東京地方裁判所 平成15年(行ウ)469号 判決 2005年3月25日
原告
おんな労働組合(関西)
被告
中央労働委員会
被告補助参加人
日本鉄道建設公団承継人
独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 被告が,中労委平成13年(不再)第23号事件について平成15年4月2日付けで発した命令を取り消す。
2 被告は,被告補助参加人に対し,次の命令をなせ。
(l) 原告が1999年4月17日付けでなした団体交渉の申入れを拒否したことを,原告に対し,謝罪するとともに,今後,原告と,組合員の旧国鉄に対する退職金の問題について誠実に交渉しなければならない。
(2) 原告に対する別紙1(省略)記載のとおりの謝罪文を,縦1メートル,横1.5メートル以上の白色木板に墨書して明記し,社前の見やすい場所に2週間以上掲示しなければならない。
第2事案の概要
本件は,原告が,日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)の分割民営化に伴い設立された日本国有鉄道清算事業団(以下「清算事業団」という。),の権利及び義務を承継した日本鉄道建設公団(以下「公団」という。なお被告補助参加人(以下「補助参加人」という。)は,本訴提起後,公団からその権利及び義務を承継した。)に団体交渉を申し入れたにもかかわらず,これを公団が拒否したことは不当労働行為に該当するとして,大阪府地方労働委員会(以下「大阪地労委」という。)に対し,救済申立てをしたところ(以下「本件救済申立て」という。),これが棄却され,再審査申立てについても棄却されたことから,その取消し等を求めた事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実又は証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(l) 当事者等
ア 原告は,昭和62年11月に結成された主に関西地方の女性労働者を組合員とする労働組合である。その組合員であるX1(昭和62年11月に原告加入。)は昭和35年に,X2(昭和62年11月に同加入。)は昭和47年に,X3(平成4年11月に同加入。)は昭和54年に,それぞれ国鉄の地方機関である国鉄大阪工事局(以下「工事局」という。)の臨時雇用員として採用され,以後,2か月ごとに雇用契約の更新を繰り返していたが,昭和58年9月30日,いずれも雇止めとなった。
なお,X1は,昭和44年5月,国鉄を一旦退職したが,同年11月1日,再び採用されており,また,X2は,昭和48年10月1日から昭和49年1月9日までの間,出産のため業務に従事していない(工事局は,これを昭和48年9月30日付けで退職し,昭和49年1月10日付けで再雇用されたものとして取り扱った。)。
イ 公団は,国鉄の分割民営化に伴い設立された清算事業団の権利及び義務を承継したものであり,その権利及び義務は,独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構法附則2条1項に基づき,平成15年10月1日,さらに補助参加人に承継された。
(2) 退職手当支給の経緯
ア 国鉄は,昭和58年9月30日,同日付けで,X2,X1及びX3を含む59名の臨時雇用員について雇止めをし(以下「本件雇止め」という。),それぞれ退職手当を支給した(X2の退職手当については,同人がその受領を拒否したため,これを供託した。X2は,昭和59年5月10日,還付請求し,供託金を受領している。)。
イ なお,その際,工事局は,X2の退職手当の額について,国家公務員等退職手当法,同法施行令等に基づき,次のとおり,①昭和47年3月9日から昭和58年9月30日までのうち,22日以上勤務した月が引き続き6月を超える昭和49年6月から昭和51年9月までの2年間(1年未満切捨て)及び昭和52年4月から昭和58年9月までの6年間(同)を勤続期間とし,②昭和51年9月当時及び昭和58年9月当時の賃金日額の8割相当額に25を乗じた数額に上記勤続期間を乗じて俸給月額を算出し,③この俸給月額に,自己都合退職の場合の一定の減額率(勤続期間によって異なる。)を乗じて得られる各数額を合算して,これを50万9820円と算出した。
(ア) 昭和49年6月から昭和51年9月までの勤務に対する退職手当
3130円×0.8×25×2×0.6=7万5120円
