東京地方裁判所 平成15年(行ウ)604号 判決 2005年12月08日
原告 甲
同訴訟代理人弁護士 鳥飼重和
同 好美清光
同 多田郁夫
同 今坂雅彦
同 内田久美子
同 松本賢人
同 堀招子
原告訴訟代理人鳥飼重和復代理人弁護士
呰真希
同 木山泰嗣
被告 北沢税務署長
倉橋敏紀
同指定代理人 中島千絵美
同 別所卓郎
同 伊藤英一
同 北村勝
同 中泉英知
同 佐藤謙一
同 岡直之
同 河野博己
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 被告が原告に対し、原告の平成12年分の所得税について、平成14年11月18日付けでした更正処分のうち課税総所得金額690万8000円、還付される税額399万0028円を超える部分及び同日付けでした過少申告加算税賦課決定処分のうち過少申告加算税額6万0500円を超える部分を、いずれも取り消す。
2 被告が原告に対し、原告の平成13年分の所得税について、平成14年11月18日付けでした更正処分のうち課税総所得金額1193万5000円、還付される税額397万4895円を超える部分及び同日付けでした過少申告加算税賦課決定処分を、いずれも取り消す。
第2事案の概要
本件は、原告が、勤務先の会社の親会社である米国法人から付与されたストック・オプション(会社が自社又は子会社の従業員、役員等に対して付与する、自社株式を一定の期間内にあらかじめ定められた権利行使価格で購入することができる権利)を行使したことにより発生した、権利行使価格と当該株式の時価との差額(権利行使益)について、一時所得として確定申告をしたところ、被告が給与所得に当たるとして更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をしたことから、その一部の取消しを求めている事案である。
1 関係法令の定め
(1) 所得税法(昭和40年法律第33号)は、居住者に対して課する所得税額の計算に関し、その所得を利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得又は雑所得に区分し、これらの所得ごとに所得の金額を計算する旨規定している(同法21条1項1号)。
(2) 給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいう(同法28条1項)。
(3) 一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう(同法34条1項)。
(4) 雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう(同法35条1項)。
(5) 給与所得及び雑所得については、それぞれ同法28条2項又は35条2項の規定により計算した所得金額が、所得税の課税標準とされる総所得金額に算入されるのに対し、一時所得については、同法34条2項の規定により計算した所得金額の2分の1に相当する金額が、総所得金額に算入されることになる(同法22条1項、2項1号・2号)。
2 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者
ア 日本法人であるA株式会社は、平成2年9月に設立されたB株式会社を平成10年10月に合併により承継したC株式会社が、合併と同時に商号を変更したものである(以下、B株式会社及びA株式会社を併せて「日本B社」という。)。
イ 原告は、平成3年12月、日本B社に入社し、平成13年12月31日の時点まで同社に引き続き勤務していた者である(甲8)。
ウ 日本B社は、アメリカ合衆国法人であるA(以下「米国B社」という。)の100パーセント子会社である。
なお、原告と米国B社との間には、雇用契約はない。
(2) 米国B社が原告に付与したストック・オプションについて
ア 米国B社におけるストック・オプション制度
米国B社においては、同社及びその関連会社(米国B社と直接又は一つ以上の中間者を介して、支配、被支配の関係にある者。以下同じ。)の選択された従業員に、米国B社の成長と業績を通じて利益を得ること及び米国B社の将来の成長に貢献させる誘因を生み出すことを奨励し、その結果、株主の利益のために米国B社の価値を増大させ、米国B社と関連会社の発展、成長及び利益を保持するのに有能な人材を引き付け、留め置くことを目的として、米国B社又は関連会社の従業員(以下単に「従業員」という。)に対して報奨(オプション、株式優先取得権、制限付株式報奨又はその他の権利、利益、オプション権をいう。以下同じ。)を付与することについて定めた「A1989年エクイティ・インセンティブ・プラン」(以下「本件プラン」という。)が存在した(甲8、乙12、本件プラン1条、2条(a)(b))。
イ 本件プランの概要
本件プランの概要は、以下のとおりである(甲8、乙12)。
(ア) 報奨が付与される従業員の選定、付与される報奨のタイプ、株式数、条件は、本件プランに基づき委員会(従業員でない2人以上のディレクターで構成された、取締役会の人事委員会をいう。以下同じ。)において決定される(本件プラン3条、2条(f))。
(イ) いかなる従業員も、参加者(本件プランの下で報奨を受け取るよう委員会によって選定された者をいう。以下同じ。)として選定される適格性を有する(本件プラン5条、2条(q))。
(ウ) オプション(委員会が定めた価格により、委員会が定めた期間内に、参加者が株式を購入することを許容する権利をいう。以下同じ。)の購入価格は、委員会が独自の裁量で決定する。
ただし、インセンティブ・ストック・オプション(米国証券取引法422条A等に合致することを意図して付与されたオプションをいう。以下同じ。)の場合は、付与の日の公正市場価格の100パーセントを、米国証券取引法16条の対象となり、個々人に付与される非適格ストック・オプション(インセンティブ・ストック・オプションを意図しないオプションをいう。以下同じ。)の場合には50パーセントを、それぞれ下回らないものとする(本件プラン6条(a)、2条(1)(o)(p))。
(エ) オプションが行使可能となる時期、行使期間は、委員会が定める。
