東京地方裁判所 平成16年(ワ)11447号 判決 2005年12月21日
原告
X
被告
Y1
ほか二名
主文
一 被告Y1及び被告隅田運輸株式会社は、原告に対し、各自二四〇二万九六四七円及びうち二二七九万四一一八円に対する平成一二年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告あいおい損害保険株式会社は、被告Y1に対する一の判決が確定したときは、原告に対し、二四〇二万九六四七円及びうち二二七九万四一一八円に対する平成一二年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを五分し、その三を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
五 この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
(1) 被告Y1及び被告隅田運輸株式会社は、原告に対し、各自六二八三万八五七六円及びうち六一六〇万三〇四七円に対する平成一二年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(2) 被告あいおい損害保険株式会社は、被告Y1に対する(1)の判決が確定したときは、原告に対し、六二八三万八五七六円及びうち六一六〇万三〇四七円に対する平成一二年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は被告らの負担とする。
(4) 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告の請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
(1) 事故の発生
原告は、次の交通事故(以下「本件事故」という。)に遭った。
日時 平成一二年七月一日午前一一時ころ
場所 埼玉県草加市谷塚仲町四五〇番地先路上(国道四号バイパス交差点。以下「本件交差点」という。)
加害車両 大型貨物自動車(<番号省略>。以下「被告車両」という。)
運転者 被告Y1
事故の態様 原告が自転車に乗って横断歩道上を横断中、対向車線から右折進行しようとした被告車両と衝突した。
(2) 責任原因
ア 被告Y1は、自動車の運転者として、本件交差点を右折するに当たり、前方の自転車通行帯や横断歩道における自転車及び歩行者の有無及び動静に十分注意を払うべき義務があるのにこれを怠り、漫然と右折進行しようとした結果、本件事故を発生させたから、民法七〇九条に基づき、原告が本件事故により被った損害を賠償すべき責任を負う。
イ 被告隅田運輸株式会社(以下「被告隅田運輸」という。)は、本件事故の当時、被告車両を保有し、自己のために運行の用に供していた。
また、被告Y1は、本件事故の当時、被告隅田運輸の従業員であり、その業務の執行中であった。
したがって、被告隅田運輸は、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条本文、民法七一五条に基づき、原告が本件事故により被った損害を賠償すべき責任を負う。
ウ 被告あいおい損害保険株式会社(以下「被告保険会社」という。)は、本件事故の当時、被告隅田運輸との間で、被告Y1及び被告隅田運輸を被保険者、被告車両を被保険自動車とし、被保険者に対する損害賠償請求訴訟の判決が確定したときは、被告保険会社が損害賠償請求権者に対し確定した損害賠償額を支払うことを内容とする自動車保険契約(以下「本件契約」という。)を締結していた。
(3) 本件事故による被害の程度
ア 傷病名
原告は、本件事故の結果、左側頭骨骨折、頭蓋底骨折、急性硬膜外血腫、気脳症、左顔面神経麻痺、外傷性両感音性難聴等の傷害を負った。
イ 治療経過
原告は、前記傷害を治療するため、次のとおり入通院した。
(ア) 川口市立医療センター
平成一二年七月一日から八月五日まで三六日間入院及び同月六日から平成一三年九月一八日まで通院(通院実日数一四四日)
(イ) 医療法人社団兼仁会清澤眼科医院(以下「清澤眼科医院」という。)
平成一二年八月八日から平成一三年一二月五日まで通院(通院実日数二七日)
(ウ) 木村耳鼻咽喉科小児科医院
平成一三年七月二六日から一二月一日まで通院(通院実日数九日)
(エ) 東京女子医科大学附属第二病院耳鼻咽喉科
平成一三年七月二七日から一二月七日まで通院(通院実日数一七日)
(オ) 東京大学医学部附属病院
平成一三年一一月二七日から一二月一一日まで通院(通院実日数二日)
ウ 後遺障害
原告は、前記傷害について、平成一三年一二月一一日こ症状が固定したところ、<1>左眼瞼障害、<2>聴力障害、<3>神経系統の機能又は精神の障害(高次脳機能障害)、<4>頭部・顔面・頚部の障害(醜状障害)が残存し、その程度は<1>については一二級二号に該当し、<2>については一四級に相当し、<3>については、本件事故の前とは異なり、家事を放置したり、社会に出てパートタイマーとして就労することができない状況にあるなど、記憶障害、構成障害、語想起障害等の認知障害と、感情易変、不機嫌、攻撃性、暴力、自発性・活動性の低下等の人格変化が生じており、「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」として七級四号に該当し、<4>については、しゃべったり、笑ったりした場合、右顔面の表情は変化するのに対し、左顔面は完全神経麻痺により全く変化しないため顔全体が左右にねじれるような状況となり、著しい醜状状態を浮かび上がらせるのであって、七級一二号に該当し、以上を併合すれば五級に該当する。
(4) 損害
ア 治療費 一六五万三七二一円
