東京地方裁判所 平成15年(行ウ)472号 判決 2005年8月04日
原告 甲
同訴訟代理人弁護士 山田二郎
同 木村弘之亮
同補佐人税理士 山田和江
同 角田益雄
被告 東京上野税務署長
西牧良悦
同指定代理人 中島千絵美
同 別所卓郎
同 信本努
同 伊藤英一
同 中泉英知
同 丸尾典由
同 井上良太
同 佐藤浩司
主文
1 本件訴えのうち、被告が原告に対し、平成14年3月7日付けでした、原告の平成10年分の所得税に係る平成13年11月22日付け更正の請求に対する、更正をすべき理由がない旨の通知処分の取消しを求める部分、並びに、平成10年分の所得税の更正処分のうち、総所得金額1781万9536円に係る納付すべき税額357万5700円を超え、総所得金額335万4400円及び株式等に係る譲渡所得等の金額2117万1180円に係る納付すべき税額423万4300円までの部分の取消しを求める部分を、いずれも却下する。
2 原告のその余の訴えに係る請求を棄却する。
3 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 被告が原告に対し、平成14年3月7日付けでした、原告の平成10年分の所得税に係る平成13年11月22日付け更正の請求に対する、更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。
2 被告が原告に対し、平成14年3月7日付けでした、平成10年分の所得税の更正処分のうち、総所得金額1781万9536円に係る納付すべき税額357万5700円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
第2事案の概要
本件は、原告が、勤務先の会社の親会社である米国法人から付与されたストック・オプション(会社が自社又は子会社の従業員、役員等に対して付与する、自社株式を一定の期間内にあらかじめ定められた権利行使価格で購入することができる権利)を行使したことにより得た、当該権利行使価格と時価との差額(権利行使益)について、確定申告を失念し、株式等に係る譲渡所得等として修正申告をし、過少申告加算税の賦課決定処分を受けた後、一時所得として更正の請求をしたが、被告から更正をすべき理由がない旨の通知処分並びに当該権利行使益は給与所得に当たるとした更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を受けたため、これらの取消しを求めている事案である。
1 関係法令の定め
(1) 所得税法(昭和40年法律第33号)は、居住者に対して課する所得税額の計算に関し、その所得を利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得又は雑所得に区分し、これらの所得ごとに所得の金額を計算する旨規定している(同法21条1項1号)。
(2) 給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいう(同法28条1項)。
(3) 一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう(同法34条1項)。
(4) 雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう(同法35条1項)。
(5) 給与所得及び雑所得については、それぞれ同法28条2項又は35条2項の規定により計算した所得金額が、所得税の課税標準とされる総所得金額に算入されるのに対し、一時所得については、同法34条2項の規定により計算した所得金額の2分の1に相当する金額が、総所得金額に算入されることになる(同法22条1項、2項1号、2号)。
2 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者等
ア 原告は、平成4年9月、本邦法人であるA株式会社(以下「日本A社」という。)に入社し、平成10年10月31日に同社を退職した(なお、原告は平成8年9月から平成9年12月まで出産のための休暇を取得している。)(甲3、4、9)。
イ 日本A社は、アメリカ合衆国ワシントン州法人であるA(以下「米国A社」という。)の100パーセント子会社として設立され、現在に至っている。なお、原告と米国A社との間には雇用契約又は役員委任契約はない(甲3ないし6、9)。
(2) 米国A社が原告に付与したストック・オプションについて
ア 米国A社におけるストック・オプション制度
米国A社においては、1981年(昭和56年)以降、有能な人材を維持すること、これらの者に付加的なインセンティブを提供すること、及び米国A社の事業の成功を促進することを目的とする、いわゆるインセンティブ・ストック・オプション制度が存在し、原告に対するストック・オプションの付与時ないし原告の権利行使時には、「A1991年ストック・オプションプラン(現行版)」(以下「本件プラン」という。)に従って、その運用が行われていた(甲6、乙15)。
イ 本件プランの概要は、以下のとおりである。
(ア) ストック・オプションの内容
米国A社の普通株式をあらかじめ定められた価格(権利行使価格)で購入できる権利である。
(イ) 対象者
米国A社、その親会社及びその子会社が雇用する者(従業員及び役員。以下、従業員及び役員を総称して、「従業員等」という。)である。
(ウ) 対象となる株式
米国A社の未発行の株式又は同社が再取得した普通株式で、その上限は、本件プラン全体で1億6000万株である(乙15)。
(エ) 権利行使価格
付与の日における株式の公正市場価格の100パーセント以上(ただし、被付与者が、米国A社、その親会社又はその子会社の10パーセントを超える株式を保有しているときは、110パーセント以上)で米国A社の取締役会(取締役会が委員会を任命している場合には、当該委員会。以下「本件取締役会」という。)が決定する価格である(甲6、8、乙15)。
(オ) 権利行使権者及び権利の譲渡制限
ストック・オプションの権利の行使は、被付与者が生存中は当該被付与者のみに限られる。
ストック・オプションは、遺言又は相続法による方法以外の方法により、売却、質入れ、譲渡、担保権設定、移転又は処分をすることができない(甲6、8、乙15)。
(カ) 権利行使の時期及び条件
ストック・オプションの権利行使は、米国A社の本件取締役会が決定した時期及び条件によるところ、本件においては、付与日から1年後に付与された株式数の8分の1についての権利の行使が可能となり、以後6か月を経過することに、8分の1ずつ行使できる権利が増加し、付与時から4年6か月を経過した時点からは付与された全株式数の権利の行使ができることとされている(甲6、8、乙15、18)。
(キ) 権利の行使方法
権利の行使は、ストック・オプションを行使する資格を有する者が、米国A社に対し、書面による通知を行い、同社に権利行使価格に基づく支払をすることによって行う。
(ク) ストック・オプションの有効期間及び失効
ストック・オプションの有効期間は、付与時から10年を超えることはない範囲(付与時に米国A社、その親会社又はその子会社の全種類の株式の議決権の10パーセントを超える株式を保有する者に付与される場合は、その有効期間は、付与の日から5年を超えない範囲)で、付与時に特定された期間による(甲6、乙15)。
本件においては、付与日から7年を経過した場合には、ストック・オプションは失効するものとされている。
(ケ) 従業員等としての地位の終了
被付与者の米国A社、その親会社及びその子会社における従業員等の地位が終了した場合には、終了の日に行使できる限度でストック・オプションを行使することができる。当該権利行使は、当該地位の終了の日から3か月以内に行わなければならない。当該期間内に権利が行使されない場合には、当該ストック・オプションは失効する。