行使期間の最長は付与の日から10年間である(本件プラン6条(b)(c))。
(オ)(a) 仮に、参加者の雇用が死亡、重度障害又は退職以外の理由で終了した場合には、非適格ストック・オプション又は株式評価権を行使できる参加者の権利は、雇用の終了後1年目又は雇用の終了がなかったなら当該オプション又は株式評価権が消滅したであろう日付のいずれか早い時期に消滅する。
仮に、参加者の雇用が死亡、重度障害又は退職により終了した場合には、参加者又はその承継者は、非適格ストック・オプション又は株式評価権を、その雇用の終了の日に存在した範囲内で行使することができる権利を有するが、いかなる場合でも、当該雇用の終了がなくても消滅したであろう日付の後に行使することはできない。
(b) インセンティブ・ストック・オプション及びこれに関連付けられた株式評価権については、当該雇用の終了の日から90日以内に、雇用の終了の日に行使できた範囲内で行使することができる。ただし、雇用が終了しなかったときにおいて、当該オプションが消滅したであろう日の後に行使することはできない。
仮に、その一部につき上記期間中に権利を行使しなかった場合には、残余の行使可能な部分のオプションは、自動的に非適格ストック・オプションとみなされ、当該オプション及び関連づけられた株式評価権は(a)で定められた期間内に行使することができる(本件プラン9条(a)、(b))。
(キ) いずれの報奨も、遺言又は相続法による場合を除き、参加者により、譲渡、質入れ、添付、売却又はその他移転又は担保提供することができない(本件プラン12条(a))。
ウ 原告に対するストック・オプションの付与及びその行使による利益
原告は、日本B社に在職中である平成4年、米国B社から、本件プランに基づき、ストック・オプション(以下「本件ストック・オプション」という。)の付与を受けた(甲8)。
原告は、平成12年10月26日及び平成13年12月7日、本件ストック・オプションのうち各1万株について権利行使をし、それぞれ2884万4945円、1038万6600円の権利行使益(以下「本件権利行使益」という。)を取得した(甲6)。
(3) 原告に対する課税処分の経緯等
ア 原告は、平成13年3月12日、被告に対し、原告の平成12年分の所得税につき、確定申告書を提出した。
同申告書では、本件権利行使益は一時所得に当たるものとして申告されている。
イ 原告は、平成14年3月12日、被告に対し、原告の平成13年分の所得税につき、確定申告書を提出した。
同申告書でも、本件権利行使益は一時所得に当たるものとして申告されている。
ウ これに対して、被告は、本件権利行使益が給与所得に当たるとして、平成14年11月18日付けで、原告に対し、平成12年分及び平成13年分の所得税について、それぞれ更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件各加算税賦課処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各処分」という。)を行った。
エ 原告は、平成15年1月10日、被告に対し、本件各処分を不服として異議申立てをしたところ、被告は、同年4月9日付けで、異議申立てを棄却する旨の決定を行った。
オ 原告は、平成15年4月22日、国税不服審判所長に対し、本件各処分に対する審査請求を行ったところ、国税不服審判所長は、同年8月26日付けで、審査請求を棄却する旨の裁決を行った。
カ 原告は、平成15年11月10日、本訴を提起した。
キ 以上の原告の平成12年分及び平成13年分の所得税に関する確定申告、本件各処分に対する不服申立て等の経緯は、別紙1及び2のとおりである。
(4) 本件各処分の税額等の計算根拠
本件各更正処分における原告の平成12年分及び平成13年分の所得税の課税標準及び納付すべき税額の計算根拠並びに本件各加算税賦課処分の税額の計算根拠は、別紙3のとおりである。
3 争点(各争点に対する当事者の具体的主張内容は、別紙4記載のとおりである。)
(1) 本件権利行使益の所得区分(本件権利行使益が、給与所得、一時所得又は雑所得のいずれに該当するか。)
(2) 租税法律主義違反又は租税平等主義違反の有無(本件各処分について、租税法律主義違反又は租税平等主義違反を理由とする取消しが認められるか否か。)
(3) 「正当な理由」の有無(本件各加算税賦課処分について、原告に国税通則法65条4項の「正当な理由」があるか否か。)
第3争点に対する判断
1 争点(1)(本件権利行使益の所得区分)について
(1) 被告は、ストック・オプションについて、権利行使時に株式の時価とあらかじめ定められた権利行使価格との差額に相当する行使益(権利行使益)が存在する場合、その所得税法上の所得区分は給与所得に該当し、そうでないとしても、雑所得に該当すると主張するのに対し、原告は、これが一時所得に該当するものと主張する。
そこで、本件権利行使益の所得区分について判断する必要があるところ、前記関係法令の定め(第2の1)のとおり、給与所得が「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいう。」と規定されているのに対し、一時所得は、給与所得を含む八つの所得類型以外の所得であることがその要件の一つとされており、さらに、雑所得が、その他の所得類型のいずれにも該当しない所得をいうものとされていることに照らせば、本件権利行使益の所得区分を検討するに当たっては、まず、給与所得に該当するか否かを検討した上で、給与所得に該当しない場合に、一時所得に該当するか否か、さらには、雑所得に該当するか否かを検討すべきである。
(2) 前記前提事実(第2の2)によれば、本件プランに基づき付与されたストック・オプションについては、被付与者の生存中は、その者のみがこれを行使することができ、その権利を譲渡し、又は移転することはできないものとされており、被付与者は、これを行使することによって、初めて経済的な利益を受けることができるものとされているということができる。そうであるとすれば、米国B社は、原告に対し、本件プランに基づき本件ストック・オプションを付与し、その約定に従って所定の権利行使価格で株式を取得させたことによって、本件権利行使益を得させたものであるといえるから、本件権利行使益は、米国B社から原告に与えられた給付に当たるものというべきである。
