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東京地方裁判所 平成15年(行ウ)558号 判決 2005年9月09日

原告 X

被告 町田税務署長

代理人 石川さおり 櫻井保晴 ほか4名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告に対し平成13年6月27日付けでした、原告の平成6年分の所得税の更正のうち課税総所得金額190万6000円、課税長期譲渡所得金額1億6434万4000円、納付すべき税額2275万7700円を超える部分並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定を取り消す。

第二事案の概要

本件は、別紙2<略>物件目録記載1から3までの不動産(以下「本件各不動産」という。)を売却した原告が、<1>被告が原告に対して平成13年6月27日付けでした原告の平成6年分の所得税の更正並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定につき、上記売却の際、買主から原告の弟であるA名義の預金口座に振り込まれた4400万円の金員(以下「本件A金員」という。)を原告の譲渡所得の金額に算入し、また、原告がその弟であるBに立退料名目で支払った3500万円の金員(以下「本件B金員」という。)を原告の譲渡費用に算入しないでされた点において、違法である旨主張し、<2>重加算税の賦課決定につき、原告には重加算税の賦課の要件である国税通則法(以下「通則法」という。)68条1項所定の事実の隠ぺい又は仮装行為が存在しないから違法である旨主張するとともに、<3>原告には更正及び賦課決定を行い得る期間を延長する規定である通則法70条5項にいう「偽りその他不正の行為」も存在しないから、上記更正並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定を行うことはできない旨主張して、これら各処分の取消しを求める事案である。

一  関係法令の定め

1  所得税法

33条3項

譲渡所得の金額は、次の各号に掲げる所得につき、それぞれその年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計を控除し、その残額の合計額(…(中略)…)から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする。

1号 資産の譲渡(…(中略)…)でその資産の取得の日以後5年以内にされたものによる所得(…(中略)…)

2号 資産の譲渡による所得で前号に掲げる所得以外のもの(以下省略)

2  通則法

(一) 65条1項

期限内申告書(還付請求申告書を含む。第3項において同じ。)が提出された場合(…(中略)…)において、修正申告書の提出又は更正があったときは、当該納税者に対し、その修正申告又は更正に基づき第35条第2項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する。

(二) 68条1項

第65条1項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(同条第5項の規定の適用がある場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令に定めるところにより、過少申告加算税の額の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠ぺいし、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠ぺいし、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。

(三) 70条

1項 次の各号に掲げる更正又は賦課決定は、当該各号に掲げる期限又は日から3年を経過した日(同日前に期限後申告書の提出があった場合には、同日とその提出があった日から2年を経過した日とのいずれか遅い日)以後(…(中略)…)においては、することができない。

1号 更正(…(中略)…)その更正に係る国税の法定申告期限(…(中略)…)

2号 課税標準申告書の提出を要する国税で当該申告書の提出があったものに係る賦課決定 当該申告書の提出期限

2項から4項まで 省略

5項 偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ、若しくはその全部若しくは一部の税額の還付を受けた国税(…(中略)…)についての更正決定等又は偽りその他不正の行為により当該課税期間において生じた純損失等の金額が過大にあるものとする納税申告書を提出していた場合における当該申告書に記載された当該純損失等の金額(…(中略)…)についての更正は、前各項の規定にかかわらず、次の各号に掲げる更正決定等の区分に応じ、当該各号に掲げる期限又は日から7年を経過するまで、することができる。

1号 更正又は決定 その更正又は決定に係る国税の法定申告期限(…(中略)…)

2号 課税標準申告書の提出を要する国税に係る賦課決定 当該申告書の提出期限

3号 課税標準申告書の提出を要しない賦課課税方式による国税に係る賦課決定 その納税義務の成立の日

二  前提事実

本件の前提となる事実は、次のとおりである。なお、証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることのできる事実は、その旨付記してあり、その余の事実は、当事者間に争いのない事実か当裁判所に顕著な事実である。

1  原告による不動産売却の経緯等

(一) 別紙2<略>物件目録記載1及び2の土地(以下、これらを併せて「本件土地」という。)には、昭和10年3月13日付け売買を原因とする原告への所有権移転登記手続が取られている。(<証拠略>)

原告は、大正12年生まれであって、昭和10年当時はまだ幼く、資力を有していなかった。しかし、当時は、長男の家督相続が原則であったことから、父C(以下「父」という。)は、本件土地を購入した後、これをあらかじめ長男である原告名義のものとしておくために、上記のような登記手続を取ったものである。(<証拠略>、弁論の全趣旨)

(二) 原告は、昭和21年1月23日、別紙2<略>物件目録記載3の建物(以下「本件建物」という。これと本件土地とを併せたものが本件各不動産である。)を父から相続により取得した。(<証拠略>)

(三) 原告の母D(以下「母」という。)は、平成3年8月16日、死亡した。当時、原告の弟B(以下「B」という。)は、母と二人で本件建物に居住していたが、本件建物の利用関係は、原告からの使用貸借であった。

(四) 原告は、弟であるA(以下「A」という。)に対し、平成4年4月13日、本件各不動産の売却に係る交渉、契約締結、契約の管理遂行、代金の受領、代金の分配等一切の業務を委任した。(<証拠略>)

(五) 原告は、Aを代理人として、平成5年6月24日付けで、E建物株式会社(以下「E建物」という。)との間で、3億0500万円に、公簿面積と実測面積との差につき一坪当たり229万5304円を乗じた金額を精算金(以下「実測清算金」という。)として付加した合計金額を売買代金として、本件各不動産を売却する旨の売買契約書を取り交わした(以下、この契約書を「本件第一売買契約書」といい、また、E建物との本件各不動産に係る売買契約を「本件第一売買契約」という。)。(<証拠略>)

(六) E建物は、Aに対し、平成5年6月24日付けで、上記売買代金とは別に、3600万円及び800万円を本件第一売買契約の決済日である平成6年1月31日限り支払うことを確約するという内容の念書2通(以下、これらを併せて「本件第一念書」という。)を差し入れた。(<証拠略>)

(七) しかし、E建物は、本件第一売買契約による代金支払債務を履行することができない状態となった。そのため、E建物の代表取締役F(以下「F」という。)は、Aに対し、本件第一売買契約と同一の売買条件で本件各不動産の購入を希望する新たな買主として、株式会社G(以下「G」という。)を紹介した。Gの代表取締役は、H(以下「H」という。)であった。(<証拠略>)

(八) 原告は、Aに対し、平成6年8月1日ころ、本件各不動産の売却に係る交渉、契約締結、契約の管理遂行、代金の受領、代金の分配等の一切の業務を再度委任した。(<証拠略>)

(九) 原告は、Aを代理人として、Gに対し、平成6年8月8日付けで、3億0500万円に実測清算金として1.99坪に229万5304円を乗じた456万7655円を付加した3億0956万7655円を売買代金として、本件各不動産を売却する旨の売買契約書を取り交わし、本件各不動産をGに売り渡した(以下、この契約書を「本件第二売買契約書」といい、また、Gとの本件各不動産に係る売買契約を「本件第二売買契約」という。)。本件第一売買契約書と本件第二売買契約書は、買主がE建物とGという違いがあるだけで、締結日、代金支払日を除くその余の記載内容はほぼ同一である。原告を含む本件第二売買契約書への関係当事者の署名・押印は、一同に会してされたものではなく、持ち回りでされたものであった。(<証拠略>)

(一〇) Gは、Aに対し、そのころ、上記売買代金とは別に、3600万円及び800万円(これらの合計金額4400万円が本件A金員である。)を平成6年1月31日限り支払うことを確約するという内容の平成5年6月24日付け念書2通(以下これらを併せて「本件第二念書」という。)を差し入れた。これは、E建物から本件各不動産の買主の地位を引き継いだGが本件第一念書と同一の内容の念書を差し入れたにすぎないものであり、本件第一念書と本件第二念書は、差し入れた会社がE建物とGという違いがあるだけで、作成日付及び支払日を含め他の記載内容はすべて同一であった。(<証拠略>)

(一一) Gは、平成6年8月12日、株式会社I銀行渋谷支店の原告名義の普通預金口座に本件第二売買契約書記載の売買代金3億0956万7655円を振り込んで支払った。

(一二) Gは、平成6年8月12日、株式会社I銀行渋谷支店のA名義の普通預金口座に本件A金員4400万円を振り込んで支払った。(<証拠略>)

(一三) 本件建物は、原告とGとの合意に基づき、原告により取り壊された。本件土地には、平成6年8月12日付けで、同月8日付け売買を原因とするGへの所有権移転登記手続が経由されている。(<証拠略>)

(一四) Aは、本件A金員の収入につき、J連盟全国連合会(以下「J連盟」という。)に対する支払金を一時預かっただけで、後日、J連盟に支払ったという形を取るために、J連盟が4400万円を受領したとする架空の領収書(以下「本件領収書」という。)を入手し、これをA自身の所得税の申告に際して利用した。(<証拠略>)

2  原告のBへの本件B金員の支払の経緯等

(一) 原告は、平成5年6月24日付けで、立退料として3500万円(これが本件B金員である。)をBに支払うという内容の「明渡し通知書」と題する書面(以下「本件明渡し通知書」という。)を作成した。(<証拠略>)

(二) 原告は、Bに対し、平成6年8月15日付けで、本件B金員3500万円を支払い、同年9月、Bから本件建物の明渡しを受けた。(<証拠略>)

3  Gによるマンション「E新中野」の建設等

(一) Gは、本件各不動産の購入後、本件土地及び隣接する土地にマンション「E新中野」(以下「本件マンション」という。)を建設した。(<証拠略>)

(二) 原告の代理人であったAは、Gとの間で、後記4(一)の確定申告をしたころには、本件各不動産の売買代金の一部で、本件マンション3室を買換資産として購入する話を進めていた。しかし、原告は、平成8年ころ、最終的に、本件マンション2室を購入するとの意思決定をし、これらを9140万円で購入した。この2室は、原告を含む兄弟間の話合いで、最終的に原告が取得することとなった。(<証拠略>)

4  原告に対する課税処分の経緯等

(一) 原告は、平成7年3月7日、別表1<略>の「期限内申告」欄記載のとおり、Aの作成した平成6年分の所得税の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を被告に提出した。本件確定申告書には、本件A金員4400万円についての記載はなかった。また、本件確定申告書の「分離課税の所得金額」欄中の「長期譲渡所得」欄には、1億3052万1475円と記載されているが、これは、本件第二売買契約書に記載された代金総額3億0956万7655円から、本件マンション3室を買換資産とした場合の取得価額1億3630万円を控除するとともに、Bに対して支払った本件B金員を含めた譲渡費用等の必要経費を控除して算出した金額であった。

また、本件確定申告書には、「分離課税の所得」欄中の「<A>収入金額」欄に「1億7326万7655円」と記載されており、本件確定申告書に添付されていた「譲渡内容についてのお尋ね」と題する書面には、本件各不動産の「譲渡代金(収入金額)」欄中の「短期」欄に「3億0956万7655円、交換額1億3630万円」と記載され、これらを差し引き計算をした金額として、「譲渡代金(収入金額)」欄中の「長期」欄に「1億7326万7655円」と記載されていた。

