東京地方裁判所 平成15年(行ウ)594号 判決 2005年2月28日
原告
国鉄千葉動力車労働組合
上記代表者執行委員長
A
上記訴訟代理人弁護士
清井礼司
同
吉田健
同
内藤隆
同
遠藤憲一
同
阿部裕行
同
佐藤昭夫
被告
中央労働委員会
上記代表者会長
山口浩一郎
上記指定代理人
荒井史男
外3名
参加人
東日本旅客鉄道株式会社
上記代表者代表取締役
大塚陸毅
上記訴訟代理人弁護士
茅根煕和
同
春原誠
同
和田健児
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、参加によって生じた費用を含め、原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告が、中労委平成8年(不再)第8号、第10号各不当労働行為再審査申立事件につき、平成15年7月16日付けでした命令をいずれも取り消す。
第2 事案の概要
原告は、参加人に対し、平成2年3月19日午前零時(ただし、本線乗務員については始発時、地上勤務者については始業時)から千葉、津田沼、館山、勝浦、銚子の各運転区、幕張電車区木更津支区(以下「木更津支区」という。)及び京葉運輸区において、48時間ないし72時間のストライキを予告していたが(以下、このストライキを「本件予定スト」という。)、その予告を繰り上げて同月18日正午からストライキを実施した(以下、この繰り上げて実施された部分のストライキを「本件繰上スト」といい、本件予定ストと本件繰上ストを併せて「本件スト」という。)。参加人は、本件繰上ストは違法であるとして、本件繰上ストについて、①違法であるとする社長談話の発表、新聞広告記事の掲載等の広報を行い、②原告組合役員、組合員の入構拒否、会社施設(休養室、乗務員詰所等)からの排除等を行い、③本件繰上スト参加の組合員の勤務取扱いを、届出なく勤務を欠き、又は出勤しなかった者として取り扱い、④原告組合役員及びストライキ参加組合員に対し、他のストライキの際の行動をも併せて、出勤停止、減給、戒告、訓告、厳重注意の処分を行った。これに対し、原告は、本件繰上ストは正当な争議行為であることを前提に、参加人の前記①の広報行為は、原告の組織の弱体化と闘争力の減退を企図したものであって、労働組合の運営に対する支配介入に当たること、前記②ないし④の各行為は、労働組合の組合員であること及び労働組合の正当な行為をしたことを理由とする不利益取扱いであるとして、いずれも不当労働行為に当たるとして、千葉地方労働委員会(以下「千労委」という。)に対し、救済の申立てをした。その具体的内容は、①参加人が本件ストに関してした広報の撤回、②参加人が、原告の企画する争議行為に際し、原告役員、同組合員の入構妨害、会社施設からの排除等によってする争議準備行為の妨害等の禁止、③本件繰上ストに参加した原告組合員の勤務扱いに係る「不参」又は「否認」から「争議」への変更、④参加人が本件スト等に関してした原告組合員らに対する懲戒処分等の撤回、⑤ポストノーティスであった(千労委平成2年(不)第3号、以下「本件初審申立て」という。)。千労委は、平成8年4月16日付けで、参加人に対し、本件初審申立てについて、①本件繰上ストに参加した原告組合員の勤務扱いに係る「不参」又は「否認」から「争議」への変更、②参加人が本件繰上スト等に関してした原告組合員らに対する懲戒処分等の撤回、③ポストノーティスを命じ、その余の申立てを棄却する命令を発した(以下「本件初審命令」という。)。参加人は、被告に対し、本件初審命令のうち原告の申立てを棄却した部分を除く部分を不服として再審査を申し立て(中労委平成8年(不再)第8号)、他方、原告は、被告に対し、本件初審命令のうち原告の申立てを棄却した部分を不服として再審査を申し立てた(同第10号)。被告は、平成15年7月16日付けで、本件初審命令のうち原告の申立てを認容した部分を取り消し、同部分に関する原告の不当労働行為救済の申立てを棄却し、また、原告の再審査申立てを棄却するとの命令(以下「本件命令」という。)を発した。本件は、原告が本件命令の取消しを求めた事案である。
1 争いのない事実等(証拠等により認定した事実は、当該証拠等を文中又は文末の括弧内に記載した。)
(1) 当事者等
ア 参加人
参加人は、昭和62年4月1日、日本国有鉄道改革法、旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律に基づいて設立され、日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)が行っていた関東・東北地域の旅客運送事業を承継した株式会社であり、肩書住所地に本社を置いている。参加人は、平成2年3月当時、本社、東京圏営業本部、東京圏運行本部、高崎支社、水戸支社、千葉支社、東北地域本社等を置いていた。参加人千葉支社(以下「千葉支社」という。)には、平成2年3月当時、総務部(総務課、人事課、経理課、安全対策室)、営業開発部、運輸部、工務部等があったほか、現業機関として駅155箇所、運転区5区(千葉、津田沼、館山、勝浦、銚子)、運輸区1区(京葉)、電車区3区(津田沼、幕張、京葉)等があった。(丙20ないし22)
イ 原告
原告は、昭和54年3月、国鉄動力車労働組合から同組合千葉地方本部が分離独立し、国鉄千葉鉄道管理局(以下「国鉄千葉局」という。)管内の動力車に関係する若しくは関係していた労働者等で組織された労働組合である。原告には、上部団体として国鉄動力車労働組合総連合(以下「動労総連合」という。)があり、また、下部機関として千葉運転区支部ほか14支部があり、本件初審申立時の組合員数は732名(うち参加人に勤務する者は578名)であった。(乙56【2ないし6、79、80頁】、弁論の全趣旨)
ウ 併存組合
参加人には、原告のほかに、東日本旅客鉄道労働組合(以下「東鉄労」という。)、国鉄労働組合(以下「国労」という。)及び東日本鉄道産業労働組合(以下「鉄産労」という。)等の労働組合があった。
(2) 国鉄分割・民営化までの労使関係
ア 第1波スト
(ア) 国鉄は、原告に対し、昭和57年6月1日に締結した、機械化、近代化及び合理化等の実施に当たっては、①雇用の安定を確保するとともに、労働条件の維持改善を図る、②本人の意に反する免職及び降職は行わない、③必要な転換教育等を行うとの協約(以下「雇用安定協約」という。)の継続を拒否し、同協約は同60年11月30日限りで失効した。
(イ) 原告は、昭和60年11月28日正午から同月29日までの間、雇用安定協約の継続を求めるとともに、国鉄の分割・民営化に反対して、千葉以西の総武線乗務員の指名ストライキを実施した(以下「第1波スト」という。)。原告は、当初、第1波ストを昭和60年11月29日午前零時から実施する予定であったが、国鉄によるストライキ妨害行為が行われているとして、同月28日正午から繰り上げて実施した。原告組合員は、第1波ストの際、ストライキ突入以前から乗務していた場合、所定行路の終着駅あるいは乗務員交替駅まで乗務した後、ストライキに参加した。
なお、原告は、国鉄では公共企業体等労働関係法により争議行為が禁止されていたことからストライキ実施に当たり事前に通告を行うことはなかったが、記者会見等によりその内容を公表していた。また、国鉄千葉局では、当時の労働課補佐であるB(国鉄の分割・民営化に伴い参加人に入社し、平成2年3月当時は千葉支社総務部総務課長であった。以下「B総務課長」という。)等の職員が原告役員と会い、ストライキの情報収集に当たっていた。
イ 第2波スト
(ア) 国鉄は、昭和61年3月のダイヤ改正において、国鉄千葉局が管掌していた総武・中央緩行線及び総武快速線の業務の一部と成田線(成田・我孫子間)の業務全部を東京西鉄道管理局、東京南鉄道管理局及び東京北鉄道管理局へ移管することにした。この業務移管量は、合計約7000キロメートルに及んだ。
(イ) 原告は、昭和61年2月15日、前記(ア)の業務移管によって生じる原告組合員の余剰人員化等に反対してストライキを実施した(以下「第2波スト」という。)。原告は、当初、第2波ストを昭和61年2月15日午前零時から24時間実施する予定であったが、受験時期であったことなどを考慮して同日午後5時ころ中止した。
ウ 国鉄は、第1波ストについて20名、第2波ストについて8名の原告組合員を解雇したほか、同組合員12名を1か月ないし6か月の停職処分とした。
(3) 本件不採用及び本件採用命令
ア 国鉄は、昭和62年4月1日、分割・民営化され、参加人を含む承継法人11社が発足した。国鉄分割・民営化に際し、前記(2)ウ記載の停職処分を受けた原告組合員12名のうち11名が参加人への採用を希望し、1名が日本貨物鉄道株式会社(以下「JR貨物」という。)への採用を希望していた(乙56【45、46頁】)が、いずれも採用されず、日本国有鉄道清算事業団(以下「清算事業団」という。)に配属された(以下「本件不採用」という。)。
イ 原告は、千労委に対し、本件不採用について、参加人及びJR貨物を被申立人として、不当労働行為救済申立て(千労委昭和63年(不)第7号、第8号)をした(以下「本件不採用救済命令申立て」という。)。
ウ 千労委は、平成2年2月27日、本件不採用救済命令申立てについて、本件不採用を不当労働行為と判断し、①参加人は、同社に採用を希望している原告組合員甲野一郎ら11名を昭和62年4月1日付けで社員に採用したものと扱うこと、②JR貨物は、同社に採用を希望している乙山二郎を同日付けで社員に採用したものと扱うこと、③参加人及びJR貨物は、前記①、②を履行するに当たり、就労させるべき職場・職種について、原告と協議すること、④参加人及びJR貨物は、甲野一郎ら12名に対し、同日以降就労させるまでの間、同人らが受けるはずであった賃金相当額と清算事業団において実際に支払われた諸給与額との差額を支払うこと、⑤ポストノーティスを命ずるとの不当労働行為救済命令を発した(乙11、以下「本件採用命令」という。)。
(4) 12月スト及び1月スト
ア 12月スト
原告は、平成元年12月3日付けで千葉支社に対し、運転保安の確立、運転士登用及び配転問題の解決を求めて、千葉、津田沼、館山、勝浦、銚子の各運転区及び木更津支区を対象に、同月5日午前零時(ただし、本線乗務員については始発時、地上勤務者については始業時)から24時間のストライキを行う旨通知した。この通知には、「会社および警察権力からの不当な介入、不当労働行為およびスト破り行為があった場合は、戦術を拡大する。」との記載があった。原告は、平成元年12月5日、前記通知どおり、ストライキを実施した(以下「12月スト」という。)。
イ 1月スト
原告は、平成2年1月16日付けで、千葉支社に対し、清算事業団配属者の雇用確保、定年延長及び同年3月実施予定のダイヤ改正問題解決のため、同年1月18日午前零時(ただし、本線乗務員は始発時、地上勤務者については始業時)から、12月ストで対象となった運転区、支区に京葉運輸区を加えて、24時間のストライキを行う旨通知した。この通知には、12月ストの通知と同じく戦術拡大の記載があった。原告は、平成2年1月18日、前記通知どおり1月ストを実施した(以下「1月スト」という。)。
(5) 参加人ないし千葉支社総務部は、平成2年2月下旬ころ、鉄産労千葉地方本部及び東鉄労千葉地方本部との団体交渉を受けて、今後のストライキに対する対策として、以下の事項を決めた。
ア 入構拒否
ストライキ実施の組合に対し、以下の条件(以下「連絡員に関する遵守事項」という。)を守ることを約束した連絡員以外、休養室を含め参加人施設への立入りを認めない。
① 参加人施設内に連絡員以外の組合員を入れないこと
② ストライキ参加者及び部外者を参加人施設内から退去させること
③ 現場でストライキの目的等についての申入れは行わないこと
④ 参加人施設内での集会及びこれに準ずる行為は行わないこと
⑤ 連絡員の変更があった場合には速やかに連絡すること
(乙67【37ないし42、72、73頁】、68【44ないし47頁】、丙18)
イ トタンフェンスの設置
津田沼運転区構内にある原告組合事務所前にトタンフェンスを設置する(乙68【34頁】、70【93、94頁】、71【69ないし73頁】)。
(6) 本件入構拒否及び本件繰上ストに至る経緯(本項での出来事は別途記載しない限り平成2年3月18日の出来事である。)
ア 原告は、平成2年3月16日、参加人に対し、同月19日午前零時(ただし、本線乗務員については始発時、地上勤務者については始業時)から1月ストと同じ運転区等を対象に48時間ないし72時間のストライキを実施するとの通知を行った(本件予定スト)。この通知には、12月スト及び1月ストと同じく戦術拡大の記載があった。
イ 本件入構拒否
原告千葉運転区支部副支部長D(以下「D千葉運転区副支部長」という。)は、3月18日午前8時ころ、千葉運転区構内入口で参加人側から入構を拒否された。D千葉運転区副支部長は、午前8時30分ころ、原告本部に架電し、前記入構拒否の状況を伝えた。原告副執行委員長E(以下「E副委員長」という。)は、D千葉運転区副支部長から連絡を受けて、午前8時50分ころ、原告千葉運転区支部長F(以下「F千葉運転区支部長」という。)とともに千葉運転区に赴き、千葉運転区長G(以下「G千葉運転区長」という。)及び現地対策本部長であるH千葉支社運輸部長に対し、これまでのストライキと同様に原告役員を入構させるよう抗議をしたが拒否された。
原告書記長A(現原告代表者執行委員長、以下「A書記長」という。)は、午前10時ころ、津田沼運転区支部長R及び同支部書記長Iとともに津田沼運転区構内にある組合事務所に行き、その後、乗務員詰所のある津田沼運転区社屋に入ろうとしたが、許可を受けた連絡員以外は立入りを認めないとして制止された。(以下、これらの措置を併せて「本件入構拒否」という。)
ウ 本件トタンフェンス設置
