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東京地方裁判所 平成15年(行ウ)631号 判決 2004年7月23日

原告 甲

被告 江戸川北税務署長 須藤賢一

当事者の訴訟代理人及び指定代理人は別紙のとおり

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  請求

原告は、被告に対し、相続税納付額(申告期限までに納付すべき税額)を1億6971万6100円とする徴税手続をとることを求める。

第2  事案の概要

本件は、相続税の申告について、被告が租税特別措置法70条の6に規定されている農地等についての相続税の納税猶予を認めなかったことから、原告が、被告に対し、いわゆる無名抗告訴訟としての義務付け訴訟として、納税申告書記載の納付すべき税額(差引税額)から納税申告書に納税猶予の規定(平成14年法律第15号による改正前の租税特別措置法70条の6第1項)の適用を受ける税額として記載した税額相当額を控除した税額についてのみ徴税手続をとるべきことを求めている事案である。

1  前提となる事実(これらの事実は、いずれも当事者間に争いがない。)

(1)  原告は、平成13年5月15日に死亡した被相続人乙の相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、課税価格を9億1684万8000円、納付すべき税額(以下「差引税額」という。)を3億3144万8800円、納税猶予税額を1億6173万2700円及び申告期限までに納付すべき税額を1億6971万6100円(別表の順号①「期限内申告」欄参照)とし、また、租税特別措置法(平成14年法律第15号による改正前のもの。以下「措置法」という。)70条の6(農地等についての相続税の納税猶予等。以下「納税猶予」という。)第1項の規定の適用を受ける旨記載して、法定申告期限(平成14年3月15日)内である同月11日に相続税の申告書(以下「本件期限内申告書」という。)を提出した。

しかし、本件期限内申告書には、措置法70条の6第27項、租税特別措置法規則(平成15年財務省令第34号による改正前のもの)23条の8第3項の規定により添付しなければならないものとされている書類のうち、①提供しようとする担保の種類、数量、価額及びその所在場所の明細を記載した書類並びに担保提供に関する書類(以下「担保提供書等」という。)、②被相続人及び農業相続人が納税猶予の適用要件に該当することにつき、納税猶予の適用の対象となる農地等の所在地を管轄する農業委員会が証明したもの(以下「適格者証明書」という。)が添付されておらず、また、これらの書類が、法定申告期限までに提出されることもなかった。

(2)  被告は、平成14年6月28日付けで、原告に対し、農地等の相続税の納税猶予を受けるために必要な書類の添付がないことを理由に、同納税猶予が認められない旨の通知をする(以下「本件通知」という。)とともに、同日付けで、原告の相続税額が減少するため、差引税額を3億1595万5800円とする相続税の更正処分を行った(以下「本件更正処分」という。別表の順号③「本件更正処分」欄参照)。

(3)  本件更正処分における申告期限までに納付すべき税額は3億1595万5800円(別表の順号③「本件更正処分」欄参照)であるところ、本件期限内申告書における申告期限までに納付すべき税額1億6971万6100円(別表の順号①「期限内申告」欄参照)との差額1億4623万9700円について納付されなかったことから、江戸川北税務署長は、平成14年7月25日付けで、原告に対し、その納付を督促し(以下「本件督促処分」という。)、その後、同年8月5日付けで、原告が相続した江戸川区西瑞江所在の土地(968平方メートル)を差し押えた(以下「本件差押処分」という。)。

(4)  原告は、平成14年10月17日に、請求額を納税猶予税額1億6173万2700円、申告期限までに納付すべき税額を1億5422万3100円とする相続税の更正の請求を行った。

なお、当該更正の請求書には、農地等の相続税の納税猶予が認められない旨の通知書(写)及び江戸川区農業委員会長作成の適格者証明書(原本)が添付されていた。

(5)  被告は、平成14年12月24日付けで、更正をすべき理由がない旨の通知を行った(以下「本件通知処分」という。)。

(6)  原告は、平成15年2月3日、本件通知処分の取消しを求めて異議申立てを行った。

(7)  被告は、原告に対し、調査により把握した課税漏れ財産について、平成15年2月25日付けで、課税価格9億4993万5000円、差引税額及び申告期限までに納付すべき税額をいずれも3億3917万0400円とする再更正処分(以下「本件再更正処分」という。別表の順号⑦「本件再更正処分」欄参照)及び加算税の賦課決定処分を行った。