イ 付添看護費 四〇六万四三二八円
原告の夫は、本件事故の当時、タクシー会社に勤務していたところ、本件事故の結果、原告の付添いのために勤務先を二二八日間休まざるを得ず、一日当たり一万七八二六円の休業損害が生じた。
1万7826円×228日=406万4328円
ウ 通院交通費 八一万五六〇〇円
エ 眼鏡・コンタクト代 五万九三二五円
オ 入院雑費 五万四〇〇〇円
1500円×36日=5万4000円
カ 休業損害 五六九万八八五一円
原告は、本件事故の当時、家庭において主婦として夫及び三子の家事の世話をするとともに、近所のクリーニング店においてパートタイマーとして稼働し、一か月一一万ないし一二万円の収入を得ていたところ、本件事故の結果、平成一三年一二月一一日までの五二九日間、パート勤務はおろか家事労働も満足にできなくなったから、平成一二年賃金センサス女子労働者学歴計四〇歳から四四歳までの平均年収額を基礎とし、本件事故と相当因果関係のある休業損害を算出すると、次の計算式のとおり五六九万八八五一円となる。
393万2100円÷365日×529日≒569万8851円
キ 傷害慰謝料 二〇〇万〇〇〇〇円
ク 後遺障害逸失利益 三五六七万七二二三円
原告は、症状固定時四六歳であったところ、前記後遺障害の結果、労働可能な六七歳まで二一年間にわたり労働能力を七九パーセント喪失したから、平成一三年賃金センサス女子労働者学歴計全年齢平均年収を基礎とし、中間利息をライプニッツ方式で控除して、本件事故と相当因果関係のある逸失利益を算出すると、次の計算式のとおり三五六七万七二二三円となる。
352万2400円×0.79×12.8211≒3567万7223円
ケ 後遺障害慰謝料 二〇〇〇万〇〇〇〇円
原告は、<1>神経系統の機能又は精神の障害と<2>女子の外貌の著しい醜状がそれぞれ別個独立に併存しているというべきであり、その慰謝料は、<1>に対する慰謝料一〇〇〇万円と<2>に対する慰謝料一〇〇〇万円とを合計した金額をもって相当とすべきである。
コ 弁護士費用 六二七万〇六一三円
(5) まとめ
よって、原告は、
ア 被告Y1及び被告隅田運輸に対し、民法七〇九条、七一五条、自賠法三条本文に基づき、各自、前記損害に、<1>平成一四年九月三日に受領した自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)による後遺障害損害賠償金三三一万円に対する不法行為の日である平成一二年七月一日から平成一四年九月三日まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金三六万〇四七二円及び<2>平成一六年一月三〇日に受領した自賠責保険による後遺障害損害賠償金四八八万円に対する不法行為の日である平成一二年七月一日から平成一六年一月三〇日まで同法所定の年五分の割合による遅延損害金八七万五〇五七円を加えた額から弁済を受けた一四六九万〇六一四円を控除した残額六二八三万八五七六円及びうち六一六〇万三〇四七円(前記損害残額六二八三万八五七六円から前記確定遅延損害金一二三万五五二九円を差し引いた残額)に対する平成一二年七月一日から支払済みまで同法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、
イ 被告保険会社に対し、本件契約に基づき、被告Y1に対するアの判決が確定したときは、六二八三万八五七六円及びうち六一六〇万三〇四七円に対する同日から支払済みまで同法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)及び(2)は認める。
(2)ア 請求原因(3)アは知らない。
イ 同イのうち、原告が主張どおり入通院したことは認め、本件事故との相当因果関係は知らない。
ウ 同ウは不知ないし争う。
(3)ア 請求原因(4)アは認める。
イ 同イは知らない。
ウ 同ウ及びエは認める。
エ 同オは知らない。
オ 同カは争う。
原告は、主として家事労働に従事する者と考えられるので、全年齢の平均賃金額を基礎とすべきである。
カ 同キないしケは争う。
キ 同コは知らない。
三 抗弁一過失相殺
自転車を含めた車両の運転者は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、反対方向から進行してきて右折する車両等に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない(道路交通法三六条四項)し、自転車の運転者は、交差点を通行しようとする場合において、当該交差点に自転車横断帯があるときは、当該自転車横断帯を通行しなければならない(同法六三条の七第一項)ところ、原告は、本件交差点の横断歩道内側に設置された自転車横断帯を通行せず、漫然と横断歩道を進行して本件事故に遭ったのであって、過失相殺がされるべきである。
四 抗弁に対する認否
否認ないし争う。
第三証拠関係
本件訴訟記録中の書証目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因(1)(本件事故の発生)及び(2)(責任原因)について
請求原因(1)及び(2)の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。
二 請求原因(3)(本件事故による被害の程度)について
(1) 同ア(傷病名)について
前示請求原因(1)の事実に証拠(甲三ないし六)を総合すると、同(3)アの事実が認められる。
(2) 同イ(治療経過)について