参加人は、午前11時ころ、津田沼運転区の原告組合事務所の壁面から約2.8メートル離れた通路上に、高さ2メートル弱のトタンフェンスを設置する工事を始め、約1時間で完成した(乙37、丙68、弁論の全趣旨、以下「本件トタンフェンス設置」という。)。参加人は、スト対策員を本件組合事務所付近に配置し、勤務終了後の原告組合員の立入りを拒否した。
エ E副委員長及び原告執行委員(交渉部長)J(以下「J交渉部長」という。)は、午前10時46分ころ、千葉支社総務課に赴き、同支社総務部総務課担当課長(勤労課長)K(以下「K勤労課長」という。)、同支社輸送部輸送課長L(以下「L輸送課長」という。)、B総務課長、同支社人事課任免係長M(以下「M係長」という。)と交渉を行った。E副委員長らは、原告役員の入構拒否や本件トタンフェンス設置工事の中止を求め、応じなければストライキの拡大をすると述べたが、K勤労課長らはこれを拒否した。その後も双方の態度は変わらず、結局、E副委員長は、午前11時55分、参加人に対し、正午以降、本線乗務の原告組合員をストライキに入れると通告した(この際のやりとりの詳細は後述する。)。
オ 本件ストは、平成2年3月18日正午から同月21日まで実施された。
(7) 本件繰上スト実施による影響
本件繰上ストが実施されたことにより、運休・遅延列車が大量に発生し、約4万人の利用客に影響が出た(弁論の全趣旨)。
(8) 本件広報
ア 本件社長談話
参加人本社人事部勤労課長代理Nは、平成2年3月18日午後2時ころ、千葉支社からの情報に基づいて、本件繰上ストに関する社長談話の案文を作成した。参加人は、同日午後3時ころ、対策本部会議を開催し、以下の社長談話(以下「本件社長談話」という。)を発表すると決定した。参加人は、同日夕方行われた記者会見で、本件社長談話を発表するとともに、総武快速・緩行線、横須賀線、中央線、山手線、京浜東北線、根岸線、東海道線、武蔵野線、京葉線及び常磐線の各線のうち東京圏運行本部及び千葉支社管内の各駅に本件社長談話を掲示した(乙32、なお、本件社長談話等における「千葉労」とは原告のことを指すが、原告の正式な略称ではない。)。
「国鉄千葉動力車労働組合は、突如として、本日正午以降ストライキを実施する旨通知してきました。そして、お客様が乗っている列車に乗務している千葉労所属の乗務員が勤務途中で乗務を放棄したり、途中駅からの乗り継ぎ乗務員が乗務しないなどの行為を次々と行っており、このため、当社の千葉支社管内の列車ダイヤは大混乱に陥っています。
国鉄改革に伴い、法律上ストライキ権が正当な権利として認められたとはいえ、かかる行為は正当なストライキ権の行使とは言えず、事業運営の混乱を企図したものであるばかりか、多くのお客様に不測の損害を与え、また安全上も問題が生じる可能性もあるなど、社会秩序の混乱を企図したルール無視の反社会的な違法行為と言わざるを得ないと考えています。
会社としては、可能な限りの列車運行の確保に努める考えですが、千葉地区を中心としたお客様には多大の御迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません。
千葉労に対しては、既にかかる行為の中止を申し入れています。しかしながら、かかる反社会的な行為に対しては、今後厳正な対処を検討したいと考えています。
平成2年3月18日
東日本旅客鉄道株式会社
代表取締役社長 住田正二」
イ 本件新聞記事
本件繰上ストに関して千葉支社総務部長O(以下「O総務部長」という。)及び原告執行委員長P(以下「P委員長」という。)を取材した記事が、平成2年3月21日の読売新聞に「深すぎる労使の溝」との表題で掲載された(丙56、以下「本件新聞記事」という。)。本件新聞記事において、O総務部長は、「乗客無視のやり方に、憤まんやる方ないというのが正直なところ。公共的な広域事業だけに、万一ストをやるにしても、あらかじめ利用者に周知させる責任がある。抜き打ち的にスト突入の時間を早めるなどもってのほかだ」「清算事業団の解雇予告は、中央で決まったことで、千葉支社が交渉できる話ではない。千葉動労の掲げている目標を見ると、特定のイデオロギーに固執しており、今回のストも政治スト以外の何物でもない」などと述べていた。これに対し、P委員長は、本件新聞記事の中で、本件予定ストを繰り上げて実施した目的について、「(平成2年3月)20日に行われた国鉄清算事業団の(就職先未定者に対する)解雇通告を撤回させ、組合員12人の採用をJRに要求するためだ」「(スト突入を半日繰り上げたのは)予定していた前日(同月18日)朝から当局が組合員を職場から排除したからだ。スト解除の際、速やかに業務に就くために職場に待機することを許さないのは、もともと労使紛争を回避するつもりがないため。不当行為の強行に対応するには戦術拡大しかない」などと述べていた。
ウ 本件広告記事
参加人は、平成2年3月23日、朝日新聞(全国版)、読売新聞(全国版)、毎日新聞(全国版)、日本経済新聞(全国版)、産経新聞(全国版)、夕刊フジ、日刊ゲンダイ、東京タイムス、東京新聞及び千葉日報の朝刊・夕刊に、以下のような「お詫び」と題する広告記事(乙33、弁論の全趣旨、以下「本件広告記事」といい、これと本件社長談話及び本件新聞記事を併せて「本件広報」という。)を掲載した。
「平素は、JR東日本をご利用いただき、厚くお礼申し上げます。
さて、国鉄労働組合および国鉄千葉動力車労働組合はさる3月18日(国鉄労働組合は19日)より21日までストライキを実施いたしました。弊社は列車の運転の確保に全力を尽くして参りましたが、千葉県の一部線区で列車が運転出来なかったり、運転本数が大幅に減少いたしました。
とくに、国鉄千葉動力車労働組合は、突如直前の通告とともに18日正午より抜き打ち的にストライキに突入するという公益事業の労働組合としてはあってはならない違法な行為を行ったため、列車ダイヤが大混乱するにいたりました。
弊社としては、このような行為がふたたび行われないよう最大限の努力をしていく所存でございます。千葉方面をご旅行中のお客様を始め、皆様に多大のご迷惑をお掛けしたことを深くお詫び申し上げます。
平成2年3月23日
東日本旅客鉄道株式会社
取締役社長 住田正二」
(9) 本件勤務扱い
参加人は、平成2年4月5日、本件繰上ストに参加した原告組合員100名の勤務扱いに関し、別紙1「本件勤務扱い一覧表」記載のとおり、同年3月18日の日勤勤務者で勤務途中からストライキに入った者(同日の泊勤務者の同月19日に係る部分も含む。)について、届出なく部分的に勤務を欠いた者に対する取扱いである「否認」とし、同月18日正午以降の勤務であった者について、届出なく出勤しない者に対する取扱いである「不参」とし、いずれもストライキの勤務の取扱いである「争議」とはしなかった(以下「本件勤務扱い」という。)。
(10) 本件処分
参加人は、平成2年7月17日から同月22日までの間、別紙2「本件処分一覧表」記載のとおり、原告組合員合計141名に対し、12月スト、1月スト及び本件ストに関して、それぞれ出勤停止、減給、戒告、訓告、厳重注意の処分をした(以下「本件処分」という。)。本件処分を受けることにより原告組合員が被る主な不利益は、別紙3「本件処分による主な不利益概要」記載のとおりである。
(11) 本件命令は、平成15年8月18日、原告に交付された。原告は、平成15年11月4日、本件命令の取消しを求め、当裁判所に本件訴えを提起した。
2 争点及び当事者双方の主張の要旨
(1) 参加人の本件入構拒否、本件トタンフェンス設置及び休養室の使用不許可の措置は正当な行為といえるか、それとも原告組合員に対する不利益取扱いないし原告の運営に対する支配介入に当たり不当労働行為となるか(争点1)。
【被告及び参加人】
ア 本件入構拒否、本件トタンフェンス設置、休養室の使用不許可(以下、参加人の3措置を併せて「本件入構拒否等」という。)は、参加人が本件予定スト時の業務継続のため必要かつ相当な対抗措置としてとった正当な行為であり、他の労働組合の組合員保護や労働組合間の差別的取扱いをするものではない。津田沼運転区の原告組合事務所は、原告が占有権原なく不法に占有していたものである上、原告組合員は、1月ストの際、同事務所に参集して集会を開き、代替乗務員が通路を通るたびに大声で罵声を浴びせるなどの行為を行い、これに対し代替乗務員が所属する労働組合から参加人に対し善処を求める申入れがされていた。そこで、参加人は、本件予定ストにおいて、1月ストと同様の事態が発生するのを予防し、代替乗務員の安全と就労を確保するため、本件トタンフェンスを設置したものであり、これにより原告組合員の津田沼運転区組合事務所への出入りを不可能にしたものでもない。したがって、本件入構拒否及び本件トタンフェンス設置は、原告組合員に対する不利益取扱いないし原告の運営に対する支配介入には当たらない。
イ 休養室は、前泊が必要な勤務及び泊勤務の社員を翌朝よりよい状態で勤務に就かせるための仮眠施設である。その趣旨に照らしてみれば、休養室は、ストライキ参加者の代替乗務員として翌朝勤務に就く社員に使用させるのが当然である。所定勤務が泊まり勤務であっても、ストライキに入り勤務に就くことのないストライキ参加者に休養室を使用させることはその目的に反するから、本件予定スト参加予定の原告組合員に対し休養室を使用させないこととした参加人の措置は正当である。また、労務の提供を行わないストライキ予定者に休養室の使用を認めないことによりストライキに支障を来すことはない。そもそも、本件予定ストは清算事業団職員の解雇問題を一番の目的とし、国労と共闘して行われるものであったから中止される可能性はなく、原告が本件予定ストが回避される事態を想定して所属組合員の宿泊先確保や送迎の手配をする必要もなかった。なお、参加人は、平成2年3月19日から同月21日までの間ストライキを実施した国労に対しても、原告に対するのと同様に休養室の使用を認めなかったが、このことにより混乱は生じなかった。したがって、参加人が、原告に対し、休養室の使用を不許可としたことは、原告組合員に対する不利益取扱いないし原告の運営に対する支配介入には当たらない。
【原告の主張】
ア 本件入構拒否及び本件トタンフェンス設置は、原告役員と組合員の分断を図り、ストライキ突入時刻、場所等がそれぞれ異なる組合員に対する指示を阻害するものであって、ストライキ突入時における原告の指令、指示、統制に重大な支障をもたらし、労働組合の重要な任務である整然としたストライキ実施を困難ならしめるものであった。また、本件入構拒否及び本件トタンフェンス設置は、ストライキという重大な場面において、原告役員と組合員との連絡を絶ち、組合員の役員に対する不信感を醸成し、このような措置の結果生ずる混乱によって組合員に対する不利益処分の口実を誘発するものであった。したがって、本件入構拒否及び本件トタンフェンス設置は、原告組合員に対する不利益取扱いないし原告の運営に対する支配介入に当たる。
イ 原告組合員は、休養室を使用することができなければ、ストライキ中止等の場合、十分な休養を取ることなく勤務に就くこととなり、原告はこれを回避するため組合員の送り込み、休養場所の設定等の負担を余儀なくされ、その場合に混乱も予想された。また、参加人が、原告組合員の休養室使用を認めないことによって、約100人の運転士が真夜中に各地の乗務員宿泊所から排除されることになるから、本件予定ストで当初予定されていた始発から72時間という戦術のストライキの実施が極めて困難になった。なお、原告は、清算事業団に関する問題に前進がなければ戦術の変更を一切行わないなどという対応はとっておらず、状況に応じて戦術を変更し、本件予定ストを中止することもあり得た。したがって、参加人が、原告に対し、休養室の使用を不許可としたことは、原告組合員に対する不利益取扱いないし原告の運営に対する支配介入に当たる。
(2) 本件繰上ストは、正当な争議行為か、それとも、労使間の信義則に反する違法な争議行為か(争点2)。
【被告及び参加人】
本件繰上ストは、その目的、手続、態様において労使間の信義則に反し、正当性を欠いており、違法な争議行為である。
ア 目的
(ア) 原告は、参加人の本件入構拒否等の措置に対する抗議ないしは報復のために本件繰上ストを行ったのであり、その目的は正当とはいえない。
(イ) 原告の主張する本件繰上ストの目的(【原告】の主張ア)は否認する。原告は、本件入構拒否等により、原告組合員に対するストライキの指示、伝達に支障が生じると主張するが、そのような事実はない。そもそも、組合員に対するストライキの指示等は、原告が自らの責任で行うべきことであり、これについて参加人が組合役員を施設内に入れるなどの便宜を図るべき義務はない。したがって、原告は、本件繰上ストを行わなければならない必要性も緊急性もなかった。
イ 手続
(ア) 原告は、本件繰上ストを実施5分前に参加人に通告して、ストライキに入ったのであり、その手続は、違法である。その理由は、以下のとおりである。すなわち、参加人は、公共輸送業務に携わる企業であり、ストライキによる影響を事前に利用客に周知すべき社会的責務を負っている。このような企業においてストライキを予定する労働組合は、利用客に予期せぬ精神的、身体的、財産的損害を与えることがないように、たとえストライキの予告義務を定めた労働協約が締結されていない場合であっても、会社に対し、事前に一定の時間的余裕をもって、ストライキの具体的内容を予告すべき義務を負っている。ところが、原告は、参加人が原告の通知に基づきストライキ時のダイヤを組み、利用客に対し事前にストライキの影響を周知し、参加人も利用客もストライキが繰り上げて行われることなど全く予測できない状況下において、自らの通知内容を破棄し、繰上通知からわずか5分後にストライキを実施したのである。
(イ) 原告は、参加人において本件予定ストの繰上実施を十分予測できたと主張するが、そのような事実はない。
ウ 態様
