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東京地方裁判所 平成15年(行ウ)495号 判決 2005年5月13日

原告 株式会社A

代表者代表取締役 甲

第一・第二事件訴訟代理人弁護士 藤枝純

神田遵

宰田高志

竹内辰介

第一事件訴訟代理人弁護士 平川雄士

被告 西税務署長事務承継者

北税務署長 加用俊栄

指定代理人 武田康孝

兼田加奈子

高野浦信昭

山崎秀利

菊地豊

牟田口務

手島久隆

濱垣治郎

和田弘道

池田忠雄

主文

一  本件訴えのうち、被告が原告に対して平成15年4月25日付けでした、原告の平成11年4月1日から平成12年3月31日までの事業年度の法人税についての過少申告加算税賦課決定の取消しを求める部分を却下する。

二  本件訴えのうち、被告が原告に対して平成15年4月25日付けでした、原告の平成11年4月1日から平成12年3月31日までの事業年度の法人税についての再更正のうち、納付すべき法人税額198億4250万3200円を超える部分の取消しを求める部分を却下する。

三  本件訴えのうち、西税務署長が原告に対して平成14年6月26日付けでした、原告の平成12年4月1日から平成13年3月31日までの事業年度の法人税についての過少申告加算税賦課決定のうち、過少申告加算税1923万4000円を超える部分の取消しを求める部分を却下する。

四  西税務署長が原告に対して平成12年3月28日付けでした、原告の平成10年4月1日から平成11年3月31日までの事業年度の法人税についての更正及び過少申告加算税賦課決定(いずれも平成15年3月18日付け裁決で一部取り消された後のもの)のうち、更正については納付すべき法人税額113億1951万7100円を超える部分、過少申告加算税については過少申告加算税13万1000円を超える部分をいずれも取り消す。

五  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

六  訴訟費用は、これを25分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  第一事件の請求

1  主文第四項同旨

2(一)  主位的請求

(1) 西税務署長が原告に対して平成13年9月27日付けでした、原告の平成11年4月1日から平成12年3月31日までの事業年度の法人税についての更正の請求には更正をすべき理由がない旨の通知処分(平成15年3月18日付け裁決で一部取り消された後のもの)のうち、納付すべき法人税額198億2683万0300円を超える部分を取り消す。

(2) 被告が原告に対して平成15年4月25日付けでした、原告の平成11年4月1日から平成12年3月31日までの事業年度の法人税についての過少申告加算税賦課決定を取り消す。

(二)  (一)(1)の予備的請求

被告が原告に対して平成15年4月25日付けでした、原告の平成11年4月1日から平成12年3月31日までの事業年度の法人税についての再更正のうち、納付すべき法人税額198億4250万3200円を超える部分を取り消す。

二  第二事件の請求

1  西税務署長が原告に対して平成14年9月27日付けでした、原告の平成12年4月1日から平成13年3月31日までの事業年度の法人税についての更正の請求には更正をすべき理由がない旨の通知処分(平成15年11月17日付け裁決で一部取り消された後のもの)のうち、納付すべき法人税額334億0812万7900円を超える部分を取り消す。

2  西税務署長が原告に対して平成14年6月26日付けでした、原告の平成12年4月1日から平成13年3月31日までの事業年度の法人税についての過少申告加算税賦課決定のうち、過少申告加算税1923万4000円を超える部分を取り消す。

第二答弁

一  本案前の答弁

主文第一項から第三項までと同旨

二  本案の答弁

原告の請求のうち、本案前の答弁に係る部分を除く部分をいずれも棄却する。

第三事案の概要

一  事案の骨子

本件は、原告が、西税務署長又は被告が原告に対して行った下記①記載の更正及び過少申告加算税賦課決定(以下、過少申告加算税賦課決定一般を単に「賦課決定」という。)、下記②記載の更正の請求には更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下、更正の請求には更正すべき理由がない旨の通知処分一般を単に「通知処分」という。)、下記③記載の再更正及び賦課決定、下記④記載の通知処分並びに下記⑤記載の賦課決定は、原告がB株式会社(以下「B」という。)及びC株式会社(なお、平成11年7月1日にD株式会社に事業を承継した。以下「C」という。)から取得した権利の取得価額を、法人税法施行令133条に規定する「内国法人がその事業の用に供した減価償却資産で取得価額が10万円未満であるもの」(以下「少額減価償却資産」という。)の取得価額として、全額を損金の額に算入することを認めない点で違法である旨主張して、下記①記載の更正、下記②記載の通知処分、下記③記載の再更正及び下記④記載の通知処分のうち、上記取得価額を損金の額に算入して算出した納付すべき法人税額を超える部分の各取消し、並びに下記①、③、⑤記載の賦課決定のうち、上記納付すべき法人税額を基礎として算定した過少申告加算税の税額を超える部分の各取消し(下記③記載の賦課決定については全部取消請求となる。)を求める事案である。なお、下記③記載の再更正について上記のとおりその一部の取消しを求める請求(前記第一の一2(二))は、下記②記載の通知処分について上記のとおりその一部の取消しを求める請求(前記第一の一2(一)(1))の予備的請求とされている。また、第一事件の訴え提起前に原告の本店所在地が移転したことにより、西税務署長から被告に事務承継が行われた。

①  西税務署長が原告に対して平成12年3月28日付けでした、原告の平成10年4月1日から平成11年3月31日までの事業年度(以下「平成11年3月期」という。)の法人税についての更正及び過少申告加算税賦課決定(いずれも平成15年3月18日付け裁決で一部取り消された後のもの)

②  西税務署長が原告に対して平成13年9月27日付けでした、原告の平成11年4月1日から平成12年3月31日までの事業年度(以下「平成12年3月期」という。)の法人税についての更正の請求には更正をすべき理由がない旨の通知処分(平成15年3月18日付け裁決で一部取り消された後のもの)

③  被告が原告に対して平成15年4月25日付けでした、原告の平成12年3月期の法人税についての再更正及び過少申告加算税賦課決定

④  西税務署長が原告に対して平成14年9月27日付けでした、原告の平成12年4月1日から平成13年3月31日までの事業年度(以下「平成13年3月期」という。)の法人税についての更正の請求には更正すべき理由がない旨の通知処分(平成15年11月17日付け裁決で一部取り消された後のもの)

⑤  西税務署長が原告に対して平成14年6月26日付けでした、原告の平成13年3月期の法人税についての過少申告加算税賦課決定

二  関係法令の定め

1  法人税法

(一) 2条

この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

1号から22号まで (省略)

23号 減価償却資産建物、構築物、機械及び装置、船舶、車両及び運搬具、工具、器具及び備品、鉱業権その他の資産で償却をすべきものとして政令で定めるものをいう。

(以下省略)

(二) 31条1項

内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産につきその償却費として第22条第3項(各事業年度の損金の額に算入する金額)の規定により当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する金額は、その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額(…(略)…)のうち、その内国法人が当該資産について選定した償却の方法(…(略)…)に基づき政令で定めるところにより計算した金額(…(略)…)に達するまでの金額とする。

(三) 31条6項

第1項の選定をすることができる償却の方法の種類、その選定の手続その他減価償却資産の償却に関し必要な事項は、政令で定める。

2  平成16年政令第101号による改正前の法人税法施行令(以下、単に「法人税法施行令」という。)

(一) 13条(この項における「法」とは、法人税法を指す。)

法第2条第23号(減価償却資産の意義)に規定する政令で定める資産は、棚卸資産、有価証券及び繰延資産以外の資産のうち次に掲げるもの(事業の用に供していないもの及び時の経過によりその価値の減少しないものを除く。)とする。

1号から7号まで (省略)

8号 次に掲げる無形固定資産

イからレまで 省略

ソ 電気通信施設利用権 (電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第12条第1項(事業の開始の義務)に規定する第一種電気通信事業者に対して同法第41条第1項(電気通信設備の維持)に規定する事業用電気通信設備の設置に要する費用を負担し、その設備を利用して同法第2条第3号(定義)に規定する電気通信役務の提供を受ける権利(電話加入権及びこれに準ずる権利を除く。)をいう。)(以下省略)

(二) 132条

内国法人が、修理、改良その他いずれの名義をもってするかを問わず、その有する固定資産について支出する金額で次に掲げる金額に該当するもの(そのいずれにも該当する場合には、いずれか多い金額)は、その内国法人のその支出する日の属する事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

1号当該支出する金額のうち、その支出により、当該資産の取得の時において当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測される当該資産の使用可能期間を延長させる部分に対応する金額2号当該支出する金額のうち、その支出により、当該資産の取得の時において当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測されるその支出の時における当該資産の価額を増加させる部分に対応する金額

(三) 133条

内国法人がその事業の用に供した減価償却資産(…(略)…)で、前条第1号に規定する使用可能期間が1年未満であるもの又は取得価額(第54条第1項各号(減価償却資産の取得価額)の規定により計算した価額をいう。…(中略)…)が10万円未満であるものを有する場合において、その内国法人が当該資産の当該取得価額に相当する金額につきその事業の用に供した日の属する事業年度において損金経理をしたときは、その損金経理をした金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。

(四) 54条(減価償却資産の取得価額)

減価償却資産の第48条から第50条まで(減価償却資産の償却の方法)に規定する取得価額は、次の各号に掲げる資産の区分に応じ当該各号に定める金額とする。

1号 購入した減価償却資産次に掲げる金額の合計額

イ 当該資産の購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税(…(略)…)その他当該資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)

ロ 当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額

(以下省略)

3  平成11年法律第160号による改正前の電気通信事業法(以下、単に「電気通信事業法」というときは、平成11年法律第160号による改正前の電気通信事業法を指す。)

(一) 2条

この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

1号 電気通信  有線、無線その他の電磁的方式により、符号、音響又は影像を送り、伝え、又は受けることをいう。

2号 電気通信設備 電気通信を行うための機械、器具、線路その他の電気的設備をいう。

3号 電気通信役務 電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他電気通信設備を他人の通信の用に供することをいう。

4号 電気通信事業 電気通信役務を他人の需要に応ずるために提供する事業(…(略)…)をいう。

5号 電気通信事業者電気通信事業を営むことについて、第9条第1項の許可を受けた者、第22条第1項の規定による届出をした者及び第24条第1項の登録を受けた者をいう。

6号 電気通信業務 電気通信事業者の行う電気通信役務の提供の業務をいう。

(二) 6条1項

電気通信事業の種類は、第一種電気通信事業及び第二種電気通信事業とする。

(三) 6条2項

第一種電気通信事業は、電気通信回線設備(送信の場所と受信の場所との間を接続する伝送路設備及びこれと一体として設置される交換設備並びにこれらの附属設備をいう。以下同じ。)を設置して電気通信役務を提供する事業とする。

(四) 9条1項

第一種電気通信事業を営もうとする者は、郵政大臣の許可を受けなければならない。

(五) 12条1項

第9条第1項の許可を受けた者(以下「第一種電気通信事業者」という。)は、郵政大臣が指定する期間内に、その事業を開始しなければならない。

(六) 34条

第一種電気通信事業者は、正当な理由がなければ、その業務区域における電気通信役務の提供を拒んではならない。

(七) 38条

第一種電気通信事業者は、他の電気通信事業者から当該他の電気通信事業者の電気通信設備をその電気通信回線設備に接続すべき旨の請求を受けたときは、次に掲げる場合を除き、これに応じなければならない。

1号 電気通信役務の円滑な提供に支障が生ずるおそれがあるとき。

2号 当該接続が当該第一種電気通信事業者の利益を不当に害するおそれがあるとき。

3号 前2号に掲げる場合のほか、郵政省令で定める正当な理由があるとき。

(八) 38条の2第1項

郵政大臣は、郵政省令で定めるところにより、全国の区域を分けて電気通信役務の利用状況及び都道府県の区域を勘案して郵政省令で定める区域ごとに、その一端が利用者の電気通信設備と接続される伝送路設備のうち同一の第一種電気通信事業者が設置するものであって、その伝送路設備の電気通信回線の数の、当該区域内に設置されるすべての同種の伝送路設備の電気通信回線の数のうちに占める割合が郵政省令で定める割合を超えるもの及び当該区域において当該第一種電気通信事業者がこれと一体として設置する電気通信設備であって郵政省令で定めるものの総体を、他の電気通信事業者の電気通信設備との接続が利用者の利便の向上及び電気通信の総合的かつ合理的な発達に欠くことのできない電気通信設備として指定することができる。

(九) 38条の2第2項

前項の規定により指定された電気通信設備(以下「指定電気通信設備」という。)を設置する第一種電気通信事業者は、当該指定電気通信設備と他の電気通信事業者の電気通信設備との接続に関し、当該第一種電気通信事業者が取得すべき金額(以下この条において「接続料」という。)及び接続の条件(…(略)…)について接続約款を定め、郵政大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。

(一〇) 38条の2第5項

指定電気通信設備を設置する第一種電気通信事業者は、第2項の規定により認可を受け又は前項の規定により届け出た接続約款(…(略)…)によらなければ、他の電気通信事業者との間において、指定電気通信設備との接続に関する協定を締結し、又は変更してはならない。

(一一) 41条1項

第一種電気通信事業者及び特別第二種電気通信事業者は、その電気通信事業の用に供する電気通信設備(以下「事業用電気通信設備」という。)を郵政省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない。

4  国税通則法(以下「通則法」という。)

(一) 104条2項(なお、「更正決定等」とは、通則法58条1項1号イに規定する「更正若しくは第25条(決定)の規定による決定又は賦課決定」のことを意味する。以下同じ。)

更正決定等について不服申立てがされている場合において、当該更正決定等に係る国税の課税標準等又は税額等についてされた他の更正決定等があるときは、国税不服審判所長等は、前項の規定によるもののほか、当該他の更正決定等についてあわせて審理することができる。ただし、当該他の更正決定等について不服申立ての決定又は裁決がされているときは、この限りでない。

(二) 104条3項

前項の規定の適用がある場合には、国税不服審判所長等は、当該不服申立てについての決定又は裁決において当該他の更正決定等の全部又は一部を取り消すことができる。

(三) 104条4項

前2項の規定は、更正の請求に対する処分について不服申立てがされている場合において、当該更正の請求に係る国税の課税標準等又は税額等についてされた他の更正又は決定があるときについて準用する。

(四) 115条1項

国税に関する法律に基づく処分(…(略)…)で不服申立てをすることができるものの取消しを求める訴えは、異議申立てをすることができる処分(…(略)…)にあっては異議申立てについての決定を、審査請求をすることができる処分にあっては審査請求についての裁決をそれぞれ経た後でなければ、提起することができない。ただし、次の各号の一に該当するときは、この限りでない。

1号及び2号 省略

3号 異議申立てについての決定又は審査請求についての裁決を経ることにより生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき、その他その決定又は裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき。

三  前提事実

本件の前提となる事実は、次のとおりである。なお、証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実並びに当裁判所に顕著な事実は認定根拠を付記しており、その余の事実は当事者間に争いがない。

1  当事者について

原告は、携帯・自動車電話事業等を営む株式会社であり、平成10年12月1日に、Bから簡易型携帯電話(以下「PHS」という。)事業の営業譲渡を受け、PHS事業も営んでいる(乙2、12、弁論の全趣旨)。

2  エントランス回線について

エントランス回線とは、Cの設置するPHS接続装置又は加入者交換機と、PHS事業者が設置する無線接続装置(以下「基地局」という。)との間に設置される端末回線であり、基地局回線とも呼ばれる。

PHSのシステム構成には、大別して「C網依存型」と「C網接続型」があり、前者はC電話網の機能を活用してPHS事業を提供する方式であり、後者はPHS交換機から回線設備まですべてを備えたPHSのシステムをC電話網との間で網間接続する方式である。なお、C網依存型PHS事業者は、活用型PHS事業者とも呼ばれる。

原告の行っているPHS事業は、C網依存型のシステムを採用している。このようなC網依存型のシステムにおいては、PHS加入者がPHS端末を利用して固定電話加入者との間で通話を行うためには、音声等の情報は、PHS端末から、無線電信、原告の設置する基地局を経由して、Cの設置するエントランス回線、PHS接続装置を経て、C電話網に伝達され、最終的には固定電話等に到達する必要がある。

このように、エントランス回線は、PHS事業者が設置する基地局をCのPHS接続装置を経由してC電話網に接続するための「入口」となる回線であるという意味で、エントランス回線と呼称されている。

3  Bから原告への営業譲渡の経緯について

原告は、平成10年12月1日午前零時(以下「譲渡日」という。)をもって、Bから、Bが行っていたPHS事業に関するすべての営業を譲り受けるとともに、BがCとの間で締結していた電気通信設備の相互接続に関する協定(以下「本件接続協定」という。)におけるBの地位(以下「本件接続協定上の地位」という。)を引き継ぎ、第一種電気通信事業者としてPHS事業を行っている。その経緯は以下のとおりである。(乙2から4まで、弁論の全趣旨)

(一) Bは、PHS接続装置、PHS制御局等のCの設備及びその機能を活用する活用型PHS事業者(C網依存型PHS事業者)であった。

(二) Cは、平成10年3月24日、「電気通信事業法第38条の2第2項及び第4項に基づく指定電気通信設備との接続に関する契約約款」(以下、この約款を「本件接続約款」といい、現行の約款を「現行接続約款」という。)を実施した。

(三) 原告(当時の商号はA株式会社)は、平成10年7月1日、Bとの間で、譲渡日をもって譲渡日前にBが行っていたPHS事業に関するすべての営業を譲り受ける旨の契約(以下「本件営業譲渡契約」という。)を締結した。

(四) 本件営業譲渡契約においては、①Bから原告に譲渡すべき財産(以下「譲渡財産」という。)は、譲渡日現在のPHS事業に関するすべての営業に属する固定資産及び流動資産とし、その細目は両者協議の上決定すること、②譲渡財産の譲渡価額は譲渡日現在における時価とし、両者協議の上確定すること、③対価の支払方法、支払時期等については、両者協議の上決定することが定められていた。

(五) B及び原告は、本件営業譲渡契約に基づき、本件営業譲渡契約の細目を定めた平成10年11月20日付け「営業譲渡細目協定書」(以下「本件細目協定書」という。)を作成した。

本件細目協定書には、①譲渡財産の細目及び譲渡価額の見込額、②譲渡日現在における譲渡財産の明細及びその譲渡価額について、譲渡日後可及的速やかに確認書を締結すること、③原告は、譲渡価額及び譲渡財産に関する消費税等を当該確認書の締結後遅滞なく支払うこと、④この支払は、譲渡日におけるBの負債を原告が引き受ける方法によること、⑤Bは、原告に対し、譲渡日をもって、PHS事業に関するすべての営業についてBが有する施設利用権等を譲渡することが記載されているほか、⑥譲渡財産の平成10年11月末見込額として、施設利用権等について、簿価43億8100万円、時価(譲渡価額)47億6300万円と記載されていた。

(六) B及び原告は、郵政大臣に対し、本件営業譲渡契約による事業譲渡譲受の認可を申請し、郵政大臣は、平成10年11月30日付けでこれを認可した。

(七) Cは、本件営業譲渡契約に伴い、本件接続協定上の地位がBから原告へ移転することを承諾した。

(八) B及び原告は、本件細目協定書に基づき、譲渡財産の明細を定めた平成11年1月12日付け「譲渡財産の明細等に関する確認書」(以下「本件明細確認書」という。)を作成した。

本件明細確認書には、①譲渡財産の譲渡日現在の譲渡価額の合計が305億8594万4100円、消費税等の合計が13億3680万8120円、引受負債の合計が23億4089万7120円であること、②譲渡価額及び消費税等の合計額の支払方法については、原告が、負債23億4089万7120円を引き受け、原告が譲渡日現在Bに対して有する金銭債権のうち284億円を相殺し、残金11億8185万5100円を平成11年2月3日に銀行口座振込により支払うこと、③施設利用権等については、合計の数量6万3398、帳簿価額42億3157万1989円、譲渡価額46億1669万3600円であり、その内訳として、基地局回線の数量6万3145、帳簿価額42億1540万1589円、譲渡価額45億9695万6000円、電話加入権の数量223、帳簿価額1617万0400円、譲渡価額1617万0400円、専用線の数量19、帳簿価額0円、譲渡価額276万6400円、パケット回線の数量11、帳簿価額0円、譲渡価額80万0800円と記載されていた。

(九) 原告とBは、本件明細確認書のとおりの決済を行い、原告は、上記(八)の③の施設利用権等のうち基地局回線(エントランス回線)に関するもの、数量6万3145、譲渡価額合計45億9695万6000円の譲渡財産(以下「本件資産」という。)を「無形固定資産(施設利用権)」として経理したが、平成11年3月期の決算において、その全額を「施設保全費」として損金経理した。

(一〇) Bから本件接続協定上の地位を引き継いだ原告は、譲渡日以降、本件接続協定に基づき、原告による基地局回線(エントランス回線)設置申込みに対するCの承諾があった都度、基地局回線(エントランス回線)の設置工事又は手続に関する費用の額として、本件接続約款に定められた1回線当たり合計7万2800円の金員(以下「本件設置負担金」という。)をCに支払っている。原告は、その支出の都度、当該支出額を「設備投資勘定」に計上していたが、決算において、その全額を「施設保全費」として損金経理した。

4  更正の経緯等

(一) 平成11年3月期の法人税について

(1) 原告は、平成11年6月30日、原告の平成11年3月期の法人税について、別表1の「確定申告」欄記載のとおり、青色の申告書(以下「平成11年3月期確定申告書」という。)により確定申告(以下「平成11年3月期確定申告」という。)をした。

(2) 被告は、原告に対し、平成12年3月28日付けで、原告の平成11年3月期の法人税について、別表1の「更正・決定」欄記載のとおり、更正(平成15年3月18日付け裁決で一部取り消される前のもの。以下「平成11年3月期更正(取消前)」という。)及び過少申告加算税賦課決定(平成15年3月18日付け裁決で一部取り消される前のもの。以下「平成11年3月期賦課決定(取消前)」という。)をした。

(3) 原告は、平成11年3月期更正(取消前)及び平成11年3月期賦課決定(取消前)を不服として、国税不服審判所長に対し、平成12年5月8日、別表1の「審査請求」欄記載のとおり、審査請求(以下「平成11年3月期審査請求」という。)をした。

(4) 国税不服審判所長は、原告に対し、平成15年3月18日付けで、平成11年3月期審査請求について、別表1の「審査裁決」欄記載のとおり、平成11年3月期更正(取消前)及び平成11年3月期賦課決定(取消前)の一部を取り消す旨の裁決をした(以下、この裁決を「平成11年3月期裁決」といい、平成11年3月期裁決によって一部取り消された後の上記更正及び賦課決定を、それぞれ「平成11年3月期更正」及び「平成11年3月期賦課決定」という。)。

(5) 原告は、平成15年5月21日、平成11年3月期更正及び平成11年3月期賦課決定の取消しを求めて、第一事件の訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。

(二) 平成12年3月期の法人税について

(1) 原告は、平成12年6月30日、原告の平成12年3月期の法人税について、別表2の「確定申告」欄記載のとおり、青色の申告書により確定申告(以下「平成12年3月期確定申告」という。)をした。

(2) 原告は、被告に対し、平成13年6月27日、原告の平成12年3月期の法人税について、別表2の「更正の請求」欄記載のとおり、更正の請求(以下「平成12年3月期更正の請求」という。)をした。

(3) 被告は、原告に対し、平成13年9月27日付けで、平成12年3月期更正の請求に対し、別表2の「更正をすべき理由がない旨の通知」欄記載のとおり、更正をすべき理由がない旨の通知処分(平成15年3月18日付け裁決で一部取り消される前のもの。以下「平成12年3月期通知処分(取消前)」という。)をした。

(4) 原告は、平成12年3月期通知処分(取消前)を不服として、国税不服審判所長に対し、平成13年11月22日、別表2の「審査請求」欄記載のとおり、審査請求(以下「平成12年3月期審査請求」という。)をした。

(5) 被告は、原告に対し、平成14年6月26日付けで、原告の平成12年3月期の法人税について、別表2の「更正・決定」欄記載のとおり、更正(以下「平成12年3月期更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「平成12年3月期賦課決定」という。)をした。

(6) 国税不服審判所長は、原告に対し、平成15年3月18日付けで、平成12年3月期審査請求について、別表2の「審査裁決」欄記載のとおり、平成12年3月期通知処分(取消前)の一部を取り消す旨の裁決をした(以下、この裁決を「平成12年3月期裁決」といい、平成12年3月期裁決によって一部取り消された後の上記通知処分を「平成12年3月期通知処分」という。)。

(7) 被告は、原告に対し、平成15年4月25日付けで、原告の平成12年3月期の法人税について、別表2の「増額再更正」欄記載のとおり、更正(以下「平成12年3月期再更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「平成12年3月期再賦課決定」という。)をした。

(8) 原告は、平成15年5月21日、主位的に平成12年3月期通知処分及び平成12年3月期再賦課決定の取消しを求め、予備的に平成12年3月期更正及び平成12年3月期賦課決定の取消しを求めて、第一事件の訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。

(9) 原告は、平成15年11月21日、平成12年3月期賦課決定の取消しを求める請求を平成12年3月期再賦課決定の取消しを求める請求に、平成12年3月期更正の取消しを求める請求を平成12年3月期再更正の取消しを求める請求にそれぞれ交換的に訴えを変更した(当裁判所に顕著な事実)。

(三) 平成13年3月期の法人税について

(1) 原告は、平成13年6月29日、原告の平成13年3月期の法人税について、別表3の「確定申告」欄記載のとおり、青色の申告書により確定申告(以下「平成13年3月期確定申告」という。)をした。

(2) 被告は、原告に対し、平成14年6月26日付けで、原告の平成13年3月期の法人税について、別表3の「更正・決定」欄記載のとおり、更正(以下「平成13年3月期更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「平成13年3月期賦課決定」という。)をした。

(3) 原告は、被告に対し、平成14年6月28日、原告の平成13年3月期の法人税について、別表3の「更正の請求」欄記載のとおり、更正の請求(以下「平成13年3月期更正の請求」という。)をした。

(4) 被告は、原告に対し、平成14年9月27日付けで、平成13年3月期更正の請求に対し、別表3の「更正をすべき理由がない旨の通知」欄記載のとおり、更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「平成13年3月期通知処分(取消前)」という。)をした。

(5) 原告は、平成13年3月期通知処分(取消前)を不服として、国税不報審判所長に対し、平成14年11月26日、別表3の「審査請求」欄記載のとおり、審査請求(以下「平成13年3月期審査請求」という。)をした。

(6) 国税不服審判所長は、平成13年3月期審査請求について、平成13年3月期更正及び平成13年3月期賦課決定を通則法104条に基づいてあわせ審理し、原告に対し、平成15年11月17日付けで、別表3の「審査裁決」欄記載のとおり、平成13年3月期通知処分(取消前)の一部を取り消す旨の裁決をしたが(以下、この裁決を「平成13年3月期裁決」といい、平成13年3月期裁決によって一部取り消された後の上記通知処分を「平成13年3月期通知処分」という。)、平成13年3月期更正及び平成13年3月期賦課決定については裁決しなかった。

(7) 原告は、平成16年2月16日、平成13年3月期通知処分及び平成13年3月期賦課決定の取消しを求めて、第二事件の訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。

四  争点

1  本案前の争点

(一) 平成12年3月期再賦課決定、平成12年3月期再更正及び平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えについて、「審査請求についての裁決」を経たということができるか。

(二) 平成12年3月期再賦課決定、平成12年3月期再更正及び平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えについて、「審査請求についての裁決」を経ていないとしても、そのことに「正当な理由」があるか。

(三) 平成12年3月期再賦課決定及び平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えについて、出訴期間を徒過しているか。

2  本案の争点

(一) 原告がBから取得した本件資産の性質は、本件接続協定に基づきCから電気通信役務の提供を受ける権利(地位)であるか、あるいは、エントランス回線を利用する権利であるか。

(二) 本件資産は、法人税法施行令133条に規定する少額減価償却資産に該当し、その取得価額全額を一度に損金の額に算入することができるか否か。具体的には、本件資産の取得価額は、本件接続協定を1単位として判断すべきか、あるいは、エントランス回線1回線を1単位として判断すべきか。

(三) 原告がCに支払った本件設置負担金は、法人税法施行令132条2号に規定する資本的支出に該当し、損金の額に算入することができないか、あるいは、少額減価償却資産の取得価額に該当し、その全額を一度に損金の額に算入することができるか。

五  本案前の争点に関する当事者の主張の要旨

本案前の争点に関する当事者の主張の要旨は、別紙1記載のとおりである。

六  本案の争点に関する当事者の主張の要旨

本案の争点に関する当事者の主張の要旨は、別紙2記載のとおりである。

第四当裁判所の判断

一  本案前の争点について

1  認定事実

前記前提事実に加え、証拠(甲1から4まで、15から22まで、乙1)及び弁論の全趣旨を総合すると、平成12年3月期再賦課決定、平成12年3月期再更正及び平成13年3月期賦課決定の経緯について、以下の事実を認めることができる。

(一) 平成12年3月期再賦課決定及び平成12年3月期再更正の経緯について

(1) 原告は、本件資産の取得価額及び平成11年3月期にCに支払った本件設置負担金について、平成11年3月期の決算において、その全額を施設保全費として損金経理し、平成11年6月30日に、平成11年3月期確定申告をした。

(2) 被告は、原告に対し、平成12年3月28日付けで、本件資産の取得価額及び本件設置負担金は少額減価償却資産の取得価額に該当せず、損金の額に算入することはできないとの理由を付して、平成11年3月期更正(取消前)及び平成11年3月期賦課決定(取消前)をした。

(3) 原告は、平成12年3月期の法人税について、平成11年3月期更正(取消前)と同様の理由により更正を受けることを避けるため、①平成12年3月期にCに支払った本件設置負担金合計額について、損金の額に算入した後に申告加算し、②平成11年3月期に取得した本件資産の取得価額及び平成11年3月期にCに支払った本件設置負担金合計額について、その取得価額を申告減算するとともに、耐用年数20年の定額法により算定した減価償却限度額を超える金額を申告加算して、平成12年6月30日に、平成12年3月期確定申告をした。

(4) 原告は、被告に対し、平成13年6月27日、原告の平成12年3月期の法人税について、平成12年3月期にCに支払った本件設置負担金は少額減価償却資産の取得価額に該当し、その全額を損金の額に算入することができる旨主張して、平成12年3月期更正の請求をした。

(5) 被告は、原告に対し、平成13年9月27日付けで、平成12年3月期更正の請求に対し、本件資産の取得価額及び本件設置負担金に関する平成12年3月期確定申告における処理には誤りがないとの理由を付して、平成12年3月期通知処分(取消前)をした。

(6) 原告は、平成12年3月期通知処分(取消前)を不服として、国税不服審判所長に対し、平成13年11月22日、平成12年3月期審査請求をした。

(7) 被告は、原告に対し、平成14年6月26日付けで、原告の平成12年3月期の法人税について、本件資産の取得価額及び本件設置負担金の損金算入の可否とは無関係の理由により、平成12年3月期更正及び平成12年3月期賦課決定をした。

(8) 国税不服審判所長は、平成12年3月期審査請求について、本件資産の取得価額及び本件設置負担金の損金算入の可否について判断し、平成15年3月18日付けで、平成12年3月期通知処分(取消前)の一部を取り消す旨の平成12年3月期裁決をした。

(9) 被告は、原告に対し、平成15年4月25日付けで、原告の平成12年3月期の法人税について、本件資産の取得価額及び本件設置負担金の損金算入の可否とは無関係の理由により、平成12年3月期再更正及び平成12年3月期再賦課決定をした。