また、被付与者たる従業員等が死亡した場合には、その相続人は、死亡の日から6か月以内に、死亡した従業員等が死亡せずに死亡の日以後も引き続き1年間従業員等としての地位にとどまっていたならば生じたであろう権利の限度において、権利の行使をすることができるが、その余のストック・オプションは失効する(甲6、8、乙15)。
(コ) ストック・オプション付与等の決定機関
ストック・オプションを誰に付与するか、その場合、どれだけの株式数のストック・オプションを与えるか、権利行使価格をいくらとするかについての決定権限は、米国A社の本件取締役会の専権に属する(甲6、乙15)。
なお、米国A社の子会社のマネージャーは、毎年1回、過去の実績、米国A社に対する将来にわたる貢献の見込み、その者が退職した場合の潜在的影響等を考慮して、付与の対象者についての推薦を行う(乙17)。
(サ) 本件プランの変更又は終了の効果
本件プランが変更又は終了された場合にも、被付与者と米国A社の本件取締役会との間で別段の合意がなされない限り、既に付与されたストック・オプションには影響を与えず、当該ストック・オプションは本件プランの変更又は終了がなかったものとして取り扱われる(甲6、乙15)。
ウ 原告に対するストック・オプションの付与
原告は、日本A社に在職中の平成6年7月21日、平成7年7月31日及び平成8年7月15日、米国A社から、本件プランによる同社のストック・オプション制度に基づき、同社の株式に係るストック・オプション(以下「本件ストック・オプション」という。)の付与を受けた(甲3、4、7ないし9)。
(3) 原告のストック・オプション権利行使益等に対する課税処分の経緯等
ア 原告は、平成10年10月28日に、本件ストック・オプションの一部を行使し、2943万0273円の権利行使益(以下「本件権利行使益」という。)が生じた。
イ 原告は、平成11年3月5日、被告に対し、原告の平成10年分の所得税につき、確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を提出したが、本件権利行使益については同申告書に記載しなかった。
ウ 原告は、平成13年8月22日、被告に対し、本件権利行使益を株式等に係る譲渡所得等の金額に該当するとして、修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を提出し、同月28日、被告から、過少申告加算税61万8500円の賦課決定処分(以下「当初過少申告加算税賦課決定処分」という。)を受けた。
エ 原告は、平成13年11月22日、被告に対し、本件権利行使益は株式等に係る譲渡所得等の金額ではなく、一時所得であるとして、別表1の「更正の請求」欄記載のとおり更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
オ これに対し、被告は、平成13年12月25日付けで、原告に対し、更正をすべき理由がない旨の通知処分を行うとともに、本件権利行使益が給与所得に該当するとして、更正処分及び過少申告加算税変更決定処分を行った。
カ 原告は、平成14年2月13日、被告に対し、上記オの各処分を不服として異議申立てをしたところ、被告は、同年3月6日付けで、上記各処分をいずれも取り消した。
キ 被告は、平成14年3月7日付けで、原告に対し、本件更正の請求が国税通則法(昭和37年法律第66号。以下「通則法」という。)23条1項に規定する更正の請求の期間を経過してなされた不適法なものであるとして、改めて更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)を行うとともに、本件権利行使益が給与所得に該当するとして、別表1の「更正処分等」欄記載のとおり更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件過少申告加算税賦課決定処分」といい、これと本件通知処分及び本件更正処分とを併せて「本件各処分」という。)を行った。
ク 被告は、平成14年3月22日付けで、上記カの異議申立てについていずれも却下する旨の決定を行った。
ケ 原告は、平成14年4月30日、被告に対し、上記キの本件各処分を不服として改めて異議申立てをしたが、被告は、同年7月31日付けで、原告の上記異議申立てをいずれも棄却する旨の決定を行った。
コ 原告は、平成14年8月28日、国税不服審判所長に対し、上記ケの各処分を不服として審査請求を行ったが、国税不服審判所長は、平成15年5月14日付けで、原告の審査請求をいずれも棄却する旨の裁決を行った。
サ そこで、原告は、平成15年8月6日に、本訴を提起した。
シ 原告の平成10年分の所得税に関する確定申告、修正申告、当初過少申告加算税賦課決定処分、本件更正の請求、本件通知処分、本件更正処分、本件過少申告加算税賦課決定処分及び本件各処分に対する不服申立て等の経緯は、別表1記載のとおりである。
また、被告による課税標準、納付すべき税額及び過少申告加算税額の計算は、別表2記載のとおりである。なお、本件権利行使益を給与所得とした場合の計算は、同表記載のとおりとなる。
3 争点(各争点に対する当事者の具体的主張内容は別紙記載のとおりである。)
(1) 本件通知処分の取消しを求める訴えの適法性(本件通知処分の取消しを求める訴えに「訴えの利益」があるか否か。)
(2) 本件更正処分のうち修正申告額を超えない部分の取消しを求める訴えの適法性(本件更正処分のうち修正申告額を超えない部分の取消しを求める訴えに「訴えの利益」があるか否か。)
(3) 本件権利行使益の所得区分(本件権利行使益が、給与所得、一時所得又は雑所得のいずれに該当するか。)
(4) 租税法律主義違反又は信義則違反の有無(本件各処分について、租税法律主義違反又は信義則違反を理由とする取消しが認められるか否か。)
(5) 「正当な理由」の有無(本件過少申告加算税賦課決定処分について、原告に通則法65条4項の「正当な理由」があるか否か。)
第3争点に対する判断
1 争点(1)(本件通知処分の取消しを求める訴えの適法性)について
(1)ア(ア) 前記前提事実(第2の2)のとおり、被告は、原告の平成10年分の所得税について、平成14年3月7日付けで本件通知処分を行うとともに、同日付けで本件更正処分を行っている。
この点、被告は、更正をすべき理由がない旨の通知処分と増額更正処分とが行われた場合に、当該通知処分及び増額更正処分の各取消訴訟が係属したときには、審理・判断の矛盾・抵触を防止し、併せて訴訟経済を図るため、取消訴訟としては、通知処分における課税庁の確認行為が内包されている関係にある処分である増額更正処分のみを対象とし、通知処分の取消しを求める訴えは不適法である旨主張する。
(イ) そこで検討するに、通則法23条4項の更正をすべき理由がない旨の通知処分は、納税申告書を提出した納税者がその申告による税額等の減額を求めて課税庁に是正権の発動を促す更正の請求に対し、その是正権の発動を拒否し、申告税額等について減額を認めないことを確定させる効果を持つ処分であって、税額自体を確定させる処分ではない。他方で、同法24条の更正処分は、納税者について、税務署長において、課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときに、課税要件事実を全体的に見直し、申告された税額をも含め、納税義務の内容たる税額の総額を確定する処分である。よって、両者は同一の所得税の納税義務にかかわる相互に密接な関連を有する処分とはいえるが、手続的にみれば別個独立した処分である。したがって、更正をすべき理由がない旨の通知処分の効力が増額更正処分の中に吸収されるという関係には立たないものといわざるを得ない。しかしながら、増額更正処分は単に申告された税額に更正された税額との差額を追加するものではなく、上記のとおり課税庁が課税要件事実を全体的に見直し、税額の総額を確定する処分であって、その中には申告された税額を減額しない趣旨を含むものといえ、増額更正処分の内容は、減額更正をしない旨の通知処分を包摂する関係にあるといえる。
