東京地方裁判所 平成15年(行ウ)667号 判決 2004年12月06日
原告
甲野花子
上記訴訟代理人弁護士
大塚達生
同
太田啓子
被告
地方公務員災害補償基金
東京都支部長石原慎太郎
上記訴訟代理人弁護士
伊東健次
同
今井克治
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告が原告に対して平成13年11月26日付けでした公務外災害認定処分を取り消す。
第2 事案の概要
本件は、原告が、平成10年8月1日、上司である東京都ニューヨーク事務所長から性的暴行を受け、外傷後ストレス障害(以下「PTSD」という。)等を発症したとして、同12年7月24日付けで、被告に対し、地方公務員災害補償法(昭和42年法律第121号、以下「地公災法」という。)に基づき公務災害の認定を請求したところ、被告が同13年11月26日付けで前記疾病を公務外災害と認定する処分(以下「本件処分」という。)をしたので、原告が、本件処分の取消しを求めた事案である。
1 争いのない事実等(証拠により認定した事実は、当該証拠を文章中及び文末の括弧内に記載した。)
(1) 当事者及び東京都ニューヨーク事務所の概要等
ア 原告(昭和40年7月12日出生)は、昭和63年3月大学卒業後、同年4月1日、東京都に事務吏員として採用され、それ以降、東京都労働経済局、工業技術センター、東京都生活文化局等において勤務した。
イ 原告は、平成10年5月1日付けで、東京都ニューヨーク事務所係長となり、同月11日、東京都ニューヨーク事務所(以下「ニューヨーク事務所」という。)に赴任した。なお、原告は既婚者(事実婚)であったが、ニューヨーク事務所へは単身赴任した。
ウ ニューヨーク事務所には、原告のほか、同事務所長であるA(平成10年5月当時50歳、以下「A」という。)、同事務所副所長であるB(以下「B副所長」という。)、警視庁からの派遣職員であるC係長(以下「C係長」という。)及び現地採用女性スタッフ2名が勤務していた。原告は、ニューヨーク事務所において、経済分野担当(労働経済局と兼務)として、主にニューヨーク経済ニュースの発行、日本の公的機関との情報交換、見本市出展に関する事務などを行っていた。(甲14の1【11頁】、乙7の6)
Aは、平成9年7月、ニューヨーク事務所に赴任し、妻と娘と一緒に暮らしていた。原告は、ニューヨーク事務所に赴任するまで、Aと面識がなかった。
エ Aは平成11年6月13日東京に帰任し、原告は同12年3月東京に帰任した。
(2) 原告の疾病等
原告は、医療法人社団學風会さいとうクリニック医師斎藤學(以下「斎藤医師」という。)から以下のとおり診断された(以下「本件疾病」という。)。
ア 平成12年3月29日付け診断書(甲4)
病名:PTSD(外傷後ストレス障害)
平成10年8月1日の性的外傷体験(加害者上司―本人申立て)により、前記疾患に由来すると思われる抑うつ状態(SDS=58点)、解離性障害(DES=21.7%)を認める。当分の間、集中的な加療が望ましい。
イ 平成12年4月15日付け診断書(甲5)
病名:①気分変調性障害、②PTSD
平成12年3月29日より、当院通院中であるが抑うつ感改善せず、②に基づく離人症性障害もなお顕著であるので、自宅療養及び集中的な精神療法が望ましい。向後3か月間の休職が望ましい。
ウ 平成12年7月14日付け診断書(甲6)
病名:①気分変調性障害、②PTSD
平成12年3月29日より、当院通院中、抑うつ感、集中困難、無気力を訴えており、近々の就労は不能。向後3か月間の休職が望ましい。
エ 平成13年8月20日付け診断書(甲7)
病名:①外傷後ストレス障害(PTSD)、②大うつ病性障害、中等症、慢性、③特定不能の解離性障害、④鑑別不能型身体表現性障害
(3) 本件処分等
ア 原告は、平成12年7月24日、被告に対し、職場の上司であったAから同10年8月1日に強姦未遂の性的暴行を受けた結果発症した精神的障害が、同11年6月13日まで引き続きAの下で勤務し、その間同人から嫌がらせを受けたことにより悪化し、更にその後も職場で精神的障害に対する適切な対応がなされなかったことにより増悪した結果、業務に従事できない状態に至ったとして、地公災法に基づき、公務災害認定請求を行った。しかし、被告は、平成13年11月26日、前記公務災害認定請求について、公務外の災害と認定する本件処分をした。
イ 原告は、平成14年1月23日、地方公務員災害補償基金東京都支部審査会に対し、本件処分について審査請求をしたところ、同審査会は、同年8月27日、前記審査請求を棄却する旨の裁決をした。
ウ 原告は、前記イの支部裁決を不服として、平成14年10月17日、地方公務員災害補償基金審査会に対し、本件処分について再審査請求をしたところ、同審査会は、平成15年9月29日、前記再審査請求を棄却する旨の裁決をし、その裁決書は、同年10月9日、再審査請求代理人に送達された。