原告は、平成15年4月25日ころに平成12年3月期再更正及び平成12年3月期再賦課決定を知ったが、平成12年3月期更正及び平成12年3月期再賦課決定に対して、法定の期間内に不服申立てをしなかった。

(10) 原告は、平成15年5月21日、本件資産の取得価額及び本件設置負担金は少額減価償却資産の取得価額に該当し、その全額を損金の額に算入することができる旨主張して、主位的に平成12年3月期通知処分及び平成12年3月期再賦課決定の取消しを求め、平成12年3月期通知処分の取消しを求める訴えの利益が存在しないと判断される場合に備えて、予備的に平成12年3月期更正及び平成12年3月期賦課決定の取消しを求めて、第一事件の訴えを提起した。

(11) 原告は、平成15年11月21日、平成12年3月期賦課決定の取消しを求める請求を平成12年3月期再賦課決定の取消しを求める請求に、平成12年3月期更正の取消しを求める請求を平成12年3月期再更正の取消しを求める請求にそれぞれ交換的に訴えを変更した。

(二) 平成13年3月期賦課決定の経緯について

(1) 原告は、平成13年3月期の法人税について、平成11年3月期更正(取消前)と同様の理由により更正を受けることを避けるため、①平成13年3月期にCに支払った本件設置負担金合計額について、損金の額に算入後に申告加算し、②本件資産の取得価額並びに平成11年3月期及び平成12年3月期に支出した本件設置負担金合計額について、耐用年数20年の定額法により算定した減価償却限度額を申告減算して、平成13年6月29日に、平成13年3月期確定申告をした。

(2) 被告は、原告に対し、平成14年6月26日付けで、原告の平成13年3月期の法人税について、本件資産の取得価額及び本件設置負担金の損金算入の可否とは無関係の理由により、平成13年3月期更正及び平成13年3月期賦課決定をした。

原告は、平成14年6月26日ころに平成13年3月期更正及び平成13年3月期賦課決定を知ったが、平成13年3月期更正及び平成13年3月期賦課決定に対して、法定の期間内に不服申立てをしなかった。

(3) 原告は、被告に対し、平成14年6月28日、原告の平成13年3月期の法人税について、本件設置負担金は少額減価償却資産の取得価額に該当し、その全額を損金の額に算入することができる旨主張して、平成13年3月期更正の請求をした。

(4) 被告は、原告に対し、平成14年9月27日付けで、平成13年3月期更正の請求に対し、本件設置負担金に関する平成13年3月期確定申告における処理には誤りがないとの理由を付して、平成13年3月期通知処分(取消前)をした。

(5) 原告は、平成13年3月期通知処分(取消前)を不服として、国税不服審判所長に対し、平成14年11月26日、平成13年3月期審査請求をした。

(6) 国税不服審判所長は、平成13年3月期審査請求について、平成13年3月期更正及び平成13年3月期賦課決定を通則法104条に基づいてあわせ審理して、本件資産の取得価額及び本件設置負担金の損金算入の可否について判断し、平成15年11月17日付けで、平成13年3月期通知処分(取消前)を一部取り消す旨の平成13年3月期裁決をしたが、平成13年3月期更正及び平成13年3月期賦課決定については裁決をしなかった。

(7) 原告は、平成16年2月16日、本件資産の取得価額及び本件設置負担金は少額減価償却資産の取得価額に該当し、損金の額に算入することができる旨主張して、平成13年3月期通知処分及び平成13年3月期賦課決定の取消しを求めて、第二事件の訴えを提起した。

2  平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えの適法性について

(一) 不服申立前置について

(1) 通則法115条1項柱書本文は、国税に関する法律に基づく処分で不服申立てをすることができるものの取消しを求める訴えは、異議申立てをすることができる処分にあっては異議申立てについての決定を、審査請求をすることができる処分にあっては審査請求についての裁決をそれぞれ経た後でなければ、提起することができないと規定している。

そこで、平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えが、通則法115条1項柱書本文に規定する不服申立前置の要請を満たし、適法な訴えということができるかどうかについて、以下検討する。

(2) 通則法115条1項柱書本文が国税に関する処分について不服申立てを経由することを要求しているのは、国税に関する処分については、課税標準の認定が複雑かつ専門的であるため、司法審査を行う前に、専門的な知識と経験を有する行政庁に再検討の機会を与え、その自主的解決を期待することにあると解される。

また同時に、不服申立前置を要求することは、大量かつ反復的に行われる国税に関する処分について、訴訟が大量に提起されることを回避するとともに、税務行政の統一的・安定的運用を図ることを可能とすることをも目的とするものであると解される。

そうすると、通則法115条1項柱書本文が、不服申立前置を要求した趣旨は、審査庁に国税に関する処分の当否について再検討させることに加えて、所定の期間内に不服申立てがされない限り、当該処分の効果を前提として、その後の徴収事務等を行うことを可能とし、税務行政の安定を図ることにもあるということができる。

このような通則法115条1項柱書本文の趣旨からすると、国税に関する処分については、その取消しを求める訴訟が提起される前に、当該処分について納税者による不服申立てがされ、その不服申立てについての決定又は裁決がされることが予定されているというべきである。また、このように解することは、通則法115条1項柱書本文に規定する「異議申立てについての決定」又は「審査請求についての裁決」という文言にも合致するというべきである。

したがって、通則法115条1項柱書本文の規定する不服申立前置を満たすというためには、国税に関する個々の処分について、納税者による不服申立てがされ、それについての裁決が経由されていることが必要というべきである。

(3) 本件について見ると、賦課決定は、通知処分とは別個の処分であるから、平成13年3月期賦課決定について「審査請求についての裁決」を経由したというためには、平成13年3月期通知処分についての不服申立てとは別個に、平成13年3月期賦課決定について不服申立てが経由されていることが必要である。

しかしながら、前記認定事実のとおり、原告は、平成13年3月期通知処分(取消前)については不服申立てをしたものの、平成13年3月期賦課決定について法定の期間内に不服申立てをせず、平成13年3月期審査請求において、平成13年3月期賦課決定について不服を有する旨主張しなかったのであるから、平成13年3月期賦課決定については、不服申立てが経由されていないといわざるを得ない。

そうすると、平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えは、不服申立前置を欠くものというべきである。

(4) これに対し、原告は、平成13年3月期賦課決定については、国税不服審判所長により平成13年3月期通知処分(取消前)とあわせ審理されているから、平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えは「審査請求についての裁決」を経由したというべきである旨主張する。

確かに、前記認定事実によると、国税不服審判所長は、原告が不服申立てをしていない平成13年3月期賦課決定について、平成13年3月期通知処分(取消前)とあわせ審理し、平成13年3月期通知処分(取消前)を一部取り消す旨の平成13年3月期裁決をしたものである。

しかしながら、前示のとおり、平成13年3月期賦課決定について不服申立てがされていない以上、平成13年3月期賦課決定についてあわせ審理されたとしても、平成13年3月期賦課決定について、「審査請求についての裁決」が経由されたということはできないというべきである。

平成13年3月期賦課決定についてあわせ審理されたということは、「審査請求についての裁決」を経由していないことについて通則法115条1項3号に規定する「正当な理由」があるか否かの判断に当たって検討されるべき事情にすぎないというべきである。

したがって、原告の上記主張は、採用することができない。

(二) 通則法115条1項3号に規定する「正当な理由」について

(1) 前示のとおり、平成13年3月期賦課決定については、不服申立てを経由していないというべきであるから、平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えについては、通則法115条1項各号に規定する例外要件に該当しない限り、不服申立前置を欠く不適法な訴えということになる。

平成13年3月期賦課決定については、通則法115条1項1号及び2号に該当しないことは明らかであるから、本件においては、同項3号に規定する「裁決を経ないことにつき正当な理由」があるか否かが問題となる。

(2) 前記認定事実によると、原告は、平成13年3月期賦課決定については不服申立てを経由していないが、国税不服審判所長は、原告が不服申立てをしていない平成13年3月期賦課決定について、平成13年3月期通知処分(取消前)とあわせ審理し、平成13年3月期通知処分(取消前)を一部取消す旨の平成13年3月期裁決をしたが、平成13年3月期賦課決定については裁決をしなかったものである。

(3) そこで検討するに、通知処分は、納税者からの更正の請求に対する課税庁による減額更正をしない旨の応答であり、納税者の減額更正の請求に対して課税庁が減額更正を拒否し、申告税額等について税額を全体的に見直して減額をすることはしないことを確認する目的及び効果を有する処分である。したがって、通知処分は、本税に関する処分であるが、その税額を確定する処分ではない。これに対し、賦課決定は、修正申告や増額更正のように本税について申告税額等よりも増額する方向で税額を確定する処分に附帯して、過少申告の事実に対する行政上の制裁として課されるものである。

そうすると、通知処分及び賦課決定は、それぞれ目的及び効果を大きく異にする別個の処分であるというべきであり、また、増額更正と賦課決定の場合とは異なり、通知処分に附帯して賦課決定がされるという関係にあるということもできない。

したがって、通知処分と賦課決定は、全く別個の処分であるといわざるを得ず、密接な関係を有するものということもできないのであるから、通知処分について不服申立てを経由したことをもって、賦課決定に対する関係でも不服申立前置の要件を実質的に満たしたという余地はないというべきである。

以上によると、平成13年3月期賦課決定について不服申立てを経ないことに通則法115条1項3号に規定する「正当な理由」があるということはできない。

(4) これに対し、原告は、裁決により通知処分が一部でも取り消されれば、賦課決定は必然的に全部又は一部が取り消されるという関係にあるから、通知処分が裁決をすべき行政庁により審理されているのであれば、賦課決定についてもその見直しをすべき事由について審理されているということができ、通則法115条1項の趣旨は満たされているというべきである旨主張する。

確かに、通知処分に前後して、増額更正及びこれに附帯する賦課決定がされていた場合、国税不服審判所長の裁決により、更正の請求に対して減額更正を拒否する処分である通知処分が一部でも取り消されれば、この取消しに伴って賦課決定の基礎となる税額も減少することになり、賦課決定についても見直されるべきものである。

しかしながら、前示のとおり、通知処分と賦課決定は、目的及び効果を異にする別個の処分であって、通知処分は税額を確定する処分ではないのであり、また、増額更正と賦課決定の場合と異なり、通知処分に附帯して賦課決定がされるという関係にあるということもできない(本件においても、平成11年3月期賦課決定(取消前)は平成11年3月期更正(取消前)に伴ってされたものであり、平成12年3月期再賦課決定は平成12年3月再更正に伴ってされたものであり、平成13年3月期賦課決定は平成13年3月期更正に伴ってされたものである。)。通知処分について裁決がされ、通知処分が一部取り消されたとしても、直ちに賦課決定に影響を及ぼすものではなく、賦課決定について不服申立てを経由することが無意味であるということはできない。

したがって、原告の上記主張は、採用することができない。

(5) また、原告は、平成13年3月期賦課決定について審査請求が別途行われていたとしても、結局は通則法104条1項に基づき通知処分についての審査請求と併合審理され、同条2項に基づくあわせ審理を経た場合と全く同一内容の裁決がされていたであろうことは明らかであるから、平成13年3月期賦課決定自体についての審査請求の有無を問うのは無意味である旨主張する。

しかしながら、通則法115条1項柱書本文の趣旨からすると、国税に関する処分については、その取消しを求める訴訟が提起される前に、納税者による不服申立てがされ、当該不服申立てについての決定又は裁決がされることが予定されており、それがされないときは処分を前提とした徴収事務等が進められることは、前示のとおりであるから、平成13年3月期賦課決定に対して審査請求を行うことが無意味であったということはできない。

したがって、原告の上記主張は、採用することができない。

(6) さらに、原告は、平成13年3月期賦課決定についての不服申立てにおいて、本訴において主張している平成13年3月期通知処分(取消前)の違法事由を主張すべきであるとすれば、更正の請求期間が法定の期間よりも事実上短縮されることになってしまい、不当である旨主張する。

しかしながら、賦課決定と通知処分とは別個の処分であって、それぞれについて違法事由を主張することができるところ、たまたま通知処分の違法事由として主張すべき事柄を賦課決定の違法事由として主張すべきであったとしても、そのことから直ちに、更正の請求期間が法定の期間よりも事実上短縮されるということはできないのであり、したがって、そのことが不当であるとする余地はない。

したがって、原告の上記主張は、採用することができない。

(7) 以上のとおり、平成13年3月期賦課決定については、不服申立てが経由されておらず、そのことについて通則法115条1項3号に規定する「正当な理由」があると認めることはできないから、平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えは、不服申立前置を欠く不適法な訴えというべきである。

(三) 出訴期間について

(1) 平成16年法律第84号による改正前の行政事件訴訟法(以下、単に「行政事件訴訟法」という。)14条1項は、取消訴訟について、処分があったことを知った日から3か月以内に提起しなければならないとしている。

前記認定事実によると、原告は、平成14年6月26日ころに平成13年3月期賦課決定を知ったが、平成16年2月16日になって平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えを提起したものである。

そうすると、平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えは、出訴期間を徒過して提起されたものというべきである。

(2) これに対し、原告は、平成13年3月期賦課決定は、平成13年3月期通知処分(取消前)とあわせ審理されていること、また、平成13年3月期賦課決定は、平成13年3月期通知処分に関する判決が確定するまで不確定であり、平成13年3月期通知処分と別個に出訴期間を論じる利益はないことからすれば、平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えの出訴期間の起算日は、行政事件訴訟法14条4項により、平成13年3月期裁決の日と解すべきである旨主張する。

しかしながら、行政事件訴訟法14条4項は、処分について審査請求をすることができる場合について、その審査請求に対する裁決があったことを知った日又は裁決の日を出訴期間の起算日とするものである。

本件においては、前示のとおり、平成13年3月期賦課決定については、不服申立てがされておらず、審査請求に対する裁決がされたということはできない。

そうすると、平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えについて、行政事件訴訟法14条4項を適用することはできないといわざるを得ない。

したがって、原告の上記主張は、採用することができない。

(3) 以上のとおり、平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えは、出訴期間を徒過した不適法な訴えというべきである。

(四) 以上によると、平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えは、不服申立前置を欠くとともに、出訴期間を徒過して提起されたものであるから、不適法な訴えというべきである。

3  平成12年3月期再賦課決定の取消しを求める訴えの適法性について

(一) 不服申立前置について

前記認定事実のとおり、原告は、平成12年3月期通知処分については不服申立てをしたものの、平成12年3月期再賦課決定については法定の期間内に不服申立てしなかったのであるから、平成12年3月期再賦課決定については、不服申立てが経由されていないといわざるを得ない。

そうすると、平成12年3月期再賦課決定の取消しを求める訴えは、平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えと同様の理由により、不服申立前置を欠くものというべきである。

(二) 通則法115条1項3号に規定する「正当な理由」について

平成12年3月期再賦課決定については、平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えと同様の理由により、不服申立てが経由されておらず、そのことについて通則法115条1項3号に規定する「正当な理由」があると認めることはできないから、平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えは、不服申立前置を欠く不適法な訴えというべきである。

(三) 出訴期間について

前記認定事実によると、原告は、平成15年4月25日ころに平成12年3月期再賦課決定を知ったが、平成15年11月21日になって、訴えを交換的に変更して平成12年3月期再賦課決定の取消しを求めるに至ったものである。

そうすると、平成12年3月期再賦課決定の取消しを求める訴えは、平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えと同様の理由により、出訴期間を徒過して提起された不適法な訴えというべきである。

(四) 以上によると、平成12年3月期再賦課決定の取消しを求める訴えは、不服申立前置を欠くとともに、出訴期間を徒過して提起されたものであるから、不適法な訴えというべきである。

4  平成12年3月期通知処分の取消しを求める訴えの適法性について

(一) 本件においては、平成12年3月期通知処分(取消前)がされた後、平成12年3月期再更正がされているところ、このような場合についても、平成12年3月期通知処分の取消しを求める訴えの利益があるか否かが問題となり得る。

この点、被告も、平成12年3月期通知処分の取消しを求める訴えの利益が存在する旨認めているところであるが、当裁判所も、以下のとおり、この訴えの利益が存在するものと考える。

(二) 通知処分は、前示のとおり、納税者の減額更正の請求に対して、課税庁が減額更正をすることを拒否し、申告税額等について税額を全体的に見直して減額をすることをしないことを確認する効果を有する処分であって、本税の税額を確定する目的又は効果を有する処分ではない。これに対し、増額更正は、課税庁が課税要件事実を全体的に見直し、申告税額も含めて全体としての税額を総額的に確定する目的及び効果を有する処分である。

もっとも、本件におけるような通知処分と増額更正は、同一の本税に関する納税義務に関するものであり、また、増額更正は納付すべき税額全体にかかわり、税額の総額を確定するものであるから、増額更正の内容は通知処分の内容を包摂し、納税者は増額更正に対して取消訴訟をもって争えば足り、これとは別個に通知処分を争う利益はないとする考え方もあるかもしれない。

しかしながら、上述したところからすると、通知処分と増額更正は、目的、性質、効果ともに全く異なる別個の処分であり、判断内容も必ずしも同一ではない。さらに、通知処分を取り消す旨の判決が確定すれば、税務署長は、後の増額更正の有無にかかわらず、判決に従って総額的に正しい税額の確定行為として減額更正を行うこととなり(行政事件訴訟法33条2項)、これによって納税者の利益の回復は実現されるのであるから、この点からしても、通知処分の取消しを求める訴えの利益があるというべきである。

しかも、本件ではこれに加え、後に判示するとおり、平成12年3月期再更正の取消しを求める訴えについては、不服申立前置を欠き、不適法な訴えというべきであって、原告が平成12年3月期再更正について争うことはできないのである。

これらに照らすと、少なくとも本件においては、平成12年3月期通知処分の取消しを求める訴えの利益を否定する余地はないというべきである。

(三) 以上によると、本件において、平成12年3月期通知処分の取消しを求める訴えの利益はあるというべきである。

5  平成12年3月期再更正の取消しを求める訴えの適法性について

(一) 原告は、平成12年3月期通知処分の取消しを求める訴えの利益が存在しないと判断される場合に備えて、予備的に平成12年3月期再更正の取消しを求める訴えを提起している。

前示のとおり、平成12年3月期通知処分の取消しを求める訴えの利益を認めることができる以上、原則として、予備的請求である平成12年3月期再更正の取消しを求める訴えについて判断する必要はないというべきである。

しかしながら、後に判示するとおり、平成12年3月期通知処分の取消請求は棄却されるべきものであるので、予備的請求である平成12年3月期再更正の取消しを求める訴えの適法性についても判断することとする。

(二) 不服申立前置について

前記認定事実のとおり、原告は、平成12年3月期通知処分に対しては不服申立てをしたものの、平成12年3月期再更正について法定の期間内に不服申立てしなかったのであるから、平成12年3月期再更正については、不服申立てが経由されていないといわざるを得ない。

そうすると、平成12年3月期再更正の取消しを求める訴えは、平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えと同様の理由により、不服申立前置を欠くものというべきである。

(三) 通則法115条1項3号に規定する「正当な理由」について

平成12年3月期再更正については、再更正も賦課決定と同様に通知処分とは目的及び効果を異にする別個の処分であるから、平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えと同様の理由により、不服申立てが経由されておらず、そのことについて通則法115条1項3号に規定する「正当な理由」があると認めることはできない。したがって、平成12年3月期再更正の取消しを求める訴えは、不服申立前置を欠く不適法な訴えというべきである。

(四) 出訴期間について

前記認定事実によると、原告は、平成15年4月25日ころに平成12年3月期再更正を知ったが、平成15年11月21日になって訴えを交換的に変更して平成12年3月期再更正の取消しを求めるに至ったものである。

そうすると、平成12年3月期再更正の取消しを求める訴えは、平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えと同様の理由により、出訴期間を徒過して提起された不適法な訴えというべきである。

(五) 以上によると、平成12年3月期再更正の取消しを求める訴えは、不服申立前置を欠くとともに、出訴期間を徒過して提起されたものであるから、不適法な訴えというべきである。

二  本案の争点について

1  認定事実

前記前提事実に加え、証拠(各事実の後に付記する。)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。

(一) PHSについて(甲5、6、弁論の全趣旨)

(1) PHSは、もともとは家庭用のコードレス電話の子機の機能を向上させて、その子機端末を家庭でのみならず、屋外においても使用することができるように使用エリアを拡大させたものである。

PHS端末と基地局との間は無線による通信がされるため、PHSは、携帯電話と同様、移動しながらの通話が可能であることが最大の特色である。

(2) PHSのシステム構成には、C電話網の機能及びデータベースを活用してPHS事業を提供する方式である「C網依存型」とPHSの交換機から回線設備まですべてを備えたPHSのシステムをC電話網との間で網間接続する方式である「C網接続型」の2形態がある。

(3) 原告が行っているPHS事業は、C網依存型のシステムを採用しており、原告はC網依存型PHS事業者(活用型PHS事業者)である。

C網依存型のシステムでは、PHSの加入者がPHS端末を利用して、固定電話と通話する場合の通信経路は、①PHS端末、②PHS事業者の設置する基地局、③Cの設置するエントランス回線、④Cの設置するPHS接続装置、⑤共同線通信網、C電話網等、⑥固定電話の順となる。

PHS加入者同士が、PHS端末を利用して通話する場合の通信経路は、①PHS端末、②PHS事業者の設置する基地局、③Cの設置するエントランス回線、④Cの設置するPHS接続装置、⑤共同線通信網、C電話網等、⑥Cの設置するPHS接続装置、⑦Cの設置するエントランス回線、⑧PHS事業者の設置する基地局、⑨PHS端末の順となる。

(4) PHSは、携帯電話と比較して、一つの基地局がカバーするエリアの半径が数百メートル程度と狭く、同一の範囲をカバーするためには、携帯電話よりも数多くの基地局を設置する必要がある。しかし、通信中に基地局の電波が受信することができなくなった場合に、自動的に他の基地局の電波に切り替えて通信を継続する機能であるハンドオーバー機能を用いることにより、PHS利用者は、一つの基地局がカバーするエリアから他の基地局がカバーするエリアへと移動しながら通話を行うことが可能である。もっとも、PHSは、一つの基地局がカバーするエリアの半径が狭いため、移動中に頻繁にハンドオーバーが発生し、機能が追随することができない可能性もあり、携帯電話に比較して、高速移動中の通話が困難である。

(5) PHSにおいては、固定電話と異なり、PHS端末が移動するため、どの基地局から着信先のPHS端末を呼び出せばよいのかという情報を、そのPHS端末への実際の呼出しを行う前に把握しておく必要がある。

そこで、PHS端末が位置登録に関する単位エリアを越えて移動した場合、新たな単位エリアの位置情報が、自動的に当該PHS端末から送出され、基地局、エントランス回線及びPHS接続装置を順に経由して、PHS制御局に伝送され、当該PHS端末の位置登録情報が更新される。

Cの設置するPHS制御局には、個々のPHS端末の位置登録情報が集積され、あるPHS端末の番号に電話がかけられた場合、当該PHS端末の位置として登録されている単位エリアに存在する基地局に呼出信号を流し、それらの基地局に呼出信号を発信させ、PHS端末による通話を開始させるという仕組みになっている。

(6) PHSは、一つの基地局でカバーすることができる通信エリアが狭く、接続可能な回線数も少ないことから、各PHS事業者は、多数の基地局を広範囲に、かつ重畳的に配置することにより、PHSサービスの利便性を高めるよう努力している。

(二) PHS事業者とCの相互接続について(甲8から12まで、26、37、乙9、弁論の全趣旨)

(1) 本件接続約款の実施について

本件資産の譲渡日当時、Cの設置する電気通信設備は、電気通信事業法38条の2第1項に基づき、郵政大臣により、「他の電気通信事業者の電気通信設備との接続が利用者の利便の向上及び電気通信の総合的かつ合理的な発達に欠くことのできない電気通信設備」(指定電気通信設備)として指定されていた。なお、本件資産の譲渡日当時、Cの電気通信設備以外に、指定電気通信設備として指定された電気通信設備はなかった。

Cは、電気通信事業法38条の2第2項に基づき、Cが設置する指定電気通信設備と他の電気通信事業者(以下「他事業者」という。)の電気通信設備との接続に関し、Cが取得すべき金額(以下「接続料」という。)及び接続の条件について、本件接続約款を定め、郵政大臣の認可を受けて、平成10年3月24日、本件接続約款を実施した。

(2) 本件接続約款の規定について

本件接続約款には、以下のような規定がある(この項において、括弧内の条項等は本件接続約款の条項等を指す。)。

ア 約款の適用

Cは、電気通信事業法38条の2第2項及び4項の規定に基づき、Cの指定電気通信設備と他事業者の電気通信設備との相互接続に関し、接続料及び接続の条件について本件接続約款(料金表及び技術的条件集を含む。)を定め、これにより他事業者との間で、Cの指定電気通信設備との接続に関する協定(以下「相互接続協定」といい、Cと相互接続協定を締結した電気通信事業者を「協定事業者」という。)を締結し、Cの指定電気通信設備との相互接続を行う(1条1項)。

イ 定義

(ア) 「電気通信サービス」とは、電気通信設備を使用して他人の通信を媒介すること、その他電気通信設備を他人の通信の用に供することを指す(3条の3欄)。

(イ) 「相互接続点」とは、Cと他事業者との間の相互接続協定に基づく接続に係る電気通信設備の接続点を指す(3条の4欄)。

(ウ) 「相互接続通信」とは、相互接続点とCの利用者の端末設備間の通信、相互接続点相互間の通信であって、Cの指定電気通信設備を経由するものを指し(3条の5欄)、「他社相互接続通信」とは、相互接続点と協定事業者の利用者の端末設備間の通信又は相互接続点相互間の通信であって、協定事業者の電気通信設備を経由するものを指す(3条の6欄)。

(エ) 「契約者」とは、C又は他事業者とC又は他事業者の契約約款に基づき契約を締結している者を指し(3条の33欄)、「利用者」とは、C又は他事業者が提供する電気通信サービスを利用する者を指す(3条の34欄)。

(オ) 「利用者料金」とは、利用者に提供される電気通信サービスに対して利用者が支払うべき料金を指す(3条の35欄)。

(カ) 「役務区間合算料金」とは、相互接続通信及び他社相互接続通信において、役務提供区間にかかわらず、C又は協定事業者のうち特定の1の事業者が異なる電気通信事業者の役務提供区間を合わせて設定する利用者料金を指し(3条の36欄)、「役務区間単位料金」とは相互接続通信及び他社相互接続通信において、C又は協定事業者が自己の役務提供区間ごとにそれぞれ設定する利用者料金を指す(3条の37欄)。

(キ) 「加入者交換機」とは、電話サービス又は総合ディジタル通信サービスにおいて契約者回線又は端末回線を収容するCが指定する交換設備を指す(3条の45欄)。

(ク) 「基地局回線」とは、Cの通信用建物に設置するPHS接続装置又はCが指定する加入者交換機と活用型PHS事業者の設置する無線接続装置との間に設置される端末回線を指す(3条の57欄)。

(ケ) 「PHS接続装置」とは、位置登録、一斉呼出等PHSシステム特有の接続制御手順を実現するためのCの設備であって、Cの加入者交換機と基地局回線との間に設置されるものを指す(3条の58欄)。

ウ 相互接続点の設置

C及び接続申込者は、C又は接続申込者の契約者に対する電気通信役務の提供責任並びにCと接続申込者との固定資産及び保守の分界点とするために相互接続点を設置する(6条)。

エ 接続により提供する機能

Cは、接続により、本件接続約款別表1(接続により提供する機能)の1-1に掲げる接続機能(端末回線伝送機能、端末系交換機能及び市内伝送機能等)を提供する(10条1項)。

オ 接続の申込みと承諾

接続申込者は、書面により、Cに対して接続の申込みの意思表示を行い(19条1項)、Cは、①電気通信役務の円滑な提供に支障が生ずるおそれがあるとき、②その接続によりCの利益を不当に害するおそれがあるとき、③接続申込者が、接続に関し負担すべき金額の支払を怠り又は怠るおそれがあるとき、④接続に応ずるための電気通信回線設備の設置又は改修が技術的又は経済的に著しく困難であるときを除き、接続申込みを受け付けた順番に従って承諾する(20条1項)。

カ 接続用設備の設置の申込みと承諾

活用型PHS事業者である接続申込者は、Cに対し、接続申込者の電気通信設備との接続に必要となるPHS接続装置又はPHS制御局の設置の申込みを行うことができる(21条1項)。接続申込者は、接続用設備の設置のために、PHS接続装置が設置されたCの通信用建物ごとの基地局回線の回線数等を記入した設備建設申込書を提出することを要する(22条2号)。Cは、接続用設備の設置の申込みがあったときは、接続申込者が、接続に関し負担すべき金額の支払を怠り又は怠るおそれがあるとき、又は接続に応ずるための電気通信回線設備の設置又は改修が技術的又は経済的に著しく困難であるときを除き、その申込みを承諾する(23条1項)。Cは、接続申込者と、接続対象地域、費用の概算額等の個別事項を含む個別建設契約を締結する(24条)。

キ 基地局回線の申込み

Cは、活用型PHS事業者から基地局回線の申込みがあった場合には、PHS接続装置が設置されたCの通信用建物ごとにあらかじめ申し込まれた基地局回線の回線数を超えるときを除き、その申込みを承諾する(35条2項)。

ク 相互接続協定の単位及び地位の移転

Cは、1の他事業者と1の相互接続協定を締結し(38条)、協定事業者が電気通信事業の全部を譲渡することにより、相互接続協定上の地位を移転しようとする場合、Cの承諾がなければ、その効力を生じない(39条1項)。

ケ 接続料

Cが設定する接続料は、料金及び工事又は手続に関する費用とする(59条1項)。料金は、料金表第1表(接続料金)に規定する接続料金とし、これを網使用料及び網改造料に分類する(59条2項)。工事又は手続に関する費用は、料金表第2表(工事費及び手続費)に規定する工事費又は手続費とする(59条3項)。

コ 網使用料

(ア) 定額制の網使用料

協定事業者は、Cの指定電気通信設備の機能の利用を開始した期日を含む月から起算して、Cの指定電気通信設備との接続を終了した期日を含む月の前月までの期間について、料金表第1表第1(網使用料)に規定する網使用料のうち月額で定める料金(以下「定額制の網使用料」という。)を支払うことを要する(61条1項)。

本件接続約款第1表第1(網使用料)の2(料金額)の2-1(端末回線伝送機能)の区分「PHS基地局回線機能基地局回線により接続する機能」には、単位「1回線ごとに月額」、料金額「1741円」、備考「活用型PHS事業者に限り適用します」と規定されている。

(イ) 従量制の網使用料

Cの指定電気通信設備との接続において、網使用料のうち定額制の網使用料以外のもの(以下「従量制の網使用料」という。)の支払を要する電気通信事業者は、接続形態ごとに、別表2第4表(従量制網使用料支払事業者)に規定するところによる(62条1項)。

本件接続約款第1表第1(網使用料)の1(適用)の(2)には、Cが利用者料金設定事業者となる接続形態に係る網使用料については、協定事業者はその支払を要しないと規定されている。

サ 網改造料

協定事業者は、PHS接続装置を利用して活用型PHS事業者に係る通信を行うことができるようにする機能(以下「PHS接続機能」という。)やPHS制御局を利用して活用型PHS事業者のPHS端末の位置登録等を行う機能(以下「PHS網制御機能」という。)等に係る電気通信設備が撤去されるまでの期間について、料金表第1表第2(網改造料)に規定する網改造料の支払を要する(63条1項)。

シ 工事費

(ア) 協定事業者は、本件接続約款35条に規定する工事の申込みの承諾を受けたときは、料金表第2表第1(工事費)に規定する工事費の支払を要する(64条1項)。協定事業者は、本件接続約款35条2項に規定する基地局回線の申込みの承諾を受けたときは、料金表第2表第2(手続費)に規定する手続費の支払を要する(65条2号)。