鉄道輸送は、同一の線路上に連続して複数の列車が運行しており、線路上で一人の列車運転士が業務を放棄すると、その影響は当該列車のみならず関係線区全体に波及し、次々に列車が止まり広範な影響が生ずるという特殊性を有している。原告は、本件繰上ストにおいて、多数の列車が平常に運転されている状況において、突如列車の運行を停止させ、特に千葉駅到着の内房線・外房線列車の運転士が次々にストライキに入り、同駅で列車を停車させたまま乗務を放棄したため、同駅の各番線が満線となり、関係線区の列車も次々に止まるという事態を生じさせたものである。原告は、本件繰上ストの実施により原告組合員が乗務している列車の運行を停止するにとどまらず、関係線区全体の列車にも影響を及ぼし、原告組合員以外の社員が運行する列車も停止せざるを得ない事態を惹起させ、列車の運行を大幅に阻害し参加人の業務を著しく妨害したものである。本件繰上ストの結果、249本の列車が運休となり、最高217分を筆頭に215本の列車に遅延が生じ、半日にわたり房総半島全域と東京東部の交通が麻痺状態となり、約4万人の利用客に影響が出た。このように本件繰上ストの態様は、争議における労使の負担均衡を破り、多数の利用客に不測の損害を与えたもので、社会的相当性を著しく欠き違法というべきである。また、本件繰上ストにおいて、8人の原告組合員が、次の乗務員や管理者に所定の引継ぎを行わず、留置時に行う転動防止措置の一部を怠り、鉄道業務において最も重要な輸送の安全を脅かしたものであって、この点でも本件繰上ストの態様は違法というべきである。
【原告】
本件繰上ストは、その目的、手続、態様において労使間の信義則に反しておらず、正当な争議行為である。
ア 目的
原告が本件予定ストの実施時間を繰り上げたのは、参加人の本件入構拒否等の措置により、①原告役員がストライキ突入時刻、場所等がそれぞれ異なる組合員に対し、本件予定ストの指令、指示、統制ができなくなり、本来予定していた平成2年3月19日午前零時からのストライキ実施に混乱が予想され、②原告役員と組合員との連絡が遮断されて、原告の指令が行き届かなくなり、ストライキの戦術変更や集約が事実上不可能になり、本件予定ストの実効性が減殺されるおそれがあったからである。
また、原告が本件予定ストの実施時間を12時間繰り上げて平成2年3月18日正午からの突入としたのは、①参加人が本件入構拒否等を中止するか否かを検討するのに2時間程度は必要であると考えたこと、②ストライキ戦術の時間的設定として正午というのが区切りとして分かり易いと考えたことによるものである。なお、参加人が、代替乗務員を出してスト破りをしようとする他の労働組合の申入れを受けて、その組合員を保護する措置を取ること自体、業務継続に藉口して使用者の中立保持義務に背き、原告に不利益を加える違法な行為である。したがって、本件繰上ストの目的は正当なものである。
イ 手続
(ア) 労働組合は、使用者に対し、ストライキ権の行使について、その時期や内容を予め余裕をもって通知すべき義務はない。また、仮にそのような義務が認められるとしても、原告は、①労働大臣及び中央労働委員会に対し、平成2年1月5日付けで労働関係調整法(以下「労調法」という。)37条に基づく通知をし、②参加人に対し、同年3月16日、本件予定ストの詳細を書面で通知し、③参加人に対し、遅くとも同月18日午前10時30分ころ、本件予定ストの実施時間の繰上げについて口頭で通知し、同日午前11時10分ころ、D千葉運転区副支部長を指名ストライキに入れることを口頭で通知し、さらに、同日正午からストライキを実施されてもやむを得ないとの参加人の回答を受けて、同日午前11時30分ころ、同日正午から本件繰上ストを実施すると口頭で通知している。したがって、原告は、参加人に対し、事前の通知をしており、本件繰上ストの実施手続に違法な点はない。
(イ) 原告は、以下のとおり、参加人に対し、参加人の対応次第で本件予定ストの実施時間の繰上げがあり得ることを再三再四予告していた。すなわち、①A書記長は、平成2年3月14日、K勤労課長に対し、参加人が本件予定ストの際、原告に対する休養室使用不許可、入構拒否等をやめなければ、第1波ストと同様、本件スト実施時間を12時間繰り上げることもあると口頭で警告した、②P委員長は、同月15日、本件予定ストの戦術を最終的に決定した定期委員会終了後、記者会見において、参加人が原告に対する休養室使用禁止、入構拒否等をやめなければ、戦術の拡大があり得ること、その拡大には同月18日正午からの繰上実施ということも含まれると説明しており、このことは記者らを通じて参加人にも伝えられたものと推認できる、③J交渉部長は、同月17日、K勤労課長に対し、参加人が本件予定ストの際、原告に対する休養室使用不許可、入構拒否等をやめなければ、戦術の拡大すなわち12時間繰上実施があり得ることを警告していた。さらに、参加人は、原告が第1波ストにおいてストライキの実施時間を繰り上げたことを知悉していたのであるから、遅くとも平成2年3月18日午前11時前ころには、本件予定ストが同日正午から繰上実施されることを予測することができたといえる。
ウ 態様
本件繰上ストによる列車の運休・遅延等の大混乱は、ストライキを繰り上げて実施したことに原因があるのではない。大混乱の原因は、参加人が千葉駅ホームに停まった列車を的確に移動させるなどの列車処理を怠ったこと、参加人が赤字路線である千葉以東の路線を軽視し、代替乗務員配置の重点を千葉以西の路線に置いたことにある。原告組合員で本件繰上スト突入時に乗務していた者は、当該各仕業所定の終着駅又は乗務員交替駅まで乗務した後ストライキに参加したのであり、平成2年3月18日正午に乗務を放棄して直ちにストライキに参加したわけではない。したがって、本件繰上ストはその態様においても違法な点はない。
(3) 本件広報は、原告の運営に対する支配介入に当たる不当労働行為か(争点3)。
【原告】
ア 本件広報は、いずれも参加人が本件繰上ストによる輸送混乱の責任を原告に転化し、世間に原告が乗客の迷惑も考えずに不公正なストライキを実施する反社会的な集団であるとの印象を抱かせ、重い処分を行う根拠を作出し、原告の社会的評価を低下させ、原告組合員らの闘争力の減殺を企図したものである。したがって、本件広報は、原告の運営に対する支配介入に当たる不当労働行為というべきである。
イ 本件社長談話のうち「突如として、本日正午以降ストライキを実施する旨通知してきました」とする部分及び本件謝罪広告のうち「突如直前の通告とともに18日正午より抜き打ち的にストライキに突入するという公益事業の労働組合としてあってはならない違法な行為を行ったため」とする部分は、事実に反する。当該部分は、参加人の不当なストライキ対策とそれを巡る千葉支社におけるやりとりを意図的に隠し、原告が恰も理由もなく突然ストライキに突入するような労働組合であると社会に印象付ける不当な表現である。本件新聞記事においてO総務部長が本件ストを政治ストであると述べているのは、本件採用命令の履行を求めることが政治的であると言っていることにならざるを得ず、不当労働行為制度を否定する発言である。
ウ 本件社長談話のうち「お客様が乗っている列車に乗務している千葉労所属の乗務員が勤務途中で乗務を放棄したり」とする部分は事実に反する。また、本件社長談話における「列車ダイヤは大混乱に陥っています」という部分は、参加人の拙悪な列車整理等に触れることなく、すべてを原告に責任転嫁するものであり、不当である。
【被告及び参加人の主張】
ア 本件社長談話及び本件広告記事は、本件繰上ストについての参加人の見解表明と多大な迷惑を掛けた利用客に対する謝罪を目的とするものである。また、本件新聞記事はO総務部長の本件繰上ストについての見解である。これらは、いずれも本件繰上ストの事実経過に関する部分に誤りはなく、本件繰上ストが違法であるとの認識も不当とはいえない。したがって、本件広報は、原告に対する支配介入に当たらない。
イ 本件社長談話及び本件謝罪広告の内容は事実に反しない。すなわち、原告は、参加人に対し、平成2年3月19日午前零時からストライキを実施すると通告していたにもかかわらず、本件入構拒否等に関する交渉で参加人の譲歩が引き出せないとみるや、同月18日午前11時55分に口頭によるスト通告を行い、同日正午からストライキに入ったのであるから、突如ストライキを通告したというほかなく、本件社長談話及び本件謝罪広告のうち原告が突如としてストライキ通告をしたとする部分は事実をありのまま述べたものである。また、原告組合員である乗務員の中には、本件繰上ストに入り、乗務員交替駅まで運転した後、乗客をそのままにして運転室から離れた者、乗務員交替駅でそれまで運転してきた運転士に替わって乗務することになっていたが乗務しなかった者がいるから、本件社長談話のうち原告組合員である乗務員が勤務途中で乗務を放棄したり、途中駅からの乗継乗務をしないとの本件社長談話は事実をありのまま述べたものである。さらに、本件繰上ストの実施により千葉支社管内の列車ダイヤが大混乱に陥ったことは事実であり、この点でも本件社長談話は事実をありのまま述べたものである。したがって、本件社長談話及び本件謝罪広告は、原告に対する支配介入に当たらない。
ウ 本件新聞記事は、O総務部長とP委員長の本件繰上ストに対する見解が併記されており、読者にどちらか一方の見解を押しつけるものではないから、この記事によって原告の組織、運営に不当な影響が及ぶことはない。O総務部長が、本件新聞記事において、本件ストは政治ストであると述べているのは、本件ストの最も重要な目的は、清算事業団が予定している職員解雇に反対することであり、政府の方針として決まった解雇通告の撤回を求めるストライキは政治ストにほかならないという趣旨であり、また、原告は特定のイデオロギーに固執していると述べているのは、政府の方針として決まった清算事業団の職員に対する解雇について、当事者とならない参加人を相手にストライキを行うという組合方針を批判したものであり、いずれも何ら不当な発言ではない。したがって、本件新聞記事は、原告に対する支配介入に当たらない。
(4) 本件勤務扱いは、原告組合員に対する不利益取扱いないし原告の運営に対する支配介入に当たる不当労働行為か(争点4)。
【原告】
ア 本件繰上ストは適法である。したがって、参加人が、本件繰上ストに参加した原告組合員の勤務取扱いを、「争議」とせずに、「否認」又は「不参」とした本件勤務扱いは不当であって、原告組合員に対する不利益取扱いないし原告の運営に対する支配介入に当たり、不当労働行為である。
イ 仮に本件繰上ストが違法であるとしても、その責任は労働組合が負うべきであり、個々の組合員がこれに参加したというだけで個人的欠勤として扱うのは、団体行動性を否定するものである上、当該ストライキが適法か否かの判断を個々の組合員に負わせて、憲法の保障する団体行動権の行使を不当に制約することになるから許されない。
【被告及び参加人】
ア 本件繰上ストは、違法なストライキである。したがって、参加人が、本件繰上ストに参加した原告組合員の勤務取扱いを、「争議」とせずに、「否認」又は「不参」としたことは正当であって、原告組合員に対する不利益取扱いないし原告の運営に対する支配介入に当たらない。
イ 【原告】の主張イは争う。
(5) 本件処分は、原告組合員に対する不利益取扱いないし原告の運営に対する支配介入に当たる不当労働行為か(争点5)。
【原告】
ア 本件繰上ストは適法である。したがって、本件繰上ストは違法であるなどとして、これらに参加し、また、これらを指導した原告組合員に対して行った本件処分は、原告組合員に対する不利益取扱いないし原告の運営に対する支配介入に当たる不当労働行為である。
イ(ア) 「集会状況及び滞留状況一覧表」(丙45の1、2)、「申立人組合員の行動等一覧表」(丙46の1、2)、「被処分者の争議関連非違行為等一覧表」(丙47)は、参加人担当者がまとめたものであり、正確性が担保されておらず、その内容に齟齬があるなど信用性がなく、これによって本件処分で処分事由とされた各組合員の非違行為を認めることはできない。
(イ) 仮に本件処分で処分事由とされた暴言等が認められるとしても、これらは、いずれもストライキという労使の実力対決の場における緊張関係、対抗関係から生ずる言動として、特に常軌を逸したものではなく、スト破りをした運転士や職制らに対する言論による抗議、批判、説得等として許容限度内のものといえる。
(ウ) 本件繰上スト時において転動防止を施さなかったとされる列車は、いずれも当該行路の終着駅又は乗務員交替駅で乗務員がストライキに入ったものであるから、車両の留置時には該当せず、留置時に準じた扱いをする必要はなかった。仮に留置時に準じた扱いが必要であったとしても、転動防止措置の一つである手歯止めの使用は、直通ブレーキ車については必要により使用することとされているのであって、必ず使用しなければならないものではない。この点、本件繰上スト時において転動防止を施さなかったとされる列車は、乗務員がストライキに入るため降車するに当たり、エアブレーキを掛け、電源を入れたままであったから、このブレーキの抑止効果は相当長時間持続する上、同列車が停車していた千葉駅、勝浦駅、安房鴨川駅は線路に勾配がないから、万が一エアブレーキが抜けたとしても停車中の列車が転動する危険性はなく、手歯止め使用の必要性はなかった。また、運転室の施錠がされていなかったとされる列車は、運転士がブレーキ弁ハンドルを抜き取り携行していたのであるから、乗客が運転室に入り込んでブレーキ弁を緩めるなどの悪戯をする危険性はなかった。したがって、別紙4「運転室を離れたとき等の取扱い不良者一覧表」記載の原告組合員8名(Q等を除く)が転動防止義務を懈怠し、輸送の安全を脅かしたということはない。