エ 原告は、平成15年12月22日、当裁判所に対し、本件処分の取消しを求める訴えを提起した。これが本件である。
2 争点及び当事者の主張
(1) 公務遂行性の成否
Aが平成10年8月1日に原告に対し行った性的暴行等は、公務遂行中の事故といえるか(争点1)。
【原告】
ア Aは、平成10年8月1日、ニューヨーク事務所の職員がスタッフとして参加したニューヨーク・東京親善少年軟式野球大会(以下「親善野球大会」という。)終了後、原告が所有していた宝塚歌劇のビデオを見るため、原告方を訪れた。その際、原告は、自宅で、Aから、突然背後から抱きすくめられたり、頸部を締められるなどされた上、乳房や下腹部を触られたり、舐め回されるなどの性的暴行を受けた(以下「本件性的暴行」という。ただし、その具体的態様については下記のとおり争いがある。)。さらに、原告は、平成11年6月13日までの間、本件性的暴行の加害者であるAの下で勤務させられ、同人からいじめを受けた(平成10年8月1日の性的暴行とその後のAの下での勤務を併せて、以下「本件性的暴行等」という。)。原告は、本件性的暴行等により、本件疾病を発症した。
イ 災害が公務遂行中のものといえるか否かは、災害が任命権者の支配下にある状況で発生したか否かにより判断すべきところ、「支配」とは事実状態としてあれば足り、支配という事実状態を正当化する「権限」の存在までは不要である。この点、Aは、平成10年8月1日、公務としての行事である日米親善少年野球終了後も原告を放さず、自ら公用車を運転して原告をその自宅まで送っているが、その間ずっと原告に対して性的行為をしようという意図を持っていたのである。そして、Aは、ビデオ鑑賞を口実に原告方を訪れることを要求していたのであるが、当該要求は原告がニューヨーク事務所の最高責任者であるAの要求を受け入れざるを得ないという公務上の上下関係を利用したものといえる。こうして、原告は、公務におけるAの支配関係から離脱できないままの状態で本件性的暴行を受けた。原告は、任命権者の命令によりこのような非常識な上司の支配下に入れられたのであり、Aは、原告に対する支配を利用して、このような行動を行ったのであるから、これを私的な関係上の行為ということはできない。また、本件においては、任命権者の支配下にある状況であったか否かを判断するに当たっては、原告が未だ現地(ニューヨーク)の生活に慣れない時期の出来事であること、原告は単身赴任で、赴任直後のため職場外の知り合いもいなかったこと、ニューヨーク事務所は全部で6名からなる少人数の職場であり、海外における日本人集団の職場という事情によって職場外の人間関係よりも職場内の人間関係の方が圧倒的に濃いものであったこと、原告に対する勤務評定権は所長であるAが握っていたことなどから、原告に対し所長であるAの支配が及びやすい環境にあったことを考慮すべきである。
ウ 以上のとおり、本件性的暴行等は、原告が勤務していたニューヨーク事務所の最高責任者であるAの支配下で起きたものであり、公務遂行中の事故に当たることが明らかである。
【被告】
ア 本件性的暴行については、原告とAの主張に大きな食い違いがあり、証拠上、原告主張のような事実を認めることはできない。
イ 平成10年8月1日の親善野球大会に関連する公務は、試合場から、少年野球チームの宿泊場所への機材や荷物の運搬で終了した。少年野球チームの宿泊場所から原告の自宅までは、地下鉄で15分程度の距離にあり、当日は天気の良い土曜日の昼下がりであったため、女性一人で地下鉄を利用して帰宅しても危険を感じるような状況ではなかった。したがって、少年野球チームの宿泊場所での解散後、ニューヨーク事務所の職員がどのような行動を取るのかについては、一切拘束がなかった。原告がAの自動車に同乗したのは、Aの指示によるものではなく、原告自らの意思によるものである。そして、原告が主張する本件性的暴行が発生したのは、公務終了後1時間30分以上経過した時点であること、Aが原告の自宅に赴いた用件は宝塚歌劇「JFK」のビデオを見るという完全に私的なものであること、本件性的暴行が発生した場所は原告の自宅であることをも考慮すると、本件性的暴行は、公務との関連性はなく、公務終了後に原告とAとの間の私的な関係により生じたものであることは明らかである。
ウ 原告は、本件性的暴行後もAの下で勤務したことにより、本件疾病を発症したと主張するが、そのような事実は否認する。
(2) 公務起因性の成否
本件性的暴行等と本件疾病発症との間に相当因果関係が認められるか(争点2)。
【原告】
ア 本件性的暴行は、以下のとおり、原告が任命権者の支配下にあることに伴う危険、すなわち原告の職務に内在する危険が現実化したものというべきであり、原告の職務と本件性的暴行による被害との間には相当因果関係がある。