同イのうち、原告が<1>川口市立医療センターに、平成一二年七月一日から八月五日まで三六日間入院するとともに、同月六日から平成一三年九月一八日まで通院し(通院実日数一四四日)、<2>清澤眼科医院に、平成一二年八月八日から平成一三年一二月五日まで通院し(通院実日数二七日)、<3>木村耳鼻咽喉科小児科医院に、平成一三年七月二六日から一二月一日まで通院し(通院実日数九日)、<4>東京女子医科大学附属第二病院耳鼻咽喉科に、平成一三年七月二七日から一二月七日まで通院し(通院実日数一七日)、<5>東大病院に、平成一三年一一月二七日から一二月一一日まで通院した(通院実日数二日)ことは、当事者間に争いがなく、これに前示請求原因(3)アの事実及び証拠(甲八)を総合すると、前示原告の入通院と本件事故との相当因果関係が認められる。
(3) 同ウ(後遺障害)について
ア 証拠(甲三、四、七、九ないし一二、一六ないし一九、二一、二五、二六、乙一、二)及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
(ア) 原告は、平成一二年七月一日の本件事故後、川口市立医療センターに搬送されて入院したところ、初診時に意識障害があり、その程度はJCS(ジャパン・コーマ・スケール)二〇(大きな声又は体を揺さぶることにより開眼する)で二日間継続した。同センターに搬送された際の頭部CTでは出血はみられなかったものの、約五時間後の頭部CTで硬膜外血腫が出現し、意識状態が良好なことから約一二時間後の頭部CTの結果に基づき、手術をするかどうかを決定することとされたところ、当該CTの結果を踏まえて保存的治療が選択された。その後、経過観察がされていたところ、頭部CTの上で血腫の吸収傾向が確認され、症状が軽快したことから、同年八月五日に退院した。
(イ) 原告が入通院した前示医療機関は、原告について、それぞれ次のような記載のある自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書を発行している。
a 川口市立医療センター
(a) 発行日
平成一三年一二月二一日
(b) 診断日
同年九月一八日
(c) 症状固定日
同日
(d) 傷病名
<1>左側頭骨骨折、<2>急性硬膜外血腫、気脳症、<3>左顔面神経麻痺、<4>頭部外傷後遺症
(e) 自覚症状
めまい、しびれ
(f) 精神・神経の障害、他覚症状及び検査結果
<1>めまい、<2>しびれ、<3>左顔面神経麻痺、<4>味覚低下
(g) 眼瞼の障害
開瞼・閉瞼障害
(h) 聴力と耳介の障害
同年二月一四日の検査結果(六分平均)は右一〇・八三デシベル、左一四・一三デシベル
b 清澤眼科医院
(a) 発行日
平成一三年一二月五日
(b) 診断日
同日
(c) 症状固定日
同日
(d) 傷病名
「左眼外傷性顔面マヒに依る兎眼・角膜上皮障碍」
(e) 自覚症状
「左眼痛・流涙・瞬目障碍・閉瞼障碍」
(f) 精神・神経の障害、他覚症状及び検査結果
「左眼兎眼・閉瞼障碍」
(g) 視力
右〇・〇二(裸眼)、〇・九(矯正)、左〇・〇一(裸眼)、〇・三(矯正)
(h) 眼瞼の障害
閉瞼障害
c 木村耳鼻咽喉科小児科医院
(a) 発行日
平成一三年一二月一七日
(b) 診断日
同月一日
(c) 症状固定日
同日
(d) 傷病名
「左顔面神経麻痺、両側混合性難聴、慢性鼻炎、眩暈症」
(e) 自覚症状
左顔面神経麻痺、味覚障害、難聴、耳鳴りなど
(f) 精神・神経の障害、他覚症状及び検査結果
「聴力:低音及高音部軽度低下」、「九/四眼振、自発(一)左向頭位にて左向き眼振あり。足踏テスト正常、マンテスト右に偏倚」、「左レフレックス低下、左舌前部味覚障害あり」、「重心動揺、閉眼時動揺著明→改善」、「左眼閉鎖不全、左顔面神経麻痺」など
(g) 聴力と耳介の障害
左右の混合性難聴(検査結果(六分平均)は、同年七月二六日が右一五・八デシベル、左二〇・八デシベル、同年九月四日が右一四・二デシベル、左一八・三デシベル、同年一二月一日が左右各一八・三デシベル)及び左右の耳鳴り
d 東京女子医科大学附属第二病院耳鼻咽喉科
(a) 発行日
平成一三年一二月七日
(b) 診断日
同日
(c) 症状固定日
同日
(d) 傷病名
左外傷性顔面神経麻痺
(e) 自覚症状
「左顔面麻痺、顔面異和感、目の痛み、耳鳴、左耳周囲のれん縮」
(f) 精神・神経の障害、他覚症状及び検査結果
左顔面神経麻痺(完全麻痺)
(g) 障害内容の増悪・緩解の見通しなど
「左顔面完全麻痺に対しては(形成手術を除いて)改善の見込みなし。顔面異和感や疼痛などの諸症状に対して針治療中」
e 東京大学医学部附属病院
(a) 発行日
平成一三年一二月一一日
(b) 診断日
同日
(c) 症状固定日
同日
(d) 傷病名
左側頭骨骨折、左完全顔面神経麻痺
(e) 自覚症状
左完全顔面神経麻痺
(f) 精神・神経の障害、他覚症状及び検査結果
「筋電図上も完全顔面神経麻痺(左側)」、「眼症状:閉瞼不全(このため眼痛あり)」、「「笑い」表情時の顔面の非対称」、「そしゃく機能不全(口から物がこぼれる)」、「構音障害がある」
(g) 醜状障害
顔面部が非対称
(h) 障害内容の増悪・緩解の見通しなど
「顔面神経麻痺については、手術治療以外には自然回復はない」
(ウ) 原告の夫Aが平成一三年一二月一六日付けで作成した日常生活状況報告表には、次の<1>ないし<53>のとおり質問に対する回答が記載されているほか、「平成一三年四~五月頃から、序々(ママ)に家事を行う様になった。しかし疲れやすく、寝ている事が多い。週に二~三回通院しているが、歩いたり、立ちあがったりする時めまい、ふらつきがあり表に出ること事態怖いらしい。週に一~二度は頭痛、耳鳴り、目の痛みの為一日中横になっている。買物等は全て私が休みの日にまとめて買う事にしている。調理の味付は味覚があまり無く、甘すぎるか、塩辛いかのどちらかである。左目は兎目の為、涙が頻繁に出てくるので、たえずハンカチ、ちり紙で拭かなくてはならない。就寝時には目の乾きを防ぐ為眼帯は欠かせない。顔の事がとても気になっているので、知人、他の人に会うことを極端にいやがる。」との記載がある。