(イ) 本件接続約款第2表第1(工事費)の2(工事費の額)の2-1(工事費)の区分「(11)PHS基地局回線設置工事費活用型PHS事業者が基地局回線を設置する工事に要する費用」には、工事費の額「1基地局回線ごとに当社の電話サービス契約約款に規定する施設設置負担金に相当する額」、備考「活用型PHS事業者に限り適用します」と規定されている。

Cの電話サービス契約約款(以下「電話サービス約款」という。)料金表第2表(工事に関する費用)の第1(施設設置負担金)の2(施設設置負担金の額)の区分「加入電話」には、1契約者回線ごとの施設設置負担金の額について7万2000円と規定されている。

(ウ) 本件接続約款第2表第2(手続費)の2-1(手続費)の区分「(1)PHS基地局回線設置手続費活用型PHS事業者が、基地局回線を設置する場合の手続きに要する費用」には、単位「1回線ごとに」、手続費の額「当社の電話サービス契約約款に規定する契約料に相当する額」、備考「活用型PHS事業者に限り適用します」と規定されている。

そして、電話サービス約款料金表第1表第3(手続きに関する料金)の2(料金額)の料金種別「契約料」には、単位「1契約ごとに」、料金額「800円」と規定されている。

ス 利用者料金の設定

相互接続通信及び他社相互接続通信に係る利用者料金には、役務区間合算料金又は役務区間単位料金がある(84条1項)。

セ 利用者料金の請求

相互接続通信及び他社相互接続通信に係る利用者料金について、その料金債権を利用者に請求し、回収する電気通信事業者は、利用者料金が役務区間単位料金であるときは相互接続通信に係る利用者料金について、利用者料金が役務区間合算料金であるときは相互接続通信及び他社相互接続通信に係る利用者料金について、その課金を行う(85条、87条1項)。

ソ 利用者からの苦情に対する対応

利用者料金を設定する電気通信事業者は、利用者からの通信料金若しくはサービス内容に関する問い合わせ又はその他の苦情の受付及び対応を行うことを要する(88条1項)。

(3) エントランス回線について

ア エントランス回線(基地局回線)は、活用型PHS事業者の設置する基地局とCの設置するPHS接続装置の間を接続する有線伝送路設備である。

エントランス回線によってCと活用型PHS事業者のそれぞれの電気通信設備が相互接続されることにより、C又は活用型PHS事業者と契約し電気通信役務の提供を受けている一般利用者(以下「エンドユーザー」という。)は、エンドエンドのサービス(文字・画像・音声・データの情報のほか、位置登録情報、認証情報等の様々な制御情報を伝達するサービス)の提供を受けることができる。

イ 活用型PHS事業者は、基地局とエントランス回線との相互接続点までの回線を所有しており、Cは、相互接続点から先の回線及び相互接続点相互間の回線を所有している。

ウ Cは、エントランス回線を設置、所有しており、1回線ごとに基地局番号及び回線番号を付して保守、管理をしている。また、活用型PHS事業者は、エントランス回線1回線ごとに設置の申込みをし、必要に応じて、エントランス回線1回線ごとに、移転工事を申し込んでいる。

(三) 原告とPHS契約者の関係について(甲33、弁論の全趣旨)

(1) PHSサービス契約約款(以下「PHSサービス約款」という。)の規定について

原告のPHSサービス約款には、以下のような規定がある(この項において、括弧内の条項等はPHSサービス約款の条項等を指す。)。なお、本件営業譲渡契約以前のBのPHSサービス約款もほぼ同様のものであった。

ア 約款の適用

原告は、電気通信事業法31条及び31条の4の規定に基づき、PHSサービス約款を定め、これによりPHSサービスを提供する(1条1項)。

イ 定義

(ア) 「PHSサービス」とは、PHSの基地局を開設して提供する電話網を使用した電気通信サービスを指す(3条の5欄、6欄)。

(イ) 「契約者回線」とは、PHSサービスに係る契約に基づいて無線基地局設備と契約の申込者が指定する移動無線装置との間に設定される電気通信回線を指す(3条の25欄)。

(ウ) 「相互接続点」とは、原告と原告以外の電気通信事業者との間の相互接続協定に基づく接続に係る電気通信設備の接続点を指す(3条の32欄)。

ウ 原告が提供する通話

原告の提供するPHSサービスに係る通話は、すべて契約者回線と相互接続点との間の相互接続通話である(41条)。

エ 通話料

原告の契約者回線から行った通話に関する料金は、その通話に係る他社相互接続通話(協定事業者の電気通信設備に係る通話をいう。)と合わせて定める(51条1項、43条)。相互接続通話に関する料金については、その通話を行った契約者回線の契約者が通話時間と料金表の規定に基づいて算定した額の支払を要する(51条1項1号)。

オ 責任の制限

原告又は協定事業者の責めに帰すべき理由により、PHSサービスの提供をしなかった場合には、原告がPHS契約者の損害を賠償する(70条1項)。

(2) PHSの通話料について

PHSの通話料は、①PHSの回線使用料としての「基本使用料」、②留守番電話サービス等の使用料としての「付加機能使用料」、③個々の通話料の合計金額としての「ダイヤル通話料」の合計であり、①及び②は毎月一定額となるが、③は利用状況により変化する。

原告は、原告が提供するPHSサービスの契約者に対し、当該契約者による通話に用いられたCの電気通信設備に係る通話料を含んだ通話料を請求し、回収している。

(四) Cが提供するサービスについて(甲32、乙7、8、弁論の全趣旨)

Cの電話サービス約款、専用サービス契約約款(以下「専用サービス約款」という。)及び平成11年7月1日にCから長距離電話事業等を承継したE株式会社(以下「E」という。)が実施しているパケット交換サービス契約約款(以下「パケット交換サービス約款」という。)には、以下のような規定がある。

(1) 電話サービス約款

ア 定義

(ア) 「相互接続点」とは、CとC以外の第一種電気通信事業者又は第二種電気通信事業者との間の相互接続協定に基づく接続に係る電気通信設備の接続点を指す(電話サービス約款3条の19欄)。

(イ) 「相互接続通話」とは、相互接続点との間の通話、相互接続点相互間の通話及びリルーティング通話等(協定事業者からのリルーティング指示信号等の指示信号に基づき、Cの電話網内で接続する通話)を指す(電話サービス約款3条の27欄、28欄)。

イ 契約の単位

Cは、契約者回線1回線ごとに1の加入電話契約を締結し、この場合、加入電話契約者は、1の加入電話契約につき一人に限る(電話サービス約款8条)。

ウ 相互接続点との間の通話等

相互接続通話は、相互接続協定に基づきCが別に定めた通話に限り行うことができる(電話サービス約款61条1項)。

エ 相互接続通話の料金

契約者、公衆電話の利用者又は相互接続通話の利用者は、相互接続協定に基づきC又は協定事業者の契約約款及び料金表に定めるところにより、相互接続通話に関する料金の支払を要する(電話サービス約款81条1項)。相互接続通話に係る料金の設定又はその請求については、C又は協定事業者が行うものとし、接続形態別の具体的な取扱いについては、相互接続協定に基づきCが別に定めるところによる(電話サービス約款81条2項)。

(2) 専用サービス約款

ア 定義

「専用サービス」とは、契約の申込み等により指定された区間においてCが設置する電気通信回線を使用して、符号、音響又は影像の電送を行う電気通信サービスを指す(専用サービス約款3条の3欄)。

イ 契約の単位

Cは、専用回線1回線ごとに1の専用契約を締結する(専用サービス約款8条)。

(3) パケット交換サービス約款

ア 定義

「パケット交換サービス」とは、主としてデータ通信の用に供することを目的としてパケット交換方式により符号の伝送交換を行うための電気通信回線設備(パケット交換網)を使用して行う電気通信サービスを指す(パケット交換サービス約款3条の3欄、4欄)。

イ 契約の単位

Eは、他社接続契約者回線1回線ごとに1の第一種パケット交換契約を締結し、この場合、第一種パケット交換契約者は、1の第一種パケット交換契約につき一人に限る(パケット交換サービス約款9条)。

(五) 原告又はBと、C及びPHS契約者の関係について(甲8、9、33、37、弁論の全趣旨)

(1) BからPHS事業を譲り受けた原告は、本件接続約款及び本件接続協定に基づき、各エントランス回線の設置をCに申し込み、Cが申込みを承諾して、一つのエントランス回線を設置することに、Cに対して、工事費(施設設置負担金)7万2000円及び手続費(契約料)800円の合計7万2800円の本件設置負担金を支払う義務を負っている。

本件設置負担金は、7万2800円の定額とされ、実際にかかった工事費用の額とは必ずしも連動していない。また、原告が、基地局が設置されている通信用建物と同一の通信用建物内における当該基地局の移設を申し込む場合、実費による工事費用の負担があるものの、新たに本件設置負担金を支払うことなくエントランス回線の設置をしてもらうことができる。

(2) 原告は、本件接続約款及び本件接続協定に基づき、エントランス回線1回線ごとに、定額制の網使用料1741円及び従量制の網使用料を毎月支払う義務を負うとともに、PHS接続機能やPHS制御機能等に関して、網改造料を毎月支払う義務を負っている。

(3) 原告とCとの間では、PHS発固定電話着の通話及び固定電話発PHS着の通話の両者ともに、原告が利用者料金設定を行うことになっているため、原告は、本件接続約款に基づき、Cに対して従量制の網使用料の支払義務を負っている。

ただし、例えばPHS端末から「0120」で始まるフリーダイヤルへの通話のように、Cが利用者料金設定を行う通話については、Cが原告に対して従量制の網使用料の支払義務を負っている。

(4) 原告は、Cとの間において、PHS発の通話について、本件接続約款に基づき、PHSの契約者に対して、相互接続通信及び他社相互接続通信に係る利用者料金の請求及び回収を行っている。

(5) 原告は、Cとの間において、利用者料金を設定する電気通信事業者であるため、本件接続約款に基づき、利用者からの通信料金若しくはサービス内容に関する問い合わせ又はその他の苦情の受付及び対応を行っている。

また、原告は、原告のPHSサービス約款に基づき、原告又はCの責めに帰すべき理由により、PHSサービスの提供をしなかった場合には、原告がPHS契約者の損害を賠償する義務を負っている。

(6) 本件資産の譲渡日以前のB、CとPHS契約者の関係は、上記の原告、C及びPHS契約者の関係と同様であった。

(六) 原告による本件資産の取得及び本件設置負担金の支出並びに確定申告における処理について(甲1から4まで、15から22まで、乙1から4まで、弁論の全趣旨)

(1) 平成11年3月期

ア Bは、本件資産の譲渡日までに、Cに対し、6万3145回線のエントランス回線の設置を申し込んで、本件設置負担金を合計45億9695万6000円支払い、本件資産を有していた。

原告は、本件営業譲渡契約により、Bから本件資産を代金額45億9695万6000円で取得した。

イ 原告は、Cに対し、平成11年3月期中に1164回線のエントランス回線の設置を申し込み、本件設置負担金合計8473万9200円を支払った。

ウ 原告は、平成11年3月期の決算において、本件資産の取得価額45億9695万6000円及び本件設置負担金合計8473万9200円を合計した46億8169万5200円について、「施設保全費」として損金経理し、平成11年6月30日に、平成11年3月期確定申告をした。

(2) 平成12年3月期

ア 原告は、Cに対し、平成12年3月期中に3251回線のエントランス回線の設置を申し込み、本件設置負担金合計2億3667万2800円を支払った。

イ 原告は、平成12年3月期の決算において、本件設置負担金合計2億3667万2800円について、「施設保全費」として損金経理した。

ウ 原告は、平成12年3月期の法人税の確定申告について、平成11年3月期更正(取消前)と同様の理由により更正を受けることを避けるため、①平成12年3月期にCに支払った本件設置負担金合計2億3667万2800円を申告加算し、②平成11年3月期更正(取消前)により所得金額に加算された本件資産の取得価額について、「エントランス回線(H10取得)」として46億8169万5200円として申告減算するとともに、耐用年数20年の定額法により算定した減価償却限度額を超える金額について、「エントランス回線(H10取得)」として44億4761万0440円を申告加算して、平成12年6月30日に、平成12年3月期確定申告をした。

(3) 平成13年3月期

ア 原告は、Cに対し、平成13年3月期中に14回線のエントランス回線の設置を申し込み、本件設置負担金合計101万9200円を支払った。

イ 原告は、平成12年3月期の決算において、本件設置負担金合計101万9200円について、「施設保全費」として損金経理した。

ウ 原告は、平成13年3月期確定申告において、平成13年3月期の法人税について、平成11年3月期更正(取消前)と同様の理由により更正を受けることを避けるため、①平成13年3月期にCに支払った本件設置負担金合計101万9200円を申告加算し、②平成11年3月期に取得した本件資産の取得価額並びに平成11年3月期及び平成12年3月期にCに支払った本件設置負担金について、平成11年3月期更正(取消前)を前提として減価償却額を算定し、平成11年3月期分について「エントランス回線(H10取得)」として2億3408万4760円、平成12年3月期分について「エントランス回線(H11取得)」として1183万3640円をそれぞれ申告減算して、平成13年6月29日に、平成13年3月期確定申告をした。

(七) 少額減価償却資産に関する規定の改正経緯について(甲28、30、弁論の全趣旨)

(1) 少額減価償却資産の取得価額の損金算入については、昭和22年に、法人税法施行細則において、「取得価額若しくは製作価額千円未満の固定資産を取得した場合において当該固定資産を固定資産として財産目録に記載しなかったとき」は、償却限度額に関する規定を適用しない旨の規定が新設された。

(2) 昭和26年改正において、上記規定の取得価額の上限が千円未満から1万円未満に引き上げられるとともに、「事業の開始又は拡張のために取得した固定資産」については、少額減価償却資産の取得価額の損金算入の規定は適用がないとされた。

(3) 昭和36年改正において、少額減価償却資産の取得価額の損金算入の規定が適用される固定資産について、「当該法人の業務の性質上基本的に重要な固定資産及び当該業務の固有の必要性に基づき大量に保有される固定資産」を除くと規定された。なお、「事業の開始又は拡張のために取得した固定資産」に関する上記規定は改正されなかった。

そのため、①パチンコ屋のパチンコ台や貸衣装屋の貸衣装等のように業務の性質上基本的に重要なものや、②旅館の浴衣や運送業者のパレット等のように業務の固有の必要性に基づき大量に保有されるもの、③事業の開始又は拡張のために取得したもの等については、取得価額1万円未満の固定資産であっても、少額減価償却資産としての損金算入をすることはできないこととなっていた。

(4) 昭和39年改正によって、取得価額の上限が1万円未満から3万円未満に引き上げられた。

(5) 昭和42年改正において、「業務の固有の必要性に基づき大量に保有される固定資産」及び「事業の開始又は拡張のために取得した固定資産」についても、少額減価償却資産として、その取得価額を損金算入することができるようになった。しかし、前記の「業務の性質上基本的に重要な固定資産」については、取得価額3万円未満であってもその取得価額を損金算入することができないままとされた。

(6) 昭和45年改正において、取得価額の上限が3万円未満から5万円未満に引き上げられた。

(7) 昭和49年改正において、取得価額の上限が5万円未満から10万円未満に引き上げられるとともに、前記の「業務の性質上基本的に重要な固定資産」についても、取得価額が10万円未満であれば、少額減価償却資産として、その取得価額を損金算入することができるようになった。

(8) 現行の法人税法施行令133条について、法人税基本通達7-1-11(少額の減価償却資産又は一括償却資産の取得価額)は、「令第133条《少額の減価償却資産の取得価額の損金算入》又は令第133条の2《一括償却資産の損金算入》の規定を適用する場合において、取得価額が10万円未満又は20万円未満であるかどうかは、通常1単位として取引されるその単位、例えば機械及び装置については1台又は1基ごとに、工具、器具及び備品については1個、1組又は1そろいごとに判定し、構築物のうち例えば枕木、電柱等単体では機能を発揮できないものについては一の工事等ごとに判定する。」としている(以下、この通達を「本件通達」という。なお、本件通達中の「令」は法人税法施行令を指す。)。

2  少額減価償却資産の取得価額の判定方法について

(一) 法人税法31条に規定する減価償却の方法による減価償却資産の費用配分は、当該減価償却資産の取得価額を企業の事業活動の用に供した各事業年度に適正に配分することにより、毎期の損益計算を正確にするとともに、投下資本の回収を図ることを目的とするものである。

そうすると、減価償却資産としての費用配分を行うためには、当該資産の事業への供用ができる状態、すなわち、当該企業の事業活動において、当該資産がその用役を提供し得る状態、更に正確に言えば、その資産としての機能を発揮することができる状態にあると評価できることが必要である。

(二) 法人税法施行令133条に規定する少額減価償却資産の損金算入の制度も、上記のような減価償却の費用配分の方法の特則である。

したがって、少額減価償却資産の損金算入についても、当該減価償却資産が、当該企業の事業活動において、資産としての機能を発揮することができる状態にあると評価できることが必要であると解すべきである。

そうすると、少額減価償却資産に該当するか否かについても、一般的・客観的に、資産としての機能を発揮することができる単位を基準にその取得価額を判断するのが最も自然な考え方であるというべきである。そして、事業活動において資産としての機能を発揮することができる状態にあると評価し得る物は、通常、その物単体で譲渡、取得等の取引が行われることがあるであろうから、このような機能の発揮を基準として資産の単位を判断することは、取引実態にもそぐいやすい上、恣意的な取扱いを排して、一般的・客観的な会計処理をすることを行いやすくするという意味でも、合理的である。

さらに、前記認定事実のとおり、少額減価償却資産に関する規定の改正経緯を見ると、業務の性質上基本的に重要な固定資産や、業務の固有の必要性に基づき大量に保有される固定資産、事業の開始や拡張のために取得した固定資産については、少額減価償却資産に当たらないとされていた時期もあったが、現在では、そのような除外規定は存在していない。そして、実質的に考えてみても、事業活動において、大量に取得したり、あるいは、多数のものを合わせて活用することが多いものであったとしても、事業上の資産としての機能を発揮し得る単位としての一個一個の単価が低廉なものは、通常は、時の経過による陳腐化や、買い換え、一部更新等の早いものが多いであろうから、減価償却資産の適正な費用配分を考える上で、いたずらにこのようなものを一まとめにして高額なものと評価して取り扱う必要はないというべきである。

以上によると、少額減価償却資産に該当するか否かを判断するに当たっては、当該企業の事業活動において、一般的・客観的に、資産としての機能を発揮することができる単位を基準にその取得価額を判断すべきであって、業務の性質上基本的に重要であったり、事業の開始や拡張のために取得したものであったり、多数まとめて取得したものであるなどといったことは、上記のようにして取得価額を判断する上で考慮されるべき点ではないというべきである。

(三) 本件通達は、法人税法施行令133条に規定する取得価額が10万円未満であるかどうかは、「通常1単位として取引されるその単位、例えば機械及び装置については1台又は1基ごとに、工具、器具及び備品については1個、1組又は1そろいごとに判定し、構築物のうち例えば枕木、電柱等単体では機能を発揮できないものについては一の工事等ごとに判定する」としている。

本件通達に規定されている資産について見てみると、機械及び装置は1台又は1基ごとに、工具、器具及び備品については一個、一組又は一そろいごとに、資産としての機能を果たすことから、通常それらを1単位として取引されるものである。

また、枕木や電柱等については、枕木が設置されるべき場所から1本が抜かれれば、他の枕木がそのままであっても、その枕木上のレールを電車が安全に通過することができず、電線を支える電柱の1本が倒れれば、他の電柱がそのままであっても、その電線を用いた安全な送電をすることができないというように、1本単位では資産としての機能を果たすことができず、通常は1本単位で取引されることもないものである。そのため、通常、資産としての機能を果たすことができる単位であると考えられる一件の工事等を単位として取得価額を判定されるべきものである。

そうすると、本件通達は、前示のとおり、一般的・客観的に、事業用資産としての機能を発揮することができるかどうかを基準として、減価償却資産の取得価額を判断すべきであるという判断方法につき、例を挙げて、これを具体的に示したものとして、その内容は正当であるというべきである。

なお、本件通達に規定されていない資産のうち、例えば、レンタルビデオ事業におけるレンタルビデオテープについて考えてみると、レンタルビデオ事業を営むためには、レンタルビデオテープの種類を多数そろえるとともに、人気のある種類については複数そろえておくことが必要である。しかし、レンタルビデオテープは、1本単位でレンタルされ、視聴されるものであるから、1本のレンタルビデオテープのみで資産として一般的・客観的に独立して機能しているということができ、1本を単位として、その取得価額が判定されるべきものである。このように、事業のために多数そろえておくことが通常必要な資産であっても、一つ一つが独立して機能しているものについては、その一つ一つを単位として法人税法施行令133条の取得価格を判定するのが相当である。

3  本件資産の機能、性質について

(一) 本件においては、本件資産、すなわち、施設利用権等のうちエントランス回線に関するもの、数量6万3145、譲渡価額45億9695万6000円が、一個の取得価額が10万円未満のものとして、法人税法施行令133条に規定する少額減価償却資産に該当するか否かが争われている。

この点につき、被告は、本件資産は、本件接続協定に基づきCのネットワークを利用してCから電気通信役務の提供を受けることができるという一個の権利、すなわち本件接続協定上の地位であり、Bが、このような地位の取得費用である権利金的な性格を有する本件設置負担金を支払い、原告が本件設置負担金相当額の対価を支払ってBから上記の一個の地位の譲渡を受けたことにより、Cから上記電気通信役務の提供を受けることができるようになったものであるから、本件資産の取得価額、すなわち上記一個の地位の取得価額は、これを基地局回線(エントランス回線)の数によって算定した45億9695万6000円である旨主張する。

これに対し、原告は、Bが本件設置負担金の支払により取得した権利は、相互接続のためのエントランス回線を利用する権利であって、原告はBからこの権利6万3145回線分である本件資産を譲り受けたものであるから、その取得価額はエントランス回線1回線ごとに見るべきであり、その額は7万2800円である旨主張する。

そこで、本件資産の取得価額を判断するために、まず、本件資産、ひいてはエントランス回線利用権なるものがどのような権利であるかについて検討することとする。

(二) CとB及び原告との関係

まず、電気通信事業における全国ネットワークを有するCと活用型PHS事業者であるB及び原告との関係について検討することとする。

(1) 電気通信事業法2条3号は、「電気通信役務」の意義を「電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他電気通信設備を他人の通信の用に供すること」と定義している。そして、電気通信役務の代表的な例が電話である。従来の固定電話の場合、電気通信事業者file_2.jpgと契約する発信者file_3.jpgの端末から、file_4.jpgの所有する回線を経て、同じくfile_5.jpgと契約する受信者file_6.jpgの端末へと電気通信が媒介されるというのが最も単純な図式である。この場合に、file_7.jpgの所有する回線が「電気通信設備」に当たり、file_8.jpgがエンドユーザーであるfile_9.jpg及びfile_10.jpgに提供する役務が「電気通信役務」に当たることは、上記規定の文言上、明らかである。

(2) しかし、現在の電気通信事業が、このような単純な方式にとどまらず、複数の電気通信事業者の介在する種々の通信媒介方式が生まれてきていることは、公知の事実である。本件のような活用型PHS事業者が媒介するPHSサービスの場合には、前記前提となる事実及び前記認定事実に照らすと、発信者file_11.jpgの端末と受信者file_12.jpgの端末との間に、無線中継、基地局、エントランス回線、PHS接続装置、共同線通信網等の多数の装置等が設けられ、電気通信がこれらを経由しており、エンドユーザーである発信者file_13.jpgの契約している電気通信事業者と、上記共同線通信網等を所有する電気通信事業者が異なる場合も多いことが予想される。

そのため電気通信事業法は、エンドユーザーに対して電気通信役務の堤供を行っている複数の電気通信事業者による相互接続について定めている(同法38条)。

そして、本件においても、前記認定事実のとおり、Cは、本件接続約款を設けた上、他の電気通信事業者との間で、Cの指定電気通信設備との相互接続に関する協定を締結して、Cの指定電気通信設備との相互接続を行い、相互接続により、端末回線伝送機能、端末系交換機能及び市内伝送機能等を提供することと規定されている(本件接続約款1条、10条)。そして、CとB及び原告は、本件接続約款に従い、本件接続協定を締結して、CがそのネットワークをB又は原告にも利用させることにより、PHS事業を展開していたわけである。

(3) このように見てくると、現在の複数の電気通信事業者が介在し得る電気通信においては、電気通信役務の提供に関する契約関係は、エンドユーザーと一つの電気通信事業者との間において成立しているのみならず、複数の電気通信事業者間においても、接続協定等により、一定の役務を行う権利義務関係や対価の支払を含む契約関係が発生していると解すべきである。

(4) 本件の場合も、前記認定事実に照らすと、活用型PHS事業者であるB及び原告と、これらと相互接続して、自社のネットワークを提供しているCのシステム全体を見れば、B又は原告は、相互接続協定の締結及びエントランス回線の申込みとCの承諾に基づき、B又は原告の設置した基地局とCの設置したPHS接続装置及び共同線通信網とをつなぐC所有のエントランス回線(基地局回線)の設置費用を含む一定の対価、すなわち工事費(施設設置負担金)7万2000円及び手続費(手数料)800円の合計額7万2800円を負担することにより、電気通信設備である当該エントランス回線を利用して、B又は原告と契約する発信者file_14.jpgのPHS端末からの通信をCのネットワークに乗せ、Cから所定の機能の提供を受けることにより、file_15.jpgからの通信を受信者file_16.jpgに伝達するというPHS事業を展開しているということができる。

そうすると、B及び同社から本件資産を譲り受けて譲渡の承諾も得た原告は、自己の契約者file_17.jpgの発信した通信を、無線中継と自己の設置した基地局を経由した上、電気通信設備であるC所有のエントランス回線を利用して、C所有のPHS接続装置、共同線通信網等へと媒介し、もって、Cをして、B又は原告の契約したエンドユーザーであるfile_18.jpgに電気通信役務を提供させる権利を取得し、Cにその対価を支払う義務を負担しているものと解すべきである。

(三) 原告がBから取得した権利の機能、性質

以上によれば、原告がBから取得した上記権利は、本件接続約款及び本件接続協定を前提とするものではあるが、本件接続協定上の地位などといった抽象的ないし包括的なものではなく、B又は原告がCに対して有する、PHSサービス契約を締結した自社の契約者に、個別の当該エントランス回線を利用して、CのPHS接続装置、共同線通信網等と相互接続し、Cのネットワークを利用して電気通信役務を提供させる権利(以下「本件エントランス回線利用権」という。)であり、この権利を得るための対価として、B及び原告は、エントランス回線1回線につき、7万2800円の工事費(施設設置負担金)及び手数料(契約料)を支払っているものというべきである。

4  本件資産の取得価額について

(一) 以上を前提として検討するに、原告は、Bから、CのPHS接続装置等と相互接続し、Cのネットワークを利用して、自己のPHS契約者に対して電気通信役務を提供させる権利である本件エントランス回線利用権6万3145回線分を本件資産として譲り受けたということができる。

(二) そして、前記認定事実に照らすと、本件エントランス回線利用権は、活用型PHS事業者である原告にとって、PHS事業を行う上で、必要不可欠の重要な資産である。

また、PHSは、携帯電話と比較して、一つの基地局がカバーするエリアの半径が数百メートル程度と狭いため、活用型PHS事業者は、同一の範囲をカバーするためには、携帯電話よりも数多くの基地局を設置する必要があり、PHS利用者の通話の利便性のためには、PHS事業の営業地域内において、相当数の基地局を設置して、エントランス回線を設置することが必要である。さらに、PHSは、一つの基地局でカバーすることができる通信エリアが狭く、接続可能な回線数も少ないことから、各PHS事業者は、多数の基地局を広範囲に、かつ、重畳的に配置することにより、PHSサービスの利便性を高めるよう努力しているのである。

しかしながら、前記認定事実によると、エントランス回線は、一定の範囲内をカバーする1基地局のみを対象としてその機能を発揮するものであり、一個のエントランス回線があれば、当該基地局のエリア内においてPHS利用者がPHS端末から固定電話又は携帯電話に通話することに支障はないし、また、固定電話又は携帯電話から当該エリア内のPHS端末との間で通話することにも支障はないと認めることができる。このように、前記工事費及び手続費からなる本件設置負担金をCに支払って取得した本件エントランス回線利用権の機能は、単体のエントランス回線の利用によって発揮することができる。

(三) そうすると、本件エントランス回線利用権は、B又は原告の事業活動において、一般的・客観的には、1回線で、基地局とPHS接続装置との間の相互接続を行うという機能を発揮することができるものであるから、その取得価額は、Bの場合も、また、これをまとめて同社から譲り受けた原告の場合も、エントランス回線1回線の単価である7万2800円であると認めるのが相当である。

5  被告の主張について

(一) 以上に対し、被告は、本件資産は、本件接続協定に基づきCから電気通信役務の提供を受けることができるという一個の本件接続協定上の地位であるなどとして、その取得価額を45億9695万6000円と主張するので、以下検討する。

(二) 本件接続協定上の一個の地位について

(1) 被告は、BがCに支払った本件設置負担金は、エントランス回線設置のための工事費等の実費を負担するものではなく、Cのネットワークを利用することができるという本件接続協定上の地位を取得し、Cのネットワークへの出入口となる相互接続点を設けるごとに工事費等の名目で7万2800円をCに対し負担したものであって、本件接続協定上の地位の取得費用すなわち権利金的な性格を有するというべきである旨主張するので、まず、この点について検討する。

(2) 前記前提事実及び前記認定事実に加え、弁論の全趣旨を総合すると、①活用型PHS事業者であるBは、PHS事業を行うために、Cの設置するPHS接続装置、PHS制御局等の設備及びその機能を活用することが必要不可欠であったこと、②活用型PHS事業者がCと相互接続をするためには、本件接続約款に基づき、Cの指定電気通信設備との間で相互接続協定を締結する必要があること(本件接続約款1条1項)、③本件接続約款は、一つの電気通信事業者と一つの相互接続協定を締結することとしており、相互接続協定上の地位の移転にはCの承諾が必要であること(本件接続約款38条、39条1項)、④CとBの相互接続においては、CとBが、それぞれ利用者に対し、相互接続点を責任分界点として、自己の電気通信設備に関する電気通信役務を提供する関係であったこと、⑤BがCと相互接続するためには、Cが設置するPHS接続装置とBが設置する基地局との間に、有線伝送路設備であるエントランス回線を設置する必要があること、⑥このようなエントランス回線をCに設置してもらうためには、まずCとの間で相互接続協定を締結しなければならないこと、⑦本件接続約款に基づく相互接続協定を締結する際、BからCに対して何の対価の支払もされていないこと、⑧電気通信事業法及び本件接続約款において、Cは相互接続及びエントランス回線の設置の申込みに対し、原則として承諾する義務を負っていること(電気通信事業法38条、本件接続約款20条1項)、⑨Bは、基地局とエントランス回線との相互接続点までの回線を所有し、Cは、相互接続点から先の回線及び相互接続点相互間の回線を所有していること、⑩Cは、エントランス回線を設置、所有しており、1回線ごとに基地局番号及び回線番号を付して保守、管理をしており、Bは、エントランス回線1回線ごとに設置の申込みをし、必要に応じて、エントランス回線1回線ごとに、移転工事を申し込んでいたこと、⑪Bは、本件接続約款及び本件接続協定に基づき、エントランス回線の設置をCに申し込み、Cが申込みを承諾して、エントランス回線を設置することに、Cに対して、工事費(施設設置負担金)7万2000円及び手続費(契約料)800円の合計7万2800円の本件設置負担金の支払義務を負っていたこと、⑫本件設置負担金は、7万2800円の定額とされ、エントランス回線の設置の際に実際に支出した工事費用等の額とは連動しておらず、基地局が設置されている通信用建物と同一の通信用建物内における当該基地局の移設を申し込む場合には、新たに本件設置負担金を支払うことなくエントランス回線の設置を受けることができたこと、⑬Bは、本件接続約款及び本件接続協定に基づき、エントランス回線1回線ごとに、定額制の網使用料1741円及び従量制の網使用料を毎月支払う義務を負うとともに、PHS接続機能やPHS制御機能等に関して、網改造料を毎月支払う義務を負っていたことを認めることができる。