(以上につき、<証拠略>)

(二) 原告は、平成8年3月19日、上記(一)の買換資産が本件マンション3室ではなく、2室になったとして、別表1<略>の「修正申告」欄記載のとおり、平成6年分の所得税の修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を提出した。本件修正申告書には、本件マンション2室の購入金額が合計9140万円と記載され、また、譲渡所得の金額の計算として、「A 譲渡代金」欄に「3億0956万7655円」、「B 買換(代替)資産の買入代金」欄に「9140万円」及び「C 収入金額(A-B)」欄に「2億1816万7655円」と記載されていた。(<証拠略>)

(三) 被告は、平成13年6月27日、別表1<略>の「更正・賦課決定」欄記載のとおり、原告の平成6年分の所得税について、更正(以下「本件更正」という。)をするとともに、過少申告加算税及び重加算税の賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)をした。

(四) 原告は、平成13年8月23日、被告がした本件更正及び本件賦課決定を不服として、別表1<略>の「異議申立て」欄記載のとおり、異議申立てをした。これに対し、被告は、同年12月19日付けで、別表1の「異議決定」欄記載のとおり、上記異議申立てを棄却する旨の決定をした。

(五) 原告は、平成14年1月18日、被告がした上記(四)の決定を不服として、国税不服審判所長に対し、審査請求をした。国税不服審判所長は、平成15年7月9日、同審査請求を棄却する旨の裁決をした。

(六) 原告は、平成15年10月4日、本件訴えを提起した。

三  被告が主張する原告の所得税額等

被告が本訴において主張する原告の所得税額、過少申告加算税額及び重加算税額の課税根拠及び計算過程は、以下のとおりである。

原告は、これらのうち、<1>本件A金員が本件各不動産の譲渡価額に含まれること及び本件B金員が本件各不動産の譲渡費用に該当しないことを前提とする部分、<2>通則法70条5項の適用のための「偽りその他不正の行為」の有無並びに<3>重加算税の賦課の要件である納税者による事実の隠ぺい又は仮装行為の有無について争うものであり、その余の課税根拠及び計算関係については、争っていない。

1  平成6年分の所得税

(一) 課税総所得金額(別表3<略>の順号4の金額) 190万6000円

上記金額は、次の(1)の総所得金額から次の(2)の所得控除の合計金額を控除した金額である(ただし、通則法118条1項の規定に基づき、千円未満の端数を切り捨てた後の金額)。

(1) 総所得金額(別表3<略>の順号1の金額) 279万0478円

上記金額は、原告の平成6年分の雑所得の金額であり、本件修正申告書に記載された金額と同額である。

(2) 所得控除の合計額(別表3<略>の順号3の金額) 88万4300円

上記金額は、所得税法第2章第4節に規定する所得控除の合計額であり、本件修正申告書に記載された金額と同額である。

(二) 分離課税長期譲渡所得金額(別表3<略>の順号5の金額) 2億2985万9000円

上記金額は、本件各不動産の譲渡に関する分離課税長期譲渡所得金額であり、次の(1)の収入金額から次の(2)の必要経費を控除した金額である(ただし、通則法118条1項の規定に基づき、千円未満の端数を切り捨てた後の金額)。これは、<1>本件修正申告書に記載された金額1億6434万4373円の算出根拠となった譲渡価額3億0956万7655円に、譲渡価額の金額として算入すべきである本件A金員の金額4400万円を加算した金額を譲渡価額(後記(1)アのとおり)とし、<2>同じく算出根拠となった必要経費のうちの譲渡費用6089万3833円から、譲渡費用の金額として算入されるべきでない本件B金員の金額3500万円を控除した金額を譲渡費用(後記(2)イのとおり)として、算出した金額である。

(1) 収入金額(別表<略>2の順号5の金額) 2億6216万7655円

上記金額は、次のアの譲渡価額から次のイの買換資産の取得価額を控除した金額である。

ア 譲渡価額(別表2<略>の順号1の金額) 3億5356万7655円

上記金額は、原告が本件各不動産をGに対して譲渡した金額である。これは、原告が本件確定申告書に添付して平成7年3月7日に提出した「譲渡内容についてのお尋ね」と題する書面(<証拠略>)に記載された「譲渡代金(収入金額額)」欄記載の金額3億0956万7655円に、譲渡価額の金額として算入すべきである本件A金員の金額4400万円を加算した金額である。

イ 買換資産の取得価額(別表2の順号4の金額) 9140万円

上記金額は、平成8年法律第17号による改正前の租税特別措置法(以下「措置法」という。)37条の5に規定する買換資産の取得価額である。なお、上記金額は、原告が平成8年3月19日に町田税務署長あてに提出した「譲渡内容についてのお尋ね」と題する書面の別紙2(<証拠略>。以下「本件お尋ね別紙2」という。)に記載された金額と同額である。

(2) 必要経費(別表2<略>の順号6の金額) 3230万8457円

上記金額は、次のアの取得費及び次のイの譲渡費用の金額の合計額4357万2215円に前記(1)アの譲渡価額に占める前記(1)の収入金額の割合を乗じて計算した金額である。

ア 取得費(別表2<略>の順号2の金額) 1767万8382円

上記金額は、前記(1)アの譲渡価額3億5356万7655円に措置法31条の4(長期譲渡所得の概算取得費控除)に規定する100分の5の割合を乗じて計算した金額である。

イ 譲渡費用(別表2<略>の順号3の金額) 2589万3833円

上記金額は、本件各不動産の譲渡に要した費用の合計額である。これは、本件お尋ね別紙2の「8―1」の「必要経費」欄中の「E譲渡資産の譲渡費用」欄に記載された譲渡費用の金額6089万3833円から、譲渡費用の金額として算入されるべきでない本件B金員の金額3500万円を控除した金額である。

(三) 納付すべき税額(別表3<略>の順号10の金額) 3258万5000円

上記金額は、次の(1)及び(2)の合計額から次の(3)及び(4)の金額を控除した金額である(ただし、通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り捨てた後の金額)。

(1) 課税総所得金額に対する税額(別表3<略>の順号6の金額) 19万0600円

上記金額は、前記(一)の課税総所得金額190万6000円に所得税法189条1項に規定する税率を適用して計算した金額である。

(2) 分離課税長期譲渡所得金額に対する税額(別表3<略>の順号7の金額) 3447万8850円

上記金額は、平成7年法律第55号による改正前の租税特別措置法31条1項及び31条の2第1項に基づき、前記(二)の分離課税長期譲渡所得金額2億2985万9000円に100分の15を乗じて計算した金額である。

(3) 特別減税額(別表3<略>の順号8の金額) 200万円

上記金額は、平成6年分の所得税の特別減税のための臨時措置法(平成6年法律第29号)4条の規定により計算した同法3条の特別減税の額であり、本件修正申告書に記載された金額と同額である。

(4) 源泉徴収税額(別表3<略>の順号9の金額) 8万4424円

上記金額は、原告の平成6年分の雑所得に関する源泉徴収税額であり、本件修正申告書に記載された金額と同額である。

2  過少申告加算税 36万9000円

上記金額は、原告の平成6年分の所得税の納付すべき税額3258万5000円から本件修正申告書に記載された納付すべき税額2275万7700円を控除した後の金額982万7300円のうち国税通則法施行令28条の規定により過少申告加算税の対象の基礎となるべき税額のうち当該事実のみに基づいて更正があったものとした場合における納付すべき税額369万円(通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に対して通則法65条1項に規定する100分の10の割合を乗じて算出した金額である。

3  重加算税 214万2000円

上記金額は、原告の平成6年分の所得税の納付すべき税額3258万5000円から本件修正申告書に記載された納付すべき税額2275万7700円を控除した後の金額982万7300円のうち国税通則法施行令28条1項の規定に基づき本件賦課決定に係る過少申告加算税の対象となった金額369万9900円を控除した金額612万円(通則法118条3項の規定により1万円未満を切り捨てた後のもの)に対して、通則法68条1項に規定する100分の35の割合を乗じて算出した金額である。

四  争点

本件の争点は、以下の4点のみである。

1  本件A金員が本件各不動産の譲渡所得の金額の計算上譲渡価額に算入されるか。

2  本件B金員が本件各不動産の譲渡費用に当たらないか。

3  原告に、重加算税の賦課の要件である通則法68条1項にいう事実の隠ぺい又は仮装行為が存在するか。

4  更正及び賦課決定を行い得る期間を延長する通則法70条5項の規定にいう「偽りその他不正の行為」が存在するか。

五  争点に関する当事者の主張の要旨

上記各争点に関する当事者の主張の要旨は、別紙1のとおりである。

第三当裁判所の判断

一  争点1について

1  Aが、平成4年ころ、原告から本件各不動産の売却交渉、売買契約の締結、売買代金の受領と管理、分配及び税務申告等の委任を受け、本件各不動産の売却交渉を開始したことは、当事者間に争いがなく、これに加え、前記第二の二の前提事実に証拠(<証拠略>)並びに弁論の全趣旨によれば、本件各不動産の売買契約締結に至る経緯、本件各不動産の売買代金の分配等に関し、次の事実を認めることができる。なお、証人Fの供述中には、一部以下の認定事実に反するかのような部分もあるが、同部分は、その内容自体あいまいで、供述の前後で相互に矛盾するものであり、同証人の証言時点での病状に照らし、そのまま信用することはできないので、採用することができない。また、原告本人の供述及び陳述(<証拠略>)のうち以下の認定事実に反する部分は、他の証拠関係に照らすと合理性がなく、信用することができず、やはり採用することができない。

(一) 原告は、平成3年8月に母が死亡した後、本件各不動産を売却しようと考え、他の兄弟の了承も得た。しかし、原告は、当時、多忙を極めていたため、Aに対し、本件各不動産の売却の交渉等を任せることとし、平成4年ころ、Aに対し、本件各不動産の売却交渉等の一切の業務を委任し、広範な代理権を授与して、白紙委任状も交付した。

そこで、Aは、原告の代理人として、有限会社KのLを仲介者として、順次、M地所株式会社、E建物の代表取締役F及びGの代表取締役Hと本件各不動産の売買契約の交渉に当たり、本件第一売買契約、本件第二売買契約等を締結した。

Aは、原告や他の兄弟の最大の関心事が、本件各不動産の売買代金総額と各人への分配金であると考えていたので、交渉が進む都度、原告及びその他の兄弟に対し、本件各不動産の売買代金総額や各人への分配金の見込みを報告するとともに、分配金については、売買代金から税金等の諸経費を控除した残額をできるだけ均等に分配する考えであることを約束していた。ただ、末弟のBは、他の兄弟と異なり、独身であって、本件建物に居住しており、この売却に伴い住居を新たに求めなければいけないこと、母が死亡するまでその世話をしてきたことなどから、他の兄弟より多目の分配金を渡すことで、原告を含む兄弟全員が了承しており、Aもその意向に沿って、分配金の配分を決めることになっていた。

