東京地方裁判所 平成15年(行ク)10001号 決定 2003年4月24日
債権者 X(仮名)
債務者 国
代理人 宮田誠司 山崎芳和 ほか6名
主文
本件申立てを却下する。
申立費用は、債権者の負担とする。
事実及び理由
第1申立ての趣旨及び理由
本件申立ては、債権者が債務者に対し、別紙1(改修工事禁止仮処分命令申立書)<略>添付の物件目録記載の債権者使用部分(以下「本件建物部分」という。)における館内営業及び国有財産を使用する権限の確認を求める訴えを本案として、本件建物部分周辺において、改修工事を開始、続行して、電気を止めたり、空調を止めたり、工事関係者以外の者の立入りを禁止したり、その他債権者の営業を妨害するおそれのある行為をしてはならない旨の仮処分命令を求めている事案である。
本件申立ての理由の詳細は、別紙1(改修工事禁止仮処分命令申立書)<略>、別紙2(訂正上申書)<略>及び別紙3(平成15年4月7日付け準備書面)<略>のとおりであり、これに対する債務者の主張は、別紙4(答弁書)<略>のとおりである。
第2当裁判所の判断
1 各項末尾に掲記した<証拠略>等によれば、次の事実を一応認めることができる。
(1) 東京都千代田区霞が関一丁目2番2号所在の中央合同庁舎第5号館本館は、昭和58年9月30日に新築された建物であり、国家行政組織法別表第1の改正に係る平成11年法律第90号の施行日である平成13年1月6日より前は、厚生省、労働省等の庁舎として、上記施行日以後は、厚生労働省等の庁舎として使用されている。
(<証拠略>)
(2) 債権者は、厚生省大臣官房会計課長及び同省大臣官房会計課福利厚生室長(以下「会計課長ら」といい、前記平成11年法律第90号の施行日である平成13年1月6日以降については、厚生労働省大臣官房会計課長及び同省大臣官房会計課福利厚生室長を「会計課長ら」という。)から、国の行政財産である本件建物部分について、国有財産法18条3項に基づいて毎年その使用を許可され、昭和58年10月1日から平成15年3月31日までの間、本件建物部分を使用して、食料品等の販売を行ってきた。
上記許可に係る期間は、昭和58年度については同年10月1日から翌年3月31日まで、昭和59年度以降については、各年度とも4月1日から翌年3月31日までとされており、平成14年度について債権者が受けた許可によれば、平成15年3月31日の経過により、上記許可に係る期間が満了となる。
(当事者間に争いがない事実)
(3) ところで、会計課長らは、平成12年3月に、同月23日付け「平成12年度以降の中央合同庁舎第5号館内営業及び国有財産使用の許可について」と題する書面を債権者に送付して、本件建物部分について、債権者からの申請があれば、平成14年度までは使用許可を与えるが、平成15年度の使用許可については、改めて一定の条件等を示して募集を行い、審査を行ったうえで福利厚生施設として最も相応しい事業者に使用許可をする方針である旨の通知をした。
(<証拠略>)
(4) そして、債権者が、平成15年3月13日、会計課長らに対し、本件建物部分に係る建物内営業許可及び国有財産使用の許可申請をしたのに対し、会計課長らは、同月20日付け書面をもって、これを許可しない旨の回答をした。
(当事者間に争いがない事実)
(5) 一方、債権者は、平成14年12月19日、会計課長らに対し、本件建物部分の使用許可を求めて、東京簡易裁判所に調停を申し立てたが、会計課長らは、調停による話合いに応じる意思はない旨述べ、調停は不調に終わった。
そこで、債権者は、平成15年2月24日、債務者を被告として、本件建物部分における館内営業及び国有財産を使用する権限を確認する旨の訴訟を東京地方裁判所に提起した(同裁判所平成15年(行ウ)第105号行政財産使用許可確認請求事件)。
(当事者間に争いがない事実)
(6) 他方、厚生労働省大臣官房会計課福利厚生室長は、平成15年3月13日付け「中央合同庁舎第5号館福利厚生施設の改善に伴う改修工事について」と題する書面をもって、同年4月から中央合同庁舎第5号館の地下1階売店スペース(以下「売店スペース」という。)の改修工事(以下「本件工事」という。)を行うこと、工事期間中は電気の供給が止まり、空調も止まること、工事期間中においては工事範囲内における工事関係者以外の出入りが制限されること等を通知した。
(<証拠略>)
(7) 本件工事は、平成15年4月8日から、本件建物部分及びその周囲並びに本件建物部分に至る通路部分を除外し、その余の売店スペースの部分を対象として行われるものであり、上記除外部分は、別紙4(答弁書)<略>添付図面中の着色部分のとおりである。