(3) 以上のとおりの活用型PHS事業におけるエントランス回線の重要性、エントランス回線の機能と性質及び所有・管理の状況、本件接続約款及び本件接続協定の内容、相互接続及びエントランス回線の申込みと承諾、相互接続に関する接続料等の有無と内容等に照らすと、①Bが活用型PHS事業を行うためには、Cと相互接続することが必要不可欠であり、②Bが、Cと相互接続するためには、一つの相互接続協定を締結し、相互接続協定に基づいてエントランス回線を設置してもらう必要があり、相互接続協定の締結がエントランス回線設置の前提となっており、③しかし、相互接続協定が締結されたとしても、エントランス回線が設置されなければ、Bの基地局等とCのネットワークとの間を相互接続することは不可能であって、相互接続協定を締結するのみでは意味がないのであり、④エントランス回線は1回線ごとに管理されており、エントランス回線を設置してもらうには、エントランス回線1回線ごとに設置の申込みをするとともに、7万2800円の本件設置負担金を支払う必要があり、⑤本件設置負担金を支出してエントランス回線を設置してもらうことにより、初めて当該エントランス回線を利用した相互接続が可能となり、財産的価値が生ずるということができ、⑥Bは、エントランス回線の設置の際に本件設置負担金を支払うとともに、その後当該エントランス回線を利用して通信を行うために、定額制の網使用料及び従量制の網使用料の支払を行ってきたということができる。

他方、Bは、Cと相互接続協定を締結したのみでは、エントランス回線により物理的に相互接続がされていないことから、活用型PHS事業を行うことは不可能であり、相互接続をするためには、個々のエントランス回線を設置することが不可欠である。そして、相互接続協定の締結には何らの対価も必要なく、また、原則としてCは相互接続を承諾する義務を負っていることからすると、相互接続協定の締結のみでは、いまだ具体的な財産的価値はなく、本件設置負担金を支払って個々のエントランス回線が設置されることによって、当該エントランス回線を利用した相互接続が可能となり、初めて具体的な財産的価値も生ずると見るべきである。

また、個々のエントランス回線の設置について見ると、Bは、エントランス回線1回線ごとに設置の申込みをし、本件設置負担金を支払うとともに、その後も、エントランス回線を利用するために、当該エントランス回線についての網使用料を支払う必要があったものである。

(4) このように見てくると、Bが活用型PHS事業を行うためには、Cとの間で相互接続協定を締結した上で、本件設置負担金を支払ってエントランス回線を設置してもらい、当該エントランス回線を利用してCの指定電気通信設備と相互接続することが必要不可欠であり、相互接続協定の締結自体は、エントランス回線の設置の前提にすぎないというべきである。

そうすると、本件設置負担金は、B又は原告が、個々のエントランス回線を利用して相互接続を可能とし、Cをして、B又は原告のPHS契約者に電気通信役務を提供させる権利を取得するために支払われるものであるというべきである。

したがって、前述したとおり、B又は原告は、本件設置負担金を支払うことによって、財産上の具体的な権利である、個々のエントランス回線を用いてCのネットワークと相互接続し、Cをして、エンドユーザーに電気通信役務を提供させる権利、すなわち本件エントランス回線利用権を取得したものというべきである。

(5) これと異なり、被告は、本件設置負担金が7万2800円の定額とされ、実際の工事費用の額とは連動していない上、基地局が設置されている通信用建物と同一の通信用建物内における当該基地局の移設を申し込む場合には、新たに本件設置負担金を支払うことなくエントランス回線の設置を受けることができることからすれば、Bが支払った本件設置負担金は、本件接続協定上の地位の取得費用すなわち権利金的な性格を有するものである旨主張する。

しかしながら、前示のとおり、相互接続協定の締結のみでは具体的な財産的価値はなく、本件接続協定上の地位を有していても、個々のエントランス回線の設置がされなければ、相互接続は不可能であることからすると、本件設置負担金は個々のエントランス回線の設置と利用のために支払われたものであって、単に本件接続協定上の地位を取得するための費用の支払であると考えることはできないというべきである。

したがって、被告の上記主張は、採用することができない。

(三) 相互接続協定ごとの権利の成立について

被告は、電話サービス約款、専用サービス約款及びパケット交換サービス約款(以下、これらを合わせて「電話サービス約款等」という。)の規定と本件接続約款の規定の違いによれば、相互接続における他事業者の接続する権利は、相互接続協定ごとに成立する旨主張する。

確かに、前記認定事実のとおり、電話サービス約款等においては、それぞれの契約が1回線ごとに成立する旨明示的に規定されており、本件接続約款は、これらとは規定ぶりが異なる。

しかしながら、電気通信事業者の間でのみ締結される相互接続協定と、エンドユーザーと締結されることもある電話サービス契約、専用サービス契約及びパケット交換サービス契約(以下、これらを合わせて「電話サービス契約等」という。)を同様に考えることはできない。

また、Bは、本件営業譲渡契約を締結した時点で、電話加入権は223回線、専用線は19回線、パケット回線は11回線しか有していなかったのに対し、エントランス回線は6万3145回線有していたものである。エントランス回線は、活用型PHS事業者がCと相互接続をするために設置されるものであり、PHSサービスの利便性を高めるために多数設置されるものである。これに対して、電話サービス契約等においては、エントランス回線のような特殊性は存在しない。

したがって、電話サービス契約等と相互接続協定を同列に考えることはできず、電話サービス約款等の規定との対比により、本件エントランス回線利用権の取得価額を判定する単位に影響を及ぼすことはできないというべきである。

6  本件資産の少額減価償却資産該当性

(一) 以上検討してきたところによると、本件資産は、本件エントランス回線利用権6万3145回線分であり、その取得価額は、個々の本件エントランス回線利用権の取得価額である7万2800円であるというべきである。

したがって、本件資産の取得価額は、10万円未満であるから、本件資産の取得価額は、少額減価償却資産の取得価額として、事業の用に供した事業年度である平成11年3月期において、その金額を損金の額に算入することができるというべきである。

(二)(1) ところで、少額減価償却資産に該当するというためには、そもそも、法人税法2条23号、法人税法施行令13条にいう減価償却資産に該当する必要があるので、念のためこの点についても判断することとする。

(2) 原告は、本件エントランス回線利用権が法人税法施行令13条8号ソに規定する「電気通信施設利用権」に該当する旨主張する。

そこで検討するに、法人税法施行令13条8号ソは、前記のとおり、電気通信施設利用権について、「電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第12条第1項(事業の開始の義務)に規定する第一種電気通信事業者に対して同法第41条第1項(電気通信設備の維持)に規定する事業用電気通信設備の設置に要する費用を負担し、その設備を利用して同法第2条第3号(定義)に規定する電気通信役務の提供を受ける権利(電話加入権及びこれに準ずる権利を除く。)」と定義している。

そうすると、Cから電気通信役務の提供を直接受けているのは、B又は原告等と契約したエンドユーザーであるから、B又は原告は、Cから電気通信役務の提供を受けておらず、そもそも、本件エントランス回線利用権は、法人税法施行令13条8号ソに規定する「電気通信役務の提供を受ける権利」に該当しないのではないかという見方もあり得ないではない。

(3) しかし、既に述べたとおり、現在の電気通信事業は、電気通信事業者file_19.jpgと契約する発信者file_20.jpgの端末から、file_21.jpgの所有する回線を経て、同じくfile_22.jpgと契約する受信者file_23.jpgの端末へ電気通信が媒介されるという単純な方式だけでなく、エンドユーザーであるfile_24.jpgの端末とfile_25.jpgの端末との間に、無線中継や複数の電気通信事業者の所有する電気通信設備が介在して、通信が媒介され、その複数の通信事業者間で、電気通信役務の提供に関する契約関係が成立し、対価の支払も行われていることも多いのである。

そうすると、エントランス回線の使用により、電気通信事業者であるCの所有するPHS接続装置等と相互接続し、Cのネットワークを利用して、Cをして、自己のPHS契約者に電気通信役務を提供させることのできる権利である本件エントランス回線利用権も、既に判示したネットワークの実態、契約関係、対価の支払等に照らせば、「費用を負担し、その設備を利用して…(中略)…電気通信役務の提供を受ける権利」に含まれると解すべきである。直接に電気通信役務の提供を受ける者が自社ではなく、自社の契約するエンドユーザーであることは、上記解釈を妨げるものではないと解すべきである。

(4) また、法人税法施行令13条8号ソの趣旨に照らして、より実質的に考察してみても、「電気通信施設利用権」は、権利であって、時の経過や使用によって価値が減少するものではないかのように見えるにもかかわらず、法人税法施行令13条8号ソが「電気通信施設利用権」を減価償却資産とした趣旨は、当該権利について市場が形成されているわけではなく、また、一般にその利用形態が専用的なものであって、営業譲渡等の場合でなければ譲渡によって投下資本を回収することも事実上困難であるため、償却を認めることによって投下資本を費用配分することが合理的と考えられたことにあると解される。

そうすると、前記認定事実のとおり、本件エントランス回線利用権は、活用型PHS事業者がCと相互接続を行うときのみに取得される権利であって、専らPHS事業を行う目的で、活用型PHS事業者のみが利用するものであることや、原則として電気通信事業の譲渡とともにしか譲渡することができないことからすると、本件エントランス回線利用権については、法人税法施行令13条8号ソが「電気通信施設利用権」を減価償却資産とした趣旨に合致するものというべきである。

また、仮に、本件エントランス回線利用権が「電気通信施設利用権」に該当しないとすると、法人税法施行令13条には、本件エントランス回線利用権が該当すると考えられる規定は他に存在しないから、本件エントランス回線利用権については、減価償却資産に該当しないことになり、減価償却を行うことができなくなってしまう。これは、前記の法人税法施行令13条8号ソの趣旨に照らして、著しく不当な結果を招くものであるというべきである。

(5) また、本件エントランス回線利用権は、電話加入権及びこれに準ずる権利には、当たらないと解すべきである。以上によると、本件エントランス回線利用権については、法人税法施行令13条8号ソに規定する「電気通信施設利用権」として、減価償却資産に該当するというべきである。

(三) 以上によれば、本件資産は、法人税法施行令133条所定の少額減価償却資産に該当する。

7  原告が直接Cに支払った本件設置負担金について

(一) 被告は、エントランス回線を増設すると、Cのネットワークへの相互接続点が増加し、利用可能区域の拡大又は高密度化をもたらし、Cから電気通信役務の提供を受ける権利である本件資産の価値を高めるということできるから、原告のCに対する本件設置負担金の支出は、法人税法施行令132条2号の資本的支出に該当する旨主張する。

(二) しかしながら、被告の主張は、本件資産が本件接続協定上の一個の地位であることを前提とするものであるところ、前示のとおり、本件資産については、個々のエントランス回線ごとにその単位を考えるべきであるから、被告の主張は前提を欠くものというべきである。

また、前示のとおり、本件設置負担金の支払によりB又は原告は、本件エントランス回線利用権を個別に取得するものであるから、本件エントランス回線利権が追加的に取得されたとしても、既に取得されていた本件エントランス回線利用権に何らかの改良等が加えられ、価値が増大するものではない。

そうすると、本件資産の取得後に、原告が、本件エントランス回線利用権を追加取得するために支払った本件設置負担金は、法人税法施行令132条2号の資本的支出に該当するということはできず、個々の本件エントランス回線利用権の取得価額に当たるというべきである。

そして、その取得価額は7万2800円であって、10万円未満であるから、法人税法施行令133条所定の少額減価償却資産に該当し、事業の用に供された事業年度である平成11年3月期において損金の額に算入することができるというべきである。

8  平成11年3月期更正の適法性について

(一) 以上のとおり、本件資産の取得価額及び平成11年3月期中に直接Cに支払った本件設置負担金は、少額減価償却資産の取得価額として、平成11年3月期において損金の額に算入することができるというべきである。

そうすると、原告の平成11年3月期の所得金額は328億3594万4466円、納付すべき法人税額は113億1951万7100円となる。この所得金額及び納付すべき法人税額の計算根拠は、以下のとおりである。

(1) 所得金額 328億3594万4466円

上記金額は、次のアの金額に次のイの金額を加算し、ウの金額を差し引いた金額である。

ア 申告所得金額 328億3213万8653円

上記金額は、原告の平成11年3月期確定申告書に記載された所得金額である。

イ 所得金額に加算すべき金額 1325万8343円

上記金額は、原告の平成11年3月期の所得金額に加算されるべき金額であって、当事者間に争いがないものである。

ウ 所得金額から減算すべき金額 945万2530円

上記金額は、原告の平成11年3月期の所得金額から減算すべき金額であって、当事者間に争いがないものである。

(2) 所得金額に対する法人税額 113億2840万0680円

上記金額は、前記(1)の所得金額(通則法118条1項の規定に基づき千円未満の端数金額を切り捨てた後のもの)に法人税法66条1項に規定する税率100分の34.5を乗じて計算した金額である。

(3) 法人税額から控除される所得税額等 888万3523円

上記金額は、法人税法68条1項(ただし、平成15年法律第8号による改正前のもの)に規定する法人税額から控除される所得税額であって、当事者間に争いがないものである。

(4) 納付すべき法人税額 113億1951万7100円

上記金額は、前記(2)の金額から前記(3)の金額を差し引いた金額(通則法119条1項の規定に基づき百円未満の端数金額を切り捨てた後のもの)である。

(5) 確定申告に係る法人税額 113億1820万4000円

上記金額は、原告が平成11年3月期確定申告書に記載した法人税額である。

(6) 差引納付すべき法人税額 131万3100円上記金額は、前記(4)の金額から前記(5)の金額を差し引いた金額である。

(二) 以上のとおり、平成11年3月期における原告の納付すべき法人税額は前記(一)(4)記載の113億1951万7100円であり、平成11年3月期更正により認定された法人税額129億0790万5700円を下回る。

したがって、平成11年3月期更正のうち、納付すべき法人税額113億1951万7100円を超える部分は、違法であって取り消されるべきである。

9  平成11年3月期賦課決定の適法性について

原告の平成11年3月期における法人税に係る過少申告加算税の額は、前記8(一)(6)記載の131万3100円を基礎として、131万円(通則法118条3項の規定に基づき1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に対して、通則法65条1項に規定する100分の10の割合を乗じて算定した13万1000円となる。

そうすると、平成11年3月期賦課決定における過少申告加算税の額1億5897万円は、上記の法定の計算による過少申告加算税の額13万1000円を上回る。

したがって、平成11年3月期賦課決定のうち、過少申告加算税13万1000円を超える部分は違法であって、取り消されるべきである。

10  平成12年3月期通知処分の適法性について

(一) 前記認定事実によると、原告は、平成12年3月期の法人税について、平成11年3月期更正(取消前)と同様の理由により更正を受けることを避けるため、①平成12年3月期中に直接Cに支払った本件設置負担金合計2億3667万2800円について、損金の額に算入した後に申告加算し、②平成11年3月期更正(取消前)により所得金額に加算された本件資産の取得価額について、「エントランス回線(H10取得)」として46億8169万5200円として申告減算するとともに、耐用年数20年の定額法により算定した減価償却限度額を超える金額について、「エントランス回線(H10取得)」として44億4761万0440円を申告加算して、平成12年3月期確定申告をしたものである。

(二) 前示のとおり、原告が平成12年3月期中に直接Cに支払った本件設置負担金は、少額減価償却資産の取得価額として、平成12年3月期において損金の額に算入することができるというべきである。そうすると、平成12年3月期確定申告における処理のうち、前記(一)①の平成12年3月期中に直接Cに支払った本件設置負担金合計2億3667万2800円を申告加算した処理は是正されるべきものである。

(三) また、前示のとおり、本件資産の取得価額及び平成11年3月期中に直接Cに支払った本件設置負担金についても、同様に少額減価償却資産の取得価額として、平成11年3月期において損金の額に算入することができるというべきである。

原告は、平成12年3月期通知処分の取消しの訴えについて、平成12年3月期確定申告における処理のうち前記(一)②の処理の是正を明示的には求めていないが、前示のとおり、平成11年3月期更正が取り消されるべきである以上、平成11年3月期更正(取消前)を前提として原告が行った前記(一)②の処理は、その根拠を失うものであって、是正されるべきものである。

(四) そこで、平成12年3月期確定申告における処理を上記のとおり是正した場合、原告の平成12年3月期の所得金額は、以下のとおり、661億9492万0325円となる。

(1) 平成12年3月期再更正における所得金額 663億8997万6298円

上記金額は、平成12年3月期再更正により認定された所得金額である。

(2) 平成12年3月期において支出された本件設置負担金の合計額2億3667万2800円

上記金額は、原告が平成12年3月期確定申告において「エントランス回線(H11取得)」として申告加算した金額である。

(3) 前記(2)の金額のうち、平成12年3月期裁決において、平成12年3月期通知処分の一部取消しの基礎に用いられた金額 753万2067円

上記金額は、前記(2)の金額のうち、平成12年3月期裁決において所得金額に含まれるべきではないと認定され、前記(1)の金額の計算において既に控除されている金額であり、前記(1)の金額から前記(2)の金額を単純に差し引いただけであると、二重に控除されていることとなってしまう金額なので、足し戻しているものである。

(4) 「エントランス回線(H10取得)」として申告加算した金額44億4761万0440円

上記金額は、原告が、平成11年3月期更正を前提として、平成12年3月期確定申告において申告加算したものである。

(5) 「エントランス回線(H10取得)」として申告減算した金額46億8169万5200円

上記金額は、原告が、平成11年3月期更正を前提として、平成12年3月期確定申告において申告減算したものである。

(6) 所得金額 663億9492万0325円

上記金額は、前記(1)の金額に前記(3)及び(5)の各金額を加算し、前記(2)及び(4)の金額を差し引いた金額である。

(五) 以上のとおり、平成12年3月期確定申告における処理を是正した場合の所得金額は663億9492万0325円であり、平成12年3月期通知処分により認定された所得金額663億3773万2803円を上回る。

したがって、平成12年3月期通知処分は適法というべきである。

11  平成13年3月期通知処分の適法性について

(一) 前記認定事実によると、原告は、平成13年3月期の法人税について、平成11年3月期更正(取消前)と同様の理由により更正を受けることを避けるため、①平成13年3月期中に直接Cに支払った本件設置負担金合計101万9200円について、損金の額に算入した後に申告加算し、②平成11年3月期に取得した本件資産の取得価額並びに平成11年3月期及び平成12年3月期中に直接Cに支払った本件設置負担金について、平成11年3月期更正(取消前)を前提として減価償却額を算定し、平成11年3月期分について「エントランス回線(H10取得)」として2億3408万4760円、平成12年3月期分について「エントランス回線(H11取得)」として1183万3640円をそれぞれ申告減算して、平成13年3月期確定申告をしたものである。

(二) 前示のとおり、原告が平成13年3月期中に直接Cに支払った本件設置負担金は、少額減価償却資産の取得価額として、平成13年3月期において損金の額に算入することができるというべきである。そうすると、平成12年3月期確定申告における処理のうち、前記(一)①の平成13年3月期中に直接Cに支払った本件設置負担金合計101万9200円を申告加算した処理は是正されるべきものである。

(三) また、前示のとおり、本件資産の取得価額並びに平成11年3月期及び平成12年3月期中に直接Cに支払った本件設置負担金についても、同様に少額減価償却資産の取得価額として、平成11年3月期及び平成12年3月期において損金の額に算入することができるというべきである。

原告は、平成13年3月期通知処分の取消しの訴えについて、平成13年3月期確定申告における処理のうち前記(一)②の処理の是正を明示的には求めていないが、前示のとおり、平成11年3月期更正が取り消されるべきである以上、平成11年3月期更正(取消前)を前提として原告が行った前記(一)②の処理は、その根拠を失うものであって、是正されるべきものである。

(四) そこで、平成13年3月期確定申告における処理を上記のとおり是正した場合、原告の平成13年3月期の所得金額は、以下のとおり、1116億2775万7134円となる。

(1) 平成13年3月期通知処分における所得金額 1113億8281万4255円

上記金額は、国税不服審判所長が平成13年3月期裁決において認定した所得金額である。

(2) 平成13年3月期において支出された本件設置負担金の合計額 101万9200円

上記金額は、原告が平成13年3月期確定申告において「エントランス回線(H12取得)」として申告加算した金額である。

(3) 前記(2)の金額のうち、平成13年3月期裁決において、平成13年3月期通知処分の一部取消しの基礎に用いられた金額 4万3679円

上記金額は、前記(2)の金額のうち、平成13年3月期裁決において所得金額に含まれるべきではないと認定され、前記(1)の金額の計算において既に控除されている金額であり、前記(1)の金額から前記(2)の金額を単純に差し引いただけであると、二重に控除されていることとなってしまう金額なので、足し戻しているものである。

(4) 「エントランス回線(H10取得)」として申告減算した金額 2億3408万4760円

上記金額は、原告が、平成11年3月期更正(取消前)を前提として、本件資産の取得価額並びに平成11年3月期中に直接Cに支払った本件設置負担金について、耐用年数20年の定額法により減価償却額を算定し、申告減算したものである。

(5) 「エントランス回線(H11取得)」として申告減算した金額 1183万3640円

上記金額は、原告が、平成11年3月期更正(取消前)を前提として、平成12年3月期中に直接Cに支払った本件設置負担金について、耐用年数20年の定額法により減価償却額を算定し、申告減算したものである。

(6) 所得金額 1116億2775万7134円

上記金額は、前記(1)の金額に前記(3)、(4)及び(5)の各金額を加算し、前記(2)の金額を差し引いた金額である。

(五) 以上のとおり、平成13年3月期確定申告における処理を是正した場合の所得金額は1116億2775万7134円であり、平成13年3月期通知処分により認定された所得金額1113億8281万4255円を上回る。

したがって、平成13年3月期通知処分は適法というべきである。

三  結論

以上によれば、平成12年3月期再賦課決定、平成12年3月期再更正のうち納付すべき法人税額198億4250万3200円を超える部分及び平成13年3月期賦課決定のうち過少申告加算税1923万4000円を超える部分の各取消しを求める訴えは、不適法であるから、これらをいずれも却下することとし、平成11年3月期更正のうち納付すべき法人税額113億1951万7100円を超える部分、及び平成11年3月期賦課決定のうち過少申告加算税13万1000円を超える部分は、いずれも違法であるから、これらをその限度で一部取り消すこととし、原告のその余の請求(平成12年3月期通知処分及び平成13年3月期通知処分の各取消しを求める請求全部)は、理由がないから、いずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、64条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 菅野博之 裁判官 鈴木正紀 裁判官 馬場俊宏は転補につき署名押印することができない。 裁判長裁判官 菅野博之)

別紙1 (本案前の主張に関する当事者の主張の要旨)

第一 被告の主張

一 平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えについて

1 不服申立前置について

(一) 不服申立前置の趣旨

(1) 国税に関する法律に基づく処分(以下「国税に関する処分」という。)について不服申立前置主義が採用された根拠は、①行政処分に対する司法審査をする前に、当該行政処分の当否につき一応行政庁に再審理、再考慮の機会を与え、その自主的解決を期待することができるという点のみならず、②国税の賦課は大量的・回帰的であることから、不服申立前置を要求することは、訴訟のはん濫を回避し、税務行政の統一的運用に資するところが大きいという点にもある。すなわち、不服申立前置制度の下では、行政庁は、その処分について所定の期間内に不服申立てがされない限り、不可争力により、以後その処分の効果を前提として徴税事務等の処理を重ねていくことができるのであり、不服申立前置及びこれを前提とする不可争力の発生には、税務行政の早期安定の要請も含まれている。

上記の不服申立前置の趣旨からすると、納税者が、自己に不利益な国税に関する処分について、不服申立期間内に不服を申し立てることは、不可争力を遮断するという積極的な意義を有する。

したがって、通則法115条1項柱書本文は、適法な不服申立てがされ、これについての裁決がされた場合を規定しているというべきである。

(2) 不服申立前置制度の下では、審査請求の対象となる処分と取消訴訟の対象となる処分とは同一でなければならないと解すべきである。また、通則法の定める「審査請求」とは、国税に関する処分に対する異議申立てについての決定があった場合、当該決定を経た後の処分になお不服のある者が、原処分の違法又は不当を理由として、その取消し・変更を求めて国税不服審判所長に対して申し立てる権利救済のための手続であり、審査請求は、審査請求に係る処分を記載した書面を提出してしなければならない(通則法87条1項1号)。したがって、審査請求は、処分を特定し、納税者において救済を求める範囲を明らかにして行われるものであり、審査請求の対象について、必ずしも審査請求書に記載された審査請求に係る処分欄記載の処分に限定されるものではないが、少なくとも、審査請求書の記載を合理的に解釈しても、不服を申し立てていると認められない処分については、審査請求の対象とされていないといわざるを得ない。

そして、賦課決定は、通知処分と別個の処分であるから、その効力を訴訟で争う場合、通知処分に対する不服申立てとは別個に不服申立てをしなければならない。

(二) あわせ審理の特殊性

(1) 通則法104条2項から4項までに規定するあわせ審理は、適法な不服申立てを経ていない他の処分についても、国税不服審判所長の裁量によって、審理の範囲を拡張し、必要に応じて当該処分の全部又は一部を取り消すことを認める極めて特殊な制度である。

すなわち、通則法は、原則として、115条1項各一号に規定する例外事由がない限り、不服申立てをすることができる処分の取消訴訟を提起することはできないと定めており、不服申立期間経過後にされた審査請求等の不適法な審査請求に対して裁決があっても、不服申立前置を充足しない。

これに対して、あわせ審理の場合、国税不服審判所長は、通則法115条1項各号に規定する例外事由の有無を問わず、不服申立期間を経過した処分、すなわち不可争となった処分についても、その裁量をもって審理の対象とすることができる。このような特殊な制度が認められる根拠は、更正と再更正等複数の処分の間に不可分の牽連関係があることが考慮され、他方において、同一の課税標準に関する行政庁の判断の統一を図る必要があるなどの行政上の要請があることにある。

(2) 更正の請求は、納税申告書を提出した者が、その申告内容を自己に有利に是正することを求めて行政庁に是正権の発動を請求する行為である。通知処分は、是正権の発動を拒否し、申告税額等について更正の請求額まで減額することを認めない旨確認する効果を持つ処分であって、本税に関する処分であるが、その税額を確定する処分ではない。

これに対し、賦課決定は、本税について申告税額等よりも増額する方向で税額を確定する処分(増額更正等)に附帯して、一種の行政上の制裁として課されるものである。このように、通知処分と賦課決定とはその性質を異にするものであり、賦課決定は通知処分に附帯するものでもなく、通知処分と賦課決定との間には、増額更正と賦課決定の間のような不可分の牽連関係があるとはいえない。

(3) また、通則法104条2項は、不服申立てを経ていないがあわせ審理の対象とし得る処分を、他の更正決定等、すなわち「更正若しくは第25条(決定)の規定による決定又は賦課決定」(通則法58条)と定めている。

これに対し、通知処分に関する通則法104条4項は、「前2項の規定は、更正の請求に対する処分について不服申立てがされている場合において、当該更正の請求に係る国税の課税標準等又は税額等についてされた他の更正又は決定」があるときについて準用すると規定しており、不服申立てを経た通知処分とあわせ審理し得る処分に賦課決定を含めていない。

この規定は、通知処分と賦課決定との間においては、不可分の牽連関係があるとはいえず、あわせ審理を認める根拠に乏しいことに照らして、あえて賦課決定を含めない文言を用いて定められたものと解すべきである。

(三) 「審査請求についての裁決」とあわせ審理との関係

(1) 通則法115条1項柱書本文は、不服申立前置の原則を採用することを明らかにするために「審査請求についての裁決」を経ることを要すると規定し、同項柱書ただし書において、審査請求がされていないか、又は審査請求はされたが裁決がされていない場合、すなわち「審査請求についての裁決がされていない処分」について、例外的に提訴することができる事由を定めている。

このような条文の構造からして、審査請求がされていない処分を対象とする裁決は、「審査請求についての裁決」に含まれないと解すべきである。

(2) また、実質的に見ても、あわせ審理は、審査請求がされていない処分について、通則法115条1項各号に規定する例外事由を問わず、国税不服審判所長の裁量で、審理範囲の拡張を認める極めて特殊な制度である。特に、通知処分に係る審査請求の審理において、賦課決定をあわせ審理することは、通則法104条4項が本来予定するところではない。

それにもかかわらず、国税不服審判所長が、通知処分に対する審査請求の審理において、賦課決定をあわせ審理し、あわせ審理した賦課決定の一部を取り消したからといって、当該賦課決定について「審査請求についての裁決」がされた場合に当たると解すれば、国税不服審判所長の裁量判断によって、訴訟要件を備えたり、備えなかったりするという事態を許容することになる。これは、納税者間の平等に反し、不合理である。

(3) そもそも、不可争力は、行政庁も変動し得ないという意味での不可変更力を意味するものではなく、現に、税務署長は、国税の更正、決定等の期間制限に反しない限り、更正、決定等をすることができる(通則法70条)。逆に、このように、行政庁が、判決によらず、通則法の規定に基づく処分によって、従前の処分の内容を変更し得るからといって、自ら不服を申し立てることを怠ったために納税者の側から従前の処分を裁判上争えないという意味での不可争力が消滅するわけではない。

同様に、国税不服審判所長が、行政機関として、裁量により、不服申立てがされていない他の処分についてあわせ審理をし、裁決を行ったとしても、これによって当該処分に関する不可争力が消滅するわけではない。

(四) 本件について

以上によれば、通知処分の審査請求についての審理、裁決において、賦課決定について、あわせ審理により審理された場合であっても、当該賦課決定との関係では、「審査請求についての裁決」を経た場合に該当しないと解すべきである。

本件について、原告は、国税不服審判所長に対し、平成13年3月期通知処分について、平成13年3月期審査請求をしたが、平成13年3月期賦課決定については、別個に審査請求をしていない。

したがって、原告は、平成13年3月期賦課決定について、「審査請求についての裁決」を経ていないから、通則法115条1項各号に規定する例外事由が認められない限り、平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えは不適法である。

2 通則法115条1項3号に規定する「正当な理由」について

(一) 通則法115条1項3号の趣旨

国税に関する処分で不服申立てをすることができるものの取消しを求める訴えについては不服申立前置が必要とされ、二つの処分については、個別に不服申立前置を経て、不服の意思を明らかにすることが原則である。

通則法115条1項3号後段は、行政庁に審査・裁決させることに意味がない場合の例外規定である。関連する二つの処分の一方について、同号に規定する「正当な理由」がある場合とは、一方の処分について不服申立ての経由を不要とすることに合理的理由が認められるか否かをそれぞれの処分の目的・性質・効果等の関連において判断し、各処分が実質的に同一であるとか、一つの処分について不服申立てをした以上他の処分について不服申立てをすることが無意味と見られることが明らかな場合等がこれに当たると解される。

もっとも、二つの処分について、判断の時点や周辺事情が異なる場合、その一方の処分についての裁決庁の判断の内容がどれだけ正確に予測することができるかは疑問であるから、安易に審査請求の省略を認めるべきではない。