本件権利行使益の発生及びその金額が米国B社の株価の動向と権利行使時期に関する原告の判断に左右されたものであるとしても、そのことを理由として、本件権利行使益が米国B社から原告に与えられた給付に当たることを否定することはできない。
ところで、本件権利行使益は、原告が就労していた日本B社からではなく、米国B社から与えられたものである。しかしながら、前記前提事実によれば、米国B社は、日本B社の発行済み株式の100パーセントを有する親会社であるから、米国B社は、日本B社の役員の人事権等の実権を握ってこれを支配しているものといえ、原告は、米国B社の統括の下に日本B社の従業員としての職務を遂行していたものということができる。そして、前記前提事実によれば、本件プランは、米国B社、その親会社又は子会社の一定の従業員に対する精勤の動機付けとすること等を企図して設けられているものであり、米国B社は、原告が前記のとおり職務を遂行しているからこそ、本件プランに基づき原告に対して本件ストック・オプションを付与したものであって、本件権利行使益が、原告が前記のとおり職務を遂行したことに対する対価としての性質を有する経済的利益であることは明らかというべきである。
そうであるとすれば、本件権利行使益は、雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供された非独立的な労務の対価として給付されたものとして、所得税法28条1項所定の給与所得に当たるというべきである(以上につき、最高裁判所平成17年1月25日第三小法廷判決・民集59巻1号64頁参照)。
(3) 原告は、上記最高裁判決は、ストック・オプションの被付与者が子会社の役員である場合に関するものであるが、被付与者が役員である場合と従業員である場合とでは事情が異なる旨主張する。
しかし、米国B社は、日本B社を支配しているとみることができるから、その従業員である原告も、米国B社の統括の下に職務を遂行していたものということができるとともに、本件プランは、米国B社、その親会社及びその子会社の一定の従業員に対する精勤の動機付けとすること等を企図して設けられたものであることからすれば、原告が従業員であったとしても、本件権利行使益をもって給与所得と評価する妨げにはならないものというべきである(原告は、本件プランには、ストック・オプションの付与を「精勤の動機付けを企図して」行う趣旨の記載や、本件権利行使益が米国B社から従業員に付与される旨の記載がないと主張するが、本件プランの内容は、前記第2の2(2)ア、イでみたとおりであって、文言に明記されているか否かは別として、その趣旨を含んだものであることは明らかというべきである。)。
2 争点(2)(租税法律主義違反又は租税平等主義違反の有無)について
(1) 原告は、本件権利行使益を給与所得と認定することは憲法84条(租税法律主義)に違反する旨主張する。
しかし、前記1のとおり、本件権利行使益は、所得税法28条の解釈上、給与所得と解されるものであって、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更する」場合に当たらないことはもとより、これが不当な拡大解釈に当たるものでも、課税要件が不明確となっているものでもないというべきである。そして、このことは、かつて、課税庁において、ストック・オプションの権利行使益を一時所得ととらえていた時期があったことや、裁判実務において、これを一時所得とする見解があったことにより、左右されるものではない。
(2) このほか、原告は、本件各更正処分が違法である理由として、租税平等主義(憲法14条)違反を主張するが、前記1のとおり、本件権利行使益が給与所得に当たると解することが所得税法28条の合理的な解釈に合致すると認められる以上、原告が指摘する、ワラントや新株予約権の付与に対する課税やストック・オプションの付与会社である親会社が日本法人である場合における課税との違いは、立法政策の当否を論難するにとどまるものといわざるを得ない。すなわち、ワラントや新株予約権については、付与された権利の内容がストック・オプションとその性質を異にすることから、課税上異なる扱いがされているものといえるし、親会社が日本法人である場合については、そうした場合に限って課税の特例を法が定めたものにすぎず、その要件を満たさない場合に特例の適用を受けられないのは立法の当然の結果というべきである。
さらに、原告は、長期にわたり一時所得として課税されてきた経緯を述べ、過去の事例と比較した場合の不公平についても指摘するが、租税平等主義という観点からすれば、平成12年分及び平成13年分の所得税の課税が争われている本件においては、平成8年分から平成10年分までを係争年分とする上記最高裁判決の事案、その他本件事案の年分により近接した年分の課税との平仄にまず着目すべきであって、更にさかのぼった年分の課税上の取扱いとの間に差異があることをもって、直ちに平等違反を問題にする余地はないというべきである。
(3) したがって、本件各処分については、租税法律主義違反又は租税平等主義違反を理由とする取消しは認められない。
3 争点(3)(「正当な理由」の有無)について
国税通則法(昭和37年法律第66号)65条4項の「正当な理由」とは、過少申告が真に納税者の責めに帰すことのできない客観的事情がある場合をいい、単なる主観的事情や法の不知・誤解は含まれないものと解される。
ところで、原告は、平成10年分の所得税について、米国B社から付与されたストック・オプションを行使して得た権利行使益を一時所得として確定申告をしたところ、被告からそれが給与所得に該当する旨の指摘を受けたものの、これにそった修正申告をしなかったことから、被告が、平成12年2月29日付けで上記権利行使益を給与所得とする内容の更正処分を行っている事実(乙59、弁論の全趣旨)、平成11年10月から平成12年8月にかけて、外資系企業の従業員等に対し、外国親会社から付与されたストック・オプションの権利行使益について、課税当局は、これを給与所得として課税する取扱いとしたことが新聞により大々的に報道されていた事実(乙68の1ないし5、69、70の1ないし4)を認めることができる。
