原告の平成14年5月期事業年度におけるベントリアンローンの支払利息計上額の11分の7.58に相当する額は,別表6-2の④欄のとおり1億8950万円である。
(ウ) 平成13年8月7日以降のベントリアンローンのスキーム像
原告は,株式会社ブルーバード(以下「ブルーバード」という。)から平成13年8月6日につなぎ融資25億1000万円を受け,同月7日にP1の兄弟であるP7,P8,P9及びP10(以下「P114兄弟」という。)が所有するコイオスU/Tの25億円分の受益権を25億2000万円で買い取り,P114兄弟は,同日,合計25億円を,原告発行の無担保普通社債(社債総額25億円,利息年2.9パーセント)の購入代金として原告の口座に振り込んだ。
(5) 21世紀KOBEファンド取引関係
ア 法人税法上の同族会社である原告は,平成12年1月21日(金曜日)に,原告の取締役であるP1が平成9年1月24日に1000万円で購入した株式投資信託である21世紀KOBEファンド(以下「KOBEファンド」という。)1000口を,P1から3151万9000円で購入した。
イ 当該購入価格は,日本経済新聞の平成12年1月22日(土曜日)の朝刊に発表されているKOBEファンドの基準価格である1口当たり3万1519円を基準に計算されたものである。なお,日本経済新聞掲載の当該基準価格は,同月20日(木曜日)の終値を表したものである。
ウ KOBEファンドは,平成12年1月23日(日曜日)に3151万5540円で繰上償還された。なお,繰上償還がされることについては,原告とP1が売買をした同月21日(金曜日)以前に,KOBEファンドの発行会社からP1へ通知がされていた。
エ 原告は,KOBEファンドの繰上償還により次のような金額を計上し,当該取引がなかった場合と比較して,所得金額を161万7126円減少させるとともに,法人税額から161万3665円の所得税額の控除を受けた。
(ア) 租税公課 △ 430万3108円
(イ) 有価証券等売却損 △ 2151万9000円
(ウ) 受取配当金 2151万5540円
(エ) 損金の額に算入した道府県民税利子割額 107万5777円
(オ) 法人税額から控除される所得税額 161万3665円
(カ) 差引合計金額 △ 161万7126円
なお,△はマイナスを表す(以下,同じ。)。
このほか,原告は,P1からKOBEファンドを買い取った際にその代金を同人に振り込む際の振込手数料735円を負担しているが,これについては否認の対象とはされず,損金に算入されたままである。
(6) 交際費関係
平成13年(2001年)8月12日,P4と米国プロ野球(メジャーリーグ)ニューヨーク・メッツの球団オーナーであるP12の子息P13との結婚式及び結婚披露宴が,ニューヨーク市内で行われた。
法人税法上の同族会社である原告は,平成13年5月1日から同年9月7日までに原告の役員であるP4の結婚披露パーティー及びそれに関連する費用総額9843万4026円を仮払金に計上して,その仮払金のうち,平成13年9月30日に個人負担分として5513万7226円につき,P1に対する未払金と相殺し,4329万6800円を交際費に振替処理して,平成14年5月期事業年度の法人税の確定申告書(以下「平成14年5月期確定申告書」という。)を提出した。
なお,被告は,P4の上記結婚披露パーティー費用のうち交際費に計上された4329万6800円(以下「本件結婚披露パーティー費用」という。)の損金性を否認するとともに,当該交際費の損金不算入額を所得金額から減算し,当該交際費を原告の役員であるP1家族に対する役員賞与と認定して損金の額に算入するとともに,法人税法35条1項の規定により当該役員賞与を損金不算入として,所得金額に加算している。
(7) 本件に関する課税当局の調査経過
本件に関する課税当局の調査経過については,別表7のとおりであり,同別表の「年月日」欄記載の年月日の「時間」欄記載の時間に,「場所」欄記載の場所において,「調査担当者」欄記載の者が,「相手側」欄記載の者に対して,「概要」欄記載の調査項目について調査をしている。
(8) 確定申告,修正申告,更正処分及び加算税賦課決定処分等の経緯
ア 原告
(ア) 平成10年5月期事業年度の法人税の更正処分等の経緯
原告は,平成10年7月31日,所轄税務署長に対し,平成10年5月期事業年度に係る法人税の青色申告書である確定申告書(以下,原告が提出した確定申告書又は修正申告書はすべて青色申告書である。)を提出した。この申告による欠損金額は3億8906万3982円,翌期へ繰り越す欠損金は7億9724万9401円であった。
原告は,平成12年6月7日,所轄税務署長に対し,平成10年5月期事業年度に係る法人税の修正申告書(以下「平成10年5月期修正申告書」という。)を提出した。この申告による欠損金額は3億6924万3429円,翌期へ繰り越す欠損金は7億7742万8848円であった。
渋谷税務署長は,平成15年3月14日付けで,原告に対し,平成10年5月期事業年度に係る法人税につき,欠損金額を1196万6945円,翌期へ繰り越す欠損金を4億2015万2364円とする更正処分(以下「平成10年5月期更正処分」という。)をした。
(イ) 平成11年5月期事業年度の法人税の更正処分等の経緯
原告は,平成11年8月2日,所轄税務署長に対し,平成11年5月期事業年度に係る法人税の確定申告書を提出した。この申告による欠損金額は54億3365万4749円,翌期へ繰り越す欠損金は61億6319万2670円,還付所得税額等は1億4117万7822円であった。
所轄税務署長は,平成12年6月30日付けで,原告に対し,平成11年5月期事業年度に係る法人税につき,欠損金額を53億9788万4179円,翌期へ繰り越す欠損金を61億0760万1547円,還付所得税額等を1億7598万3194円とする更正処分(以下「平成11年5月期更正処分」という。)をした。
渋谷税務署長は,平成15年3月14日付けで,原告に対し,平成11年5月期事業年度に係る法人税につき,欠損金額を35億5235万7400円,翌期へ繰り越す欠損金を39億0479万8284円,還付所得税額等を1億1197万9994円とする再更正処分(以下「平成11年5月期再更正処分」という。)及び重加算税2240万円の賦課決定処分(以下「平成11年5月期重加算税賦課決定処分」という。)をした。
日本橋税務署長は,平成16年7月30日付けで,原告に対し,平成11年5月期事業年度に係る法人税につき,重加算税を1021万6500円とする変更決定処分(以下「平成11年5月期重加算税変更決定処分」という。)をした。
(ウ) 平成12年5月期事業年度の法人税の更正処分等の経緯
原告は,平成12年7月31日,所轄税務署長に対し,平成12年5月期事業年度に係る法人税の確定申告書(以下「平成12年5月期確定申告書」という。)を提出した。この申告による欠損金額は48億8652万0291円,翌期へ繰り越す欠損金は107億8927万6303円,還付所得税額等は1億3798万6720円であった。
渋谷税務署長は,平成15年3月14日付けで,原告に対し,平成12年5月期事業年度に係る法人税につき,欠損金額を13億9553万8286円,翌期へ繰り越す欠損金を50億9549万1035円,還付所得税額等を8030万1855円とする更正処分(以下「平成12年5月期更正処分」という。)並びに重加算税1962万4500円の賦課決定処分(以下「平成12年5月期重加算税賦課決定処分」という。)及び過少申告加算税16万1500円の賦課決定処分(以下「平成12年5月期過少申告加算税賦課決定処分」という。)をした。
(エ) 平成13年5月期事業年度の法人税の更正処分等の経緯
原告は,平成13年8月31日,所轄税務署長に対し,平成13年5月期事業年度に係る法人税の確定申告書(以下「平成13年5月期確定申告書」という。)を提出した。この申告による所得金額は0円(平成16年法律第14号による改正前の法人税法57条1項(以下,特に断りがなく法人税法57条を挙げる場合には,同改正前の同条のことを指す。)の規定により損金の額に算入される欠損金額を控除する前の所得金額(以下「繰越欠損金控除前の所得金額」という。)は6億8076万0332円),翌期へ繰り越す欠損金は101億0851万5971円,還付所得税額等は3億9578万4859円であった。
渋谷税務署長は,平成15年3月14日付けで,原告に対し,平成13年5月期事業年度に係る法人税につき,所得金額を0円(繰越欠損金控除前の所得金額を11億1981万2486円),翌期へ繰り越す欠損金を39億7567万8549円,還付所得税額等を3億7682万0059円とする更正処分(以下「平成13年5月期更正処分」という。)及び重加算税663万6000円の賦課決定処分(以下「平成13年5月期重加算税賦課決定処分」という。)をした。
被告は,平成15年9月3日付けで,原告に対し,平成13年5月期事業年度に係る法人税につき,所得金額を0円(繰越欠損金控除前の所得金額を12億8403万5386円),翌期へ繰り越す欠損金を38億1145万5649円,還付所得税額等を3億7682万0059円とする再更正処分(以下「平成13年5月期再更正処分」という。)をした。
(オ) 平成14年5月期事業年度の法人税の更正処分等の経緯
原告は,平成14年9月2日,渋谷税務署長に対し,平成14年5月期確定申告書を提出した。この申告による所得金額は0円(繰越欠損金控除前の所得金額は18億3106万0899円),翌期へ繰り越す欠損金は83億3257万7284円であった。
渋谷税務署長は,平成15年3月14日付けで,原告に対し,平成14年5月期事業年度に係る法人税につき,所得金額を0円(繰越欠損金控除前の所得金額を23億1244万7368円),翌期へ繰り越す欠損金を17億1835万3393円とする更正処分(以下「平成14年5月期更正処分」という。)をした。
日本橋税務署長は,平成15年9月3日付けで,原告に対し,平成14年5月期事業年度に係る法人税につき,所得金額を0円(繰越欠損金控除前の所得金額を14億2630万4740円),翌期へ繰り越す欠損金を24億4027万3121円とする再更正処分(以下「平成14年5月期再更正処分」という。)をした。
イ 評価センター
(ア) 平成12年6月期事業年度の法人税の更正処分等の経緯
評価センターは,平成12年8月31日,所轄税務署長に対し,平成12年6月期事業年度に係る法人税の青色申告書である確定申告書(以下「平成12年6月期確定申告書」という。なお,以下,評価センターが提出した確定申告書又は修正申告書はすべて青色申告書である。)を提出した。この申告による欠損金額は1億4789万3580円,翌期へ繰り越す欠損金は1億6799万8855円であった。
渋谷税務署長は,平成15年3月14日付けで,合併法人である原告に対し,被合併法人である評価センターの平成12年6月期事業年度に係る法人税につき,欠損金額を6897万8512円,翌期へ繰り越す欠損金を8908万3787円とする更正処分(以下「平成12年6月期更正処分」という。)をした。
(イ) 平成13年3月期事業年度の法人税の更正処分等の経緯
合併法人である原告は,平成13年5月29日,所轄税務署長に対し,被合併法人である評価センターの平成13年3月期事業年度に係る法人税の確定申告書を提出した。この申告による所得金額は0円(繰越欠損金控除前の所得金額は1億2354万2239円),翌期へ繰り越す欠損金は4445万6616円,還付所得税額等は9417円であった。
合併法人である原告は,平成13年8月31日,所轄税務署長に対し,被合併法人である評価センターの平成13年3月期事業年度に係る法人税の修正申告書(以下「平成13年3月期修正申告書」という。)を提出した。この申告による所得金額は0円(繰越欠損金控除前の所得金額は1億2866万7807円),翌期へ繰り越す欠損金は3933万1048円,還付所得税額等は9417円であった。
渋谷税務署長は,平成15年3月14日付けで,合併法人である原告に対し,被合併法人である評価センターの平成13年3月期事業年度に係る法人税につき,所得金額を1億7740万8273円(繰越欠損金控除前の所得金額を2億6649万2060円),翌期へ繰り越す欠損金を0円,納付すべき法人税額を5273万2900円,還付所得税額等を0円とする更正処分(以下「平成13年3月期更正処分」という。)及び重加算税1845万9000円の賦課決定処分(以下「平成13年3月期重加算税賦課決定処分」という。)をした。
日本橋税務署長は,平成15年9月3日付けで,合併法人である原告に対し,被合併法人である評価センターの平成13年3月期事業年度に係る法人税につき,所得金額を3630万8451円(繰越欠損金控除前の所得金額を1億2539万2238円),翌期へ繰り越す欠損金を0円,納付すべき法人税額を1040万2900円,還付所得税額等を0円とする再更正処分(以下「平成13年3月期再更正処分」という。)及び重加算税を364万円とする変更決定処分(以下「平成13年3月期重加算税変更決定処分」という。)をした。
ウ(ア) 原告の本件に関する,確定申告,修正申告,更正処分及び加算税賦課決定処分等の経緯は,別表8-1ないし8-5のとおりである。
(イ) 評価センターの本件に関する,確定申告,修正申告,更正処分及び加算税賦課決定処分等の経緯は,別表8-6及び8-7のとおりである。
エ 審査請求及び本訴提起の経緯等
原告は,平成15年3月19日,平成10年5月期更正処分,平成11年5月期再更正処分,平成11年5月期重加算税賦課決定処分,平成12年5月期更正処分,平成12年5月期重加算税賦課決定処分,平成12年5月期過少申告加算税賦課決定処分,平成13年5月期再更正処分,平成13年5月期重加算税賦課決定処分,平成14年5月期更正処分,平成12年6月期更正処分,平成13年3月期更正処分及び平成13年3月期重加算税賦課決定処分について不服があるとして,国税通則法(昭和37年法律第66号,以下「通則法」という。)75条4項1号に基づき,国税不服審判所長に対して審査請求をしたが,裁決がなかったことから,平成15年6月20日,第1事件に係る本訴を提起した。なお,現時点においても,裁決は出されていない。
また,原告は,平成13年5月期再更正処分を不服として,通則法115条1項2号に基づき,平成15年11月17日,平成13年5月期再更正処分及び平成13年5月期重加算税賦課決定処分の取消しを求める第2事件に係る本訴を提起し,平成15年12月2日の第3回口頭弁論期日において,第1事件に係る本訴のうち,平成13年5月期更正処分及び平成13年5月期重加算税賦課決定処分の取消しに係る部分を取り下げた。
さらに,原告は,平成15年12月2日の第3回口頭弁論期日において陳述した準備書面において,一部訴えを変更して,平成13年3月期更正処分について平成13年3月期再更正処分により一部取り消された部分を,平成13年3月期重加算税賦課決定処分について平成13年3月期重加算税変更決定処分により一部取り消された部分をそれぞれ取り下げた。また,原告は,平成16年10月22日の第8回口頭弁論期日において陳述した準備書面において,一部訴えを変更して,平成11年5月期重加算税賦課決定処分について平成11年5月期重加算税変更決定処分により一部取り消された部分を取り下げた。さらに,原告は,平成17年4月14日の第11回口頭弁論期日において陳述した準備書面において,一部訴えを変更して,平成14年5月期更正処分について平成14年5月期再更正処分により一部取り消された部分を取り下げた。
なお,以下,平成10年5月期更正処分,平成11年5月期再更正処分,平成12年5月期更正処分,平成13年5月期再更正処分,平成14年5月期更正処分(ただし,平成14年5月期再更正処分により一部取り消された後の部分),平成12年6月期更正処分及び平成13年3月期更正処分(ただし,平成13年3月期再更正処分により一部取り消された後の部分)を併せて,「本件各更正処分等」といい,平成11年5月期重加算税賦課決定処分(ただし,平成11年5月期重加算税変更決定処分により一部取り消された後の部分),平成12年5月期重加算税賦課決定処分,平成13年5月期重加算税賦課決定処分及び平成13年3月期重加算税賦課決定処分(ただし,平成13年3月期重加算税変更決定処分により一部取り消された後の部分)を併せて,「本件各重加算税賦課決定処分等」という。また,本件各重加算税賦課決定処分等と平成12年5月期過少申告加算税賦課決定処分とを併せて,「本件各加算税賦課決定処分等」といい,本件各加算税賦課決定処分等と本件各更正処分等とを併せて,「本件各処分」という。
(9) 課税処分の根拠の概要
渋谷税務署長及び被告は,次の各理由によって,本件各処分を行ったものである。
ア 原告がEB債1の発行の仕組みを利用して計上した支払利息の一部は,原告の役員に対する役員報酬であり,支給限度額を超えて支給された不相当に高額な役員報酬又は法人税法34条2項の「事実を隠ぺいし,又は仮装して経理をすることによりその役員に対して支給する報酬の額」に当たるので,損金に算入することはできない(平成10年5月期事業年度ないし平成13年5月期事業年度分)。
イ 原告がEB債1の発行の仕組みを利用して計上した支払利息の一部は,金銭の支出が帳簿書類に記載された者を通じてその記載された者以外の者にされているから,使途秘匿金に当たる(平成10年5月期事業年度ないし平成13年5月期事業年度分)。
ウ 原告から評価センターへされたβ不動産の譲渡は,法人税の負担を不当に減少させる行為計算に当たり,法人税法132条1項の規定により否認したので,渋谷税務署長の算定した適正な譲渡対価と原告の譲渡価額との差額は原告から評価センターへの寄附金に当たり,損金算入限度額を再計算する必要がある(平成12年5月期事業年度分)。
エ 評価センターがベントリアンローンの仕組みを利用して計上した支払利息の一部は,関係者への寄附金に当たり,損金算入限度額を再計算する必要がある(平成12年6月期事業年度及び平成13年3月期事業年度分)。
オ 原告がベントリアンローンの仕組みを利用して計上した支払利息の一部は,原告の役員に対する役員報酬であり,法人税法34条2項の「事実を隠ぺいし,又は仮装して経理をすることによりその役員に対して支給する報酬の額」に当たるので,損金に算入することはできない(平成13年5月期事業年度及び平成14年5月期事業年度分)。
カ 原告が償還直前のKOBEファンドをP1から買い取った行為は,法人税の負担を不当に減少させる行為計算に当たり,法人税法132条1項の規定により否認したので,原告の計上する譲渡損は損金に算入することはできない(平成12年5月期事業年度分)。
キ 原告が支払った交際費の一部には,原告の役員の個人的費用を負担したものがあるから,役員賞与に当たり,損金に算入することはできない(平成14年5月期事業年度分)。
ク 上記イの使途秘匿金については,通則法68条1項所定の事情が認められるので,重加算税の対象となる(平成11年5月期事業年度ないし平成13年5月期事業年度分)。
ケ 上記エのベントリアンローンに係る処分に基づく所得金額の増加分については,通則法68条1項所定の事情が認められるので,重加算税の対象となる(平成13年3月期事業年度分)。
コ 上記カのKOBEファンドに係る処分に基づく法人税額の増加分については,過少申告加算税が賦課される(平成12年5月期事業年度分)。
3 争点
本件の主要な争点は次のとおりであり,これに関する当事者の主張は,別紙2のとおりである。
(1) 訴えの利益の有無(平成14年5月期更正処分(ただし,平成14年5月期再更正処分により一部取り消された後の部分)の取消しを求める訴えに訴えの利益があるか否か。)
(2) EB債1に係る処分について
ア EB債1に係る支払利息の性質(EB債1に係る支払利息を損金に算入することができるか否か。)
イ 使途秘匿金課税の可否(シナジープラスに対する支払利息が,使途秘匿金に該当するか否か。)
ウ 重加算税の賦課要件の有無(EB債1に係る本件各重加算税賦課決定処分等に賦課要件があるか否か。)
エ 理由付記不備の有無(EB債1に係る本件各処分に理由付記不備の違法があるか否か。)
(3) 法人税法132条の憲法適合性(法人税法132条は憲法14条1項に違反するものであるか否か。)
(4) β不動産に係る処分について
ア β不動産売買契約の否認の可否(β不動産売買契約は,法人税の負担を不当に減少させる行為計算に当たるか否か。)
イ 理由付記不備の有無(β不動産に係る本件各処分に理由付記不備の違法があるか否か。)
(5) ベントリアンローンに係る処分について
ア ベントリアンローンに係る支払利息の性質(ベントリアンローンに係る支払利息が,寄附金又は役員報酬に当たるか否か。)
イ 重加算税の賦課要件の有無(ベントリアンローンに係る平成13年3月期重加算税賦課決定処分(ただし,平成13年3月期重加算税変更決定処分により一部取り消された後の部分)に賦課要件があるか否か。)
ウ 理由付記不備の有無(ベントリアンローンに係る本件各処分に理由付記不備の違法があるか否か。)
(6) KOBEファンド取引の否認の可否(KOBEファンド取引は,法人税の負担を不当に減少させる行為計算に当たるか否か。)
(7) 交際費の役員賞与該当性(本件結婚披露パーティー費用は役員賞与に当たるか否か。)
(8) 手続違反の有無(本件の調査手続過程に違法があるか否か。)
(9) 処分の算定根拠及び適法性(原告の課税標準等及び税額等はどのようになるか。)
第3争点に対する判断
1 争点(1)(訴えの利益の有無)について
(1) 原告は,第1事件において,平成14年5月期更正処分のうち,翌期へ繰り越す欠損金77億7495万7884円を下回る部分(ただし,平成14年5月期再更正処分により一部取り消された後の部分)の取消しを求めているところ,被告は,原告の平成14年5月期再更正処分後の繰越欠損金控除前の所得金額は14億2630万4740円であり,平成14年5月期確定申告書の繰越欠損金控除前の所得金額18億3106万0899円を下回っており,原告の上記訴えには訴えの利益がない旨主張するので,以下,検討する。
(2) 「翌期へ繰り越す欠損金」(繰越欠損金)とは,「控除未済欠損金」(当該事業年度より前に生じ,法人税法57条の規定により,欠損金が発生した事業年度の翌事業年度以後の事業年度分の所得金額の計算上,損金の額に順次繰り越して算入された残余額であって,当該事業年度の損金の額に算入される各事業年度の欠損金の残高)から「当期控除額」(当該事業年度において,同条の規定により,当該事業年度の損金の額に算入された各事業年度の欠損金の合計額)を減算したものではある。しかし,繰越欠損金額は青色申告書による確定申告書等の申告書に記載されるとともに,その更正処分等においては更正の対象とされており,仮に上記減算の過程に違算があった場合や適格合併等(同法57条2項)の適否についての見解に相違があったために更正処分がなされたような場合には,これを更正の請求又は更正処分の取消訴訟等により是正しない限り,その違算等により不足が生じた部分については翌事業年度の損金の額に算入することができなくなるといった公定力を有する処分であると解される。
そうすると,当該違算等のあった事業年度の翌事業年度以降の事業年度に改めて欠損金が生じた場合であっても,当該違算等による繰越欠損金額について是正しないまま,改めて翌期の事業年度開始の日前5年以内(平成16年法律第14号による改正後の法人税法57条による場合には7年以内)に開始した事業年度において生じた欠損金額を各事業年度ごとの欠損金額を基準にして控除未済欠損金を算定し直して,繰越欠損金額を申告することは,たとえ各事業年度の欠損金額自体についての変更を加えていない場合でも,繰越欠損金額を申告書又は更正処分等に記載することによって,これに関する紛争を当該処分に集約して,爾後の紛糾を回避し,法律関係を早期に安定させるべき要請に反することとなるから,許されないものというべきである。
他方で,当事者は,所得金額に争いがあって,その所得金額を巡って更正の請求をし又は更正処分の取消訴訟を提起するなどしてそれに基因する当該事業年度における繰越欠損金額を争っている場合や,当該事業年度における繰越欠損金額自体に違算等があってこれを巡って更正の請求をし又は更正処分の取消訴訟を提起するなどして争っている場合(以下「一方の争い」という。)には,それに基因して修正されるべきその後の事業年度における繰越欠損金額をすべての事業年度について連続して争うこと(以下「他方の争い」という。)が許され,かつ,その場合に限り,裁判所は一方の争いに関する判決の確定を停止条件として他方の争いに関する判決をも同時に行うことにより,判断の矛盾・抵触を防止することができることになるものというべきである。もちろん,一方の争いに関する判決が確定した場合には,それに基づいて更正の請求又は更正処分が行われることにより,他方の争いも事実上解決する場合があることは否めないが,他方の争いの解決が,そのような更正の請求又は更正処分に限られ,これとは別途に,一方の争いと同時に提起された他方の争いに係る取消訴訟等が訴えの利益を欠く不適法なものとなると解すべきいわれはないものといわざるを得ない。
したがって,被告主張のように,控除未済欠損金から当期控除額を減算する繰越欠損金額の算出過程の計算に違算や誤記がない限り,当期控除額を争うことで繰越欠損金額を修正することしかできず,当期控除額に争いがない場合には,一方の争いと他方の争いとが同時に提訴されている場合であっても,他方の争いについては訴えの利益を欠くことになるものとはいえないというべきである。
よって,少なくとも一方の争いと他方の争いとを同時に提訴している場合には,他方の争いに係る繰越欠損金額の多寡が,今後の更正の請求又は更正処分の可能性を踏まえた上で,当事者の過去の課税関係又は今後の税務申告等に法的な影響を及ぼす可能性があるなど,当該事業年度における繰越欠損金額を争う法律上の利益がある場合に当たる限りにおいて,これを争うことは,当該事業年度の所得金額に争いがない場合や,他方の争いに係る更正処分における所得金額の方が申告所得金額よりも少ない場合であっても,処分を争う訴えの利益という側面からみる限り,その要件を充足し,適法な請求であるというべきである。
(3) もっとも,当該事業年度における繰越欠損金額を争うための主張という側面からみた場合には,当該事業年度における繰越欠損金控除前の所得金額が申告された繰越欠損金控除前の所得金額を下回る場合には,その価額に関する主張部分については,処分の違法事由をおよそ基礎付け得ないので,課税庁に適法な繰越欠損金額の主張・立証を求めることができるとの意味での積極否認事実たり得ず,主張自体失当として,他に違法事由がない場合には,請求棄却を免れないものというべきである。
すなわち,一般的には,納税者において申告が過大であるとしてその誤りを是正するためには,通則法23条所定の期間内に更正の請求をすることが必要とされており,このような場合における納税者の救済は専ら更正の請求によって図られるべきであって,更正の請求という法の求める特別の手続を経由することなしに申告された税額を超えない部分についてまでの取消しを請求することは,申告の錯誤が客観的に明白かつ重大であって更正の請求以外に是正を許さないならば納税者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がない限り,許されないものと解される。そして,この理は,当期控除額が過大であるとしてその誤りを是正して当該事業年度における繰越欠損金額を争う場合にも同様に当てはまるものと解される。
ただし,処分の取消訴訟の場合には,上記特段の事情がない限り,適法な更正の請求の手続を経由することなく取消訴訟を提起したものとして,訴え自体が不適法却下を免れないものと解される。しかし,繰越欠損金額を争う場合には,当該事業年度における繰越欠損金控除前の所得金額の多寡は繰越欠損金額を争う積極否認事実の一内容を構成するにすぎず,一方の争いと他方の争いとを同時に提訴することによって,当該事業年度における控除未済欠損金額についても,やはり積極否認事実の一内容として争うことができる。したがって,当該事業年度における繰越欠損金控除前の所得金額の多寡を争うことが許されないからといって,当然に他方の訴えに係る取消訴訟等を提起すること自体が許されなくなるものではないものといわざるを得ない。そうすると,かかる場合,繰越欠損金額を争う旨の請求に対しては,処分の違法事由の内容いかんにかかわらず,その他の訴訟要件を充足する限りにおいて,請求棄却となることはあり得ても,訴え却下となることはないものというべきである。
(4) そして,本件は,一方の争いと他方の争いとが同時に提訴されている場合に当たり,他方の争いに係る繰越欠損金額の多寡が,今後の更正の請求又は更正処分の可能性を踏まえた上で,当事者の過去の課税関係又は今後の税務申告等に法的な影響を及ぼす可能性があり,当該事業年度における繰越欠損金額を争う法律上の利益がある場合に当たると認められる。
(5) 以上によれば,第1事件において,平成14年5月期更正処分のうち,翌期へ繰り越す欠損金77億7495万7884円を下回る部分(ただし,平成14年5月期再更正処分により一部取り消された後の部分)の取消しを求める原告の訴えも,訴えの利益が認められ,適法な訴えであるというべきである。
2 争点(2)(EB債1に係る支払利息の性質,使途秘匿金課税の可否,重加算税の賦課要件の有無及び理由付記不備の有無)について
(1) 本件のうち,EB債1に係る本件各処分は,EB債1に係る支払利息が,P1家族に対する役員報酬又は使途秘匿金に該当するとして更正処分がなされるとともに,原告が,課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし,又は仮装し,それに基づき納税申告書を提出したとして,上記使途秘匿金課税部分に対して,重加算税の賦課決定処分がなされたというものである。
(2) 被告は,EB債1に係る取引は,具体的な資金需要のない原告が,専ら自らに欠損金を創出して蓄積させるとともに,その欠損金に相当する利益をP1家族に移転するための手段として発行されたものであり,P1家族に対する利益供与を海外の投資家に対する支払利息に仮装したものであって,ただ,原告がP1家族から実際に金員の提供を受け,その管理支配下に置いてその事業の用に供されたことは事実としてあることに基づき,EB債1に係る支払利息のうち,当該事案の実体に応じた適正な金利水準の部分までは正当な支払利息として損金性は認められるとしつつも,その水準を超えて支払われていた部分については支払利息ではなくP1家族に対する利益供与であって,損金算入されない法人税法上の役員報酬に該当する旨主張する。さらに,シナジープラスに支払ったとする利息については,原告が真の受領者を秘匿しそれを特定できないことから,当該利息相当額のうち,上記適正金利水準を超える部分が使途秘匿金となる旨主張する。
これに対して,原告は,被告がEB債1の支払利息のうち一定利率の支払利息までは適正利率として原告による損金算入を認めていることからすると,原告が,EB債1の発行により1億1500万米ドルの資金を調達したこと自体は経済的に合理的な取引であることについては,当事者間で争いがないものと考えられるので,EB債1の年利21.25パーセントの利率が,原告が平成10年2月ないし3月当時,買収資金として1億1500万米ドルの資金調達をしようとしたときに,調達可能であったと考えられる経済的に合理的な金利水準である適正利率であれば,EB債1に係る本件各処分は違法ということになるところ,EB債1の年利21.25パーセントという利率は,EB債1の保有者が引き受けたリスクに見合った正当な利率であるといえるから,仮にEB債1購入のための原資がP1家族から拠出されているといえるとしても,当該支払利息がP1家族に対する役員報酬に当たることはない旨主張する。さらに,シナジープラスはEB債1の利息の真の受領者であるから,シナジープラスへの支払利息が使途秘匿金に当たることはない旨主張する。
そこで,以下,順次検討する。
(3) 本件において,被告は,EB債1の支払利息のうち一定利率分については原告による損金算入を認めている。しかし,この趣旨は,原告がEB債1の発行により,真に他社株償還特約や劣後特約が付された条件の下で,独立した第三者から1億1500万米ドルの資金を調達したとの事実関係を前提とするものではないことはその主張上明らかである。支払利息がP1家族に対する利益供与に当たるか否かを検討するためには,まず,EB債1に係る取引の実体がいかなるものであったかを確定する必要があり,その上で,当該取引の実体に見合った適正利率を検討し,年利21.25パーセントというEB債1の利率がこれを超えるものであるか否か,仮に超えたとした場合に,当該超過部分が被告主張のようにP1家族に対する利益供与とみられるか否かを検討すべきものというべきである。
この点,原告は,本件における取引の実体が当然に原告主張のようなものであることを前提として,当該場合における適正利率の算定のみを本件の争点としてとらえるべきである旨主張しているが,その前提を欠く点において,かかる原告の主張を採用することはできない。
(4) 初めに,EB債1の取引の実体について考察する。
ア EB債1発行に至るまでの経緯等
(ア) 原告が所有する商工ファンド株式の譲渡時に生じるキャピタル・ゲイン課税についてのP1の懸念
a 証拠(乙6,42の1及び42の2)及び弁論の全趣旨によれば,平成6年から平成10年9月にかけてドイツ銀行傘下のグループ企業(以下,ドイツ銀行を含むそのグループ企業全体を「ドイツ銀行グループ」という。)であるDMG証券東京支店金融商品企画部に所属していたP14(現在は「○○」。以下「DMG証券P14」という。)は,平成6年以前からP1と面識があり,同人とビジネス上の取引も行うようになっていたところ,EB債1に関して,平成9年末ころ,P1から原告が発行する社債等のアレンジを依頼され,平成10年のEB債1の発行に現実に携わることとなったこと,DMG証券P14は,平成7年3月1日付けで,ドイツ銀行東京支店のプライベート・バンキング部の担当者に対し,P1は原告が保有している商工ファンド株式を売却したいと考えているが,株式の簿価が非常に低いので多額のキャピタル・ゲインが生じることを懸念していることを伝えるとともに,P1が保有する原告の株式についても,P1から,原告の株式を未上場のまま売却すれば売却益の26パーセントの課税がされるので,原告をどこかの取引所に1年を超える期間上場させて,それにより適用される売却代金の1パーセントの課税制度で済ませたいと相談されたので,P1が最も上場基準が緩い取引所であると考えているルクセンブルグ取引所等に原告を上場した上で原告の株式をP1が所有する他の会社に売却し,当該会社が商工ファンド株式と交換できる担保付きワラント債を投資家に発行するという一連の手続をP1に提案したところ,P1からドイツ銀行グループでこれらを引き受けられるか否かの問い合わせを受けた旨を報告する内容の「覚書」と題する書面を作成していることが認められる。
b 以上の認定事実に加えて,前記前提事実(第2の2)のとおり,原告が所有する商工ファンド株式には千億円単位の多額の含み益が存していたことをも併せて考えれば,P1は,遅くとも平成7年3月時点において,原告が所有する商工ファンド株式の譲渡時に生じる多額のキャピタル・ゲイン課税について懸念するとともに,P1が保有する原告の株式の譲渡益に対する課税を軽減する方策をも具体的に検討していたことが認められる。
c この点,原告は,上記平成7年3月1日付けのDMG証券P14の覚書は,DMG証券P14がP1に対して,積極的かつ執拗に節税策を提案する営業活動を行う立場にあり,現に様々な営業活動をしていたことに照らすと信用できない旨主張する。しかし,証拠(乙6)によれば,上記覚書記載の内容は,「P1氏は,ケン・エンタープライズが所有する「商工ファンド」の株式を売却したいと思っている」というものであることが認められ,P1に商工ファンド株式の売却意思がないにもかかわらずDMG証券P14が営業のためにこれを積極的に売却すべきである旨を仕向けてこれを記載したなどという状況は,迂遠にすぎて考え難いことからすれば,このような記載は,P1が原告の所有する商工ファンド株式を売却したいと思っているというP1の当時の認識を客観的に表したものであると評価できるから,原告の上記主張は採用できない。
さらに,原告は,上記覚書は,EB債1の発行の3年も前のものであり,原告がEB債1を発行した動機と結び付けるには時間的隔絶が余りにも長く生じている旨主張する。しかし,上記のとおり,少なくともP1が平成7年の段階から原告が所有する商工ファンド株式のキャピタル・ゲイン課税について懸念を有していたものであって,また,前記前提事実によれば,商工ファンド株式の含み益はその後3年間を経過しても減少するどころかむしろ株価が上昇して増加していることにかんがみれば,EB債1の発行時点においてP1の上記懸念が払しょくされていたなどとは到底いえない。したがって,原告の上記主張も採用できない。
(イ) 原告による赤字の計上,商工ファンド株式の売却,両者の相殺,赤字計上のための支出金の関係者による収受等についての検討
a(a) 証拠(乙7,10,42の1,43,証人P15)及び弁論の全趣旨によれば,DMG証券のエクイティキャピタルマーケット部門に在籍し,DMG証券P14とともにEB債1の発行のアレンジに携わっていたP15(以下「DMG証券P15」という。)は,平成9年12月24日,原告による社債等の発行概要案を作成して,現在原告の取締役でありEB債1の発行についての原告側の担当者であったP6会計士に対して送付しており,その案の中には他社株転換債(EB債)の発行案が存在し,ここでは,「留意事項」として「発行体による買入償却」まで検討され,さらには,資金調達方法として「普通社債(SB)」,「他社株転換債(EB)」及び「デュアル・カレンシー債(DB)」の3つの方法の提案があり,「他社株転換債(EB)」の「特徴(要点)」として,「クーポンを高く設定できる」と記載され,利率を高く設定できることがEB債の特徴であると挙げられていることが認められる。
(b) 上記(a)の認定事実によれば,EB債は,発行体である資金調達者の支払利息の利率を増加させるということが,メリットであるとして,原告及びDMG証券の双方に認識されていたことを推認することができる。
(c) この点,原告は,上記DMG証券P15が作成した平成9年12月24日付けの社債等の発行概要案の「クーポンを高く設定できる」との表現は,私募形式で社債等を発行する場合に投資家を容易に募ることができるという点で,発行体である原告においても魅力的な特徴であるとともに,P6会計士は,同月16日時点では一般に普通社債(Straight Bond,いわゆるSB)よりも利率が高くなるEB債には否定的であったこと,上記発行概要案を受けた翌日の同月25日時点でもEB債だけではなく,普通社債の発行も検討していたこと,平成10年1月7日時点でも依然として普通社債の発行も検討していたことなどからして,EB債が支払利息額をことさらに増加させる手段として考えられたものであると評価することはできない旨主張し,これにそう証拠として証人P15の証言を挙げる。
しかしながら,上記発行概要案には,クーポン(レート)の設定について,発行体による利息の支払可能額と私募債への投資家の募集可能性との調整といった観点からこれを検討していることをうかがわせる記載は一切なく,上記発行概要案を作成したDMG証券P15自身も,「クーポンを高く設定できる」という記載について正確な記憶はないとして明言を避けているばかりか,P1からは利率は高くてもよいという話があったとも述べているくらいであり,むしろ,「クーポンを高く設定できる」という能動的かつメリットを表す表現によってEB債の特徴が記載されていることからすると,原告主張のような意味でこれが記載されたとみることはできない。その上,平成9年12月16日にP6会計士がDMG証券P14及びDMG証券P15に対して送付したファックスには,「直感的に,SFとは絡めない方が良いのではないか。(EBにはネガティブ)」と記載されているだけ(乙9)であり,P6会計士はEB債の利率の高さを懸念しているわけではなく,また,同人がその後もEB債と普通社債の双方を検討していたとしても,これは,原告による社債等の発行が,この時期,利率その他様々な要素の中で検討されていたにすぎないことを表すだけであるから,原告の前記主張にそう証人P15の証言は,前記(b)の推認を左右しないというべきである。
b(a) また,証拠(乙7)及び弁論の全趣旨によれば,前記発行概要案に回答する形で,P6会計士が平成9年12月25日にDMG証券にあてた原告の社債等発行に関するファックス文書には,「1 KE社債発行」との書き出しで,「4.吸引装置については,名前を入れずに社長の方へ詳細お願いします。」との記載があることが認められる。
(b) そして,上記ファックス文書の趣旨及びその記載からすれば,「KE」とは原告の頭文字であって原告のことを指し,「吸引」される対象は社債等の支払利息であり,よって「吸引装置」とは原告が支払う利息を受け取る存在である投資家を指すものと考えられる。また,「吸引装置」という表現は,利息を収受する投資家が全くの第三者ではなく,当事者が利息を収受するために特別に設定した者を指す表現であると認められる。このような暗号めいた表現が用いられていることは,原告側の会計士であり,EB債1の支払利息を計上する立場の者が,利息を受け取る立場の者について,内密に工作をしていることを示すものであるとともに,P1もまた,当該状況を理解してその工作に加わっていたことを推認することができる。
(c) この点,原告は,「吸引装置」なる表現についてP6会計士には明確な記憶はなく,DMG証券が使用していた用語をそのまま使用した可能性があり,また,EB債1との関連性も不明であって,仮にEB債1に関係するものであるとしても,実際にDMG証券が設立に関与したバーチベール・インベストメント・リミテッド(以下「バーチベール」という。),アスチュラ及び原告の租税特別措置法(昭和32年法律第26号,以下「措置法」という。)66条の6第1項に規定する特定外国子会社等であるコパー・インベストメント・リミテッド(以下「コパー」という。)という3つのSPC(特定目的会社),あるいはダイアモンドU/T及びGOU/Tを含めたP1及びP2からの投資資金の運用を含む一連のスキームを総じて述べたものにすぎない旨主張する。しかし,上記(b)の認定のとおり,上記平成9年12月25日付けのP6会計士のファックス文書が後に発行されるEB債1の発行に関するものであることは明らかであり,「吸引装置」なる表現の意味内容について上記(b)の認定のとおりに解することは十分に合理的であって,これに関する原告の反論は説得性に乏しく,上記認定の合理性に疑いを差し挟むものではない。
c(a) さらに,証拠(乙7)及び弁論の全趣旨によれば,P6会計士が平成9年12月25日にDMG証券にあてた上記ファックス文書には,「5.KEの運用について提案願います。ただし,50~70億円は決まっていますか?」との記載があることが認められる。
(b) 上記(a)の認定事実によれば,上記ファックス文書の趣旨及びその記載からして,社債等の発行による調達資金の運用方法については,いまだ原告には,明確かつ確固たる具体的な使途が決められていたわけではなかったことを推認することができる。
(c) この点,原告は,社債等による調達資金の使途について,この時点では社債等の発行額のうち50億円ないし70億円は当時進行していた企業買収の案件に使用するものとしてその使途がほぼ決定しているが,最終的にはP1が判断することになり,その余の残額について,買収目的のために換金可能な流動性の高い状態に置いておくことを前提に,短期的な運用方法についての提案を受けたい旨を伝えたものにすぎないなどと主張するが,上記ファックス文書の記載内容から,そのように読み取ることはできず,原告の主張を採用することはできないものといわざるを得ない。
d(a) 加えて,証拠(乙7)及び弁論の全趣旨によれば,P6会計士の平成9年12月25日付けの上記ファックス文書の余白にDMG証券の担当者が「1998…2000.5 2001←株売却 40~50 40億円赤字」というメモを記載していることが認められる。
(b) 原告は,上記ファックス文書の余白のメモについて,P1や原告に対して節税策を盛んに提案する営業活動を行っていたDMG証券の担当者が一方的に書いた趣旨不明のメモにすぎない旨主張するが,前記(ア)のとおり,原告が所有する商工ファンド株式の譲渡時に生じるキャピタル・ゲイン課税についてP1が懸念していたことに,上記(a)の認定事実を併せて考慮すれば,原告は,平成9年12月25日時点において,自身に将来40億円から50億円程度の赤字を計上して,その赤字の計上により株式売却益を相殺する方法での商工ファンド株式の売却を計画していたと推認することができるとともに,前記b(b)のとおり,当該赤字を計上するための支出金については,P1がその受取人について工作していたことをも加味して考察すれば,P1は,自身又はその関係者に原告の支払利息を収受させることにより,原告からの支出金がP1又はその関係者以外へ流出することを防止しようとしていたことを推認することができる。
e(a) さらにまた,証拠(甲118,乙45)及び弁論の全趣旨によれば,DMG証券P15の手持ちノートには,「2001年で赤→商工ファンド株の売却を考える。」,「2000年5月で50V円の決損がKEに発生」,「株を売る必要が出てくる」などの記載があること,ここにいう「V」とは億を示す趣旨で記載された符号であることが認められる。
(b) これによれば,原告の欠損と原告の商工ファンド株式の売却とが連動して計画されており,平成12年(2000年)に50億円程度の欠損金が目論まれていたものと評価することができる。
(c) この点,原告は,上記DMG証券P15の手持ちノートは,DMG証券P15が,自分の考えや憶測を一方的に書きなぐったメモにすぎず,DMG証券P15自身も,メモ作成の趣旨は不明であると述べている旨主張するとともに,DMG証券P15のノートは,EB債1発行以前の過程での様々なやり取りのごく一部を記載したものにすぎず,その過程で,ありとあらゆる場合を想定する中で検討課題に上った事項について触れたものにすぎないから信用できない旨主張し,証人P15もその旨証言する。しかし,証拠(甲118)及び弁論の全趣旨によれば,上記のメモは,DMG証券P15が,日々の業務に関する備忘メモとして作成していたものであることが認められることから,その内容は相応に信用できる上,具体的な記載内容をみても,前記d(a)の認定事実ともよく符合することに加えて,前記(a)のような事情はDMG証券P15がP1又は原告から情報提供されることなく憶測で記載することができる情報とは考え難いことからしても,原告の主張及びこれにそう証人P15の証言を採用することはできないものといわざるを得ない。
f 以上によれば,原告は,その所有する商工ファンド株式を将来売却する際,あらかじめ赤字を計上しておき,当該赤字により株式売却益を相殺する方法によりキャピタル・ゲイン課税を免れることについて詳細に検討するとともに,当該赤字を計上するための原告からの支出金について,これをP1又は原告の関係者に収受させる方法について検討していたことが認められる。
(ウ) 債券発行の具体的な内容(債券の種類,金額,発行日,利率等)が決定していなかったにもかかわらず,引受人(投資家)が決まっていたこと
a 証拠(乙9,証人P15)及び弁論の全趣旨によれば,P6会計士が平成9年12月16日にDMG証券P14及びDMG証券P15にあてて送付したファックス文書中に,「債券発行」に関し,既に「引受人が決まっている」から「総額のみ決めて分割起債」することは「全く問題ない」と思うがどうかと「O氏」が質問した旨の記載があること,DMG証券P15がEB債発行の手続に関与した時点においては,既に投資家がアレンジされていたことが認められる。
b 上記ファックス文書には,商工ファンドを指すと思われるその頭文字をとった「SF」,P1を指すと思われるP11姓のイニシャルをとった「O氏」及びEB債を指すと思われる「EB」等の記載があり(乙9),当時原告による社債等の発行のアレンジに当たっていたDMG証券P14及びDMG証券P15にあてられたものであることにかんがみれば,上記ファックス文書は本件に係るEB債の発行に関する連絡文書であると認められる。これによれば,この時点は,前記(イ)a(a)のような社債等の発行概要案が提示される前の段階であって,原告による債券発行の具体的な内容(債券の種類,金額,発行日,利率等)が決定していなかった段階であるにもかかわらず,既にその引受人(投資家)が決まっていたことを推認することができる。そして,このような段階で引き受けることが決まっていたその投資家は,債券発行を企画しているP1本人又はこれと完全に意を通ずるP1家族以外にはおよそ考えられないといわざるを得ない。
c この点,原告は,私募形式で社債を発行する際には,引受金融機関から請求される発行手数料を削減するために,発行体が自ら投資家を見付けて用意することが多く,社債の発行条件(債券の種類,金額,発行日,利率等)も引受金融機関の意見を参考にしながら発行体と投資家とが直接交渉を行ったり,引受金融機関が間に入って発行体・投資家間の交渉を仲介したりして決定されることになるのが通常である旨主張し,これにそう鑑定書や陳述書等の証拠を提出する。しかし,たとえ私募債に関する一般的な事情が原告主張のとおりであるとしても,上記ファックス文書の記載にはそのような留保された前提条件についての記載は一切ないほか,上記(イ)のとおり,P1が原告の発行する社債等の支払利息の受取人についてP1及びその関係者以外に流出しないように工作していたこと,条件交渉の成否いかんによってEB債1の実現の可否が決定されることを全く前提としないで本件におけるスキームが練られていったことをも併せて考察すれば,今後条件を詰めて発行する予定の社債等の引受人は,具体的な名称や人数はともかく,P1又はその関係者として,既にこの時点で確定的に予定されていたものと推認するほかないものというべきである。
原告は,P16から紹介を受けたエクイタブル・インベストメント・リミテッド(以下「エクイタブル」という。)が,商工ファンドの将来の株価に極めて強気な投資家であり,商工ファンド株式を主要資産とする原告の信用リスクについても同様に極めて強気な投資家であったとして,発行条件の詳細が定まらないこの段階であっても,エクイタブルが資金拠出をすることがほぼ確定的であったことから,それを前提として本件のスキームが練られた旨主張するが,かかる原告の主張は,およそ合理的ではない上に,これを裏付けるに足りる証拠もなく,上記推認を左右しないものといわざるを得ない。
原告は,また,平成8年ころからクレディ・スイス信託銀行のシニア・バイス・プレジデントであったP17に債券発行を依頼していたことがあるから,平成9年12月の時点では発行する債券の引受人の見通しが立っていたとしても不自然ではない旨主張する。しかし,上記P17の陳述書には引受人についての具体的な記載は全くなく(甲128),現にEB債1を引き受けたバーチベールLPS(バーチベールをジェネラルパートナーとし,エクイタブルをリミテッドパートナーとするリミテッドパートナーシップ)は平成10年2月にDMG証券P14のアレンジで設立されていること(甲29,弁論の全趣旨),クブライU/T及びシナジープラスは,原告の主張によっても原告自身が見付けてきたものであるとされていることに照らせば,上記P17は,EB債1の投資家の確保について何らの役割も果たしていないことは明らかであって,原告の上記主張を採用することはできず,かかる原告の主張も,上記推認を左右しないものというべきである。
(エ) 発行予定の債券においては他社株償還特約の適用は実際には行わず,期限前に現金による償還をすることが予定されていたこと
a 証拠(乙45)及び弁論の全趣旨によれば,DMG証券P15の手持ちノートには,平成10年1月8日の項目として,原告の発行する社債等が完全なプライベート・ディールであれば,支払代理人,転換代理人は不要と思われるとし,多分転換をしないことが前提と思われる旨の記載があること,「商工ファンドP6先生」に係るものとして,期中については,マーケット・バリューで「買入れ償却」及び額面での「償還条項」があれば「特に株に転換することはないだろう」との記載があること,「水2:45」の項に,「3年目以降100%で償還」,「買入消却は不要(あってもいいか?)」との記載や,株が下がったら額面で買い戻したいが,その合理的理由をどう説明すべきかなどとの記載があることが認められる。
b 上記の認定事実に加えて,後記イ(ウ)b(d)の認定をも併せて勘案すれば,原告が発行するEB債においては,他社株償還特約は実際には行使されることはないものとして当初から予定されていたものであることが推認できる。
c この点,原告は,①上記ノートはDMG証券P15があらゆる事態を想定したメモにすぎない,②その「買入償却は不要」とのメモや同ノートに商工ファンド株式での償還を予定したメモがあることなどから当初から現金での中途償還を確定的に予定していたものではない,③現に原告又は商工ファンドはEB債1の発行後,EB債1の発行に関する契約内容を誤解していたために,契約上認められていない株式による中途償還が可能なものであるとして,中途での商工ファンド株式による償還を検討していたことからもわかるように,現金での中途償還は予定していなかった,④EB債1は中途買入消却されており,中途償還されていないから,当初の予定であるとされるとおりに中途償還がされたわけではないなどとるる主張し,証人P15の証言等にはこれにそう部分も存する。しかし,前記(イ)e(c)のとおり,上記メモは,その内容が相応に信用できる上,具体的な記載内容をみても,全体的に評価すれば,償還が予定されていなかったことは,DMG証券P15自身が弁解するように,転換の可能性は市場動向により左右されるものであるから,株に転換されることはないだろうと予想した(甲118)ようなものではなく,当初から転換しないことを前提に本件のスキームが設計されていたとみるほかない。また,前記(イ)及び(ウ)bのとおり,EB債1の投資家はP1又はその関係者を予定していたものであるところ,上記メモの記載は,これを全くの第三者と偽装したい場合に,第三者であればマーケット・バリューで買入消却及び額面での償還条項があれば株に転換されることはなく,株で償還しない理由の説明がつくとのP6会計士の認識を示したものであるとして十分に理解可能である。さらに,買入消却の条項はなくても実際には当事者間で自由に合意できるが,あっても問題はないところ,これがない場合,株価が下がったときにEB債1を額面で買い戻すための合理的理由をあらかじめ考えておく必要があると事前に検討している旨の記載であるとして,その記載内容は合理的に理解することが可能である。その他,株での償還についての記載も,「大量移動の報告出したくない,1%は10万株/年でしょうかんしていくのも一案」(乙45)とあるとおり,これは当時,一案として検討されたものにすぎず,その後には「転換をしないことが前提と思われる」(乙45)と記載されていることからしても,原告の上記各指摘及びこれにそう証拠は,上記bの推認を左右するものではないものといわざるを得ない。
(オ) 社債発行の直前においても原告が調達資金の明確かつ確固たる具体的な運用計画を持ち合わせていなかったこと
a 証拠(乙11)及び弁論の全趣旨によれば,P6会計士が,平成10年1月7日に,DMG証券P14にあてた質問のファックス文書には,「3.KEは,SPC4のNoteを保有するのではなく,SPC4のエクイティで良いと思います。20%の社債で調達した資金を数%のNoteで運用するというのは変だと思います。」との記載があることが認められる。
b 上記aの認定事実によれば,原告が社債等の発行によって調達した資金の運用方法について,P6会計士は,高い利率で調達した資金を低い利率で運用することを「変だと思う」とコメントし,SPC4のエクイティ,すなわち株式や出資持分の取得で足りると自ら提案していることからして,この時点においても,原告は,明確かつ確固たる調達資金の運用計画を持ち合わせていなかったものであり,同会計士は,調達利率と運用利回りとの対比によって調達資金の運用に逆ざやが生じていることが明らかとなり,原告が調達資金の支払利息を上回る運用収益の獲得等を求めているのではないことが明確化することを避けるため,金利を生む資産への投資を避け,エクイティ投資を提案しているものと評価せざるを得ない。
c この点,原告は,具体的な買収企業が確定していたわけではないが,調達資金を買収目的で使用する意図は有しており,買収に使用するまでの間,資金に流動性を持たせることを前提に,短期的な運用方法についての提案をDMG証券から受けたにすぎない旨主張する。しかし,かかる趣旨を前記aのファックス文書から読み取ることはできないことはもとより,前記(イ)及び(ウ)bのとおり,P1が原告の発行する社債等の支払利息の受取人について,P1及びその関係者以外に流出しないように工作し,今後,条件を詰めて発行する予定の社債等の引受人に,既にP1又はその関係者が確定的に予定されていたことからすれば,原告が,調達資金を機会があれば企業買収の資金に使用したいと考え,買収交渉の席に着くための最低限の手持金として使用することをも意図していたとしても,それは,実質的な出捐を伴わないで原告に赤字を計上する意図で調達された資金についても,これを無駄に遊ばせることなく,可能な限り高い収益を上げるよう運用したいという意向の表れにすぎないとみざるを得ず,詰まるところその程度の運用計画であって,調達資金の明確かつ確固たる具体的な運用計画を持ち合わせていなかったことにおいて,何ら変わりはないものというべきである。
(カ) P1家族が用意できるだけの資金額がそのままEB債1の発行額となったこと
a 証拠(乙12ないし14)及び弁論の全趣旨によれば,前記(オ)aのP6会計士の平成10年1月7日付けファックス文書によるDMG証券P14への質問に対して,DMG証券P14は翌8日にP6会計士にファックスで回答し,P6会計士が更に同年2月2日及び3日にDMG証券P14にファックス文書を送付していること,このうち,同月2日のP6会計士からDMG証券P14にあてたファックス文書には,「④以上の通り,現在即Note引受可能金額は,約$90mmです。」と記載されていることが認められる。
b 前記前提事実のとおりの実際に発行されたEB債1の価額等にかんがみれば,上記「$90mm」とは9000万米ドルを意味するものと考えられるから,上記aの認定事実によれば,P6会計士は,債券の引受者の立場で債券引受可能額をDMG証券に連絡しており,EB債1が,原告に必要な資金に相当する金額を額面として発行されるものではなく,引受者が用意できるだけの資金額がそのままEB債1の発行額となったものであると評価することができる。そして,前記(イ)及び(ウ)bのとおり,原告の発行する社債等の支払利息の受取人としてP1又はその関係者が予定されていたことからすれば,当該金額はこの時点におけるP1家族の余裕資金額のうちEB債1に費やしてもよいと当時P1又はP1家族が考えていた金額であることが推認される。
c この点,原告は,債券の引受人がいなければ,原告は私募形式であるEB債1を発行することができないので,他に引受人が見付からなければ,P1家族が用意できる資金額をEB債1の発行額の一部として予定することは検討すべき選択肢の一つであった旨主張するが,原告のかかる弁解に合理性はなく,上記推認を左右するものではない。
(キ) DMG証券が積極的に支払利息の利率を引き上げようと目論んでいたこと
a 証拠(乙17ないし19)及び弁論の全趣旨によれば,DMG証券は,平成10年1月12日及び19日付けでそれぞれEB債の発行概要案を作成し,同年2月20日にはほぼ最終的な発行概要案を作成していること,上記同年1月19日付けの発行概要案の「留意事項」には,「内包されるオプションの理論値は31.5%。これはクーポンを年間7.5%引き上げる効果がある。」と記載されるとともに,「値決め(基準価格の決定),償還方法の決定にかかる株価の取り方」として,「あまり長い期間をとると,同債券に内包されるオプション価値の低下,すなわちクーポンの引き下げ要因となりうるため留意が必要。」と記載されていることが認められる。
また,証拠(乙45)及び弁論の全趣旨によれば,DMG証券P15は前記手持ちのノートに,「クーポンはBASE>年15%までいけないか」というメモを記載していることが認められる。
b 前記前提事実のとおりの実際に発行されたEB債1の支払利息の利率と原告によるその算定方法等にかんがみれば,ここにいう「BASE」とは,通常の社債発行に伴う金利(他社株償還特約のような特殊な特約に係るオプション料に相当する金利を上乗せする前の基本的な債券の金利)のことを指すものと考えられるところ,上記aの認定事実によれば,それが何とか15パーセントを上回るようにならないかと金利の引上げに腐心していることが読み取れ,DMG証券P15が独断で一見社債の発行体の利益にそぐわないような行動をとるとは考え難いことからして,これは発行体である原告の希望を書き留めたものであると評価することができる。したがって,上記aの認定事実によれば,原告からEB債の発行についてのアレンジを依頼されたDMG証券は,原告の意向に従って,積極的にEB債の支払利息の利率を引き上げようと目論んでいたことを推認することができる。
c この点,原告は,利率の引き上げは,私募形式で社債等を発行する原告にとっても,容易に投資家を募ることができるメリットがあるとか,上記メモには信用性がないとかと主張するが,これらの主張に理由がないことは,前記(イ)a(c)及び(イ)e(c)のとおりである。
(ク) EB債1の投資家が実質的に一人である上,転売も予定されていなかったこと
a 証拠(乙18)及び弁論の全趣旨によれば,DMG証券が作成した平成10年1月19日付けの発行概要案には,「発行費用見積」として,「本件については,投資家が一人であり,かつ転売されないことから,同代理人を置かない方向で検討中。」と記載され,ここにいう同代理人とは「支払代理人」及び「転換代理人」のことを指す旨記載されていることが認められる。
b そして,前記(イ)及び(ウ)bのとおり,原告の発行する社債等の支払利息の受取人は,P1又はその関係者であると認められるから,上記aの認定事実によれば,一人だけの投資家とは,本件に係るスキーム全体を支配するP1であると考えられ,DMG証券はP1の依頼によりP1の資金又はP1の一存で若しくはその意向を汲んで資金運用をP1にゆだねる関係にある者の資金を運用する形でのEB債1の発行を計画していたことを推認することができる。
c この点,原告は,EB債1には支払代理人としてドイツ銀行フランクフルト支店が置かれており,DMG証券の上記発行概要案の記載は現実のEB債1の発行内容と異なるほか,DMG証券は当時EB債1の投資家について把握していなかったはずである旨主張する。しかし,支払代理人の有無は上記概要案では検討中とあるだけで,現実のEB債1の発行とそごしているとはいえないこと,上記発行概要案のような記載が原告又はP1からの指示又は連絡なしにDMG証券が勝手に記載することができる性格の事項ではないこと,上記の認定は前記(ウ)aの認定の内容ともよく符合することなどからして,原告の上記主張を採用することはできない。
原告は,DMG証券P14が,東京国税局の調査担当者に対する供述の中で,EB債1の投資家についてほとんど何も知らないと述べている旨も主張する。しかし,このようなことを述べていたとしても,これは,スキーム策定の最後の段階で加わったクブライU/Tやシナジープラスの実体についての発言であると理解できる(乙42の2)上,DMG証券が設立をアレンジしたものではないこれらの者についてDMG証券P14自身が詳細を知らなくても何ら不自然ではなく,また,これはDMG証券がP1又は原告から「本件については,投資家が一人であり,かつ転売されない」旨伝えられていたことと何ら矛盾するものでもないから,原告の上記主張は前記bの推認を左右するものではない。
(ケ) P1によるEB債1発行の最終意思決定
証拠(乙20ないし24)及び弁論の全趣旨によれば,DMG証券P14は,平成10年2月12日,13日,18日,20日及び26日に商工ファンドの社長としてのP1あてにファックス文書を送付しており,同月20日には発行までの手続がほぼ確定し,EB債1の発行及び引受に係るすべての情報がP1に集められ,P1の意思決定によってその発行が決まったことが認められる。
(コ) EB債1の発行直前でも明確かつ確固たる具体的な企業買収の予定がなかったこと
a 証拠(乙25ないし32,42の2)及び弁論の全趣旨によれば,EB債1の発行までに,DMG証券P14が,詳細にEB債1発行スキームのキャッシュフローについて検討した英文メモが,平成10年2月5日,12日,13日,18日,19日,23日,25日及び同年3月5日に作成されていること,これらはP6会計士にも交付されていること,そのうち同年2月5日付けの英文メモには,「Mr.X」と表記された下に「P1 president」とDMG証券の担当者によるメモが記載され,それがP1であることが明記され,また,「Holding Company」と表記された下に「KEN Enterprise」と,「Listed Company」と表記された下に「SHOKO FUND」と記載され,これらのキャッシュフロー図がEB債1の発行スキームについて書かれたものであることが明記されていること,これらのメモには,原告が1億米ドルの債券を発行し資金を調達するが,その資金はケイマンに設立されたSPC4(コパー)の社債を購入するために使用される予定であると記載されていることが認められる。
b 上記aの認定事実によれば,原告のEB債1による調達資金の全額は,社債に投資する程度の予定等しか組まれていなかったことが認められ,このことからすれば,原告には,EB債1の発行直前の段階でも明確かつ確固たる具体的な企業買収の予定はなかったことを推認することができる。
c この点,原告は,前記aの英文メモは,純粋にDMG証券内部で使用されていた資料であると思われ,誤記ないしEB債1の現実の発行スキームとは異なる点が多々見られること,特に,原告はコパーの株式を取得したのであり社債を購入したわけではないこと,原告がコパー株式購入後に作成された上記平成10年3月5日付けキャッシュフローについて検討した英文メモですら,社債を購入する予定と記載されていること等からしても,DMG証券が勝手に考えた案であり,原告の意図とは無関係である旨主張するが,原告自身も,ある特定の買収案件を念頭に置いてEB債1を発行したものではない旨自認していることにかんがみても,上記主張で指摘する程度の相違は,上記bの認定を左右するものではないというべきである。
イ EB債1の発行に係る組織群の作成
(ア) SPCの各法人等の名称
a DMG証券が作成したEB債1の発行に関する資料やDMG証券の担当者とP6会計士がやり取りをしたファックス文書等(乙11ないし14,20ないし23,25ないし32,34,36,42の1及び42の2,83,84,87ないし90)には,SPC1ないし4やユニット・トラスト(U/T)等といった固有名詞を含まない法人等を意味する記号等が多々記載されている。
b この点について,前記ア(コ)aのDMG証券P14がEB債1発行スキームのキャッシュフローについて検討した,平成10年2月5日,12日,13日,18日,19日,23日,25日及び同年3月5日付けの英文メモにおける,SPC及びユニット・トラスト(U/T)の各記載(乙25ないし32,42の2)と,前記前提事実のとおりのEB債1の実際の発行スキームとを比較すれば,発行に至る過程で作成された様々な文書やスキーム図において表記されたSPC1とはバーチベール,SPC2とはアスチュラ,SPC3とはエクイタブル,SPC4とはコパー,ケイマンに新設されるユニット・トラストとはダイアモンドU/Tを指すものであることが認められる。
c また,DMG証券P14が平成10年2月13日及び18日に本件の社債等の発行に関して商工ファンドの社長としてのP1にあてたファックス文書中にも,新たに設立するSPCの名称について,SPC1をバーチベール,SPC2をアスチュラ,SPC4をコパーとする旨の記載がある(乙21,22)。
(イ) バーチベール,アスチュラ及びコパーについて
証拠(乙42の1,257)及び弁論の全趣旨によれば,DMG証券は,P1の依頼により,EB債1のスキームに関係するSPCとしてバーチベール並びにA及びCから始まるSPCの合計3社(その結果,A,B,Cから始まるSPC3社となる。)を設立したこと,AとCから始まるSPCとは上記(ア)の認定とも併せて考察すればアスチュラとコパーを指すものと考えられること,設立したSPC3社の運営に係る指示権者及びSPCの口座のサイン権者はP1であることが認められる。そして,これらの事実に,コパーはタックスヘイブン地域に所在する原告の措置法66条の6第1項に規定する特定外国子会社等であること(当事者間に争いがない。),後記エのとおり,EB債1の中途買入消却に至る過程で,原告又はP1とEB債1の投資家との間で特殊な償還又は買入消却方法が合意されるなどしていることをも併せて検討すれば,これらのSPC3社はP1が実質的に支配する会社であると評価することができる。
(ウ) エクイタブルについて
a P1により,エクイタブルが,原告の社債等の形式的引受人として準備されたこと
(a) 証拠(乙14)及び弁論の全趣旨によれば,前記ア(カ)aの平成10年2月3日にP6会計士がDMG証券P14にあてたファックス文書には,「SPC1とのLP契約」は「現スキーム」で行うこと,「LPになる海外法人につきましては,別途こちらが用意します。よって,ここについての提案は不要」であることが記載されていることが認められる。
(b) ここにいうSPC1とは,前記(ア)のとおりバーチベールを指し,また,証拠(乙15)及び弁論の全趣旨によれば,バーチベールはジャージー島の登記・登録機関,電話帳,商工人名録に記載されていないいわゆるペーパーカンパニーであると認められるところ,これとリミテッドパートナーシップ契約(LP契約)を締結してリミテッドパートナーになる海外法人については別途原告において用意することが,原告からDMG証券に伝えられており,ここでいう海外法人とは,前記前提事実及び前記ア(ウ)cのとおり,エクイタブルを指すものと認められるから,原告が,このような法人をEB債1の投資家であるバーチベールLPSのリミテッドパートナーとして自ら用意したことを推認することができる。
(c) この点,原告は,エクイタブルは,海外で信託業務を行うP16から紹介を受けたものであり,DMG証券から紹介を受けたものではないことは確かであるが,原告とは無関係の全くの独立した第三者である旨主張する。しかし,前記ア(イ)及びア(ウ)bのとおり,原告の発行する社債等の支払利息の受取人は,P1又はその関係者を予定しており,これはP1又はその関係者そのものである場合もあれば,これらの者が完全に支配する者である場合もあると考えられるから,エクイタブルはそのような者としてP1が用意したものであるといわざるを得ず,原告の上記主張を採用することはできない。
b エクイタブルが,P1の管理支配下にある法人であること
(a) エクイタブルによるEB債1の諸経費の費用負担
① 証拠(乙21)及び弁論の全趣旨によれば,前記ア(ケ)のDMG証券P14が平成10年2月13日に商工ファンドの社長としてのP1あてに送付したファックス文書には,「以下の通りに設定しておきますので,ご検討下さい。」として,SPC1(バーチベール)の設立費用及びパートナーシップ契約に係る費用はエクイタブルが,その他の諸費用はSPC4(コパー)が取引後にまとめて負担する旨,及び,SPC3(エクイタブル)とSPC4(コパー)とのファンド・アドバイザリー契約(Fund Advisory Agreement)における年間手数料を,SPC4(コパー)の「Asset Value×2%+利益の20%」と設定しておく旨の記載があることが認められる。
② コパーは,前記のとおり,タックスヘイブン地域に所在する原告の措置法66条の6第1項に規定する特定外国子会社等であるところ,このようにエクイタブルは,原告の子会社であるコパーとともに,EB債1の発行に関する諸費用を負担することが予定されており,前記a(b)のとおりこのような提案をエクイタブルの設立に関与したわけではないDMG証券がP1からの指示ないしは情報提供なしに一方的に提案するとは到底考えられないことからすれば,現実に費用の支払をしたと否とにかかわりなく,エクイタブルは,P1の管理支配下にある法人であるからこそ,そして,これをP1がDMG証券に伝えたからこそ,このような記載がされたものであると評価することできる。
③ この点,原告は,原告の子会社であるコパーはエクイタブルとの間でファンド・アドバイザリー契約を締結しておらず,前記ア(カ)aのP6会計士がDMG証券P14にあてた平成10年2月3日付けファックス文書でも,「LPになる海外法人につきましては,別途こちらが用意します。よって,ここについての提案は不要です。」と明記しているにもかかわらず,DMG証券が,勝手にエクイタブルをP1が支配する法人と思い込み,エクイタブルに関しての提案を行ってきたものであるとして,これは,DMG証券による営業活動の一環としての提案にすぎないとか,DMG証券P14は,いずれ誰かが行わなければならなかったEB債1発行に関連する諸費用の分担を行ったにすぎないとかと主張するが,これがDMG証券による一方的な提案であるとは到底解せないことは上記②のとおりであるから,原告の上記主張を採用することはできない。
(b) エクイタブルとP1との関連性
① 証拠(乙25,42の2)及び弁論の全趣旨によれば,前記ア(コ)aのDMG証券P14が詳細にEB債1発行スキームのキャッシュフローについて検討して作成した平成10年2月5日付け英文メモには,SPC1(バーチベール)とリミテッドパートナーシップ契約を結ぶリミテッドパートナーたる法人がエクイタブルであると記載され,Mr.XすなわちP1がその株主又は支配者であることが表示され,同メモの説明文においても,当該リミテッドパートナーはP1が所有する既存のSPCとなる旨が記載されていることが認められる。
② そうすると,エクイタブルは,P1が実質的に支配し,その意のままに動かすことができるものであると評価することができる。
③ この点,原告は,前記①の英文メモは,エクイタブルについてほとんど何も知らないDMG証券P14が作成したものであって信用できず,上記英文メモの説明文中の「aquifer」との表記がある部分は「acquire」の誤りであり,「P1の持つ既存のSPCが,リミテッドパートナーシップの持分を取得する権利を有する」と記載されているだけである旨主張し,その主張どおり上記英文メモ上の記載が存在する(乙25)。しかし,P1又は原告からの情報提供なくしてDMG証券P14がかかるメモを作成する理由はなく,また,現実に作成することができる内容のものでもなく,さらには,わざわざその表記を誤記と解すべき必然性もない上に,いずれにしても,上記英文メモのその余の記載とも総合勘案すれば,原告のかかる主張は上記評価を覆すに足りるほどのものではないものといわざるを得ない。そして,このように解することは,DMG証券P14が「エクイタブルに溜まっていく資金や,海外に蓄積される資金について」「知らされていません」と答えていること(乙42の2)とも何ら矛盾するものではない。
(c) バーチベール,アスチュラ,エクイタブル及びコパーとP1との関連性
① 証拠(乙83)及び弁論の全趣旨によれば,P1の依頼を受けたDMG証券P14からの指示でSPC等の新規設立のアレンジを担当したドイチェ・モルガン・グレンフェル信託会社(ドイツ銀行グループのジャージー島所在の法人)のP18は,EB債1発行前に,DMG証券P14から,「このストラクチャーはMr.Ⅹにとって実質的に租税繰延方法である」との説明を受けていたこと,P18は,平成10年1月16日,DMG証券P14に対して送付したファックス文書の中で,SPC1ないし4は株主がチャリタブルトラストであるが,Mr.Ⅹが経済的利益を享受し,実質的に同人がその張本人であるから,ジャージーの当局は同人に関する情報の提供を要求するであろうと記載していることが認められる。
また,証拠(乙84)及び弁論の全趣旨によれば,同月26日にDMG証券P14は,商工ファンドの社長であるP1にあてたファックス文書において,P18の上記判断を受けてジャージーの当局からMr.Ⅹの氏名,住所,職業,生年月日等の情報を開示するよう要請されたことを告げた上で,開示の了解を求めており,また,P1に対し,自分が利権を持つジャージーの会社についての税務問題やP1自身が破産宣告を受けていないこと等について明らかにすることが求められている旨を伝えて,これをジャージーの当局に通知することの許可を求めていることが認められる。
そして,証拠(乙85,86)及び弁論の全趣旨によれば,同月29日にP18が,DMG証券P14にあてたファックス文書には,P1が利権を持つジャージーの会社についての税務問題やP1自身が破産宣告を受けていないこと等について明らかにする確認書の記載例が添付されており,実際にP1がその記載例のとおり作成した確認書の控えがDMG証券に残されていることが認められる。
② そして,前記ア(コ)a,イ(ア)及びイ(ウ)b(b)①のとおり,Mr.XとはP1,SPC1ないし4とはそれぞれバーチベール,アスチュラ,エクイタブル,コパーを指すものと考えられるから,上記の認定事実によれば,海外のSPC等を使用した本件のEB債1に係る取引のスキームが,P1のために租税の繰延べをすることを目的とするものであり,SPC1ないし4は形式的にはチャリタブルトラストが株主となってはいるものの,それらはすべてP1が実質的に支配しているものと評価することができるとともに,P1自身も,同人がSPC1ないし4の権益を保有していることからこそ,同人に関する情報について,実際にジャージーの当局に通知していたと推認することができる。
(d) エクイタブルへの利益の集中
① 証拠(乙87)及び弁論の全趣旨によれば,平成10年1月19日付けのDMG証券P14がP18にあてたEB債1に係るストラクチャーの変更についての連絡文書には,主な変更点として,Mr.Ⅹと海外のユニット・トラストが総計1億米ドルのSPC2(アスチュラ)のノート(社債)を購入すること,SPC4(コパー)は,KE(原告)にノート(社債)を発行することが挙げられるとともに,SPC3(エクイタブル)は,Mr.Ⅹ(P1)がSPC4(コパー)に対して課税がされないようにするために設立するものであること,Mr.Ⅹ(P1)は,原告に対する上記ノートの利払があった時に,日本における原告に対する課税を回避するために,原告の一切の利益をSPC3(エクイタブル)に移転したいと望んでいること,Mr.Ⅹ(P1)は,法律と税金の観点からSPC各社とは可能な限り完全に引き離された状態になることを望んでいること,KE(原告)からSPC1(バーチベール)への利払期間中,SPC1(バーチベール)には多額の余剰現金が残るので,SPC3(エクイタブル)はEB債1の買戻しによってその余剰現金を得たいと考えていること,すべての経費はKE(原告)又はSPC4(コパー)に請求して欲しいこと,DMG証券P14としては,Mr.Ⅹ(P1)の意図を書面で詳細に説明することはできないことを理解して欲しいことをそれぞれ記載していることが認められる。
また,前記(a)①のとおり,本件のEB債1に係るスキームの当初の予定では,原告は,調達資金をコパーの社債を買う形で投資し,コパーがその資金をもって獲得した投資益については,その利益の20パーセント以上をエクイタブルに支払うことが予定されており,このことは,同年2月20日付けのDMG証券P14のP6会計士に対するファックス文書にも記載されている(乙23)。
そして,最終的には,前記前提事実のとおり,エクイタブルは,リミテッドパートナーシップ契約(バーチベールLPS)のリミテッドパートナーとして,ジェネラルパートナーであるバーチベールとの合意に基づき,バーチベールLPSがEB債1に投資することによって生じる利益について,そのすべてを引き受ける権利を有することとされている。
② 上記①の認定事実によれば,エクイタブルは,原告又はP1に代わってその利益を保管する形式的な主体として位置付けることが当初から意図されていたとともに,EB債は当初から満期前に買い戻されることが予定されていたことを推認することができる。
(e) P1家族への利益供与の出口としてのエクイタブルの位置付け
① 証拠(乙88)及び弁論の全趣旨によれば,平成10年1月27日付けでP18からDMG証券P14にあてられたファックス文書には,ジャージー島のOLM弁護士事務所から入手した,本件のストラクチャーからの考え得る「出口ルート」(exit route)についての意見書が添付されているとともに,このストラクチャーを段階的に縮小する際,利益を顧客の家族へ通じさせる「出口ルート」は,リミテッドパートナーシップのリミテッドパートナーを通じることになり,ワラントかオプションの保有を通じて,リミテッドパートナーシップの利権が,ジェネラルパートナーから当該リミテッドパートナーに移転するような仕組みが考えられており,当該リミテッドパートナーの詳細については法律上開示する必要性がなく,その「出口ルート」が,現段階では,当該家族に直接結び付くのか,又は信託や他の支配している企業につながるかが明確にされていないことから,更に検討することが有益である旨の記述があることが認められる。