ウ 仮に本件繰上ストが違法であるとしても、その責任は労働組合が負うべきであり、個々の組合員がこれに参加したというだけで労働契約上の義務違反として処分を課されることは、団体行動性を否定するものである上、当該ストライキが適法か否かの判断を個々の組合員に負わせて、憲法の保障する団体行動権の行使を不当に制約することになるから許されない。
【被告及び参加人】
ア 本件繰上ストは、違法なストライキである。したがって、参加人が、本件繰上ストに参加した原告組合員に対し、本件処分を課したのは正当な行為であり、原告組合員に対する不利益取扱いないし原告の運営に対する支配介入には当たらない。
イ(ア) 参加人は、別紙2「本件処分一覧表」のとおり、12月スト、1月スト及び本件ストにおける原告組合員の非違行為について、それぞれ出勤停止、減給、戒告、訓告の懲戒処分及び厳重注意を行ったが、これらは管理者及びストライキ対策員が現認した事実を中心に、被処分者各人の行為を客観的に把握し、厳正に就業規則を適用した適法かつ相当な処分である。
(イ) 執務標準、作業標準等の規定及び指導は、輸送の安全を図ることを目的とする合理的なものであり、運転士は業務を遂行する際当然遵守すべきものであり、違反者は責任を免れない。
ウ 【原告】の主張ウは争う。
第3 争点に対する当裁判所の判断
1 争点1(本件入構拒否等の正当性の存否)
(1) 原告と参加人との間の本件紛争の発端は、前記争いのない事実等(5)(6)からも明らかなとおり、原告が平成2年3月19日午前零時からの本件予定ストを計画していたことに対し、参加人が、本件入構拒否等の措置をとったことにある。原告は、参加人の当該措置は、原告が実施しようとする本件予定ストを妨害する違法なものであり、これに対抗すべく行われた本件繰上ストは正当な争議行為であると主張し、他方、参加人は、前記参加人の措置は正当な行為であり何ら違法なものではなく、したがって、これに抗議して行われた本件繰上ストは違法であると主張する。このように、本件を判断するに当たっては、参加人の本件入構拒否等の措置が適法な行為か否かがまず問題となるので、この点から判断することにする。
(2) 認定事実(本項の認定事実は、その大部分が平成2年の出来事であるので、平成2年の出来事は「平成2年」の表記を省略する。)
前記争のない事実等、証拠(文中又は文末に掲記したもの、なお、丙45及び46の各1、2、同47は、信用性が認められるので、下記事実認定に使用したが、その理由は、後記5(2)イ(ア)において詳述するとおりである。)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる(証拠等を掲記しないものは当事者間に争いのない事実である)。
ア 12月スト
(ア) 原告は、平成元年12月5日、12月ストを実施した。
(イ) 12月ストの際の態様は、概略以下のとおりである(乙72【15ないし31頁】、丙45及び46の各1、同47)。
a 千葉運転区
千葉運転区では、原告組合員43名が平成元年12月4日午後6時5分から同日午後6時30分までの間、参加人施設外である千葉運転区前において集会を行い、また、原告組合員61名が同日午後3時11分から同日午後11時39分までの間、乗務員詰所に滞留した。千葉運転区長及び同首席助役は、平成元年12月4日午後3時13分、同日午後5時5分、同日午後5時25分、同日午後5時56分、同日午後6時36分、同運転区乗務員詰所において、原告組合員に対し退去通告をしたが、同人らはこれに従わなかった。さらに、千葉運転区では、原告組合員が平成元年12月4日から同月5日にかけて、当直室点呼台で騒いだり、運転区前でスト対策員の写真を撮ったり、代替乗務員に罵声を浴びせたりした。
b 津田沼運転区
津田沼運転区では、原告組合員55名が平成元年12月4日午後6時17分から同日午後6時45分までの間、原告組合事務所前において集会を行い、また、原告組合員31名が同月5日午前8時45分から同日午前8時58分までの間、原告組合事務所付近で集会を行い、さらに、原告組合員40名が同月4日午後3時から同月5日午後8時55分までの間、乗務員詰所及び組合事務所に滞留した。津田沼運転区長らは、平成元年12月4日午後3時23分、同日午後4時23分、同日午後6時20分、同日午後6時29分、同日午後8時53分、同月5日午前4時55分、同日午前5時20分、同日午前5時40分、同運転区乗務員詰所又は組合事務所前において、原告組合員に対し退去通告をしたが、同人らはこれに従わなかった。
c その他の運転区等
銚子、勝浦、館山の各運転区及び木更津支区においても、原告組合員が、平成元年12月4日から同月5日にかけて、参加人の退去通告に従わずに集会ないし滞留を行ったり、代替乗務員らに対し罵声を浴びせるなどした。
イ 原告のスト予告、他の労働組合からの申入れ等
(ア) 動労総連合は、1月5日、労働大臣及び中央労働委員会に対し、労調法37条に基づき、定年延長、清算事業団配属者の雇用確保及び3月10日実施予定のダイヤ改正に伴う労働条件確立を目的として、日時を1月16日午前零時から完全解決に至るまでの間とする争議行為の予告通知を行った。
(イ) 12月ストで代替乗務員を出した鉄産労千葉地方本部は、1月11日、千葉支社に対し、同月18日に原告、国労のストライキが予定されていることに関連して、次のような申入れを行った。すなわち、「12/5の勤務のために出勤してきた鉄産労組合員が、千葉運転区の庁舎内に入り、当直助役の所まで行き着けずに、動労組合員によって組合事務所に拉致されて、結果的に乗務できず、さらに『組合脱退を強要』されたが、当日の千葉運転区の対応を明らかにされたい」「千葉運転区では、12/4の17:00以降、『勤務者以外の滞区を認めない』との方針を打ち出し、鉄産労組合員は庁舎外に出たが、動労組合員、国労組合員を排除していなかったが、その理由を明らかにされたい」「千葉運転区、津田沼運転区に於いて、動労千葉、国労のそれぞれの組合事務所が存在している事実をどのように説明するか、明らかにされたい。現在はどうなっているか。未だに存在しているとすればどのような処理をするのか」「ストライキの際、列車運行に協力したり、正常業務に就いている鉄産労組合員に対する、スト決行組合員による暴力行為等に対する対応方を明らかにされたい」などと申し入れた。(丙23)
(ウ) また、12月ストで代替乗務員を出した東鉄労千葉地方本部も、1月16日、千葉支社に対し、同月18日に原告、国労のストライキが予定されていることに関連して、次のような申入れを行った。すなわち、「12月5日『千葉労』の争議行為当日、銚子駅構内において業務就業者に対する業務妨害行為が行われた。これらの行為に対する会社側の対応について明らかにされたい」「争議行為が実施された場合においては、当日勤務者以外の者の各庁舎内・敷地内への立ち入り禁止について万全を期されたい。なお、就業者に対する妨害行為等が発生をした場合においては、早急な処置方を要請する」などと申し入れた。(丙24)
(エ) 千葉支社は、1月12日、原告に対し、書面で、原告が組合事務所として使用している参加人施設の明渡しを求めるとともに、12月スト時に同組合事務所を無断使用し、再三の退去通告にもかかわらず占拠したことに対する遺憾の意を表明し、予定されている1月ストにおいて許可なく参加人の建物等を占拠し、職場秩序を乱すことがないよう申し入れた(丙7の5)。
ウ 1月スト
(ア) 原告は、1月16日付けで、千葉支社に対し、清算事業団配属者の雇用確保、定年延長及び同年3月実施予定のダイヤ改正問題解決のため、1月18日午前零時(ただし、本線乗務員は始発時、地上勤務者については始業時)から、12月ストで対象となった運転区、支区に京葉運輸区を加えて京葉運輸区を対象に、24時間のストライキを行う旨通知した。
(イ) これに対し、千葉支社は、1月16日、原告に対し、12月ストの際、原告組合員が再三の退去通告にもかかわらず乗務員詰所に滞留し騒然となるなど職場の秩序を混乱させたこと、代替乗務員に写真撮影を行うなどの嫌がらせ行為を行ったこと、参加人の用地内において許可なく集会を行ったこと、参加人が使用許可を与えていない組合事務所建物等を使用したことなどは、業務遂行の支障となる可能性があり極めて遺憾であり、1月ストにおいてこのような行為が繰り返されれば、参加人として厳格に対応せざるを得ない、今後このようなことを行わないよう厳重に申し入れるとともに、参加人の施設内への立入は、当日の勤務者及び参加人の許可を受けた者以外は認めないとの申入れをした(丙19)。
(ウ) 原告は、1月18日、通知どおり1月ストを実施した。
(エ) 1月ストの際の態様は、概略以下のとおりである(乙72【33ないし43頁】、丙45及び46の各2、同47)。
a 千葉運転区
千葉運転区では、原告組合員38名が、1月17日午後1時6分から同日午後10時46分までの間、乗務員詰所及び原告組合事務所に滞留した。千葉運転区長は、同日午後1時32分、午後8時40分、午後9時58分、同運転区乗務員詰所において、原告組合員に対し退去通告をしたが、同人らはこれに従わなかった。さらに、千葉運転区では、原告組合員が、代替乗務員に対し、写真を撮ったり、「なんで乗るんだよ」「乗っじゃねえ、このやろー」などと罵声を浴びせたりした。
b 津田沼運転区
津田沼運転区では、原告組合員38名が、1月17日午後6時14分から同日午後6時43分までの間、同月18日午前8時8分から同日午前8時15分までの間、それぞれ原告組合事務所付近において集会を行い、また、原告組合員43名が、同日午後5時37分から同日午後6時2分までの間、原告組合事務所において集会を行い、さらに、原告組合員10名が、1月17日午後2時20分から同日午後5時54分までの間、原告乗務員詰所に滞留し、原告組合員35名が、同日午後4時45分から同月18日午後7時26分までの間、原告組合事務所に滞留した。津田沼運転区長らは、1月17日午後2時20分、午後2時50分、午後3時47分、午後4時45分、午後5時35分、午後6時30分、同運転区内、同運転区乗務員詰所、組合事務所前において、原告組合員に対し退去通告をしたが、同人らはこれに従わなかった。
c その他の運転区等
銚子、勝浦、館山の各運転区及び木更津支区においても、1月17日から同月18日にかけて、原告組合員により集会ないし滞留が行われたが、原告組合員は参加人の退去通告に従わなかったり、代替乗務員らに対し罵声を浴びせたりした。
エ 原告以外の労働組合から参加人への申入れ等
(ア) 1月ストで代替乗務員を出した鉄産労千葉地方本部は、2月16日、千葉支社に対し、「2月末に予定される国労、動労千葉のストライキ行動に関わる申し入れについて」と題する書面で、「2回のストライキにあたって問題点を指摘してきましたが、多くの部分について解決がされていません。この間の千葉支社の対応について不満を持つものが多数存在します」「千葉運転区、津田沼運転区に存在する組合事務所の処理はどのようにされたのか。また、現状はどのようになっているか」「他組合のストライキ中における通常業務等に従事する鉄産労組合員に対する嫌がらせや暴力行為等に対しての対応方を明らかにされたい」などと申し入れた(丙25)。
(イ) 1月ストで代替乗務員を出した東鉄労千葉地方本部は、2月21日、千葉支社に対し、「2月26〜28日予定の争議行為に対する申し入れ」と題する書面で、「業務就業者にたいするスト参加者からの業務妨害が2度にわたり行われているが、見解と対策を明らかにされたい」「スト参加者の庁舎内立ち入り、会社施設内立ち入りについては、就労する組合員の立場からして絶対に許すことはできない。見解を明らかにされたい」「使用禁止となっている組合事務所内・外にスト参加者がたむろする状況は、到底容認できない。見解を明らかにされたい」「スト参加予定者に対する会社施設(寝室)の提供について拒否されたい。(前泊・泊仕業の翌日分)」などと申し入れた。(乙34、丙26)
(ウ) 参加人は、上記(ア)(イ)の申入れに対し、それぞれ団体交渉を行い、代替乗務員の安全確保について万全を期することを約束した(乙65【53、54頁】)。
(エ) 原告以外の労働組合から申入れのあった事項のうち、原告が使用している組合事務所の権利関係は次のとおりである。原告は、国鉄当時、国鉄から千葉運転区、津田沼運転区内の組合事務所等の国鉄所有建物について、組合事務所として使用することの承認を得ていたが、その使用承認期限は昭和62年3月31日までとされていた。国鉄は、昭和62年1月21日付けで、原告に対し、同年3月31日限りこれらの建物等を返還するよう求めていたが、原告は、同年4月1日以降も使用を継続していた。国鉄分割・民営化後の昭和62年10月1日、参加人は、原告との間では便宜供与等についての労働協約が締結されていないとして、原告に対し、参加人所有の原告組合事務所の明け渡しを求めた。参加人は、更に、昭和62年12月、同63年12月にも、原告に対し、組合事務所の明渡しを求めたが、原告はこれを拒絶した。参加人は、12月ストを受け、平成2年1月12日付け文書で、原告に対し、①12月ストの際、便宜供与として使用を認めていない組合事務所を無断使用し、再三の退去勧告を無視したことは遺憾であること、②1月ストでは、許可なく参加人の建物等を占拠し、職場秩序を乱してはならないとの警告を発した。そして、参加人は、12月スト、1月ストを受け、平成2年1月31日、原告及びその各運転区等に対し、参加人所有建物等の組合事務所の明渡訴訟を提起し、同訴訟は、その後、参加人勝訴の判決が確定している。(乙69【51ないし55頁】、丙6、7の1ないし5、同61の1及び2、同62の1ないし5、同67の1ないし3)