イ Aは、本件性的暴行以前にも、出張先のホテルにおいて、原告の手を握るなどの行為を行っている上、計画的に本件性的暴行に及んでいることに照らすと、原告は、Aが所長を務めるニューヨーク事務所に単身赴任したことにより、当初からニューヨーク事務所長であるAの性的標的にされるという極めて危険な状況に置かれたのである。原告にとってみれば、このような危険な状況は、ニューヨーク事務所に単身赴任し、Aと上司・部下の関係に入ったことに伴う危険であり、その原因が原告にはなく、本件性的暴行は、任命権者の支配下にあることに伴う危険、すなわち原告の職務に内在する危険が現実化したものというべきである。
ウ 東京都は、職員に対して性的に安全な職場環境を整備する義務を負っている。東京都は、当該義務を果たすために、ニューヨーク事務所の所長として不適格な者を所長にしないようにすべきであるし、各職場の責任者に対してセクシュアル・ハラスメントを予防するための管理を行うべきであるところ、これを怠った。本件性的暴行は、東京都によるこのような職場環境整備の不十分さから発生したものであり、そうだとすると、職場環境整備の不十分性は職場に勤務する者にとっての危険を意味する。本件性的暴行は、任命権者が行うべき職場環境整備の不十分さによる危険が現実化したものであり、この点からも任命権者の支配下にあることに伴う危険、すなわち原告の職務に内在する危険が現実化したものというべきである。
エ 原告は、本件性的暴行という異常な出来事の後も、公務を放棄するわけにはいかず、ニューヨーク事務所という狭い職場で公務に従事し、加害者であるAと日々顔を合わせ、嫌がらせも受けるなど、その支配下に置かれた。このような性的暴行を受けた被害者が、加害者の支配下に置かれ続けるという状態は、異常な状況である。東京都は、職員が性的な暴行を受けることのない安全な職場環境を整備する義務があったのに、Aのような不適格者をニューヨーク事務所の所長に任命するなどその義務を怠った。その結果、原告はAの支配下に置かれ続け、高い心理的負荷を受け続けた。原告が受けた心理的負荷は、任命権者が行うべき整備の不十分さによる危険が現実化したものであり、任命権者の支配下にあることに伴う危険、すなわち原告の職務に内在する危険が現実化したものというべきである。
オ 被告の主張に対し
(ア) 平成11年9月14日地基補第173号基金理事長通達「精神疾患に起因する自殺の公務災害の認定について」(乙4、以下「平成11年理事長通達」という。)は、地方公務員災害補償基金が、公務上外の認定を適正、迅速、一律に遂行する必要から、下部機関(地方公務員災害補償基金支部長)に宛てて作成した制度運用のための通達(簡易判定基準)にすぎず、裁判所を拘束するものではないことは勿論のこと、これに当たらないからといって、直ちに公務起因性が否定されるべきものではない。そもそも平成11年理事長通達は、自殺という極限的行動に至るまでの重く異常な事象について公務上外の判断を行うための基準であり、本件には当てはまらない。
(イ) また、被告は、厚生労働省補償課の判断基準である「心理的負荷による精神障害に係わる業務上外の判断指針」(乙29、以下「厚労省の判断指針」という。)についての援用方法を誤っている。まず、「別表1 職場における心理的負荷評価表」の「出来事の類型」については、「①事故や災害の体験」だけではなく、「⑥対人関係のトラブル」も判断の拠り所とされるべきである。具体的には、「⑥対人関係のトラブル」の項のうち、「セクシュアルハラスメントを受けた」「上司とのトラブルがあった」という項目が当てはまる。そして、本件性的暴行の重さからすれば、「事故や災害の体験」、「セクシュアルハラスメント」についての心理的負荷の強度は、強度「Ⅲ」に修正されるべきである。
【被告】
ア(ア) 平成11年理事長通達は、自殺が公務上の災害と認められるか否かに関する基準であるが、精神疾患が公務に起因するか否かを判断する際の基準ともなるところ、その内容は概略以下のとおりである。
精神疾患に起因する自殺が公務上の災害と認められる場合は、次の要件に該当する場合である(平成11年理事長通達第1)。
a 次のいずれかに該当すること
(a) 自殺前に、公務に関連してその発生状態を時間的、場所的に明確にしうる異常な出来事・突発的事態に遭遇したことにより、驚愕反応等の精神疾患を発症していたことが、医学的経験則に照らして明らかに認められること。