なお、本件再更正処分については異議申立てはされていない。

(8)  被告は、平成15年4月24日付けで、上記(6)の異議申立てに対し、これを棄却する決定を行った。

(9)  原告は、平成15年5月22日、本件通知、本件更正処分及び本件通知処分の取消しを求める審査請求を行った。

(10)  国税不服審判所長は、平成15年9月3日付けで、本件通知及び本件更正処分の審査請求を却下する旨の、本件通知処分の審査請求を棄却する旨の裁決を行った。

(11)  上記各処分等の経緯は、別表のとおりである。

2  当事者の主張

(原告の主張)

(1) 本案前の主張

ア 本件訴えは、義務付け訴訟として提起したものである。

現行の行政事件訴訟法は、公権力の行使に関する不服の訴訟として、取消訴訟を中心とした抗告訴訟制度を設けているが、取消訴訟等同法3条2項ないし5項の規定する訴訟類型のほかに、補充的な権利救済の途として義務付け訴訟が許容されることは、判例の認めるところである。すなわち、最高裁は、「当該義務の履行によって侵害を受ける権利の性質およびその侵害の程度、・・・不利益処分の確実性およびその内容または性質等に照らし、右処分を受けてからこれに関する訴訟のなかで事後的に義務の存在を争ったのでは回復しがたい重大な損害を被るおそれがある等、事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情がある場合」には義務付け訴訟が是認されるとしている(最高裁昭和47年11月30日第一小法廷判決・民集26巻9号1746頁)。

イ 本件は、被告が原告に対し、措置法70条の6の定める農地等についての相続税の納税猶予の適用を認めないとしたことについて、原告が不服を申し立てているものであるところ、措置法の適用による納税猶予額に不服があるときは、相続税の徴収手続において、申告期限までに納付すべき金額が過大である旨を主張して、その減額に対応した徴収手続を求めることができる。

本件は、本件期限内申告書に、措置法70条の6の規定の適用を受けるために必要な書類のうち、担保提供書等と適格者証明書が添付されていなかったために納税猶予が認められなかったものであるが、上記各書面は直ちに補充可能だったのであり、それが欠落したままになったのは、第一次的には原告の依頼した税理士の過失に原因があるが、同時に法定申告期限内であるにもかかわらず、被告の担当職員の適切な指摘・指導がなかったことにも起因する。

しかるに、上記事情は全く無視され、被告が原告に対し納税猶予を認めないことは確定しており、そのために、原告は本件差押処分を受けるなど回復し難い損害を被っているところ、原告にとって他に救済手段がないことも明らかである。

したがって、本件訴えは、義務付け訴訟として許容されるものと解するのが相当である。

(2) 本案の主張

原告に農地等についての相続税の納税猶予の適用が認められなかったのは、法定申告期限までに必要書類の一部が提出されなかったためであるが、実際には、原告は不足していた書類を添付することができたのであり、これらが本件期限内申告書提出時に添付されなかったのは、原告の依頼した税理士の単純な過失によるものである。それにもかかわらず、上記のような単純かつ形式的な理由によって相続税の納税猶予の適用を認めないのは不当である。

また、被告は、法定申告期限までに必要書類が提出されなかった場合には、同期限後にこれらを提出しても納税猶予の適用の要件欠如の瑕疵は治癒されない旨主張するが、かかる主張は失当である。

そこで、原告は、被告に対し、相続税納付額(申告期限までに納付すべき税額)を1億6971万6100円として、相続税の徴税手続を結了することを求める。

(被告の主張)