② 上記①の認定事実によれば,顧客の家族,すなわちP1家族にこのスキームからEB債1の支払利息を流出させる「出口ルート」として,当初からリミテッドパートナーシップ,すなわちバーチベールLPSのリミテッドパートナー,すなわちエクイタブルが企画されていたことを推認することができる。
③ また,証拠(乙89)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。すなわち,まず,平成10年2月3日付けのDMG証券P14からP18あてのファックス文書によって,同日朝にDMG証券P14がP1と会見して確認した事項として,P1がケイマンに新たに2000万米ドルのユニット・トラストを作ること,P1がジャージー以外のどこかにSPC4に相当する法主体(もし,第2案を実行するならSPC3に相当する法主体)を作るのが好ましいと思っていること,もし,第1案を採るのであれば,ジャージーにパートナーシップを設立すべきであること,もし,P1がヘッジファンドをSPC4(コパー)に売却するため,SPC1(バーチベール)による原告への債券代金の支払が2回に分割できないのであれば,ドイツ銀行は個人向け融資を行っていないからP1につなぎ融資はできないので,全体のストラクチャーを2回に分割すべきであり,同月25日に5000万米ドル分だけ行い,同年3月の第1週にもう5000万米ドル分を行うこととすべきであること,P1は,1億米ドルのEB債が一度に発行できるならば,P1からSPC2(アスチュラ),SPC1(バーチベール),そしてKE(原告)への現金の流れは同年2月末までに実行すべきと考えており,残りの部分(SPC4に相当する法主体と出口企業の設立)はその後でも足りると考えていること等を伝えるとともに,DMG証券P14は,ストラクチャーの「出口ルート」として2つのアイデアを提案したいとしてこれを添付した上,ストラクチャー全体を確認するためのP1との最後の会談を東京時間同月4日午後5時30分に行う予定である旨を伝えていることが認められる。そして,上記の添付された2つのアイデア(第1案と第2案)がスキーム図で表されており,第1案は,P1を受益者とする信託がSPC1(バーチベール)のリミテッドパートナーとなるオプションを保有し,その行使によってリミテッドパートナーとなって,利益をP1につなげる「出口ルート」となろうというものであり,第2案は,P1が受益者となる信託であるSPC3に相当する法主体にあてて,SPC1(バーチベール)がパフォーマンスボンドを発行し,SPC3に相当する法主体がSPC1(バーチベール)からその利益分配の形でP1のためにストラクチャーから利益を移転し,かつ,これをP1につなげる「出口ルート」となろうというものであり,両アイデアにおいて,当時,SPC4(コパー)がドイツ銀行とのスワップ取引によって得る利益を,アドバイザリー・フィーの名目でSPC1(バーチベール)又はSPC3(エクイタブル)に吸い取らせ,措置法66条の6第1項に規定する特定外国子会社等になる予定のSPC4(コパー)において原告の所得金額に合算される利益をなくすことが企画されていたことが認められる。
④ 上記③の認定事実及び前記前提事実によれば,原告がコパーの社債を購入した代金でコパーはP1からヘッジファンドを購入するところ,原告が当該社債代金を支払う原資はSPC1(バーチベール)からのEB債の購入代金が充てられることになるので,これが不足する場合には,結局コパーによるP1のヘッジファンドの購入は原資不足から実行できなくなるために,SPC1(バーチベール)によるEB債の購入を2回に分割して代金額を減少させ,1回目の購入代金を原告から順次コパー,P1へと循環させて,再び同じ資金を2回目のEB債の購入のための原資としてP1からSPC1(バーチベール)へと循環させた上で利用することが当初から予定されており,前記前提事実のように,最終的にはコパーがP1から購入するヘッジファンドの価額が700万米ドルに限られたものの,その部分に関しては上記の予定どおりにスキームが実行に移されていること,P1自身が本件でのスキームにおいてSPCに蓄積される利益を自身に流出させる「出口ルート」を作出していたものであること,原告がSPC4(コパー)の株式を保有した場合に,その利益がいわゆるタックスヘイブン税制により原告の所得に合算されることを防ぐため,コパーの利益をも「出口ルート」に移転させることを計画していたこと,前記前提事実のとおり,最終的には第1案での信託の位置に,SPC3(エクイタブル)がオプションを保有する形ではなく,始めからリミテッドパートナーとなる形で設立されたことが認められ,これらを総合すれば,エクイタブルはP1の支配する法人として設立され,本件のスキームに,P1家族に対するEB債1の支払利息の移転機能を果たすためのものとしてP1の決定によって組み込まれたことを推認することができる。
⑤ さらに,証拠(乙90)及び弁論の全趣旨によれば,前記③の平成10年2月4日のDMG証券P14とP1との最後の会談を受けて,DMG証券P14から情報を得たP18が,その情報に基づいて作成したものである,P18発OLM弁護士事務所あてで,DMG証券P14にも参考送付されたファックス文書には,その時点での本件のスキームの最新の決定事項が記載されており,その内容として,顧客はジャージーのリミテッドパートナーシップがこのストラクチャーからの出口のメカニズムとして最も適切なものであるとの結論を下したこと,したがってジャージーの弁護士がリミテッドパートナーシップ契約書の草案を作成する予定であること,当該リミテッドパートナーシップのジェネラルパートナーはSPC1(バーチベール)であり,そのリミテッドパートナーは既存のジャージーの「エクイタブル・インベストメント・リミテッド」であり,その住所は「私書箱○○○,クイーンズ・ハウス,ドン・ロード,セント・ヘリアー,ジャージー,JE48UG」である旨の記載があることが認められる。
⑥ 上記⑤の認定事実によれば,顧客であるP1が,P1家族に利益をつなげる「出口ルート」としてエクイタブルをリミテッドパートナーとするバーチベールLPSのスキームを最終的に決定したことが認められる。
(f) エクイタブルはP1に支配されているが,形式的・表面的にはその支配関係がないように企図されていること
① 証拠(乙45)及び弁論の全趣旨によれば,DMG証券P15の手持ちノートには,平成10年2月3日の項に,「LPと社長の関連を切る形:DMGを間に入れる。→Exit案 Alternativeを作り提案」との記載があることが認められる。
② 上記①の認定事実のほか,前記(e)③及び(e)④のとおりDMG証券P14が上記記載の日と同日に「出口ルート」の案として2案をP1に提案していたことを総合考慮すると,上記ノートの記載は,バーチベールLPSのリミテッドパートナーであるエクイタブルとP1は直接の関係があるにもかかわらず,関係がないことを装うために,DMG証券が「出口ルート」案を複数提示していたことを示すものであるということができる。
③ この点,原告は,上記ノートの「LP」は場合によってはリミテッドパートナーシップ(LPS)を意味することがあるとか,DMG証券P15自身もこのノートの記載は趣旨不明であると述べているなどと主張し,証人P15もその旨供述するが,上記②の認定は,前記(e)③及び(e)④の認定ともよく符合しており十分に了解可能であって,原告の主張を採用することはできない。
また,原告は,平成10年2月24日の段階で,DMG証券P14及びDMG証券P15が,エクイタブルと連絡が取れないというトラブルが生じており,エクイタブルがP1の支配する法人であれば,このような手違いは発生しようがなかったはずであるから,エクイタブルは独立の第三者である旨主張するが,エクイタブルの準備段階においてはP1又は原告側に手違いが生じることもさほど不自然ではないことからして,このような事実が仮に認められたとしても,それだけをもって,すでに述べたとおり,多数の証拠に裏打ちされたエクイタブルがP1の支配下にあるとの認定を左右することにはならない。
さらに,原告は,エクイタブルが独立の第三者であることは,エクイタブルの前管財人P19作成の平成15年(2003年)5月23日付けレターに記載されているように,エクイタブルはジャージー島籍の信託が100パーセントの株式を保有する会社であり,かつ,P1家族及び原告は,当該ジャージー島籍の信託の受益者ではない上,P19は,チャネル諸島所在の投資信託委託会社ニューコート・トラスティーズ・リミテッドに勤務する人物であり,仮に虚偽の事実を申告したとすれば,同社は投資信託委託業の免許を剥奪されるリスクを負っていることからして,その記載内容は信用できる旨主張する。しかし,当該レターも,やはり,上述のとおり多数の証拠に裏打ちされたエクイタブルがP1の支配下にあるとの認定に照らせば,到底信用し難い。これは,エクイタブルの公式な会社設立証書が存在することを考慮したとしても何ら変わるものではない。
c エクイタブルの実態
以上によれば,P1は,原告に赤字を計上するための支出金について,P1又は原告の関係者に収受させる方法について検討していたこと(前記ア(イ)),P1家族が用意できるだけの資金額がそのままEB債1の発行額となったこと(前記ア(カ)),EB債1の投資家は実質的に一人であったこと(前記ア(ク)),P1により,エクイタブルが,原告の社債等の形式的引受人として準備されたこと(前記イ(ウ)a),エクイタブルがEB債1の諸経費の費用負担をすることが当初計画されていたこと(前記イ(ウ)b(a)),DMG証券においても,P1が,バーチベールとリミテッドパートナーシップ契約を結ぶリミテッドパートナーたるエクイタブルを,実質的に支配しているものとし,本件のEB債1に係る取引のスキームが,P1のために租税の繰延べをすることを目的とするものであるとして,本件のEB債1に係るスキームの検討を行っていたものであり,P1も,同人がエクイタブルの権益を保有しているとして,自身に関する情報をジャージー当局に通知していたこと(前記イ(ウ)b(b)及びイ(ウ)b(c)),原告の債券発行に係る具体的な内容(債券の種類,金額,発行日,利率等)が決定していなかったにもかかわらず,バーチベールLPSが引受人(投資家)として決まっており,エクイタブルはそのリミテッドパートナーとして,原告又はP1らに代わってその利益を保管する形式的な主体として位置付けられることが当初から意図され,最終的に,エクイタブルは,本件のスキームに,P1家族に対するEB債1の支払利息の移転機能を果たすためのもの,すなわちP1家族にこのスキームからEB債1の支払利息を流出させる「出口ルート」としてP1の決定によって組み込まれた,利益を収受する存在として設定されたものであること(前記ア(ウ),イ(ウ)b(d),イ(ウ)b(e)),エクイタブルとP1は直接の関係があるにもかかわらず,関係がないことを装うための方策を,DMG証券が当初検討していたこと(前記イ(ウ)b(f))が認められる。そして,そのほか,後記エ認定のとおり,EB債1の中途買入消却に至る過程で,原告又はP1とEB債1の投資家との間で特殊な償還又は買入消却方法が合意されたことも併せて考察すれば,エクイタブルは,P1によって支配されたものであり,本件のEB債1の支払利息をP1家族に移転させるためにP1が用意した,P1又はP1家族のための単なる名義貸しの機能しか果たさない存在であり,本件のスキームに利用した各種の契約形態はすべて利息を収受する存在がP1又はP1家族であることを隠ぺいするために形式的な法主体性と形式的な契約条項によるEB債1に係る支払利息の受領権限を設定するためだけのものとして考案された,実体を表さない不真正なものにすぎないということができる。
(エ) ダイアモンドU/Tについて
a ダイアモンドU/Tの設立
(a) 証拠(乙21,22)及び弁論の全趣旨によれば,前記ア(ケ)のDMG証券P14が平成10年2月13日及び18日に本件の社債等の発行に関して商工ファンドの社長としてのP1にあてたファックス文書には,新たにケイマンに設立するユニット・トラストをダイアモンドU/Tとし,当該ユニット・トラストの設立はP18がアレンジしている旨の記載があることが認められる。
(b) 上記(a)の認定事実によれば,ダイアモンドU/Tは,P1がDMG証券P14に依頼して,P18のアレンジの下に設立させたユニット・トラストであることが認められる。
b ダイアモンドU/TとP1との関連性
(a) 証拠(乙89)及び弁論の全趣旨によれば,前記(ウ)b(e)③の平成10年2月3日付けのDMG証券P14からP18にあてられたファックス文書には,同日朝にDMG証券P14がP1と会見して確認した事項として,P1がケイマンに新たに2000万米ドルのユニット・トラストを作ること,P1は,1億米ドルのEB債が一度に発行できるならば,P1からSPC2(アスチュラ),SPC1(バーチベール),そしてKE(原告)への現金の流れは平成10年2月末までに実行すべきであると考えていたことが認められる。
また,証拠(乙14)及び弁論の全趣旨によれば,前記ア(カ)aの平成10年2月3日にP6会計士がDMG証券P14にあてたファックス文書には,「EBの発行について」として「第1回:$50mm DMG引受→SPC1→SPC2→国内でNote購入」,「第2回:$50mm(3月中) DMG引受→UT(現存分,$30mm)」,上記「第2回」の「DMG引受」との文言に引き続いて行を変えて「→SPC1→SPC2→UT(ケイマン,$20mm)」と記載されていることが認められる。
さらに,証拠(乙100)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,ダイアモンドU/Tの設定費及び管理費を負担していることが認められる。
加えて,前記前提事実のとおり,アスチュラによるバーチベールLPSに対する米国国債の品貸し契約においては,通常,同様の取引において行われるはずの担保金等の差入れが一切なされていないままに品貸しが実行されており,アスチュラは,無担保で,7500万米ドルという金融の常識から到底考えられないような高額の品貸しをしているところ,そのようなアスチュラにダイアモンドU/T,ひいてはその受益者とされるP1及びP2が総額2500万米ドルという巨額の投資をしていることになることが認められる。
(b) 上記(a)の認定事実に上記ファックス文書の趣旨を加味するとともに,前記ア(カ)bと同様に「mm」が百万米ドルを示すと考えられることを併せて勘案すれば,当該文書の記載は原告が発行する社債等の引受人と引受額の記載であり,EB債1の平成10年3月6日発行分のうち3000万米ドルの購入者は,現存のユニット・トラストであり,別の2000万米ドルの購入者は,ケイマンに新設される別のユニット・トラストとすることがこの時点で既に確定していたことを推認することができる。
そして,これと,前記前提事実のとおりの実際に行われたEB債1に係るスキームとを比較・照合すると,上記現存のユニット・トラストとはクブライU/Tであり,上記ケイマンに新設されるユニット・トラストとは,後に原告の指示でDMG証券によって設立がアレンジされるダイアモンドU/Tであることがそれぞれ認められる。
そうすると,いまだ設立されていないダイアモンドU/Tをその発行条件の詳細が定まっていない段階のEB債1の購入に関与させることとしているにもかかわらず,P1は,これを通じたEB債1の購入に至るキャッシュフローが確実に実行されると判断していること,アスチュラのバーチベールLPSに対する米国国債の品貸しには,担保が設定されていないことは,P1及びP2,ダイアモンドU/T,アスチュラ,バーチベールLPSという連鎖的な投資の形態をとる取引には,そもそも担保を必要とするようなリスクを考える必要がないものと関係者に理解されていたことを示すものであることを指摘することができる。このような事情に,前記ア(イ),ア(ウ)b及びア(ウ)cのとおり,原告の発行する社債等の支払利息の受取人はP1若しくはその関係者そのもの又はこれらの者が完全に支配する者が予定されていたことをも総合考慮すれば,ダイアモンドU/Tが受益権者であるP1及びP2に完全に支配され,そのトラスティーは独自の判断権限を一切有さない形式的な存在にすぎないものと評価することができる。
(c) この点,原告は,ダイアモンドU/Tの信託約款によれば,当該ユニット・トラストの投資判断は,出資者であり受益者であるP1ないしP1家族からは独立したトラスティーが行うこととされており,投資対象が合理的なものである限り,結果として,P1や原告が意図した投資先に投資することは不合理ではなく,むしろ,これらのユニット・トラストによる投資が合理的なものとなるように,原告はEB債1の金利を投資家に魅力的なものとする努力を行ってきたものである旨主張する。しかし,上記(b)の認定のとおり,EB債1のスキームへのダイアモンドU/Tの関与の順序は,原告の主張とは全くの正反対であって,原告の上記主張は,そもそもその前提を欠くので,採用することはできない。
また,原告は,ダイアモンドU/Tがそのトラスティーの判断でバーチベールLPSを介して実質的にEB債1の支払利息のうちの一部を取得することになるアスチュラの発行する社債に投資した旨主張し,P1が平成10年2月付けでダイアモンドU/Tにあてた手紙には,トラスティーであるドイチェ・モルガン・グレンフェル(ケイマン)リミテッドは,トラスティーが承認する条件と価格で,アスチュラ社債に,その信託勘定で,独占的に投資するよう,権限を与えられ,かつ,指示されている旨記載されていることが認められる(乙35)。しかし,やはり,これも上記認定と同様,関与の順序が正反対であって,ダイアモンドU/Tが,受益権者であるP1及びP2に完全に支配された存在であることを隠ぺいするために,事後的に形式上設立されたものにすぎないというべきであって,これに関する原告の主張にも理由がないものといわざるを得ない。
さらに,原告は,確かに,ダイアモンドU/Tの設定費及び管理費を,結果として,原告が負担していることは事実であるが,それらの費用を誰が負担したかということと,同U/Tのトラスティーが,受益者や原告から独立して投資判断を行ったか否かということは,全く別個の議論であるとか,社債の発行体が,社債発行のスキームに係る費用を負担することは,私募による場合にはよくあることであるとか,ダイアモンドU/Tの設定費及び管理費は,本来,同U/T内部で負担されるべき性質の費用であり,同U/Tの決算書に反映されるべき費用であって,これはDMG証券が,誤って,原告に負担させるように設定したものであり,結果的に不適正なのであれば,それは専門家たるDMG証券の責任であるとか,ダイアモンドU/Tとしても,自ら負担すべき設定費及び管理費を第三者(原告)が負担してくれるというのにこれを拒否することは,自らの利益を害することであって,受益権を有するP1及びP2との関係で許されないなどと主張するが,これらの原告の主張はそのいずれもが主張自体において不合理であって,証拠に裏打ちされた上記(b)の認定を到底左右するものではない。
(オ) GOU/Tについて
a 証拠(乙36)及び弁論の全趣旨によれば,P1が平成10年2月25日に購入し,同年10月16日及び28日にGOU/Tに売却した5000万米ドルのアスチュラ社債と,同月14日及び26日にGOU/Tから購入した5000万米ドルのGOU/Tの受益権の各取引に関して発せられた,ドイツ銀行グループ内の原告のEB債1に係る連絡メールには,GOU/TがP1の保有するアスチュラ社債を購入する一連の取引について,P1が税務顧問及び法務顧問に検討させて,承認させたことが記載されていることが認められる。
また,前記前提事実のとおり,アスチュラによるバーチベールLPSに対する米国国債の品貸しは,無担保でありながら,P1はそのようなアスチュラに5000万米ドルという巨額の投資をしていたところ,GOU/Tは,そのようなP1保有のアスチュラ社債を躊躇なく取得しているのであって,このことは,前記(エ)bと同様に,P1,GOU/T,アスチュラ,バーチベールLPSという連鎖的な投資の形態をとる取引には,そもそも担保を必要とするようなリスクを考える必要がないものと関係者に理解されていたことを示すものであるというべきである。
b そうすると,GOU/Tが独立したトラスティーの判断により運営されているとは到底考え難く,GOU/Tは,受益権者であるP1によって完全に支配され,そのトラスティーは独自の判断権限を一切有さない形式的な存在にすぎず,初めからP1の決定によってアスチュラ社債を購入したものであると評価すべきである。
c この点,原告は,前記aの連絡メールの信用性を弾劾し,GOU/Tのトラスティーの判断がP1の意思に拘束されていることを示す証拠とはならない旨主張するが,前記前提事実のとおり,当該取引の実体が,P1がアスチュラ社債を所有していたその中間に,GOU/Tの受益権をわざわざ介在させただけのものにすぎず,その他の実体には何らの変更も加えられていないことからすれば,GOU/TのトラスティーがP1から独立した判断を行っていたなどとは考え難いところ,上記連絡メールはその記載の態様や内容からして,ドイツ銀行グループ内の者が憶測で記載したものと考える余地はなく,その信用性が高いものといえるから,原告の主張を採用することはできない。
(カ) クブライU/Tについて
a 前記前提事実のとおり,クブライU/Tの出資者は,ヤスプLPSのみであるところ,証拠(乙37の1ないし6)によれば,ヤスプLPSはP1家族のみがそのリミテッドパートナーであり,ヤスプLPSはクブライU/Tに出資することを目的としていることが認められる。
また,前記(エ)d(a)及び(エ)d(b)のとおり,前記ア(カ)aの平成10年2月3日にP6会計士がDMG証券P14にあてたファックス文書には,現存のユニット・トラストであるクブライU/Tが,平成10年3月に発行するEB債1の3000万米ドル分の投資家(引受人)として記載されていることが認められる。
さらに,証拠(乙25ないし32)及び弁論の全趣旨によれば,EB債1の発行の詳細が決定する以前の平成10年2月5日の段階から,DMG証券によって既にジャージーの信託が3000万米ドル分のEB債1の購入者として記載されていることが認められ,これと前記前提事実のとおりのEB債1の実際のスキームとを照合すれば,このジャージーの信託とはクブライU/Tのことを指すものと認められる。
b 上記aの認定事実及び前記前提事実によれば,クブライU/Tをいまだその発行条件の詳細が定まっていないEB債1の投資家(引受人)として関与させることとしているにもかかわらず,P1は,これを通じたEB債1の購入に至るキャッシュフローが確実に実行されると判断していること,前記前提事実のとおり,P1家族がヤスプLPSに出資した金額がそのままクブライU/Tに出資され,クブライU/Tがほぼその金額をEB債1の購入資金に充てていることが認められる。さらに,前記ア(イ),ア(ウ)b及びア(ウ)cのとおり,原告の発行する社債等の支払利息の受取人はP1若しくはその関係者そのもの又はこれらの者が完全に支配する者が予定されていたことのほか,後記エ認定のとおり,EB債1の中途買入消却に至る過程で,原告又はP1とEB債1の投資家との間で特殊な償還又は買入消却方法が合意されるなどしていることも併せて考察すれば,クブライU/Tが,唯一の受益権者であるヤスプLPSの利益の唯一の享有主体であるリミテッドパートナーのP1家族に完全に支配され,クブライU/Tのトラスティーは独自の判断権限を一切有さない形式的な存在にすぎないものと評価することができ,P1家族により,クブライU/Tが,P1家族のための名義貸しとして,原告のEB債1の形式的引受人に組み込まれたことを推認することができる。
よって,クブライU/Tは,真の投資家がP1家族であり,原告が支払う利息がP1家族に帰属する事実を覆い隠すための存在にすぎないものというべきである。
c この点,原告は,クブライU/Tの信託約款によれば,当該ユニット・トラストの投資判断は,出資者であり受益者であるヤスプLPSないしはP1家族からは独立したトラスティーが行うこととされており,投資対象が合理的なものである限り,結果として,P1や原告が意図した投資先に投資することは不合理ではなく,むしろ,当該ユニット・トラストによる投資が合理的なものとなるように,原告はEB債1の金利を投資家に魅力的なものにする努力を行った旨主張するが,証拠に裏打ちされた上記bの認定に照らせば,道筋は全く反対であって,原告の主張を採用することはできない。
(キ) シナジープラスについて
a 証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば,シナジープラスはマン島所在の法人とされるところ,その株主等の詳細は不明であり,登記・登録機関ではその実体を確認できず,電話帳にも商工人名録にも登録されていないことからして,いわゆるペーパーカンパニーであると認められる。これは,シナジープラスの公式な会社設立証書が存在することを考慮したとしても何ら変わるものではない。
また,証拠(乙28,29,31,42の2,46)及び弁論の全趣旨によれば,DMG証券P14は,遅くとも平成10年2月18日までに,バーチベールLPS及びクブライU/Tのほかに,1000万米ドル分のEB債1を購入する投資家を名称不明のままスケジュールに組み込んでいたこと,商工ファンドの代表取締役としてのP1からDMG証券P14に同月23日にあてられたファックス文書によって,P1は,EB債1の申込者としてシナジープラスの名称や所在等の詳細を伝えたこと,これを受けて,DMG証券P14は,シナジープラスを投資家に追加してEB債1の発行スキームに関する同月25日付けの英文メモを作成したことが認められる。
さらに,証拠(乙47)及び弁論の全趣旨によれば,EB債1の利払の当時,原告が利息を米ドル以外の通貨で支払うことを希望し,投資家も原告が望む通貨であればいかなる通貨でも支払利息として受け入れると同意しているとの記載がある文書がDMG証券に存在していることが認められる。
b 前記前提事実のとおり,EB債1の利息は米ドルで支払うことは原告と投資家の双方を拘束しているEB債1の条件であるところ,投資家側が発行体の言いなりになって,発行体の望むいかなる通貨での支払をも認めることは通常では考え難いこと,前記ア(イ),ア(ウ)b及びア(ウ)cのとおり,原告の発行する社債等の支払利息の受取人はP1若しくはその関係者そのもの又はこれらの者が完全に支配する者が予定されていたこと等のほか,後記エ認定のとおり,EB債1の中途買入消却に至る過程で,原告又はP1とEB債1の投資家との間で特殊な償還又は買入消却方法が合意されるなどしていることも併せて考察すれば,シナジープラスは原告又はP1家族と関係のある者であって,P1家族又はその関係者が実質的に支配するものであると評価することができる。
c この点,原告は,上記DMG証券の文書(乙47)は,当該文書の作成日時,宛先及び差出人が不明であって,証拠としての信用力が認められない旨主張するが,当該文書は,DMG証券の書類箱に保存されていたものであり(乙105),その内容も具体的であって,原告,P1又はDMG証券しか知り得ない内容のものであり,その内容からしてもDMG証券のEB債1に係る事務を担当していた者がメモとして記載したものであることは明らかであるから,その内容に信用性はあるものというべきである。
また,原告は,EB債1の発行時に為替予約をすれば,為替リスクは問題にならない旨も主張するが,米ドル以外のどの通貨を想定して為替予約をすべきなのかが明らかではないなどといった点でおよそ現実性がない主張であって,採用できない。原告は,実際には,EB債1の利息は米ドルで支払われており,最終的に,EB債1の投資家が原告側の要望に合意しなかったことは明らかであるとも主張するが,これは当初なされた合意が,その後の何らかの事情により,履行の必要性を欠くに至ったことから実行されなかったという結果論にすぎず,少なくとも当初の段階でこのような合意があったと認められる以上は,かかる原告の主張は前記a及びbの認定を左右しないものというべきである。原告は,米ドル以外の通貨での利払の検討は原告内部でのものにすぎないとも主張するが,上記メモの記載内容からして,このような主張はおよそ採用できない。
さらに,原告は,シナジープラスの取締役P20が,P1家族及び原告は,シナジープラスに対していかなる受益権も有していないと述べている(甲31の2)旨も主張するが,前記a及びbの種々の証拠に裏打ちされた認定に照らして信用できない。
(ク) EB債1に係る組織群の役割
a アスチュラルートの組織群の役割
(a) 前記(ウ)のとおり,エクイタブルはバーチベールLPSの唯一のリミテッドパートナーであり,リミテッドパートナーシップ契約により,バーチベールLPSが投資した7500万米ドル分のEB債1に係る21.25パーセントの利息額のうち,15.782パーセント相当額を受領してデフォルトリスク及び商工ファンド株式による元本償還による損失を負担するリスクを引き受けているとされるところ,当該利息のうち残りの5.468パーセントについては,すべてアスチュラからの米国国債の品借り料としてアスチュラに支払われているから,バーチベールLPSには1円も残らず,資金フローのパイプ役を担うだけであり,また,証拠(乙34)によれば,DMG証券がEB債1に係るキャッシュフローのスケジュールを作成しており,前記組織群に対して,資金を,いつ,いくらを,どのように流せばよいのかの予定を作成していることが認められ,これらによれば,バーチベール及びこれをジェネラルパートナーとするバーチベールLPS並びにアスチュラは,最初から定められた資金の受渡しを行っていただけの形式的な存在にすぎないものと評価することができる。
(b) そして,EB債1による資金取引の3分の2を占めるアスチュラルートについては,EB債1の発行及び引受に係るすべての情報はP1に集められ,P1の意思決定によってその発行が決まったものである(前記ア(ケ))ところ,バーチベール,アスチュラ及びコパーの3社はP1が実質的に支配する会社であり,最初から定められた資金の受渡しを行っていただけの形式的な存在にすぎないこと(前記(イ),(ク)a(a)),P1により,P1又はP1家族が実質的に支配するエクイタブル,ダイアモンドU/T及びGOU/Tが,原告のEB債1の形式的引受人又はこれにP1若しくはP1家族の資金を提供するためだけの形式的な存在として準備されたこと(上記(ウ)ないし(オ)),原告の債券発行に係る具体的な内容(債券の種類,金額,発行日,利率等)が決定していなかったにもかかわらず,バーチベールLPSが引受人(投資家)として決まっており,エクイタブルはそのリミテッドパートナーとして,原告又はP1らに代わってその利益を保管する形式的な主体として位置付けることが当初から意図され,最終的に,エクイタブルは,本件のスキームに,P1家族に対するEB債1の支払利息の移転機能を果たすだけのもの,すなわちP1家族にこのスキームからEB債1の支払利息を流出させる「出口ルート」としてP1の決定によって組み込まれた,利益を収受する存在として設定されたものであること(前記ア(ウ),イ(ウ)b(d),イ(ウ)b(e))からして,アスチュラルートに係る組織群の役割は,原告からP1家族に対する利益供与を,EB債1の支払利息の海外投資家に対する支出の形に仮装して,当該利益供与額を,国税当局に把握されることなく,P1又はP1家族が自ら支配するストラクチャー内に無税で留保するためのいわゆる導管体にすぎないものであるというべきである。
b ヤスプルート及びシナジールートの組織群の役割
上記a(b)のような諸事情のほか,クブライU/Tは,P1又はP1家族に完全に支配され,そのトラスティーは独自の判断権限を一切有さない形式的な存在にすぎないものであること(前記(カ)),シナジープラスは原告又はP1家族と関係のある者であって,P1家族又はその関係者が実質的に支配するものであること(前記(キ))を併せて考慮すれば,EB債1に係る取引におけるヤスプルート及びシナジールートにおいても,アスチュラルートと同様に,導管体としての役割が果たされているものということができる。
ウ EB債1発行後の事情
(ア) 証拠(乙8)及び弁論の全趣旨によれば,平成10年7月6日付けのDMG証券作成の「メモランダム」と題する書類には,「ご依頼の件」として,「目的」は「KEが保有するSF株式を新たに海外に設立するSPC(海外持株会社)に移転(売却)する。KEがSPCに売却する株数は,その売却益を非課税とするために,蓄積する損金と売却益が同額となる分と仮定する。また,KEに蓄積される損金を増加させるために,KEは発行済みのExchangeable Bonds(EB)の利払金を新たな債券発行により調達する。」,「スキーム」は「海外に設立するSPC(持株会社)に対して株式を時価で売却,当該持株会社は株式購入資金をP1社長が直接又は間接的に手当てをすることを前提とすると,スキーム自体は以下のように極めて単純なものとなる。」などと記載されていることが認められる。
(イ) ここにいう「KE」とは原告,「SF」とは商工ファンド,「P1社長」とはP1のことをそれぞれ指すものと考えられることから,上記の認定事実によれば,原告は,EB債1発行から4か月程度後の平成10年7月6日ころ,DMG証券に対して,当時原告が商工ファンド株式を新たに海外に設立するSPC(海外持株会社)に移転(売却)した際に,その売却益に対して法人税が課せられないようにするため,欠損金の蓄積を増加して所得を減少させる方法についての検討を依頼していたことが認められる。
(ウ) この点,原告は,上記メモランダムはDMG証券の営業活動の一環として作成されたものにすぎず,原告の意図を示すものではなく,現に,DMG証券P14自身も,様々な営業活動を行っていたとか,原告は,現実には当該メモランダムに記載されているような,海外持株会社を設立してはいないとか,商工ファンド株式も売却してはいないなどと主張する。しかし,当該メモランダムの記載内容からは,これがDMG証券の一方的な意向を示したものにすぎないと認める余地はなく,現実の海外持株会社の設立や商工ファンド株式の売却がないことについても,当該メモランダムは当時の予定として記載されたものにすぎないことからその後の実際の動向と一致していなくても不自然ではないことからして,原告の上記主張を採用することはできない。
エ EB債1の中途買入消却の経緯等
(ア) 前記前提事実のとおり,原告は,EB債1の発行から約2年半程度経過した段階の,いまだEB債1の任意繰上げ償還条項の適用を受けない時期である平成12年5月ないし9月の時点で,各投資家との相対取引によりEB債1を額面額で買い取り,当該債券を中途買入消却しているところ,証拠(乙38ないし40)及び弁論の全趣旨によれば,既に平成11年11月24日の時点で,DMG証券のP21(以下「DMG証券P21」という。)は,DMG証券のP22に対して,原告がEB債1を社債権者から買い取ることを望んでいるとして,その手続について原告から問い合わせを受けていること,原告は既に買戻しについて何人かの社債権者と合意していると伝えていること,DMG証券P21は,同年12月14日に上記P22に対して,原告が支払代理人であるドイツ銀行を通さずに,直接自らの取引銀行の口座から社債権者の口座に買戻しの代金を支払うことを社債権者が希望している旨原告から伝えられているとして,その手続に問題はないかを問い合わせていること,商工ファンドのP23(以下「商工ファンドP23」という。)は,中途買入消却に先立って平成12年3月17日にDMG証券P21に対し,バーチベールLPSが保有するEB債1については商工ファンド株式でその支払をし,シナジープラスについてはファンドでその支払をすることができないかと問い合わせていることが認められる。
(イ) 上記(ア)の認定事実によれば,EB債1の投資家はその約定に基づく支払代理人であるドイツ銀行からの支払ではなく,発行体である原告から直接償還又は買入消却の代金の支払を受けることを希望していたり,原告又はその意向を受けた商工ファンドの担当者は,投資家の意向などと関係なく,技術的・法的側面から中途買入消却の方法について問い合わせをしているのであって,原告がこのようなEB債1の発行規約に定められていない中途償還又は中途買入消却の方法を実行しようとしていた事実は,発行体と投資家とが同一人によって支配されていなければあり得ないことであり,原告と投資家の関係は,原告の意のままに償還又は買入消却を行い得る関係にあったことを示している。
(ウ) この点に関して,原告は,当時現金の準備が資金繰り上やや苦しかったことから,EB債1の償還方法として,まず,投資家の意向とは無関係に,技術的・法的に採り得る方法を確認した上で,EB債1の投資家と償還に際しての交渉を行おうとしたものであり,そのために,投資家の意向と関係なく,技術的・法的側面からの質問をしたものにすぎない旨主張する。しかし,上記(イ)のように,EB債1の投資家が支払代理人を介在させないで直接原告と金員の授受をすることを希望するなどの両者間の密接関連性が認められ,かつ,相手方と償還又は買入消却の対価の株式等の種類を特定した上で問い合わせを発している本件事案においては,原告はこれから投資家と交渉すべく事前にDMG証券に各種方法について問い合わせをしたというよりも,既に原告は投資家と交渉したからこそ,あるいは,およそそのような相談などする必要がないからこそ,その方法の履践手続等について問い合わせてきたとみる方が自然であるから,原告の上記主張を採用することはできない。そもそも,EB債1の投資家が全くの独立の第三者であるとすれば,その償還又は買入消却の代金を約定に従い現金で支払う以外の方法は,現実的にはあり得ないことであるというべきところ,それにもかかわらず,現金以外の代金支払方法が検討の俎上に載せること自体不自然であるというべきであって,このことは,原告又はP1とこれらの投資家とが実質的に同一人によって支配される関係にあることを示すものであるということができる。
オ EB債1の解約とEB債2の発行とが連動していること
(ア) 前記前提事実のとおり,EB債1の解約とEB債2の発行とは連動しており,EB債2の発行の実態は,アスチュラルートについてみれば,EB債1で調達したP1家族からの拠出資金を,いったんダイアモンドU/T及びGOU/Tの段階まで払い戻し,それにより余裕資金を生じていたダイアモンドU/T及びGOU/Tがその資金を出資して設立した海外の法人であるネルブランドが原告から直接EB債2を購入したものであるところ,上記イ(エ)及びイ(オ)のとおりダイアモンドU/T及びGOU/TはP1が支配するものであり,したがって,ネルブランドもP1が支配するものであるといえる。
(イ) それゆえ,前記前提事実(第2の2)のとおり,EB債1の中途買入消却時における資金の目まぐるしい玉突き的循環に対しても,投資家サイドの前記組織群は,完全に協調しており,このことからも,これらの組織群は原告又はP1家族の意向に完全に支配されたものとしてP1家族又はその関係者の資金の単なる中継機能だけを果たすような形式的な仕組みとして設定されていることを示しているということができる。
カ EB債1に係る取引の実体
(ア) 以上の認定を総合評価するに当たりその主要な点を挙げるならば,以下のとおりである。すなわち,EB債1の発行及び引受に係るすべての情報はP1に集められ,P1の意思決定によってその発行が決まったものである(前記ア(ケ))ところ,P1は,原告が所有する商工ファンド株式の譲渡時に生じるキャピタル・ゲイン課税について懸念していたこと(前記ア(ア)),原告は,その所有する商工ファンド株式を将来売却する際,あらかじめ赤字を計上しておき,当該赤字により株式売却益を相殺する方法によりキャピタル・ゲイン課税を免れることについて詳細に検討するとともに,当該赤字を計上するための原告からの支出金について,これをP1又は原告の関係者に収受させ,その関係者外に流出することがないような方法について検討していたこと(前記ア(イ)),債券発行の具体的な内容(債券の種類,金額,発行日,利率等)が決定していなかったにもかかわらず,引受人(投資家)が既に決まっていたこと(前記ア(ウ)),債券においては他社株償還特約の適用は実際には行わず,期限前に現金による償還をすることが予定されていたこと(前記ア(エ)),社債発行の直前においても原告が調達資金の明確かつ確固たる具体的な運用計画を持ち合わせていなかったこと(前記ア(オ)),P1家族又はその関係者が用意できるだけの資金額がそのままEB債1の発行額となったこと(前記ア(カ)),DMG証券が積極的に支払利息の利率を引き上げようと目論んでいたこと(前記ア(キ)),EB債1の投資家は実質的に一人であったこと(前記ア(ク)),EB債1の発行直前でも原告は明確かつ確固たる具体的な企業買収の予定がなかったこと(前記ア(コ)),バーチベール,アスチュラ及びコパーの3社はP1が実質的に支配する会社であること(前記イ(イ)),P1により,P1が実質的に支配するエクイタブルが,原告の社債等の形式的引受人として準備され,EB債1の引受人(投資家)であるバーチベールLPSのリミテッドパートナーとして,原告又はP1らに代わってその利益を保管する形式的な主体として位置付けられることが当初から意図され,最終的に,エクイタブルは,本件のスキームに,P1家族に対するEB債1の支払利息の移転機能を果たすだけのもの,すなわちP1家族にこのスキームからEB債1の支払利息を流出させる「出口ルート」としてP1の決定によって組み込まれた,利益を収受する存在として設定されたものであること(前記ア(ウ),イ(ウ)a,イ(ウ)b(d),イ(ウ)b(e)),ダイアモンドU/T,GOU/T及びクブライU/Tは,P1又はP1家族に完全に支配され,そのトラスティーは独自の判断権限を一切有さない形式的な存在にすぎないものであること(前記イ(エ)ないし(カ)),シナジープラスは原告又はP1家族と関係のある者であって,P1家族又はその関係者が実質的に支配するものであること(前記イ(キ))などである。以上の諸点からして,EB債1に係る取引の実体は,P1及びP1家族に運用可能な多額の資金があったことを奇貨として,原告が所有する商工ファンド株式の将来の売却時に発生する多額の売却益に対する課税を削減するために,原告にあらかじめ多額の欠損金を発生させてこれを蓄積していくこととして,本件のEB債1の発行スキームが計画されたものであり,他方で,原告は資金調達費用の名目で,P1家族又はその関係者への利益の供与を図り,原告に蓄積させる欠損金に相当する金員の支出についても,P1若しくはP1家族又はこれらが実質的に支配する者に無税で移転することによって,P1の関係当事者以外に資金が流出することを防止することを図ったものであって,原告又はP1は,P1家族又はその関係者に対する当該利益供与を隠ぺいするために,海外のリミテッドパートナーシップやユニット・トラスト等の仕組みを創出し,これらを複雑に組み合わせた迂遠な海外投資スキームを作出・実行して,表面上はP1家族又はその関係者とは無関係の,一見,海外の独立した第三者と思われるような者(バーチベールLPS,クブライU/T及びシナジープラス)がEB債1の真実の投資家であるかのような外観を創設し,それらの投資家へ支払利息を支払ったかのような外形を整えたものであるというべきである。
そして,既に認定したとおり,P1又はP1家族は,同族会社である原告の役員として原告をも支配している関係にあり,EB債1発行時の認識として,中途償還をするものとされており,現実には他社株償還特約を行使することは全く予定されていなかったこと,双方当事者が実質的には同一経済主体であって,いつでも任意にいかなる内容の償還又は買入消却でも合意ができることにかんがみれば,劣後特約は無意味であること,他方で,現実には,P1家族又はその関係者が拠出した資金は,帳簿上の数字にとどまらず,現金の資金移動を伴っていること等を併せて総合考慮すれば,EB債1に係る取引の実体は,実質的にはP1家族又はその関係者から原告に対する融資に極めて類似するものであるということができる。
そうすると,EB債1の支払利息については,後記(5)のEB債1に係る取引の実体に即した適正利率の範囲内の分については,これを正当な支払利息として損金算入することが許されるものの,それを超える部分については,それぞれのルートにおける実質的なEB債1の購入資金の拠出者であり支払利息名下の金員の真実の受取人である者(P1,P1家族又はその関係者)に対する利益の供与に当たるものであって,取引の形式的な法主体への支払等の事実にかかわらず,原告から支払利息名下に金員が拠出された時点において,当該利益の供与は完遂されたものということができる。
なお,EB債1のそれぞれのルートにおける適正な利率を超える支払利息名下の金員部分が,具体的にいくらであるのか,それが誰に対するいかなる性質を有する利益供与であって,損金算入が許されるのか否かについては,後述する。
(イ) 上記(ア)の認定に関連して,原告は,多岐にわたる主張をしているので,以下,それらについて検討をする。
a 原告は,平成10年2月ないし3月当時,原告が約146億円の資金を調達する方法としては,①銀行から融資を受ける,②大量に保有する商工ファンド株式の一部を売却する,③増資する,④普通社債を発行する,⑤EB債を発行する,という方法が考えられたが,現実には⑤EB債の発行以外の方法をとることはできなかった旨主張し,その事情についてるる述べるとともに,当初からEB債2のような低利のEB債を発行することができなかった理由についてもるる述べて,実質的な資金拠出者がP1又はP1家族であったとしても,その取引関係は正当なものである旨主張する。しかし,本件においては,上記(ア)のとおり,原告における欠損金の蓄積と,そのための原告からの支出をP1又はその関係者間に無税のまま留保するためにEB債1のスキームが作成されたものと認められるのであって,これが正当な取引関係に当たるということはできないことは明らかであり,P1又はP1家族が資金を拠出しようが,全くの独立の第三者が資金を拠出しようが,EB債1の形式的な発行条件や表面的な権利関係をそのまま有効なものとしてEB債1の適正な利率を算定すべきとする原告の主張を採用することは,到底できないものといわざるを得ない。
b 原告は,欠損金を蓄積し,将来の商工ファンド株式の売却時のキャピタル・ゲインを欠損金で相殺するためにEB債1を発行したとすると,現実には原告は商工ファンド株式を売却していないことと矛盾する旨主張する。しかし,将来の株式売却が予定されていたことは上記認定のとおりである上,いわゆる商工ローン・バッシングにより株価が暴落したなどの事後的な事情があったことからすれば,当初の予定どおりに売却が実現されなかったとしても,上記(ア)の認定を左右するものではない。この点,原告は,株価が暴落した後こそ,商工ファンド株式を売却する絶好の機会であったはずであるとも主張する。しかし,株式の売却目的は様々であり,高額な時価で株式をSPC(海外持株会社)に売却し,原告が有する多額の含み益を新会社の簿価に反映させようとしたところ,これができなくなった,あるいは,今後も更に株価が低落する可能性があり,今売却したのでは,かえって含み損を抱えることになるなど,当初意図された売却目的がかなわなくなったために売却が実施されなかっただけであるとも考えられるところであり,少なくとも,原告主張の事情は,EB債1の発行目的に係る上記(ア)の認定を左右するには至らないものというべきである。
c 原告は,EB債2の発行をもって,EB債1の発行目的が欠損金の蓄積と商工ファンド株式の売却にはなかった旨主張する。しかし,EB債1発行後の事情の変更により,P1家族がその自由意思でEB債1について当初の約定にもない中途買入消却によって解消したことに連動して,EB債2が発行されていることにかんがみれば,これらの事情が当初のEB債1の発行目的に関する上記(ア)の認定を左右することにはならないものといわざるを得ない。この点,原告は,額面での中途償還ないしは中途買入消却には,投資家及び発行体である原告双方にとってメリットがある旨主張するが,上記認定のとおり,EB債1の実質的な当事者はP1家族又はその関係者とP1が支配する原告であり,両者の間で当初から中途償還が予定されていたことからすれば,事後的に投資家及び発行体双方にメリットがあったことから中途買入消却が行われたとする原告の主張は,後付けの理由を述べているにすぎないものといわざるを得ず,失当である。
d 原告は,原告と商工ファンドの合併を前提とした1.05パーセントの源泉分離課税制度を利用した方が,迂遠な方法を採らずに,直ちに,確実に,より大きな節税メリットを得られるから,EB債1の発行目的は,欠損金を蓄積し,将来の商工ファンド株式の売却時のキャピタル・ゲインを欠損金で相殺することではあり得ない旨主張する。しかし,原告と商工ファンドの合併は何ら予定されてはおらず,また,節税の主体となろうとする者は上記源泉分離課税制度の適用を受けることができる個人たるP1ではなく原告という法人であるから原告の主張は議論の前提を欠く上,仮にEB債1の発行以外の他の方法でより大きな節税効果が得られたとしても,原告は節税効果以外の種々の理由や目的をも踏まえた上で,これを採らずに本件のEB債1に係る取引のような取引形態を行ったものであって,実際に原告によって行われた行為の目的と効果を認定するに当たって,上記の源泉分離課税制度の存在を考慮したとしても,上記(ア)の認定を左右することにはならない。
e 原告は,外国法人たるSPCに国内から移転した利益が,日本でも当該外国でも無税で留保されるとしても,租税法律主義を定める憲法84条及び平等原則を定める憲法14条1項の下においては,内国法人である「法人成り」企業の場合であれば,その法人格が無視されるようなことはないにもかかわらず,外国法人であるSPCについてのみがその法人格を否認されるような課税を行うことは許されない旨主張する。しかし,本件は法人の帰属する国籍の相違を根拠として何らかの差別をした処分に関するものではなく,また,当裁判所がそのような認定をしているわけでもなく,単に,支払利息の受領者を本件の事案に即して認定しているだけのことであるから,原告の主張はその前提を欠き,失当である。
f その他,原告は,本件におけるEB債1の取引の実体に関してるる述べているが,いずれも上記(ア)の認定を左右するものではない。
(5) EB債1に係る取引の実体に即した適正利率
ア 前記(4)カ(ア)のとおり,EB債1に係る取引は,独立の第三者が原告の発行する他社株償還特約及び劣後特約の付された社債を購入したものではなく,バーチベールLPS及びクブライU/Tが購入したとされる分については,P1家族が原告に対して実質的に融資したものであり,当該取引の実体に即した適正利率の範囲内においてのみ法人税法22条3項2号にいう販売費,一般管理費その他の費用の額に当たり,原告の損金に計上することが許されるものの,それを超える分については原告からその役員であるP1家族に対する利益供与であって,損金算入することが許されない役員報酬に当たる可能性がある。そこで,かかるEB債1の実体に従った適正利率の数値について,以下検討する。
イ この点に関して,原告は,P1家族が実質的な資金の拠出者であったとしても,本件における適正利率は,EB債1において1億1500万米ドルの資金調達をするために要する客観的な利率として適正な年利21.25パーセントである旨主張し,被告は,EB債1発行時の米ドルのスワップレート等を元に算出した利率として7.905パーセントないし7.995パーセントが本件における適正利率である旨主張する。
ウ よって,案ずるに,上記(4)カ(ア)のような本件でのEB債1に係る取引の実体にかんがみれば,本件においては債券としての利率を検討するよりも,融資の際の利率を検討することこそがその実体に即しているものであるといえるから,EB債1が米ドル通貨で発行され,資金の調達が米ドル通貨で行われている事実及び資金調達の期間が5年間とされている事実にかんがみ,EB債1発行当時の米ドルの5年のスワップレートである平成10年2月27日発行分については6.005パーセント及び同年3月6日発行分については6.095パーセント(乙48)を,まず出発点たる基準として考えるべきである。そして,一般に,スプレッド貸し(その貸出金利を,実勢金利たる調達金利(原価に相当)に,適正な利益を含む顧客の信用力に応じた上乗せスプレッドを加えて算定する方法)は,原価に一定の利益を加えたものをその対価とする方法であって,その方法自体,独立企業間の取引の対価を算定する一般的な方法の一つとして認められていることからして,上記のスワップレートが東京市場における銀行間での5年間の米ドル資金の貸出しの実勢レートであり,完全なリスクフリーレートではないものの,銀行間での取引を前提とした信用ある当事者間での取引レートであることにかんがみて,これを基準として,さらに,原告の信用力に応じたスプレッドやEB債1によって調達された資金の多寡,担保の有無等の個別的事情に基づく加算・減算等の修正を行った上で,本件におけるEB債1に係る取引の実体に即した適正利率を算出すべきである。
この点,被告は,EB債1に係る取引における適正利率の算定につき,上記スワップレートに原告の資力等に応じたスプレッドを加算して計算すべきである旨の主張と並んで,その法的な位置付けは必ずしも定かではないが,適正利率の算定においては具体的な事案ごとに想定される借主の支払能力等の個別的差異を捨象した数値としてこれを求めるべきであるとも主張するようであるが,上記のとおり,原告の信用力に応じたスプレッドの加算は必要的であるというべきであるから,この点に関する被告の主張を採用することはできない。
他方で,原告も,EB債1を第三者に発行したことを前提として,EB債1の発行の段階で実際に算定して発行条件とした,①リスクフリーレート(5年物米国債利回り)5.466パーセント,②原告の格付けスプレッド8.00パーセント(米国における高利回り債の利回り上乗せ分5.00パーセントと,EB債1の非流動性,特有の商品性及び日本を含むアジア・プレミアム分3.00パーセントを合算したもの),③他社株償還特約(オプション費用)を利率に反映した部分7.812パーセントの合計である21.278パーセントを区切りのよい小数点以下4分の1(0.25)単位で切り捨ててEB債1の支払利息の利率とされた年利21.25パーセントが合理的なものである旨主張する。しかし,前記(4)カ(ア)のとおり,EB債1の目的及び効果は,原告の欠損金を増加させるとともに,原告からP1家族又はその関係者へ利益供与をすることにあるから,EB債1の利息は,P1家族又はその関係者からの実質的な融資による資金調達としての適正な金利部分と,それを超える利益供与部分との総体であると認められるのであって,EB債1が第三者からの資金調達のために発行されたものであり,かつ,真実,他社株償還特約や劣後特約が付されたものとしてその利率が算定されるべきであるとしている点において,原告の主張は,実体とそごしており,その前提を欠いているので,採用できない。
エ(ア) そこで,原告の信用力に応じたスプレッド等についてみるに,被告は,原告の信用力に応じたスプレッドとして加算すべき数値は1.9パーセントである旨主張し,その根拠として,原告が平成10年1月29日から同年2月27日までの間,クレディ・スイス・ファースト・ボストン銀行東京支店から原告の信託受益権1億円を担保として,5億円を借り入れた際のスプレッドが1.4パーセントであったことから原告の当時の信用力に応じたスプレッドは1.4パーセントであるといえること,貸出期間が5年となった場合に,短期の場合のスプレッドに更に上乗せされる利率は一般に概ね0.5パーセントとされていることから,当該事案と本件との貸出期間の差異を考慮し,貸出期間が5年間に伸長している点で上昇するデフォルト率がもたらす金利上昇分として考慮することができるのは0.5パーセントに限られること,当該スプレッドは貸出期間が長くなれば債務不履行リスクが高まるので拡大するものの,基本的には貸出通貨や貸出金額によっては影響されないこと,EB債1による借入の約146億円は劣後債で無担保とされてはいるものの,そもそも原告には商工ファンド株式の含み益が当時2000億円以上あり,かつ,真の投資家であるP1家族がEB債1の発行体である原告を支配しており,EB債1が第三者間を流通することは全く予定されておらず,いつでもP1の一存で中途償還ないし中途買入消却でき,実際に額面価額で中途買入消却を果たしていることからしても,担保の有無はあえて考慮する必要性が認められないこと,原告は中途で償還ないし買入消却することを当初から目論んでおり,実際に発行から2年半程度で中途買入消却されているにもかかわらず,被告は表面上の償還期間である5年という期間に基づいて0.5パーセントの金利を上乗せしており,もし,貸出期間を実態に合わせて3年とすれば,上記の上乗せスプレッドは0.3パーセントにすぎず,その差の0.2パーセントは無担保の場合の上乗せスプレッド分に相当するともいえることなどを挙げて,被告が認定したスプレッドは低廉すぎることはない旨述べている。
(イ)a 原告の信用スプレッド
そこで,検討するに,原告の信用スプレッドについて,被告が,原告が平成10年1月29日にクレディ・スイス・ファースト・ボストン銀行から年利2.07188パーセントで受けた融資についての原告の信用スプレッドである1.4パーセントを基準として算定すべきである旨主張している点については,当該融資は元本金額が5億円と本件におけるEB債1の取引価格(約146億円)と比較して極めて低額であること,貸出期間も1か月と短期間であること,融資金の担保となる原告のクレディ・スイス・ファースト・ボストン銀行に対する米ドル預託金の額は,融資期間中,融資金額を超える6億円を下らないものとする旨合意されていたこと(乙49)等からして,そのような種々の条件を前提とした融資の場合における信用スプレッドの算定事例であって,これを前提条件の異なる本件に,そのままの形では直ちに流用することはできないものといわざるを得ない。
b 融資期間
融資期間の長短についていえば,貸出期間が長くなれば予想デフォルト率が高まるため,一般には上乗せすべきスプレッドは高くなることは確かである。
この点,被告は,EB債1の表面上の償還期間である5年という期間に基づいて上乗せスプレッドを0.5パーセント,又は貸出期間を実態に合わせて3年として上乗せスプレッドを0.3パーセントと算定する。
そして,証拠(甲154,乙106,266)及び弁論の全趣旨によれば,EB債1が発行される直前の平成10年(1998年)1月9日に実施された長期プライムレート(長期信用銀行や信託銀行の,信用度の高い一流企業に対する1年以上の長期の最優遇貸出レート)と短期プライムレート(長期信用銀行や信託銀行の,信用度の高い一流企業に対する1年未満の短期の最優遇貸出レート。ただし,現在ではほとんど使われてはいない。)とのスプレッドは,0.975パーセントとなっていること,平成10年の時点でのみずほコーポレート銀行が決定した長期プライムレートと各金融機関が決定した短期プライムレートとのスプレッドは0.7パーセントであったこと,平成14年の時点でみずほコーポレート銀行が決定した長期プライムレートは,みずほコーポレート銀行債券(5年物利付金融債)の表面利率に0.9パーセント上乗せして設定されていること,平成16年の段階での新短期プライムレート(都銀等の一般銀行の,信用度の高い一流企業に対する1年未満の短期の最優遇貸出レート)と新長期プライムレート(都銀等の一般銀行の,信用度の高い一流企業に対する1年以上の長期の最優遇貸出レート。新短期プライムレートに連動する長期金利である。)とのスプレッドは,0.5パーセント程度であったことが認められる。
そうすると,そもそも長期金利と短期金利とのスプレッド自体が,時期にもよるものの,0.5パーセントないし0.975パーセントと大きな格差があったことが認められる。
c 融資金額
融資金額が極端に増大すれば,その分顧客の自己資本の比率が低下し,信用力が低下するものと考えられるから,それに応じて上乗せスプレッドが拡大するものと考えられる。
この点,被告は,上乗せスプレッドと貸出金額の多寡は,一般の与信業務が収益率を指針にして貸出しを実施している以上,関係しない旨主張するが,これは,当該融資金額の使途やデフォルトリスク等との相関関係において,融資自体は許容されると判断された場合にいかなる金利とするかを考察するレベルでの議論を前提とするものであり,本件のごとく,既に実質的に融資と同様の効果が発生した後に,事後的にその適正な利率を算定する場合を想定した議論ではない以上,かかる被告の見解をそのまま採用することはできない。そのような場合には,融資金額の増大は顧客の信用力との相関関係をも含めて,上乗せスプレッドの増大につながる可能性もあるものと考える方が自然である。
d 担保の有無
被告は,本件のEB債1に係る取引の実質が,P1家族又はその関係者がP1が実質的に支配する原告に対して融資したものであって,形式上劣後債とされていることを考慮する必要はない旨主張する。そして,形式上劣後債とされていることを考慮する必要がないことは,前記(4)カ(ア)のとおりである。
しかし,担保の有無については,いかに償還の時期を一存で自由に設定できるとしても,法人の役員であるから法人に対する貸付けが焦げ付いた場合にこれを当然に甘受すべきであるとか,法人が多額の資産を有しているからその目減りを考慮に入れながら償還の時期を設定すべきであるとかといわなければならない必然性があるとはいい難いから,本件において,原告が2000億円程度という多額の含み益を持つ商工ファンド株式を保有していたことに加え,P1がEB債1に係るスキーム全体を監視しコントロールしていたからといって,それゆえに一般的には元本の償還の確実性は強化されていたとはいえても,担保権の設定と比べて,その償還が確実なものとなっているとまでいうことはできないものといわざるを得ない。
そうすると,本件のEB債1に係る取引の実体に即した適正な金利を算定するに際しては,P1家族又はその関係者が法的には担保権を有していないことによるスプレッドの上乗せについても,原告の信用力との相関関係を踏まえた上で,考慮すべきである。
(ウ) また,原告の信用力によるスプレッドと,融資の期間,金額,担保の有無の違いによる上乗せスプレッドとの関係についてみても,それ自体融資の中核的条件内容となっている融資の期間,金額,担保の有無の違いによる上乗せスプレッドを,いかなる場合においても,信用スプレッドと完全に分離して,それ自体を独自に算定することは,やはり困難である。
(エ) そうすると,結局,本件のような事案においては,被告主張のような,顧客の信用スプレッドに,融資の期間,金額,担保の有無の違いによるそれぞれの加算・減算要素となるべきスプレッドを独自に算出する方法を採ることはできず,これらの事情を相互の相関関係の下で検討し,全体としての上乗せスプレッドが算定されるべきである。
(オ) そこで,以上の諸事情を斟酌した上で,本件において適正な上乗せスプレッドを算定するに,原告の信用力のほか,EB債1に係る取引の約146億円という金額,EB債1の契約時における償還期間が中途償還又は中途買入消却を前提としていたものの,実際に中途償還又は中途買入消却する時期が明確に定められていたわけではなく,少なくとも契約上はその期間が5年間とされていたこと,EB債1に係る取引が,法律的には無担保であり,担保がないことによるデフォルトリスクを考慮すべき必要性があることを勘案すれば,原告がEB債1の利率の算定過程において実際に上乗せ計算をしたとする格付けスプレッド8パーセントのうち,高利回り債(ハイイールド債。いわゆるジャンク・ボンドである。)に該当するものとしての部分5パーセントのスプレッドは,高利回り債としての流通性を前提とした数値であって,本件が債券としてではなく,融資としての性格を有することにかんがみれば,当該流通性を踏まえた割高な数値となっているという若干の不都合があることは否めないものの,融資金額,融資期間,無担保という事案の性質を的確に反映した信用力の乏しい顧客に対する融資の利率の算定を他の事例との比較において行うことは我が国におけるデータ等の蓄積の少なさ(証人P15)等からして極めて困難であること,第三者間を転々と売買されることを予定している米国のハイイールド債の流通利回りは,必然的に5パーセントに限られるものではなく,むしろ,実際の米国のハイイールド債の中ではこの数字は比較的低い部類の数字であるともいうことができ(甲108),流通性の有無の部分についてはあえて無視したとしても,適正な上乗せスプレッドの算定としては実質的には大きな影響はないものとも考えられること等からして,その数値自体は,事案の実体を反映する分として必ずしも不適切であるとはいい切れず,他に特段の算定要素の見当たらない本件においては,上記の適正なスプレッドも同様に5パーセントであると認定すべきである。
よって,本件事案における適正利率は,前記ウのとおり,平成10年2月27日発行分については6.005パーセント,同年3月6日発行分については6.095パーセントを基準として,これに上記5パーセントをそれぞれ上乗せした利率である,平成10年2月27日発行分について11.005パーセント,同年3月6日発行分について11.095パーセントであるというべきである。
(カ) この点,被告は,上記の5パーセントの上乗せ金利について,本件の資金取引は,実質的にP1家族による原告に対する融資であり,その債券は第三者間を転々と売買されることを予定してはおらず,P1家族は,ハイイールド債として投資しているのではなく,原告の保有する資産の含み益を吸収しようとして当該取引を行ったものであって,どこにもリスクは生じていないから,米国のハイイールド債の流通利回りを基礎としたスプレッドを適用すべきではない旨主張する。
そして,本件においては,EB債1が第三者間に流通されることが予定されていないことは確かであるが,実質的に融資の機能を果たしていることを認めながらも,無担保による分を含めてデフォルトリスクを考慮しないことが適切でないことは前記(イ)dのとおりであり,顧客の信用スプレッドに,融資の期間,金額,担保の有無の違いによるそれぞれの加算・減算要素となるべきスプレッドを独自に算出する方法を採ることが適切ではないことも前記(エ)のとおりであって,上記(オ)の諸事情を勘案すれば,上乗せスプレッドを5パーセントと認定したことが不合理であるとはいえない。
(キ) 他方で,原告は,企業買収の失敗による返済資金の負担のリスクや商工ファンド株式の下落のリスク等を回避するためにEB債1に他社株償還特約を付けることが必要かつ合理的であったものであり,そのオプション料の年率換算値(元本に対し年7.812パーセント)をEB債1の金利の一部として加算すべきである旨主張する。しかし,前記(4)カ(ア)のとおり,他社株償還特約は形式的に記載されただけの本来予定されていない条項であって,P1家族又はその関係者に対する利益供与を増大するためだけに算定された数字にすぎず,本件の取引の実体を反映するものではないから,これがあることを前提として利率を算定することは許されないものというべきである。
また,原告は,EB債1が日本企業たる原告がヨーロッパで発行するものであることに照らして,アジア・プレミアムなるものを加算すべきである旨も主張するが,前記(4)カ(ア)のとおり,本件はP1家族から原告に対する融資としての実体を有するものにすぎず,債券の発行体が投資家にとって馴染みのない日本企業であるなどという事情を加味する必要性は全くないから,当該主張は失当である。
同様に,本件の取引がP1家族以外に流通することは当初から予定されていないのであり,他方で,前記(オ)及び(カ)のとおり,流通性がないながらもハイイールド債の利率を参考に5パーセント分の上乗せをしていることからすれば,これに加えて,さらに,EB債1の非流動性について考慮してこれを利率に反映すべき必要性は認められない。原告は,P1家族がEB債1を転売することは法的に自由である旨も主張するが,当初から転売されないものと予定されており,現実にも転売されていないことは上記認定のとおりであって,そのようなものとしての適正利率を算定するに当たっては,法律上転売することが禁止されていないとの議論には意味がないものといわざるを得ない。また,原告は,EB債1に流通性はあるものの,高利回り債(ハイイールド債)よりは流通性に欠けることをそれぞれ別々に金利の上乗せ事由として2回評価すべきである旨も主張するかのようであり,証人P15の証言中にもこれにそう部分があるが,上記のとおり,両事情を加味した上で,本件で認定すべき適正な利率を算出している以上,かかる原告の主張も失当である。
さらに,原告の主張する特有の商品性による上乗せスプレッドについても,本件においては形式上劣後債とされていることを考慮すべきでないことは,前記(4)カ(ア)のとおりであり,本件のEB債1に係る取引が実質的にP1家族又はその関係者とP1が支配する原告との間で行われたものであって,前記(オ)のようなデフォルトリスクを考慮した金利の上乗せ分の検討を超えて,ことさら,特有の商品性なるものを考慮すべき必要性は認められないものというべきである。
よって,原告の主張する格付けスプレッドのうち「EB債1の非流動性,特有の商品性及び日本を含むアジア・プレミアム分」としている3パーセント分についても理由がないものといわざるを得ない。
(ク) 原告は,上記のような上乗せスプレッド5パーセントでは,そもそも,原告に対する約146億円もの無担保・長期融資は実現不可能である旨も主張する。しかし,本件は上記のとおり,融資の実行の有無について自由裁量を有する第三者から,今後,約146億円もの無担保・長期融資を受けるため,仮に貸し手が全く現れなかったとした場合に貸し手の登場の促進のためにことさら付加しなければならない誘因部分としての利率上乗せ分をも含めた利率を算定しているものではない。役員たるP1家族又はその関係者が原告に対して,いつでも償還時期を自由に決定することができ,完全に担保に代わるまでの機能があるとはいえないまでも,原告の資産の増減をも見据えつつ,その資産を償還のための原資にある程度自由に充てることができるという条件下で,既に実質的に融資したEB債1の購入資金相当分の金額について,そのような条件下での客観的な適正利率を算定しようとするものである以上,上記認定のとおりの考慮要素以外に,今後,現実に当該条件での融資が確実に可能か否かといった事情についてまで吟味しなければならないものではないというべきであって,原告の主張はその前提を欠き,理由がないものといわざるを得ない。
オ さらに,原告は,「関係者間の融資的取引」であっても,「独立当事者間取引」と全く同様の金利でなければ,税務上不適正とされて否認されることになる旨主張するが,上記認定のとおり,本件においては,取引の実体に従った客観的な適正利率を算出している以上は,原告の上記主張をいれる余地はないものというべきである。
カ なお,上乗せスプレッドを5パーセントとしたことにより,EB債1に係る本件各処分は,平成10年2月27日発行分について11.005パーセント,同年3月6日発行分について11.095パーセントをそれぞれ超える部分については支払利息とは認められないということになるが,それは,被告主張の米ドルのスワップレートに付加すべき原告の信用力に応じたスプレッド等の算定がEB債1に係る本件各処分と当裁判所の認定との間にその細目において若干のそごを来しただけであり,当該スプレッド等を加算して本件の事案に即した適正な利率を算定するという基本的な点においては何ら矛盾するものではないから,当該認定は何ら弁論主義に違反することにはならないものというべきである。
(6) EB債1の適正利率超過部分の法的性質
ア 前記(4)カ(ア)及び(5)エ(オ)のとおり,EB債1の平成10年2月27日発行分について11.005パーセント,同年3月6日発行分について11.095パーセントをそれぞれ超える支払利息部分については,EB債1のそれぞれのルートにおける購入資金の拠出者であり,利息の真実の受取人である者に対する利益供与に当たるというべきであるので,次に,EB債1のそれぞれのルートにおける適正な利率を超える支払利息名下の金員部分が誰に対するいかなる性質を有する利益供与であるのか,それが損金算入が許される性質のものであるのか否か,損金算入が許されないとした場合に,その具体的な価額はいくらであるのかなどの点について検討する。
イ アスチュラルート及びヤスプルートについて
(ア) アスチュラルートについて
a アスチュラルートについては,前記(4)カ(ア)のとおり,バーチベールLPSを形式上の購入者とするEB債1に係る取引について,エクイタブルを始めとして,原告とP1及びP2との間に介在する組織群はすべてP1の支配するものである。そして,P1は,原告が支払う利息部分について,P1若しくはP1家族又はその関係者以外への流出を防止すべく本件のスキームを考案し,実践したものである。そうだとすれば,前記組織群の具体的な支配者がP1個人であるとしても,前記前提事実のとおり,バーチベールLPSにつながる2つの信託に対してP1及びP2が72対3の比率で出資しており,アスチュラルートにおけるEB債1の購入資金の拠出者がP1及びP2であって,その拠出割合が72対3である以上,原告からの支払利息の拠出時点において,これらの者に対してこれらの割合に応じて利益供与がなされたものというべきであり,当該スキームは,EB債1の支払利息の受領者が購入資金の拠出者であるP1及びP2であることを隠ぺいするためにバーチベールLPSを形式的な受取人として名義貸しがされたものであって,その結論は,当該支払利息を現実にP1及びP2が現金又は債権として直接取得するに至っているか否か,エクイタブル等の組織群がP1個人のみによって支配されているか否かなどによっては左右されないものというべきである。
b この点,原告は,P1及びP2はいまだに支払利息を収受していないとか,P1がエクイタブルを実質的に支配しているものとすれば,EB債1の支払利息のうち,アスチュラを通じてダイアモンドU/T及びGOU/Tに支払われた以外のエクイタブルに滞留しているとされる部分についてはP1に対する利益供与であって,72対3で案分された3の部分(75分の3)をP2が取得したことにはならないなどと主張する。しかし,上記aのとおり,本件のスキームは原告からEB債1の購入者に対する支払利息に仮装して,資金の拠出者に対する利益供与を図ることが意図されたものであって,前記組織群を設立した者に対する利益供与を隠ぺいするための方策ではない。したがって,エクイタブルに滞留する資金について,エクイタブルを支配するのがP1個人であることを理由に,P1個人に対する利益供与の趣旨のみであって,P2に対する利益供与の趣旨を含まないものであるとか,その後にP1がエクイタブルの資金を誰のために費消したかによって利益供与の対象が定まるとかということはできない。原告から支払利息として拠出された段階で当該利益供与は購入資金拠出者に対する利益供与として完遂しているといえる以上,原告の上記主張は失当である。
(イ) ヤスプルートについて
a 上記(4)カ(ア)のとおり,クブライU/TはP1家族が実質的に支配するものであり,EB債1の支払利息の受領者が購入資金の拠出者であるP1家族であることを隠ぺいするために形式的な受取人として名義貸しがされたものにすぎないから,当該ルートにおける支払利息のうち適正利率超過部分は,クブライU/Tに出資したヤスプLPSの受益権を有するリミテッドパートナーであるP1家族がヤスプLPSに対して有する受益権の割合に応じて,P1家族に対する利益供与となるものというべきである。そして,前記前提事実のとおり,その割合は,P1,P2,P3,P4について,1589万0925.07対552万2940.11対429万3067.40対429万3067.40であるから,その割合に応じた利益供与であると認められる。
b この点,原告は,クブライU/Tは法人税法上の投資信託に当たり,クブライU/TがEB債1の利息を受領しただけで,P1家族がクブライU/TからEB債1の利息相当額を分配金として受領していない以上,P1家族は,いまだに,EB債1の利息を受領していないと評価しなければならないから,原告によるEB債1の支払利息は,P1家族に対する役員報酬とはなり得ない旨主張する。しかし,上記aのとおり,クブライU/TはEB債1の支払利息の受領者が購入資金の拠出者であるP1家族であることを隠ぺいするための形式的な受取人であって,単に名義貸しがされたものにすぎず,原告の支払利息の拠出時点でP1家族に対する利益供与たる役員報酬の支給は完了しているといえるから,原告の上記主張は失当である。
c さらに,原告は,クブライU/TによるEB債1の利息受領について,P1家族に対して直接課税されるとしても,クブライU/Tについて損益通算すらせずに行われたEB債1に係る本件各処分は違法である旨主張する。しかし,前記aのとおり,クブライU/Tは形式的に利息の受取人となってはいるものの,その実はP1家族がこれを取得しているものと評価できるから,クブライU/Tについて損益通算をすべきいわれはない。また,EB債1に係る支払利息に仮装された金員の実質は,P1家族に対する役員報酬であるから,このことと,課税当局が,社債利子に関する法人の源泉徴収義務を原告に課しているか否かとは無関係であるし,課税当局が源泉徴収義務を課さなかったとしても,それは原告による仮装・隠ぺいによってこれまで課すことができなかったにとどまるものにすぎないから,いずれにしても,原告の上記主張には理由がない。
d 加えて,原告は,クブライU/TによるEB債1の利息受領について,P1家族に対して直接課税され,クブライU/Tについて損益通算すらせずに税額を計算することができるとしても,内国法人が発行した社債利息に関する課税関係は,平成10年当時,社債保有者(社債利息の受領者)が居住者である場合,当該内国法人が源泉徴収することで社債利息に関する課税関係は完了することとなっていた旨主張する。しかし,本件において問題となるのは,P1家族が受けた支払利息又は役員報酬に対する課税関係ではなく,利息を支払った原告が当該利息分を損金に算入することができるか否かであるから,原告の主張は本訴とは無関係であるし,課税当局が源泉徴収義務を課さなかったとしても,それは原告による仮装・隠ぺいによってこれまで課すことができなかったにとどまるから,やはり,原告の上記主張には理由がない。
(ウ) アスチュラルート及びヤスプルートにおける損金不算入額
そうすると,これらの支払利息は,原告の役員であるP1家族に対して定期的に交付された役員報酬(平成10年5月期事業年度につき平成10年法律第24号による改正前の法人税法34条2項,平成11年5月期事業年度ないし平成13年5月期事業年度につき同改正後の法人税法34条3項)に当たるというべきである。
そして,平成11年5月期事業年度ないし平成13年5月期事業年度についてはEB債1の支払利息の受領者が購入資金の拠出者であるP1家族であることを隠ぺいするためにバーチベールLPS及びクブライU/Tを形式的な受取人として名義貸しがされたものであって,原告が事実を隠ぺいし,又は仮装して経理をすることにより原告の代表取締役であるP2並びに取締役であるP1,P3及びP4に対して支給した報酬の額(同改正後の法人税法34条2項)に当たる。
したがって,別表9-1の「⑦不当に高額な金額」欄及び別表9-2各記載のとおり,平成10年5月期事業年度につき,株主総会の決議等により報酬として支給することができる金額の限度額を超えて原告の取締役であるP1に対して支給された不相当に高額な報酬部分の額(同改正前の法人税法34条1項,同法施行令69条2号)2億2844万0807円並びに平成11年5月期事業年度ないし平成13年5月期事業年度の同改正後の法人税法34条2項の役員報酬の額それぞれ12億9259万1223円,11億3239万8093円及び2億2151万6835円は,それぞれの事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入することができないこととなる。
ウ シナジールートについて
(ア) 上記(4)カ(ア)のとおり,シナジープラスはP1,P1家族若しくはその関係者又はこれらの者が実質的に支配するものであり,EB債1の支払利息の受領者が購入資金の拠出者であるこれらの者であることを隠ぺいするために設定されたものにすぎないから,当該ルートにおける支払利息のうち適正利率超過部分は,当該資金拠出者に対する利益供与となるものというべきである。しかし,原告は,シナジープラスが独立の第三者であるとして,資金の実質的な拠出者を明らかにせず,シナジープラスを支配する者についての情報を明確にしようとしない。そして,本訴においては,他のアスチュラルートやヤスプルートと同じように,本件のEB債1に係る取引の実体が独立した第三者との間での社債の取引とはいえず,実質的には前記(4)カ(ア)のとおりの内容の融資の性質を持った取引であるとはいえても,シナジープラスが拠出したEB債1の購入資金の原資の出所が証拠上は不明であることからして,他のアスチュラルートやヤスプルートと同じようには,間に入った組織群がすべてP1又はP1家族の関与を隠ぺいするための名義貸しによるものであって,シナジープラスが形式的な購入者となっていることがシナジープラスを支配するP1若しくはP1家族又はその関係者の単なる名義貸しにすぎない存在であるのか,それともシナジープラス自体が既にP1若しくはP1家族又はその関係者が支配権をもった法人として確立した存在となっており,当該法人に対して利益供与をする目的でEB債1に係る取引を行ったものであるのかのいずれであるかは,証拠上必ずしも判然としないものといわざるを得ない。そして,シナジープラスに関する真実の支配関係についての正当な情報を当然に持ちながら,その提供を行わないP1又はP1家族に対する制裁規定を有さない法人税法の下においては,シナジープラスに対する支払利息のうち,前記の適正な利率を超過した部分については,それが,真実の利息受取人(上記事情の下におけるシナジープラス自身又はシナジープラスに対する資金の拠出者)がP1又はP1家族である場合には,平成11年5月期事業年度ないし平成13年5月期事業年度において原告が事実を隠ぺいし,又は仮装して経理をしたことに基づいて,それは損金算入することができない役員報酬となり得るが,原告の役員以外の場合には当該者に対する寄附金となる可能性があり,また,当該真実の利息受取人が原告に対して何らかの債権を有していた場合にはその弁済となる可能性があるなど,真実の受取人が判明しなければ支払の法的性質が確定しないことから,何らかの者に対する利益供与に当たるとしても,結局はその使途が不明な支出金にとどまっているといわざるを得ない。