(b) 自殺前に、公務に関連してその発生状態を時間的、場所的に明確にしうる異常な出来事・突発的事態の発生、又は行政上特に困難な事情が発生するなど、特別な状況下における職務により、通常の日常の職務に比較して、特に過重な職務を行うことを余儀なくされ、強度の肉体的過労、精神的ストレス等の重複又は重積によって生じる肉体的、精神的に過重な負担に起因して精神疾患を発症していたことが、医学経験則に照らして明らかに認められること。この場合において、精神疾患の症状が顕在化するまでの時間的間隔が、精神疾患の個別疾病の発症機序等に応じ、妥当と認められること。
b 被災職員の個体的・生活的要因が主因となって自殺したものではないこと。
(イ) ところで、PTSDとは、世界保健機構(WHO)による国際疾病分類(ICD―10)によれば、「ほとんどの誰にでも大きな苦悩を引き起こすような、例外的に著しい脅威的な、あるいは破局的な性質をもった、ストレスの多い出来事あるいは状況(短期間もしくは長期間に継続するもの)に対する遅延したおよび/または遷延した反応として生ずる」ものとされており、その例示として「自然災害、または人工災害、激しい事故、他人の変死の目撃、あるいは拷問、テロリズム、強姦あるいは他の犯罪の犠牲になること」が挙げられており、出来事からの回避の可能性、そのような手段が用いられない圧倒的な状況が必要となる。これを本件についてみれば、強姦の事実があったと認めるに足りる証拠はなく、PTSDとの診断には疑念があり、医学的経験則に照らして明らかに認められるとはいえない。
(ウ) 前記(ア)a(b)における「特別な状況下における職務」とは、医学経験則上、強度の肉体的過労、精神的ストレス等を生じさせる可能性のある職務をいうものとされ(平成11年理事長通達第3・3)、「強度の肉体的過労、精神的ストレス等の重複又は重積」とは、医学経験則上、「特別な状況下における職務」に従事したことにより生ずる、精神疾患を発症させる可能性のある強度の肉体的過労、精神的ストレス等の重複又は重積をいう(平成11年理事長通達第3・5)。例えば、精神的ストレスを発生させる可能性のある事象として、下記のような事態・状況等の重複又は重積が挙げられる。
a 第三者による暴行、重大な交通事故等の発生
b 組織の責任者として連続して行う困難な対外折衝又は重大な決断等
c 機構・組織等の改革又は人事異動等による、急激かつ著しい職務内容の変化
d 極度の軋櫟を生じるような職場の人間関係の著しい悪化
e 重大な不祥事の発生
f その他前記に準じる精神的ストレス等を発生させる諸事象
この点について、本件では、職場での対人関係によるストレス要因として、原告とAとの人間関係から生ずるものをあげることができるが、Aとの私生活上の問題が職場に持ち込まれ、それがストレス要因として本人の疾病過程に影響している。その程度は経験則上から中程度とされ、疾病への影響要因としての職場の対人関係からくるストレス要因は、業務関連性を持たず、職場外要因としての職場の対人関係からのストレス要因も、その強度において中程度であることから、業務による心理的負荷に関する評価は業務外とすることが適当である。
イ 厚労省の判断指針においては、心理的負荷による精神障害の業務上外の判断については、まず、精神障害の発病の有無、発病の時期及び疾患名を明らかにし、当該精神障害の発病に関与したと認められる業務による心理的負荷の強度の評価を行い、そのうえで対象とする疾病が、ICD―10第Ⅴ章「精神および行動の障害」に分類される精神障害とされ、その障害が次の3要件を満たす場合には、労働基準法施行規則別表第1の2第9号に規定する「その他業務に起因することが明らかな疾病」として取り扱われることとなる。
(ア) 対象疾病に該当する精神障害を発病していること。
(イ) 対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、客観的に当該精神障害を発病させるおそれのある業務による強い心理的負荷が認められること。
(ウ) 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により当該精神障害を発病したとは認められないこと。
そして、心理的負荷の強度の評価については、厚労省の判断指針別表1「職場における心理的負荷評価表」を指標として用いることとされ、出来事に遭遇したときの心理負荷は強度(Ⅰ)、強度(Ⅱ)、強度(Ⅲ)の3段階に分類される。すなわち、強度(Ⅰ)は日常的に経験する心理的負荷で一般的に問題とならない程度の心理的負荷をいい、強度(Ⅲ)は人生の中でまれに経験することもある強い心理的負荷をいい、強度(Ⅱ)はその中間に位置する負荷をいう。厚労省の判断指針別表1「職場における心理的負荷評価表」によれば、出来事の類型として7類型が規定されているが、本件と関連するのは、「事故や災害の体験」のうち「大きな病気やケガをした」と「悲惨な事故や災害の体験(目撃)をした」の2つであり、「大きな病気やケガをした」に該当する場合には強度(Ⅲ)、「悲惨な事故や災害の体験(目撃)をした」に該当する場合には強度(Ⅱ)に相当するものとされる。