(イ) 昭和52年4月から昭和58年9月までの勤務に対する退職手当
4830円×0.8×25×6×0.75=43万4700円
(ウ) (ア)と(イ)の合計額
7万5120円十43万4700円=50万9820円
(3) 関係訴訟の推移
ア X2は,昭和59年2月3日,本件雇止めを違法として,国鉄(後に清算事業団が訴訟承継)に対し,訴えを提起した(大阪地方裁判所昭和59年(ワ)第635号従業員地位確認等請求事件)が,平成元年11月13日,請求を棄却する判決がされ,控訴審・上告番においてもこれが維持されたことにより,平成4年10月,同判決は確定した。
イ また,X2は,平成5年4月,清算事業団に対し,①退職手当支給要件である勤続期間は,昭和47年から昭和58年までの通算11年である,②俸給月額の算定についても,基礎となる賃金日額を8割相当に減じる根拠はない,③雇止めによる退職について,自己都合退職の場合の減額を行うべきではないなどとして,退職手当の差額及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払等を求める訴えを提起した(大阪地方裁判所平成5年(ワ)第3637号退職金等請求事件,以下「退職手当請求訴訟」という。)。
大阪地方裁判所は,平成7年5月22日,X2の請求を棄却したが,控訴審である大阪高等裁判所(平成7年(ネ)第1414号退職金等請求控訴事件)は,平成9年9月16日,X2について自己都合退職による退職として不利に取り扱われるべきではないとして,その主張の一部を認め,清算事業団に対し,本来支払われるべき退職手当の額(70万4800円)と実際の支給額(50万9820円)との差額19万4980円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成5年5月15日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を命じ,平成10年6月22日,X2及び清算事業団双方の上告が棄却されて(最高裁判所平成9年(オ)第2406号,同第2407号),同判決は確定した。
ウ 清算事業団は,退職手当請求訴訟の判決確定を受け,直ちに,X2に対し,上記イの差額を提供したが,同人が,平成10年6月30日,紛争解決までは受け取れないとして受領を拒んだため,そのころ,差額等を供託した。
(4) 団体交渉の状況及び本件救済申立て
ア 国鉄労働組合大阪工事局分会(以下「国労分会」という。)は,国鉄に対し,本件雇止めについて,臨時雇用員の雇用継続,再就職のあっせんを主たる交渉事項として団体交渉を申し入れ,国労分会と工事局との間で,昭和58年6月29日から同年9月30日まで,10回にわたり団体交渉が行われた(以下「昭和58年団体交渉」という。X2は,当時,国労分会の婦人部長の地位にあり,昭和58年団体交渉にも出席している。)。
その際,第7回の団体交渉において,国労分会による臨時雇用員の退職手当の割増等の要求に対し,工事局が,内部規定を援用して,これに応じられないと回答したことはあるが,その後の団体交渉では,退職手当の問題は交渉事項とされていない。
イ 原告は,平成2年9月3日,清算事業団に対し,X2の従業員としての地位の問題のほか,退職手当の算定に係る問題等を交渉事項として団体交渉を申し入れた(以下「平成2年団体交渉申入れ」という。)ところ,清算事業団が,昭和58年団体交渉において協議に応じていること及び退職手当請求訴訟が係属中であることを理由にこれを拒否したため,大阪地労委に救済申立てを行った(平成2年(不)第37号不当労働行為救済申立事件)。
これに対し,大阪地労委は,平成3年11月15日,X2の従業員としての地位の間題等について,その申立てを棄却する一方,退職手当の算定に係る問題(在職時の取扱い及び解雇時の諸条件)については,協議が尽くされたとはいえないとして,これに関する団体交渉応諾を命じたが,上記命令は,清算事業団がその取消しを求めて提起した訴訟(大阪地方裁判所平成3年(行ウ)第106号不当労働行為救済命令取消請求事件,以下「救済命令取消請求訴訟」という。)において,本件雇止め当時,昭和58年団体交渉で,X2を含む臨時雇用員の退職手当の算定問題について協議が尽くされたこと,X2は,その当時,工事局による退職手当算定方法を知つていたこと,この算定方法は,国鉄による確立した法令解釈に基づき制定された国鉄の内部規定に基づくもので,清算事業団は,これを変更すると法令に違反するおそれがあると考えていたことなどを理由に,正当な理由のない団体交渉の拒否とはいえないとして取り消され,その控訴審(大阪高等裁判所平成6年(行コ)第8号不当労働行為救済命令取消請求控訴事件)においても,上記に加え,清算事業団が団体交渉によって退職手当算定方式を変更する余地はなく,退職手当の額を争うのであれば,訴訟により司法判断を求めるべきとして,控訴棄却の判決がされ,平成9年10月31日に上告が棄却されたことにより,この判決は確定した。