(イ) そして,法人税法22条1項は,内国法人の各事業年度の所得の金額は,当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする旨規定し,同条3項は,内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,①当該事業年度の収益に係る売上原価,完成工事原価その他これらに準ずる原価の額,②上記①に掲げるもののほか,当該事業年度の販売費,一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額及び③当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るものとする旨規定していることから,上記(ア)のような本件事案において,内国法人の所得金額の計算上,損金の額に算入することができる支出は,当該法人の業務の遂行上必要と認められるものに限られ,法人の支出のうち,使途の確認ができず,業務との関連性の有無が明らかでないものについては,課税所得計算の正当性や客観性等を検証することができなくなり,課税の公平が保たれないこととなるため,このような使途不明金はおよそ損金の額に算入することができないものであるというべきである。
(ウ) ところで,所得を構成する損金の額については,本来,被告が主張・立証責任を負うべきものであるから,具体的な支出が損金の額に算入されるべきであるか否かが争われた場合には,被告において,その主張する額以上に損金が存在しないことを主張・立証すべきものであるところ,被告は損金の存否に関連する事実に直接関与していないのに対して,原告はより証拠に近い立場にいること,一般に,不存在の立証は困難であること等にかんがみれば,提出された証拠関係を基に判断して,当該支出を損金の額に算入することができないことが事実上推認できる場合には,原告において,上記推認を覆す程度に,当該支出と業務との関連性を合理的に推認させるに足りる程度の反証を行わない限り,当該支出の損金への算入は否定されることになるものというべきである。
そして,上記のとおり,シナジープラスに対する支払利息のうち,前記の適正な利率を超過した部分については,使途が不明であって業務との関連性がないものと推認せざるを得ず,原告は,当該支出は支払利息として適正であるというのみであって,これについては既に否定する判断をしたところであり,原告は他に上記推認を覆す程度に,当該支出と業務との関連性を合理的に推認させるに足りる程度の反証を行っていないものといわざるを得ないから,当該支出を原告の損金の額に算入することはできないものというべきである。
(エ) そうすると,別表9-1のとおり,平成10年5月期事業年度ないし平成13年5月期事業年度において,シナジープラスに対して前記の適正利率を超過して支払われた使途不明金それぞれ3159万2190円,1億2258万6575円,1億0739万4201円,3632万3841円は,それぞれの事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入することができないこととなる。
エ この点,原告は,EB債1の利息の支払について現実の資金の動きに合致した経理処理を行っている以上,当該経理処理は法人税法34条2項にいう仮装経理に該当しないものであり,仮にこれが仮装経理に該当する場合には,更正処分の対象となる取引のおよそすべてがこれに該当することになり不合理な結果を招来する旨主張する。しかし,本件で仮装・隠ぺいととらえているのはP1家族が前記組織群の名義を利用してEB債1の支払利息を収受していたことであり,その法的な実体を踏まえて認定しているものであって,かつ,本件においてそのような認定ができるからこそ仮装・隠ぺいに当たるとしているにすぎないものであって,およそすべての取引が仮装・隠ぺいに当たるなどとしているものではないから,原告の上記主張は失当であるといわざるを得ない。
その他,原告は,本件におけるEB債1の取引の実体が,P1家族又はその関係者に対する仮装・隠ぺいされた利益の供与ではない旨るる述べているが,上記認定を左右するに足りる主張及び証拠はないものといわざるを得ない。
(7) シナジープラスに係る使途秘匿金
ア 措置法62条は,法人がした金銭の支出のうち,相当の理由がなく,その相手方の氏名又は名称及び住所又は所在地並びにその事由を当該法人の帳簿書類に記載していないものについて,取引の対価の支払としてされた相当であるものと認められることが明らかな部分を除き,使途秘匿金に当たるものとして課税の対象としている。また,措置法施行令38条3項は,この場合において,当該法人が金銭の支出の相手方の氏名等をその帳簿書類に記載している場合においても,その金銭の支出がその記載された者を通じてその記載された者以外の者にされたと認められるものは,その相手方の氏名等が当該法人の帳簿書類に記載されていないものとする旨規定している。
イ この点,被告は,シナジープラスに対するEB債1に係る支払利息という金銭の支出は,その金銭支出がその記載された者(シナジープラス)を通じてその記載された者以外の者,すなわちP1又はその関係者にされたことから,その相手方の氏名等が原告の帳簿書類に記載されていない場合に該当するとともに,P1はシナジープラスを自ら支配し原告は同社をP1又はその関係者のダミーとして認識しているはずであるから,帳簿書類に記載していないことにつき相当の理由はないとして,EB債1の支払利息のうち,その適正利率と認められる7.905パーセントないし7.995パーセントを超える部分については不相当に高い金利であって対価性がなく利益供与に当たる支出であるから,「取引の対価として相当(措置法62条2項かっこ書)」でない支出に該当するとして,これが使途秘匿金に該当する旨主張する。
ウ しかしながら,前記(6)ウ(ウ)のとおり,シナジールートの場合は,そのEB債1の購入資金の原資の拠出者について,P1又はその関係者であり,P1はこれを知悉しているものの,P1又は原告がこれを明らかとしないために本訴においては証拠上は不分明であるといわざるを得ない。したがって,間に入った組織群が,P1家族又はその関係者の関与を隠ぺいするためのものであって,シナジープラスが形式的な購入者となっていることがシナジープラスを実際に支配するP1家族又はその関係者の単なる名義貸しにすぎないのか,それともシナジープラス自体が既にP1若しくはP1家族又はその関係者が支配権をもった法人として存在しており,当該法人に対して利益供与をする目的でEB債1に係る取引を行ったものであるのかのいずれかであることについては,極めて疑わしいながらも,結局のところは証拠上判然としないものといわざるを得ない。詰まるところ,前記のとおり,本件のEB債1に係る取引の実体が独立した第三者との間での社債の取引とはいえないものであると認定はできても,その金銭の支出がその記載された者を通じてその記載された者以外の者にされたと断ずるに足りる心証を抱くまでの証拠はないものと評価せざるを得ないから,その相手方の氏名等が当該法人の帳簿書類に記載されていない(措置法62条,措置法施行令38条3項)場合に当たるものとはいい切れない。
エ この点,被告は,シナジープラスのような企業情報が公開されていない企業であれば,いかにして原告又はP1が投資家としてこれを捜し出したものか,また,投資家としての適格性をどのように判断したものか疑問であること,EB債1は,中途償還が予定されており,他社株償還に係る金利部分は本来支払う必要のない金利であるから,これをあえて全くの第三者であるシナジープラスに支払うようなことは考えられないこと,原告からP1家族又はその関係者に対する利益の移転というEB債1の取引の本質にかんがみると,取引当事者は原告及びその同族関係者に限られ,第三者を参加させることはあり得ないこと,当初原告は,シナジープラスがいかなる組織であるかについて,P1は知る由もなく,知り得る術としては,EB債1発行の幹事会社であるドイツ銀行ロンドン支店に照会する必要がある旨主張していたにもかかわらず,本訴においては,シナジープラスは原告が探してきた法人である旨主張し,矛盾した言動をとっていること等からして,シナジープラスはP1自身又はその関係者のダミーであって,取引相手としてふさわしいかどうか原告が検討する必要がなかったことを意味するものである旨主張し,原告は当然にその最終的な資金の提供者がP1又はその関係者のいずれかであることを知っているにもかかわらず,真の投資家を隠匿している旨主張する。しかし,被告の指摘する上記各点ゆえに,前記(4)カ(ア)及び(6)ウ(ウ)のとおり,シナジールートについてもその取引の実体は融資に相当するものとして,適正な利率を超える部分については使途不明金として損金に算入することは許されないとはいえても,上記のように,シナジープラス自体が既にP1若しくはP1家族又はその関係者が支配権をもった法人として存在しており,当該法人自体に対して利益供与をする目的でEB債1に係る取引を行ったものである可能性を証拠上排斥し切れてはいないといわざるを得ないことに照らせば,原告の対応振りとの兼ね合いで違和感があることは否めないとしても,原告の帳簿書類に相手方の名称の記載がない場合に当たると断言するには,やはり躊躇せざるを得ない。
オ よって,シナジープラスに対するEB債1に係る支払利息のうち,前記適正利率を超える部分についてが使途秘匿金に当たるということはできず,使途秘匿金税額は発生しないものといわざるを得ないから,EB債1に係る本件各処分のうち使途秘匿金に係る還付所得税額等の減額部分,及び,平成13年3月期重加算税賦課決定処分(ただし,平成13年3月期重加算税変更決定処分により一部取り消された後の部分)を除く本件各重加算税賦課決定処分等にはいずれも理由がないことにならざるを得ない。
(8) 理由付記の不備の有無
ア 法人税法130条2項が青色申告に係る法人税について更正をする場合には更正通知書に更正の理由を付記すべきものとしているのは,法が,青色申告制度を採用し,青色申告に係る所得の計算については,それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上,その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨にかんがみ,更正処分庁の判断の慎重,合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものというべきである。したがって,帳簿書類の記載自体を否認して更正をする場合において更正通知書に付記すべき理由としては,単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけではなく,そのような更正をした根拠を帳簿記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示することによって具体的に明示することを要するが(最高裁判所昭和38年5月31日第二小法廷判決・民集17巻4号617頁,最高裁判所昭和54年4月19日第一小法廷判決・民集33巻3号379頁等),帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合においては,その更正は納税者による帳簿の記載を覆すものではないから,更正通知書記載の更正の理由が,そのような更正をした根拠について帳簿記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示するものでないとしても,更正の根拠を前記の更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨・目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り,法の要求する更正理由の付記として欠けるところはないと解するのが相当である(最高裁判所昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁)。
イ 以上を前提として,本件におけるEB債1に係る本件各処分についての更正の理由の記載をみると,証拠(甲1の1ないし1の4,107の1ないし107の3)及び弁論の全趣旨によれば,その記載の内容は,①EB債1の購入者は,バーチベールLPS,クブライU/T及びシナジープラスとなっていること,②P1はアスチュラ社債を5000万米ドル分購入していること,③P1及びP2はダイアモンドU/Tの受益権をそれぞれ2200万米ドル及び300万米ドル分購入し,ダイアモンドU/Tはその資金でアスチュラ社債を2500万米ドル分購入していること,④アスチュラは上記②の5000万米ドル及び上記③の2500万米ドルの合計7500万米ドルで米国国債を購入し,これをバーチベールLPSに貸し付けていること,⑤バーチベールLPSは当該国債を売却し,その代金でEB債1を7500万米ドル分購入していること,⑥P1家族はヤスプLPSに対して,出資金として,P11500万米ドル並びに250万米ドルの合計1750万米ドル,P2608万2179.08米ドル,P3472万7772.56米ドル及びP4472万7772.56米ドルの合計3303万7724.20米ドルを送金していること,⑦ヤスプLPSは,P1家族のみがリミテッドパートナーであるリミテッドパートナーシップであり,クブライU/Tへの投資を目的としていること,⑧クブライU/Tは,ヤスプLPSから出資を受けた資金でEB債1を3000万米ドル分購入していること,⑨シナジープラスは実体のない法人であること,⑩P1は,自ら,シナジープラスに関する情報をDMG証券に送付していること,⑪EB債1の中途買入れに際し,P1が代表取締役である商工ファンドの社員が,DMG証券に対して,シナジープラスの買入れ代金をファンドにより支払うことの可能性を打診しており,投資家が真の第三者の場合には,このような便宜的な対応はできないことが記載された上で,EB債1の年利21.25パーセントの利率については,①原告の意思決定権者はP1であり,EB債1の利息の真の受領者はP1家族と認められるから,EB債1の利息の支払者と真の受領者の意思決定が実質的に同一人により行われる関係にあること,②P1の判断でEB債1を中途買入れ又は中途償還することにより,商工ファンド株式の株価下落のリスクを利息の真の受領者であるP1家族に全く負担させないことができること,③EB債1は社債の形態をとっているものの,一般に流通が予定された債券とは異なり,実質的にはP1家族による原告に対する融資に近い性格のものであること,④原告は,EB債1の発行直前にクレディ・スイス・ファースト・ボストン銀行から年利2.07188パーセントで融資を受けていることから,適正なものではなく,その適正利率は,EB債1の発行時の米ドル・スワップレート等を基に算出した平成10年2月27日発行分につき7.905パーセント,同年3月6日発行分につき7.995パーセントであって,これを超える支払利息については不相当に高額であり,P1家族に対する利益供与と認められるから役員報酬となり,平成10年5月期事業年度については,株主総会で決議された役員報酬の支払限度額を超過した分について損金算入することはできず,平成11年5月期事業年度ないし平成13年5月期事業年度については,海外の法人,海外のパートナーシップ及び海外の信託を介在させ支払利息に仮装して当該報酬を支払っていることから,法人税法34条2項の規定により損金の額に算入されず,また,シナジープラスに対する支払利息のうち不相当に高額な部分は,シナジープラスはP1家族が介在させただけであって利息の真の受領者ではないところ,原告は,真の受領者の具体的氏名等を明らかにしないことから,これを損金の額に算入することはできない旨記載され,併せて,その金額について,本訴における被告の主張額のとおり算定されている(ただし,平成10年5月期事業年度について,平成10年3月6日発行分のEB債1の支払利息のうち,P1に対する役員報酬に該当する適正利率超過分は,平成10年5月期更正処分の方が7円少なく計算されている。)ことが認められる。
そうすると,EB債1に係る本件各処分についての更正の理由としては,EB債1を購入した者をP1家族又はその関係者であると認めた根拠となる事実を摘示した上で,EB債1に係る支払利息について不相当に高額な部分はP1家族に対する利益供与たる役員報酬又はシナジープラスに対する不相当に高額な支払に当たると認めた根拠について説示し,併せて,当該報酬のうち不相当に高額な部分又は法人税法34条2項に該当する部分等について損金の額に算入されない旨示してその金額の算定根拠を明示しているものであると評価することができる。
そして,被告はEB債1の支払利息の支払の事実そのものを否認したものではなく,帳簿書類の記載について納税者と法的な評価を異にして更正をする場合に該当するものであるから,上記のとおり,被告が主張する米ドル・スワップレートに付加すべき原告の信用力に応じたスプレッド等の算定がEB債1に係る本件各処分と当裁判所の認定との間に若干のそごを来したとしても,当該スプレッド等を加算して本件の事案に即した適正な利率を算定するという基本的・中核的な点においては何ら矛盾するものではなく,裁判所の認定した範囲も渋谷税務署長及び被告による理由の記載の範囲内にとどまるものであることからして,上記各処分における理由の記載は,十分に具体的であり,更正処分庁の判断の慎重,合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという理由付記制度の趣旨・目的を充足するものということができるから,何らの不備もないというべきである。
ウ(ア) この点,原告は,クブライU/Tについて,その存在を無視した法的根拠の記載がなく,理由不備の違法がある旨主張する。しかし,上記イのとおり,EB債1に係る本件各処分の理由としては,クブライU/TはEB債1の購入者とされているが,P1家族のみがリミテッドパートナーであるリミテッドパートナーシップであるヤスプLPSからの出資資金でEB債1を購入したとの事実が示され,被告はその事実を評価してEB債1の購入者がP1家族であると認定していることが明らかであって,その記載の程度は不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨・目的に照らしても,欠けるところはないというべきである。
(イ) また,原告は,EB債1に係る本件各処分には,P1家族がいまだに受領していないEB債1の利息を,原告からP1家族に対する役員報酬である旨認定するに際して,何らの法的根拠も示していない不備があるとも主張する。しかし,上記イのとおり,上記各処分には,EB債1の利息の支払者と真の受領者の意思決定が実質的に同一人により行われる関係にある旨が示されており,原告による利息の支払がP1家族に対する利益供与に当たる理由が記載されているといえるから,その記載の程度は不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨・目的に照らしても,欠けるところはないというべきである。
(ウ) さらに,原告は,エクイタブルに関する理由付記不備の違法として,被告は本件各処分時においてエクイタブルの存在を了知していなかったとか,P1がエクイタブルを実質的に支配しているのであれば,エクイタブルの受領分又は受領予定分についてはP1が受け取ったと同視できるとしても,P1及びP2が受け取ったと同視できるという理由にはなり得ない旨の主張もする。しかし,上記イのとおり,EB債1の利息の支払者と真の受領者の意思決定が実質的に同一人により行われる関係にあることから,P1家族が,海外の法人,海外のパートナーシップ及び海外の信託を通じて購入したものであると認められるとして,エクイタブルを含め,原告と資金拠出者であるP1家族との間に介在する組織群はすべてP1家族のダミーであることを示し,併せてバーチベールLPSにつながる2つの信託にP1とP2は72対3の比率で出資し,EB債1の購入資金の原資を拠出していることを記載しているのであるから,渋谷税務署長及び被告がエクイタブルの存在を了知しているといないとにかかわらず,また,エクイタブルを実質的に支配しているのがP1のみであると否とにかかわらず,アスチュラルートにつき,EB債1の購入者であり利息の真の受領者であるP1及びP2に対する損金の額に算入することができない役員報酬額の算定根拠についても,理由付記制度の趣旨・目的に照らして,十分に具体的な記載がなされているということができる。
3 争点(3)(法人税法132条の憲法適合性)について
(1) 原告が,β不動産売買契約及びKOBEファンド取引当時に同族会社(法人税法2条10号)であることは当事者間に争いがなく,渋谷税務署長は,原告によるβ不動産売買契約及びKOBEファンドに係る取引について,法人税法132条を適用して,原告の当該行為計算を否認しているところ,原告は,かかる行為計算の否認は,その根拠となる同条自体が憲法14条1項(法の下の平等の原則)に違反するから無効である旨主張するので,以下検討する。
(2)ア 憲法14条1項は,すべて国民は法の下に平等であって,人種,信条,性別,社会的身分又は門地により,政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない旨を明定している。この平等の保障は,憲法の最も基本的な原理の一つであって,課税権の行使を含む国のすべての統治行動に及ぶものである。しかしながら,国民各自には具体的に多くの事実上の差異が存するのであって,これらの差異を無視して均一の取扱いをすることは,かえって国民の間に不均衡をもたらすものであり,もとより憲法14条1項の規定の趣旨とするところではない。すなわち,憲法の上記規定は,国民に対し絶対的な平等を保障したものではなく,合理的理由なくして差別することを禁止する趣旨であって,国民各自の事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは,その区別が合理性を有する限り,何ら上記規定に違反するものではないものと解される(最高裁判所昭和39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁参照)。
イ ところで,租税は,国家が,その課税権に基づき,特別の給付に対する反対給付としてでなく,その経費に充てるための資金を調達する目的をもって,一定の要件に該当するすべての者に課する金銭給付であるが,およそ民主主義国家にあっては,国家の維持及び活動に必要な経費は,主権者たる国民が共同の費用として代表者を通じて定めるところにより自ら負担すべきものであり,我が国の憲法も,かかる見地の下に,国民がその総意を反映する租税立法に基づいて納税の義務を負うことを定め(30条),新たに租税を課し又は現行の租税を変更するには,法律又は法律の定める条件によることを必要としている(84条)。それゆえ,課税要件及び課税の賦課徴収手続は,法律で明確に定めることが必要であるが,憲法自体は,その内容について特に定めることをせず,これを法律の定めるところにゆだねている。そして,租税は,今日では,国家の財政需要を充足するという本来の機能に加え,所得の再配分,資源の適正配分,景気の調整等の諸機能をも有しており,国民の租税負担を定めるについて,財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とするばかりでなく,課税要件等を定めるについて,極めて専門技術的な判断を必要とすることも明らかである。したがって,租税法の定立については,国家財政,社会経済,国民所得,国民生活等の実体についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的,技術的な判断にゆだねるほかはなく,裁判所は,基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきである。そうであるとすれば,租税法の分野における会社の株主等の構成の違い等を理由とする取扱いの区別は,その立法目的が正当なものであり,かつ,当該立法において具体的に採用された区別の態様が上記目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り,その合理性を否定することができず,これを憲法14条1項の規定に違反するものということはできないものと解するのが相当である(最高裁判所昭和60年3月27日大法廷判決・民集39巻2号247頁参照)。
ウ この点,原告は,法人税法132条は,課税秩序の維持を図るという消極目的をもった規制立法であり,同条の合憲性を判断するためには厳格な審査基準等が用いられるべきである旨主張するが,上記イのとおりであって,原告の上記主張は採用できない。
(3) かかる観点から,法人税法132条について考察するに,同条は,同族関係によって会社経営の支配権が確立されている同族会社においては,法人税の負担を不当に減少させる目的で,非同族会社では容易になし得ないような行為計算をするおそれがあるので,同族会社と非同族会社との課税負担の公平を期するために,同族会社であるがゆえに容易に選択することのできた純経済人として不合理な租税負担を免れるような行為計算を否認し,同じ経済的効果を発生するために通常採用されるであろうところの行為計算に従ってその課税標準を計算し得る権限を徴税機関に認めたものであって,同族会社に対してのみこのような行為計算の否認の規定を設けたことについては十分な合理性があるというべきであるから,これを憲法14条1項の規定に違反するものということはできない。
(4) この点に関して,原告がるる主張するので,以下においてその検討結果を補足説明する。
ア 原告は,税制調査会の答申等をもって,日本国政府は,本件訴訟で,少なくとも,「現在,行為計算の否認規定は,同族会社等に対してのみ適用されることになっているが,否認の対象となっている行為計算の態様や現在の諸情勢からみて,これを同族会社等のした行為計算のみに限定する理由に乏しいと認められる」とする答申の立場を否定することは,許されない旨主張するが,被告が,このような答申の立場に法的に拘束されて本件の訴訟追行をしなければならないわけではないから,原告の上記主張は失当である。
イ 原告は,法人税法132条の目的は,同族会社と非同族会社との間の租税負担の公平を図ることにあるところ,同族会社においては,法人税の負担を不当に減少させる目的で,非同族会社では容易になし得ないような行為計算をするおそれがあるといった蓋然性により差別をすることは許されず,加えて,何が同族会社であるがゆえに容易になし得る行為計算に当たるかを判断することは著しく困難であり,むしろ,非同族会社においても,同族会社と同様の租税回避行為をなすという事実状態が存在するくらいであって,立法目的を支える立法事実が欠如しており,当該立法目的は不合理であり,当該立法において具体的に採用された区別の態様も上記目的と関連性を欠くものであって,仮に,法人税法132条の合憲性を維持してこのような不合理な結論を回避するためには,「同族会社ではなしうるが,非同族会社では理論的にも実務的にも行われ得ないような行為計算」のみを否認の対象とするほかない旨主張する。しかし,上記(3)のとおり,同条の立法目的は正当なものであり,かつ,法律的・論理的には非同族会社もなし得る行為計算について,同族会社がこれを行った場合に,当該同族会社について,同条により当該行為計算を否認したとしても,当該立法において具体的に採用されたこのような区別の態様が上記目的との関連で著しく不合理であることが明らかとはいえないことは,やはり上記(3)のとおりであって,何ら憲法14条1項に違反しないというべきである。
ウ 原告は,法人税法132条が,株主構成に着目して租税回避行為を行う蓋然性を区別することは,「具体的経営事項に関する株式会社の意思決定機関は取締役会である」という現行商法が前提とする株式会社の意思決定過程との間でそごを来しているとも主張する。しかし,株主構成に着目すれば,役員の人事権等の実権を握ってこれを支配しているとの判断が容易にできる以上,何ら現行法規における理念との間に矛盾・抵触を生じているとはいえず,やはり,原告の上記主張は失当であるといわざるを得ない。
エ 原告は,本件では,最高裁判所昭和60年3月27日大法廷判決(民集39巻2号247頁)に照らして,税務行政の執行上の場面以上に,①純経済人として不合理な行為計算を行った同族会社と同様の行為計算を行った非同族会社との間の租税の較差が正義衡平の観念に反する程に著しく,②当該較差が長年にわたり恒常的に存在し,③当該較差が租税法制自体に基因していると認められるから,法人税法132条は憲法に違反する旨主張するが,上記(3)のとおり,同条の適否による課税の有無といった相違が正義衡平の観念に反しているとはいえないから,原告のかかる主張はそもそもその前提を欠き,理由がないものというべきである。
オ 原告は,法人税法132条は,同法22条,34条及び36条等の同族会社,非同族会社の区別なく適用される法規定の創設により,今日においては,もはやその存在意義を失ったとも主張するが,本件のごとく,同法132条の適用領域は現に存在するのであるから,意義を失ったから無用であるなどということはできない。
4 争点(4)(β不動産売買契約の否認の可否,理由付記不備の有無)について
(1) 本件のうち,β不動産に係る平成12年5月期更正処分は,渋谷税務署長が,β不動産売買契約を不合理な取引であるとして,法人税法132条により行為計算を否認し,適正な売買価格を算定した上で,その差額が原告から評価センターに対する寄附金に該当するとして同法37条7項(ただし,平成14年法律第79号による改正前のもの)を適用して,寄附金の損金不算入額18億3885万0123円を所得金額に加算した(甲1の3)というものである。そして,本訴において,被告は,上記の法規を適用して,寄附金の損金不算入額18億8082万1153円を所得金額に加算すべき旨主張している。
(2) 被告の主張を更に敷衍すると,法人税法132条が憲法に違反しないことは前記3のとおりであるところ,被告は,原告と評価センターとの間のβ不動産に係る取引は,同族会社の行為又は計算であり,売買代金の調達金利と購入不動産等の運用益との間に著しい逆ざやが生じており,β不動産売買契約に至った経緯が特異であること等からみて,通常の経済人であれば低廉な価格で売買契約を締結することはおよそ考えられないとし,これは,同族会社がその関係者との間で欠損金蓄積のためにあえて行った取引であり不当であって,専ら経済的・実質的見地からみた場合,当該行為又は計算が通常の経済人の行為又は計算として不合理,不自然なものであるから,これを容認した場合にはその同族会社の法人税の負担を不当に減少させる結果となるので,同条に基づきこれを否認し,適正な売買価格との差額を原告から評価センターに対する寄附金と認定して,これを損金の額に算入することを否定すべきである旨主張する。
これに対し,原告は,β不動産売買契約に至った経緯が特異であるか否かは,β不動産の「時価」の認定に全く関係がなく,譲渡先が同族関係者であろうと第三者であろうと,売買対象物件の「時価」を客観的に算定すれば足りるのであるから,本件の争点は,β不動産売買契約時におけるβ不動産の「時価」のみであるところ,原告と評価センターとの間の平成11年11月2日付けβ不動産売買契約についての売買価格は,独立の第三者である不動産鑑定専門会社が,正当な評価方法によって算出した評価額に基づいて決定された価格であるから,低額ということはなく,同条の要件を満たさない旨主張する。
検討の前提として,この原告の主張の前段につき付言するに,売買契約それ自体が通常の経済人からみて不合理,不自然である場合には,売買価格の多寡のみが問題となるものではなく,単純に売買契約時点における対象物件の「時価」の算定だけを争点として採り上げることは紛争の本質をとらえたことにならないので,本件においては,問題となる取引が同条の要件に照らして,いかなる評価を受けるものであるかを考察する前提として,原告と評価センター間のβ不動産売買契約の実体を考察して,同条の適用について検討することが必要であるというべきである。なお,法人税法132条の趣旨は,前記3のとおり,同族会社においては,会社の意思決定が少数の株主等の意思により左右されているため,不当に租税を回避するような行為又は計算が容易になされやすく,課税上の弊害が生じやすいことに配慮し,これを是正し,租税負担の公平を図ろうとするものであり,それを通常あるべき行為や計算に引き直して納付すべき税額を計算する権限を税務署長に認めたものである。そして,同条により,①同族会社の行為又は計算であること,②これを容認した場合にはその同族会社の法人税の負担を不当に減少させる結果となることという要件を満たすときは,同族会社の行為又は計算にかかわらず,税務署長は,通常あるべき行為又は計算を前提とした場合の法人税の計算を行うことができることとなる。また,法人税の負担の減少が「不当」と評価されるか否かは,専ら経済的・実質的見地において,当該行為又は計算が通常の経済人の行為又は計算として不合理,不自然なものと認められるかどうかを基準として判断すべきである。
以下,かかる観点から本件の事案について検討する。
(3) β不動産売買契約を容認した場合には原告の法人税の負担を不当に減少させる結果となるか否か
ア β不動産売買契約の当事者たる原告と評価センターとの関係
証拠(乙40,52,53)及び弁論の全趣旨によれば,プライベートアイズ株式会社(現在の商号は「株式会社日本鑑定評価センター」(「評価センター」のこと)である。以下,この項において,商号変更前の同社を「プライベートアイズ」という。)は,平成9年2月12日にP24の出資により設立され,平成11年8月30日に代表取締役をP25に変更し,同年11月30日に本店所在地を東京都千代田区ε-10-4へ移転し,同年12月8日に商号を「株式会社日本鑑定評価センター」へ変更し,平成13年3月30日に原告に吸収合併されたこと,この間,プライベートアイズは,平成11年12月8日に株式会社ティービーエス(平成11年1月14日設立。同月28日に商号を「株式会社日本鑑定評価センター」に変更)を,平成12年8月15日に株式会社フォーピープル(平成5年2月24日設立)及び株式会社ジェイアールシー(平成12年6月19日設立)をそれぞれ吸収合併していること,評価センターの代表取締役P25は,株式会社ティービーエス,株式会社フォーピープル及び株式会社ジェイアールシーのいずれもの代表取締役であり,これらの株主は,それぞれ,プライベートアイズ,P1(平成12年6月22日からは評価センター)及び原告(平成12年6月22日からは評価センター)であること,プライベートアイズの株主は,平成11年2月18日にP24から有限会社トルネード(平成10年10月16日に原告の出資により代表取締役を商工ファンドP23として設立された会社)へ,平成11年7月30日に上記有限会社トルネードから株式会社インディペンデンス(平成11年7月29日にハックルベリーの出資により,代表取締役をP6会計士,取締役を商工ファンドP23及びP26として設立された会社。その後の平成13年6月27日に商工ファンドP23及びP26に代わってP3及びP4が取締役に就任し,平成13年12月1日に原告に吸収合併されている。以下「インディペンデンス」という。)へと,それぞれ変遷しており,β不動産売買契約当時もインディペンデンスがその株主であったこと,インディペンデンスの株主であるハックルベリーは株式を保有するだけのSPCで,実際の意思決定は最終的な所有者であるP3及びP4が行っていること,インディペンデンスの前取締役である商工ファンドP23は,商工ファンドに勤務し,原告のEB債1に係る取引についても関与していた者であること,インディペンデンスの代表取締役であるP6会計士は,原告の平成10年5月期事業年度から平成14年5月期事業年度における各税務代理人となっており,平成14年8月時点では原告の取締役となっていることが認められる。これらによれば,評価センターは原告によって実質的に支配・運営されている法人であると評価することができる。そして,原告が,P1又はP1家族によって実質的に支配・運営されている法人であることは,前記前提事実のとおりである。
よって,β不動産売買契約は,同族会社と,当該同族会社が実質的に支配している関連法人との間で行われた取引であるといえる。
イ β土地の取得及びβ建物建築の経緯等
証拠(甲34ないし36,49の1及び49の2,乙54,55の1及び55の2,56,59の1及び59の2,62,274の3,276)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成8年1月17日,別紙1記載1の土地をP27及びP28から12億3746万4000円で購入し,平成10年7月9日,別紙1記載2の土地を競売で8億8000万円で取得したこと,原告は,β不動産を売却した平成11年11月2日の売買契約当時,これら2筆合計で22億2275万6411円を土地勘定に計上していたこと,原告は,平成10年6月24日に,β土地に居宅兼ゲストハウスを建築すべく,清水建設株式会社を代表者とする共同企業体と金額12億6000万円で建築請負契約を締結し,同年11月9日の設計変更に伴う増加額3億6960万円を併せて合計16億2960万円でこれを発注したこと,原告は,株式会社アルキメディア設計研究所へ設計報酬等として2億1251万4221円を支払ったこと,原告は,β建物に付随する什器備品を,3億2261万5676円で取得したこと,原告は,β不動産を売却した平成11年11月2日の売買契約当時,β建物に付随する什器備品として合計3億0694万0176円,β建物に係る建築仮勘定として株式会社アルキメディア設計研究所への設計報酬等を含めて,合計18億4956万4550円を計上していたこと,β建物の設計は,その施主たる原告ではなく,賃借人として予定されており,かつ,現に同年10月1日にβ建物及び同建物に付随する什器備品について原告との間で賃貸借契約を締結してその賃借人となった商工ファンドが,居宅兼ゲストハウスとして使用する目的で,株式会社アルキメディア設計研究所に依頼したものであり,そのために必ずしも汎用性の大きくない極めて豪華で特殊な構造となったものであることが認められる。
ウ β不動産売買契約の内容等
前記前提事実のとおり,原告は,β建物が完成する2日前の平成11年11月2日に,評価センターに対して,β不動産を売却しているが,本訴において,当初,原告は,自身が免税事業者であるとして,消費税を含まない価格(β土地につき9億9923万6667円,β建物につき6億6489万6667円及び同建物に付随する什器備品につき3億2261万5676円の合計19億8674万9010円)が売買価格である旨述べており,これに対して,被告は消費税相当額を含む価格が売買価格である旨主張していたところ,その後,原告からは明確な反論がないままである。確かに,β不動産売買契約に係る売買契約書には,原告は,評価センターに対して,β土地を代金9億9923万6667円,β建物及び同建物に付随する什器備品を代金合計9億8751万2343円(消費税別)の合計19億8674万9010円で売却した旨の記載があるものの,証拠(乙57,58の2)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,後に当該売買契約に係る代金額を,β建物及び同建物に付随する什器備品につき代金合計10億3688万7960円(消費税相当額を含む。)に改訂し,β土地と合わせて代金合計20億3612万4627円としていることが認められるから,β不動産売買契約に係る売買代金は,上記20億3612万4627円であるというべきである。
また,証拠(乙57,276)及び弁論の全趣旨によれば,原告が,評価センター(当時の商号は「プライベートアイズ株式会社」)に対して,β不動産を代金合計19億8674万9010円で譲渡した旨の記載のある土地・建物売買契約書は,平成11年11月2日付けで作成されていること,同契約書には,β不動産には同年10月1日付け賃貸借契約に基づく借主を商工ファンドとする賃借権の負担が付いていること,代金の支払は契約当日に全額が手付金という形で行われること,β不動産の引渡しは契約当日限り残代金の支払と引換えに現状有姿で行われること等の記載があること,原告にはβ不動産売買契約により23億4313万6510円の譲渡損が計上されたことが認められる。
エ β不動産の売買価格の算定根拠
原告は,β不動産の売買価格は,β土地及びβ建物につき鑑定評価書3通の平均値を基準として設定した旨主張するところ,証拠(甲34ないし36,乙58の1及び58の2,274の3,276)及び弁論の全趣旨によれば,株式会社昭和鑑定法人の鑑定評価書の発行日は平成11年11月17日であり,日本土地建物株式会社の鑑定評価書の発行日は,平成12年1月18日であり,トーエイ不動産鑑定株式会社の鑑定評価書の発行日は同月24日であること,原告は,ほかに株式会社谷澤総合鑑定所へも鑑定評価を依頼していたが,同月28日発行の上記株式会社谷澤総合鑑定所の鑑定評価書は,上記3社と比較して鑑定額が高かったことからこれを除外して平均値がとられたこと,原告のβ建物の簿価は約18億5000万円であったところ,β建物は完成の2日前であったにもかかわらず上記3社の鑑定評価額の平均が約6億6000万円とされ,また,原告のβ土地の簿価は約22億2000万円であったところ,上記3社の鑑定評価額の平均が約10億円とされたのは,平成11年10月1日付けβ建物及び同建物に付随する什器備品に係る賃貸人原告,賃借人商工ファンドとする賃貸借契約が存在していたことと,β建物が商工ファンドによって居宅兼ゲストハウスとして使用されることを前提に設計されており,汎用性が大きくないことによる市場性減価が行われたほか,β土地もβ建物と一体化して使用されていること等を理由としていたからであったことが認められる。
そして,上記のとおり,β不動産売買契約に係る売買契約書の作成日付である平成11年11月2日には,上記の3社の鑑定評価書を参考にし得ない以上,β不動産売買契約は,実際には,各社の鑑定評価書が出そろった平成12年1月下旬から代金の決済と移転登記が行われた同年2月3日までの間に行われ,売買契約書の作成日付のみが平成11年11月2日まで遡及されたものであるか,又は,後に作成される鑑定書に基づいて売買代金額が算定されたものと説明できるような金額であれば,いつの時点で,またいくらの金額で,売買契約が締結されても構わないという間柄にあることを奇貨として,原告と評価センターとの間で,同日にその程度の内容の売買契約が締結されたものと評価することができ,このように,売買契約書の日付を遡及させ,又は,曖昧な内容の売買契約を締結することができたことは,原告と評価センターとが,前記アのように,ともにP1が支配・管理・運営している同族グループ法人であることの証左でもあるということができる。
また,証拠(甲34ないし36,乙62)及び弁論の全趣旨によれば,原告と商工ファンド間のβ建物に関する「βゲストハウス賃貸借契約書」が平成11年10月1日付けで作成されており,同契約書には,賃貸開始期間は平成12年1月25日から10年間,賃料はβ建物に付随する什器備品を含めて月額1000万円,敷金は賃料の6か月分と記載されているところ,日本土地建物株式会社の鑑定評価書では賃貸借期間を平成11年11月4日からとすることが,トーエイ不動産鑑定株式会社の鑑定評価書では契約一時金はないとすることが,株式会社昭和鑑定法人の鑑定評価書では保証金の授受については未定であるとすることが,それぞれ前提とされていることが認められる。
オ β不動産売買契約の履行
証拠(乙57,59の1及び59の2,60)及び弁論の全趣旨によれば,β不動産の譲渡代金の支払は,契約書上では平成11年11月2日の約定となっていたが,その決済は,平成12年2月3日に行われたこと,登記については,β土地は,同日の受付で,平成11年11月2日売買を原因として評価センターへの移転登記が行われ,β建物は,平成12年3月10日の受付で平成11年11月4日新築を原因として,所有者を評価センターとする旨の登記がなされていることが認められる。
カ その後のβ不動産の取引
証拠(乙59の1及び59の2,60,61,276)及び弁論の全趣旨によれば,β不動産は,評価センターが原告に吸収合併される平成13年3月30日の直前の同月29日,ブルーバードへ,評価センターの簿価(β土地につき9億9923万6667円,β建物につき7億1519万2092円及び同建物に付随する什器備品につき2億5333万5331円)で転売されていること,β土地及びβ建物についてはブルーバードへの所有権移転登記は行われておらず,平成12年1月28日に設定された前記前提事実のとおりのベントリアンの評価センターに対する25億円の債務について,β土地につき同月31日付けで設定され,同年2月3日に登記され,β建物につき同年3月15日付けで設定され,同日に登記された各抵当権設定仮登記が,抹消されることなくその譲渡が行われていること,ブルーバードは,平成13年3月15日に設立され,Chapman services corp BVI(英領バージン諸島所在)がその全株式を保有する法人であり,代表取締役をP6会計士とし,β不動産の購入資金の調達を目的として設立されたが,P6会計士は,P1に依頼されて代表者となったものであり,実質的にはP1が支配・運営している法人であることが認められる。
キ 原告の法人税の負担を不当に減少させる結果となるか否か
(ア) 法人税法132条において法人税の負担の減少が「不当」と評価されるか否かは,前記のとおり,専ら経済的・実質的見地において,当該行為又は計算が通常の経済人の行為又は計算として不合理,不自然なものと認められるか否かを基準として判断されるべきである。
(イ) 評価センターのβ不動産売買契約に係る売買代金の調達
評価センターは,β不動産売買契約締結日とされる平成11年11月2日から3か月経過した後の平成12年2月3日に,売買代金の全額を,前記前提事実のとおり,ベントリアンローンを通じて資金調達することにより決済したものであること,当該ベントリアンローンは,β不動産売買契約締結日とされる平成11年11月2日よりも後の平成12年1月26日に約定され,融資は,同年2月2日に実行されたものであること,当該ベントリアンローンは,借入金額25億円,利率年11パーセント(利息額は年間2億7500万円)であることは当事者間に争いがない。
(ウ) β不動産売買契約が通常の経済人からみて不合理な行為であるか否か
a 前記ウのとおり,β不動産売買契約に係る売買代金は,β土地につき9億9923万6667円,β建物及び同建物に付随する什器備品につき10億3688万7960円(消費税相当額を含む。)の合計20億3612万4627円であると認められるところ,評価センターは,上記(イ)のとおり,これを,β不動産売買契約締結日とされる日の後に約定され,融資実行された,利率年11パーセント,年間支払利息2億7500万円のベントリアンローンの元金25億円から拠出しているのに対して,評価センターが承継した原告と商工ファンドとの間のβ建物及び同建物に付随する什器備品に関する賃貸借契約による賃料収入は年間1億2000万円にとどまるものとされていることからすれば,評価センター単独でみた場合の収支は近々破綻することが確実であり,評価センターは,当時,β不動産の購入資金を有していなかったばかりか,当該購入資金を調達するために担保とすべき目ぼしい資産も有してはいなかったこと(乙150の1及び150の2)からすれば,評価センターにはβ不動産を購入する実質的な理由はなく,他方で,原告は,β土地上に,賃貸物件としては汎用性のない個性的な高額の建物を商工ファンドの要望どおりに建築し,正にこれから商工ファンドへの賃貸事業を通じて投下資金の回収を図ろうとしている矢先の状況で,自らの意思でそれまでの40億円を超える投資を放棄し,これを半額以下の廉価で売却したことになり,原告単独でみた場合にも,これは,営利を目的とする企業の取引として本来成立し得ない経済的に不合理なものであって,前記2(4)アのとおり,原告には将来の商工ファンド株式の売却のための欠損金蓄積の目的があったことをも加味して考察すれば,原告は,同族グループ法人間から外に投下資本を下回る価格でβ不動産が流出することがなければ,関係当事者間でいかような取引が行われても差し支えない状況にあることを奇貨として,帳簿上の損失の発生を目的としてβ不動産売買契約を締結したものとみるほかない。これに,前記前提事実及び前記アのとおり,原告,商工ファンド及び評価センターは,いずれもP1が経営を支配し,運営している法人であるところ,これらの同族グループ法人間で賃貸借契約が行われる場合には,いずれの法人が賃借人となり,いずれの法人が賃貸人となって目的物件を所有するかは,それぞれの法人が独立した通常の経済人としての合理的な判断を行って決まるものではなく,P1という同一人の一存で決定される常態にあったことを併せて勘案すれば,β不動産売買契約は,評価センターを実質的に支配・管理している原告又はP1が,グループ全体からは財産を外に取得価格を下回る安価で流出させることなく,客観的な交換価値を保ったまま,別途,グループ内部に意図的に多額の欠損金を作出するために評価センターに行わせた取引であると評価することができる。
そして,このような原告及び評価センターの行為は,通常の経済人としては不合理,不自然なものであるといわざるを得ないのであって,かかる同族グループ法人間での不合理な取引行為は,それ自体虚偽ではなく,事実を仮装しているわけでもないとしても,その行為又は計算を否認しなければ,租税の公平を実現することが不可能であるというべきである。
b この点,原告は,取得価額を下回る対価での売却を否定するとした場合には,譲渡先が関係者であろうと第三者であろうと,β不動産を「時価」から乖離した取得価額を上回る対価で売却できる相手がいない以上,未来永劫,売却できないこととなり,不当である旨主張する。しかし,本件で問題となるのは,上記aのとおり,β不動産売買契約が,グループ全体からは財産を外に取得価格を下回る安価で流出させることなく,客観的な交換価値を保ったまま,別途,グループ内部に意図的に多額の欠損金を作出するために行われた取引である点において不当であることであって,時価での売却を禁止するといったものではないから,原告の主張はその前提を欠き,失当である。
(エ) β不動産の取引に係る法人税法132条に基づく行為又は計算の認定
a β不動産売買契約は,結局のところ,評価センターが,原告が商工ファンドに賃貸すべく商工ファンドの設計のもとで建築したβ建物等のβ不動産に関する権利を原告がそれまでに投資してきた価額の約半額で取得し,原告が予定したとおりに商工ファンドに賃貸するものである。そして,上記のように,同族グループ法人全体からは財産を外に取得価格を下回る安価で流出させることなく,客観的な交換価値を保ったまま,別途,グループ内部に意図的に多額の欠損金を作出するといった不当な結果を否認してこれを是正し,租税負担の公平を図るため,それを通常あるべき行為や計算に引き直して納付すべき税額を計算すると,本件においては現実に資産が移動し,賃貸人たる地位も評価センターに移転していること,β土地については,原告の取得時が譲渡時と時間的に離れており,土地価格の下落幅が大きいこと等からして,当該取引がないものとして原告の取得価格自体ないしは簿価をもって正当な経理処理と認定して課税した場合には原告及び原告の同族グループ法人全体にとって酷にすぎること,これを回避するためには,土地については,譲渡時の適正な評価を反映しているものと考えられる公示価格をもって経理処理をすることが妥当であること,当該譲渡の時点での評価センターの地位は,請負契約に基づく建物引渡直前の注文者たる原告の地位を承継したものと評価でき,原告と評価センターとの間のβ建物及び同建物に付随する什器備品等の資産の移動に伴う経理としては,請負代金額ないしは物品の購入価格が原告の帳簿書類において適正に反映された帳簿価格をもって資産の移動があったものと認定することが,租税負担の公平性を導く上で最も適正な経理処理であるというべきであること等からして,税務署長としては,かかる価格での売買契約を認定すべきものというべきである。そうすると,かかる価格と実際のβ不動産売買契約に係る譲渡価額との差額は,原告から評価センターに対して不当に移転された経済的給付であって,これは,「資産の譲渡又は経済的な利益の供与をした場合において,その譲渡又は供与の対価の額が当該資産のその譲渡の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額に比して低いとき」(平成14年法律第79号による改正前の法人税法37条7項)に当たるから,「当該対価の額と当該価額との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額」(同項)である上記差額分については,寄附金の額に含まれることとなり,平成14年法律第79号による改正前の法人税法37条2項により,損金算入限度額を再計算する必要があり,原告が計上した譲渡損のうち,上記の差額分をそのまま全額,原告の平成12年5月期事業年度の損金の額に算入することは許されないものというべきである。
そして,証拠(乙275)及び弁論の全趣旨によれば,β不動産売買契約が行われた年である平成11年の1月1日時点における公示価格は,β土地(住居表示は東京都渋谷区β9番20号)に近接する標準地番号「渋谷-5」(住居表示は東京都渋谷区β13番7号)の地価が,1平方メートル当たり112万円であることが認められることから,β土地についてもほぼ同額であり,地積合計1571.89平方メートルのβ土地の公示価格は17億6051万6800円であるといえる。また,前記イのとおり,β建物の帳簿価格は,建物仮勘定に計上されている建物価額たる18億4956万4550円,同建物に付随する什器備品の帳簿価格は,3億0694万0176円であり,それらの合計額は21億5650万4726円であると認められる。
よって,原告の売買価格との差額18億8089万6899円は,原告から評価センターに対する寄附金となるというべきである。
b この点,原告は,売買契約の対象物の「時価」には,関係会社間の「時価」と独立当事者間の「時価」というダブルスタンダードがあるわけではないから,β不動産売買契約が関係会社間で行われようが独立当事者間で行われようが,そのような事情は,税法上の「時価」算定上は全く無関係な事柄にすぎず,正規の不動産鑑定の手法を採用して算定した「時価」が否認される理由はない旨主張する。しかし,本件において同族会社の行為として不当と評価しているのは,β不動産売買契約が仮に独立当事者間で行われたと仮定した場合における取引価額との比較において低廉にすぎるというものではなく,当該売買契約を実施したことそのものが不当であるというものであり,ただ,その是正方法としては,諸般の事情を総合考慮して適正な評価による資産の移転という経理処理を行うべきであるとしたものであって,原告が主張するように,時価にダブルスタンダードを設けたものではないから,原告の上記主張は失当である。本件においては,一方において,原告又はP1は,取得価格を大幅に下回るような価格でβ不動産をグループ外に流出させる意図を全く有してはおらず,他方において,独立の第三者であれば,原告の取得価格を大幅に下回るような価格でしかβ不動産を購入することはあり得ないことからしても,およそ,通常の経済人からみて合理的な価格での売買契約が成立する余地はないところにおいて,原告又はP1は,同族グループ法人間であることを奇貨として,このような不合理な取引関係を作出し,原告に多額の欠損金の蓄積を図ったものにすぎないといわざるを得ない。
また,原告は,商工ローン・バッシングを回避するために,β不動産を評価センターに売却せざるを得なかった旨も主張するが,そのような売却がバッシングの矛先をかわす有効な方策になり得るとはいい難く,これをもってβ不動産売買契約が通常の経済人からみて合理的な取引であることを基礎付けることはできないから,原告の上記主張は失当である。
さらに,原告は,β不動産売買契約は,多額の含み損を抱えた資産を売却して損失を計上するという,いわゆる「損出し」にすぎず,これが同族グループ法人間で行われたとしても,税法上否認されるいわれはない旨主張する。しかし,いわゆる「損出し」は正当な取引によって生ずる結果にすぎず,本件のごとく,原告がβ建物を,実際にこれを使用する商工ファンドの細部にわたる指示に基づいて,多額の資金をかけて,極めて豪華に,かつ,汎用性のないような仕様で建築し,完成引渡し直前に,多額の損失が発生するような譲渡価額で,これを何ら購入する理由のない同族グループ法人である評価センターに対して売却したという取引自体が不合理なものであるとして否認されるべき事案においては,いわば「作られた損」を出そうとしているものにすぎず,その結果面のみをとらえて正当な「損出し」として許容されるなどとは到底いえない以上,原告の上記主張を採用することはできない。
加えて,原告は,公示価格は更地としての地価を示すものであるから,土地上に建物が存するβ土地を評価するに当たって公示価格を使用した場合には,建物の存在を考慮しない点で不当である旨主張する。しかし,前記(ウ)a及び(エ)aのとおり,β土地上には商工ファンド設計によるβ建物が建築されて,当初からの予定どおり商工ファンドに一体として賃貸されているのであり,β土地は最大限有効活用されているのであって,両者一体としての評価を算出する過程において,β土地上にβ建物が存在していることをあえて土地公示価格からの減価要因とする必要性に乏しいから,原告の上記主張は失当である。
さらにまた,原告は,原告の関連会社である評価センターに対して,β不動産を独立当事者間の「時価」で売却することはできないが,評価センターが,第三者に対して,β不動産を独立当事者間の「時価」で売却することができることとなれば,課税実務上許容されていない,いわゆる「損の付け替え」が許されることになる旨も主張する。しかし,上記(ウ)a及び(エ)aのとおり,本件においては,β不動産に係る取引は,グループ全体からは財産を外に取得価格を下回る安価で流出させることなく,客観的な交換価値を保ったまま,別途,グループ内部に意図的に多額の欠損金を作出するために原告と評価センターとの間で行われた取引であり,取引当事者それぞれについてみた場合に何ら売買契約を締結する合理的な理由はないものであって,このような原告及び評価センターの行為は,通常の経済人としては不合理,不自然なものであるといわざるを得ないことから否認しているものである。結果としても,前記カのとおり,ブルーバードはP1の支配・運営する法人であって,いまだに資産は同族グループ法人外には流出していないのであって,「時価」でグループ外に売却する意図を有しつつ,損金を計上する法人を独自に選別しようとするいわゆる「損の付け替え」とは根本的に異なるものといわざるを得ないのであるから,原告の上記主張はその前提を欠くものというべきである。
その他,原告は,合理的な代金支払手段を持たないことを理由にβ不動産売買契約を否認しながら,実際の売買代金額よりも高額の代金額を認定するのでは,評価センターにとって,より収支を悪化させる認定となり不合理であるとも主張するが,自ら不合理なことを行ったがゆえに不利益な状況に陥ったとしても,自業自得というほかないのであって,かかる原告の主張は,何ら顧慮に値しないものといわざるを得ない。
(オ) 法人税の負担を不当に減少させる結果となるか否か
a 原告は,このような不当なβ不動産売買契約に基づいてβ不動産を評価センターへ売却することにより,上記ウのとおり23億4313万6510円の売却損を計上しているところ,上記(エ)aのとおり適正な評価を下回る18億8089万6899円については評価センターに対する寄附金となることから,平成14年法律第79号による改正前の法人税法37条2項により,損金算入限度額を再計算する必要があるところ,これは,後記9(1)ウ(イ)bのとおり,18億8082万1153円となり,同額について平成12年5月期事業年度の欠損金額を増加させたこととなり,少なくとも5億6360万6300円(なお,これは,経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律16条によって,資本の金額が1億円以下である原告の各事業年度の所得の金額が800万円以下の金額について適用される税率である22パーセント及び800万円を超える金額について適用される30パーセントを基に換算した場合である。)の翌期以降の法人税の負担を不当に減少させることとなったものというべきである。
b この点,原告は,平成12年5月期事業年度における当該繰越欠損金はこの後のいかなる事業年度においても損金に充当されておらず,繰越欠損金として計上され続けているだけにすぎないから,原告についてはβ不動産売買契約によっては現実に法人税負担の減少は生じておらず,法人税法132条の適用要件を充足していない旨主張する。
しかしながら,同条1項が,「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは」,「その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる」と規定していることからすれば,同条は,税務署長の措置として,青色申告法人の欠損金額だけを一部減額する更正処分を行うことを当然に予定しており,当期の法人税額が更正処分後も異動しない場合であっても,当初計上された欠損金額のうちに,通常の経済人としては不自然,不合理な行為によって作出された欠損金額が含まれており,当該欠損金額が翌期以降に繰り越されることによって,それが翌期以降の損金に算入されることで法人税を減少させることが可能となる状態が作出されたのであれば,所得金額を不当に減少させたことに変わりはない以上,当該欠損金額について,「法人税の負担を不当に減少させる結果となる」と認められるものと解されるから,同条の適用のためには現実の損金への算入の有無を問わないものというべきである。仮に,同条の適用のためには現実の損金への算入が必要であるものとすると,同条の文言に反するばかりか,β不動産売買契約当時は,平成16年法律第14号による改正前の法人税法57条1項の繰越欠損金の損金算入期間(事業年度開始の日前5年以内に開始した事業年度)と同改正前の通則法70条2項の更正処分の除斥期間(5年を経過する日)との対応関係からして,否認対象行為を把握しつつも実際上は更正処分の除斥期間内には更正処分をすることができず,除斥期間の経過により損金への算入を容認せざるを得なくなるといった実務上の不都合が生じる可能性等も考えられ,不合理であるというべきである。
(4) 法人税法132条の適用
以上によれば,β不動産売買契約を法人税法132条により否認し,適正な評価との差額を寄附金と認定してその損金算入限度額を再計算したことは正当であるということができる。なお,本訴における被告の主張の中核は,売買契約に至る特異な経緯等の諸事情にかんがみれば,β不動産売買契約に係る売買価額が低廉にすぎるというものであり,当裁判所の認定は,前記(3)キ(ウ)a及び(エ)aのとおり,取引自体の不当性をいうものであるが,かかる差異は否認の理由の細目の相違にすぎず,後記(5)のとおり,認定した効果が共通である点等も加味すれば,弁論主義に違反するものではないというべきである。
(5) 理由付記の不備の有無
原告は,被告がβ不動産売買契約に係る平成12年5月期更正処分において,いかなる行為計算を否認対象とし,代わりに,いかなる行為計算を認定して税額等を計算したのか不明である旨主張する。
しかし,証拠(甲1の3)及び弁論の全趣旨によれば,β不動産売買契約に係る平成12年5月期更正処分の根拠として,原告がβ建物を使用するP1の判断で通常の建築単価をはるかに上回る建物を建築し,これを完成後直ちに多額の損失が発生するような対価で売却する行為を否認対象とする行為計算であることが記載され,その理由として,売却した土地建物等の価額が当該土地に係る公示価格及び什器備品付建物の取得価額の合計額に比して著しく低額と認められることが挙げられており,それにより,当該売買行為は,原告の法人税を不当に減少させることになることから,代わりに,税務署長は,経済的合理性の見地から,什器備品付建物の取得価額及び土地の公示価格の合計額によって算出される価額が,β不動産の売却価額として妥当であると認定し,差額を寄附金と認めて損金算入限度額の再計算をした旨が記載され,その理由として,建物の売買が建物完成前に行われていること,建物の売却によってもその用途に変更はないこと等が挙げられているのであって,同族会社の行為計算の否認を行ったこと及びその計算方法を具体的に記載しているものと認められる。
当裁判所の認定は,前記(3)キ(ウ)a及び(エ)aのとおり,取引自体の不当性をいうものであるが,かかる差異は否認の理由の細目の相違にすぎないから,その差異が,不服申立ての便宜という上記の理由付記制度の趣旨・目的に違反するものであるとはいえない。もっとも,同処分の理由中においては,β不動産の売却価格を19億8674万9010円,β土地の公示価格を17億6275万6800円,β建物及び同建物に付随する什器備品の取得価格を21億0712万9109円として寄附金の損金算入限度額の再計算を行った旨の記載があるが,このうち,β土地の公示価格を違算したために生じた224万円(当該公示価格が1平方メートル当たり112万円であるので,2平方メートル分に相当する。)の過大計上や寄附金損金不算入額の計算の誤りは,適正な課税に専心すべき課税庁の対応としてはいささか軽率であったとのそしりを免れないところではあるが,上記認定のとおり,当該金額については本訴において既に是正済みであり,また,寄附金認定額については,上記224万円を控除した残額18億8089万6899円について全額寄附金であると認定できる(なお,寄附金額算定の根拠たる簿価及び適正な評価額に関する当裁判所の認定も,上記処分とは若干異なるものの,当該差異は否認の理由の細目の相違に基づいて生じたものにすぎないことは上記のとおりである。)ものであり,上記処分における寄附金損金不算入額は,後記9(1)ウ(イ)bの本件における寄附金損金不算入額よりも低額ではあるが,元となる寄附金認容額が上記処分の方が違算の分だけ多額であり,これを減算し,併せて,所得金額との関係において寄附金損金不算入額を再計算した結果,その額が上記処分よりも多額となったものにすぎず,当裁判所が認定した効果も実質的には上記処分の範囲内にとどまっているものといえるから,原告の帳簿書類の記載内容を否認しているわけではない本件事案においては,上記処分の理由の記載の程度が不服申立ての便宜という上記の理由付記制度の趣旨・目的に反し,違法であるとまではいうことはできない。
5 争点(5)(ベントリアンローンに係る支払利息の性質,重加算税の賦課要件の有無,理由付記不備の有無)について
(1) 被告は,ベントリアンローンに係る本件各処分は,ベントリアンローンがP3及びP4に対して利益を供与することを予定して策定されたスキームであり,これを隠ぺいするために,P3及びP4と評価センター(平成13年3月30日に評価センターが原告に吸収合併された後は,原告である。)との間に様々なSPC等を介在させて,優先株に対する配当等の形を仮装している点で,ベントラー社からラファエロに対してなされた配当金は,P3及びP4に対する利益供与に当たり,これは評価センターからP3及びP4に対してなされた寄附金(評価センターの吸収合併後は,原告がその役員であるP3及びP4に対して行った,仮装・隠ぺいされた役員報酬)であるとして行ったものであると主張する。
これに対し,原告は,評価センター又は原告の支払ったベントリアンローンの年率11パーセントの支払利息のうち,年率7.58パーセント相当の金額は,海外の法人であるラファエロ及び海外の信託であるクリオスU/Tを通じて,P3及びP4に対して結果的に渡ることとなるとしても,当該利息の金利11パーセントは適正な市場レートであるから,当該支払利息は,P3及びP4に対する役員報酬ないし寄附金とはなり得ない旨主張する。
その上で,原告は,被告がベントリアンローンの年利11パーセントの支払利息のすべてを否定しているわけではないとし,評価センターがベントリアンローンにより25億円の資金を調達したこと自体は経済的に合理的な取引であると被告が認めているから,本件の争点は,ベントリアンローンと同様の条件で25億円の資金調達をする際の適正金利である旨主張している。
しかしながら,本件において,被告が当該取引の合理性を認めた上で,経済的に合理的な利率を認定してそれを超える部分について否認したわけではないことはその主張からして明白であり,前記2のEB債1に係る本件各処分における場合と同様に,調達資金の金利の適正性を検討するにしても,まずは当該取引の実体を把握しない限りはこれを行うことができないことから,初めに,当該ベントリアンローンに係る取引の実体について検討することとする。
(2) ベントリアンローンに係る取引の実体
ア ベントリアンローンの策定の経緯等
証拠(乙63)及び弁論の全趣旨によれば,ベントリアンローンの骨組みはP1及びその関係者が策定し,DMG証券P14(当時はUBSウォーバーグ・ジャパン・リミテッドに勤務していた。)を通じて,DMG証券P14のかつての上司であったボスアンドケイコンサルティング株式会社(以下「ボス社」という。)の代表取締役であるP29に,その一連のアレンジメントの業務委託を行ったものであること,P1は,当初,UBSウォーバーグ・ジャパン・リミテッドにスキームの相談をしたが,手数料が高いことから大手証券会社ではコスト面から機能しないと判断し,P29へベントリアンローンのスキームの一連の業務を依頼したものであること,P29は,この依頼が可能であるかを判断するため,神田にあるAMICI International CorporationのP30へ確認をしたところ,社債の引受けは証券会社でなくとも,商工ファンドP23が紹介したLGTで可能である旨の回答を得たことから,P1の依頼を引き受けたこと,P29は,最終的に,新たに設立したベントリアン東京支店の代表者に就任したことが認められる。
イ β不動産売買契約からベントリアンスキームの計画・実行に至るまでの経緯等
(ア) 前記前提事実のとおり,平成11年11月2日付けで原告と評価センターとの間でβ不動産に関する「土地・建物売買契約書」(乙57)が作成されているが,当該契約書上では譲渡代金の決済日は同日とされ,これと引き換えにβ不動産が引き渡される旨約定されていたところ,評価センターは当時これを支払うに足りる資産を有していなかったため,同日には譲渡代金の決済はされず,同代金の支払は,平成12年2月3日になって行われている。
そして,証拠(乙63,64)及び弁論の全趣旨によれば,平成11年11月25日付けで商工ファンドからING証券あてに送付されたファックス文書には,商工ファンドが作成した評価センターに対するローンの仕組みに関するメモが記載されていたこと,そこには,国内居住者たる「投資家1」が証券会社に投資し,その証券会社が「SPC2」の社債を購入すること,別の「投資家2」が「SPC2」の優先株を取得すること,「投資家2」には更に別の「U/T」が関与すること,「SPC2」が「SPC1」の社債を購入すること,「SPC1」が「SPC1東京支店」を通じて「JAAC」にローンを実行すること,「SPC1東京支店」の担当者はP29であること,「SPC2」及び「SPC1」はマセソントラスト・コーポレート・サービス・リミテッド(現在の名称は,インシンガー・コーポレート・マネージメント・リミテッド。以下「マセソントラスト」という。)がアレンジすること,ここには「25億」,「3%」,「10yr」等のメモが記載されていること,P29は,P1がP29にスキームのアレンジを依頼した際には,資金の拠出に関連して,コイオスU/Tや投資家についても既に決まっていた旨供述していることが認められ,JAACは評価センターの英語表記の頭文字をとったものであって関係当事者間で評価センターの略称として使用されていたこと(乙53,58の2)を勘案すれば,以上で示されるローンの仕組みはベントリアンローンのスキームの原型を指しているものと認められる。これと前記前提事実のとおりのベントリアンローンの実行態様を比較すると,既にこの時点では,3パーセントの金利で25億円が調達される予定となっていたこと,「SPC2」がベントラー社に相当し,同社の優先株を取得する投資家としてラファエロに相当する「投資家2」,ラファエロに出資するクリオスU/Tに相当する「U/T」,ベントリアンに相当する「SPC1」がそれぞれ予定されていたことのほか,ベントリアン東京支店にはP29が代表者に就任することとされていたこと,「U/T」(クリオス)と「投資家2」(ラファエロ)とは直結しており,「投資家2」(ラファエロ)は「SPC2」(ベントラー社)から優先株を受け取る構造となっていたこと,「投資家1」が投資する「証券会社」が後にユニット・トラストに置き換えられて,コイオスU/Tがここに位置付けられることとなったこと,これらのスキームについては,P1がP29にスキームのアレンジを依頼した際には,既にコイオスU/Tや他の投資家についても定められていたことを推認することができる。
(イ) また,証拠(乙61,63,66の1及び66の2,67,68の1及び68の2)及び弁論の全趣旨によれば,平成11年12月6日に評価センターとボス社との間で業務契約書が結ばれ,評価センターはβ不動産売買契約に基づく代金債務の支払原資の調達を行うための一連の業務をボス社に委託したこと,当該業務委託契約に基づき,ボス社はマセソントラストにベントリアン及びベントラー社の設立業務を委託し,マセソントラストは,ベントリアンスキームのうち,ベントリアン及びベントラー社の設立からそれらの維持管理並びにベントラー社の優先株の出資等についての業務を行うこととなったこと,この委託を受けて,同月14日付けでマセソントラストはボス社のP29あてに初期手数料の見積書を送付しており,この中には,優先株発行に関する費用が見積もられていること,同月17日付けで,マセソントラストはボス社に対して,ベントラー社とベントリアンの設立費用の請求書を送付していること,マセソントラストは,ケイマン島のマセソントラストの中に,ベントリアン及びベントラー社を各1米ドルで同月21日に設立したこと,ベントリアン東京支店は平成12年1月7日に設置されたこと,ベントリアン東京支店のP29は,ベントリアン及びベントラー社の両社に実体がない旨供述している上,両法人の維持・管理費用はボス社がマセソントラストに支払っているものにすぎないことが認められる。
以上の認定事実によれば,ベントリアン及びベントラー社は,いずれもベントリアンローンのスキームのためだけにP1によって設立された,いわゆるペーパーカンパニーであると評価することができる。
(ウ) ベントラー社がラファエロへ発行した優先株
前記前提事実のとおり,ベントラー社はラファエロに対して優先株を発行しており,そのための出資金1万米ドルをラファエロはベントラー社に対して平成13年2月20日に交付しているところ,証拠(乙63,65)及び弁論の全趣旨によれば,この発行手続は,商工ファンドP23からの依頼によりP29がマセソントラストを通じて手配したものであること,ラファエロは,ベントラー社にベントリアンローンの支払利息のうち10.78パーセント相当額が入金された同年1月31日の後である同年2月28日にベントラー社あてに優先株の割当申請を行っていることが認められる。
ウ P114兄弟がベントリアンローンに資金拠出した経緯
(ア) 証拠(甲166)及び弁論の全趣旨によれば,P114兄弟は,平成11年6月7日,P1の紹介により,各々保有する1万株の商工ファンド株式を,ブロックトレード(市場を通さずに証券会社と相対で売買すること)により,同月11日(受渡日)に単価7万1000円で売却し,手数料を差し引かれた後の6億9265万円を取得し,大和證券においてこれを運用していたが,思うように運用益が出ずに約6億2531万円にまで目減りしていたため,当該資金を,P1に運用するよう依頼し,平成12年1月17日に,大和證券から,第一勧業銀行日本橋支店のP114兄弟名義の口座へ,それぞれ6億2500万円の合計25億円が送金されることとなったことが認められる。
また,証拠(乙74,75)及び弁論の全趣旨によれば,平成14年9月9日に東京国税局がP6会計士に対して事情聴取をした際,原告の税務顧問であり,商工ファンドの関連事業部門の面倒をみていると自ら述べるP6会計士は,P114兄弟が資金を拠出した理由について,商工ファンド株式を売却して得たキャッシュの運用につき頼ってきたためである旨説明していること,同年11月13日に東京国税局がP1に対して事情聴取をした際,P1は,P114兄弟がベントリアンローンに資金拠出した経緯について,ベントリアンローンの投資家を探している途中で,P114兄弟から商工ファンド株式の売却資金の運用方法を相談されたので,P114兄弟を投資家にすることとした旨,利率については,P114兄弟は国債の利回りを上回る固定金利を望んでいただけであったが,海外投資家であれば11パーセントという金利は普通であるので,既に決まっていた11パーセントのベントリアンローンの金利は変更しなかった旨,25億円の調達資金はβ不動産の担保価値を上回るものであり,デフォルトリスクはP114兄弟が負うものの,その場合にはP1も信義則上の責任を負うことになるので,P114兄弟に支払う利息は3.2パーセントにした旨をそれぞれ説明したことが認められる。
(イ) 以上の認定事実に,前記イ(ア)のとおり,ベントリアンローンのスキームの原型が作成された平成11年11月25日の段階で既に「投資家1」が3パーセントの金利で25億円の資金を拠出することが予定されていたこと,同日時点ではP114兄弟の商工ファンド株式の売却資金25億円相当が既に大和證券で運用されていたこととを併せて勘案すれば,当該「投資家1」とはP114兄弟であり,ベントリアンローンはもともとP114兄弟が25億円の資金を3パーセントの金利の約定で拠出することが予定されていたことを推認することができる。
エ ラファエロの設立の経緯等
(ア) 証拠(乙75)及び弁論の全趣旨によれば,平成14年9月9日に東京国税局がP6会計士に対して事情聴取をした際,P6会計士は,ラファエロは,P1の指示により,LGTが設立したものであること,P1はP114兄弟には利回り11パーセントは高いから,別にP1の子供に分けるという目的でラファエロというSPCを設立したものであること,原告が評価センターを吸収合併し,原告がP114兄弟からコイオスU/Tの受益権を購入した現時点では,ベントリアンローンにおいては,P1の2人の子供に7パーセント相当の金利を流す状態となっているにすぎないことを説明していることが認められる。