(二) 通知処分に対する不服申立てと賦課決定との関係

通知処分は、税額を確定する効果を持たないという性質上、賦課決定を伴う処分ではなく、あわせ審理に関する規定を見ても、通知処分と賦課決定との間に直接的な関連性がないことは明らかである。

また、通知処分は、賦課決定の基礎となる更正との関係でも、本税の税額を確定する効果を有するか否かという点で性質を異にしており、更正と増額更正についていわゆる吸収説に立つ見解であっても、通知処分と増額更正との間には、吸収関係は存しないと考えられている。

以上のとおり、通知処分と賦課決定とは、その目的・性質・効果等を異にするものであり、実質的に同一の処分であるとはいえない。また、通知処分について不服申立てをした以上、賦課決定について不服申立てをすることが無意味と見られることが明らかであるとはいえない。

したがって、通知処分について適法な不服申立てを経ているとしても、賦課決定について不服申立てを経ていないことについて、通則法115条1項3号に規定する「正当な理由」があるとはいえない。

(三) 本件について

平成13年3月期賦課決定は、平成13年3月期通知処分とは処分の日を異にし、それぞれに不服申立ての教示がされている。それにもかかわらず、原告は、平成13年3月期賦課決定のみならず、その税額の基礎を確定する平成13年3月期更正について、不服申立期間内に審査請求をしなかった。その後、原告は、平成13年3月期更正の請求をした時点でも、平成13年3月期賦課決定に対して不服を申し立てることはなく、平成13年3月期審査請求の審査請求書に平成13年3月期賦課決定に不服がある旨の記載をしていないなど、終始、平成13年3月期賦課決定について、不服を申し立てる意思を明らかにすることはなかった。

また、平成13年3月期賦課決定と、平成13年3月期通知処分とは、処分の日、処分事由を異にしており、平成13年3月期賦課決定の時点では、原告が本件訴訟において主張する違法事由はもちろん、その税額の基礎を確定する平成13年3月期更正の処分事由についても、国税不服審判所長による審理、判断は全く示されていなかった。したがって、平成13年3月期賦課決定に対して不服を申し立てることが無意味とはいえない。

さらに、平成13年3月期更正の請求及び平成13年3月期審査請求の理由はいずれも、原告が本件訴訟において主張する違法事由と同様のもので、平成13年3月期更正及び平成13年3月期賦課決定の理由とは無関係であったこと、原告は、平成13年3月期裁決の審理においても上記違法事由以外については争わず、平成13年3月期裁決においても、上記違法事由についてのみ具体的な判断がされていることからすると、実質的に見ても、平成13年3月期賦課決定の処分事由について審査請求についての裁決を経たとはいえない。

以上のとおり、原告が平成13年3月期賦課決定について「審査請求についての裁決」を経ていないことにつき、通則法115条1項3号に規定する「正当な理由」があるとはいえない。

3 出訴期間について

(一) 行政事件訴訟法14条4項の趣旨

取消訴訟の出訴期間は、処分又は裁決があったことを知った日から3か月(行政事件訴訟法14条1項)、当事者又は第三者が処分又は裁決があったことを知ったか否かを問わず、処分又は裁決の日から1年とされ(同条3項)、その期間は、「審査請求があったときは、その審査請求をした者については、これに対する裁決があったことを知った日又は裁決の日から起算する」(同条4項)こととされる。

行政処分に出訴期間が定められている趣旨に基づけば、行政事件訴訟法14条4項の規定は、審査請求された処分についての出訴期間の特例であることが明らかである。

したがって、関連する処分について審査請求が行われている場合には、審査請求についての裁決があったことを知った日が、個別に不服申立てを要する他の関連するすべての処分の出訴期間の起算日になると解することは、行政事件訴訟法が出訴期間を設けた趣旨を過小に評価して同法14条4項の「審査請求」の意義を不当に拡張するものといわざるを得ない。

(二) 本件について

平成13年3月期賦課決定について「審査請求についての裁決」を経ないことに正当な理由があるとしても、前記のとおり、平成13年3月期賦課決定は、審査請求された処分に該当しないから、行政事件訴訟法14条4項の適用がないことは明らかである。

そうすると、平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えは、出訴期間を徒過してされた不適法な訴えというべきである。

4 まとめ

以上のとおり、平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えは、不服申立前置を満たしておらず、また、出訴期間も徒過しているから、不適法というべきである。

二 平成12年3月期再賦課決定及び平成12年3月期再更正の取消しを求める訴えについて

1 不服申立前置について

(一) 原告は、本件訴訟において主張する違法事由と同様の理由で、平成12年3月期審査請求をしたが、平成12年3月期再賦課決定のみならず、その税額の基礎を確定する平成12年3月期再更正についても、適法な審査請求をしていない。

平成12年3月期審査請求は、平成12年3月期再更正及び平成12年3月期再賦課決定の前にされたものであって、平成12年3月期再更正及び平成12年3月期再賦課決定をその対象とするものでないことは明らかである。また、平成12年3月期更正の請求及び平成12年3月期審査請求の理由は、いずれも原告が本件訴訟において主張する違法事由と同様のもので、平成12年3月期再更正及び平成12年3月期再賦課決定の理由とは無関係であった。原告は、平成12年3月期裁決の審理においても、上記違法事由以外については争わず、平成13年3月期裁決においても、上記違法事由についてのみ具体的な判断がされている。そうすると、平成12年3月期再更正及び平成12年3月期再賦課決定については、上記審査請求の対象とされていないといわざるを得ない。

(二) 平成12年3月期再更正及び平成12年3月期再賦課決定は、いずれも、平成12年3月期裁決においてあわせ審理された処分である。そして、これらの取消しを求める訴えについては、平成12年3月期賦課決定の取消しを求める訴えと同様、「審査請求についての裁決」を経ていると認めることはできない。

したがって、通則法115条1項各号に規定する例外事由が認められない限り、平成12年3月期再賦課決定及び平成12年3月期再更正の取消しを求める訴えは、不適法である。

2 通則法115条1項3号に規定する「正当な理由」について

平成12年3月期再賦課決定及び平成12年3月期再更正の取消しを求める訴えについては、平成12年3月期賦課決定の取消しを求める訴えと同様に、「正当な理由」は認められない。

しかも、通知処分と通知処分後の更正との関係の場合、更正の請求によって納税者が示した是正されるべき税額は、通知処分後の更正によって確定された税額より低額である。そうすると、通知処分に対する審査請求をしただけで、当該審査請求後にされた更正により確定された税額(納税者が更正の請求により是正されるべき額として示していた額を超える額)の是正を求める場合は、当該税額を確定する更正について、別個に不報申立てを経由する手続に意味がないとすることは、更正の請求の本来の機能を逸脱するものである。更正を基礎とする賦課決定について、不服申立てを経ないで裁判上の取消しを求められると解することには、一層の無理がある。

そして、通知処分後にされた増額更正の取消しを求める場合、通知処分と通知処分後にされた増額更正の関係は、更正と再更正が行われた場合の両者の関係とは異なり、当該各処分は実質的に同一ではないから、当該増額更正の取消しを求める訴えについて通則法115条1項3号に規定する「正当な理由」を認めることはできない。

以上によれば、平成12年3月期再賦課決定及び平成12年3月期再更正の取消しを求める訴えについて、通則法115条1項3号に規定する「正当な理由」を認めることはできない。

3 出訴期間について

平成12年3月期再賦課決定及び平成12年3月期再更正の取消しを求める訴えは、平成12年3月期賦課決定の取消しを求める訴えと同様に、出訴期間を徒過してされた不適法な訴えというべきである。

4 まとめ

以上のとおり、平成12年3月期再賦課決定及び平成12年3月期再更正の取消しを求める訴えは、不服申立前置を満たしておらず、また、出訴期間も徒過しているから、不適法というべきである。

第二 原告の主張

一 平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えについて

1 不服申立前置について

(一) 通則法115条1項柱書本文の趣旨

通則法115条1項柱書本文が、訴え提起の要件として原則的に審査請求についての裁決を経る旨を定めている趣旨は、課税処分等が大量集中的に行われ、かつ、これに対する不服が要件事実の認定の当否に関するものであるところから、課税庁の知識経験を利用して簡易迅速な方法で納税者の救済を図るとともに、税務行政の適正な運営を確保しようとするものである。

このような趣旨からすると、裁決を行う課税庁である行政庁が問題となっている課税処分について検討の上で裁決を行っているということが、通則法115条1項の訴訟要件との関係では重要なのであって、審査請求は裁決の因由となるという意味においてのみ関連性を有するにすぎない。

したがって、通則法115条1項に「審査請求についての裁決」とあるのは、通常は審査請求に対して裁決がされるからであって、特にそれ以上の意味を有するものではないと考えられる。

(二) 「審査請求についての裁決」とあわせ審理との関係

本税に関する課税処分に対する審査請求について、通則法104条2項に基づき、同1年度の当該本税に関する賦課決定についてあわせ審理が行われ、当該賦課決定について裁決が行われた場合には、当該賦課決定についても裁決を経ていることに違いはない。

また、このような裁決は、本税の課税処分に対する審査請求があって初めて行われるものであり、当該審査請求の当初の対象である本税の課税処分に関する裁決と一体のものとして行われるものであるから、たとえ「当該賦課決定に対する審査請求についての裁決」とはいえなくとも、「審査請求についての裁決」という通則法115条1項柱書本文の文言には合致する。

通則法115条1項は、「審査請求についての裁決」という文言の中の「審査請求」という文言について何ら限定を付していないのであるから、不必要にこのような文言について限定を付すべきではない。通則法115条1項柱書本文の上記の趣旨からは、あわせ審理による裁決も「審査請求についての裁決」に該当すると解すべきである。

(三) 本件について

本件では、平成13年3月期裁決は、平成13年3月期賦課決定を検討対象とし、かつ、平成13年3月期賦課決定を正面から裁決の対象として捉えていることは明白である。

したがって、平成13年3月期賦課決定は、通則法115条1項柱書本文に規定する「審査請求についての裁決」を経ており、平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えは、同項の要件を満たすというべきである。

2 通則法115条1項3号に規定する「正当な理由」について

(一) 通知処分と賦課決定について

(1) 通知処分に対する審査請求の全部又は一部を裁決において認容すべき場合には、裁決では通知処分のみが取り消され、所轄税務署長が、当該裁決の趣旨に従い、改めて更正の請求に対する処分をしなければならないようにも見える(通則法102条2項)。

しかし、実際には、通知処分の全部又は一部を取り消す裁決において、対象税目の課税標準又は税額自体について一部取消しの決定を行うこととされている。現に、平成13年3月期裁決も、平成13年3月期通知処分の一部取消しに伴い、原告の平成13年3月期の法人税に係る所得金額及び税額を直接に一部取り消している。また、被告は、平成13年3月期裁決の後、平成13年3月期裁決に従った減額更正を行っておらず、平成13年3月期通知処分の一部取消しにより直接に、原告の平成13年3月期の法人税に係る所得金額及び税額が一部減額されたと理解している。

つまり、通知処分の全部又は一部が裁決により取り消される場合には、国税不服審判所長が、通知処分の取消しとともに、直接に請求人である納税者の課税標準又は税額を取り消す処分を行うことになるのである。

(2) 所轄税務署長が更正の請求を認容して減額更正を行う場合、増額更正及び賦課決定が別途されていたときは、当該増額更正において追加的に納付すべき税額とされた金額が結果としては過大であり、このような金額を基準として計算される過少申告加算税が過大に賦課されていたことを知ることになるわけであるから、当該賦課決定をそれに応じて減額する変更を行わなければならないはずである(通則法32条2項)。

国税不服審判所長が、通知処分の全部又は一部を取り消すことに伴って、直接に請求人である納税者の課税標準又は税額を取り消す場合、所轄税務署長が更正の請求を認容する際に行うべきであった賦課決定の取消しを行わない理由はなく、賦課決定も取り消すべきである。

現に、平成13年3月期裁決は、平成13年3月期通知処分の一部取消しによる法人税額の一部減額に応じて、平成13年3月期賦課決定を一部取り消している。

(3) 以上のとおり、賦課決定は、裁決により通知処分が一部でも取り消されれば、当該裁決により必然的に全部又は一部が取り消されるという関係にある。そうすると、通知処分が裁決をすべき行政庁により審理されているのであれば、賦課決定についてもその見直しをするべき事由について審理されているということができ、通則法115条1項の趣旨は満たされているというべきである。

したがって、仮に、賦課決定についての「審査請求についての裁決」がないと解したとしても、通知処分について裁決がされていれば、通則法115条1項3号後段の「その他その決定又は裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき」に該当すると解すべきである。

(4) 本件では、平成13年3月期通知処分について所定の不服申立手続を経ているから、平成13年3月期賦課決定について独立の不服申立手続は不要と解すべきである。

(二) あわせ審理について

本件のように、通知処分及び同1年度の同じ税に関する賦課決定を通じて納税者が主張する違法事由が完全に共通であり、通知処分に対する審査請求においてこのような違法事由が主張されている場合には、当該賦課決定について独立に審査請求を行っても異なる判断が得られる可能性は低い。

特に、平成13年3月期賦課決定については、平成13年3月期裁決に関する審理の中で明示的にあわせ審理がされているのであるから、平成13年3月期賦課決定自体に対する審査請求の有無を問うのは無意味である。なぜなら、平成13年3月期賦課決定に対する審査請求が別途行われていたとしても、結局は通則法104条1項に基づき通知処分に対する審査請求と併合審理され、同条2項に基づくあわせ審理を経た場合と全く同一内容の裁決がされていたであろうことは明らかだからである。

したがって、平成13年3月期賦課決定自体に対する審査請求を納税者に強いることは、不当に無意味な手続を要求するものであるといわざるを得ない。

(三) 平成13年3月期賦課決定について

原告は、平成13年3月期更正の処分事由について争う意図はない。それにもかかわらず、単に平成13年3月期賦課決定の取消を求める訴えの訴訟要件を満たすためだけのために、平成13年3月期更正の処分事由に対する不服を記載して平成13年3月期賦課決定に対する審査請求を行うことが必要となるのでは、原告は存在してもいない不服を無意味に考え出した上で、自らの意思に反して主張することを強いられることになり、明らかに不当である。

このような不服申立てを受け付ける国税不服審判所長としても、本当の審査請求の理由が明らかにされていない段階で、とりあえず偽の審査請求の理由に基づいて審理を開始しなければならないというのでは、あまりにも無駄としかいいようがない。

また、平成13年3月期賦課決定に対する不服申立てにおいて、最初から本訴において主張している平成13年3月期通知処分の違法事由を主張すべきであるとすれば、原告は、平成13年3月期の法人税について更正の請求ができる期間終了の前に、更正の請求事由を主張することを余儀なくされる。そうすると、更正の請求期間が法定の期間よりも事実上短縮されることになってしまい、不当である。

(四) まとめ

以上によれば、平成13年3月期通知処分に対する審査請求及び平成13年3月期裁決が行われたことにより、平成13年3月期賦課決定について、通則法115条1項の趣旨は満たされているのであり、平成13年3月期賦課決定について、同項3号後段の「その他その決定又は裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき」に該当すると解すべきである。

3 出訴期間について

(一) 行政事件訴訟法14条1項による出訴期間の制限は、行政処分が一般公共の利害に関係するところが少なくないことから、なるべく早く処分の効果を安定させる必要があるという行政上の要請に基づくものである。しかし、行政処分について審査請求が行われ、審査請求に基づき裁決を行う行政庁において当該行政処分の適法性及び相当性が審理されている間は、当該行政処分を確定させる必要性はなく、このような場合には当該行政庁による裁決の日から出訴期間を起算することとされている(同条4項)。

このような出訴期間の趣旨からは、裁決を行う行政庁が問題となっている行政処分について審理を行い、現にその審理に基づき当該行政処分について裁決を行っているのであれば、当該審理が当該行政処分自体に対する審査請求に基づくものかどうかにかかわらず、当該裁決まで当該行政処分はいずれにせよ不確定の状態に置かれているのであるから、出訴期間は、当該裁決の日から起算すべきである。

特に、本件のように裁決が行政処分の一部を取り消しているような場合には、裁決まで行政処分は不確定の状態に置かれていることは明らかであるから、裁決の日まで出訴期間の進行を始める必要性は全くない。

(二) また、本件のようにあわせ審理が行われた場合、あわせ審理に基づく裁決は、別の行政処分に対する審査請求があって初めて行われるものであり、当該審査請求の当初の対象である行政処分に関する裁決を含むものとして行われるものである。したがって、たとえ「当該行政処分に対して行われた審査請求に対する裁決」ということはできなくとも、「審査請求に対する裁決であって当該行政処分についても行われた裁決」ということはできる。

行政事件訴訟法14条4項においては、直接に問題となる文言は「これに対する裁決」という文言であるが、その中の「これ」はその直前の「その審査請求」を指していると解され、「その審査請求」は、直前の「審査請求があったとき」という文言の中の「審査請求」を指しており、「審査請求」という文言については何ら限定が付されていない。したがって、文言上の解釈から上記のような解釈に障害があるわけではない。

(三) 本件では、原告が平成13年3月期審査請求を行ったところ、その審査請求についての裁決手続の中で平成13年3月期賦課決定についてもあわせ審理がされている。

したがって、平成13年3月期賦課決定についての出訴期間の起算日は、行政事件訴訟法14条4項により、平成13年3月期裁決の日と解すべきなので、平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えについて出訴期間は遵守されている。

(四) また、あわせ審理に基づく裁決ということのみをもってしては、当該裁決の日を出訴期間の起算日とすることはできないとしても、本件のように、本税に関する通知処分について不服申立てがされ、出訴期間内にその取消しを求める訴えが提起されており、本税に関する賦課決定の取消しを求める訴えが通知処分の取消しを求める訴えと一緒に提起されているときは、通知処分に対する取消しの訴えの出訴期間内に賦課決定の取消しを求める訴えが提起されていることをもって、賦課決定の取消しを求める訴えの出訴期間は遵守されているというべきである。

本件訴訟における確定判決において、平成13年3月期通知処分について一部でも取消請求が認容された場合には、被告はその判決に従って原告の平成13年3月期の所得金額及び税額を見直して減額更正を行うこととなる(通則法23条4項)。被告は、このような見直しに伴い必然的に、平成13年3月期更正において追加的に納付すべき法人税額とされた金額が過大であり、この金額を基準として計算される過少申告加算税が過大に賦課されていたことを知ることになるわけであるから、いずれにせよ、平成13年3月期賦課決定を変更しなければならない(通則法32条2項)。

そうすると、平成13年3月期賦課決定の取消しを求める必要性はないようにも見えるが、本件訴訟において取り消した方が直接的であり、かつ、争いの余地を残さず妥当である。

平成13年3月期賦課決定は、平成13年3月期通知処分に関する判決が確定するまで、不確定の状態に置かれているのであるから、平成13年3月期通知処分と別個に出訴期間の徒過を論じる利益はない。したがって、平成13年3月期通知処分の取消しを求める訴えの出訴期間内に訴えを提起すれば、平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えの出訴期間は遵守されているというべきである。

本件において、平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えは、平成13年3月期通知処分に対する出訴期間内に提訴されているから、出訴期間は遵守されているというべきである。

4 まとめ

以上のとおり、平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えは、適法というべきである。

二 平成12年3月期再賦課決定の取消しを求める訴えについて

1 不服申立前置について

平成12年3月期再賦課決定の取消しを求める訴えは、平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えと同様に、通則法115条1項柱書本文に規定する「審査請求についての裁決」を経た場合に該当するというべきである。

2 通則法115条1項3号の「正当な理由」について

平成12年3月期再賦課決定の取消しを求める訴えは、平成13年3月期賦課決定と同様に、「審査請求についての裁決」を経ていないとしても、そのことについて「正当な理由」があるというべきである。

3 出訴期間について

平成12年3月期再賦課決定の取消しを求める訴えは、平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えと同様に、出訴期間内に訴えが提起されたというべきである。

4 まとめ

以上のとおり、平成12年3月期再賦課決定の取消しを求める訴えは、適法というべきである。

三 平成12年3月期再更正の取消しを求める訴えについて

1 不服申立前置について

平成12年3月期再更正の取消しを求める訴えについては、平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えと同様に、通則法115条1項柱書本文に規定する「審査請求についての裁決」を経た場合に該当するというべきである。

2 通則法115条1項3号の「正当な理由」について

(一) 本件のように、通知処分に対する不服申立手続が履践され、その裁決の審理が行われている間に再更正が行われたような場合には、同項3号後段の「その他その決定又は裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき」に該当し、不服申立手続を経ずに、当該更正の取消しを求める訴えを提起することができると解すべきである。

納税者が、その納税申告書に記載した課税標準等又は税額等に関して処分を受け、当該処分に対する不服申立手続を経由し、出訴の要件を整えている場合、当該課税標準等又は税額等に関する処分が別途されたときに、当該処分について更に不服申立手続を経由しなければ訴えを提起することができないとすることは、納税者に不当に繁雑な手続の履践を要求することとなって不合理である。このような場合には、不服申立前置の例外として、直ちに別途された処分の取消しを求める訴えを提起できるというべきである。

(二) また、本件のように、納税者が通知処分及びその後に行われた増額更正を通じて主張する違法事由が完全に共通であり、通知処分に対する審査請求においてこのような違法事由が主張されている場合後に行われた増額更正について独立に審査請求を行っても異なる判断が得られる可能性は低く、このような審査請求を納税者に強いることは、不当に納税者の権利の救済を遅延させるだけであるといわざるを得ない。

(三) 以上によれば、本件においては、平成12年3月期通知処分について所定の不服申立手続が経由され、その裁決の審理が行われている間に平成12年3月期再更正が行われている以上、平成12年3月期再更正の取消しを求める訴えは、不服申立前置を経ないことについて、通則法115条1項3号の「正当な理由」があるというべきである。

3 出訴期間について

平成12年3月期再更正の取消しを求める訴えは、平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えと同様に、出訴期間内に訴えが提起されたというべきである。

4 まとめ

以上のとおり、平成12年3月期再更正の取消しを求める訴えは、適法というべきである。

別紙2 (本案の主張に関する当事者の主張の要旨)

第一 本件資産の取得価額及び本件設置負担金について、少額減価償却資産の取得価額として損金の額に算入することができるか否かについて

一 被告の主張

1 被告の主張の骨子

(一) 活用型PHS事業者は、Cのネットワーク(「Cのネットワーク」とは、Cの電気通信設備とそれによって得られる機能を含めた有機的一体のものをいい、単に、物理的な意味で当該電気通信設備を指す場合には「Cの電気通信設備」という。以下同じ。)による機能の提供を受け、システムとしてこれを利用することがその事業の前提となっており、Cと一つの相互接続協定を締結することによって、それらの機能の提供を受けることが可能となる。

BがCに支払った本件設置負担金は、基地局回線(エントランス回線)設置のための工事費等の実費を負担するものではなく、他事業者がCのネットワークを利用することができるという本件接続協定上の地位を取得し、Cのネットワークへの出入口となる相互接続点を設けるごとに工事費等の名目で7万2800円をCに対し負担するものであって、本件接続協定上の地位の取得費用すなわち権利金的な性格を有するというべきものである原告は、Bから本件営業譲渡契約によって本件接続協定上の地位を取得し、その対価として、Bが負担した工事費等の名目の負担金に相当する金額45億9695万6000円を算定したものである。

したがって、本件資産は、Cとの間の一つの本件接続協定によって取得された電気通信役務の提供を受ける一個の権利、すなわち、本件接続協定上の地位であるというべきである。

(二) 法人税法施行令13条8号ソの「電気通信施設利用権」は、事業用電気通信設備の設置に要する費用を負担し、その設備を利用して電気通信役務の提供を受ける権利と規定されている。

一個の統合されたシステムとしてのCのネットワークの機能の提供を受けることができる本件資産が「その設備を利用して電気通信役務の提供を受ける権利」に該当し、Cのネットワークへの出入口となる相互接続点(エントランス回線)を設けるごとに工事費等の名目で7万2800円をCに対し負担していることが「事業用電気通信設備の設置に要する費用を負担し」に該当することは明らかである。

したがって、本件資産は、一つの本件接続協定に基づき、CからCのネットワークによる機能の提供を受けるという不可分一体の電気通信役務の提供を受ける権利であって、一つの無形減価償却資産である。

(三) エントランス回線を増設すると、Cのネットワークへの相互接続点が増加し、利用可能区域の拡大又は高密度化をもたらし、Cから電気通信役務の提供を受ける権利である本件資産の価値を高めるということができる。したがって、Cに対する本件設置負担金の支出は、法人税法施行令132条2号の資本的支出に該当する。

(四) 以上によれば、本件資産は、一単位の減価償却資産であるから、本件営業譲渡契約における本件資産の購入代価の全額が、本件資産の取得価額となる(法人税法施行令54条1項1号イ)。

そうすると、本件資産は、減価償却資産ではあるが、その取得価額が10万円を超えているから、法人税法施行令133条を根拠として、その全額を損金の額に算入することはできない。

(五) また、Cに対する本件設置負担金の支出は、法人税法施行令132条2号の資本的支出に該当するから、損金の額に算入することはできない。

2 本件資産の性質について

(一) PHS事業とCとの関係について

(1) 電気通信事業におけるCの役割について

Cは、社会的基盤としての電話通信網(ネットワーク)を所有している点で特殊な法人であり、Cは単独でも「電気通信役務」の提供が可能である。

これに対し、C以外の他事業者は、電気通信事業を行うためには、Cのネットワークを利用することが不可欠であり、活用型PHS事業者の場合には、事実上、Cのネットワークがなければ事業を行うことは不可能である。

このような前提があるため、Cは、電気通信事業法上、その電気通信設備が指定電気通信設備に指定され、他事業者からの接続の申込みを原則として拒否することができないものとされている(電気通信事業法38条の2)。

また、Cは、電気通信事業法における接続の基本ルールに基づき、相互接続に必要な機能のみを他事業者が使えるよう、ネットワークの機能を細分化し、それぞれ網使用料を設定して提供することもしている。

(2)相互接続について

ア 電気通信事業法上、各事業者の設備は、各相互接続点において相互接続され、同時に、サービスについても、各相互接続点で一方から他方へと受け継がれると解釈されている。

また、本件接続約款によれば、Cの指定電気通信設備と他事業者の電気通信設備との相互接続に関しては、Cが接続料及び接続の条件について約款を定め、これにより他事業者との間で、Cの指定電気通信設備との接続に関する協定を締結し、Cの指定電気通信設備との相互接続を行うとされている(本件接続約款1条)。

イ 本件接続約款には、Cは、相互接続によって、本件接続約款別表1の1-1に掲げる接続機能(各種の伝送機能や交換機能)を提供する旨規定されている(本件接続約款10条)。

そもそも、本件接続約款がCと他事業者間において適用されるものであることに照らすと、相互接続協定は、相互接続によって、他事業者が、Cの電気通信設備を利用して、Cから各種の伝送機能や交換機能の提供を受けることを約定するものということができる。

ウ 電気通信事業法自体の解釈としては、国が公共性の高い電気通信事業の適正化を図り、電気通信役務の円滑な提供を確保するとともに、その利用者の利益を保護するための立法であることに照らし、各事業者がそれぞれ利用者に対して直接電気通信役務を提供する義務を負うとの解釈が成り立ち得る余地はある。

しかし、このような解釈を前提としても、電気通信事業法の規制が、電気通信事業者間の私法上の関係をも規律するものとは直ちにいえないのであるから、私法上の権利義務を確定するに当たっては、電気通信事業法の解釈のみならず、事業者及び利用者間の契約等の実態に即した私法上の関係をも十分考慮すべきである。

(3) 活用型PHS事業について

ア 活用型PHS事業者は、指定電気通信設備(電気通信事業法38条の2)であるCのネットワーク、すなわち、C所有のPHS接続装置、PHS制御局等の設備による各種の機能を複合的に利用して、各利用者に対してPHSサービスを提供するものである。

したがって、Cのネットワークの存在がなければ、活用型PHS事業者がPHS事業を行うことは不可能であって、Cと接続しない限り、各利用者に対し、電気通信事業法に規定する「相互接続点を分界点とする」自己の役務提供を行うことはできない。

イ Cのネットワークを高速道路網に例えると、活用型PHS事業者の電気通信設備である基地局は、高速道路の接点(出入口)部分であるインターチェンジに相当し、原告の契約者の通信を制御するPHS制御局や通信網等の主要な電気通信設備である当該接点部分から内側のCの電気通信設備の全部が高速道路網に相当する。

また、付加機能のサービス提供は、原告が原告の契約者に提供するサービスとされているが、これもCの電気通信設備により提供されるサービスであるから、そのサービス提供をCから原告が受け、それを原告の契約者に提供しているものである。

ウ そもそも、PHSは、家庭や会社に登場したコードレスホンの子機が発展し、そのまま街中でも利用できるようになったサービスで、家庭や会社の中でも外でも一人一人が端末を使って、気軽に電話をかけたり、受けたりできるようになったものである。そして、従前の家庭の一般電話(C加入電話)における親機に相当するものが、PHSサービスにおいては基地局に当たり、子機に相当するものが、PHS端末に当たるものである。

したがって、PHSサービスの実態として、各利用者が活用型PHS事業者から提供を受けるサービスの根幹部分を成すサービスは、Cのネットワークを利用することによって初めて実現できるものである。

エ そうすると、活用型PHS事業者は、自己の事業を実現するために不可欠なものとして、Cから電気通信役務の提供を受けているというべきである。

(4) PHSの位置登録情報について

ア 活用型PHS事業者の場合、PHSサービスの提供に不可欠な位置登録情報は、Cの設備であるPHS制御局において管理されている。

位置登録情報の管理のために必要となる移動端末の位置情報は、符号化された電気信号となって、活用型PHS事業者の設備である基地局から、Cの設備である基地局回線、PHS接続装置、共通線信号網を経由して、Cの設備であるPHS制御局まで伝送されている。

イ この位置情報は、PHS端末が利用者とともに移動するという特性から、どの基地局から着信先のPHS端末を呼び出せばよいのか把握しておかなければ、利用者に通話をさせることができないため、活用型PHS事業者がPHSサービスを利用者に提供するのに不可欠なものである。

そして、位置情報は、PHS利用者が意図して行う通信ではなく、PHS端末とPHS制御局との間を自動的に伝送している信号であって、PHS利用者の通信とは無関係に行われている通信であり、活用型PHS事業者独自の通信に当たる。

(5) PHS事業者の費用負担について

ア PHS事業者は、PHS事業の開始当初において、Cと接続するために、①一般加入者(Cとの間で一般電話加入契約を締結した者をいう。以下同じ。)の通話料に相当する「網使用料」、②「設備使用料」及び一般加入者の設置一時金(7万2800円)と回線の基本料金に相当する「回線使用料」をCに支払っていた。

この時点で、PHS事業者が一般加入者と異なるのは、上記「回線使用料」と「網使用料」に加え、接続のために必要な設備又はソフトウェアの使用料として「設備使用料」を別途支払っている点である。この「設備使用料」については、PHS事業者が、Cが個別に算定した費用を100パーセント負担していた。

その後、Cは、平成8年にPHS事業者について接続料金を導入した。

イ 本件接続約款は、Cの電気通信設備と他事業者の電気通信設備との相互接続に関して、接続料や接続条件を定めたものである(本件接続約款1条)。

本件接続約款は、相互接続に当たり、①他事業者は相互接続に関する申込みを行い、Cがそれについて承諾を与えること(本件接続約款20条)、また、②他事業者は、接続料として、網使用料や網改造料のほかに、相互接続点ごとに工事費及び手続費として本件設置負担金(7万2800円)の負担を求められること(本件接続約款59条)などを定めている。