(オ) 参加人ないし千葉支社総務部は、前記(ウ)の約束に従い、組合の今後のストライキに対する対策を検討した。対策の要点は2点であった。第1点は、休養室等の取扱いであり、ストライキ実施組合に対しては、一定条件を守ることを約束した連絡員以外、休養室を含め参加人施設への立入りは認めないという点である。第2点は、津田沼運転区構内にある原告組合事務所建物前付近の安全対策である。すなわち、前記組合事務所建物前付近は、ストライキの際に代替乗務員らの通路になるところ、過去2回のストにおいて、同建物に原告役員らが詰めていたことから、東鉄労からそこを通るのが不気味であり、嫌がらせ行為をされることが予想されるとの申入れがあり(乙68【34頁】、71【69ないし73頁】)、これに対処するために同建物前にトタンフェンスを設置するという点である。以上2点を整理すると、以下のとおりである。(前記争いのない事実等(5))
a 入構拒否
ストライキ実施の組合に対し、以下の条件を守ることを約束した連絡員以外、休養室を含め参加人施設への立入りを認めない。
① 参加人施設内に連絡員以外の組合員を入れないこと
② ストライキ参加者及び部外者を参加人施設内から退去させること
③ 現場でストライキの目的等についての申入れは行わないこと
④ 参加人施設内での集会及びこれに準ずる行為は行わないこと
⑤ 連絡員の変更があった場合には速やかに連絡すること
b トタンフェンスの設置
津田沼運転区構内にある原告組合事務所前にトタンフェンスを設置する。
オ 本件入構拒否等に至る経過
(ア) 千葉支社は、3月16日、原告に対し、同月19日から予定されているという争議行為の内容の詳細を文書で千葉支社に通告するように申し入れた。これを受けて、原告は、同日、千葉支社に対し、同月19日午前零時(ただし、本線乗務員については始発時、地上勤務者については始業時)から1月ストと同じ運転区等を対象に48時間ないし72時間のストライキを実施するとの通知を行った(本件予定スト)。この通知には、12月スト及び1月ストと同じく戦術拡大の記載があった。(乙29、丙28)
また、原告は、3月16日、被告に対し、併せて休養室の使用に関して、「諸懸案要求の団体交渉による誠意ある解決をはかるとともに、やむなくストライキとなった場合は、突入、立上り時における取扱いは、輸送業務の安全を第一に考えることを基本に従来通りとすること」との申入れを行った(乙17)。
(イ) 千葉支社は、3月17日、原告に対し、本件予定ストに際し、参加人施設内で原告又はその組合員の行為に違法なものがあれば、厳しく対処せざるを得ないと申し入れた。また、K勤労課長は、同日夕方、J交渉部長に対し、本件予定ストに際し、ストライキ参加予定の原告組合員には、泊り乗務員、前泊乗務員とも、3月18日夜から休養室の使用を認めないこと及び前記「連絡員に関する遵守事項」の方針を念頭に、参加者の定めた遵守事項を守ることを約束すれば連絡員を認める旨述べた。これに対し、J交渉部長は、休養室の使用拒否は、ストライキが中止になり正常運転になった場合の問題であるとして、遵守事項を守るとの回答をせず、両者の主張は平行線のまま終わった。(乙40、61【37ないし46頁】、62【22ないし24頁】、68【44頁】)
(ウ) 参加人は、休養室については、翌朝勤務に就く乗務員が勤務に支障のないように、より良い状態で就くための仮眠施設として設置している。ところで、参加人は、本件予定ストに際し、同ストは清算事業団職員の解雇予告に関する問題について国労と共闘して行われるストであり、中止の可能性がないと考え、ストライキ参加予定者は翌朝の勤務に就くことはないと考えた。そこで、参加人は、本件予定ストに際し、ストライキ参加予定者の代替として翌朝勤務に就く乗務員に休養室を使用させるため、原告のストライキ参加予定者が、休養室を使用することを拒否した。また、参加人は、原告と共闘して平成2年3月19日から21日までの間ストライキを行った国労のストライキ参加予定者に対しても、休養室の使用を認めなかった。(乙68【35ないし37頁】、丙18、弁論の全趣旨)
(エ) 参加人は、本件予定ストに備え、これまでの12月スト、1月ストの経験をもとに、ストライキ参加者の構内での滞留等を防止するために、3月17日までに、千葉及び津田沼の各運転区については、従来より時間を早めて、同月18日午前8時にスト対策員を配置するなどの対策を決定し、約980名の対策員と、12月スト、1月ストの時の2倍弱の代替乗務員を確保した。そして、参加人は、対策員に対し、本件予定ストにおいて、前記「連絡に関する遵守事項」に記載された趣旨を徹底するよう指示した。(乙40、乙68【21、22、45ないし47頁】、72【47、50頁】、73【42、43頁】)
(オ) 本件入構拒否
D千葉運転区副支部長は、3月18日午前8時ころ、千葉運転区構内入口で、参加人のスト対策員らから、入構を拒否された。D千葉運転区副支部長は、午前8時30分ころ、原告本部に架電し、前記入構拒否の状況を伝えた。E副委員長は、D千葉運転区副支部長から連絡を受けて、午前8時50分ころ、F千葉運転区支部長とともに千葉運転区に赴き、G千葉運転区長及び現地対策本部長であるH千葉支社運輸部長に対し、これまでのストライキと同様に原告役員を入構させるよう抗議したが拒否された。原告のA書記長は、午前10時ころ、津田沼運転区支部長R及び同支部書記長Iとともに津田沼運転区構内にある組合事務所に行き(すなわち、参加人は、入構拒否前から既に津田沼運転区内にある原告組合事務所にいた支部役員ら数名の組合員については、これを排除する措置をとっていない)、その後、乗務員詰所のある津田沼運転区社屋に入ろうとしたが、許可を受けた連絡員以外は立入りを認めないとして制止された。(前記争いのない事実等(6)イ、弁論の全趣旨)
(カ) 本件トタンフェンス設置
参加人は、午前11時ころ、津田沼運転区の原告組合事務所の壁面から約2.8メートル離れた通路上に、高さ2メートル弱のトタンフェンスを設置する工事を始め、約1時間で完成した。参加人は、スト対策員を前記組合事務所付近に配置し、勤務終了後の原告組合員の立入りを拒否した。(前記争いのない事実等(6)ウ、弁論の全趣旨)
(3) 参加人の本件入構拒否等の措置の正当性の存否
ア 前記(2)で認定した事実を前提に、参加人の本件入構拒否等の措置が正当か否かについて判断する。
参加人の行った本件入構拒否等の措置は、使用者が自ら所有し管理する施設を権利者として使用、管理する行為であり、その行為は原則として使用者である参加人が自由に行うことができる事項ということができる。しかし、かかる使用者の施設管理権も、まったく自由に行使することができるということはできず、組合活動との関係では一定の制限があると解するのが相当である。すなわち、労働組合又はその組合員が使用者の施設を利用して組合活動を行おうとするとき、使用者において、その利用を許さないことが当該施設につき使用者が有する権利を濫用したと認めるに足りるような特段の事情が認められるときには、使用者の行為は正当とはいえず、違法ということになる。これに対し、そのような特段の事情が存在しない場合には、労働組合ないしはその組合員の行為は、職場環境を適正良好に保持し規律ある業務運営を確保し得るように当該施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものとして、違法な組合活動ということになる。
以上の観点に立つと、参加人の行った本件入構拒否等の措置に権利濫用と評価するに足りるだけの特段の事情が存在するかどうかという点が問題になる。以下、検討を進めることにする。
イ 前記(2)で認定した事実によれば、参加人が本件入構拒否の措置に出たのは次の理由からであることが認められる。すなわち、12月スト、1月ストの際、原告所属の多数の組合員らがストライキ前日から参加人の警告ないし退去要求を無視して、参加人の施設内に立ち入り、滞留し、ストライキ当日、代替乗務員に対し、罵声、暴言を浴びせ、その写真を撮影するなどしたこと(前記(2)ア(イ)、ウ(エ))、これに対し、代替乗務員を出した鉄産労、東鉄労から参加人に対し善処を求める強い申入れがあったこと(前記(2)イ(イ)(ウ)、エ(ア)(イ))、このため、参加人は、本件予定ストの際も、12月スト、1月ストと同様な事態が発生することを防止する目的(前記(2)オ(エ))から、本件入構拒否の措置をとったことが認められる。
また、前記(2)で認定した事実によれば、参加人が本件トタンフェンス設置の措置に出たのは次の理由からである。すなわち、原告組合事務所建物付近はストライキの際に代替乗務員らの通路になるところ、12月スト、1月ストの際、同建物に原告役員らが詰めていたことから、東鉄労からそこを通るのが不気味であり、嫌がらせ行為をされることが予想されるとの申入れがあり、これに対処するために設置したものであること(前記(2)エ(オ))が認められる。また、本件全証拠を検討するも、本件予定ストに際し、組合員への情報等の伝達を困難にする目的で本件トタンフェンスを設置したと認めるに足りる証拠は存在しない。かえって、前記(2)で認定した事実によれば、津田沼運転区支部の組合事務所においては、参加人が、会社施設等への入構を拒否する前から既に同事務所にいた支部役員ら数名の組合員についてまで排除していないこと(前記(2)オ(オ))、参加人の定めた遵守事項を守れば連絡員の入構を認める旨述べていたこと(前記(2)オ(イ))が認められ、そうだとすると、本件トタンフェンス設置は原告組合員が同事務所に出入りすることを妨害する目的で設置したということはできず、代替乗務員を保護するためであったと認定するのが相当である。
そもそも、前記(2)エ(エ)で認定した事実によれば、原告は、本件予定スト当時、参加人の建物を組合事務所として使用していたが、参加人との間で、その使用について承認を得ておらず、占有権原を有していない状態であったことが認められる。
さらに、前記(2)オ(ウ)で認定した事実によれば、休養室は、翌朝勤務に就く乗務員が勤務に支障のないように、より良い状態で就くための仮眠施設として設置しているものであるところ、原告の組合員で本件予定ストに参加する予定者については、翌朝勤務に就く可能性が極めて低かったこと、そこで、参加人は、スト参加予定者の代替として翌朝勤務に就く乗務員に休養室を使用させる必要から、ストライキ参加予定者が休養室を使用することを拒否したことが認められる。したがって、参加人が、本件予定ストに際し、ストライキ参加予定の原告組合員に対し、休養室の使用を許さなかった措置には合理的な理由があるというべきである。
ウ 小括
以上のとおり、参加人が、本件予定ストに際し、これまで2回のストの経験等に照らし、本件入構拒否等の措置をとったことには合理的な理由があり、権利の濫用と認めるに足りる特段の事情は存在しない。よって、参加人の本件入構拒否等の措置は適法な行為というべきである。
(4) 本件入構拒否等の不当労働行為性の存否
ア 前記(3)の判断を踏まえて、本件入構拒否等の措置が不当労働行為に当たるか否かを検討する。
原告は、参加人の本件入構拒否等の措置が、原告組合員に対する不利益取扱いないしは原告の運営に対する支配介入に当たると主張する。しかし、前記(3)で判示したとおり、参加人が本件入構拒否等の措置をとったのは、12月スト、1月ストの経験を踏まえ、本件予定スト時及びその準備行為時における職場の環境を適正良好に保持し、業務遂行の継続を図るために行った正当なものと解するのが相当であり、参加人が、施設管理権を濫用して、本件ストないしその準備行為に藉口して原告組合員に対する不利益取扱いないし原告の運営に対する支配介入をするため行われたと認めることはできない。そうだとすると、参加人の本件入構拒否等の措置には不当労働行為の成立要件の一つである不当労働行為意思が認められず、不当労働行為と認めることは困難である。
なお、付言するに、前記(2)で認定した事実によれば、参加人が本件入構拒否等の措置をとったのは、鉄産労、東鉄労からの申入れが契機となっていたこと(前記(2)イ(イ)(ウ)、エ(ア)(イ))は認められるが、これは飽くまでも参加人が代替乗務員を確保し、業務遂行の継続を図るためであって、殊更一部の労働組合に便宜を図るものということはできず、使用者の中立保持義務に背くものということはできない。のみならず、前記(2)オ(ウ)で認定した事実によれば、参加人は、平成2年3月19日からストライキを実施した国労組合員についても、勤務につく者以外の入構を拒否し、休養室の使用も許可していないことが認められ、原告組合員だけを不利益に取り扱ったものということはできない。
イ 小括
以上から明らかなとおり、参加人の本件入構拒否等の措置は、本件予定スト時及びその準備行為時における職場の環境を適正良好に保持し、操業継続を図るために必要かつ相当な措置であり、参加人に施設管理権を濫用したとの特段の事情は認められず、不当労働行為には該当しない。したがって、当裁判所と同一の判断のもと参加人の本件入構拒否等の措置が不当労働行為に当たらないと判断した被告の判断は相当というべきであり、何ら取消事由は存在しない。
2 争点2(本件繰上ストの違法性)について
(1) 本件では、前記1で判断した本件入構拒否等の措置が不当労働行為に当たるか否かの他に、本件広報、本件勤務扱い及び本件処分(以下、3つの措置を併せて「本件広報等」という。)が不当労働行為に当たるか否かが審理の対象とされている。ところで、本件広報等は、いずれも、原告が本件繰上ストを行ったことに対し、原告は当該ストは正当な争議行為であることを前提に、参加人の本件広報等は不当であり、不当労働行為に当たると主張し、これに対し、参加人は、当該ストは違法な争議行為であり、これに対し本件広報等の措置をとったのは当然の措置であり、適法であり、何ら不当労働行為に当たらないと主張する。両者の主張からも分かるとおり、次の審理対象である本件広報等が不当労働行為に当たるか否かを判断するに当たっては、本件繰上ストが違法か否かを判断することが必要不可欠の前提問題と考えられる。よって、以下、この点について検討を進めることにする。
(2) 認定事実(本項の出来事はすべて平成2年の出来事であるので「平成2年」の表記を省略する。)