(イ) そして,以上の認定事実のほか,前記前提事実,前記ウ(イ)のとおり,ベントリアンローンはもともとP114兄弟が25億円の資金を3パーセントの金利の約定で拠出することが予定されていたこと,前記イ(ア)のとおり,ベントリアンローンのスキームの原型が作成された平成11年11月25日の段階では,既に,ベントラー社に相当する「SPC1」の優先株を取得する投資家として,ラファエロに相当する「投資家2」が,また,ラファエロに出資するクリオスU/Tに相当する「U/T」が,それぞれ予定されていたこと,前記イ(ウ)のとおり,ラファエロは,ベントラー社にベントリアンローンの支払利息のうち10.78パーセント相当額が入金された平成13年1月31日の後である同年2月28日にベントラー社あてに優先株の割当申請を行っているところ,これに先立つ同月20日に優先株の割当費用の1万米ドルをベントラー社に対して交付しており,また,かかる優先株の発行手続は商工ファンドの担当者が手配していて,その結果,ベントラー社はベントリアンローンに係るスキームで取得した25億円の10.78パーセントの利息相当額のうち,3.2パーセントを25億円の拠出者であるコイオスU/Tに,残余の7.58パーセントをその後の優先株の発行に伴いラファエロにすべて配当したことで,優先株の出資金1万米ドル以外の資金を取得しないことになったこと等を併せて勘案すれば,P1は,P114兄弟から調達した25億円の金利約3パーセントとベントリアンローンの金利11パーセントとの差額分から諸経費を差し引いた残額を,P3及びP4に供与するため,同人らが50パーセントずつの受益権を保有するクリオスU/Tを100パーセントの出資者とするラファエロをベントリアンローンのスキームに投資家として関与させることとし,ラファエロにベントラー社の優先株を事後的に取得させることにより,上記残額をP3及びP4に供与することとしたことを推認することができる。そして,コイオスU/Tはユニット・トラストであるところ,その収益は受益権保有者であるP114兄弟に帰属し,ベントラー社からの3.2パーセントの利息相当分はそのままP114兄弟に帰属することになり,ベントリアンローンのスキームは,実質的には,P114兄弟が,3.2パーセントの利率による支払利息を受け取ることを予定して資金を拠出した関係になるとともに,ラファエロは,ベントラー社の優先株を持つことでベントラー社に流れてくる10.78パーセントの利息相当額のうちの7.58パーセントを配当の形で受け取り,P3及びP4に対して当該利益を供与するという役割を担っただけのものにすぎず,他方で,クリオスU/Tもユニット・トラストであるが,その収益は受益権保有者であるP3及びP4に帰属し,ベントラー社からラファエロを経由した7.58パーセントの利息相当額がP3及びP4に帰属することになるところ,当初からP3及びP4に利益を供与するためにベントリアンローンのスキームに組み込まれたものにすぎないこと等からすれば,これらは,P3及びP4への利益供与を隠ぺいするためにP1が利用したものであって,P3及びP4に名義貸しを行っただけの形式的な存在にすぎず,当初から予定されたラファエロへの7.58パーセントの利息相当額の配当分については,評価センター又は原告からの支出の段階で,P3及びP4に対する利益の供与として完遂されたことになるものと評価することができる。
オ 取引の実体
(ア) 以上によれば,このベントリアンローンに係る取引の本質は,以下のとおりである。
すなわち,P1は,評価センターがβ不動産売買契約の決済用として必要としていた資金約20億円を含む25億円を,P114兄弟から年利3.2パーセントの約定で借り受けるべく,少なくともP114兄弟から使途を一任の上で提供させる約束を取り付けることができていたところ,仮に,評価センターが海外の投資家から資金調達をしようとすると,より多額の金利を支払わなければならないであろうという状況を利用して,本来,P114兄弟と評価センターとの間で年利3.2パーセントの約定で成立する融資取引について,当事者間にベントリアン等の様々なSPCを介在させ,ベントリアンと評価センターを当事者とする融資契約の形態をことさら創出させることにより,あたかもベントリアンと評価センターとの間で年利11パーセントの約定の融資契約が真正に成立したものであるかのように見せかけ,その差額から諸経費を控除した残額である年利7.58パーセントの利息相当額を,何らこれを受け取る合理的な理由がないP3及びP4に対して利益供与する意図で,両名を受益者とする信託(クリオスU/T)を株主とする外国法人(ラファエロ)に留保させる方法を利用し,ラファエロの名義を借りて,ベントラー社からラファエロへの配当金名下に当該金員を交付させ,もって,評価センター又は原告からP3及びP4への利益供与(贈与)を行ったものであるということができる。
よって,ベントリアンローンにおける契約当事者間の合意の実質的内容は,3.2パーセントの利回りでP114兄弟が25億円の資金を評価センターないし原告に提供し,評価センターないし原告が11パーセントの支払利息を支払う形をとって,差額分のうち諸経費等を控除した残額7.58パーセント相当額をP1の子供(P3及びP4)に利益供与するというものであり,ラファエロによるベントラー社発行の優先株の購入及びベントラー社からラファエロへの配当は,この利益供与を隠ぺいするために当初から仕組まれた仮装・隠ぺい行為であると認められる。
(イ) この点,原告は,P114兄弟は,25億円の融資先を知らないはずである旨主張するが,既述のとおり,P114兄弟はP1との間で,少なくとも3パーセント程度の利回りを条件として資金運用をP1に一任していたとみることができ,P1がその運用先として評価センターを選択したものにすぎないから,原告の上記主張は上記(ア)の認定を何ら左右しないものといわざるを得ない。
また,原告は,ベントリアンローンの年11パーセントという利率は,P114兄弟からP1が資金の運用を依頼された時点においては,LGT等の海外投資家のニーズを意識して既に定められていた数字であり,これは独立当事者間において適用される適正な利率であるとも主張する。しかし,これは,前記エ(イ)のように,多数の証拠に裏打ちされた認定に照らして信用し難く,また,仮に,既に11パーセントという数字自体が原告の検討の俎上に載せていたとしても,評価センターが当該利率でP114兄弟から金員を借り入れるなどしていたならば格別,前記前提事実のとおり,現実には3.2パーセントの利率による資金調達を行い,その差額から諸経費等を差し引いた部分についてP3及びP4に対して利益供与を行い,これをラファエロに対する配当金にかこつけて仮装・隠ぺいしていた以上は,その事実を前記エ(イ)のようにとらえて評価され,課税されることは,むしろ当然であるから,原告のかかる主張には理由がないものといわざるを得ない。
(3) 平成13年8月7日以降のベントリアンローンのスキーム像
前記前提事実のとおり,P114兄弟が,平成13年8月7日に,その所有するコイオスU/Tの25億円分の受益権を原告に譲渡した結果,同日以降のベントリアンローンの実質は,原告自身がベントリアンローンの資金を拠出し,中間に様々なSPC等を介在させた上で,原告がその資金をそのまま高利で借り入れ,支払利息の一部は原告に環流し,残余がP1の子供(P3及びP4)に渡る構造となっている。
(4) ベントリアンローンに係る本件各処分の適法性
ア 前記(2)オ(ア)のとおり,ベントリアンローンにおいては,評価センター又は原告が形式的に選択した法形式は実質的な合意の内容とは異なり,P3及びP4への利益供与を仮装・隠ぺいするための形式だけのものであることから,これを取引の実質を考慮した真実の正当な取引内容に従って評価すれば,原告が評価センターを吸収合併する以前のP1の子供(P3及びP4)に対する利益供与部分については,評価センターからP3及びP4への寄附金となり,平成14年法律第79号による改正前の法人税法37条2項に基づいて損金算入限度額を再計算し,合併後のそれは,法人税法34条3項に規定する役員報酬に該当し,同条2項の「事実を隠ぺいし,又は仮装して経理をすることによりその役員に対して支給する報酬の額」に該当することから,損金不算入とする必要がある。
イ(ア)a この点,原告は,P1はP114兄弟の相談に応じて,25億円の運用方法としてコイオスU/Tの投資信託委託会社を紹介しただけであり,他方で,コイオスU/Tの投資信託委託会社は,たまたま独自の判断で,期間10年間,年利3.2パーセントのベントラー社の社債25億円を購入することとなった旨主張し,上記のように,P114兄弟がP1に,突然,25億円を3パーセント程度で運用するように依頼してきたために,偶然にもベントラー社が当初想定していたよりもかなり低い金利で25億円の資金調達をすることができ,結果的にラファエロが7.58パーセント相当額の利ざや分に相当する予期せぬ高配当を受けただけである旨主張する。しかし,前記(2)オ(ア)のとおりP114兄弟が25億円を3パーセント程度の金利でベントラー社及びベントリアンを通じて評価センターに融資することは当初から予定されていたものであり,前記(2)イ(ア)のとおり,P114兄弟の資金のベントラー社への投資方法は,当初,証券会社へ投資し,その証券会社がベントラー社の社債を購入することが目論まれていたところ,その証券会社の地位にコイオスU/Tが置かれて,P114兄弟がコイオスU/Tの受益権を取得し,コイオスU/Tがベントラー社の社債を購入するように変更されたものにすぎず,コイオスU/Tがベントラー社の年利3.2パーセントの社債を購入することは,P114兄弟がコイオスU/Tの受益権を取得したり,ベントラー社が設立されたりする以前から,事前に仕組まれていたものであって,コイオスU/Tがその投資信託委託会社の独自の判断でベントラー社の社債を購入したとか,ベントラー社が偶然にも当初想定していたよりもかなり低い金利で資金調達をすることができたなどということが事実に反することは明らかであるといわざるを得ず,原告の上記主張には理由がないというべきである。
b 同様に,ベントラー社がベントリアンの社債を購入したことについても,前記(2)イ(イ)及び(2)オ(ア)のとおり,両社はP1がベントリアンローンのスキームのために同時に同じ場所において設立したペーパーカンパニーであって,当初からP1によって仕組まれたものにすぎず,ベントラー社もたまたまベントリアンの社債を購入しただけであるなどといえないことは明らかである。
c さらに,原告は,ラファエロは株式会社である以上,株主の意見に従って運営されるのは当然であるとも主張するが,前記(2)オ(ア)のとおり,ラファエロはP3及びP4に対して利益供与することを隠ぺいするために,同人らに名義貸しをしただけの形式的な存在であって,これは当初から計画されていたものである以上,原告の上記主張は前提を欠くものといわざるを得ない。
(イ) また,原告は,クリオスU/Tは投資信託であり,ラファエロから7.58パーセントの利息相当分の配当を受けてはおらず,したがって,P3及びP4もクリオスU/Tから何らの利益も享受していないので,これをP3及びP4に対する利益の供与であると認定することはできない旨主張する。しかし,前記(2)オ(ア)のとおり,クリオスU/Tはラファエロに出資するものとして,当初からベントリアンローンのスキームの中に組み込まれており,独自の投資判断権限を有していないものといわざるを得ず,法人税法12条1項本文,所得税法13条1項本文にいう信託に該当し,投資信託には該当しないものというべきであることはもとより,前記(2)エ(イ)のとおり,ラファエロはクリオスU/Tが100パーセント出資して設立した会社であり,クリオスU/Tの受益権を有するのはP3及びP4に限定されていることを奇貨として,P3及びP4が利益供与を受けることを隠ぺいするための名義貸しとして設定されたものにすぎないことからすれば,評価センター及び原告から支払われた11パーセントの支払利息のうち,7.58パーセント相当額がラファエロに配当されることは当初からの予定どおりの資金の形式的な流れであると認められるのであって,評価センター又は原告が利息を支払った時点において,これはP3及びP4に帰属することになるものというべきであり,かかる認定は,ラファエロがクリオスU/Tにこれを配当したか否かには左右されないから,原告の上記主張は失当である。
(ウ) さらに,原告は,法人が,個人から独立した判断で投資を行っていない場合には,その存在を考慮する必要はないとすると,いわゆる「法人成り」の個人企業に対して,すべて,その存在を考慮せず,法人税ではなく,当該法人の株主たる個人に対して所得税を課さなければならないことになり,憲法84条ないし14条1項に違反する旨主張する。しかし,上記認定と判断は,個人から独立した判断で投資を行っていない場合におよそ一般的にその存在を考慮しないとしているものではなく,本件における取引関係の事実認定を通じて,ベントリアンローンに係るスキームのすべては,当初からあらかじめP1によって決定され,策定されたものであって,中間段階のユニット・トラスト,SPC等が何ら独立した判断で投資を行っているわけではなく,本件の事案においては名義貸しをしただけの形式的な存在にすぎないと判断しただけのものであり,憲法84条ないし14条1項違反との主張はその前提を欠くことになり,失当であるというべきである。
(エ) 加えて,原告は,評価センターは,金員を適正な「市場レート」で借り入れる必要がある旨主張し,課税庁は,同族会社の主たる株主で代表取締役の地位にある者が,会社に無利息融資をした場合について,同族会社の行為計算の否認規定により,市場レートである利息相当額を当該株主の所得に加算する更正処分を行っている旨主張し,年利約3パーセントの約定でP114兄弟が直接評価センターに対して融資をした場合には,評価センターは,市場レートよりも低金利で融資を受け,市場レートと3.42パーセント(コイオスU/Tが受領した年利3.2パーセントの利息相当額とベントリアンが取得した年利0.22パーセントの利息相当額の諸経費分の手数料との合計)との金利差相当の利息の支払を免れたものとして,P114兄弟から評価センターに対する寄附があったものとみなされる税務上のリスクがあったので,むしろベントリアンローンの年利11パーセントの方が適切であるとか,P1がP114兄弟から極めて低利で調達できた25億円を,ちょうど20億円程度の資金需要があった評価センターに対して,同社の信用力に見合った適正利率で貸し付け,「利ざや」を獲得しようとし,P1が,P3及びP4の代理人として,P114兄弟が提供する25億円の運用利回りについて交渉し,同代理人の立場として,ラファエロを設立し,ベントリアンローンに係る「利ざや」をラファエロに帰属させることとしたなどと主張する。しかし,本件において問題となるのは,ベントリアンローンに係る本件各処分において被告が問題視していない年利3.42パーセントの利息相当分が,ベントリアンローンのスキームにおける調達資金の適正な市場レートであるか否かではなく,そもそも評価センターないし原告があらかじめP3及びP4に対して利益供与をする目的で,P1が当該スキームを策定し,履践したことの評価であって,本件の事案は,評価センター,ひいてはこれを実質的に支配するP1が,低利での資金調達の不合理性を回避しようとして採られた方策などではなく,また,仮にそのような方策として策定されたものであると仮定してですらこれが不合理な方法で行われているといわざるを得ないのであるから,到底,原告の上記主張を採用することはできない。
原告は,評価センターの信用力及びβ不動産の担保価値に基づかずに,ベントリアンローンの適正利率を認定することは,経済的に不合理である旨の主張もするが,上記認定のとおり,本件で問題となるのは,同様の条件で評価センターが25億円を調達しようとした場合の適正な利率ではなく,P1とP114兄弟の間の金利の約定についての合意を奇貨として,当初から利息相当額を受領すべき合理的な理由がないP3及びP4に対して利益供与を図り,かつ,これをあたかも第三者に対する正当な配当金であるかのごとき状態をことさら作出して隠ぺいしたことの法的評価及びその是非の認定であるから,やはり,原告の上記主張はその前提を欠き失当である。
ウ 重加算税の賦課要件としての仮装・隠ぺいの有無
(ア) 以上によれば,ベントリアンローンに係る取引についての評価センターの行為は,実質的にP114兄弟と評価センターとの融資取引であるベントリアンローンの資金をわざわざ海外に迂回させ,海外の投資家と評価センターとの間の融資契約であるかのように見せかけるためにSPCを介在させて,年利11パーセントという利率が海外投資家向利率として正当なものであるかのように仮装するとともに,本来の資金拠出者であるP114兄弟に対する3.2パーセントの利率及び諸経費相当の0.22パーセントを控除した7.58パーセントの利息相当額について,ラファエロによるベントラー社の1万米ドル分の優先株の取得に伴う利益分配の形状をとることで,P3及びP4に対する利益供与の意図の発覚を隠ぺい・仮装し,支払利息に名を借りて利益供与を行ったものであるということができる。そして,このような行為は,通則法68条1項の「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし,又は仮装し,その隠ぺいし,又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していた」行為であるといえるから,同項の規定に基づいてされた平成13年3月期重加算税賦課決定処分(ただし,平成13年3月期重加算税変更決定処分により一部取り消された後の部分)は重加算税の賦課要件を満たすものということができる。
(イ) また,通則法68条1項の適用上,納税者が,当初から所得を過少に申告することを意図し,その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上,その意図に基づく過少申告をしたような場合には,悪質な納税義務違反の発生を防止し,もって適正な徴税の実現を図るべく,重加算税の賦課要件を満たすものと解される(最高裁判所平成7年4月28日第二小法廷判決・民集49巻4号1193頁)ところ,本件においては,評価センターがP3及びP4に7.58パーセント相当額をそのまま拠出すると,評価センターにとっては,損金算入の制限がある寄附金となることや,P3及びP4においても所得税が課税されることは明白であり,上記のとおり,ことさら無用なSPC等を介在させて,7.58パーセントの利息相当額を水増しして支払利息として計上し,これを損金の額に算入した原告の行為計算からすると,原告は,課税所得を少なく申告しようとした意図が当初からあったということができるのであって,このような意図は,ベントリアンその他の外国法人や外国信託を設立し,債券の発行その他のことさら複雑かつ迂遠な取引を仕組み,これを実行した事実からうかがい知れるところであるから,評価センターには,当初から過少申告を意図し,これを外部からうかがい得る特段の行動を行い,かつ,その過少申告の意図に基づいて,申告を行ったことが認められるから,重加算税の賦課要件を満たす事実が存在するともいうことができる。
(5) 所得金額の増加額
以上の認定に従うとともに,前記前提事実のとおり評価センターのP3及びP4に対する寄附金には未払分があって,当該未払分は当該事業年度において損金の額に算入することはできないこと(平成14年法律第79号による改正前の法人税法37条6項,同法施行令78条1号)を踏まえて,原告の平成13年5月期事業年度及び平成14年5月期事業年度並びに評価センターの平成12年6月期事業年度及び平成13年3月期事業年度の各法人税の所得金額の増加額について計算すると,別表6-2のとおり,それぞれ3270万8219円,1億8950万円,7891万5068円,1億8685万7642円(なお,平成13年3月期事業年度においては,寄附金の損金算入限度額は,平成13年3月期更正処分(ただし,平成13年3月期再更正処分により一部取り消された後の部分)よりも多額となるが,元となる寄附金認容額については同額であり,寄附金損金不算入額は所得金額との関係において再計算された結果,上記処分よりも多額となったものにすぎない。)ということになる。
(6) 理由付記の不備の有無
ア 原告は,ベントリアンローンに係る本件各処分は,評価センター(評価センターが吸収合併された後は,原告である。)のベントリアンローンに基づく年利11パーセントの支払利息のうち,年利3.42パーセントについては損金算入を認めながら,残りの7.58パーセントについては損金算入を否定しているので,3.42パーセントが適正な市場レートであると認定したことになるところ,更正処分の理由には,3.42パーセントが適正な市場レートであることを根拠付ける理由は全く記載されていないから,理由付記不備の違法がある旨主張する。
そこで,本件におけるベントリアンローンに係る本件各処分についての理由付記をみると,証拠(甲1の4ないし1の7,107の1ないし107の3)及び弁論の全趣旨によれば,①P114兄弟はコイオスU/Tの受益権25億円分を購入し,②コイオスU/Tはベントラー社の社債25億円分を購入し,③ベントラー社はベントリアンの社債25億円分を購入していることから,P114兄弟が資金を拠出していると認められるところ,①上記ベントリアンの社債の利率は年利10.78パーセントとされていること,②ベントラー社の社債の利率は年利3.2パーセントとされていること,③ラファエロはベントラー社に対して1万米ドルを出資しているにすぎないこと,④上記ベントラー社の出資に対する配当が,ベントリアンローンの元金25億円の年利7.58パーセントの利息相当額とされていること,⑤ラファエロに対する出資者はクリオスU/Tであること,⑥P3及びP4がクリオスU/Tの受益権を50パーセントずつ保有していることから,当該7.58パーセントの利息相当額は,支払利息の名目で,海外の法人であるラファエロ及び海外の信託であるクリオスU/Tを介在させることによって,原告の役員であるP3及びP4に対して利益を供与したものと認められ,評価センターが交付した分については寄附金であり,未支給分は損金に算入することはできず,支給分については損金算入限度額を再計算することとし,原告が交付した分については,法人税法34条3項の役員報酬となるところ,同条2項により損金の額に算入されないことになると記載して,その金額を具体的に記載しており,その額は,本訴における被告の主張額と同額(なお,上記(5)のとおり,平成13年3月期事業年度においては,寄附金の損金算入限度額は,平成13年3月期更正処分(ただし,平成13年3月期再更正処分により一部取り消された後の部分)よりも多額となるが,元となる寄附金認容額については同額であり,寄附金損金不算入額は所得金額との関係において再計算された結果,上記処分よりも多額となったものにすぎないから,上記の理由付記制度の趣旨・目的に反するところはないものというべきである。)であることが認められ,後記9のとおり,当裁判所の認定額とも同額である。したがって,帳簿書類の記載内容を否認しているわけではない本件の事案において,ベントリアンローンに係る本件各処分についての理由の記載は十分に具体的であり,更正処分庁の判断の慎重,合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという理由付記制度の趣旨を充足するものということができるから,何らの不備もないというべきである。
なお,原告は,ベントリアンローンに係る本件各処分の理由として,3.42パーセントが適正な市場レートであることを根拠付ける理由が記載されていない旨の主張もするが,理由付記制度の趣旨は,上記のとおりであり,想定される争点についてあらかじめ記載すべきことまで要求されるものではない上,渋谷税務署長及び被告は,当該取引における合理的な利率を認定してそれを超える部分について否定したわけでなく,3.42パーセントが適正な市場レートであるか否かは本件の争点とは関係がないものであるから,原告のかかる主張は失当であるというべきである。
6 争点(6)(KOBEファンド取引の否認の可否)について
(1) 渋谷税務署長は,平成12年5月期更正処分において原告のKOBEファンド取引に関し,原告が不当に161万7126円の所得金額を減少させたとして法人税法132条を適用し,当該行為計算を否認し,KOBEファンド取引自体が不合理であるとして,当該行為がなかったものとして原告に対する課税を行っている。これに対し,原告は,原告とP1との間のKOBEファンド取引は正当な取引であって,何ら否認されるべき理由はないと主張するとともに,仮に同条を適用するのであれば,当該取引そのものは不合理ではなく,その価額が不合理であるにとどまるのであって,売買価格のみを否認して,原告にとって合理的な売買価格を認定して更正処分をすべきであった旨主張するので,以下検討する。
(2) 前記3のとおり,法人税法132条の趣旨は,同族会社においては,会社の意思決定が少数の株主等の意思により左右されているため,不当に租税を回避するような行為又は計算が容易になされやすく,課税上の弊害が生じやすいことに配慮し,これを是正し,租税負担の公平を図ろうとするものであり,それを通常あるべき行為や計算に引き直して納付すべき税額を計算する権限を税務署長に認めたものである。
そして,法人税法132条により,①同族会社の行為又は計算であること,②これを容認した場合にはその同族会社の法人税の負担を不当に減少させる結果となることという要件を満たすときは,同族会社の行為又は計算にかかわらず,税務署長は,通常あるべき行為又は計算を前提とした場合の法人税の計算を行うことができることとなる。
また,法人税の負担の減少が「不当」と評価されるか否かは,専ら経済的・実質的見地において,当該行為又は計算が通常の経済人の行為又は計算として不合理,不自然なものと認められるかどうかを基準として判断すべきである。
以下,かかる観点から本件の事案について検討する。
(3) KOBEファンド取引を容認した場合にはその同族会社の法人税の負担を不当に減少させる結果となるか否か
ア 前記前提事実のとおり,原告は,KOBEファンドをP1から購入し,繰上償還を受けることによって,所得金額を161万7126円減少させている。当該所得金額の減少を原告の法人税額に与える影響に換算すると,少なくとも35万5700円(なお,これは,経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律16条によって,資本の金額が1億円以下である原告の各事業年度の所得の金額が800万円以下の金額について適用される税率である22パーセントを基に換算した場合である。)の法人税額の減少となるところ,原告は,平成12年5月期事業年度は赤字決算であるので,平成12年5月期事業年度には法人税額自体の減少はなく,これは,欠損金額の繰越しによる将来の減少の可能性ということになる。
イ(ア) この点,原告は,法人税法132条の目的である「租税負担の公平」とは,単に法人税の負担の公平を図ることのみを目的とするものではなく,税目にかかわらず,同族会社と非同族会社の間での租税負担の公平を図ること意味するから,「源泉所得税」と「法人税」という税目が違うという形式の差異を根拠にして,一方の「法人税」の負担が減少しているからといって,他方の「源泉所得税」の負担が当該減少額以上に存する場合には,「負担を不当に減少させる結果」にはならない旨主張するとともに,所得税法174条に基づいて課される内国法人に係る所得税の金額は,法人税法68条に基づき,法人税の額から控除されるところからみて,実質的に法人税と同一の税としての性格を持つとみてよく,原告が,KOBEファンド償還時に行った源泉所得税の納付は,まさに,法人税の納付であるといえる旨主張する。
しかしながら,法人税法132条は,その要件として「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるとき」と明確に規定しており,これを法人税以外の各税も含めた課税の総額が減少するときと拡大して解釈することは規定文言に明らかに反する上,同族会社の行為計算の否認規定は,法人税法132条にとどまるものではなく,各税法においても同様に規定されているのであり,所得税法157条では所得税の負担を,相続税法64条では相続税又は贈与税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは,同族会社の行為又は計算を否認することができる旨規定されている。よって,各税法においては,規定する各税のそれぞれについて各々別々に,各税の計算が同族会社の行為又は計算によって恣意的に行われないように行為計算の否認規定を定めたものと解されるから,法人税法132条の租税負担の公平を図るという目的をもって,直ちに,その租税の意味する税が,あらゆる税目を含む諸税の合計であるということはできない。また,そもそも租税の費目は,いかなる内容の所得に対していかなる課税を行うかという観点から定められたものであり,課税の主体を中心として租税の費目が体系付けられているわけではなく,ただ,その場合に二重課税の弊害が生じる可能性があることから,その調整規定が置かれているものにすぎないのであって,この点からも,費目の異なる各税が実質的に同一の税であるなどとはいえないことが明らかである。さらに,実質的にみても,同族会社が行う純経済人として不自然,不合理な行為計算の中には,当該同族会社からみれば各税の総額は減少するものの,その分,利益がなく損失が生じるのみで,所得金額が減少して繰越欠損金が増大するだけのものもあれば,当該行為計算の相手方を利するだけのものもあり得る上,同族関係者の総体としてみた場合には,課税を不当に免れる結果となる行為計算も当然に想定されるものである。現に,本件におけるKOBEファンド取引においても,原告は源泉所得税のうち法人税額から控除される所得税額以外の部分について損金に算入して繰越欠損金を増大させたのみならず,自らの損失においてその取引の相手方たるP1を利し,P1をも含めた同族関係者の総体でみた場合には,課税を不当に免れている関係になるものであって,このような場合に,取引の相手方(P1)についてのみ行為計算を否認することができたとしても,当該取引を行った者自身(原告)については,否認することができないとしたのでは,不合理であることは明らかである。
また,法人税法68条1項は所得税法の規定により課される所得税の額は,法人税法施行令140条の2で定めるところにより,当該事業年度の所得に対する法人税の額から控除すると定めており,法は一定の条件の下で控除するとしているのであって,当然のごとく法人税から控除されるものではないから,所得税法174条に基づいて課される内国法人に係る源泉所得税の納付が,法人税法132条にいう「法人税」の納付であるということもできない。
(イ) 原告は,平成12年5月期事業年度は繰越欠損金が増加しただけで法人税額に影響はなく,税負担の減少の要件に欠けている旨の主張もする。しかし,前記4(3)キ(オ)bのとおり,当期の法人税額が更正処分後も異動しない場合であっても,当初計上された欠損金額のうちに,通常の経済人としては不自然,不合理な行為によって作出された欠損金額が含まれており,当該欠損金額が翌期以降に繰り越されることによって,それが翌期以降の損金に算入されることで法人税を減少させることが可能となる状態が作出されるのであれば,所得金額を不当に減少させたことに変わりはない以上,当該欠損金額について,「法人税の負担を不当に減少させる結果となる」と認められ,法人税法132条の適用のためには現実の損金への算入の有無を問わないものというべきであるから,原告の上記主張には理由がない。
ウ そこで,続いて,前記アの法人税負担の減少が法人税法上不当と評価されるものであるか否かについて検討するに,前記前提事実のとおり,原告は,P1からKOBEファンドを,償還通知のあった後の平成12年1月21日(金曜日)の売買により買い取ったものであるが,当該売買日は,償還日である同月23日(日曜日)のわずか2日前であり,市場におけるKOBEファンドの運用は同月21日(金曜日)までで,投資した有価証券は同日にはすべて売却され,償還のためにすべて現金化されるはずであって,KOBEファンドの運用が行われたとしても,同日の1日だけであり,運用による投資収益が上がることはほとんど望めない状況であった上,KOBEファンドの償還時には,地方税も併せて,償還差益の20パーセントが源泉徴収されることになるのであるから,原告は,P1に支払った3151万9000円の全額を回収できなくなることは明らかであったというべきである。
このような,投資金額の回収が見込めないKOBEファンド取引は,当時の法制からして,償還前に売却することで,償還時の値上がり益に対する課税を免れることができた原告の役員であるP1個人の節税に,同族グループ法人総体としての税額が減少する範囲内で,原告が身銭を切って協力し,併せて,前記2(4)ア及び4(3)キ(ウ)aのとおり,同族グループ法人以外に利益を流出させることなく原告に欠損金を蓄積する目的をも果たしたものというべきであって,当該価格を前提としたKOBEファンド取引は,純経済人の行為として不合理,不自然なものであるといわざるを得ない。
エ(ア) この点,原告は,KOBEファンド取引が同族会社のみが行い得る不当な行為計算という不当性の要件を欠く旨主張するが,前記3(4)イのとおり,当該取引を法律的・理論的には非同族会社も行うことができるがゆえに否認の対象とはならないと主張しているにすぎない点では,かかる原告の主張は失当であるといわざるを得ない。
(イ) また,原告は,個人投資家が償還直前に運用益のある投資信託の受益証券を売却することは広く行われていたにもかかわらず,原告が同族会社であることから法人税法132条を適用して,KOBEファンド取引のみを狙い撃ちして否認することは,同族会社と非同族会社とを平等に取り扱うべき旨を定めた憲法14条1項に違反する違憲な法適用である旨も主張する。しかし,法人税法132条が憲法14条1項に違反しないことは前記3のとおりであり,また,本件においては,原告に損失しか生じない価格での本件におけるKOBEファンド取引が純経済人として不合理,不自然なものであるとしてこれを否認しているものであって,差別的な適用をしているものではないから,原告の主張は失当であるといわざるを得ない。
(ウ) しかしながら,直後に償還が予定されていたとしても,KOBEファンドを購入しようとする者にとって,当該償還の通知による配当金の予想額を前提とし,償還の際の源泉所得税及び地方税利子割額を考慮した上で,当期における赤字決算の蓋然性をも踏まえつつ,赤字決算による還付所得税額や地方税の還付を見据えて,利益が見込める価額での取引であり,かつ,取引の相手方にとっても,直後の償還により多額の税負担が生じるよりは,時価を下回る価額であっても税負担の範囲内での値引きであれば,結果としてメリットがあることになるのであるから,その場合における両者にとって不利益の生じない価格による取引行為自体は,純経済人として不合理,不自然な取引であるとはいい難いものといわざるを得ず,また,そのような取引も現に多数行われていた(甲56)のであるから,この点においては,原告の主張は理由があるものというべきである。
オ そこで,本件のKOBEファンド取引において,KOBEファンド取引を否認した場合に税務署長が認定すべき合理的な取引内容について検討するに,KOBEファンドを売却するP1にとってみれば,KOBEファンド取引がなされた平成12年1月当時,個人が受益証券を保有している投資信託の償還を受けた場合,元本を上回る償還を受けたときには,当該上回った部分について15パーセントの源泉所得税及び5パーセントの道府県民税利子割額の合計20パーセントの税金を納付することになるところ,個人が受益証券を保有している投資信託を売却したときには,仮に売却益があったとしても,非課税とされていたことについては当事者間に争いがないので,償還までの2日分の運用益についてほとんど考慮する必要がない本件の事案においては,償還の通知による配当金の予想額2151万5540円から20パーセントを減じた金額に取得価格1000万円を加算した2721万2432円以上であれば,その売却は純経済人として合理的であるといえる。他方で,これを購入する原告としても,平成12年5月期事業年度における決算が原告主張においてマイナス48億円を超え,平成12年5月期更正処分においても所得金額がマイナス14億円に迫る状況にあることからして,KOBEファンドの取引時点において赤字決算となることはほぼ確実であることから,本件における損益分岐点を計算すると,予想配当金額2151万5540円に,法人税額から控除される所得税額の割合(原告は簡便法を使用しているので15パーセントの2分の1の7.5パーセント分)及び地方税利子割額分(5パーセント分)を加算した額から,源泉所得税額及び地方税利子割額分(合計20パーセント)を減算した金額に,取得価格1000万円を加算した金額である2990万1874円(この金額は,原告の主張する,本件におけるKOBEファンドの購入時の時価3151万9000円から,当該時価取引をした場合における,償還の通知による配当金の予想額2151万5540円を前提にして計算した損金の予想額161万7126円(本件における欠損金の増大額と同じである。)を控除した額と,必然的に一致する。)以下であれば,その購入は純経済人として合理的であるといえるから,その価格帯であれば,KOBEファンド取引も正当なものであるといえることになる。そして,黒字決算の法人がこれを購入する場合と異なり,赤字決算の原告にとっては,既に購入金額を支出済みで,繰越欠損金額や還付所得税額等の増大が否認されている本件の事案においては,取引価格が原告からの支出を最小限にすべく上記の価格帯のうちの最安値が適正な金額であるとは必ずしもいえず,むしろ,欠損金を最大限大きくする最高値が原告にとって最も有利な価格であることになるから,上記2990万1874円をもって,適正な価格であると認定すべきこととなる。
カ そうすると,損金算入が認められずに原告の所得金額に加算されるべきこととなる金額は,上記オの2990万1874円と実際の購入金額3151万9000円との差額161万7126円となり,これは,原告から原告の役員であるP1に対する利益供与たる役員賞与となるが,法人税法35条によりこれを損金の額に算入することはできないので,原告の所得金額に加算されるべきこととなる金額は,結果的には渋谷税務署長が認定した損金不算入額と同一となるが,KOBEファンド取引に係る法人税額から控除される所得税額には変動が生じないこととなり,KOBEファンド取引の否認によっては還付所得税額等に変更は生じないこととなり,したがって,また,法人税額の増加に対する過少申告加算税賦課決定処分もその根拠がなくなることになる。
キ(ア) この点,被告は,取引金額を是正したとしても,原告にはKOBEファンドを購入する合理的な理由がなく,何のメリットもない取引であるから,取引自体を否認すべきである旨主張する。しかし,同族会社であろうとなかろうと,取引価格の設定いかんでは純経済人として合理的な取引にもなり得ることは前記エ(ウ)及びオのとおりであり,本件におけるKOBEファンド取引において,原告が,P1のみを一方的に利する意図しか有しておらず,それが果たせない場合には,金額を調整してでも双方の利益を図る意図を全く有していなかったとはいえない(そもそも,後者の意図は当然に前者の意図に内包されるものであるともいえる。)のであるから,被告の主張を採用することはできない。法人税法132条の規定の趣旨・目的に照らせば,同条の規定は,専ら経済的・実質的見地において当該行為計算が純経済人として不合理,不自然なものと認められるか否かという客観的,合理的基準に従って同族会社の行為計算を否認すべき権限を税務署長に与えているものと解され,税務署長に包括的,一般的,白地的に課税処分権限を与えたものではなく,また,それゆえに,同条は憲法84条にも違反しないものと考えられる(最高裁判所昭和53年4月21日第二小法廷判決・訟務月報24巻8号1694頁参照)。したがって,当該取引について否認すべき事情がある場合に,取引自体の存在を否認するのか,取引価額についてのみ否認して適正な価格での取引行為に引き直して計算するのかの裁量が税務署長に与えられているわけではなく,純経済人として合理的な取引に引き直すことができる限りにおいて,最小限の否認にとどめるべきものである。
(イ) また,被告は,KOBEファンドの購入価額3151万9000円と,原告が償還時に受領した租税公課差引後の償還金額2721万2432円との差額430万6568円は,原告からその取締役であるP1へ利益供与されたものであり,法人税法35条の規定により,損金不算入となる役員賞与に当たる旨の主張もするが,上記認定のとおりの適正価格による売買においては,利益供与が問題となる余地はないといわざるを得ない。
ク なお,本件においては,被告は,KOBEファンド取引を否認し,当該取引がなかったものとして課税関係を処理すべきである旨主張しているだけで,取引価格を純経済人として適正な価格に修正すべきことを主張しているものではないが,後者を明確に排斥しているわけでもなく,後者は前者に包含された一内容であるとも考えられ,理由の差し替えを禁ずべき特段の事情も見当たらない上に,原告の方は上記認定と同様の主張をしているのであるから,いずれの観点からしても,当該認定は弁論主義に違背するものではない。
また,証拠(甲1の3)及び弁論の全趣旨によれば,平成12年5月期更正処分の理由において,渋谷税務署長は,KOBEファンド取引は原告の所得金額を減少させ,法人税の負担を不当に軽減させているとし,当該取引がなかったものとして,減少させた所得金額を当該事業年度の所得金額に加算した旨記載していることが認められ,当該取引を法人税法132条に基づいて否認すべき事情及び否認すべき譲渡損の計上額の上限についての記載自体はあるものと評価することができる。したがって,前記オのとおりの当該取引の価格を適正なものとすべきである旨の認定は,紛争の争点に係る理由付けの細目について多少の相違があるとはいうものの,原告の帳簿書類の記載内容自体を否認するものではないから,更正処分庁の判断の慎重,合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという理由付記制度の趣旨・目的を一応は充足している程度の理由の記載にはなっているというべきである。
7 争点(7)(交際費の役員賞与該当性)について
(1) 原告は,本件結婚披露パーティー費用が原告の交際費に当たる旨主張し,第1事件被告は,これは役員賞与であって一切の損金算入が許されない旨主張する。
しかし,前記前提事実のとおり,平成14年5月期更正処分(ただし,平成14年5月期再更正処分により一部取り消された後の部分)における繰越欠損金控除前の所得金額は14億2630万4740円であり,これは平成14年5月期確定申告書における繰越欠損金控除前の所得金額18億3106万0899円を下回るから,前記1(3)のとおり,平成14年5月期事業年度における繰越欠損金額を争うための主張という側面からみた場合には,原告の本件結婚披露パーティー費用に関する主張については,積極否認事実たり得ず,主張自体失当であるというべきである。
(2) よって,争点(7)(交際費の役員賞与該当性)については判断の必要がない。
8 争点(8)(手続違反の有無)について
(1) 原告は,本件各処分については,その調査過程において,課税当局の故意又は過失を伴う違法な調査があり,通則法24条,27条又は法人税法154条に違反するから,これは本件各処分の違法性を基礎付ける事情となる旨主張するので検討する。
(2) 通則法24条は,「税務署長は…その調査により,当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する。」と規定し,同法27条は,「国税庁又は国税局の当該職員の調査があつたときは,税務署長は,当該調査したところに基づき,これらの規定による更正又は決定をすることができる。」と規定しているところ,税務署長が更正処分をするに当たっては,調査がなされることをその手続上の要件としており,全く調査することなく更正処分が行われたり,公序良俗に反する方法で課税処分の基礎資料を収集したりしたなどの重大な違法事由がある場合には,手続違背として処分の取消事由に当たる場合もあり得るものと解される。そして,ここにいう「調査」とは,課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味し,課税庁が税務官署内において,既に収集した資料を検討して正当な課税標準を認定することも「調査」に含まれ,また,更正処分後に,不服申立てや訴訟の段階において,処分の正当性を主張・立証するために証拠を収集することも当然に許されるから,処分後に取得した証拠をも加えて処分の正当性を立証しても,調査により更正処分を行うものとした通則法24条の規定に違反するものではないし,更正処分の期間制限を定めた同法70条の規定の趣旨を潜脱するものともいえないというべきである。さらに,課税処分の取消訴訟の訴訟物は,課税処分で認定された課税標準等又は税額等が客観的に正当とされる数額を超えているか否かということであるから,仮に,質問検査権の行使に際し,税務職員が社会通念上相当である限度を超えてこれを行ったとしても,違法な質問検査のみに基づいて更正処分がされた場合や公序良俗に反する方法で課税処分の基礎資料が収集された場合に,調査をしないで処分をしたと評価される余地があるということであれば格別,そのような事情がなければ直ちに更正処分が違法であるということにはならないものというべきである。
(3) これを本件についてみるに,前記前提事実に加えて,証拠(乙42の1,43,44の1及び44の2,45,53,61,63,73ないし75)及び弁論の全趣旨によれば,渋谷税務署長及び日本橋税務署長が,原告に対する十分な事情聴取等の調査をした上で本件各処分を行っていることは明らかであるから,通則法に定める「調査」手続は履践されており,何ら更正処分のための手続に違反するものではないものというべきである。
(4)ア この点,原告は,更正処分が納税者に与えるインパクトは巨大であり,マスメディアで更正処分を受けたことを大きく報道された場合,その更正を受けた納税者の経済的・社会的信用及び名誉に対して与えるマイナスのインパクトは巨大であるから,税務署長は,その権力の行使が誤ってなされることがないよう,事実関係及び適用法令を適切に調査の上,更正処分を行うべき義務があるところ,本件においては,課税当局の故意又は過失を伴う違法な調査しか行われていないから,本件各処分は違法である旨主張する。しかし,原告の主張するところの,課税庁が原告からの資料の提出の受領を拒絶した事実を認めるに足りる証拠はなく,むしろ,証拠(乙43)及び弁論の全趣旨によれば,再三にわたる調査の過程においても課税庁が提出を要求した資料が原告から整理された形でそのすべてが提出されてきたわけではなかったことから,平成15年2月19日の調査の際,調査担当者であった東京国税局課税第2部資料調査第1課のP31国際専門官(以下「P31専門官」という。),同課のP32実査官,同第3課のP33実査官及び同課のP34実査官(以下「P34実査官」といい,P31専門官,上記P32実査官,上記P33実査官と併せて「本件調査担当者」という。)から原告のP6会計士に対して,調査の結果からは更正処分を行うことが相当であり,後日に何らかの資料が追加提出されたとしても,それまでの調査過程で十分に説得的な資料が提出されてこなかったことからして,更正処分は行われることになるであろうとしつつも,なお,弁明があれば申し出て欲しい旨を伝えていることが認められるのであり,その他原告の主張する内容は,渋谷税務署長及び被告が,原告の提出した資料を読みもせずに,調査不十分なままに,見切り発車で本件各処分を下したものであるから,調査過程は違法であるとするものにすぎず,本件における調査状況は,上記のとおり,調査を経ていないと評価せざるを得ない程度の調査しかしていないとか,公序良俗に反する方法で課税処分の基礎資料が収集されたものであるとは到底いえないものであって,相応の調査を経ていても当該調査が不十分であれば結果的に課税要件の立証不足により本件各処分が取り消されるだけであって,当該調査の程度のみによって本件各処分が違法とされる事由は存しないものというべきである。
イ また,原告は,処分が行われた平成15年3月14日の後である同年4月22日に,原告の取引先であるドイツ銀行に対して,本来,処分額を計算する上で必要不可欠な事項について,法人税法154条に基づいて質問検査権が行使されているところ,同条にいう「法人税に関する調査について必要があるとき」には将来予想された原告による処分取消請求訴訟に備えた証拠収集活動は含まれないから,違法である旨の主張もする。しかし,そもそも,当該調査は,本件各処分後に行われたものであるから,仮に,何らかの違法性が認められたとしても,それをもって,本件各処分が違法であることの理由にはならない上,同条の質問検査権は,権限のある税務職員が,具体的事情にかんがみ,客観的にみて調査の必要があると判断した場合に許されるものであって,必ずしも,納税申告が過少であるなどの疑いがなければ調査し得ないというものではないというべきであるところ,前記(3)のとおりの調査過程及び本件の事案に照らせば,調査の必要があったことは明白である。そして,当該質問検査権は,課税処分そのものとは別の手続であって,それが刑罰法規に違反したり,公序良俗に反するなど,およそ税務調査をしたと評価し得ない程違法性が著しいと認められるような特段の事情のない限りは,課税処分の取消事由とはならないものと解され,本件においてはかかる事情も認められないから,原告の上記主張には理由がないというべきである。
ウ さらに,原告は,平成15年2月14日に,東京国税局課税第2部資料調査第3課長のP35(以下「P35課長」という。)から,「査察」という言葉を使うことによって脅迫された旨も主張するが,一般に多額の税額が課税漏れとなっており,それが仮装・隠ぺいによるものである場合には,租税ほ脱事件として査察の告発を受けることがあることは広く知られているところであり,本件の事案にかんがみて,課税当局がその可能性について言及したとしても,それだけで本件各処分が違法となるものとはいえないことは明らかである。
(5) よって,本件の調査手続過程においては,本件各処分の違法性を基礎付けるような手続違背は存しないというべきである。
9 本件各処分の適法性について
以上の検討結果を前提として,本件各処分の適法性について検討する。
(1) 本件各更正処分等について
ア 平成10年5月期更正処分
(ア) 申告所得金額(別表10-1(1)1欄) △3億6924万3429円
上記金額は,当事者間に争いがない。
(イ) 支払利息の過大計上額(別表10-1(1)2欄) 2億6003万2997円
上記金額は,原告が平成10年5月期事業年度に平成10年5月28日付けでEB債1の支払利息として7億9524万9206円を計上した金額のうち,次のa及びbの各金額の合計金額2億6003万2997円を,損金の額に算入されないものとして所得金額に加算した金額である。
a 別表9-1の「⑦不当に高額な金額」欄のうち,P1家族に係る金額の合計額3億4999万1459円については,EB債1の発行とその利払を利用して行われた役員に対する利益の供与であり,平成10年法律第24号による改正前の法人税法34条2項の規定により,各役員に対する役員報酬の額と認められる。なお,利息の計算が必要な期間が(半年毎の期間以外で)1年に満たない場合,利息は,30日の12か月からなる360日をベースにして,また1か月に満たない場合は,経過した日数をベースにして計算するものとされていることについては当事者間に争いがない(以下,同じ。)。
そして,適正利率を超えて支払われた金額を当期中に支給されている各役員報酬額に加算すると,P1については,株主総会で決議された役員報酬の支給限度額を超えることとなるため,同条1項及び法人税法施行令69条2号の規定により,別表9-2の「⑧限度超過額」欄の「合計」欄の金額2億2844万0807円が過大な役員報酬の額となる。
b 別表9-1の「⑦不当に高額な金額」欄のうち「役員又は受益者の氏名」欄が「不明」と記載されているEB債1の購入金額1000万米ドル分は,使途不明金であり,3159万2190円は,法人税法22条3項に規定する損金の額に算入されない。
(ウ) 課税総所得金額(別表10-1(1)14欄) △1億0921万0432円
上記金額は,前記(ア)の申告所得金額△3億6924万3429円に前記(イ)の所得金額に加算すべき金額2億6003万2997円を加えて算出した金額である。
(エ) 課税留保金額(別表10-1(1)16欄) 3億3086万1000円
上記金額は,法人税法67条2項の規定により,原告の平成10年5月期修正申告書に記載された留保所得金額8億8884万0726円から,aの住民税額33万1200円及びbの留保控除額5億5764万8176円を控除して算出した金額(ただし,通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。
a 控除される住民税額 33万1200円
上記金額は,法人税法施行令140条の規定により計算した住民税額の計算の基礎となる法人税額160万円に20.7パーセントを乗じて算出した金額である。
b 留保控除額 5億5764万8176円
上記金額は,法人税法67条3項の規定により,同項1号に該当する金額となり,前記(ウ)の金額△1億0921万0432円に同法23条の規定により算出した受取配当等の益金不算入額17億0249万0937円(平成10年5月期修正申告書記載額と同額)を加算した金額15億9328万0505円に,35パーセントを乗じて算出した金額である。
(オ) 使途秘匿金の支出額(別表10-1(1)18欄) 400万円
上記金額は,平成10年5月期修正申告書に記載されていた使途秘匿金の支出金額であり,これについては当事者間に争いがない。
(カ) 納付すべき法人税額(別表10-1(1)21欄) 0円
上記金額は,法人税法66条の規定に基づき,前記(ウ)の課税総所得金額△1億0921万0432円に対する法人税額0円に,前記(エ)の課税留保金額について同法67条1項の規定に基づき算出した税額5967万2200円(別表10-1(1)17欄)及び前記(オ)の使途秘匿金の支出について措置法62条1項の規定に基づき算出した税額160万円(別表10-1(1)19欄)を加え,更に法人税法68条1項に規定する法人税額から控除される所得税額等の金額6127万2200円(別表10-1(1)20欄)を差し引いて算出した金額である。
(キ) 還付所得税額等(別表10-1(1)22欄) 3億0234万5088円
上記金額は,平成10年5月期修正申告書に係る控除所得税額等の金額7947万4400円が前記(カ)のとおり6127万2200円に変更された結果1820万2200円減少したため,平成10年5月期修正申告書に係る還付所得税額等の金額2億8414万2888円に,当該増加額1820万2200円を加えた金額である。
(ク) 翌期へ繰り越す欠損金(別表10-1(1)23欄) 5億1739万5851円
上記金額は,平成10年5月期修正申告書に係る翌期繰越欠損金の金額7億7742万8848円から前記(イ)の所得金額に加算すべき金額2億6003万2997円を差し引いて算出した金額である。
(ケ) 以上によれば,平成10年5月期事業年度の原告の課税総所得金額は△1億0921万0432円,納付すべき法人税額は0円,翌期へ繰り越す欠損金は5億1739万5851円であるから,平成10年5月期更正処分はその範囲内で適法であるが,所得金額△1億0921万0432円を超える部分及び翌期へ繰り越す欠損金5億1739万5851円を下回る部分はそれぞれ不適法である。
イ 平成11年5月期再更正処分
(ア) 申告所得金額(別表10-1(2)1欄) △53億9788万4179円
上記金額は,当事者間に争いがない。
(イ) 支払利息の過大計上額(別表10-1(2)2欄) 14億1517万7798円
上記金額は,原告が平成11年5月期事業年度に平成10年11月24日及び平成11年5月27日付けでEB債1の支払利息として14億8445万5937円及び14億6552万2560円を計上した金額のうち,次のa及びbの各金額の合計金額14億1517万7798円を,損金の額に算入されないものとして所得金額に加算した金額である。
a 別表9-1の「⑦不当に高額な金額」欄のうち,P1家族に係る金額の合計額12億9259万1223円については,前記2のとおりEB債1の発行とその利払を利用して行われた役員に対する利益の供与であり,法人税法34条3項の規定により,各役員に対する役員報酬の額と認められ,適正利率を超えて不当に支払われた金額(別表9-1の⑦欄)は仮装・隠ぺいしてP1家族に利益供与がされ,各役員に報酬が支払われたというべきであるから,同条2項に規定する損金の額に算入しない報酬に該当する。
b 別表9-1の「⑦不当に高額な金額」欄のうち「役員又は受益者の氏名」欄が「不明」と記載されている2か所のEB債1購入金額1000万米ドル分は,使途不明金であるから,適正利率を超えて不当に高額に支払われた金額1億2258万6575円は,法人税法22条3項に規定する損金の額に算入されない。
(ウ) 課税総所得金額(別表10-1(2)14欄) △39億8270万6381円
上記金額は,前記(ア)の申告所得金額△53億9788万4179円に前記(イ)の所得金額に加算すべき金額14億1517万7798円を加えて算出した金額である。
(エ) 使途秘匿金の支出額(別表10-1(2)18欄) 800万円
上記金額は,平成11年5月期更正処分における使途秘匿金の支出金額800万円であり,これについては当事者間に争いがない。
(オ) 納付すべき法人税額(別表10-1(2)21欄) 0円
上記金額は,法人税法66条の規定に基づき,前記(ウ)の課税総所得金額△39億8270万6381円に対する法人税額0円に,前記(エ)の使途秘匿金の支出について措置法62条1項の規定に基づき算出した税額320万円(別表10-1(2)19欄)を加え,更に法人税法68条1項に規定する法人税額から控除される所得税額等の金額320万円(別表10-1(2)20欄)を差し引いて算出した金額である。
(カ) 還付所得税額等(別表10-1(2)22欄) 1億7598万3194円
上記金額は,平成11年5月期更正処分における還付所得税額等の金額であり,これについては当事者間に争いがない。
(キ) 翌期へ繰り越す欠損金(別表10-1(2)23欄) 44億3239万0752円
上記金額は,平成11年5月期更正処分における翌期繰越欠損金の金額61億0760万1547円から前記(イ)の所得金額に加算すべき金額14億1517万7798円を差し引き,さらに,平成10年5月期事業年度の所得金額等の再計算に伴い減少する控除未済欠損金額2億6003万2997円(別表10-1(1)8欄の金額と同額)を差し引いて算出した金額である。
(ク) 以上によれば,平成11年5月期事業年度の原告の課税総所得金額は△39億8270万6381円,納付すべき法人税額は0円,還付所得税額等は1億7598万3194円,翌期へ繰り越す欠損金は44億3239万0752円であり,平成11年5月期再更正処分はその範囲内で適法であるが,所得金額△39億8270万6381円を超える部分,還付所得税額等1億7598万3194円を下回る部分及び翌期へ繰り越す欠損金44億3239万0752円を下回る部分はそれぞれ不適法である。
ウ 平成12年5月期更正処分
(ア) 申告所得金額(別表10-1(3)1欄) △48億8652万0291円
上記金額は,当事者間に争いがない。
(イ) 加算金額の合計額(別表10-1(3)8欄) 31億7125万4108円
上記金額は,下記のaないしeの合計金額である。
a 支払利息の過大計上額(別表10-1(3)2欄) 12億3979万2294円
上記金額は,原告が平成12年5月期事業年度に平成11年11月26日及び平成12年5月26日付けでEB債1の支払利息として12億9482万0937円及び12億8956万6875円を計上した金額のうち,次の(a)及び(b)の各金額の合計金額12億3979万2294円を,損金の額に算入しないものとして所得金額に加算した金額である。
(a) 別表9-1の「⑦不当に高額な金額」欄のうち,P1家族に係る金額の合計額11億3239万8093円については,前記2のとおりEB債1の発行とその利払を利用して行われた役員に対する利益の供与であり,法人税法34条3項の規定により,各役員に対する役員報酬の額と認められ,適正利率を超えて支払われた金額(別表9-1の⑦欄)は仮装・隠ぺいしてP1家族に利益供与がされ,各役員に報酬が支払われたというべきであるから,同条2項に規定する損金の額に算入しない報酬に該当する。
(b) 別表9-1の「⑦不当に高額な金額」欄のうち「役員又は受益者の氏名」欄が「不明」と記載されている2か所のEB債1購入金額1000万米ドル分は,使途不明金であり,適正利率を超えて不当に高額に支払われた金額1億0739万4201円は,法人税法22条3項に規定する損金の額に算入されない。
b 寄附金の損金不算入額(別表10-1(3)3欄) 18億8082万1153円
上記金額は,前記4のとおり,原告が平成12年5月期事業年度に計上した固定資産売却損23億4313万6510円のうち,β不動産の売却金額20億3612万4627円とβ土地に係る譲渡時における価格として適正な金額17億6051万6800円並びにβ建物及び同建物に付随する什器備品の簿価21億5650万4726円の合計金額39億1702万1526円との差額18億8089万6899円については,法人税法132条の適用によりこれを否認し,原告から評価センターに対する寄附金に該当するものとして,同法37条の規定に基づき寄附金の損金算入限度額の再計算をした結果,新たに算出された寄附金の損金不算入額である。
c 過大な役員報酬の損金不算入額(別表10-1(3)4欄) 3300万円
上記金額は,当事者間に争いがない。
d 役員賞与の損金不算入額(別表10-1(3)5欄) 1602万3535円
上記金額は,当事者間に争いがない。
e 有価証券等売却損の過大計上額(別表10-1(3)7欄) 161万7126円
上記金額は,前記6のとおり,原告が平成12年5月期事業年度に計上した有価証券等売却損のうち,KOBEファンドに係る取引について,原告の法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められることから,法人税法132条の規定によりこれを否認し,適正価額2990万1874円と原告の取得価額3151万9000円との差額161万7126円は,原告の役員であるP1に対する役員賞与と認められ,法人税法35条により損金不算入となるところ,原告は,取得価額を基に有価証券等売却損を計上しているので,差し引き161万7126円を有価証券等売却損の過大計上額として所得金額に加算したものである。
(ウ) 交際費等の損金不算入額の過大計上額(別表10-1(3)9欄,13欄) 1531万7655円
上記金額は,当事者間に争いがない。
(エ) 課税総所得金額(別表10-1(3)14欄) △17億3058万3838円
上記金額は,前記(ア)の申告所得金額△48億8652万0291円に前記(イ)の所得金額に加算すべき金額の合計31億7125万4108円を加え,前記(ウ)の所得金額から減算すべき交際費等の損金不算入額の過大計上額1531万7655円を差し引いて算出した金額である。
(オ) 使途秘匿金の支出額(別表10-1(3)18欄) 400万円
上記金額は,平成12年5月期確定申告書に記載された使途秘匿金の支出金額であり,これについては当事者間に争いがない。
(カ) 納付すべき法人税額(別表10-1(3)21欄) 0円
上記金額は,法人税法66条の規定に基づき,前記(エ)の課税総所得金額△17億3058万3838円に対する法人税額0円に,前記(オ)の使途秘匿金の支出について措置法62条1項の規定に基づき算出した税額160万円(別表10-1(3)19欄)を加え,更に法人税法68条1項に規定する法人税額から控除される所得税額等の金額160万円(別表10-1(3)20欄)を差し引いて算出した金額である。
(キ) 還付所得税額等(別表10-1(3)22欄) 1億3798万6720円
上記金額は,平成12年5月期確定申告書に記載された還付所得税額等の金額であり,これについては当事者間に争いがない。
(ク) 翌期へ繰り越す欠損金(別表10-1(3)23欄) 59億5812万9055円
上記金額は,平成12年5月期確定申告書における翌期繰越欠損金の金額107億8927万6303円から前記(イ)の所得金額に加算すべき金額の合計31億7125万4108円(別表10-1(3)8欄)を差し引き,前記(ウ)の所得金額から減算すべき交際費等の損金不算入額の過大計上額1531万7655円(別表10-1(3)13欄)を加え,さらに,平成10年5月期事業年度の所得金額等の再計算に伴い減少する控除未済欠損金額2億6003万2997円(別表10-1(1)8欄の金額と同額)及び平成11年5月期事業年度の所得金額等の再計算に伴い減少する控除未済欠損金額14億1517万7798円(別表10-1(2)8欄の金額と同額)をそれぞれ差し引いて算出した金額である。
(ケ) 以上によれば,平成12年5月期事業年度の原告の課税総所得金額は△17億3058万3838円,納付すべき法人税額は0円,還付所得税額等は1億3798万6720円,翌期へ繰り越す欠損金は59億5812万9055円であり,平成12年5月期更正処分はその範囲内で適法であるが,所得金額△17億3058万3838円を超える部分,還付所得税額等1億3798万6720円を下回る部分及び翌期へ繰り越す欠損金59億5812万9055円を下回る部分はそれぞれ不適法である。
エ 平成13年5月期再更正処分
(ア) 申告所得金額(別表10-2(4)1欄) 0円
上記金額は,当事者間に争いがない。
(イ) 加算金額の合計額(別表10-2(4)13欄) 5億3981万1224円
上記金額は,下記のaないしfの合計金額である。
a 支払利息の過大計上額(別表10-2(4)2欄) 2億9054万8895円
上記金額は,原告が平成13年5月期事業年度に平成12年8月17日,同年9月7日及び同月28日付けでEB債1の支払利息として計上した金額1億2265万0572円,1億8587万3218円,1億5202万0020円及び7601万0009円並びに平成13年5月31日付けでベントリアンローンの支払利息として計上した金額4746万5753円(別表6-1の③欄)のうち,次の(a)ないし(c)の各金額の合計金額2億9054万8895円を,損金の額に算入しないものとして所得金額に加算した金額である。
(a) 別表9-1の「⑦不当に高額な金額」欄のうち,P1家族に係る金額の合計額2億2151万6835円については,前記2のとおりEB債1の発行とその利払を利用して行われた役員に対する利益の供与であり,法人税法34条3項の規定により,各役員に対する役員報酬の額と認められ,適正利率を超えて支払われた金額(別表9-1の⑦欄)は仮装・隠ぺいしてP1家族に利益供与がされ,各役員に報酬が支払われたというべきであるから,同条2項に規定する損金の額に算入しない報酬に該当する。
(b) 別表9-1の「⑦不当に高額な金額」欄のうち「役員又は受益者の氏名」欄が「不明」と記載されているEB債1購入金額1000万米ドル分は,使途不明金であり,適正利率を超えて不当に高額に支払われた金額3632万3841円は,法人税法22条3項に規定する損金の額に算入されない。
(c) 別表6-2の「③支払利息の過大計上」欄の3270万8219円は,前記5のとおり,ベントリアンローンの仕組みとその利払を利用して行われた,役員であるP3及びP4に対する利益の供与であり,法人税法34条3項の規定により,各役員に対する役員報酬の額と認められ,同条2項に規定する損金の額に算入しない報酬の額に該当する。
b 過大な役員報酬の損金不算入額(別表10-2(4)4欄) 3300万円
上記金額は,当事者間に争いがない。
c 役員賞与の損金不算入額(別表10-2(4)5欄) 2815万1087円
上記金額は,当事者間に争いがない。
d 未払金取崩役員賞与(別表10-2(4)6欄) 2万9672円
上記金額は,当事者間に争いがない。
e 雑損失の過大計上額(別表10-2(4)8欄) 3808万1570円
上記金額は,当事者間に争いがない。
f 受贈益計上漏れ(別表10-2(4)10欄) 1億5000万円
上記金額は,当事者間に争いがない。
(ウ) 減算金額の合計額(別表10-2(4)24欄) 5億3981万1224円
上記金額は下記aないしdの合計額である。
a 交際費等の損金不算入額の過大計上額(別表10-2(4)14欄) 1133万7835円
上記金額は,当事者間に争いがない。
b 前期否認損金計上役員賞与認容(別表10-2(4)15欄) 2万9672円
上記金額は,当事者間に争いがない。
c 事業税の損金算入額(別表10-2(4)22欄) 344万2400円
上記金額は,平成13年3月期更正処分及び平成13年3月期再更正処分によって新たに納付すべきことになる事業税の金額である。
d 欠損金の当期控除額(別表10-2(4)23欄) 5億2500万1317円
上記金額は,前記(イ)の金額5億3981万1224円から前記(ウ)aないしcの合計金額1480万9907円を差し引いた金額を,欠損金の当期控除額として所得金額から減算した金額である。
(エ) 課税総所得金額(別表10-2(4)25欄) 0円
上記金額は,前記(ア)の申告所得金額0円に前記(イ)の所得金額に加算すべき金額の合計5億3981万1224円を加え,前記(ウ)の所得金額から減算すべき金額の合計5億3981万1224円を差し引いて算出した金額である。
(オ) 納付すべき法人税額(別表10-2(4)30欄) 0円
上記金額は,法人税法66条の規定に基づく前記(エ)の課税総所得金額0円に対する法人税額0円である。
(カ) 還付所得税額等(別表10-2(4)31欄) 3億9578万4859円
上記金額は,平成13年5月期確定申告書における還付所得税額等の金額であり,これについては当事者間に争いがない。
(キ) 翌期へ繰り越す欠損金(別表10-2(4)32欄) 47億5236万7406円
上記金額は,平成13年5月期確定申告書における翌期繰越欠損金の金額101億0851万5971円から前記(ウ)dの欠損金の当期控除額5億2500万1317円(別表10-2(4)23欄)を差し引き,さらに,平成10年5月期事業年度の所得金額等の再計算に伴い減少する控除未済欠損金額2億6003万2997円(別表10-1(1)8欄の金額と同額),平成11年5月期事業年度の所得金額等の再計算に伴い減少する控除未済欠損金額14億1517万7798円(別表10-1(2)8欄の金額と同額)及び平成12年5月期事業年度の所得金額等の再計算に伴い減少する控除未済欠損金額31億5593万6453円(別表10-1(3)8欄の金額から同13欄の金額を差し引いた金額)をそれぞれ差し引いて算出した金額である。
(ク) 以上によれば,平成13年5月期事業年度の原告の課税総所得金額は0円,納付すべき法人税額は0円,還付所得税額等は3億9578万4859円,翌期へ繰り越す欠損金は47億5236万7406円であり,平成13年5月期再更正処分はその範囲内で適法であるが,還付所得税額等3億9578万4859円を下回る部分及び翌期へ繰り越す欠損金47億5236万7406円を下回る部分はそれぞれ不適法である。
オ 平成14年5月期更正処分(ただし,平成14年5月期再更正処分により一部取り消された後の部分)
(ア) 課税総所得金額(別表10-2(5)25欄) 0円
前記1及び7のとおり,原告は平成14年5月期事業年度の所得金額について争うことはできないから,上記金額は,被告の主張するとおり,0円となる。
当該金額は,原告の平成14年5月期再更正処分後の繰越欠損金控除前の所得金額が14億2630万4740円であり,平成14年5月期確定申告書の繰越欠損金控除前の所得金額18億3106万0899円を下回ったことから,14億2630万4740円を所得金額とし,ここから,平成13年5月期事業年度の翌期繰越欠損金47億5236万7406円のうち14億2630万4740円を当期控除額として控除した残額に相当する。
(イ) 納付すべき法人税額(別表10-2(5)30欄) 0円
上記金額は,法人税法66条の規定に基づき算出した,前記(ア)の課税総所得金額0円に対する法人税額0円である。
(ウ) 還付所得税額等(別表10-2(5)31欄) 1億8987万0850円
上記金額は,平成14年5月期確定申告書における還付所得税額等の金額であり,これについては当事者間に争いがない。
(エ) 翌期へ繰り越す欠損金(別表10-2(5)32欄) 33億8118万4878円
前記1及び7のとおり,原告は平成14年5月期事業年度の所得金額について争うことはできないから,上記金額は,平成13年5月期事業年度の翌期繰越欠損金47億5236万7406円を前提として,別表10-2の(5)欄及び別表12-2の(5)欄(ただし,同(5)32欄を除く。)のとおり,被告主張の所得金額に対する加算及び減算をして算出した翌期へ繰り越す欠損金額である。
当該金額は,平成13年5月期事業年度の翌期繰越欠損金47億5236万7406円から前記(ア)の当期控除額14億2630万4740円を控除した残額である33億2606万2666円(なお,原告の平成8年8月1日から平成9年5月31日までの事業年度における繰越欠損金控除前の所得金額は黒字であること及びその直前の事業年度は平成7年8月1日から開始することは当事者間に争いがないので,平成13年5月期事業年度の翌期繰越欠損金のうち,平成14年6月1日から開始する事業年度の控除未済欠損金額に含まれない額(当該事業年度開始の日前5年以内に開始した事業年度において生じた欠損金以外の欠損金)で,平成14年5月期事業年度において控除未済のままの額はないことになる。)に,原告が平成13年12月1日に吸収合併したインディペンデンスの翌期繰越欠損金5512万2212円(当事者間に争いがない。)を加えた金額に相当する。
(オ) 以上によれば,平成14年5月期事業年度の原告の課税総所得金額は0円,納付すべき法人税額は0円,還付所得税額等は1億8987万0850円,翌期へ繰り越す欠損金は33億8118万4878円であり,平成14年5月期更正処分(ただし,平成14年5月期再更正処分により一部取り消された後の部分)はその範囲内で適法であるが,翌期へ繰り越す欠損金33億8118万4878円を下回る部分(ただし,平成14年5月期再更正処分により一部取り消された後の部分)は不適法である。
カ 平成12年6月期更正処分
(ア) 申告所得金額(別表10-3(6)1欄) △1億4789万3580円
上記金額は,当事者間に争いがない。
(イ) 支払利息の過大計上額(別表10-3(6)2欄) 7891万5068円
上記金額は,前記5のとおり,評価センターが平成12年6月期事業年度にベントリアンローンの支払利息として計上した金額1億1904万1095円(別表6-1の①欄)のうち,ベントリアンローンの仕組みの中でラファエロに支払われた金額7891万5068円(別表6-2の①欄)は,原告と合併をする以前の評価センターから,ベントリアンローンの仕組みとその利払を利用して行われた,原告の役員であるP3及びP4に対する利益の供与であり,支払利息の名目を借りて,海外の法人及び信託を介在させることで真の受益者を隠し,仮装・隠ぺいしてP3及びP4に利益供与がされたものであることから,P3及びP4に対する法人税法37条に規定する寄附金と認められる。
しかし,当該金額は,平成12年6月期事業年度において未払となっているため,法人税法施行令78条により損金の金額に算入できず,支払われていない金額を所得金額に加算したものである。
(ウ) 課税総所得金額(別表10-3(6)10欄) △6897万8512円
上記金額は,前記(ア)の申告所得金額△1億4789万3580円に前記(イ)の所得金額に加算すべき金額7891万5068円を加えて算出した金額である。
(エ) 納付すべき法人税額(別表10-3(6)13欄) 0円
上記金額は,法人税法66条の規定に基づき算出した,前記(ウ)の課税総所得金額△6897万8512円に対する法人税額0円である。
(オ) 還付所得税額等(別表10-3(6)14欄) 1万1394円
上記金額は,当事者間に争いがない。
(カ) 翌期へ繰り越す欠損金(別表10-3(6)15欄) 8908万3787円
上記金額は,平成12年6月期確定申告書に記載された翌期繰越欠損金の金額1億6799万8855円から前記(イ)の金額7891万5068円を差し引いて算出した金額である。
(キ) 以上によれば,平成12年6月期事業年度の評価センターの課税総所得金額は△6897万8512円,納付すべき法人税額は0円,還付所得税額等は1万1394円,翌期へ繰り越す欠損金は8908万3787円であり,当該各金額は平成12年6月期更正処分の金額といずれも同額であるから,当該処分は適法である。
キ 平成13年3月期更正処分(ただし,平成13年3月期再更正処分により一部取り消された後の部分)
(ア) 申告所得金額(別表10-3(7)1欄) 0円
上記金額は,当事者間に争いがない。
(イ) 加算金額の合計額(別表10-3(7)5欄)2億5811万1525円
上記金額は,下記aないしcの金額の合計金額である。
a 支払利息の過大計上額(別表10-3(7)2欄) 3166万9863円
上記金額は,前記5のとおり,評価センターが平成13年3月期事業年度にベントリアンローンの支払利息として計上した金額2億0267万2073円(別表6-1の②欄)のうち,ベントリアンローンの仕組みの中でラファエロに支払われることとなる金額1億4121万6438円(別表6-2の②欄)は,評価センターから,ベントリアンローンの仕組みとその利払を利用して行われた,原告の役員であるP3及びP4に対する利益の供与であり,支払利息の名目を借りて,海外の法人及び信託を介在させることで真の受益者を隠し,仮装・隠ぺいして各役員に利益供与がされたものであることから,P3及びP4に対する法人税法37条に規定する寄附金と認められる。
しかし,当該金額のうち3166万9863円は,平成13年3月期事業年度において未払となっているため,法人税法施行令78条により損金の金額に算入できず,支払われていない金額を所得金額に加算したものである。
b 寄附金の損金不算入額(別表10-3(7)3欄) 1億8685万7642円
上記金額は,前記aのラファエロに支払われることとなる金額1億4121万6438円はP3及びP4に対する法人税法37条に規定する寄附金と認められるから,未払である3166万9863円を差し引いた金額1億0954万6575円及び平成12年6月期事業年度で未払となっていたが平成13年3月期事業年度において支払われた金額7891万5068円を合計し,同条2項の規定に基づき寄附金の損金算入限度額の計算をした結果,発生した寄附金の損金不算入額として所得金額に加算したものである。
c 欠損金の当期控除額(別表10-3(7)4欄) 3958万4020円
上記金額は,平成13年3月期修正申告書における欠損金の当期控除額1億2866万7807円から,平成12年6月期更正処分において翌期へ繰り越す欠損金として算出された金額8908万3787円(別表10-3(6)15欄)を差し引いた金額を,欠損金の当期控除額として所得金額に加算した金額である。
(ウ) 減算金額の合計額(別表10-3(7)9欄) 2億2180万3074円
上記金額は,下記aないしcの金額の合計金額である。
a 未払寄附金認定損(別表10-3(7)6欄) 7891万5068円
上記金額は,平成12年6月期更正処分において,評価センターからP3及びP4に対する寄附金に該当すると認定した金額のうち,平成12年6月期事業年度に未払であった金額を,平成13年3月期事業年度に支払ったため,当該金額を所得金額から減算したものである。
b 営業権譲渡収入の過大計上額(別表10-3(7)7欄) 1億4285万7143円
上記金額は,当事者間に争いがない。
c 雑損失計上漏れ(別表10-3(7)8欄) 3万0863円
上記金額は,評価センターが消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の処理に当たり、前記bにより仮受消費税等の額としていた714万2857円から,課税売上割合が低下することにより生じる評価センターが還付を受けるべき消費税等の額691万2600円及び繰延消費税額等19万9394円を差し引いた金額を,所得金額から減算した金額である。
(エ) 課税総所得金額(別表10-3(7)10欄) 3630万8451円
上記金額は,前記(ア)の申告所得金額0円に前記(イ)の所得金額に加算すべき金額2億5811万1525円を加え,前記(ウ)の所得金額から減算すべき金額2億2180万3074円を差し引いて算出した金額である。
(オ) 納付すべき法人税額(別表10-3(7)13欄) 1040万2900円
上記金額は,法人税法66条の規定に基づき,前記(エ)の課税総所得金額3630万8000円(ただし,通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)に対して同条規定の税率を乗じて算出した金額の合計額1041万2400円(別表10-3(7)11欄)から,法人税法68条1項に規定する法人税額から控除されるべき所得税額等の金額9417円(別表10-3(7)12欄)を差し引いて算出した金額(ただし,通則法119条1項の規定に基づき,100円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。
(カ) 翌期へ繰り越す欠損金(別表10-3(7)15欄) 0円
上記金額は,評価センターの平成13年3月期修正申告書における翌期繰越欠損金の金額3933万1048円に前記(イ)cの欠損金の当期控除額3958万4020円(別表10-3(7)4欄)を加え,さらに,平成12年6月期更正処分に伴い減少する控除未済欠損金額7891万5068円(別表10-3(6)5欄と同額)を差し引いて算出した金額である。
(キ) 以上によれば,平成13年3月期事業年度の評価センターの課税総所得金額は3630万8451円,納付すべき法人税額は1040万2900円,還付所得税額等は0円,翌期へ繰り越す欠損金は0円であり,当該各金額は平成13年3月期更正処分(ただし,平成13年3月期再更正処分により一部取り消された後の部分)の金額といずれも同額であるから,当該処分は適法である。
(2) 本件各重加算税賦課決定処分等について
ア 平成11年5月期重加算税賦課決定処分(ただし,平成11年5月期重加算税変更決定処分により一部取り消された後の部分)