(二) Aは、本件各不動産の売却につき、平成4年ころ、まず、有限会社Kを仲介者としてM地所株式会社と交渉していたが、売買代金額が希望に叶わず、まとまらなかった。しかし、洋は、有限会社KのLから、E建物のFを紹介された。Fは、LとAから、売主の希望としては、本件各不動産の売買代金は、一坪当たり263万円で総額3億5000万円くらいであり、このうち、売買代金として契約書に記載するのは3億0500万円くらいで、残額はAあての念書に記載し、これに基づいて支払をしてほしいと告げられた。

Fは、本件各不動産だけの価値としては、3億円以上には評価することができないが、本件土地に隣接する土地を購入すれば、合わせてその場所に適当な収益を上げるマンションを建設することができ、その場合には、本件各不動産の利用価値が高まることから、本件各不動産を3億5000万円くらいで購入しても相当であると考え、本件土地に隣接する土地の購入については、その所有者と自ら交渉を行うこととし、本件各不動産を購入することにした。

(三) Aは、Fに対し、原告から本件各不動産の売買契約についての交渉の一切を委任されている旨告げ、原告名義の白紙委任状を示した。また、そのころ、Aは、Fから、本件各不動産の売買代金のうち4400万円相当額の節税対策は確実にできるから大丈夫である旨告げられ、その話に乗ることにした。

(四) 原告は、Aが本件各不動産の売買の交渉を開始した平成4年、Aから、本件各不動産の買主をM地所株式会社として交渉に当たっていることや、売買代金総額が3億5000万円くらいになりそうである旨の報告を受けた。

原告は、平成5年ころ、Aから、本件各不動産は、M地所株式会社ではなく、E建物に売却すること、売買代金総額は、本件建物の評価を零とし、本件土地の評価だけでほぼ3億5000万円として話がまとまりそうであること、ただ、この価格にするためには、本件土地と隣接する土地をE建物が購入する必要があり、目下その所有者との交渉に時間を要していること、E建物は、本件土地と隣接する土地を合わせて、12階建てのマンションを建築する予定であることなどの報告を受けた。

(五) Fは、売買代金総額等につき原告自身の意思を確認したいとして、原告との面会を希望し、平成5年春ころ、Aに同席してもらった上で原告と面会し、原告が本件各不動産を売買代金約3億5000万円で売却する意思を有していることを確認した。また、Fは、売買代金について、売買契約書に記載するものと、念書として記載するものと二口に分けて支払うこと、これらの手続等はすべてAに委任しているということで間違いないかを原告に対して確認したところ、原告は、いずれについてもAに一任しているので、Aと交渉してくれればよいと答えた。

(六) その結果、Fは、平成5年6月24日付けで、売買代金を3億0500万円と実測清算金とする旨記載した本件第一売買契約書(<証拠略>)を作成した。

本件第一売買契約書に契約当事者が署名する際には、原告も同席し、売主欄に署名押印した。その際、原告は、本件第一売買契約書に記載された売買代金額が3億0500万円及び実測清算金の合計金額であること、当初3億5000万円と聞いていた代金総額とかなり開きがあることを認識したが、その理由について、その場にいたFやAに質問することはなかった。

Fは、Aに対し、同日付けで、3600万円及び800万円を支払う旨の本件第一念書(<証拠略>)を作成して、交付した。

(七) 本件第一売買契約書に基づき、平成5年9月30日までに本件土地の地積の実測がされ、公簿面積と実測面積の差が6.58平方メートル(1.99坪)であることが判明した。

(八) その後、E建物の経営状態が悪化し、Fは、再三にわたり、原告に対し、売買代金の支払期日の延期を申し入れ、契約上の支払期日を経過した後にも延期の申入れがあり、原告はこれをやむを得ないとして了承していた。

しかし、本件第一売買契約の履行が決定的に不可能となったため、Fは、Aに対し、E建物と同一条件で購入を希望する買主として、Gを紹介した。

(九) GのHは、原告と売買契約を締結するに先立ち、平成6年6月ころ、Fとともに原告に面会し、GがE建物と同一条件で本件各不動産を購入する意向を伝えたところ、原告は、Hに対し、これを了承した上で、本件各不動産の売買契約の交渉については一切をAに任せてあるから、Aと話を進めてくれて構わないと告げた。

(一〇) また、原告は、平成6年に、本件第二売買契約に先立ち、Aから、「B.D1 新築計画の概要」、「B.D2 税制改正 平成6年1月1日施行」、「B.D3 譲渡契約の概要」と項目立てした書面<証拠略>の交付を受け、その内容について説明を受けた。この書面には、譲渡先として「E建物株式会社 名義(株)G」との記載が、本件各不動産の譲渡金額として2箇所に「35,000万円」との記載があり、また、譲渡金額の内訳として、「土地の譲渡代金 12,360万円」、「建物等価交換価額12,640万円」、「立退料(移転合意解決金) 5,500万円」、「契約合意解決金 4000万円」及び「加金 500万円」との記載があった。

GとAとの間では、本件各不動産の売買の交渉と併行して、本件土地等にスクールが建設を予定している本件マンションのうち3室を、原告が買換資産として購入するという交渉がされていた。当初、本件マンション3室については、本件各不動産の売買代金の支払に代えて、等価交換するという話であったが、Aの希望により、Gは、本件各不動産の売買代金を全額支払い、後日、別途、原告が本件マンション3室の購入代金を支払うことに決まった。

(一一) GのHは、E建物と原告との本件第一売買契約と同一内容の契約を締結することとし、原告との間で、Aを代理人として、本件各不動産の売買代金を3億0500万円と実測清算金456万7655円を合わせた3億0956万7655円と記載した平成6年8月8日付けの本件第二売買契約(<証拠略>)を取り交わした。原告を含む本件第二売買契約書の関係当事者の署名、押印は、持ち回りでされた。

また、Gは、Aとの間で、本件第一念書と同一内容の本件第二念書(<証拠略>)も取り交わしたが、E建物の名義をGの名義に書き換えたものだけであったため、本件第二念書の作成日は、平成5年6月24日付けのままとなった。

(一二) Hは、株式会社I銀行渋谷支店の担当者に対し、本件第二売買契約書及び本件第二念書を示した上、本件各不動産を3億4900万円で購入する旨説明して融資を受け、平成6年8月12日、同支店から、同支店の原告名義の預金口座に3億0956万7655円を、同支店のA名義の預金口座に4400万円を、それぞれ振り込んで支払った。

(一三) 本件土地について、平成6年8月12日付けで、それぞれ、Gに対する同月8日付け売買を原因とする所有権移転登記手続がされた。

(一四) Aは、原告から、本件各不動産の売買代金を受領して管理し、これを兄弟に分配することも委任されていたため、本件第二売買契約に基づき売買代金が振り込まれた原告名義の銀行口座及び本件第二念書に基づき本件A金員が振り込まれたA名義の銀行口座をいずれも管理し、兄弟への分配金や税金等諸経費の支払をこれらの口座から出金して行った。

Aは、本件A金員を含む合計3億5356万7655円を、原告、A、Bそのほか2名の兄弟に対する本件各不動産の売買代金の分配及び税金等諸経費の原資とするという内容の分配表(<証拠略>)を平成8年の内に作成し、説明のために兄弟に配布するなどした。そして、実際に本件A金員を含めて分配原資とし、平成9年までに、全員に分配をし終えた。なお、Aは、本件A金員のうち1000万円を原告の取り分として原告の妻Nに交付し、残りのうち一部は、本件各不動産の売買に関する諸経費に充て、残額2126万円は、A自身が分配金として受領した。また、Aは、本件A金員を一時所得として考慮した場合にかかる税金として所得税、住民税、事業税等を計算し、その合計1083万1000円を本件A金員のうちから税金引当金の名目で受領した。

(一五) 原告が署名押印済みの本件第二売買契約書と本件第二念書を実際に見たのは、平成13年になってからであったが、原告は、Gと締結した本件第二売買契約が、E建物との本件第一売買契約と同一の内容であることをあらかじめA及びHから聞き、本件第二売買契約の締結当時から知っていた。

(一六) Aは、原告に対して税務調査がされた初日である平成13年4月24日、東京国税局職員に対し、本件A金員は本件各不動産の売買代金の一部であると認識していると述べた。

また、原告は、同日、東京国税局職員に対し、Aが本件各不動産の売買契約の交渉を開始した当初、Aから本件各不動産の売買代金が大体3億5000万円くらいになりそうだと聞いていた旨述べた。

Aは、その後、原告から、本件A金員は裏金であって、自分は与り知らぬと詰問され、東京国税局職員に対して説明するために、本件A金員の使途について適当に数字を合わせるように記載した平成13年6月14日付け書面(<証拠略>)を作成した。原告は、同書面を基に、東京国税局職員に本件A金員について説明した。

(一七) Aは、平成13年7月8日付けで、原告に対し、本件に関する自己の認識を記載した書面(<証拠略>)を送付した。同書面には、<1>本件A金員は、売買契約締結に至る流れから、土地譲渡代金の一部として考えられ、この件に関する東京国税局との争いに、原告は勝つ見込みはないこと、<2>A自身の認識としても、本件A金員は、土地代金の一部として受領したものであり、実際に、兄弟への分配原資としたこと、<3>本件A金員の約半分をAが勝手に費消したという原告の考えは誤りであり、正規の分配金として受領したものであることなどが記載されていた。また、同書面には、前記(一二)の分配表(<証拠略>)と新たに作成した分配表(<証拠略>)とが添付されていた。Aが新たに作成したこの分配表は、原告が、兄弟間で分配金をより均等にするために、本件マンションの1室である302号室を売却して分配原資に充てることを提案し、Aにその試算を求めたことから、作成されたものであった。

(一八) Aは、本件に関する審査請求の際、国税不服審判所に対し、本件第二売買契約書と本件第二念書を作成し、それぞれに基づき金員を受領したことについて、譲渡所得に係る税率が国税と地方税とを併せて39パーセントと高いものであったので、当時の不動産業界では、節税対策として、手取額を多くするための一つの方便として名義を分散するということが提案されており、本件譲渡についてもこれを踏襲し、名義を最初から分けておけばよいと考えたためであると説明した。

(一九) 原告は、本件A金員が本件各不動産の売買代金の一部であるという認識を示したAに対し、その後今日に至るまで、本件A金員相当額の返還を要求したことは一度もない。

2  前記前提事実及び上記認定事実を総合勘案すれば、<1>原告は、Aに本件各不動産の売買契約の交渉、契約締結、売買代金の受領、管理、分配を一任したこと、<2>その交渉の結果、本件各不動産の売買代金総額は、E建物との交渉の段階から、契約当事者間において、約3億5000万円とするという合意がされ、原告本人もこれを了承したこと、<3>その後、買主となる者は変遷したものの、本件第二売買契約も含め、一貫して売買代金の合計金額が変わることはなかったこと、<4>ただ、譲渡所得に係る税金を少しでも少なくする工夫をするために、その内訳として、原告と買主との間の売買契約書と買主がAに差し入れる念書に分けて記載するという方法が考案され、Aの承諾の上実行されたこと、<5>本件第二売買契約における買主がGであること及びその契約内容が従前原告に報告されているものと同一であることは、原告自身も了解していたことを認めることができる。