ウ 以上によれば、本件接続約款は、原告を含む他事業者とCが対等な関係にあることを前提にしておらず、むしろ、他事業者は、Cに依存する業態にあることを前提に、相当額の負担を条件に、Cのネットワークを利用することができる立場にあることを示している。

(6) まとめ

ア 以上のとおり、活用型PHS事業者とCとの間の相互接続のあり方を見ると、①活用型PHS事業者がCに支払う接続料のうち、網使用料及び本件設置負担金については、従前の一般電話(C加入電話)において加入者が負担した費用と何ら変わるところがないこと、②活用型PHS事業者は、相互接続によって、Cから各種の伝送機能及び交換機能の提供を受けるものであること、③活用型PHS事業者は、PHS事業の展開上必要不可欠なCのネットワークの利用について、工事費等の名目の下、本件設置負担金相当額の負担を条件に、CからCのネットワークの提供を受けていることなどに照らせば、活用型PHS事業者は、実質的に、従前の一般電話(C加入電話)における一般加入者同様に、基地局(親機)からCのネットワークの中に入り、Cのネットワークから提供を受ける各種機能と活用型PHS事業者の契約者回線とを利用することによって、活用型PHS事業者の加入者(子機)に対しPHSサービスの提供を行っているものということができる。

イ また、位置登録情報については、Cが、Cの電気通信設備を活用型PHS事業者とCの通信の用に供していることになるから、活用型PHS事業者は、位置情報の伝送については、電気通信事業法の規定からいっても、Cから電気通信役務の提供を受けているといえるし、当該電気通信役務の提供は、活用型PHS事業者とCとの間の相互接続協定に基づくものである。

したがって、活用型PHS事業者とCとの間の相互接続協定に基づき活用型PHS事業者が取得する権利には、電気通信事業法上の電気通信役務そのものの提供を受ける権利が含まれていると解するのが相当である。

ウ 相互接続については、電気通信事業法の解釈としては、国が公共性の高い電気通信事業の適正化を図るための立法であるという同法の目的に照らして、それぞれの事業者がエンドユーザーである利用者に対し、直接に役務提供する責任(又は義務)を負っているとの解釈が成り立ち得る余地があるとしても、このような解釈が直ちに事業者間の私法上の権利義務関係まで規律するものではない。

したがって、事業者間の権利義務関係については、活用型PHS事業者及びその利用者間における契約関係をも重視し、その取引の実態が、他事業者がCから電気通信役務の提供を受け、これとPHS事業者の契約者回線とを利用して、その利用者に対し、同様の役務提供をしている関係にあると評価することができるものであることを十分考慮すべきである。

(二) 本件における契約関係について

(1) ①PHS契約者は、PHSサービス約款に基づき、原告からPHSサービスの提供を受けることができることを条件に、原告との間で加入契約をすること、②原告は、PHS契約者から、その発信に係る通話について、Cのネットワークの使用料を含めた通話距離と時間に応じた通話料を請求し回収すること、③原告は、Cに対し、Cのネットワークの使用料として、本件接続約款に定める接続料(網使用料及び網改造料)を支払うこと、④原告は、PHSサービスについて、PHS契約者からの苦情の受付やその対応を行うこと、⑤原告又はCのいずれの責めに帰すべき理由であっても、PHSサービスの提供ができなくなった場合には、原告がPHS契約者に対し損害の賠償をすること、⑥相互接続通信に伴い、PHS契約者の通信が、Cのネットワークを利用してされることについて、CとPHS契約者との間では、PHSサービス約款等によっても、特に権利義務関係が定められていないこと、⑦原告は、C網依存型PHS事業者であって、PHS契約者の通信は、Cとの相互接続により、すべてCのネットワークを利用して行われていること等の各事実に照らすと、PHS契約者にとっての認識はもちろんであるが、C、原告及びPHS契約者間の権利義務関係から見ても、Cのネットワークの利用を含むPHSサービスのすべてが、原告から、PHS契約者に対して提供されているものと見ざるを得ない。

(2) また、「料金明細送付サービス」等のためのデータ送信は、Cと原告の通信そのものであり、Cが自らの電気通信設備を通信相手である原告の通信の用に供している関係にあって、原告は、CからCのネットワークによる電気通信役務の提供を受けていることとなる。

(3) したがって、結局、原告、PHS契約者及びCの関係において、原告がCから電気通信役務の提供を受け、これと原告の契約者回線とを利用してPHS契約者に対しPHSサービスの役務提供をしている関係にある。

(4) このことは、本件営業譲渡契約が行われた原告の平成11年3月期に関する有価証券報告書には、①携帯・自動車電話の通話料について、「当社の営業区域の携帯・自動車電話から発信し、C加入電話に着信した場合の通話料については、当社が設定したエンドエンド(…(略)…)の通話料を当社の電話収入とし、Cに対してはCのネットワーク使用費用としてアクセス・チャージを支払って」いる旨の記載があるほか、②PHSサービスを含む移動通信サービスに関する事業の系統図として、Cから、Cの電気通信設備の賃貸借等を受け、これによって移動通信サービスの提供を顧客に対して行っている旨記載されており、原告は、相互接続によりCのネットワークを賃借し、これによってPHS契約者に対してPHSサービスを提供しているとの認識をもって、原告が経理処理を行っていたことからも明らかである。

(三) 本件資産について

(1) 原告は、本件営業譲渡契約によって、Bから本件接続協定上の地位の移転を受け、本件資産の対価として、Bが事業用電気通信設備の設置に要する費用としてCに支払った負担金に相当する額を支払った。

これによって、原告は、Cから、Cのネットワークの機能の提供を受け、この機能とともに原告固有の契約者回線との双方を利用することによって、PHS契約者に対し、PHSサービスの提供を行い、PHS事業を行うことになった。

(2) Bは、BとCとの間で締結された本件接続協定に基づき、Cの電気通信設備と接続することによって、BがCのネットワークを利用することができる本件接続協定上の地位を取得するとともに、その地位を取得するために、基地局回線(エントランス回線)の設置費用を負担したものである。

すなわち、BがCに支払った本件設置負担金は、基地局回線(エントランス回線)設置のための工事費等の実費を負担するものではなく、他事業者がCのネットワークを利用することができるという本件接続協定上の地位を取得し、Cのネットワークへの出入口となる相互接続点を設けるごとに工事費等の名目で7万2800円をCに対し負担するものであって、本件接続協定上の地位の取得費用すなわち権利金的な性格を有するというべきものである。

このことは、①工事費等として支払われる金額が、一般電話(C加入電話)の設置の場合の電話加入権と同様、電話サービス約款に規定する電話加入権に関する施設設置負担金に相当する額(7万2800円)と一律に定められ、実際の工事費用の多寡とは連動していないことや、②基地局が設置されている通信用建物と同一の通信用建物内における当該基地局の移設の場合には、実費による工事費用の負担があるものの、新たに設置負担金を負担することなく基地局回線(エントランス回線)の設置を受けることができることからも裏付けられる。

(3) 本件接続約款10条によれば、Cは、他事業者との間で、Cの指定電気通信設備との相互接続に関する協定を締結し、Cの指定電気通信設備との相互接続を行い(本件接続約款1条)、相互接続により端末回線伝送機能、端末系交換機能及び市内伝送機能等、本件接続約款別表1の1-1に掲げる機能を提供すると規定されている。

そうすると、当該他事業者は、当然に、基地局回線(エントランス回線)の先にあるCの指定電気通信設備に関する機能の提供を受けることが予定されており、基地局回線(エントランス回線)という物理的設備そのものの利用権を取得することに価値があるのではなく、Cの指定電気通信設備の機能の提供を受けることに価値があるのである。

また、基地局回線(エントランス回線)は、Cのネットワークを利用するための相互接続点として設置するのであって、基地局回線(エントランス回線)の先の相手方事業者の設備に関する機能の提供を受けることに関係なく基地局回線(エントランス回線)により相互接続が果たされたとしても、このこと自体は何らの便益ももたらさない。仮に相互接続が可能になったとしても、相手方事業者の設備に関する機能の提供を受けることができないならば、利用者に通信をさせることはできないからである。

以上のとおり、本件資産は、電気通信施設利用権(事業用電気通信設備を利用して電気通信役務の提供を受ける権利)という電気通信役務の提供を受ける権利であって、費用を負担した個別の設備(物理的設備)を利用するためだけの権利ではない。

(4) 基地局回線(エントランス回線)は、Cとの間で相互接続協定を締結する活用型PHS事業者にとって、Cのネットワークの機能の提供を受けて相互接続協定の内容を実現するために不可欠なものであり、他方、基地局回線(エントランス回線)は、相互接続協定を締結した者でなければ必要のないものであることに照らせば、相互接続協定と基地局回線(エントランス回線)は不可分一体のものである。

Cとの間で相互接続協定を締結する活用型PHS事業者にとって、PHSの持つ移動通信機能(移動電話サービス)の発揮や利用可能区域(通話可能区域)の確保等の観点から、自ら定めた業務区域において、必要数の基地局回線(エントランス回線)を設置することは、相互接続協定の内容を実現するために当然すべきことなのである。

したがって、基地局回線(エントランス回線)の設置費用の負担は、相互接続協定締結の条件として明確には規定されていないとしても、Cとの間で相互接続協定を締結する活用型PHS事業者が、当該事業の開始はもとより利用可能区域の拡大等に当たって、その業務区域における必要不可欠な多数の基地局回線(エントランス回線)を設置しないことはあり得ず、活用型PHS事業者にとっては、基地局回線(エントランス回線)の設置費用の負担と相互接続協定の締結とは不可分一体のものである。

そして、電気通信役務の提供を受ける権利の実現のために必要となる費用は、当該権利の取得の費用と評価できるものである。すなわち、Cとの間で相互接続協定を締結した電気通信事業者が、Cから取得した電気通信役務の提供を受ける権利を実現するために必要となる基地局回線(エントランス回線)の設置費用を負担することは、当該事業者が、相互接続点ごとに7万2800円として算定した工事費等名目の負担金を支払うことにより、Cのネットワークを利用することができるという利用権(協定上の地位)を取得するものであるから、本件接続協定上の地位の取得費用すなわち権利金的な性格を有するものというべきものである。

(5) 以上のとおり、原告が本件営業譲渡契約によって取得した本件資産は、Bが既に取得していたCのネットワークを利用することができるという本件接続協定上の地位の取得費用すなわち権利金的な性格を有するものであって、事業用電気通信設備の設置に要する費用を負担(Bが負担したものを原告が同額の対価で取得)し、その設備を利用して電気通信役務の提供を受けるための権利であるから、法人税法施行令13条8号ソに規定する「電気通信施設利用権」に該当するものである。

3 本件資産の単位について

(一) 法人税法施行令133条において、減価償却資産の取得価額が10万円未満であるか否かの判定単位について法令上の定めはないが、一般論としては、通常一単位として取引されるその単位ごとに、その取得価額が10万円未満であるか否かを判定することが相当である。

そして、法人税法施行令13条8号に列挙されている無形固定資産である減価償却資産について、これと異なる解釈をすべき理由はないから、当該無形固定資産である減価償却資産についても同様に解すべきである。

ただし、無形固定資産である減価償却資産における通常一単位として取引されるその単位の意義については、当該資産が、器具・備品等のような「物」ではなく、特許法等の法令の規定に基づく権利、契約により成立する法的権利等であることから、その取得原因に応じて適切に解釈されるべきである。

(二) 電話サービス約款、専用サービス約款及びパケット交換サービス約款は、それぞれ「1回線」ごとに「1の契約」を締結する旨規定しているが、本件接続約款は、「1の他事業者と1の協定を締結する」旨規定している。

上記各約款の規定に照らせば、電話サービス契約、専用サービス契約及びパケット交換サービス契約の各契約者は、当該契約を締結することによって、Cのネットワークに接続し、役務提供を受けることとなり、これらの契約については、1回線ごとに役務提供を受ける権利が成立すると考えられる。

これに対し、相互接続においては、他事業者は、相互接続協定を締結することによってCのネットワークに接続することとなり、このような本件接続約款の規定に照らせば、相互接続における他事業者の接続する権利は、相互接続協定ごとに成立すると解することができる。

そして、本件接続約款38条によれば、一つの事業者とは一つの相互接続協定しか締結することができないから、Bが、Cから取得した本件接続協定上の地位は一つであり、その地位の取得のために支出する負担金の性格は、本件接続協定上の地位の取得費用というべきものである。

そうすると、本件営業譲渡契約によって、Bから本件接続協定上の地位の移転を受けた原告においても、Cとの間に有する協定上の地位は一つである。

また、本件営業譲渡契約によって、原告がBから取得した本件資産は、Bが本件接続協定によってCから取得したCのネットワークの機能の提供を受けるという一つの権利を、原告がBから取得したものであるから、本件資産は、法人税法施行令13条8号ソに規定する電気通信施設利用権という一つの権利というべきである。

(三) そもそも、相互接続により、Cとの間の協定上の地位を取得した他事業者(PHS事業者)が、相互接続に必要な基地局回線(エントランス回線)を設置しないことはあり得ないのであって、本件資産の額は、本件接続協定上の地位に基づきCのネットワークに接続するために必要となる施設の設置費用の負担、すなわち、役務提供を受ける権利の対価の額を基地局回線(エントランス回線)の数によって算定しているにすぎない。

したがって、本件資産が無形固定資産である以上、それが基地局回線(エントランス回線)の数によって算定されるからといって、算定の基礎となった有体物である「回線」そのものの「有形固定資産」と同様に取り扱われるべきものではない。

(四) 本件における個々の基地局回線(エントランス回線)の申込み及び承諾は、Cから電気通信役務の提供を受けるという本件接続協定の目的を実現するための手段であって、原告の申込みがあれば、原則として設置が承諾されるものである。

そうすると、当該申込み及び承諾は、単に、Cの電気通信事業に支障が生じることのないように、基地局の設置工事の時期及び規模を事前に確認する手続にすぎないから、当該申込み及び承諾により、新たに電気通信役務の提供を受ける権利が生じるとはいえない。

したがって、本件資産について、基地局単位に見て、それぞれが一単位の減価償却資産と解するのは相当でない。

(五) 以上によれば、本件資産は、一単位の減価償却資産であるから、本件営業譲渡契約における本件資産の購入代価の全額が、本件資産の取得価額となる(法人税法施行令54条1項1号イ)。

そうすると、本件資産は、減価償却資産ではあるが、その取得価額が10万円を超えているから、法人税法施行令133条を根拠として、その全額を損金の額に算入することはできない。

4 原告がCに支払った本件設置負担金について

活用型PHS事業の実態を踏まえて法人税法施行令13条8号ソの規定を解釈すれば、活用型PHS事業者は、Cから電気通信役務の提供を受けていると認められる。そうすると、少なくとも、活用型PHS事業者のCとの相互接続協定上の地位は、第一種電気通信事業者(C)に対して事業用電気通信設備の設置に要する費用を負担し、その設備を利用して電気通信役務の提供を受ける権利に該当する。そして、基地局回線(エントランス回線)を増設するとCのネットワークへの相互接続点が増加し、利用可能区域の拡大又は高密度化をもたらし、Cから電気通信役務の提供を受ける権利である本件資産の価値を高めるものである。

したがって、本件設置負担金の支出は、法人税法施行令132条2号の資本的支出に該当し、当該支出した事業年度の損金の額に算入することはできない。

二 原告の主張

1 原告の主張の骨子

(一) 相互接続における原告とCの間の法律関係は、それぞれが利用者に対し、相互接続点を責任分界点として、自らの電気通信設備に関する電気通信役務を提供する関係にある。このような関係は、電気通信事業法の下における整理にとどまらず、実際に電気通信事業法の規制の下で当事者が締結した契約関係にも反映されている。

活用型PHS事業者のみが、個々の相互接続点における接続に際して、Cに本件設置負担金を支払うのは、相互接続のためには、エントランス回線という特別の設備が必要であり、しかもそれがC所有の設備として工事されるため、活用型PHS事業者の側でも応分の負担をしなければならないからである。

そうすると、原告又はBが本件設置負担金の支払により取得する権利は、相互接続のためのエントランス回線を利用する権利(以下「本件権利」という。)であるというべきである。

そして、原告は、Bから、本件権利6万3145回線分をまとめて本件資産として譲り受けたものである。

(二) 本件権利は、エントランス回線という有体物のみを対象とするものであり、エントランス回線という物理的設備の存する単位、機能、独立性、個別性等によれば、本件権利は1回線を単位とする資産であるというべきである。

仮に、本件権利がエントランス回線のみを対象とする権利であることを前提としなくとも、本件権利がエントランス回線の存在なくして成り立たない権利である以上、エントランス回線の設置の契機を基準に、その取得単位は構成されるべきである。そして、エントランス回線が設置される際の単位である1回線が本件権利の取得単位であること、また、特定の2事業者間で基本的に当初に一つだけ締結される相互接続協定は、共通事項のみをあらかじめ定めておく基本契約にすぎず、個々のエントランス回線の設置申込み及びその承諾が、具体的な権利義務を生じさせる個別契約としての意義を有することからすれば、本件権利はエントランス回線1回線を単位とする資産といわざるを得ない。

(三) 以上によれば、原告がB及びCから取得した本件権利の取得価額は、エントランス回線1回線当たりの7万2800円であって、10万円未満であるから、本件資産は、法人税法施行令133条の少額減価償却資産に該当し、事業の用に供した事業年度に損金の額に算入することができる。

2 本件権利の性質について

(一) 相互接続について

(1) エントランス回線を利用する権利である本件権利は、電気通信回線設備を自ら設置して電気通信事業を行う第一種電気通信事業者であるCと原告の間における、相互接続という電気通信事業法によって規律される関係に基づくものである。

相互接続とは、異なる電気通信事業者の間で、通信可能な範囲を広げるとともに、利用者に対して総合的なサービスを提供するために、その有するネットワークを相互に接続することである。

相互接続における電気通信事業者間の関係は、一方の電気通信事業者が他方の電気通信事業者に対して、一方的に役務その他を提供するという関係ではなく、お互いの電気通信設備が接続されることで、お互いに便益を受けるという関係である。例えば、本件で原告とCの間で相互接続を行うことにより、原告の契約者であるPHS端末利用者は、Cの契約者である固定電話利用者等との通話が可能となるが、同時にCの契約者である固定電話利用者も、原告の契約者であるPHS端末利用者と通話可能となるのであって、原告のPHSネットワークが便益を受けるのみならず、Cのネットワークも便益を受けるのである。

(2) 相互接続においては、電気通信事業者がそれぞれのネットワークを互いに接続することにより、相互に通信量を増加させ、ネットワークの効率的活用を図るとともに、通信量の増加に伴う自己の提供サービスの増加という便益を受ける。

すなわち、Cの提供する端末(家庭用固定電話や公衆電話等)のみが電話の手段であったときは、Cのネットワークの中には、Cの提供する端末で発信し、かつ受信する通話しか存在しなかった。しかし、携帯電話やPHSが登場し普及することにより、携帯電話から固定電話、PHSから固定電話、携帯電話から携帯電話、携帯電話からPHS、PHSからPHSなどのように、様々な形態の通話が存在するようになり、しかもそれらの通話の多くは、Cのネットワークを介した通話となる。そうすると、それら様々な形態の通話ができることによって通話の総量が増えることで、Cのネットワークにおける通話量も増え、他の電気通信事業者との契約者による通話であっても、Cの提供する電気通信役務が増加することとなり、Cも役務提供機会の増加という便益を受けるのである。

(二) 相互接続と電気通信事業法について

(1) 電気通信事業法上、相互接続を行う電気通信事業者間において相互接続に基づき生ずる関係は、電気通信役務の提供関係ではないと位置付けられている。

なぜなら、電気通信事業法上、「電気通信役務」は「電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他電気通信設備を他人の通信の用に供すること」と定義されている(電気通信事業法2条3号)が、電気通信事業者の間の相互接続により媒介されている通信は、実際に通話を行っているそれら電気通信事業者との契約者である利用者の通信であって、電気通信事業者の通信ではないので、役務の提供対象者は飽くまで利用者だからである。

(2) このような定義上の帰結は、電気通信事業法における規制の体系によっても支持される。

電気通信事業法31条は、電気通信事業者のうち第一種電気通信事業者の提供する電気通信役務に関する料金について、届出制を原則としつつ、特定の電気通信役務に関しては、郵政大臣が基準料金指数を定めて、命令又は料金変更の際の許可制により基本的にはその基準料金指数以下の料金指数の料金に抑えさせるという規制を行っている。

それに対して、第一種電気通信事業者の電気通信設備との相互接続に関しては、接続の対象となる電気通信設備が郵政大臣の指定を受けたものか、指定を受けた場合それがいかなる指定なのかによって、電気通信事業法38条の2から38条の4までのいずれの規制を受けるかが決まる。それにより、相互接続に関し電気通信事業者間で支払われる接続料について定める相互接続約款又は相互接続協定に関して、郵政大臣の認可を受けなければならないのか、それとも届出だけでよいのかが異なる。

いずれにしても、相互接続に関し電気通信事業者間で支払われる接続料が、電気通信役務に関する料金とは異なる条文及び制度による規制に服していることは明らかである。

(3) 申込みを拒否する自由に関する規制も、電気通信役務の提供と相互接続の実施とでは、電気通信事業法上別のものとして取り扱われている。

電気通信役務の提供については、電気通信事業法34条により、電気通信事業者は、正当な理由がなければ、その業務区域における電気通信役務の提供を拒んではならないものとされている。

それに対して、相互接続に関しては、電気通信事業法38条は、電気通信事業者は、他事業者から当該他事業者の電気通信設備をその電気通信回線設備に接続すべき旨の請求を受けたときは、同条各号に掲げる一定の場合を除き、これに応じなければならない旨を規定し、電気通信役務の提供の申込みを受けた場合とは異なることを前提として、異なる規制をしている。

このような規制においては、相互接続の申込みを受けた場合の方が、電気通信役務の提供の申込みを受けた場合に比べて、拒否することができる事由は範囲が広いものと解されている。

(4) 以上のような電気通信事業法における電気通信役務の提供関係と相互接続の下での電気通信事業者間の関係との区別は、複数の電気通信事業者が介在する場合における電気通信役務の提供関係についての電気通信事業法上の法律関係の整理に基づく。

すなわち、複数の電気通信事業者が介在する場合における電気通信役務の提供については、一つの電気通信事業者が、別の電気通信事業者に電気通信役務を提供し、後者が利用者に対し、これを再販するという形態も制度設計上は考えられ、現に電気通信事業法には、平成13年法律第62号による改正により「卸電気通信役務」という役務提供形態が導入された(電気通信事業法31条1項最初の括弧書)。

それとは別の形態として、複数の電気通信事業者が、それぞれ利用者に対し、相互接続点を責任分界点として、自らの電気通信設備に関する電気通信役務を提供する方法として、上記改正の以前から相互接続方式が用意されていた。

相互接続方式は、一方の電気通信事業者が他方の電気通信事業者の提供する電気通信役務の料金を、自らが提供する電気通信役務の料金と合わせて利用者に対し設定する方式(以下「エンドエンドの料金設定」という。)を行う際には、卸電気通信役務の再販方式と区別がつきにくいとも考えられる。

しかし、相互接続方式においては、卸電気通信役務の再販方式とは異なり、飽くまでそれぞれの事業者が利用者に対し直接に役務提供し、利用者に対し契約履行責任を負うものとされる。そして、電気通信事業法が、このような複数の電気通信事業者が介在する場合における電気通信役務の提供形態として、相互接続方式のみを当初導入し、卸電気通信役務の再販という形態を導入しつつも相互接続方式を存続させているのは、相互接続方式における、卸電気通信役務の再販方式とは異なる役務提供関係及び責任関係に意味があるからであると考えられる。

(三) 電気通信事業法における相互接続関係について

(1) 電気通信事業法上の相互接続における電気通信役務の提供関係の整理は、電気通信事業者と利用者の間の契約や電気通信事業者間の相互接続に関する契約にも反映されている。

すなわち、電話サービス約款や本件接続約款においても、相互接続では、相互接続を行う電気通信事業者がそれぞれ利用者に対し、自らの電気通信設備に関する電気通信役務を提供していることを前提として契約条項が規定されている。

(2) 電話サービス約款においては、他事業者との相互接続点との間の通話、他事業者との相互接続点相互間の通話等を「相互接続通話」として定義した上で(電話サービス約款3条の28欄)、このような相互接続通話を行うことができる場合を規定する条文を置くとともに(電話サービス約款61条)、契約者、公衆電話の利用者又は相互接続通話の利用者が相互接続通話に関する料金の支払を要するものとしている(電話サービス約款81条1項)。

電話サービス約款においては、Cとの契約者のみならず、相互接続を行っている他事業者との契約者も、相互接続によりCの回線を用いる場合には、Cの利用者として電話サービス約款の適用を受けるものであることを前提に条文が設けられている。

(3) 原告のPHSサービス約款においては、原告が提供するPHSサービスに関する通話はすべて契約者回線と相互接続点との間の相互接続通話である旨を規定している(PHSサービス約款41条)。

PHSサービス約款は、相互接続点の先のCのネットワークを用いている部分は、原告の提供するサービスに関する通話ではないこと、すなわちCのネットワーク部分は原告による利用者に対する役務提供ではないことを明確化している。

(4) 本件接続約款においては、「利用者」をC又は相互接続の相手方である他事業者が提供する電気通信サービスを利用する者と定義した上で(本件接続約款3条の34欄)、利用者料金の設定や請求等の利用者との関係における法律関係の整理を行うための条文を第13章「利用者への責任に関する事項」と題する章に規定し(本件接続約款84条から89条まで)、C及びCと相互接続を行う電気通信事業者の双方が、利用者に対して直接に法律関係を有することを前提に条文が設けられている。

(5) このように、相互接続を行う電気通信事業者のいずれもが、相互接続通話を行う利用者に対して、直接に役務提供を行う関係にあるということは、特に相互接続通話に関する料金について、債権譲渡方式を用いる際には顕著となる。

すなわち、債権譲渡方式においては、相互接続通話に関する複数の電気通信事業者のそれぞれが、自らの役務提供、すなわち相互接続通話のうち自らの電気通信設備を用いている部分について、料金を設定し、このような料金について生じた利用者に対する債権を電気通信事業者に債権譲渡し、当該電気通信事業者が利用者に対して相互接続通話に関する料金債権をまとめて請求し、その他の電気通信事業者は債権譲渡代金から手数料を控除した金額を当該電気通信事業者から受領することにより、料金の回収を行う。したがって、債権譲渡方式においては、相互接続通話に関する電気通信事業者の役務提供に対する対価としての料金の設定及び回収という関係が明らかになっている。債権譲渡方式については、本件接続約款73条、電話サービス約款81条3項及び4項並びに82条に規定がある。

債権譲渡方式は、原告とCの間では現在用いられていないが、原告の携帯電話部門とCの間、その他平成8年以前に存在していた相互接続関係においては、エンドエンドの料金設定方式が導入されるまでは、債権譲渡方式が用いられていた。

このようなエンドエンドの料金設定方式の導入は、相互接続通話について利用者料金の低廉化等を促進するために行われたものであって、役務の提供関係を変更しようという趣旨は全くなかった。電気通信事業に関する監督官庁である総務省(従前の郵政省)においても、役務の提供関係については、エンドエンドの料金設定方式の導入後においても、それぞれの事業者が利用者に対し直接に役務提供し、利用者に対し契約履行責任を負うものであると理解している。

したがって、債権譲渡方式が、相互接続通話に関する料金について、少なくとも当初は原則的な方式として用いられていたというのは、相互接続通話に関する電気通信事業者のそれぞれが、利用者に向けて直接に役務提供を行っており、事業者間では利用者に対して並行的に役務を提供している関係に立っているにすぎないということを示している。

(四) 相互接続と金銭の支払関係について

(1) Cとの相互接続に基づき、接続事業者がCに支払う金額には、接続料金と呼ばれているものの中に、網使用料(本件接続約款料金表第1表第1)及び網改造料(同料金表第1表第2)があるほか、工事費及び手続費(同料金表第2表)があり、この中に、本件で問題となっている1回線当たり7万2800円の本件設置負担金が含まれている。なお、網使用料の中には、定額制のもの(本件接続約款61条)と従量制のもの(本件接続約款62条)とがある。

(2)ア 従量制の網使用料は、利用者料金についてエンドエンドの料金設定方式が通常取られているために、相互接続通話に関する利用者料金を、相互接続通話に用いられるネットワークを保有する電気通信事業者間で配分する役割を有するものである。

すなわち、エンドエンドの料金設定方式では、相互接続通話に用いられるネットワークを保有するすべての電気通信事業者の相互接続通話に関する料金を、そのうちの一つの電気通信事業者が設定することになるが、他の電気通信事業者は、当該相互接続通話について、その料金設定を行った電気通信事業者から直接又は間接に従量制の網使用料を受け取ることによって、相互接続通話に関する電気通信役務の料金を回収するのである。

従量制の網使用料は、基本的には相互接続を行う電気通信事業者間で双方向に支払われるものであり、本件接続約款においてもCが料金設定を行う電気通信事業者となる場合には、接続事業者から支払を要しない旨規定されているが(本件接続約款料金表第1表第1の1)、むしろそのような場合には、Cから接続事業者に向けて、両者間の協定に基づき従量制の網使用料を支払うべきこととなる。

イ 現在、PHS発固定電話着の相互接続通話及び固定電話発PHS着の相互接続通話の両者とも、PHS側の電気通信事業者が料金設定を行うこととなっているので、原告とCのみの間における相互接続通話においては、原告が料金設定を行う側の電気通信事業者となり、原告からCに従量制の網使用料を支払うことになる。

しかし、例えば「0120」で始まるフリーアクセスへのPHS発の通話のように、Cが料金設定を行うこととなる通話もあり、その場合には、Cが原告に対して従量制の網使用料を支払うことになるのである。また、相互接続の中で、発信と着信により料金設定事業者が異なる場合においては、双方向に従量制の網使用料が支払われ、Cも接続事業者に対して従量制の網使用料を支払うことになる。

また、固定電話発PHS着の相互接続通話と同様に、移動通信体の事業者側で料金設定を行ってきた固定電話発携帯電話着の相互接続通話でも、遅くとも平成17年4月1日からCの事業者識別番号(<省略>)を最初にダイアルする通話に関しては、C側で料金設定を行い、携帯電話事業者としての原告に従量制の網使用料を支払うこととなる。

さらに、例えば携帯電話発Cのネットワーク経由原告のPHS着の相互接続通話に関しては、携帯電話に関する電気通信事業者が料金設定を行う電気通信事業者となるので、原告も携帯電話に関する電気通信事業者から従量制の網使用料の支払を受けている。原告とこのような携帯電話事業者との関係は、原告が携帯電話事業者に対して役務提供をしているという関係とはいえない。

ウ したがって、従量制の網使用料は、エンドエンドの料金設定を行う際に、どの電気通信事業者が料金設定を行うのかという取決めに基づきいくらでも変わり得るものであって、エンドエンドの料金設定についていかに事業者間で配分を行うのかという、極めて技術的な事項に関するものである。

つまり、従量制の網使用料には、相互接続に関する電気通信事業者の一方が他方の電気通信事業者に一方的に役務提供をすることに関する対価といった性格はない。

(3)ア 網改造料は、相互接続通話のためにCのネットワーク内における付加的な機能が必要となる場合に、このような付加的な機能のために必要なCにおける設備又はソフトウェアの工事費又は開発費を基に計算した設備管理運営費等について、接続事業者に転嫁するために課されるものである(本件接続約款料金表第1表第2)。

このような網改造料は、Cのネットワーク内部の設備又はソフトウェアの工事費又は開発費に基づく点において、エントランス回線の工事費用の負担とは別個並列的な関係に立つものである。