また、審理対象がそれぞれ減額理由の有無と増額理由の有無ではなく、いずれも当該納税者の総所得金額の数額であることからすれば、実質的にみても、更正をすべき理由がない旨の通知処分と増額更正処分のそれぞれについての取消訴訟の係属を認めると、双方の審理・判断に矛盾・抵触が生じ、租税法律関係が極めて混乱することになりかねず、また、訴訟経済にも反することになることは明白である。
そうすると、このような場合には、税額等を争う納税者は、増額更正処分に対して取消訴訟を提起すれば足り、これと別個に当該通知処分の取消しを求める利益を有しないものというべきである。
(ウ) もっとも、この場合には、納税者が、増額更正処分のうち申告された税額を超えない部分の取消しをも求めようとするときの措置が問題となり得る。
この点、一般的には、納税者において申告が過大であるとしてその誤りを是正するためには、通則法23条所定の期間内に更正の請求をすることが必要とされており、このような場合における納税者の救済はもっぱら更正の請求によって図られるべきであって、更正の請求という法の求める特別の手続を経由することなしに申告された税額を超えない部分についてまでの取消しを請求することは、申告の錯誤が客観的に明白かつ重大であって更正の請求以外に是正を許さないならば納税者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がない限り、許されないものと解される。
しかし、所定の期間内に適法に更正の請求をしており、かつ更正をすべき理由がない旨の通知処分が確定していなければ、必ずしも通知処分の取消訴訟のみにおいてこれを争わせなければならない必要はなく、上記のとおり増額更正処分の内容が、通知処分の内容を包摂する関係にあるものであることにかんがみれば、当該増額更正処分の取消訴訟において、申告された税額を超えない部分であっても、更正の請求に係る税額を超える部分についてであれば、その取消しを請求することができるものというべきである。
(エ) したがって、本件通知処分と本件更正処分の双方の取消しを求める原告の訴えは、本件通知処分の取消しを求める訴えの部分については不適法であるというべきである。
イ(ア) また、上記アの点を措いたとしても、本件更正の請求は、前記前提事実のとおり、平成13年11月22日になされているところ、本件確定申告書は、還付金等を受けるための申告書であって、平成11年3月5日に提出されており、更正の請求ができる期間は当該納税申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内(通則法23条1項)とされるが、還付金等を受けるための申告書に係る更正の請求の期限は、法定申告期限の定めがないので、法の趣旨を踏まえ、当該申告書を提出した日から1年以内と取り扱われている(所得税基本通達122-1)ことからして、本件更正の請求は、通則法所定の期間経過後になされた不適法なものであることが明らかである。
この点について、原告は、本件通知処分は本件更正の請求を不適法なものであるとして更正をすべき理由がない旨を原告に通知しているものの、その不服申立手続においては、被告及び国税不服審判所長は各不服申立てを棄却するとの実体判断を示していること、更正の請求の期間は不変期間とはされておらず、被告及び国税不服審判所長が期間徒過に宥恕すべき事由があるものとして実体判断をしていることからすれば、本件通知処分の取消しを求める訴えは適法である旨主張する。
(イ) そこで検討するに、そもそも取消訴訟が、違法な処分を取り消して原告の権利・利益を救済・回復することを目的としている以上、処分の取消判決をしても、原告の権利・利益の救済・回復にならない場合には、訴訟を維持する実益ないし必要性は認められないものといわざるを得ない。
本件においては、前記前提事実のとおり、本件通知処分は、本件更正の請求が通則法23条1項に規定する更正の請求の期間を経過してなされた不適法なものであるとして、更正をすべき理由がないものとしており、その不服申立手続においても、被告及び国税不服審判所長は、本件更正の請求は、その請求期限を徒過した不適法なものであり、本件更正の請求に対して、その更正をすべき理由がないとして行われた本件通知処分は適法であるとして、各不服申立てを棄却するとの実体判断を示している(甲3、4)ところである。
そうすると、本件通知処分を取り消したとしても、処分庁としては本件更正の請求に対して、期間徒過を理由に更正をすべき理由がない旨の通知処分をするほかないのであるから、原告には、本件通知処分の取消しにより回復される法律上の利益はなく、本件通知処分の取消しを求める訴えは、この点からみても、やはり不適法なものである。
(ウ) この点、原告は、被告及び国税不服審判所長が期間徒過に宥恕すべき事由があるものとして不服申立手続において実体判断をしている旨主張するが、現行法上、上記被告等には期間の徒過を宥恕する権限はない上に、上記のとおり、当該不服申立手続において被告等が期間徒過を宥恕したがゆえに実体判断を行っているものではないことは明らかであるから、原告の主張には理由がない。原告は、この点に関する判例として、最高裁判所昭和31年3月9日第二小法廷判決(民集10巻3号175頁)を挙げるが、これは訴願について期間徒過の宥恕の規定が設けられていた訴願法に関するものであって、本件とは事案を異にするものである。
ウ 以上によれば、上記ア又はイのいずれにおいても、本件通知処分の取消しを求める原告の訴えは不適法であるといわざるを得ず、却下を免れない。
2 争点(2)(本件更正処分のうち修正申告額を超えない部分の取消しを求める訴えの適法性)について
(1) 前記1ア(ウ)のとおり、原告が通則法所定の期間内に適法に更正の請求をしており、かつ更正をすべき理由がない旨の通知処分が確定していなければ、本件更正処分の取消訴訟において、本件修正申告書に係る修正申告された納税額を超えない部分であっても、本件更正の請求に係る納付すべき税額を超える部分についてであれば、その取消しを請求することができるものというべきである。しかし、前記1イのとおり、本件更正の請求は同法所定の期間を徒過した不適法なものであるから、原告は、本件更正処分の取消訴訟においては、自らの修正申告に係る税額を超える部分についての取消しを請求することができるにとどまり、その額を超えない部分についての取消しを求めることは、前記1ア(ウ)のような特段の事情がない限り、適法な更正の請求の手続を経由することなく取消訴訟を提起したものとして、不適法却下を免れないと解される。
(2) そうすると、上記特段の事情についての主張・立証が何らなされていない本件事案においては、本件更正処分のうち、総所得金額1781万9536円に係る納付すべき税額357万5700円を超え、総所得金額335万4400円及び株式等に係る譲渡所得等の金額2117万1180円に係る納付すべき税額423万4300円までの部分の取消しを求める訴えは、本件修正申告書に係る修正申告された納税額を下回るものであって、上記のとおり不適法であるから却下すべきである。
3 争点(3)(本件権利行使益の所得区分)について
(1) 被告は、ストック・オプションについて、権利行使時に株式の時価とあらかじめ定められた権利行使価格との差額に相当する行使益(権利行使益)が存在する場合、その所得税法上の所得区分は給与所得に当たり、仮に給与所得に該当しないとしても、雑所得に当たると主張するのに対し、原告は、これが一時所得に当たるものと主張する。
そこで、本件権利行使益の所得区分について判断する必要があるところ、前記関係法令の定め(第2の1)のとおり、給与所得が「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいう。」と規定されているのに対し、一時所得は、給与所得を含む8つの所得類型以外の所得であることがその要件の一つとされており、さらに、雑所得が、その他の所得類型のいずれにも該当しない所得をいうものとされていることに照らせば、本件権利行使益の所得区分を検討するに当たっては、まず、給与所得に該当するか否かを検討した上で、給与所得に該当しない場合に、一時所得に該当するか否か、さらには、雑所得に該当するか否かを検討すべきである。