この点本件性的暴行は、「大きな病気やケガをした」、すなわち「完全治ゆに不安を残すような大きなケガや病気をした場合のように社会的に重篤であると認められる程度の傷病を経験した場合や、以前のような仕事を続けることは到底不可能になるようなけがや病気をした場合等」に該当するか否かの観点から判断すべきである。しかし、前記のとおり、本件性的暴行については、証拠上、原告の主張するとおりの事実を認めることはできず、さらに、平成10年8月2日以降の原告のAに対する陰湿ないじめ等にかんがみれば、原告には「大きなケガ」に相当するような事実はなく、厚生労働省補償課の判断基準によっても、本件性的暴行等と原告の発症した精神疾患(本件疾病)との間には因果関係は認められない。
ウ 職場環境との関係
公務災害制度は、使用者の支配下における被用者の業務上の災害について、使用者が無過失であっても企業危険責任に基づき補償を行う制度であるから、職場環境の整備義務を論ずる必要はない。
第3 当裁判所の判断
1 はじめに
地方公務員が災害を受けた場合に、それが公務災害として認定されるためには、当該災害が任命権者の支配管理下にある状況で発生し(公務遂行性)、当該災害と公務との間に相当因果関係が認められること(公務起因性)、すなわち、公務遂行性と公務起因性の2要件を充たす必要がある。ところで、原告は、原告の本件疾病は、Aの原告に対する本件性的暴行及び暴行後も原告がAの下で勤務したこと(本件性的暴行等)に起因するところ、本件性的暴行等には公務遂行性があり、また、本件性的暴行等と本件疾病発症との間には公務起因性があると主張するので、以下、後記2で公務遂行性について、同3で公務起因性について判断することにする。
2 争点1(本件性的暴行等は公務遂行中の事故といえるか―公務遂行性の成否)について
(1) 原告の主張は、原告の本件疾病はAの原告に対する本件性的暴行に起因するという点にある。そうだとすると、本件疾病が公務災害によるものであるというためには、本件性的暴行に公務遂行性が認められなければならない。ところで、公務遂行性の要件としては、公務員が公務を遂行中に当該災害が発生したこと、換言すると、当該公務員が実質的な使用者である任命権者の支配下にある場合に当該災害が発生することが必要であると解するのが相当である。そこで、以下、本件性的暴行が、実質的な使用者である任命権者の支配下にある状況で発生したのか否かについて検討することにする。
(2) 証拠(文章中に掲記したもの、ただし、いずれも下記認定に反する部分を除く)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる(なお、当事者間に争いのない事実は、文末に証拠等を掲記しない、また、本項での出来事は、年度の表記のないものはいずれも平成10年の出来事である。)。
ア 本件性的暴行前の原告とAの関係
原告は、平成10年6月17日から同月19日までの間、Aに同行してシアトルに出張した。Aは、6月18日、夕食後、原告をAの宿泊しているホテルの部屋に誘った。Aは、6月19日深夜、前記ホテルの部屋の応接用の椅子に座って話していた原告の手に触ったが、原告に制止された。(甲14の1【1頁】、同14の2【3頁】、乙23【7頁】、弁論の全趣旨)
Aと原告は、7月25日(土曜日)、Aの運転する車でニューヨーク市郊外に乗馬に行った。原告は、その車中で、宝塚歌劇のCDを聞きながら、Aに対し、同歌劇の説明等をした。そして、原告は、Aに対し、今度原告が所有する宝塚歌劇「JFK」のビデオを見せる旨の約束をした。また、Aは、帰りの車中で、原告の手を握った。(甲14の1【1頁】、同14の2【3、4頁】、乙23【8、9頁】、弁論の全趣旨)
イ 本件性的暴行に至る経緯
A、B副所長、C係長及び原告は、8月1日(同日は土曜日であり本来は休務日であった。)午前8時30分ころから同日午後2時ころまでの間、親善野球大会に東京都側スタッフとして出席した。親善野球大会は、昭和55年から東京都とニューヨーク市で毎年交互に開催されており、ニューヨーク市で開催される場合には、ニューヨーク事務所において、訪米する東京の野球チームの選手・役員の受入、大会プログラムの原稿の作成・翻訳等を行っていた。平成10年のニューヨーク大会は、7月27日から8月7日までの間開催された。8月1日には、マンハッタン北西部にあるリバーバンク・ニューヨーク州立公園内の野球場において、ローカルゲーム(公式戦以外の試合)が行われた(以下「本件試合」という。)。Aは、8月1日、本件試合において、ニューヨーク事務所の代表者として、あいさつや試合観戦等を行い、原告は試合への同行、試合観戦等を行った。AとC係長は、本件試合会場に、公用車(ニューヨーク事務所がレンタルして主に私的利用に供するため職員に貸与していたもの)で来ていた。ニューヨーク事務所の職員は、8月1日午後2時ころ、関係者の宿泊先となっていたホテルに試合で使用した機材や道具等を運び込み、その場で解散した。