そうすると、本件第二念書の相手方が本件各不動産の売主である原告の代理人であったA本人であり、これに基づく本件A金員がA名義の銀行口座に振り込まれているとしても、これは、上記のとおり、所得を分散させる工夫として売買代金の受領を振り分けるために形式上取られた方便にすぎず、本件第二念書は、本件第二売買契約書と不可分のものであって、その授受は、代理人であるAが本人である原告のために行った行為の一つであるというべきである。したがって、本件A金員は、その名目及び振込先いかんにかかわらず、本件各不動産の売買代金の一部であると認めるのが相当であるから、本件各不動産の譲渡所得の金額の計算上、譲渡価額に含まれるというべきである。

3(一)  この点に関し、原告は、本件各不動産の売買代金は本件第一売買契約書及び本件第二売買契約書に記載された3億0500万円と実測清算金の合計金額にとどまるものであり、原告が本件第一売買契約を締結したときに、当時の地価の下落状況を考えて、当初の3億5000万円から上記の金額に下がったことを相当と考えたことには合理性があるから、その際に疑問を呈さなかったことは自然であること、また、東京国税局による税務調査が行われるまで本件第二念書の存在及び本件A金員の存在を知らなかったのであり、本件A金員はA名義の銀行口座に振り込んで支払われ、Aによって費消されたのであって、原告は、全く関与しておらず、受領してもいないことからして、本件A金員は本件各不動産の譲渡価額に含まれない旨主張し、原告の陳述書(<証拠略>)及び原告本人尋問においても、これに沿う陳述及び供述をしている。

(二)  しかしながら、前記1の認定事実によれば、<1>原告は、Aに売買契約の交渉等を委任した当初、本件各不動産を一坪当たり263万円、総額約3億5000万円で売却するということをAから聞き、また、平成5年春ころには、当時買主となる予定であったE建物のFからも、上記売買代金総額について直接聞いて承知した上で、同年6月24日、E建物との間で本件第一売買契約を締結したこと、<2>ところが、本件第一売買契約書には売買代金総額が3億0500万円と実測清算金の合計金額と記載されていたこと、<3>それにもかかわらず、原告は、この内容を確認した上署名したが、代金額が3億5000円と大きな差があることについて特段FやAに説明を求めることはしなかったこと、<4>本件第二売買契約の締結に先立ち、原告は、本件第一売買契約と本件第二売買契約が買主が異なるだけで、契約内容は全く同一であることをHから説明を受け、また、Aからも、書面(<証拠略>)を交付されて、本件各不動産の譲渡代金が総額3億5000万円であるとして、その内訳について説明を受けていたことが認められる。これらを考え合わせると、原告は、本件第二売買契約書の締結により、本件第二売買契約書に基づく売買代金以外に本件A金員相当額が支払われること、及びこれが本件各不動産の売買代金の一部であることを認識していたと認めるのが相当である。原告が本件第一売買契約書に署名押印した時点で、了解済みの代金額と、本件第一売買契約書記載の代金額と数千万円もの差があることを認識しながら、地価が下落傾向であったことから、売買代金が交渉段階のものより相当程度低いものとなったのだと勝手に理解して、AやFに特に質問することもなく、そのまま納得したという原告の供述及び陳述や平成13年に税務調査が行われるまで、およそ本件A金員の存在を知らず、本件各不動産の譲渡価額が3億0956万7655円にとどまるという認識しかなかったという原告の供述及び陳述は、以上に認定した事実経過に照らし、到底信用することはできない。

また、本件A金員の分配については、前記1(一四)に認定したとおりであり、原告自身も本件A金員のうち1000万円は原告ないし原告の妻が受領していることを認めたことがある(<証拠略>)のであるから、この点に照らしても、原告の前記(一)の主張及びこれに沿う原告本人の陳述及び供述は、合理性を欠くものといわざるを得ず、採用することができない。

(三)  さらに付言すれば、そもそも、前記のとおり、原告がAに対し、本件各不動産の売買契約の交渉、契約の締結、売買代金の受領、管理、分配を一任していたことは、当事者間に争いがなく、その代理人であるAとGとの間で、本件各不動産の売買代金総額が本件A金員を含めた約3億5000万円であって、これを契約書記載のものと念書記載のものの二口に分散すると合意されたことが認められるものであるから、仮に、原告が、本件第二売買契約書及び本件第二念書の作成に至るAの一連の行動並びに本件各不動産の売買代金総額を認識していなかったとしても、これは、本件A金員が本件各不動産の譲渡価額に含まれるという前記判断を何ら左右するものではないのである。

4  以上のとおりであり、本件A金員は、本件各不動産の譲渡所得の金額の計算上、譲渡価額に含まれるというべきである。

二  争点2について

1  所得税法33条3項によると、譲渡所得の金額の計算上譲渡収入金額から控除される譲渡費用とは、当該資産の基因となった資産の譲渡に要した費用をいうものとされている。そして、所得税法基本通達33―7によると、譲渡費用とは、資産の譲渡に係る費用のうち、<1>資産の譲渡に際して支出した仲介手数料、運搬費、登記若しくは登録に要する費用その他当該譲渡のために直接要した費用及び<2><1>に掲げる費用のほか、借家人等を立ち退かせるための立退料、土地(借地権を含む。)を譲渡するためその土地の上にある建物等の取壊しに要した費用、既に売買契約を締結している資産を更に有利な条件で他に譲渡するため当該契約を解除したことに伴い支出する違約金その他当該資産の譲渡価額を増加させるため当該譲渡に際して支出した費用とされており、この解釈基準は合理的なものと考えることができる。

2(一)  そこで、本件において、本件建物の使用借権者であるBに対して原告が支払った本件B金員が、本件各不動産の譲渡費用といえるか否かにつき、前記1のとおり当該資産の譲渡価額を増加させるため当該譲渡に際して支出した費用といえるかどうかという観点から検討することとする。

(二)  Bが本件建物の使用借権者であることは当事者間に争いがなく、また、証拠(<証拠略>)によれば、次の事実を認めることができる。

(1) Bは、原告の末弟であり、昭和8年に生まれてから、平成6年8月まで、本件建物に居住し、生活してきた。平成3年8月までは、母と同居していたが、母の死後、独身であったBは、単身で本件建物に居住していた。

(2) Bは、昭和31年ころ働き始めたが、昭和33年に原告が結婚して本件建物から転居して以降、平成6年まで、本件各不動産の固定資産税及び都市計画税を支払う事務を原告に代わって行った。

昭和50年以降に支払われた本件建物の固定資産税の金額は、合計8万5211円であり、昭和58年以降に支払われた本件土地の固定資産税及び都市計画税の金額は、合計630万0070円である。

原告は、就職した以降、勤務先に母を被扶養者として届け出て、扶養手当の支給を受け、その全額と給与等の一部を母にその都度交付していた。これ以外に、母は、父が死亡した後、軍人遺族恩給の給付を受けていた。

(3) 本件建物は、母の死亡時点で既に建築後相当期間を経過していたことから、老朽化が進み、耐震性等も問題となっていた。

Bは、本件建物にそのまま住み続けることに不安を覚え、適当な移転先があれば転居する意向を示していた。そのため、原告は、本件各不動産を売却することを考え、他の兄弟にも異存はなかった。

(4) 原告は、平成5、6年当時、Bが無職であり、既に高齢であったため、本件各不動産を立ち退いた後の新居を購入する費用や今後の生活費の必要性を考慮し、また、母が死亡するまでその世話をしてきたことや本件各不動産の維持、管理に努めてくれたことなどを考慮して、Bに対し、本件各不動産の売買代金の一部から本件B金員を支払おうと考えた。Bに対して本件売買代金の分配を多目にすることは、他の兄弟も賛同し、Aは、その意向を受けて、分配金を試算することにした。

(5) 原告は、あらかじめAが試算した本件B金員の金額3500万円を了承し、また、本件第二売買契約の締結前に、Aが記名、押印して作成したBに対する平成5年6月24日付けの本件明渡し通知書を了承した(なお、同日ころは、本件各不動産をE建物に売却する交渉が進んでおり、Gは、まだ買主となることが想定されていかなった時期であるが、本件明渡し通知書には、本件各不動産をGに売却することになったので、平成6年8月8日までに本件各不動産を立ち退いてほしい旨記載されていたのであるから、その真実の作成には、本件第二念書の場合と同様に、記載された年月日より後のものである)。

(6) 原告は、Bに対し、本件B金員以外に、本件各不動産の売買代金の分配金として、5000万円を交付した。もっとも、原告は、これを贈与と解されると、多額の贈与税がかかることから、Bとの間で平成6年8月15日付け金銭消費貸借契約書を作成して、Bへの貸付金という形で5000万円を交付することにした。

(7) Bは、原告から本件明渡し通知書を受領し、本件B金員の交付を受けたが、原告に立退料を要求したことはなく、本件B金員の算出根拠は不明であった。そのほか、原告との間で、本件建物からの立退きに関し契約書類を交わしたこともなかった。

また、Bは、原告に対し、本件建物からの立退きに当たり、本件各不動産の固定資産税や母の扶養料等の返還を請求したということもなかった。

(三)  前記のとおりBが本件建物を使用貸借していたことに、上記(二)に認定した事実を考え合わせると、<1>Bは本件各不動産の買主であるGに対抗できない単なる使用借権者にすぎず、借家権等の経済的交換価値のある財産的権利を有しているものではなく、<2>本件建物は母が死亡した時点で既にかなり老朽化が進んでいたこともあって、B自身も、本件建物に今後も住み続けることに不安を覚えていたものであり、<3>Bに本件建物から退去してもらうために立退料を支払わなければならない事情は存在しなかったということができる。他方、前記認定事実からすると、原告及びAは、Bが長年にわたり本件建物に居住して、母の面倒をみてきたこと、Bが本件建物の維持管理に貢献してきたこと、Bは既に無職の高齢者で、本件建物を立ち退く場合には、新たに居住地を購入する必要があり、また、生活費も必要となることを認識していたわけであるから、本件B金員は、貸付金名目で分配する金額と合わせて相当な金額になるように計算して、他の兄弟たちに対する分配金を上回る金員をBに交付したものにすぎないと認めるのが相当である。

したがって、本件B金員の実質は、貸付金名目で5000万円をBに交付したのと同様に、贈与ないし本件各不動産の処分代金の清算金であったにもかかわらず、立退料とすれば、譲渡費用に含めて必要経費として譲渡価額から控除することができるため、Aが適切な金額を試算し、原告の了承を得た上で、名目のみ立退料としてBに交付されたものにすぎないというべきである。

そうすると、本件各不動産の売却に先立ち、Bに対して、立退料を支払わなければならない合理的必然性はなく、本件B金員の支払により、本件各不動産の譲渡価額が増加するという関係に立つものではなかったということができる。

3  この点につき、原告は、本件B金員の支払が本件各不動産の売却に必要なものであって、<1>Bが長年にわたり本件各不動産に居住してきたこと、<2>本件各不動産を維持、保存してきたこと、<3>原告がBに対し、本来所有者であった原告が負担すべき本件各不動産の固定資産税及び都市計画税をBが負担してきたことに対する返済をする必要があったこと、<4>長兄である原告が扶養義務を負うべき母をBが世話してきたことに対する扶養料の精算をする義務を負っていることなどから、本件B金員を譲渡費用とすべき特別な事情が存在する旨主張する。