前記2のとおり,シナジープラスに対する支払利息は使途秘匿金とはいえないから,平成11年5月期重加算税賦課決定処分(ただし,平成11年5月期重加算税変更決定処分により一部取り消された後の部分)は不適法である。
イ 平成12年5月期重加算税賦課決定処分
前記2のとおり,シナジープラスに対する支払利息は使途秘匿金とはいえないから,平成12年5月期重加算税賦課決定処分は不適法である。
ウ 平成13年5月期重加算税賦課決定処分
前記2のとおり,シナジープラスに対する支払利息は使途秘匿金とはいえないから,平成13年5月期重加算税賦課決定処分は不適法である。
エ 平成13年3月期重加算税賦課決定処分(ただし,平成13年3月期重加算税変更決定処分により一部取り消された後の部分)
(ア) 前記5のとおり,評価センターは,ベントリアンローンに係る取引に関し,経済合理性のない海外の法人及び海外の信託を介在させ,P3及びP4への利益供与を支払利息に仮装し,P3及びP4への利益供与額を隠ぺいしたものである。
(イ) 平成13年3月期更正処分(ただし,平成13年3月期再更正処分により一部取り消された後の部分)により新たに納付すべきこととなった税額1040万2900円に対する重加算税の金額は,通則法68条の規定に基づいて算出した重加算税の基礎となる税額1040万円(別表11⑤32欄,ただし,同法118条3項の規定に基づき1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に対して100分の35の割合を乗じて算出した重加算税額364万円(同別表⑤33欄)となるから,これと同額でした平成13年3月期重加算税賦課決定処分(ただし,平成13年3月期重加算税変更決定処分により一部取り消された後の部分)は適法である。
(3) 平成12年5月期過少申告加算税賦課決定処分について
前記6のとおり,原告のKOBEファンド取引において法人税額から控除すべき所得税額には変動がないから,当該取引に係る法人税額の増加はないので,平成12年5月期過少申告加算税賦課決定処分は不適法である。
第4結論
以上の次第で,本件各処分の取消しを求める原告の訴えは,平成10年5月期更正処分のうち,所得金額マイナス1億0921万0432円を超える部分及び翌期へ繰り越す欠損金5億1739万5851円を下回る部分,平成11年5月期再更正処分のうち,所得金額マイナス39億8270万6381円を超える部分,還付所得税額等1億7598万3194円を下回る部分及び翌期へ繰り越す欠損金44億3239万0752円を下回る部分,平成11年5月期重加算税賦課決定処分(ただし,平成11年5月期重加算税変更決定処分により一部取り消された後の部分),平成12年5月期更正処分のうち,所得金額マイナス17億3058万3838円を超える部分,還付所得税額等1億3798万6720円を下回る部分及び翌期へ繰り越す欠損金59億5812万9055円を下回る部分,平成12年5月期重加算税賦課決定処分,平成12年5月期過少申告加算税賦課決定処分,平成13年5月期再更正処分のうち,還付所得税額等3億9578万4859円を下回る部分及び翌期へ繰り越す欠損金47億5236万7406円を下回る部分,平成13年5月期重加算税賦課決定処分,並びに,平成14年5月期更正処分のうち,翌期へ繰り越す欠損金33億8118万4878円を下回る部分(ただし,平成14年5月期再更正処分により一部取り消された後の部分)に限り,理由があるからこれらを認容し,その余は理由がないからこれらをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大門匡 裁判官 関口剛弘 裁判官 菊池章)
別紙2
第1争点(1)(訴えの利益の有無)について
1 原告の主張
(1) 被告は,平成14年5月期再更正処分により,繰越欠損金控除前の所得金額が14億2630万4740円となり,平成14年5月期確定申告書の繰越欠損金控除前の所得金額18億3106万0899円を下回るので,平成14年5月期更正処分(ただし,平成14年5月期再更正処分により一部取り消された後の部分)の取消しを求める訴えには訴えの利益がない旨主張する。
しかし,そもそも,平成14年5月期更正処分は,平成14年5月期事業年度の繰越欠損金を確定申告書の繰越欠損金よりも減額する不利益処分である。
そして,平成14年5月期再更正処分は平成14年5月期更正処分を納税者に有利に変更する課税処分であって,平成14年5月期再更正処分の取消しを求める訴えには訴えの利益がなく,減額再更正についての一部取消し説を採用した最高裁判所昭和56年4月24日第二小法廷判決に基づけば,取消しの対象は,平成14年5月期更正処分(ただし,平成14年5月期再更正処分により一部取り消された後の部分)となるものである。
また,平成14年5月期更正処分がなければ,平成14年5月期再更正処分において認定されるべき繰越欠損金控除前の所得金額は,上記の14億2630万4740円よりも更に約5億円低額の約9億円となるはずであり,平成14年5月期再更正処分が認定した繰越欠損金控除前の所得金額が更に低額となれば,結果として,原告の平成14年5月期事業年度の繰越欠損金は,平成14年5月期再更正処分が認定した金額である24億4027万3121円を上回ることになる。
そして,繰越欠損金の多寡を原因として更正処分の取消しを求めることについては,納税者に訴えの利益が認められると解されるから,原告においても,当初の平成14年5月期更正処分(ただし,平成14年5月期再更正処分により一部取り消された後の部分)の取消しを求める訴えの利益があるものというべきである。
(2) 仮に,被告主張のように,平成14年5月期再更正処分により,繰越欠損金控除前の所得金額が,確定申告書の繰越欠損金控除前の所得金額より減算されたことを理由に,原告が,平成14年5月期更正処分の適法性を争う訴えの利益が失われるとすれば,原告としては,納税者に不利益な平成14年5月期更正処分に不服があるにもかかわらず,同処分の適法性を争う法的救済の途が閉ざされることとなり,妥当でない。
上記最高裁判決は,再更正処分が納税者に有利な場合,再更正処分と当初更正処分とは吸収関係に立たない旨を判示し,納税者に,再更正処分と独立して当初更正処分の適法性を争う訴えの利益を認めているのであるから,再更正処分が納税者に有利であることは,納税者に,再更正処分と独立して当初更正処分の適法性を争う訴えの利益を否定する根拠とはなり得ないものというべきである。
2 被告の主張
(1) 平成14年5月期更正処分については,平成14年5月期再更正処分が行われているところ,平成14年5月期更正処分においても平成14年5月期再更正処分においても,事業年度開始の日前5年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額又は所得金額に異動が生じ,また,平成14年5月期事業年度の繰越欠損金控除前の所得金額に異動が生じているだけである。
(2) 平成14年5月期事業年度の繰越欠損金控除前の所得金額の異動については,平成14年5月期再更正処分における原告の繰越欠損金控除前の所得金額は14億2630万4740円であり,平成14年5月期事業年度の確定申告書の繰越欠損金控除前の所得金額18億3106万0899円を下回るので,平成14年5月期更正処分(ただし,平成14年5月期再更正処分により一部取り消された後の部分)についての取消しを求める訴えの利益はないものというべきである。
すなわち,繰越欠損金とは,結局,「控除未済欠損金」(当該事業年度より前に生じ,法人税法57条の規定により,欠損金が発生した事業年度の翌事業年度以後の事業年度分の所得金額の計算上,損金の額に順次繰り越して算入された残余の,当該事業年度の損金の額に算入される各事業年度の欠損金の残高)から「当期控除額」(当該事業年度において,同条の規定により,当該事業年度の損金の額に算入された各事業年度の欠損金の合計額)を単純に減算したものにすぎず,「控除未済欠損金」及び「当期控除額」が決定すれば自動的に算出されるものである。したがって,その減算計算に誤りがない限り,この金額については,当期控除額を争うことで足りるから,単なる控除未済欠損金の書き誤りや,翌期繰越額の計算誤りを除いて,当期において実際に取り消すことが可能な当期控除額,すなわち繰越欠損金控除前の所得金額に着目して,訴えの利益があるかないかを判断すべきである。
この点,原告は,最高裁判所昭和56年4月24日第二小法廷判決を引用し,減額再更正処分後においても,当初更正処分(平成14年5月期更正処分)の取消しを求める訴えの利益がある旨主張する。
しかしながら,原告の引用する当該判決は,減額再更正処分は納税者に有利な効果をもたらす処分と解されるから,その取消しを求める訴えの利益はなく,減額された当初の更正処分の取消しを訴求することで足りると判示したものであって,減額再更正処分後も確定申告額を上回る当初更正処分の増額部分が残っている場合において,当初更正処分を争えるものと判示したものであり,本件のように,減額再更正処分により所得金額が確定申告額を下回り,全く訴えの利益がなくなっている場合においても,なお,当初の更正処分を争えると判示したものではない。
(3) また,平成14年5月期事業年度の開始の日前5年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額又は所得金額の異動については,東京高等裁判所平成3年1月24日判決(税務訴訟資料182号55頁)は,誤りがあった事業年度の欠損金額を是正するための当該事業年度についての更正の請求の手続を経ることなく,その誤りを前提として後の事業年度についての更正の請求をしたり,更正処分の取消しを求めることは許されない旨判示しており,これは欠損金額が発生した事業年度を争わなければ,その欠損金額が繰り越された翌期以降の事業年度において,その誤りを前提とした所得金額の変更の申立ては許されないと判示したものと解されるから,欠損金額が正しいか否かは,その欠損金額が発生した事業年度においてのみ判断されるべきであり,それがされていない場合,新たな課税年分で,過去の欠損金額の発生額については,それを変更することとなる請求はできないものというべきである。
そうすると,平成14年5月期更正処分においても平成14年5月期再更正処分においても,平成14年5月期事業年度の欠損金額の計算により算定されたものではない繰越欠損金額を変更するには,まず,当該欠損金額が発生した事業年度において,その金額を争わなければならず,かつ,それで足りるのであって,当該欠損金額が発生した事業年度における課税処分の是正に加えて,平成14年5月期更正処分の取消しを求める訴えにおいて平成14年5月期事業年度より前の事業年度についての欠損金額又は所得金額を争えるものではないから,やはり,原告の訴えは訴えの利益を欠くものといわざるを得ない。
第2争点(2)(EB債1に係る支払利息の性質,使途秘匿金課税の可否,重加算税の賦課要件の有無及び理由付記不備の有無)について
1 被告の主張
EB債1に係る支払利息が,役員報酬又は使途秘匿金に該当する旨,原告には仮装・隠ぺいが認められ,重加算税の賦課要件を満たす旨及びEB債1に係る本件各処分に理由付記の不備はない旨の被告の主張の詳細は別紙4の第1EB債1の「主張の趣旨」欄及び「証拠及びそれによる立証趣旨等」欄記載のとおりであるが,その主張の中核的部分は次のとおりである。
(1) 主張の要旨
ア EB債1に係る取引は,原告が発行したEB債1を海外の投資家3者が購入し,原告はそれにより1億1500万米ドルの資金調達をし,年率21.25パーセントの金利で計算される支払利息を海外の投資家3者に支払う形となっているが,EB債1は,企業買収等の具体的な資金需要のない原告が,専ら自らに欠損金を創出して蓄積させるとともに,その欠損金に相当する利益をP1家族に移転するための手段として発行されたものであるから,P1家族に対する利益供与を海外の投資家に対する支払利息に仮装したものであるといえる。
イ もっとも,EB債1の元本相当額については,原告が主張するような事業買収のために使われた事実はなくとも,原告がP1家族から実際に提供を受け,その管理支配下に置いてその事業の用に供された事実はあるので,実質的にみればEB債1の発行によりP1家族から原告に対して融資が行われたと同様の経済的効果が生じているものと認められる。
ウ したがって,EB債1に係る支払利息のうち,本件事案の実体に応じた適正な金利水準の部分までは支払利息として損金性が認められるものの,その水準を超えて支払われていた部分については支払利息ではなくP1家族に対する利益供与であって,原告の平成11年5月期事業年度ないし平成13年5月期事業年度の法人税に係る各課税標準においては,法人税法34条3項の役員報酬に該当する。
そして,その役員報酬は,上記のとおり海外の投資家に対する支払利息に仮装してP1家族に支出されていたものであるから,同条2項により損金不算入となる。
エ なお,原告の平成10年5月期事業年度の法人税に係る課税標準においては,平成10年法律第24号による改正前の法人税法34条1項により,P1家族各人に対し供与されている利益(適正と認められる金利水準を超える部分)を当該期間中に支給されている各人の役員報酬の金額に加算したところ,P1については当該加算後の役員報酬の総額が,株主総会で決議された同人の役員報酬の支給限度額を超えることとなったため,同項及び同法施行令69条2号の規定により,当該支給限度額を超える金額につき損金不算入となるものである。
オ 加えて,シナジープラスに支払ったとする利息については,真の投資家は,P1の関係者であり,適正利率を超えて不当に高額に支払われた金額は,法人税法22条3項に規定する損金の額に算入されない。また,P1はシナジープラスを自ら支配し原告は同社をP1又はその関係者のダミーとしてEB債1の取引に介在させたにすぎないから,その支出が原告の帳簿書類に記載された者(シナジープラス)を通じてその記載された者以外の者,すなわちP1又はその関係者にされたものであり,その相手方の氏名等が原告の帳簿書類に記載されていない場合(措置法施行令38条3項)に当たるので,上記適正と認められる金利水準を超える部分は使途秘匿金に該当する。
(2) EB債1に係る支払利息がP1家族に対する役員報酬に該当すると認定できる個別的事情
ア EB債1の目的と実態(原告が多額の欠損金を蓄積しようとしたこと及びP1家族の余裕資金を利用し,原告の資金を外部に流出させることなくP1家族に移転させようとしたこと)
原告は,商工ファンドの株式558万6600株を所有しており,簿価としては2億9117万4326円を計上するだけで,その含み益は,平成9年12月ころの株価約4万円を基準とすると,2000億円を超えるものであったところ,以下のとおり,原告あるいは原告の実質的な経営権を握り商工ファンドの実権を名実ともに支配していたP1は,原告保有の商工ファンド株式については,将来,新たなグループの株式保有関係を作る際に,商工ファンド株式の売却を行っても原告に課税所得が生じないように,原告の赤字幅を大きくし,その赤字の範囲で,海外の新持株会社に商工ファンド株式を売却し,その際のキャピタル・ゲインを赤字で打ち消し原告において課税が生じないようにする一方,海外の新持株会社に時価を簿価として引き継ぐことを図り,将来の商工ファンド株式の売却時に売却益への課税を最小限に押さえるべく,あらかじめ多額の欠損金の蓄積を図るため,原告は,欠損金の作出のための一手段として,EB債1を発行したものである。また,EB債1の発行計画から,その買入消却までの流れが,海外発行等の複雑なスキームに基づいて行われた理由は,欠損金を作り出すとしても,資金がP1率いる関連企業とP1家族を併せた集合体外に流出しないようにすべく,原告が費用として支払う金額を上記集合体のいずれかに取得させる方法として,支払利息の形態を利用することとし,支払利息を取得する者に課税が及ばないように,すなわち,資金提供者がP1家族だと判明しないようにするため,また,判明しても課税が行われないようにするためであった。
(ア) 原告が多額の欠損金を蓄積しようとしていたこと
a P1は,平成7年3月1日時点において,既に,原告が所有する商工ファンドの株式譲渡時に生じる多額のキャピタル・ゲイン課税について懸念し,P1家族が保有する原告の株式の譲渡益に対する課税を軽減する方策を具体的に検討していた。
このことは,当時,既に,原告及びP1家族が所有する商工ファンド株式及びP1家族が所有する原告の株式の譲渡時のキャピタル・ゲインに対して課税される税額を,いかにして減少させるかが大きな問題となっていたことを現している。
b 原告は,平成9年12月25日時点において,自身に40億円から50億円程度の赤字を計上して,その赤字の計上により株式売却益を相殺する方法での商工ファンド株式の売却を計画していた。
c 原告は,EB債1発行から4か月程度後の平成10年7月6日ころ,DMG証券に対して,当時原告が商工ファンド株式を新たに海外に設立するSPC(海外持株会社)に移転(売却)した際に,その売却益に対して法人税が課せられないようにするために,欠損金の蓄積を増加して所得を減少させる方法についての検討を依頼している。
(イ) EB債1の発行までの経緯
以下のように,EB債1の発行までの経緯においては,資金拠出者が先に決まっていたこと,ことさら支払利息額の高い資金調達方法が検討されEB債1の発行に決まったこと,原告の調達資金の運用方法は決まっておらず本来不要な資金調達であったこと,EB債1の発行による赤字の発生と商工ファンド株式の売却とが連動して計画されていたこと,EB債1は,原告が必要とする資金に相当する金額を額面として発行されるのではなく,P1が用意できるだけの資金額がそのままEB債1の発行額となったこと,P1又は原告は積極的に支払利息の利率の引き上げを目論んでいたこと,これらの情報はすべてP1の下に集められた上で,P1によってEB債1の発行が決定されたこと,EB債1を引き受ける予定のリミテッドパートナーシップのリミテッドパートナーはP1が所有するSPC(エクイタブル)とすることがあらかじめ予定されていたことなどが明らかである。
a 原告は,遅くとも平成9年12月16日には債券発行を計画していたところ,この時点では,債券発行の具体的な内容(債券の種類,金額,発行日,利率等)が決定していなかったにもかかわらず,引受人すなわち投資家が決まっていた。このような段階で引き受けることが決まっていたその投資家は債券発行を企画しているP1以外には考えられない。
そして,資金の拠出者が決まっている中で,債券の発行形態が検討され,同月24日ころ,より具体的な概要が形作られ始め,DMG証券が発行概要案の提案書を作成している。その案の中にはEB債発行案が存在し,ここでは,留意事項として発行体による買入償却まで検討されており,さらには,調達ツールとして普通社債,EB債及びデュアルカレンシー債の3つの商品の提案があり,原告は金利を高く設定するために,その中で一番金利が高いEB債を選択した。
翌25日,P6会計士は,上記提案書に回答して,原告は企業買収等の戦略的資金運用のプランもないまま資金調達を行おうとしており,欠損金の創出のためにあえて高利に設定した支払利息を第三者たる投資家の手に渡すことなく,P1が前もって準備した「吸引装置」によって事実上P1又はその関係者が収受することを暗号めいた表現で伝えていることから,支払利息を計上する立場の者が,利息を受け取る者についての工作を行っていることがうかがえる。
また,上記P6会計士の回答の余白にDMG証券の担当者が書いたメモからは,原告による将来の商工ファンド株式の売却と関連して,原告によるEB債1の発行,原告について40億円ないし50億円の赤字の発生,商工ファンド株式の売却という3つの計画が明らかに連動していることがうかがえる。
b P6会計士が,平成10年1月7日から同年2月3日にかけて,DMG証券P14とやりとりをしたファックス文書によれば,社債の発行の直前においても原告が調達資金の運用計画を持ち合わせていなかったこと,P6会計士が,債券の引受者の立場で債券引受可能額をDMG証券に連絡していること,バーチベールとリミテッドパートナーシップ契約を締結してリミテッドパートナーとなる海外法人については原告の方で用意する旨伝達していること,当該海外法人はその後のスキームと照らし合わせればエクイタブルに当たること,EB債1のうち3000万米ドルの購入者の一人は,現存のユニット・トラストであり,別の2000万米ドルの購入者は別のケイマンユニット・トラスト(U/T)とされていること,当該各ユニット・トラストは,その後のスキームにおける位置や金額からそれぞれクブライU/TとダイアモンドU/Tがそれらに該当することが明らかとされている。
そして,ダイアモンドU/TはこのスキームのためにDMG証券により作られたものであって,原告あるいはP1の意のままとなるユニット・トラストであり,クブライU/Tも,当該時点で発行内容が何ら定まっていないEB債1を購入する主体として位置付けられていることからして,P1の意向の下で運営されていたものであるといえる。
c DMG証券は,平成10年1月12日及び19日付けでそれぞれ社債の発行概要案を作成し,同年2月20日にほぼ最終的な概要案を報告しているが,上記1月19日付けの発行概要案ではその「留意事項」において,通常であれば,証券会社は,発行者の意を酌んでできるだけ低利の資金調達に腐心するにもかかわらず,積極的に支払利息の利率を引き上げようと目論んでいることが記載されている。
また,発行費用見積の項目においては,「本件については,投資家が一人であり,かつ転売されないことから,同代理人を置かない方向で検討中」と記載されており,DMG証券がP1の依頼によりP1の資金を運用する形でのEB債1の発行を計画していたことがうかがえる。
d DMG証券P14が,平成10年2月12日,13日,18日,20日及び26日に商工ファンドの取締役社長としてのP1あてに送付したファックス文書によれば,同月20日には発行までの手続がほぼ確定したこと,EB債1の発行及び引受けに係るすべての情報がP1に集められ,P1の意思決定によって発行が決まったこと,バーチベールの設立費用及びパートナーシップ契約に係る費用はエクイタブルが,その他の諸費用はタックスヘイブン地域に所在する原告の措置法66条の6第1項に規定する特定外国子会社等であるコパーが取引後にまとめて負担することが明らかとされており,エクイタブルが,DMG証券が設置した他のSPCと同様にP1の管理支配下にある法人で,本件のスキームにおいては単なる歯車の一つにすぎない存在であることがうかがわれる。
e DMG証券が詳細にEB債1発行スキームのキャッシュフローについて検討した英文メモが,平成10年2月5日,12日,13日,18日,19日,23日,25日及び同年3月5日に作成されているところ,上記2月5日付けの英文メモからは,原告が1億米ドルの債券を発行して資金を調達するが,結局はその資金はコパーの社債を購入するために使用される予定となっており,単に調達資金の全額を,リスクは低いが利率も低い社債に投資するだけの予定が組まれており,EB債1の発行直前でも原告には具体的な企業買収の予定などなかったこと,バーチベールとリミテッドパートナーシップ契約を結ぶ法人がエクイタブルと記載され,Mr.X(すなわちP1)がその株主または支配者であることが説明文に表示されていること,同メモにおいて,リミテッドパートナーはP1が所有する既存のSPCである必要があるとはっきり記載されており,エクイタブルがP1の所有であるとうかがわれることが明らかとされているほか,上記2月13日及び18日付けの英文メモには,ほぼ実際に行なわれたスキーム像が描かれており,各SPCの名称や,ダイアモンドU/Tなどの名称も明記されている。
f EB債1の発行に先立ち,DMG証券の担当者はP1と打合せを重ね,EB債1発行スキームに関係させるSPC(特別目的会社)として,ペーパー法人であるアスチュラ,バーチベール,コパーを設立し,ユニット・トラストとしてダイアモンドU/Tを設立しているところ,バーチベールとアスチュラは,連絡先が同じジャージー島の私書箱となっており,バーチベールは,平成10年2月25日に,自己をジェネラルパートナー,エクイタブルをリミテッドパートナーとしてリミテッドパートナーシップ契約を結んでおり,エクイタブルは当該パートナーシップ(バーチベールLPS)の唯一のリミテッドパートナーであり,当該リミテッドパートナーシップ契約により,バーチベールLPSが投資した7500万米ドル分のEB債1に係る21.25パーセントの利息額のうち,15.782パーセント相当額を受領してデフォルトリスク及び商工ファンド株式による元本償還による損失を負担するリスクを引き受けている。また,利息のうち残りの5.468パーセントについては,すべてアスチュラからの米国国債の品借り料としてアスチュラに支払われるから,バーチベールLPSには一銭も残らず,資金フローのパイプ役を担うだけである。DMG証券作成のキャッシュフロースケジュールは,EB債1発行に際して,新たに作った海外法人等に,いつ,いくら,どこへ資金を流せばよいのか知らせるために作成したものと認められ,バーチベール,アスチュラ,ダイアモンドU/Tは,最初から定められた資金の受渡しを行っていただけのものであることが明らかである。
また,DMG証券担当者が同月19日に作成したと思われるEB債1に係るキャッシュフロー図においては,P1及びP2が合計7400万米ドル,P1家族の資金のみを受託している信託であるクブライU/T及び原告がP1家族とは無関係の投資家であると主張するシナジープラスがそれぞれ3000万米ドル及び1000万米ドルの資金を拠出することとされており,また,P1及びP2からの資金は,ダイアモンドU/T及びアスチュラを経由し,更にバーチベールLPSを経由して,原告が,その2日後にEB債1の発行の形態を借りて当該資金を入手することとされていた。そして,原告は,当該調達資金をコパーの社債を買う形で投資し,コパーがその資金をもって獲得した投資益については,その利益の20パーセント以上をエクイタブルに支払うことになっていた。さらに,バーチベールとエクイタブルの関係は,リミテッドパートナーシップであるが,エクイタブルは,リミテッドパートナーシップがEB債1に投資することによってリミテッドパートナーシップに生じる利益について溜め込む権利を持っていた 。最終的な同月25日の段階のキャッシュフロー図では,P1とP2の拠出資金額が7500万米ドルになったこと,原告がコパーに調達資金の全額を投資せず,コパーの株式を700万米ドル購入するだけとなったこと及びコパーとエクイタブルとの間のファンド・アドバイザリー契約がなくなったことが表されている。
(ウ) EB債1取引の外形の作出
a 導管体的組織群の組成
(a) アスチュラルートについて
① ダイアモンドU/T,アスチュラ及びバーチベールLPSは,本件のEB債1発行スキームのために設置されたもので,P1の管理支配下にあり,EB債1に係る資金はそれらを通過するだけで,一時的に資金が滞留することはあっても最終的には原告又はP1らにすべての資金が辿り着くのであって,中間にあるダイアモンドU/T,アスチュラ及びバーチベールLPSには1円も残らない。本件におけるP1と原告との間に位置するこれらの会社等は,資産流動化の際に,キャッシュフローを生み出す資産をその資産の元の保有者から譲り受け,それを裏付けに債券を発行することで債券の発行主体になり,元の保有者から倒産隔離の機能を担うような本来の導管体ではなく,単に形式的な資金(元金と利息)の通り道であるにすぎず,EB債1取引における原告とP1家族とのつながりを見えなくするためだけに差し込まれるダミー機能以外の機能は見いだせない。
② ダイアモンドU/Tが信託宣言により成立する前の平成10年2月に,そのトラスティーであるドイチェ・モルガン・グレンフェル(ケイマン)リミテッドに対し,P1は署名入りレターを発し,P1が自らの決定として,アスチュラの社債に専ら投資するようにトラスティーに指示している。これは,P1の意思決定・指図に基づいて,ダイアモンドU/Tがアスチュラ社債に投資していることを示している。
③ P1は,5000万米ドルのアスチュラ社債を,平成10年10月14日及び26日に,それぞれ2500万米ドルずつクレディ・スイス・ファースト・ボストン証券東京支店を経由してGOU/Tに売却した。同時に,P1は,上記アスチュラ社債の売却代金により,GOU/Tの受益権を,それぞれ2500万米ドルずつ取得した。この取引に関し,P1は税務及び法律の専門家に精査させ問題なしとの評価をさせている。P1はクレディ・スイス・ファースト・ボストン証券にアスチュラ社債を売るのであるから,GOU/Tが独立したトラスティーの判断により運営されているのであれば,その先のクレディ・スイス・ファースト・ボストン証券からGOU/Tが購入する取引まで含めて,かつ事前に,P1がチェックすることはあり得ない。よって,この事実はGOU/TがP1の管理支配下に置かれ,初めからP1の決定によってアスチュラ社債の受け皿となるよう決められていることを示している。
④ エクイタブルはP1らが管理支配するペーパーカンパニーであり,P1とP2のダミーである。
すなわち,エクイタブルは何ら資金負担をせず,EB債1の7500万米ドルに係る年21.25パーセントの利息のうち,デフォルトリスクや商工ファンド株式による償還リスクを負担する対価であると称して年15.782パーセントを受け取っている。しかし,エクイタブルはP1が支配しP1がオーナーとなっている法人であると認められるから,デフォルトリスク自体,原告の商工ファンド株式の含み益を考えればほとんど考えられないことに加え,万が一デフォルトが起こった場合でも,そのリスクはエクイタブルのオーナーであるP1が結局負担することになること及び原告はそもそも商工ファンド株式による償還条項は行使するつもりがなかったことを考え合わせると,エクイタブルは何らのリスク負担なしに15.782パーセントを受け取っていたことになり,P1が拠出した7200万米ドル及びP2が拠出した300万米ドルの合計7500万米ドルに係る利息のうち15.782パーセント部分を受け取る名義人として,原告からの資金を吸収する機能を果たしていたにすぎない。
そして,エクイタブルはP1が支配しているから,P1とP2の投資額に対する収益の受領者として,両者に代わる機能を果たしていたことは明らかである。したがって,同者が取得した利息については,実質的にP1及びP2が受領したものと認められる。
原告はエクイタブルがP1らとは関連のない第三者である旨主張するが,エクイタブルがEB債1の発行概要が決定される前から投資家として組み込まれていたことや,その機能も債券購入に伴うリスクを負担する機関としてではなく,P1の所有するスキーム内に滞留する利益を吸収するための機関としてとらえられていたこと,その後の本件のスキーム費用をP1の意思の下に負担していることなどからすれば,原告と関係がない第三者でないことは明らかである。
また,ドイツ銀行グループのジャージー島所在の法人であり,本件の投資家サイドのスキームにおけるSPC等の新規設立のアレンジを担当したモルガン・グレンフェル・トラストコーポレーションのP18は,EB債1発行前に,DMG証券P14から,「このストラクチャーが実際にはⅩ氏(P1)のための租税繰延メカニズムである」と説明を受けていたから,P1がこのストラクチャーにより海外の組織体名義でP1家族らの利益を留保して租税を回避しようとしている事実が認められる。
さらに,平成10年1月27日付けでP18がDMG証券P14にあてたファックス文書には,ジャージー島のOLM弁護士事務所から入手した,本件のストラクチャー(スキーム)のうち,このストラクチャーからの「出口」の作り方についての意見書が添付されており,原告からこのストラクチャーにおけるP1家族につながる出口として,初めからリミテッドパートナーシップ(バーチベールLPS)のリミテッドパートナー(結局ここにエクイタブルが座る。)が企画されていたことが明らかに表されている。
加えて,同年2月3日付けでDMG証券P14がP18にあてた文書には,P1との会合の結果として,ストラクチャーの出口としてのアイデアが2案記載されているが,どちらの案においても,その出口とは,P1が利益を吸引する出口として計画されており,P1がエクイタブルを含むスキーム全体の決定権を握っていることが明らかとされている。
さらに,これと実際に行われたEB債1のスキームとを照合すると,当該記述中のユニット・トラストが,後にDMG証券のアレンジによって設立されたダイアモンドU/Tであることが分かる。そして,ダイアモンドU/TがEB債1の企画の段階で法的には存在していないにもかかわらず,これが間に入るEB債1のキャッシュフローの実行が確実視されていることからすれば,ダイアモンドU/Tとこれに続くバーチベール,アスチュラは単にP1の資金をパス・スルーして中継するだけの機能しか持たないものであって,独自に投資対象を選ぶ機会を与えられていない形だけの存在として予定されていることが確認できる。このことは,ダイアモンドU/Tのトラスティーが同信託の受益権者であるP1の意向・判断に基づき機械的にアスチュラ社債への投資を行っており,P1のダミーにすぎないこと,また信託と認めるとしても所得税法13条ただし書の投資信託ではなく,一般の信託にすぎないことを如実に表している。
そして,同月4日のP1との最終ミーティングを行ったDMG証券P14から情報を得たP18が,その情報に基づいて作成したOLM弁護士事務所あてのファックス文書には,「顧客はジャージーのリミテッドパートナーシップがこのストラクチャーの最も適切な出口のメカニズムであろうと結論付けた。」等の記載があり,P1が「出口」のメカニズムに最も適した形としてエクイタブルをリミテッドパートナーとするバーチベールLPSのスキームを決定したことが示されている。
⑤ このように,EB債1による資金取引の大半を占めるバーチベールLPSを形式上の購入者とするアスチュラルートについては,①そのストラクチャーはP1がDMG証券側と密接に連絡を取り自ら検討し決定して作り上げたものであること,②このストラクチャーのSPC群は,その株主はチャリタブルトラストとなっているが,P1に支配され,P1にその経済的成果・利益を享受させるための導管体であり,同人の名義人にすぎないこと,③このストラクチャーの張本人であるP1は,それを構成するSPC群から可能な限り完全に法的・税務的に引き離されている形となることを望み,P1のその望みどおりにこのストラクチャーは作り上げられ,EB債1取引に係るスキーム全体が原告及びP1のための課税回避メカニズムとして機能しており,その課税回避メカニズムが具体的に意味するところは,原告からP1家族に対する利益供与を,EB債1の海外投資家に対する支払利息の支出の形にして,当該利益供与額を自ら支配するストラクチャー内に無税で留保するというものであること,④ダイアモンドU/TもP1の意思決定によって作られたものであること,⑤EB債1が満期前に買い戻されることになっていること,⑥ダイアモンドU/T,アスチュラ,バーチベールは単にP1らの資金をパス・スルーして中継するだけの機能しか持たないものとして予定されていること,⑦ダイアモンドU/Tは,同信託の受益権者であるP1の意向・判断に基づきアスチュラ社債への投資を行っており,トラスティーは形式上置かれてはいるが飾り物にすぎず,同信託はP1のダミーにすぎないものか,又はこれを信託と認めるとしても,その運用はP1の意向により決められているから所得税法13条ただし書の投資信託ではなく,一般の信託にすぎないこと,⑧バーチベールLPSにリミテッドパートナーとして参加し,EB債1の支払利息の15.782パーセントを受け取るエクイタブルは,P1が支配する同人のダミーとして原告の支出するEB債1の支払利息をP1家族のために吸引する機能と外に出す出口たる機能を担う組織体であることが認められる。
⑥ EB債1の投資ルートとしては,他にクブライU/Tを形式上の購入者とするヤスプルートとシナジープラスを形式上の購入者とするシナジールートとがあるが,EB債1の発行の企画とともに,その投資家サイドのスキームとして考案された原型は,DMG証券が深く関与したバーチベールLPSを形式上の購入者とするアスチュラルートであり,ヤスプルート及びシナジールートは後からスキームに組み込まれたものであって,後者の2つは,EB債1の支払利息の受け手となる点においてアスチュラルートと同じであり,EB債1に係る資金取引の目的及びバーチベールLPSを巡って明らかとなったストラクチャー自体の目的に沿って機能させるべくP1が用意したものであることが明らかである。
したがって,上記の事実はアスチュラルートのみならず,他の2つのルートを含む本件の投資家サイドのスキームの本質を表しており,EB債1に対する投資(原告に対する資金提供)及び利息の受領がP1家族との資本的なつながりを切った導管体的組織群の名義の一連の取引によって行われる形をとっている投資家サイドのスキームの全体が,真の投資家・利息の受領者がP1家族であることを巧みに隠ぺいして海外の組織体に利益を移転させ,支払利息の形で原告から供与を受けた利益を無税のまま海外に留保するための仕組みである,ということを雄弁に物語っている。
(b) ヤスプルートについて
クブライU/Tの出資者は,ヤスプLPSのみであり,ヤスプLPSはP1家族のみがそのリミテッドパートナーであり,クブライU/Tに出資することを目的としている。
そして,DMG証券がEB債1の発行の詳細が決定する前の平成10年2月5日付けで作成したキャッシュフロー図には,既にクブライU/Tのことを指すと認められる信託がEB債1の購入者として記載されており,このことは,P1の決定に基づきクブライU/Tが事前にEB債1の投資家として組み込まれていたことを表しており,P1の決定・指図がトラスティーの投資判断に先立ち,かつ,優先している実態を表している。よって,クブライU/TはP1家族のダミーであり,真の投資家がP1家族であり,原告が支払う利息がP1家族に帰属する事実を覆い隠すための存在である。原告は,EB債1の購入者として,事実上,P1家族の資金のオフショア勘定であるクブライU/Tを用意し,表面上はクブライU/TにEB債1の利息を支払ったかのように見せかけたものの,その実質は,他のEB債1の取引と同様に,P1家族への利益供与であり,クブライU/Tは,ヤスプLPSが直接原告からEB債1を購入し,原告が直接ヤスプLPSに利息を支払った場合,直接P1家族にその支払利息(収入)が帰属して同人らの所得として実現してしまうことを免れるために,さらに,EB債1の投資家が海外の投資信託であるように仮装し,真の投資家がP1家族であることを隠ぺいするとともに,EB債1の金利等の発行条件が海外の第三者との間で成立している正常なものであるかのように見せかけるために,ヤスプLPSと原告との間に挿入されたものにすぎない。
(c) シナジールートについて
シナジープラスは,以下のとおり,マン島所在のペーパーカンパニーであり,その株主等の詳細は不明であるが,P1又はその関係者を隠すための存在であり,P1らに支配されていると認められ,したがって,シナジープラスに係るEB債1の購入資金はP1らから出ているものと認められる。
① シナジープラスはマン島所在の法人であるが,登記機関に届出がなく,電話帳及び最新の商工人名録にも登載されていないことからペーパーカンパニーである。
② P1が代表を務める商工ファンドからスキームのアレンジャーであるDMG証券の担当者あてにEB債1の申込者がシナジープラスであること等を伝えるファックス文書が送付されているが,仮に,シナジープラスが真に第三者としてEB債1の購入を申し込むのであれば,自らドイツ銀行ロンドン支店に連絡をとって同支店から購入するのが本来の姿である。シナジープラスはP1が本件のスキームに参加させたものであったことは明らかである。
③ EB債1の利払の当時,原告が利息を米ドル以外の通貨で支払うことを希望し,投資家も原告が望む通貨であればいかなる通貨でも支払利息として受け入れると同意しているとの記載がある文書がある。実際には利息は米ドルで支払われたものの,EB債1の利息は米ドルで支払うことは原告と投資家の双方を拘束しているEB債1の条件であり,投資家側が投資先の言いなりになって,投資先の望む通貨での支払を認める必要はない。しかも,投資家との関係からすれば余程のことがない限り,投資先が自由に支払通貨を変えることを無制限に受け入れるということは考え難い。したがって,原告又はP1家族と関係のある者でなければ,原告が望む通貨であればいかなる通貨でも受け入れるという合意が成り立つことはあり得ないと考えられる。シナジープラスを含むすべての投資家がP1に管理されているからこそ,為替リスクを考慮せずに無条件で支払通貨の変更に合意しているものと認められる。
④ この他,シナジープラスは中途買入消却においても同様に,重要な問題についてP1又は商工ファンド関係者と直接交渉していることから,P1の知らない第三者の投資家などではなく,P1又はその関係者のダミーにすぎないことは明らかである。シナジープラスは,あたかも外国の投資家からの投資であるかのように見えるものの,専ら,真実の投資家を隠ぺいするためにのみ利用されているものとみるのが相当である。
b 中途買入消却を巡るEB債1の購入者と原告との関係
原告は,EB債1の発行から2年半経過したのみで,いまだ任意繰上げ償還条項にも該当しない平成12年5月ないし9月の時点で,各投資家との相対取引でEB債1を額面で買い取り,当該債券を消却しているが,既に平成11年11月24日の時点で,原告はEB債1を社債権者から買い取ることを望んでおり,その旨合意しているとして,その手続について問い合わせをしており,同年12月14日の時点では,原告は支払代理人であるドイツ銀行を通さず,直接自らの取引銀行の口座から社債権者の口座に支払うことを希望し,それについて問題はないかについても問い合わせをしている。さらに,商工ファンドP23は,中途買入消却に先立って平成12年3月17日にDMG証券P21に対し,バーチベールLPS保有分については商工ファンド株式で償還,すなわち買取代金を支払い,シナジープラスについてはファンドで償還,すなわち買取代金を支払うことができないかなどと,投資家の意向など関係なく単に技術的・法的側面から問い合わせを発している。これらのEB債1の発行規約に定められていない償還又は中途買入消却方法を実行しようとした事実は,発行体と投資家とが同一人によって支配されていなければあり得ないことであり,原告と投資家の関係は,原告の意のままに中途償還又は中途買入消却を行える関係にあったことを表している。
(エ) EB債1により調達された資金の使途
EB債1により調達された資金は原告のパリバ銀行の米ドル口座(EB債1発行前の残高はゼロ)に入金され,そこから次のような使途に充てられており,原告が主張するところの企業買収等の戦略的な運用には用いられていない。
a 平成10年2月27日に調達した5000万米ドルから,ケイマンに設立したペーパーカンパニーであるコパーに同日付けで資本金として700万米ドルを送金している。コパーは,原告の措置法66条の6第1項に規定する特定外国子会社等に当たり,コパーはその資金でP1が保有していた3つのファンドを680万7953.96米ドルで買い取った。P1は,同年3月4日にその代金をクレディ・スイス信託銀行の同人名義の口座において収受しているが,これを同日付けでダイアモンドU/Tを通じて原告の同月6日発行の2回目のEB債1の購入資金に充てている。EB債1により調達した資金の一部はEB債1による資金の借入を更に増すために調達されたことになる。
b 平成10年3月2日に商工ファンドからの借入金の返済のために円転して5億円が充てられた。
c P1からの借入金の返済に5万米ドル,P1への金銭の貸付けに385万米ドル,β建物に付随する什器備品の購入資金に252万米ドル等が充てられた。あさひ銀行上野支店(原告のメイン口座で種々の経常経費の支払もここから行われている。)に円転の上移動した資金は,β建物の建築資金にも充てられている。
d 原告が出資して平成10年3月25日に英領バージン諸島に設立したペーパーカンパニーであるパンフィールドカンパニー・コーポレーション・ビーブイアイに同年6月と10月にそれぞれ40億円と16億円を資本金の増資として支出したが,その直後の同年11月にEB債1の巨額の金利の支払のために資金ショートし,そのうちの約15億円を減資により取り戻している。さらに,同年12月,平成11年2月及び3月にもそれぞれ約27億円,4億7000万円及び10億円を減資により払い戻している。
イ EB債2の購入者
EB債2の購入者は,EB債1の買戻しにより得た現金により余裕資金を生じていたダイアモンドU/T及びGOU/TがEB債1の買戻し資金を出資して設立した海外の法人であるネルブランドであり,いずれもP1が設置した信託及び海外法人である。
EB債1の解約とEB債2の発行とは連動しており,EB債2の発行の実態は,EB債1で調達したP1及びP2からの資金を,いったんダイアモンドU/TとGOU/Tの段階まで払い戻し,その資金により両者が,クレディ・リヨネ・ルクセンブルグSAを通じて原告から直接EB債2を購入したものである。
ウ EB債1の支払利息に相当する利益がP1家族に帰属するものであることについて
原告が準備したEB債1の購入者は,バーチベールLPS,クブライU/T及びシナジープラスであり,また,EB債2の購入者は,ダイアモンドU/T及びGOU/Tであったことは,上記のとおりである。
原告は,EB債1の購入者に対して,年利21.25パーセントの支払利息を計上したものであるが,上記のとおり,その支出の実態は実際の資金を提供したP1家族に対する支払であり,後記(4)のとおり,本件事案に即した適正利率である7.905パーセントないし7.995パーセントを超えて不当に高額に支払われた利息分については仮装・隠ぺいに基づく利益供与である。当該利益供与の金額は,アスチュラルート及びヤスプルートについてはP1家族に対する役員報酬であると認められるので,支払利息の支出が属する原告の事業年度において,損金に算入されないものである。他方で,上記適正利率内で支払われた利息については,P1家族への支払利息と認められるものである。
原告は,P1家族は支払利息を受け取っていないと主張するが,原告が支出した時点において,当該支出がP1家族への利益供与及び支払利息として支出されたのであるから,金銭が海外のユニット・トラストその他を迂回するとしても,当該迂回路を通じてP1家族へ支払われることは確実であり,原告が支出した時点で役員報酬の支払があった事実を覆すものではない。
EB債2に係る取扱いも同様である。
(3) シナジープラスに対し支払利息の形で支出した金額のうち,適正利率を超える部分については使途秘匿金と認められることについて
措置法62条は,法人がした金銭の支出のうち,相当の理由がなく,その相手方の氏名等を当該法人の帳簿書類に記載していないものについて,取引の対価として相当と認められることが明らかな部分を除き,使途秘匿金課税の対象としている。
シナジープラスに係る支払利息という金銭の支出は,その金銭支出がその記載された者(シナジープラス)を通じてその記載された者以外の者,すなわちP1又はその関係者にされたから,その相手方の氏名等が原告の帳簿書類に記載されていない場合に該当する(措置法施行令38条3項)。
さらに,P1はシナジープラスを自ら支配し原告はシナジープラスをP1又はその関係者のダミーとして認識しているはずであるから,帳簿書類に記載していないことにつき相当の理由はない。
また,後記(4)のとおり,EB債1の利息のうちその適正利率と認められる7.905パーセントないし7.995パーセントを超える部分については不相当に高い金利であって対価性がなく利益供与に当たる支出であるから,「取引の対価として相当(措置法62条2項かっこ書)」でない支出に該当する。
以上のとおり,シナジープラスに対するEB債1の支払利息のうち適正利率を超える部分については使途秘匿金に該当する。
(4) 本件事案におけるEB債1の取引における適正利率の認定について
ア 本件事案におけるEB債1の取引における適正利率については,被告は,本件各処分の理由において,「EB債1発行時の米ドル・スワップレートなどを元に算出した適正利率」として7.905パーセントないし7.995パーセントとしている。その数値は,EB債1発行当時の米ドルの5年のスワップレート(金融市場の実勢金利を表すものとして一般的に用いられる指標であり,平成10年2月27日発行分については6.005パーセント,同年3月6日発行分については6.095パーセント)に原告の信用力に応じたスプレッドとして1.9パーセントを上乗せしたものである。これは,原告が同年1月29日から同年2月27日の間,クレディ・スイス・ファースト・ボストン銀行東京支店から原告の信託受益権1億円を担保として,5億円を借り入れた際のスプレッドが1.4パーセントであったので,この原告の当時の信用力に応じたスプレッドといえる1.4パーセントに,貸出期間を5年とすることで上昇するデフォルト率がもたらす金利上昇分0.5パーセントを加えた1.9パーセントを適正なスプレッドと認定したものである。この0.5パーセントは,東京国税局の係官が複数の本邦の金融機関から得た情報によれば,貸出期間が5年となった場合に,短期の場合のスプレッドに更に上乗せされることとしている利率は概ね0.5パーセントであったこと等に基づくものである。なお,スプレッドは貸出期間が長くなれば債務不履行リスクが高まるので拡大するものの,基本的には貸出通貨や貸出金額によって影響されず,貸出期間が5年の場合に,短期の場合の金利に上乗せされるパーセントは0.3パーセントないし0.5パーセントである。
また,上記クレディ・スイス・ファースト・ボストン銀行東京支店からの上記借入れには質権設定がされている反面,本件のEB債1による借入の約146億円は劣後債で無担保とされているが,そもそも商工ファンド株式の含み益が当時2000億円以上あり,かつ,真の投資家であるP1家族がEB債1の発行体である原告を支配しており,EB債1が第三者間を流通することは全く予定されておらず,いつでもP1の一存で中途償還ないし中途買入消却でき,実際に額面価額で中途買入消却を果たしていることからしても,担保の有無はあえて考慮する必要は認められないものというべきである。そして,原告は中途で償還ないし買入消却することを当初から目論んでおり,実際に発行から2年半程度で中途買入消却されているにもかかわらず,被告は,表面上の償還期間である5年という期間に基づいて0.5パーセントを上乗せしており,もし,貸出期間を実態に合わせて3年とすれば,上記の上乗せスプレッドは0.3パーセントであり,その差の0.2パーセントは担保無しの場合の上乗せスプレッドにも相当するから,被告が認定したスプレッドは合理性があるといえ,少なくとも低すぎるということはない。
イ EB債1の年21.25パーセントという金利が不当に高いことについて
原告は21.25パーセントという金利が原告や商工ファンドから独立した第三者で信用も高いドイツ銀行の子会社であるDMG証券が正当な方法で算定したものであって適正金利であると主張するが,次のとおりその主張は失当である。
(ア) 原告は,企業買収等の事業戦略のための調達という目的のすり替えを行った上で,買収失敗による返済資金負担リスク,商工ファンド株式の下落リスク等を回避するため他社株償還条項を付けることが必要かつ合理的であったと主張する。これは,他社株償還条項があるということは,他社株(商工ファンド株式)のプット・オプションを原告が買い,投資家サイドがプット・オプションを売ってリスクを引き受けたことを意味するとして,そのオプション料の年率換算値(元本に対し年7.812パーセント)をEB債1の金利の一部として加算したという主張である。しかし,実際には他社株償還は行わず,他社株償還条項が発効する期日の前に繰り上げ償還又は買入消却をすることが当初から予定されていたから,その意味において他社株償還条項は原告が設定した架空の条項であり,プット・オプションの売買は実際には行われていなかったものと認められ,原告と投資家であるP1又はP1家族は,そのことを知りつつ,EB債1をそれぞれ発行・購入したものであって,P1家族への利益供与に当たる当該オプション料をEB債1の金利の一部に理由なく上乗せして授受しているものである。商工ファンド株式に転換して償還は行わないことは既定方針であったにもかかわらず,あえて高金利を設定するため,プット・オプションが付加された社債であるかのように発行条件を設定したものであり,原告のいうような返済資金負担リスクや商工ファンド株式の下落リスクを負う者はいないのであるから,オプションプレミアムの前提が成り立っていない。よって,オプション料としての7.812パーセントの金利を加算する理由はなく,当該部分は相当な対価として認められる余地は全くない。
(イ) 本件の取引全体は,内(P1家族)から内(原告)へのプライベート,すなわち同族関係者間での資金提供取引であり,原告において米ドル建てでの買収という具体的資金需要はなかったにもかかわらず,EB債1をあえて米ドル建てで海外発行することで,円の5年のリスクフリーレートより高い米ドルのリスクフリーレートの採用や「アジア・プレミアム」という金利を高くする口実を作り上げ,EB債1の金利のかさ上げを図ったものである。
(ウ) そして,内(P1家族)から内(原告)へのプライベート,すなわち同族関係者間での資金提供取引であり,実質は融資的な取引であるにもかかわらず,高金利の口実を付けやすい商品としてEB債1という形をわざわざとったものであって,これは,もとより転売は予定されていない関連者間の融資的取引であるから,これを通常の債券とみて他の流通性の高い通常の債券と比較して,その非流動性を金利の上乗せを正当化するための根拠として論じることはできない。
(エ) さらに,原告はEB債1の劣後性をも金利の正当化要素として主張するが,本件は,原告の欠損金の創出のためにP1家族の資金を使った資金取引であり,もともと買収計画などなく,当時2000億円以上の商工ファンド株式の資産含み益があって,かつ,本件は,前提条件において,「発行債券の元利金の支払原資は保有株式の配当金及び資産売却手取金(したがってすべて円貨)を充当する」という予定での資金調達であること,原告は真の投資家であるP1に支配されていること,転売は行われないと予定されていたこと,もともと中途任意償還条項があり,実際に「株が下がったらPar(額面)でRedeem(償還)」という目論見どおり中途買入消却が行われていることにかんがみれば,劣後性という原告の主張は,通常の真の劣後債の劣後性とは全く異なるものであるというべきであり,その劣後性は真の投資家兼発行体の支配者であるP1の意思でいつでも自由に破棄できるものであって,金利を高くするために書面に書かれただけの条件であり,実質を伴わないものといってよいに等しい。
(オ) 以上のとおり,21.25パーセントのうち,他社株償還条項に係る7.812パーセント部分と格付けスプレッドのうちの原告が「EB債1の非流動性,特有の商品性及び日本を含むアジア・プレミアム分」としている3パーセント分はいずれも金利をかさ上げするために作られた架空の口実にすぎないことは明らかであり,適正とはいえない。
(カ) また,原告が主張する格付けスプレッドのうちの残余の5パーセントについても,本件の資金取引は,実質的にP1家族による原告に対する融資であり,その債券は第三者間を転々と売買されることを予定していないのであるから,通常の債券とみて米国のハイイールド債(これは別名ジャンク・ボンドと言われ,一般的に少なくとも1社の格付け機関により投資不適格と格付けされた債券のことである。)の流通利回りを基礎としたスプレッドを適用することはできない。真の投資家であるP1家族は,ハイイールド債として投資しているのではなく,原告の保有する資産の含み益を吸収しようとしたのであり,どこにもリスクなどは生じていない。初めからP1家族の資金を事実上融資するにすぎないプライベート・ディールであることは認識しているにもかかわらず,あえてこのような大きなスプレッドを加算したことは,単に金利のかさ上げだけのための意図しかなく,実態を伴っていない。
(5) 隠ぺい・仮装の有無について(法人税法34条2項)
EB債1による資金取引は,原告ではなく,P1家族の資金運用とともに,原告における欠損金の発生・蓄積及びP1家族らに対するその欠損金相当額の利益供与をするために企てられたものであり,P1家族らと原告の真の意思は,そのためにP1家族らの多額の資金を原告に提供して,その利息という形で原告がP1家族らに対して利益の移転を行うことであった。したがって,EB債1の取引におけるダミーの投資家を含む導管体的組織群は,P1家族への利益供与を隠ぺい・仮装するために,P1と原告が通謀して作り上げたものであって全体として仮装行為そのものである。これらの導管体的組織群は,一連の仮装行為を行うためにだけ機能しており,EB債1に関係する契約の実質はないというべきである。原告によるEB債1の利息の支払の時点で,一方の当事者であるP1家族に,その支払利息の金額のうち不当に高額な部分に相当する利益の供与が完了し,それは仮装・隠ぺいされた役員報酬に当たるものというべきである。
(6) 本件各重加算税賦課決定処分等について
ア 重加算税の賦課要件たる隠ぺい又は仮装の行為
通則法68条1項は,同法65条1項(過少申告加算税)の規定に該当する場合において,納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし,又は仮装し,その隠ぺいし,又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは,当該納税者に対し,政令で定めるところにより,過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え,当該基礎となるべき税額に100分の35を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課す旨規定している。
そして,同法68条1項の適用上,事実の隠ぺいとは,売上除外,証拠書類の廃棄等,課税要件に該当する事実の全部又は一部を隠すことをいい,事実の仮装とは,架空仕入,架空契約書の作成,他人名義の利用等,存在しない課税要件事実が存在するように見せかけることをいう。
イ EB債1の取引における導管体的組織群との間での社債引受けの意思表示は通謀虚偽表示であること
原告とバーチベールLPSらとの間で取り交わされた社債の引受け(購入)は,
(ア) EB債1は,欠損金を創出するため,発行されたものであること
(イ) ドイツ銀行は社債発行の外形を整えるために形式的に引受人とされたものであること
(ウ) 導管体的組織群による取引は,P1家族らの借名取引であること
(エ) 原告は,EB債1により資金を調達する必要性がなかったにもかかわらず,高金利を指向した社債を発行しており,支払利息を対価とする社債取引としては,極めて不合理であること
などからして,真実は,P1家族らからの借入れであるにもかかわらず,これを隠ぺいするために,あたかも第三者であるバーチベールLPSらが社債を引き受けているかのような外観を整えただけのものであって,虚偽表示というべきである。
ウ 本件では課税要件について隠ぺい・仮装が認められること
本件において,原告は,EB債1に係る取引が通常の財務活動の一環として行われていることを前提に,支払利息の全額を損金として計上した。しかしながら,被告による調査の結果,EB債1は,真実はP1家族らからの資金提供に対する見返りとしての支払利息名目の金員の提供行為にすぎないものであったことが判明した。P1家族ら及び原告は,本件の取引の実態が明らかとなれば,EB債1に係る支払利息の損金算入が被告により否認されると考え,P1家族から原告へ,あるいは原告からP1家族への資金の流れを隠すために,その道筋に上記の導管体的組織群を介在させたものである。
このような行為は,課税庁において,真実の経済活動を把握して適正な課税を実現することを故意に阻む行為であるというほかなく,取り分け,EB債1に係る資金の流れの把握を著しく困難にしている点においては,適正な社債利息の支払として損金算入の要件を満たすか否かの課税要件に係る事実それ自体を仮装し,隠ぺいしたといえる。
そして,課税要件に係る事実に関して,その把握を著しく困難にする行為を仮装・隠ぺいと解したとしても,これをもって,実質課税の原則による認定であるということはできない。
エ 原告には,計画的な過少申告の意図をうかがうことができること
仮に,上記ウが認められないとしても,以下の事情からすれば,重加算税の賦課要件が認められるものというべきである。
(ア) 通則法68条1項の適用上,納税者が,当初から所得を過少に申告することを意図し,その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上,その意図に基づく過少申告をしたような場合には,重加算税の賦課要件を満たす(最高裁判所平成7年4月28日第二小法廷判決・民集49巻4号1193頁)。
これは重加算税制度が悪質な納税義務違反の発生を防止し,もって適正な徴税の実現を図ることにかんがみ,架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要ではなく,当初から過少申告を計画していた者につき,その意図が外部からうかがい得る特段の行動があれば,これも悪質な納税義務違反行為と解するものである。
ここに,「当初から所得を過少に申告することを意図し,その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上,その意図に基づく過少申告をしたような場合」というのが,具体的にはどのような場合であるのかについては,事案ごとに諸般の事情を総合勘案して判断すべきであり,例えば,多額の所得があったにもかかわらず,これをゼロとし,あるいはそのごく一部だけを作為的に記載した申告書を提出し続けた場合,そのような所得を得た納税者が通常であれば保管しておくと考えられる原始資料をあえて散逸する場合,税務調査に対する非協力,虚偽答弁,虚偽資料の提出等の態度をとった場合等がこれに当たり得ると思われる(最高裁判所判例解説民事篇平成7年度482頁参照)。
(イ) 本件においては,原告は,EB債1が原告の損失の創出とP1家族らへの資金提供のための取引であり,その支払利息が全額ないしは相当部分損金に算入され得ないことを当然に承知していたといわなければならない。しかしながら,原告は,当初から,これをあたかも正常な財務活動であるかのようにして損金計上し,所得を過少に申告しようとしたものである。そして,このことは,P1家族からの資金提供について導管体的組織群を介したことさら複雑で迂遠な取引を用いたこと,本件での調査の進展に伴って原告の主張が事実と異なることが明らかになって初めて情報を小出しにするなど,原告はEB債1の取引の実体を故意に被告に伝えなかったことなど,外部からうかがい知れる特段の行動に現れている。
(ウ) したがって,原告の行為は,当初から所得を過少に申告することを意図し,その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上,その意図に基づく過少申告をしたような場合に当たり,重加算税の賦課要件をみたすものというべきである。
(7) 理由付記不備の主張について
以下のとおり,EB債1に係る本件各処分には理由付記不備の違法はない。
ア 帳簿書類の記載の否認と法的評価のみの否認の違いについて
青色申告者に対する更正が行われる場合で,帳簿書類の記載自体を否認して更正をする場合においては,更正の根拠を帳簿書類の記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示することによって具体的に明示することを要するが,帳簿書類の記載自体を否認するのではなく,帳簿書類の記載について納税者と法的な評価を異にして更正をする場合においては,帳簿書類記載の法的評価を覆すに足りるだけの信ぴょう力のある資料の摘示がない場合であっても,直ちに違法となるものではないものと解される。
イ EB債1に係る本件各処分における理由付記の適法性
(ア) 本件におけるEB債1に係る本件各処分についての理由付記をみると,まず,EB債1を購入したのはP1家族と認められるとしてその理由となる事実を摘示し,次に,EB債1に係る支払利息について不相当に高額な部分はP1家族に対する利益供与であるとしてその理由となる事実を摘示し,最後に,不相当に高額な部分は各役員に対する報酬であり,また,法人税法34条2項に該当する報酬であって損金の額に算入されないとしてその理由を摘示し,計算の根拠を記載しているものである。
そして,渋谷税務署長及び被告はEB債1の支払利息の支払の事実自体を否認したものではないから,帳簿書類の記載について納税者と法的な評価を異にして更正をする場合に該当するものである。そうしてみると,本件の理由付記については,支払利息のうちの不当に高額な金額が損金に算入されない役員報酬に当たると判断したことを記載し,またその判断の根拠とした事実についても摘示しているのであって,その程度は,更正の根拠を具体的に列挙し,不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨・目的を充足する程度に具体的に明示するものであって,理由付記において何ら不備はないものというべきである。
(イ) この点,原告は,クブライU/Tについて,その存在を無視した法的根拠の記載がなく,理由不備の違法があると主張する。
しかし,理由付記制度の趣旨・目的からして,クブライU/Tに係る渋谷税務署長及び被告の検討内容が,すべて詳細に理由付記に記載されていなければならないとするものではなく,本件における理由付記においてのクブライU/Tについての記載についていえば,クブライU/TはEB債1の購入者とされているが,P1家族のみがリミテッドパートナーシップであるヤスプLPSからの出資資金でEB債1を購入したとの事実を摘示しており,渋谷税務署長及び被告はその事実を評価してEB債1の購入者はP1家族であるとしたのであって,その記載の程度は不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨・目的に照らしても,法の要求する更正理由の付記として欠けるところはない。
(ウ) また,原告は,P1がエクイタブルを支配しているとすれば,エクイタブルに支払われた15.784パーセント相当の金額はP1のみが受け取ったと同視できるはずであるから,P1及びP2が受け取ったと同視できる理由とはなり得ない旨主張する。
しかし,被告はP1がエクイタブルの唯一の株主であると主張するものではなく,エクイタブルを含め原告とP1の間に介在する導管体的組織群はすべてP1家族らのダミーであり,バーチベールLPSにつながる2つの信託にP1とP2は72対3の比率で出資しているのであって,そのことは,EB債1に係る本件各処分の理由中に記載されており,シナジープラスに係る部分を除くEB債1に係る支払利息について,P1が支配するエクイタブルがP1とP2の受領すべき15.784パーセントをP1とP2のダミーとして受領している点を含め,「P1家族が,海外の法人,海外のパートナーシップ及び海外の信託を通じて購入したものであると認められます。」と更正の理由書の「支払利息中否認」の箇所に記載しているから,エクイタブルに係る部分も含め更正の理由書には相当かつ十分な理由が記載されている。
2 原告の主張
EB債1に係る支払利息が,役員報酬又は使途秘匿金に当たらない旨,原告には何ら仮装・隠ぺい行為はないから,重加算税の賦課要件を満たさない旨及びEB債1に係る本件各処分に理由付記の不備がある旨の原告の主張の詳細は別紙5の第1章EB債1についての「KEの主張」欄記載のとおりであるが,その主張の中核的部分は次のとおりである。
(1) EB債1に係る処分についての紛争の争点のとらえ方
EB債1は,原告が,企業買収の目的で資金調達をするために発行したものである。EB債1は年利21.25パーセントであり,原告がEB債1の保有者である海外の法人や投資信託に対してEB債1の利息を支払ったところ,被告が,当該利息の真の受領者はP1家族という原告の役員であり,平成10年2月27日発行分については年7.905パーセント,同年3月6日発行分については年7.995パーセントを超える部分の利息の支払は,原告からP1家族に対する役員報酬であるとして,平成10年5月期事業年度については平成10年法律第24号による改正前の法人税法34条2項の報酬に該当するものとして,同法施行令69条2号により計算された不相当に高額な部分の金額の損金算入を同法34条1項により否認し,平成11年5月期事業年度ないし平成13年5月期事業年度については,法人税法34条3項の報酬に該当し,またその報酬は,同条2項に規定する,事実を隠ぺいし,又は仮装して経理することにより支給した報酬に該当するとして,損金算入を否認する更正処分を行ったというものである。
このように,被告は,EB債1につき,平成10年2月27日発行分については年7.905パーセント,同年3月6日発行分については年7.995パーセントの利息の支払については適正利率として原告の損金算入を認めていることになるから,原告が,EB債1の発行により1億1500万米ドルの資金を調達したこと自体については経済的に合理的な取引としてこれを認めた上で,EB債1に対する利息支払のうち,上記適正利率を超過する部分の支払利息についてのみ,その損金性を否認したものと解される。
そうすると,EB債1の年利21.25パーセントが,原告が平成10年2月ないし3月当時,買収資金として1億1500万米ドルの資金調達をしようとしたときに,調達可能であったと考えられる経済的に合理的な金利水準である適正利率であれば,EB債1に係る本件各処分は違法ということになる。
(2) EB債1の年利21.25パーセントの適正性(主位的主張)
ア EB債1を満期まで保有し続けていたと仮定した場合の実績
EB債1の年利21.25パーセントという利率が,EB債1の保有者が引き受けたリスクに見合った利率であることは,仮に,EB債1を満期まで保有し続けていた場合の実績が年利約5.083パーセントであることから,客観的事実により証明されている。
すなわち,EB債1は,商工ファンド株式があらかじめ定められた権利行使価格である4万円(EB債1発行時の概ねの株価水準)を下回った場合には,発行者である原告が商工ファンド株式のプット・オプションを行使して,元本1億1500万米ドル(約146億円)を,現金の代わりに,あらかじめ定められた株式数,すなわち1000万米ドル当たり3万1600株,合計36万3400株(3万1600株×1億1500万米ドル÷1000万米ドル)の商工ファンド株式で償還できる仕組みとなっている。
実際には,EB債1は,原告が中途買入消却したが,仮に,EB債1の保有者が,EB債1を満期である平成15年(2003年)5月31日まで保有し続けていたものとして,EB債1の保有者の運用利回りを計算してみると,償還方法決定日である平成15年(2003年)5月15日の商工ファンドの株価終値は7760円であり,権利行使価格4万円を遙かに下回っているから,EB債1の元本は,現金1億1500万米ドル(約146億円)ではなく,商工ファンド株式36万3400株で償還されることとなる結果,EB債1保有者の5年間の投資利回りは,
(ア) 5年間に受領する利息
元本約146億円×年利21.25パーセント×5年=約155億1250万円
(イ) 満期に償還される商工ファンド株式36万3400株の価値
満期時の株価水準約7700円×36万3400株=約27億9818万円
(ウ) 5年間の平均運用利回り(年利)
{(ア)約155億1250万円+((イ)約27億9818万円-約146億円)}÷約146億円÷5年×100=約5.083パーセント
となる。
上記の実績値からすれば,EB債1の年利21.25パーセントは,EB債1のリスクに見合った適正な利率であるといえる。
なお,以上は,EB債1の金融商品としての特徴等の理解に資することを目的として,結果例を示したものであり,結果を以てEB債1発行当時の金利が適正であると主張するものではない。
イ 渋谷税務署長及び被告にはEB債1の年利21.25パーセントという利率が異常に高いとの先入観があった模様であるが,EB債1の金利は,一般投資家向けに発行された大量のEB債発行事例(高いもので50パーセントのものもある。)に比しても,異常に高い金利とは到底いえない。
ウ 原告のEB債1発行当時の買収資金調達の必要性
(ア) 原告及び商工ファンドの企業買収戦略
平成7年ないし平成11年にかけて,商工ファンドは,融資残高及び営業利益を大幅に増やすとともに,平成9年10月に東証二部に上場,平成11年7月に東証一部上場を果たすなど,業績が極めて良好であった。
それゆえ,平成9年当初から,原告及び商工ファンドには,極めて多数の企業買収の提案が持ち込まれ,両社内では,買収戦略について真剣に検討がなされていた。
商工ファンドは,平成9年当初から,東証一部上場を目標としていたため,上場鞍替え対策も,経営上の非常に重要な考慮要素となっており,本業と関連性が余りなく投資家に対して説明困難な買収案件や,長期的には収益が望めても短期的には収益が望めない案件等,上場企業たる商工ファンドが買収を行うことが適切でない案件もあったので,そのような案件に対しては,原告が独自に資金を調達した上で,買収を行うことが検討されていた。
他方,原告としては,商工ファンドや被買収企業を傘下に収める持株会社として自らを位置付け,将来的には海外市場に上場することをも考えていた。
(イ) 資金調達手段としてのEB債1の選択の合理性
平成10年2月ないし3月当時,原告が約146億円もの買収資金を調達する方法としては,①銀行から融資を受ける,②大量に保有する商工ファンド株式の一部を売却する,③増資する,④普通社債を発行する,⑤EB債を発行する,という方法が考えられた。
しかし,①は,商工ファンド株式以外に融資額である約146億円に見合うだけの資産を有しない原告に対して,銀行が約146億円もの巨額の融資を行うとすれば,(a)商工ファンドによる債務保証か,(b)原告が保有する商工ファンド株式に質権を設定するなどの何らかの担保を求められるのは確実であったところ,(a)は上場企業である商工ファンドが一株主である原告の債務保証をすることであって,他の一般株主の利益を害し,取締役の忠実義務(商法254条の3)に反することになり,(b)は商工ファンド株式の大量保有者である原告は,証券取引法27条の25第1項及び株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令8条,同令第一号書式により,原告が商工ファンド株式について担保設定した旨を変更報告書に記載して内閣総理大臣あてに提出しなければならず,その結果,当該情報が市場に公開されることになり,秘密裏に調達すべき買収資金の調達に支障を来すことになる上,そもそも融資する銀行としては,単一銘柄の株式を担保に巨額の融資をすることは,株価下落に伴う担保価値の減少によるリスクが極めて大きく,また,担保たる株式を市場で売却して換金する場合に,大量の単一銘柄の株式は,短期間に市場で売却し切ることができないため,そもそも,その種の担保によって巨額の融資をすること自体,通常では行わないことであるから,①の方法をとることはできなかった。
また,②は,EB債1が発行されるわずか約8か月前の平成9年6月30日に,商工ファンドは100万株の公募増資を行い,同時にP1が自ら保有する商工ファンド株式47万4100株を売り出していたことから,これと近接した時期に,商工ファンドのオーナー系企業である原告が大量の保有株を売却することは,商工ファンドの株価に多大な悪影響を与える恐れが高く,採り得なかった上,そもそも,約146億円分もの商工ファンド株式を原告が市場で売却するには,当時の商工ファンド株式の出来高から逆算して,少なくとも数か月の期間を要するものと思われたが,数か月間にわたり継続的に大量の商工ファンド株式を売却すれば,株価が暴落し商工ファンド株式を主要な保有資産とする原告の会社資産は,大きな損害を受けることは確実であり,これを採ることができなかった。
③は,原告も買収資金の調達方法として十分に意識していたが,買収資金の調達をできるだけ早期に行う必要があったことから,差し当たり,③以外の方法で資金調達をすることとした。
④は,EB債1を発行した平成10年2月ないし3月当時,原告は,普通社債を発行することは可能であったが,原告は,格付機関から格付けを取得していなかったので,当該普通社債は,当然,高利回り債(ハイイールド債。いわゆるジャンク・ボンドである。)となり,また,普通社債を発行した場合には,たとえ,調達した資金を使用して買収に失敗した場合でも,普通社債の元本は現金で償還しなければならないところ,原告は(a)満期に,現金で償還せずに,商工ファンド株式で償還できる選択権を保持することにより,満期時の資金負担リスクを解消するとともに,(b)万が一,商工ファンドの株価が将来下落した場合の株価下落リスクも,同時に解消することを考え,④という方法を選択しなかった。
そこで,原告は,現金の代わりにあらかじめ定められた株式数の商工ファンド株式で元本償還をすることができ,商工ファンド株式の資産価値を有効に利用して資金調達する方法である,⑤の方法により,資金調達する選択をしたものである。
加えて,原告としては,1980年代に,企業買収のための資金調達方法として米国で広く利用されていた高利回り債を利用して,日本国内で買収に成功する実績を積むことは,爾後の買収戦略を実行する上で,買収資金の新しい調達方法の確保という意味で有利なことから,⑤を利用して買収資金を調達する方法を選択することとしたものである。
エ 年利21.25パーセントの利率の経済的合理性
EB債1の利率は,独立の第三者たるDMG証券が正当な方法で決定したものであり,原告やP1らの恣意的な操作等は何ら介在していない客観的に適正な利率である。
すなわち,本件の利率は,
① リスクフリーレート(5年物米国債利回り)(5.466パーセント)
② 格付けスプレッド8.00パーセント(800bp/basis point)
③ 他社株償還特約(オプション費用)を利率に反映した部分(7.812パーセント)
の3つの要素から構成される利率である。このうち,通常の融資の際の金利に相当する部分は,上記①及び②の合計値である13.466パーセントであり,上記③の7.812パーセントは,原告が商工ファンド株式のプット・オプションを保持することに伴う費用である。
(ア) ①リスクフリーレート(5年物米国債利回り)5.466パーセントについて
リスクフリーレート(5年物米国債利回り)5.466パーセントは,DMG証券が,EB債1の発行条件決定日の午後3時時点における米国国債5年物の利回り5.466パーセントを参照して決定したものである。
なお,被告は,原告主張の5.466パーセントよりも高い6.005パーセントないし6.095パーセントのスワップレートを採用する旨を明らかにして,原告主張の5.466パーセントがリスクフリーレートとしての適正利率の範囲内であることを自白している。
(イ) ②格付けスプレッド8.00パーセントについて
格付けスプレッド8.00パーセントは,DMG証券が,米国における高利回り債の利回り上乗せ分5.00パーセントに,EB債1の非流動性,特有の商品性及び日本を含むアジア・プレミアム分3.00パーセントを上乗せして算出したものと考えられる。
また,EB債1は,劣後特約付の社債であり,他の一般シニア債務に劣後し,その地位は,返済の優先順位が低く,その分,不利な関係にあり,格付けスプレッド8.00パーセントには,EB債1に付着した上記劣後特約という返済条件が反映されている。
そして,①と②の合計値である13.466パーセントは,当時の高利回り債の市場実勢レートと比較しても,決して高くはない。
この点,被告は,「適正利率」を7.905パーセントないし7.995パーセントであるとし,その内容は①リスクフリーレート(米ドル・スワップレート)6.005パーセントないし6.095パーセント及び②格付けスプレッド1.9パーセントであると主張する。原告は,①リスクフリーレートについて,原告より有利な主張であるから援用するが,②格付けスプレッド1.9パーセントというのは,あり得ないものであるから否認する。