前記争いのない事実等、前記1(2)(3)で認定した事実、証拠(文中又は文末に掲記したもの)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる(証拠等を掲記しないものは当事者間に争いのない事実である)。
ア 本件予定ストを巡る労使交渉等
(ア) 動労総連合は、3月13日、参加人との間で、本件採用命令の履行について団体交渉を行った。その際、参加人は、本件採用命令を履行する考えが全くないとの回答をした。
(イ) K勤労課長は、3月14日午後7時ころから同日午後9時ころまでの間、千葉市内の飲食店において、千葉支社勤労課Sと共にA書記長と会談し、原告が同月19日から予定しているストライキの規模、対象職種、期間及び原告の執行委員会、支部代表者会議のスケジュール等について情報収集をした(乙68【37ないし41頁】、弁論の全趣旨)。
なお、前記会談における話題について、K勤労課長は、特にストライキの戦術拡大に関する話はなかったと述べている(乙68【40、41頁】)のに対し、A書記長は、ほとんどが戦術拡大の話であり、参加人がストライキ回避の努力をせず妨害を行っていることから戦術拡大があり得ることを示唆したと述べている(乙63【30ないし35頁】、64【30ないし37頁】、原告代表者A【10ないし12頁】)。この点、原告がストライキ突入及びその実施日時等を正式に決めたのは、後記(ウ)のとおり、3月15日であること、千葉支社は、後記(エ)のとおり、同月16日、原告に対し、同月19日に予定されているストライキの詳細について書面で通告するように申し入れ、これを受けて、原告は、千葉支社に対し、同月16日、本件予定ストの詳細を通告したことなどからすれば、参加人がストライキ実施日時の詳細すら認識していない段階で専らストライキの戦術拡大について話をしたというのは不自然というほかなく、前記認定に反するA書記長の供述は採用することができない。
(ウ) 原告は、3月15日、定期委員会を開催し、本件採用命令の履行及び定年延長問題等の解決のため、全組合員を対象とする同月19日午前零時以降48時間ないし72時間のストライキ準備態勢を確立すること、参加人から休養室の使用禁止、入構拒否等の違法・不法な支配介入等が予想されるため、いついかなるときもストライキに突入できる準備態勢を確立することなどを決定し、同月17日、原告組合員に準備指令を発した(乙28)。
(エ) 千葉支社は、3月16日、原告に対し、同月19日に予定されているストライキの詳細について書面で通告するよう申し入れた。これを受けて、原告は、千葉支社に対し、3月16日、ストライキの日時は、同月19日午前零時(ただし、本線乗務員については始発時、地上勤務者については始業時)以降48時間ないし72時間、対象者は千葉、津田沼、館山、勝浦、銚子の各運転区及び京葉運輸区の全本線乗務員、幕張、習志野の各電車区の検修業務の日勤勤務者を対象とする時限ストライキ、その他の指名ストライキとする通知を行った。この通知には、12月スト及び1月ストと同じく戦術拡大の記載があった。(乙29)
(オ) 参加人は、3月17日、原告の上部団体である動労総連合に対し、「申入れ」と題する書面で、①清算事業団職員の雇用確保については、追加採用は政府の指導に基づき雇用の確保が困難な地域の清算事業団職員を対象に行ったものであり、参加人に対応する地域の清算事業団職員を採用する考えはない、②諸労働条件の改善については、参加人はこれまでに賃金改訂、期末手当等の支給、定年延長及び福利厚生面の充実など社員の労働条件の向上に努め、効率化の必要性、転勤等の問題についても参加人ないし千葉支社の考えを明らかにしてきた、③運転保安の確立については、参加人は最重要の課題であるとの認識に基づき、最優先の投資を行う一方、具体的な協議・説明を適宜行ってきた、このような状況で原告が繰り返し列車運行に影響を及ぼすストライキを実施することは、清算事業団の雇用対策対象者の問題が実質的な目的となっていると考えざるを得ず、このようなストライキは多くの客の理解を得られず、参加人及び社員が築き上げた信頼を大きく損なうものであるから、争議行為の中止を検討すべきであるとの申し入れをした。また、千葉支社は、3月17日、原告に対し、「申入れ」と題する書面で、本件予定ストに際し、参加人施設内における原告又は原告組合員の行為に違法なものがあれば、厳しく対処せざるを得ないとの申入れを行った。(乙31、丙29)
(カ) K勤労課長は、3月17日夕方、千葉支社においてJ交渉部長と会談し、①懸案事項について参加人側の回答が変わらないこと、②ストライキの際休養室を使用させないこと、③連絡員に関する遵守事項を守ることを約束すれば連絡員を認めると述べた。これに対し、J交渉部長は、休養室の使用拒否は、ストライキが中止になり正常運転となった場合に問題であるなどと指摘し、結局両者の主張は歩み寄りのないまま終わった。なお、この会談の中で、J交渉部長は、K勤労課長に対し、休養室の利用が禁止されるのであれば、場合によっては正午からストライキを実施するなどの戦術も考えざるを得ないなどと述べていた。(前記1(2)オ(イ)、乙61【37ないし46頁】、62【22ないし24頁】、68【44頁】)
イ 本件入構拒否等に至る経過
(ア) 参加人は、12月スト、1月ストの際、原告所属の多数の組合員らがストライキ前日から参加人の警告ないし退去要求を無視して、参加人の施設内に立ち入り、滞留し、ストライキ当日、代替乗務員に対し、罵声、暴言を浴びせ、その写真を撮影するなどしたこと、これに対し、代替乗務員を出した鉄産労、東鉄労から参加人に対し善処を求める強い申入れがあったことから、参加人は、本件予定ストの際も、12月スト、1月ストと同様な事態が発生することを防止しなければならないと考え、以下の(イ)ないし(オ)の対策を講じた(前記1(2)オ)。
(イ) 千葉支社は、3月12日ころからストライキ用の列車ダイヤの検討を始め、同月17日ころ、乗客へ周知するための線区別の基本的な運転計画を策定した。また、参加人千葉支社対策本部(以下「千葉支社対策本部」という。)は、現地対策本部に対し、ストライキ当日勤務に就く者以外は構内、庁舎内に入れないとの方針を厳正に行うよう指示した。(乙75【10ないし12、24ないし26頁】)
(ウ) 参加人は、3月17日ころまでに、本件予定ストの際、ストライキ参加者の構内での滞留等を防止するため、千葉運転区及び津田沼運転区について同月18日午前8時からスト対策員を配置することなどを決定し、約980名のスト対策員、12月スト及び1月ストの際の2倍弱の代替乗務員を確保した。また、千葉支社では、本件予定ストの対策として、同支社長を本部長とし、O総務部長らを副本部長とする千葉支社対策本部を組織し、O総務部長を除く各部長を本件予定スト当日、各運転区等に設置した現地対策本部長として派遣することとした。(乙68【21、22頁】、72【47頁】、73【42、43頁】、丙44)
(エ) 参加人は、本件予定ストの前日である3月18日午前8時、D千葉運転区副支部長が、千葉運転区構内入口から入構しようとするのを阻止した。D千葉運転区副支部長は、同日午前8時30分ころ、原告本部に架電し、前記入構拒否の状況を伝えた。E副委員長は、D千葉運転区副支部長から連絡を受けて、同日午前8時50分ころ、F千葉運転区支部長とともに千葉運転区に赴き、G千葉運転区長及び現地対策本部長であるH千葉支社運輸部長に対し、これまでのストライキと同様に原告役員を入構させるよう抗議したが、両人はこれを拒否した。また、A書記長は、同日午前10時ころ、津田沼運転区支部長R及び同支部書記長Iとともに津田沼運転区構内にある組合事務所に行き、その後、乗務員詰所のある津田沼運転区社屋に入ろうとしたが、参加人は、許可を受けた連絡員以外は立入りを認めないとしてこれを制止した。(前記1(2)オ(オ))
(オ) 参加人は、同日午前11時ころ、津田沼運転区の原告組合事務所の壁面から約2.8メートル離れた通路上に、高さ2メートル弱のトタンフェンスを設置する工事を始め、約1時間で完成した。参加人は、スト対策員を前記組合事務所付近に配置し、勤務終了後の原告組合員の立入りを拒否した。(前記1(2)オ(カ))
ウ 本件入構拒否等を巡る参加人と原告との交渉経過、本件繰上ストを決定するまでの経過(なお、本項における出来事はいずれも平成2年3月18日の出来事であるので、「3月18日」の表記を省略することがある。)
(ア) 原告のP委員長は3月18日午前10時30分ころ、A書記長から津田沼運転区の状況について報告を受け、原告各支部に対し、同日正午以降ストライキに入るための準備態勢を整えるよう指示した。
(イ) E副委員長及びJ交渉部長は、午前10時46分ころ千葉支社3階にあった勤労課に到着し、午前11時20分ころまでの間、K勤労課長、L輸送課長、B総務課長、M係長との間で、概略、以下のようなやり取りをした(乙96【25、26頁】、丙30ないし32、弁論の全趣旨)。
E副委員長:参加人側にストライキへの弾圧があればストライキの拡大をする。現場における労使双方の責任者同士の話合いを対策員がいる中でできるか。
K勤労課長:話をしないとは言っていない。
J交渉部長:原告は、3月19日からのスト通知をしているが、参加人側は、ストライキ弾圧をしている。参加人側の現場での行動は信義を無視している。参加人側の弾圧があれば、戦術拡大すると言ってきている。時間的拡大をする。本日12時以降を含めてやっていく。ストライキもやっていないのに、原告役員を庁舎内に入れない方式をとっている。
E副委員長:役員と組合員の連絡もさせないでいる。
K勤労課長:参加人としては、原告からのストライキ通告を受けて対応している。原告側こそ千葉運転区の乗務員詰所に組合員の集合を掛けているのではないか。
E副委員長、J交渉部長:ストライキの拡大をせざるを得ない。
K勤労課長:参加人は、当日の勤務者以外は普段から参加人施設内に入れていない。
E副委員長:津田沼運転区もストライキ通告は現場では受けない。千葉支社でやれと言っている。
J交渉部長:E副委員長を千葉運転区に入れなければ、戦術拡大をする。
E副委員長:千葉運転区の147仕業のD千葉運転区副支部長は11時16分出勤だが、この時点からストライキに入れる。我々は、旅客・公衆のことを考えて、ストライキは始発からと考えていた。参加人側には、ストライキを労使間で回避するという考えはないのか。
L輸送課長:ここで話をさせてもらっている。旅客への対応があり、突然のストライキ拡大は混乱を招くことになる。
E副委員長:原告側が会社にストライキの戦術について干渉される必要があるのか。不当介入ではないか。
M係長:連絡員としての会社施設内への立入りは、約束事を守ることを前提として扱うこととする。
E副委員長:制限を付けることなど聞けない。
(ウ) E副委員長は、午前11時20分ころ、P委員長に架電した後、参加人側に対し、正午以降全支部をストライキに入れる、更に15分間待つので、その間に参加人側の見解をまとめるようにと述べ、また、D千葉運転区副支部長は待機させており、参加人側の回答を待って最終判断をすると述べた。また、国労のT書記長が、午前11時21分ころ、千葉支社勤労課に架電してきて、原告が指名ストを行うのであれば、国労も原告組合員の代替乗務について指名ストを行わざるを得ないと述べた。そこで、K勤労課長らは、千葉支社対策本部のあった同支社6階において、千葉支社人事課長Uを含めて対応を協議したが、連絡員に関する遵守事項を守ることを約束しなければ、既定方針どおり原告役員の入構を認めないことを確認した。L輸送課長は、午前11時30分ころ、千葉支社対策本部から勤労課へ戻る途中、運輸部へ立ち寄り、正午以降ストライキの繰上げがあるかもしれないと伝えた。また、B総務課長は、午前11時30分ころ、千葉支社対策本部員に対し、正午以降ストライキの繰上げがあり得るので、代替乗務員の手配開始を各現業機関に連絡するよう指示した。(乙96【25、26頁】、丙30ないし32)
(エ) E副委員長は、午前11時31分ころ、D千葉運転区副支部長から電話を受けた後、参加人側に対し、全支部ストライキに入れる体制を取っている、参加人側の判断を待っているので午前11時35分までに返事をもらいたい、返事がなければD千葉運転区副支部長をストライキに入れると述べた。これに対し、K勤労課長は、総務部長がいないのでもう少し待ってほしいと述べた。E副委員長は、午前11時36分ころ、D千葉運転区副支部長に架電し、参加人からの返事がないのでストライキに入る、本部指示によりストライキに入ることを通告し、通告した後電話連絡をしてほしいなどと述べた。E副委員長は、午前11時41分ころ、D千葉運転区副支部長から電話連絡を受けた後、参加人側に対し、D千葉運転区副支部長がG千葉運転区長に対し正午以降全員ストライキに入れる体制を取ると通告したこと、これに対しG千葉運転区長は速やかに退去するようにと述べたことを伝えた。E副委員長は、午前11時43分ころ、P委員長に架電し、参加人側は総務部長がいないから待ってくれと言っているが、午前11時45分になったら帰るなどと述べた。(乙96【25、26頁】、丙30ないし32)
なお、E副委員長は、午前11時40分ころ、参加人側が最終的な回答としてストライキを正午から実施されてもやむを得ないという趣旨の発言をしたと供述している(乙59【92頁】)。しかしながら、K勤労課長らは、前記のとおり、午後11時31分、E副委員長らに対し、総務部長がいないのでもう少し返事を待ってほしいと伝えていること、正午からストライキが実施されれば列車運行に大きな混乱が生ずることが予測されたことからすれば、参加人側がこれを容認するような発言をしたとは考え難く、他にこれを裏付ける証拠もないので、前記E副委員長の供述は採用することができない。