確かに、既に認定したところによれば、原告の上記<1>及び<2>の主張の事実並びに<4>のうちBが母と同居してその面倒を見てきたことを認めることができる。しかし、このような事実は、むしろ前示の判断を補強するものでありこそすれ、立退料の支払の必要性を基礎付けるものということはできない。

また、原告の上記<3>の主張については、固定資産税その他その資産の維持又は管理に要した費用は、少なくとも、その資産が使用されていた間の分については、これを譲渡費用に含ませるべき理由は見当たらない。したがって、上記<3>を理由とする立退料は、当該資産の譲渡価額を増加させるため当該譲渡に際して支出した費用ということはできないというべきである。しかも、原告は、上記<3>主張に沿う証拠としてBの陳述書(<証拠略>)を提出する一方で、これに反する原告の陳述書(<証拠略>)を提出しているのであり、同陳述書中の原告の陳述内容の方がより具体的で詳細であることも考慮すると、そもそも、この点に関するBの陳述内容は採用することができず、そのほか原告の上記<3>の主張に沿う事実をそのまま認めるに足りる証拠はない。

そうすると、原告の上記主張は、採用することができない。

4  以上のとおりであり、本件B金員は、本件各不動産の譲渡費用には該当しないというべきである。

三  争点3(事実の隠ぺい、又は仮装行為の存否)について

1  通則法68条の規定する重加算税は、通則法65条から67条までの規定する各種の加算税を課すべき納税義務違反が、課税要件事実を隠ぺいし、又は仮装する方法によって行われた場合に、行政機関の行政手続により違反者に課されるものであって、これによって、かかる方法の納税義務違反の発生を防止し、もって徴税の実を挙げようという趣旨に出た行政上の措置であり、違反者の不正行為の反社会性ないし反道徳性に着目してこれに対する制裁として科せられる刑罰とは趣旨、性質を異にするものである(最高裁昭和43年(あ)第712号同45年9月11日第二小法廷判決・刑集24巻10号1333頁参照)。

したがって、通則法68条1項による重加算税を課し得るためには、納税者が故意に課税標準等又は納税等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまで必要とするものではないと解するのが相当である(最高裁昭和62年(行ツ)第302号同62年5月8日第二小法廷判決・裁判集民事151号35頁参照)。

また、通則法68条1項によれば、重加算税は、納税者が事実の隠ぺい又は仮装を行ったときに課されるものとされているが、重加算税の制度が、上記のとおり事実の隠ぺい又は仮装による納税義務違反を防止し、納税申告制度の信用を維持するための行政上の措置であって、故意に納税義務違反を犯したことに対する制裁ではないとされていることに照らせば、納税者以外の第三者が隠ぺい、仮装行為を行った場合であっても、当該第三者のした隠ぺい、仮装行為が納税者の行為と同一視することができ、客観的にみて当該隠ぺい、仮装行為により過少申告の状態が生じているときには、原則として、納税者に重加算税を賦課することができるというべきである。

そして、第三者の行為を納税者の行為と同一視することができるかどうかは、結局のところ、納税者たる原告と当該第三者との関係、当該行為を納税者自身も認識していたか否か、納税者の黙認の有無、納税者が払った注意の程度等に照らして、具体的事案ごとに判断すべきであるというほかない。

2(一)(1) 本件において、まず、納税者以外の第三者であるAの隠ぺい、仮装行為の存否について検討する。

<1>原告がAに対し、本件第二売買契約に先立ち、本件各不動産の売却に関する売買交渉、契約締結、代金の受領及び分配等並びに税務申告等の業務の一切を委任していたことは当事者間に争いがなく、前記第二の二4(一)及び(二)の前提事実並びに前記一1に認定した事実によれば、<2>その委任を受けたAが、本件各不動産の売買代金総額の一部である本件A金員相当額につき課税されることを免れるために、本件第二売買契約書には売買代金総額を記載することなく、一部を記載するにとどめ、差額である本件A金員相当額については、本件第二念書を作成した上でこれに基づいてA名義で支払を受け、税務調査による発覚を困難にしたこと、<3>Aは、原告の平成6年分の所得税の申告において、本件各不動産の売買に係る譲渡所得の金額の計算上、譲渡収入金額から本件A金員相当額を控除した金額を記載した本件確定申告書を提出して、その課税を免れようとしたことを認めることができる。

また、前記一1の認定事実に証拠(<証拠略>)を合わせ考えると、<4>平成13年に行われた税務調査において、Aは、不正な申告が発覚することを恐れ、本件A金員につき、一時的に預かっただけであり、後日の許認可関係の報酬として、J連盟に支払ったとする虚偽の説明をしたこと、及び<5>本件A金員の具体的使途については、Aが適当に原告の意向に添った内容の平成13年6月14日付け書面(<証拠略>)を作り、原告がこれに基づき東京国税局職員に対し説明をしたことを認めることができる。

(2) 上記<1>から<5>までの事実を総合勘案すれば、Aは、原告の本件各不動産の売買に係る譲渡所得金額を隠ぺいしようという意図の下に、真実の売買代金総額の一部を除外した金額により本件第二売買契約書を取り交わし、その除外した金額を本件A金員として本件第二念書を作成し、本件A金員をA名義の銀行口座に振り込ませて受領し、本件A金員を除外して譲渡所得を計算した本件確定申告書を提出して、本件各不動産の譲渡所得の過少申告をしたということができる。

したがって、Aは、故意に課税標準等の計算の基礎となる課税要件事実の一部を隠ぺいし、仮装し、その隠ぺい仮装したところに基づき納税申告書を提出したというべきである。

(二)(1) そこで、次に、Aの上記(一)(2)の行為が、納税者である原告の行為と同一視することができるか否かについて、検討することとする。

前記第二の二の前提事実及び前記一1の認定事実に証拠(<証拠略>)並びに弁論の全趣旨を合わせ考えると、次の事実を認めることができる。

ア 原告は、本件各不動産の売買交渉を開始した平成4年当時にも、また、Gとの本件第二売買契約の締結直前である平成6年にも、本件各不動産の売買代金総額が約3億5000万円と高額な取引になることが見込まれると告げられていた。しかし、原告は、不動産取引の経験が全くない弟のAに対し、本件各不動産の売買の交渉、契約の締結、売買代金の受領、分配等の事務一切を委任し、2度にわたり白紙委任状を交付した。

本件第一売買契約及び本件第二売買契約の各締結に当たっては、買主側の代表者であるF、Hが順次原告に面会に来たが、原告は、その都度、本件各不動産の売買契約に関してはAに一任しているから、Aと交渉してくれるようにと返答した。

イ 原告は、本件各不動産の売買交渉の経緯につき、Aから一応の報告を受けていたものの、自身が多忙であったことから、売買契約の詳細な内容及び履行方法等について、Aに対して積極的に報告を求めたり、その都度契約書類を確認したりするなどの具体的な監督を行うことはしなかった。しかし、原告は、本件各不動産の売買代金総額が約3億5000万円であり、このうち一部については、本件第二売買契約書記載の売買代金の支払とは別に、支払を受けることを認識していた。

ウ 原告は、本件第二売買契約書及び本件第二念書に基づくGからの各入金状況について、代金が振り込まれた折に自ら確認することはせず、当該各銀行口座の入出金の管理をAに任せていた。

エ 原告は、本件各不動産の売買に係る譲渡所得を含めた当該年度の原告の所得税の申告についても、Aに一任した。Aの作成した本件確定申告書には、本件各不動産の売買による原告の収入として、本件第二売買契約書に基づく売買代金額のみが計上され、本件第二念書に基づく本件A金員の額は記載されていなかった。原告は、同収入が一部除外されて申告されることを認識しつつ、本件確定申告書の提出の前に、自分の本業の所得と合わせた全所得をメモ書きして、Aに交付したものの、それ以外には、Aと格別打合せをすることなく、原告自身が忙しかったこともあって、Aに具体的事務作業のすべてを任せて、これを黙認しており、提出すべき申告書類を事前に確認することもしなかった。

オ 原告は、事後的にではあったが、その都度、本件確定申告書の写し及び本件修正申告書の写しを入手していた。しかし、原告は、Aがこれらの申告書に記載した具体的内容について、Aに対し、質問等をしたことはなかった。

(2) 以上の事実関係からすると、<1>Aは、原告の弟として、本件各不動産の売買の交渉から、契約締結、代金の受領、税務申告に至るまで、原告から包括的な委任を受けて、代理権を取得し、原告の代理人として、その交渉、決定等を行ったものであり、<2>原告は、Aに対し、本件各不動産の売買交渉の経過や契約内容、納税申告の内容等の詳細につき、逐一報告を求めたり、確認したりすることはせず、これをAに一任しており、<3>ただし、本件各不動産の売買代金の総額が約3億5000万円であるが、その一部を本件第二売買契約書に記載せずに除外し、本件確定申告書の提出においても、原告の譲渡所得の金額の計算上、譲渡価額に一部を算入しないで申告することは認識していたということができる。

これらを総合考慮すれば、Aの本件A金員に係る隠ぺい、仮装行為は、原告の行為と同一視することができるというべきである。

(3) この点に関し、原告は、本件A金員の存在や本件第二念書の存在については、平成13年に税務調査が行われる直前まで知らなかったものであるから、原告が、本件確定申告書の作成の際にAが事実を隠ぺいしたということを認識していたはずがなく、原告に重加算税を課するのは違法である旨主張し、これに沿う証拠として、<証拠略>(GからAへの平成13年4月23日付けファクス送付書)、<証拠略>(本件第二念書)並びに<証拠略>(本件第二売買契約書)を提出し、原告本人もこれに沿う陳述(<証拠略>)及び供述をしている。

しかし、原告が本件第二売買契約による代金総額の一部が本件第二売買契約書の記載から除外されていることを認識していたことは既に判示したとおりである。また、前記1のとおり、納税者以外の第三者が隠ぺい、仮装行為を行った場合であっても、第三者のした隠ぺい、仮装行為が納税者の行為と同一視することができ、客観的にみて当該隠ぺい、仮装行為により過少申告の状態が生じているときには、原則として、納税者に重加算税を賦課することができ、納税者において、申告に際し、代理人が過少申告を行うことの認識を有していることまでは要しないというべきである。したがって、仮に、Aが、本件A金員の振り込まれた銀行口座を管理し、本件A金員を個人的に費消したという事実があったとしても、また、仮に、原告が本件第二念書自体は平成13年まで見たことがなく、本件A金員の正確な数額は認識していなかったとしても、これらの事実は、上記認定判断を覆すに足りず、原告が重加算税の賦課を免れる理由とはならないというべきである。

したがって、原告の上記主張は、採用することができない。

(三) 以上のとおり、Aの行為は、原告の行為と同一視することができるから、結局、原告が、真実は本件各不動産の売買代金の一部であったものを、本件第二売買契約書の記載から故意に除外し、A名義の銀行口座に振り込ませて支払わせる方法により、あたかも譲渡価額に含まれないかのごとくに隠ぺい、仮装したものと評価することができるというべきである。