すなわち,原告が,平成10年1月29日から同年2月27日の間に,クレディ・スイス・ファースト・ボストン銀行東京支店から,原告保有の信託受益権6億円を担保として,5億円を借り入れた際のスプレッドが1.4パーセントであったとの点については,そもそも,そのようなスプレッドでは,原告に対する約146億円の無担保最劣後の条件付長期融資は実行不可能であること,邦銀がノンバンクに対して直接融資することはないこと,スプレッドが基本的には貸出金額によって影響されないとの点については,貸出金額が,借入企業の財務状況その他の融資条件に照らして非常識な金額ではない範囲ではという条件が付されていると解されるところ,原告が,1億1500万米ドルもの金額を,5年間の長期にわたり,無担保最劣後の条件で借り入れることは,金融機関にとって非常識であるから前提条件を満たさないこと,無担保の点については,被告は,①原告保有の商工ファンド株式の含み益はEB債1発行当時2000億円以上あること,②投資家もP1家族であって原告を支配しており,いつでも中途償還可能であることから,担保の有無をあえて考慮する必要はないこと,③原告は,当初から中途償還を予定しており実際に発行後2年半程度で中途買入消却されているから,上乗せスプレッドは貸出期間3年の0.3パーセントとして考え,残りの0.2パーセントは担保無しの場合の上乗せスプレッドに相当する旨主張するが,単一銘柄の株式を担保として,金融機関が1億1500万米ドルの融資を行うことは不可能であることから上記①の主張は失当であり,また,P1が原告を支配していたとしても,原告に資金がなければ,EB債1を中途償還ないし中途買入消却できないことは自明であり,被告も資金が原告の事業に使われたこと自体は認めていることからすれば,資金不足の可能性を肯定しているものと考えられ,仮に,P1家族が,原告に対して直接融資する場合であっても,独立第三者である金融機関と全く同様に,原告に対して担保を要求する権利を有する上,いわゆる平和事件(東京地方裁判所平成9年4月25日判決・判例時報1625号23頁,東京高等裁判所平成11年5月31日判決・税務資料243号127頁)において,課税庁は,同族会社の主たる株主で代表取締役の地位にある者が,会社に無利息融資をした場合について,同族会社の行為計算否認規定により,利息相当額を当該株主の所得に加算する更正処分を行っていることからすれば,P1家族は,単に原告に対して担保を要求する権利を有するに止まらず,税務上,否認されることを回避しようとすれば,担保を要求しなければならないことになることからしても,上記被告の②の主張は失当であり,さらに,EB債1は当初から中途買入消却ないし中途償還されることが確実に予定されていたわけではないこと,貸出期間を5年とすることで上昇するデフォルト率がもたらす金利上昇分が0.5パーセントにすぎないということは実体に反すること,無格付けである原告に対して,1億1500万米ドルの資金を,5年間,無担保最劣後の条件で融資するに際しては,担保無しのスプレッドが0.2パーセントなどということはあり得ないことからしても,上記③の主張は失当であるというべきである。
また,上記平和事件における課税庁の主張によれば,「関係者間の融資的取引」であっても,「独立当事者間取引」と全く同様の金利でなければ,税務上不適正とされ否認されることになるから,P1家族は,原告に対して,非流動性を考慮した金利を要求する権利を有し,義務を負うものというべきである。
さらに,DMG証券P14は,原告が保有する商工ファンド株式の流動性の小ささについては言及しているが,EB債1自体の非流動性には直接言及していない。
加えて,EB債1の格付けスプレッドを算出する上で参考とされたジャンク・ボンドとは米国の高利回り債市場及び新興市場で流通するジャンク・ボンドを意味し,そもそも,非流動性はほとんど織り込まれていないから,EB債1の非流動性を考慮した割合は僅少であった。
被告は,EB債1を投資家が一人であり転売されない債券と考えているようであるが,シナジープラスという独立第三者が関与しており,また,クブライU/TのトラスティーもP1家族とは独立した投資判断に基づき,同U/Tの運用成績,原告の財務状況等にかんがみて他に転売することが適切と判断した場合には,転売する可能性がある。仮に,EB債1の投資に関与した法主体が,すべてP1家族の意のままに動かせるものであると仮定しても,P1家族がEB債1を転売することも自由である。
また,被告はアジア・プレミアムを否定するが,被告は,「適正利率」を算定する上で,米ドル・スワップレートを採用しており,原告が米ドル建てで資金調達することについては認めていることと矛盾する。さらに,通貨の違いによるリスクフリーレートの違いは,為替スワップをすれば全く等価になるから,米ドル建てで調達しても,円建てで調達しても,原告の損益には直接影響を及ぼさないといえるし,原告は,日本円での企業買収を行うとは限らず,案件によっては米ドルでの企業買収をする可能性があったのであるから,米ドル建てで資金調達することには合理性がある。加えて,社債の発行通貨は,必ずしも発行体が自由に決定できるものではなく,社債購入者である投資家側のニーズ等をも考慮して決定されるものである。
さらに,被告が,EB債1が関係者間取引であることを理由に,P1家族は原告に対してアジア・プレミアムを要求すべきではない旨主張するが,上記平和事件における課税庁の主張と矛盾する上,アジア・プレミアムは,「独立当事者間取引」である外資系銀行と邦銀である都銀との間の取引で要求されていた金利でもある。
(ウ) ③他社株償還特約(オプション費用)を利率に反映した部分7.812パーセントについて
他社株償還特約(オプション費用)を利率に反映した部分7.812パーセントは,DMG証券が,商工ファンド株式の5年物のプット・オプションの理論価格を,金融専門メディアであるブルームバーグ社が提供しているサービス(OV機能)を利用して,ブラック・ショールズ(Black-Scholes)の公式により算定したものである。
オ 原告が低利率のEB債を発行しなかった理由
(ア) EB債1とEB債2との差異
原告は,平成12年9月5日に2700万米ドル,同月22日に3300万米ドルの,総額6000万米ドル(当時の為替レート1米ドル約107円で換算して,約64億円)のEB債2を利率年4パーセントで発行しているが,平成10年2月ないし3月当時にEB債を発行する際に,EB債2のような形態のものとせず,EB債1を発行したのは次の理由による。
すなわち,EB債2は,商工ファンドの株価が,あらかじめ定められた基準日に,あらかじめ定められた権利行使価格を下回る場合には,満期に元本を現金で償還し,逆に上回る場合には,満期に元本が現金の代わりにあらかじめ定められた株式数の商工ファンド株式で償還されるという内容の金融商品である点でEB債1と異なり,EB債2の投資家は,元本を保証された上で,基準日に商工ファンド株式に値上がり益(キャピタル・ゲイン)がある場合には,当該値上がり益を享受できるという極めて有利な立場にあることから,投資家が極めて有利な立場にあるEB債2では利率が年4パーセントと低利回りになるという相違が生じたものである。また,EB債2は,発行後1年間経過後は,投資家がいつでも商工ファンド株式のコール・オプションを行使できるといういわゆるアメリカン・オプションが附帯する社債(EB債)であった。
そして,平成10年2月ないし3月に,原告が,EB債2と同様のEB債を発行することは,商工ファンドによる公募増資を不可能にしてしまうために,できなかったものである。すなわち,商工ファンドは,平成9年10月28日に東証二部上場を果たしたが,その後即時に東証一部上場を目指しており,そのため,近い将来にもう一度公募増資を行うこととなっていた。そして,一方で,広く一般の投資家に対して,新株への投資を勧誘しながら,他方で,自らの保有株式を売却することは,当該株価が将来下落することを予想しているからこそ売却しているものとみなされ,矛盾した行動を取っていることを意味するから,通常,上場企業が公募増資を行う場合には,当該上場企業のオーナー及びオーナー系企業(本件では原告が,商工ファンドのオーナー系企業に該当する。)は,公募増資後一定期間は,当該上場企業のオーナー又はオーナー系企業が,当該上場企業の株式を売却しない旨の契約(ロック・アップ条項)を締結することとなる。現に,商工ファンドが平成11年5月8日に公募増資を行った際にも,原告は,引受証券会社であるメリル・リンチ・インターナショナル社及び国際証券株式会社との間で,公募増資後180日間は,同社らの書面による事前の同意なくしては,商工ファンド株式を売却しない旨のロック・アップ条項の入った契約を取り交わしていることからも明らかなように,当該ロック・アップ条項により,原告は,同日から同年11月4日までの180日間,商工ファンド株式を売却できないこととなる。
このように,平成10年2月ないし3月当時,商工ファンドはその後の公募増資を予定していたので,原告としては,商工ファンドのコール・オプションの附帯したEB債2のようなEB債を発行することは,爾後の商工ファンドによる公募増資を不可能にしてしまうため,できなかったものである。
(イ) 原告が,買収に失敗した場合に,現金で償還せずに,商工ファンド株式で償還できる選択権を保持しておくこと
平成10年2月ないし3月の資金調達は,買収資金を調達する目的であったところ,原告は,買収金額に見合う収益を上げられないリスクが大きく,元本全額を現金で償還することが困難になる可能性も考えられたため,主要資産である商工ファンド株式を利用して,EB債1の満期には,必ずしも現金で償還する必要がなく,商工ファンド株式で償還することが可能な方法で,資金調達することを考えたものである。
(ウ) 資金調達の方法を多様化し,調達した資金で会社資産の内容を多様化するとの目的を有していたこと
原告は,EB債1を発行した平成10年2月ないし3月当時,会社資産のうちに商工ファンド株式が占める割合が非常に高かったので,将来的には,会社資産の多様化を図る目的を有していた。また,原告としては,資金調達方法の多様化を図る一環として,商工ファンド株式を利用した資金調達方法の実績を積む目的をも有していたものである。
(エ) 事業者としての野心
加えて,原告は,事業者として,当時いまだ日本では一般的ではなかったEB債の発行により買収資金を調達し,他社に先駆けて,EB債で調達した資金を使った買収の成功に挑戦することは,事業者としての野心がくすぐられることであった。
(オ) 商工ファンドの店頭公開後過去8年間の内部投資収益率平均が39.42パーセントであったこと等から,EB債1の利率21.25パーセントは決して高くないと判断したこと
原告ないし商工ファンドによる他社の買収を具体的に検討し始めた平成9年(1997年)1月以前における,商工ファンドの内部投資収益率(IRR/Internal Rate of Return)は,商工ファンドの店頭公開後過去8年間で39.42パーセントであった。そして,P1は,「原告が買収した企業を,長期的には商工ファンドと同程度の内部投資収益率を上げられるように改革できる。したがって,買収資金の調達コストが短期的には21.25パーセントであるとしても(但し,長期的には,原告を海外の株式市場に上場させることにより,より低コストでの買収資金調達を行う見込みであった。),被買収企業から約40パーセントの投資収益を上げられるので,十分に採算が採れる。」,と経済的に合理的な判断をしていた。
カ 被告の「適正利率」の算定の不合理性
(ア) 被告は,7.905パーセントないし7.995パーセントの「適正利率」を超過する部分の支払利息について,原告における損金算入を否認した理由として,
① 原告の意思決定権者はP1であり,また,EB債1の利息の真の受領者はP1家族と認められることから,EB債1の利息の支払者と真の受領者の意思決定が実質的に同一人により行われる関係にあること
② 原告の意思決定権者であるP1の判断で,中途買入消却又は中途償還をすることにより,商工ファンドの株価下落リスクを,利息の真の受領者であるP1家族に全く負担させないことができること
③ EB債1は,社債の形態をとっているものの,一般に流通が予定された債券とは異なり,実質的にはP1家族による原告に対する融資に近い性格のものであると認められること
④ 原告は,EB債1発行前の平成10年1月29日にクレディ・スイス・ファースト・ボストン銀行から融資を受けているが,その融資に係る利率が年2パーセント余りとなっていること
等を挙げているが,以下のとおり,いずれも失当である。
すなわち,①については,仮に,利息の支払者(原告)と受領者(P1)とが実質的に同一であるとしても,当該金利自体が適正なものでありさえすれば,その支払利息は損金として認められるから,そのこと自体は,利息の支払者(原告)において支払利息の損金性を否認し得る理由とはならないものである。現に,そもそも,ダイアモンドU/T及びGOU/Tは,EB債1の利息21.25パーセントのうち,被告主張の適正利率の範囲内である5.466パーセント分しか受領していない。よって,「①EB債1の利息の真の受領者はP1家族と認められる」とする被告の主張は,誤った事実認識に基づくものである。
②については,EB債1の満期は,発行から約5年後の平成15年5月31日とされていたところ,実際には,平成12年5月から9月にかけて,EB債1は,EB債1発行時にあらかじめ定められていた一般約款に基づき,原告が社債保有者から中途買入消却し,同月にEB債2を発行して調達した6000万米ドル(約64億円)をEB債1の解約原資の一部とした(残りの解約原資5500万米ドルは,EB債1によって調達した資金の残り等を充てた。)ものであるが,その理由は,以下のような状況の中で,原告としては,EB債1の発行により調達した巨額の買収資金の使い途が無くなり,ただ資金を遊ばせておくだけでは21.25パーセントの利息支払が大きな負担となりかねない事態となったからである。すなわち,(a)平成11年以降のいわゆる商工ローン・バッシングにより,買収案件が持ち込まれなくなり,業績の大幅な下方修正,貸付金利の上限の引下げによる商工ファンドのビジネスモデル再構築の必要性の発生,株価暴落で買収計画実行が当面不可能になったこと,(b)会社資産の90パーセント以上を商工ファンド株式が占める原告も,アムステルダム株式市場への上場について,引受証券会社INGベアリングから,商工ファンドの大幅な業績下方修正を理由に,「当面は原告の上場を見合わせるべき」との回答を受け,同市場への上場を断念せざるを得なくなったこと,(c)原告の買収資金の調達というEB債1そもそもの発行目的が失われたことから,EB債1(年利21.25パーセント)をEB債2(年利4パーセント)に置換して支払利息を圧縮したこと,(d)EB債1が解約された平成12年5月ないし9月当時の為替レートは,概ね1米ドル105円54銭から108円21銭であり,EB債1が発行された平成10年2月ないし3月当時の為替レートは,1米ドル129円52銭ないし126円06銭であって,原告は,EB債1を,発行時より概ね20円も円高となっていた平成12年(2000年)5月ないし9月当時に解約したことにより,円ベースで,約23億1260万円もの為替差益を得ており,発行時の元本は円建てで合計約146億6990万円であるのに対し,解約時の元本は円建てで合計約123億5730万円であり,これに加えて,発行時から解約時までの金利負担額(合計約68億6620万円)を考慮すると,円建てでの実質金利負担は12.94パーセントとなったこと,換言すれば,原告は,EB債1の金利負担を,21.25パーセントから12.94パーセントに引き下げることに成功したこと,(e)仮に,原告の経済的損失の下に,P1家族が利益を得ようとしたならば,買収計画中止後も,漫然と,EB債1を満期直前まで持ち続け,約定に従って,現金償還をしていたであろうが,原告は,買収計画の実行が不可能となった平成12年に,直ちに,EB債1を解約して支払利息の圧縮を図っており,P1家族が,原告の経済的損失の下に,自らの利益を図るのとは正反対のことが行われていることからすれば,原告の意思決定権者であるP1の判断で,EB債1を中途買入消却又は中途償還することにより,商工ファンドの株価下落リスクを,利息の真の受領者であるP1家族に全く負担させないことができる旨の被告の主張には理由がないものである。
また,原告が行使し得るEB債1に付着した商工ファンド株式のプット・オプション(商工ファンド株式をあらかじめ定められた権利行使価格である4万円で売却する権利)は,いわゆるユーロピアン・オプションであり,EB債1の満期日でなければ行使不可能な権利であるから,原告としては,EB債1を解約する以上,元本を商工ファンド株式で償還することはできず,現金で払い戻しをしなければならなかった。
さらに,EB債1へ投資するか否かの判断は,そもそも,EB債1の投資家であるユニット・トラストの投資信託委託会社(Trustee)が,P1とは独立して行うものであって,いかなる意味であっても,P1が行える性質のものではない。本件で問題となっているユニット・トラスト,すなわちダイアモンドU/T,GOU/T,クブライU/Tの投資判断は,受益権者たるP1家族ではなく,投資信託委託会社の権限でなされることは,各ユニット・トラストの信託約款にも明記されているところである。
加えて,EB債1の利率は,独立の第三者であるDMG証券が適正に算出した利率である。
さらに,また,原告は,平成11年(1999年)12月にアムステルダム株式市場に上場することを計画しており,同株式市場での上場基準をクリアするために,P1家族との間で経済的に不合理な取引を行うことはできなかった。すなわち,オランダのアムステルダム株式市場に上場するためには,東京,ロンドン,ニューヨーク市場と同様に,上場後,株主等が損失を被らないように,アムステルダム上場規則に基づき様々な角度から厳格な審査が行われ,原告の財産状況,取引状況,経済合理性のない取引,関連当事者間の取引及び上場に支障となる取引はすべて審査されており,ことに,関連当事者間の取引に関しては詳細な審査が行われた。この上場審査手続において,アムステルダム上場規則上問題となる事項は認められず,したがって,問題となる関係当事者間の取引に関する指摘もなく,原告の上場手続は問題なく終了した。この結果,原告の上場審査結果は適正との評価を受けて,原告は,平成11年(1999年)12月2日にアムステルダム株式市場に上場する予定となっていたものである。
以上から,被告の②の主張は失当である。
③に対しては,そもそも満期米ドル建他社株償還特約・劣後特約付社債と銀行からの融資とでは全く異なる資金調達方法であって,これらを単純に比較するのは,そもそも不適切であること,仮に,EB債1が,実質的にはP1家族による原告に対する融資に近い性格のものであるとしても,当該融資の金利自体が適正なものでありさえすれば,その支払利息は損金として認められるから,そのこと自体は,利息の支払者(原告)において支払利息の損金性を否認し得る理由とはならないことからして,被告の主張は不合理である。
④に対しては,原告が,平成10年1月29日にクレディ・スイス・ファースト・ボストン銀行から年2.07188パーセントで融資を受けたことは事実であるが,EB債1と異なり,(a)通貨が円建てであってそもそも基準金利が異なること,(b)元本金額が5億円と比較的少額であることから実行可能であったものであり,約146億円の長期ローンであれば実行不可能であったこと,(c)期間が1か月の短期であること,(d)商工ファンド株式のオプションが附帯しておらず,単純な融資であることの4点にわたる差異から,EB債1の金利の比較対象とはなり得ず,比較の問題よりも前に,原告に対する約146億円の長期融資がそもそも実行不可能であって,5億円の1か月の短期金利(年2.07188パーセント)と比較して,EB債1は,金利21.25パーセントのうちの7.905パーセントないし7.995パーセントを超える部分が適正金利でないと断ずるのは,失当といわざるを得ない。
(3) 被告のストーリーでは,原告によるEB債1発行の経済的動機を全く説明できないこと
被告は,原告が,平成9年当時,商工ファンド株式の含み益を多額に有しており,将来の商工ファンド株式売却時の売却益への課税を最小限に抑える目的で,欠損金の作出のための一手段としてEB債1を発行し,また,EB債1の引受けにP1家族らの余裕資金を利用することにより,原告の資金を外部に流出させることなくP1家族らに移転させるとともに,支払利息の取得者にも課税が及ばないよう,資金提供者がP1家族らだとは分からないようにするため,また,分かっても課税が行われないようにするために,EB債1の発行から買入消却までの計画は,海外発行等の複雑なスキームに基づいて行われた旨主張する。
しかし,次のとおり,被告の上記ストーリーは,現実の原告の行動とそごを来たし,原告によるEB債1発行及び買入消却の経済的動機を説明できていない。
ア 原告は,EB債1発行以降,商工ファンド株式を売却していないこと
被告は,原告が海外の新持株会社に商工ファンド株式を売却し,その際のキャピタル・ゲインを赤字で打ち消して,原告において課税が生じないようにする一方,海外新持株会社に時価を簿価として引き継ぐことを図った旨主張するが,海外新持株会社自体が設立されていない時点で,被告の上記ストーリーは破綻を来している。
仮に,この点を措くとしても,予定されている原告保有の商工ファンド株式の売却先がP1家族ないしP1家族が支配する法人であるならば,経済的合理性のみを考えれば,商工ローン・バッシングにより株価が暴落した今こそ,商工ファンド株式を移転する絶好の機会だったはずであるが,現実には,原告は商工ファンド株式を売却してはいない。
イ 被告のストーリーによれば,原告は,EB債2を発行せずに,商工ファンド株式を売却してEB債1を買入消却したはずであるが,現実には行っていないこと
被告のストーリーによれば,原告は,EB債1の発行により,商工ファンド株式売却時の課税を免れるための欠損金を蓄積したのであるから,EB債1の金利支払につき資金ショートが生じたのであれば,当然,原告は,EB債2を発行せずに,当初の目論見どおり,商工ファンド株式を売却していたはずであるが,原告は,その時点で商工ファンド株式を売却せず,EB債2を発行しており,また,その後も,商工ファンド株式を売却してはいない。
ウ 原告が欠損金の蓄積のみを目的とする取引を行うことはあり得ないこと
原告は,商工ファンドの持株会社であり,実体のないペーパーカンパニーではなく存続することが予定された会社であるから,少なくとも数年間の長期間にわたって,欠損金を蓄積することを目的とすることは,会社の存続を考える限り,経済的合理性の見地からあり得ない。原告が,市場環境の変転が著しい中で,最長5年間しか繰り越しできない欠損金を蓄積し,繰越欠損金が繰り越せる期間満了間際になって,一挙に商工ファンド株式を大量に売却することを計画することなどあり得ない。原告が商工ファンド株式を望みどおりの株式数分売却できるか否かは極めて不確実であり,蓄積された欠損金を埋めることができずに会社の資金繰りも極めて苦しくなる危険があり,仮に,節税計画を立てるのであれば,EB債1を発行して欠損金を蓄積した上で商工ファンド株式を売却するといった,将来に大きな不確実性を抱えることになるような,劣悪な計画など立てない。仮に,EB債1を発行して欠損金を蓄積し,当該欠損金を利用して商工ファンド株式を売却するのであれば,欠損金が蓄積された後になって一挙に商工ファンド株式を売却するような方法を採らずに,毎年定期的に,欠損金が発生する度に,少しずつ商工ファンド株式を売却する方法を採る方が,蓄積される欠損金に見合った分だけ,商工ファンド株式を確実に売却できる可能性が高まり,原告の資金繰り上も苦しくないはずである。
(4) 原告は買収構想を有していたこと
ア そもそも,本件において,被告はEB債1の資金が原告の事業資金として使用されたことを認めており,買収資金を調達する目的で発行された社債であれば年利21.25パーセントが「適正利率」であるが,その他の事業資金を調達する目的で発行された社債であれば,年利7.905パーセントないし7.995パーセントが「適正利率」であるという議論ではないから,EB債1が買収資金の調達目的で発行されたのか,その他の事業資金の調達目的で発行されたのかは,EB債1の利率が「適正利率」であるか否かとは無関係であるものというべきである。
イ 原告による買収実績
仮に,原告の買収実績についてみたとしても,平成9年から平成10年当時,原告及び商工ファンドの下には,極めて多数の企業買収案件が持ち込まれていたが,平成11年秋ころに起こったいわゆる商工ローン・バッシングの影響により,企業買収の案件が全く持ち込まれなくなり,また,商工ファンドの業績が一気に悪化し,その事業の建て直しに追われ,企業買収どころではなくなったものである。
原告が当時検討していた企業買収は,1000億円単位の資金調達を要する案件であり,原告がEB債1の発行により調達した資金約146億円は,あくまでも,1000億円単位の企業買収交渉のテーブルに付くために,即時に用意できる流動性のある資金として,最低限必要とされる「タネ銭」,すなわち,頭金あるいは手付金にするつもりであったものである。また,上場企業である商工ファンドが,このようなタネ銭をある程度の期間にわたって準備することは困難であったため,原告がタネ銭を準備したものである。被告は,EB債1により調達された資金の使途について,るる主張するが,そもそもお金に色は付いていないのであり,EB債1による調達資金の使途を個別具体的に特定することはできない上,被告の主張額としても全体の2割程度分しか使途が示されておらず,このことからも,原告が,EB債1により調達した資金の大半を,1000億円単位の企業買収の交渉を行うためのタネ銭たり得る流動性の高い状態で運用していたことが明らかである。
また,原告は,商工ローン・バッシング後,商工ファンドの事業建て直しが一段落した平成14年ころから,再び企業買収戦略の実行に着手し,現に買収も行っている。
(5) 1.05パーセントの源泉分離課税制度の利用について
原告と商工ファンドの合併及び1.05パーセントの分離課税による方法の方が,迂遠な方法を採らずに,直ちに,確実に,より大きな節税メリットを得ることができる。
すなわち,EB債1が発行された平成10年2月ないし3月当時,個人が株式を譲渡することによるキャピタル・ゲイン課税は,上場企業の株式については,譲渡代金の1.05パーセントの源泉分離課税ですべての課税関係が終了するという源泉分離課税制度が存在していたから,原告を商工ファンドに吸収合併させ,原告の株式と商工ファンドの株式を置き換えた上で,商工ファンドの株式を売却し源泉分離課税制度により売却代金の1.05パーセントで課税関係を終了させる方法を採れば足りるから,敢えて多額の費用・時間・労力をかけてまで,EB債1を発行する必要性,経済的合理性は認められない。
(6) EB債1の中途買入消却の合理性
額面での中途償還ないし中途買入消却には,投資家及び発行体である原告双方にとってメリットがある。
すなわち,商工ファンドの株価が通常許容し得る範囲を超えて下落した場合には,投資家側は,将来の元本割れを回避して,年間21.25パーセントの投資収益を確定させるメリットがあるとともに,原告としても,中途償還ないし中途買入消却することにより,将来の利息負担を軽減し,損失額の確定を早期に行うというメリットがあり,現実にも,平成11年(1999年)秋に生じた商工ローン・バッシングにより,商工ファンドの株価が通常許容し得る範囲を超えて下落したため,EB債1は中途買入消却されている。よって,被告のように,中途償還,即,投資家のみに有利であり,原告には不利であるという思考は短絡的にすぎ,失当である。
(7) ダイアモンドU/Tの設定管理費用について
ダイアモンドU/Tの設定管理費用については,確かに,結果として,ダイアモンドU/Tの設定費及び管理費は原告が負担したこととなっているが,それらの費用を誰が負担したかということと,同U/Tのトラスティーが,受益者や原告から独立して投資判断を行ったか否かとは全く別個の議論である。また,社債の発行体が,社債発行のスキームに係る費用を負担することは特に私募による場合には,珍しいことではない。本件においては,ダイアモンドU/Tの設定費及び管理費は,本来,同U/T内部で負担されるべき性質の費用であり,同U/Tの決算書に反映されるべき費用であった。この点は,DMG証券が,誤って,原告に,当該費用を負担させるように設定したものであり,結果的に不適正なのであれば,それは専門家たるDMG証券の責任である。
(8) 外国法人たるSPCの法人格を否認することが憲法84条及び憲法14条1項に違反すること
内国法人である「法人成り」企業に留保される利益については法人格を認めて当該法人の実質的な支配者個人の所得に算入しない以上,外国法人たるSPCに国内から移転した利益について,これと別異に取り扱い,内国法人である「法人成り」企業と,外国法人たるSPCとの間で課税上の取扱いを区別することは,租税法律主義を定める憲法84条及び平等原則を定める憲法14条1項に違反するものである。
(9) エクイタブルが独立第三者であること
以下のとおり,エクイタブルはP1家族とは無関係の独立の第三者である。
ア バーチベールLPSが引き受けたEB債1は,わざわざ2つにリパッケージされており,P1及びP2がその両者を再び引き受けるのは無意味であること
バーチベールLPSが引き受けた7500万米ドル分のEB債1は,アスチュラが品貸し料として受領する米国国債5.466パーセントと同じ利回り部分と,エクイタブルが,バーチベールとのリミテッドパートナーシップ契約に基づき被る可能性があるリスクをすべて負担する代わりに受領している利回り15.784パーセントの部分に「リパッケージ」されている。
しかし,被告主張のように,P1がエクイタブルを支配し,エクイタブルが受領したEB債1の15.784パーセント相当の金額を,P1及びP2の72対3というダイアモンドU/T及びGOU/Tへの出資比率に応じて,両者が受領していたとすれば,上記リパッケージをすることは全く無意味であり,その経済的動機を合理的に説明できない。この場合,ダイアモンドU/T及びGOU/TがEB債1に直接投資すればよいのであって,アスチュラ,バーチベールLPS等は不要である。現に,クブライU/Tは,EB債1に直接投資している。
イ エクイタブルがP1が管理支配するペーパーカンパニーであり,P1とP2のダミーである旨の被告の主張は事実誤認であること
被告は,エクイタブルは何ら資金負担せず,EB債1の7500万米ドルに係る年21.25パーセントの利息のうち,デフォルトリスクや商工ファンド株式による償還リスクを負担する対価であると称して年15.782パーセントを受け取っている旨主張するが,エクイタブルは,バーチベールLPSへの出資金4000米ドルを負担しており,「何ら資金負担せず」との点は誤りである。また,エクイタブルは,商工ファンド株式のプット・オプションを,原告に対して売却したのであるから,当該売却代金を受領すべき「売主」の立場にあるので,エクイタブルがEB債1発行時に多額の出捐をしないことは当然である。さらに,エクイタブルは,EB債1への投資に参加するに当たっては投資元本(7500万米ドル)の出資をしないものの,原告のデフォルトリスク及び商工ファンド株式による償還リスクを負担しているから,将来のデフォルト時ないし償還時に,元本割れが生じたときに資金負担をするというリスクを負う対価として,EB債1の利息の一部を受領するものである。よって,エクイタブルが,バーチベールLPSの設立時にどの程度出資したか,EB債1の発行時にどの程度の資金を負担したかのみに着目し,EB債1への投資の全期間にわたってエクイタブルが負担しているリスクについては一切考慮しない被告の主張は,バーチベールLPSによるリパッケージの意味を全く理解しないものである。
また,EB債1は「最劣後無担保」であり,原告保有の商工ファンド株式の含み益を返済原資としてあてにすることはできない。商工ファンドの株価は平成15年5月時点では,7000円台に低迷しており,含み益も400億円程度に激減しているように,商工ファンド株式の含み益は,極めて不安定・不確実な資産であって,「最劣後無担保」である債権者があてにできるような返済原資となり得ないことは明らかであるから,原告のデフォルトリスク自体,商工ファンド株式の含み益を考えればほとんど考えられない旨の被告の主張は,経済の実態を無視した夢想にすぎない。また,被告は,一方で,エクイタブルは何らのリスク負担なしに15.782パーセントを受け取っていたことになる旨主張するが,他方で,万が一原告のデフォルトが起こった場合でも,そのリスクはエクイタブルのオーナーであるP1が結局負担することになるとも主張しており,これらの主張は矛盾している。さらに,エクイタブルとP1を同一視する主張と,利息の受領者をP1及びP2とするEB債1に係る本件各処分の内容とは整合性を欠く。
ウ エクイタブルがEB債1発行概要が決定される前から投資家として組み込まれていたとの被告の主張について
私募形式で社債発行をする際には,引受金融機関から請求される発行手数料を削減するために,発行体が自ら投資家を見付けて用意するケースが,多々見受けられる。そして,私募形式の場合は,公募の場合と異なり,発行体及び引受金融機関が,社債の発行条件(債券の種類,金額,発効日,利率等)を一方的に決定するのではなく,発行体自ら投資家を見付けてきた場合には,引受金融機関の見解を参考にしながら,発行体及び投資家が直接交渉を行ったり,引受金融機関が間に入って発行体・投資家間の交渉を仲介したりして,最終的に発行条件が決定されるものである。よって,EB債1の発行条件が決定されていない段階で,投資家候補としてエクイタブルの名が挙げられていることは何ら不自然ではなく,私募形式による社債発行実務では至極当然のことである。本件では,海外の著名なトラスト会社の経営者であるP16から紹介を受けたエクイタブルは,商工ファンドの将来の株価に極めて強気な投資家であり,商工ファンド株式を主要資産とする原告の信用リスクについても同様に極めて強気な投資家であったと考えられる。
エ エクイタブルは,P1の意思の下に本件のスキーム費用を負担していないこと
EB債1に関連する投資に付随する費用について,P1の意のままに,エクイタブルが負担したという事実はない。エクイタブルがEB債1に関連して負担した費用は,DMG証券P14が,EB債1に関連する投資に付随する費用について,バーチベールやアスチュラ,エクイタブル等々の各法主体別にそれぞれ負担すべき性質の費用を割り振り,整理した提案表に従って,エクイタブルが,当該費用内容を負担すべきことを了承した上で負担したものである。なお,当然のことながら,原告は,エクイタブルの負担すべき当該費用を支払ってはいない。
(10) シナジープラスが独立第三者であること
ア EB債1の中途買入代金の支払方法の検討について
被告は,シナジープラスからEB債1の買入を行う際の代金支払方法について,独立第三者ならあり得ないような便宜的対応をしていることを挙げて,シナジープラスが独立第三者ではなく,P1に支配されている法人である旨主張する。
しかし,原告は,EB債1の償還方法として,まず,投資家の意向とは無関係に,原告が技術的・法的に採り得る方法を確認しただけであるから,被告の主張は失当である。
イ シナジープラスがペーパーカンパニーであることについて
仮に,シナジープラスがペーパーカンパニーであるとしても,そのこと自体は,同社がP1によって支配されている法人であると認定する根拠とはなり得ないものである。
ウ 商工ファンドからDMG証券に対してシナジープラスがEB債1の申込者であることを連絡していること
EB債1の発行に際しては,発行手数料の節約のため原告側で投資家を探してくることとなっていたから,シナジープラスが,DMG証券に対してEB債1への投資申し込みを行っていないのは当然である。私募形式による社債発行においては,発行体が自ら投資家を探してくることは多々あることである。
エ EB債1の利息支払方法の検討について
被告は,EB債1の利息支払の際,原告が利息を米ドル以外の通貨で支払うことを希望し,投資家も原告が望む通貨であればいかなる通貨でも支払利息として受け入れると同意しているとの記載がある文書がある旨主張するが,当該文書の作成日時,宛先及び差出人は不明であり,作成者も「DMG証券担当者」とされているが,当該文書からは作成者が誰であるかは不明であり,証拠としての信用力が認められない。
また,原告が,過去に,EB債1の利息の支払に関して,ユーロ又はスイスフランで支払うことをDMG証券との間で検討した事実は存在するが,EB債1の投資家との間で米ドル以外の通貨での利払について合意した事実は存在しない。上記文書の作成経緯等は不明である上,単に,「すべての社債保有者は,いかなる通貨での利払の受取りにも同意するであろう」と記述されているだけであって,「同意した」と記述されているわけではない。上記文章の直後の文章では,「社債保有者たちは,原告が支払うのと同一の通貨で受領することを望んでいる」と記述されているが,これは真実を正確に記述したものではない。
さらに,実際には,EB債1の利息は米ドルで支払われており,最終的に,EB債1の投資家が原告側の要望に合意しなかったことは明らかである。
加えて,原告が,米ドル以外の通貨での利払を検討した理由は,ユーロ及びスイスフラン建ての資産を有しており,これらをそのままEB債1の利払に充当するのが原告にとって便宜的であったからである。他方,EB債1の投資家側も,米ドル以外の通貨で利払されるとしても,米ドルへの為替予約をすることで,極めて容易に,原告及び投資家双方が為替リスクを負わなくて済むから,原告は,EB債1の投資家が,ユーロ又はスイスフランといった主要通貨で利払される限り,米ドル以外の通貨での利払に応じる可能性は十分にあると原告は考えたものである。それゆえ,原告は,一時的に米ドルではなくユーロ又はスイスフランでの利払を内部的に検討したことはあるが,EB債1の投資家であるバーチベールLPS,クブライU/T又はシナジープラスに対して,ユーロ又はスイスフランでの利払を打診した事実はない。
(11) シナジープラスへの支払利息が「使途秘匿金」に当たらないこと
EB債1の年利21.25パーセントが適正利率として損金性が認められる以上,原告のシナジープラスに対するEB債1の支払利息も,「使途秘匿金」と認定すべき理由はない。
(12) 原告の経理処理が法人税法34条2項にいう「仮装経理」に該当しないこと
本件におけるEB債1の取引のように,原告が,EB債1の利息の支払について現実の資金の動きに合致した経理処理を行っている場合には,当該経理処理は法人税法34条2項にいう「仮装経理」に該当しない。被告の主張によれば,課税処分の対象となる取引のおよそすべてが,同項の「仮装経理」に該当するとして重加算税の賦課要件を満たすこととなってしまい,著しく不合理である。
(13) EB債1の支払利息は,「使途秘匿金」及び「役員報酬」には該当しないこと(第1位予備的主張)
ア 仮に,EB債1の年利21.25パーセントという金利が「適正利率」ではないと仮定しても,原告によるEB債1の利払を「使途秘匿金」ないしP1家族に対する「役員報酬」と認定した原処分は,次のとおり誤っている。
(ア) アスチュラルート
a P1及びP2は,EB債1の利息を受領していないから,そもそも,原告によるEB債1の「適正利率」を超える部分の支払利息が,P1及びP2に対する「役員報酬」になる理由はない。
b また,ダイアモンドU/T及びGOU/Tが,バーチベールLPS,アスチュラを介して受領した金額は,EB債1の年利21.25パーセントの利息のうち,年利5.466パーセントの利息相当額のみであって,ダイアモンドU/T及びGOU/Tが,バーチベールLPS,アスチュラを介して受領した金額は,被告の主張する「適正利率」の範囲内の金額であるから,原告における損金たる支払利息に該当し,P1及びP2に対する役員報酬には該当し得ない。
(イ) ヤスプルート
a クブライU/Tは,日本の租税法上,投資信託に該当し,分配金受領前に受益権所有者たるP1家族には課税がされない。
b すなわち,クブライU/Tは,①信託財産を委託者の指図に基づいて主として有価証券に対する投資として運用することを目的とする信託,②受益権を分割して複数の者に取得させることを目的とする信託という要件に該当するから,法人税法上の投資信託に当たる。そして,投資信託についての従来からの課税実務では,投資信託の受益証券の保有者(個人)が,(a)収益の分配金を受領したとき,(b)中途解約・償還により分配金を受領したとき,(c)受益証券の売却により売却益を得たときに,当該受益証券の保有者である個人に所得が実現したものとして課税がされており,単に,信託財産の運用により収益が上がり,受益証券の基準価格が上昇しても,当該収益(受益証券の含み益たるキャピタル・ゲイン)は,受益証券の保有者である個人において所得として実現していないものとして,課税されないものとして取り扱われている。
c よって,単に,クブライU/TがEB債1の利息を受領しただけで,P1家族がクブライU/TからEB債1の利息相当額を分配金として受領していない以上,P1家族は,いまだに,EB債1の利息を受領していないと評価しなければならないから,原告によるEB債1の支払利息は,P1家族に対する役員報酬とはなり得ない。
(ウ) シナジールート
a 原告のシナジープラスに対する利息支払は,使途秘匿金ではない。
b すなわち,使途秘匿金とは,法人がした金銭の支出のうち,相当の理由がなく,①その相手方の氏名又は名称及び②住所又は所在地並びに③その事由を当該法人の帳簿書類に記載していないものをいう(措置法62条2項)ところ,原告による金銭の支出は,②マン島所在の法人(所在地)である①シナジープラス(相手方の名称)に対するものであり,③原告の帳簿書類上も,上記金銭の支出がEB債1の金利の支払(支出の事由)であることが記載されているから,仮にこれが不相当に高額な利息の支払に該当するとしても,措置法62条2項にいう「使途秘匿金」には該当し得ない。
c シナジープラスが原告やP1家族から独立した第三者か否かという問題は,EB債1の利息支払が「使途秘匿金」に該当するか否かという問題とは全く関係のない別個の問題である。
イ 理由付記不備の違法(法人税法130条2項違反)
上記アの第1位予備的主張と並ぶ予備的主張として,EB債1に係る本件各処分には,理由付記不備の違法がある。
(ア) 青色申告書による確定申告書等を提出した原告に対する更正処分について,法人税法130条2項に反する理由付記不備の違法は,事後的に理由を補充することにより治癒することができない処分の取消事由であり,更正が複数の理由による場合において,一部の理由付記に不備がある場合には,更正はその理由に対応する部分について違法となる。
そして,更正処分に付記された理由が,理由付記制度の趣旨,すなわち,処分適正化機能と争点明確化機能を果たすためには,処分の結論を導く具体的根拠を示すことが必要不可欠である。そして,憲法84条が定める租税法律主義の下,更正処分の結論を導く具体的根拠に,処分の法的根拠が含まれることは明らかである。
しかるに,上記のとおり,P1家族がいまだに受領していないEB債1の利息を,原告からP1家族に対する役員報酬である旨認定したEB債1に係る本件各処分は,何らの法的根拠も示していない以上,納税者・被処分者である原告において,理由付記制度の趣旨の1つである不服の申立てに便宜が与えられる機能(争点明確化機能)を享受できていない。よって,EB債1に係る本件各処分には,法人税法130条2項に反する理由付記不備の違法があるから,取消しを免れない。
(イ) エクイタブルに関する理由付記不備の違法
a 被告は,バーチベールLPSが購入した総額7500万米ドルのEB債1の支払利息のうち,適正利率を超える部分について,P1とP2につき72対3の比率で,役員報酬と認定しているが,EB債1に係る本件各処分はエクイタブルの存在すら知らずになされたものであり,EB債1の支払利息を,誰が,どれだけ受領しているのかを把握しておらず,本訴において,エクイタブルはP1が実質的な株主の地位にあって支配していると認められると主張するに至った。
b そもそも,仮に,被告の主張のとおりであるとしても,これならばP1が受け取ったと同視できるはずであって,P1及びP2が受け取ったと同視できるという理由にはなり得ない。
c また,被告は,バーチベールLPSが保有する7500万米ドル分のEB債1の支払利息を役員報酬と認定するに際して,P1とP2のダイアモンドU/T及びGOU/Tへの出資比率に応じて役員報酬額を認定しているが,P1とP2が,72対3の比率で投資信託であるユニット・トラストを介して受益するEB債1の支払利息は,あくまでも,リスクフリーである米国国債の金利相当の5.466パーセントであるから,残余については,P1とP2が,一体いかなる形式で,72対3の比率で受益したのかの理由が記載されていない。
(14) 損益通算(第2位予備的主張)
仮に,EB債1の年利21.25パーセントという金利が「適正利率」ではなく,かつ,クブライU/TによるEB債1の利息受領について,P1家族に対して直接課税されるとしても,クブライU/Tについて損益通算すらせずに行われたEB債1に係る本件各処分は,次に示すとおり,取消しを免れない。
すなわち,内国法人が社債を国外で発行し,社債保有者(社債利子の受領者)が非居住者又は外国法人である場合,EB債1が発行された平成10年当時の措置法6条1項では,原則として,当該社債の支払利息について所得税が課されないため,原告において,当該所得税を源泉徴収すべき義務はなく,他方で,内国法人が社債を発行し,社債保有者(社債利子の受領者)が居住者である場合,EB債1が発行された平成10年当時の所得税法181条1項では,当該社債の支払利息について社債保有者に課される所得税を,原告において,源泉徴収すべき義務があるところ,EB債1に係る本件各処分では,課税庁は原告に源泉徴収義務がある旨を認定していないから,EB債1の利子の受領者は,居住者たるP1家族ではなく,非居住者又は外国法人であることを前提としているものと考えられる。
したがって,クブライU/Tに対する課税については,少なくとも,クブライU/Tを外国の法主体とみなし,せいぜい各期の損益を通算した期間損益に対してのみ課税できるに止まるのであって,クブライU/Tの損益のうち,EB債1の受領利息のみを個別に取り出して課税することはできず,クブライU/Tの全投資活動による損益を各期末に通算し,P1家族各人のユニット保有割合に応じて,クブライU/Tの各期間損益を按分した金額の限度で,課税し得るにすぎないものというべきである。
(15) 原告による源泉徴収のみで課税関係は完了すること(第3位予備的主張)
仮に,EB債1の年利21.25パーセントという金利が「適正利率」ではなく,かつ,クブライU/TによるEB債1の利息受領について,P1家族に対して直接課税され,クブライU/Tについて損益通算すらせずに税額を計算した処分が適法だとしても,EB債1に係る本件各処分は,社債利息に関する課税方法を間違っており,EB債1の支払利息に係る課税関係は,原告による源泉徴収のみで完了するから,上記各処分は取消しを免れない。
すなわち,EB債1は,内国法人である原告が発行した社債であり,内国法人が発行した社債利息に関する課税関係は,内国法人が国内で社債を発行し,社債保有者(社債利息の受領者)が居住者である場合,EB債1が発行された平成10年当時の所得税法181条1項に基づき,当該社債の支払利息について社債保有者に課される15パーセントの所得税を,原告において,源泉徴収する義務があり,かつ,それで社債利息に関する課税関係は完了するはずである。
そして,被告は,7.905パーセントないし7.995パーセントの「適正利率」の範囲では,原告において,EB債1の支払利息を損金算入することを認め,EB債1が原告の社債であることは認めている。また,被告は,EB債1の利息をP1家族個人が直接受領したものとみなして各個人に所得を認定しているから,結局,居住者たるP1家族個人が,EB債1を直接保有しているとの前提に立っている。
そうすると,内国法人たる原告が発行した社債であるEB債1を,居住者たるP1家族が直接保有していることになるから,EB債1は,国内で発行されたものとみなすのが自然な解釈である。ここで,原告が,EB債1を国内で発行したとの前提に立つとすれば,EB債1の支払利息に係る課税関係は,原告が支払ったEB債1の利息について,原告が15パーセントの所得税の源泉徴収をすることですべて終了するはずである。
(16) 重加算税の賦課要件の欠缺について
原告は,EB債1について,何ら仮装・隠ぺいをしていない。
また,原告は,平成10年に行われた東京国税局資料調査課による税務調査の際に,既にEB債1について資料一式を係官に対して提示・提出してもいる。
第3争点(3)(法人税法132条の憲法適合性)について
1 原告の主張
渋谷税務署長は,原告によるβ不動産売買契約及びKOBEファンド取引について,法人税法132条を適用して,原告の当該行為計算を否認したが,かかる行為計算の否認は,以下のとおり,憲法14条1項(法の下の平等の原則)に違反するところの法人税法132条に基づいてなされた課税処分であるから,無効である。
(1) 本訴における被告の対応について
ア 法人税法132条は非同族会社には適用されないこと
法人税法132条は,同族会社の行為計算のみをその否認の対象としており,非同族会社や財団,社団などの会社でないもの(非会社)の行為計算及び親子会社間の取引等特殊な関係にある当事者間の行為計算をその否認の対象とはしていない。そして,このような条文の根拠なくして,行為計算の否認をすることができないことはいうまでもない。
イ 昭和36年税制調査会第2次答申
税制調査会は,講学上は,「審議会」の1つであって,国家行政組織法8条に基づき設置される政府の諮問機関である。
昭和36年7月5日付け税制調査会「国税通則法の制定に関する答申(第2次答申)」(内閣総理大臣池田勇人あて)は,行為計算の否認につき,「現在行為計算の否認の規定は同族会社等に対してのみ適用されることになっているが,否認の対象となっている行為計算の態様や現在の諸情勢からみて,これを同族会社等のした行為計算のみに限定する理由に乏しいと認められるので,同族会社等の行為計算のほか,左記のような特殊関係者の行為計算についても,これを否認することができることとする。」として,通則法中に,租税回避行為防止のための規定を,同族会社,非同族会社,会社以外の団体・組合についても適用できるような規定を新たに設けるよう,答申している。
また,「国税通則法の制定に関する答申の説明」(答申別冊)においても,租税回避行為を行い得るのは,同族会社だけに限られないとして,適用対象の範囲を,現行の法人税法132条等の「同族会社等の行為計算」に限るのを止めて,拡大する提言をしている。
ウ 当時の政府の立場と政府としての対応
通則法の制定に関する答申は,各種文献からして,当時の政府の立場と概ね一致していると合理的に推測されるから,日本国政府は,本件訴訟で,少なくとも,「現在,行為計算の否認規定は,同族会社等に対してのみ適用されることになっているが,否認の対象となっている行為計算の態様や現在の諸情勢からみて,これを同族会社等のした行為計算のみに限定する理由に乏しいと認められる」という上記答申の立場を否定することは,明らかに不合理である。
(2) 法人税法132条が憲法14条1項に違反すること
ア 蓋然性による差別は生来的に不合理な差別であること
(ア) 法人税法132条の目的は,同族会社と非同族会社との間の租税負担の公平を図ることにあるとされる。
この点,同条が同族会社のみを適用対象とする差別的な行為計算否認規定であることについては,「同族会社においては,法人税の負担を不当に減少させる目的で,非同族会社では容易になし得ないような行為計算をするおそれがある」から,合理的な差別であって,平等原則を定めた憲法14条1項には反しないとする見解があるが,法人税の負担を不当に減少させる租税回避行為を,同族会社においては「容易になし得る」のに対し,非同族会社においては「容易になし得ない」という,相対的な蓋然性の程度のみであるとする上記論旨は理由がないといわざるを得ない。なぜなら,上記論旨は,非同族会社においても,同族会社と同様の上記租税回避行為をするという事実を認めていることに他ならないとともに,全く同一の上記租税回避行為をした同族会社と非同族会社を比較した場合には,「非同族会社の行為計算は否認されず,同族会社の行為計算のみが否認されること」を合理的に説明し得ないからである。仮に,法人税法132条の合憲性を維持してこのような不合理な結論を回避するためには,「同族会社ではなしうるが,非同族会社では理論的にも実務的にも行われ得ないような行為計算」のみを否認の対象とする他ないが,β不動産売買契約やKOBEファンド取引は「同族会社ではなしうるが,非同族会社では理論的にも実務的にも行われ得ないような行為計算」とは到底いえないし,その立証もない。
(イ) 同族会社の意思決定主体
法人税法132条が,株主構成に着目して租税回避行為を行う蓋然性を区別することは,「具体的経営事項に関する株式会社の意思決定機関は取締役会である」という現行商法が前提とする株式会社の意思決定過程との間で,明らかにそごを来している。
イ ドイツの判例との比較
法人税法132条が憲法14条1項に違反しないとされるとすれば,その範囲は,法人税法132条による法人格否認の範囲及び否認の理由が,ドイツの判例にいう「最も狭い範囲で,かつ最も緊急の理由の存する場合」に限られるというべきである。
しかし,同条は,同族会社によりなされた法人税の負担を不当に減少させる行為計算を否認対象とする一般的否認規定であるから,「最も狭い範囲」におけるものとは到底いい得ないし,同条が,同族会社と非同族会社との間で租税負担の不公平を来しているという重大な事実に照らせば,「同条が存在しなければ,課税実務上の重大な弊害を生ずる」といった「最も緊急の理由」も存在しない。
ウ 立法目的との関係
法人税法132条は,同族会社と非同族会社との租税負担の公平維持を図ることを目的として,同族会社の経済的自由に対して,非同族会社より,より強い規制を加える規定であり,福祉国家理念より導かれる社会政策等の積極目的を有する規制立法というよりも,むしろ課税秩序の維持を図るという消極目的をもった規制立法である。
そして,同条が適用対象とする同族会社は,そのほとんどが中小規模の会社であるところ,非同族会社と同族会社とで全く同一の租税回避行為をした場合には,同条の適用により同族会社のみに課税することになるのであるから,同条は,「一般に資本力の強い」非同族会社に比べて,同族会社に「過重された課税」を強いるという客観的効果を有する規定というべきである。してみると,同条は,社会政策の一環と位置付けられる租税政策が目的とする,福祉国家理念の実現という方向性にすら全く逆行する租税法規であり,経済政策の観点から観たとき,その法的不平等の非難が強まることは否定することができないというべきである。
エ 立法目的と法人税法132条の要件との合理的関連性の欠如
(ア) 仮に,蓋然性の程度にのみ着目した差別立法が何らかの合理性を持ち得たとして,法人税法132条の立法事実について検討するに,同条は,同族会社と非同族会社との租税負担の公平維持という立法目的と,当該目的達成手段としての同族会社・非同族会社の差別態様との間に,合理性・必要性が認められず,やはり法の下の平等を定めた憲法14条1項に反して違憲であるといわざるを得ない。
(イ) 立法目的を支える立法事実が欠如していること
a 「同族会社は,非同族会社においては容易になし得ないような,法人税の負担を不当に減少させる行為計算をする」という立法事実は,以下のとおり存在しない。
(a) 同族会社と非同族会社の区別は,株主による株式保有割合という形式的基準によってなされるから,この基準より少しでも異なれば,同族会社とはならない。非同族会社の中には,必然的に,同族会社に極めて近いものから,所有と経営の分離した巨大会社に至るまで,種々の段階のものが存在することになり,したがって,何が同族会社であるがゆえに容易になし得る行為計算に当たるかを判断することは著しく困難であり,むしろ,非同族会社においても,同族会社と同様の租税回避行為をなすという事実状態が存在するくらいであって,そもそも定義すること自体が著しく困難な事実状態を「存在する」ということはできない。仮に,何らかの定義し難い事実状態が存在することを認めたとしても,定義すること自体が著しく困難な事実状態を,立法の合理性等を支えるべき立法事実とすることはできないものというべきである。
(b) 法人税法132条は,法人税の負担を不当に減少させる行為計算を否認対象とするところ,租税回避行為が,株主に利益をもたらす方向での法人税負担の軽減を図るものである限り,非同族会社においても租税回避の意思決定に関与する多数株主の一致がある蓋然性は少なくない。とすれば,「同族会社は法人税の負担を不当に減少させる租税回避行為をするが,非同族会社においてはそのような租税回避行為をすることはないか,又はあったとしても極めて稀である」という「事実状態」は「存在する」とはいい難い。
b 法人税法132条の立法目的が,不当な租税回避行為との関係で,同族会社と非同族会社との間の税負担上の不公平を無くすことであるとした場合に,当該立法目的と立法目的達成手段たる同条に合理性を支える立法事実はないというべきである。
すなわち,法人税法132条の立法目的は,同族会社と非同族会社との間の租税負担の公平を図ることとされてきたが,同族会社と非同族会社の区別が,形式的基準によってなされるため,非同族会社の中には,同族会社に極めて近いものから所有と経営の分離した巨大会社に至るまで,種々の段階のものが存在することになるから,何が同族会社であるがゆえに容易になし得る行為計算に当たるかを判断することは著しく困難であるとの批判を受けて,純経済人の行為として不合理,不自然な行為計算か否かを判断基準とする「合理性の基準」ないしは独立・対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引とは異なっている場合を含むとする「独立当事者間取引の基準」が提唱されるようになってきたが,これではもはや同条が,なお同族会社と非同族会社の間の租税負担の公平維持を図ることを立法目的としているということはできないはずであり,むしろ,上記「合理性の基準」ないし「独立当事者間取引の基準」が正当なものであることを前提とした場合,これらの基準を採用するところで立法目的とされるべきなのは,課税要件を満たすような行為計算を常に行うという抽象概念である「純経済人」(模範的納税義務者)と,同族会社と非同族会社の両者を包含する全納税義務者のうち,立法者の意図するところから外れた租税回避行為を行った納税義務者(同族会社か非同族会社かは問わない。)との間の,租税負担の公平を図ることになるところ,そのような立法事実はない。
オ 最高裁判所昭和60年3月27日大法廷判決(民集39巻2号247頁。いわゆるサラリーマン税金訴訟)について
(ア) 最高裁判所昭和60年3月27日大法廷判決は,本来租税行政の執行上の問題である所得の捕捉率の較差問題について,所得の捕捉率の較差が,
① 正義衡平の観念に反する程に著しく,
② 当該較差が長年にわたり恒常的に存在し,
③ 当該較差が租税法制自体に基因していると認められるような場合,
当該較差が,当該租税法制自体を違憲ならしめるものとしている。
(イ) 同族会社と非同族会社とが同一の租税回避行為を行った場合,同族会社については法人税法132条によりその租税回避行為を否認して課税しうるのに対し,非同族会社の租税回避行為は否認できず課税し得ないのであるから,同族会社と非同族会社との間で,当該租税回避行為によって税務上算入できなかった課税標準としての所得の捕捉において,較差が生じていることは明らかであり,その意味で,上記判決における所得の捕捉率の較差の問題に近似する以上に,税務行政の執行上の問題ではなく,同族会社・非同族会社間の課税標準としての所得の捕捉における上記較差は,同条の適用により生じるのであり,それは本来的に同条の存在自体に基因する較差であるから,むしろ本件における上記較差の方が,最高裁判決の事例における較差に比して,租税法規の違憲審査に親しむものである。
(ウ) 本件では,①法人税法132条ゆえに課税がされるかゼロかという差が生じ,較差が正義衡平の観念に反する程に著しいといえること,②同条が存在する限り,今後とも長年にわたり恒常的に,同族会社と非同族会社との間で,その課税標準としての所得の捕捉率に較差が生じることになり,当該較差が長年にわたり恒常的に存在するといえること,③較差が租税法制自体に基因していることは明らかであるから,違憲である。
カ 違憲審査基準
(ア) 上記最高裁判決は,いわゆる「緩やかな合理性の基準」を採用したものであるが,当該税法の差別取扱規定が合理的であるか否かを詳細に検討した上で,「当該税法の採用した差別的規定は,その立法目的との関連で,その立法目的達成のために十分合理性のあるものであって,憲法14条に違反しない」旨判示しており,①一般論として,租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱い上の差別については,緩やかな合理性の基準を採用すると説いているにすぎないこと,②平等原則違反にならない「合理的な取扱い上の差別」という場合の「合理性」を裁判過程で判断する場合に裁判所が採るべき具体的な違憲審査基準は,立法目的が重要なものであること及びその立法目的と規制手段(具体的な取扱い上の違い)との間に事実上の関連性があることを論証する責任を,規制を加える公権力側に負わせる「中間審査基準」とし,「同じことをした者に対する差別的取扱いは,合理的である」と主張する公権力を行使する側にその立証責任を負わせることが妥当であること,③上記最高裁判決のいう「租税法の定立については,国家財政,社会経済,国民所得,国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的,技術的な判断に委ねるほかなく,裁判所は,基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ない」という一般論は説得力に欠け,「国家財政,社会経済,国民所得,国民生活の実態,担税力の程度,徴税方法の難易等々についての正確な条件」がなくても立法事実を審査することは可能であることに留意する必要がある。
(イ) 法人税法132条の立法目的の合理性の検討(第1のテスト)
国民主権を否定しており,法の下の平等原則も謳われていなかった明治憲法下の大正12年改正による所得税法73条の2の否認の規定は,昭和22年の新憲法下の第1回国会において,新憲法14条1項に違反しないか否か議論されることなく,そのまま丸ごと承継され,今日の法人税法132条に至っている。
大正12年当時,税人法のほ脱目的の租税回避行為を同族会社が行うことが目立ったことから,政府は,これを否認して,かような行為を行うことなく,納税している他の納税者との公平を計ったが,同族会社以外の納税者(非同族会社等)も所得税ほ脱目的で租税回避を行うことがあるというのが実態であって,立法目的を設定した土台たる前提において誤っており,大正12年改正による所得税法73条の2の立法目的自体が合理性を欠いているものといわざるを得ない。現在においても状況は同様である。
(ウ) 法人税法132条1項1号の立法目的と同号に定める差別的手段とが,合理的に関連しているか否かの検討(第2のテスト)
不当な租税回避を狙った迂回行為や,多段階行為は,少なくとも現在では,同族会社のみが行い,非同族会社等はこれを行わないという実態はないにもかかわらず,同族会社のみが,不当な租税回避行為を行いがちであるのに対し,非同族会社等はこれを行わないことを前提として,同族会社の不当な租税回避行為のみを否認して,不当な租税回避行為を行わない同族会社や非同族会社等との公平を図ろうとする法人税法132条の立法目的は,非同族会社も,同族会社同様,不当な租税回避行為を行っているという現実の前で,合理性を欠く。仮に,同条の立法目的を「租税の公平負担を維持すること」と広く解したとしても同様である。
キ 法人税法132条無用論について
(ア) 昭和40年の法人税法の改正により,従来同族会社の行為計算否認規定の否認類型のほとんどが,個別的否認規定となった現在にあっては,法人税法132条の存在意義をもはや見出し難い。
(イ) 法人税法132条は合憲であり存在意義があるとする立場は,個別的否認規定によって新たな租税回避行為の類型に対処することで,一般的否認規定を置くことによって生じる,「納税者の予測可能性を奪ったり,課税庁の恣意的運用を生む等の弊害」を回避すべきであるとする立場に対抗して,その弊害を甘受してでも同条のような一般的否認規定を置くことの意義について,いまだ,有力な論拠を示せないでいるから,同条は,もはやその存在意義が認められないといわざるを得ない。
ク 被告の主張する非同族会社に対する規制について
被告は,「同族,非同族を問わず会社の行為計算を否認する規定として,法人税法22条,34条,36条等の規定も存在し,非同族会社の行為計算が野放しにされているわけではない。」等と述べるが,原告は,同族・非同族会社に平等に適用され得る同法22条,34条,36条等が憲法14条に反する旨を主張しているわけではなく,法人税法22条,34条,36条等によっても否認できない行為計算については,非同族会社が行った場合には否認できないにもかかわらず,同族会社が行った場合には否認するというのでは,同族・非同族会社間の租税負担の公平を図った同法132条の立法趣旨にもとることになると主張するものである。
2 被告の主張
(1) 法人税法132条は,同族会社が少数の株主ないし社員によって支配されているため,当該会社又はその関係者の税負担を不当に減少させるような行為や計算が行われやすいことにかんがみ,税負担の公平を維持するため,そのような行為や計算が行われた場合に,それを正常な行為や計算に引き直して更正又は決定を行う権限を税務署長に認めるものである。この規定は,税負担を「不当に減少させる」という不確定概念を用いているが,これは課税要件明確主義に反するものではなく(最高裁判所昭和53年4月21日判決・訟務月報24巻8号1694頁),また,同族会社に対してのみこの否認規定を設けることは,憲法14条1項に違反しない(東京高等裁判所昭和53年11月30日判決・訟務月報25巻4号1145頁)。これらの規定が,現実に行われた行為計算の私法上の効力を失わせるものでもない。
(2) この点,原告は,法人税法132条の行為計算等の否認規定の対象を,同族会社等の行為計算に限ることは,法の下の平等の原則に違反する旨主張し,昭和36年7月5日付け税制調査会「国税通則法の制定に関する答申(税制調査会第2次答申)及びその説明」を挙げるが,これは,現行税法の底に既にある考え方を抽象的,一般的に表現したものにすぎず,これ自体は否定されるべきものではないが,答申の求める規定の制定が見送られた要因は,抽象的な表現による規定がされた場合,その解釈問題(拡大解釈や恣意的解釈)が生ずるとの懸念にあると説明されていることからすれば,そこからは,行為計算を否認する規定の趣旨が,同族会社の計算だけに限られることとしたものであるとの結論は導かれない。
このように,同族会社の行為計算規定を置いたことが,直ちに,単純に同族会社の行為だけを否認すべきとした理念に基づくものであるとはいえないし,同族会社以外の非同族会社の租税回避行為と認められる行為計算を否認することができないものともいえない。
(3) また,原告は,法人税法132条は,租税負担の公平を図ることを目的としながら,その適用対象を同族会社に限定するということが何らの合理的関連性をも有しないと主張する。
しかしながら,税法の理念は,法の根底に流れる租税公平負担の原則に基づき,租税回避行為については,同族会社の行為のみをとらえようとして条文が制定されたものではなく,同族,非同族を問わず対処していこうとする理念が存在するものと解される。そして,同条は,適用対象を同族会社が行う行為計算に限定する規定とも評価されるが,その規定があることで,非同族会社が何らかの租税回避を行なった際にそれを課税してはならないとする制限が発生するものではなく,実際,同族,非同族を問わず会社の行為計算を否認する規定として,同法22条,34条,36条等の規定も存在し,非同族会社の行為計算が野放しにされているわけではない。
(4) さらに,原告は,法人税法132条は,立法事実を欠くほか,立法目的と同族会社と非同族会社とを差別するという手段との間に合理的関連性を欠き,結果として同族会社と非同族会社との間の租税負担の不公平を招来するから,平等原則を定めた憲法14条1項に反し違憲である旨主張する。
しかし,そもそも,租税公平負担の原則に基づけば,租税回避行為に対処する規定の整備が要求されるのであって,法人税法132条はその目的において存在意義を持つものであることは疑いないのであるから,その点において違憲の論議は失当である。
また,適用対象が同族会社とされたことで,非同族会社についての規定が明文化されていない状態になっていることについては,上記のように,租税回避行為を防止するために同族,非同族会社を区別することなく適用される条文も規定され,学説としては,行為計算の否認については,法的所得概念を導入し,同法22条2項の問題に還元して解釈できるとする説を含め,原告が例示するように他の規定で処理が可能であるとする学説もあるのであって,同法132条の同族会社に係る規定のみが存在すること及び当該規定をとらえて,同族会社に対する税法の適用が,非同族会社との水平的平等に著しく反しているとはいえず,差別的取扱いとなっているとまではいえない。
(5) 加えて,原告は,法人税法132条は無用であると主張する。
しかしながら,同条の適用範囲が極めて限定されてきていることを前提とした上で,同条の存在意義を認めない見解,あるいは,認めたとしても,同条は他の個別的否認規定に対する補充的規定であるとした上で,同条の存在意義としての同条の具体的適用場面のささいな例を摘示し,それを以て同条の存在意義を説明しているに止まると批判する見解は,それ自体矛盾している上,仮に同条の存在意義が希薄となっているとしても,それゆえに直ちに違憲となるものではないことは明らかであるから,かかる見解は,いずれにしても失当である。
第4争点(4)(β不動産売買契約の否認の可否,理由付記不備の有無)について
1 被告の主張
β不動産売買契約が不合理であり,法人税法132条により適正な譲渡価格を39億1702万1526円と認定すべきである旨の被告の主張の詳細は別紙4の第2β不動産の「主張の趣旨」欄及び「証拠及びそれによる立証趣旨等」欄記載のとおりであるが,その主張の中核的部分は次のとおりである。
(1) β不動産売買契約に係る平成12年5月期更正処分の根拠及び適法性
被告が,平成12年5月期更正処分において原告のβ不動産売買契約に関し,法人税法132条1項及び同法37条7項(ただし,平成14年法律第79号による改正前のもの)を適用して,寄附金の損金不算入額18億8082万1153円を所得金額に加算したのは,以下のとおり適法である。
ア 法人税法132条の趣旨及び適用要件
法人税法132条の趣旨は,前記第3の2(1)のとおり,同族会社においては,会社の意思決定が少数の株主等の意思により左右されているため,不当に租税を回避するような行為又は計算が容易になされやすく,課税上の弊害が生じやすいことを配慮し,これを是正し,租税負担の公平を図ろうとするものであり,それを通常あるべき行為や計算に引き直して納付すべき税額を計算する権限を税務署長に認めたものである。
そして,同条の規定によれば,①同族会社の行為又は計算であること,②これを容認した場合にはその同族会社の法人税の負担を減少させる結果となること,③上記②の法人税の負担の減少が法人税法上不当と評価されるものであることという要件を満たすときは,同族会社の行為又は計算にかかわらず,税務署長は,正常な行為又は計算を前提とした場合の法人税の計算を行うことができることとされている。
なお,上記③において法人税の負担の減少が「不当」と評価されるか否かは,専ら経済的・実質的見地において,当該行為又は計算が通常の経済人の行為又は計算として不合理,不自然なものと認められるかどうかを基準として判断されるべきである。
イ 法人税法37条の趣旨
法人税法37条7項(ただし,平成14年法律第79号による改正前のもの)において,資産の譲渡又は経済的な利益の供与をした場合において,その譲渡又は供与の対価の額が当該資産のその譲渡の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額に比して低いときは,当該対価の額と当該価額との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は,これを寄付金に含めることとしている。
そして,実質的に贈与したと認められるためには,当該取引を行う経済的な効果が,贈与と同視しうるものであれば足り,必ずしも,贈与者が贈与の意思を有していたことを必要とせず,時価との差額を認識していたことも必要としないと解すべきである。
ウ 本件における法人税法132条の適用要件の充足について
(ア) 同族会社の行為又は計算であること
原告は,法人税法上の同族会社である。また,評価センターは,P1によって実質的に支配・運営されている法人である。
よって,原告と評価センターとの間で行われたβ不動産の売買取引は,同族会社の行為である。
(イ) 上記(ア)を容認した場合には原告の法人税の負担を減少させる結果となること
原告は,取得したβ土地について,22億2275万6411円を土地勘定に計上しており,また,β建物及び同建物に付随する什器備品として21億5650万4726円を建設仮勘定等として計上していたところ,β建物は,施主たる原告ではなく,賃借人である商工ファンドの代表者であるP1がその建物を個人の住宅及び商工ファンドのゲストハウスとして使用する目的で,株式会社アルキメディア設計研究所に設計を依頼したものであり,P1及びその家族の趣味趣向をふんだんに採り入れた,この種の建物としては極めて高級なものとなっているにもかかわらず,完成の2日前に評価センターに売却され,その際,P1の趣味趣向をふんだんに採り入れたオーダーメード仕様という汎用性の低さにより市場性減価を相当に見込んで,β建物及び同建物に付随する什器備品については約10億円と評価され,β土地もβ建物と一体化して使用されているとしてβ建物の評価に連動して約10億円で評価されている。
これにより,原告は,所得金額を18億8089万6899円減少させ,法人税額の負担を5億6426万8800円減少させたことになる。
(ウ) (イ)の法人税負担の減少が法人税法上不当と評価されるものであること
前記アのとおり,法人税法132条の適用上,法人税の負担の減少が「不当」と評価されるか否かは,専ら経済的・実質的見地において,当該行為又は計算が通常の経済人の行為又は計算として不合理,不自然なものと認められるかどうかを基準として判断されるべきである。
本件では,原告は,β建物を,実際に使用する者の細部にわたる指示に基づいて建築し,完成引渡し直前にこれを多額の損失が発生するような譲渡価額で売却したものであり,これは同族会社でなければ行い得ない行為であって,結果として,原告の法人税の負担を不当に減少させることになっていたため,このような原告の行為に対して同条1項の規定を適用したことは適法である。
エ 賃貸借契約書の信憑性等について
原告主張の鑑定評価書には,評価の前提条件たる原告と商工ファンドとの間の賃貸借契約の内容が,賃貸借期間や敷金の有無等の点においてそれぞれ異なっている上,売買契約日には鑑定評価書がいまだ存在しない時期であることからしても,鑑定が行われた時点では原告と商工ファンドとの間で正規の賃貸借契約書が作成されていなかったというべきであり,賃貸借契約書は,売買契約以前から賃貸借契約が結ばれている外形を作り上げ,β不動産の評価減を目論んで日付けを遡及して作成されたものと推測される。
オ β不動産譲渡の不当性
(ア) 原告は,商工ファンドの指定するβ土地を取得して,賃貸物件としては汎用性のない個性的な建物を商工ファンドの要望どおり建築し,正にこれから商工ファンドへの賃貸事業を通じて資金回収を図ろうとしている状況で,自らの意思でそれまでの40億円以上の投資を放棄し,半額以下の価額で売却することは,およそ経済的合理性を欠き,営利を目的とする企業の取引としては本来成立し得ないものである。
むしろ,原告が評価センターにβ不動産を移転させたのは,当時の原告にことさら損失の計上及び蓄積を図ろうとする動機があり,β不動産取引も,帳簿上の損失の発生を目的として行われたものとみるほかない。
一方,評価センターでは,資金手当ての目途がつかないまま売買契約に至り,契約後3か月経過してようやく売買価額の全額をベントリアンローンを通じて資金調達することにより平成12年2月3日に決済したものである。当該ベントリアンローンもP1により計画されたものであるが,借入金額25億円に対し,その利率は年率11パーセント,年間2億7500万円の支払利息に対し,β不動産売買契約に伴い賃貸人たる地位を原告から承継する評価センターが賃借人である商工ファンドから受領する賃料は年間1億2000万円にとどまり,経営収支上は破綻することが確実であり,評価センターにとってはβ不動産の購入の動機すら認められない。
原告は,保有する商工ファンド株式を海外持株会社に売却することを計画し,商工ファンド株式を売却することに伴い発生する売却益を相殺して課税所得が生じないようにするために,およそ年間40億円から50億円程の損失を計上することを企図しており,このうち,EB債1による利息支払で発生する年額約30億円程度の赤字によっても賄いきれないおよそ20億円の損失を追加的に計上することを計画していたものと認められ,β不動産の譲渡損約23億円は数字の上では原告の意図した損失計上額とおよそ符合することからしても,β不動産売買の動機は正に不適切な形態での損出しが目的であること以外に説明ができないものというべきである。
(イ) この点,原告は,β不動産の売買によって原告が譲渡損失を発生させたことは,税法上許容されるいわゆる「損出し」であると主張するが,原告のいう「損出し」とは,正常な売買等を通じて帳簿価額と時価の差額を顕在化させるものであって,飽くまでも市場での売買が成立し,正に第三者間で取引がされている場合を指し,本件のように,原告が多額の損失を生じさせることを意図して行った,通常の経済人としては合理的な取引であるとは認められない取引の場合とは,本質的に異なるものである。
(ウ) β不動産取引における正当な価額
β不動産の取引の経済的実体を見れば,評価センターは,ただ単に,原告が有するβ不動産に関する権利を原告がそれまで投資してきた半額の値段で得たにすぎない。評価センターは,商工ファンドに賃貸する目的の仕様により建築された物件を取得し,予定どおり商工ファンドとの賃貸借契約に基づく収益を得ることとなった。また,譲渡の時点においての評価センターの地位は,請負契約が完了する前の引渡前の物件を引き継いだのであるから,請負価格に係る資産価値を引き継いだものである。
また,評価センターは,完成直前まで,原告に建築までのすべての金額を負担させておき,引渡し直前に当該権利関係を引き継ぎ,原告に取って代わったものである。すなわち,評価センターにとっては,商工ファンドの意向に基づくβ建物を,原告に完成してもらい,できあがったところで入れ替わったにすぎない。このような取引は,同族会社間でしか行われ得ず,本件の場合の評価センターが取得した価値は,β建物については請負価額たる帳簿価額をもって算定することが,最も移転した価値を正当に表すものというほかなく,原告にとっては,評価センターに移転させた価値である帳簿価格と譲渡価額との差額が寄附金と認められる。
したがって,β土地については,原告のβ土地取得時が譲渡時と時間的に離れており,当時に比べ多少の価格変動が生じているものとして,公示価格を参考に算定し,β建物については上記のとおり,建物仮勘定に計上されている建物価額によって価値の移転があったものとして法人税法132条1項の規定を用いるべきである。
この点,原告は,公示価格は更地としての地価を示すものであるから,土地の上に建物が存するβ土地を評価するに当たって,それを考慮しない計算は誤りである旨主張する。
しかし,評価を行うに当たっては,最有効利用がされているか否かが検討されるべきであり,物件に取り除かねばならない障害がある場合,評価額が減額されるものである。本件においては,土地の上にβ建物が存在するが,かえって,当該土地の使用目的どおりの最有効活用がされた状態にあるので,全くマイナスの要因はなく減額の必要はないものというべきである。
カ 「税負担の減少」の有無について
(ア) 原告は,β不動産売買によっても「税負担の減少」は生じていない旨主張する。
(イ) しかしながら,法人税法132条1項は,「不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは,・・・・その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる。」と規定していることからすれば,当期の法人税額が更正処分後も異動がない場合であっても,当初計上された欠損金額のうちに,通常の経済人の行動として,不合理,不自然な行為によって作出された欠損金額が含まれており,当該欠損金額が翌期以降に繰り越されることによって,翌期以降の損金に算入されることで法人税を減少させる結果となるのであれば,当該欠損金額に対しては,当期において同条は適用されるものというべきである。
そして,原告は,平成12年5月期事業年度において,β不動産取引により23億4313万6510円の所得金額を減少させ,当該事業年度の欠損金額を同額増加させており,その結果,翌期以降の法人税を減少させることとなることは明らかであるから,同条の適用要件に欠けるところはない。
(2) 理由付記の不備はないこと
原告は,β不動産に係る平成12年5月期更正処分において,いかなる行為計算が否認の対象とされ,代わりに税務署長はいかなる行為計算を認定して税額等を計算したのか不明であると主張する。