(1) 本案前の主張

ア 義務付け訴訟が認められるための要件等

現行の行政事件訴訟法の下においては、仮に義務付け訴訟のようないわゆる無名抗告訴訟が許容されるとしても、①行政庁が当該行政処分をすべきこと又はすべきでないことについて法律上覊束され、行政庁に自由裁量の余地が全く残されていないために、第一次的な判断権を行政庁に留保することが必ずしも重要ではないと認められ(一義的明白性)、②事前審査を認めないことによる損害が大きく、事前の救済の必要性が顕著であり(緊急性)、③他に適切な救済方法がない(補充性)など、同法所定の4類型の抗告訴訟によっては行政庁の違法な公権力の行使による国民の権利又は法律上の利益の侵害を救済することができない場合において、例外的にのみ許容されるものと解される。

本件は、本件相続税の申告について、被告が農地等についての相続税の納税猶予(措置法70条の6)を認めないとしたことに対し、原告が訴えを提起したものであるところ、上記納税猶予の適用がされないことについて不服があるときは、相続税の徴税手続において、申告期限までに納付すべき金額が過大である旨を主張して、その減額に対応した徴税手続を求めることができるとされている。

したがって、原告は、以下に述べる徴税手続(徴収手続)における個々の処分の取消しを求めることによって、目的を達することができるのであるから、本件訴えは、補充性の要件を欠く不適法な訴えというほかない。

イ 徴収手続とこれに対する不服申立て及び訴訟の流れ

a 徴収手続

(a) 申告納税方式による国税については、期限内申告書を提出した者は、国税に関する法律に定めるところにより、当該申告書の提出により納付すべきものとしてこれに記載した税額に相当する国税をその法定納期限(国税通則法(以下「通則法」という。)2条8号)までに国に納付しなければならず(同法35条1項)、納税者(同法2条5号)がその国税を法定納期限までに完納しない場合には、税務署長は、その国税の納期限から50日以内に督促状によりその納付を督促し(同法37条1項、2項)、さらに、督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納されない場合には、国税徴収法(以下「徴収法」という。)その他の法律の規定により滞納処分を行う(同法40条)。具体的には、滞納者(徴収法2条9号)が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、財産を差し押えることになる(徴収法47条1項1号)。

(b) ところで、滞納処分とは、財産の差押(徴収法47条ないし81条)に始まり、交付要求(同82条ないし88条)、財産の換価(同89条ないし127条)、換価代金等の配当(滞納処分費の配当を含む。以下「配当等」という。

徴収法128条ないし138条)に係る一連の手続をいい、これら差押、交付要求、換価、配当等の行為は、それぞれが独立した行政処分と解される。

なお、督促(通則法37条)は、滞納処分の前提としての法律効果を有するもので、滞納者の権利義務に直接具体的に法律上の影響を及ぼす行政処分であって、取消訴訟の対象になると解される。

b 不服申立て及び訴訟の流れ

行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に関する不服申立ては、他の法律に特別の定めがある場合を除き行政不服審査法によるとされているところ(同法1条2項)、国税に関する法律に基づく処分に係る不服申立ては、通則法(第8章不服審査及び訴訟、75条以下)にその定めがあることから、通則法によりその手続を行うことになる。

すなわち、通則法は、不服申立てについて、税務署長がした処分について不服がある者は、その処分をした税務署長に対し、処分があったことを知った日(処分に係る通知を受けた場合には、その受けた日)の翌日から起算して2月以内に異議申立てを、異議決定(同法83条)を経た後の処分になお不服があるときは、国税不服審判所長に対し、異議決定書の謄本の送達があった日の翌日から起算して1月以内に審査請求をすることができるとしている(同法75条1項1号、3項、同法77条1項、2項)。

そして、国税に関する法律に基づく処分に関する訴訟は、行政事件訴訟法の定めるところによるものとされているところ(通則法114条)、行政事件訴訟法によれば、取消訴訟は、処分又は裁決があったことを知った日から3月以内に提起しなければならず、処分又は裁決の日から1年を経過したときは、提起することができないものとされている(行政事件訴訟法14条1項、3項)。