(四) よって、被告は、原告に対し、通則法68条1項を適用して、重加算税を課することができるというべきである。

四  争点4(通則法70条5項にいう「偽りその他不正の行為」の存否)について

1  通則法70条5項によれば、偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ、若しくはその全部若しくは一部の税額の還付を受けた国税についての更正決定等は、前各項の規定にかかわらず、次の各号に掲げる更正決定等の区分に応じ、当該各号に定める期限又は日から7年を経過するまで、することができるとされ、同項1号は、上記期限につき、更正及び決定については、その更正又は決定に係る国税の法定申告期限と定めている。

そして、同項の文理及び立法趣旨にかんがみれば、同項は、納税者本人が偽りその他不正の行為を行った場合に限らず、納税者から申告の委任を受けた者が偽りその他不正の行為を行い、これにより納税者が税額の全部又は一部を免れた場合にも適用されるものというべきである(最高裁判所平成14年(行ヒ)第103号同17年1月17日第二小法廷判決・裁判所時報第1379号2頁参照)。

2  そこで、本件を見ると、既に繰り返し述べているとおり、原告の代理人であるAは、本件第二売買契約書に、真実の売買代金額よりも過少の売買代金額を記載して、真実の売買代金額との差額である本件A金員相当分を除外し、この除外した分は、本件第二念書を作成した上で、自己名義の銀行口座に入金させて受領し、原告の平成6年分の所得税の申告において、本件第二売買契約書に記載した売買代金額をもって本件各不動産の譲渡収入金額として、譲渡所得の金額を過少に申告したものである。したがって、原告の代理人が「偽りその他不正の行為」を行った結果、原告は税額を一部免れたものということができる。

そうすると、通則法70条5項の適用においては、上記1のとおり、納税者本人が「偽りその他不正の行為」を行ったことは要件にならず、納税者から申告の委任を受けた者が偽りその他不正の行為を行って、これにより納税者が税額の全部又は一部を免れた場合にも、同項は適用されると解すべきであるから、原告は、同項にいう「偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の全額を免れ」たものということができる。

したがって、原告の平成6年分の所得税の申告に関しては、通則法70条5項の要件を満たしているというべきである。

3  この点に関し、原告は、虚偽の申告は原告の委任の範囲外であり、本件A金員及び本件第二念書につき、東京国税局の税務調査があるまで、その存在さえ知らず、自分はAに騙された被害者であって、原告自身が「偽りその他不正の行為」をしていない以上、通則法70条5項は適用されない旨主張する。

しかし、通則法70条5項にいう「偽りその他不正の行為」の主体が納税者に限定されず、また、第三者の不正の行為についての納税者の認識が通則法70条5項を適用する上で要件にならないことは、前記1のとおりであり、原告の上記主張は、独自の見解であって、採用することができない。

4  したがって、被告は、平成6年分の所得税の法定申告期限である平成7年3月15日から7年を経過する日である平成14年3月15日まで、更正及び賦課決定をすることができる。そして、本件更正及び本件賦課決定は、いずれも平成13年6月27日付けで行われているのであるから、いずれも、上記期間内にされたものであって、通則法70条5項の適用において違法はないというべきである。

五  本件更正の適法性について

以上によれば、原告の平成6年分の所得税についての、譲渡価額、譲渡費用、分離課税長期譲渡所得、納付すべき税額は、いずれも、被告の主張するとおりであり、このうち、納付すべき税額は、3258万5000円であると認めることができる。そうすると、本件更正における納付すべき税額は、これと同額であるから、本件更正は、適法である。

六  本件賦課決定の適法性について

1  過少申告加算税について

前記五のとおり、本件更正は適法であるところ、本件A金員を除く過少申告と認められる部分である本件B金員については、原告は、本件更正により納付すべき税額の計算の基礎となった所得について、過少に申告していたものであり、過少に申告していたことについて、通則法65条4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当する事由があるとは認められない。

したがって、過少申告加算税の額は、本件更正における原告の納付すべき税額3258万5000円から本件修正申告書に記載された納付すべき税額2275万7700円を控除した後の金額982万7300円のうち国税通則法施行令28条の規定により過少申告加算税の対象の基礎となるべき税額のうち当該事実のみに基づいて更正があったものとした場合において、新たに納付すべきこととなった税額369万(通則法118条3項の規定により1万円の端数を切り捨てた後のもの。別表4順号13のEの過少申告加算税欄の金額と同額)に対して同法65条1項に規定する100分の10の割合を乗じて算出した36万9000円となる。これは、本件賦課決定における過少申告加算税の金額(別表1順号3の過少申告加算税欄の金額)と同額であるから、本件賦課決定における過少申告加算税の部分は、適法である。

2  重加算税について

前記三2のとおり、原告は、分離課税長期譲渡所得金額の計算の基礎となる譲渡価額の一部である本件A金員を隠ぺい、仮装し、その隠ぺい、仮装したところに基づき、本件確定申告書及び本件修正申告書を提出したということができる。

したがって、重加算税の金額は、本件更正における原告の納付すべき税額3258万5000円から本件修正申告書に記載された納付すべき税額2275万7700円を控除した後の金額982万7300円のうち国税通則法施行令28条1項の規定に基づき本件賦課決定に係る過少申告加算税の対象となった金額369万9900円を控除した、上記隠ぺい、仮装による事実に基づき計算される税額612万円(通則法118条3項の規定に基づき、1万円未満を切り捨てた後のもの。別表4順号13のCの重加算税欄の金額と同額)に対して同法68条1項に規定する100分の35の割合を乗じて算出した214万2000円となる。これは、本件賦課決定における重加算税の金額(別表1順号3の重加算税欄の金額)と同額であるから、本件賦課決定における重加算税の部分は、適法である。

七  結語

以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 菅野博之 小田靖子 鈴木正紀)

(別紙1)

1 争点1(本件A金員の譲渡価額該当性)について

(一) 被告の主張

(1) 本件A金員は、次のとおり、本件各不動産の売買代金の一部であることは明らかであり、原告がこれを認識していたことも次のエからカまでの諸事実から明らかである。したがって、本件A金員は本件各不動産の譲渡価額に含まれる。

ア 原告は、Aに対し、本件各不動産の売買に先立ち、本件各不動産の売買に係る交渉、契約締結、契約の管理遂行、代金の受領、分配等の一切の業務を委任した。

イ Aは、税務調査が行われた平成13年4月24日、本件A金員につき本件各不動産の売買代金の一部であると認識していると述べた。

ウ 当初、本件各不動産の売買の交渉に関与していた有限会社KのLは、Aから、売主としては、本件各不動産の売買代金総額を合計3億5000万円くらいとしたいと希望を告げられ、これを、次の買主候補となったE建物のFに説明した。

その後、買主となったGのHも、Fから同様の説明を受け、売買代金の融資を受ける銀行にも本件各不動産の売買代金総額が3億4900万円である旨説明をして、融資を受けた。

エ E建物のFは、本件第一売買契約の締結に先立ち、平成5年春ころ、原告と直接面会し、本件各不動産の売買代金が約3億5000万円であり、これを売買契約書に記載する売買代金とAに対する念書に記載する金額とに分けて支払うことを説明した。

オ 原告自身、平成13年4月24日、東京国税局職員に対し、当初本件各不動産の売買代金総額は3億5000万円くらいだとAから聞いていたと述べていた。

カ 原告は、平成13年8月23日付け異義申立書の別紙2「異義申し立て理由書」に、平成5年6月24日に本件第一売買契約書の調印が行われた際に同席し、Fから、本件各不動産の売買代金とは別に成功報酬として3000万円をAに対して支払う旨告げられたことから、同月26日に、Fに対し、Aへの成功報酬の支払を確実にしてくれるよう依頼したと記している。

(2) したがって、A名義の銀行口座に振り込まれた本件A金員は、原告が受領すべき本件各不動産の売買代金の一部を原告の代理人であるAが原告に代わって受領したにすぎないことは明らかである。

よって、本件各不動産の譲渡所得の金額の計算上、譲渡価額に計上すべき金額は、本件第二売買契約書に基づき支払われた3億0500万円及び実測清算金456万7655円並びに本件第二念書に基づき支払われた4400万円の合計金額である3億5356万7655円となる。

(二) 原告の主張

(1) 本件A金員は、次のとおり、形式的にも、実質的にも、原告の収入になっていないのであるから、本件各不動産の譲渡価額に含まれるということはあり得ない。

ア 原告がAに委任したのは、本件各不動産の売買の交渉、契約締結、費用の支出、売買代金の受領及び分配並びに税務申告等であって、AがA名義で原告の勘定において本件各不動産の買主から金銭を受領してよいという委任はしていない。AがGから金銭を受領した行為は、原告と無関係な別個の法律行為であって、代理行為ではあり得ず、だからこそ、平成13年4月に原告に税務調査が入るまでの長年の間、本件第二念書の存在と本件A金員の存在は、原告に秘匿されていたのである。本件A金員の受領は、A名義で行われたのであるから、無権代利行為ですらない。

イ 本件A金員は、AとE建物が本件第一売買契約を締結した際、E建物がAに対して差し入れた本件第一念書を元に、E建物の買主の地位を引き継いだGがAに対し、同一内容の本件第二念書を差し入れ、これに基づき、GからAに対してA名義の銀行口座に振り込んで支払われたものである。

ウ 本件A金員の領収書は、Aからスクールあてに発行された。

また、Aは、J連盟からAあての本件領収書を受領し、A自身の所得税の税務申告の際、本件A金員を所得として計上した上、本件領収書を税務署に提出して、納税を免れた。したがって、本件A金員に関し脱税をしたのはAであるから、更正や過少申告加算税、重加算税が課されるべきは、Aであって、原告ではない。

エ 本件第二売買契約に基づく本件各不動産の売買代金は、一坪当たり229万5304円とし、実測清算金として実際縄延び分を含めた3億0956万7655円と算出され、Gはこの金額を原告名義の銀行口座に振り込んで支払った。

オ 原告は、平成13年に東京国税局の税務調査が入るまで、Aがスクールから本件A金員を受領したことを知らず、また、Aからその旨の報告を受けたこともなかった。

そもそも、原告が本件第二売買契約書及び本件第二念書の存在とその内容を認識したのは、原告に対する東京国税局による第1回目の税務調査が開始される直前の平成13年4月24日正午ころであった。そして、本件第二売買契約書には、売買代金は3億0500万円と記載されており、本件A金員が売買代金に含まれるという記載はない。むしろ、本件第二念書にも、本件A金員は売買代金とは別であることが明記されている。

カ 原告は、Gに対し、本件各不動産の売買に関しては、本件第二売買契約に基づく売買代金3億0956万7655円以上の請求権を有しておらず、それ以外のAに係る請求債権については、原告の所得として認識しようがない。

キ 原告は、実際にAから本件A金員の分配を受けておらず、他方、Aは、本件A金員を自らの名義で定期預金にしたり、消費したりしている。

ク 原告は、Aに対し、契約終了後、委任契約遂行の謝礼を別個に支払う約束をし、実際に、440万円を支払った。しかし、原告は、本件A金員のような4400万円という高額な金額を謝礼として支払う考えは毛頭なかった。