ウ 一方,X1及びX3(以下「X1ら」という。)は,本件雇止めに係る他の臨時雇用員とともに,平成6年11月27日付け書面で,清算事業団理事長に対し,退職手当の計算方法について回答を求める旨の要請書を提出し(以下「平成6年要請」という。),これに対し,清算事業団は,近畿支社総務課長名で「退職金関係等の資料は,すでに11年も経過しており存在しておりません。なお,労働基準法第109条によりますと,賃金その他労働関係など重要な書類は,3年間保存することとなっていることを付言します。」と回答した。
エ その後,原告は,退職手当請求訴訟の控訴審判決の後である平成9年10月13日,清算事業団に対し,X2の退職手当及び解雇争議の解決を交渉事項とする団体交渉を申入れたが,清算事業団がこれを拒否したため,同年11月28日,大阪地労委に対し,不当労働行為救済申立てを行った(平成9年(不)第65号,ただし,原告は,平成11年5月14日,本件救済申立てをしたため,同年8月2日,この申立てを取り下げている。)。
オ 原告は,平成10年9月11日,退職手当請求訴訟の判決確定を受け,清算事業団に対し,X1らの組合加入の事実を通告するとともに,X2の損害回復及びX1ら臨時雇用員の退職手当の見直し等を交渉事項として団体交渉を申し入れ,原告と清算事業団との間で,同月25日,団体交渉が行われた(以下「平成10年団体交渉」という。)。清算事業団は,この団体交渉において,X2の損害回復の問題については,退職手当請求訴訟の判決に従うとし,X1ら臨時雇用員の退職手当の見直しについては,関係資料が現存せず,退職手当に係る請求権が時効消減しているとして見直しには応じられないと応答した。
カ 原告は,平成11年3月15日及び同年4月7日,清算事業団から権利及び義務を承継した公団に対し,臨時雇用員の退職手当に関する間題を交渉事項として団体交渉を申し入れたが,公団はこれを拒否した。
さらに,原告は,平成11年4月17日,公団総裁に対して「臨時雇用員の退職手当金に関連する問題について」を交渉事項とする団体交渉の申入れをした(以下「本件団体交渉申入れ」という。)が,公団は,一度団体交渉に応じて見解・回答を示しており,これ以上の交渉を持つ意味はないとして,これを拒否した。
そこで,原告は,平成11年5月14日,大阪地労委に対し,本件団体交渉申入れの拒否は不当労働行為に該当するとして,原告組合員の退職手当金間題に関する誠実団交応諾及び本件団体交渉申入れを拒否したことに対する謝罪文の掲示を求め本件救済申立てを行った。
キ 大阪地労委は,平成13年4月12日,本件団体交渉申入れに係る交渉事項のうち,X2の退職手当については,清算事業団が退職手当請求訴訟の判決に従い差額を供託したことにより決着済みで,義務的団交事項と認められないとし,また,X1らの退職手当については,社会通念上,合理的な期間内に申入れがされたとはいえず,このことに特段の理由もないとして,本件団体交渉申入れの拒否は不当労働行為に当たらないとして,別紙2(省略)のとおり,本件救済申立てを棄却した。
原告は,これを不服として,平成13年4月23日,被告に対し,再審査の申立てをしたが,被告が,平成15年4月2日,大阪地労委と同様の理由により,別紙3(省略)のとおり,再審査の申立てを棄却したため(以下「本件命令」という。),原告は,同年8月4日,その取消しを求めて本訴を提起した。
2 争点
公団による本件団体交渉申入れ拒否は,正当な理由がない拒否であるか。
3 原告の主張
(1) 公団による本件団体交渉申入れ拒否は不当であり,不当労働行為である。
(2) 被告は,本件団体交渉申入れのうちX2の退職手当の問題については,同申入れに係る交渉事項は義務的団交事項と認められないから,これを拒否したことは不当労働行為に該当しないし,退職手当請求訴訟の判決に従い差額を支払ったことにより解決済みであると主張する。