原告は、8月1日、前記解散後、Aに自宅で宝塚歌劇「JFK」のビデオを見せることになり、Aが運転する公用車で自宅に向かった。その途中、原告とAは、原告の自宅近くのレストランで食事をした。Aは、食事後、他人の自宅を訪問するのに手ぶらで行くわけにはいかないと言って、花を買い、8月1日午後3時40分ころ、原告の自宅を訪問した。
(甲14の1【1頁】、同14の2【6頁】、乙7の3及び4、同19【2ないし4頁】、20【1、13、14頁】、23【9頁】、27【27、28頁】、弁論の全趣旨)
ウ 本件性的暴行
Aは、原告の自宅に入った後、リビングルームやベッドルームの宝塚のポスターを見せてもらっていたが、8月1日午後3時45分ころ、原告に対し、突然抱きつくなどした上、原告の意思に反して、乳房や下半身を触ったり、舐め回すなどした(甲2、8、14の1【1、19頁】、同14の2【6ないし8、36ないし38頁】、乙13、27【18、19頁】、弁論の全趣旨)。
エ 本件性的暴行後の原告とAの関係
(ア) 原告とAは、8月1日、本件性的暴行後、原告の自宅において宝塚歌劇のビデオを見るなどして過ごした後、ブルックリンに夜景を見に行き、更に喫茶店で休憩後、同月2日午前零時過ぎに、Aが原告の自宅まで原告を送った(甲14の1【1頁】、同14の2【9、10頁】、乙23【10ないし12頁】、弁論の全趣旨)。
(イ) 原告は、8月4日、勤務終了後、ニューヨーク事務所の近くにある公園で、Aに対し、本件性的暴行について抗議した(甲14の1【1頁】、同14の2【10、11頁】、乙23【12、13頁】、弁論の全趣旨)。
(ウ) 原告は、8月5日、7日、11日、勤務終了後、Aと2人きりで食事をしたり、ジャズを聴きに行ったりした。また、原告は、8月13日又は同月14日、勤務終了後、AとC係長とともに食事をした後、Aを自宅に招き、同人と性的関係を持った。さらに、原告は、8月29日から9月1日までの間、Aとともにマイアミに出張した。原告は、マイアミ出張中、Aと性的関係を持った。その後も、原告は、9月11日までに、数回、Aと性的関係を持つなど親密な関係が続いた。(甲14の1【1頁】、同14の2【13ないし17頁】、乙23【12ないし22頁】、28、弁論の全趣旨)
オ 原告とAとの関係の破綻及び原告の精神的不調・治療
(ア) 元宝塚スターらが出演する「YAYA」の公演が、10月1日から3日まで、ニューヨークで催されることになり、Aは、妻、娘、叔母の3人分の切符を申し込んだ。原告は、9月25日、Aが3人分の切符を申し込んだ事実を知り、Aが同人、妻、娘の家族3人分を申し込んだものと誤解し、激怒した。原告は、9月27日午前零時ころ、A宅に電話を掛けて、Aに対し、直ぐに原告の自宅に来るよう要求したが、Aはこれを断った。その後、原告は、Aと頻繁にメールでお互いの考えをぶつけたが、関係は悪化し、10月末ころには、両者の関係は修復困難となり、破綻した。(乙23【18ないし22頁】、24【1頁】、25【7ないし9頁】、27【25頁】、28、弁論の全趣旨)
(イ) 原告は、Aとの関係が悪化し始めた9月末ころから、食欲不振、不眠等の体調不良が続いた。このため、原告は、平成10年9月30日、牧内玲子ソーシャルワーカーのカウンセリングを受け、以後同12年3月ころまで毎週1回程度のカウンセリングを受けた。また、原告は、平成11年2月ころから同12年3月ころまで、月1回程度の割合でコーエン医師から投薬(抑うつ剤、睡眠剤)、カウンセリングの治療を受け、同11年4月から同年11月ころまで、週1回程度の割合でポレンスソーシャルワーカーのカウンセリングを受けるなどの治療を続けた。原告は、帰国後の平成12年3月29日以降は、医療法人學風会さいとうクリニックの斎藤医師の治療を受けている。(甲3ないし7、9ないし12、乙23【20、24頁】、25【7、8頁】、28、弁論の全趣旨)
カ 原告の勤務状況
(ア) 原告は、本件性的暴行後もAが帰任する平成11年6月13日までの間、Aの下で勤務をしていた。
(イ) 原告は、平成12年3月、帰任したが、同年4月、新宿にある本庁から南大沢にある東京都立大学(経理課経理係長)に異動になった(なお、東京都立大学は一部本庁扱いとなっていた。)。また、原告は、平成12年4月20日、課長補佐試験に不合格となった。(甲14の1【1頁】、同14の2【42、44頁】)
(ウ) 原告は、平成12年5月17日以降、病気休暇を取り、同15年6月30日段階で休職中であったが、その後退職した(甲14の1【40頁】、同14の2【45頁】、乙22【1頁】)。
(3) 当裁判所の判断