なお、債務者としては、本件建物部分等、本件工事の対象から除外される部分については、本件工事の実施に伴う粉塵、危険等を防止するため、周辺を囲むこととしている。
また、債務者は、本件建物部分について、係争中であることから、係争が終了するまで改修工事を実施せず、その間電源も使用可能な状態とするとの意思を表明している。
(<証拠略>)
(8) 平成15年4月11日の時点において、本件建物部分を含む売店スペースの出入口のドアは施錠されているが、鍵の授受を行うことにより、本件建物部分に入ることが可能であり、本件建物部分の電灯も使用可能であることが確認されている。
(<証拠略>)
2 以上に基づいて、本件申立てにおける被保全権利及び保全の必要性の有無について判断する。
(1) 被保全権利について
債権者は、本件申立てにおける被保全権利として、債権者が本件建物部分を使用する権限を有する旨主張する。
そこで検討するに、上記1(1)ないし(4)の事実によれば、債権者は、国の行政財産である本件建物部分について、国有財産法18条3項に基づく許可を受けて、これを売店として使用してきたものであるところ、上記許可に係る期間は、平成15年3月31日をもって終了し、同年4月1日以降については、本件建物部分の使用に係る許可を受けていないことが一応認められる。
これに対し、債権者は、本件建物部分の使用関係について、建物の一部の賃貸借に準じるものとして、借家法の適用又は準用があり、債務者による本件建物部分の賃貸借の更新拒絶は、職員の福利厚生のみを理由とするものであって、正当理由が認められないから、債権者は同日以降も本件建物部分を使用する権限を有する旨主張する。
しかしながら、国有財産法18条1項は、行政財産について、貸付けを禁止するとともに、同条2項は、これを貸し付ける契約を無効とするから、行政財産である本件建物部分について同条3項に基づく許可により発生した使用関係をもって、賃貸借契約又はこれに準ずるものと認めることはできない。
そして、国有財産法18条3項に基づく許可により発生した行政財産に係る使用関係については、借地借家法の規定を適用しないことと規定されており(同条5項)、債権者主張のように、本件建物部分の使用関係について、借地借家法又は借家法の適用又は準用を認めることはできない。
その他、本件の全疎明資料を検討しても、債権者が現時点において、本件建物部分を使用する権限を有すると認めるに足る疎明はない。
(2) 保全の必要性について
債権者は、本件工事が開始されることにより、本件建物部分への電気の供給が停止し、工事範囲内につき工事関係者以外の出入りが禁止されること等から、債権者か同所において営業をする権利が著しく侵害され、多大の損害を被るとして、本件において保全の必要性が認められる旨主張する。
しかし、前記1(7)及び(8)のとおり、本件工事は、本件建物部分を含む別紙4<略>添付の図面中の着色部分を除外して行われる一方、本件建物部分については、債権者との間の係争が終了するまで改修工事を実施せず、その間電源も使用可能な状態とすることとされており、少なくとも平成15年4月11日の時点において、本件建物部分については、鍵の授受を行うことにより中に入ることが可能であり、電灯の使用も可能であることが一応認められるところ、これらの事実によれば、債権者が本件建物部分において事実上営業を行うこと自体が、不可能ないし困難であるということはできない。
これに対し、債権者は、債権者の売店を除く売店スペースの全店舗が商品を片付け始めており、地下1階の売店への立入りを断る旨の札や、地下1階の売店が閉鎖された旨の貼紙が存在する状況にあることから、本件建物部分において、電気の使用や通路が確保されているとしても、債権者が営業を行うための環境が事実上奪われている旨主張する。
しかしながら、債権者が本件建物部分において営業を行う環境を整えるために、売店スペースの債権者以外の店舗を閉店させないことが必要であるということはできないし、本件の全疎明資料によっても、債務者が上記の札を掛けたり上記の貼紙を貼付したことが認められない以上、債務者に対して、これらの行為を差し止めるために、本件申立てに係る仮処分命令を発することが必要であるということはできない。
その他、本件の全疎明資料を検討しても、債権者が本件建物部分において事実上営業を行うために、債務者に対して本件申立てに係る仮処分命令を発することが必要であると認めることはできない。
3 結論
以上のとおり、本件申立てについては、被保全権利及び保全の必要性を認めることができない。
よって、本件申立ては、理由がないからこれを却下することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 市村陽典 森英明 丹羽敦子)