なお、国税に関する法律に基づく処分(通則法80条2項に規定する処分を除く。)で不服申立てをすることができるものの取消しを求める訴えは、異議申立てをすることができる処分(審査請求をすることができるもの(異議申立てについての決定を経た後審査請求をすることができるものを含む。)を除く。)にあっては異議申立てについての決定を、審査請求をすることができる処分にあっては審査請求についての裁決をそれぞれ経た後でなければ、提起することができないのが原則である(いわゆる不服申立前置、通則法115条1項)。

督促及び滞納処分は、いずれも国税に関する法律に基づく処分であるから(上記a(b))、これら各処分に不服がある場合には、上記手続によることになる。

ウ 本件へのあてはめ

前記「前提となる事実」(3)のとおり、本件更正処分における申告期限までに納付すべき税額が3億1595万5800円であるところ、本件期限内申告書における申告期限までに納付すべき税額1億6971万6100円との差額1億4623万9700円について納付されなかったことから、江戸川北税務署長は、平成14年7月25日付けで、原告に対し本件督促処分をし、その後、同年8月5日付けで、本件差押処分をした。

そうすると、上記イbで述べたとおり、原告の主張する申告期限までに納付すべき税額1億6971万6100円について、被告は、原告が申告期限までに納付すべき税額を3億1595万5800円とする本件更正処分を行い、当該処分に基づき本件督促処分及び本件差押処分を行っているのであるから、原告は、原告が主張する申告期限までに納付すべき税額に基づき、滞納はない旨を主張して、本件督促処分及び本件差押処分について不服申立てをすることができるのであり、当該各処分の適法性を明らかにする過程で納税猶予の適否についての審理が行われることになる。

したがって、本件は、本件督促処分及び本件差押処分につき法定抗告訴訟の一つである「処分の取消しの訴え」(行政事件訴訟法3条2項)により救済を求めることができるから、補充性の要件を欠く、不適法な訴えというべきである(もっとも、本件督促処分及び本件差押処分については、既に不服申立期間が経過しており、原告は上記各処分について不服申立てをすることはできないが、これは、租税法律関係の法的安定性の要請に基づく合理的な制約の結果であるから、やむを得ないものである。)。

エ 以上のとおり、本件訴えは不適法であるから、却下されるべきである。

(2) 本案の主張

ア 農地等についての相続税の納税猶予は、相続税の期限内申告書に、農地等につき相続税の納税猶予の適用を受けようとする旨の記載がない場合又は当該申告書に当該農地等の明細書その他所定の書類の添付がない場合には適用しないものとされており(措置法70条の6第27項)、その適用に当たって、添付書類の追完等を認めるいわゆる宥恕規定は設けられていない。したがって、期限内申告書において、上記適用要件が充たされていない限り、その後に納税猶予の適用を認める余地はないと解される。

本件期限内申告書には、前記「前提となる事実」(1)のとおり、相続税の納税猶予の規定の適用を受けるために必要な担保提供書等及び適格者証明書が添付されておらず、また、原告はこれらの書類を法定申告期限までに提出しなかったのであるから、納税猶予の適用を受ける余地がないことは明らかである。

イ なお、原告は、第1のとおり、相続税納付金額を1億6971万6100円としているが、同額は、原告が本件期限内申告書に記載した申告期限までに納付すべき税額(本件期限内申告書における差引税額3億3144万8800円-同納税猶予税額1億6173万2700円)であるところ、その後、本件再更正処分により差引税額は3億3917万0400円(別表の順号⑦「本件再更正処分」欄参照)とされたのであるから、仮に原告の立場に立ったとしても、主張すべき申告期限までに納付すべき税額は1億7743万7700円(差引税額3億3917万0400円-納税猶予額1億6173万2700円)が正しいことになる。

3  争点

以上によれば、本件の争点は、次のとおりである。

(1)  本件訴えは義務付け訴訟として適法なものであるか否か。 (争点1)

(2)  本件相続税の申告について、農地等についての相続税の納税猶予が適用されるか否か。 (争点2)