<1> 「今日は何月何日かわかりますか」「わかる」
<2> 「同じことを何度も聞き返すことがありますか」「聞き返すこともある」
<3> 「数分前の出来事や聞いたことを忘れますか」「忘れることもある」
<4> 「昨日の出来事を覚えていますか」「覚えている」
<5> 「事故以前のことを覚えていますか」「覚えている」
<6> 「知り合いの人の名前を忘れがちですか」「忘れやすい」
<7> 「同居の家族の顔と名前がわかりますか」「わかる」
<8> 「一桁のたし算はできますか]「できる」
<9> 「簡単な買物で釣銭の計算はできますか」「できる」
<10> 「家族と話しが通じますか」「通じる」
<11> 「他人と話しが通じますか」「通じる」
<12> 「電話を使って話ができますか」「できる」
<13> 「本人の言葉は聞きとりにくいですか」「いいえ」
<14> 「話がまわりくどいですか」「いいえ」
<15> 「人の話を聞いて、すぐ理解できますか」「すぐ理解できる」
<16> 「お金を持たせるとすぐに使ってしまいますか」「使わない」
<17> 「前もって計画した行動ができますか」「多少できる」
<18> 「同じミスや間違いをくり返しますか」「くり返さない」
<19> 「新しいことを覚えて身につけることができますか」「できない」
<20> 「同時に複数のことを平行してできますか」「できない」
<21> 「すぐに泣いたり怒ったり笑ったりしますか」「しない」
<22> 「わずかなことで興奮しますか」「興奮する」
<23> 「いらいらしやすいですか」「いらいらしやすい」
<24> 「興奮すると乱暴しますか」「乱暴しない」
<25> 「場所をわきまえずに怒って大声を出しますか」「出さない」
<26> 「すべて自分中心でないと気に入らないですか」「いいえ」
<27> 「わけもなくはしゃぐことが多いですか」「はしゃがない」
<28> 「気分が沈みがちですか」「沈みがち」
<29> 「夜起きて昼間は寝ていますか」「いいえ」
<30> 「家に閉じこもることが多いですか」「多い」
<31> 「飽きっぽくてひとつのことが続かないですか」「続かないこともある」
<32> 「一度気になるとこだわってしまいますか」「多少こだわる」
<33> 「大きな音などをうるさがりますか」「うるさがる」
<34> 「親しい友達がいますか」「いる」
<35> 「家族や周囲の人とトラブルが多いですか」「ほとんどない」
<36> 「家事を手伝うことができますか」「できる」
<37> 「食事は自分で食べることができますか」「できる」
<38> 「衣服は自分で着ることができますか」「できる」
<39> 「トイレに行けますか」「トイレに行ける」
<40> 「小便をもらしますか」「もらさない」
<41> 「間に合わずに小便をもらすことがありますか」「もらさない」
<42> 「大便をもらしますか」「もらさない」
<43> 「洗顔・歯磨きをしますか」「自主的にする」
<44> 「なにをやるにも、指示が必要ですか」「必要ない」
<45> 「おとなしく、指示通りに動きますか」「動く」
<46> 「外出には付添いが必要ですか」「必要なこともある」
<47> 「めまいやふらつきがありますか」「ある」
<48> 「支えなしに立っていることができますか」「できる」
<49> 「歩くとふらつきますか」「多少ふらつく」
<50> 「右手が不自由で動きませんか」「動く」
<51> 「左手が不自由で動きませんか」「動く」
<52> 「右足が不自由で動きませんか」「動く」
<53> 「左足が不自由で動きませんか」「動く」
(エ) 原告について、東京女子医科大学病院脳神経センターの医師が同大学附属第二病院の医師にあてて平成一四年六月一三日付けで作成した報告書には「HDS―R(改訂長谷川式簡易知能検査)二八点、MMS(ミニメンタルテスト)二五点ですが、これは計算で失点、再度計算して頂くと正解するため、明らかな知能障害とは考えにくいと思われます。…また、ややdepressive(抑うつ的)な印象があり、こちらからも物忘れ等生じることがあるため当院精神科でも評価頂くこととしました。」との記載が、同大学病院神経内科の医師が同大学附属第二病院の医師にあてて同年七月四日付けで作成した紹介・診療情報提供書には「六/一三御報告后、六/二〇高次機能検査を行いました。…明らかな知能検査は<->と思われますが、軽度の左側頭様(ママ)障害も否定できません。(事故前との比較が出来ないため正確な評価は困難ですが)また、精神科を六/一七受診して頂いたところでは、軽度の過敏すい弱徴候<+>のとのことですが、これが後遺症として還元できるかは不明とのこと。…上記、明らかにEDH(硬膜外血腫)による障害と確定はできませんが、疑わしい、という状態です。」との記載がそれぞれされている。
また、同大学病院の医師は、原告について、病名を軽度記憶障害・構成障害・語想起障害とし、「二〇〇二年六月時点で上記障害が存在する。この時点では明らかな痴呆とはいえない。この症状が一九九九年七月に受傷した頭部外傷と関連するかどうか断定はできないが、可能性は否定できない。」との記載がある平成一四年一二月一一日付け診断書及び「ささいなことでイライラしたり、怒るなどの感情不安定性が目立ち、また、記憶力の低下も認め、頭部外傷後の人格変化が推測される。」との記載がある平成一五年六月七日付け診断書を作成している。
(オ) Aが平成一六年一〇月三〇日付けで作成した日常生活状況報告表には、次の<1>ないし<53>のとおり質問に対する回答が記載されている。
<1> 「今日は何月何日かわかりますか」「わかる」
<2> 「同じことを何度も聞き返すことがありますか」「よく聞き返す」