(2) 前記前提事実によれば、本件プランに基づき付与された本件ストック・オプションについては、被付与者の生存中は、その者のみがこれを行使することができ、その権利を譲渡し、又は移転することはできないものとされているというのであり、被付与者は、これを行使することによって、初めて経済的な利益を受けることができるものとされているということができる。そうであるとすれば、米国A社は、原告に対し、本件プランに基づき本件ストック・オプションを付与し、その約定に従って所定の権利行使価格で株式を取得させたことによって、本件権利行使益を得させたものであるということができるから、本件権利行使益は、米国A社から原告に与えられた給付に当たるものというべきである。本件権利行使益の発生及びその金額が米国A社の株価の動向と権利行使時期に関する原告の判断に左右されたものであるとしても、そのことを理由として、本件権利行使益が米国A社から原告に与えられた給付に当たることを否定することはできない。
ところで、本件権利行使益は、原告が就労していた日本A社からではなく、米国A社から与えられたものである。しかしながら、前記前提事実によれば、米国A社は、日本A社の発行済み株式の100パーセントを有している親会社であるというのであるから、米国A社は、日本A社の役員の人事権等の実権を握ってこれを支配しているものとみることができるのであって、原告は、米国A社の統括の下に日本A社の従業員としての職務を遂行していたものということができる。そして、前記前提事実によれば、本件プランは、米国A社、その親会社及びその子会社の従業員等に対する精勤の動機付けとすること等を企図して設けられているものであり、米国A社は、原告が上記のように職務を遂行しているからこそ、本件プランに基づき原告に対して本件ストック・オプションを付与したものであって、本件権利行使益が原告が上記のとおり職務を遂行したことに対する対価としての性質を有する経済的利益であることは明らかというべきである。そうであるとすれば、本件権利行使益は、雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供された非独立的な労務の対価として給付されたものとして、所得税法28条1項所定の給与所得に当たるというべきである。(以上につき、最高裁判所平成17年1月25日第三小法廷判決・民集59巻1号64頁参照)
(3) この点、原告は、ストック・オプションの被付与者が子会社の役員である場合と従業員にすぎない場合とでは事情が異なる旨主張する。
しかし、米国A社が、日本A社を支配しているものとみることができるので、その従業員である原告も、米国A社の統括の下に職務を遂行していたものということができるとともに、本件プランは、米国A社、その親会社及びその子会社の従業員等に対する精勤の動機付けとすること等を企図して設けられているものであり、役員であるか従業員であるかを区別していないことは上記(2)のとおりであるから、原告の上記主張は理由がない。
(4) したがって、本件権利行使益は給与所得に当たり、一時所得又は雑所得には当たらないものというべきである。
4 争点(4)(租税法律主義違反又は信義則違反の有無)について
(1) 原告は、本件権利行使益を給与所得と認定することは憲法84条(租税法律主義)に違反する旨主張するもののようである。
しかし、前記3のとおり、本件権利行使益は、所得税法28条の解釈上、給与所得と解されるものであって、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更する」場合に当たらないことはもとより、これが不当な拡大解釈に当たるものでも、課税要件が不明確となっているものでもないというべきである。そして、このことは、かつて、課税庁において、ストック・オプションの権利行使益を一時所得ととらえていた時期があったことや、裁判実務において、これを一時所得とする見解があったことにより、左右されるものではない。
(2) また、原告は、ストック・オプションの権利行使益について、課税庁は、長年、一時所得として課税すべきものとの見解を表明し、その旨指導も行ってきたものであり、原告もこのような公式見解を信頼し、被告の指導に従って所得税の申告を行ってきた経緯があるから、課税庁が本件権利行使益を給与所得と認定することは信義則に反する旨主張する。
しかしながら、信義則違反により課税処分が取り消されるのは、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情がある場合に限られるべきであると解される(最高裁判所昭和62年10月30日第三小法廷判決・判例時報1262号91頁参照)。そして、前記前提事実のとおり、原告はそもそも本件権利行使益についての確定申告を怠っているほか、証拠(乙65)及び弁論の全趣旨によれば、ストック・オプションの権利行使益が一時所得に当たる旨課税庁の担当者が表明したと原告が主張する所得税質疑応答集は、原告が本件確定申告書を提出する以前の平成10年7月1日には、その平成10年版の回答事例による所得税質疑応答集(東京国税局課税第一部長吉川元康監修、同局所得税課長近江修編)の発行により実質的に内容が改訂されており、その中では、課税庁が権利行使益を給与所得とする取扱いであることを反映した記載がなされており、平成10年分の所得税の確定申告に当たり、課税庁が原告に対して本件権利行使益を一時所得として申告すべき旨を指導したり、本件権利行使益が一時所得に当たるとして原告が本件ストック・オプションの付与を受け又はその権利を行使したりしたことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情は認められないものといわざるを得ない。
(3) この点、原告は、日本A社を退職し、確定申告に関する情報を入手し得なくなったこと、本件権利行使益を現金ではなく、株式に換えて受け取っていたために、所得税がかかるとは思わなかったこと、父親の債務整理等に思わぬ時間を費やし、更に母親の死亡という悪条件が重なったために、本件権利行使益の申告を失念したこと等を、本件確定申告書の提出に際して本件権利行使益の申告を怠った理由として述べるが、そのいずれもが何ら上記特別の事情を基礎付けるなどとはいえないものであることは明らかである。
また、原告は、平成9年の所得税の確定申告の際には、課税庁の担当者から、本件ストック・オプションの権利行使益が一時所得に当たる旨の指導を受けていたこと、原告は、本件権利行使益を、自身の父親の債務整理や両親の自宅の競売を免れるための当該自宅の買い戻しの資金に費消し、当初、予定していた税額の3倍もの所得税を払い切れる状況にはない旨も主張するが、そもそも原告は当該権利行使益の確定申告を怠っており、これに係る所得税の支払を予定していたなどといえる立場にないことはもとより、その修正申告に当たっては、課税庁の担当者から給与所得として申告するように慫慂されていた(当事者間に争いがない。)にもかかわらず、独自の見解をもって、株式等に係る譲渡所得等の金額として修正申告したこと、原告の主張する両親の借金の返済は、本件確定申告書を提出した後の平成11年8月に原告が了知し、その後に代位弁済したものにすぎず(甲9)、自ら申告をせず、当時の状況も確認しないままに、過去の取扱い事例のまま権利行使益が一時所得に当たるものと誤解して、真正な所得税額を手元に留保することなく、両親の債務の代位弁済に充てて費消したからといって、これをもって課税庁に信義則違反があるなどということはできないだけではなく、納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情に当たるとも到底いうことはできない。
(4) したがって、本件各処分については、租税法律主義違反又は信義則違反を理由とする取消しは認められない。