ア 前記(2)で認定した事実を前提に、本件性的暴行が、実質的な使用者である任命権者の支配下にある状況で発生したのか否かについてみてみることにする。前記(2)イ、ウによれば、ニューヨーク事務所では、平成10年8月1日は土曜日で本来休務日であったが、原告らは親善野球大会にスタッフとして参加していたのであり、同野球大会はニューヨーク事務所が業務として支援するものであったことに照らすと、原告は、同野球大会の支援業務が終了するまで、すなわち同日午後2時ころ、関係者の宿泊先となっていたホテルにAを含む他の職員とともに試合で使用した機材や道具等を運び込み解散するまでは、事業施設外であったとしても公務に従事し任命権者の支配下にあったということができる。しかしながら、原告は、平成10年8月1日午後2時ころに前記ホテルで解散となった以降、公務自体に従事していたのでも、公務に伴う準備行為、後始末行為等を行っていたのでもなく、任意に行動することが可能な状態にあったのであり、午後2時の時点で公務は終了したものと解するのが相当である。そうだとすると、公務終了後1時間30分以上経過した後に原告の自宅で発生した本件性的暴行は、就業時間外かつ事業施設外で発生したことが明らかである。しかも、原告は、その所有する宝塚歌劇のビデオをAに見せるため、Aの運転する自動車で帰宅し、Aを自宅に招き入れているところ、原告とAが原告の自宅で宝塚歌劇のビデオを見るということは、およそ原告が担当していた職務遂行上不可欠の行為とはいえず、それ以前の原告とAとの間の私的な交際関係(前記(2)ア)の延長であったと解するのが相当である。また、Aが原告の自宅で宝塚歌劇のビデオを見ることは、このことを職務上強制できるような性格のものでもないから、およそ職務命令ということはできず、原告が自宅にAを招き入れるに至った行為に任命権者の支配が及んでいたということはできない。結局、原告がAを自宅に招き入れたことは、公務とは無関係な勤務時間外かつ事業施設外の私的な行為にすぎず、これを公務としての支配従属関係に基づいたものということはできない。
以上によれば、原告は、本件性的暴行発生時に、実質的な使用者である任命権者の支配下にあったということはできない。したがって、本件性的暴行は公務遂行上の事故ということはできず、本件においては、公務遂行性の要件が欠けているというべきである。
イ これに対し、原告は、公務遂行性が認められるためには事実状態として任命権者の支配下にあれば足り、この支配は正当な権限によるものである必要はないところ、Aは、ビデオ鑑賞を口実に原告方を訪れることを要求していたのであるが、当該要求は原告がニューヨーク事務所の最高責任者であるAの要求を受け入れざるを得ないという公務上の上下関係を利用したものといえること、原告が本件性的暴行時に任命権者の支配下にある状況であったか否かを判定するに当たっては、原告が単身赴任直後であり知人が少なかったこと、ニューヨーク事務所における人間関係が濃密であったこと、Aが原告の勤務評定権者であったことなど、原告に対しAの支配が及びやすい環境にあったことを考慮すべきであること、原告は、公務としての行事(親善野球大会)におけるAの支配関係から離脱できないままの状態で本件性的暴行を受けたといえることなどからすると、本件性的暴行は公務遂行中の事故であると主張する(争点1【原告】の主張イ)。
しかしながら、地公災法による補償は、民間の労働者に関する労働者災害補償保険法及び国家公務員に関する国家公務員災害補償法に対応して、地方公務員がその職務を遂行するに当たって被った損失について使用者である地方公共団体に無過失責任を負わせて填補し、もって地方公務員が安心して勤務に精励できるようにするものであるところ、単なる事実状態として任命権者の支配があれば業務遂行性が認められるとすれば、補償の範囲が徒に拡大することになってしまい相当とは思われない。地公災法は、地方公務員がその職務を遂行するに当たって被った損失を填補しようとするものである以上、公務遂行中といえるためには、公務としての支配従属関係にあることを要するものと解するのが相当であり、原告の主張は独自の考えであって、採用することができない。
また、原告が単身赴任直後で知人が少なかったこと、ニューヨーク事務所における人間関係が濃密であったこと、Aが原告の勤務評定権者であったことなどの事情があったからといって前記判示したとおり私生活上で生起した出来事について任命権者の支配下でなされたものと評価すべきことにはならない。さらに、前記判示したとおり、原告は勤務終了後任意に行動することが可能であった以上、公務における支配関係から離脱していなかったなどということもできない。