<3> 「数分前の出来事や聞いたことを忘れますか」「忘れることもある」
<4> 「昨日の出来事を覚えていますか」「多少覚えている(忘れている事が多い)」
<5> 「事故以前のことを覚えていますか」「多少覚えている」
<6> 「知り合いの人の名前を忘れがちですか」「忘れやすい」
<7> 「同居の家族の顔と名前がわかりますか」「わかる」
<8> 「一桁のたし算はできますか」「できる」
<9> 「簡単な買物で釣銭の計算はできますか」「どうにかできる」
<10> 「家族と話しが通じますか]「通じる」
<11> 「他人と話しが通じますか」「通じる」
<12> 「電話を使って話ができますか」「できる」
<13> 「本人の言葉は聞きとりにくいですか」「いいえ」
<14> 「話がまわりくどいですか」「多少まわりくどい」
<15> 「人の話を聞いて、すぐ理解できますか」「やや悪い」
<16> 「お金を持たせるとすぐに使ってしまいますか」「使ってしまうこともある」
<17> 「前もって計画した行動ができますか」「できない」
<18> 「同じミスや間違いをくり返しますか」「くり返す」
<19> 「新しいことを覚えて身につけることができますか」「できない」
<20> 「同時に複数のことを平行してできますか」「できない」
<21> 「すぐに泣いたり怒ったり笑ったりしますか」「そういうこともある」
<22> 「わずかなことで興奮しますか」「興奮する」
<23> 「いらいらしやすいですか」「いらいらしやすい」
<24> 「興奮すると乱暴しますか」「乱暴することもある」
<25> 「場所をわきまえずに怒って大声を出しますか」「ときにはある」
<26> 「すべて自分中心でないと気に入らないですか」「気に入らないこともある」
<27> 「わけもなくはしゃぐことが多いですか」「はしゃがない」
<28> 「気分が沈みがちですか」「沈みがち」
<29> 「夜起きて昼間は寝ていますか」「いいえ」
<30> 「家に閉じこもることが多いですか」「多い」
<31> 「飽きっぽくてひとつのことが続かないですか」「続かない」
<32> 「一度気になるとこだわってしまいますか」「多少こだわる」
<33> 「大きな音などをうるさがりますか」「うるさがる」
<34> 「親しい友達がいますか」「減った」
<35> 「家族や周囲の人とトラブルが多いですか」「多い」
<36> 「家事を手伝うことができますか」「できる」
<37> 「食事は自分で食べることができますか」「できる」
<38> 「衣服は自分で着ることができますか」「できる」
<39> 「トイレに行けますか」「トイレに行ける」
<40> 「小便をもらしますか」「もらさない」
<41> 「間に合わずに小便をもらすことがありますか」「もらさない」
<42> 「大便をもらしますか」「もらさない」
<43> 「洗顔・歯磨きをしますか」「自主的にする」
<44> 「なにをやるにも、指示が必要ですか」「必要なときもある」
<45> 「おとなしく、指示通りに動きますか」「動く(動かないときもある)」
<46> 「外出には付添いが必要ですか」「必要なこともある」
<47> 「めまいやふらつきがありますか」「多少ある」
<48> 「支えなしに立っていることができますか」「できる」
<49> 「歩くとふらつきますか」「多少ふらつく」
<50> 「右手が不自由で動きませんか」「動く」
<51> 「左手が不自由で動きませんか」「動く」
<52> 「右足が不自由で動きませんか」「動く」
<53> 「左足が不自由で動きませんか」「動く」
(カ) 損害保険料率算出機構は、原告の後遺障害等級について、平成一六年一月二八日、<1>眼の障害(視力障害)について非該当、<2>左眼瞼の障害について一二級二号、<3>耳の障害(聴力障害)について一四級相当、<4>口の障害について非該当、<5>神経系統の機能又は精神の障害について九級一〇号、<6>頭部・顔面・頚部の障害(醜状障害)について一二級一四号、以上を併合して八級認定と判断し、これに対し、Aは、平成一七年一月一一日、指定紛争処理機関自賠責保険・共済紛争処理機構に紛争処理申請をしたところ、同機構は、紛争処理委員会において審査した結果、同年七月二二日、「被害者X様の後遺障害については、自動車損害賠償保障法施行令(平成一三年政令第四一九号による改正前のもの)第二条第一項第二号に基づき、併合等級第八級の障害と判断します。したがいまして、既に決定している自賠責保険会社の認定に変更はありません。」との調停主文の理由として、次のように述べている。
a 精神神経の障害について
原告は、本件事故により搬送された川口市立医療センターにおいて「左側頭骨骨折、頭蓋底骨折、急性硬膜外血腫、気脳症」と診断される傷害を受けた。頭蓋内に生じた血腫は吸収傾向とのことで、外科的手術等の処置をされず保存的に様子を観察するとされている。そして、意識障害の程度は、JCS二〇(刺激すると開眼)で二日間継続とのことであった。
原告の精神神経に関する臨床的症状は、次のとおりである。すなわち、同センターの医師発行の平成一三年一二月二一日付け後遺障害診断書によると、自覚症状は「めまい、しびれ(顔面と思われる)」とされ、同日付け「脳外傷による精神症状等についての具体的な所見」では、精神障害、性格障害について特に異常とされる所見はみられない。東京女子医科大学附属第二病院の医師発行の平成一四年七月四日付け「紹介・診療情報提供書」によると、「(同年)六月二〇日高次機能検査を行いました。明らかな知能低下は(一)と思われますが、軽度の左側頭葉障害も否定できません。(事故前との比較ができないため正確な評価はできませんが)、また、精神科を六月一七日受診されたところでは、軽度の過敏衰弱徴候(+)とのことで、これが後遺症として還元できるかは不明とのことで明らかに頭部外傷による障害と確定はできませんが、疑わしいという状態です」とのことであった。さらに、同病院の医師発行の同年一二月一一日付け診断書では、「記憶・構成・語想起の障害」との病名で「同年六月時点で障害が存在します。この時点では明らかな痴呆とはいえません。この症状が平成一二年七月に受傷した頭部外傷と関連するかどうか断定はできませんが可能性は否定できません。」とされている。このほか、同病院の医師は、平成一五年六月七日発行の診断書で「ささいなことで、イライラしたり、怒るなどの感情不安定が目立ち、また、記憶力の低下を認め、頭部外傷後の人格変化が推測されます」とのことであった。