しかしながら,本件団体交渉申入れの交渉事項は,「臨時雇用員の退職手当金に関連する間題について」であり,労働者である臨時雇用員の地位の向上に関する事項であるから,憲法28条,IL0第98号条約及び労働委員会による不当労働行為救済制度の趣旨に照らすと,これが義務的団交事項に該当することは明らかである。また,本件団体交渉申入れの交渉事項は,具体的には①原告組合員に対する違法な退職手当の取扱いに関する謝罪,②退職手当請求訴訟判決に基づく退職手当の是正,③紛争の長期化により原告組合員が受けた経済的・精神的な負担・不利益の回復,④X2の勤続期間を2年間と6年間に分断した取扱いの是正等であり,今後,臨時雇用員に対する違法な差別的取扱いを繰り返させず,その地位の向上を図るため,団体交渉において誤りを確認させ,謝罪文等を作成させることが不可欠であることに照らすと,これらの間題については未だ解決されていないというべきである(仮に,X2が2年間の勤務後,一旦,退職した扱いとするのであれば,当該期間に対応する退職手当の遅延損害金の問題も残存している。)。
(3) 被告は,X1らの退職手当の間題については,社会通念上,合理的な期間内に本件団体交渉申入れがされたとはいえないし,社会通念上,合理的な期間内に行われなかったことについて,特段の理由はないから,同申入れを拒否したことは不当労働行為に該当しないと主張する。
しかしながら,団体交渉の時期は労働組合の自主的な判断に委ねられるべきで,これを「合理的期間」という概念で恣意的に制限することは,団結権を否定するもので許されない。仮に,団体交渉の申入れは,社会通念上,合理的な期間内に行うべきであるとしても,退職手当請求訴訟の判決確定により,本件雇止め当時とは異なる新たな事情が生じたのであるから,本件団体交渉申入れは,合理的な期間内に行われたといえるし,X1らは,それまでのX2の退職手当の問題に係る清算事業団ないし公団の対応状況からして,同様の事項について交渉を申し入れても拒否されることが明らかであったため,X2に係る交渉状況を見守っていたのであって,これは合理的であり,特段の理由があるといえる。そもそも,紛争の長期化は,清算事業団ないし公団による違法な団体交渉の申入れ拒否等によるものであり,それにもかかわらず,X1らの原告への加入後,直ちに団体交渉の申入れを行うべきとするのは,原告にのみ不利益を強いるもので,労働委員会による不当労働行為救済制度の趣旨にも相容れないばかりか,公平の原則にも反する。
(4) 以上のとおり,本件団体交渉申入れにおける交渉事項は,労働者の経済的地位に関する問題が現に存在し,しかも,使用者にその解決能力があり可能性のある事項に係るものであって,公団にこれを拒否する正当な理由はない。
4 被告・補助参加人の主張
(1) 被告
本件命令における被告の判断に誤りはなく,原告の主張は理由がない。
(2) 補助参加人の主張
清算事業団は,X2の退職手当の問題については,退職手当請求訴訟の判決確定を踏まえ,同人に対し,その退職手当の差額等を供託したことで解決済みであったこと,また,X1らの退職手当については,同人らが本件雇止めにより円満に退職して退職手当を受領し,平成6年要請及び平成10年団体交渉の時点では,同人らの退職手当関係の資料が廃棄され存在していなかったことから,その旨応答せざるを得なかったのであって,これが非難される理由はない。
原告のその余の交渉事項は,司法判断を求める以外に解決し得ないものであり,したがって,本件団体交渉申入れの拒否には正当な理由があり,不当労働行為には該当しない。
第3争点に対する判断
1 労働組合法7条2号は,使用者が労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなく拒んではならないと規定するところ,この正当な理由の有無については,労働者に団体交渉権を保障し,これにより労使の実質的対等化を図り,労使自治を促進しようとした憲法28条及び労働組合法の目的に照らして判断すべきである。
2 そこで,本件団体交渉申入れの拒否について検討すると,前記第2,1(3)(4)のとおり,X2を含む臨時雇用員の退職手当の算定に係る問題については,同人も出席して行われた昭和58年団体交渉において協議が行われ,平成2年団体交渉申入れを拒否したことの適否を争点とする救済命令取消請求訴訟においても,この問題については昭和58年団体交渉において協議が尽くされており,団体交渉によって退職手当算定方式を変更する余地もないなどとして,団体交渉申入れを拒否したことは不当労働行為に該当しないとの判断がされている上,公団は,退職手当請求訴訟の判決確定を受けて,当該判決において支払を命じられたX2の退職手当の差額等を供託していることからすると,公団が,この間題については解決済みであり,これ以上の団体交渉を行う意味はないと考えたとしても,これを不合理ということはできない。