5 争点(5)(「正当な理由」の有無)について
通則法65条4項の「正当な理由」とは、過少申告が真に納税者の責めに帰すことのできない客観的事情がある場合をいい、単なる主観的事情や法の不知・誤解は含まれないところ、前記4(2)及び(3)のとおり、原告は、そもそも本件権利行使益についての確定申告を怠っているほか、平成10年分の所得税の修正申告時までに本件権利行使益が給与所得として課税されるという課税庁の取扱いを認識していながら、自己の誤った判断に基づいて本件権利行使益を株式等に係る譲渡所得等の金額として修正申告した後、これが一時所得に該当するとして本件更正の請求をしているものにすぎず、「正当な理由」があるとは認められない。このことは、かつて、課税庁において、ストック・オプションの権利行使益を一時所得と捉えていた時期があったことや、裁判実務において、これを一時所得とする見解があったことを考慮したとしても、あくまでも別の見解が存在し得たというにとどまるものであるから、何ら影響を受けるものではなく、また、原告が上記確定申告後に自己の両親に多額の債務があることを認識し、これを代位弁済していたこと等を考慮したとしても、何ら変わるものではない。
6 結論
以上のように、本件権利行使益が給与所得に当たること及び原告には通則法65条4項の「正当な理由」がないことを前提として、原告の平成10年分の所得税に係る納付すべき税額及び過少申告加算税額について計算すると、別表2記載の被告の主張のとおりとなるから、納付すべき税額についてその範囲内であり、過少申告加算税額についてこれと同額の本件更正処分及び本件過少申告加算税賦課決定処分は適法である。
よって、本件通知処分の取消しを求める訴え、並びに、本件更正処分のうち、総所得金額1781万9536円に係る納付すべき税額357万5700円を超え、総所得金額335万4400円及び株式等に係る譲渡所得等の金額2117万1180円に係る納付すべき税額423万4300円までの部分の取消しを求める訴えは、いずれも不適法であるから却下し、その余の訴えに係る請求については理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大門匡 裁判官 関口剛弘 裁判官 菊池章)
(別紙)
争点に対する当事者の主張
(1) 本件通知処分の取消しを求める訴えの適法性(本件通知処分の取消しを求める訴えに「訴えの利益」があるか否か。)
ア 原告の主張
(ア) 本件更正の請求は通則法所定の期間経過後になされたものであるが、同請求に対する本件通知処分についての不服申立手続において、被告及び国税不服審判所長は各不服申立てを棄却するとの実体判断を示しているので、本件通知処分の取消しを求める訴えは適法である。
(イ) また、期間経過後の更正の請求であっても、それが不変期間とされていない以上、被告及び国税不服審判所長は当然に宥恕すべき事由の存否を判断することができるので、本件でも宥恕すべき事由があるものとして実体判断をしているものと解されるから、本件通知処分の取消しを求める訴えは適法である。
イ 被告の主張
(ア) 取消訴訟は、違法な処分を取り消して原告の権利ないし利益を救済・回復することを目的としている以上、原告が取消判決を得るためには、権利・利益の侵害が存続し、その回復のために処分の取消しが必要であるという状態になければならず、処分の取消判決をしても、原告の権利・利益の救済にならない場合には、訴訟を維持する実益ないし必要性は認められない。
そして、本件更正の請求は平成13年11月22日になされているところ、本件確定申告書は平成11年3月5日に提出されており、更正の請求ができる期間は当該納税申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内(通則法23条1項)とされ、還付金等を受けるための申告書に係る更正の請求の期限は、当該申告書を提出した日から1年以内と取り扱われている(所得税基本通達122-1)から、期間の経過後になされた不適法なものである。現行法上、被告等には期間の徒過を宥恕する権限はないから、更正の請求に係る不服申立手続において実体判断が示されたとしても本来不適法であった更正の請求が適法となるいわれはなく、本件通知処分を取り消したとしても、処分庁としては更正の請求を却下するほかないのであるから、原告には、本件通知処分の取消しにより回復される法律上の利益はなく、本件通知処分の取消しを求める訴えは不適法である。
(イ) また、更正をすべき理由がない旨の通知処分と増額更正処分とが行われた場合には、増額更正処分のみが取消訴訟の対象とされるべきである。
すなわち、かかる場合の取消訴訟は、納税者の申告税額を上回る増額更正処分の税額の確定効力の取消しと申告税額を下回る正しい税額の確定を拒否する通知処分によって侵害された不利益の回復を求めるものであるところ、通知処分は申告税額を減額することを求める納税者の要求に対し、これを拒否する処分であり、増額更正処分は申告税額を否定し、それを上回る税額を全体として新たに確定させる処分であって、両者は別個の独立した処分であるから、本来、これらの処分のいずれもが取り消されることによってのみ、その不利益は解消され、その後、通知処分を取り消す旨の判決に基づく減額更正によって申告税額を下回る税額の確定効力が実現することになるようにもみえる。
しかしながら、通知処分と増額更正処分について各別の取消訴訟を認めると、審理対象が納税者の納付すべき税額について行った課税庁の全体としての確認行為であるにもかかわらず、審理・判断の矛盾・抵触を生じる可能性があり、訴訟経済の観点からも合理的ではない。
よって、通知処分及び増額更正処分の各取消訴訟が係属した場合には、通知処分における課税庁の確認行為が内包されている関係にある処分である増額更正処分のみを取り消すことによって、当該不利益を解消すべきであり、通知処分の取消しを求める訴えは不適法であると解すべきである。
(2) 本件更正処分のうち修正申告額を超えない部分の取消しを求める訴えの適法性(本件更正処分のうち修正申告額を超えない部分の取消しを求める訴えに「訴えの利益」があるか否か。)
ア 原告の主張
更正処分と増額再更正処分の相互関係については、後者が前者を吸収して一体的な処分となるものと解されているが、これと全く同様に、更正をすべき理由がない旨の通知処分後に増額更正処分が行われた場合も、後者が前者を吸収し両者を一体的な処分と解する場合には、更正の請求をした納税者は増額更正処分の取消訴訟において、当初の確定申告(修正申告がなされた場合には当該修正申告)の税額を下回る部分の取消しを求めることができるものというべきである。
イ 被告の主張
本件更正処分のうち、総所得金額1781万9536円に係る納付すべき税額357万5700円を超え、総所得金額335万4400円及び株式等に係る譲渡所得等の金額2117万1180円に係る納付すべき税額423万4300円までの部分の取消しを求める訴えは、本件修正申告書に係る修正申告された納税額を下回るものであり、前記(1)イのとおり本件更正の請求は期間を徒過した不適法なものであるから、原告が当該修正申告により自ら確定させた部分について、訴訟で取消しを求める訴えの利益はないから不適法である。
(3) 本件権利行使益の所得区分(本件権利行使益が、給与所得、一時所得又は雑所得のいずれに該当するか。)
ア 被告の主張
(ア) 本件権利行使益が給与所得に該当すること
a 給与所得の意義
給与所得とは、「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得」(所得税法28条1項)であり、勤労性所得(人的役務からの所得)のうち、雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価を広く含むものである。そうすると、給与所得該当性が認められるかどうかは、非独立的労働ないし従属的労働の対価といえるかどうかが重要であるところ、最高裁判所昭和37年8月10日第二小法廷判決(民集16巻8号1749頁)は、勤労者が勤労者たる地位に基づいて使用者から受ける給付は、すべて給与所得を構成する収入と解すべきである旨判示しており、従業員等が受ける給付は、それが従業員等の地位に基づくものである限り、広い意味で、勤務の対価としての性質を有することから、給与所得に該当することとなる。