そして、原告の平成12年分及び平成13年分の所得税の確定申告は、いずれも上記更正処分よりも後に行われたものであって、上記新聞報道の事実をも考え併せれば、原告は、上記の課税庁の取扱いに従えば過少申告となることを承知した上で、本件権利行使益が一時所得に該当するものとする確定申告をしたものと認めることができる。このような場合、課税庁の取扱いに従わなかったことによって過少申告の結果に至った以上、そのことについて、真に納税者の責めに帰すことのできない客観的事情があったとみるのは困難といわざるを得ない。この点は、かつて、課税庁において、ストック・オプションの権利行使益を一時所得ととらえていた時期があったとしても、また、原告が確定申告をした当時、同様の事案を扱った訴訟における裁判所の判断が分かれており、最上級審における司法判断が下されていない状況にあったとしても、結論が左右されるものではない。したがって、本件権利行使益を一時所得に区分したことに基因する原告の過少申告について「正当な理由」があるとは認められないというべきである。
このほか、原告は、平成12年分の所得税の確定申告において雑所得の金額を、平成13年分の所得税の確定申告において雑所得及び配当所得の金額を、それぞれ申告していないことに係る「正当な理由」を基礎付ける事情について、具体的な主張・立証をしていないから、この点に基因する原告の過少申告についても「正当な理由」があるとは認められない。
4 結論
別紙3の被告主張の課税根拠のうち、1の本件各更正処分の根拠については、(1)ア(イ)b及び(2)ア(ウ)b掲記の本件権利行使益に係る経済的利益が給与所得に該当するものとする点を除けば、当事者間に争いがない(計算の基礎となる各数額は、原告の確定申告書記載の額と同額であるか、そうでないとしても、被告主張の数額について原告から異なる額の主張がなく、原告において明らかに争わないものである。)ところ、前記前提事実のほか、上記のとおり、本件権利行使益が給与所得に当たること及び原告には国税通則法65条4項の「正当な理由」がないことを前提として、原告の平成12年分及び平成13年分の所得税に係る還付金の額に相当する税額及び過少申告加算税額について判断すると、別紙3のとおりとなるから、これと同額の本件各処分は適法である。
なお、原告は、本件更正通知書に理由が記載されていないことをとらえて違法である旨主張するが、本件各更正処分について、そもそも理由の附記が必要な青色申告書に係る更正(所得税法155条2項)である旨の主張はないのであるから、原告の主張は理由がない。
以上の次第で、被告のした本件各処分は適法であるから、それらの取消しを求める原告の請求にはいずれも理由がない。 10
(裁判長裁判官 大門匡 裁判官 吉田徹 裁判官 矢口俊哉)
別紙1
課税処分等の経緯(平成12年分)
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別紙2
課税処分等の経緯(平成13年分)
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(別紙3)
1 本件各更正処分の根拠
(1) 平成12年分
ア 総所得金額 1954万0738円
上記金額は、次の(ア)から(ウ)までの各金額の合計額である。
(ア) 不動産所得の金額 △3109万9550円
(1) 平成12年分
上記金額は、原告が平成13年3月12日に被告に対して提出した平成12年分所得税の確定申告書に記載した不動産所得の金額である(金額の前の△は、損失の金額を表す。以下同じ。)。
(イ) 給与所得の金額 5062万6388円
上記金額は、次のa及びbの各給与収入金額の合計額から所得税法28条3項に規定する給与所得控除額を同条2項の規定に基づいて控除した後の金額である。
a 日本B社からの給与収入金額 2623万5464円
上記金額は、原告の12年分確定申告書に添付された平成12年分給与所得の源泉徴収票の「支払金額」欄に記載された金額と同額である。
b 原告が米国B社から付与されたストック・オプションの権利行使に係る米国B社からの給与収入金額 2884万4945円
上記金額は、原告が米国B社から得たストック・オプションの平成12年中の行使に係る経済的利益の合計額である。
(ウ) 雑所得の金額 1万3900円
上記金額は、原告が平成12年中に支払を受けた、国税通則法58条1項に規定する還付加算金の額である。
イ 所得控除の額の合計額 333万2562円
上記金額は、原告の所得控除の額の合計額であり、原告が平成12年分所得税の確定申告書に記載した金額と同額である。
ウ 課税総所得金額 1620万8000円
上記金額は、前記アの総所得金額1954万0738円から前記イの所得控除の額の合計額333万2562円を控除した後の金額(ただし、国税通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの。以下同じ。)である。
エ 還付金の額に相当する税額 144万8908円
上記金額は、次の(ア)から、(イ)及び(ウ)の合計額を差し引いた後の金額である。
(ア) 課税総所得金額に対する税額 363万2400円
上記金額は、前記ウの課税総所得金額1620万8000円に所得税法89条1項の税率を乗じて算出した金額である。
(イ) 定率減税額 25万円
上記金額は、経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律(平成11年法律第8号、以下「負担軽減措置法」という。)6条2項かっこ書が定める金額である。
(ウ) 源泉徴収税額 483万1308円
上記金額は、原告が平成12年分確定申告書に記載した源泉徴収税額と同額である。
(2) 平成13年分
ア 総所得金額 2029万4161円
上記金額は、次の(ア)から(エ)までの各金額の合計額である。
(ア) 配当所得の金額 5万2118円
上記金額は、原告がD株式会社から受けた利益の配当で、平成13年6月28日にその支払が決議された金額である。
