東京地方裁判所 平成16年(モ)75178号 決定 2004年4月07日
申立人(更生担保権者)
函館どつく株式会社
上記代表者代表取締役
大村靖夫
上記代理人弁護士
宮崎万壽夫
同上
矢野公士
相手方
更生会社東日本フェリー株式会社管財人
宮川勝之
同
更生会社東日本フェリー株式会社管財人
平林延行
上記2名代理人管財人代理
永野剛志
主文
1 申立人の届け出た更生担保権(更生担保権者表届出番号20006)の額を0円と査定する。
2 本件申立手続費用は申立人の負担とする。
理由
1 一件記録によれば,申立人は,更生会社東日本フェリー株式会社が会社更生手続開始を申し立てる以前に,同社所有の船舶「びるご」「びいな」「ほるす」について定期検査を,同船舶「びなす」「フェリーはちのへ」「ばにあ」について中間検査を行い,各船舶を同社に引き渡したが,その修繕工事代金合計1億8055万6800円の支払を受けていなかったこと,申立人は,本件会社更生手続において上記工事代金債権につき更生担保権の届出をしたが,相手方は,その全額を更生担保権として認めず,届出額全額を更生債権として認めるとの認否をした旨通知したこと,申立人は一般調査期間の末日である平成16年2月13日から1か月以内である同年3月3日に本件申立てを行ったことが認められる。
2 申立人は,船舶安全法の各規定(1条,5条,9条,18条)によれば,我が国では,およそ船舶は,定期検査・中間検査を受けて合格しない限り,航行すること自体ができないこととなっているから,本件各検査工事に要した本件債権は,商法842条6号に定める「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」に該当し,申立人は上記各船舶の上に届出額に相当する船舶先取特権を有していると主張する。これに対し,相手方は,船舶先取特権の成立する範囲は航行中に発生した債権に限定されるものであり,帰港後に新たな航海の開始に備えて行われる定期検査等により発生する債権はこれに含まれないから,申立人は船舶先取特権を有しないと主張する。
3 そこで検討すると,商法842条6号にいう「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」とは,既に開始された航海を継続するために必要な事由によって生じた債権を意味するから,帰港後に新たな航海を開始するために必要な事由によって生じた債権は含まれないと解すべきである(東京高裁昭和56年5月27日決定・判例タイムズ451号139頁参照)。
すなわち,(1)商法842条6号は「航海継続ノ必要」と規定しており,上記の解釈が文言にも沿うこと,(2)船舶先取特権は,公示方法なくして船舶抵当権に優先するものとされているため(商法849条),船舶先取特権を広く認めることは船舶抵当権者の利益を害し,ひいては船舶所有者が金融を得るのを困難にするものである上,今日では,通信施設や代理店等の発達により,商法842条6号の先取特権を認めて債権者の保護を図るべき必要性は減少しているから,同号の先取特権が認められる債権の範囲は厳格に解釈するのが相当であること(最高裁昭和59年3月27日第三小法廷判決・裁判集民事141号435頁参照),(3)仮に商法842条6号の債権に新たな航海を開始するために必要な債権が含まれるとすると,同号に係る先取特権の範囲は無制限に広がることになりかねず,また,商法842条6号所定の債権と,同号よりも先取特権の順位が劣後する同条7号及び同条8号の債権との区別が困難かつ無意味になるおそれがあることから,上記のとおりに解することが相当である。
4 これに対し,申立人は,本件が船舶安全法によって義務づけられている定期検査工事等に起因する債権であり,定期検査等を受けなければ航行不可能であるから,航海継続のために必要なものと解すべきであると主張するが,商法842条6号が,航海継続の必要に基づく債権に先取特権の成立を認めた趣旨として,航海の途中において生じた航海継続費用の債権者は,地理的関係から船舶所有者の陸産に対して執行することが困難であることが指摘されるところ,申立人にはこのような事情は認められないから,申立人の主張は採用することができない。
5 以上によれば,各船舶について帰港後に行われた定期検査及び中間検査により発生した本件各債権は,既に開始された航海を継続するために必要な事由によって生じたものではなく,帰港後に新たな航海を開始するために必要な事由によって生じたものであることが明らかであるから,商法842条6号にいう「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」に含まれず,申立人は船舶先取特権を有しない。
よって,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官・西岡清一郎,裁判官・鹿子木康,裁判官・渡邉千恵子)