b 雇用関係基因性
(a) 原告は、給与所得の要件として、付与会社と被付与者との間に雇用関係等の存在が必要である旨主張するが、給与所得の定義について規定した所得税法28条1項の文言上、そのような限定はされていない。従業員等の地位に基づき、空間的・時間的支配を受けることの対価として給付されたものであれば、「働いたからこそ得た利益」として給与所得に当たり、勤務先会社から受けたか、親会社から受けたかの違いは本質的な要素ではないというべきである。
(b) また、使用者は、従業員等の勤労の成果が使用者に帰属するという関係にあるからこそ、給与を支給するものであるから、使用者以外の第三者である親会社の場合も、従業員等の勤務する子会社に対する経営支配を通じ、その従業員等の労働力を利用して、勤労の成果を得ることができる関係にあるということができるから、子会社の従業員等が、その使用者である勤務先の子会社における労務に基因して、使用者以外の第三者である親会社から付与されたストック・オプションに係る権利行使益も、使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として、給与所得に該当するというべきであり、このような場合には、付与会社である親会社と被付与者である子会社従業員等との間に、給与所得の要件である、雇用契約に類する関係があるということができる。
c 就労対価性
原告は、権利行使益には通常の給与のような労務の質及び量との相関関係がなく、労務の提供と株価の上昇の間にも関連がないことから、権利行使益は労務の対価に当たらない旨主張している。
しかし、従業員等の地位に基づく給付という広い意味での労務の対価性こそが、勤労性所得である給与所得の本質的な要素であって、そのような広い意味での対価性が認められる限り、勤労者がその地位に基づいて受ける給付は、原則として給与所得に該当するというべきである。
本件権利行使益も、勤務先会社において勤務していたからこそストック・オプションを付与され、かつ、現実に勤務を継続したからこそ権利行使益を取得できたという点で、労務の対価としての性質を備えている以上、権利行使益の額がいかに株価変動の偶発性や行使時期の判断といった要素に左右されようとも、労務提供に由来する給付として給与所得に該当するというべきである。
d 本件権利行使益が米国A社から付与されたものといえること
ストック・オプション制度は、付与、一定期間の勤務株価の上昇、権利行使による時価より低額での株式売買という一連の過程を経て、初めて従業員等において権利行使益を取得することができるものであって、これは、インセンティブ報酬として勤務先会社における勤務と不可分に結び付けられた仕組みである。従業員等の地位にある被付与者が、労務を提供してストック・オプション(予約完結権)を行使することができるようになり、これを行使して初めて、株式譲渡契約(本契約)が成立し、従業員等は、付与会社に対し、具体的な株式引渡請求権を取得する一方、付与会社は、従業員等に対し、時価を下回る権利行使価格相当額の金員支払請求権を取得することとなり、その結果、付与会社が当該株式を市場で売却(発行)すれば得られたはずの利益(時価から権利行使価格相当額を差し引いた額)を従業員等にその労務の対価として移転するものである。そして、上記の法律関係は、本件のような親会社から子会社従業員等に対する親会社株式のストック・オプション付与契約の場合も、基本的に同一である。
(イ) 本件権利行使益が一時所得に該当しないこと
上記(ア)のとおり、本件権利行使益が給与所得に該当する以上、一時所得には該当しない。
(ウ) 本件権利行使益が雑所得に該当すること(予備的主張)
本件権利行使益が、給与所得に該当せず、その発生の有無及び金額が、株価の変動及び権利行使の時期に関する判断によって決定される、偶発的・一時的なものであったとしても、本件権利行使益は、原告の勤務先会社である日本A社における従業員等としての地位及びその勤務に密接に関係する所得であることは明白であるから、労務提供の対価とみるほかなく、「労務その他の役務・・・の対価としての性質」を有するものに当たるものであって、一時所得には当たらないといわざるを得ない。
したがって、本件権利行使益は、仮に給与所得に該当しないとしても、一時所得にも該当せず、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得のいずれにも該当しない以上、雑所得に該当するというべきである。
(エ) 最高裁判所平成17年1月25日第三小法廷判決・民集59巻1号64頁について
上記最高裁判決は、米国法人の子会社である日本法人の代表取締役であった上告人が親会社から付与されたストック・オプションの権利行使益の所得区分が争われた事案につき、給与所得に該当することを明らかにしたものである。
本件においても、米国A社は、日本A社の発行済み株式のすべてを所有しており、人事権等の実権を握ってこれを支配しているといえ、原告は、米国A社の統括の下に日本A社の従業員としての職務を遂行していたものといえる。また、本件プランは、従業員等に対する精勤の動機付けとすること等を企図して設けられたものである。そうすると、米国A社は、原告が職務を遂行しているからこそ、本件プランに基づき本件ストック・オプションを付与したものであって、本件権利行使益が職務遂行の対価としての性質を有する経済的利益であることは、上記最高裁判決からも明らかであるというべきである。
イ 原告の主張
(ア) 本件権利行使益が給与所得に該当しないこと
a 給与所得の意義
所得税法28条1項は、給与所得を「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得」と規定していることにかんがみれば、給与所得とは、勤労性所得(人的役務からの所得)のうち、雇用関係又はこれと性質を同じくする関係に基因して使用者の指揮・命令の下に提供される労務の対価であり、非独立的労働ないし従属的労働の対価であるというべきである。
この点、最高裁判所昭和56年4月24日第二小法廷判決(民集35巻3号672頁)は、「給与所得とは、雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお、給与所得については、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない。」と判示していること等からすれば、ある所得(経済的利益)が給与所得に区分されるためには、①雇用関係基因性と、②就労対価性の2つの要件を充足することが必要となる。
ただし、給与所得として区分されるものは、雇用関係や委任関係に基因してその従業員等としての地位に対して支給されるものでなければならない。所得税法28条1項が「これらの性質を有する給与」と定めているのも、その文脈からいって、雇用関係と法的に同視できる委任契約等による報酬(役員報酬、人材派遣社員に対する報酬)のように雇用関係に基因してその従業員等としての地位に基づき支払われるものをいうのであり、雇用関係に類似する関係があれば足りるとか、雇用関係に従たる契約関係があれば足りるというのは、その範囲が暖昧で不明確であって、税法の解釈として許されない拡大解釈である。
b 雇用関係基因性
(a) 雇用関係基因性とは、仕事の遂行に当たり指揮監督を受け、何らかの空間的、時間的な拘束を受けて労務の対価と評価できる継続的ないし断続的な労務又は役務の提供があることをいうものと解すべきである。
そして、所得税法上の給与所得を考察するに当たっては、所得税法に別段の規定はないから、民法上の雇用の規定や労働基準法上の労働者の賃金と同趣旨に解し、労働者の賃金としての性質を有するときに、給与所得該当性が肯定されることになるものというべきである。