以上の診断書、報告書等による症状及び検査所見の内容からすると、原告は、頭部外傷を受けた後に神経及び神経症様症状が発現し、その症状が残存していることは認められるが、医学的に知能低下や明らかな人格変化については証明されているものとは認め難いと判断される。また、頭部外傷で人格変化等の精神障害を来す場合は、脳実質に明らかな損傷があり、画像では脳の萎縮、脳室拡大等の変化を呈することが脳損傷のたどる典型的な経過とみられることから、提出の画像について検討した結果、左側頭骨骨折、頭蓋底骨折及び頭蓋内の出血、すなわち、硬膜外血腫が認められ、受傷時に二日間のJCS二〇(刺激すると開眼)の意識障害があったことから、相当強い外力が頭部に加わったことは認められるが、経時的に撮影された頭部画像についての検討では、脳萎縮、脳室拡大等の変化はなく、脳実質を損傷したとする明らかな所見はみられなかった。
そうすると、頭部外傷後に原告に残存している症状は、めまい、受傷部のしびれ等の神経症状のほかは、後述する多岐にわたる残存障害に随伴するとみられる外傷性神経症として評価することが妥当なものと認められ、少なくとも受傷時の意識障害の程度、頭部画像、症状所見等から高次脳機能障害のような明らかな脳の器質性障害とは認められないものと判断される。したがって、原告の精神神経の障害については、「比較的軽度の記憶障害などの精神症状や平衡機能障害などのために、日常生活動作に一定の制限が生じているものの、一般的労働能力が残存していることは明らかとして九級一〇号」とされた認定は妥当な認定と判断される。
b 顔面の醜状障害について
提出されている写真からすると、特に開口時の顔面のゆがみは明らかに認められる。
自賠責保険における顔面の醜状障害については、実務上、<1>鶏卵大面以上のはんこん、<2>長さ五センチメートル以上の線状こん、<3>一〇円銅貨大以上の組織陥没のいずれかが残存し、かつ、人目につく程度以上である場合に「女子の外貌に著しい醜状を残すもの」と評価しているところ、本件のように顔面の皮膚自体にははんこん等がなく、特に表情の変化に際し著明に呈する醜形については、特に例外的に定められた基準である顔面神経麻痺による顔面(口)のゆがみについては「単なる醜状障害」とされており、女子の場合は一二級一四号と一律に認定されていることからすると、現行の認定基準に従い判断せざるを得ない。もっとも、醜状障害の程度によっては、「単なる醜状障害」とすることが余りにも不合理であると判断される場合には別途等級の認定を検討する必要がある場合があり得るが、本件についてはそこまでの醜状に至っていると認定することは困難である。したがって、原告の顔面の醜状障害については、「女子の外貌に醜状を残すもの」として、等級一二級一四号とされた認定はやむを得ない。
c 言語障害について
左顔面神経麻痺のために食物や飲料水の摂取時に口からこぼれることからすると、口唇の開閉が阻害されているというべきであり、原告には口唇音の機能障害は十分に認められ、一種の発音が困難であるとして「言語に障害を残すもの」一〇級二号に該当する障害と認めることが妥当である。
d 咀嚼障害について
自賠責保険においては、歯牙の上下咬合や排列状態、下顎の開閉運動などを総合的に評価し、摂取可能な飲食物の制限を余儀なくされるときに咀嚼障害として認められることからすると、原告は、「口から物がこぼれる」というにすぎず、特に摂取できる飲食物に制限があるとまでは至っているものではないと認められることから、咀嚼障害として認定することは困難である。
e 味覚障害について
木村耳鼻咽喉科小児科医院発行の平成一三年一二月一七日付け後遺障害診断書によると、左舌前部に味覚障害があるが、四個ある味質のうち認知できないものの程度によって味覚障害として認定するという自賠責保険における要件には該当しない。
f 視力障害について
清澤眼科医院発行の平成一三年一二月五日付け後遺障害診断書によると、傷病名が「角膜上皮障害」とされており、この角膜障害を原因として視力障害が生じ得ることは否定できないものの、本件事故の前後で矯正視力に変化が認められないことから、視力障害を認定することはできない。
g 眼瞼の障害について
顔面神経麻痺に伴う左眼瞼の兎眼として「一眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの」一二級二号に該当する。
h 聴力障害(耳鳴り)について
木村耳鼻咽喉科小児科医院発行の平成一三年一二月一七日付け後遺障害診断書によると、日を変えて測定した両耳の平均純音聴力レベルは、いずれも約二〇デシベル未満であることから、ほぼ正常の聴力と認められ、後遺障害に該当しない。耳鳴りについては、受傷態様などから一四級相当が認められる。