(イ) 不動産所得の金額 △1621万3461円
上記金額は、原告が平成14年3月12日に被告に対して提出した平成13年分所得税の確定申告書(以下「平成13年分確定申告書」という。)に記載した不動産所得の金額と同額である。
(ウ) 給与所得の金額 3644万0904円
上記金額は、次のa及びbの各給与収入金額の合計額から所得税法28条3項に規定する給与所得控除額を同条2項の規定に基づいて控除した後の金額である。
a 日本B社からの給与収入金額 2976万1720円
上記金額は、原告の平成13年分確定申告書に添付された平成13年分給与所得の源泉徴収票の「支払金額」欄に記載された金額と同額である。
b 本件ストック・オプションの権利行使に係る米国B社からの給与収入金額 1038万6600円
上記金額は、原告が米国B社から得たストック・オプションの平成13年中の行使に係る経済的利益の合計額である。
(エ) 雑所得の金額 1万4600円
上記金額は、原告が平成13年中に支払を受けた、国税通則法58条1項に規定する還付加算金の額である。
イ 所得控除の額の合計額 343万5175円
上記金額は、原告の所得控除の額の合計額であり、原告が平成13年分確定申告書に記載した金額と同額である。
ウ 課税総所得金額 1685万8000円
上記金額は、前記アの総所得金額2029万4161円から前記イの所得控除の額の合計額343万5175円を控除した後の金額である。
エ 還付金の額に相当すべき税額 249万8124円
上記金額は、次の(ア)から、(イ)、(ウ)及び(エ)の合計額を差し引いた後の金額である。
(ア) 課税総所得金額に対する税額 382万7400円
上記金額は、前記ウの課税総所得金額1685万8000円に所得税法89条1項の税率を乗じて算出した金額である。
(イ) 配当控除の額 2606円
上記金額は、前記ア(ア)の配当所得の金額について、所得税法92条1項3号の規定に基づいて計算した金額である。
(ウ) 定率減税額 25万円
上記金額は、負担軽減措置法6条2項かっこ書が定める金額であり、原告が平成13年分確定申告書に記載した金額と同額である。
(エ) 源泉徴収税額 607万2918円
上記金額は、次のa及びbの合計額である。
a 日本B社からの給与収入金額に係る源泉徴収税額 606万2495円
上記金額は、平成13年分確定申告書に添付された平成13年分給与所得の源泉徴収票の「源泉徴収税額」欄に記載された金額と同額である。
b D株式会社から受けた利益の配当に係る源泉徴収税額 1万0423円
上記金額は、前記ア(ア)の配当所得の金額5万2118円に係る源泉徴収税額である。
2 本件各加算税賦課処分
原告は、本件各係争年分の所得税について、被告に対し還付金の額に相当する税額を1の(1)及び(2)の各エ掲記の額より過大に記載した確定申告書を提出しているところ、本件各更正処分が適法であり、上記還付金の額に相当する税額が過大であったことについて、国税通則法65条4項に規定する正当な理由が認められないとした場合には、本件各更正処分により新たに納付すべきこととなった所得税の額は、それぞれ平成12年分311万円、平成13年分147万円(いずれも同法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に、同法65条1項の規定を適用して計算した過少申告加算税の額は、それぞれ平成12年分44万1500円、平成13年分14万7000円となる。
(別紙4)
争点に対する当事者の主張
(1) 本件権利行使益の所得区分(本件権利行使益が、給与所得、一時所得又は雑所得のいずれに該当するか。)
ア 被告の主張
(ア) 本件権利行使益が給与所得に該当すること
a 給与所得の意義について
給与所得とは、「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得」(所得税法28条1項)であるが、ここでいう「給与等」とは、広く雇用関係又はこれに類する関係において、使用者の指揮・命令の下に提供される労務の対価をいい、その認定に際しては、支払者と受給者間の形式的法律関係のみではなく、支払の原因となった法律関係についての支払者と受給者の意思ないし認識、労務の提供や支払の具体的態様等を考察して、客観的、実質的に判断すべきである。
そして、「給与等」について、法文上、雇用契約の当事者間の給付であるとの限定が付されていないこと、租税特別措置法29条の2は、親会社が子会社に勤務する従業員に対して給付する経済的利益が給与所得となることを当然の前提としていること、実質的にも、直接の雇用主等以外の者から給付がされたという形式的理由のみから給与所得課税がされないことになると均衡を失する結果となること等から、「使用者からの直接給付」をその要件とすべき理由はない。
また、従前の裁判例及び課税実務において、通勤費や従業員旅行費用等、提供された具体的な労務の質ないし量と給付額との間に何ら相関関係のない給付が給与所得とされていること、給与所得と解されている会社の監査役・取締役に対する賞与について、その額は会社の業績等によって変動するところ、その提供する具体的な労務の質及び内容と関係なく給付額が上下する場合も多々見受けられることからして、「労務と給付額との間の相関関係」は給与所得の要件ではなく、当該従業員等が提供した具体的な労務と給付額との間に何らかの相関関係がなくとも、従業員等たる地位に基づいて受ける給付は、すべて労務の対価であり、給与所得に該当するというべきである。
b 課税時期について
所得税法36条1項は、所得金額計算の前提となる収入金額について、「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。」と規定しているところ、ここでいう「収入金額」の発生時期は、現金ないし容易に現金に換価され得るもの(現実収入)が発生した時点、あるいは、かような現実収入の原因となる権利が確定した時点であると解すべきである。
c 本件ストック・オプションの課税上の扱いについて
本件プランの目的は、ストック・オプションを付与された従業員の精勤意欲の向上、長期間にわたる優秀な人材の誘因・確保、会社業績の向上(株価上昇)を図ることにあり、この目的を達するため