ケ 原告の平成6年分の所得税に関する税務申告は、Aが原告の代理人として行っているが、原告の譲渡所得としては、3億0956万7655円を挙げているだけで、本件A金額については何ら触れられていない。A自らの手数料所得として本件A金員を申告すべきものであったにもかかわらず、前記ウのとおり、Aが自らの所得を不正に隠していただけである。

(2) 以上のとおりであるから、本件各不動産の譲渡価額は、本件第二売買契約書に記載されていた金額3億0956万7655円のみである。

それにもかかわらず、被告は、代理人であるAの受益行為も委任者である原告に帰属するとして、本件A金員を原告の課税対象に含めて本件更正を行った。これは、所得税法に関する課税対象の拡張又は納税者に不利益を来す方向での類推ないし拡張解釈であって、租税法律主義に反する。

2 争点2(本件B金員の譲渡費用該当性)について

(一) 被告の主張

(1) 譲渡費用とは、資産の譲渡に要した費用であり(所得税法33条3項)、当該資産の登記・登録費用、仲介手数料、運搬料など譲渡のために直接要した費用や譲渡価額を増加するための費用(例えば、既に締結した売買契約を解除して他に有利な条件で譲渡した際、上記売買契約を解除したことに伴って支出した違約金等)を意味する。

ところで、土地建物の使用が賃借権に基づくものである場合、賃借権者は、借地借家法上、その権利を譲受人にも対抗することができるから、立退料の支払と引換えに土地建物の明渡しを受けたときは、借地借家権の負担が消滅し、その分だけ客観的に不動産の交換価値が増すのであり、このような場合には立退料は譲渡費用に当たるということができる。

しかし、建物の使用者が使用借権しか有していない場合、このような権利は、そもそも譲受人に対抗することができないものであるから、仮に、立退料を支払って使用借権者から建物の明渡しを受けたとしても、それに対応して当該建物の客観的な交換価値が増すとは認められない。

したがって、使用借権者に対して支払った立退料は、譲渡費用には当たらないというべきである。

(2)ア 本件において、Bが本件建物を使用借権に基づき使用していたことは、当事者間に争いがない。

したがって、原告がBに対して支払った本件B金員は、それが立退料という名目で支払われたものであっても、本件各不動産の譲渡に要した費用には該当しないというべきである。

なお、原告は、Bに対し、本件B金員のほか、平成6年8月15日付け金銭消費貸借契約証書により5000万円を貸し付けている。しかし、上記契約証書の締結当時、Bは、61歳という高齢で、無職であったことからすると、毎年500万円ずつの返済約束の現実の履行が期待されていたものではなく、本件B金員と上記貸金名目の5000万円の合計8500万円は、原告からBへの慰労金及び生活費の援助という性質を有するものとみるのが合理的である。このような観点からも、本件B金員は、到底本件各不動産の譲渡のために要した費用とは認められない。

イ 原告は、Bは、使用借権者ではあるが、本件B金員を原告に請求することができる地位にあり、本件B金員は譲渡費用に当たると解すべき特段の事情が存在すると主張して、後記2(二)(2)の<1>から<5>までの事情を列挙する。

しかし、使用貸借においては、借用物の通常の必要費(この通常の必要費には、目的物の公租公課、現状維持的な保存に必要な補修費・修繕費や保管費が含まれると解されている。)は、借主が負担するものであり(民法595条)、原告が主張する後記2(二)(2)の<1>から<3>までは、いずれも、使用貸借契約における借主の権利義務一般に関するものである。また、原告の主張する後記2(二)(2)の<4>及び<5>は、その主張自体判然としないが、扶養義務の有無は、本件建物の使用貸借契約とは何ら関係がない。かえって、Bへの本件B金員の支払が、Bが立て替えた固定資産税と母への扶養料の清算という性格を有するものであるのであれば、本件各不動産の譲渡とは何ら関係のない立替金の清算というべきであって、譲渡費用に当たらないことはなお一層明らかであるというべきである。

(二) 原告の主張

(1) 所得税法33条3項に規定する資産の譲渡に要した費用とは、譲渡のために直接要した費用のほか、借家人等を立ち退かせるための立退料も含まれると解されている。貸主が、借主を立ち退かせるために、借主に対し、<1>移転費用の補償、<2>借主が行った造作物の費用の償還、<3>その他移転に伴い支出する費用等の実費相当額を補填するなどのためこれらを立退料として支払うことは社会通念上容認される経済行為と解すべきであるから、譲渡所得の金額の計算上控除される譲渡費用に該当するものと解されているのである。

そして、使用貸借といえども、法的に使用借権という権利が存在し、借主は、「その契約に定めたる時期」まで使用する権利を有し(民法597条1項)、「返還の時期を定めざりし時は、借主は契約に定めたる目的に従い使用及び収益を終わりたる時期」まで使用することができる(同条2項)。したがって、単に立退料の支払先が使用借権者であるからといって、一律に譲渡費用に算入することができないとすべきではない。譲渡と社会的、経済的に因果関係があるかどうかを判断し、特段の事情が認められる場合には、使用借権者に対して支払った立退料であっても、譲渡費用に当たると解すべきである。

(2) 本件において、原告は、Bに対し、本件第二売買契約締結当時、本件建物を使用貸借させていた。原告は、本件建物を相続したときに、母及びBとの間で、死亡するまで使用してよいとの暗黙の合意を締結していたものであり、その目的からすると、Bは、死亡するまで本件建物を利用できる可能性があった。

そして、原告は、Bを立ち退かせるために、<1>移転費用の補償、<2>借主が行った造作物の費用の償還、<3>その他移転に伴い支出する費用等の実費相当額を補填するなどのため、本件B金員を支払ったのであるから、本件B金員は、譲渡所得の金額の計算上控除される譲渡費用に該当するものと解すべきである。

一般的には、使用借権者に対する立退料の支払が譲渡費用に当たらないとしても、本件では、譲渡費用に当たると解する特段の事情が存在する。すなわち、<1>使用借権者であるBは、長年の間、本件建物に居住し、<2>本件建物の価値を維持、保存してきたものであり、<3>父の死亡後Bが働き始めた昭和31年ころから平成6年まで、本件各不動産の固定資産税を負担し、その負担の合計金額は、少なくとも1608万1401円に達し、<4>父の死亡後、母の存命中は、母の生活、扶養に責任を持つという暗黙の条件下で本件建物に居住し、財産を継承した長兄である原告に代わって母を扶養してきたものである。このように、Bは、それまで負担してきた本件各不動産の固定資産税や母の扶養料等の清算を原告に求めることができる立場にあり、これらの費用を原告に請求し、原告からの支払があるまでは、本件建物の明渡しを拒むことができたはずであり、原告から一方的に本件建物の明渡しの請求を受ける立場にはなかった。

(3) 以上のとおり、本件においては、原告はBに対し本件B金員を支払う必要性がある特段の事情が認められるのであるから、本件B金員は、譲渡費用に該当するというべきである。

3 争点3(通則法68条1項にいう隠ぺい又は仮装行為の存否)について

(一) 被告の主張

(1)ア 重加算税は、納税者が隠ぺい、仮装という不正な手段を用いた場合に、これに特別に重い負担を課すものであり、事実の隠ぺいとは、課税要件に該当する事実の全部又は一部を隠すことをいい、事実の仮装とは、存在しない課税要件事実が存在するかのように見せかけることをいう。

通則法68条1項は、重加算税を賦課する要件として、納税者が、<1>「その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し」、<2>「その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したとき」と規定している。

この「納税者」とは、「国税に関する法律の規定により国税(源泉徴収による国税を除く。)を納める義務がある者(…(中略)…)及び源泉徴収による国税を徴収して国に納付しなければならない者」である(通則法2条5号)。そして、隠ぺい、仮装行為は、事実行為として評価されるものであるが、納税者以外の者のした行為であっても、一定の事実関係の下で納税者の隠ぺい、仮装行為と評価し得る場合には、これを「納税者が…(中略)…隠ぺい、又は仮装し」たというのを妨げないと解すべきである。そして、どのような場合がこれに当たるかは、通則法68条1項の解釈適用の問題であり、納税者以外の者のした隠ぺい、仮装行為について、納税者がその責任を負うか否かは、申告納税制度の趣旨、同制度における納税者の負担する義務の在り方等を踏まえて、判断すべきものと解される。

イ 所得税法120条1項は、納税者に所得税の申告義務を課しているが、納税者の申告に第一次的に税額確定の効果を認めたのは、その申告が課税要件事実を最もよく知る納税者自身によるものであるからにほかならない。そうすると、同項に定める申告義務とは、第1に、法定申告期限内に申告書を提出する義務であり(この義務違反が無申告課税である。)、第2に、納税者において最もよく知る課税要件事実を正しく反映させた申告書を作成し、これを提出すべき義務であり(この義務違反が無申告加算税及び過少申告加算税である。)、第3に、特に、課税要件事実を隠ぺいし、又は仮装することにより、税務署長等の調査による是正を妨げてはならない義務である(この義務違反が重加算税である)。

納税者が第三者に申告手続を委任した場合でも、課税要件事実を最もよく知る者が納税者であることに変わりはないから、納税者が第三者に申告手続を委任したからといって、前記のような内容の申告義務を免れることはできない。

そうすると、第三者に申告手続を委任する納税者は、前記のような申告義務の内容に応じて、第1に、当該第三者をして、法定申告期限内に申告書を提出させ、第2に、当該第三者において、納税者の最もよく知る課税要件事実を正しく反映させた申告書を作成することが出来るように、課税要件事実を漏らさず開示、提供し、第3に、当該第三者が提供を受けた課税要件事実を隠ぺい、仮装し、過少申告に及ぶことがないよう注意すべき義務を、その申告義務の一環として当然に負うものと解される。

ウ また、納税者は、代理人に委任して申告手続を行わせるか、だれを代理人として選任するかについて自由であり、委任契約によって受任者の事務処理の内容を定めることができ、委任契約を締結した後も、いつでも事務処理状況の報告を求め(民法645条)、委任契約を解除し(同法651条)、委任終了時に遅滞なくてん末の報告を受けることができる(同法645条)など、委任契約に基づいて自己の申告に関する受任者の事務処理をコントロールする手段を有している。

したがって、少なくとも、第三者の行為をコントロールし得、当該第三者のした不正行為を防止し得る場合において、納税者が相当な注意を払えば、申告手続を委任した第三者による隠ぺい、又は仮装による過少申告を防止することができたのに、これを防止しなかったと認められる結果、受任者が委任者である納税者の課税要件事実を隠ぺい又は仮装し、その隠ぺい又は仮装したところに基づく過少申告をしたときは、その隠ぺい又は仮装したところに基づく過少申告は、納税者自身の前記のような申告義務違反によるものと評価することができ、これは、納税者自身が隠ぺい又は仮装による過少申告に及んだ場合と同じ性質のものであると解することができるから、「納税者が…(中略)…隠ぺいし、又は仮装し」たものとして、納税者に重加算税を賦課し得ると解するのが相当である。