イ 以上の事実関係によると、原告は、本件事故により負った傷害について、平成一三年一二月一一日までに症状が固定したところ、<1>神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの(自動車損害賠償保障法施行令(平成一三年政令第四一九号による改正前のもの)別表九級一〇号該当)、<2>女子の外貌に醜状を残すもの(同一二級一四号該当)、<3>言語の機能に障害を残すもの(同一〇級二号該当)、<4>一眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの(同一二級二号該当)、<5>耳鳴り(同一四級相当)といった後遺障害(程度は<1>ないし<5>を併合して八級相当)が残存しているということができる。
これに対し、原告は、神経系統の機能又は精神の障害については、本件事故の前とは異なり、記憶障害、構成障害、語想起障害等の認知障害と、感情易変、不機嫌、攻撃性、暴力、自発性・活動性の低下等の人格変化が生じており、「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」として七級四号に該当し、醜状障害については、しゃべったり、笑ったりした場合、右顔面の表情は変化するのに対し、左顔面は完全神経麻痺により全く変化しないため顔全体が左右にねじれるような状況となり、著しい醜状状態を浮かび上がらせるのであって、七級一二号に該当するなどと主張する。
しかしながら、神経系統の機能又は精神の障害については、前示事実関係によると、原告は、本件事故により頭部外傷を負い、意識障害が二日間継続するとともに、本件事故後に一定の知能低下や人格変化等が生じているということはできるものの、この人格変化等と本件事故との因果関係が必ずしも明確ではない上、脳萎縮、脳室拡大等の変化はなく、脳実質を損傷したことを認めるに足りる証拠はないことなどに照らすと、原告の前示主張は、採用することができない。
また、顔面醜状については、前示事実関係に証拠(甲二一)を総合すると、原告は、しゃべったり、笑うなど口を開くと、右顔面の表情は変化するものの、左顔面の表情は全く変化しないため顔全体が左右にねじれるような状態になることが認められるが、他方において、口は完全に閉じることができ、その場合にも顔全体にねじれがみられるものの、その程度は口を開いた場合ほどではなく、顔面の皮膚自体には線状こん、はんこん、組織陥没のいずれもみられないことも認められることなどに照らすと、この点に関する原告の前示主張も採用することができない。
三 請求原因(4)(損害)について(その一)
(1) 治療費 一六五万三七二一円
請求原因(4)ア(治療費)の事実は、当事者間に争いがない。
(2) 付添看護費 八九万〇七〇〇円
前示事実関係により認められる原告の受傷の程度等に照らすと、原告の前示入院期間(三六日間)及び通院(通院実日数合計一九九日)の際の付添看護費は、次の計算式のとおり算出される八九万〇七〇〇円と認めるのが相当である。
6500円×36日+3300円×199日=89万700円
(3) 通院交通費 八一万五六〇〇円
請求原因(4)ウ(通院交通費)の事実は、当事者間に争いがない。
(4) 眼鏡・コンタクト代 五万九三二五円
請求原因(4)エ(眼鏡・コンタクト代)の事実は、当事者間に争いがない。
(5) 入院雑費 五万四〇〇〇円
前示のとおり、原告は、川口市立医療センターに三六日間入院したから、本件事故と相当因果関係のある入院雑費は、次の計算式のとおり五万四〇〇〇円と認めるのが相当である。
1500円×36日=5万4000円
(6) 休業損害 五〇六万九九九三円
前示事実関係に証拠(甲二〇、二五)を総合すると、原告は、昭和○年○月○日生まれの女性で、Aと結婚して三子(長女昭和○年○月○日生まれ、二女平成○年○月○日生まれ、長男平成○年○月○日生まれ)をもうけ、家事に従事するかたわら、平成一二年五月二三日から、株式会社喜久屋において、いわゆるパートタイマーとして時給七七〇円の約定で週六日間(勤務時間は月曜日から金曜日までが午前九時から午後五時まで、土曜日が午前九時から午後三時まで)生産職に従事していたところ、本件事故の結果、症状が固定した平成一三年一二月一一日まで五二九日間、就労することができなかったということができるから、本件事故と相当因果関係のある休業損害は、賃金センサス平成一二年第一巻第一表による産業計・企業規模計・学歴計・女性労働者の全年齢平均賃金額を基礎として次の計算式のとおり算出した五〇六万九九九三円と認めるのが相当である。
349万8200円÷365日×529日≒506万9993円
(7) 傷害慰謝料 二〇〇万〇〇〇〇円
前示原告の受傷の部位、程度、入通院経過その他諸般の事情を考慮すると、原告の傷害慰謝料は、二〇〇万円が相当である。
(8) 後遺障害逸失利益 一五八〇万六三六四円
前示事実関係によると、原告は、症状固定時四六歳であったところ、前示後遺障害の内容、日常生活上の制約等を総合すると、原告は、前示後遺障害の結果、就労可能な六七歳まで二一年間にわたり労働能力を三五パーセント喪失したと認めるのが相当である。なお、原告は、前示後遺障害のうち、<1>顔面醜状、<2>言語障害、<3>眼瞼障害、<4>耳鳴りについては、これらの結果、日常生活において不便を感じ、精神的な苦痛を被っているということはできるものの、原告が家事に従事するかたわらパートタイマーとして生産職に従事していたとの前示就労状況に照らしても、それ以上に労働能力への直接的な影響を受けているとまではいい難く、他に前示後遺障害が原告の労働能力に直接的な影響を与えていることを認めるに足りる証拠はない。もっとも、前示事実関係によると、原告は、前示後遺障害により対人関係に消極的となるなど、前示後遺障害が原告の労働意欲その他労働能力に間接的に影響を及ぼしていると考えられるところ、この点は後に判示する後遺障害慰謝料の額を算定するに当たって考慮することとする。