① 付与の対象者が従業員のみに限定されていること
② ストック・オプションの権利行使要件として、会社又は子会社における一定期間の勤務を要すること
③ 権利行使期間、権利行使価格等の限定
④ ストック・オプションの譲渡禁止
⑤ 付与された従業員以外の者による権利行使の原則的禁止
⑥ 雇用契約等消滅の場合のストック・オプションの消滅ないし行使期間の制限
等の定めが置かれている。その結果、米国B社と従業員との間では、付与後、従業員がその勤務先に一定の労務の提供をすることが、ストック・オプションの権利行使益を取得するための必須の条件となっており、一方、米国B社が従業員にその負担部分である経済的利益を与える理由は、従業員の一定期間の勤務によりその労働力を利用し、勤労の成果を得ることに対する報酬ということになる。こうした米国B社と従業員との関係を客観的、実質的にみれば、本件ストック・オプションに係る権利行使益が、「労務の対価」として所得税法28条1項所定の給与所得に該当することは明らかである。
そして、本件ストック・オプションに係る「収入金額」の発生時期については、付与されたストック・オプションには、譲渡禁止特約が付されており換価可能性がないから、その権利を行使した時点で、収入の原因となる権利が確定したものとして、株式の時価と権利行使価格の差額(権利行使益)を「収入金額」とすべきものである。
(イ) 本件権利行使益が一時所得に該当しないこと
上記(ア)のとおり、本件権利行使益が給与所得に該当する以上、一時所得には該当しない。
(ウ) 本件権利行使益が雑所得に該当すること(予備的主張)
本件権利行使益が、仮に、給与所得に該当しないと判断されるにしても、本件権利行使益は、米国B社の子会社である日本B社における労務の対価としての性質を有すると認められることからすると、一時所得の消極的要件である「労務その他の役務・・・の対価としての性質を有しないもの」(所得税法34条1項)に該当しないものといわざるを得ず、雑所得に該当することになる。
そして、本件権利行使益が雑所得に該当するとすれば、原告の平成12年分の雑所得の額の合計は2884万4945円、同じく平成13年分の雑所得の額の合計は1040万1200円となる。
(エ) 最高裁判所平成17年1月25日第三小法廷判決について
上記最高裁判決は、米国法人の子会社である日本法人の代表取締役であった上告人が親会社から付与されたストック・オプションの権利行使益の所得区分が争われた事案につき、給与所得に該当することを明らかにしたものである。
本件においても、米国B社は、日本B社の発行済み株式のすべてを所有しており、人事権等の実権を握ってこれを支配しているといえ、原告は、米国B社の統括の下に日本B社の従業員としての職務を遂行していたものといえる。また、本件プランは、米国B社と関連会社(以下「Bグループ」という。)の選択された従業員が、米国B社の成長と業績を通じて利益を取得し、同社の将来の成功に貢献することを奨励することにより、株主の利益のために同社の価値を高め、Bグループの発展、成長を保持するのに有能な人材を引き付けることを目的とし、Bグループの一定の従業員に対する精勤の動機付けとすること等を企図して設けられたものである。そうすると、米国B社は、原告が職務を遂行しているからこそ、本件プランに基づき本件ストック・オプションを付与したものであって、本件権利行使益が職務遂行の対価としての性質を有する経済的利益であることは、上記最高裁判決からも明らかであるというべきである。
イ 原告の主張
(ア) 本件権利行使益が給与所得に該当しないこと
a 給与所得の意義
所得税法28条1項は、給与所得を「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得」と規定しているところ、最高裁判所昭和56年4月24日第二小法廷判決(民集35巻3号672頁)は、「給与所得とは、雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお、給与所得については、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない。」と判示していること等からすれば、ある所得(経済的利益)が給与所得に区分されるためには、①雇用契約又はそれに類する原因が存在すること(雇用類似要件)及び②労務の対価としての性質を有すること(対価性要件)の2つの要件を充足することが必要となる。
b 雇用類似要件を充足しないこと
上記aのとおり、給与所得に該当するというためには、当該役務が雇用関係又はこれに類する関係において使用者の指揮・命令の下に提供されるものであることを要するところ、本件ストック・オプションの付与会社である米国B社とその子会社の従業員である原告との間に雇用契約又はこれに類する原因が形式的にも実質的にも存在しないから、本件権利行使益は同要件を充足しない。
c 対価性要件を充足しないこと
前記aのとおり、給与所得に該当するというためには、労務の対価としての性質、すなわち、①労務の提供があり、②その報酬として支払われているという関係が必要であるが、原告は、飽くまでも日本B社の従業員として、同社に対して労務を提供しているにすぎず、米国B社に対する労務の提供はないのであるから、本件権利行使益は同要件も充足しない。
(イ) 本件権利行使益が一時所得に該当すること
所得税法34条に規定する一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいうところ、本件権利行使益は、本件ストック・オプションに係る親会社の株価の変動及び原告自身の権利行使の時期に関する判断によって、その発生の有無及び金額が決定付けられた、偶発的、一時的な性格を有する経済的利益であって、労務その他の役務又は資産の譲渡の対価には当たらないから、一時所得であることは明らかである。
(ウ) 本件権利行使益が雑所得に該当しないこと
上記(イ)のとおり、本件権利行使益が一時所得に該当する以上、雑所得には該当しない。