(2)ア 本件において、原告の代理人であるAは、本件第二念書を作成させて、これに基づいて本件A金員を受領したほか、支払事実のない本件領収書を入手するなどして、納付すべき税額の計算の基礎となる事実について隠ぺい、仮装行為を行った。

そして、原告は、前記1(一)のとおり、本件第二売買契約書に記載された売買代金額とは別に、Gから売買代金の一部がAに対して支払われていることを認識しながら、Aに対し、税務申告を包括的に委任し、本件確定申告書及び本件修正申告書の記載内容に注意を払うことをしなかった。

したがって、このような原告の行為は、正に、通則法68条1項にいう隠ぺい、又は仮装行為に当たり、原告に対する重加算税賦課の要件を満たしているというべきである。

イ 仮に、原告が、当該申告の基因となる事実及び具体的な当該申告内容について認識していなかったとしても、<1>原告は、本件各不動産の売買代金総額が当初から、Aの報告により、約3億5000万円と高額な取引になることが見込まれていたにもかかわらず、自らは多忙であるとして、不動産取引の経験が全くないAに対し、本件各不動産の売却に関する交渉、契約締結及び契約に基づく代金の受領等に加え、本件各不動産の売却に係る譲渡所得の申告手続に至るまでの一切を包括的に委任し、白紙委任状を交付したこと、<2>その後、原告が、本件各不動産の売買交渉の経緯につき、Aから当初は一応の報告を受けていたものの、売買契約の具体的な内容及び履行方法等について、Aに対して積極的に報告を求めたり、契約書類を確認するなどの具体的な監督を行ったりすることはしなかったこと、<3>本件各不動産の売買に係る自己の所得税の申告について、原告は、税務の専門家ではないAに一任し、本件確定申告書の作成に当たっても、Aと何ら打合せをすることなく、提出すべき申告書類を確認することもなかったこと、<4>このため、結果として、Aが、原告の所得税について、前記アのとおり、不正な申告を行ったことが認められる。

したがって、原告が自らの判断と責任において、Aを選任し、税金の申告手続を委任した以上、原告は、Aの行為をコントロールし得、Aのした不正な行為を防止し得る立場にいたのであるから、相当な注意を払えば、税金の申告手続を委任したAによる隠ぺい又は仮装による過少申告を防止することができたのに、これを防止しなかったというべきである。そうすると、Aの前記の不正な隠ぺい、仮装行為は、原告によるものと評価することができ、原告は、通則法68条1項にいう「納税者が…(中略)…隠ぺいし、又は仮装し」たものであるということができる。

ウ 以上のとおりであり、いずれにしても、原告には、隠ぺいし、又は仮装したという行為が存在し、通則法68条1項の適用要件を満たすというべきである。

(二) 原告の主張

(1) 重加算税は、納税者が隠ぺい、仮装という不正手段を用いた場合に、これに特別に重い負担を課すことによって、申告納税制度の基盤が失われることを防止することを目的としている。したがって、納税者自身が隠ぺい、仮装という行為をしたといえる場合でなければ、重加算税を課すことは、違法である。

(2)ア 原告は、Aに対し、平成6年分の所得税につき税務申告を委任したが、「計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し」て申告することを指示、委任したことはなく、そのような不法行為まで委任したと解すべき根拠もない。A自身も、本件A金員を自己名義の銀行口座に振り込ませるなどして自らの所得として考えていたのであるから、原告を代理して行った本件各不動産の譲渡所得の申告としては、Aは、本件申告書及び本件修正申告書を適正に提出したというべきである。

イ 仮に、本件A金員が原告の所得であると認定されるものであるとしても、Aの行った事実の隠ぺい、又は仮装行為が、即、原告による事実の隠ぺい、又は仮装行為となるものではない。そして、原告は、Aの隠ぺい、又は仮装行為を全く認識しておらず、その行為の結果たる利益を享受したものでもなく、したがって、その修正申告をする機会も術もなかったのであるから、およそ、原告が事実を隠ぺい、又は仮装したということができるような事情は存在しないというべきである。原告は、申告納税制度を不正な手段によってゆがめたわけでも、潜脱しようとしたわけでもない。原告に重加算税を課すことによって、申告納税制度の基盤が失われることを防止するという目的が達せられることはない。

ウ 以上のとおりであり、原告には、隠ぺいし、又は仮装したという行為は存在しないのであるから、通則法68条1項の適用要件を欠くというべきである。

4 争点4(通則法70条5項にいう「偽りその他不正の行為」の存否)について

(一) 被告の主張

(1)ア 通則法70条1項及び2項は、期限内申告書の提出があった場合には、納付すべき税額を減少させる更正以外の更正について、原則として、法定申告期限から3年を経過した日以後においてはすることができないと規定している。これは、国税の更正、決定等ができる期間を制限することにより、法定申告期限又は納税義務の成立から一定の期間が経過した後は、課税庁が新たに国税の賦課権を行使することができないものとすることによって、租税法律関係の早期安定を図ったものと解される。

イ これに対し、同条5項は、「偽りその他不正の行為」によって納税者が税額を免れたときは、同条の前各項が規定するとおり延長された期間まで、更正、決定等をすることができる旨定めている。これは、「偽りその他不正の行為」によって税額を免れようとしたときには、課税庁による国税の賦課権の行使が困難となるので、その者に対する適正な課税の機会を確保し、納税者間の公平を確保する必要があること、賦課権の行使が困難となる原因を自ら生み出した者には、租税法律関係の早期安定による利益を考慮する必要性に乏しいことから、通常の場合よりも長期間その国税の賦課を可能なものとして、適正、公平な課税の実現を図ることとしたものである。

このような通則法70条5項の規定の趣旨、目的からすると、同項が規定する「偽りその他不正の行為」とは、税額を免れる意図の下に、税の課税徴収を不能又は著しく困難にするような偽計その他の工作を行うことをいうものと解するのが相当である。

そして、通則法70条5項の趣旨は、前記のとおり、発覚困難な不正行為があった場合に、本来の適正な課税を実現するために除斥期間を延長したものであるところ、不正行為があった場合に通常の除斥期間内に更正により適正な課税を行うことが困難となることは、当該不正行為がだれによって行われたかによって異なるものではなく、また、除斥期間が延長されたからといって、既に成立している抽象的納税義務を具体化する以上に新たに納税義務を課すわけではない。さらに、文言上も、同法68条1項が主体を納税者に限定しているのに対し、同法70条5項は、「偽りその他不正の行為」の主体を限定していない。したがって、同項は、「偽りその他不正の行為」の行為者が誰であるかに着目しているものではないと解するのが相当である。

そうすると、「偽りその他不正の行為」を行ったのが納税者であるか否か、あるいは納税者において「偽りその他不正の行為」の認識があるか否かにかかわらず、客観的に「偽りその他不正の行為」によって税額を免れた事実が存在する場合には、同項の適用があるものと解すべきである(最高裁判所平成14年(行ヒ)第103号同17年1月17日第二小法廷判決・裁判所時報第1379号2頁参照)。

(2) 本件において、原告の代理人であるAは、本件各不動産の売買に関し、真実の売買代金額よりも過少に売買代金額を記載した本件第二売買契約書を作成する一方で、真実の売買代金額と本件第二売買契約書の記載した売買代金額の差額につき、本件第二念書を作成した。このようにして、本件各不動産の売買代金額を、本件第二売買契約書に記載された金額と本件A金員とに分散するだけでなく、受領者の名義も違えて受領することで、その後の税務調査での発覚を困難にした。そして、真実の売買代金額を受領したにもかかわらず、意図的に本件第二売買契約書に記載した売買代金額のみをもって本件各不動産の譲渡価額とし、譲渡所得の金額を過少に申告した。しかも、Aは、その後に行われた東京国税局職員による税務調査においても、本件A金員全額を本件各不動産の売買とは関係のないJ連盟のOと称する人物に渡したとする虚偽の答弁を行うなどし、本件A金員に原告の所得税の課税が及ぶことを回避しようとした。

本件各不動産の売買及び同売買に伴う所得税の申告の代理人であるAの上記の一連の行為は、正に、所得税の負担を免れる意図をもって行った税の賦課を著しく困難ならしめる工作ということができるから、通則法70条5項に規定する「偽りその他不正の行為」に該当するというべきである。

そうすると、これを原告自身が行ったものではなく、また、仮に原告がその認識すらしていなかったとしても、原告の平成6年分の所得税の申告については、通則法70条5項が適用されるというべきである。

(二) 原告の主張

(1) 通則法70条5項は、脱税の意図が強く、高額かつ悪質な脱税者を対象にして、除斥期間の延長を図った懲罰的な規定であり、その行為に対する懲罰的意味があるがゆえに、単なる過少申告とは異なる長期間の除斥期間を設けたものである。したがって、同項にいう「偽りその他不正の行為」の行為主体は、上記の立法趣旨から当然に納税者に限定されるべきである。納税者が「偽りその他不正の行為」をしていない場合にまで、除斥期間の延長を認めた同項を適用するのは、立法趣旨や同項改正に係る付帯決議に真っ向から反する誤った解釈である。

最高裁昭和62年(あ)第159号同年7月13日第一小法廷決定・税務資料162号1010頁(国税通則法精解693頁から694頁まで)も、自己の落ち度ある行為により、客観的にみて、明らかに事実に反する虚偽過少の申告書の第三者による提出という事態を惹起した者が、これが虚偽申告であることを認識した場合には、速やかに、修正申告等の措置により、適正な税額の支払に協力すべき義務を有することは当然であるうえ、それが容易であったと認められるのに、第三者による虚偽過少の確定申告を奇貨として、適正税額の支払を免れるため、何らの措置に出ることなく納期限を徒過するという不作為は「偽りその他不正の行為」に当たるとしている。

したがって、通則法70条5項は、これを適用するための要件として、納税者自身の「行為」を要求しており、納税者の「落ち度ある行為」が過少申告を惹起し、さらにそれを認識して、修正が容易であったにもかかわらず、不作為を通したという事態があってはじめて、納税者の責任を認め、除斥期間の延長を認めていると解すべきである。

(2) 本件において、仮に、Aの所得であるべき本件A金員が原告の収入とみなされるとしても、それを記載せずに行った申告は、単なる過少申告にすぎない。

確かに、原告は、不動産取引から納税申告まで、一切をAに委任していたが、過少申告については、原告に何の落ち度もなく、前期1(二)(1)のとおり、本件第二念書の存在及び本件A金員の授受自体、原告は平成13年に本件に関し税務調査がされる直前まで知らず、何ら関与していなかったものであり、前記3(二)のとおり、重加算税が課されるべき事案ではない。原告は、自身は通則法70条5項にいう「偽りその他不正の行為」を行っておらず、また、Aが「偽りその他不正の行為」をしたことについては何の落ち度もないのであるから、通則法70条5項の適用要件を欠く。

そうすると、同条1項により、被告は、もはや、原告に対し、本件更正及び本件賦課決定を行うことはできないというべきである。

(別紙2)物件目録<略>

(別表1)本件更正処分等の経緯<略>

(別表2)分離長期譲渡所得の金額の計算<略>

(別表3)納付すべき税額の計算<略>

(別表4)重加算税及び過少申告加算税の計算の基礎となる税額の明細<略>

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