(オ) E副委員長は、午前11時55分、参加人側に対し、3月16日付けスト通告における戦術拡大の記載(前記(2)ア(エ))に基づき、本件予定ストの開始時刻を繰り上げて、正午以降ストライキに入ると口頭で通告した。E副委員長及びJ交渉部長は、正午ころ、千葉支社を退出した。K勤労課長は、退出しようとするE副委員長に対し、ストライキに入れる対象について尋ねたところ、「途中は入れない」と答えた。E副委員長は、午後零時27分ころ、K勤労課長に架電してきて、ストライキに入れる対象について、自区のある駅に戻ったときにストライキに入れると述べた。さらに、J交渉部長は、午後零時35分ころ、K勤労課長に架電してきて、ストライキに入れる対象について、これから出勤する乗務員はストライキに入れること、乗務中の組合員は行先地に着いた時点でストライキに入れると述べた。(乙69【2、3頁】、96【25、26頁】、丙30ないし34)
(カ) 午後零時7分ころ、勝浦駅を発車する予定であった下り列車の乗務員である原告組合員がストライキに入ったため、助役が代わって乗務した。その後、原告組合員が次々にストライキに入ったが、乗務中の組合員はいずれも当該行路の終着駅あるいは乗務員交代駅まで乗務してからストライキに入った。
(キ) K勤労課長及び勤労課V係長は、午後2時ころ、J交渉部長に対し、参加人千葉支社長W作成名義の申入書(丙40)を交付し、①突然ストライキを実施することは正当な争議権の行使とはいえないこと、②直ちにストライキを中止すべきであること、③今後厳正に対処せざるを得ないことなどを申し入れた(乙69【35、36頁】)。
エ 本件繰上ストの影響等
(ア) 千葉支社は、3月20日、原告に対し、同月21日もストライキを実施するか否か、実施する場合その詳細が明確になっていないとして、直ちに書面で通知するよう申し入れた。これに対し、原告は、3月19日から同月21日までの予定でストライキを行っている国労組合員の代替乗務には就かないことを条件に、同月20日でストライキを中止すると申し入れた。これに対し、参加人は、管理者の指揮命令下に入った以上、参加人の指示に従うべきであり、乗務の有無に条件を付けることはできないとして、原告の申入れを拒否した。このため、結局本件ストは、当初の予定どおり同月21日まで続いた。
(イ) 原告組合員は、本件ストの期間中、12月スト、1月ストの際と同様に、組合事務所等の会社施設からの退去通告に従わず、滞留したり、代替乗務員や対策員、現場管理者に対し、罵声を浴びせたり、暴言を吐いたりした(丙47)。
(ウ) 本件繰上ストが実施されたことにより、各地で列車の運行ができなくなり、結局、総武快速線では運休100本・遅延95本、総武本線では運休13本・遅延30本、成田線では運休14本・遅延31本、外房線では運休72本・遅延18本、内房線では運休86本・遅延22本、その他の線区では運休14本・遅延19本という大きな混乱が生じ、約4万人の利用客に影響が出た。
この混乱の主たる原因は、内房線、外房線、総武本線、成田線等が乗り入れている千葉駅において、到着列車又は発車予定の列車の乗務員である原告組合員がストライキに入ったところ、代替乗務員の手配が直ちにはできず、千葉駅の各ホームに長時間列車が滞留したことから、千葉駅に乗り入れ予定の列車が次々と運行できなくなったことにあった。このような状況は、滞留列車本数に差異があるものの、勝浦駅、安房鴨川駅、館山駅、茂原駅等でも発生した。(乙72【52、53頁】、74【40ないし68頁】、76【27ないし56頁】、丙8、48ないし52)
本件繰上ストが実施された3月18日は日曜日であり、ストライキは同月19日からと報道され、ストライキが繰り上げて実施される可能性は報道されていなかったことから、内房線、外房線等を利用して房総半島に出掛けた旅行客、行楽客が多く、これらの利用客は、本件予定ストが突然繰り上げて実施され、列車の運行が混乱したことに憤り、駅員等の胸ぐらを掴んだり、罵声を浴びせるなどした(乙72【53ないし55頁】、弁論の全趣旨)。
(3) 本件繰上ストの適法性の有無について
ア 前記(2)で認定した事実を踏まえて、本件繰上ストが適法か否かについて判断する。ストライキが適法か否かを検討するに当たっては、当該ストライキの目的、手続、態様等に照らして労使間の信義則に反しているか否かによって判断するのが相当である。以下、この観点から、検討することにする。
イ 本件繰上ストの目的
(ア) 前記(2)で認定した事実、取り分け、原告と参加人との間の本件繰上スト実施前の労使間のやりとりに照らすと、原告が本件予定ストを繰り上げて実施したのは、参加人が、本件予定ストに対処するため、本件入構拒否等の措置をとったことに抗議するためのものであったと認めることができる(前記(2)ウ)。そして、前記1で判断したとおり、参加人の本件入構拒否等の措置は、使用者として本件予定スト時における業務遂行を継続するために必要かつ相当な措置であり、正当なものである。そうだとすると、参加人の正当な措置に抗議して行われた本件繰上ストの目的は正当性を欠いているというほかない。
(イ) この点に関し、原告は、本件繰上ストの理由として、本件入構拒否、本件トタンフェンス設置により原告役員とその組合員との連絡が分断され、組合員に対する指令、指示、統制が困難になり、本件予定ストの実施に混乱が予想されたこと、本件入構拒否、休養室の使用不許可によりストライキの戦術変更や集約が事実上不可能になり、ストライキの実効性が減殺されるからであると主張する。
しかしながら、本件全証拠を検討するも、原告が参加人施設外で組合員に対する指令、指示等を行うことが特別困難であると認めるに足りる証拠は見当たらず、実際、本件スト以降のストライキにおいては、原告は、会社施設を利用せずに組合員に対する指令、指示を行っている(乙60【24ないし27頁】、ただし前記認定に反する部分を除く)。また、原告は、前記(2)ア(カ)、同(2)ウ(イ)で認定したとおり、参加人が提案していた連絡員を利用することも可能であったのであるから、本件入構拒否等の措置に対し本件ストの繰上実施を行うべき必要性があったとは認め難い。
以上によれば、原告が主張する本件繰上スト実施の目的は理由がなく、採用することができない。
ウ 本件繰上ストの手続、態様
(ア) 前記(2)で認定した事実によれば、原告は、本件予定ストの開始を平成2年3月19日午前零時(ただし、本線乗務員は始発時、地上勤務者については始業時)からと予告しており(前記(2)ア(エ))、一般にもストライキは同日からであると報道され、利用客は日曜日である3月18日にはストライキはないものと考えて行動していたこと(前記(2)エ(ウ))、しかるに、原告は、本件予定ストを12時間も繰り上げて実施し、それは参加人に対し明確な繰上通知をした同月18日午前11時55分からわずか5分後、原告が参加人側に最終回答の期限とした同日午前11時35分ころからみても約25分後という突然の繰上であったこと(前記(2)ウ(エ)(オ))が認められる。
これに対し、原告は、参加人は本件予定ストを原告が繰り上げて実施することを予見できたと主張する。しかし、参加人が、このような態様での本件ストの繰上実施を予見していなかったことは、本件繰上ストの原因が3月18日に参加人が行った本件入構拒否、本件トタンフェンス設置にあること、また、参加人が、その後代替乗務員の手配に手間取り、輸送において大混乱が発生したことからも明らかである。確かに、前記(2)で認定した事実によれば、原告は、本件繰上ストに至る経緯の中で、参加人に対し、本件予定ストに関する対抗措置次第で戦術の拡大があり得ると表明していたこと(前記(2)ウ(ウ)(オ))は認められるものの、当該表明は、およそ具体的な内容を伴うものではなく、前記のとおり参加人が本件予定ストを原告において繰り上げて実施することを明確に知ったのが繰上実施の5分前であるとの認定を覆すに足りる事実とはなり得ない。
(イ) 前記(2)エで認定した事実によれば、本件繰上ストの実施により、列車ダイヤに大混乱が生じたことが認められる。
この点につき、原告は、当該混乱の原因は、参加人の列車移動や代替乗務員の配置の拙悪さによるものであり、本件予定ストを繰り上げて実施したこととの間に因果関係がないと主張する。しかし、前記(2)エ(ウ)で認定したとおり、当該混乱の主たる原因は、内房線、外房線、総武本線、成田線等が乗り入れている千葉駅において、到着列車又は発車予定列車の乗務員である原告組合員がストライキに入ったところ、参加人において代替乗務員の手配が直ちにできず、運行できない列車が長時間千葉駅のホームに滞留し、続いて千葉駅に乗り入れる予定の列車も次々に運行できなくなったことにあることが認められ、そうだとすると、原告の前記主張は理由がなく、採用することができない。
(ウ) 原告としては、当初通告し、一般に周知されていた本件予定ストの開始時刻を事前の通告に反して5分前に12時間も繰り上げてストライキを実施すれば、参加人が代替乗務員を確保することができず、会社の業務遂行に重大な混乱をもたらし、利用客にも多大な迷惑を与えることは、十分予測することができた。また、動力車に関係する労働者等で組織されている原告としては、鉄道輸送の特殊性から、特定の駅に乗務員のいない列車が滞留すれば、後続列車の運行が不可能となり、ストライキに参加していない参加人の従業員も業務遂行不能となることを十分予測することができた。(弁論の全趣旨)
(エ) 以上によれば、原告が実施した本件繰上ストは、その手続、態様においても正当性を欠いているというべきである。
エ 小括
以上の検討結果によれば、原告の行った本件繰上ストは、その目的、手続、態様において、いずれも正当性を欠いており、違法な争議行為というべきである。
3 争点3(本件広報の不当労働行為性の存否)
(1) 原告は、本件広報は、いずれも参加人が本件ストによる輸送混乱の責任を原告に転化し、世間に原告が乗客の迷惑も考えずに不公正なストライキを実施する反社会的な集団であるとの印象を抱かせ、重い処分を行う根拠を作出し、原告の社会的評価を低下させ、原告組合員らの闘争力の減殺を企図したものであり、原告の運営に対する支配介入に当たると主張する。そこで、以下、原告の主張の当否を検討する。
(2) 本件社長談話について
前記争いのない事実等(8)アによれば、本件社長談話は、平成2年3月18日夕方に行われた記者会見の場で発表され、参加人東京圏運行本部及び千葉支社管内の各駅に掲示されたものであること、本件社長談話の内容は、前記争いのない事実等(8)アで記載したとおりであることが認められる。
前記争いのない事実等(8)アによれば、本件社長談話は、本件繰上ストが違法であることを前提に、本件繰上ストについての参加人の見解と多大な迷惑をかけた利用客に対する謝罪を表明したものと認めることができる。そして、前記2で認定、判示したところによれば、本件繰上ストは違法であること、本件社長談話に表明されている本件繰上ストに関する経過は、事実に基づくものであることが認められる。そうだとすると、本件社長談話は、殊更虚偽の事実を摘示して原告ないし原告組合員を貶めるものとはいうことができず、参加人が本件社長談話を発表等をしたことをもって、不当労働行為に当たるということはできない。
(3) 本件新聞記事について
前記争いのない事実等(8)イによれば、本件新聞記事は、P委員長及びO総務部長に対する取材を基に、P委員長及びO総務部長の見解を対比して掲載したものであること、このうちO総務部長の見解とされる内容は、本件繰上ストが違法であることを前提に、本件繰上ストについて同人の見解を明らかにしたものであることが認められる。前記2で判断したとおり、本件繰上ストは違法であり、そうだとすると、O総務部長の見解は基本的には間違っているということはできず、しかも、本件新聞記事は、O総務部長の見解と反対のP委員長の見解も併せて掲載しており、これを閲読する者に対し、O総務部長の見解だけを押し付ける内容とはなっていない。
以上によれば、本件新聞記事のうちO総務部長の見解は、殊更虚偽の事実を摘示して原告ないし原告組合員を貶めるものということはできず、同部長の行為をもって、不当労働行為ということはできない。
(4) 本件広告記事について
前記争いのない事実等(8)ウによれば、本件広告記事は、多数の新聞紙上に掲載された参加人の謝罪広告であるところ、その内容は、本件繰上ストが違法であることを前提に、本件繰上ストに関する事実経過及び利用客に対する謝罪の意思を表明したものであることが認められる。そして、前記2で認定、判示したところによれば、本件繰上ストは違法であること、本件広告記事に記載されている本件繰上ストに関する経過は、事実に基づくものであることが認められる。そうだとすると、本件広告記事は、殊更虚偽の事実を摘示して原告ないし原告組合員を貶めるものとはいえず、参加人が本件広告記事を新聞各社に掲載したことをもって不当労働行為に当たるということはできない。
(5) 小括
以上の検討結果から明らかなとおり、本件広報は、いずれも本件繰上ストが違法であることを前提に、参加人ないしO総務部長の見解、利用者への謝罪の意思を明らかにしたものであるところ、本件繰上ストの事実経過に関する部分は基本的に誤りはなく、本件繰上ストが違法であるという認識も不当とはいえないものであった。そうだとすると、本件広報が、原告の弱体化と闘争力の減殺を意図して行ったと認めることは困難であり、本件広報をもって原告の運営に対する支配介入ということはできない。よって、本件広報は、原告ないし原告組合員に対する不当労働行為に当たらないと解するのが相当である。被告は、当裁判所と同様な見解のもとに本件広報が不当労働行為には当たらないと判断しているのであって、その判断は正当であり、取消事由はないというべきである。
4 争点4(本件勤務扱いの不当労働行為性の存否)