つまり、同じ工事費又は開発費でも、本件設置負担金はエントランス回線を対象とするのに対して、網改造料はエントランス回線とは異なるPHS接続装置等のCのネットワーク内における設備又はソフトウェアを対象とするものである。

イ したがって、接続事業者は、本件設置負担金の支払によりエントランス回線を用いることができるようになるが、網改造料の支払対象である付加的な機能については、網改造料という形で必要な設備又はソフトウェアの工事費又は開発費を負担することによって、それを利用できるようになるのであって、本件設置負担金を対価としてこのような機能を利用できるようになるのではない。

そうすると、網改造料は、エントランス回線とは異なるPHS接続装置等のCのネットワーク内部の設備又はソフトウェアに関する機能について支払われるのであって、本件設置負担金の支払事由とは別個の事由に基づき支払われるものである。

(4) 工事費及び手続費は、Cが相互接続に関連して、特定の接続事業者のために行う工事や手続に関して徴収する費用であり、本件設置負担金のみならず、例えば原告の契約者回線番号等をCのPHS制御局に登録する工事に関する費用等も含まれている。

(5) 定額制の網使用料は、C側で設置維持する設備であって、特定の接続事業者との相互接続のために必要となるものに関して、月当たりの定額で当該接続事業者に課される料金であるが、エントランス回線に関する月額固定料金(平成10年12月1日当時1回線当たり月額1741円)等が含まれる。

(6) 以上のCとの相互接続に基づき接続事業者がCに支払う金額は、別々の支払事由に基づく、別個の支払金額であるというべきである。

本件設置負担金とエントランス回線について支払われる定額制の網使用料とは、どちらもエントランス回線について支払われるものであるが、エントランス回線設置に関する初期費用の負担と、エントランス回線を実際に使用することに関する継続的支払の差異がある。従量制の網使用料や網改造料の支払は、相互接続通話に関しエンドエンドの料金設定を行う際の電気通信事業者間の料金配分、あるいはエントランス回線とは異なるCのネットワーク内部の設備又はソフトウェアに関する機能についての支払として位置付けられるのであって、エントランス回線とは関係なく、本件設置負担金とは完全に別個の事由に基づくものである。

(7) 本件設置負担金は、エントランス回線の設置工事費用の負担及びそれに関する手続のために支払われるのであって、Cのネットワークにおける相互接続通話の利用者に対するCの役務提供及びCのネットワーク内部のエントランス回線以外の設備又はソフトウェアに関する機能の提供のために支払われているわけではなく、それら役務提供や機能提供を受けるための前金である性格を有するものではない。

したがって、本件設置負担金の支払により取得する本件権利は、飽くまで本件設置負担金の支払対象であるエントランス回線に関する権利であって、Cの役務提供又はCのネットワーク内部のエントランス回線以外の設備又はソフトウェアに関する機能の提供を受ける権利ではあり得ない。

(五) 網改造料の支払対象である設備又はソフトウェアについて

(1) PHSによる通話を実現させるためには、1回線のエントランス回線が機能していればよいのではなく、他にも様々なCの設備又はソフトウェアも機能することが必要である。

しかし、それは、相互接続点のみが存在すれば相互接続通話が成立するのではなく、飽くまで相互接続点の先に存在する相互接続の相手方である電気通信事業者のネットワークが機能しなければ相互接続通話はできない以上、当然のことである。

(2) 網改造料の支払対象であるCの設備又はソフトウェアに関する機能は、Cのネットワークを用いる相互接続通話において、Cが相互接続通話に関する電気通信役務を当該相互接続通話の利用者に提供するに当たって、そのCのネットワークの中において発揮されるという点において、Cのネットワークに関する機能である。

例えば、C所有のPHS制御局においては、個々のPHS端末の位置を把握しておいて、あるPHS端末への通話の呼出しがあったときには、当該PHS端末に最も近い相互接続点までCのネットワーク内で呼出しを導き、それにより当該通話がつながることを可能とするのであるが、それはCのネットワーク内における通話呼出しの誘導というべきものであって、Cのネットワーク内での相互接続通話の利用者に対する直接的な電気通信役務の提供そのものである。

(3) したがって、相互接続通話がエントランス回線を通じて接続されているにしても、C所有のPHS制御局に関する電気通信役務の提供は、その設備において直接に利用者に対して行われているものであって、原告が役務提供を受けているものではない。

このような電気通信役務の提供は、相互接続通話に関する電気通信事業者それぞれのネットワークにおいて、そのネットワークに関する部分の役務提供という形で並列的に行われているのであり、原告が相互接続通話に関するすべての電気通信事業者の役務提供をまとめて、自己の役務提供として行っているものでもない。

また、PHS端末の位置情報をCのPHS制御局において把握しておくためには、個々のPHS端末からエントランス回線を通じて位置情報がCのPHS制御局に集積されていることが必要である。しかし、それはCがPHS制御局という設備をもって利用者に対する電気通信役務の提供をするためにC側で行う準備行為であって、このようなC側の準備行為のためにエントランス回線の伝送機能が用いられているにすぎない。

(4) 以上のとおり、エントランス回線は、Cの電気通信設備と原告の電気通信設備を物理的に結び付けるという、Cを通じた相互接続通話のために必要不可欠な機能を有するが、特にそれを超える機能を有するものではなく、Cのネットワークの機能がエントランス回線に化体されるわけでもない。

エントランス回線以外のCのネットワーク内の設備又はソフトウェアのためには、エントランス回線のための工事費や使用料とは別個に、その工事費や開発費を勘案した使用料が支払われているのであるから、エントランス回線の設置工事費用の負担及びそれに関する手続のために支払われる本件設置負担金は、Cのネットワークに関する機能提供と見合いの関係にあるわけではない。

したがって、本件設置負担金が網改造料の支払対象である設備又はソフトウェアに関する機能のために支払われるという見方は、明らかに見当違いのものである。

(六) 税法上の電気通信施設利用権の定義規定の位置付け

(1) 法人税法施行令13条8号ソは、電気通信施設利用権について定義している。

Cは、電気通信事業法上、第一種電気通信事業者に分類され、エントランス回線は、Cが設置する事業用電気通信設備であり、本件設置負担金は、その設置に関する工事費及びその付随費用である手続費である。したがって、原告がCに本件設置負担金を支払う関係は、法人税法施行令13条8号ソの電気通信施設利用権の定義のうち、費用の負担関係に関する部分、すなわち「電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第12条第1項(事業の開始の義務)に規定する第一種電気通信事業者に対して同法第41条第1項(電気通信設備の維持)に規定する事業用電気通信設備の設置に要する費用を負担し」という部分(以下「電気通信施設利用権の定義の前段部分」という。)に合致している。

(2) しかし、電気通信施設利用権の定義の前段部分において規定される費用の負担により生ずる法律関係について記述する電気通信施設利用権の定義の後半部分、すなわち「その設備を利用して同法第2条第3号(定義)に規定する電気通信役務の提供を受ける権利」という部分(以下「電気通信施設利用権の定義の後段部分」という。)に関しては、本件権利にそのまま当てはまるものではない。

なぜなら、相互接続においては、電気通信役務は利用者に対して提供されているのであって、Cから原告に対して提供されているものではなく、原告がCから「電気通信役務の提供を受ける権利」をエントランス回線について有することはあり得ないからである。特に、電気通信施設利用権の定義の後段部分の「電気通信役務」という文言については、電気通信事業法上の定義規定を引用しているのであるから、電気通信事業法上の意味と異なる意味を有することはあり得ず、電気通信事業法上、上記のように相互接続を行う電気通信事業者間において当該相互接続に基づき生ずる関係は、電気通信役務の提供関係ではないと位置付けられている以上、電気通信施設利用権の定義の後段部分がそのまま本件権利に当てはまることはあり得ない。

(3) また、本件権利の内容は、税法上の「電気通信施設利用権」の定義規定に規律され、又は影響されるものでもない。なぜなら、本件権利は、電気通信事業法により設定された枠組みの下で締結され、私法により規律されているところの当事者間の契約に基づくものであるが、税法上の定義規定は、税法上一定の取扱いを行うものについて、このような業法や私法の下での権利関係が該当するか否かを規律するにすぎず、このような権利関係自体を規律するものではないからである。

(4) 以上によると、電気通信事業法上の位置付けからすれば、本件権利は、電気通信役務の提供を受ける権利ではなく、また、税法上の電気通信施設利用権の定義規定によりその権利内容に修正を受けるわけでもないので、電気通信施設利用権に該当しないとも考えられる。

しかし、類似規定との比較により読み取ることのできる電気通信施設利用権の定義の後段部分の趣旨からすれば、本件権利が少なくとも電気通信施設利用権の定義の前段部分に該当する以上は、本件権利も電気通信施設利用権に該当するか、又は少なくともそれに準ずるものとして無形固定資産に該当するものというべきである。

(七) 無形固定資産として定義される種々の利用権と本件権利

(1) 法人税法施行令13条8号ヲからソまでに無形固定資産として定義される種々の利用権に、本件で問題となっている電気通信施設利用権も含まれている。

法人税法施行令13条8号ヲからレまでの無形固定資産は、いずれも一定の事業者等に対して施設設置の費用を負担してその施設を利用して便益を受ける関係を、無形固定資産として捉えている。そのうち同号カからレまでについては、その定義規定において「施設を利用して」という文言と「権利」という文言の間に何らかの文言が入っている。

しかし、そのような間に置かれている文言、すなわち電気ガス供給施設利用権についての「電気又はガスの供給を受ける」という文言、熱供給施設利用権についての「同条第1項に規定する熱供給を受ける」という文言、水道施設利用権についての「水の供給を受ける」という文言、及び工業用水道施設利用権についての「工業用水の供給を受ける」という文言については、説明的な文言にすぎず、付加的な要件を課す文言ではないものと思われる。

なぜなら、電気又はガスの供給施設は、電気又はガスの供給のための施設である以上は、その利用は必ず電気又はガスの供給を受けるということを意味すると考えられ、熱供給施設の利用と熱供給を受けること、水道施設の利用と水の供給を受けること、及び工業用水道施設の利用と工業用水の供給を受けることも、同様の関係に立つと考えられるからである。

これらの文言は、結局のところ、所定の施設を利用するがこれらの文言に該当しない場合というものが考えられない以上、これらの文言に該当しない場合を定義から排除するというよりは、所定の施設の利用により納税者がいかなる便益を享受するのかを説明し、もって無形固定資産とされる権利の内容をより明らかにする趣旨であると思われる。

(2) 上記のような法人税法施行令13条8号ヲからレまでの無形固定資産の定義規定についての理解を前提とすれば、同号ソに規定する電気通信施設利用権の定義の後段部分中の「同法第2条第3号(定義)に規定する電気通信役務の提供を受ける」という文言についても、電気通信施設の利用により納税者がいかなる便益を享受するのかを説明し、もって無形固定資産とされる権利の内容をより明らかにする趣旨であって、このような文言に該当しない場合を定義から排除する趣旨ではないと考えられる。

したがって、実際には電気通信施設の利用により電気通信役務の提供が行われる場合でなくとも、電気通信施設利用権の定義の前段部分に該当し、かつ、電気通信施設の利用関係さえあれば、電気通信施設利用権の定義から排除する趣旨ではないものと考えられる。

よって、本件権利についても、Cに対する本件設置負担金の支払という関係で、電気通信施設利用権の定義の前段部分に該当し、かつ、当該支払により、その支払の対象であるエントランス回線という電気通信施設を原告が利用できるようになるのであるから、本件権利は、電気通信施設利用権に該当するか、又は少なくともそれに準ずるものとして、無形固定資産に該当するというべきである。

(八) まとめ

(1) 以上によると、原告とCの間で相互接続が行われる際の関係は、原告とCがそれぞれ利用者に対し、相互接続点を責任分界点として、自らの電気通信設備に関する電気通信役務を提供するという関係であって、Cが原告に電気通信役務を提供するという関係ではない。原告とCとは、お互いの電気通信設備が接続されることで、それぞれ自らの電気通信事業を行うに当たって、お互いに便益を受けるが、それは双方向的なものであって、一方的なものではない。

したがって、原告が、Cと相互接続を行うだけのために、権利金的な性格を有する支払をする理由はない。

(2) 原告からCに様々な支払がされるが、それらは相互接続そのものに関して支払われるというよりも、相互接続全体の中における様々な支払事由に基づく別個の支払である。

例えば、従量制の網使用料は、Cによる相互接続通話の利用者に対する役務提供について、相互接続通話に関するC以外の電気通信事業者が設定する料金をCに配分するための支払である。また、網改造料は、Cのネットワーク内において原告との相互接続通話のために付加的な機能が必要となる際に、その機能のために必要な設備又はソフトウェアの工事費又は開発費について原告が負担するための支払である。

本件設置負担金は、これらの支払に加えて、それらとは別個のものとして支払われているのであって、役務提供を受けたり、Cのネットワーク内部のエントランス回線以外の設備又はソフトウェアの機能を利用するための支払ではない。

また、本件設置負担金は、相互接続協定の締結により支払われるものではなく、飽くまでエントランス回線が現実に設置される際に、エントランス回線についてのみ支払われるのであるから、本件設置負担金が相互接続協定全体の権利金や前金としての性質を有することはあり得ない。

本件設置負担金は、本件接続約款上、エントランス回線の設置工事費用の負担及びそれに関する手続費用のための支払と位置付けられているところ、実質的にも、実際に設置されるエントランス回線のための支払でしかあり得ない。

したがって、本件設置負担金の支払により取得する本件権利は、飽くまで本件設置負担金の支払対象であるエントランス回線に関する権利であって、Cの役務提供又はCのネットワーク内部のエントランス回線以外の設備又はソフトウェアに関する機能の提供を受ける権利ではない。

(3) 本件権利は、法人税法施行令13条8号ソ規定の電気通信施設利用権に該当する。税法上のこのような定義規定における位置付けの中でも、本件権利は、対象となる物理的施設すなわちエントランス回線と密接な関係があり、また、本件設置負担金の支払によって、その支払対象であるエントランス回線についてのみ成立する権利であることが明らかとなっている。

(4) 本件設置負担金は、エントランス回線の設置工事費用の負担及びそれに関する手続費用のための支払であって、原告が取得する権利の対価と直接的に位置付けられているわけではない。したがって、本件権利は、本件接続約款や本件接続協定において直接的に規定されてはいない。

しかし、本件設置負担金の支払により、原告が、エントランス回線に関する固定制の網使用料の継続的支払を条件として、Cと相互接続を行うためにエントランス回線を使用することについて法的にも保護され、権利として主張することができることは間違いない。

したがって、本件権利は、エントランス回線というCと原告間の相互接続のために必要な設備が、原告とCの双方によって使用されるところ、それがCに所有されているために必要となる、他人所有物の使用のための権利であると考えられる。このような使用権は、正に有体物を物理的に使用することに関する権利であるから、このような権利の目的物である有体物と密接な関係があるというべきである。

3 本件権利の単位について

(一) エントランス回線と本件権利の単位について

(1) 本件権利は、有体物であるエントランス回線を使用する権利として、目的物であるエントランス回線と密接な関係を有し、それを離れて存在し得ない。そうすると、本件権利の資産としての単位は、その目的物であるエントランス回線の単位と合致すると考えられる。

なぜなら、有体物の資産単位とは、その所有権の資産単位にほかならないのであるが、有体物の使用権についても、その所有権と別に資産単位を考える理由はないからである

(2) 上記の単体が資産単位とならない例外的な場合としては、まず、本件通達にも規定されている工具、器具及び備品のうち一組又は一そろいが取引単位となるものがある。これは、応接セットとしてのテーブルと椅子、三揃いのスーツ(上着、ズボン及びチョッキ)、辞書(上巻及び下巻)、全10巻の百科事典、靴(右足用及び左足用)等、異なる物品が組み合わさって一体となって機能を発揮し、しかも通常の取引単位が単体ではないものである。

また、賃貸マンション等の事業用建物に取り付けるカーテンのように、資産としての通常の利用目的、一般的・客観的機能性、外観上のデザイン等から一定のまとまり(カーテンについては部屋単位)をもって取引単位と認められるものや、間仕切りを構成するベニヤ板や建物に固定されて建物の一部となったじゅうたん、建物附属設備である電気設備に組み込まれる蛍光灯等の照明器具等のように、減価償却資産としての分類の関係上、より大きな資産の材料又は一部にすぎないとされるものもある。

さらに、本件通達にも規定されている枕木、電柱等の構築物のように、構築物としては線路設備や送電設備を構成することが役割であるところ、このような役割における機能を単体では発揮することができない構築物については、工事単位等の客観的に判断できる基準をもって少額減価償却資産の判定がされる。

以上のように、例外的に単体を資産単位としないものは、単体では独立の資産として取り扱われない理由がある。しかし、いずれにしても、それらについて1資産単位とされるものは、物理的な位置関係、近接性及びまとまり、資産としての機能等により、一つの取引単位であると見ることができる範囲の物に限定されているのであって、無限定又は不明確な範囲の物をまとめて1単位の資産として見るようなことはない。

(3) エントランス回線は、複数のエントランス回線が設置されている基地局を除いては、基地局に1回線あるのみであり、原告の営業地域全般にわたって、多数の基地局が別個に設置されている。したがって、物理的には、エントランス回線は、1基地局に複数回線が設置されている場合を除いては、ばらばらに存在している。

(4) また、エントランス回線の機能については、エントランス回線は原告の設備である基地局とC電話網とを接続するという機能を果たしているところ、相互接続通話はエントランス回線1回線を用いればできるのであるから、エントランス回線1回線で一機能単位としての役割を果たしている。

PHS契約者が移動しながらPHS端末を用いて通話する場合には、通話に用いる基地局が順次変わっていくこともあり、その場合には異なる時点で複数のエントランス回線を最終的には用いることになる。

しかし、ある特定の時点において通話に使用しているエントランス回線は1回線である。

エントランス回線1回線それぞれがその機能を果たしていることは、エントランス回線の1回線が故障した場合、故障したエントランス回線が接続されている基地局のサービスエリアが通信不可能となるだけであり、別のエントランス回線が接続されている隣接の基地局がカバーするサービスエリアに影響を与えることはないことに現われている。

このようなエントランス回線の使用状況は、電線を支える電柱の1本が倒壊すれば、他の電柱を用いた安全な送電はできず、また、枕木があるべき箇所から1本引き抜かれれば、他の枕木がそのままでも、その枕木上を通るレール、ひいてはその路線を電車が安全に通過することができないのとは、完全に異なる。

したがって、エントランス回線について、資産としての機能は1回線単位で発揮されることに間違いはない。

(5) もちろん、原告がPHS事業を行うためには、PHSの通話エリアを広く確保すること、すなわち基地局を多数設置して、基地局からの電波のカバーする通話エリアの面的拡大を図ることが必要となり、それにより必然的に多数のエントランス回線が必要となる。

また、同一のエリア内における回線の使用頻度が増加すれば、回線の混雑により通話が不可能となる場合をなくし又は減少させるために、カバーするエリアが重なり合うような基地局を増設し、又は一つの基地局に設置するエントランス回線を増設することも必要となる。

しかし、減価償却資産を単体で使用しても事業として成り立たないことを理由に、単体を少額減価償却資産に該当するか否かの判定のための単位として用いることを否定するのは誤りである。

(6) 事業を行うためにエントランス回線は多数必要となるが、資産としての機能単位は飽くまで単体であるということは、レンタルビデオ事業におけるレンタルビデオテープに似ている。

レンタルビデオテープは、顧客が借りて視聴するという過程においては、1本単位で機能している。なぜなら、1本のレンタルビデオテープがあれば、顧客がそれを借りて視聴することは可能であり、レンタルビデオ店としては、それについて料金を徴収することが可能だからである。

しかし、レンタルビデオ事業としては、多数の種類のレンタルビデオテープを揃えなければ顧客のニーズに応えられないし、同じ種類のレンタルビデオテープでも人気のあるものについては、ある顧客に貸し出されている間にも他の顧客に同一種類のものを貸し出すことができるよう、複数揃える必要がある。

したがって、レンタルビデオテープは飽くまで1本単位で機能しているものの、レンタルビデオ事業のためには多数のレンタルビデオテープを揃えておくことが必須となるのである。

レンタルビデオ店におけるレンタルビデオの取扱いについては、1本単位の取得価額で少額減価償却資産に該当するか否かを判断することは既に確立した解釈である。そして、レンタルビデオ事業に多数のレンタルビデオテープが必要になるから、それら事業に必要なレンタルビデオテープをまとめて少額減価償却資産に該当するか否かを判断する単位として取り扱うというような解釈又は実務上の取扱いは存在しない。

事業の中で多数必要になるが、資産としての機能は1回線単位で発揮されるという点において、エントランス回線はレンタルビデオテープと同様である以上、レンタルビデオテープに関する減価償却資産の単位についての考え方をエントランス回線にも用いない理由は存しない。

(7) 以上のように、エントランス回線は、基本的には回線ごとに物理的にばらばらに存在し、しかも1回線単位で機能する独立別個の物である以上、単体が資産単位とならない例外的な場合のいずれにも該当しない。

したがって、一物一権という民法の大原則からすれば、単体である1回線のエントランス回線が資産としての単位であると考えるべきであり、そうだとすれば、それを対象とする使用権も、1回線のエントランス回線ごとの権利を単位とすると考えるべきである。

(二) 基本契約と個別契約の関係と本件権利の単位

(1) 相互接続協定は、それを締結する電気通信事業者間の相互接続関係を定めるものであるとともに、エントランス回線の設置についての基本契約としての意味を有する。しかし、基本契約は、個別取引において共通の事項を、個別取引のたびに個別契約において定める代わりに、あらかじめ定めておくにすぎず、具体的な権利関係は、個別契約である個々のエントランス回線の設置の申込み及び承諾により発生すると考えるべきである。

(2) 一般的に、継続的な売買等の継続的な取引関係のために基本契約が締結され、それに基づいて個別契約が締結されて売買等の取引がされる場合、その売買等の取引は基本契約ではなく、飽くまで個別契約に基づくものと考えられている。なぜなら、基本契約においては継続的な取引全般に共通的な事項について定めてあるが、契約の要素である目的物及びその代金又はそれらのうち一部は、最終的に飽くまで個別契約において定まっているからである。

基本契約の果たす役割を考えてみれば、基本契約は、継続的な取引全般に共通の事項を、個別の取引のたびに個別契約において定める代わりに、あらかじめ定めておくものにすぎない。契約関係は、このような基本契約を基本的には援用しつつも、個別に独自の条件等も定める個別契約に基づくものと考えられる。

(3) エントランス回線については、設置の手順及び設置時の費用の負担関係並びに設置後の使用料の支払関係等が、本件接続約款に規定されている。相互接続協定においては、このような本件接続約款が援用されているので、その締結によりエントランス回線の設置及び使用に関する基本的条件は、個々のエントランス回線の設置の際に別段の意思表示がない限り、本件接続約款によるべきことが決まる。

しかし、それは飽くまで基本契約としての意味しか有しないのであり、エントランス回線の設置契約は、当該エントランス回線の設置場所というその契約の要素を決定する個別のエントランス回線の設置の申込み及び承諾により成立するものである。

したがって、実際のエントランス回線をめぐる法律関係、すなわち当該エントランス回線に関する本件設置負担金の支払義務や当該エントランス回線の使用権は、個別のエントランス回線の設置の申込み及び承諾に基づくものである。

(4) なお、本件接続約款35条2項の規定により、原告のようなC網依存型PHS事業者がエントランス回線の申込みを行う際には、PHS接続装置が設置されたCの通信用建物ごとにあらかじめ申し込まれたエントランス回線の回線数を超えるときを除き、Cはその申込みを承諾する義務がある。しかし、このことは、個別のエントランス回線に関する申込み及び承諾の意味を奪うものではない。

相互接続協定が締結され、かつ、PHS接続装置が設置されたCの通信用建物ごとに設置を予定するエントランス回線の回線数の総枠が申告されても、個別のエントランス回線の設置申込みが行われない限りは、PHS事業者及びCの双方とも、エントランス回線の設置を実際に行ったり、エントランス回線に関する本件設置負担金の支払を行ったりする必要はなく、エントランス回線の設置に関する法律関係も確定していない。

したがって、個別のエントランス回線設置の申込みには大きな意味があり、それに対応した承諾の意思表示により成立する個別契約は重要な意義を有するものである。

(5) また、本件接続約款35条2項の規定によりCにPHS事業者のエントランス回線の設置申込みに対する承諾義務が生ずる前提として、PHS接続装置が設置されたCの通信用建物ごとに、設置の計画されたエントランス回線の回線数があらかじめ申し込まれている必要がある。

PHS接続装置が設置されたCの通信用建物ごとのあらかじめの回線数の申込みは、本件接続約款21条に基づく半期ごとの申込みである。このような申込みがされても、Cは、「接続申込者が、接続に関し負担すべき金額の支払いを怠り、又は怠るおそれがあるとき」又は「接続に応ずるための電気通信回線設備の設置又は改修が技術的又は経済的に著しく困難であるとき」には、Cはこのような申込みを承諾しないことができる(本件接続約款23条)。

そのような場合には、本件接続約款21条に基づく申込みをしておいても、本件接続約款35条2項によりエントランス回線の申込みを承諾してもらえることにはならないのである。

(6) 相互接続協定を締結した後、エントランス回線を設置してもらうまでには、本件接続約款19条による接続申込み及び本件接続約款20条1項によるCの承諾が必要となる。本件接続約款20条は、原則として接続申込みは承諾されるが、一定の場合には接続申込みが拒否され得る旨定めている。

このような接続拒否事由は、電気通信事業法38条に定める接続拒否事由と同じであって、Cとしては相互接続協定を締結する前に相互接続を最初から拒否する場合と同じ事由に基づき相互接続を拒否できる以上は、相互接続協定が締結されたからといって、PHS事業者としての、エントランス回線の申込みについて承諾を期待することができる地位について、大きな変動があるものではない。

すなわち、Cとしては、電気通信事業法38条に基づき、一定の例外的な場合を除き接続の申込みを拒絶することができないところ、事前の調査手続でそれを円滑に行うことができるように、相互接続協定で援用する本件接続約款においてこのような事前調査手続を定めているだけである。このような接続申込みを拒絶することができる事由の有無の検討を経た後に、個々のエントランス回線の設置申込みを本件接続約款35条2項に従って承諾する義務というのは、法定の義務が形を変えたものにすぎない。

したがって、基本契約としての相互接続協定が締結される際、Cにエントランス回線設置申込みの受諾義務が創設的に課せられるのではなく、Cにもともと存在する法定の義務がどのような形で履行されるのかが当事者間で明確化されたにすぎない。

よって、エントランス回線設置申込みの受諾義務をもって、基本契約としての相互接続協定の締結が、エントランス回線の利用に関する法律関係との関係で、個別のエントランス回線設置の申込み及び受諾よりも法的に意味のある行為であるということはできない。

(7) 以上のとおり、エントランス回線の設置は、個別のエントランス回線に関する設置の申込み及び承諾により決定されるものであるから、エントランス回線の設置により発生するエントランス回線をめぐる法律関係、すなわちエントランス回線に関する本件設置負担金の支払義務やエントランス回線の使用権は、個別のエントランス回線についての申込み及び承諾に基づくものである。

したがって、エントランス回線の利用権である本件権利は、その成立の根拠となる個別契約(個別のエントランス回線についての申込み及び承諾)ごと、すなわちエントランス回線1回線を対象とする権利が単位となると解すべきである。

(三) 本件権利を成立させる取引と本件権利の単位について

(1) 本件権利はエントランス回線の使用権であるところ、具体的にエントランス回線が設置されなければ、このような使用権が発生するはずはない。

また、本件設置負担金は、個別のエントランス回線設置の申込み及び承諾があって初めて支払われるものであり、例えば今期には100回線設置する予定であるから100回線分支払うというように、見込みで支払われることはない。相互接続協定を締結しただけで、個別のエントランス回線設置の申込み及び承諾がされていなければ、具体的にエントランス回線が設置されるわけではなく、本件設置負担金も一切支払われず、かつ、何回線のエントランス回線が最終的にその相互接続協定に基づき設置されるのかも全く決まっていない。したがって、個別の申込み及び承諾を待たずに、相互接続協定の締結により、本件権利が成立するなどということはあり得ない。

よって、本件権利は、相互接続協定の締結という取引ではなく、飽くまで個別のエントランス回線設置の申込み及び承諾という取引によって成立するものというべきである。

(2) 本件権利は、原則的に譲渡することができず、第三者への譲渡単位をもって取引単位と考えることはできないところ、本件権利を成立させるCとの取引は、個別のエントランス回線についての申込み及び承諾により行われるのであるから、本件権利の取引単位は、このような個別のエントランス回線についての申込み及び承諾の対象であるエントランス回線1回線の使用権である。したがって、少額減価償却資産を判定するための単位も、エントランス回線1回線当たりの本件権利と考えるべきである。

(四) まとめ

(1) 以上のとおり、①エントランス回線が1回線単位でCの電気通信設備と原告の電気通信設備との物理的接続という機能を果たし、基本的には回線ごとに物理的にばらばらに存在する個別の物であり、本件権利はその使用権として、物自体と密接な関係を有し、物の単位と別個の単位が考えられないこと、②本件権利が、本件接続協定ではなく、個別のエントランス回線設置の申込み及び承諾に基づくものであること、③本件権利に関する取引は、基本的に個別のエントランス回線についての申込み及び承諾によるものしかないことからすると、本件権利の単位は、1回線のエントランス回線であることは明らかである。

(2) 仮に、本件権利がエントランス回線のみを対象とする権利であることを前提としなくとも、本件権利がエントランス回線の存在なくして成り立たない権利である以上、エントランス回線の設置の契機を基準に、その取得単位は構成されるべきである。そして、エントランス回線が設置される際の単位である1回線が本件権利の取得単位であること、また、特定の2事業者間で基本的に当初に一つだけ締結される相互接続協定は、共通事項のみをあらかじめ定めておく基本契約にすぎず、個々のエントランス回線の設置申込み及びその承諾が、具体的な権利義務を生じさせる個別契約としての意義を有することからすれば、本件権利はエントランス回線1回線を単位とする資産といわざるを得ない。

(3)したがって、原告がBから取得した本件権利の取得価額は、エントランス回線1回線当たりの7万2800円であって、10万円未満であるから、法人税法施行令133条の少額減価償却資産に該当し、事業の用に供した事業年度に損金の額に算入することができる。

また、Bからの営業譲受後、原告がCに行った本件設置負担金の支出は、個々のエントランス回線に関する権利の追加取得であり、そのそれぞれが7万2800円であるため、少額減価償却資産に該当し、事業の用に供した事業年度に損金の額に算入することができる。

4 被告の主張に対する反論

(一) 本件接続協定上の地位について

(1) 被告は、BがCから取得した本件接続協定上の地位は一つであり、本件営業譲渡契約により本件接続協定上の地位の移転を受けた原告においても、Cとの間において有する本件接続協定上の地位は一つである旨主張する。

しかし、以下のとおり、相互接続協定が、特定の二つの電気通信事業者の間において一つしか締結されないのは、本件権利の本質とは何ら関係のない技術的な便宜のためにすぎず、本件接続協定の締結単位をもって本件権利の資産としての単位とすることはできない。

(2) 相互接続協定が特定の二つの電気通信事業者の間において一つしか締結されないのは、電気通信役務の一般利用者とは異なり、相互接続の相手方は、同業者である電気通信事業者なので、回線ごとに既に契約を締結している者との同一性を確かめる必要性はなく、基本契約として相互接続協定を一つ締結しておけば、回線ごとに個別契約を締結するたびに同一事項を定め直す必要がないからにすぎない。