しかしながら,β不動産についての理由付記をみるならば,否認対象とされた行為及び計算とは何かについて,要旨「売却した土地建物等の価額が当該土地に係る公示価格及び什器備品付建物の取得価額の合計額に比して著しく低額と認められること」及び「当該土地建物等を使用する者,すなわちP1の判断で通常の建築単価を遥かに上回る建物を建築し,これを完成後直ちに多額の損失が発生するような対価の額で売却する行為は,結果として,貴社の法人税を不当に減少させること」になるとして,否認対象とされた行為計算は,著しく低額と認められる譲渡により法人税を不当に減少させたことと記載しており,「売却金額との差額18億8313万6899円は,法人税法132条第1項の規定に基づき,同法37条7項の寄附金に該当するものとして所得金額を計算します。」として,同族会社の行為計算否認を行ったこと及びその具体的な計算方法を記載している。
したがって,否認の対象とした行為計算,認定した行為計算を記載しており,その記載の程度は不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨・目的に照らしても,法の要求する更正理由の付記として欠けるところはなく,原告の主張に理由はない。
2 原告の主張
そもそも,被告が原告と評価センターとの間のβ不動産売買契約の否認の根拠としている法人税法132条は,前記第3の1のとおり,憲法14条1項の法の下の平等に反し,違憲である。
仮に,かかる憲法違反の主張が認められなかったとしても,β不動産売買契約には不合理な点はなく,法人税法132条による行為計算の否認の対象とはならない旨の原告の主張の詳細は別紙5の第2章β不動産売買についての「KEの主張」欄記載のとおりであるが,その主張の中核的部分は次のとおりである。
(1) 売買価格が低額ということはないこと
ア 原告と評価センターとの間の平成11年11月2日付けβ不動産売買契約についての売買価格は,以下のとおり,独立の第三者である不動産鑑定専門会社が,正当な評価方法に基づいて算出した評価額に基づいて決定された価格であるから,低額ということはなく,法人税法132条1項の要件を満たさない。
(ア) 税法上の「時価」とは,課税時における当該財産の客観的交換価値をいい,当該交換価値とは,それぞれの財産の現況に応じ,不特定多数の当事者間において,自由な取引が行われる場合に常に成立すると認められる価格であって,いわゆる市場価格と同義であると解すべきである。
(イ) β不動産の売買価格は,土地及び建物につき,それぞれ不動産鑑定業界で信用力の高い日本土地建物株式会社,トーエイ不動産鑑定株式会社,株式会社昭和鑑定法人の鑑定評価額の平均値であり,適正な「時価」である。
また,建物に付随する什器備品は,取得価格のまま評価したものである。
イ この点,被告は,β不動産売買契約の契約日と上記各鑑定評価書の作成日付が先後していることを論難するが,売買契約においては,代金額の決定方法が確定すれば足りるから,β不動産売買契約の日付と各鑑定評価書の作成日付とが先後していることは,その時価の適正性について影響しない。
なお,関係会社間取引に限らず,契約書の日付を遡って記載することは,我が国においては日常茶飯事のことであり,P1が支配する関係会社間だからこそ行い得る行為の証左ともいえない。
(2) β不動産売買契約の理由
ア 原告が,β不動産売買契約を行った理由は,いわゆる商工ローン・バッシングがあったからである。
すなわち,平成11年後半から激化した商工ローン・バッシングの一環で,商工ファンドのゲストハウスとして使用されることが予定されていたβ建物についても,週刊誌等で大きく取り上げられ,バッシングの対象とされることが予想されたため,原告は,β不動産売買契約を締結したものである。現に,β不動産売買契約締結後,雑誌「週刊文春」や日刊紙「夕刊フジ」に,β建物の建設が批判的に取り上げられている。商工ファンドのオーナー系企業である原告が,直接β不動産を保有していたのでは,マスコミによるバッシングの対象となりやすいとの判断から,知名度が低く,社名もP1家族との関係が分かりにくい,評価センターにβ不動産を保有させることとなったものである。
イ この点,被告は,原告が当初からβ不動産を評価センターに譲渡することを予定しており,賃貸人となるべき評価センターが投下すべき資金を原告が立て替えている関係にあった旨主張するが,商工ファンドと最初に賃貸借契約を締結したのは原告であるから,いかなる意味においても,評価センターが最初の賃貸人となった事実はないし,原告が,評価センターが負担すべき費用を立て替えた事実もない。また,土地についてみても,原告が購入した物件がそのまま引き継がれることが予定されていたとはいえない。さらに,被告の主張によれば,取得時から評価センターへの売買時までの間にβ土地の時価が下落しようとも,当該下落による損失を原告が被るべき理由はないはずであるから,β土地の時価の下落を考慮して取得価額ではなくβ不動産売買当時の公示時価を参考とすべきとの被告の主張は,それ自体で破綻しているものでもある。
(3) 法人税法132条の要件の欠如について
ア 「売却によってその用途が変わるものでないこと」について
(ア) 渋谷税務署長は,β不動産売買契約に係る平成12年5月期更正処分に更正の理由として,β建物が「売却によってその用途が変わるものでないこと」を法人税法132条の適用の根拠として記載していた。
(イ) しかし,原告が売買代金算定のために取得した各鑑定評価書では,鑑定対象不動産の価格を形成している個別的要因として,β土地及びβ建物の「用途」が明記されるなどしており,β土地及びβ建物の売買の前後で,当該用途が変更されることを前提としていないから,被告の主張は前提を欠くものである。
イ 「売却が建物の完成前に行われていること」について
(ア) また,渋谷税務署長は,上記更正処分の理由として,「売却が建物の完成前に行われていること」を挙げている。
(イ) しかしながら,取引当事者が,いつ取引を行うかは,取引当事者が自由に決定し得る事項であるから,β不動産が,いつの時点で売買されていようが,当該時点における「時価」で売買されていれば,税務上もこれを認容すべきである。
(ウ) この点,被告は,「建物の完成から売却までの減価を検討する必然性は全くない。」とも主張しているが,上記各鑑定評価書は,実質的に,経年による減価を行って決定されたものではない以上,被告の主張は前提を欠き失当である。
ウ 「β建物の所在する地域の特性からしていわゆる収益還元法による評価額を加味することは適当でないと認められること」について
(ア) さらに,渋谷税務署長は,上記更正処分の理由として,「β建物の所在する地域の特性からしていわゆる収益還元法による評価額を加味することは適当でないと認められること」を挙げている。
(イ) しかしながら,β建物の所在する地域のいかなる「特性」が,収益還元法による評価額を加味すべきでないことの理由になるのか,その論旨は不明である。
上記各鑑定評価書では,正に「β建物が所在する地域の特性」を含む,β土地及びβ建物の特性を考慮した結果,収益還元法による評価額を考慮して,適正な売買価格を評価している。そして,そこで考慮されている「β土地及びβ建物の特性」の中には,β建物が商工ファンドを賃借人とする10年間の賃貸借に供されており,β土地及びβ建物の購入者は,β土地及びβ建物を自由に処分し得ない,という点も当然に含まれている。また,各鑑定評価書は,単に,収益還元法のみによりβ不動産の時価を鑑定評価したものではなく,収益還元法以外の方法によってもβ不動産の時価を鑑定評価した上で,両者の評価額の間で調整を行い,最終的な鑑定評価額を算定している。むしろ,β不動産は,土地所有者ではない賃借人商工ファンドに10年間の賃貸借に供されている以上,収益還元法による時価評価を考慮するのが当然であって,それ以外に合理的な不動産鑑定評価方法はあり得ないともいいうる。
むしろ,国土交通省作成の不動産鑑定評価基準に照らしても,収益還元法によって不動産鑑定評価をしない場合には,不当鑑定となるとされているくらいである。
(ウ) さらに,被告は,上記各鑑定評価書の前提とされた原告と商工ファンドとの間のβ建物等の賃貸借契約における建物賃料月額750万円の妥当性についても論難するが,各鑑定評価書によれば,β不動産売買契約が行われた平成11年12月時点におけるβ不動産の正常賃料は,750万円ないし748万円とされているから,当該賃料額は適正である。
エ β不動産の時価について
(ア) 前記アのとおり,「時価」には,関係会社間の「時価」と独立当事者間の「時価」というダブルスタンダードがあるわけではないから,β不動産売買契約が関係会社間で行われようと否とにかかわらず,そのような事情は,税法上の「時価」の算定上は全く無関係な事柄にすぎない。
(イ) また,上記各鑑定評価書においては,市場性減価を行っているが,売買契約を関連会社間ではなく,独立第三者間(非同族会社間)で行うとすれば,売買契約の対象物件について市場性による減価を行うことは当然である以上,これを関連会社間で考慮してはならないという理由はない。
オ β不動産売買契約によって「税負担の減少」は生じていないこと
平成12年5月期事業年度の原告は赤字決算であるため,β不動産売買契約により,原告においては,単に繰越欠損金額が変動しただけである。
また,原告は,現在に至るまで,当該繰越欠損金を消化していない。
よって,法人税法132条にいう「税負担の減少」は生じていないことになる。
カ いわゆる「損出し」を否認することはできないこと
原告のβ不動産売買契約の動機がいわゆる「損出し」であったとしても,これと税法上の「時価」の評価とは無関係である。
また,非同族会社でも,「損出し」を行うことは何ら珍しいことではない。むしろ,法人税法132条の趣旨は,同族会社と非同族会社との間の租税負担の公平を図ることにある以上,同族会社といえども,非同族会社と同様の「損出し」取引を行うことを同条に基づき否認することは,同条の趣旨にすら反するというべきである。
キ いわゆる「損の付け替え」の容認は不当なはずであるのに,β不動産売買契約が容認された場合には,「損の付け替え」が行われることを許容する結果となること
被告の主張によれば,原告は,関連会社である評価センターに対して,β不動産を独立当事者間の「時価」で売却することはできないが,評価センターが,第三者に対して,β不動産を独立当事者間の「時価」で売却することはできることとなり,これでは,課税実務上許容されていないいわゆる「損の付け替え」が許されることになってしまう。
(4) 理由付記の不備
β不動産売買契約に係る平成12年5月期更正処分には,渋谷税務署長が,β不動産売買契約について,いかなる行為計算を否認対象とし,代わりに,いかなる行為計算を認定して税額等を計算したのか不明であって,理由付記の不備の違法がある。
青色申告法人に対する更正処分について,法人税法130条2項に反する理由不備は,事後的に理由を補充することにより治癒することができない処分の取消事由であり,更正が複数の理由による場合において,一部の理由付記に不備がある場合には,更正はその理由に対応する部分について違法となるものというべきである。
第5争点(5)(ベントリアンローンに係る支払利息の性質,重加算税の賦課要件の有無,理由付記不備の有無)について
1 被告の主張
ベントリアンローンに係る支払利息がP3及びP4に対する利益供与であり,評価センターの平成12年6月期事業年度及び平成13年3月期事業年度においては寄附金に当たり,損金算入限度額の再計算をする必要があり,原告の平成13年5月期事業年度及び平成14年5月期事業年度においてはP3及びP4が原告の取締役であることから損金算入できない役員報酬に当たる旨,上記寄附金はP3及びP4に対する利益供与を隠ぺいする形態で行われたものであり,重加算税の賦課要件を満たす旨及びベントリアンローンに係る本件各処分には理由付記不備の違法はない旨の被告の主張の詳細は別紙4の第3ベントリアンローンの「主張の趣旨」欄及び「証拠及びそれによる立証趣旨等」欄記載のとおりであるが,その主張の中核的部分は次のとおりである。
(1) ベントリアンローンの支払利息のうち,ラファエロに配当される7.58パーセント相当額は,P3及びP4に対する利益供与に当たること
ア P114兄弟の資金化の経緯
平成11年6月7日,P114兄弟はP1の紹介により,各々保有する1万株の商工ファンド株式を,ブロックトレード(市場を通さずに証券会社と相対で売買すること)により,同月11日(受渡日)に単価7万1000円で売却し,手数料を差し引かれた後の6億9265万円を取得し,ベントリアンローンの原資とされた。
イ ベントリアンローン策定の経緯
ベントリアンローンに係るスキームは,P1及びその周辺の者が骨組みを策定し,ボス社のP29に依頼して,実施したものである。
ウ β不動産の譲渡からベントリアンスキームの実行まで
(ア) 平成11年11月2日に原告と評価センターとの間でβ不動産の「土地・建物売買契約書」が締結され,同日,譲渡代金を決済した上でβ不動産を引き渡す旨約定されたが,譲渡代金の決済は同日には履行されず,翌年の平成12年2月3日になってから履行された。
(イ) 平成11年11月25日付けで商工ファンドからING証券あてに送付されたファックス文書の中の商工ファンド作成のメモにおいて,ベントリアンスキームの原型とでも呼ぶべき仕組みが考案されていた。そこには,国内居住者たる投資家から3パーセントの金利で25億円を調達すること並びにSPC2の優先株へ出資するラファエロ及びラファエロに出資するクリオスU/Tに相当する存在に言及されていたほか,SPC1東京支店の代表者がP29であることも記されている。
現にベントリアンローンがほぼ同メモの記載どおりに実行され,更に同日時点でP114兄弟の商工ファンド株式の売却資金25億円相当が大和證券で運用されていたことからすると,上記原型メモにおける国内居住者とはP114兄弟を指し,25億円の資金はP114兄弟の商工ファンド株式の売却資金と推測される。また,ベントリアンローンそのものはもともとは3パーセントの金利で資金調達することが予定されていたことがわかる。
(ウ) 平成11年12月6日に評価センターはボス社に一連の業務を委託した。当該業務契約に基づき,ボス社はマセソントラストへ委託して,ベントリアン及びベントラー社をそれぞれ1米ドルで同月21日に設立し,ベントリアン東京支店を平成12年1月7日に設置した。
このベントラー社がラファエロへ優先株を発行する手続は,商工ファンドP23からの依頼によりP29がマセソントラストを通じて手配したものであり,ラファエロは,ベントラー社に支払利息の10.78パーセント相当額が入金された後,平成13年2月28日にベントラー社あてに優先株の割当申請を行っている。
エ P114兄弟がベントリアンローンに資金拠出した経緯
P114兄弟がベントリアンローンに資金拠出した経緯について,P1は,本件調査担当者に対して,ベントリアンローンの投資家を探しているさなかに,P114兄弟から商工ファンド株式の売却資金の運用を依頼されたので,2つを一緒(P114兄弟を投資家にすること)にすることとした旨述べ,利率については,P114兄弟は国債を少し上回る金利を希望していたものの,海外投資家であれば11パーセントの金利は普通であるので,ベントリアンローンの金利は変更しなかったと説明しており,他方で,原告の顧問であり,商工ファンドの関連事業部の面倒をみているP6会計士も,P114兄弟が資金を拠出した理由について,株を売却して得たキャッシュの運用を頼ってきたためであると説明した。
オ ラファエロの設立の経緯
平成14年9月9日,P6会計士は東京国税局調査第一部外国法人調査第2部門の係官の質問に答え,ラファエロは,P1の指示により設立され,LGTが設立したものであり,P114兄弟には利回り11パーセントは高いから,別にP1の子供に分けるというP11社長の指示でP1はラファエロというSPCを設立したと説明し,2人の子供に7パーセント相当の金利を流す状態となっていると説明している。
カ ベントラー社,ラファエロ,コイオスU/T及びクリオスU/Tの役割
実際の取引を詳細に見ていくと,ベントラー社の役割は,コイオスU/T経由で流れてきたP114兄弟の資金を評価センターへ向けて流すこと及び原告又は評価センターからベントリアンを介して流れてくる支払利息相当額(そのうち0.22パーセントをベントリアンの手数料として差し引いた後の金額)から,コイオスU/Tに社債利息として25億円の3.2パーセントを,また,ラファエロに配当として7.58パーセントを各々分配することであったことがわかる。そして,ラファエロは,ベントラー社の優先株を持つことでベントラー社に流れてくる10.78パーセントの利息相当額のうちの7.58パーセントを配当の形で受け取り,P3及びP4に対し利益を供与するという役割を担っていたものと判断される。
また,コイオスU/Tはユニット・トラスト,すなわち信託であって,その収益は受益権保有者であるP114兄弟に帰属し,ベントラー社からの3.2パーセント相当分はそのままP114兄弟に帰属することとなるから,P114兄弟は,3.2パーセントの利率を受け取ることを予定して資金を拠出したものと認められる。
さらに,クリオスU/Tはユニット・トラスト,すなわち信託であって,その収益は受益権保有者であるP3及びP4に帰属し,ベントラー社からラファエロを経由した7.58パーセント相当額の配当がそのままP3及びP4に帰属することとなる。
そして,ラファエロによるベントラー社発行の優先株の購入及びベントラー社からラファエロへの支払配当は,このP3及びP4への利益供与を隠ぺいするための仮装行為と認められる。
(2) ベントリアンローンにおける適正金利
ベントリアンローンの適正利率は,事実上P1の債務保証が付された結果,3.2パーセントの金利水準で,P1をその代理人とするP114兄弟が評価センターと合意したものと認められることから,3.2パーセントの金利水準は,評価センターの信用力及びβ不動産の担保価値というよりは,むしろP1個人の信用に基づいて導出されたものであるという点で,妥当な金利でもある。
(3) ベントリアンローンに係る本件各処分の根拠及び適法性について
ア ベントリアンローンにおける契約当事者の合意の実質と原告の仮装取引
ベントリアンローンにおける契約当事者の真の合意は,3パーセント程度の利回りでP114兄弟が25億円の資金を原告に提供し,原告が11パーセントの支払利息を支払う形をとってそのうちの3パーセント程度はP114兄弟に利息として支払い,残りはP1の子供(P3及びP4)に利益供与するというものであった。原告はこの合意を隠ぺいするために,P114兄弟から取り込んだ資金25億円を,コイオスU/T,ベントラー社,ベントリアン及びベントリアン東京支店といった実質的な機能を有しない法人等の名義の銀行口座を通過させて,自己の口座に入金させ,これらの法人等を通じて海外投資家から正常な融資を受けたかのような取引外形を作出するとともに,その過程で,上記(1)カのような仮装行為により,25億円の7.58パーセント相当額をP3及びP4に対して利益供与していた。
イ 課税処分の根拠及び適法性
このように,原告が契約等において選択した法形式と合意の実質は異なるのであるから,これを取引の経済的実体を考慮した実質的な合意内容に従って解釈し,その真に意図している私法上の事実関係を前提として法律構成を行なうと,P3及びP4への金銭の流れは,利益の供与であり,原告が支払利息を支出した時点(未払いを含む。)で両人に対し実行されたものであるといえる。
したがって,原告が評価センターを吸収合併する以前におけるこの利益供与部分については,評価センターからP3及びP4への支出寄附金として損金算入限度額の再計算を行うとともに,合併後のそれは,法人税法34条3項に規定する役員報酬に該当し,同条2項の「事実を隠ぺいし,又は仮装して経理をすることによりその役員に対して支給する報酬の額」に該当することから,損金不算入として所得金額の再計算を行う必要があり,それに基づいて行ったベントリアンローンに係る本件各処分は適法である。
ウ 通則法68条1項の仮装・隠ぺいについて
(ア) 役員報酬又は寄附金に該当する経費について,その実態を秘匿し,正常な金銭貸借取引であるかのように装った隠ぺい仮装について
ベントリアンローンの実態は,年利7.58パーセント相当額部分については,役員報酬又は寄附金に該当するところ,原告は,上記(1)カのとおり,ベントリアンローンが,あたかも原告とは無関係の第三者からの借入れであり,適正な支払利息を支払ったように装ったものであって,この点において,隠ぺい仮装が認められる。
(イ) 当初から過少申告を意図し,これを外部からうかがい得る特段の行動が認められること
仮に,上記(ア)が認められなくとも,原告がP3及びP4に7.58パーセント相当額をそのまま拠出すると,原告にとっては,損金算入の制限がある寄附金又は役員報酬の支出となることや,P3及びP4においても所得税が課税されることは明白であった。そこで,原告は,P3及びP4に対して行う利益供与や,その支出が寄附金ないし役員報酬に該当することを隠ぺいするため,真実は,P114兄弟から3.2パーセントの金利で資金調達をするだけである取引に,わざわざ7.58パーセントの利益供与となる利率を上乗せし,あたかも,ペーパー法人であるベントリアンと年利11パーセントの利率で通常の金銭消費貸借契約を締結したかのごとく仮装し,7.58パーセントの利率相当額を水増しして支払利息として計上し,これを損金の額に算入したものである。
このような原告の行為計算からすると,原告は,当初から損金計上を制限される役員報酬又は寄附金について,あたかも第三者からの通常の借入れであり,その利率が適正であるかのように言い張って,損金に計上して,課税所得を少なく申告しようとした意図が当初からあったといわなければならない。
そして,このような意図は,ベントリアンその他の外国法人,外国信託を設立し,債券の発行その他のことさら複雑かつ迂遠な取引を仕組み,これを実行した事実からうかがい知れるところであり,原告には,当初から過少申告を意図し,これを外部からうかがい知れる特段の行動を行い,かつ,その過少申告の意図に基づいて,申告を行ったことが認められるから,重加算税の賦課要件を満たす事実が存在する。
(4) 理由付記不備の違法はないこと
原告は,ベントリアンローンに係る本件各処分において,3.42パーセントが適正な市場レート利率であることを根拠付ける理由が記載されていないことは,当該処分の適法性を論理的に支えるに必要不可欠な根拠の記載を欠くと主張する。
しかしながら,本件におけるベントリアンローンに係る本件各処分についての理由付記をみるならば,まず,評価センターが計上した借入金の資金提供者は,P114兄弟と認められるとしてその理由となる事実を摘示し,次に,当該借入金に係る支払利息についてラファエロに支払われた金額がP3及びP4に対する利益供与であるとしてその理由となる事実を摘示し,最後に,ラファエロに支払われた金額は各役員(P3及P4)に対する報酬であり,また,法人税法34条2項に該当する報酬であって損金の額に算入されないとしてその理由を摘示し,計算の根拠を記載しているものである。
したがって,ベントリアンローンに係る本件各処分についての理由付記は,処分に至った理由が十分に記載されているところから法の要求する更正理由の付記として欠けるところはなく,理由付記制度の趣旨・目的を充足する程度に具体的に明示されているものである。
なお,原告のいうように,「3.42パーセントが適正な市場レート利率であることを根拠付ける理由」は記載していないが,理由付記制度の趣旨は,上記のとおりであり,想定される争点についてまであらかじめ記載をすべきことまで要求されるものではないから,ベントリアンローンに係る本件各処分についての理由付記は,法の要求する更正理由の付記として欠けるところはなく適法である。
2 原告の主張
ベントリアンローンに係る支払利息がベントリアンに対する適正な支払利息であり,P3及びP4に対する利益供与には当たらない旨,原告は重加算税の賦課要件となる仮装・隠ぺいを何ら行っていない旨及びベントリアンローンに係る本件各処分には理由付記不備の違法がある旨の原告の主張の詳細は別紙5の第3章ベントリアンローンについての「KEの主張」欄記載のとおりであるが,その主張の中核的部分は次のとおりである。
(1) ベントリアンローンに係る争点のとらえ方
被告は,ベントリアンローンによる融資額25億円に係る年利11パーセントの利息額のうち,①ベントリアンが得た年利0.22パーセント相当分の利ざや額及び②コイオスU/Tが受領した元本25億円のベントラー社の社債利息の年利3.2パーセント相当分については,評価センター又は原告による損金算入を認めて,ベントリアンローンにより25億円の資金を調達したこと自体は経済的に合理的な取引として認めた上で,上記合計3.42パーセントを超過する部分の利息支払についてのみ,その損金性を否認しているから,当該融資資金の出し手がP114兄弟であろうと独立の第三者であろうと,また,原告から年利11パーセントの支払利息を受領した者がP3及びP4であろうと独立の第三者であろうと,本件の議論の本質は,ベントリアンローンの利率である年利11パーセントが,経済的に合理的な利率であるか否か,すなわち,評価センターが,ベントリアンローンを締結した平成12年1月28日当時,ベントリアンローンと同じ条件で25億円の資金調達をしようとしたときに,調達可能であったと考えられる経済的に合理的な金利水準といえるか否かにかかっている。
(2) 年利11パーセントが経済的に合理的な利率であること
ア 評価センター又は原告とベントリアン東京支店との間のベントリアンローンは,評価センターが保有し,商工ファンドに賃貸しているβ土地及びβ建物を担保とする,元本25億円,年利11パーセント,期間10年間の融資契約である。
通常,銀行等の金融機関が,不動産を担保として融資を実行する際には,担保に供せられた不動産の担保価値を,当該不動産の時価の7割ないし8割と評価する。そして,ベントリアンローン締結直前に行われた平成11年11月2日付けβ不動産売買契約における売買価格は19億8674万9010円であり,これは信用のある不動産鑑定評価法人3社が算定した評価額を平均して決定された価格であって,正当な時価であるから,担保の掛け目を仮に7割5分とした場合,ベントリアンローンの担保に供せられたβ不動産の担保価値は約15億円と考えられることになる。したがって,仮に,銀行等の金融機関が,評価センターに対して,β不動産を担保として融資を実行する際には,その融資限度額は,約15億円ということになる。
イ しかし,評価センターは,原告からβ不動産を購入するに際し,自己資金を十分に有していなかったことから,β不動産の売買価格である約20億円全額を新たに調達する必要があった。
そこで,ベントリアンローンの利率11パーセントは,
① 優先部分(実質β不動産担保部分)15億円(期間10年間)を年利8パーセント程度,
② 劣後部分(実質無担保部分)5億円(期間10年間)を年利20パーセント程度
とし,その加重平均によって,11パーセントと算出したものであって,経済的に合理的な利率である。
ただし,後にベントリアンローンの借入額は25億円に増額されているが,利率については上記11パーセントのままに抑えられている。
ウ(ア) ①優先部分(実質β不動産担保部分)15億円の年利8パーセント程度について
ベントリアンローンが締結された平成12年1月28日当時の,日本の格付機関によりBB(ダブル・ビー)を取得している高利回り債(ジャンク・ボンド。すなわち,日本の格付機関による格付けがBBB(トリプル・ビー)以下の債券である。)の市場実勢レートとしては,年利8パーセントは相当な利率である。
(イ) ②劣後部分(実質無担保部分)5億円の年利20パーセント程度について
当時の日本の格付機関によりB(シングル・ビー)を取得している高利回り債の市場実勢レートとしては,20パーセントは相当な利率である。
特に,評価センターは無格付の非公開会社であり,B(シングル・ビー)とはいえ,格付けを取得している公開会社よりも,一般論として信用力が低いと考えられること,上記市場実勢レートは,あくまでも,通常は信用力の比較的高い会社しか発行できない公募社債の利回りであるのに対し,ベントリアンローンのように,法人向けの個別的な不動産担保融資では,一般論として,貸し手である金融機関が強い立場で主導的に貸し手に有利な金利を設定する場合が多いこと等からすれば,期間10年間のベントリアンローンの無担保部分のレート20パーセントは,決して高くないといえる。
(3) ベントリアンローン締結に至る経緯等
評価センターは,β不動産の購入資金約20億円の資金調達をする意図で,ベントリアンローンの準備を進めており,ベントラー社は,海外の単数又は複数の投資家から,総額20億円程度の資金を,評価センターが支払うことになる11パーセントの金利から,ベントリアン東京支店の利ざや0.22パーセントを控除した10.78パーセント未満の金利で調達してくる必要があったところ,ベントリアンローンのスキームがほぼ確定した後に,急に,P114兄弟から,P1に対して,「総額25億円の資金について,運用をお願いしたい。運用益は1パーセント以上,できれば3パーセント程度欲しい。」との要望があった。そこで,P1は,ちょうどその当時,ベントラー社が,平均10.78パーセント未満の金利で,総額20億円の資金調達をする必要があったことから,P114兄弟の上記要望を受け入れた。ただし,P114兄弟は,P1に対して,25億円の運用先については一切口を出さず,すべてP1に委ねており,金利は3パーセント程度しか望まないということであった。現に,P114兄弟は,上記25億円が,ベントリアンローンのための資金調達に充てられたことを知らないものと思われる。
そこで,P1は,P114兄弟から運用を委ねられた上記25億円の運用者として,コイオスU/Tの投資信託委託会社(トラスティー)を紹介した。そして,当該投資信託委託会社は,検討した結果,この資金を,期間10年間で年利3.2パーセントのベントラー社の社債25億円の購入に充てることとしたものである。
かかる経緯から,当初は,評価センターが,β不動産の売買価格である20億円を調達する予定でベントリアンローンのスキームが決定されていたにもかかわらず,P114兄弟が25億円を提供したため,やむを得ず,ベントリアンローンの元本額も急きょ25億円に変更された。
このように,ベントリアンローンについては,適正な市場レート(11パーセント)が算定されていたが,偶然にも,P114兄弟がP1に25億円を3パーセント程度で運用するよう突然依頼してきたために,結果的には,ベントラー社は,想定していたよりもかなり低い金利で資金調達することができてしまい,その結果,ベントラー社は,結果的に7.58パーセントの利ざやを得ることとなり,ベントラー社の株主であるラファエロは,1万米ドルの出資に対して,予期せぬ高配当を受けることとなったものにすぎない。
そして,ラファエロが予期せぬ高配当を受けたことは,ベントラー社が偶然に得た利益を処分しただけのことであり,ベントリアンローンが適正な市場レート(11パーセント)により実行された融資であることには何ら影響がない。
(4) 行為計算の否認の危険性
仮に,ベントラー社がP114兄弟から想定していたよりもかなり低い3.2パーセントの金利で25億円の資金調達をできたことを理由として,ベントリアンローンの利率を,ベントリアン東京支店の利ざや0.22パーセントを加えた3.42パーセントとした場合には,逆に,評価センターは,市場レートよりも低金利で融資を受け,市場レートと3.42パーセントとの金利差相当の利息の支払を免れたものとして,P114兄弟から評価センターへの寄附があったとみなされる税務上のリスクがあったものである。
(5) クリオスU/Tはベントリアンローンの利息をいまだに受領していないこと
クリオスU/Tは,いまだ,ベントラー社からラファエロに配当されたベントリアンローンの利息年利7.58パーセント相当額について,ラファエロから配当を受領していない。よって,クリオスU/Tの受益権保有者がP3及びP4であることを根拠に,法人であるラファエロが保有するベントリアンローンの利息年利7.58パーセント相当額が,P3及びP4に帰属するものと認定することはできない。
(6) コイオスU/Tの受益権買取後のベントリアンスキームについて
原告がP114兄弟からコイオスU/Tの受益証券を買い取る以前に成立していたベントリアンローンの適正利率と,P114兄弟からの自分勝手な要求という,一種のハプニングにより,原告が急きょコイオスU/Tの受益証券を買い取らなければならなくなったこととは全く無関係の事柄である。
仮にその点を措くとしても,コイオスU/Tが10年間無分配であるために,毎年の分配を望んでいたP114兄弟から不満が出て,原告が,P114兄弟からコイオスU/Tの受益権を買い取らなければならなかったという経緯から,当時は,P1自身,コイオスU/Tを満期前に償還することができないものと思い込んでいたために,原告がP114兄弟からコイオスU/Tの受益権を買い取った後も,当初のスキームを維持せざるを得ないと考えていたから,コイオスU/Tの受益権買取後もベントリアンスキームが続けられていたものにすぎない。
(7) 法人税法34条2項の仮装・隠ぺいについて
ラファエロが取得した7.58パーセントの利息相当額はP3及びP4に対する利益供与ではないが,仮に,これが役員報酬に当たるとしても,原告はこれを何ら仮装・隠ぺいしているものではない。
(8) 通則法68条1項の仮装・隠ぺいについて
上記(7)と同様に,ラファエロが取得した7.58パーセントの利息相当額はP3及びP4に対する利益供与ではないが,仮に,これが寄附金に当たるとしても,原告はこれを何ら仮装・隠ぺいしているものではない。
(9) 理由付記不備の違法
ベントリアンローンに係る本件各処分は,ベントリアンローンに基づく11パーセントの利息のうち,3.42パーセントについては損金算入を認めながら,残りの7.58パーセントは損金算入を否認しており,ベントリアンローンの利率については,3.42パーセントが適正な市場レートであると認定されたものと解されるところ,上記各更正処分の理由には,これが適正な市場レートであることを根拠付ける理由は全く記載されていないから,処分の適法性を論理的に支えるに必要不可欠な根拠の記載を欠いており,少なくとも,納税者・被処分者において,理由付記制度の趣旨の1つである不服の申立てに便宜が与えられる機能(争点明確化機能)を享受できていない。
第6争点(6)(KOBEファンド取引の否認の可否)について
1 被告の主張
(1) 主張の要旨
渋谷税務署長は,平成12年5月期更正処分において原告のKOBEファンド購入取引行為に関し,法人税法132条を適用し,前記前提事実(第2の2)のとおり,161万7126円の所得金額を減少させ,法人税を不当に減少させた行為計算について否認した。
すなわち,原告の行ったKOBEファンド取引は,経済的,実質的にみて,経済人の行動として,不合理,不自然なものであり,原告は,当該行為により法人税の負担を不当に減少させたものであるから,同条の規定により,当該取引がないものとして原告の欠損金額及び法人税の額を算定したものである。また,P1が原告から受領した売却価額3151万9000円と,原告が償還時に受領した租税公課差引後の償還金額2721万2432円との差430万6568円は,原告から原告取締役であるP1へ利益供与されたものであり,役員賞与に当たる(ただし,法人税法35条の規定により,損金不算入となる。)ものである。
よって,KOBEファンド購入取引に係る平成12年5月期更正処分は適法である。
(2) 法人税法132条の趣旨及び適用要件
前記第3の2(1)のとおり,法人税法132条の趣旨は,同族会社においては,会社の意思決定が少数の株主等の意思により左右されているため,不当に租税を回避するような行為又は計算が容易になされやすく,課税上の弊害が生じやすいことに配慮し,これを是正し,租税負担の公平を図ろうとするものであり,そのような行為や計算が行われた場合に,それを通常あるべき行為や計算に引き直して納付すべき税額を計算する権限を税務署長に認めたものである。
そして,前記第4の1(1)アのとおり,①同族会社の行為又は計算であること,②これを容認した場合にはその同族会社の法人税の負担を減少させる結果となること,③上記②の法人税の負担の減少が,専ら経済的・実質的見地において,当該行為又は計算が通常の経済人の行為又は計算として不合理,不自然なものと認められるかどうかという観点から,法人税法上不当と評価されるものであることという要件を満たすときは,同族会社の行為又は計算にかかわらず,税務署長は,正常な行為又は計算を前提とした場合の法人税の計算を行うことができる。
(3) 本件における法人税法132条の適用
ア 同族会社の行為又は計算であること
原告が,法人税法上の同族会社であることについては争いがないので,原告とP1との間で行なわれたKOBEファンド取引は,同族会社である原告の行為である。
イ 上記アを容認した場合には原告の法人税の負担を減少させる結果となること
(ア) 原告は,KOBEファンドをP1から購入し,繰上償還を受けることによって,所得金額を161万7126円減少させた。そして,当該所得減少額を原告の法人税額に与える影響に換算すると,48万5100円の法人税額の減少(原告は,平成12年5月期事業年度は赤字決算であるので,平成12年5月期事業年度には法人税額の減少はなく,欠損金額の繰越しによる将来の減少となる。)となる。
(イ) 原告主張のように源泉所得税が法人税となることはない。
法人税法68条1項は所得税法の規定により課される所得税の額は,法人税法施行令140条の2で定めるところにより,当該事業年度の所得に対する法人税の額から控除すると定めており,法は一定の条件の下で控除するとしているのであって,当然のごとく法人税から控除されるものではない。
すなわち,法人税法施行令140条の2第1項において,利子配当等に対する所得税については,法人税から控除できる金額を,その元本を所有していた期間に対応するものとして計算される所得税の額と定めている。そして同条2項においては「所得税の額は,利子配当に対する所得税の額に当該利子配当等の計算の基礎となった期間の月数のうちにその内国法人がその元本を所有していた期間の月数の占める割合を乗ずる方法により計算する」と定めており,控除できる所得税の金額は,当該所得が発生する要因となっている元本の所有期間に対応させることとなっている。原告は,同条3項2号に定める簡便法を適用しているため,所得税額の控除割合を2分の1として,所得税額に当該比率を乗じて控除額を算出してはいるが,当該規定の趣旨からいえば,原告がKOBEファンドに係る元本を所有していた期間はほんの数日であり,仮に原告が主張するように源泉徴収された所得税は法人税の前払であるとしても,当該規定の趣旨に見合う法人税の部分はほとんどないに等しい。
また,そのように控除された金額は,損金の額に算入されない(法人税法40条)のであるが,控除されない金額については,同法38条に定める損金の額に算入しない法人税の額には当たらず,損金には算入できることとなる。
このような法人税法の規定からすれば,源泉所得税は「まさに法人税の納付」であるとする原告の主張は,明らかに失当である。
(ウ) 原告は,法人税法132条の趣旨は,同族会社と非同族会社の間での租税負担の公平を図ることにあるから,それは税目にかかわらない租税負担の公平を意味する旨主張するが,各税法において同族会社の行為計算否認の規定は規定されているのであり,所得税法157条では所得税の負担を,相続税法64条では相続税又は贈与税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは,同族会社の行為又は計算の否認規定が適用されるとしている。そうすると,各税において,各税の計算が同族会社の行為又は計算によって恣意的に行われないように定めたものと解され,法人税法132条の規定に租税負担の公平という趣旨があるからといって,直ちに,その租税の意味する税が,あらゆる税を含む諸税の合計であるとはいえない。
(エ) さらに,原告は,平成12年5月期事業年度は繰越欠損金が増加しただけで法人税額に影響はなく,税負担の減少の要件に欠けている旨主張する。しかし,前記第4の1(1)カ(イ)のとおり,当期の法人税額が更正処分後も異動がない場合であっても,当初計上された欠損金額のうちに,通常の経済人の行動として,不合理,不自然な行為によって作出された欠損金額が含まれており,当該欠損金額が翌期以降に繰り越されることによって,翌期以降の損金に算入されることで法人税を減少させる結果となると認められるのであれば,当該欠損金額に対しては,当期において法人税法132条は適用されると解される。
原告は,平成12年5月期事業年度において,KOBEファンド取引により161万7126円の所得金額を減少させ,当該事業年度の欠損金額を同額増加させており,その結果,翌期以降の法人税を減少させることとなることは明らかであるから,同条の適用要件に欠けるところはない。
ウ イの法人税負担の減少が法人税法上不当と評価されるものであること
(ア) 前記(2)のとおり,法人税法132条の適用上,法人税の負担の減少が「不当」と評価されるか否かは,専ら経済的・実質的見地において,当該行為又は計算が通常の経済人の行為又は計算として不合理,不自然なものと認められるかどうかを基準として判断されるべきである。
本件では,原告は,P1からKOBEファンドを,償還通知のあった後,平成12年1月21日(金曜日)の売買により買い取ったが,当該売買日は,償還日である同月23日(日曜日)の2日前であった。そして,その買取価格は,売買日とした同月21日(金曜日)の翌日の22日(土曜日)の朝刊で公表された基準価格(同月20日(木)の終値)によったとしている。
しかしながら,同月22日及び23日は,土曜日と日曜日であり,23日を償還日とするのであるから,市場におけるKOBEファンドの運用は21日の金曜日までで,投資した有価証券は21日(金曜日)にはすべて売却され,償還のためにすべて現金化されるはずである。そうすると,KOBEファンドの運用が行なわれたとしても,21日(金曜日)の1日だけであり,20日(木曜日)の終値から運用の結果大きく値が動き,運用による投資収益が上がることはほとんど望めない状況であった。また,そもそも,償還時には,地方税も併せて,償還差益の20パーセントが源泉徴収されるのであるから,P1からKOBEファンドを購入した際に支払った金額3151万9000円を原告が全額回収できないことは明らかであった。
そのような,投資した金額3151万9000円の回収すら見込めず,投資収益があり得ないKOBEファンドを原告がP1から購入した行為は,その行為の動機が,原告の役員であり,実質的に原告の経営を支配・指揮しているP1の節税行為(P1は,償還前に売却することで,償還時の値上がり益に対する課税を免れた。)に協力することにあったことも併せて,正に通常の経済人の行為として不合理,不自然なものである。そして,その結果,原告の所得金額を確定申告において161万7126円減少させたものである。
(イ) この点,原告は,KOBEファンド取引が同族会社のみが行い得る不当な行為計算という不当性の要件を欠くと主張するが,例えば,非同族会社である証券会社は,その業務の範囲において,当該証券会社において営業上の利益があることからファンドの買取業務を行うことがありうるにすぎないところ,原告は,その取引の相手が,自己の役員であるP1であるから買取りに応じたものと認められ,買い取った債券は,償還直前であるため償還金額もほぼ決まっており,償還時に償還金額の20パーセントが源泉所得税及び地方税利子割分として差し引かれるなど,原告にとっては投資した資金を回収できないことが明らかな取引であるにもかかわらずP1の源泉課税回避の目的に応じてその買取行為を行ったものであるから,証券会社が行う取引と同じものとはいえず,このような利益が全く見込めず,理由もなく業務に関係のない取引を行うことは,経済的,実質的見地において,通常の経済人としての行為計算として不自然,不合理であることは明らかであって,P1を役員とする原告だからこそ行い得た取引である。
(4) KOBEファンドの買取代金を変更すべきであるとの主張について
本件においては,被告は,KOBEファンドの買取りがなかったものとして,KOBEファンドに係る買取時及び償還時の計算を否認しているが,原告は,損失が出ない金額を買取価額として更正すべきであったと主張する。
しかしながら,KOBEファンド取引は,原告には経済人として償還直前のファンドを購入する合理的な理由はなく,また,投下資金が回収できないことが明らかな取引であるから,買取り行為そのものについて,当該行為を行う理由はないとして否認したものであって,その計算に違法はない。
たとえ,原告の計算の金額により買い取ることとしても,上記と同様であって,原告には購入する合理的な理由はなく,何のメリットもない取引であることは明らかである。したがって,原告の主張には理由がなく,KOBEファンド取引がないものとしてした計算は,法人税法132条において認められた計算を逸脱するものではなく適法である。
2 原告の主張
そもそも,被告が原告とP1との間のKOBEファンド取引の否認の根拠としている法人税法132条は,前記第3の1のとおり,憲法14条1項の法の下の平等に反し,違憲である。
仮に,かかる憲法違反の主張が認められなかったとしても,原告とP1との間のKOBEファンド取引は正当な取引であって,何ら否認されるべき理由はなく,法人税法132条による行為計算の否認の対象とはならない旨及び仮に同条を適用するのであれば,当該取引そのものの成立を認めた上で,実際の売買価格を否認して,原告にとって同取引から損失が発生しないような売買価格に更正すべきである旨の原告の主張の詳細は別紙5の第4章KOBEファンド取引についての「KEの主張」欄記載のとおりであるが,その主張の中核的部分は次のとおりである。
(1) KOBEファンド取引による法人税負担額の増加
原告の法人税の負担額は,以下のように,KOBEファンド取引により,112万9566円増加しているものといえる。
ア(ア) 原告は,KOBEファンド償還時において,償還差益2151万5540円から,15パーセントの源泉所得税322万7331円及び5パーセントの道府県民税利子割(地方税)107万5777円の合計430万3108円を納税した。このうち,源泉所得税額322万7331円は,税務会計上「前払税金」として扱われ,所得税法174条に基づいて課される内国法人に係る所得税の金額は法人税法68条及び同法施行令140条の2により法人税の額から控除され,平成12年5月期事業年度の法人税額から控除することができるものとされている。
このように,所得税法174条に基づいて課される内国法人に係る所得税の金額は,上記法人税法68条に基づき,法人税の額から控除されるところからみて,実質的に法人税と同一の税としての性格を持つとみてよく,原告が,KOBEファンド償還時に行った源泉所得税の納付は,まさに,法人税の納付であるといえる。
(イ) この点,被告は,原告が支払ったKOBEファンド償還に伴う源泉所得税は,法人税ではないから,源泉所得税の負担が増えても,法人税の負担が減少している以上,法人税法132条の「法人税の負担を減少させた」との適用要件を満たす旨主張するが,同条の趣旨は,あくまでも,同族会社と非同族会社の間での租税負担の公平を図ることにあり,ここにいう「租税負担の公平」とは,単に法人税の負担の公平を図ることのみを目的とするものではなく,法人税であろうが,所得税であろうが,税目にかかわらず,同族会社と非同族会社の間での租税負担の公平を図ること意味する。したがって,単に,「源泉所得税」と「法人税」という税目が違うという形式の差異を根拠にして,一方の「法人税」の負担が減少しているからといって,他方の「源泉所得税」の負担が当該減少額以上に増額されているにもかかわらず,法人税法132条を適用するのは,同条の趣旨に反する。
(ウ) さらに,被告は,法人税法施行令140条の2の趣旨からすれば,原告がKOBEファンドに係る元本を所有していた期間はほんの数日であり,当該規定の趣旨に見合う法人税の部分はほとんどないに等しい旨主張するが,憲法84条が定める租税法律主義の下において,法人税法施行令140条の2第3項2号により,簡便法による控除額の算出が認められている以上,同条項号により算出された控除額は,同条の趣旨にいう「元本を所有していた期間に対応するものとして計算される所得税の額」とみなさなければならないから,被告の主張は失当である。
また,被告は,法人税法施行令140条の2により控除された金額は,損金に算入されないが,控除されない金額については,損金に算入しない法人税の額には当たらず,損金に算入できるから,源泉所得税は「まさに法人税の納付である」とはいえない旨主張するが,原告が「まさに法人税の納付である」と主張しているのは,法人税法68条1項により控除され,損金に算入されない金額についてであって,控除されずに損金に算入される金額についてではないから,被告のかかる主張は,議論のすり替えである。
イ 原告は,KOBEファンド償還時に源泉所得税322万7331円を納付したことにより,法人税額について,その中の161万3665円につき控除を受け,平成12年5月期事業年度が赤字決算であったことから,同額の税金の還付を受けた。
また,KOBEファンド取引が平成12年5月期事業年度の所得金額に与えた影響は,前記前提事実(第2の2)のとおりの差引合計金額161万7126円という減少した所得金額に対する法人税額48万4100円(平成12年5月期事業年度が赤字決算であったことから,繰越欠損金額が増加しただけであり,実際には将来に利益が生じたときに法人税額が同額だけ減少することになる。)であり,上記控除額と合計すると,209万7765円となる。
ウ 以上により,原告の法人税の負担額は差引112万9566円増加していることになるから,法人税法132条1項の課税要件である「法人税の負担を不当に減少させた」との要件を欠き,KOBEファンド取引に係る平成12年5月期更正処分は違法である。
エ さらに,原告の平成12年5月期事業年度は赤字決算であり,「税負担の減少」がいまだ生じていない。
すなわち,原告の平成12年5月期事業年度は赤字決算であったため,KOBEファンド取引によっても,原告の同事業年度の法人税額に直接の影響はなく,繰越欠損金がその分増加するだけであるから,法人税法132条の「税の負担を減少させた」ことにはならない。現に,原告は,その後の事業年度においても,かかる欠損金を損金に充当していない。
(2) 「節税」行為は否認できないことについて
ア P1が償還直前に原告に対してKOBEファンドを売却した理由は,個人の投資信託についての課税制度を利用するためである。
すなわち,KOBEファンド取引がなされた平成12年1月当時,個人が受益証券を保有している投資信託の償還を受けた場合,元本を上回る償還を受けた場合には,当該上回った部分について15パーセントの源泉所得税と5パーセントの源泉利子割の合計20パーセントの税金を納付することになるが,個人が受益証券を保有している投資信託を売却したときには,仮に売却益があったとしても,非課税とされていた。
このように,原告とP1との間のKOBEファンド取引は,租税法規が予定しているところに従って税負担の減少を図るという節税行為であり,このような行為は当時広く行われていたのであって,かかる節税行為を否認することはできない。
イ 法人税法132条の否認の対象となる取引は「不当」なものであることが必要であるところ,ここにいう「不当」とは,否認対象とされた同族会社の行為計算が,同族会社であるが故に行われた租税回避行為であり,非同族会社においては通常行われない行為計算である必要があるということを指す。なぜなら,上記第3の1のとおり,同条の立法趣旨は,同族会社と非同族会社との租税負担の公平を図ることにあるのであるから,非同族会社においても通常行うような行為計算であれば,たとえ当該行為計算が法人税の負担を減少させるものであったとしても,否認できないはずであるからである。非同族会社が通常行うような行為計算のうち,法人税の負担を減少させる行為計算は,いわゆる「節税行為」として,租税実体法上も予定された行為計算であると解すべきである。そして,KOBEファンド取引のごとき運用益のある投資信託を償還直前に個人投資家が非同族会社である証券会社に売却するという「節税行為」が一般に行われており,証券会社も顧客の歓心を買うなどの理由でこれを行っていたのであって,同族会社だけでなく,非同族会社も,個人の当該「節税行為」に協力することがあることが明らかであるから,本件のKOBEファンド取引のみを否認することはできない。なお,原告は,「運用益のある投資信託を償還直前に個人投資家が法人に売却する」という取引が,個人投資家にとっては「節税」になるが,買い取る方の法人でも「節税」になるか否か,ということを問題としているのではない。むしろ,これは,買い取る方の法人にとっては,損益に影響を及ぼさない中立な取引であるというべきである。
(3) 法人税法132条の憲法14条1項適用違憲について
個人投資家が償還直前に運用益のある投資信託の受益証券を売却することが広く行われていたにもかかわらず,原告が同族会社であることから法人税法132条を適用して,KOBEファンド取引のみを狙い撃ちして否認することは,同族会社と非同族会社とを平等に取り扱うべき旨を定めた憲法14条1項に違反する違憲な法適用である。
(4) 売買価格のみの否認(原告の予備的主張)
渋谷税務署長は,原告は,P1との間で161万7126円の損失を被るような売買価格(3151万9000円)でKOBEファンド取引をしたので,法人税法132条に基づき原告の同取引自体を否認している。しかしながら,本件では,原告において,KOBEファンド取引前に厳密な計算をしていなかったため,自社に損失が生じるとは考えていなかったものであり,単にP1の「節税行為」に協力することのみを考えてKOBEファンド取引を行ったものにすぎないのであるから,仮に同条を適用するのであれば,同取引そのものの成立は認めた上で,実際の売買価格を否認して,原告にとって同取引から損失が発生しないような売買価格(2990万1874円=実際の売買価格3151万9000円-161万7126円)に更正すべきである。なぜなら,原告は,合理的経済人として,少なくとも,P1との間で自ら損失を被らないような取引を行う自由があり,同条は,原告に,合理的経済人が行えるような取引まで禁止することを目的としていないからである。
この場合,原告の確定申告に基づく還付所得税額(1億3798万6720円)はそのまま認容されるが,原告の所得金額は161万7126円加算されることから,48万4100円分,将来の法人税額が増額される可能性が生じることとなる。
第7争点(7)(交際費の役員賞与該当性)について
1 被告の主張
(1) 交際費等の意義
交際費等の意義については,措置法61条の4第3項に「交際費,接待費,機密費その他の費用で,法人が,その得意先,仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待,供応,慰安,贈答その他これらに類する行為のために支出するもの(もっぱら従業員の慰安のために行なわれる運動会,演芸会,旅行等のために通常要する費用その他政令で定める費用を除く。)をいう。」と規定されており,その範囲は広いものとされているが,交際費の名義で支出されたものであっても,その支出の目的,対象等が明らかでなくその費途の不明なもの及びその支出の目的,対象等は明らかであるが,法人の業務に関係ないものについては,交際費として取り扱われず,各事業年度の所得の金額の計算上,損金の額には算入されない。
また,結婚披露宴が交際費に該当するか否かについては,「結婚披露宴はそもそも,結婚当事者が結婚の事実を双方の親族や親しい関係者らに知らせて,これらの者から祝福を受け,且つ今後の親交を願うため行なわれる行事であって,結婚当事者が事業を経営している場合には,その事業にとつて重要な取引先あるいは同業者らに対して結婚を披露し,今後の取引の円滑な進行を願うこともその目的に含まれるのは当然である。このような結婚披露宴の趣旨に加え,披露宴が社会慣行上個人の私的行事とみなされる結婚式と同時に,すなわち挙式に引き続いて行なわれるのが通常であって,いわば結婚式に付随するものであることを考えると,結婚披露宴は特別の事情が認められない限り結婚当事者の私的な社交的行事であると考えるのが相当である。」(京都地方裁判所昭和50年2月14日判決・訟務月報21巻5号1131頁)と解されている。
(2) P4の結婚披露宴関連費用が交際費に当たらないこと
原告が交際費として計上した金額の一件一件については,結婚式費用が交際費に当たるか否かの論議以前に,当該費用の支出目的及び内容についてが,領収書その他の客観的な資料によって具体的に立証されなければならない。
また,原告は,P4の結婚披露宴の招待者の過半数は原告のビジネス関連者である旨主張するが,事業に関連する者が含まれていたとしても,P4の結婚披露宴が行われた原因は,P4の結婚に伴い行うこととなったものであって,披露宴の内容はP4の結婚を披露するパーティーにすぎず原告の業務に関係なく実行されるものであるから,本件結婚披露パーティー費用の支出は,そもそも原告の役員であるP4の私的行事を行うための費用であり,原告の業務とは全く関係ない費用であって,原告が,原告の役員の一人でありP1の娘であるP4の結婚に関連する費用を負担しなければならない理由はないから,P4の結婚披露宴に原告の関係者が出席したことをもって本件結婚披露パーティー費用が交際費となり得る旨の原告の主張は,失当である。
原告の主張する「原告のビジネスチャンスを拡大するという目的」は,個人的な行事として開催された結婚披露宴の副次的な結果として,そのような目的に対する間接的な効果が期待されるにすぎない。
原告は,被告が結婚披露宴,即,私的行事とア・プリオリに決め付けていると主張するが,結局,原告は,P4の結婚披露宴が,原告の主催により原告の業務として行われた事実については何も明らかにせずに,出席者に事業関係者が含まれているという理由だけをもって交際費であると主張しているにすぎない。
(3) 原告は,ある支出が交際費に当たるとされるためには,①支出の相手方が事業に関係のある者であること,②当該支出が接待,きょう応,慰安,贈答その他これらに類する行為のために支出するものであることを主たる要件とし,本件における結婚披露宴の費用の負担は,その要件を満たすものであって交際費である旨主張する。そして,交際費か否かの区分は,行為の外形から,支出の主たる目的が交際費であったか否かを支出の対象となった行為の外形的な側面に着目して,当該支出が純粋に個人的費用に関するものか,それとも法人の交際目的に資するものか判断されなければならないとともに,支出の効果が直接的であるか否かは,交際費の定義上問題にならない旨主張する。
しかしながら,これらは,法人の支出した費用が交際費か広告宣伝費か,あるいは交際費か支払手数料かなどの費用の区分についての基準であり,法人の支出した費用が,個人的費用に当たるのか法人の交際費とされるのかの基準となるものではないから,原告の主張は,前提を欠く失当なものといわざるを得ない。
(4) 社葬費との対比について
社葬費用は,当該行事に参加した者に事業関係者がいるかどうかだけではなく,会社が主催し,死者が会社に功労があったなどして,会社が主催して行う理由が社会通念上認められる場合に費用として認められるものであり,他方では,通常,結婚当事者が行う結婚披露宴は,私的行事にすぎないとされている。
また,社葬費用の損金算入が認められるための要件は,法人税基本通達9-7-19に定める基準によっており,実務上の運用がされている。この通達の適用に当たっては,①その社葬を行うことが社会通念上相当であるかどうか及び②その負担した金額が社葬のための通常要する金額であるかどうかがポイントとされている。そして,社葬を行うことが社会通念上相当であるかどうかは,死亡した役員等の死亡の事情,生前における当該法人に対する貢献度合等を総合勘案して判断することとなる。
仮に,P4の原告への貢献度合いが多大にあったとして本件結婚披露パーティー費用をこれに照らしたとしても,原告が結婚披露宴を催すことが社会通念上相当と認められず,また,そのような場合において,結婚披露宴を会社が催し,その費用を会社が負担することが広く一般的に行われているものでないことも明らかであって,原告の主張には理由がないものというべきである。
2 原告の主張
本件結婚披露パーティー費用が交際費等に当たり,P4に対する役員賞与ではない旨の原告の主張の詳細は別紙5の第5章交際費についての「KEの主張」欄記載のとおりであるが,その主張の中核的部分は次のとおりである。
(1) P4の結婚披露宴の招待客の過半数(正確には,199名中の155名)は,原告のビジネス関係者であった。
そもそも,米国のビジネス社会において,社交活動が極めて重要な役割を担っている上,P1は,日本国内より,むしろニューヨーク市を中心とする世界の金融界で,企業家として著名人であり,かつ外国の友人・知人も多数に昇り,P1が日本国内外の金融業界の関係者として交際することは,原告のビジネスチャンスの拡大・深化にとって重要なことであった。P1の長女のP4の結婚披露宴は,P1家族にとっての個人的なものであると同時に,原告のビジネスチャンスを拡大するという目的を有していた。
そこで,原告は,結婚式・結婚披露宴の費用のうち,原告の費用として認めにくい写真撮影費用,招待客航空運賃,ビデオ撮影費用,ドレス費用の全額1184万0422円についてはP1家族の個人負担とし,企画・使用備品費用,招待状作成費用,レストラン費用,ホテル費用の総額8659万3604円について,P4の結婚披露宴の出席者の過半数が原告及びP1と付き合いのある投資家,金融業界関連者等であったことを考慮して,その50パーセントを交際費等として計上した(総額に占める割合は約44パーセントである。)。
このように,原告は,P4の結婚披露宴を通じて,原告の営業に関連している投資家,金融業界関連者との交流を図ったものであり,かつ,結婚披露宴関連費用総額のうち,出席者に占める投資家,金融業界関連者の割合に応じて,約44パーセントを原告の交際費等として費用計上したものである。
当該結婚披露パーティー自体も,米国においても著名な人物によって企画・運営されており,このことは,同パーティーが,P1家族及びP12家の私的なイベントとしてではなく,原告のビジネス活動に資する性格を有するイベントとして企画・運営されたことを裏付けている。
(2) 被告は,結婚披露宴は私的行事であり,出席者の中に事業関係者が含まれていたとしても,その効果は間接的であるから,当該パーティー費用は交際費に該当しない旨主張するが,そもそも,交際費とは,事業遂行に対する間接的な効果を企図して支出されるものであるから,被告の主張は失当である。
また,法人税法上,社葬費用は損金算入,すなわち経費性が認められており,役員賞与等とはされていないのに対し,同じ「冠婚葬祭」という行事のカテゴリーに含まれる上記パーティー費用を交際費として認めない理由はない。
現代では,各個人の結婚観の多様化を反映して,結婚披露宴の在り方も多様化が進んでいる。よって,結婚披露宴を純粋に私的な行事として位置付けるか,それとも,会社のビジネスの足掛かりとなる社交活動の場として位置付けるかは,当該披露宴の当事者たる個人が自由に決めるべき事柄であり,課税庁としては,支出された費用に関する行為の態様から外形的に,当該支出が純粋な個人的費用に関するものか,法人の交際費に該当するものかを判断しなければならない。結婚披露宴,即,私的行事とア・プリオリに決め付けることはできない。
(3) 交際費と認定する要件について
措置法61条の4第3項の交際費等に該当するか否かは,①支出の相手方が事業に関係のある者であること,②支出の目的がかかる相手方に対する接待,きょう応,慰安,贈答その他これらに類する行為のためであることが主たる要件となるところ,これらを満たせば支出の効果が間接的であるか否かを問題とする必要はない。
また,支出の目的が接待等を意図しているかどうかについては,支出の動機,金額,態様,効果等の具体的事情を総合的に判断しなければならず,単純に行為の性質を決め付けて,交際目的の有無を認定することは許されないものである。さらに,支出した金額が比較的高額であるか否かも,支出された費用の性質を決定する上で,考慮すべき一要素である。そして,支出の主たる目的が交際目的であったか否かは行為の外形から判断する必要がある。
本件でのパーティーでは,出席者の8割弱は,投資家や金融業界関係者,弁護士等の原告の事業に密接に関係する者であり,直接的にP4と個人的な付き合いのある者は少なく,純粋にP4の個人的なパーティーならば招待されるはずがない者が多く,①支出の相手方が事業に関係のある者であることという要件を満たす。
また,本件でのパーティーは,米国大統領がホワイトハウスで主催するパーティーなども企画したRobert Isabell Incorporated社が手掛けており,費用も合計9843万4026円と極めて高額である。そして,原告が交際費として計上した費用のうち,P4のドレス費用等純粋な個人的費用は明確に除外されており,原告が負担した残余の費用は,原告名義で海外送金されて支払われている。このような事実関係に照らせば,本件のパーティーは,その相当部分が原告の営業活動に関連するイベントとして開催されたことは,外形的に明確であるから,原告が交際費として計上した本件のパーティー費用は,②支出の目的がかかる相手方に対する接待,きょう応,慰安,贈答その他これらに類する行為のためであることという要件を満たす。
よって,本件結婚披露パーティー費用は交際費等に該当する。
なお,交際費と認められるためには,会社が取引関係の円滑な進行を図るために支出するという意図を有したことを要するのは当然であるが,そればかりでなく,その支出によって接待等の利益を受ける者が会社からの支出によってその利益を受けていると認識できるような客観的状況の下に接待等が行われたものであることを要すると仮定しても,本件のおける上記の事情からすれば,かかる要件をも満たしている。
第8争点(8)(手続違反の有無)について
1 原告の主張
(1) 故意又は過失を伴う違法な調査による更正処分の禁止
ア 税務署長は,申告された課税標準又は税額の計算が租税法の規定に従っていなかったとき,その他その課税標準又は税額がその調査するところと異なるときは,その調査により,課税標準又は税額等を更正することができることとされている(通則法24条)。
そして,更正処分は,公定力を有する行政処分であって,更正処分の納税者に与えるインパクトは巨大であり,マスメディアで更正処分を受けたことを大きく報道された場合,その更正を受けた納税者の経済的・社会的信用及び名誉に対して与えるマイナスのインパクトは巨大である。
よって,税務署長は,その権力の行使が誤ってなされることがないよう,事実関係及び適用法令を適切に調査の上,行政処分が事実の確定の面でも,法の適用の面でも,適正になされていることを十分確認して,然る後に更正処分を行うべき義務を負っている。
通則法24条の「その調査により」の文言の意味するところは,故意又は過失の伴わない調査,すなわち,適法な調査を意味し,故意又は過失を伴う違法な調査を除くものである。
イ 原告は,更正処分日(平成15年3月14日)前の平成14年12月20日ころ及び平成15年2月下旬ころの2回,事実関係を明らかにするべく,課税庁の調査官に対し,「資料の開示及びそれに基づいた説明をしたい」旨申し出たにもかかわらず,以下のとおり,課税庁は,納税者からの当該申し出を拒否しており,これは,違法な調査に基づいて本件各処分がなされたことを意味する。
(ア) 東京国税局ないし渋谷税務署による原処分のための税務調査は,平成14年8月20日から開始され,その後,継続的に東京国税局の係官と原告の税理士との間で面談があり,東京国税局から断続的に質問が出され,資料提出の依頼があったので,原告は,東京国税局の上記要求に応じて,資料を提出していた。しかし,原告が,同年12月20日ころ,東京国税局に提出を求められた資料を提出しに行ったところ,原告は,東京国税局の係官から,「12月19日が実質的な御用納めであるから,資料は来年持ってきて欲しい」などと言われて,提出資料を受領してもらえなかった。
年明け以後も平成15年2月中旬までは,東京国税局の方も比較的ゆっくりとした対応で税務調査が行われていたが,原告は,同月下旬に,突如として,東京国税局の係官から,「資料を提出したかったら提出してもいいが,もう更正処分を行うことが決まったから資料は不要である。」などと一方的に告げられた。
すなわち,原告としては,東京国税局による税務調査に対しては,提出を求められた資料はすべて提出しようとしていたにもかかわらず,東京国税局自身が,おそらく,P1家族個人の法定申告期限であり,同時に更正の除斥期間満了日である同年3月15日を意識して,自ら提出を求めた資料を受領すらせずに,また,提出された資料を読まずに,調査不十分なままに,見切り発車で本件各処分を下したものと考えられる。
(イ) このことは,原告の代理人であるP6会計士が,平成15年2月19日に,本件調査担当者に対して,「そもそも,国税が問題としているダイアモンドU/TやGOU/Tは,EB債1の利息のごく一部しか受領していない。」と指摘したのに対し,P34実査官は,「えっ,そうなんですか。」などと答えたことからも容易に想起できる。また,同年3月4日に面談した際も,P6会計士が,P34実査官に対して,「処分の法的根拠は何ですか。」と聞いたところ,P34実査官は,「そんなの必要なんですか。」などと答える有様であった。
ウ 異議審理庁による異議調査
異議申立て後の平成15年4月24日,東京都港区ζ所在の東京永和法律事務所の会議室において,原告の異議申立手続の復代理人荒井裕樹弁護士が,異議審理庁たる東京国税局課税第2部資料調査第3課のP36主査他1名と面談し,その際に,上記P36主査に対して,「原処分の理由を書面で明らかにされたい。」,「疑問点があれば,まずは,処分を行った原処分庁がよく知っているはずであるから,原処分庁に聞いていただいた上で,それでも分からないときに,こちらに質問して欲しい。」,「質問がある場合には,書面にて質問事項を明らかにされたい。」等と述べた。
これに応じて,同年5月15日,再び東京永和法律事務所の会議室において,上記荒井弁護士と上記P36主査他1名が面談し,その際,上記P36主査は,上記荒井弁護士に対して,異議調査として,「異議審理庁による異議調査」と題する文書を提出した。
しかし,これには,本件各処分をする上であらかじめ綿密な調査を要する基本的な事実関係に関する質問が多数あり,また,税務調査で一度も聞かれなかった質問事項も多数含まれていた。
エ 平成10年の税務調査について
原告は,平成10年に行われた,今回の税務調査の担当部署と全く同じ東京国税局資料調査課による税務調査の際に,既にEB債1について求められた資料すべてを係官に対して提示・提出しており,何ら「仮装又は隠ぺい」を行っていないにもかかわらず,渋谷税務署長又は日本橋税務署長は,本件各処分において,原告がEB債1につき「仮装又は隠ぺい」したものと認定しており,通則法70条1項に定める更正の3年間の除斥期間を潜脱するために,あえて無理に,本件各処分に重加算税の賦課決定処分を付し,同条5項により,実質的に除斥期間を7年間に延長させたものと考えざるを得ない。
オ 以上の事実経過によれば,渋谷税務署長又は日本橋税務署長は,更正の除斥期限(平成15年3月15日)を意識する余り,十分な調査もしないままに,本件各処分を「見切り発車」で行ったものという他ない。
カ 手続法上の違法性も実体法上の違法性も,違法であることの重みに,差異はないはずである。
(2) 本件各処分は通則法27条及び法人税法154条に違反すること
ア 通則法27条違反
(ア) 本件各処分は,東京国税局職員の調査に基づき,渋谷税務署長又は日本橋税務署長が行った更正処分であるから,通則法27条に基づく更正処分であると考えられる。
通則法27条は,更正処分が「調査に基づく」必要があることを明記しており,「調査に基づかない」更正処分には,同条に反する手続上の違法事由がある。これは,その後の税務調査によっても治癒されない。
本件各処分は,処分が最初に行われた平成15年3月14日当時には,処分額を計算する上で必要不可欠な税務調査を行っておらず,同月15日以後に行われた税務調査により処分額を計算する上で必要な事実関係を調査しており,「調査に基づかない」更正処分として違法である。
(イ) 通則法27条違反の証拠
本件各処分の担当調査官であったP35課長は,商工ファンドの顧問弁護士であるP37弁護士と平成15年3月5日から9日にかけて,計3回面談した際,①国税局としても,本件がいわばグレーゾーンの領域の問題であり,課税処分の適法性については国税不服審判所長及び裁判所が決定することになる旨,②本件における更正処分についての除斥期間の期限が迫っているので,早急に処分をする必要がある旨,それぞれ申し向けるとともに,③修正申告をするのであれば,重加算税を課すことは免除するがどうかと持ちかけられている。このことは,本件各処分が,租税法律主義を理解しないか無視する調査担当者により,除斥期間の経過を意識して調査不十分なまま,見切り発車で行われたものであることを示しており,十分な調査に基づかないことの裏付けである。
(ウ) 不十分な調査(P1は,国税との面談を避けてはいないこと)
東京国税局の担当調査官から,P1への再度の面談の申し出を受けたP38税理士は,一部上場企業の代表取締役であり多忙を極めるP1の立場に配慮して,「面談する必要があるのであれば,質問をまとめておいて下さい」と対応したところ,担当調査官から「分かりました」と了承を得たものの,その後,東京国税局側からは,P1との面談を求める旨の再度の申込みがなかったものであり,これは,渋谷税務署長又は日本橋税務署長が,不十分な調査に基づき本件各処分を行ったことの証左である。P1は,平成11年秋のいわゆる商工ローン・バッシングが吹き荒れる中で,2回にわたって国会で証言しており,国税との面談など避けるべき理由はなかった。
(エ) 除斥期間満了を意識して焦っていたことを示す3度の税額計算ミス
本件各処分が,平成15年3月15日の除斥期間満了を意識して焦って行われたことを示す事実として,P3の平成12年分の所得税の決定処分に附帯する重加算税の賦課決定処分及びP4の平成13年分の所得税の決定処分に附帯する重加算税の賦課決定処分は,それぞれ,増差税額に対し,通則法68条2項により40パーセントの重加算税を課すべきところ,誤って35パーセントの重加算税を課していること,原告の寄附金損金算入限度額の計算を間違っていること,P1の地方税額の計算を間違っていることが挙げられる。
イ 法人税法154条違反
(ア) 法人税法154条は,同条に基づく調査は,「必要があるとき」にのみ,国税局職員が,納税者である法人の取引先等に対して,質問検査権を行使できる旨を明記している。納税者である法人にとって,取引先に税務調査が行われることは,調査の内容によっては当該法人の信用性等にかかわり,それ自体大きな不利益を被る場合があり得る。よって,課税庁による取引先への質問検査権は,納税者たる法人に対して,何らかの課税処分を行う目的で行使される場合にのみ,同条の「法人税に関する調査について必要があるとき」と認められるものと解すべきである。
しかし,渋谷税務署長又は日本橋税務署長は,本件各処分が行われた平成15年3月14日の後である同年4月22日に,後記(イ)のとおり,原告の取引先であるドイツ銀行に対して,本来,本件各処分の処分額を計算する上で必要不可欠な事項について,質問検査権を行使している。上記質問検査権の行使目的は,将来予想された原告による本件各処分の取消請求訴訟に備えた証拠収集活動に他ならないが,そのために同条の質問検査権の行使をすることは,同条にいう「法人税に関する調査について必要があるとき」とは認められない。これは,同条が,租税争訟に関する規定を置いた通則法中ではなく,法人税法の第4編雑則に置かれているという租税法体系上の位置付けからしても,明らかである。
よって,本件各処分には,法人税法154条に反する手続上の違法事由があるというべきである。
(イ) 本件各処分後のドイツ銀行への調査について
ドイツ銀行グループ税務部のP39(以下「ドイツ銀行P39」という。)が作成した,平成15年4月22日付けのP31専門官作成の質問書に対する回答書には,渋谷税務署長は,本件各処分後である同日時点で,バーチベールLPSが引き受けた総額7500万米ドル分のEB債1の利息のうち,アスチュラに対して支払われる米国国債品貸し料を超える部分の利息を,誰が受領していたのかを知らず,エクイタブルの名称,存在等も知らなかったことが認められる。この調査は,異議審理庁である上記P36主査が属する東京国税局課税第2部資料調査第3課とは異なり,本件各処分の税務調査を担当していた課である同部資料調査第1課のP31専門官により行われたものであって,上記税務調査は,異議審理庁による異議調査として行われたものではない。
上記質問書によれば,渋谷税務署長は,ダイアモンドU/TやGOU/Tなどのユニット・トラストが,実際にEB債1の利息を受領したのか否かすら確認されずに行われたことが明らかであるから,エクイタブルはP1が実質的に支配している旨の被告の主張が,本件各処分後に思い付いた主張にすぎないことが明らかである。仮に,エクイタブルをP1が実質的に支配しているとしても,エクイタブルに支払われた金額はP1が受け取ったと同視できるだけのはずであって,これをP1及びP2が受け取ったと同視できる理由にはなり得ないはずである。
(3) 査察という言動による脅迫という違法性
P35課長は,平成15年2月14日,原告代理人のP6会計士に対して,本件について「査察が興味を示すかどうかはわからないが,場合によっては査察による強制捜査もあり得る」旨の発言をした。査察とは,課税庁が強制捜査権を発動して行うものであり,脱税事犯のケースで行われるものであって,処分の有無にかかわらず,上場企業の代表取締役(P1)に対して査察が行われた時点で,銀行は当該企業との取引を停止し,融資を引き上げることになるから,当該企業は一瞬にして倒産に追い込まれることになり,P6会計士が経営する企業も倒産することとなる。P35課長は,税務調査の現場において,「査察」という言葉を使うことにより,P6会計士及びP1を脅迫し,除斥期間が差し迫っているにもかかわらず,処分に必要な情報が十分に集まらない状況において,原告に「自白」を迫ったものと推認される。
このようなP35課長による不当な脅迫は,本件各処分には手続上の違法事由があることを示している。
2 被告の主張
(1) 調査の手続上の瑕疵は更正処分の適法性に影響しないこと
行政処分を行うについて,一般に手続の適正が要請されはするものの,通則法24条はそれを義務付ける根拠規定ではない。また,通則法24条,26条,27条等における調査の手続については何ら定めはなく,調査の範囲,程度及び手段については,すべて税務署長,及び国税庁又は国税局の当該職員の決するところにゆだねられている。調査が実質的に不十分であったとしても,かかる事由は更正処分の違法事由とはならず,結果として更正された税額の不当な部分が違法となるにすぎないのであって,調査手続上の瑕疵の程度にかかわらず,そのことから,直ちに更正処分が違法となるものではない。
(2) 渋谷税務署長及び被告の資料提出の依頼に対し,原告から十分な資料の提出がされていなかったこと
調査の手続過程をみたとしても,以下のとおり,何らの違法はなく,むしろ,渋谷税務署長及び被告の資料提出の依頼に対し,原告から十分な資料の提出がされてこなかったことが,調査過程が長引いた原因にすぎない。
ア 平成14年11月13日に,本件調査担当者は,原告の役員であるP1,P38税理士及びP6会計士他1名と商工ファンド会議室にて面接した。
P1らに対し,本件調査担当者は,それまでの調査において不明な点について質問したが,その場で回答が得られなかった事項について,後日,回答あるいは資料の提出をすることを依頼した。しかし,その後,P1から話を聞く時間を再度設けるようP38税理士に依頼したにもかかわらず,P1本人と面接できたのは,結局このときが最初で最後であり,時間も約50分間だけであった。
その後,平成14年中に,本件調査担当者のいずれかがP38税理士と面接したのは,同年12月5日及び17日だけであり,同月5日は,本件調査担当者のうちP34実査官を除く者が,東京国税局においてP38税理士と面接したが,依頼事項についての調査が進展しておらず,P38税理士から何も資料の提出がなかった。また,同月17日は,本件調査担当者は,東京国税局においてP38税理士と面接したが,その日に提出された資料は,原告が交際費として計上した,原告法人名義のクレジットカードの支出金額及び支払先等の一覧表並びに株式会社興春の土地についての不動産鑑定書のみであったため,EB債1又はEB債2の関連資料等の提出を,再度依頼しており,それまでの時点で,原告から十分な資料の提出や説明はされていなかった。
その後,同月18日から20日においては,本件調査担当者のいずれかが出勤していたが,原告関係者と面接し,資料の提出の申し出を受けた事実はない。
イ 平成15年2月19日に,本件調査担当者が,P6会計士及びP38税理士に,修正申告がなければ更正処分を行うことを告げたが,資料は不要という趣旨の発言をした事実はない。
すなわち,同月14日に,本件調査担当者は,P6会計士及びP38税理士と東京国税局内で面接して否認事項及び調査金額を説明し,更正処分を予定しているので早急に反論の内容及び資料について明らかにしていただきたいと依頼した。