第3  当裁判所の判断

1  争点1について

(1)  本件訴えは、無名抗告訴訟の一類型である義務付け訴訟として提起されたものであるが、このような無名抗告訴訟は、少なくとも、他に適切な救済方法がある場合においては、許容される余地のないものであることは明らかである。

(2)  そこで、原告の主張する違法が存在する場合に、他に適切な救済方法がないか否かについて検討することとする。

アa 申告納税方式による国税について、期限内申告書を提出した者は、国税に関する法律に定めるところにより、当該申告書の提出により納付すべきものとしてこれに記載した税額に相当する国税をその法定納期限までに国に納付しなければならず(通則法35条1項)、納税者がこれを法定納期限までに完納しない場合には、税務署長は、その納税者に対し、当該国税の納期限から50日以内に督促状を発してその納付を督促し(同法37条1項、2項)、さらに、督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納されない場合には、徴収法その他の法律の規定により滞納処分を行うこととなる(同法40条)。

具体的には、滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、滞納者の財産を差し押えることになり(徴収法47条1項1号)、引き続いて、交付要求、財産の換価、換価代金等の配当等の滞納処分が行われる。

b ところで、督促は、上記aのとおり、滞納処分の前提となるものであり、督促を受けたときは、納税者は、一定の日までに督促に係る国税を完納しなければ滞納処分を受ける地位に立たされることになるから、通則法75条1項及び114条の規定する「国税に関する法律に基づく処分」に当たり(最高裁平成5年10月8日第二小法廷判決・判例時報1512号20頁参照)また、滞納処分の一環である差押えも、「国税に関する法律に基づく処分」に当たるものである。

したがって、税務署長のした督促や差押えに不服のある者は、その処分をした税務署長に対して異議申立てをすることができ(通則法75条1項1号)、また、異議申立てについての決定を経た後の処分になお不服があるときは、国税不服審判所長に対して審査請求をすることができ(同条3項)、さらに、これらの不服申立てを経てもなお不服のある場合には、督促や差押えの取消訴訟を提起することができる(同法114条、115条)。

イ 本件についてみると、前記「前提となる事実」のとおり、原告は、農地等についての相続税の納税猶予が適用されることを前提に、本件期限内申告書により、申告期限までに納付すべき税額を1億6971万6100円として申告したにもかかわらず、本件通知を受けるとともに、申告期限までに納付すべき税額を3億1595万5800円とする本件更正処分を受け、その差額1億4623万9700円を納付しなかったことから、本件督促処分及び本件差押処分を受けることとなったものである。

このような場合、原告としては、本件相続税の申告について上記納税猶予が適用されるべきであるから、申告期限までに納付すべき税額に滞納はない旨主張して、本件督促処分に対して、通則法の定める不服申立てやこれらの処分の取消訴訟を提起することができるものであり、これらの手続において上記納税猶予が適用されるか否かが審理されて、原告の救済が図られることとなっている。

なお、上記のような救済を求め得る者が、不服申立期間(通則法77条、徴収法171条参照)を経過したため、これらの不服申立てや取消訴訟を適法に提起をすることができなくなったとしても、それは、単にその者が本来の救済手段を利用しなかった結果にすぎず、そのような場合にまで、無名抗告訴訟である義務付け訴訟が許容されると解すべき理由はない。

ウ そうであるとすれば、本件相続税の申告につき、農地等についての相続税の納税猶予の適用があると主張する原告としては、上記イ記載の救済方法によってその目的を達することができるのであるから、本訴請求のような義務付けを求める訴えを提起することは、許容されていないというべきである。

エ したがって、本件訴えは、無名抗告訴訟として許容されるための要件を欠いた不適法な訴えといわざるを得ない。

2  結論

よって、本件訴えを却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 石井浩)

裁判官 寺岡洋和は、転官につき署名押印することができない。 裁判長裁判官 市村陽典

(別紙)

訴訟代理人及び指定代理人

(原告訴訟代理人弁護士)

平賀睦夫

松村格

(被告指定代理人)

春名郁子

信本努

松元弘文

白井文緒

伊藤仁志

別表

課税処分等の経緯

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