ウ なお、原告は、本件疾病は、本件性的暴行のみならず、暴行後も原告がAの下で勤務したことに起因すると主張する(争点1【原告】の主張ア)。すなわち、本件性的暴行後のAの下での勤務は後記3で検討するとおり、公務起因性の問題であると同時に公務遂行性についての側面も有しているので、この点についても述べておくことにする。原告の前記主張は、本件性的暴行後のAの下での勤務を本件性的暴行と切り離し別個独立に取り上げるのではなく、あくまでも本件性的暴行に続いてAの下で勤務したことが本件疾病の原因である、換言すれば本件性的暴行等を一体のものとして主張しているものと理解することができる。そうだとすると、一体の行為の中の中核部分を占める本件性的暴行について公務遂行性が認められない以上、本件性的暴行の延長線上にあるAの下での勤務も公務遂行性がないというべきである。
(4) 以上の検討結果から明らかなとおり、本件性的暴行等は公務遂行中の事故と認めることは困難である。
3 争点2(本件性的暴行等と本件疾病との間の相当因果関係の成否―公務起因性の成否)について
(1) 地方公務員災害補償制度(以下「地公災制度」という。)は、業務に内在する各種の危険性が現実化した場合の損失について使用者が無過失責任に基づき負担し、それに要する費用については、地方公共団体の負担金により一切が賄われ、地方公務員には一切の負担がなく、かつ責任割合による損失負担金も求められていない制度である。このような地公災制度の特質に照らすと、公務起因性の認定においては、単に当該疾病が業務遂行中に発生したという条件関係の存在だけでは不十分であり、当該疾病が業務に内在ないしは通常随伴する危険の現実化と認められる関係があって初めて相当因果関係、換言すれば、公務起因性があると認めるのが相当である。
(2) これを本件についてみるに、前記2で判示したとおり、原告は、本件性的暴行発生時に、任命権者の支配下にあったとはいえず、本件性的暴行は公務遂行上の事故ということはできない。そうだとすると、本件性的暴行と本件疾病との間の相当因果関係の存否について判断するまでもなく、原告の職務と本件疾病の発症との間には、相当因果関係すなわち公務起因性が認められないというほかない。
また、本件性的暴行はAの故意行為によるものであるが、前記2で判示したとおり、原告が本件性的暴行に遭遇したのは、Aとの従前の私的交際の延長で、宝塚歌劇のビデオを勤務終了後原告の自宅で鑑賞するというおよそ公務とは無関係の理由でAを自宅に招き入れたからであること、原告の職務は主にニューヨーク経済ニュースの発行、日本の公的機関との情報交換、見本市出展に関する事務などであり(争いのない事実等(1)ウ)、およそ性的暴行に遭うような性質のものではないこと、本件性的暴行は就業時間外かつ事業施設外で発生したものであることなどを総合考慮すれば、本件性的暴行は、原告の職務に内在する危険が現実化したものということはできない。そうだとすると、前記(1)の判断基準に照らすと、原告の職務と本件疾病の発症との間に相当因果関係を認めることはできない。
(3) ところで、原告は、本件性的暴行後も公務を放棄するわけにはいかず、ニューヨーク事務所という狭い職場で公務に従事し、加害者である所長のAと日々顔を合わせ、その支配下におかれた上、嫌がらせを受け、心理的負荷を受け続けたのであり、原告が受けた心理的負荷は、任命権者が行うべき整備の不十分さによる危険が現実化したものであり、任命権者の支配下にあることに伴う危険、すなわち原告の職務に内在する危険が現実化したものであると主張する(争点2【原告】の主張エ)。
しかしながら、本件全証拠を検討するも、原告が、本件性的暴行後に公務に従事し、Aの支配下におかれて心理的負荷を受け続けたことにより本件疾病を発症したとか、これを悪化させたとか認めるに足りる証拠は存在しないし、原告が、本件性的暴行後にAからいじめを受けたと認めるに足りる証拠も存在しない。そもそも、原告のニューヨーク事務所における職務は、争いのない事実等(1)ウのとおり、ニューヨーク経済ニュースの発行、日本の公的機関との情報交換、見本市出展に関する事務などであって、かかる公務に本件疾病を発症ないし増悪させる危険が内在又は通常随伴するとは到底いえない。結局、本件疾病は、本件性的暴行ないし本件性的暴行後における原告とAとの間の私的な交際・葛藤・破局(前記2(2)エオ)等の中から発症したものと認めるのが相当である(甲7、乙30、弁論の全趣旨)。
(4) 以上によれば、本件疾病に、公務起因性を認めることは困難である。
4 結論
以上によれば、本件疾病には公務遂行性、公務起因性のいずれもが認められず、そうだとすると、本件疾病を公務外災害と認定した本件処分は適法というべきである。よって、原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却することにする。
(裁判長裁判官・難波孝一、裁判官・三浦隆志、裁判官・知野 明)