同月19日に,同様にP6会計士らと面接したところ,P6会計士らは作成してきたメモに沿った反論を行ったが,事実関係を明らかにする資料の提出はなかった。そのため,本件調査担当者は,これまで再三に渡り資料の提出を依頼してきたが,いたずらにその提出を待って課税処分を延期することはできないこと,同日のP6会計士らの説明は渋谷税務署長及び被告の判断を覆すものではなかったこと及び今後の資料の提出を拒むものではないが,現時点では説明した金額での更正処分となるとの趣旨の発言を行った。
事実経過は上記のとおりであり,渋谷税務署長及び被告が自ら提出を求めた資料を受領すらせず,提出された資料を読まずに処分を行った事実はない。
ウ 平成15年2月19日及び同年3月4日に,本件調査担当者とP6会計士及びP38税理士が面接した際には,P34実査官は,ダイアモンドU/TやGOU/TにEB債1の利子の全額が支払われていないことは,既に前日までにDMG証券から受領した資料により了知しており,「そうですか。」と冷静に相槌を打った程度であり,また,私法上の法形式が整っており,それを否認する租税法の規定がないから否認される事項はないとの原告の主張に対し,P34実査官は,たとえ税法上明確な否認規定がないとしても,取引の経済的実質を考慮し否認する場合もあり得るとする趣旨の発言を行ったものにすぎない。
(3) 本件各処分が通則法27条に違反しないこと
原告は,東京国税局職員で原告の調査担当者であったP31専門官が,本件各処分後である平成15年4月22日にドイツ銀行に対して質問を行ったことからすると,本件各処分は,調査に基づかない更正処分であり,通則法27条に反する手続上の違法事由があり,その処分後に必要な事実関係の調査を行っていても,その違法性は治癒されない旨主張する。
しかし,同法27条は,「国税庁又は国税局の当該職員の調査があったときは,税務署長は,当該調査したところに基づき,これらの規定による更正又は決定をすることができる。」と規定するが,当該規定の趣旨は,課税庁が全然調査をしないで恣意的に課税することを禁ずることにあり,全く調査をしないでなした更正は取り消し事由があるとしても(大阪地方裁判所昭和46年9月14日判決・訟務月報18巻1号44頁。その進級審である大阪高等裁判所昭和51年1月29日判決・税務訴訟資料87号221頁,最高裁判所昭和53年2月28日第三小法廷判決・税務訴訟資料97号439頁も同旨である。),一定の調査の結果から合理的に推認できる範囲で事実認定をして処分をすること自体禁止されているわけではない。
渋谷税務署長及び被告は,本件各処分の前に,原告に対し調査を行い,その結果に基づき更正処分を行ったものであって,本件各処分は,通則法27条に違反したものではなく,原告の主張には理由がない。
(4) 法人税法154条の規定と本件各処分との関係について
ア 原告は,法人税法154条に規定する質問検査権の行使は,課税処分を行う目的で行使される場合にのみ許されるのであり,課税処分後に収集した資料によって,課税処分の根拠付けを行うことは,同条に違反するものであると主張する。
しかしながら,「課税庁が更正処分をした後,不服申立てや訴訟の段階において,処分の正当性を主張・立証するために,証拠を収集することは否定できず,当然許され」る(大阪高等裁判所平成11年1月26日判決・税務訴訟資料240号274頁)と解されており,また,そもそも法人税法154条に定める質問検査権の行使は,「課税処分そのものとは別の手続であるから,それが刑罰法規に違反したり,公序良俗に反する等,およそ税務調査をしたと評価し得ない程違法性が著しい場合を除いては,課税処分の取り消し事由とはならない」(横浜地方裁判所平成7年12月20日判決・訟務月報43巻7号1709頁)。まして,原告が同条違反だとする調査は,本件各処分後の調査を指しているから,仮に,本件各処分後に行われた調査に何らかの違法性が認められたとしても,それをもって,それ以前に行われた本件各処分が違法とはならないことは明らかである。
また,原告は,渋谷税務署長及び被告は,更正処分後に資料を収集しており,処分当時の資料では,本件各処分の課税標準等が認定され得ないから,本件各処分は違法であると主張するものとも解されるが,「課税処分の取消訴訟の訴訟物は課税処分によって認定された課税標準又は税額が客観的に正当とされる数額を超えているか否かということであるから,本件各処分によって認定された課税標準又は税額がその後に収集された資料により客観的に正当とされる数額を超えていない以上,同処分は適法」(東京高等裁判所昭和53年10月17日判決・行政事件裁判例集29巻10号1838頁)であるから,原告が本件各処分の違法事由として挙げる各事実は,仮に事実であったとしても,そのいずれにおいても,本件各処分を違法とする理由とはならないから,主張自体失当である。
イ 調査の事実関係について
原告が主張する調査手続に関する次のいずれの事実も,上記アの理由から本件各処分を違法とする理由にはなり得ないが,当該調査手続についてみたとしても,何らの違法もない。
(ア) ドイツ銀行グループへの反面調査
本件調査担当者がドイツ銀行グループであるドイツ証券に反面調査を開始したのは平成14年11月11日からであったが,平成15年2月24日においても,ドイツ銀行P39に対しDMG証券P15が作成したノートの記載内容についての質問書を交付しており,その回答が,同年3月25日に,P31専門官に対し提出され,その後,東京国税局職員で原告の調査担当者であったP31専門官が,本件各処分後である同年4月22日にドイツ銀行に対して質問書を交付したものである。
ドイツ銀行グループに対しては,上記のとおり,本件各処分後も引き続き反面調査を実施していたものであるが,その理由は,本件各処分以前に提出を依頼していた関係書類がなかなか提出されなかったことによるものである。事実関係を明らかにするより直接的な資料や回答を求めているにすぎず,本件各処分は当時把握された資料に基づいて適正に行われたものである。
また,原告は,同年3月19日に審査請求を国税不服審判所長あてに行っており,上記ドイツ銀行グループに対して行った反面調査には,原告の不服申立手続に対し,またその後に予想される本件各処分の取消請求訴訟に対し備える目的もあったことは事実である。
(イ) エクイタブルの認識等について
原告はエクイタブルについての事情を渋谷税務署長及び被告が把握できなければ課税処分ができないものと考えてその事実関係を隠ぺいしていたものとうかがわれるが,渋谷税務署長及び被告は,EB債1のスキームでは,バーチベールLPSにおいて,EB債1の金利と米国国債の品借り料との差額が発生することについて認識しており,金融機関等の第三者がその差額を受け取ったものではないと判断して,本件各処分を行ったものである。
本件各処分においては,渋谷税務署長及び被告は,バーチベールLPSに組み込まれた存在としてエクイタブルという名称は認知していないが,EB債1のスキームの本質として,ダイアモンドU/T,バーチベールLPS及びエクイタブル等がP1家族へ利益を移転する導管体的組織群に当たると認定していたのであって,P1家族への利益は,P1とP2が,EB債1へのそれぞれの出資額に応じて受け取ったものであると認定したものであり,その理由に何らそごはなく,算定した金額に誤りはない。
(5) その他の手続違反の主張について
その他,本件各処分に至る手続過程においては,以下のとおり,何らの違法もない。
ア P37弁護士との対応について
P37弁護士が東京国税局職員と面談したのは,平成15年3月5日及び6日の2回だけであるが,同月5日のP37弁護士とP35課長との面談において,①P35課長は,本件はグレーゾーンと発言したが,その趣旨は,本件は取引の本質を仮装していると認定したことから,その認定については争いの余地があり,認定が違うというのであれば,課税処分後においては,当然に国税不服審判所長及び裁判所に判断がゆだねられることを述べたにすぎず,②早急に処分するなどの発言は,本件各処分と同時に,当該処分に伴って所得税の課税対象となるP1,P2その他の所得についても更正する予定であったので,所得税の課税年度が切り替わる同月15日前に法人税の処分を行いたいとの趣旨の発言にすぎず,この時点では,それまでの調査において把握していた事実により調査額はおおむね固まっていて,調査額についても原告に既に説明済みであり,③重加算税を免除する旨の発言については,原告がすべての事実関係を明らかにし,本件調査担当者が把握した事実関係に誤りがあり,隠ぺい等の認定も誤りであったことが判明した場合には,重加算税を課さないこともあり得るとの趣旨にすぎない。
イ 査察という言葉による脅迫との主張について
P6会計士との面談において,P35課長は,「査察が興味を示すかどうかはわからないが,私としては,当課で処理したい」旨の発言を行ったが,査察という名をもって原告を脅迫した事実はない。一般に多額の税額が課税漏れとなっており,それが仮装・隠ぺいによるものである場合には,租税ほ脱事件として査察の告発を受けることがあることは広く知られているところであり,その可能性について言及したものにすぎない。
ウ 除斥期間間際の本件各処分との主張について
原告の平成10年5月期事業年度の除斥期間満了日は,平成17年7月31日であり,P1家族の平成10年分の所得税の除斥期間満了日は,平成18年3月15日であるから,除斥期間までの時間的な余裕は十分にあった。仮に,渋谷税務署長及び被告が,3年間の除斥期間を念頭においていたとしても,原告の平成10年5月期事業年度の除斥期間満了日は,平成13年7月31日であり,P1家族の平成10年分の所得税の除斥期間満了日は,平成14年3月15日であり,原告の主張は前提を欠くものである。
エ 計算の誤りについて
本件各処分の処分時において,平成12年5月期事業年度及び平成14年5月期事業年度の寄附金損金算入限度額計算に間違いがあった。
また,P3及びP4について課税庁が行った平成10年分の所得税に関する課税処分にも計算の誤りがあった。
しかし,これらの事実は,本件各処分の違法性とは何ら関係がない。
なお,東京都渋谷区長が行ったP1の特別区民税都民税の決定処分に誤りがあったか否かは知らない。
オ P1との面談について
本件調査担当者は,P1に対する面談について,平成14年12月5日には,年内の日程調整を希望していたところ,同月17日に年内は無理であるとの回答があったことから,平成15年1月中旬での日程を再調整したが,結局面談は行われなかったものである。
原告が真摯に関係資料の提出や事実関係の説明を行わなかったことは,平成14年11月13日に行われた調査において,EB債1の全体像等について質問し,その後も機に応じて質問していたのに対し,平成15年2月19日に原告側から提出された書面が,いまだに「・・・の様です。」という語調であって具体的な資料の提出もなかったことや,そこにおいて初めてEB債1の実質的な資金提供者がP1家族であることを認めるに至ったことからも明らかである。
カ 資料の受領拒否について
渋谷税務署長及び被告は,原告からの提出資料の受領を拒否したことはない。原告が,資料の提出及び事実関係の説明について,徹底して非協力であったものにすぎない。
第9争点(9)(処分の算定根拠及び適法性)について
1 被告の主張
別紙3の第1被告の主張のとおり。
2 原告の主張
別紙3の第2原告の主張のとおり。
別紙3
処分の算定根拠及び適法性
第1被告の主張
1 本件各更正処分等
(1) 平成10年5月期更正処分の根拠及び適法性について
ア 平成10年5月期更正処分の根拠について
(ア) 申告所得金額(別表12-1(1)1欄) △3億6924万3429円
上記金額は,原告の平成10年5月期修正申告書に記載された所得金額である。
(イ) 支払利息の過大計上額(別表12-1(1)2欄)
3億5727万6484円
上記金額は,原告が平成10年5月期事業年度に平成10年5月28日付けでEB債1の支払利息として7億9524万9206円を計上した金額のうち,次のa及びbの各金額の合計金額3億5727万6484円を,損金の額に算入されないものとして所得金額に加算した金額である。
a 別表13―1の「⑦不当に高額な金額」欄のうち,P1家族に係る金額の合計額4億5636万0211円については,前記のとおりEB債1の発行とその利払を利用して行われた役員に対する利益の供与であり,平成10年法律第24号による改正前の法人税法34条2項の規定により,各役員に対する役員報酬の額と認められる。なお,利息の計算が必要な期間が(半年毎の期間以外で)1年に満たない場合,利息は,30日の12か月からなる360日をベースにして,また1か月に満たない場合は,経過した日数をベースにして計算するものとされている(以下,同じ。)。
そして,適正利率を超えて支払われた金額を当期中に支給されている各役員報酬額に加算すると,P1については,株主総会で決議された役員報酬の支給限度額を超えることとなるため,同条1項及び法人税法施行令69条2号の規定により,別表13―2の「⑧限度超過額」欄の「合計」欄の金額3億1604万0194円が過大な役員報酬の額となる。
b 別表13-1の「⑦不当に高額な金額」欄のうち「役員又は受益者の氏名」欄が「不明」と記載されているEB債1の購入金額1000万米ドル分は,原告がEB債1のうちの,第三者であるシナジープラスが購入したと主張する金額であるが,前記のとおり,真の投資家は,P1の関係者と認められるから,適正利率を超えて支払われた部分は,仮装・隠ぺいしてP1の関係者に利益供与がされたというべきであり,不当に高額な金額4123万6290円は,法人税法22条3項に規定する損金の額に算入されない。
(ウ) 課税総所得金額(別表12-1(1)14欄) △1196万6945円
上記金額は,前記(ア)の申告所得金額△3億6924万3429円に前記(イ)の所得金額に加算すべき金額3億5727万6484円を加えて算出した金額である。
(エ) 課税留保金額(別表12-1(1)16欄) 2億9341万1000円
上記金額は,法人税法67条2項の規定により,原告の平成10年5月期修正申告書に記載された留保所得金額8億8884万0726円から,aの住民税額374万5540円及びbの留保控除額5億9168万3397円を控除して算出した金額(ただし,通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。
a 控除される住民税額 374万5540円
上記金額は,法人税法施行令140条の規定により計算した住民税額の計算の基礎となる法人税額1809万4400円に20.7パーセントを乗じて算出した金額である。
b 留保控除額 5億9168万3397円
上記金額は,法人税法67条3項の規定により,同項1号に該当する金額となり,前記(ウ)の金額△1196万6945円に同法23条の規定により算出した受取配当等の益金不算入額17億0249万0937円(平成10年5月期修正申告書記載額と同額)を加算した金額16億9052万3392円に,35パーセントを乗じて算出した金額である。
(オ) 使途秘匿金の支出額(別表12-1(1)18欄)4523万6000円
上記金額は,前記(イ)bのとおり,原告が平成10年5月28日に支払利息として支出した4123万6290円は,シナジープラスを通じ,同名義人以外の者に支払われ,原告はそれを知っていたにもかかわらず,相当な理由もなく支払の相手方の氏名等を帳簿書類に記載しなかったものであり,当該支出は措置法62条2項に規定する使途秘匿金の支出に該当するので,平成10年5月期修正申告書に記載されていた使途秘匿金の支出金額400万円に当該金額を加えて算出した金額(ただし,通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。
(カ) 納付すべき法人税額(別表12-1(1)21欄) 0円
上記金額は,法人税法66条の規定に基づき,前記(ウ)の課税総所得金額△1196万6945円に対する法人税額0円に,前記(エ)の課税留保金額について同法67条1項の規定に基づき算出した税額5218万2200円(別表12-1(1)17欄)及び前記(オ)の使途秘匿金の支出について措置法62条1項の規定に基づき算出した税額1809万4400円(別表12-1(1)19欄)を加え,更に法人税法68条1項に規定する法人税額から控除される所得税額等の金額7027万6600円(別表12-1(1)20欄)を差し引いて算出した金額である。
(キ) 還付所得税額等(別表12-1(1)22欄)2億9334万0688円
上記金額は,平成10年5月期修正申告書に係る控除所得税額等の金額7947万4400円が前記(カ)のとおり7027万6600円に変更された結果919万7800円減少したため,平成10年5月期修正申告書に係る還付所得税額等の金額2億8414万2888円に,当該増加額919万7800円を加えた金額である。
(ク) 翌期へ繰り越す欠損金(別表12-1(1)23欄)
4億2015万2364円
上記金額は,平成10年5月期修正申告書に係る翌期繰越欠損金の金額7億7742万8848円から前記(イ)の所得金額に加算すべき金額3億5727万6484円を差し引いて算出した金額である。
イ 平成10年5月期更正処分の適法性について
前記アのとおり,被告が本訴において主張する平成10年5月期事業年度の原告の課税総所得金額は△1196万6945円,納付すべき法人税額は0円,翌期へ繰り越す欠損金は4億2015万2364円であり,当該各金額は平成10年5月期更正処分の金額といずれも同額であるから,当該処分は適法である。
(2) 平成11年5月期再更正処分の根拠及び適法性について
ア 平成11年5月期再更正処分の根拠について
(ア) 申告所得金額(別表12-1(2)1欄)
△53億9788万4179円
上記金額は,平成11年5月期更正処分における所得金額である。
(イ) 支払利息の過大計上額(別表12-1(2)2欄)
18億4552万6779円
上記金額は,原告が平成11年5月期事業年度に平成10年11月24日及び平成11年5月27日付けでEB債1の支払利息として14億8445万5937円及び14億6552万2560円を計上した金額のうち,次のa及びbの各金額の合計金額18億4552万6779円を,損金の額に算入されないものとして所得金額に加算した金額である。
a 別表13-1の「⑦不当に高額な金額」欄のうち,P1家族に係る金額の合計額16億8551万8553円については,前記のとおりEB債1の発行とその利払を利用して行われた役員に対する利益の供与であり,法人税法34条3項の規定により,各役員に対する役員報酬の額と認められ,適正利率を超えて不当に支払われた金額(別表13-1の⑦欄)は仮装・隠ぺいしてP1家族に利益供与がされ,各役員に報酬が支払われたというべきであるから,同条2項に規定する損金の額に算入しない報酬に該当する。
b 別表13-1の「⑦不当に高額な金額」欄のうち「役員又は受益者の氏名」欄が「不明」と記載されている2か所のEB債1購入金額1000万米ドル分は,原告がEB債1のうちシナジープラスが購入したと主張する金額であるが,真の投資家は,P1の関係者であるから,適正利率を超えて不当に高額に支払われた金額1億6000万8226円は,法人税法22条3項に規定する損金の額に算入されない。
(ウ) 課税総所得金額(別表12-1(2)14欄)
△35億5235万7400円
上記金額は,前記(ア)の申告所得金額△53億9788万4179円に前記(イ)の所得金額に加算すべき金額18億4552万6779円を加えて算出した金額である。
(エ) 使途秘匿金の支出額(別表12-1(2)18欄)
1億6800万8000円
上記金額は,前記(イ)bのとおり,原告が平成10年11月24日及び平成11年5月27日に支払利息として支出した8051万7497円及び7949万0729円の合計額1億6000万8226円は,シナジープラスを通じ,同名義人以外の者に支払われ,原告はそれを知っていたにもかかわらず,相当な理由もなく支払の相手方の氏名等を帳簿書類に記載しなかったものであり,当該支出は措置法62条2項に規定する使途秘匿金の支出に該当するので,平成11年5月期更正処分における使途秘匿金の支出金額800万円に当該金額を加えて算出した金額(ただし,通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。
(オ) 納付すべき法人税額(別表12-1(2)21欄) 0円
上記金額は,法人税法66条の規定に基づき,前記(ウ)の課税総所得金額△35億5235万7400円に対する法人税額0円に,前記(エ)の使途秘匿金の支出について措置法62条1項の規定に基づき算出した税額6720万3200円(別表12-1(2)19欄)を加え,更に法人税法68条1項に規定する法人税額から控除される所得税額等の金額6720万3200円(別表12-1(2)20欄)を差し引いて算出した金額である。
(カ) 還付所得税額等(別表12-1(2)22欄)1億1197万9994円
上記金額は,平成11年5月期更正処分における控除所得税額等の金額320万円が前記(オ)のとおり6720万3200円に6400万3200円増加したため,平成11年5月期更正処分における還付所得税額等の金額1億7598万3194円から,6400万3200円を差し引いた金額である。
(キ) 翌期へ繰り越す欠損金(別表12-1(2)23欄)
39億0479万8284円
上記金額は,平成11年5月期更正処分における翌期繰越欠損金の金額61億0760万1547円から前記(イ)の所得金額に加算すべき金額18億4552万6779円を差し引き,さらに,平成10年5月期更正処分に伴い減少する控除未済欠損金額3億5727万6484円(別表12-1(1)8欄の金額と同額)を差し引いて算出した金額である。
イ 平成11年5月期再更正処分の適法性について
前記アで述べたとおり,被告が本訴において主張する平成11年5月期事業年度の原告の課税総所得金額は△35億5235万7400円,納付すべき法人税額は0円,翌期へ繰り越す欠損金は39億0479万8284円であり,当該各金額は平成11年5月期再更正処分の金額といずれも同額であるから,当該処分は適法である。
(3) 平成12年5月期更正処分の根拠及び適法性について
ア 平成12年5月期更正処分の根拠について
(ア) 申告所得金額(別表12-1(3)1欄)△48億8652万0291円
上記金額は,原告の平成12年5月期確定申告書に記載された所得金額である。
(イ) 加算金額の合計額(別表12-1(3)8欄)
35億7247万5672円
上記金額は,下記のaないしfの合計金額である。
a 支払利息の過大計上額(別表12-1(3)2欄)
16億1680万8876円
上記金額は,原告が平成12年5月期事業年度に平成11年11月26日及び平成12年5月26日付けでEB債1の支払利息として12億9482万0937円及び12億8956万6875円を計上した金額のうち,次の(a)及び(b)の各金額の合計金額16億1680万8876円を,損金の額に算入しないものとして所得金額に加算した金額である。
(a) 別表13-1の「⑦不当に高額な金額」欄のうち,P1家族に係る金額の合計額14億7663万0624円については,前記のとおりEB債1の発行とその利払を利用して行われた役員に対する利益の供与であり,法人税法34条3項の規定により,各役員に対する役員報酬の額と認められ,適正利率を超えて支払われた金額(別表13-1の⑦欄)は仮装・隠ぺいしてP1家族に利益供与がされ,各役員に報酬が支払われたというべきであるから,同条2項に規定する損金の額に算入しない報酬に該当する。
(b) 別表13-1の「⑦不当に高額な金額」欄のうち「役員又は受益者の氏名」欄が「不明」と記載されている2か所のEB債1購入金額1000万米ドル分は,原告がEB債1のうちシナジープラスが購入したと主張する金額であるが,真の投資家は,P1の関係者であり,適正利率を超えて不当に高額に支払われた金額1億4017万8252円は,法人税法22条3項に規定する損金の額に算入されない。
b 寄附金の損金不算入額(別表12-1(3)3欄)
18億8082万1153円
上記金額は,前記のとおり,原告が平成12年5月期事業年度に計上した固定資産売却損23億4313万6510円のうち,β不動産の売却金額20億3612万4627円とβ土地に係る譲渡時における価格として適正な金額17億6051万6800円並びにβ建物及び同建物に付随する什器備品の取得価額21億5650万4726円の合計金額39億1702万1526円との差額18億8089万6899円については,法人税法132条の適用によりこれを否認し,原告から評価センターに対する寄附金に該当するものとして,同法37条の規定に基づき寄附金の損金算入限度額の再計算をした結果,新たに算出された寄附金の損金不算入額である。
c 過大な役員報酬の損金不算入額(別表12-1(3)4欄)
3300万円
上記金額は,原告が平成12年5月期事業年度に計上した代表取締役であるP2の役員報酬6000万円のうちの3300万円部分であり,法人税法34条1項の規定に基づき不相当に高額と認められた役員報酬額として,損金の額に算入できないとして所得金額に加算した金額である。
d 役員賞与の損金不算入額(別表12-1(3)5欄)
1602万3535円
上記金額は,原告がその役員であるP1家族の個人的な費用を負担したものであり,法人税法35条4項に規定する賞与の金額と認められることから,同条1項の規定に基づき損金不算入の額を所得金額に加算したものである。
e 租税公課の過大計上額(別表12-1(3)6欄)430万3108円
上記金額は,前記のとおり,原告が平成12年5月期事業年度に計上した租税公課のうち,KOBEファンドに係る取引について,原告の法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められることから,法人税法132条の規定によりこれを否認し,租税公課の過大計上額として所得金額に加算したものである。
f 有価証券等売却損の過大計上額(別表12-1(3)7欄)
2151万9000円
上記金額は,前記のとおり,原告が平成12年5月期事業年度に計上した有価証券等売却損のうち,KOBEファンドに係る取引について,原告の法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められることから,法人税法132条の規定によりこれを否認し,有価証券等売却損の過大計上額として所得金額に加算したものである。
(ウ) 減算金額の合計額(別表12-1(3)13欄) 3952万2637円
上記金額は,下記のaないしdの合計金額である。
a 交際費等の損金不算入額の過大計上額(別表12-1(3)9欄)
1531万7655円
上記金額は,原告が平成12年5月期確定申告書に添付した「交際費等の損金算入に関する明細書」の支出交際費の額に,下記(a)の金額を加え,下記(b)の金額を差し引いて,措置法61条の4第1項の規定により損金算入限度額を再計算した結果,損金不算入額が過大となることから,所得金額から減算した金額である。
(a) 交際費等に該当する支出金額 70万5880円
原告は,平成12年5月期事業年度の交際費として2609万0406円を計上しているにもかかわらず,平成12年5月期確定申告書に添付した「交際費等の損金算入に関する明細書」には交際費の支出額を誤って2538万4526円と記載していたので,差額の70万5880円は交際費等の額に該当する。
(b) 交際費等に該当しない支出金額 1602万3535円
原告が平成12年5月期事業年度に計上した交際費のうち,原告がその役員であるP1家族の個人的な費用を負担したものと認められる法人税法35条4項に規定する賞与の金額1602万3535円は交際費等の額に該当しない。
b 受取配当金の過大計上額(別表12-1(3)10欄)
2151万5540円
上記金額は,前記のとおり,KOBEファンドに係る取引について,原告の法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められることから,法人税法132条の規定によりこれを否認し,平成12年5月期確定申告書において,KOBEファンドに係る取引として原告が計上した受取配当金については,受取配当金の過大計上額として所得金額から減算したものである。
c 損金の額に算入した道府県民税利子割額の過大計上額(別表12-1(3)11欄)
107万5777円
上記金額は,前記のとおり,KOBEファンドに係る取引として,前記bと同様に,法人税法132条の規定によりこれを否認し,平成12年5月期確定申告書において,損金の額に算入した道府県民税利子割額107万5777円について,過大計上額として所得金額から減算したものである。
d 法人税額から控除される所得税額の過大計上額(別表12-1(3)12欄)
161万3665円
上記金額は,前記のとおり,KOBEファンドに係る取引として,前記bと同様に,法人税法132条の規定によりこれを否認し,平成12年5月期確定申告書において,法人税額から控除される所得税額として計上していた161万3665円については,法人税額から控除される所得税額の過大計上額として所得金額から減算したものである。
(エ) 課税総所得金額(別表12-1(3)14欄)
△13億5356万7256円
上記金額は,前記(ア)の申告所得金額△48億8652万0291円に前記(イ)の所得金額に加算すべき金額の合計35億7247万5672円を加え,前記(ウ)の所得金額から減算すべき金額の合計3952万2637円を差し引いて算出した金額である。
(オ) 使途秘匿金の支出額(別表12-1(3)18欄)
1億4417万8000円
上記金額は,前記(イ)a(b)のとおり,原告が平成11年11月26日及び平成12年5月26日に支払利息として支出した7023万1617円及び6994万6635円の合計額1億4017万8252円は,シナジープラスを通じ,同名義人以外の者に支払われ,原告はそれを知っていたにもかかわらず,相当な理由もなく支払の相手方の氏名等を帳簿書類に記載しなかったものであり,当該支出は措置法62条2項に規定する使途秘匿金の支出に該当するので,平成12年5月期確定申告書に記載された使途秘匿金の支出金額400万円に当該金額を加えて算出した金額(ただし,通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。
(カ) 納付すべき法人税額(別表12-1(3)21欄) 0円
上記金額は,法人税法66条の規定に基づき,前記(エ)の課税総所得金額△13億5356万7256円に対する法人税額0円に,前記(オ)の使途秘匿金の支出について措置法62条1項の規定に基づき算出した税額5767万1200円(別表12-1(3)19欄)を加え,更に法人税法68条1項に規定する法人税額から控除される所得税額等の金額5767万1200円(別表12-1(3)20欄)を差し引いて算出した金額である。
(キ) 還付所得税額等(別表12-1(3)22欄) 8030万1855円
上記金額は,平成12年5月期確定申告書に記載された還付所得税額等の金額1億3798万6720円から,平成12年5月期確定申告書に記載された控除所得税額等の金額160万円が前記(カ)のとおり5767万1200円に5607万1200円増加したため,5607万1200円を差し引き,また,同確定申告書において計上していたKOBEファンドに係る所得税額161万3665円を差し引いた金額である。
(ク) 翌期へ繰り越す欠損金(別表12-1(3)23欄)
50億5352万0005円
上記金額は,平成12年5月期確定申告書における翌期繰越欠損金の金額107億8927万6303円から前記(イ)の所得金額に加算すべき金額の合計35億7247万5672円(別表12-1(3)8欄)を差し引き,前記(ウ)の所得金額から減算すべき金額の合計3952万2637円(別表12-1(3)13欄)を加え,さらに,平成10年5月期更正処分に伴い減少する控除未済欠損金額3億5727万6484円(別表12-1(1)8欄の金額と同額)及び平成11年5月期再更正処分に伴い減少する控除未済欠損金額18億4552万6779円(別表12-1(2)8欄の金額と同額)をそれぞれ差し引いて算出した金額である。
イ 平成12年5月期更正処分の適法性について
前記アで述べたとおり,被告が本訴において主張する平成12年5月期事業年度の原告の課税総所得金額は△13億5356万7256円,納付すべき法人税額は0円,翌期へ繰り越す欠損金は50億5352万0005円であり,当該各金額は平成12年5月期更正処分の金額といずれも同額又はこれを上回る(翌期へ繰り越す欠損金は下回る)金額であるから,当該処分は適法である。
(4) 平成13年5月期再更正処分の根拠及び適法性について
ア 平成13年5月期再更正処分の根拠について
(ア) 申告所得金額(別表12-2(4)1欄) 0円
上記金額は,原告の平成13年5月期確定申告書に記載された所得金額である。
(イ) 加算金額の合計額(別表12-2(4)13欄)
6億1808万4961円
上記金額は,下記のaないしfの合計金額である。
a 支払利息の過大計上額(別表12-2(4)2欄)
3億6882万2632円
上記金額は,原告が平成13年5月期事業年度に平成12年8月17日,同年9月7日及び同月28日付けでEB債1の支払利息として計上した金額1億2265万0572円,1億8587万3218円,1億5202万0020円及び7601万0009円並びに平成13年5月31日付けでベントリアンローンの支払利息として計上した金額4746万5753円(別表6-1の③欄)のうち,次の(a)ないし(c)の各金額の合計金額3億6882万2632円を,損金の額に算入しないものとして所得金額に加算した金額である。
(a) 別表13-1の「⑦不当に高額な金額」欄のうち,P1家族に係る金額の合計額2億8870万2052円については,前記のとおりEB債1の発行とその利払を利用して行われた役員に対する利益の供与であり,法人税法34条3項の規定により,各役員に対する役員報酬の額と認められ,適正利率を超えて支払われた金額(別表13-1の⑦欄)は仮装・隠ぺいしてP1家族に利益供与がされ,各役員に報酬が支払われたというべきであるから,同条2項に規定する損金の額に算入しない報酬に該当する。
(b) 別表13-1の「⑦不当に高額な金額」欄のうち「役員又は受益者の氏名」欄が「不明」と記載されているEB債1購入金額1000万米ドル分は,原告がEB債1のうちシナジープラスが購入したと主張する金額であるが,前記のとおり真の投資家は,P1の関係者であり,適正利率を超えて不当に高額に支払われた金額4741万2361円は,法人税法22条3項に規定する損金の額に算入されない。
(c) 別表6-2の「③支払利息の過大計上」欄の3270万8219円は,前記のとおり,ベントリアンローンの仕組みとその利払を利用して行われた,役員であるP3及びP4に対する利益の供与であり,法人税法34条3項の規定により,各役員に対する役員報酬の額と認められ,同条2項に規定する損金の額に算入しない報酬の額に該当する。
b 過大な役員報酬の損金不算入額(別表12-2(4)4欄)
3300万円
上記金額は,原告が平成13年5月期事業年度に計上した代表取締役であるP2の役員報酬6000万円のうち3300万円部分であり,法人税法34条1項の規定に基づき不相当に高額と認められた役員報酬額として,損金の額に算入できないとして所得金額に加算した金額である。
c 役員賞与の損金不算入額(別表12-2(4)5欄)
2815万1087円
上記金額は,原告がその役員であるP1家族の個人的な費用を負担したものであり,法人税法35条4項に規定する賞与の金額と認められることから,同条1項の規定に基づき損金不算入の額を所得金額に加算した金額である。
d 未払金取崩役員賞与(別表12-2(4)6欄) 2万9672円
上記金額は,平成12年5月期更正処分において,原告がその役員であるP1家族の個人的な費用を負担したものと認定した法人税法35条4項に規定する賞与の金額のうち,平成12年5月期事業年度において未払であったもので,平成13年5月期事業年度において支払があった金額について,未払金取崩額を所得金額に加算したものである。
e 雑損失の過大計上額(別表12-2(4)8欄)3808万1570円
上記金額は,原告が平成13年5月期事業年度にエイチ・ティー・シー・パートナーズ・エル・ピー(以下「HTC」という。)の事業年度分の収入金額をその分配割合に応じて雑益として益金の額に算入し,それに係る原価及び費用の額並びに損失の額をその分配割合に応じて雑損失として損金の額に算入している金額のうち,HTCの投資先に対する将来の投資損失の発生に備えるため投資損失引当金として引当金計上している金額は,法人税法上認められる引当金に該当しないため,当該金額を所得金額に加算したものである。
f 受贈益計上漏れ(別表12-2(4)10欄) 1億5000万円
上記金額は,原告が商工ファンドから受けた金銭の贈与と認められる1億5000万円について,平成13年5月期再更正処分において,受贈益計上漏れとして所得金額に加算した金額である。
(ウ) 減算金額の合計額(別表12-2(4)24欄)
6億1808万4961円
上記金額は下記aないしdの合計額である。
a 交際費等の損金不算入額の過大計上額(別表12-2(4)14欄)
1133万7835円
上記金額は,原告が平成13年5月期事業年度に計上した交際費のうち,原告がその役員であるP1家族の個人的な費用を負担したものであり,法人税法35条4項に規定する賞与の金額と認められることから,1133万7835円を交際費等の額から減算し,措置法61条の4第1項の規定により損金算入限度額を再計算した結果,損金不算入額が過大となることから,所得金額から減算した金額である。
b 前期否認損金計上役員賞与認容(別表12-2(4)15欄)
2万9672円
上記金額は,平成12年5月期更正処分において,原告がその役員であるP1家族の個人的な費用を負担したものと認定した法人税法35条4項に規定する賞与の金額のうち,平成12年5月期事業年度に未払であった金額を,平成13年5月期事業年度に支払ったため,当該金額を所得金額から減算したものである。
c 事業税の損金算入額(別表12-2(4)22欄) 344万2400円
上記金額は,平成13年3月期更正処分及び平成13年3月期再更正処分によって新たに納付すべきことになる事業税の金額である。
d 欠損金の当期控除額(別表12-2(4)23欄)
6億0327万5054円
上記金額は,前記(イ)の金額6億1808万4961円から前記(ウ)aないしcの合計金額1480万9907円を差し引いた金額を,欠損金の当期控除額として所得金額から減算した金額である。
(エ) 課税総所得金額(別表12-2(4)25欄) 0円
上記金額は,前記(ア)の申告所得金額0円に前記(イ)の所得金額に加算すべき金額の合計6億1808万4961円を加え,前記(ウ)の所得金額から減算すべき金額の合計6億1808万4961円を差し引いて算出した金額である。
(オ) 使途秘匿金の支出額(別表12-2(4)27欄)4741万2000円
上記金額は,前記(イ)a(b)のとおり,原告が平成12年9月28日に支払利息として支出した4741万2361円は,シナジープラスを通じ,同名義人以外の者に支払われ,原告はそれを知っていたにもかかわらず,相当な理由もなく支払の相手方の氏名等を帳簿書類に記載しなかったものであり,当該支出は措置法62条2項に規定する使途秘匿金の支出に該当するので,同条1項の規定により算出した金額(ただし,通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。
(カ) 納付すべき法人税額(別表12-2(4)30欄) 0円
上記金額は,法人税法66条の規定に基づき,前記(エ)の課税総所得金額0円に対する法人税額0円に,使途秘匿金の支出について措置法62条1項の規定に基づき算出した税額1896万4800円(別表12-2(4)28欄)を加え,更に法人税法68条1項に規定する法人税額から控除される所得税額等の金額1896万4800円(別表12-2(4)29欄)を差し引いて算出した金額である。
(キ) 還付所得税額等(別表12-2(4)31欄)3億7682万0059円
上記金額は,平成13年5月期確定申告書における控除所得税額等の金額0円が前記(カ)のとおり1896万4800円に増加したため,平成13年5月期確定申告書における還付所得税額等の金額3億9578万4859円から,当該増加額1896万4800円を差し引いた金額である。
(ク) 翌期へ繰り越す欠損金(別表12-2(4)32欄)
37億6948万4619円
上記金額は,平成13年5月期確定申告書における翌期繰越欠損金の金額101億0851万5971円から前記(ウ)dの欠損金の当期控除額6億0327万5054円(別表12-2(4)23欄)を差し引き,さらに,平成10年5月期更正処分に伴い減少する控除未済欠損金額3億5727万6484円(別表12-1(1)8欄の金額と同額),平成11年5月期再更正処分に伴い減少する控除未済欠損金額18億4552万6779円(別表12-1(2)8欄の金額と同額)及び平成12年5月期事業年度の所得金額の再計算に伴い減少する控除未済欠損金額35億3295万3035円(別表12-1(3)8欄の金額から同13欄の金額を差し引いた金額)をそれぞれ差し引いて算出した金額である。
イ 平成13年5月期再更正処分の適法性について
前記アで述べたとおり,被告が本訴において主張する平成13年5月期事業年度の原告の課税総所得金額は0円,納付すべき法人税額は0円,翌期へ繰り越す欠損金は37億6948万4619円であり,当該各金額は平成13年5月期再更正処分の金額といずれも同額又は上回る(翌期へ繰り越す欠損金は下回る)金額であるから,当該処分は適法である。
(5) 平成14年5月期更正処分(ただし,平成14年5月期再更正処分により一部取り消された後の部分)の根拠及び適法性について
ア 平成14年5月期更正処分(ただし,平成14年5月期再更正処分により一部取り消された後の部分)の根拠について
(ア) 申告所得金額(別表12-2(5)1欄) 0円
上記金額は,原告の平成14年5月期確定申告書に記載された所得金額である。
(イ) 加算金額の合計額 17億5544万2857円
上記金額は,下記aないしkの合計金額である。
a 支払利息の過大計上額(別表12-2(5)2欄) 1億8950万円
上記金額は,前記のとおり,ベントリアンローンの仕組みとその利払を利用して行われた,役員であるP3及びP4に対する利益の供与であり,法人税法34条3項の規定により,各役員に対する役員報酬の額と認められ,同条2項に規定する損金の額に算入しない報酬の額に該当する。
b 寄附金の損金不算入額(別表12-2(5)3欄)
2798万0071円
上記金額は,下記のとおり寄附金と認められる金額の(a)及び(b)の合計4376万9863円について,法人税法37条の規定に基づき寄附金の損金算入限度額の再計算をした結果,寄附金の損金不算入額が発生したことから所得金額に加算したものである。
(a) 原告が,別表6-1及び同6-2のとおり,平成14年1月24日に支払利息として支払った金額のうち3166万9863円は,前記のとおり,P3及びP4に対する寄附金に該当する。
(b) 原告が,平成14年5月期事業年度に計上したP4の夫P13,P1の弟P40及び同人の妻P41に対する給料手当の合計額1210万円は,同人らの勤務あるいは役務提供の事実が認められないことから,同人らに対する無償の利益供与である寄附金に該当する。
c 過大な役員報酬の損金不算入額(別表12-2(5)4欄)
3300万円
上記金額は,原告が平成14年5月期事業年度に計上した代表取締役であるP2の役員報酬6000万円のうち3300万円部分であり,法人税法34条1項の規定に基づき不相当に高額と認められた役員報酬額として,損金の額に算入できないとして所得金額に加算した金額である。
d 役員賞与の損金不算入額(別表12-2(5)5欄)
8722万9350円
上記金額は,原告がその役員であるP1家族の個人的な費用を負担したものであり,法人税法35条4項に規定する賞与の金額と認められることから,同条1項の規定に基づき所得金額に加算したものである。
e 未払金取崩役員賞与(別表12-2(5)6欄) 202万4398円
上記金額は,平成13年5月期再更正処分において,原告がその役員であるP1家族の個人的な費用を負担したものと認定した法人税法35条4項に規定する賞与の金額のうち,平成13年5月期事業年度において未払であったもので,平成14年5月期事業年度において支払があった金額について,未払金取崩額を所得金額に加算したものである。
f 未払金取崩役員報酬(別表12-2(5)7欄)3270万8219円
上記金額は,平成13年5月期再更正処分において,原告がその役員であるP1家族に対して報酬を支給したものと認定した法人税法34条2項に規定する報酬の金額のうち,平成13年5月期事業年度において未払であったもので,平成14年5月期事業年度において支払があった金額について,未払金取崩額を所得金額に加算した金額である。
g 雑損失の過大計上額(別表12-2(5)8欄)6138万1480円
上記金額は,原告が平成14年5月期事業年度にHTCの事業年度分の収入金額をその分配割合に応じて雑益として益金の額に算入し,それに係る原価及び費用の額並びに損失の額をその分配割合に応じて雑損失として損金の額に算入している金額のうち,HTCの投資先に対する将来の投資損失の発生に備えるため投資損失引当金として引当金計上している金額は,法人税法上認められる引当金に該当しないため,当該金額を所得金額に加算したものである。
h 受取利息計上漏れ(別表12-2(5)9欄) 6531万5068円
上記金額は,前記のとおり,原告が平成13年8月7日にP114兄弟から購入したコイオスU/Tの受益権について,ベントラー社からコイオスU/Tに支払われた年3.2パーセントの利息相当額のうち平成13年8月7日以降平成14年5月31日までの受取利息(別表6-2の⑤欄)であり,原告に帰属するものと認められることから,所得金額に加算したものである。
i 受贈益計上漏れ(別表12-2(5)10欄)
8億5142万4657円
上記金額は,原告がP114兄弟から贈与を受けた下記(a)の金額1億0142万4657円及び商工ファンドから原告に対する金銭の贈与である下記(b)の金額7億5000万円の合計金額で,受贈益計上漏れとして所得金額に加算した金額である。
(a) 原告が平成13年8月7日にP114兄弟から購入したコイオスU/Tの受益権の正常な取引金額は,P114兄弟の購入価格25億円に,ベントラー社からコイオスU/Tへ支払われる年3.2パーセントの利息相当額を加算した後の金額の26億2142万4657円であるから,原告の購入金額25億2000万円との差額1億0142万4657円(別表6-2の⑥欄)は,原告がP114兄弟から贈与を受けたものと認められる。
(b) 原告が商工ファンドから受けた金銭の贈与と認められる金額7億5000万円を受贈益計上漏れとして,平成14年5月期再更正処分において,所得金額に加算したものである。
j 雑収入計上漏れ(別表12-2(5)11欄) 12万3455円
上記金額は,原告が平成14年5月課税期間の消費税等の計算に含めていた前記(イ)dの経費に係る仮払消費税の合計額71万0355円と平成15年3月14日付けの平成14年5月期事業年度に対応する課税期間の消費税等の更正処分により新たに納付することとなった消費税等の額58万6900円との差額を所得金額に加算した金額である。
k 欠損金の当期控除額(別表12-2(5)12欄)
4億0475万6159円
上記金額は,後記(ウ)の金額17億5544万2857円から前記aないしjの合計金額13億5068万6698円を差し引いた金額を,欠損金の当期控除額として所得金額に加算した金額である。
(ウ) 減算金額の合計額 17億5544万2857円
上記金額は,下記aないしhの金額の合計金額である。
a 交際費等の損金不算入額の過大計上額(別表12-2(5)14欄)
6174万4957円
上記金額は,原告が平成14年5月期事業年度に計上した交際費のうち,原告がその役員であるP1家族の個人的な費用を負担したものである。これは,法人税法35条4項に規定する賞与であることから,6174万4957円を交際費等の額から減算し,措置法61条の4第1項の規定により損金算入限度額を再計算した結果,損金不算入額が過大となることから,所得金額から減算した金額である。
b 前期否認損金計上役員賞与認容(別表12-2(5)15欄)
202万4398円
上記金額は,平成13年5月期再更正処分において,原告がその役員であるP1家族の個人的な費用を負担したものと認定した法人税法35条4項に規定する賞与の金額のうち,平成13年5月期事業年度に未払であった金額を平成14年5月期事業年度に支払ったため,当該金額を所得金額から減算したものである。
c 前期否認損金計上役員報酬認容(別表12-2(5)16欄)
3270万8219円
上記金額は,平成13年5月期再更正処分において,原告がその役員に対して支給したものと認定した法人税法34条2項に規定する報酬に該当する金額のうち,平成13年5月期事業年度に未払であった金額を,平成14年5月期事業年度に支払ったため,当該金額を所得金額から減算したものである。
d 未払寄附金認定損(別表12-2(5)17欄)3166万9863円
上記金額は,平成13年3月期更正処分において,評価センターからP3及びP4に対する寄附金に該当すると認定した金額のうち,平成13年3月期事業年度に未払であった金額を,平成14年5月期事業年度に支払ったため,当該金額を所得金額から減算したものである。
e 仮払消費税等認容(別表12-2(5)18欄) 71万0355円
上記金額は,前記(イ)dにおいて,原告がその役員であるP1家族の個人的な費用を負担したものと認定した法人税法35条4項に規定する賞与の金額のうち,仮払消費税等の金額の合計を所得金額から減算したものである。
f 延払譲渡収入過大計上額(別表12-2(5)19欄)
7億1428万5715円
上記金額は,平成14年5月期再更正処分において,原告が商工ファンドから金銭の贈与を受けたものと認定した7億5000万円について,原告が延払譲渡収入として益金の額に算入していた金額7億1428万5715円を所得金額から減算したものである。
g 匿名組合分配益過大計上額(別表12-2(5)20欄)
9億1058万2965円
上記金額は,平成14年5月期再更正処分において,原告が匿名組合分配益として益金の額に算入していた金額9億1058万2965円は,原告が株式会社トータル・アウトソーシング・サービスの株式を取得した代金のうちの過大分の返戻金と認められるので,当該金額を所得金額から減算したものである。
h 雑損失計上漏れ(別表12-2(5)21欄) 171万6385円
上記金額は,前記fにより課税売上割合が減少し,それに伴い,損金の額に算入される控除対象外消費税額等が新たに算出されたので,所得金額から減算した金額である。
(エ) 課税総所得金額(別表12-2(5)25欄) 0円
上記金額は,前記(ア)の申告所得金額0円に前記(イ)の所得金額に加算すべき金額の合計17億5544万2857円を加え,前記(ウ)の所得金額から減算すべき金額の合計17億5544万2857円を差し引いて算出した金額である。
(オ) 納付すべき法人税額(別表12-2(5)30欄) 0円
上記金額は,法人税法66条の規定に基づき算出した,前記(エ)の課税総所得金額0円に対する法人税額0円である。
(カ) 還付所得税額等(別表12-2(5)31欄)1億8987万0850円
上記金額は,平成14年5月期確定申告書における還付所得税額等の金額である。
(キ) 翌期へ繰り越す欠損金(別表12-2(5)32欄)
23億9830万2091円
上記金額は,平成14年5月期確定申告書における翌期繰越欠損金の金額83億3257万7284円に前記(イ)kの欠損金の当期控除額4億0475万6159円(別表12-2(5)12欄)を加え,平成10年5月期更正処分に伴い減少する控除未済欠損金額3億5727万6484円(別表12-1(1)8欄の金額と同額),平成11年5月期再更正処分に伴い減少する控除未済欠損金額18億4552万6779円(別表12-1(2)8欄の金額と同額),平成12年5月期事業年度の所得金額の再計算に伴い減少する控除未済欠損金額35億3295万3035円(別表12-1(3)8欄の金額から同13欄の金額を差し引いた金額),平成13年5月期再更正処分に伴い減少する控除未済欠損金額6億0327万5054円(別表12-2(4)23欄の金額と同額)を差し引いて算出した金額である。
イ 平成14年5月期更正処分(ただし,平成14年5月期再更正処分により一部取り消された後の部分)の適法性について
前記アのとおり,被告が本訴において主張する平成14年5月期事業年度の原告の課税総所得金額は0円,納付すべき法人税額は0円,翌期へ繰り越す欠損金は23億9830万2091円であり,当該各金額は平成14年5月期更正処分(ただし,平成14年5月期再更正処分により一部取り消された後の部分)の金額といずれも同額又はこれを上回る(翌期へ繰り越す欠損金は下回る)金額であるから,当該処分は適法である。
(6) 平成12年6月期更正処分の根拠及び適法性について
ア 平成12年6月期更正処分の根拠について
(ア) 申告所得金額(別表10-3(6)1欄)△1億4789万3580円
上記金額は,評価センターの平成12年6月期確定申告書に記載された所得金額である。
(イ) 支払利息の過大計上額(別表10-3(6)2欄)7891万5068円
上記金額は,前記のとおり,評価センターが平成12年6月期事業年度にベントリアンローンの支払利息として計上した金額1億1904万1095円(別表6-1の①欄)のうち,ベントリアンローンの仕組みの中でラファエロに支払われた金額7891万5068円(別表6-2の①欄)は,原告と合併をする以前の評価センターから,ベントリアンローンの仕組みとその利払を利用して行われた,原告の役員であるP3及びP4に対する利益の供与であり,支払利息の名目を借りて,海外の法人及び信託を介在させることで真の受益者を隠し,仮装・隠ぺいしてP3及びP4に利益供与がされたものであることから,P3及びP4に対する法人税法37条に規定する寄附金と認められる。
しかし,当該金額は,平成12年6月期事業年度において未払となっているため,法人税法施行令78条により損金の金額に算入できず,支払われていない金額を所得金額に加算したものである。
(ウ) 課税総所得金額(別表10-3(6)10欄) △6897万8512円
上記金額は,前記(ア)の申告所得金額△1億4789万3580円に前記(イ)の所得金額に加算すべき金額7891万5068円を加えて算出した金額である。
(エ) 納付すべき法人税額(別表10-3(6)13欄) 0円
上記金額は,法人税法66条の規定に基づき算出した,前記(ウ)の課税総所得金額△6897万8512円に対する法人税額0円である。
(オ) 還付所得税額等(別表10-3(6)14欄) 1万1394円
上記金額は,平成12年6月期確定申告書に記載された還付所得税額等の金額である。
(カ) 翌期へ繰り越す欠損金(別表10-3(6)15欄)
8908万3787円
上記金額は,平成12年6月期確定申告書に記載された翌期繰越欠損金の金額1億6799万8855円から前記(イ)の金額7891万5068円を差し引いて算出した金額である。
イ 平成12年6月期更正処分の適法性について
前記アのとおり,被告が本訴において主張する平成12年6月期事業年度の評価センターの課税総所得金額は△6897万8512円,納付すべき法人税額は0円,翌期へ繰り越す欠損金は8908万3787円であり,当該各金額は平成12年6月期更正処分の金額といずれも同額であるから,当該処分は適法である。
(7) 平成13年3月期更正処分(ただし,平成13年3月期再更正処分により一部取り消された後の部分)の根拠及び適法性について
ア 平成13年3月期更正処分(ただし,平成13年3月期再更正処分により一部取り消された後の部分)の根拠について
(ア) 申告所得金額(別表10-3(7)1欄) 0円
上記金額は,評価センターの平成13年3月期修正申告書に係る所得金額である。
(イ) 加算金額の合計額(別表10-3(7)5欄)2億5811万1525円
上記金額は,下記aないしcの金額の合計金額である。
a 支払利息の過大計上額(別表10-3(7)2欄)
3166万9863円
上記金額は,前記のとおり,評価センターが平成13年3月期事業年度にベントリアンローンの支払利息として計上した金額2億0267万2073円(別表6-1の②欄)のうち,ベントリアンローンの仕組みの中でラファエロに支払われることとなる金額1億4121万6438円(別表6-2の②欄)は,評価センターから,ベントリアンローンの仕組みとその利払を利用して行われた,原告の役員であるP3及びP4に対する利益の供与であり,支払利息の名目を借りて,海外の法人及び信託を介在させることで真の受益者を隠し,仮装・隠ぺいして各役員に利益供与がされたものであることから,P3及びP4に対する法人税法37条に規定する寄附金と認められる。
しかし,当該金額のうち3166万9863円は,平成13年3月期事業年度において未払となっているため,法人税法施行令78条により損金の金額に算入できず,支払われていない金額を所得金額に加算したものである。
b 寄附金の損金不算入額(別表10-3(7)3欄)
1億8685万7642円
上記金額は,前記aのラファエロに支払われることとなる金額1億4121万6438円はP3及びP4に対する法人税法37条に規定する寄附金と認められるから,未払である3166万9863円を差し引いた金額1億0954万6575円及び平成12年6月期事業年度で未払となっていた金額7891万5068円を合計し,法人税法37条2項の規定に基づき寄附金の損金算入限度額の計算をした結果,発生した寄附金の損金不算入額として所得金額に加算したものである。
c 欠損金の当期控除額(別表10-3(7)4欄)3958万4020円
上記金額は,平成13年3月期修正申告書における欠損金の当期控除額1億2866万7807円から,平成12年6月期更正処分において翌期へ繰り越す欠損金として算出された金額8908万3787円(別表10-3(6)15欄)を差し引いた金額を,欠損金の当期控除額として所得金額に加算した金額である。
(ウ) 減算金額の合計額(別表10-3(7)9欄)2億2180万3074円
上記金額は,下記aないしcの金額の合計金額である。
a 未払寄附金認定損(別表10-3(7)6欄) 7891万5068円
上記金額は,平成12年6月期更正処分において,評価センターからP3及びP4に対する寄附金に該当すると認定した金額のうち,平成12年6月期事業年度に未払であった金額を,平成13年3月期事業年度に支払ったため,当該金額を所得金額から減算したものである。
b 営業権譲渡収入の過大計上額(別表10-3(7)7欄)
1億4285万7143円
上記金額は,平成13年5月期再更正処分において,原告が商工ファンドから金銭の贈与を受けたものと認定した1億5000万円について,評価センターが営業権譲渡収入として益金の額に算入した金額1億4285万7143円を,所得金額から減算したものである。
c 雑損失計上漏れ(別表10-3(7)8欄) 3万0863円
上記金額は,前記bにより評価センターが仮受消費税等の額としていた714万2857円から,課税売上割合が低下することにより生じる評価センターが還付を受けるべき消費税等の額691万2600円及び繰延消費税額等19万9394円を差し引いた金額を,所得金額から減算した金額である。
(エ) 課税総所得金額(別表10-3(7)10欄) 3630万8451円
上記金額は,前記(ア)の申告所得金額0円に前記(イ)の所得金額に加算すべき金額2億5811万1525円を加え,前記(ウ)の所得金額から減算すべき金額2億2180万3074円を差し引いて算出した金額である。
(オ) 納付すべき法人税額(別表10-3(7)13欄)1040万2900円
上記金額は,法人税法66条の規定に基づき,前記(エ)の課税総所得金額3630万8000円(ただし,通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)に対して同条規定の税率を乗じて算出した金額の合計額1041万2400円(別表10-3(7)11欄)から,法人税法68条1項に規定する法人税額から控除されるべき所得税額等の金額9417円(別表10-3(7)12欄)を差し引いて算出した金額(ただし,通則法119条1項の規定に基づき,100円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。
(カ) 翌期へ繰り越す欠損金(別表10-3(7)15欄) 0円
上記金額は,評価センターの平成13年3月期修正申告書における翌期繰越欠損金の金額3933万1048円に前記(イ)cの欠損金の当期控除額3958万4020円(別表10-3(7)4欄)を加え,さらに,平成12年6月期更正処分に伴い減少する控除未済欠損金額7891万5068円(別表10-3(6)5欄と同額)を差し引いて算出した金額である。
イ 平成13年3月期更正処分(ただし,平成13年3月期再更正処分により一部取り消された後の部分)の適法性について
前記アのとおり,被告が本訴において主張する平成13年3月期事業年度の評価センターの課税総所得金額は3630万8451円,納付すべき法人税額は1040万2900円,翌期へ繰り越す欠損金は0円であり,当該各金額は平成13年3月期更正処分(ただし,平成13年3月期再更正処分により一部取り消された後の部分)の金額といずれも同額であるから,当該処分は適法である。
2 本件各加算税賦課決定処分等
(1) 本件各重加算税賦課決定処分等の根拠及び適法性について
ア 本件各重加算税賦課決定処分等の根拠について
前記のとおり,原告の次の行為は,通則法68条1項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし,又は仮装し,その隠ぺいし,又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当する。
(ア) EB債1について
前記のとおり,原告とP1は,EB債1の取引により,P1家族の多額の資金を原告に提供してその利息という形で原告がP1家族に対して利益の移転を行い,原告において欠損金を蓄積することを意図した。その具体的方法として,原告とP1はEB債1の金利を架空又は不当な理由でかさ上げし,かつ,何の機能も果たしていない海外の法人,海外のパートナーシップ及び海外の信託を介在させ,外見上P1家族との関連性がない海外のパートナーシップ等を投資家に仕立てて,P1家族が真の投資家であることを隠し,当該資金取引が海外の第三者との間で行われた正常なものであるかのように見せかけた。以上により,原告はP1家族らに対して利益供与を行っている事実を隠ぺいして,海外の投資家に対して支払利子を支払っているかのように仮装したものである。
また,そうでないと仮定しても,前記のとおり,当初から過少申告を意図し,これを外部からうかがい知れる特段の行動を行い,かつ,その過少申告の意図に基づいて,申告を行ったことが認められるから,重加算税の賦課要件を満たす事実が存在するといえる。
(イ) ベントリアンローンについて
前記のとおり,原告及び評価センターは,ベントリアンローンに係る取引に関し,経済合理性のない海外の法人及び海外の信託を介在させ,P3及びP4への利益供与を支払利息に仮装し,P3及びP4への利益供与額を隠ぺいしたものである。
また,そうでないと仮定しても,前記のとおり,当初から過少申告を意図し,これを外部からうかがい知れる特段の行動を行い,かつ,その過少申告の意図に基づいて,申告を行ったことが認められるから,重加算税の賦課要件を満たす事実が存在するといえる。
イ 本件各重加算税賦課決定処分等の適法性について
(ア) 平成11年5月期重加算税賦課決定処分(ただし,平成11年5月期重加算税変更決定処分により一部取り消された後の部分)の適法性について
原告の平成11年5月期再更正処分により新たに納付すべきこととなった税額(還付所得税額等の減少額である別表11の①8欄から④8欄を差し引いた金額)2919万7828円に対する加算税は,通則法68条の規定に基づいて算出した重加算税の基礎となる税額2919万円(別表11⑥9欄,ただし,同法118条3項の規定に基づき1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に対して100分の35の割合を乗じて算出した重加算税額1021万6500円(同別表⑥10欄)となるから,これと同額でした平成11年5月期重加算税賦課決定処分(ただし,平成11年5月期重加算税変更決定処分により一部取り消された後の部分)は適法である。
(イ) 原告の平成12年5月期重加算税賦課決定処分の適法性について
原告の平成12年5月期更正処分により新たに納付すべきこととなった税額(還付所得税額等の減少額である別表11の①13欄から④13欄を差し引いた金額)5768万4800円(ただし,通則法119条1項の規定に基づき100円未満の端数を切り捨てた後のもの)に対する加算税は,KOBEファンド取引に係る法人税額から控除される所得税額161万3665円の部分を除き,同法68条の規定に基づいて算出した重加算税の基礎となる税額5607万円(別表11④16欄,ただし,同法118条3項の規定に基づき1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に対して100分の35の割合を乗じて算出した重加算税額1962万4500円(同別表④17欄)となるから,これと同額でした平成12年5月期重加算税賦課決定処分は適法である。
(ウ) 原告の平成13年5月期重加算税賦課決定処分の適法性について
原告の平成13年5月期更正処分により新たに納付すべきこととなった税額(還付所得税額等の減少額である別表11の①20欄から④20欄を差し引いた金額)1896万4800円に対する加算税は,通則法68条の規定に基づいて算出した重加算税の基礎となる税額1896万円(別表11④21欄,ただし,同法118条3項の規定に基づき1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に対して100分の35の割合を乗じて算出した重加算税額663万6000円(同別表④22欄)となるから,これと同額でした平成13年5月期重加算税賦課決定処分は適法である。
(エ) 評価センターの平成13年3月期重加算税賦課決定処分(ただし,平成13年3月期重加算税変更決定処分により一部取り消された後の部分)の適法性について
平成13年3月期更正処分(ただし,平成13年3月期再更正処分により一部取り消された後の部分)により新たに納付すべきこととなった税額1040万2900円に対する重加算税の金額は,通則法68条の規定に基づいて算出した重加算税の基礎となる税額1040万円(別表11⑤32欄,ただし,同法118条3項の規定に基づき1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に対して100分の35の割合を乗じて算出した重加算税額364万円(同別表⑤33欄)となるから,これと同額でした平成13年3月期重加算税賦課決定処分(ただし,平成13年3月期重加算税変更決定処分により一部取り消された後の部分)は適法である。
(2) 平成12年5月期過少申告加算税賦課決定処分の根拠及び適法性について
原告の平成12年5月期更正処分により新たに納付すべきこととなった税額(還付所得税額等の減少額である別表11の①13欄から④13欄を差し引いた金額)5768万4800円(ただし,通則法119条1項の規定に基づき100円未満の端数を切り捨てた後のもの)のうち前記(1)イ(イ)の重加算税賦課決定処分の対象とされる部分以外のKOBEファンド取引に係る法人税額から控除される所得税額161万3665円の部分に対する加算税は,過少申告加算税の基礎となる税額161万円(別表11④14欄。ただし,同法118条3項の規定に基づき1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に対して100分の10の割合を乗じて算出した過少申告加算税に,同法65条2項に規定する金額を超える部分に相当する税額1万円に対して100分の5の割合を乗じて算出した過少申告加算税を加算した16万1500円(同別表④15欄)となるから,これと同額でした平成12年5月期過少申告加算税賦課決定処分は適法である。
第2原告の認否
1 本件各更正処分等
(1) 平成10年5月期更正処分の根拠及び適法性について
ア 平成10年5月期更正処分の根拠について
(ア) 被告の主張1(1)ア(ア)は認める。
(イ)a 同(イ)aのうち,EB債1の支払利息が,役員に対する利益の供与であり,各役員に対する役員報酬の額に当たることは否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
b 同bのうち,シナジープラスがP1の関係者であるから,支払利息が不当に高額であって損金に算入されないことは否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
(ウ) 同(ウ)のうち,その計算過程は認めるが,その余は否認する。
(エ) 同(エ)は認める。
(オ) 同(オ)のうち,シナジープラスに対する支払利息が使途秘匿金に当たることは否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
(カ) 同(カ)のうち,シナジープラスに係る使途秘匿金については否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
(キ) 同(キ)は認める。
(ク) 同(ク)は争う。
イ 平成10年5月期更正処分の適法性について
同イは争う。
(2) 平成11年5月期再更正処分の根拠及び適法性について
ア 平成11年5月期再更正処分の根拠について
(ア) 同(2)ア(ア)は認める。
(イ)a 同(イ)aのうち,EB債1の支払利息が,役員に対する利益の供与であり,各役員に対する役員報酬の額に当たることは否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
b 同bのうち,シナジープラスがP1の関係者であるから,支払利息が不当に高額であって損金に算入されないことは否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
(ウ) 同(ウ)のうち,その計算過程は認めるが,その余は否認する。
(エ) 同(エ)のうち,シナジープラスに対する支払利息が使途秘匿金に当たることは否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
(オ) 同(オ)のうち,シナジープラスに係る使途秘匿金については否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
(カ) 同(カ)のうち,使途秘匿金税額の増加分については否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
(キ) 同(キ)は争う。
イ 平成11年5月期再更正処分の適法性について
同イは争う。
(3) 平成12年5月期更正処分の根拠及び適法性について
ア 平成12年5月期更正処分の根拠について
(ア) 同(3)ア(ア)は認める。
(イ)a(a) 同(イ)a(a)のうち,EB債1の支払利息が,役員に対する利益の供与であり,各役員に対する役員報酬の額に当たることは否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
(b) 同(b)のうち,シナジープラスがP1の関係者であるから,支払利息が不当に高額であって損金に算入されないことは否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
b 同bのうち,β不動産の売却代金のうち被告の主張する額が原告から評価センターに対する寄附金に該当することは否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
c 同cは認める。
d 同dは認める。
e 同eは争う。
f 同fは争う。
(ウ)a 同(ウ)aは認める。
b 同bは争う。
c 同cは争う。
d 同dは争う。
(エ) 同(エ)のうち,その計算過程は認めるが,その余は否認する。
(オ) 同(オ)のうち,シナジープラスに対する支払利息が使途秘匿金に当たることは否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
(カ) 同(カ)のうち,シナジープラスに係る使途秘匿金については否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
(キ) 同(キ)のうち,使途秘匿金税額の増額分及びKOBEファンドに係る控除所得税額等については否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
(ク) 同(ク)は争う。
イ 平成12年5月期更正処分の適法性について
同イは争う。
(4) 平成13年5月期再更正処分の根拠及び適法性について
ア 平成13年5月期再更正処分の根拠について
(ア) 同(4)ア(ア)は認める。
(イ)a(a) 同(イ)a(a)のうち,EB債1の支払利息が,役員に対する利益の供与であり,各役員に対する役員報酬の額に当たることは否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
(b) 同(b)のうち,シナジープラスがP1の関係者であるから,支払利息が不当に高額であって損金に算入されないことは否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
(c) 同(c)のうち,ベントリアンローンによる支払利息が,役員であるP3及びP4に対する利益の供与であり,各役員に対する役員報酬の額に当たることは否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
b 同bは認める。
c 同cは認める。
d 同dは認める。
e 同eは認める。
f 同fは認める。
(ウ)a 同(ウ)aは認める。
b 同bは認める。
c 同cは争う。
d 同dは,その計算過程は認めるが,その余は否認する。
(エ) 同(エ)のうち,最終的な金額が0円であることは争わないが,その計算根拠は争う。
(オ) 同(オ)のうち,シナジープラスに対する支払利息が使途秘匿金に当たることは否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
(カ) 同(カ)のうち,使途秘匿金については否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
(キ) 同(キ)のうち,使途秘匿金については否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
(ク) 同(ク)は争う。
イ 平成13年5月期再更正処分の適法性について
同イは争う。
(5) 平成14年5月期更正処分(ただし,平成14年5月期再更正処分により一部取り消された後の部分)の根拠及び適法性について
ア 平成14年5月期更正処分(ただし,平成14年5月期再更正処分により一部取り消された後の部分)の根拠について
(ア) 同(5)ア(ア)は認める。
(イ)a 同(イ)aのうち,ベントリアンローンによる支払利息が,役員であるP3及びP4に対する利益の供与であり,各役員に対する役員報酬の額に当たることは否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
b(a) 同b(a)のうち,ベントリアンローンによる支払利息が,役員であるP3及びP4に対する利益の供与であり,各役員に対する役員報酬の額に当たることは否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
(b) 同(b)は認める。
c 同cは認める。
d 同dのうち,本件結婚披露パーティー費用4329万6800円は争い,その余は認める。
e 同eは認める。
f 同fのうち,ベントリアンローンによる支払利息が,役員であるP3及びP4に対する利益の供与であり,各役員に対する役員報酬の額に当たることは否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
g 同gは認める。
h 同hは認める。
i 同iは認める。
j 同jは認める。
k 同kのうち,ベントリアンローンに係る役員報酬認定分及び本件結婚披露パーティー費用分は否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
(ウ)a 同(ウ)aのうち,本件結婚披露パーティー費用分4329万6800円は争い,その余は認める。
b 同bは認める。
c 同cのうち,ベントリアンローンによる支払利息が,役員であるP3及びP4に対する利益の供与であり,各役員に対する役員報酬の額に当たることは否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
d 同dのうち,ベントリアンローンによる支払利息が,役員であるP3及びP4に対する利益の供与であり,各役員に対する役員報酬の額に当たることは否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
e 同eは認める。
f 同fは認める。
g 同gは認める。
h 同hは認める。
(エ) 同(エ)のうち,最終的な金額が0円であることは争わないが,その計算根拠は争う。
(オ) 同(オ)のうち,最終的な金額が0円であることは争わないが,その計算根拠は争う。
(カ) 同(カ)は認める。
(キ) 同(キ)は争う。
イ 平成14年5月期更正処分の適法性について
同イは争う。
(6) 平成12年6月期更正処分の根拠及び適法性について
ア 平成12年6月期更正処分の根拠について
(ア) 同(6)ア(ア)は認める。
(イ) 同(イ)のうち,ベントリアンローンによる支払利息が,役員であるP3及びP4に対する利益の供与であり,P3及びP4に対する寄附金に当たることは否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
(ウ) 同(ウ)は争う。
(エ) 同(エ)のうち,最終的な金額が0円であることは争わないが,その計算根拠は争う。
(オ) 同(オ)は認める。
(カ) 同(カ)は争う。
イ 平成12年6月期更正処分の適法性について
同イは争う。
(7) 平成13年3月期更正処分(ただし,平成13年3月期再更正処分により一部取り消された後の部分)の根拠及び適法性について
ア 平成13年3月期更正処分(ただし,平成13年3月期再更正処分により一部取り消された後の部分)の根拠について
(ア) 同(7)ア(ア)は認める。
(イ)a 同(イ)aのうち,ベントリアンローンによる支払利息が,役員であるP3及びP4に対する利益の供与であり,P3及びP4に対する寄附金に当たることは否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
b 同bのうち,ベントリアンローンによる支払利息が,役員であるP3及びP4に対する利益の供与であり,P3及びP4に対する寄附金に当たることは否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
c 同cは争う。
(ウ)a 同(ウ)aのうち,ベントリアンローンによる支払利息が,役員であるP3及びP4に対する利益の供与であり,P3及びP4に対する寄附金に当たることは否認するが,その余は計算過程を含めて認める。
b 同bは認める。
c 同cは認める。
(エ) 同(エ)は争う。
(オ) 同(オ)は争う。
(カ) 同(カ)は争う。
イ 平成13年3月期更正処分(ただし,平成13年3月期再更正処分により一部取り消された後の部分)の適法性について
同イは争う。
2 本件各加算税賦課決定処分等
(1) 本件各重加算税賦課決定処分等の根拠及び適法性について
ア 本件各重加算税賦課決定処分等の根拠について
(ア) EB債1について
同2(1)ア(ア)は争う。
(イ) ベントリアンローンについて
同(イ)は争う。
イ 本件各重加算税賦課決定処分等の適法性について
(ア) 平成11年5月期重加算税賦課決定処分(ただし,平成11年5月期重加算税変更決定処分により一部取り消された後の部分)の適法性について
同イ(ア)は争う。
(イ) 原告の平成12年5月期重加算税賦課決定処分の適法性について
同(イ)は争う。
(ウ) 原告の平成13年5月期重加算税賦課決定処分の適法性について
同(ウ)は争う。
(エ) 評価センターの平成13年3月期重加算税賦課決定処分(ただし,平成13年3月期重加算税変更決定処分により一部取り消された後の部分)の適法性について
同(エ)は争う。
(2) 平成12年5月期過少申告加算税賦課決定処分の根拠及び適法性について
同(2)は争う。