X1らの退職手当の間題についても,同人らは平成6年要請まで,この間題について何らの申入れもしておらず,原告が,この間題を交渉事項として団体交渉申入れをしたのも,本件雇止めから約15年経過後の平成10年団体交渉の際であって,労働関係に関する重要な書類の保存期間は3年間とされていること(労働基準法109条)及び消滅時効の成立を考慮し,公団が団体交渉に応じることはできないとしたからといって,これを不合理ということはできない
3 原告は,具体的な交渉事項として,前記第2,3(2)の①ないし④の点を上げ,本件団体交渉申入れにおける交渉事項は,いずれも未解決であり,特に,今後,臨時雇用員に対する違法な差別的取扱いを繰り返させず,その地位の向上を図るためには,団体交渉において誤りを確認させ,謝罪文等を作成させることが不可欠である旨主張する。
その主張の趣旨は必ずしも明らかではないが,交渉事項が,一般的に臨時雇用員の労働条件の是正及び地位の向上を求めるものというのであれば,そもそも,これは公団において処理し得る事項ではないし,X2及びX1らの退職手当の取扱いについてその是正を求め,あるいは紛争の長期化による損害の回復や謝罪等を求めるものというのであれば,これは退職手当請求訴訟において,既に司法判断が確定した事項,あるいは,別途,司法判断を求めるべき事項について,公団に再考と応諾を求めるにほかならず,いずれにしても,この点に係る原告の主張には理由がない(原告は,X2の退職手当について,一旦退職した扱いにしたことに係る遅延損害金の問題も残存していると主張するが,退職手当請求訴訟においては,退職手当の差額に加えこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払が認められていること,勤続期間を2年と6年に分けたのは退職手当の算定上のことであってX2を一旦退職扱いにしたわけではなく,退職手当算定方法については退職手当請求訴訟で判断が示されていることからすれば,公団がX2の退職手当について解決済みであり団体交渉を行う意味がないと考えたとしても不合理とはいえない。)。
4 原告は,X1らの退職手当の問題について,退職手当請求訴訟の判決確定により,本件雇止め当時とは異なる新たな事情が生じたのであるから,本件団体交渉申入れは,社会通念上,合理的な期間内に行われたといえるし,上記訴訟の係属中は交渉を申し入れても拒否されることが明らかであったから,長期間団体交渉申入れをしなかったことには,特段の理由があると主張する。
しかしながら,X1らは,平成6年要請に対し,清算事業団から「退職金関係等の資料は,すでに11年も経過しており存在しておりません。なお,労働基準法第109条によりますと,賃金その他労働関係など重要な書類は,3年間保存することとなっていることを付言します。」との回答を受けた後も,個人又は組合として,交渉を申し入れていない。そして,原告が,X1らの加入後,その退職手当について団体交渉の申入れがいつでも可能であったにもかかわらず,これを平成10年団体交渉まで行わなかったこと,X2の退職手当に関しては退職手当請求訴訟の判決が確定する前から団体交渉の申入れをしていることからみても,判決確定により新たな事情が生じたとはいえないし,団体交渉の申入れをしても拒否されることが明らかであったから申入れをしなかったことに特段の理由があるともいえない。
5 以上のとおりであるから,憲法28条及び労働組合法の目的に照らしても,本件団体交渉申入れを公団が拒否したことをもって,正当な理由がない団体交渉の拒否ということはできず,不当労働行為があったとは認められないから,本件命令に違法はない。
第4結論 以上によれば,原告の本件請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないから,これらをいずれも棄却することとし,訴訟費用(補助参加費用を含む。)の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,66条を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民 事第19 部