そうすると、前示のとおり、原告は、本件事故の当時、週六日、時給七七〇円の条件でパートタイマーとして稼働するかたわら、家事に従事していたから、本件事故と相当因果関係のある逸失利益は、賃金センサス平成一三年第一巻第一表による女性労働者学歴計全年齢平均年収を基礎とし、中間利息をライプニッツ方式で控除して、次の計算式のとおり算出される一五八〇万六三六四円と認めるのが相当である。
352万2400円×0.35×12.8211≒1580万6364円
(9) 後遺障害慰謝料 一三〇〇万〇〇〇〇円
前示後遺障害の内容、これに伴う日常生活への影響のほか、前示のとおり、後遺障害のうち<1>顔面醜状、<2>言語障害、<3>眼瞼障害、<4>耳鳴りについては、原告の労働意欲その他労働能力に影響を及ぼしていることなど諸般の事情を考慮すると、原告の後遺障害についての慰謝料は、一三〇〇万円が相当である。
(10) 小計 三九三四万九七〇三円
以上の損害額を合計すると、三九三四万九七〇三円となる。
四 抗弁(過失相殺)について
(1) 前示事実関係に証拠(甲二の三ないし六)を総合すると、次の事実が認められる。
ア 本件事故の場所は、東京都方面と越谷市方面とを結び、ほぼ南北に走るアスファルト舗装された平たんな直線道路(五車線。以下「南北道路」という。)と、川口市方面と八潮市方面とを結び、ほほ東西に走るアスファルト舗装された平たんな直線道路(以下「東西道路」という。)とが交差する交差点(本件交差点)で、信号機により交通整理が行われていた。
本件交差点は、市街地にあり、交通頻繁であって、最高速度毎時四〇キロメートル、駐車禁止の交通規制がされていた。
別紙(平成一二年八月一二日付け実況見分調書《甲二の三》添付の交通事故現場見取図)のとおり、南北道路の本件交差点の出口には、自転車通行帯及び横断歩道が設けられていた。
東西道路の見通しは、川口市方面、八潮市方面の双方について、前方、後方、右方、左方のいずれも良好であった。
イ 被告Y1は、平成一二年七月一日午前一一時ころ、被告車両を運転して、東西道路を八潮市方面に向かい進行中、本件交差点を右折して南北道路を東京都方面に向かうため、対面信号機が青色を表示していることから、いったん本件交差点内に進入して停車し、対向車両が途切れるのを待っていたところ、対向車両が途切れたことから、対向車線及び右後方の安全確認をした後、時速約二〇キロメートルで右折を開始し、約一一・三メートル進行した。すると、前方約六・一メートルの地点に、原告が自転車に乗って横断歩道上を左方から右方に進行しているのを発見し、急ブレーキを掛けたが間に合わず、横断歩道上で被告車両の前部と原告の自転車の右側面とが衝突した。
ウ 他方、原告は、平成一二年七月一日午前一一時ころ、自転車に乗って、対面信号機が青色表示に従い、本件交差点に設けられた横断歩道上を八潮市方面から川口市方面に向かい進行中、対向車線を進行してきた被告車両が右折するため本件交差点内で停車していることを認識しながら、横断歩道上の横断を続けたところ、被告車両と衝突した。
(2) 以上の事実関係によると、原告は、本件交差点を直進するに当たり、本件交差点内で右折のために停車している対向車両(被告車両)の存在を認識していたのであるから、その動静に注意すべき義務があるのにこれを怠り、また、自転車通行帯が設けられているにもかかわらず、漫然と横断歩道上を進行した結果、本件事故を発生させたということができるから、相応の落ち度があるというべきであり、その過失割合は一割と認めるのが相当である。
そうすると、過失相殺後の原告の損害額は、三五四一万四七三二円となる。
五 請求原因(4)について(その二)―弁護士費用
原告は、一四六九万〇六一四円の損害のてん補を受けていることを自認しているから、これを前示損害額から控除すると、二〇七二万四一一八円となる。
そして、弁論の全趣旨によると、原告は、本件訴訟の提起及び追行を原告訴訟代理人に委任し、相当額の費用及び報酬の支払を約束していることが認められるところ、本件事案の性質、審理の経過、認容額その他諸般の事情を考慮すると、原告が本件事故と相当因果関係のある損害として賠償を求めることができる弁護士費用は、二〇七万円が相当である。
したがって、原告の損害額は、二二七九万四一一八円となる。
六 結論
証拠(甲二三、二四)によると、原告は、本件事故に係る自賠責保険金として、平成一四年九月三日に三三一万円、平成一六年一月三〇日に四八八万円の各支払を受けたことが認められるところ、前示三三一万円に対する不法行為の日である平成一二年七月一日から平成一四年九月三日まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金は三六万〇四七二円、前示四八八万円に対する平成一二年七月一日から平成一六年一月三〇日まで同法所定の年五分の割合による遅延損害金は八七万五〇五七円であり、合計すると一二三万五五二九円となり、確定遅延損害金を含む原告の損害額は、二四〇二万九六四七円となる。
よって、原告の請求は、<1>被告Y1及び被告隅田運輸に対し、二四〇二万九六四七円及びうち二二七九万四一一八円に対する不法行為の日である平成一二年七月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、<2>被告保険会社に対し、被告Y1に対する<1>の判決が確定したときは、<1>と同額の支払をそれぞれ求める限度においていずれも理由があるから認容し、その余はいずれも失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六四条本文、六一条、六五条一項本文を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 小林邦夫)
交通事故現場見取図
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