(b) これについて、原告は米国A社との雇用契約又はこれに類する契約はなく、仕事の遂行に当たり個々の作業について指揮監督を受けているわけでもないから、何らかの空間的、時間的な拘束を受けているものではない。
(c) 本件ストック・オプションの付与会社である米国A社と原告の勤務先会社である日本A社が親子会社の関係にあるからといって、米国A社と原告との間に、時間的・空間的拘束を受けるような法的な雇用関係が存在するわけではない。親会社による子会社の経営支配と、誰と誰の間に雇用関係が存在しているかということは別の問題である。原告と親会社との間に雇用関係がなく、原告が親会社に対して労務を提供している事実が全くない以上、本件権利行使益を原告の就労の対価であるということはできない。
(d) 被告は日本A社の「採用のご案内」には昇給・賞与としてストック・オプション・プログラムがある旨記載されているとして、給与所得との関連性を主張するが、当該「採用のご案内」は原告が入社した時には存在しなかったものである。
c 就労対価性
(a) 就労対価性とは、就労との間に経済的合理性を肯定できる対価関係があることをいい、従業員等が使用者に対して提供する就労と使用者がその従業員等に対して支給する給付との間に、個別・具体的な対価関係があることをいうものと解すべきである。
よって、従業員等の地位にある者に対し支給されるものであっても、このような就労対価性のない給付は給与所得には当たらない。
(b) ストック・オプションそれ自体も、就労の対価というより、会社が、従業員等をスカウトしたり、会社に引き留めるための誘因として支給するものであり、権利行使益を過去の就労や将来の一定の期間の就労の対価として支給されるような対価関係はない。
(c) 本件権利行使益は、株価の高騰と原告の投資判断により取得できたオプションの運用益であり、原告の就労の対価ではなく、付与した会社の負担において発生したものでもない。
これは、使用者である日本A社や、雇用関係のない米国A社から受けた給付ではないから、給与所得には該当しない。
(d) 株価と就労との関係については、従業員等の努力が株価に直接反映されるということではなく、株価の形成は従業員等の就労以外の多数の要因によって形成されるものである。
仮に、株価と原告の就労との関係において何らかの相関関係を見出すことが可能であるとしても、当該所得の発生は株価によって左右されるから、その一部をとって原告に不利な課税を行うことは許されない。
d 権利確定主義(所得の実現時期)について
ストック・オプションに係る権利行使の結果株式を取得しても、その時点においては、株価の変動というリスクが内在している点で、必ずしも「収入すべき権利」(所得税法36条)が実現したとはいえず、本来、当該株式を譲渡した時点で譲渡所得が実現したとみるのが最も適切であり、その意味でも、権利行使時にストック・オプションに係る権利行使益を課税所得として課税の対象とするには特別の規定を要するものと解すべきである。
e 本件権利行使益が米国A社から付与されたものとはいえないこと
ストック・オプションの付与法人が新株を発行してストック・オプションの被付与者に株式を譲渡した場合だけでなく、いわゆる金庫株をストック・オプションの被付与者に譲渡した場合でも、ストック・オプションの権利行使価格そのものは約定されている一定の価格であり変動せず、発行済株式の希釈化が生ずるとしても、付与会社が出捐するものではないし、出捐を裏付けるような会計処理が存するわけでもない。よって、本件権利行使益は米国A社から付与されたものとはいえない。
f OECD(経済協力開発機構)の検討資料について
所得区分は日本の所得税制に特有なものであり、外国の判例や学説がそのまま妥当するものではない。OECDでもストック・オプションから生じる所得について各国の課税権の存否を巡って討議が続けられているが、この問題は、本来各国の所得税制で規律すべきことであるとされている。本件のような外国親会社から付与を受けたストック・オプションの権利行使益について明確な規定を欠いている我が国の現状では、現行の所得税法の規定を厳格に解釈し、現行の所得税法の規定に従って判断が下されるべきである。
(イ) 本件権利行使益が一時所得に該当すること
所得税法34条に規定する一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいうところ、本件権利行使益は、株価の動向と原告の投資的判断という多分に偶然的な要素による所得であるから、一時的・偶発的な所得であり、一時所得である。
(ウ) 本件権利行使益が雑所得に該当しないこと
上記(イ)のとおり、本件権利行使益が一時所得に該当する以上、雑所得には該当しない。
(エ) 最高裁判所平成17年1月25日第三小法廷判決について
a 上記最高裁判決は、ストック・オプションの権利行使益が給与所得に当たる旨判示しているが、同判決は事例判決として位置付けられ、その射程範囲が限定されているものである。
b すなわち、同判決は、米国親会社の100パーセント子会社である日本法人の代表取締役でありかつ米国親会社の副社長で ある者に対して付与されたストック・オプションの権利行使益について判断された事例である。当該事案においては、ストック・オプション制度が米国親会社のグループの一定の執行役員及び重要な従業員に対する精勤の動機付けとすること等を企図して設けられたもので、ストック・オプションの権利行使益は職務を遂行したことに対する対価としての性質を有し、ストック・オプションの権利行使益は米国親会社から被付与者に与えられた給付に当たるとされている。しかるに、原告は、日本子会社の従業員にすぎず、ストック・オプション自体も就労の対価として支給されていないばかりでなく、就労継続の動機付けとすることを企図して付与されたものでもないのであって、本件事案は上記最高裁判決の射程外である。
(4) 租税法律主義違反又は信義則違反の有無(本件各処分について、租税法律主義違反又は信義則違反を理由とする取消しが認められるか否か。)
ア 被告の主張
(ア) 租税法律主義違反について
憲法84条は、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」と規定して租税法律主義を定めているが、定められた法律を前提として、これを解釈し、適用することが、租税の創設、改廃変更に当たらないことは明らかである。
そして、被告は、本件権利行使益は、所得税法28条の解釈上、同条の下でこれを給与所得と取り扱って、本件各処分を行ったものであり、何ら租税法律主義に違反するものではない。
(イ) 信義則違反について
a 信義則違反により課税処分が取り消されるのは、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情がある場合に限られるべきである。具体的には、①課税庁が納税者に対し、信頼の対象となる公的見解を表示したこと、②納税者がその表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したこと、③課税庁が後に上記①の表示に反する課税処分を行ったこと、④そのために納税者が経済的不利益を受けたこと、⑤納税者が課税庁による上記①の表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないことが必要であると解される(最高裁判所昭和62年10月30日第三小法廷判決・判例時報1262号91頁)。
b しかるに、原告はそもそも本件権利行使益を確定申告していないのであるから、信義則に反し違法であるとの原告の主張はその前提において失当である。また、信義則違反に関する原告の主張は、課税庁は、従来、ストック・オプションの権利行使益について一時所得と取り扱ってきたのであり、原告も同様の課税が行われるものと信じていたというにとどまり、納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情は認められないから、原告の上記主張には理由がない。