仮に、本件権利行使益が雑所得であるとすると、本件各更正処分の通知書(以下「本件更正通知書」という。)には、給与所得がある旨の記載はあるが、雑所得である旨の記載はなかったのであるから、所得税法154条2項所定の所得別の正しい内訳が記載されていなかったという違法があったことになる。
(エ) 最高裁判所平成17年1月25日第三小法廷判決について
a 本件事案は上記最高裁判決の射程外であることについて
上記最高裁判決は、米国親会社の100パーセント子会社である日本法人の代表取締役に対して付与されたストック・オプションの権利行使益について判断された事例である。原告は、日本子会社の従業員にすぎず、米国親会社の支配が及んでいたということはできないから、上記最高裁記判決の趣旨は、本件事案には妥当しない。
また、本件プランには、ストック・オプションの付与を「精勤の動機付けを企図して」行う趣旨の記載はないし、本件権利行使益が米国B社から従業員に給付される旨の記載もない(従業員に付与されるのはオプション権そのものであることが明記されている。)。「労務の対価性」の要件に関するこれらの事実関係においても、上記最高裁判決の事案とは全く異なっているものである。
b 上記最高裁判決の判断の誤りについて
上記最高裁判決には、以下の点において誤りがあることから、その判断は改められるべきである。
まず、上記最高裁判決は、親会社より付与されたストック・オプションの権利行使益について、親会社から給付されたものと認定している。しかし、それは、様々な要因による株価の上昇と権利行使の時期に係る従業員等の投資的判断により発生したものであるから、権利行使益の所得の源泉について誤った判断をしているものである。
次に、上記最高裁判決は、従業員等の精勤の動機付けとしてストック・オプションが付与されたことを理由に、労務の対価性を認めているが、ストック・オプションを付与する動機と、その権利行使益が日本子会社に対する労務の提供と対価的関係にあることとは別の問題であって、動機は対価性を認める根拠とはなり得ない。
さらに、上記最高裁判決は、100パーセントの株式を有している親会社であり、子会社の役員の人事権等の実権を握ってこれを支配していることを対価性の根拠に挙げるが、株式による経営の支配と労務の対価とは性質が異なるから、前者をもって、後者であることを認める根拠とすることはできない。
(2) 租税法律主義違反及び租税平等主義違反の有無(本件各処分について、租税法律主義違反及び租税平等主義違反を理由とする取消しが認められるか否か。)
ア 原告の主張
(ア) 租税法律主義違反(租税要件明確主義違反)について
租税要件明確主義は、憲法84条が定める租税法律主義から当然要請される原理・原則であるが、経済活動を営む納税者に対して、課税の予測可能性を保障することにその意義がある。
外国親会社発行のストック・オプションの権利行使益に対する課税に関しては、①一時所得説(東京地裁平成16年12月17日判決・判例時報1878号69頁等多数)、②給与所得説(最高裁平成17年1月25日判決等多数)、③雑所得説(学説)、④譲渡所得説(学説)と、学説及び裁判例において複数の解釈論が存在しているところ、かかる課税について、明確に定めた法律が存在しない状態で、所得税法28条の解釈として「労務の対価」に該当するものとするのは、その適用範囲を極めて不明瞭なものとし、納税者の予測可能性を害することになるから、租税要件明確主義に違反するものというべきである。
(イ) 租税平等主義違反について
新株の引受けに係る権利が与えられた場合、過去半世紀にわたり、それに係る利益は「一時所得」として課税されてきた。昭和29年に設けられた旧所得税法9条の4、これを引き継いで昭和48年に改正された所得税法施行令84条(平成10年政令104号による改正前のもの)を受けた所得税基本通達には、新株等を取得する権利を与えられた場合の所得を一時所得とする旨が定められていた。昭和59年ころから約15年にわたり、海外親会社から付与されたストック・オプションの権利行使益についても、一時所得として課税されてきた。
また、ストック・オプションが我が国で認められる前にこれに代わるものとして用いられた制度に成功報酬型ワラントがあるが、これについては、ワラント支給時にワラントの価値に対して給与所得として課税をし、行使時には課税がなく、株式譲渡時に株式等の譲渡所得として課税されることとされているし、平成13年商法改正により導入された新株予約権を、従業員等が無償で付与された場合についても同様の課税となる。一般に、給与所得として課税されても、ワラントや新株予約権自体の価値は大きくなく、また、株式等の譲渡所得については極めて軽い課税がされている。
さらに、同じ親会社から従業員等にストック・オプションが付与された場合であっても、我が国の会社が親会社である場合には、租税特別措置法29条の2により、一定の要件を満たす場合には、付与時・行使時の課税がなく、譲渡時に譲渡所得として課税されることになり、納税額において大幅に優遇されることになる。
以上のとおり、本件各処分の取扱いは、過去の取扱い、類似制度の取扱い、親会社が日本法人である場合の取扱いのいずれと比較しても、公平を欠いており、かつ、そうした差別的扱いをする合理的根拠は存しないから、租税平等主義(憲法14条)に反するものである。
イ 被告の主張
給与所得について「これらの性質を有する給与に係る所得」と包括的に規定する所得税法28条1項自体が課税要件として不明確な規定でないことは明らかである。本件権利行使益が同項所定の給与所得に該当するか否かはあくまで法律の解釈適用の問題であるところ、被告は、原告と米国B社との関係を含めたストック・オプション付与契約に係る一切の事情を考慮して、本件権利行使益は「労務の対価」として給与所得に該当すると認定判断したものであり、これは拡張解釈でも類推解釈でもなく、何ら租税法律主義(課税要件明確主義)の要請に反するものではない。また、原告が本件権利行使益を得たことにより、その暦年が終了した時点で、所得税法の規定に基づき、抽象的に納税義務が発生している。国税通則法70条1項によって認められた期間内において、申告納税者の所得に関する調査を実施した結果、当該納税者が納付すべき税額を誤っていたと認められた場合には、課税庁は、これを法律の定めに基づかずに免除することはできず、更正を行って本来納付すべき税額を確定させ、公正な課税を行うことが義務付けられている。本件各更正処分は、このような規律に従って行われたものであって、違法はない。