(1) 前記争いのない事実等(9)によれば、参加人は、平成2年4月5日、本件繰上ストに参加した原告組合員100名の勤務扱いに関し、別紙1「本件勤務扱い一覧表」記載のとおり、同年3月18日の日勤勤務者で勤務途中からストライキに入った者(同日の泊勤務者の同月19日に係る部分も含む。)について、届出なく部分的に勤務を欠いた者に対する取扱いである「否認」とし、同月18日正午以降の勤務であった者について、届出なく出勤しない者に対する取扱いである「不参」とし、いずれもストライキに参加した場合の勤務の取扱いである「争議」とはしなかったこと(本件勤務扱い)が認められる。
(2) ところで、前記2で判示したとおり本件繰上ストは違法であり、そうだとすると、当該違法なストに参加した100名の原告組合員について行った本件勤務扱いは、当然の措置であり、当該措置が、本件繰上ストないしその準備行為に藉口して原告組合員に対する不利益取扱いないし原告の運営に対する支配介入をするため行われたということはできず、本件勤務扱いについての原告の請求はその余の点を判断するまでもなく理由がない。
(3) 原告は、本件繰上ストが違法であるとしても、その責任は労働組合が負うべきであり、個々の組合員について、これに参加したというだけで個人的欠勤として扱うのは、団体行動性を否定するものである上、当該ストライキが適法か否かの判断を個々の組合員に負わせて、憲法の保障する団体行動権の行使を不当に制約することになるから許されないと主張する。しかし、原告の前記主張は独自の見解であり、採用することができない。その理由は、後記5(1)で述べるのと同様の理由からである。
5 争点5(本件処分の不当労働行為性の存否)
(1) 最後に、12月スト、1月スト、本件ストについて参加人が原告組合員に対して課した本件処分が不当労働行為に当たるか否かについて検討する。
争議行為に参加した労働者に対する法的保護は、争議行為が正当なものである場合に限って認めるのが相当である。この点につき、原告は、仮にストライキが違法であるとしても、その責任は労働組合が負うべきであり、個々の組合員にその責任を負わせることは許されないと主張する。しかしながら、労働者の争議行為は集団的行動であるが、その集団性のゆえに、参加者個人の行為としての面が当然に没却されるものではなく、違法な争議行為に参加して服務上の規律に違反した者は懲戒責任を免れることができないと解するのが相当である(最三小判昭和53年7月18日民集32巻5号1030頁参照)。また、労働組合が違法な争議行為について会社に対し損害賠償責任を負うことと、これに参加した組合員が会社から懲戒処分を受けるか否かは別個の問題であり、前者が後者の成否に影響することはないと解するのが相当である。以下、これを前提に、本件処分の不当労働行為性の存否について検討することにする。
(2) 認定事実
前記争いのない事実等、前記1ないし3で認定した事実、証拠(文中又は文末に掲記したもの)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる(証拠等を掲記しないものは当事者間に争いのない事実である)。
ア 参加人における各種規定
(ア) 参加人の就業規則(以下「就業規則」という。)には、以下のような規定が存在する。
(服務の根本基準)
第3条 社員は、会社事業の社会的意義を自覚し、会社の発展に寄与するために、自己の本分を守り、会社の命に服し、法令、規程等を遵守し、全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。
2 (省略)
(勤務の厳正)
第7条 社員は、みだりに欠勤し、遅刻し、若しくは早退し、又は会社の許可を得ないで、執務場所を離れ、勤務時間を変更し、若しくは職務を交換してはならない。
(退出)
第9条 社員は、終業時刻後速やかに退出しなければならない。ただし、会社の命を受けた場合又は会社の許可を得た場合は、この限りでない。
(信用失墜行為の禁止)
第13条 社員は、会社の信用を傷つけ、又はその名誉を汚すような行為をしてはならない。
(出社禁止及び退社命令)
第19条 社員が次の各号の1に該当する場合は、出社を禁じ、又は退社を命ずることがある。
(1) (省略)
(2) 業務を妨害し、若しくは秩序を乱し、又はそのおそれのある場合
(以下省略)
(会社施設内等における集会、政治活動等)
第22条 社員は、会社が許可した場合のほか、会社施設内において、演説、集会、貼紙、掲示、ビラの配布その他これに類する行為をしてはならない。
2 (省略)
(勤務時間中等の組合活動)
第23条 社員は、会社が許可した場合のほか、勤務時間中に、又は会社施設内において、組合活動を行ってはならない。
(懲戒の基準)
第139条 会社は、社員が次の各号の1に該当する行為を行った場合、懲戒する。
(1) 法令、会社の諸規程等に違反した場合
(2) 上長の業務命令に服従しなかった場合
(3)ないし(11)(省略)
(12) その他著しく不都合な行為を行った場合
(懲戒の種類)
第140条 懲戒の種類は、次のとおりとする。
(1) 懲戒解雇 予告期間を設けず、即時解雇する。
(2) 諭旨解雇 予告期間を設けず、即時解雇する。
(3) 出勤停止 30日以内の期間を定めて出勤を停止し、将来を戒める。
(4) 減 給 賃金の一部を減じ、将来を戒める。
(5) 戒 告 厳重に注意し、将来を戒める。
2 懲戒を行う程度に至らないものは、訓告する。
(イ) 参加人の動力車乗務員執務標準(以下「執務標準」という。)には、以下のような規定が存在する。
(車両の留置)
第12 車両を留置、又は入区する時は、各機器及びスイッチ類を整備するとともに転動を防止する手配を行っておかなければならない。
(引継ぎ)
第19 乗務の引継ぎを行うときは、列車の運転上必要な事項を引継ぐものとする。
(ウ) 参加人の動力車乗務員作業標準(電車)(以下「作業標準」という。)には、以下のような規定が存在する。
10 留置
1 自動ブレーキ弁で1.4kg/cm2以上の減圧
(ATC車及び電気指令式は非常ブレーキ)
2 ブレーキ弁ハンドル抜取り
(205系はキー抜取り位置)
3 主幹制御器キー抜取り
4 各スイッチ類整備
5 手ブレーキ緊締(手ブレーキ使用中札掲出)
(電気指令式は手ブレーキなし)
6 パンタグラフ降下
7 バッテリー開放
8 必要により手歯止め使用(手歯止め使用中札掲出)
(電気指令式は必ず手歯止め使用)
(エ) なお、参加人では、執務標準、作業標準中に規定はないが、運転席を離れる場合には施錠をするように指導している(乙74【84頁】)。
イ 本件処分
(ア) 丙45及び46の各1、2、同47、54、60の信用性について
12月スト、1月スト、本件ストの際の原告組合員らの各行動については、「集会状況及び滞留状況一覧表」(丙45の1、2)、「申立人組合員の行動等一覧表」(丙46の1、2)、「被処分者の争議関連非違行為等一覧表」(丙47)、「運転室を離れたときの取扱い不良者一覧表(平成2年3月18日)」(丙54)、「運転室を離れたとき等の取扱い不良者の処分一覧表」(丙60)が存在する。上記「集会状況及び滞留状況一覧表」、「申立人組合員の行動等一覧表」、「被処分者の争議関連非違行為等一覧表」は、いずれも、千葉支社総務部人事課が、12月スト、1月スト及び本件繰上ストの際の原告組合員の非違行為について、現場管理者及びスト対策員からの現認報告書に基づいてまとめた書面をさらに本件初審において千労委に提出するに当たり整理したものである。また、上記「運転室を離れたとき等の取扱い不良者の処分一覧表」は、千葉支社総務部人事課が、被処分者及び同人からの車両引継者からの事情聴取により作成された前記「運転室を離れたときの取扱い不良者一覧表(平成2年3月18日)」に、Q等の駅事務室への時刻表放置を加えて作成したものである。上記「被処分者の争議関連非違行為等一覧表」等に記載された事項は、いずれも、それぞれ当時の現認ないし事情聴取に基づくものであって、その内容自体も具体的かつ詳細なものであり、証拠として十分信用することができる。(乙72【55ないし57】、73【5ないし9頁】、76【66ないし68頁】、78【1ないし4頁】、79【68ないし76頁】、弁論の全趣旨)
(イ) 原告組合員らの行動
原告組合員141名は、12月スト、1月スト、本件ストの際、別紙2「本件処分一覧表」処分事由の概要欄記載の非違行為を行った。なお、別紙2「本件処分一覧表」処分事由の概要欄記載の非違行為の具体的な内容は、別紙5「非違行為一覧表」記載のとおりである。(乙79【68頁】、丙45及び46の各1、2、同47、弁論の全趣旨)
また、本件繰上ストの際、別紙4「運転室を離れたとき等の取扱い不良者一覧表」記載のとおり、原告組合員8名が手ブレーキ緊締等の列車の転動防止措置の何点かを怠り、原告組合員Q等の時刻表の引継ぎに不良があった(乙76【62ないし80頁】、78【1ないし4頁】、丙53、54、60、弁論の全趣旨)。
(ウ) 本件処分
参加人は、平成2年7月17日から同月22日までの間、原告組合員の行為のうち、①12月スト、1月スト、本件ストの際、乗務員詰所、検修詰所、組合事務所から退去を命じられてもこれに従わなかったこと、代替乗務員、対策員らに対し、罵声を浴びせ、暴言を吐くなどの嫌がらせをしたことなどは、就業規則139条1号、2号、12号、9条、19条2号に、②原告本部執行役員及び支部三役(支部長・副支部長・支部書記長)が本件繰上ストを指導したことは、同139条1号、12号、13条に、③原告組合員が職場を放棄して本件繰上ストに参加したことは、同139条1号、2号、12号、3条1項、7条、13条に該当するとして、別紙2「本件処分一覧表」処分欄記載のとおり処分をした。また、参加人は、別紙2「本件処分一覧表」番号31、43ないし46、49、50、52、53の原告組合員については、同表記載の処分事由のほか、別紙4「運転室を離れたとき等の取扱い不良者一覧表」記載の処分事由が執務標準ないし作業標準等に違反するとして併せて処分した。
ちなみに、本件処分の量定について、参加人は、組合本部執行委員は出勤停止30日、支部三役は出勤停止1日、減給2分の1又は戒告に、嫌がらせ行為等を働いた者は、乗務員に対して行った者は戒告又は訓告に、対策員等に対して行った者は訓告又は厳重注意に、滞留行為者は訓告又は厳重注意に、単純参加組合員は厳重注意を基本に、業務引継が不適切な者には訓告とした。
(乙78【4ないし19頁】、丙3、47、53、54、58の1ないし141、同59、60)
(3) 本件処分の不当労働行為性の存否
ア 前記1(2)、2(2)、5(2)で認定した事実を踏まえて、本件処分が不当労働行為に当たるか否かを検討することにする。
前記5(2)イ(ウ)で認定した事実によれば、本件処分の処分事由は、大別すると本件繰上ストに係る原告組合役員の指導責任・組合員の参加、12月スト、1月スト及び本件ストの際の代替乗務員等に対する嫌がらせ言動・滞留、本件繰上ストの際に運転室を離れたとき等の取扱い不良に分類することができる。そこで、以下では、各類型ごとに検討してみることにする。
イ 前記2で判示したとおり、本件繰上ストは違法であるから、これを指令・指導した組合役員は、その果たした役割に従い相応の処分を受け、また、これに参加した組合員も職務を放棄したとして相応の処分を免れない。
ウ 次に、原告は、代替乗務員に対する嫌がらせ言動とされる行為は、ストライキ時には通常あり得るもので、スト破りに加担する代替乗務員や職制らに対する言論による抗議等でいずれも許容限度内のものと主張する。しかし、前記1(2)ア(イ)、ウ(エ)、2(2)エ(イ)、5(2)イ(イ)で認定したとおり、12月スト、1月スト、本件スト時の原告組合員らの言動は、いずれも言論による説得の域を超えており、参加人による業務遂行の継続を妨害するものとして処分を免れない。また、再三の退去通告に反する滞留は、たとえ列車運行に直接の影響がなかったとしても、参加人の業務遂行を妨害するものであって処分を免れない。
エ さらに、原告は、転動防止措置等を怠ったとの点について、いずれも手歯止めを必要とする状況になかったと主張する。しかし、前記5(2)イ(イ)及び弁論の全趣旨によれば、これらの者は手歯止めのみならず手ブレーキの緊締等の転動防止措置を行っておらず、実際に転動が生じてはいないものの、輸送の安全を図ることを目的として制定された執務標準、作業標準等の規程及び指導に違反したことが認められ、これに基づく処分も不当とはいえない。
オ 以上検討したところによれば、本件処分にはいずれも処分事由が認められ、これに基づく処分内容も相当な範囲内で課されたものといえ、本件全証拠を検討するも、本件処分が殊更重すぎると認めるに足りる証拠は存在しない。そうだとすると、本件処分は、参加人が12月スト、1月スト、本件ストないしその準備行為に藉口して原告組合員に対する不利益取扱いないし原告の運営に対する支配介入をするため行われたと認めることは困難である。
(4) 小括
以上によれば、本件処分は、原告ないし原告組合員に対する不当労働行為に当たらないと解するのが相当である。したがって、本件処分を不当労働行為に当たらないとした被告の判断は相当であり、取消事由は存在しないというべきである。
第4 結論
以上によれば、本件入構拒否等、本件広報等は不当労働行為に当たらないとして、本件初審命令のうち原告の申立てを認容した部分を取り消し、同部分に関する原告の不当労働行為救済の申立てを棄却し、また、原告の再審査申立てを棄却するとした本件命令は相当であり、取消事由は存在しないというべきである。よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとする。
(裁判長裁判官・難波孝一、裁判官・增永謙一郎、裁判官・知野 明)
別紙
1 本件勤務扱い一覧表<省略>
2 本件処分一覧表<省略>
3 本件処分による主な不利益概要<省略>
4 運転室を離れたとき等の取扱い不良者一覧表<省略>
5 非違行為一覧表<省略>