イ 原告の主張
(ア) 原告が平成9年にストック・オプションの権利行使益の確定申告をした際、東京上野税務署の担当者は上司と相談した上で一時所得と指導し、原告は同担当者によって算出された税額を納付している。また、本件のような海外親会社から付与を受けたストック・オプションの権利行使益は、国税庁の公式見解により、一時所得として取り扱われてきた(大蔵省財務協会回答事例による所得税質疑応答集平成6年6月20日版等)。
原告は、このような事情から、本件ストック・オプションの権利行使を行い、原告の父親の債務超過と居宅競売が必須という緊迫した状況の下で、病身の母親が差押え、競売、転居等による負担を回避するため、平成10年分の所得税額を手元に留保し、残金で競売されようとしている両親の実家を買い戻したものである。
しかしながら、原告は、平成10年分の確定申告において、父親の債務整理等に思わぬ時間を費やし、さらに、母親の死亡という悪条件が重なったために、当該所得の申告を失念してしまったにすぎない。
原告としては、このような事情から、当初、原告が予定していた税額の3倍もの所得税を払い切れる状況にはないものである。
(イ) 租税法律主義とは、行政権が法律に基づかず租税を賦課徴収することはできないとすることにより、行政権による恣意的な課税から国民を保護するための原則である。これは、行政権の恣意的課税を排するという目的からして、当然に課税要件のすべてと租税の賦課徴収手続は法律によって規定されなければならないという課税要件法定主義と、その法律における課税要件の定めはできるだけ一義的に明確でなければならないという課税要件明確主義とを内包するものである。
しかし、課税当局は、所得税基本通達23~35共-6を平成10年10月及び平成14年6月に改正し、ストック・オプションの権利行使益を給与所得とし、かつ、この取扱いを平成9年1月1日まで遡及して適用することとした。公的見解を変更する場合は、納税者にその趣旨を十分に了知させる必要があるにもかかわらず、納税者からその機会を奪い、納税者の税務行政に対する信用を失墜させたものである。
(ウ) これらの事情にかんがみれば、本件各処分は、信義則、禁反言により、取消しを免れないものである。
(5)「正当な理由」の有無(本件過少申告加算税賦課決定処分について、原告に通則法65条4項の「正当な理由」があるか否か。)
ア 原告の主張
前記(4)イの各事情は通則法65条4項の「正当な理由」に当たるものというべきである。
イ 被告の主張
通則法65条4項の「正当な理由」とは、過少申告が真に納税者の責めに帰すことのできない客観的事情がある場合をいい、単なる主観的事情や法の不知・誤解は含まれないところ、原告は、そもそも平成10年分の所得税の確定申告に当たって、本件権利行使益を申告していないのであり、また、修正申告の際には、課税庁は本件権利行使益を給与所得として申告するよう慫慂したにもかかわらず、原告はこれに応じず、本件修正申告書を提出したものであって、原告自身、同年分の修正申告の際に課税庁がストック・オプションの権利行使益を給与所得とする取扱いであることを十分認識していたほか、前記(4)イ(ア)の原告主張の所得税質疑応答集についても、原告が平成10年分の修正申告を行う以前の平成11年12月1日に発行されたものには、課税庁がストック・オプションの権利行使益を給与所得とする取扱いであることを反映した記載がされていることなどからして、原告は、平成10年分の所得税の修正申告時までに本件権利行使益が給与所得として課税されるという課税庁の取扱いを明確に認識していたことが明らかである。したがって、原告は、自己の判断に基づいて本件権利行使益を株式等に係る譲渡所得等の金額として申告し、後に一時所得に当たるとして本件更正の請求を行っているにすぎず、「正当な理由」があるとは認められない。
(6) 原告の税額(原告の平成10年分の所得税に係る納付すべき税額及び過少申告加算税額)
ア 被告の主張
(ア) 本件権利行使益が給与所得に当たることを前提とした原告の平成10年分の所得税に係る課税標準、納付すべき税額及び過少申告加算税額の計算は、別表2記載のとおりであるところ、納付すべき税額は本件更正処分の額を上回り、過少申告加算税額は、本件過少申告加算税賦課決定処分の額と同額であるから、本件各処分は適法である。
(イ) 仮に、本件権利行使益が給与所得に当たらないとしても、雑所得に当たるから、その前提で原告の納付すべき税額を算出すると、原告の平成10年分の所得税に係る納付すべき税額は、961万7200円となり、本件更正処分に係る納付すべき税額を上回ることになるから、総額主義に照らせば、本件各処分は適法ということができる。
イ 原告の主張
本件権利行使益が一時所得に当たることは、上記のとおり明らかであり、原告の平成10年分の所得税に係る総所得金額及び納付すべき税額は、別表3記載のとおりであるから、本件各処分のうちこれを超える部分は、違法な処分として取り消されるべきである。
別表1 課税処分等の経緯(平成10年分)
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(別表2)
1 納付すべき税額 868万1600円
ア 総所得金額(給与所得の金額) 3088万6036円
上記金額は、次の(ア)及び(イ)の各給与収入金額の合計額から、所得税法28条3項に規定する給与所得控除額を同条2項の規定に基づいて控除した後の金額である。
(ア) 日本A社からの給与収入金額 487万0818円
上記金額は、本件確定申告書に添付された同社を支払者とする平成10年分給与所得の源泉徴収票の「支払金額」欄に記載された金額と同額である。
(イ) ストック・オプションの権利行使に係る米国A社からの給与収入金額 2943万0273円
上記金額は、原告が米国A社から得たストック・オプションの平成10年中の権利行使に係る経済的利益の合計金額である。
イ 所得控除の金額 102万4490円
上記金額は、原告の所得控除の合計額であり、原告が本件修正申告書に記載した金額と同額である。
ウ 課税総所得金額 2986万1000円
上記金額は、前記アの総所得金額3088万6036円から上記イの所得控除の金額102万4490円を控除した後の金額(ただし、通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。
エ 納付すべき税額 868万1600円
上記金額は、次の(ア)から(イ)及び(ウ)の合計額を差し引いた金額(ただし、通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。
(ア) 課税総所得金額に対する税額 891万4400円
上記金額は、前記ウの課税総所得金額2986万1000円に所得税法89条1項の税率を乗じて算出した金額である。
(イ) 特別減税額 3万8000円
上記金額は、平成10年分所得税の特別減税のための臨時措置法4条の規定に基づいて計算した金額であり、原告が本件修正申告書に記載した特別減税額と同額である。
(ウ) 源泉徴収税額 19万4759円
上記金額は、原告が本件修正申告書に記載した源泉徴収税額と同額である。
2 過少申告加算税の額 66万3000円
原告が本件更正処分により新たに納付すべきこととなった税額442万円(ただし、通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に通則法65条1項の規定に基づき100分の10を乗じて算出した金額44万2000円に、同条2項の規定に基づき、上記新たに納付すべきこととなった税額442万円に100分の5の割合を乗じて算出した金額22万1000円を加算した金額である。
(別表3) 本件権利行使益が一時所得に該当するとした場合における原告の納付すべき税額
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