(3) 「正当な理由」の有無(本件各加算税賦課処分について、原告に国税通則法65条4項の「正当な理由」があるか否か。)
ア 原告の主張
(ア) ストック・オプションの権利行使益の所得区分に関しては、昭和59年ころ、日本E株式会社からの問い合わせに対し、国税庁から「ストック・オプションの権利行使益が一時所得に当たる」との回答がされたのを始めとして、昭和60年以降、国税庁の担当者が、公刊物において、繰り返し同様の見解を明らかにしており、平成11年の中ころになって突如「給与所得」として課税処分を行うようになるまでの間、15年にわたり、ストック・オプションの権利行使益が一時所得として課税される扱いであるとの課税庁の公的見解が表示されていた。原告自身も、従前(平成6年から8年まで及び平成10年)は、税務署の指導の下、ストック・オプションの権利行使益を一時所得として申告していた。
(イ) 海外親会社から日本子会社の従業員等に付与されたストック・オプションの権利行使益に対する課税に関しては、これまで明文の規定が法令上設けられたことがない。所得税基本通達には、平成14年6月の改正により、発行法人が外国法人である場合も所得税法施行令84条の規定と同様の扱いをすべき旨の文言が付加されたが、外国法人については同施行令の規定が適用される余地がないため、外国法人が付与したストック・オプションの取扱いについて直接定めた通達が存在しないという状態には変わりがない。
(ウ) 海外親会社が付与したストック・オプションの権利行使益の所得区分が争われた訴訟においても、東京地方裁判所平成14年11月26日判決等では、これを「一時所得」と判断しており、裁判所が「給与所得」であると判断したのは、横浜地方裁判所平成16年1月21日判決が初めてである。また、最上級審である最高裁の判決が下されたのは平成17年1月25日であって、それまでは統一的かつ最終的な司法判断が下されていない状況にあった。
(エ) 以上のような状況の下で、原告が本件権利行使益を申告した当時、最上級審の判断も下されておらず、いずれの所得区分が正しいのか不明確であって納税者が混乱していたこと、そもそもこうした混乱状況を作出したのは課税庁であること等の事情を総合すれば、従前の課税庁の見解に従ってこれを「一時所得」として申告したからといって、これに過少申告加算税を課すのは酷にすぎ、申告秩序を維持するための行政上の制裁を課すことが相当でない事情があった場合であるから、国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があったものというべきである。
(オ) なお、国税庁長官が平成12年7月3日付けで公表した「申告所得税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営方針)」には、「過少申告の場合における正当な理由があると認められる事実」の一つとして、「税法の解釈に関し、申告書提出後新たに法令解釈が明確化されたため、その法令解釈と納税者の解釈とが異なることとなった場合において、その納税者の解釈について相当の理由があると認められること」が掲げられている。本件は、正に、上記通達が掲げる場合に該当しており、同通達に従ったとしても「正当な理由」が認められることが明らかな事案である。
イ 被告の主張
(ア) 国税通則法65条4項の「正当な理由」とは、過少申告が真に納税者の責めに帰すことのできない客観的事情がある場合をいい、単なる主観的事情や法の不知・誤解は含まれない。換言すれば、「正当な理由」にあたる場合とは、納税者において、申告時に、過少申告とならない申告をする契機が客観的に与えられていなかったような場合に限られることになる。これは、過少申告加算税が納税者間の不公平を制度的に是正し、これにより申告納税制度に対する信用を維持し、適正な期限内申告の実現を図ることを目的として設けられた制度であることを踏まえて、その例外としての「正当な理由」は厳格に解すべきであるからである。
(イ) 本件各加算税賦課処分は、原告が平成12年分及び平成13年分所得税の各確定申告において、①本件権利行使益を給与所得ではなく、一時所得として申告したこと、②両年分の雑所得の金額を申告しなかったこと、及び③平成13年分の配当所得の金額を申告しなかったことにより、還付金の額に相当する税額を過大に申告したことに基因する。
a まず、原告は、上記②及び③の申告漏れの各金額については争わず、当該過少申告に係る「正当な理由」に関して何ら主張・立証をしていないのであるから、この点について「正当な理由」があるとは認められない。
b 次に、原告は、平成10年分所得税の確定申告において、本件と同様、米国B社から付与されたストック・オプションを行使して得た権利行使益を一時所得として申告していたことから、被告は、原告に対して、当該年分に係る所得税の調査を実施し、上記権利行使益が給与所得に該当する旨説明して修正申告を慫慂したが、原告がこれに応じなかったため、平成12年2月29日付けで、上記権利行使益を給与所得とする更正処分を行った。
平成12年分所得税及び平成13年分所得税の各確定申告は、平成13年3月12日及び平成14年3月12日にされたものであるところ、①いずれも平成10年分所得税の更正処分よりも後にされたものであること、②本件のようなストック・オプションの権利行使益について、課税庁が統一的に給与所得として扱っていることが、当時新聞により大々的に報道され、一般の納税者が十分に知り得るところとなっていたこと、③所得税質疑応答集にも、その旨の課税庁の取扱いが記載されていたことから、原告は、平成12年分所得税及び平成13年分所得税の各確定申告時には、本件権利行使益が給与所得として課税されるという課税庁の取扱いを明確に認識していたものである。
そうすると、原告には、本件権利行使益を給与所得として申告する契機は十分に与えられており、結局、原告は、自己の判断に基づいて各申告をしたというにすぎないのであって、過少申告をしたことにつき真にやむを得ない事情はなく、「正当な理由」があったとは認められない。