つまり、相互接続協定が特定の二つの電気通信事業者の間において一つしか締結されないのは、単に契約締結の便宜の面から、他事業者とは一つの基本契約を締結しておいた方がよく、その一つの基本契約がありさえすれば、その基本契約で定められたことを参照しつつ、相互接続に関する諸事項に関する個別契約を締結することができるからである。相互接続が特定の二つの電気通信事業者の間においては一つしか存在しないといった相互接続の本質が存在し、このような本質に基づいて、相互接続協定が特定の二つの電気通信事業者の間において一つしか締結されないというわけではない。

したがって、相互接続協定の締結単位に実質的な意味はなく、それをもって本件権利の資産としての単位とすることはできない。

(3) 相互接続協定の締結単位に実質的な意味がないことは、「事業者」を単位として相互接続協定が結ばれるのであって、「事業」を単位として相互接続協定が結ばれるわけではないことからも明らかである。

原告は、携帯電話事業とPHS事業を営んでおり、それぞれの事業の関係でCとの相互接続を行っているが、Cとの相互接続協定は共通のものが一つあるだけである。ただし、PHS事業をBから譲り受けた当初は、Bの締結していた本件接続協定をBから承継したので、原告がCと既に締結していた携帯電話事業に関する相互接続協定と二本立てであった。

しかし、それは事業承継に伴う一時的なものであり、相互接続協定の改訂の後、原告とCとの間には、携帯電話事業とPHS事業共通のものとして、平成11年7月1日付けの一つの本件接続協定が存在するだけである。

PHS事業と携帯電話事業とでは、Cとの相互接続の形態には大きな違いがあり、例えば携帯電話事業にはエントランス回線が存在しないにもかかわらず、両事業が一つの相互接続協定でまとめられているというのは、相互接続協定が共通事項を定めておく基本契約としての意味を有するにすぎないことを示している。

(4) 以上のように、まとまりとして意味に乏しい相互接続協定の締結対象範囲を一つの資産として構成することは、根拠を欠くのみならず、実務上大きな問題を伴う。

例えば、一つの電気通信事業者がPHS事業とそれ以外の別の電気通信事業を営む場合、PHS事業に関する相互接続協定と別の電気通信事業に関する相互接続協定が別個であれば、PHS事業に関する電気通信施設利用権(エントランス回線に関する本件設置負担金の支払により取得する権利)と別の電気通信事業に関する電気通信施設利用権とは、それぞれ別個の減価償却資産となるはずである。

ところが、PHS事業に関する相互接続協定と別の電気通信事業に関する相互接続協定が一つの相互接続協定にまとめられた場合、PHS事業に関する電気通信施設利用権と別の電気通信事業に関する電気通信施設利用権とは、まとめて一つの減価償却資産を構成することになってしまう。

このように、相互接続協定がまとめられるまでは、全く別個の二つの減価償却資産であったものが、全く関係のない異なる事業の用に供されるにもかかわらず、また、電気通信施設利用権を用いた電気通信の態様に一切変更がないにもかかわらず、同一の相互接続協定の対象とされるという事実のみによって、突如として一つの減価償却資産を構成するというのは、根拠を欠くのみならず、減価償却を不安定なものとする。

このような不安定な単位を法人税法施行令133条の少額減価償却資産の判定単位とすれば、少額減価償却資産の判定単位が容易に変わってしまうことになり、同条の適用を受けられるか否かという納税者の納税義務に関する立場が不安定となり、税務執行も不安定となり、大きな弊害が生ずる。

(5) また、例えば、平成5年度に取得し、耐用年数20年の減価償却を行ってきた資産と、平成10年度に取得し、耐用年数20年の減価償却資産を行ってきた資産とを、平成16年度において相互接続協定が一本化されたために一つの資産とした場合に、どのように減価償却を行うべきかも不明である。

このような場合には、平成16年度において平成5年度に取得した資産について新たな支出を行ったというわけでもないから、資本的支出としての取扱いも当てはまらない。

このように二つの異なる事業に関する相互接続協定が、途中で一つの相互接続協定にまとめられるというのは、一つの事業者と一つの相互接続協定を締結することを規定する現行接続約款の下でも、原告がBから承継したPHS事業とそれ以外の携帯電話等の事業に関する相互接続協定をまとめた事例のように、実際に起こる事例である。

また、Bから原告へのPHS事業の承継以外にも、例えば、F(F)がPHS事業を営むGを平成11年4月1日に合併した事例等、PHS事業以外の電気通信事業を営む事業者が、他事業者の営んでいたPHS事業を承継するなどの例は他にも存在するのであり、その場合には、相互接続脇定は一つの電気通信事業者とは一つしか締結しないというCの方針がある以上は、二つ以上あった相互接続協定が一つにまとめられているはずである。

それにもかかわらず、このような事例について明確かつ妥当な税務処理を提示することができない被告の考え方は、実務上大きな問題を伴うものといわざるを得ない。

(6) 以上によると、相互接続協定の締結単位をもって本件権利の資産としての単位とするという被告の主張は、明らかに不合理かつ不当なものである。

(二) 資本的支出について

(1) 本件権利は、当初の取得時(本件ではBからの営業譲受時)から事業の用に供され効用を発揮するものである。

PHS事業においては、PHSの通話エリアを拡大していくため、基地局を多数設置して、それぞれにつき最低1回線はエントランス回線を設置していくこと、及び同一のエリア内における回線の使用頻度の増加に伴い、カバーするエリアが重なり合うような基地局を増設し又は一つの基地局に設置するエントランス回線を増設していくことが必要となる。

(2) しかし、本件権利が当初取得分だけで効用を発揮する資産である以上、当初取得分だけでもPHS事業としては成り立っている。エントランス回線が増設されることにより、通信可能範囲の拡大、利用者へのPHSサービスの向上を通じて、PHS事業が量面及び質面で拡張しても、それは、病院においてベッドが追加取得されることにより、入院までの待機期間が短くなることなどによるサービスが向上し、また、入院可能人数の増加を通じて病院事業が拡張することと同様である。

ベッドは、既に病院に設置されているものだけで効用を発揮している独立の資産を形成するため、ベッドの追加取得が資本的支出と見られることはない。本件権利についても、既取得分だけで既に効用を発揮している独立の資産を形成しているのだから、エントランス回線の増設のための支出は本件権利の追加取得であって、資本的支出には該当しない。

(3) このことは、同種類の資産が加えられることにより、事業が拡大し、その事業に属する当該種類の資産の全体の価値が高まっても、それは既に当初取得時に効用を発揮していた資産の価値が高まることを意味するわけではないことに基づく。

例えば、建物の増築は、既築分の建物と一体となるものであっても、既に独立の資産を形成していたところに同種の資産を加えているにすぎず、全体としての価値は高まっても、既築分の価値を高めるわけではないので、建物の増築は、資本的支出ではなく資産の追加取得とされている。そのことは、本件権利についても同様である。資産の追加取得においては、少額減価償却資産の判定単位は、飽くまでその追加取得された資産であり、その取得価額が10万円未満であれば少額減価償却資産である。

(4) 以上のとおり、原告がエントランス回線の増設のためにCに支払った本件設置負担金について、資本的支出に該当することはない。

第二 平成11年3月期更正及び平成11年3月期賦課決定の適法性について

一 被告の主張

1 原告の平成11年3月期の所得金額は、375億1763万9666円、納付すべき法人税額は129億3470万1900円である。この所得金額及び納付すべき法人税額の計算根拠は、以下のとおりである。

(一)所得金額 375億1763万9666円

上記金額は、次の(1)及び(2)の各金額を合計し、(3)の金額を控除した金額である。

(1)申告所得金額 328億3213万8653円

上記金額は、原告の平成11年3月期確定申告書に記載された所得金額である。

(2)所得金額に加算すべき金額 46億9495万3543円

上記金額は、次のア及びイの金額を合計した金額である。

ア 施設保全費のうち損金の額に算入されない金額 46億8169万5200円

上記金額は、①本件利用権の購入対価45億9695万6000円、及び②Cに支払った本件設置負担金8473万9200円の合計金額で、原告が「施設保全費」として損金の額に算入した金額であるが、原告の当期の所得金額の計算上、損金の額には算入されない。

イ その他の加算額 1325万8343円

上記金額は、次の(ア)から(ウ)までの各金額を合計した金額であり、いずれも原告の当期の所得金額に加算されるべき金額である。

(ア) 管理費のうち損金の額に算入されない金額 128万8560円

上記金額は、原告が管理費として損金の額に算入した金額のうち、減価償却限度額を再計算したところ算出された償却限度超過額であり、原告の平成11年3月期の所得金額の計算上、損金の額に算入されない。

(イ) 繰延資産の償却限度超過額 373万6667円

上記金額は、原告が平成11年3月31日に営業費として損金の額に算入した携帯電話機種別端末価格設定モデル作成費380万円を、繰延資産として償却限度額を再計算したところ算出された償却限度超過額であるから、原告の当期の所得金額の計算上、損金の額に算入されない。

(ウ) 棚卸資産の計上漏れ 823万3116円

上記金額は、各営業所及び実地棚卸報告書を集計する際の集計誤りにより、デジタル携帯電話端末の保守用物品の期末棚卸計上額が過少となっていたものであり、原告の当期の所得金額に加算したものである。

(3)所得金額から減算すべき金額 945万2530円

上記金額は、次のアからウまでの各金額を合計した金額であり、いずれも原告の当期の所得金額から減算すべき金額である。

ア 棚卸資産の過大計上額 14万8700円

上記金額は、「貯蔵品処分」として所得金額に加算した金額が、集計誤りにより過大に計上されているものであり、原告の当期の所得金額の計算上、損金の額に算入する。

イ 雑収入の過大計上額 863万9855円

上記金額は、過年度において貸倒損失計上済の売掛金その他債権の回収に係る雑収入のうち、仮受消費税等として計上すべきものであり、雑収入の過大計上として原告の当期の所得金額の計算上、損金の額に算入する。

ウ 寄附金の損金算入額 66万3975円

上記金額は、原告が平成11年3月期確定申告書に添付した寄附金の損金算入に関する明細書の「所得金額仮計」に、前記(2)の所得に加算すべき金額並びに前記ア及びイの所得から減算すべき金額を加算減算して寄附金の損金不算入額を再計算したところ、損金不算入額が減少したものであり、原告の当期の所得金額の計算上、損金の額に算入する。

(二)所得金額に対する法人税額 129億4358万5455円

上記金額は、前記(一)の所得金額(通則法118条1項の規定に基づき千円未満の端数金額を切り捨てた後のもの)に法人税法66条1項に規定する税率を乗じて計算した金額である。

(三)法人税額から控除される所得税額等 888万3523円

上記金額は、法人税法68条1項(ただし、平成15年法律第8号による改正前のもの)に規定する法人税額から控除される所得税額である。

(四)納付すべき法人税額 129億3470万1900円

上記金額は、前記(二)の金額から前記(三)の金額を差し引いた金額(通則法119条1項の規定に基づき百円未満の端数金額を切り捨てた後のもの)である。

(五)確定申告に係る法人税額 113億1820万4000円

上記金額は、原告が平成11年3月期確定申告書に記載した法人税額である。

(六)差引納付すべき法人税額 16億1649万7900円

上記金額は、前記(四)の金額から前記(五)の金額を差し引いた金額である。

2 平成11年3月期更正の適法性

本件訴訟において、被告が主張する平成11年3月期における原告の法人税に係る所得金額及び納付すべき法人税額は、前記1のとおり375億1763万9666円及び129億3470万1900円であり、平成11年3月期更正における原告の法人税に係る所得金額及び納付すべき法人税額は374億3996万9043円であって、いずれもこれらの金額の範囲内であるから、平成11年3月期更正は適法である。

3 平成11年3月期賦課決定の根拠及び適法性

原告の平成11年3月期における法人税に係る過少申告加算税の額は、前記1(六)に記載した16億1649万7900円を基礎として、通則法65条1項の規定を適用し、16億1649万円(通則法118条3項の規定に基づき1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に対して、100分の10の割合を乗じて算定した1億6164万9000円であり、平成11年3月期賦課決定における過少申告加算税の額は1億5897万円であって、この金額の範囲内であるから、平成11年3月期賦課決定は適法である。

二 原告の主張

1 被告の主張する平成11年3月期更正の課税根拠、計算関係については、前記一1(一)(2)ア「施設保全費のうち損金の額に算入されない金額46億8169万5200円」以外の部分については、争わない。

2 原告の平成11年3月期の所得金額は328億3594万4466円、納付すべき法人税額は113億1951万7100円である。この所得金額及び納付すべき法人税額の計算根拠は、以下のとおりである。

(一) 所得金額 328億3594万4466円

上記金額は、次の(1)の金額から次の(2)の金額を控除した後の金額である。

(1) 平成11年3月期更正における所得金額374億3996万9043円

上記金額は、国税不服審判所長が平成11年3月期裁決において認定した所得金額であり、原告の平成11年3月期について確定している所得金額である。

(2) 施設保全費のうち損金の額に算入されない額として平成11年3月期裁決が認定した金額 46億0402万4577円

上記金額は、平成11年3月期において全額損金算入を認められるべき本件権利の取得価額であるにもかかわらず、平成11年3月期裁決において損金算入を否定された金額である。

(二) 所得金額に対する法人税額 113億2840万0680円

上記金額は、前記(一)の所得金額に法人税法66条1項に規定する税率を乗じて計算した金額である。

(三) 法人税額から控除される所得税額等 888万3523円

上記金額は、法人税法68条1項(ただし、平成15年法律第8号による改正前のもの)に規定する法人税額から控除される所得税額であり、原告の平成11年3月期確定申告書に記載され、平成11年3月期裁決においてそのまま維持されている金額である。

(四) 納付すべき法人税額 113億1951万7100円

上記金額は、前記(二)の金額から前記(三)の金額を差し引いた金額(通則法119条1項の規定に基づき百円未満の端数金額を切り捨てた後のもの)である。

3 平成11年3月期更正について

被告による原告の所得金額の計算のうち、「施設保全費のうち損金の額に算入されない金額」46億8169万5200円は、平成11年3月期において一括して損金算入を認められるべきものであって、平成11年3月期の所得金額に加算されるべきものではない。

したがって、平成11年3月期における原告の納付すべき法人税額は、前記2のとおり、113億1951万7100円であり、平成11年3月期更正により認定された金額を下回るから、平成11年3月期更正のうち、原告の納付すべき法人税額113億1951万7100円を超える部分について取り消されるべきである。

4 平成11年3月期賦課決定について

平成11年3月期における原告の納付すべき法人税額は、前記2のとおり、113億1951万7100円である。この金額と平成11年3月期確定申告に基づく納付すべき法人税額113億1820万4000円との差額は131万円(通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)であり、過少申告加算税の額は、通則法65条1項の規定に基づき、この差額に対して100分の10の割合を乗じて算定した13万1000円である。

したがって、平成11年3月期賦課決定により賦課された過少申告加算税の額1億5897万円は、上記の法定の計算による過少申告加算税の額を上回るので、平成11年3月期賦課決定のうち、13万1000円を超える部分について取り消されるべきである。

第三 平成12年3月期通知処分、平成12年3月期再更正及び平成12年3月期再賦課決定の適法性について

一 原告の主張

1 平成12年3月期通知処分について

(一) 平成12年3月期通知処分の取消請求に関する納付すべき法人税額198億2683万0300円の計算根拠は、以下のとおりである。

(1)所得金額 661億0859万2070円

上記金額は、次のアの金額から次のイの金額を差し引いた上で、次のウの金額を加算した金額である。

ア 平成12年3月期通知処分における所得金額 663億3773万2803円

上記金額は、国税不服審判所長が、平成12年3月期更正の存在を勘案しないで、平成12年3月期裁決において認定した所得金額である。

イ 平成12年3月期において取得し事業の用に供した本件権利の取得価額 2億3667万2800円

上記金額は、原告が損金経理し、平成12年3月期において全額損金算入を認められるべき金額であるにもかかわらず、平成12年3月期確定申告において「エントランス回線(H11取得)」として申告加算した金額である。

ウ 前記イの金額のうち、平成12年3月期裁決において、平成12年3月期通知処分の一部取消しの基礎に用いられた金額 753万2067円

上記金額は、前記イの金額のうち、平成12年3月期裁決において、所得金額に含まれるべきではないと認定され、前記アの金額の計算において既に控除されている金額であり、前記アの金額から上記イの金額を単純に差し引いただけであると、二重に控除されてしまう金額なので、足し戻しているものである。

(2) 所得金額に対する法人税額 198億3257万7600円

上記金額は、前記(1)の所得金額に法人税法66条1項に規定する税率(経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律16条1項による置き換え後のもの)を乗じて計算した金額である。

(3) 法人税額から控除される所得税額等 574万7253円

上記金額は、法人税法68条1項(ただし、平成15年法律第8号による改正前のもの)に規定する法人税額から控除される所得税額であり、平成12年3月期確定申告において申告され、平成12年3月期裁決においてそのまま維持されている金額である。

(4) 納付すべき法人税額 198億2683万0300円

上記金額は、前記(2)の金額から前記(3)の金額を差し引いた金額(通則法119条1項の規定に基づき百円未満の端数金額を切り捨てた後のもの)である。

(二) 以上のとおり、平成12年3月期の原告の納付すべき法人税額は198億2683万0300円であるから、平成12年3月期通知処分のうち、納付すべき法人税額198億2683万0300円を超える部分は取り消されるべきである。

2 平成12年3月期再更正について

(一) 平成12年3月期再更正の取消請求に関する納付すべき法人税額198億4250万3200円の計算根拠は、以下のとおりである。

(1) 所得金額 661億6083万5565円

上記金額は、次のアの金額に次のイの金額を加算した金額である。

ア 前記1(一)(1)記載の所得金額 661億0859万2070円

イ 平成12年3月期更正における所得金額の加算額 245万4443円

上記金額は、次の(ア)の金額から次の(イ)の金額を控除した後の金額であって、平成12年3月期更正により所得金額に加算された金額である。前記1(一)(1)の金額は、平成12年3月期更正の存在を勘案していないが、原告としては平成12年3月期更正における所得金額の加算分を争う意向はなく、平成12年3月期再更正の取消しに当たっては、平成12年3月期更正により加算された金額まで取り消す必要はないので、上記アの金額に加算している。なお、平成12年3月期再更正は、平成12年3月期裁決と平成12年3月期更正における所得金額等の加算とを調整するために行われたものであると推察され、二つの更正は同じ事由に基づく所得金額の加算を行っていることとなるから、ここにおける計算においては、これらの加算金額を二重には勘案しない。

(ア) 平成12年3月期更正における所得金額 663億9746万8325円

上記金額は、平成12年3月期更正により認定された所得金額である。

(イ) 申告所得金額 663億4522万4830円

上記金額は、平成12年3月期更正前の確定所得金額である。

(2) 所得金額に対する法人税額 198億4825万0500円

上記金額は、前記(1)の所得金額に法人税法66条1項所定の税率(経済社会の変化等に対応して早急に講すべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律16条1項による置換え後のもの)を乗じて計算した金額である。

(3) 法人税額から控除される所得税額等 574万7253円

上記金額は、前記1(一)(3)と同様である。

(4) 納付すべき法人税額 198億2450万3200円

上記金額は、前記(2)の金額から前記(3)の金額を差し引いた金額(通則法119条1項の規定に基づき百円未満の端数金額を切り捨てた後のもの)である。

(二) 以上のとおり、平成12年3月期の原告の納付すべき法人税額は198億2450万3200円であるから、平成12年3月期再更正のうち、納付すべき法人税額198億2450万3200円を超える部分は取り消されるべきである。

3 平成12年3月期確定申告における処理について

原告が、平成12年3月期確定申告において、「エントランス回線(H10取得)」として44億4761万0440円を申告加算し、また、「エントランス回線(H10取得)」として46億8169万5200円を申告減算した経緯は、以下のとおりである。

(一) 被告は、平成11年3月期更正において、本件権利が少額減価償却資産に該当せず、電気通信施設利用権としての耐用年数20年による減価償却を行うべき資産に該当するとした。そして、被告は、原告がいったん資産計上することなく、「施設保全費」という名目で損金経理したことは、償却費として損金経理したものと認められないから、耐用年数20年の減価償却による損金算入すら認められないとした。

その結果、原告が、本件権利について平成11年3月期において損金経理したのみの状態を維持し続ければ、償却費としての損金経理がないという理由で、耐用年数20年による減価償却すら認められないという状態に置かれてしまうことになった。

(二) そのため、原告は、平成12年3月期の経理処理において、平成11年3月期更正で少額減価償却資産としての処理を否定された金額について、いったん全額資産計上した上で、直ちにその全額を減価償却費として損金経理した。

税務上は、資産として計上された金額は、平成11年3月期更正において否定された損金の額を資産として認識するということであって、平成11年3月期更正を前提とすれば、税務上の所得計算において益金とはなり得ない金額であり、企業会計上の利益から当該金額を申告減算すべきこととなる。

また、平成11年3月期更正を前提とすれば、減価償却費として損金経理された金額のうち当該事業年度における法人税法31条1項に規定する償却限度額、すなわちその取得価額の総額の20分の1に当たる額については、損金算入を認められるべきであり、その余は減価償却超過額として損金算入を否定されるべきこととなる。

そこで、原告は、平成12年3月期確定申告において、企業会計上の利益を基とした所得金額の計算上、「エントランス回線(H10取得)」として46億8169万5200円を申告減算し、「エントランス回線(H10取得)」として44億4761万0440円を申告加算した。

このような処理は、万が一の場合の損失を最小限に食い止めるために、平成11年3月期更正を前提として行ったものである。

(三) 原告は、平成12年3月期更正の請求において、「エントランス回線(H10取得)」44億4761万0440円の申告加算を是正するように求めているが、「エントランス回線(H10取得)」46億8169万5200円の申告減算を是正するようには求めていない。

なぜなら、更正の請求は、過大申告をもたらしている事由について、事由ごとに是正を求めるものであって、過少申告をもたらしている事由の是正を求めるものではないからである。すなわち、「エントランス回線(H10取得)」の申告減算は、更正の請求において納税者の側から是正を求める事由ではないのに対して、「エントランス回線(H10取得)」の申告加算については、更正の請求の理由となる事由であるので、「エントランス回線(H10取得)」の申告加算のみの是正を求めているのである。

(四) 原告は、平成12年3月期更正の請求において、「エントランス回線(H10取得)」の申告加算のみの是正を求めているが、平成12年3月期における経理上及び確定申告上の「エントランス回線(H10取得)」についての申告加算処理と申告減算処理は表裏一体である。そして、平成11年3月期に取得し事業の用に供した本件権利の取得価額について、少額減価償却資産として、平成11年3月期における一括損金算入を認められるのであれば、そのどちらも不要なものである。

そうすると、平成11年3月期更正について、原告請求のとおりに取り消されれば、平成12年3月期確定申告における処理は、一体として是正されるべきである。また、この処理の一体的な是正は、原告の平成12年3月期の所得金額を増額する(すなわち46億8169万5200円と44億4761万0440円の差額の分だけ結果として増額する方向に働く。)ものであって、原告にとっては不利なものである。

しかも、平成11年3月期更正の取消請求と、平成12年3月期通知処分の取消請求が、いかなる場合においても統一的に判断されるという保証は必ずしもない。そして、原告は、平成11年3月期更正が原告請求のとおりに是正されないにもかかわらず、平成12年3月期について、平成11年3月期更正が取り消されることを前提とした所得金額の増額がされることを容認することはできない。

したがって、原告は、平成12年3月期通知処分の取消請求に関する税額の計算においては、平成12年3月期確定申告における処理の是正を前提として所得金額を計算していない。

4 平成12年3月期確定申告における処理を是正した場合の平成12年3月期の法人税額の計算

(一) 平成11年3月期更正が原告請求のとおりに取り消され、平成12年3月期確定申告における処理を是正した場合、原告の平成12年3月期の所得金額は661億9492万0325円である。この所得金額の計算根拠は、以下のとおりである。

(1) 前記1(一)(1)記載の所得金額 661億6083万5565円

(2) 「エントランス回線(H10取得)」として申告加算した金額 44億4761万0440円

上記金額は、平成11年3月期更正を前提として、平成12年3月期確定申告において申告加算していたものである。平成11年3月期において本件権利の取得価額の一括損金算入が認められれば、この処理は不要となるので、上記金額は、真実の所得金額の計算においては前記(1)の金額から控除されるべきものである。

(3) 「エントランス回線(H10取得)」として申告減算した金額 46億8169万5200円

上記金額は、平成11年3月期更正を前提として、平成12年3月期確定申告において申告減算していたものである。平成11年3月期において本件権利の取得価額の一括損金算入が認められれば、この処理は不要となるので、上記金額は、真実の所得金額の計算においては前記(1)の金額に加算されるべきものである。

(4) 所得金額 663億9492万0325円

上記金額は、前記(1)の金額から前記(2)の金額を差し引いた上で、前記(3)の金額を加算した金額である。

(二) 以上のとおり、平成12年3月期確定申告における処理を是正した場合の所得金額は663億9492万0325円であり、平成12年3月期再更正における所得金額663億8997万6298円を上回る。

したがって、このような場合には、平成12年3月期通知処分及び平成12年3月期再更正の取消請求については、判決で棄却されるべきこととなる。

5 平成12年3月期再賦課決定について

平成12年3月期確定申告における処理を是正しない場合、平成12年3月期における納付すべき法人税額は、前記2のとおり、198億2450万3200円である。この金額は、平成12年3月期確定申告に基づく納付すべき法人税額198億9781万4200円を下回り、原告に過少申告の事実はないことになるから、平成12年3月期再賦課決定は全部取り消されるべきである。

二 被告の主張

原告の主張を前提とすると、原告の主張する平成12年3月期の所得金額及び法人税額については、いずれの計算方法についても数額に誤りがないことは認める。

第四 平成13年3月期通知処分及び平成13年3月期賦課決定の適法性について

一 原告の主張

1 平成13年3月期通知処分について

(一)平成13年3月期通知処分の取消請求に関する納付すべき法人税額334億0812万7900円の計算根拠は、以下のとおりである。

(1) 所得金額 1113億8183万8734円

上記金額は、次のアの金額から次のイの金額を差し引いた上で、次のウの金額を加算した金額である。

ア 平成13年3月期通知処分における所得金額 1113億8281万4255円

上記金額は、国税不服審判所長が平成13年3月期裁決において認定した所得金額であり、原告の平成13年3月期について確定している所得金額である。

イ 平成13年3月期において取得し事業の用に供した本件権利の取得価額 101万9200円

上記金額は、申告加算されるべき金額ではないにもかかわらず、平成13年3月期確定申告において「エントランス回線(H12取得)」として申告加算された金額である。

ウ 前記イの金額のうち、平成13年3月期裁決において、平成13年3月期通知処分の一部取消しの基礎に用いられた金額 4万3679円

上記金額は、前記イの金額のうち、平成13年3月期裁決において所得金額に含まれるべきではないと認定され、前記アの金額の計算において既に控除されている金額であり、前記アの金額から前記イの金額を単純に差し引いただけであると、二重に控除されていることとなってしまう金額なので、足し戻しているものである。

(2) 所得金額に対する法人税額 334億1455万1400円

上記金額は、前記(1)の所得金額に法人税法66条1項に規定する税率を乗じて計算した金額である。

(3) 法人税額から控除される所得税額等 642万3487円

上記金額は、法人税法68条1項に規定する法人税額から控除される所得税額であり、平成13年3月期確定申告において申告され、平成13年3月期裁決においてそのまま維持されている金額である。

(4) 納付すべき法人税額 334億0812万7900円

上記金額は、前記(2)の金額から前記(3)の金額を差し引いた金額(通則法119条1項の規定に基づき百円未満の端数金額を切り捨てた後のもの)である。

(二) 以上のとおり、平成13年3月期の原告の納付すべき法人税額は334億0812万7900円であるから、平成13年3月期通知処分のうち、納付すべき法人税額334億0812万7900円を超える部分は取り消されるべきである。

2 平成13年3月期確定申告における処理を是正した場合の平成13年3月期の所得金額の計算

(一) 原告は、平成11年3月期更正及び平成12年3月期通知処分の取消請求と、平成13年3月期通知処分の取消請求が、いかなる場合においても統一的に判断されるという保証が必ずしもないため、平成13年3月期確定申告における処理を是正することを前提として、平成13年3月期通知処分の取消請求に関する法人税額を計算していない。

しかし、平成11年3月期更正が取り消され、平成12年3月期通知処分が前記理由により棄却されるのであれば、原告の平成13年3月期確定申告における処理も一体的に是正されるべきものである。

(二) 平成13年3月期確定申告における処理を是正した場合、原告の平成13年3月期の最終的な所得金額は、以下のとおり、1116億2775万7134円である。

(1) 前記2(一)(1)記載の所得金額 1113億8183万8734円

(2) 「エントランス回線(H10取得)」として申告減算した金額 2億3408万4760円

上記金額は、平成11年3月期更正を前提として、本件権利のうち平成11年3月期取得分に関し、耐用年数20年の減価償却による損金算入を平成13年3月期について行ったものである。平成11年3月期において本件権利の取得価額の一括損金算入が認められれば、このような減価償却を平成13年3月期について行うべきではないので、上記金額は、真実の所得金額の計算においては前記(1)の金額に加算されるべきものである。

(3) 「エントランス回線(H11取得)」として申告減算した金額 1183万3640円

上記金額は、平成11年3月期更正を前提として、本件権利のうち平成12年3月期取得分に関し、耐用年数20年の減価償却による損金算入を平成13年3月期について行ったものである。平成12年3月期において本件権利の取得価額の一括損金算入が認められれば、このような減価償却を平成13年3月期について行うべきではないので、上記金額は、真実の所得金額の計算においては前記(1)の金額に加算されるべきものである。

(4) 所得金額 1116億2775万7134円

上記金額は、前記(1)の金額に前記(2)及び(3)の各金額を加算した金額である。

(三) 以上のとおり、平成13年3月期確定申告における処理を是正した場合の所得金額は1116億2775万7134円であり、平成13年3月期通知処分における所得金額1113億8281万4255円を上回る。

したがって、このような場合には、平成13年3月期通知処分の取消請求については、判決で棄却されるべきこととなる。

3 平成13年3月期賦課決定について

平成13年3月期確定申告における処理を是正しない場合、平成13年3月期における納付すべき法人税額は334億0812万7900円である。この金額と平成12年3月期確定申告に基づく納付すべき法人税額332億1578万5900円の差額は1億9234万円(通則法118条3項の規定に基づき1万円未満の端数金額を切り捨てた後のもの)であり、過少申告加算税の額は、通則法65条1項の規定によれば、この差額に対して100分の10の割合を乗じて算定した1923万4000円である。

したがって、平成13年3月期賦課決定における過少申告加算税の額1926万3000円は、上記の法定の計算による過少申告加算税の額を上回るので、平成13年3月期賦課決定のうち、1923万4000円を超える部分は取り消されるべきである。

二 被告の主張

原告の主張を前提とすると、原告の主張する平成13年3月期の所得金額及び法人税額については、いずれの計算方法についても数額に誤りがないことは認める。

別表1

平成11年3月期

file_26.jpgtte = 9) re ERECT | eswema ii 6.90 | saaue 10,656) 11 91,208,000 3 16 462,506 | 12, 004085,000] 161,678, 00 58 | saaskesse0o| 11,010,072, 400 6,00 ve a8 | ot a0e 009088 7,905,700] 188, 87,00

別表2

平成12年3月期

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別表3

平成13年3月期

file_28.jpg(wifi : FD Pra SSG THEA aon 110, 740,698, 378 111, 982, 817, 894 19, 263, 00 11, $81, 798, 694 111, 882, 814, 255 19, 263, 00

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