東京地方裁判所 平成15年(行ク)206号 決定 2003年8月08日
原告
甲
同訴訟代理人弁護士
廣江運弘
同訴訟復代理人弁護士
鎌田泰輝
同補佐人税理士
森信明
被告
鈴鹿税務署長 三和義秋
同指定代理人
中村葉子
同
中村芳一
同
中堀博治
同
寺澤寿
上記当事者間の当庁平成14年(行ウ)第464号通知処分取消等請求事件について、原告から被告変更許可の申立てがあったので、当裁判所は、行政事件訴訟法15条の規定に基づき、次のとおり決定する。
主文
本件申立てを却下する。
事実及び理由
第1当事者の主張
原告は、被告を鈴鹿税務署長から雪谷税務署長に変更することを許可するとの裁判を求め、その理由として、納税地は相続人の住所地とする相続税法62条の本則は同法附則3項本文により当分の間被相続人の住所地とする旨修正されているが、同法附則3項但し書によれば、納税地の所轄税務署長がした相続税に係る処分は、財産を取得した者の住所地の所轄税務署長がしたものとみなして、当該住所地の所轄税務署長又は国税局長に対し不服中立てをし、又はこれらを被告として訴えを提起することを妨げないとして相続税法62条の本則に立ち戻っていることからして、原告の住所地の所轄税務署長である雪谷税務署長を被告とすることが原告の権利を守るために適切であると主張した。
第2当裁判所の判断
1 本件は、被相続人の死亡の時における住所地の所轄税務署長がした相続税の更正をすべき理由がない旨の通知につき、相続税法附則3項本文に基づいて、原告が、当該税務署長である鈴鹿税務署長を被告として、当該通知の取消しを求める本訴を当裁判所に提起した後、同被告を被告としたままでは当裁判所に管轄がないと判断されるおそれがあることから、同項但し書を根拠に、被告を、原告の住所地の所轄税務署長である雪谷税務署長に変更することの許可を求めた事案である。
2 行政事件訴訟法15条1項は、「取消訴訟において、原告が故意又は重大な過失によらないで被告とすべき者を誤ったときは、裁判所は、原告の申立てにより、決定をもって、被告を変更することを許すことができる。」旨規定しているが、その趣旨は、一般に行政関係法規や行政組織は複雑、難解である上に、行政庁の権限が他の機関に委任されている場合や権限の承継が生じている場合等も多く、原告にとっては、被告とすべき者を容易に認識し難いために被告とすべき行政庁を誤って出訴することなどがあり得るが、原告の責めに帰すべき事由がない場合にまで、当該訴えを被告適格を欠くものとして却下すれば、原告に再訴の負担をかけるばかりでなく、原告が正当な被告を相手として改めて出訴しようとしても、既に出訴期間を徒過しているため、再訴が不可能となる事態も生じうるので、このような不利益を救済する必要があるからであると解される。
かかる規定の文言及び趣旨からすれば、「被告とすべき者を誤ったとき」とは、原告の主観によるものではなく、現実に被告とされている者が、当該請求の内容につき被告適格を有しないものと客観的に判断される場合をいうものと解すべきである。
ところで、相続税法附則3項は、その本文において、相続税の納税地は被相続人の死亡の時における住所地とする旨定めるとともに、その但し書において、当該納税地の所轄税務署長がした当該相続税に係る処分は、相続人の住所地の所轄税務署長がしたものとみなして当該住所地の所轄税務署長又は国税局長に対し不服申立てをし、又はこれらを被告として訴えを提起することを妨げない旨規定して、いずれの税務署長についても被告適格を認めている。
そうすると、本訴における被告鈴鹿税務署長には何ら被告適格につき誤りはないことになるから、本件は、行政事件訴訟法15条にいう「被告とすべき者を誤ったとき」には当たらず、このような場合には、被告の変更は許されないものというべきである。
この点、原告は、従前の被告のままでは当裁判所に管轄がなくなり、当裁判所での裁判を受ける権利が害されることになるから、そのような場合も「被告とすべき者を誤ったとき」に当たるか、又は、当該規定の趣旨を類推して、被告の変更を認めるべきである旨主張するようであるが、前記のように当該規定の趣旨は、実質的に行政処分を争えなくなる不利益を回避することにあり、これが必ずしも被告適格の誤りについてだけを救済する趣旨に限定されない(最判平成11年4月22日・民集53巻4号759頁参照)としても、移送により当該当事者が希望する裁判所での審理を受けることができなくなることを回避する趣旨までもは含まないというほかはなく、原告のかかる主張は失当であるといわざるを得ない。
第3結論
よって、原告の申立てには理由がないから、これを却下することとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 鶴岡稔彦 裁判官 菊池章 裁判官 加藤晴子)